6
183 体外循環技術 Vol.39 No.2 2012 Ⅰ.緒   言 体外循環技術が進歩した現在においても、体外循環 侵襲の軽減は小児領域では特に重要な課題といえる。現 在では小児例でも長時間の体外循環が可能となってき たが 1) 、低体重例や単心室例などの重症例では未だ成 績は満足すべきレベルにあるとはいえない。小児心臓 外科領域での体外循環離脱後の MUF は回路残血の濃縮 以外にも様々な循環動態改善効果が報告されているもの の、extra-corporeal membrane oxygenation(ECMO) 補助離脱後の modified ultrafiltration(MUF)につい ての報告は少ない。一方、continuous hemodiafiltration (CHDF)は 1990 年頃から普及した血液浄化の手段で あり、現在では小児、成人双方の集中治療領域で欠か すことのできない治療法となっている。今回我々は小児 ECMO 補助例に対し CHDF を併施し、工夫を加えて回 路変更することで ECMO 補助中に用いていた CHDF 回 路による MUF を行い良好な経過を得た。本例の ECMO 補助中の循環動態、MUF 回路の工夫に加え、血管作動 物質、炎症性サイトカイン等の推移についても、ECMO 補助中および補助離脱後の状況に検討を加えたので報 告する。 Ⅱ.症   例 純型肺動脈閉鎖症で動脈管依存の日齢 15 日、体重 2.6kg の新生児に Rt.modified BT shunt(ePTFE 3.5mm 人工血管)、PDA ligation を施行した。ICU 帰室 1 時 間後に肺高血圧発作が原因とみられる血圧低下および 低酸素血症を認め徐脈となった。用手的換気、循環呼 Jpn J Extra-Corporeal Technology 39(2):183 188, 2012 1)三重大学医学部附属病院 臨床工学部 西川祐策(Yusaku Nishikawa) 〒 514-8507 三重県津市江戸橋 2-174 Department of Clinical Engineering, Mie University Hospital 2-174, Edobashi, Tsu, Mie, 514-8507, Japan 2)同 胸部心臓血管外科 [原稿受領日:2012 年 1 月 16 日 採択日:2012 年 4 月 28 日] 症例報告 西川祐策 1) ・高林 新 2) ・小津泰久 2) ・谷 誠二 1) ・冨田雅之 1) ・川野登志子 1) 宇佐美俊介 1) ・暮石陽介 1) ・行光昌宏 1) ・岩田英城 1) ・新保秀人 2) CHDF を併施することで良好な経過を得た小児 ECMO 補助の 1 例 要  旨 術後呼吸循環不全の新生児に対して、extra-corporeal membrane oxygenation(ECMO)および continuous hemo- diafiltration(CHDF)で術後管理を行い、ECMO 離脱時に CHDF で modified ultrafiltration(MUF)を行い、奏 功した症例を経験したので報告する。患者は日齢 15、体重 2.6kg の新生児。純型肺動脈閉鎖症で手術は Rt.modified BT shunt、PDA ligation を実施した。ICU 帰室 1 時間後に肺高血圧発作による血行動態悪化を認めたため、ただ ちに ECMO による循環呼吸補助と CHDF を併施した。CHDF の開始により PGE2、IL-6、IL-8 等の炎症性サイト カインの低下を認めた。また ECMO 離脱後に収縮期血圧は 36mmHg、SpO2 は 44%まで低下したが、CHDF での MUF 後に 70mmHg、56%に上昇し、その後血行動態は良好な経過を得た。小児の ECMO 補助例において CHDF 併施は ECMO 補助の早期離脱に有効な一手段と考えられた。 索引用語:小児 ECMO、CHDF、MUF、血管作動物質 A case of good postoperative course by extra-corporeal membrane oxygenation support collaborated with continuous hemodiafiltration Yusaku Nishikawa 1) ,Shin Takabayashi 2) ,Yasuhisa Ozu 2) ,Seiji Tani 1) ,Masayuki Tomita 1) ,Toshiko Kawano 1) Shunsuke Usami 1) ,Yosuke Kureishi 1) ,Masahiro Yukimitsu 1) ,Hideki Iwata 1) ,Hideto Shimpo 2) Key words:pediatric extra-corporeal membrane oxygenation,continuous hemodiafiltration,modified ultrafiltration, vasoactive agents

CHDFを併施することで良好な経過を得た小 …...ての報告は少ない。一方、continuous hemodiafiltration (CHDF)は1990年頃から普及した血液浄化の手段で

