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感染症:抗菌薬・抗生物質 深井 良祐 [著] Pharmaceutical education for the general public. Advanced level text to learn medicine.

感染症:抗菌薬・抗生物質 · 抗生物質と抗菌薬 p.10 2-3. 細菌の構造と選択毒性 p.11 2-4. 細胞壁合成阻害薬 p.12 2-5. 細胞膜機能阻害薬 p.13

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感染症:抗菌薬・抗生物質

深井 良祐 [著]

Pharmaceutical education for the general public.

Advanced level text to learn medicine.

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目次

第一章. 感染症とは P. 3

1-1. 感染症成立における三つの条件 P.3

1-2. 病原微生物の大きさによる分類 P.5

1-3. 細菌の分類 P.6

第二章. 抗生物質(抗菌薬)の基礎知識 P. 8

2-1. 抗生物質発見の歴史 P.8

2-2. 抗生物質と抗菌薬 P.10

2-3. 細菌の構造と選択毒性 P.11

2-4. 細胞壁合成阻害薬 P.12

2-5. 細胞膜機能阻害薬 P.13

2-6. タンパク質合成阻害薬 P.14

2-7. 核酸合成阻害薬 P.15

2-8. 葉酸合成阻害薬 P.15

2-9. MIC(最小発育阻止濃度) P.16

2-10. 静菌的作用と殺菌的作用 P.17

2-11. 時間依存型と濃度依存性の抗菌薬 P.18

第三章. 耐性菌の出現 P. 20

3-1. 耐性菌の歴史 P.21

3-2. 薬剤耐性のメカニズム P.23

3-3. 耐性菌が増えるメカニズム P.26

3-4. 耐性菌の種類 P.28

第四章. 抗真菌薬 P. 33

4-1. 真菌の構造 P.34

4-2. 抗真菌薬 P.36

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第一章.感染症とは

風邪はウイルスなどの病原微生物に感染することによって発症します。このように、病原微生物

によって起こる咳や発熱などの症状を感染症と呼びます。

このテキストでは、これら感染症の成立や抗菌薬について知識を深めていきます。

なお、抗菌薬はもの凄い数があるため、一つ一つ紹介するとその数の多さから確実にやる気をな

くしてしまいます。そのため、感染症の専門家でない限りこれらの薬を全て覚えても仕方ありませ

ん。

ここでは抗菌薬の概要や歴史、種類などの違いを理解できれば問題ありません。

1-1. 感染症成立における三つの条件

感染症が成立するためには、三つの要因が成り立つ必要があります。この要因としては、主に「病

原微生物、感染経路、感受性宿主」があります。

この三つのうちどれか一つだけでも防ぐことができれば、感染症を発症することはありません。

ただし、よく考えてみれば「この三つが感染症成立に必要である」という事は容易に理解すること

ができます。

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・病原微生物

まず一つ目が「病原微生物」です。病原微生物とは、感染症を引き起こす原因微生物のことです。

病気を起こす菌がいるから感染症が起こるという考えです。

感染症はそこに病原微生物がいて悪さをすることで発症するため、当然ながら感染症が成立する

ためには病原微生物の存在が必要になります。

・感染経路

二番目が「感染経路」です。ここでの感染経路とは、病原体が新たに感染を起こすための経路の

ことです。

たとえ、病原微生物が存在していたとしても、これらの病原微生物が口や鼻など「感染症を引き

起こすための経路」にいなければ感染は成立しません。そのため、この感染経路をシャットアウト

することが出来れば、病原微生物による感染を防ぐことができます。

・感受性宿主

三番目に「感受性宿主」があります。感受性宿主とは、簡単に言ってしまえば私たちの免疫力のこ

とを指します。病原微生物による感染が起こったとしても、免疫力がしっかりしていれば感染症は

起こりません。

そのため、必ずしも「病原微生物への感染 = 感染症の発症」という訳ではありません。私たち

の抵抗力よりも、病原微生物による影響が勝ったときにのみ感染症が引き起こされます。

小児の免疫力は成人に比べて十分とは言えないため、これら感受性宿主には年齢などの要因も関

与します。

なお、これら「病原微生物、感染経路、感受性宿主」の三つの要因が全て重なることで感染症が

起こります。逆に言えば、どれか一つの要因でも取り除くことが出来れば感染症に罹ることはあり

ません。そのため、これらの要因を取り除くことが感染症対策に繋がります。

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1-2. 病原微生物の大きさによる分類

「動物」と言っても、その種類として様々な動物がいるのと同じように、病原微生物にも多くの

種類があります。

この中でも病原微生物を分類する最も簡単な考え方として、「病原微生物の大きさ」があります。

この大きさによって「ウイルス」、「細菌」、「真菌」、「原虫」の四つに分けることができます。

病原微生物自体の大きさが小さいと、その分だけ体の中に入れることのできる情報が少なくなり

ます。そのため、基本的には小さい病原微生物であるほど単純な構造になります。

なお、それぞれの病原微生物の大きさとその種類については以下のようになります。

例えば、ウイルスは「DNA などの遺伝子情報の周りを細胞の膜で覆っているだけの構造」となっ

