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日本におけるジェンダー研究の重要性 - 17 日本におけるジェンダー研究の重要性 鳥 居 千代香 はじめに ジェンダー・バイアス(男女という固定的な決めつけによる偏見)からの解放 を意味するジェンダーフリーやジェンダー論に対し、従来の性別役割分業を疑う ことなく、セックス(生物学的性別)とジェンダー(社会的文化的性別)を誤解、 曲解し、「ジェンダーフリー教育は、性差解消により男女を画一化するものとい うつくりだされた定義により、危険な教育という認識を広げることで、進み始め た男女平等教育をゆり戻す動きが強まっている」(日本女性学会 2003:1)。男 女共同参画の動きもやっと歩み始めたばかりである。いろいろな誤解や反発があ る。悪意に基ずくキャンペーンもある。 しかし、大学受験生人口の減少からみてもわかるが、少子高齢化に向おうとす る日本社会で(20 年後には 65 歳以上の高齢者が人口の三分の一近くになる)高 齢化への対処、年金などの問題、労働力確保の問題がいわれる今日、従来の「男 は仕事、女は家事育児」という性別役割分業観が逆に今日の少子化を招いている のである。 この性別役割分業観が日本でできたのは明治末で、戦後の高度経済成長期に専 業主婦とサラリーマンの夫という分業が明確になった。終身雇用慣行が崩壊しつ つあり、給料も下がり、専業主婦の妻や子供を夫一人で養えなくなってきている。 そのために仕事を持つ妻や独身女性の社会進出や少子高齢化によって性別役割分 業は変化を迫られているが、今だにその従来の価値観から抜け出せないでいる人 達もいる。梅棹忠夫は「社会の側での保守的なかんがえのなかには、男女の本質 的な差が強調されることが多い」(上野 1994:156)といっている。

帝京大学短期大学 紀要 第24号 - teikyo-u.ac.jp性差の比較文化研究に先鞭をつけたのはマーガレット・ミード(Margaret Mead)である。「男らしさ」「女らしさ」は多様で社会や文化によってつくられ

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日本におけるジェンダー研究の重要性

- 17 -

日本におけるジェンダー研究の重要性

鳥 居 千代香

はじめに

 ジェンダー・バイアス(男女という固定的な決めつけによる偏見)からの解放

を意味するジェンダーフリーやジェンダー論に対し、従来の性別役割分業を疑う

ことなく、セックス(生物学的性別)とジェンダー(社会的文化的性別)を誤解、

曲解し、「ジェンダーフリー教育は、性差解消により男女を画一化するものとい

うつくりだされた定義により、危険な教育という認識を広げることで、進み始め

た男女平等教育をゆり戻す動きが強まっている」(日本女性学会 2003:1)。男

女共同参画の動きもやっと歩み始めたばかりである。いろいろな誤解や反発があ

る。悪意に基ずくキャンペーンもある。

 しかし、大学受験生人口の減少からみてもわかるが、少子高齢化に向おうとす

る日本社会で(20 年後には 65 歳以上の高齢者が人口の三分の一近くになる)高

齢化への対処、年金などの問題、労働力確保の問題がいわれる今日、従来の「男

は仕事、女は家事育児」という性別役割分業観が逆に今日の少子化を招いている

のである。

 この性別役割分業観が日本でできたのは明治末で、戦後の高度経済成長期に専

業主婦とサラリーマンの夫という分業が明確になった。終身雇用慣行が崩壊しつ

つあり、給料も下がり、専業主婦の妻や子供を夫一人で養えなくなってきている。

そのために仕事を持つ妻や独身女性の社会進出や少子高齢化によって性別役割分

業は変化を迫られているが、今だにその従来の価値観から抜け出せないでいる人

達もいる。梅棹忠夫は「社会の側での保守的なかんがえのなかには、男女の本質

的な差が強調されることが多い」(上野 1994:156)といっている。

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 子育てについても、産むのは母親であるが、子供を育てていくことについても

「母親」でなければ「子」は育てられないのだろうか。1961 年~ 63 年にかけて

カナダ北西部の狩猟採集民ヘアー・インディアンを調査した原ひろこは自分の腹

に宿った子どもを必ずしも自分が育てなければならないとは考えていないと報告

している(原 2003:17)。「文化人類学や歴史学のデーターによると、母親に母

性行動欲求が本能的に備わっているという説はきわめて疑わしい。世界のさまざ

まな民族誌をみると母親の子供に対する態度は多様である」(山田 1994:105)。

 性差の比較文化研究に先鞭をつけたのはマーガレット・ミード(Margaret

Mead)である。「男らしさ」「女らしさ」は多様で社会や文化によってつくられ

たものであることを彼女の著書“Male amd Female”1949(邦訳『男性と女性』

1961)であきらかにしている。ミードはニューギニア地域のアラペシュ族、ムン

ドグモル族、チャンプル族という3つの社会集団の男女の役割を調査し、欧米文

化の中で育ったミードが「あたりまえ」と考える男女関係や男女の役割からみて

それはだいぶ違うものを発見した。アラペシュ族では男も女も「女らしい」やさ

しい気質をもっており、ムンドグルモ族は、逆に、男も女も「男らしく」攻撃的

であり、チャンプル族では、男たちが繊細で臆病で衣装に関心が深く絵や彫刻な

どを好むのに対して、女たちは、頑固で管理的役割を果たし、漁をして獲物を稼

ぐなど「男らしい」役割を果たしていた。マーガレット・ミードのジェンダー論

への道を拓いた功績は大きい。

1.ジェンダーフリー教育

 ジェンダーフリーという言葉が日本で使われるようになったのは東京女性財団

が作ったパンフレット「若い世代の教師のために ~ あなたのクラスはジェン

ダー・フリー?」(1995 年)以降からだといわれている。社会的文化的性別ジェ

ンダーによって「個人の可能性を限定せずに、自分らしさを実現し、それを社会

で発揮できるために力をつける教育」、「ジェンダーによる偏り・固定観念をなく

した教育」のことである。女性学・ジェンダー関連科目は大学で広がっている。

国立女性教育会館では、1983 年から「高等教育機関における女性学関連講座開

設状況調査」を行っている。この調査は以前は国立女性教育会館が各人に調査依

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頼をしていたが、現在は各大学にいる事務の担当者に調査依頼をし、そこの女性

学・ジェンダー関連科目の担当教師に報告書を出してもらい事務担当者が会館に

知らせることになっている。1983 年には 94 科目しか把握できなかったが、2001

年には 609大学で 2,456 科目が開講されている(表1)。未報告の大学もあるので、

実数はもっと多くなる。

表1 国・公・私・放送大学、大学・短大別女性学関連科目数の推移

(1983 ~ 2001 年)

(単位:校数・科目数)

年度 計 国 立 公 立 私 立 放 送大 学4年制 短大 4年制 短大 4年制 短大

開講大学数

1983 75 10 0 5 3 34 23 0 1986 113 17 0 5 7 41 43 0 1990 251 27 1 10 10 86 117 0 1996 344 37 4 7 13 126 156 1 2001 609 63 2 37 27 236 243 1

開講科目数

1983 94 13 0 5 3 45 28 0 1986 204 26 0 9 15 76 78 0 1990 463 54 1 13 20 167 208 0 1996 786 101 4 16 26 363 270 6 2001 2,456 427 5 102 69 1,110 742 1

(出所)国立婦人教育会館『女性学関連講座開設状況調査』、国立女性教育会館

『高等教育機関における女性学・ジェンダー論関連科目に関する調査』より作成

(出典)国立女性教育会館『男女共同参画統計データブック ─ 日本の女性と

男性 ─ 2003』2003 年、p.96

 2003 年7月にお茶の水女子大ジェンダー研究センターの「ジェンダー研究の

フロンティア」は文部科学省より「21 世紀 COE(卓越した研究拠点)プログラム」

に選出されたと発表があった。文部科学省が初めて試みた「特色ある大学教育支

援プログラム」の初年度分(2003 年度)も発表されたが、ジェンダーに関しては、

「総合的取り組み」部門で東京女子大の「女性学・ジェンダー的視点に立つ教育

展開」が選出された。研究面で大学の競争促進策「21 世紀 COEプログラム」と

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並んで、文部科学省による大学の競争促進策である。

 なぜこうして大学でも力をいれるようになっているかは、先に述べたように日

本の社会が変化を迫られているからである。そのような状況下で 1997 年の橋本

龍太郎首相のときから政府は男女共同参画社会という構想を模索してきた。日本

女性学会の学会ニュース(2003 年3月号外)でもジェンダーフリーについて誤解、

曲解、単なる懐古主義から 21 世紀を迎えるとともに、特に一部のマスメディア

…草の根運動…伝統的保守団体の連係による、男女共同参画社会、ジェンダーフ

リー、女性学、フェミニズムなどに対する批判などが強まったと言っている。ジェ

ンダーフリーは、「男らしさ、女らしさ」を全否定するものだという意見に対して、

そうではなく、ジェンダーフリーは、男はこうあるべきだ(たとえば、強さ、仕事)、

女はこうあるべきだ(たとえば、家事・育児…)と決めつける規範を押しつけな

いことと、社会の意志決定、経済力などさまざまな面にあった男女間のアンバラ

ンスな力関係・格差をなくすことを意味しており、一人ひとりがそれぞれの性別

とその持ち味を大切にして生きていくことを否定するものではないと日本女性学

会は学会ニュース(2003 年3月号外)で説明している。

 「女らしく、男らしく」から、「自分らしく」へ、そして、男性優位の社会から

性別について中立・公正な社会をめざしているのである。「女らしさ」「男らしさ」

をなくすことが「ジェンダーフリー教育」の目標ではなく、子供達の個性や主体

性を性別で束縛するような社会的・文化的拘束を見直そうということが目標なの

である。

 大学などの名簿も男女混合であるが、こうした男女混合名簿についても「マル

クス主義フェミニズム思想だ」というような意見を持つ教育者の記事が毎日新聞

2003 年6月 28 日の朝刊に掲載されていた。それに対して同新聞の 2003 年7月

7日に「男女平等とジェンダーフリー教育」というタイトルで3氏の意見が掲載

された。「不合理な差別を撤廃」というタイトルで、木村涼子はジェンダー(も

ともと性別を表す文法用語)という概念が 1970 年代以降のフェミニズムの「第

二の波」を背景にはぐくまれたものであると述べ(70 年代フェミニズムは自然

的とされ、したがって変えることができないとされた性差を相対化するためにこ

のジェンダーという用語を持ち込み、性差を自然の領域から文化の領域に移行さ

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せた)女性拡張運動(フェミニズム)の「第一の波」が要求した法制度上の男女