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Page 1: CHDFを併施することで良好な経過を得た小 …...ての報告は少ない。一方、continuous hemodiafiltration (CHDF)は1990年頃から普及した血液浄化の手段で

183体外循環技術 Vol.39 No.2 2012

Ⅰ.緒   言 体外循環技術が進歩した現在においても、体外循環侵襲の軽減は小児領域では特に重要な課題といえる。現在では小児例でも長時間の体外循環が可能となってきたが 1)、低体重例や単心室例などの重症例では未だ成績は満足すべきレベルにあるとはいえない。小児心臓外科領域での体外循環離脱後の MUF は回路残血の濃縮以外にも様々な循環動態改善効果が報告されているものの、extra-corporeal membrane oxygenation(ECMO)補助離脱後の modified ultrafiltration(MUF)につい

ての報告は少ない。一方、continuous hemodiafiltration(CHDF)は 1990 年頃から普及した血液浄化の手段であり、現在では小児、成人双方の集中治療領域で欠かすことのできない治療法となっている。今回我々は小児ECMO 補助例に対し CHDF を併施し、工夫を加えて回路変更することで ECMO 補助中に用いていた CHDF 回路による MUF を行い良好な経過を得た。本例の ECMO補助中の循環動態、MUF 回路の工夫に加え、血管作動物質、炎症性サイトカイン等の推移についても、ECMO補助中および補助離脱後の状況に検討を加えたので報告する。

Ⅱ.症   例 純型肺動脈閉鎖症で動脈管依存の日齢 15 日、体重2.6kg の新生児に Rt.modified BT shunt(ePTFE 3.5mm人工血管)、PDA ligation を施行した。ICU 帰室 1 時間後に肺高血圧発作が原因とみられる血圧低下および低酸素血症を認め徐脈となった。用手的換気、循環呼

Jpn J Extra-Corporeal Technology 39(2):183− 188, 2012

1)三重大学医学部附属病院 臨床工学部西川祐策(Yusaku Nishikawa)〒 514-8507 三重県津市江戸橋 2-174Department of Clinical Engineering, Mie University Hospital2-174, Edobashi, Tsu, Mie, 514-8507, Japan

2)同 胸部心臓血管外科

[原稿受領日:2012 年 1 月 16 日 採択日:2012 年 4 月 28 日]

症例報告

西川祐策 1)・高林 新 2)・小津泰久 2)・谷 誠二 1)・冨田雅之 1)・川野登志子 1)

宇佐美俊介 1)・暮石陽介 1)・行光昌宏 1)・岩田英城 1)・新保秀人 2)

CHDFを併施することで良好な経過を得た小児ECMO補助の 1例

要  旨 術後呼吸循環不全の新生児に対して、extra-corporeal membrane oxygenation(ECMO)および continuous hemo-diafiltration(CHDF)で術後管理を行い、ECMO 離脱時に CHDF で modified ultrafiltration(MUF)を行い、奏功した症例を経験したので報告する。患者は日齢 15、体重 2.6kg の新生児。純型肺動脈閉鎖症で手術は Rt.modified BT shunt、PDA ligation を実施した。ICU 帰室 1 時間後に肺高血圧発作による血行動態悪化を認めたため、ただちに ECMO による循環呼吸補助と CHDF を併施した。CHDF の開始により PGE2、IL-6、IL-8 等の炎症性サイトカインの低下を認めた。また ECMO 離脱後に収縮期血圧は 36mmHg、SpO2 は 44%まで低下したが、CHDF でのMUF 後に 70mmHg、56%に上昇し、その後血行動態は良好な経過を得た。小児の ECMO 補助例において CHDF併施は ECMO 補助の早期離脱に有効な一手段と考えられた。索引用語:小児 ECMO、CHDF、MUF、血管作動物質

A case of good postoperative course by extra-corporeal membrane oxygenation support collaborated with continuous hemodiafiltrationYusaku Nishikawa 1),Shin Takabayashi 2),Yasuhisa Ozu 2),Seiji Tani 1),Masayuki Tomita 1),Toshiko Kawano 1),Shunsuke Usami 1),Yosuke Kureishi 1),Masahiro Yukimitsu 1),Hideki Iwata 1),Hideto Shimpo 2)

Key words:pediatric extra-corporeal membrane oxygenation,continuous hemodiafiltration,modified ultrafiltration,vasoactive agents