ています。そのため、自分だけの力で増殖することもできず、とても単純な構造となっています。

それに対して、細菌には自分で増殖するための機能が備わっています。細菌はウイルスよりも多

くの情報が確保されているため、その分だけ構造もウイルスより大きいです。これと同じように考

えて、病原微生物の大きさは「ウイルス < 細菌 < 真菌 < 原虫」の順となっています。

ウイルス 細菌 真菌(カビなど) 原虫

インフルエンザ

麻しん

結核

破傷風

白癬症

カンジダ症

マラリア

膣トリコモナス症

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1-3. 細菌の分類

食中毒の原因菌として有名な腸管出血性大腸菌は細菌の一種です。他にも、結核や破傷風なども

細菌となります。そのため、病原微生物の中でも細菌による感染症は特に重要となります。

このような細菌は「形状」によって三種類、「増殖に酸素を必要とするかどうか」によって三種類、

さらに「グラム染色」と呼ばれる方法によってさらに二種類に分けることができます。

ただし、これら細菌の分類に関しては厳密に理解しなくても「大まかに理解できるレベル」で全

く問題ありません。

・形状による分類

細菌はその形によって大きく三つに分けることができます。つまり、顕微鏡などで観察した時の

「見た目」によって分類されます。

このような分類としては「球菌」、「桿菌」、「らせん菌」があります。

球菌はその名の通り、丸い形をした細菌となります。桿菌は細長い棒状の細菌であり、らせん菌

はらせん階段のような渦を撒いたような形をした細菌です。

このように、細菌は見た目によって三つに分けることができます。

・増殖に酸素を必要とするかによる分類

私たちは酸素がないと生きていくことができません。しかし、細菌の種類によっては酸素が必要

である場合があれば、むしろ酸素がない状態でのみ増殖できる場合もあります。

このように、細菌には「酸素が必要な場合」と「酸素が必要でない場合」、そして「酸素があって

もなくても、どちらでも良い場合」の三つに分けることができます。

酸素が必要な細菌は「空気が好きな細菌」として好気性菌と呼ばれます。それに対して、酸素の

ない状態が好ましい細菌は「空気が嫌いな細菌」として嫌気性菌と呼ばれます。

酸素があってもなくてもどちらでも良い細菌の場合、「通常は空気がなくても増殖できる細菌」と

して通性嫌気性菌と呼ばれます。

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・グラム染色法による分類

私たちを構成している細胞には薄い膜があります。この膜を細胞膜と呼びますが、細菌にも同じ

ように細胞としての形を保つための構造があります。

そして、細菌の細胞表面の構造はその種類によって異なっています。この「細菌の細胞表面の構

造」を調べるための方法としてグラム染色法があります。

グラム染色の方法や細かい細胞構造の違いを理解する必要はありません。重要なのは、「グラム染

色法によって、細菌の細胞表面の大まかな構造の違いを見分けることができる」という事です。

この時、グラム染色によって紫色に染まるものをグラム陽性と表現します。それに対して、紫色

に染まらずに赤色に見えるものをグラム陰性と呼びます。

このように細菌の分類について説明してきました。ただ、実際に表記される細菌の分類としては、

例えば「グラム陰性嫌気性球菌」などと表現されます。

このような単語を見たとき、何となくでも良いので「グラム染色と呼ばれる方法によって染まら

ず、空気(酸素)がない状態でのみ成長でき、球形の丸い形をしている細菌」という事を思い浮か

べることができれば問題ありません。

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第二章.抗生物質(抗菌薬)の基礎知識

感染症を発症した時、病原菌に対抗するために抗生物質が使用されます。これによって、感染症

の悪化を防ぐことができます。

また、多くの医薬品は病気を根本的に治療するものではありませんが、完全に病気を治療する薬

の一つとして抗生物質があります。

例えば、糖尿病の薬には「糖尿病によって起こる血糖値が高い状態を抑える」という作用があり

ます。そのため、糖尿病が完全に治るわけではありません。糖尿病を発症すると一生糖尿病の薬を

飲み続ける必要があります。

それに対して、抗生物質は病原菌を取り除くことで感染症を治療するため、根本的に病気を治す

薬となります。

2-1. 抗生物質発見の歴史

抗生物質の歴史は「青カビ」から始まったという事はとても有名です。この時、世界で最初に発

見された抗生物質をペニシリンと呼びます。このペニシリンは 1929 年にアレキサンダー・フレミン

グによって発見されました。

ペニシリンの発見者であるフレミングという男はとてもずぼらな性格をしていました。彼は細菌

の培養皿を窓のそばに放置したままにしており、その培地に青カビを生やしてしまったのです。

実験で細菌を培養する時、目的とする自分が育てたい細菌だけを培養する必要があります。しか

し、この培養皿に青カビを生やしてしまったのです。そのため、実験という意味では培養皿に青カ

ビを生やした時点で失敗となります。

しかしこの時、フレミングは「ただ実験に失敗した」というだけでは終わりませんでした。廃棄

する前の培養皿をよく観察すると、青カビの周辺だけ透明になっており培養しようと思っていた細

菌が溶けていることに彼は気づきました。

そこで彼は考えました。「なぜ青カビの周辺だけ、細菌が溶けたのか」と……。そのまま培養皿を

捨てていれば抗生物質の発見はありませんでしたが、彼は培養皿のわずかな変化を見つけて「な

ぜ?」と思ったのです。

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そして、青カビが作っている「細菌を殺す物質」がまさにペニシリンだったのです。ペニシリン