平等が整備された後も、男女の格差は存在しつづけており、労働市場や公的組織

における女性の地位が低いのはなぜかと問うている。

 家事・育児という重要な労働を担っているにもかかわらず、主婦の役割が低く

評価されるのはなぜなのか。フェミニズムの「第二の波」が国際的に興隆する中

で、「女性は家庭、男性は仕事」といった性別分業観や、男女の特性・能力に関

する固定的な考え方が、女性・男性の生き方を制限しているだけでなく、男性を

優位とする社会システムを作り上げているという認識が生まれた。それを解く鍵

となったのが社会的・文化的に構成される男女の区別をあらわすジェンダーだっ

た。

 ジェンダーは、生まれながらにして男女は異なる存在で役割も異なっていると

性差別を正当化する考え方を問い直すために有効であった。学校教育が子供たち

に人権や社会的公正について教えようとする時に不可欠なものとなりつつある。

市民の意見としても、男女であらかじめ区別することのない教育、男女平等をさ

らに推進するための教育がなされることを求める声は強いと木村涼子は言う。「男

らしさ」「女らしさ」をなくすことがジェンダーフリー教肯の目標ではない。そ

の目標は不合理な性差別の撤廃であり、不合理な性差別をなくすために、従来の

「女らしさ」「男らしさ」を見直す視点として「ジェンダー」が重視されているの

である。

 ジェンダーフリー教育は、すべての人を中性化したり画一的な人間を育てたり

するのではなく、まったく逆に、性別に関わらず、すべての人間が多様な存在で

あることを認め、真の意味で多様な個性を発揮できるようにすることをめざして

いるのである。

2.男女共同参画 ─ 誰もがその人らしく

 男女共同参画(ジェンダー平等)は性別にかかわりなく女性も男性も、誰もが

その人らしく伸び伸びと生きられる社会の実現をめざしている。各人が互いの違

いを認めあうだけでなく、「みんな違って、みんないい」と考えるのである。型

どおりの「男らしさ」「女らしさ」を当てはめてほしくないという人が多くなっ

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てきている。たとえば、性別役割分業意識を肯定する割合は低下しつつある。「夫

は仕事、女は家庭」という高度経済成長にともなう社会構造の変化の中で、一人

の収入で一家を養うことのできるサラリーマンが増加することにともない、実態

が意識と一致するようになり、戦前よるもむしろ戦後において性別役割分業を支

持する意識が強まった。「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考

え方に対し、「賛成」と「どちらかといえば賛成」を合計すると、1979 年には女

性 70.1%、男性 75.6%、1992 年には女性 55.6%、男性 65.7%、2002 年には女性

43.3%、男子 51.3%となり、この 10 年間で肯定する割合は 10%以上も低下して

おり、高度経済成長期以降の 20 年間に性別役割分業意識が変化してきているの

がわかる(図1)。

図1 「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考え方についての

性別構成割合の推移(1979 ~ 2002 年)

34.1

30.5

38.8

35.8

40.5

41.0

6.7

5.6

5.7

6.1

7.0

7.1

24.1

29.4

20.9

26.4

13.4

18.3

18.0

21.7

7.7

11.9

4.0

4.529.1

35.1

19.8

17.2

26.9

12.8

0 20 40 60 80 100%

男性(1,624人)

女性(1,937人)

男性(1,553人)

女性(1,971人)

男性(2,649人)

女性(4,590人)

賛成 どちらかといえば賛成 わからない どちらかといえば反対 反対

1979

1992

2002

(出所)総理府『婦人に関する世論調査』1981年、総理府『男女平等に関する世論

調査』1992年、内閣府『男女共同参画社会に関する世論調査』2002年

(出典)国立女性教育会館『男女共同参画統計データブック ─ 日本の女性と

男性 ─ 2003』2003 年、p.160

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日本におけるジェンダー研究の重要性

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表2「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考え方についての

性、年齢階級別賛否割合の推移(1979 ~ 2002 年)

年 性別 年 齢 回答者数 賛 成 どちらかといえば賛成 わからない どちらかと

いえば反対 反 対

1979

女性

20~29歳 899 17.8 43.3 8.5 25.6 4.9 30~39歳 1231 24.6 45.7 4.5 19.1 6.0 40~49歳 986 26.9 40.8 7.4 19.5 5.5 50~59歳 825 38.0 38.1 6.8 14.4 2.8 60~69歳 419 44.2 35.1 7.2 11.5 2.1 70歳以上 230 47.0 29.1 16.1 7.0 0.9

男性

20~29歳 577 24.8 45.1 9.2 16.1 4.9 30~39歳 873 29.9 43.1 6.5 16.0 4.5 40~49歳 830 30.5 44.6 6.7 14.0 4.2 50~59歳 610 39.3 38.9 5.2 13.0 3.6 60~69歳 502 50.8 31.1 6.4 9.2 2.6 70歳以上 257 50.6 30.7 9.3 6.2 3.1

1992

女性

20~29歳 221 6.3 41.6 5.0 33.0 14.0 30~39歳 387 8.5 38.2 5.7 31.3 16.3 40~49歳 464 15.5 38.4 5.8 24.1 16.2 50~59歳 407 21.9 32.4 4.4 31.2 10.1 60~69歳 332 37.7 32.5 5.7 18.4 5.7 70歳以上 143 54.5 27.3 3.5 11.9 2.8

男性

20~29歳 195 15.4 36.9 6.2 30.3 11.3 30~39歳 239 17.2 49.4 7.1 18.4 7.9 40~49歳 373 18.8 41.0 8.3 22.8 9.1 50~59歳 315 29.8 34.9 4.1 21.0 10.2 60~69歳 288 36.5 38.5 3.5 18.4 3.1 70歳以上 160 36.3 29.4 15.0 16.3 3.1

2002

女性

20~29歳 208 7.2 26.0 6.3 32.7 27.9 30~39歳 310 6.1 26.8 6.1 34.8 26.1 40~49歳 317 6.9 30.6 4.7 32.5 25.2 50~59歳 456 10.5 30.0 6.6 28.5 24.3 60~69歳 370 17.0 33.8 4.9 26.2 18.1 70歳以上 276 29.3 34.4 4.7 23.2 8.3

男性

20~29歳 219 6.8 37.4 8.2 27.9 19.6 30~39歳 215 11.2 30.2 7.9 28.8 21.9 40~49歳 249 10.8 41.0 5.6 23.7 18.9 50~59歳 348 17.8 29.6 7.8 27.0 17.8 60~69歳 350 21.4 32.3 5.7 21.7 18.9 70歳以上 243 31.7 36.2 4.9 16.0 11.1

(出所)総理府『婦人に関する世論調査』1981年、総理府『男女平等に関する世論

調査』1992年、内閣府『男女共同参画社会に関する世論調査』2002年

(出典)国立女性教育会館『男女共同参画統計データブック ─ 日本の女性と

男性 ─ 2003』2003 年、p.161

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 性別・年齢別にみると(表2)、性別役割分業についていずれの年次も 60 歳代、

70 歳代の男性の肯定率が最も高い。2002 年においては、女性は 20 歳代から 40

歳代までが 30%台の肯定率であるが、男性は 20 歳代から 50 歳代まで 40%以上

の肯定率で、40 歳代では 50%を超えている(国立女性教育会館 2003:160 -

161)。

3.男女共同参画社会基本法と「男は仕事、女は家庭」の関係

 バブル経済が破綻後の不況の時期に橋本龍太郎首相(1996 年1月から 98 年7

月)が日本の構造改革のために男女共同参画社会実現が鍵であると最初に表明し、

その後、1999 年6月 15 日に男女共同参画社会基本法が可決(衆参全員一致で可

決)、成立し、6月 23 日に公布・施行された(法律第 78 号)。最終改正は 1999

年 12 月 22 日であった(法律第 102 号)。

 その前文は、「我が国においては、日本国憲法に個人の尊重と法の下の平等が

うたわれ、男女平等の実現に向けた様々な取組みが、国際社会における取組みと

も連動しつつ、着実に進められてきたが、なお一層の努力が必要とされている。

一方、少子高齢化の進展、国内経済活動の成熟化等我が国の社会経済情勢の急速

な変化に対応していく上で、男女が、互いに人権を尊重しつつ責任を分かち合い、

性別にかかわりなく、その個性と能力を十分に発揮することができる男女共同参

画社会の実現は、緊急な課題となっている。このような状況にかんがみ、男女共

同参画社会の実現を 21 世紀の我が国社会を決定する最重要課題と位置付け、社

会のあらゆる分野において、男女共同参画社会の形成の促進に関する施策の推進

を図っていくことが重要である」と述べている。

 男女共同参画は個人・個性を尊重する考え方で、その根底に社会に、性別によ

る不平等や女性に対する差別が存在すると認識し、それらを撤廃しようとする思

想や運動の総称であり、個人の尊重と平等、公正な社会をめざすヒューマニズム

の一種であるフェミニズムがある。フェミニズムは単に女権拡張、つまり女性が

男性並になったり、女尊男尊の社会をめざしているのではなく、女性も男性も「女

だから」「男だから」ということから解放されて、性別にかかわりなく、自分らしく、

お互いを尊重しあえるような対等な人間関係をつくりだしていくこと、多様性を

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日本におけるジェンダー研究の重要性

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認め、誰もがありのままの自己表現ができること、自分を愛せることで他の人の