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184 体外循環技術 Vol.39 No.2 2012

吸補助治療にても改善がみられず ECMO 補助を行う方針となった。ECMO 導入 3 時間後より水分バランスの調節を目的に CHDF を併施し、ECMO 離脱時にはCHDF を利用し MUF を施行した。

Ⅲ.方   法1.ECMO 低体重児で経皮的カニュレーションが困難なため、開胸下に上行大動脈と右房に送脱血路を確保した(送血カニューレ:Edwards Lifesciences 社製 FEM Ⅱ 8Fr、脱血カニューレ:東洋紡社製 INKN10Fr)。ECMO 泉工医科工業社製人工心肺回路、ニプロ社製人工肺 Pla-tinumCube2000、血液ポンプは Edwards Lifesciences社製 HPM-15G、リザーバにポリスタン社製 Safe Microを使用した(図 1)。 ECMO 回路の充填量は 250mL で、濃厚赤血球 150mLを血液充填し、サブラッド BS(1,000mL)にて限外濾過での洗浄を行った。 ECMO は灌流量 2.8L/min/m2、目標灌流圧 35 〜 65 mmHg、送血温 37℃にて開始し、2 時間ごとの血液ガス値、ACT 値に応じて酸素流量、酸素濃度、持続ヘパリン量を調節した。

2.CHDF CHDF はコンソールに旭化成クラレメディカル社製ACH10 を使用し、回路に同社製 DFK-10 および、AV-400P、血液濾過器には物質吸着の効率を上げる目的で東レメディカル社製 CH-06 を使用した。CHDF 回路はECMO 回路に設置したリサーキュレーションラインに接続した(図 1)。 初期設定は灌流量 50mL/min、濾過流量 300mL/h、透析液流量 200mL/h、補液流量 100mL/h にて開始した。各設定は 2 時間ごとの検査結果、水分バランス、バイタルサインをもとに適宜調節した。除水量の調節は濾過流量を増減することで行った。3.MUF CHDF による MUF 施行時の回路図を図 2 に示す。MUF 中の血行動態悪化時にはクランプ鉗子を外すことで ECMO 補助に即座に変更しうる回路設計とした。MUF に際し CHDF 送脱血を患者側に近づけ、より多くの回路血を返血するために側管付きコネクターをカニューレ側近に接続した(図 3)。回路の変更に要する時間は約 5 分間であった。 ECMO 回路内の補液充填はサブラッド BS を用い、血行動態の変化を見ながらロック式注射器と三方活栓を用いて用手的に行った。MUF は CHDF 血液ポンプで大動脈から 10mL/kg で脱血し、血液濾過器にて血液流量の 30%の除水を行い、右房へ返血する Arterio-Venous MUF を行った。4.測定項目 CHDF による化学物質除去効果は CHDF 開始時、開始後 1、2、4、6、12 時間で測定した。測定項目はブラジキニン、エンドセリン、PGE2、プレカリクレイン、IL-6、IL-8 とした。エンドセリン、ブラジキニンは採血量が多いため、CHDF 開始時と開始後 1 時間の 2 点とした。また、ECMO 補助中の血行動態を収縮期血圧、ECMO 流量、CHDF 除水量、尿量で、ECMO 離脱後

図 2 CHDF による MUF 施行時の回路図

置換液:サブラッドBS

注射器で用手的に回路内に置換液を満たしてゆく

右房へ送血

CHDF

大動脈から脱血

遠心ポンプ人工肺

フローセンサー

リザーバ

図 1 ECMO 回路図

サンプリングポート

CHDF

大動脈へ送血

右房から脱血

遠心ポンプ人工肺

フローセンサー

リザーバ

図 3 MUF 施行時の術野写真

送血カニューレ

CHDFから右房へ返血

脱血カニューレ

大動脈から脱血しCHDFへ

置換液

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Jpn J Extra-Corporeal Technology 39(2), 2012

の血行動態を収縮期血圧、中心静脈圧、SpO2 値で評価した。

Ⅳ.経過および結果 45 時間の ECMO 補助中の循環動態の経過を図 4 に示す。収縮期血圧は ECMO 補助開始 3 時間後の CHDF開始時から約 2 時間で 60mmHg から 85mmHg に上昇し、離脱まで 50mmHg を下回った時間帯はなかった。ECMO補助中の中心静脈圧は1〜8 mmHgで推移した。また、図 4 に示すように CHDF 除水量と尿量により安定した水分管理が可能であった。

