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がん治療高度専門家養成プログラム ~がん緩和医療総論 ~ 財団法人 癌研究会有明病院 (癌研有明病院緩和ケア科 部長 (がん緩和医療内科医・腫瘍内科医) 向山 雄人 (むかいやま たけと)

がん治療高度専門家養成プログラム ~がん緩和医療 … lecture mukaiyama.pdfがん緩和医療・緩和ケアは,「身体的,精神的, 社会的苦痛,スピリチュア

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がん治療高度専門家養成プログラム~がん緩和医療総論~

財団法人癌研究会有明病院 (癌研有明病院)

緩和ケア科部長 (がん緩和医療内科医・腫瘍内科医)向山雄人 (むかいやまたけと)

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がん緩和医療・緩和ケアは,「身体的,精神的, 社会的苦痛,スピリチュアルな問題に対して, 早期から正確なアセスメントと適正な治療・ケアにより,

生命を脅かす疾患に直面している患者とその家族の Quality of Life (QOL:生活の質,生命の質)を改善するためのチーム医療」と定義される。

この定義では,疾患の早期から緩和ケアが提供されるべきであると提唱され,同様に,2006年6月に成立した「がん対策基本法」に謳われている,「疾患の早期からがん緩和医療・ケア」という概念が盛り込まれている。

発症 死

抗腫瘍治療

遺族ケア緩和医療・ケア

がん緩和医療(WHO,2002年)

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再発・転移固形がん治療の二つの柱

『がん治療には、がんの縮小を目指す治療とがんに伴う苦痛 (つらさ) に対する治療

がある。両者を適正に施行することで質の高いがん医療が提供できる』『がんを縮小させる治療の限界が来ても、苦痛の治療を継続することで、がんと穏やかに共生できることを早い時期から説明することが大切』

がんを縮小させる治療

がんに伴う苦痛・つらさに対する治療

質の高い再発・転移固形がん医療

延命、症状緩和、QOLの向上

●身体的苦痛の治療

●精神敵苦痛の治療●社会的苦痛への対処

●スピリチュアルペインへの配慮

●治療目標の設定

●適正な薬剤の選択

●十分な副作用の対策

●投与経路の選択 包括的がん医療

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癌研有明病院緩和ケア科診療実績

『がん緩和ケアファースト』- がん緩和医療の連続性 -

緩和ケア病棟

212

279 268

0

100

200

300

2006 2007 2008 (年度)

(人)

緩和ケアチーム緩和ケア外来

1157

14751260

0

500

1000

1500

2006 2007 2008 (年度)

495460 453

0

100

200

500

2006 2007 2008 (年度)

300

400

(人)(人)

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緩和ケアチーム(Palliative Care Team : PCT)への依頼項目(2006年度~2008年度: 計 3892件)

神経障害性疼痛(難治性がん疼痛)

緩和ケア外来, PCUへの移行

精神症状

消化器症状

スピリチュアル・ペイン

リンパ浮腫

呼吸器症状

がん倦怠感

45%

15%

15%

7%

5%

5%5%

3%

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癌研有明病院 緩和ケア病棟(Palliative Care Unit: PCU)入院・退院の内訳(2006年度~2008年度)

0 100 200 300

PCU入院患者総数

(実患者数)

PCU症状緩和

退院患者数

PCU死亡患者数

(人)

118

208

217

56

95

54

212

279

268

2008年度

2007年度

2006年度

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がん治療(抗腫瘍治療と苦痛の治療)における治療法選択の基準(AHRQ*基準、一部改変)

Strength of Recommendation ( 推奨の強さ )

Quality of Evidence ( エビデンスの質 )

Ia : 無作為化比較試験のメタアナリシスによる

Ib : 少なくとも1つの無作為化試験による

IIa: 少なくとも1つのよくデザインされた非無作為化試験による

IIb: 少なくとも1つの他のタイプのよくデザインされた準実験的研究による

III : 比較研究, 相関研究, 症例比較研究など、よくデザインされた非実験的記述的研究による

IV : 専門家委員会の報告や意見、あるいは権威者の臨床経験

「A」: 強く支持する根拠がある → Ia, Ib, 多数のIIa, IIb, IIIの研究がおこなわれていて結果が同じ

「B」:中程度の強さの根拠がある→ 1つないしは数編のIIa, IIb, IIIがおこなわれて結果が同じ

「C」:弱い根拠しかない → 複数のIIa, IIb, IIIがおこなわれているが結果が異なる

「D」 まったく、または

ほとんど根拠がない 症例報告, 専門家の個人的意見など

「PC」:Panel Consensus 十分な批判的吟味を受けた多数のエキスパートの合意

*Agency for Health Care Research and Quality

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Cochrane共同研究によるがん緩和医療に関するSystematic review (Pain, Palliative & Supportive group :PaPaS)