命を大切にする、人権が尊重される社会、暴力、力による強制のない平和な社会

をつくることをめざしている。

 基本法の前文は「男女共同社会の実現を 21 世紀の我が国社会を決定する最重

要課題」であるといい、国、地方公共団体、国民に責務を課している。国の責務は、

「男女共同参画社会の形成についての基本理念(以下「基本理念」という。)にのっ

とり、男女共同参画社会の形成の促進に関する施策(積極的改善措置を含む。以

下同じ。)を総合的に策定し、及び実施する責務を有する」(第8条)、地方公共

団体の責務は、「地方公共団体は、基本理念にのっとり、男女共同参画社会の形

成の促進に関し、国の施策に準じた施策及びその他のその地方公共団体の区域の

特性に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する」(第9条)とある。国

民の責務は「国民は、職域、学校、地域、家庭その他の社会のあらゆる分野にお

いて、基本理念にのっとり、男女共同参画社会の形成に寄与するように努めなけ

ればならない」(第 10 条)。「国及び地方公共団体は、男女共同参画社会の形成に

影響を及ぼすと認められる施策を策定し、及び実施するに当たっては、男女共同

参画社会の形成に配慮しなければならない」(第 15 条)。この配慮については第

4条で、「男女共同参画社会」の形成に当たっては、社会における制度又は慣行が、

性別による固定的な役割分担を反映して、男女の社会における活動の選択に対し

て中立でない影響を及ぼすことにより、男女共同参画の形成を阻止する要因とな

るおそれがあることにかんがみ、社会における制度又は慣行が男女の社会におけ

る活動の選択に対して及ぼす影響をできる限り中立なものとするように配慮しな

ければならない」。女性の立場や男女平等には関係がないように思われる社会制

度・慣行も、間接的な影響を及ぼすかもしれないので、施策の立案段階から男女

平等参画の視点を反映させる必要があると考える考え方は、1995 年の国連の第

4回世界女性会議(北京会議)で採択された「北京行動網領」では「ジェンダー

の主流化」(main-streaminig)と呼ばれ、強調された。

 第3条から第7条においては、男女共同参画社会の形成についての5つの基本

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日本におけるジェンダー研究の重要性

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理念が規定されている。国、地方公共団体、国民が、第8条から第 10 条までに

定められている責務を果たす上で基本となる考えである。男女の人権の尊重(第

3条)、社会における制度又は慣行についての配慮(第4条)、政策等の立案及び

決定への共同参画(第5条)、家庭生活における活動と他の活動の両立(第6条)、

国際的協調(第7条)である。

 第4条と第6条は「男は仕事、女は家庭」という役割分担について触れている

のでもう少し詳しく一部引用する。

 「第4条は、社会制度や慣行が、『男は仕事、女は家庭』といった性別による固

定的な役割分担等を反映して、結果として女性の就労等の活動の選択をしにくく

するような影響等を及ぼし、男女共同参画社会の形成を阻害する要因となる恐れ

がある場合があることから、男女共同参画社会の形成に当たって、社会制度・慣

行の及ぼす影響に配慮することを基本理念として定めたものです…」

 第六条は、「現在、子の養育、家族の介護等家事の多くは女性が担っている現

状があります。男女が共に社会に参画していくためには、家族を構成する男女が

相互に協力をするとともに社会の支援を受けながら、家族の一員としての役割を

円滑に果たし、家庭生活と働くこと…両立を図ることができるようにすることが

重要です。男性にとっても、家庭生活に目を向けることは、青少年の健全育成、

高齢期における生活を考えると重要な課題です。…」

 既婚でも未婚でもいずれ人生で最後は女も男もみんなシングルになる。そのた

めにも幼児、病人、高齢者、障害者を除いて自立しておくことが将来に心配を残

さないだろう。

4.日本女性の社会進出度 ─ 先進国で特異なほど後進的

 グローバル(地球規模)化が進み、国際的な女性問題の広がりの中で、日本社

会も大きな転換を迫られているのが女性の社会進出の問題である。日本は国際社

会から取り残されつつあるのが現状である。

 国連開発計画(UNDP)は 2003 年の7月8日に 03 年度版の「人間開発報告」

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日本におけるジェンダー研究の重要性

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を発表した。経済、保健、教育などの充実度から各国の開発度を示す「人間開

発指数」(HDI)で、日本は昨年と同じ9位だった。HDI(Human Development

Index)は基本的な人間の能力がどこまで伸びたかを測るもので、基礎となる「長

寿を全うできる健康的な生活」、「知識」及び「人並みの生活水準」の3つの側

面の達成度の複合指数である。具体的には、平均寿命、教育水準(成人識字率と

就学率)、調整済み1人当たり国民所得を用いて算出している。GEM(Gender

Empowerment Measure)、すなわち、ジェンダー・エンパワーメント指数は女

性が積極的に経済界や政治生活に参加し、意思決定に参加できるかどうか測る

もので、HDI が人間の能力の拡大に焦点を当てているのに対して、GEMは、そ

のような能力を活用し、人生のあらゆる機会を活用できるかどうかに焦点を当て

ている。具体的には、女性の所得、専門職・技術職に占める女性割合、上級行政

職・管理職に占める女性割合、国会議員に占める女性割合を用いて算出している

が 2002 年度は 32 位であった(内閣府 2003:51 - 52)(表3)。

 2003 年7月8日に国連開発計画が 03 年度版の「人間開発報告」を発表したが、

HDI は日本は昨年と同じ9位だった。しかし、女性の社会進出度を測る GEM

では昨年の 32 位からさらに 44 位に大きく後退した。必要データが入手可能な

70 ヵ国をランクづけているのであるが、昨年までデータがなく、今回新たに登

場したアフリカのナミビア(29 位)、ボツワナ(31 位)を下回った(毎日新聞

2003:7月9日朝刊)。性別役割分業意識や、男は年功的に昇進・昇給するが女

は低賃金の補助的労働かパートという状況をみても分かるが、日本の男女平等の

度合いは先進国では特異なほど後進的である。

 日本では管理的職業従事者はなお少数であり、「総合職」には男性のみを採用

する企業が多い。欧米諸国と比較すれば、日本の「管理的職業従事者に占める女

性の割合 8.9%はアメリカ 45.1%、カナダ 35.1%、スウェーデン 28.8%,ドイツ

26.3%よりもはるかに低い水準である」(国立女性教育会館 2003:38)。

 このような現状を考えて、内閣府男女共同参画局は 2003 年4月に「女性の

チャレンジは、男性の元気、社会の活気!」と『女性のチャレンジ支援策につい

て』の小冊子を作成した。この1ページの1には、国連ナイロビ将来戦略勧告で

示された 30%の目標数値や諸外国の状況を踏まえ、社会のあらゆる分野におい

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表 3 HDI、GDI、GEMの上位 50か国①HDI ② GDI ③ GEM