はその細菌を殺す作用から、広く用いられるようになりました。

ただし、フレミングがペニシリンを精製・単離したのではありません。ペニシリンの大量生産が

可能になったのは、フレミングのペニシリン発見から 10 年以上経った後でした。

フレミングがペニシリンの精製・単離を断念して年月が流れた後、フレミングの報告が 1940 年に

フローリーとチェーンの二人の科学者の目に止まりました。

フローリーとチェーンはこのペニシリンの精製に成功し、大量生産を可能としました。そして、

この瞬間から抗生物質時代の幕開けとなったのです。

ペニシリンの発見に対してこの 3 人はノーベル医学・生理学賞を受賞しました。

そして、ペニシリンは第二次世界大戦において、「兵士達の感染症を治療する」という重大な役割

を果たしたのです。

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2-2. 抗生物質と抗菌薬

感染症の治療薬として抗生物質と抗菌薬という言葉があります。この二つは似ているようで違い

ます。

抗生物質とは、病原微生物を殺す作用をもつ薬の中でも「微生物が作った化学物質」を指します。

先ほどのペニシリンであれば、青カビは微生物の一つです。カビを厳密に言うと真菌であり、菌

の一種となります。微生物であるカビが作り出した病原微生物を殺す化学物質であるため、ペニシ

リンは抗生物質となります。

ただし、技術の進歩によって人間の手によっても病原微生物に対抗するための化学物質を創出す

ることができるようになりました。

完全なる人工合成によって作られた病原微生物に対抗する化学物質であるため、これらの物質を

抗生物質の定義である「微生物によって作られた化学物質」に当てはめることはできません。

そこで、抗菌薬と呼ばれる言葉が登場します。

現在では抗生物質や人工合成された化学物質を全て含めて、抗菌薬と表現されます。そのため、

イメージとしては、抗菌薬という大きな枠の中に抗生物質が含まれるようになります。

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2-3. 細菌の構造と選択毒性

筋弛緩剤は筋肉の緊張を緩めることで痙攣や麻痺を抑制します。しかし、その使い方を間違えれ

ば呼吸不全などを引き起こすこともあります。

ただし、これは筋肉が存在する動物だからこそ筋弛緩剤が薬にもなり、毒にもなります。もしこ

れが筋肉を持たない植物であれば、筋弛緩剤を投与したところで影響がほとんどありません。

これは、「動物には筋肉があるが、植物には筋肉がない」という構造上の違いによって起こったも

のです。このように、構造上の違いがあるために「特定の生物にのみ毒性を発揮すること」を選択

毒性と呼びます。

この選択毒性の考えは抗菌薬において重要となります。

抗菌薬の作用を知るためには、細菌などそれぞれの構造を理解する必要があります。もっと言え

ば、「私達の体を構成している細胞」と「細菌の構造」の違いを理解することが大切です。

なぜなら、これを理解することできれば、「副作用をできるだけ回避して細菌を選択的に殺すこと

のできる抗菌薬の創出」が可能となるためです。

構造上の違いを利用する選択毒性によって、ヒトには作

用しないが細菌に対しては毒性を発揮させるようにします。

右に抗菌薬を考える上で重要となる細菌の構造を記しま

す。

・細胞壁

細胞の周りを丈夫に固めるため、細菌には細胞壁と呼ばれる壁が存在しています。この壁がある

ことによって、細菌は形を保つことができます。

もしこの壁がなくなってしまうと、細菌は形を保つことができなくなって溶けてしまいます。

・リボソーム

タンパク質を合成するための器官をリボソームと言います。

私たちの体を構成している成分の中で最も多いものは水です。そして、その次に多い成分がタン

パク質です。皮膚や髪の毛はタンパク質で構成されており、肺や肝臓などの臓器もタンパク質です。

そのため、タンパク質の合成は生命維持に必要不可欠であることが分かります。細菌においても

タンパク質は細菌そのものを形作ったり、生命維持に関与したりと重要な役割を担っています。こ

れらタンパク質の合成をリボソームが行っています。

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・核酸

DNA や RNA などの遺伝情報の集まりを核酸と呼びます。DNA や RNA は私達の体を作る設計図

としての役割をします。

そのため、DNA や RNA などの遺伝情報である核酸が存在することによって、私達の体は正確に

細胞分裂をすることができます。細菌にも同じように核酸があり、この核酸に刻まれている設計図

を読み取ることによって細胞分裂を行います。

2-4. 細胞壁合成阻害薬

ヒトと細菌の細胞を比べた時、最も異なる点として細胞壁があります。細胞壁とは、細胞を取り

囲んでいる壁のことです。

ヒトには細胞壁がありませんが、細菌には細胞壁が存在しています。この細胞壁が存在するため

に、細菌はその形を保つことができます。

そこで、この細胞壁が作られる過程を薬によって阻害してやります。すると、細菌は細胞壁を新

たに作ることができなくなって溶解します。

ヒトには細胞壁が存在しないため、細菌に存在する細胞壁の合成を阻害してもヒトの細胞までは

影響を与えにくいです。そのため、細胞壁合成阻害薬は細菌にのみ選択毒性を示します。

世界初の抗生物質であるペニシリンは細菌の細胞壁合成を阻害することによって、細菌を殺しま

す。

これら細胞壁を合成する薬としてはいくつもの種類があり、薬としての構造式や細かい作用部位

の違いによっていくつもの種類に分けられます。このように、細菌の細胞壁合成を抑制する薬の種

類としてβ-ラクタム系(ペニシリン系、セフェム系、カルバペネム系、ペネム系)、グリコペプチ

ド系(バンコマイシン)、ホスホマイシン系などに分けることができます。