骨転移痛(オピオイド抵抗性の骨痛)・放射線療法:有効・ビスホスホネート(商品名ゾメタ):有効神経障害性疼痛(神経因性疼痛, ニューロパシック・ペイン)・抗うつ薬アミトリプチリン、アモキサンなど : 有効・抗けいれん薬ギャバペンチン、クロナゼパムなど: 有効・塩酸ケタミン、ステロイド、リドカイン:有効呼吸困難感・モルヒネ:有効、ステロイド:有効消化管閉塞・酢酸オクトレオチド(商品名サンドスタチン)、ステロイド、抗コリン製剤:有効

倦怠感・メチルフェニデート、エリスロポエチン/ダルベポエチン:有効

☞ がん緩和医療に関するその他の研究報告でも、推奨の強さが「B:中等度」や「PC:パネルコンセンサス」が多いことも現状である

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がん性疼痛の留意点がん性疼痛は食欲不振、全身倦怠感、不眠、不安、抑うつなど、心身の苦痛の原因となり、QOLを著しく低下させる

☞ 「苦痛・つらさの悪性サイクル」

20年前に、国際標準の「WHO方式がん疼痛治療法」が確立されている欧米から、適正で積極的な高投与量モルヒネ投与による除痛が延命に寄与することが報告されている

☞ 「がん治療における元祖オーダーメイド医療」

モルヒネには、「中毒になる」、「廃人になる」、「死を早める」、「段々効果が無くなる」などの誤解がある。薬局で売っている咳止め(コデイン水)が効くのは、コデインが肝臓でモルヒネになって効果を出す、つまり我々は幼少期からモルヒネを内服している鎮痛薬が作用する分子はすでに分っている

☞ 「元祖、分子標的がん治療法」医療用麻薬のモルヒネ三兄弟(モルヒネ, オキシコドン, フェンタニル:オピオイド鎮痛薬)が効かない痛みには鎮痛補助薬の併用投与を行なう

☞ 「抗がん剤治療と同じ多剤併用療法:抗けいれん薬、抗うつ薬、ケタミン、リドカイン、ステロイドなど」 ☞ 「がん対策基本法」に則った、

都道府県がん緩和ケア研修会におけるがん症状緩和治療の習得

☞ 癌研有明病院:2009年12月26日・27日及び、2010年3月27日・28日

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一次ニューロンの感作は手術や外傷に伴っても発生し、概ね数日で治癒に向かい、炎症に伴う反応は消失する。

がんに伴う慢性炎症と疼痛の中枢性感作

脊髄における感作の発生(中枢性感作)

再発・転移がんでは持続する炎症に伴う痛みが高率に発症し

その痛みを放置すると

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がん疼痛治療薬の標的分子

大脳

小脳

脊髄脊

椎骨など

末梢神経

オピオイド鎮痛薬(µ,κ,δ受容体)

鎮痛補助薬(NMDA受容体, GABA受容体など)

アセトアミノフェン(COX-3)NSAIDs(COX-1, 2)

☞ がん疼痛治療は、元祖、がん分子標的治療と言える

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WHO方式がん疼痛治療法

国際標準のがん性疼痛薬物療法で85%以上の奏効率基本5原則:by the mouth, by the ladder, by the individual, by the clock, attention to detailWHO 3段階除痛ラダー

☞ 軽度の痛み:非オピオイド±鎮痛補助薬

☞ 軽度から中等度の痛み:弱オピオイド+非オピオイド±鎮痛補助薬

☞ 中等度から高度の痛み:強オピオイド+非オピオイド

±鎮痛補助薬

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オピオイド鎮痛薬使用の留意点(モルヒネ、オキシコドン、フェンタニル)