人間開発指数 ジェンダー開発指数 ジェンダー・エンパワーメント指数順位 国  名 HDI 値 順位 国  名 GDl 値 順位 国  名 GEM値1 ノルウェー 0.942 1 オーストラリア 0.956 1 ノルウェー 0.837 2 スウェーデン 0.941 2 ベルギー 0.943 2 アイスランド 0.833 3 カナダ 0.940 3 ノルウェー 0.941 3 スウェーデン 0.824 4 ベルギー 0.939 4 スウェーデン 0.940 4 デンマーク 0.821 5 オーストラリア 0.939 5 カナダ 0.938 5 フィンランド 0.803 6 米国 0.939 6 米国 0.937 6 オランダ 0.781 7 アイスランド 0.936 7 アイスランド 0.934 7 カナダ 0.777 8 オランダ 0.935 8 フィンランド 0.933 8 ドイツ 0.765 9 日本 0.933 9 オランダ 0.933 9 ニュージーランド 0.765 10 フィンランド 0.930 10 英国 0.932 10 オーストラリア 0.759 11 スイス 0.928 11 日本 0.927 11 米国 0.757 12 フランス 0.928 12 フランス 0.926 12 オーストリア 0.745 13 英国 0.928 13 デンマーク 0.925 13 スイス 0.718 14 デンマーク 0.926 14 スイス 0.923 14 ベルギー 0.706 15 オーストリア 0.926 15 オーストリア 0.921 15 スペイン 0.702 16 ルクセンブルグ 0.925 16 ドイツ 0.920 16 英国 0.684 17 ドイツ 0.925 17 アイルランド 0.917 17 アイルランド 0.675 18 アイルランド 0.925 18 ニュージーランド 0.915 18 バルバドス 0.658 19 ニュージーランド 0.917 19 ルクセンブルク 0.914 19 バハマ 0.652 20 イタリア 0.913 20 イタリア 0.907 20 ポルトガル 0.638 21 スペイン 0.913 21 スペイン 0.906 21 トリニダード・トバゴ 0.611 22 イスラエル 0.896 22 イスラエル 0.891 22 イスラエル 0.596 23 香港 ( 中国 ) 0.888 23 香港 ( 中国 ) 0.886 23 シンガポール 0.592 24 ギリシャ 0.885 24 シンガポール 0.880 24 ポーランド 0.590 25 シンガポール 0.885 25 ギリシャ 0.879 25 スロベニア 0.585 26 キプロス 0.883 26 キプロス 0.879 26 コスタリカ 0.579 27 韓国 0.882 27 スロベニア 0.877 27 エストニア 0.568 28 ポルトガル 0.880 28 ポルトガル 0.876 28 チェコ 0.560 29 スロベニア 0.879 29 韓国 0.875 29 スロバキア 0.545 30 マルタ 0.875 30 マルタ 0.860 30 ラトビア 0.539 31 バルバドス 0.871 31 ブルネイ 0.851 31 イタリア 0.539 32 ブルネイ 0.856 32 チェコ 0.846 32 日本 0.527 33 チェコ 0.849 33 アルゼンチン 0.836 33 クロアチア 0.527 34 アルゼンチン 0.844 34 スロバキア 0.833 34 キプロス 0.525 35 ハンガリー 0.835 35 ハンガリー 0.833 35 フィリピン 0.523 36 スロバキア 0.835 36 ポーランド 0.831 36 ウルグアイ 0.519 37 ポーランド 0.833 37 ウルグアイ 0.828 37 スリナム 0.518 38 チリ 0.831 38 バハマ 0.825 38 メキシコ 0.517 39 バーレーン 0.831 39 チリ 0.824 39 ペルー 0.516 40 ウルグアイ 0.831 40 バーレーン 0.822 40 ドミニカ共和国 0.514 41 バハマ 0.826 41 コスタリカ 0.814 41 ギリシャ 0.512 42 エストニア 0.826 42 リトアニア 0.806 42 コロンビア 0.509 43 コスタリカ 0.820 43 クロアチア 0.806 43 マレーシア 0.505 44 セントクリストファー・ネイビス 0.814 44 クウェート 0.804 44 ハンガリー 0.500 45 クウェート 0.813 45 トリニダード・トバゴ 0.798 45 ベリーズ 0.499 46 アラブ首長国連邦 0.812 46 ラトビア 0.798 46 エクアドル 0.484 47 セイシェル 0.811 47 アラブ首長国連邦 0.798 47 リトアニア 0.483 48 クロアチア 0.809 48 カタール 0.794 48 パナマ 0.475 49 リトアニア 0.808 49 メキシコ 0.789 49 チリ 0.474 50 トリニダード・トバゴ 0.805 50 ベラルーシ 0.786 50 タイ 0.458

(備考)1. 国連開発計画(UNDP)「人間開発報告書」(2002 年版)より作成。2.測定可能な国数は、HDIは 173カ国、GDIは 146カ国、GEMは66カ国。

(出典)内閣府男女共同参画局『平成 15年度版男女共同参画白書』2003 年、p.52

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て、2020 年までに、指導的地位に占める女性の割合が、少なくとも 30%となる

ことを目指して、各種取組を進めるよう提案する、という目標が掲げられている。

2003 年6月の小泉首相の所信表明演説でも「今の小学生が社会に出るころまで

に、あらゆる分野で女性が指導的地位の3割を占めることを目指し、女性が安心

して仕事ができ、個性と能力を発揮できる環境を整備します」とある。

5.配偶関係と家族

 岩男寿美子は 2003 年の国際ジェンダー学会(9月 14 ~ 15 日開催)で初めて

アメリカに行ったとき驚いたのは、日本より地位が高いはずのアメリカの妻が夫

に服を買ってもらうのに、その服を試着して夫の前で回って見せているのを見た

ときだったと話していた。岩男の母親は専業主婦であったが、夫からもらった給

料から夫に相談しないで服を買えていたからである。2002 年の家計費管理費の

最終的な決定者の国際比較をみてみよう。日本では妻が 69.5%、夫が 13.9%、夫

婦でが 14.2%である。スウェーデンではそれぞれ 25.0%、9.9%、夫婦 56.5%、ド

イツではそれぞれ、20.6%、11.4%、夫婦 64.9%となっている。

 それでは、土地・家屋の購入について最終的な決定者についではどうなのか。

日本では妻が 6.5%、夫が 46.9%、夫婦が 35.7%であるのに対して、スウェー

デンではそれぞれ 2.9% 、10.1%、68.5%、ドイツではそれぞれ 2.3%、11.4%、

74.7%となっている。日本では家計管理費の場合と対照的に夫が土地・家屋の購

入について決める割合が高い。それと対照的にスウェーデン、ドイツでは夫の決

める割合が低化し、夫婦で決める割合が高くなっている(図2、図3)。

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日本におけるジェンダー研究の重要性

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図2 家計費管理における最終決定者(男女計)

24.5

20.6

25.0

28.2

69.2

74.8

69.5

50.9

64.9

56.5

51.8

20.0

14.0

14.2

9.9

17.8

10.1

10.2

13.9

11.4

22.3

0.8

0.7

7.8

1.1

2.1

0.5

1.21.0

0.2

0.8

0.5

0.2

0.3

0.2

0.8

1.7

0.4

0 20 40 60 80 100%

イギリス

ドイツ

スウェーデン

アメリカ

フィリピン

韓国

日本

夫・パートナー 妻・パートナー 夫婦・カップル 家族全員 その他の人 わからない・無回答

(備考)内閣府「男女共同参画社会に関する国際比較調査」(平成 14年度)、「男

女共同参画社会に関する世論調査」(平成 14年7月)より作成。

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日本におけるジェンダー研究の重要性

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図3 土地・家屋の購入における全体的な実権(男女計)

4.9

2.3

2.9

6.6

6.6

16.7

6.5

78.4

74.4

68.5

71.1

70.7

60.5

35.7

16.8

18.5

20.1

46.9

11.4

10.1

10.7

1.9

2.2

10.9

3.0

3.4

1.9

2.0

0.8

1.5

0.6

0.5

1.4

0.2

3.3

1.9

7.6

3.9

6.8

0 20 40 60 80 100%

イギリス

ドイツ

スウェーデン

アメリカ

フィリピン

韓国

日本 5.5

夫・パートナー 妻・パートナー 夫婦・カップル 家族全員 その他の人 わからない・無回答

(備考)内閣府「男女共同参画社会に関する国際比較調査」(平成 14年度)、「男

女共同参画社会に関する世論調査」(平成 14年7月)より作成。

(出典)図2、図3ともに、男女共同参画局『平成 15年度 男女共同参画白書』

2003 年、p.39

 2000 年でみると、男女とも配偶者がいる者の割合は約6割である。全年齢で

みると、女性の 58.2%、男性の 61.8%が有配偶である。未・非婚者割合は、男性

の方が高く 31.8%、女性は 23.7%である。夫と死別したり、病気になる、失業する、

離婚したらどうであろうか。離婚件数、離婚率は上昇し、2001 年には、約 29 万件、

人口千人あたり 2.27 人である。毎年 80 万組が結婚し、約 20 万組が離婚してい

るのである。男女共同参画は「その人らしく」であるから専業主婦やその生き方

を軽視したり、否定するものではない。しかし、現代では性別役割分業だけの結

婚はリスクが高いのではないかと考える。日本で専業主婦になることの妻役割は

子育てと家事労働、それに介護が主である。高学歴で選択肢が多くなった現代に

家事だけをやり続けることが女性にとって本当に幸せなことだろうか。また資源

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日本におけるジェンダー研究の重要性

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を無駄にしていると感じる。

 離婚をすると男性の生活水準は 30%上がり、女性の生活水準は 70%下がると

いうし、日本の男性は慰謝料も養育費もほとんど払わないが、それでも離婚の約

7割は女性からの申し出である。それまで日本の「解放史」や「民衆史」が問題

の対象としてこなかった主婦研究「主婦のおこなう労働」についての理論的考察

は上野千鶴子などのフェミニズム理論の貢献が大である。それはそれまで日本の

「解放史」や「民衆史」が対象にしてこなかった分野であった。「その後の女性学

の展開のなかで、『主婦役割』と『主婦労働』は資本制と家父長制の二重支配の

もとでの女性の抑圧のかなめとして対象化されるにいたった」(上野 2002:74)。

 日本の離婚で最近増加が目立つのは同居期間が長い中高年離婚の増大で、1960

年と 2001 年を比較すると同居期間が0~4年が 37433 件から 102833 件と約3倍

であるのに対し、同居期間が 20 年以上の離婚は 3037 件から約 14 倍の 42992 件

になっている。これは夫が定年になる頃に妻から切り出されるものである。

 日本の女性の労働力率については、男性との差異がかなり大きいという特徴が

ある。結婚し、出産、育児期に女性が労働市場を離れ、子育てが一段落する 30

代後半から未婚のときに正規雇用されていた者もパート労働者として再就職する

ようになる「M字型曲線」を示す。「夫は雇用者、妻は専業主婦」の「性別役割

分担」に代わって、女性に「家事労働」と「賃労働」の二重の負担がかかってき

た。これを樋口恵子は 85 年に「新・性別役割分担」と名づけたが、両方あわせ

た妻は最も長時間働いている。女性パートタイム労働者は増え、8割弱が有配偶

者である。賃金は現在でも女性一般労働者の6~7割、男性一般労働者の4~5

割に過ぎない。M字型の働き方では受けた教育や能力を生かした職場につけない

ので、働きたい人には十分に力が発揮できる社会の仕組みを作り出し、世界レベ

ルのグローバルな経済競争の時代に社会を活性化させようというのが男女共同参

画の考えで、高度経済成長後の低成長時代における社会のニーズでもある。

 現在、若年層の未・非婚率が上昇している。1980 年と 2000 年を比較すると、

女性は 25 ~ 29 歳で 24.0%から 54.0%へ、30 ~ 34 歳では 9.1%から 26.6%へ、35

~ 39 歳では 5.5%から 13.8%に上昇。男性では 25 ~ 29 歳で 55.1%から 69.3%へ

と上昇し、30 ~ 34 歳では 42.9%が、35 ~ 39 歳では 25.7%が未・非婚である。

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全核家族世帯に占める母子世帯は 11%、父子世帯は2%である。