細胞壁が存在するために、細菌は丈夫な壁によってその形を保つことができます。このとき、細

胞壁が存在しなければ細胞内に外からの水が入り込んでくるようになります。その結果、細菌の細

胞が膨張して最終的には破裂します。

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・β-ラクタム系とは

薬は数個から数十個の原子で構成されている小さい分子であり、それぞれの薬には特徴的な構造

をもつことがあります。このような特徴をもつ薬の一つにβ-ラクタム系があります。

β-ラクタム系はその中に四角形の構造をもちます。この四角形の構造をβ-ラクタム環と呼ぶた

め、この構造をもつ抗菌薬をβ-ラクタム系と言います。

以下にβ-ラクタム系の抗菌薬であるペニシリンとセファロスポリンの構造式を記します。

2-5. 細胞膜機能阻害薬

細胞壁の下には細胞膜があり、この細胞膜によって細胞の内と外が分けられています。そのため、

この細胞膜に穴が開くなどの機能障害が起こると、細胞の中に存在する物質が細胞外へと漏出して

しまいます。

細胞膜機能阻害薬は細胞膜に直接作用することによって、本来は細胞内で生命維持に関与しなけ

ればいけない物質を細胞外へと漏出させます。これによって、細菌は死滅してしまいます。

このように、細胞内の物質が細胞外へと漏出することを「細胞膜の膜透過性が高まる」と表現さ

れます。膜の透過性が高いので、細胞内に存在しなければならない必要な物質まで外へと透過して

しまいます。

細胞膜の透過性を高めることによって細菌を殺す薬としてポリミキシン B などがあります。

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2-6. タンパク質合成阻害薬

タンパク質を合成するための器官としてリボソームがあります。細胞分裂のためには新たなタン

パク質が必要ですし、古くなったタンパク質を新しく作り変えるときにもリボソームが活躍します。

そのため、このリボソームの働きが抑えられてしまうと新しくタンパク質が作られなくなり、細

菌の増殖もストップします。このように、リボソームの働きを阻害することによって細菌の増殖を

抑制する薬にタンパク質合成阻害薬があります。

細菌にのみ選択毒性を出すためには、細菌に存在するリボソームにだけ作用する必要があります。

しかし、ヒトの細胞にもリボソームは

存在します。ただし、重要な事として

「ヒトのリボソーム」と「細菌のリボ

ソーム」は種類が違います。

タンパク質の合成に関わるリボソー

ムであることには変わりませんが、こ

のわずかな種類の違いを見分けること

によって細菌に存在するリボソームだ

けを阻害します。

これによって、細菌にのみ選択毒性を示すことができます。

このように、リボソームの働きを抑制することによってタンパク質合成を阻害する薬の種類にマ

クロライド系、テトラサイクリン系、アミノグリコシド系が存在します。

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2-7. 核酸合成阻害薬

タンパク質の合成にはリボソームが必要ですが、その前に DNA や RNA などの核酸から「タンパ

ク質を合成するための設計図」を読み取る必要があります。

タンパク質の合成を行う時、まずは「どのようにしてタンパク質を作れば良いか」が書かれてい

る本やレシピが必要です。この本やレシピに当たるものが DNA や RNA です。

そのため、これら核酸の合成が抑制されてしまうと、本やレシピの内容を元にタンパク質の合成

を行うことができなくなってしまいます。これによって、タンパク質の合成が止まります。

このように、核酸(DNA や RNA)の働きを阻害することによってタンパク質合成を抑制する薬

を核酸合成阻害薬と言います。

核酸の働きを抑制することによって増殖を抑える抗菌薬としてニューキノロン系があります。

2-8. 葉酸合成阻害薬

葉酸はビタミン B9 とも呼ばれ、生命維持に必要不可欠な物質です。これは細菌でも同じであり、

細胞分裂には葉酸が必要になります。

そのため、この葉酸の合成を阻害すると細菌の増殖を抑制することができます。このような薬と

して葉酸合成阻害薬があります。

ヒトの場合であれば、栄養素としての葉酸は食事から補うことができます。そのため、葉酸合成

を抑制してもヒトに対しては影響が出にくいです。このようにして、細菌に対して選択毒性を示す

ことが可能になります。

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2-9. MIC(最小発育阻止濃度)

細菌を培養すると増殖します。この時、抗菌薬と共に細菌を培養すると、薬の作用によって細菌

の増殖が抑えられます。

しかし、抗菌薬の濃度が薄すぎると細菌の増殖を抑えることができません。抗菌薬は細菌にとっ

て毒となりますが、この毒がほんの少ししかない状態であるとその効果も弱くなります。

そのため、当然ながら抗菌薬の濃度が低いと細菌の増殖抑制効果が薄いです。その逆に、抗菌薬

の濃度が高いほど細菌の増殖抑制作用も強くなります。

この時、抗菌薬によって細菌の増殖を抑制することのできる最小濃度を MIC(最小発育阻止濃度)

と呼びます。

細菌を培養する時に試験管を使うとします。この時、試験管に入れた細菌が増殖すると試験管が

濁ります。しかし、抗菌薬が細菌の増殖を抑えていれば試験管が濁ることはありません。

この時、「試験管が濁らずに、透き通った状態のままで維持する抗菌薬の濃度」を見極めることで

MIC の値を出すことができます。

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例えば、上図では 3μg/mL の薬物濃度では菌が増殖してしまっていますが、10μg/mL の濃度か

