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CO2吸収源対策の新たな選択肢~ブルーカーボン~
堀 正和国立研究開発法人水産研究・教育機構
瀬戸内海区水産研究所
CO2吸収といえば・・・
1
沖縄県石垣島(日本)
藻場の大気中CO2吸収源としての役割
海草(アマモ)藻場
藻場の大気中CO2吸収源としての役割
カジメ藻場
3
藻場の大気中CO2吸収源としての役割
ガラモ藻場4
Contents
1.ブルーカーボンとは?ブルーカーボン生態系によるCO2吸収プロセス
とその生物的特徴
2.CO2吸収源としての試算結果
3.ブルーカーボン生態系のコ・ベネフィットの活用と今後の展開
5
Hori et al. Oyster aquaculture using seagrass meadows
Nature, 572 (2019年8月15日)
(既存のエネルギーインフラからの約束排出量は1.5℃以下の到達目標を危うくする)
エネルギーインフラ(既存+提案中)からの排出量:約846 GtCO2 )50~66%の確率で気温上昇を1.5℃に抑える場合の許容できる全炭素量(580~420 Gt CO2)
パリ協定の目標達成には既存インフラの早期引退,新たなCO2回収・貯留技術,そしてCO2吸収源対策が必要 6
マングローブ林 塩生湿地
ホンダワラ藻場 コンブ藻場
海洋植物による大気中CO2の吸収と隔離・固定
海草(アマモ)藻場
7
大気データ(2007年から2016年の平均値± SD)はKuwae and Hori (2018)、 LeQuere et al.(2018)より、陸上からのインプットについてはIPCC (2013)より引用。
海面面積593×106㎢
“わずか0.8%⇒約40%のCO2吸
収”
陸上面積147×106㎢
森林面積40×106㎢
地球規模の炭素循環
ブルーカーボンによるCO2吸収
沿岸浅海域2.7×106㎢
(海洋植生の成育域)
8
ブルーカーボンとは
「ブルーカーボン」 Nellemannら(2009)
「ブルーカーボン」は海洋の「グリーンカーボン」グリーンカーボン:光合成を通じて植物に吸収されたCO2由来の炭素
CO2CO2CO2
ブルーカーボン生態系は,熱帯雨林よりもはやい速度で消失している
OCOC
OC
「ブルーカーボン生態系」海草藻場(アマモ場)、塩生湿地、マングローブ林
ブルーカーボンによるCO2吸収
9
ブルーカーボンとは
ブルーカーボンによるCO2吸収
Q:数十~数百年以上,長期間CO2を貯蔵できるのか?
アマモ類
アシ・ヨシ類 マングローブ
・アマモは株(群落)単位では長寿(少なくとも1000年以上)
・堆積作用によって海底の堆積物に有機炭素をどんどん蓄積する
Blue carbon report(2009)
海草
蓄積された有機炭素
10
堆積作用
呼吸や他の分解プロ
セス
を経た排出
大気中のCO2
溶解CO2 重炭酸イオンと炭酸イオン
(2) 生物中の
有機炭素(3)難分解性の
有機炭素
食物
連鎖中の
炭素流
動
(4)堆積物中に埋積した炭素
(5) その他の炭酸塩
(貝殻、骨など)
(1) 大気中のCO2と海水中のCO2の交換
海洋植物による吸収
石灰化生物による溶解CO2の排出
Hori et al. (2018)を改変
ブルーカーボンによるCO2吸収
分解
311
・ホンダワラ属藻類の年間純生産量の10%以上がブルーカーボンとして貯留されると考えられる
・海藻も吸収源として貢献している
深海への輸送
ブルーカーボンによるCO2吸収
深海へ
12
日本沿岸の藻場によるCO2吸収速度
*1:http://www.rinya.maff.go.jp/kanto/iwaki/knowledge/breathing.htmlYoshida et al. (2018)を改変
年間
純一
次生
産量
(to
n C
/ha/年
)
3.4
35
15
10
5
6.1±1.2
15.1±18
4.0±0.73.2±2.4
温帯性
の
コンブ
場
人工
杉林
*1
コンブ
場
ガラモ
場
アマモ
場
ブルーカーボンによるCO2吸収
吸収されたCO2の貯留プロセス
(1)堆積作用
(3) 深海への輸送
(2) 難分解性の粒子状有機炭素(RPOC)
ブルーカーボンによるCO2吸収
14
100 km
200 m
実施例:瀬戸内海におけるブルーカーボン貯留プロセス
ブルーカーボンによるCO2吸収
15
Abo et al. (2018)
ブルーカーボンによるCO2吸収
モデルと現地観測を組み合わせた推定
アマモ場の中の堆積と分解・流出
アマモ場から流出後の分解と深海輸送
浅い海
深海
Abo et al. (2018)
ブルーカーボンによるCO2吸収
海水中
(0.3%)
堆積
(9.3%)
深海
(23.4%)
分解
(67.0%)
(ton C)(トンC)
分解37,041
(67.0%)
堆積
29,823
(40.9%)
72,959
分解19,812
(27.2%)
堆積
27,432
(37.6%)
流出
25,715
(35.2%)
72,959(ton C)(トンC)
深海流出6,017
(8.3%)
瀬戸内海全体
アマモ場内部 アマモ場から深海へ
ブルーカーボン動態の推定結果
Abo et al. (2018)
深海への送り込み
ブルーカーボンによるCO2吸収
Contents