6.日本型雇用慣行とジェンダー構造

 大企業や官公庁中心に、男性雇用者が長期安定的に雇用、すなわち、終身雇用

され、勤務年数や年齢に応じて年功序列賃金で処遇される日本型雇用慣行は、夫

は会社中心、妻は家庭中心の専業主婦という夫婦役割分担を前提としている。「『男

女の固定的な役割分担意識』は…高度成長期に形成された。『伝統的』という新

しくつくられた制度なのである」(大沢 2003:21)。家族丸抱えの日本型雇用慣

行で雇用される代わりに、企業の都合にあわせた働き方をしなければならない。

そのためにサラリーマンの夫は家庭責任を担うことは困難になる。家庭責任は

女性にあるとし、「女子の若年退職制度(女子のみ 25 ~ 30 歳を定年とする制度)

や結婚退職制度、男女二本立ての賃金体系をつくり、女子の短期雇用を制度化し

ていった」。やがて主婦が企業の労働力不足を補うためにパートタイム労働者と

して雇用されるようになる。

 戦前の日本の人口の大多数は第一次産業従事者で、農林業自営世帯に属し、女

性労働者が不可欠であったために、日本の女子労働力率は 20 世紀を通じて 50%

以上を維持していた。それが 50%以下になったのは 60 年代以降のことである。

60 年代を通じて女子労働力率、既婚女子労働力率が低下しつづける。「男性の『サ

ラリーマン化』とともに女性の『専業主婦化』が大衆規模で成立したのは高度

成長期である」(上野 2002:98)。農家の女性の労働時間は家事労働時間より長

く、大きく農業収入に貢献していた。男性一人が稼ぎ手ではなかった。戦前は子

供から高齢者まで一家みんなで田畑で働いたのである。家事労働も一家で協力し

て行われた。「かつては夫は薪を割り、子供は水を汲み、妻は料理をした」(上野

 1994:177)。60 年代以降に家事労働は主婦の「単独労働」になったのである。

 戦後の高度経済成長(1955 年から 73 年頃)で第二次産業・第三次産業従事者

比率が増大し、雇用労働比率が増大した。日本型雇用慣行が広がったのはこの高

度経済成長という環境においてであった。女性が結婚前には正社員として働き、

結婚・出産で退職し、子供がある程度成長するとパート労働者になるという女性

特有の働き方が生まれたのは、高度経済成長期以降である。それ以前には女性も

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夫と共に田畑で重労働の第一次産業従事者として働いていたが、サラリーマンと

結婚し、専業主婦として家事・育児だけに従事することを理想とするジェンダー

(性別)観ができ、これに抵抗がなく、またあこがれた。専業主婦であることは

中産階級を意味していたのである。

 ベティー・フリーダン(Betty Friedan)が“The Feminine Mystique”(邦訳『新

しい女性の創造』1977)でアメリカの郊外の中産階級の妻の不安と不満を書いた

のが1963年であり、彼女は後に全米最大の女性組織NOWの初代会長、「ウーマン・

リブの母」になった。上野千鶴子は「フリーダンの経験した高度産業社会におけ

る女性の抑圧と疎外は、高度成長期を通じて 70 年代はじめまでには、ようやく

日本の女性の間にも現実化していた…60 年代は『サラリーマンの時代』となる

…『サラリーマンの夫に家事・育児専業の妻、子供は二人まで』の都市雇用者核

家族が成立し…日本のリブは単にアメリカのリブ運動の波及効果でもなければ輸

入品でもなかった」(上野 1994:135)と日本のリブが「アメリカの物まね」、「輸

入思想」であるという俗説を否定している。日本は日本のリブが成立するだけの

産業社会の成熟が背景にあったのだ。

 大沢真理によると、サラリーマンと専業主婦の夫婦は、「高度成長が始まった

1955 年の 500 万あまりから増加し、80 年には 1100 万近くに達した。他方で、す

べての夫婦に占めるサラリーマンと専業主婦のカップルの比率を見ると 55 年か

ら 90 年まで3割台にとどまるなかで、70 年代末に 37%程度のピークを記した…

サラリーマンが増えたから専業主婦も増えたが、じつはサラリーマン世帯では、

一貫して共働きの比率が増えた」(大沢 2002:71 - 72)。専業主婦が少数派と

なり、共稼ぎが多数派となったのは夫の賃金の伸び悩みがあるからである。

7.経済の低成長とグローバルな経済競争

 高度経済成長期に成立した日本型雇用慣行のために高学歴の男性正社員が家族

のために、年功序列賃金給で給与上昇を期待して働き、会社も生産を伸ばし、終

身雇用で安定した賃金を得て、一方、女性社員は若年のうちに結婚ないし、出産

で退職することが通例で、(年功賃金のもとで賃金が低いうちに補助的な仕事を

担当し、中年以上になると女性はほとんどが低賃金で不安定なパートタイム労働

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となる)、家では専業主婦が家事と育児を一手に引き受け、失業や収入が減るこ

とを心配しないで働けた。妻は家庭中心、男性が稼ぎ手という性別役割分業が前

提であった。しかし、このような慣行が広がったのは、若年層が多くいた高度成

長期の人口構成による。年功制なら総労働費用は安く上がる。こうした恵まれた

経済成長の時代は今や過去のものになった。

 企業間のグローバルな競争と経済の低成長の時代に、企業の倒産、業績不振に

よる解雇や、従来の年功制賃金が見直され、だんだんと成果主義・能力主義の賃

金が取り入れられている。これまで、「妻子を扶養する」という理由で、企業は

雇用し続け、扶養家族の手当ても含めて働きに比べて高すぎるかもしれない賃金

を支払ってきた。しかし、リストラでは人件費削減のために働きに比べ賃金の高

い、こうした中高年が解雇される場合もある。倒産したり、リストラにあわない

までも、中途採用やパート、派遣といった労働者の雇用が多くなった。大沢真理

は「男性だからと勤続を期待し管理職候補として扱う、女性だからと短期の補助

的な働き方を前提する。このような人事管理は人的資源の無駄遣いでしかない」

(大沢 2002:12)という。

 戦後、増加していた専業主婦率も 1975 年を頂点として減少し始め、パートで

働く既婚女性が増加した(アメリカでは 1955 年の専業主婦率は 77%であったが、

1970 年代の不況で男性雇用不安が強まり、共働きへ移行したたために 1999 年に

は 22%になった)。同じ働くならパート雇用でないほうが有利であるし、世帯主

である夫一人に家族が扶養される生活では男性が受けるストレスも大きいだろ

う。男性の自殺者は大幅に増えている。2002 年の男性の自殺者は3万2千人を

越えた。5年連続して3万人を越えている。しかも自殺者に 50 代男性が急増し、

経済・生活問題が自殺の動機とみられる。一家の稼ぎ手である中高年男性の自殺

は最も悲劇的な家庭崩壊の例である。不況や雇用不安といったこれからの時代、

男女共同参画型の結婚は家計リスクが分散されるので安心だ。

 男性中心の社会は女性にとって幸せな社会とはいえないだろうが、男性にとっ

ても本当に幸せな社会とはいえないだろう。欧米では 1980 年頃からこうした時

代を向え、最近では「男性研究」、「男性学」の研究も盛んだ。日本では「1970

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日本におけるジェンダー研究の重要性

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年代から 80 年代にかけて女性問題の時代の開始があり、それが今後ともますま

す深化しようとすれば、1990 年代は男性問題の始まりを告げる時にならざるを

えない…女たちが古い〈女らしさ〉というくびきからの脱出を望み、意識を変え、

経済的・精神的な自立をめざしながら社会参加を拡大しつつある現在、性による

差別や規制を突破するためには、ものの考え方、言い方、ふるまい方、感情表現

の様式を含んだ男性中心の文化そのものを変革しなければならないことが明らか

になろうとしている…古い男らしさの概念が根本的にゆらぎ始めたことに多くの

男性がすでに気づいていることだ…この『女性の時代』に対して、『ヒステリッ

ク』でときには病理的な『反撃』を開始しかねない男も生れかねない。だからこ

そ 1990 年代は、…『男性性』の危機の時代、うまく古い男らしさの鎧から脱皮

しきれず、しかも、傷つき不安にかられる『男たち』の時代という意味での男性

問題の時代でもある」(伊藤 1993:171)という伊藤公雄は 1992 年に京都大学

で男性学をテーマとした授業を始め、これが日本で初めての男性学の授業だそう

だ。女性学のゼミに参加していた学生たちが「男性問題」をやってみたいという

ことで始まった。伊藤は 94 年4月から大阪大学でも「女性学・男性学」の授業

を始めている。

8.教育面での女性の高学歴化と国際比較

 女性の教育面での変化は大きい。女性の高等学校・大学(学部)への進学率は

上昇をつづけ高学歴化が進んでいる。文部科学省の調査によれば高等学校(通信

教育を除く)への進学率は1969年に男性79.2%に対し、女性79.5%と男性を上回っ

た。2002 年では女性の進学率が 96.5%であるのに対し、男性は 95.2%であった。

 大学進学率は 1960 年には女性は大学[学部]2.5%と短期大学[本科、女性のみ]