ら菌の増殖が抑制されています。つまり、この場合では「菌の増殖を抑制する最小濃度は 10μg/mL

である」と言うことができます。そのため、この時の MIC は 10μg/mL となります。

なお、この MIC の値が低いほど抗菌薬としての作用はより強力となります。

MIC は細菌の増殖を抑える最小値であるため、例えば MIC 値が「① 10μg/mL」と「② 100μg/mL」

では、①の前者の方がより低い濃度で細菌の増殖を抑えていることが分かります。

「少ない薬の量で細菌の増殖を抑える」という事は、その分だけ薬の作用も強いことを意味して

います。つまり、MIC の値が低いほど「抗菌薬の作用が強い」という事になります。

2-10. 静菌的作用と殺菌的作用

抗菌薬による作用としては、細菌の増殖を抑制する静菌的作用と細菌を殺す殺菌的作用の二種類

があります。

静菌的作用は細菌の増殖を抑えているだけであるため、感染症からの回復には患者さん自身の免

疫力が重要になります。

それに対して、殺菌的作用をもつ抗菌薬は細菌を死滅させる働きがあります。

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2-11. 時間依存型と濃度依存性の抗菌薬

薬の作用は血中濃度(血液中にどれだけ薬の濃度があるか)によって測定されます。この時、「血

液中の薬物濃度が高いほど薬の効き目も強い」と多くの人が勝手に思い込みます。

しかし実際にはそうではなく、必ずしも「薬の血中濃度が高い = 薬の効果も高い」とは言えま

せん。特に抗菌薬ではこの作用が有名であり、それぞれの特長によって時間依存性と濃度依存性の

二種類に分けられます。

・時間依存性

β-ラクタム系抗菌薬などが時間依存性に該当します。これらの抗菌薬は、血液中の薬物濃度があ

る一定以上を超えるとその作用が頭打ちとなります。

つまり、ある水準以上の血液濃度を保つことができれば、常に「最大の殺菌力」を持った状態で

推移させることができます。そのため、薬を多量に投与して血液濃度を上げたとしても効果は変わ

りません。

時間依存性の抗菌薬の効果を最大化したい場合、血液中の薬物濃度を高くするのではなくて「MIC

(最小発育阻止濃度)以上の血液中濃度をどれだけの時間で維持させるか」が重要となります。

時間依存性の抗菌薬の場合、MIC 以上の血中薬物濃度を維持させるために一日の投与回数を増や

す必要があります。

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・濃度依存性

ニューキノロン系抗菌薬などが濃度依存性に該当します。これらの抗菌薬は、細菌とどれだけ接

触したかによって殺菌効果が変わってきます。

つまり、血液中の薬物濃度が高ければ高いほど強い殺菌作用を得ることができます。そのため、

副作用が出ないように調節しながら一回の投与量を最大にして、投与回数を減らすことが重要とな

ります。

濃度依存性の抗菌薬は「一回での投与量の最大化」と「投与回数の最小化」によって、後述する

耐性菌の発生を抑えることもできます。

・「静菌的作用と殺菌的作用」、「時間依存性と濃度依存性」の薬物

テトラ

サイクリン系 マクロライド系 β-ラクタム系

アミノ

グリコシド系 ニューキノロン系

静菌的作用 殺菌的作用

─ 時間依存性 濃度依存性

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第三章.耐性菌の出現

感染症に掛かった時、抗菌薬が使用されます。抗菌薬が病原微生物を殺してくれるため、私たち

は感染症から回復することができます。

しかし、抗菌薬の使用を考える上で必ず問題となるものがあります。それは、耐性菌の問題です。

耐性菌とは、抗菌薬が効きにくい病原菌のことです。そのため、抗菌薬を投与しても感染症から改

善しません。

これら耐性菌の中でも、特に多剤耐性菌が問題となります。多剤耐性菌とは、「多くの薬剤に耐性

を示す細菌」のことを指します。

一つの抗菌薬に耐性を持つだけであれば、他の種類の抗菌薬へ変えれば良いです。しかし、多剤

耐性菌として多くの抗菌薬が効かない

状態であると、そもそも感染症の治療

ができなくなってしまいます。

このとき抗菌薬を変えたとしても、

多剤耐性菌は既にその薬に対しても薬

剤耐性を獲得しています。

このように、多剤耐性菌には使用できる薬剤が限られています。そのため、抗菌薬を学ぶ上で耐

性菌に対して知識を深めることも重要です。

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3-1. 耐性菌の歴史

耐性菌の歴史は、フレミングが 1929 年にペニシリンを発見したことから始まります。ペニシリン

自体が黄色をしているためにこの発見はイエローマジックと呼ばれ、第二次世界大戦でもペニシリ

ンは大きく活躍しました。

そして、ここからさらに抗生物質が次々に開発されていきました。しかし、抗生物質の使用が増

えるにつれてある問題が浮上しました。この問題がまさに耐性菌です。

ペニシリンと同じペニシリン系抗生物質として「メチシリン」と呼ばれる抗生物質があります。

このメチシリンに関して、1961 年にはメチシリンが効かない MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球

菌)が英国で最初に報告されました。

それからというもの、人間と細菌とのいたちごっこが始まりました。人間が新しい抗菌薬を開発

し、この抗菌薬に対してまた細菌が耐性を獲得するというループが繰り返されています。

ただし、MRSA の報告された当時はバンコマイシンと呼ばれる切り札がありました。バンコマイ

シンは抗生物質の一つであり、当時バンコマイシンは「耐性菌が出現しない抗生物質」といわれて

いました。

しかし、1986 年にはバンコマイシンに耐性をもつ細菌が報告されます。世界で始めて報告された

バンコマイシンが効かない細菌を VRE(バンコマイシン耐性腸球菌)と呼びます。

「バンコマイシンには耐性菌が出現しない」という当時の常識に反し、バンコマイシンに耐性を

もつ菌が出現してしまったのです。

その後、1990 年代にはほとんどの抗菌薬が無効である MDRP(多剤耐性緑膿菌)や多剤耐性アシ

ネトバクターが出現し、問題となりました。

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・なぜバンコマイシンは耐性菌が出現しないと言われていたか

VRE(バンコマイシン耐性腸球菌)が発見されるまで、バンコマイシンには耐性菌が出現しない

と言われていました。その理由の一つとして、バンコマイシンの構造式があります。

下にバンコマイシンの構造式を示します。

一目見て分かる通り、バンコマイシンはとても複雑な構造をしています。この複雑な構造が「耐

性菌が出現しない」と言われていた理由です。

バンコマイシンは 1956 年に開発され、この後 40 年以上耐性菌が出現しませんでした。このため、

耐性菌に対抗するための「最後の切り札」としての地位を確立していったのです。

しかし、1997 年に VRE(バンコマイシン耐性腸球菌)が出現し、世界に衝撃を与えました。バ

ンコマイシンであっても耐性菌が出現するということが判明してしまったのです。

このように、耐性菌は日々進化しています。

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3-2. 薬剤耐性のメカニズム

それでは、病原菌が薬剤耐性を獲得する主なメカニズムについて紹介していきます。

まず一つ目に、薬剤の不活性化があります。私たちが薬を服用した時、その薬は時間経過と共に

体外へ排泄されていきます。これは、腎臓によって尿として排泄されたり、肝臓に存在する代謝酵

素によって薬の形を変えられてしまったりするためです。

そして、これと全く同じようなことを細菌が行います。

つまり、代謝酵素が薬を分解して効果をなくしてしまうのと同じように、細菌自身が抗菌薬を無

効化してしまう酵素を作ってしまうのです。これが、薬剤の不活性化です。

このように、抗菌薬を化学的に修飾・分解する酵素を作り出すことで細菌が耐性を獲得します。

これは、抗菌薬に対する耐性獲得の際に最もよく見られる耐性機構です。

そして二つ目に、薬剤作用点の変異があります。

例えば指紋認証システムを使うとき、本人の指であれば当然認識してくれます。しかし、他人の

指は指紋が違うために認識することができません。

そこで、病原菌は自分の指を全く別の新しい指として作り変えます。すると、指紋認証システム

は認識しなくなります。新しく作られた指は指紋が元の指と違うため、当然ながら認識してくれま

せん。

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薬は「鍵と鍵穴の関係」とよく言われます。これは、今回の指紋認証システムと同じように、ピ