中毒になる、廃人になる、死を早める、胃・十二指腸粘膜にダメージを与えることはなく、逆に、QOL改善と延命効果がある

元祖、オーダーメイドがん治療、分子標的であること

初回投与時から適正な副作用対策を開始する

NSAIDやアセトアミノフェン、鎮痛補助薬との多剤併用

速放製剤から徐放製剤への適切な切り替え

病態の則った投与経路の選択(坐剤、貼付剤、注射)突出痛に対するレスキュー(臨時追加投与)とその効果判定

オピオイド・ローテーション

肝機能、腎機能のチェック

他の治療法の検討(手術、放射線療法、神経ブロック、IVRなど)

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モルヒネ オキシコドン フェンタニル

投与経路 経口,坐剤,注射 経口, 注射 経皮,注射

代謝物 M3G,M6G(UGT2B7) ノルオキシコドン(CYP3A4)

オキシモルフォン(CYP2D6)

ノルフェンタニル(CYP3A4)

腎機能障害 作用・副作用増強 大きな影響なし 大きな影響なし

作用発現 製剤により異なる 約1hr パッチ:約12hr悪心・嘔吐 ++ ++ +

便秘 ++~+++ ++~+++ +

眠気 ++ + (-)~+

CYP2D6 CYP3A4阻害剤 誘導剤 阻害剤 誘導剤

コデイン ↓ ↑オキシコドン ↑ ↓ ↑ ↓フェンタニル ↑ ↓

オピオイド製剤の特性と薬物代謝

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オピオイドの副作用対策<嘔気・嘔吐>

大脳

第四脳室CTZ

オピオイド

嘔吐

前庭器

遠心性神経

延髄

嘔吐中枢VC

求心性神経

胃内容物停留→胃内圧の増加

オピオイドによる嘔気・嘔吐の主な原因

その他の原因

嘔気・嘔吐防止対策

☞ 第四脳室にあるCTZを直接刺激し,その刺激が

嘔吐中枢(VC)に伝わり嘔吐を引き起こす。

☞ 胃前庭部の緊張により運動性が低下し,胃内容

物の停留が起こる。この停留による圧増大が求心

性神経を介してCTZ,VCを刺激する。

☞ 前庭器を介してCTZを間接的に刺激し,VCに伝

達される。

☞ オピオイド投与開始から制吐剤を併用するのが

賢明である。2週にわたり嘔気がなければ,中止を

考慮してよい。

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突出痛(breakthrough or episodic pain)

• 鎮痛薬投与で満足な除痛の得られている患者に発生する一過性の痛みの増悪

• がん患者の65%が経験するが、病期の進行した患者での出現率が高く、日常生活の質を著しく低下させる

• 約8割がベースの痛み部位に一致して発生し、痛みの

質が似ることから、ベースの痛みの一過性増悪と考えられている

• サブタイプの特徴に合わせてオピオイドの速効製剤や鎮痛補助薬投与を行う

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レスキュー(臨時追加投与)の目的・方法

基本のオピオイド鎮痛薬処方量で残存する痛みに対して、不足量を補い至適投与量を決定する

オピオイド鎮痛薬の至適量が決定した患者に発現する一過性の痛み、すなわち“突出痛”への対処

レスキューのオピオイド鎮痛薬に対する反応性から、その痛みがオピオイド感受性か、またはオピオイド抵抗性の痛み(神経障害性疼痛)なのか鑑別診断できる

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がん疼痛の発生機序別分類

1│がんの腫瘍自体が原因となる痛み骨腫瘍、骨転移(体性)

病的骨折(体性)

軟部組織浸潤(体性、神経障害性)

内臓の腫瘍(内臓)

末梢、中枢神経の浸潤(神経障害性) 脊髄圧迫による痛みを含む

侵害受容性疼痛

神経障害性疼痛

混在性神経障害性疼痛

2│がんの治療に伴う痛み①手術療法:術後痛(体性、神経障害性)

幻肢痛、断端肢痛、開胸後痛

②化学療法:化学療法後神経障害(神経障害性)

③放射線療法:照射後皮膚炎、神経障害(神経障害性)その他(共通):感染、粘膜病変、口内炎

3│その他の痛み全身衰弱に関連した痛み

褥瘡の痛み、便秘に伴う痛み

がん自体にも、がん病変の治療にも関係のない痛み筋肉痛など(体性)