3.0%を合わせて5.5%ほどしかなかった。男性の大学(学部)進学率は13.7%であっ

た。1980 年には短大 21.0%、大学〔学部〕12.3%、合わせて女性は 33.3%であった。

この年に男性は 38.6%である。

 1990 年には短大(22.2%)と大学〔学部〕15.2%を合わせた女性の大学進学

率は 37.4%と男性の 33.4%と逆転し、4%の差をつけている。1995 年になると

短大 24.6%、学部 22.9%となり、男性の 40.7%と 6.8%の差がつく。1960 年代に

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短期大学進学率は上昇したが、1995 年以降は減少し、1996 年には、女性の短期

大学進学率は大学〔学部〕進学率を下回り、「短大離れ」が急速に進み、女性の

4年生大学へ進学が急上昇する。女性も学部に進学するのが主流になっている。

2002 年度を見ると男性の大学[学部]進学率 47.0%に対し、女性の大学[学部]

進学率は 33.8%である。4年生大学では男性優位が続いているが、今後ますます

その差も縮小していくことが予想される。大学院への女性の進学率も年々上昇し

ている。1995 年の男性の大学院進学率は 10.7%、女性は 5.5%、2002 年には男性

13.2%で、女性は 6.4%となっている。

 しかし、「4年生大学卒業率を国際比較すると卒業率は男女同じ程度か女性の

方が上回っているのに対して、日本は依然として男女差が大きく、27 ヵ国の最

下層である」(国立女性教育会館 2003:91)(図4)。

図4 高等教育卒業者に占める女性の割合の国際比較(2000 年)

0

25

50

75

100

アイスランド

ポルトガル

ノルウェー

ニュージーランド

スウェーデン

ハンガリー

カナダ

フィンランド

スペイン

オーストラリア

アメリカ

フランス

イタリア

アイルランド

イギリス

オランダ

メキシコ

デンマーク

チェコ共和国

ベルギー

オーストリア

韓国ドイツ

スイス

トルコ

日本

大学型高等教育(第一学位) 大学型高等教育(第二学位) 上級研究学位プログラム

(%)

女性と男性の修了者が同数

注1 大学型高等教育(第一学位)は通常4~5年の第一学年習得プログラムで

日本の大学学部に相当する。

 2 左から順に大学型高等教育(第一学位)卒業者のうち女性の占める割合が高い国。

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(出所)経済協力開発機構(OECD)/OECD教育研究革新センター

『図表で見る教育OECDインディケーター(2002 年版)』

http://www.oecd.org/els/education/eag2002

(出典)国立女性教育会館『男女共同参画統計データブック ─ 日本の女性と

男性 ─ 2003』2003 年、p.92

図5 大学の学部卒業者の女性比較(2001 年)

39

474855555758

0

10

20

30

40

50

60(%)

フランス

米国

英国

OECD

平均

ドイツ

韓国

日本

(資料)日本経済新聞(2003 年9月 17日朝刊)

 日本経済新聞(2003 年9月 17 日朝刊)にも「日本の大卒、女性比率最低」と

いう見出しの記事があった。それによると「経済協力開発機構(OECD)が 16 日、

加盟国 30 ヵ国の教育に関する統計をまとめた 2003 年秋『図表で見る教育』を

発表し、加盟国全体では 2001 年の大学の学部卒業者のうち女性が 55%と初めて

男性を上回ったが、日本は最低の 39%で『際立って低い』という不名誉な評価

を得た」という(図5)。大学院以上のレベルで女性の占める割合も日本は修士

25%、博士課程の修了者 23%で、加盟国は日本を大きく上回っている。OECD

日本政府代表部は「戦後、日本は女性の就職と家庭生活に役立つように2年生の

短大を整備した」と説明をしている。

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 今後、日本で4年生大学への女性の進学は増加していくことであろう。2000

年には男女計 274 万人のうち、女子学生数は 99 万人、2002 年の4年生大学では

男女計 279 万人のうち女子学生は 106 万人となっている。1955 年から4年生大

学への女性の進学は増加をたどっている。短期大学の女子学生数は 2000 年の 29

万人よりさらに 2002 年は 24 万人と減少している。

9.少子化問題 ─ 女性の社会進出が少子化の原因か

 21 世紀の日本社会は他の国に例をみないほど急激な少子高齢化がやってくる。

20 年もすれば人口の約三分の一が 65 歳以上の高齢化になる。こうした少子高齢

化を乗り越えるためにもジェンダー論は必要で、男女共同参画社会を築くことが

要とされている。

 出産年齢の人口が減少する社会で、次世代を育成し、高齢者を支えていこうと

すれば、税や社会保険料のことを考えても女性や前期高齢者(65 ~ 74 歳)の就

業率を高めるしかない。データーでは、子育て期の 30 歳から 39 歳の女性が働い

ている割合の高い県の方がむしろ、出生率が高い。実際に産み育てている子供の

平均人数も就業女性は 1.98 人、専業主婦は 1.91 人となって就業主婦の方がやや

高くなっており、少子化に歯止めをかけたいのであれば、女性を家庭にとどまる

ように促すことは間違った方策であるといわれている。ある程度経済発展が進ん

だ諸国では、男女の賃金格差が小さい国で出生率も高い傾向が見られるが、日本

の男女賃金格差は先進諸国のなかで最大級である。職場・家庭・地域で仕事と子

育ての基盤をつくり、女性が職場に進出し、男性に劣らぬ経済力をつけることが、

少子化の影響についても、要因についても有望な対応策といえる。ジェンダーの

考え方が社会にもっと徹底されれば生まれる子供の数も殖え、少子化の危機が回

避されるということが統計に現れている。

 大沢真理は「少子化の主な要因は、性別分業が固定的なために結婚の“敷居”

が高く、若い人々が結婚を先送りにしていることにある…諸外国を見わたせば、

25 ~ 34 歳の女性の就業率が高い国で、出生率も高い。日本は 25 ~ 34 歳女性の

就業率が先進国の中で最も低く、出生率は世界で最低レベルにある…男女の賃

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金格差が小さい国で、出生率も高いという傾向が見られる」(大沢 2002:15 -

16)といっている。

 少子化の問題は「日本において、社会状況が変化しているにもかかわらず、

伝統的役割分業意識が強く残存しているのがその理由である」(江原・山田 

2003:65)。女性が一生の間に持つ平均子供数を合計特殊出生率(生涯出生率)

というが、これが 2.1 より少なくなると長期的に人口が減少し始める。日本では

1940 年代の4人から 1970 年頃まで 2.2 人前後であったが、1.91 人の 1975 年頃か

ら急に低下し、1989 年には、1.57 人となり、「1.57 ショック」といわれたのにそ

れ以降も出生率は低下し続け、2001 年には 1.33 人までに低下し、今日も上昇し

ていない。日本は確実に少子高齢化に向っている。

 平成 10 年度版厚生白書でも、少子化の要因をめぐる社会的状況について、家

族で「母親への子育て負担の集中」、職場での「職場優先、男性中心、新卒・正

規職員中心の就業環境」、地域における「男性雇用者などが参加せず厚みがない

現状」を報告している(大沢 2002:26)。

 国立社会保障・人口問題研究所『人口の動向 日本と世界 ─ 人口統計資料

 ─ 2003』の統計を国立女性教育会館がまとめた 1950 ~ 2001 年の主要先進国

特殊出生率によると、日本は先進国中でも最も低い国の一つで、イタリア(1.90)、

スペイン(1.20)、ブルガリア(1.23)、オーストリア(1.32)とともに最小数値

の国の一つである。他の国は 1.50 以上であり、アメリカは 2.13 である。日本の

合計特殊出生率の低さは、非・未婚者が増加していること、初婚年齢の上昇、出

産年齢の上昇などが原因である(各国とも平均初婚年齢は上昇しているが、日本

でも 1970 年には 24.2 歳であったのに対し、2000 年には 27 歳になった)。

 社会的状況として、女性の経済的自立、有償労働と育児・家事・介護等の両立

をしたいという希望が、現在の社会意識や社会制度・政策の下では満たされない

という事情がある。日本は社会状況が変化しているにもかかわらず、伝統的役割

分業意識が依然として強く残存しているのがその理由である。「先進諸国の状況

を比較してみると、専業主婦が依然として多い国、つまり、女性の職場進出が進

んでいない国ほど、少子化が急速に進行していることが知られている…25 歳~

34 歳という子育て期にある女性の就労率と、合計特殊出生率には、強い相関関

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係が認められている。つまり、アメリカ、スウェーデンなどの北欧などの女性の

職場進出が進んでいる国では、子どもの数は多く、イタリア、日本、スペインなど、

専業主婦の多い国ほど、少子化が進行している」(江原・山田 2003:67 - 68)

(図6)。

図6 女子(25~ 34歳)の労働力率と出生率(1995 年)

2.2

2.0

1.8

1.6

1.4

1.2

1.050 55 60 65 70 75 80 85

日本

イタリア

アメリカ

アイルランド ノルウェー

フィンランド スウェーデン

イギリス フランス

オランダ

ポルトガル

スペイン

ドイツ

女子の労働力率(%)

(資料)女子の労働力率は OECD, Labour Force Statistics, 1996, 出生率は

Council of Europe, Recent Demographic Development in Europe, 1997.