 ECMO 導入 2 日目に ECMO 流量を減少させて循環動態を評価したところ、心機能の回復と考えられる血圧上昇を認めたため ECMO 離脱の方針とした。 ECMO 離脱時の酸素化低下に対し、動脈管の結紮糸を外す処置を行い、併施していた CHDF を用いた MUFで血液濃縮を行った。 MUF 開始時から MUF 終了 36 時間後までの経過を図 5 に示す。ECMO 離脱後に一時的に血圧低下(収縮期血圧:36mmHg)、酸素化低下(SpO2:44%)を来たしたが、MUF 開始 20 分後には収縮期血圧 71mmHg、SpO2 56%に改善しECMO補助から離脱可能となった。

図 4 ECMO 補助中の循環動態

120(mL/5h)

80

40

05h 10h 15h 20h 25h 30h 35h 40h 45h

除水量(mL/5h)尿 量(mL/5h)

1h 5h 10h 15h 20h 25h 30h 35h 40h 45h

1,200(mL/min) ECMO流量(mL/min)

800

400

0

120(mmHg) 収縮期血圧(mmHg)

80

40

01h 5h 10h 15h 20h 25h 30h 35h 40h 45h

図 5 MUF 中、MUF 後の呼吸循環動態

120

80

40

0

(mmHg)収縮期血圧

MUF開始時

MUF終了時

12hr後

24hr後

hr後

36

16

12

8

4

0

(mmHg)中心静脈圧

MUF開始時

MUF終了時

12hr後

24hr後

hr後

36

90

60

30

0

(%)SpO2

MUF開始時

MUF終了時

12hr後

24hr後

hr後

36

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Ht 値は MUF 施行前後で 39.8%から 44.2%に増加した。その後、12、24、36 時間後の収縮期血圧は 72、80、92 mmHg で SpO2 は 63、78、81%であった。この間の尿量は 5 mL/kg/h を維持でき、MUF 終了時 14mmHg であった中心静脈圧は 24、36 時間後には 8 mmHg と安定した(図 5)。 ブラジキニン(分子量 1,020、正常範囲<10pg/mL)はCHDF 開始時 1,580pg/mL であったが、1 時間後に 191 pg/mL に減少した(図 6)。CHDF 開始時の PGE2(分子量 352、正常範囲<8.4pg/mL)、IL-6(分子量 21,000、正常範囲<4.0pg/mL)、IL-8(分子量 8,000、正常範囲<2.0pg/mL)はそれぞれ 120、1,070、253pg/mL であったが、1 時間後は 41、574、117pg/mL、4 時間後は20、632、75.1pg/mL、6 時間後は 16、493、45.9pg/mL、12 時間後は 20、198、25.7pg/mL にいずれも減少した

(図 6・7)。エンドセリン(分子量 2,367、正常範囲<2.3pg/mL)は CHDF 開始時の 6.48pg/mL と 1 時間後の 6.47pg/mL に差はなく、プレカリクレイン(分子量

115,000、正常範囲 65 〜 130%)は CHDF 開始時 0%、1 時間後 19%、4 時間後 20%、6 時間後 42%、12 時間後 49%であった。

Ⅴ.考   察1.ECMO補助について 先天性心疾患外科治療の術後呼吸循環動態が急激に悪化 2)する病態の中でも、本例の肺高血圧発作は低酸素血症から救命的な ECMO 補助の適応となる重篤な疾患の一つである。近年、小児領域でも長期 ECMO 補助が可能となり、2 歳の循環不全に対する 85日間の ECMO補助成功例も報告されているが 3)、小児心筋炎例では6 日以上の ECMO 補助は予後が不良とされている 4)。小児心臓外科術後において月齢 1 ヵ月以下では生存率が低下するといわれており 5)、新生児の循環不全に対する ECMO 補助の離脱率は 55.6%、生存率は 33.3% 6)

と報告されており、未だ予後は不良であると考える。新生児期に ECMO 離脱が困難となる理由として、低体重

図 6 ブラジキニン、PGE2 値の推移

2,000 160

1,500 120

1,000 80

0 0

500 40

(pg/mL) (pg/mL)ブラジキニン PGE2

CHDF開始時

CHDF開始時

1hr後

4hr後

6hr後

12hr後

1hr 後

図 7 IL-6、IL-8 値の推移

1,200 300

800 200

400 100

0 0

(pg/mL) (pg/mL)IL-6 IL-8

CHDF開始時

CHDF開始時

1hr後

4hr後

6hr後

12hr後

1hr後

4hr後

6hr後

12hr後

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Jpn J Extra-Corporeal Technology 39(2), 2012