ッタリと合わなければ認識してくれないことを意味しています。

そのため、それまで抗菌薬が作用していた病原菌の部位の構造が変化すれば、「鍵と鍵穴」のよう

にピッタリと合うことがなります。つまり、抗菌薬が作用できなくなります。

このように、病原菌側の構造が変化することによっても耐性を獲得します。この機構はウイルス

で多く確認される耐性機構です。

そして三つ目に、抗菌薬に対する耐性機構として薬剤を排出するポンプを獲得することがありま

す。この「薬剤を細胞外へ排出する機構」ですが、多くの薬剤を外に排出する多剤排出ポンプが大

きな問題となります。

一つの薬を細胞の外へ排出するポンプであれば、他の抗菌薬へ変えれば病原微生物を殺すことが

できます。

しかし、一つのポンプが多くの抗菌薬を外へ排出する機能をもつことがあります。これが多剤排

出ポンプです。このポンプ機能を獲得した場合、一度に多くの抗菌薬に対して耐性を示すようにな

ります。

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・耐性遺伝子の伝罵

病原微生物が抗菌薬に対して耐性をもつようになるだけなら良いですが、話はそれだけで終わり

ません。耐性菌はこれら「抗菌薬を無効化するための遺伝子」を持つことになりますが、この遺伝

子は病原菌同士で伝わっていきます。

そのため一回でも耐性菌が報告された場合、その後、その抗菌薬に対する耐性菌が確認される確

率は数段高くなります。

ただ単に耐性菌が発生するというだけでなく、その発生した耐性菌の遺伝子が次々に伝罵してく

ことにも注意しなければいけません。

なお、これら薬剤耐性遺伝子はたとえ種類の違う菌であっても遺伝子が伝わってしまいます。

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3-3. 耐性菌が増えるメカニズム

耐性菌が増える理由としては抗菌薬の使用が大きく関わっています。

そもそも、抗菌薬を使用していない自然条件化であったとしても、一定数の耐性菌が発生してい

ます。しかし、これら耐性菌は通常の菌よりも貧弱であるため、放っておけば淘汰されていきます。

自然な条件において、耐性菌というのは言ってしまえば突然変異種です。そのため、突然変異の

種は何もしておかなければ自然に淘汰されて消えていきます。

しかし、抗菌薬を使用するとこの状況が変わってきます。耐性菌とそうでない菌が混在している

時に抗菌薬を使用した場合、これら耐性菌が淘汰されるどころか耐性菌のみが生き残ってしまいま

す。

その後、耐性菌が増殖することでその勢力を拡大していきます。

① 耐性菌とそうでない菌が混在

ここで抗菌薬を投与することによって、②の状態に移ります。

② 耐性菌のみが生き残ってしまう

突然変異種である耐性菌だけが生き残り、元々存在していた細菌は死滅します。

③ 耐性菌の増殖

その後、抗菌薬に耐性を獲得した病原微生物だけが増殖するようになります。

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・耐性菌を出現させないために

これら耐性菌の出現を抑えるには、いくつかの方法が存在します。耐性菌の出現には「耐性菌が

発生しやすい環境」があるため、これらを避ければ良いのです。ここでは、耐性菌が発生しやすい

環境を三つ紹介します。

一つ目に、抗菌薬の低濃度投与があります。つまり、抗菌薬を投与した時の血液濃度が低すぎて

しまっている状態です。薬の濃度が低いので完全に死滅せず、病原菌が抗菌薬に徐々に慣れてしま

います。

生かさず殺さずの状態を続けることによって、細菌やウイルスなどが耐性を獲得しやすい環境を

整えてしまいます。

二つ目に、治療直前での抗菌薬投与の中断があります。もう少しで治療が終わる直前で抗菌薬の

投与を止めてしまうと、耐性菌のみが生き残った状態で感染症をぶり返してしまう恐れが高まりま

す。

これによって、感染症の再発による「炎症の悪化」や「耐性菌出現の恐れ」のリスクが発生しま

す。

三つ目に、同じ抗菌薬の長期間投与があります。一つの薬を長い間投与するほど、耐性菌発生の

確率が高まります。わずかでも病原菌が薬剤耐性化してしまったら、その後は急速に耐性菌が蔓延

していきます。

そのため、耐性菌の出現を抑えるためには「漫然と同じ薬を投与し続ける状況」を改善する必要

があります。

このように、耐性菌の出現を抑えるためには、上記のような「耐性菌増加の原因」を避けて抗菌

薬を使用する必要があります。

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3-3. 耐性菌の種類

それでは、主な耐性菌について見ていきます。今回紹介する耐性菌は、前述した「耐性菌の歴史」

で紹介した菌についてです。

有名な耐性菌の一つ目に MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)があります。MRSA は 1970