1.ブルーカーボンとは?ブルーカーボン生態系によるCO2吸収プロセス
とその生物的特徴
2.CO2吸収源としての試算結果
3.ブルーカーボン生態系のコ・ベネフィットの活用と今後の展開
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全国のBlue Carbon 吸収量見込み
吸収係数(t-CO2/ ha / 年)
平均値 最大値
海草 5.8 33.4
ガラモ場 2.7 5.1
コンブ場 10.3 36.0
アラメ場 4.2 7.9
マングローブ
68.5 68.5
湿地・干潟 2.6 2.6
総面積: 28.3 ×104 ha吸収量=“CO2吸収係数”ד活動量(面積)”
IPCC湿地ガイドライン(2013)
ブルーカーボンによるCO2吸収
20
CO
2吸収量(×
104
t-C
O2)
全国のBlue Carbon 吸収量見込み
ブルーカーボンによるCO2吸収
21
Contents
1.ブルーカーボンとは?ブルーカーボン生態系によるCO2吸収プロセス
とその生物的特徴
2.CO2吸収源としての試算結果
3.ブルーカーボン生態系のコ・ベネフィットの活用と今後の展開
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(肉食を減らそう:国連気候変動パネルからの食の改善への提言)
ブルーカーボンによるCO2吸収
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牧畜・材木・畑作CO2吸収源
CO2CO2
CO2
ブルーカーボンによるCO2吸収
24
森林(CO2吸収源)と牧草地・牧畜(食糧生産)とのコンフリクト
(肉食を減らそう:国連気候変動パネルからの食の改善への提言)
森林
牧草地
ブルーカーボンによるCO2吸収
25
食糧生産・レクリエーションとしての場 地球環境・生物多様性を維持する生態系
藻場の様々な機能:コベネフィットを同時に有効利用できる
藻場・干潟が有する人への恵み(生態系サービス)
ブルーカーボンによるCO2吸収
26
ブルーカーボン生態系の機能・ 魚介類のゆりかご・生物生産の場
・ CO2吸収源・ガス交換(O2供給)・海洋酸性化の緩和・ 病原菌や貝毒赤潮などの減少・栄養塩吸収(水質浄化)・海岸防護
(Arkema et al. 2013, Duarte et al. 2013, Hori et al 2019)
コンフリクト
から
コベネフィット
ブルーカーボン生態系を利用した食糧生産:
漁場としての利用(従来の漁業生産)
SDGsへの貢献
ブルーカーボンによるCO2吸収
ブルーカーボン生態系の機能・魚介類のゆりかご・生物生産の場・ CO2吸収源・ガス交換(O2供給)・海洋酸性化の緩和・病原菌や貝毒赤潮などの減少・栄養塩吸収(水質浄化)・海岸防護
(Arkema et al. 2013, Duarte et al. 2013, Hori et al 2019)
コンフリクト
から
コベネフィット
ブルーカーボン生態系を利用した食糧生産:
アマモ場を利用したカキ養殖
SDGsへの貢献
ブルーカーボンによるCO2吸収
ブルーカーボン生態系の機能・ 魚介類のゆりかご・生物生産の場・ CO2吸収源・ガス交換(O2供給)・海洋酸性化の緩和・ 病原菌や貝毒赤潮などの減少・栄養塩吸収(水質浄化)・海岸防護
(Arkema et al. 2013, Duarte et al. 2013, Hori et al 2019)
コンフリクト
から
コベネフィット
ブルーカーボン生態系を利用した食糧生産:
海藻養殖
2.ブルーカーボンの貯留速度
SDGsへの貢献
藻体そのものを食べてしまう海藻養殖は,CO2吸収源として機能しない?
ブルーカーボンによるCO2吸収
新たに解明された貯留プロセス
(1) 堆積作用
(3) 深海輸送(2) 難分解性粒子状有機炭素(RPOC)
(4) 難分解性溶存態有機炭素(RDOC)
2.ブルーカーボンの貯留速度
成長する過程で難分解性の物質を放出している!
ブルーカーボンによるCO2吸収
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RDOCの測定Watanabe et al. (submitted)
このプロセスはこれまでのどのブルーカーボン貯留量見込みにも含まれていない
新たに解明された貯留プロセス
ブルーカーボンによるCO2吸収
大型藻類(コンブ、ワカメ、ホンダワラ、ノリ等)の養殖は、気候変動の緩和及び適応対策として機能し得る
養殖中の藻類から放出されるRDOCがブルーカーボン貯留に寄与する
ブルーカーボンによるCO2吸収
本発表の要点
・沿岸域の大型海藻やアマモは大気中CO2の吸収源として機能している
・海洋は陸上よりも多くの大気中CO2を吸収し,その40%を沿岸域(海洋面積の0.8%)が吸収している
・沿岸のブルーカーボン生態系は,熱帯雨林よりもはやい消失速度で失われつつある
・ブルーカーボン生態系のコベネフィットを活用すれば,吸収源対策と持続的食糧生産を両立できる
・新しく発見されたプロセスを考慮することで,収穫してしまう海藻養殖ですら吸収源として評価できる
ブルーカーボンによるCO2吸収
沿岸域の藻場を維持・回復させる努力はSDGsへの貢献につながる
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沖縄県石垣島(日本)