☞ 体性:体性痛、神経障害性:神経障害性疼痛

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体性痛 内臓痛

部位 皮膚・骨・筋肉・胸腹膜 臓器(固形)・消化管(管腔)

痛みを伝える神経

Aδ、C 繊維 C 繊維

例• 骨転移の痛み• 安静時の持続痛

+体動時の強い痛み

• 膵臓癌の痛み• 上腹部の漠然とした鈍痛

特徴• 場所が明瞭

• 場所が不明瞭• 病巣から離れて痛みが発生(関連痛)

Aδ線維 • 皮膚、筋肉、骨などへの切る、刺すなど組織を傷害する刺激に反応。• 刺激が一定以上に達したときのみ興奮する。

C線維 • 壊れた組織から放出される炎症物質(プロスタグランジンなど)、腫瘍から放出されるサイトカイン、酸などに反応。

• 刺激の強さに段階的に反応。

体性痛と内臓痛(侵害受容性疼痛)

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がん神経障害性疼痛の特徴

・侵害受容器より中枢側にある神経・神経叢が障害されて発

生する疼痛でモルヒネなどのオピオイド鎮痛薬が効きにくい。直腸・結腸がんが骨盤内に再発した場合に発症する

・原因– がんの増大:神経圧迫・浸潤(腰・仙骨・陰部神経叢など)– がん治療:手術,化学療法, 放射線治療

- がん悪液質(脊髄内の炎症性サイトカインの増加が関与)

・痛みの特徴

– じりじり焼けるように痛い(灼熱痛)– ビリビリ電気が走るように痛い(電撃痛)– 触れると痛む・異常知覚(アロディニア)など

脊髄

大脳

視床

神経障害性疼痛

脊髄

視床路

侵害受容器

腰神経叢仙骨神経叢

陰部神経叢など

がんの増大などに伴う神経や神経叢の障害

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肋間上腕神経

腕神経叢

肋間上腕神経

正中神経

尺骨神経

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腰神経叢、仙骨神経叢および陰部神経叢

腰神経叢 仙骨神経叢と陰部神経叢

第1腰椎

第2腰椎

第3腰椎

第4腰椎

第5腰椎腸骨

L1

2

3

4

第4腰椎

第5腰椎腸骨

大腿骨恥骨

仙骨

S1234

L4

5

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Twycrossが提唱する鎮痛補助薬ラダー

旧来の考え方

step 1

step 2

step 3

step 4

三環系抗うつ薬または抗けいれん薬

三環系抗うつ薬、抗けいれん薬併用

・抗不整脈薬・NMDA受容体拮抗薬

脊髄鎮痛法

step 1

step 2

step 3

step 4

step 5脊髄鎮痛法

新しい考え方

ステロイド

三環系抗うつ薬または抗けいれん薬

三環系抗うつ薬、抗けいれん薬併用

NMDA受容体拮抗薬

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分類 一般名Na+

阻害Ca2+

阻害モノアミン取り込み

NMDA遮断

GABA増強

抗炎症

抗うつ薬 アミトリプチリン ◎ △ ○

抗けいれん薬

カルバマゼピン ◎

フェニトイン ◎ ○

ガバペンチン ◎ ○

クロナゼパム ○ ◎

中枢性筋弛緩 バクロフェン ○ ◎

抗不安薬 ジアゼパム ◎

NMDA遮断イフェンプロジル ◎+α遮断

ケタミン ○ ◎

抗不整脈薬メキシレチン ◎

リドカイン ◎

α遮断薬 クロジニン ○ △ α遮断

ステロイド ◎

鎮痛補助薬と作用メカニズム

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鎮痛補助薬の神経障害性疼痛に対する有効性

抗うつ薬(アモキサピンなど)

0

バルプロ酸

抗けいれん薬(クロナゼパムなど)オピオイド

トラマドール

ガバペンチン/ pregabalin抗不整脈薬(メキシレチン, リドカイン)

セロトニン・ノルアドレナリン再取込み阻害薬(SNRI)NMDA受容体拮抗薬(ケタミン)

カプサイシン

選択的セロトニン再取込み阻害薬(SSRI)トピラマート

397

83

109

149150

1057

120193

466389

81214

2 4 6 8 10 12NNT

治療必要数(number needed to treat:NNT)

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クレアチニンクリアランス(mL/min)

