23
緩和ケアにおけるEBM 東北大学大学院医学系研究科 緩和医療学分野 井上 彰 第15回日本臨床腫瘍学会学術集会 教育講演25

緩和ケアにおける - Tohoku University Official ... · がん治療と緩和ケアの「統合」は今後の基本路線 Ferrell, J Clin Oncol 2017 基本的緩和ケア(標準療法)

  • Upload
    others

  • View
    23

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

緩和ケアにおけるEBM

東北大学大学院医学系研究科

緩和医療学分野

井上 彰

第15回日本臨床腫瘍学会学術集会 教育講演25

発表者の利益相反開示事項

発表者氏名 井上 彰 所属/身分 東北大学大学院医学系研究科緩和医療学分野/教授

該当なし 該当有りの場合:企業名等

企業の職員・法人の代表 □

企業等の顧問職 □

株式など □

講演料など ■ アストラゼネカ、大鵬薬品工業、日本ベーリンガーインゲルハイム、日本イーライリリー

原稿料など □

研究費(治験等) □

寄付金 ■ 塩野義製薬

専門的助言・証言 □

臨床試験実施法人の代表 □

その他(贈答品等) □

研究費の財源 □科学研究費 □受託 □寄付

□その他( )□該当なし

財源の スポンサー

がん治療と緩和ケアの「統合」は今後の基本路線

Ferrell, J Clin Oncol 2017

基本的緩和ケア(標準療法)で問題の8割は解決 ① 症状に応じて(エビデンス に基づく)治療法を選択 ② 治療の効果と安全性から 継続の是非を判断 それで難渋する場合は躊躇せず緩和ケア医に相談を!

緩和ケアとEBMは相反する概念ではありません

最善の医療

科学的根拠 Research Evidence

各種ガイドライン

(質の高い)論文

重要な学会発表

専門家の意見

医師側からエビデンスのないケモを勧めるのはやめましょう

「患者の意向」を十分に汲み取ったうえで、エビデンスに基づいて最適な治療法を実践するのが真のEBM

医療者の専門性 Clinical Experience

患者の意向 Patient Preference

EBMの3要素

ガイドラインも症状別に精力的に作成されています

これらは全て緩和医療学会

のホームページから無料でダウンロードできます!

本日は「演者の独断」で、 まだ浸透が不十分と思われる エビデンスを取り上げます

PCU入棟後、ほとんどの方に行うのが輸液の調整

推奨 がん性腹膜炎による消化管狭窄・閉塞のために経口 1-1. で水分摂取できない「予後1ヶ月」のPS0-1症例 ⇒500-1000ml/日の中カロリー輸液を推奨(1C) ⇒1000-1500ml/日の高カロリー輸液は考慮可(2C)

経口摂取出来なくても1000ml/日以上は原則不要なので わずかでも経口摂取できるなら、もっと少なくても良い

推奨 がん性腹膜炎による消化管狭窄・閉塞のために経口 1-2. で水分摂取できない「予後1-2週」のPS3-4症例 1-3. ⇒1000ml/日を超える輸液は行わないことを推奨(1C) ⇒患者の意向を確認し「行わない」ことを推奨(1C) ※消化管閉塞以外の理由で経口摂取できない場合 (悪疫質や全身衰弱など)も同様

輸液は終末期のがん患者のQOL・予後を改善しません

輸液しても脱水は変わらず、むしろ苦痛は強まります

Morita, Ann Oncol 2005

体液貯留で苦痛を生じていたら輸液はむしろ「天敵」

推奨 がん性腹水による苦痛を有する終末期がん患者で 2-1. 500ml/日の水分摂取ができる場合 ⇒患者の意向を確認し「行わない」ことを推奨(1B)

推奨 がん性腹水による苦痛を有する終末期がん患者で 2-2. 経口で水分摂取ができない場合 2-3. ⇒1000ml/日以下の維持輸液を推奨(1C)

推奨 がん性胸水による苦痛を有する患者も以下同文 5-1. ⇒患者の意向を確認し「行わない」ことを推奨(1B)

ご家族にも丁寧に説明すれば大抵ご理解いただけます

推奨 気道分泌による苦痛を有する予後数日の患者 6. ⇒輸液量は500ml/日以下または中止を推奨(1C)