年代から、院内感染の原因菌として注目されてきました。

院内感染とは、病院内で起こった微生物による感染のことです。病院では免疫力の低下した患者

さんが多いため、普通では問題とならないような微生物であっても重篤な感染を起こすことがあり

ます。

黄色ブドウ球菌は健康な人の皮膚などに普通に存在する細菌です。しかし、免疫力が低下すると

病原性を示すようになります。この時、同じ黄色ブドウ球菌でも MRSA として抗菌薬が効かない黄

色ブドウ球菌であるとより問題が大きくなります。

二つ目に VRE(バンコマイシン耐性腸球菌)があります。耐性菌が出現しないと考えられていた

バンコマイシンに対する最初の耐性菌です。

腸球菌自体はほとんど病原性を示しませんが、その耐性遺伝子を他の菌へと伝えていく性質があ

ります。そのため、この腸球菌を介して様々な種類の細菌がバンコマイシンに対して耐性を示すよ

うになります。

そして、三つ目に MDRP(多剤耐性緑膿菌)と多剤耐性アシネトバクターがあります。この病原

菌は、ほとんどの抗菌薬が効きません。

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・緑膿菌の薬剤耐性機構

MDRP(多剤耐性緑膿菌)が出てきましたが、ここで緑膿菌の薬剤抵抗性について紹介していき

ます。緑膿菌はもともと抗菌薬に対して多くの耐性を持っています。つまり、生まれながらにして

抗菌薬が効きにくい細菌の一つです。

そして、これら病原微生物の薬剤耐性には二種類あります。それは、「元から備わっている薬剤耐

性」である自然耐性と「後天的(生まれた後)に獲得した薬剤耐性」である獲得耐性です。

前述の通り、緑膿菌はもともと抗菌薬に対する薬剤耐性が備わっています。つまり、自然耐性が

ある病原菌です。

これらの耐性機構としては、「薬剤の取り込み阻害」、「取り込まれた薬剤の排出」、「薬剤の分解・

修飾」、「薬剤標的部位の構造変化」、「バイオフィルムの形成」などがあります。

緑膿菌はもともと多くの耐性機構を保有しているため、他の抗菌薬への薬剤耐性化もスムーズに

進んでしまいます。

① 薬剤の取り込み阻害

抗菌薬は病原微生物に作用することで菌を殺します。そのため、抗菌薬が取り込まれなければ作

用することができません。

緑膿菌は抗菌薬を細胞内に取り込みにくくしているため、薬が効きにくくなっています。

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② 取り込まれた薬剤の排出

薬が細胞内に取り込まれたとしても、その薬が細胞の外へと排出されれば意味がありません。こ

の細胞の外へと排出するポンプが薬剤排出ポンプです。

緑膿菌は既にこの薬剤排出ポンプが備わっているため、抗菌薬が作用しにくいです。

③ 薬剤の分解・修飾

薬が体内に入った後、肝臓に存在する酵素によって分解されます。これによって、薬の効果が消

失していきます。

そして、これと同じことを細菌が行います。つまり、抗菌薬の作用をなくしてしまう酵素を作っ

てしまうのです。その結果、薬がすぐに無効化されてしまいます。

④ 薬剤標的部位の構造変化

薬は「鍵と鍵穴の関係」と表現され、少しでも薬の構造が変化すると抗菌薬として作用できなく

なってしまいます。

これは受容体の構造が変化しても同じです。受容体の構造が少しでも変わってしまうと、薬は受

容体に結合できなくなります。

そこで、病原微生物は抗菌薬が作用するための受容体の構造を変化させます。つまり、自分自身

の構造を変えてしまうのです。これによって、抗菌薬に対する耐性を獲得します。

⑤ バイオフィルムの形成

バイオフィルムとは細菌などによって作られる菌膜のことです。歯磨きを怠った時に表れる歯垢

や台所のヌメリがこのバイオフィルムに該当します。

このバイオフィルムが形成されると、薬が細菌へ届きにくくなります。その結果、薬の効果が減

弱してしまいます。

・健常人にとっての耐性菌

なお、健常人にとって耐性菌はほとんど問題となりません。耐性菌の感染力は通常の病原菌と同

じであり、通常の菌に比べて耐性菌はまれにしか存在しません。

つまり、耐性菌は誰にでも感染する訳ではありません。

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耐性菌感染の条件としては、前述の通り「抵抗力(体力)の低下」や「耐性菌の増殖しやすい環

境」などがあります。これらの条件が揃った場合、耐性菌に感染してしまいます。

・抗菌薬の開発数

抗菌薬の開発数についてですが、1940 年代から徐々に開発数が多くなります。しかし、そのピー

クは 1980 年代であり、2000 年以降は抗菌薬の開発がほとんど進まなくなります。

しかし、その反対に耐性菌は年を追うごとに進化し続けています。

このように、耐性菌はもの凄い勢いで増え続けているのに対し、新しい抗菌薬はほとんど開発さ

れていません。そのため、私たちが行える対策としては、いかに耐性菌の発生を抑えるかにかかっ

ています。

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・薬剤耐性機構の阻害薬

病原微生物には抗菌薬に対する多くの耐性機構が存在します。その中の一つとして、「抗菌薬を

分解して不活性化させる酵素をもつ機構」があります。

β-ラクタム系抗生物質の場合、四角形のβ-ラクタム環と呼ばれる構造が重要となります。逆に

言えば、この四角形の構造さえなければ菌を殺す作用がありません。そこで、細菌はこの四角形の

構造であるβ-ラクタム環を壊す酵素をもつことで耐性を獲得します。

このように、β-ラクタム環を分解する酵素をβ-ラクタマーゼと呼びます。この酵素をもつ細菌

にはペニシリン系抗生物質が効きにくいです。

ただし、たとえβ-ラクタマーゼを細菌が保有していたとしても、このβ-ラクタマーゼを薬によ

って阻害してしまえば「β-ラクタム環の分解」を抑えることができます。

つまり、β-ラクタマーゼ阻害薬とペニシリン系抗生物質を同時に服用すれば、β -ラクタマーゼ

をもつ細菌に対しても抗菌薬の作用が復活するようになります。細菌の耐性機構を阻害することに

よって、ペニシリン系抗生物質の作用を元に戻すことができます。

このように、β-ラクタマーゼとペニシリン系抗生物質を配合することで、耐性菌に対する抗菌薬

の作用を高めた薬としてアモキシシリン(ペニシリン系抗生物質)+クラブラン酸(β-ラクタマー

ゼ阻害薬)(商品名:オーグメンチン)、アンピシリン(ペニシリン系抗生物質)+スルバクタム(β

-ラクタマーゼ阻害薬)(商品名:ユナシン)などがあります。

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第四章.抗真菌薬

細菌よりも形が大きく、より高等な生物として真菌(しんきん)があります。真菌を分かりやす

く呼ぶと「カビ」のことです。

キノコはカビの一種として有名ですが、これらキノコも真菌の一種です。また、パンを作る時や

酒を醗酵させるときに酵母と呼ばれる菌を使用しますが、この酵母も真菌です。

このように、私達はカビである真菌をあらゆる場面で利用しています。

しかし、真菌としてのキノコの中でも毒キノコがあるのと同じように、私達の体に悪さをする真

菌も存在します。このように、真菌による感染症を真菌症と呼びます。真菌症として有名なものに

水虫があります。

この時、真菌症の中でも「真菌による感染が皮膚表面や角質で留まる場合」を表在性真菌症と呼

びます。表在性真菌症は皮膚表面に感染している真菌を取り除けば良いため、外用薬として塗り薬

を使用すれば良いです。

しかし、中には皮下組織や爪などに及ぶ場合があります。この時の真菌症を深在性皮膚真菌症(深

部皮膚真菌症)と呼びます。さらに、内臓など体内の臓器にまで及ぶ真菌症は深在性真菌症(内臓

真菌症)と呼ばれます。

真菌症の種類 特徴

表在性真菌症 ・真菌による感染が皮膚表面や角質で留まる

・外用薬として塗り薬を使用

深在性皮膚真菌症

(深部皮膚真菌症)