児では回路充填量 / 循環血液量比が大きくなり、異物接触で惹起される炎症系サイトカインの産生が増加すると考えられる。更に新生児では成人に比して血管透過性が高く、間質組織の浮腫が惹起されやすいことから輸血やアルブミン投与により膠質浸透圧を高く保っている。しかし、体外循環の長期化は多臓器不全などの重篤な合併症のリスクを負い続けることとなる 7)。以上より我々は新生児期の単心室例である本例は ECMO離脱困難となりうる重症例であり、低侵襲で安定したECMO 補助を行い、全身状態が悪化する前に早期の離脱を試みることが重要と考えた。2.CHDFについて ECMO 補助の際に CHDF を併施する利点として、第一に水分管理が容易となることが挙げられる。本例ではろ過流量 10mL/h 単位の調整で安定した水分管理を行い得たが、1 mL/h 単位の調整が可能な機種では、より低体重例に対しても精密な術後管理が可能となると考える。救命的な ECMO 補助下では急性腎不全を合併しやすく、浮腫の進行を抑える有用な手段と言える 8, 9)。電解質調節の面でも透析液にカリウム、カルシウム製剤を混注することで容易に適正な範囲で調節可能となった。 炎症性物質除去においても CHDF は有用で、低中分子量物質の濾過に加えpolymethyl methacrylate(PMMA)膜を選択することで、より効率的に炎症性サイトカインの除去が可能となる 8)。その結果として血管透過性亢進の抑制、間質の余剰水分減少から組織酸素代謝の改善や多臓器不全予防効果が報告されている 8, 9)。本例では CHDF 開始後に低分子量の血管拡張物質である PGE2

(分子量 352)の濃度低下に伴う血圧上昇 10)も認められた。より分子量の大きい IL-6(分子量 21,000)、IL-8

(分子量 8,000)も CHDF 中に減少し ECMO 補助中の血圧の安定化 8)に関与したと考えられた。以上から、当院では小児 ECMO 施行時には水分管理、電解質調整だけでなく血行動態安定や炎症性サイトカイン除去の効果もある CHDF を全例で併施する方針としている。3.MUFについて 当院では小児心臓外科人工心肺症例では全例でMUFを施行しており、MUF の前後で呼吸循環動態が改善するという印象を得ている。更に MUF による術中水分バランス改善 11)、術後酸素化能改善 12)、心機能改善 13)、輸血量削減 14)、人工呼吸管理期間短縮 15)、浮腫軽減 16)など多くの臨床効果が報告されている。今回報告した回路の工夫により短時間で併施 CHDF を用いたMUF 回路に変更可能であった。現行 ECMO 回路は今回の経験を生かし、回路の切断や追加のプライミングが不要な MUF 回路への変更時間が更に短縮しうる設計としている 17)。本例では ECMO 離脱時に呼吸循環

動態の悪化を認めたが、MUF 後には収縮期血圧、中心静脈圧、SpO2 は改善し尿量確保も良好であった。重症例では ECMO 離脱時に MUF を行うことで呼吸循環動態が安定し、生命予後を改善させる可能性がある。

Ⅵ.結   論 ECMO 導入後早期から CHDF を併施することで、循環血液量の調節、水分管理、電解質調節が容易になるだけでなく、血管拡張性物質や炎症性サイトカインの除去効果が得られ ECMO 中に安定した循環が得られた。回路に若干の工夫を加えることで併施 CHDF を用いた MUF に短時間で移行でき、MUF 中に呼吸循環動態の改善を認めた。これらの利点から、小児 ECMO 補助例において CHDF 併施は ECMO 補助の早期離脱に有効な一手段といえる。

●参考文献1) 長屋昌宏:新生児 ECMO.初版,愛知,名古屋大学出版会.

2008. p5-11.2) 日本循環器学会他 8 学会:肺高血圧症治療ガイドライン

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第 23 回日本人工臓器学会教育セミナー;1-7, 2008.8) 貞広智仁,平澤博之,新田正和,ほか:Critical care にお

ける CHDF の cytokine の除去効果およびその機序について,日本アフェレシス学会雑誌,18(1):41-47, 1999。

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