終末期の脱水は(適切な口腔ケア(1B)がなされれば)辛くありません(「水に溺れる」ことの方がよほど辛いです)

呼吸困難に対する標準療法の概要

「基本はモルヒネ」ですが、その限界も理解しましょう 呼吸困難に対するモルヒネ使用のアルゴリズム

①抗不安薬の併用(2C)(単独では「行わないことを推奨」) ②環境調整(送風、室温、など) ③呼吸リハビリテーション

効きにくい要因が明らかな場合は、他の方法も積極的に「併用」を

古いガイドラインには要注意というのもケモと同じ MBO(悪性消化管閉塞)への対策

現ガイドラインでは「強く推奨(1B)」 されているが…

比較的小規模な比較試験の結果に基づいた評価でした

その後に発表された最大規模のプラセボ対照試験

Currow, JPSM 2015

主要評価項目の嘔吐回数で、対照群に勝てず

対照群(標準療法)の内訳は

①デキサメサゾン8mg/日 ②ラニチジン200mg ③10~20ml/kg/日への輸液調整

先ずはこちらを実施することが重要

最近非常に多い「鎮痛補助薬のネガティブ試験」

Hardy, J Clin Oncol 2012 がん疼痛に対するケタミン

骨転移痛に対するプレガバリン(放射線併用下)

Fallon, J Clin Oncol 2016

いずれも共通して言えるのは「他に優先すべき標準療法があるでしょ?」ということです

神経障害性疼痛であっても基本は同じ

推奨 神経障害性疼痛に対しても、非オピオイド鎮痛薬・ 43. オピオイドによる疼痛治療を強く推奨(1B) 44. 鎮痛補助薬は弱い推奨(2B)

基本の鎮痛剤に「併せて」

適宜補助薬を試みましょう

効果判定を定期的に行い

メリハリをつけて使用

SCORADⅢ Hoskin, #LBA10004

骨転移に関しては今年のASCOで重要な報告が

脊柱管圧迫症状に対する緩和照射

の方法を比較

主要評価項目:8w

後の歩行可能率

1回照射群の非劣性(-11%まで許容)が証明された! (膀胱機能はわずかに劣るも、QOLと生存期間に差なし)

患者報告による症状マネジメントの意義 Basch, #LBA2

プレナリーセッションにも緩和系が採択される時代

患者自らが

12項目の症状について週1回PC

を通じて報告

N=766

Basch, JCO 2016

主要評価項目のQOLで優るのは想定の範囲内も 介入6ヵ月後のQOL きめ細かく心配事に対応されて

いれば救急外来へ来る回数が減るのも当然の結果でしょう

PC使用歴のない患者でより有用だったとの結果は意外

極めつけは「前例」と同じく有意な延命効果!

要因その①

早めの対応で、致死的な合併症を防げた

要因その②

症状コントロールによる日常生活の維持が延命につながった

要因その③

適切な副作用管理で、強い抗がん治療を長く施行できた

単施設研究ながら大規模で多様な背景の患者を含んでおり、この結果は日常臨床に十分還元できるとの評価

ハロペリドール(±ロラゼパム) Hui, #10003

終末期せん妄の治療についても重要なエビデンスが

ハロペリドール1-8mgにも関わらず、>RASS2のせん妄が24時間以上

続いた症例が対象

主要評価項目は投与後8時間までのRASS変化

90例が無作為に割り付けられた

本試験のロラゼパムは注射だが日本ではミダゾラムで代用か

見事、ベンゾ(屯用)併用の有用性が示されました

58例(62%)で屯用が必要となった

そのうち52例(90%)が8時間観察された

生存期間に差はなし (68時間対73時間)

緩和領域でも日本から優れたエビデンスの発信を

経験豊富ながん治療医の皆さんの協力が不可欠です

緩和ケア版JCOG

まとめ

緩和領域においてもエビデンスをふまえた標準療法の

実践は重要であり、各種ガイドラインの積極的な活用を

時にはガイドラインに反映されていない重要なエビデンス

も存在するため、主要学会・学術誌等での情報収集も大事

緩和領域におけるEBM発展のためにも、がん治療医と 緩和ケア医の連携強化が不可欠

ご清聴ありがとうございました。

今後ともよろしくお願いします!