(出典)江原由美子・山田昌弘『ジェンダーの社会学』放送大学教育振興会、

2003 年、p.67

 江原由美子・山田昌弘は日本において結婚よりも仕事を選ぶ女性が増えたか

ら結婚が少なくなったのではなく、未婚男女(35 歳未満)のほぼ9割はいずれ

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は結婚をしたいと望んでいるが、「適当な相手がみつからない」のだという。結

婚によって生活水準の低下、出産後の子育て集中を考えるとよほどの相手ではな

いと結婚に踏み切れないのは理解できる。欧米では未婚で子供を産む女性が急増

しているが、日本では婚外子は法律で非嫡出子と呼ばれ、社会的差別や経済的困

難から婚外子が戦後わずか1%(明治時代から戦前まで7~ 10%)にすぎない。

また日本で子供に金がかかりすぎるので、子どもを持たない、もっと産みたくて

も経済状況が許してくれず、少なく産む理由となっている。男性の仕事時間が長

いこと、「男は仕事、女は家事」という伝統的な固定的性別分業意識で女性は結

婚すると家事労働などの負担が重く、キャリアもあきらめなければならない状況

になってしまうと考えることが晩婚化の背景にもなっていて、性別分業意識が残

存し、専業主婦志向が強いことが逆に未婚化、少子化の主な原因になっていると

も江原・山田はいう。

 不安定な社会の中で、どのような経済状況、家族状況に将来置かれるか予測で

きないものになっている時に、従来の性役割にこだわっていると、第一に結婚し

にくくなるし、結婚後も、夫の失業や離婚によって生活が困ることもあるのでそ

うした危険に対する最大の備えは、男性も女性も仕事と家事能力を持っておくこ

とであるというが、それは当然のことであろう。役割にとらわれないジェンダー

フリーの生き方、男女共同参画の考え方は、現在進行している家族生活のリスク

への対応として出てきた(江原・山田 2003)。

 出生や死亡、結婚や離婚に職業がどう関係しているかを5年おきに調べている

厚生労働省の「2000 年度人口動態職業・産業別統計」が 2003 年8月にまとまっ

たのであるが、子供の出生率がもっとも高かったのは父母ともに「管理職」で

あった。もっとも出生率が高かった父親の職業は会社や役所の課長職以上を指

す「管理職」で、1000 人のうち、80.2 人に子供ができた。二位の「サービス職」

の 41.6 人を2倍近く引き離した。十年前の調査では、それぞれ 43.6 人、43.4 人

で差がなかった。母親の職業も「管理職」がもっとも多く、75.3 人、二位は専業

主婦などを指す「無職」で 52.9 人であった。十年前に「管理職」53.7 人、「無職」

55.5 人から逆転している。最近になって父母の経済力が出生率に影響を与えてい

るのがわかる(表4)。

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日本におけるジェンダー研究の重要性

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表4 父母の職業別出生率と 20~ 64歳の職業別死亡率

(人口千人に対する人数)

職   業出 生 率 死 亡 率父 母 男 女

総  数 25.1 25.8 2.9 1.3  就業者総数 29.5 9.9 2.0 0.8   専門・技術職 ―― 16.6 2.9 0.9   管 理 職 80.2 75.3 2.6 3.4   事 務 職 32.0 8.2 1.3 0.4   販 売 職 22.6 6.0 1.3 0.6   サービス職 41.6 7.4 3.6 0.7   保 安 職 26.7 21.4 1.5 3.6   農林漁業職 30.7 23.2 3.2 1.0   運輸・通信職 37.5 7.8 1.9 3.0   生産工程・労務職 14.4 5.0 1.0 0.3  無   職 4.4 52.9 11.7 2.2

※──は算出するのが適当でない年齢階級があるため出生率を算出していない。

(出典)読売新聞(2003 年 8月 28日朝刊)

10.日本におけるジェンダー研究(Gender Studies)の必要性

 「ジェンダー」はもともと性別を表す文法用語であるが、1970 年代にフェミニ

ズムが「セックス」に代わって「ジェンダー」という用語を変えることができな

い性差を相対化するためにあえて持ち込んだ。「生物学的性別」である「セックス」

と「社会文化的性別」である「ジェンダー」を切り離さず、個々の個性や能力は

多様であるのに男性、女性と二つの性別にわけて固定的に決めつけてしまうもの

の見方や、考え方がジェンダー問題の背景にある。生物学上の違いをあまりにも

強調し固定的に男性、女性とみてしまうジェンダーバイアスを是正するために、

また、21 世紀の日本社会を考えてもジェンダー研究が必要となってくる。日本

は 1985 年に女子差別撤廃条約を批准し、1999 年に男女共同参画社会基本法を制

定した日本が社会における固定的な性別役割分業構造を本格的に見直す時代には

いったのである。

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 ジェンダーは社会が作ったものであるからそれを見直していくことはできる。

家事労働にしても子育てにしても文化によって異なる。狩猟採集社会も農業社会

も女性の労働参加がなければ成立しなかった。日本においては宗教文化において

も、平安時代の女性の作家や女性が読み書きする文化をみても日本の女性はヨー

ロッパの女性と比べ地位は低かったとはいえない。発言権もあり、社会参加度も

高かった。女性は固有の財産を持ち、自由に出歩くこともできた。江戸時代も男

尊女卑の社会であったが身分制度があったので、今のインドのように男女差別よ

りも階級差別が先にあるために身分が上の女性は下の男性より地位が高かった。

明治になり男女の格差は強調されるようになる。戦後の工業化社会になって性別

役割分業がはっきりし、この構造で経済成長を達成したが、バブルは崩壊し、低

成長の時代に入って政府もようやく周囲の国々と日本を比較して日本が男女間の

格差の大きな社会となっていることに気がついた。これが先にも述べた国連が毎

年出している GEM(ジェンダー・エンパワーメント指数)が 2003 年には日本

がアフリカのナミビア、ボツワナよりも低い世界 44 位の理由である。日本は毎

年他の国々に追い抜かれている。

 女子差別撤廃条約の第5条では、男女の定型化された役割に基ずく偏見や慣行

を撤廃するために、男女の社会的及び文化的な行動様式を修正することを協約国

に義務ずけている。これまでにも述べたが、その背景に、少子高齢化の進行、生

産労働人口(15 歳から 64 歳人口)の減少(2000 年から 2050 年の間に 3000 万人

減少)による将来の労働力不足(この意味でも女性の労働参画が望まれる)と経

済規模の縮小と高齢者の増加、税収の減少など、社会を揺るがす大きな課題があ

る。また、不況による雇用不安や将来の社会保障制度への不安などもあり、ジェ

ンダー平等の男女共同参画社会へ転換が日本では緊急の課題となっている。

 岩男寿美子は「わが国の現状を考えるとき、少なくとも向こう四半世紀にはジェ

ンダー研究の意義が増すことがあっても、弱まることはないだろう」(国際ジェ

ンダー学会 2003:7)と強調する。

 世界人口は多すぎるのだから日本の人口が減ってもいいのではないかという意

見もあるが、国際競争力のことを考えるとそうもいっておられない。少子化の問

題については仕事との両立の難しさや子育てに要する心理的経済的時間的コスト

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などの問題に加えて、ジェンダーとくに女性に対する母親役割の期待と遂行に起

因するストレスがその根底にあることはすでに述べた。戦前や戦中の母親の姿を

美化し、女性を「ひとりの人間」としてみるのではなく、「子供を生み育てるた

めの存在」としてとらえ、伝統的家族観の復権や固定的性役割観の存続をよしと

する人々からは、女性の社会進出や自己決定権の確立が少子化の原因であるとい

う主張が繰り返されてきたし、主張されている。

 「女性の社会進出が少子化を招いているという主張は、女性に専業主婦になっ

て子育てに専念することを方向づけるような政策を求めているようである。しか

しこれは現在子育て期にある女性の就労希望と男性の育児に関与したいという願

いを無視した的外れな考えではないだろうか」と岩男は疑問を発し、また「女性

たちのニーズや意識を無視した政策が有効性を発揮するとは思えない」(国際ジェ

ンダー学会 2003:7-9)と、フランスについて例証する。フランスで出生率

が下がったときに、それを上昇させようと女性を家庭に引き戻そうとする家族政

策をとったことがあるが、出生率は回復しなかった。逆に女性が子育てをしなが

ら仕事をして自己実現をはかれる施策を取った結果、今日のように出生率が上向

いたということだ。

 2002 年に岩男が参加した「生殖と社会環境整備に関する研究会」が行った調

査で「理想とする子供の数」も「現実の子供の数」も「専業マザー」に比べて「ワー

キングマザー」の方が多いという結果になっている(図7)。また子育てをより楽

しんでいるのも「ワーキングマザー」という結果がでている(図8)。

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図7 ワーキングマザーと専業マザーの比較

2.68人

2.81人

専業マザー(96人)

ワーキングマザー(108人)

34.13歳

35.32歳

専業マザー(96人)

ワーキングマザー(108人)