・真菌による感染が皮下組織や爪などに及ぶ

・外用薬で治療困難な場合、内服薬(飲み薬)を使用

深在性真菌症

(内臓真菌症)

・内臓など体内の臓器にまで及ぶ真菌症

・抗がん剤や免疫抑制剤の投与している患者で起こりやすい

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真菌とはカビのことなので、健康状態の人ではたとえ真菌が体内に入ったとしても害になること

はほとんどありません。しかし、体の免疫機能が低下している状態であると、真菌が体内で増殖す

ることで健康を害することもあります。

例えば、手術後の患者さんや抗がん剤、免疫抑制剤などを投与されている患者さんであると、ど

うしても免疫力が低下しています。そのため、このような状態では体の臓器にまで及ぶ真菌症であ

る深在性真菌症を引き起こす可能性も高くなります。

深在性真菌症を発症した場合、内服薬(飲み薬)や点滴によって薬が使用されます。

4-1. 真菌の構造

抗真菌薬として真菌への選択毒性を考えるためには、真菌の構造を理解する必要があります。こ

れら細胞の構造の違いを認識すれば、どのような薬が抗真菌薬となるかを理解しやすくなります。

以下に細菌、真菌、ヒトの細胞の違いにおける重要な点を記しています。

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・細菌と真菌の違い

細菌と真菌の最も大きな違いとしては、「遺伝子(DNA など)を包み込む核があるかどうか」が

あります。

細胞分裂を行うためには、「どのような材料を使わなければいけないか」などの設計図をもとに行

う必要があります。この設計図が DNA などの遺伝子になります。

細菌の場合、この遺伝子が細胞の中に何の仕切りもなく入れられています。それに対して、真菌

では核と呼ばれる「DNA などの遺伝情報を包み込む膜」が存在します。

この時、細菌のように核がないために細胞の中に遺伝子がそのまま入れられている生物を原核生

物と呼びます。それに対して、真菌のように遺伝子が核で包まれている生物を真核生物と呼びます。

ヒトの細胞にも核があり、真菌の細胞はよりヒトに近い構造となっています。

・真菌とヒトの細胞の違い

真菌とヒトの細胞を比べた時、最も違う点は細胞膜を構成する成分です。細胞膜は細胞の内と外

とを分けるために必要な膜ですが、この細胞膜の主な構成成分が異なります。

ヒトの細胞の場合、細胞膜は主にコレステロールによって構成されています。コレステロールは

脂質異常症などによって悪いイメージがありますが、実は細胞が生きていくために必要不可欠な物

質です。

それに対して、真菌の細胞膜は主にエルゴステロールと呼ばれる物質によって構成されています。

このように、真菌とヒトでは構成されている細胞膜の主成分が異なっています。

そのため、抗真菌薬の創出を行う際はこの細胞膜の違いを利用することが多いです。ヒトの細胞

膜はエルゴステロールで構成されていないため、エルゴステロールを阻害する薬は真菌に対して選

択毒性を示すようになります。

また、「真菌は細胞壁をもっている」という事もヒトの細胞との違いになります。ヒトの細胞には

細胞壁がないため、真菌の細胞壁を阻害する薬も同じように選択毒性を示すことができます。

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4-2. 抗真菌薬

・ポリエン系抗真菌薬

真菌の細胞膜はエルゴステロールで主に構成されているため、このエルゴステロールを破壊すれ

ば細胞膜に穴があきます。

すると、穴から細胞内になければいけない成分が細胞外へと漏出してしまいます。この結果、真

菌が死滅します。

このように、エルゴステロールに結合することで真菌の細胞膜を破壊する薬としてアムホテリシ

ン B(商品名:ファンギゾン)があります。

・アゾール系抗真菌薬

真菌の細胞膜にはエルゴステロールが必要です。そのため、このエルゴステロール合成を阻害す

ることができれば、真菌は増殖することができません。

このように、エルゴステロール合成を抑制することによって真菌の増殖を抑える薬としてミコナ

ゾール(商品名:フロリード)、ケトコナゾール(商品名:ニゾラール)、ビホナゾール(商品名:

マイコスポール)、イトラコナゾール(商品名:イトリゾール)などがあります。

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・キャンディン系抗真菌薬

ヒトの細胞と真菌細胞の違いとして細胞膜の構成成分がありますが、「細胞壁の有無」という違い

もあります。ヒトの細胞には細胞壁がありませんが、真菌の細胞には細胞壁が存在します。そのた

め、真菌の細胞壁合成を阻害する薬は抗真菌薬となります。

真菌の細胞壁の主成分として、グルカンと呼ばれる糖がたくさん連なった構造があります。その

ため、このグルカンの構造を構築するための酵素を阻害すれば細胞壁合成が抑制されます。

グルカン合成に関わる酵素を阻害する薬がキャンディン系抗真菌薬であり、この作用によって細

胞壁合成を抑えることができます。

このように、真菌の細胞壁合成を抑制するキャンディン系抗真菌薬としてミカファンギン(商品

名:ファンガード)などがあります。

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○ 主な抗菌薬(抗生物質)

薬の種類 一般名 商品名

ペニシリン系抗生物質 +

β-ラクタマーゼ阻害薬

アモキシシリン +

クラブラン酸 オーグメンチン

アンピシリン +

スルバクタム ユナシン

セフェム系

セフカペン フロモックス

セフジトレン メイアクト MS

カルバペネム系 メロペネム メロペン

ペネム系 ファロペネム ファロム

グリコペプチド系 バンコマイシン バンコマイシン

マクロライド系

クラリスロマイシン クラリス

アジスロマイシン ジスロマック

テトラサイクリン系 ミノサイクリン ミノマイシン

ニューキノロン系

レボフロキサシン クラビット

シタフロキサシン グレースビット

ガレノキサシン ジェニナック

トスフロキサシン オゼックス

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○ 主な抗真菌薬

薬の種類 一般名 商品名

ポリエン系抗真菌薬 アムホテリシン B ファンギゾン

アゾール系抗真菌薬

ミコナゾール フロリード

ケトコナゾール ニゾラール

ビホナゾール マイコスポール

イトラコナゾール イトリゾール

キャンディン系抗真菌薬 ミカファンギン ファンガード