32.55歳

33.87歳

28.70歳

30.70歳

28.85歳

31.28歳

28.00歳

30.00歳

32.00歳

34.00歳

第一子 第二子 第三子

子どもの数ワーキングマザー 1.93人専業マザー    1.91人

専業マザーワーキングマザー

理想の子どもの数 何歳までに産み終えたいか (末子出産希望年齢)

出産時年齢(平均)

生殖と社会環境整備に関する研究会

「望ましい出産年令と楽しい子育てに関する啓発事業」2002 年

(出典)国際ジェンダー学会『国際ジェンダー学会誌 No. 1』2003 年、p.10

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図8 子育ての苦労と喜び

17.6% 25.0% 55.6%

専業マザー(96人)

ワーキング  マザー(108人)

45.8%20.8% 33.3%

どちらかというと苦労が多い

どちらかというと喜びが多い

どちらともいえない

生殖と社会環境整備に関する研究会

「望ましい出産年令と楽しい子育てに関する啓発事業」2002 年

(出典)国際ジェンダー学会『国際ジェンダー学会誌 N0. 1』2003 年、p.11

 さらに岩男が参加した研究会で検討・実施した厚生労働省が行った未就学児童

の父母にたずねた調査で、男性の場合には「どちらかといえば仕事優先」を希望

する父親が2割であるが、現実的には 52%の父親が「仕事が優先」になってい

ると回答している。また、「仕事と家事・育児を同等に重視したい」という父親

が 52%に達しているのに対し、現実には希望する男性の半分の 26%しか「同等

重視」という希望が叶えられていない(図9)。一方女性の場合は「仕事と家事・

育児を同等に重視したい」という母親が6割弱であるが、現実には 12%の母親

しか実現できていない。「家事・育児を優先したい」という希望の母親は 18%し

かいないが、現実には 43%の女性が「家事・育児優先」になっている。さらに「家

事・育児に専念」を希望する母親は1割にも満たないにもかかわらず、実際には

4割弱も存在していると岩男は報告している。

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図9 仕事と家事・育児の優先度

0

10

20

30

40

50

60

70

父親-現実父親-理想母親-現実母親-理想

(%)

仕事専念

育児専念

仕事優先

育児優先

同等に重視

厚生労働省「子育て支援等に関する調査研究報告書」2003 年

(出典)国際ジェンダー学会『国際ジェンダー学会誌 N0. 1』2003 年、p.12

 岩男は日本の働き方や企業文化の見直しが進まないことが日本経済の低迷の一

因であると考えていて、今日も 20 世紀型の企業文化や仕組みが残っているので、

こうした面で社会のために、社会を変えていく実証的研究の必要性を訴えている。

現在日本にあるバックラッシュ(反動)の倫理をだいたい四つにまとめることが

できる。(1)男女共同参画(ジェンダー平等)は「左翼の隠れ箕」、(2)「男らし

さ」、「女らしき」からの自由を進める男女共同参画(ジェンダーフリー)の動き

は、日本文化や男女関係を破壊する、(3)「専業主婦」否定ではないか、(4)家

族の絆を破壊する、というものである。こうしたバックラッシュやスウイングバッ

ク(揺り戻し)、事実の歪曲や誤解に対しては、「レベルの高い研究を蓄積し、科

学的な論拠を積み重ね、多くの理解と賛同を得て男女共同参画社会の実現を図っ

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日本におけるジェンダー研究の重要性

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ていくのが一番であろう」(国際ジェンダー学会 2003:116)と岩男はいう。

 「左翼の隠れ蓑」については、「男女共同参画の動きは、ソ連崩壊で終焉をつけ

たはずのマルクス主義者の隠れ蓑だ」という主張を最近よく聞くと伊藤公雄も認

めている。それに対して伊藤は「その声の背後には『女たちが騒いでいるだけで、

政治には関係ない卑少なことだ』などと思っていた保守派の政治勢力が、今頃に

なって、『だまされた。こんな重要なことと知っていたら、男女共同参画社会基

本法など通さなかったのに』と騒ぎ始めている事態がすけて見える」(2003 伊藤:

85 - 86)といっている。

 原ひろ子は示唆に富む論文「学術研究におけるジェンダー視点の確立」(国際

ジェンダー学会 2003:17 - 27)で岩男の「社会のための学術」としてのジェ

ンダー研究に加えて「人間のための学術」と「学術のための学術」にジェンダー

研究の使命があると論じる。そしてジェンダー研究が「『すべての人間による、

すべての人間についてのすべての人間のための研究』であるためには、多様な属

性(性別、階級、エスニシティ、その他)を持つ人びとが研究者として学術活動

に参画することが望まれる」と論じている。

 「…単純に性別という属性による比較を行うことにとどまらず、多様な男性の

ありよう、女性のありようを視座に入れた上で構造的立体的に現象に肉薄する必

要がある。セックス、セクシュアリティ、ジェンダーの相互関連に関する研究が、

生物学、生理学、精神医学を含む医学、心理学、社会学、文化人類学、法学、文

学その他諸学問の連係によって進められる必要がある。つまり、人間の性別を男

性と女性に二分することの妥当性を再検討する時期にきていると思われる」と論

じている。

 つねに性別で人間を分類していると女性と男性が異なる存在であり、だから役

割も違って当然という意識がつくられ、固定観念を持ち、性別役割を固定化して

しまい、「思い込み」が人間を見る上での当然の認識枠組みとして固定されてい

る場合、それからの「逸脱」は、しばしば「異常」として位置づけられる。この

ような「思い込み」から「男や女には生物としての厳然たる差異があるにもかか

わらず、それを無視して、男女を同じにしようとすることは自然の摂理に反する」

という言説があり、現在の日本の一部において「ジェンダー」や「ジェンダーフ

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日本におけるジェンダー研究の重要性

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リー」という用語が誤解をもって論じられているが、その誤解をとくためにジェ

ンダー研究者は適切でわかりやすい「ことば」や表現方法を練磨しなければなら

ないと原はいう。ジェンダー研究者は生物としての性差のあるがままのありよう

と、社会的文化的ジェンダーの現象と、生活する個人のセクシュアリティを含む

人間としての尊厳の問題を混同してはならないと原は注意もする。何度も繰り返

しになるが、最後にもう一度、ジェンダー研究について締め括る。「ジェンダー

研究は、人間の生物としての性差や個人としての個性を、無視したり否定するも

のではない…ジェンダー研究は一人ひとりの個性ある人間の尊厳を尊重し、多様

性を認めながら共存することが可能な社会を築くための研究である」(国際ジェ

ンダー学会 2003:25)。

(付記:本文中の図については印刷の都合により出典にある図の濃淡と多少異なっ

ている)

[引用文献]

国際ジェンダー学会編 2003 『国際ジェンダー学会誌 2003 vol. 1』国際ジェ

ンダー学会

国立女性教育会館 2002 『研究紀要 第6号』独立行政法人国立女性教育会館

国立女性教育会館 2002 『高等教育機関における女性学・ジェンダー論関連科目

に関する調査報告書(平成 12 年度開講科目調査)』独立行政法人国立女性教

育会館

国立女性教育会館 2003 『男女共同参画統計データブック ─ 日本の女性と男

性 ─ 2003』 ぎょうせい

内閣府編 2003 『男女共同参画白書(平成 15年度)』独立行政法人国立印刷局

内閣府男女共同参画局 2003 『男女共同参画社会の実現を目指して』内閣府男

女共同参画局編

日本女性学会編 2003 『学会ニュース 号外』日本女性学会

日本女性学会編 2003 『学会ニュース 第 95 号』日本女性学会

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日本におけるジェンダー研究の重要性

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21 世紀 男女平等を進める会編 2003 『誰もがその人らしく 男女共同参画』

岩波ブックレットNo.593 岩波書店

伊田広行 1998 『シングル単位の恋愛・家族論 ─ ジェンダー・フリーな

関係へ』世界思想社

伊藤公雄・樹村みのり・國信潤子 2002 『女性学・男性学 ─ ジェンダー論

入門』有斐閣マルマ

伊藤公雄 2003 『男女共同参画が問いかけるもの ─ 現代日本社会とジェ

ンダー・ポリティックス』インパクト出版会

伊藤公雄 1993 『〈男らしさ〉のゆくえ  男性文化の社会学』新曜社

伊藤公雄 1995 『男性学入門』作品社

上野千鶴子 2002 『差異の政治学』岩波書店

上野千鶴子 2002 『家族を容れるハコ 家族を超えるハコ』平凡社

上野千鶴子 1994 『近代家族の成立と終焉』岩波書店

江原由美子・山田昌弘 2003 『ジェンダーの社会学 ─ 女と男の視点からみ

る 21 世紀日本社会 ─ 』放送大学教育振興会

大沢真理 2002 『男女共同参画社会をつくる』日本放送出版協会

亀田温子・舘かおる編著 2000 『学校をジェンダー・フリーに』明石書店

関哲夫編 2001 『資料集 男女共同参画社会』ミネルヴァ書房

原ひろこ編 2003 『次世代育成を考える』放送大学振興会

山田昌弘著 1994 『近代家族のゆくえ』新曜社

毎日新聞 2003 年7月7日朝刊

毎日新聞 2003 年7月9日朝刊

日本経済新聞 2003 年9月 17 日朝刊

朝日新聞 2003 年7月 18 日朝刊

読売新聞 2003 年8月 28 日朝刊

読売新聞 2003 年9月 26 日夕刊

読売新聞 2003 年9月 19 日朝刊