≧60 30~59 15~29 5~14

1日投与量(mg/日)

600~2400 400~1000 200~500 100~200

投 与 量

初日

1回200mg1日3回

1回200mg1日2回

1回200mg1日1回

1回200mg1日1回

維持量

1回400mg1日3回

1回300mg1日2回

1回300mg1日1回

1回200mg2日1回

(クレアチニンクリアランスが5mL/minに近い患者では、1回200mg2日に1回を考慮する)

1回600mg1日3回

1回400mg1日2回

1回400mg1日1回

最高投与量

1回800mg1日3回

1回500mg1日2回

1回500mg1日1回

1回200mg1日1回

(クレアチニンクリアランスが5mL/minに近い患者では、1回300mg2日に1回を考慮する)

ガバペンチンの腎機能別投与量

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血算 •WBC(分画も)、Hb、Hct、PLT、凝固系

生化学

•Alb、CHO-E、CRP、AST、ALT、BUN、クレアチニン、Glu、Na、K、 Cl(osm)、Ca(補正値)、NH3

•血液ガス所見(PO2、PCO2、pH、BE)•BNP、レニン、KL-6など

画像 •胸部・腹部XP、CT、MRI、骨シンチグラフィ、エコー、PET/CTなど

その他の検査

•PS(performance status)、診察所見、各症状評価表のスコア変化など

臨床研究

•がん悪液質、がん貧血など例:成長ホルモン、インスリン様成長因子、甲状腺ホルモン、副腎皮質・髄質

ホルモン、インターロイキン6、1型コラーゲンCペプチド(1-CTP)、副甲状腺ホルモン関連蛋白質(PTHrP)、トランスフェリン、ヘプシジン、血清アミロイドA蛋白など

癌研有明病院緩和ケア病棟(PCU)で共有する検査項目

⇒患者の病態把握を十分に行い、より適正な治療・ケアを提供するためにチームの医師・看護師・薬剤師間で情報を共有する

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この24時間に以下の症状がどのくらいの強さだったかを、各項目について「1(症状は全くなかった)」から「10(症状はこれ以上考えられないほど強かった(ひどかった)」までの数字に1つだけ○をつけてください。

しびれ感・ビリビリ痛む感じ嘔吐悲しい気持ち・気分がしずむ口の渇き眠気(うとうとした感じ)食欲不振もの忘れ息切れ,咳, 息苦しさストレスの感じ方睡眠障害吐き気倦怠感疼痛症状の評価

生活を楽しむこと歩くこと対人関係仕事(家事を含む)気持ち・情緒日常生活の全般的活動症状による生活への支障

9 108765432109 108765432109 108765432109 108765432109 108765432109 108765432109 108765432109 108765432109 108765432109 108765432109 108765432109 108765432109 10876543210

9 108765432109 108765432109 108765432109 108765432109 108765432109 10876543210

全くなかった これ以上考えられないほど強かった(ひどかった)

支障はなかった 完全に支障になった

M.D.Anderson CancerCenter初期症状評価票のJapanese version(MDASI-J)初診時評価後、・抑うつ:HADS・倦怠感:CFS・呼吸困難感:CDSなどで継続的に評価する

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がんの進行に伴う病態・病状の推移- がん以外の消耗症候群 ( Protein-Energy Malnutrition :PEM )との違いとは?-

体重減少の程度

100(%)

80

60

40

手術や化学療法など、抗腫瘍治療によるダメージ

がんの増大に伴うダメージ

機械的障害(脳、心臓、肺、肝臓、腸管、腎、骨、骨髄)

機能的障害(腫瘍随伴症候群、がん悪液質症候群など)

鎮痛薬など、症状緩和治療薬の副作用によるダメージACTH-Adrenal

細胞分裂抑制・再生抑制

貧血、体重減少、筋力低下

低アルブミン血症倦怠感、不眠抑うつ

細胞性免疫低下

創傷治癒遅延

筋肉・脂肪の萎縮、倦怠感

便秘、尿路感染、体重減少

座位保持困難の増強

終日臥床、嚥下困難、高度な倦怠感、高度な体重減少、褥瘡

誤嚥性肺炎、喘鳴、せん妄、傾眠

可逆的

がん悪液質症候群GH↑(~↓),IGF-1↓,T3↓テストステロン↓低アルブミン血症コリンエステラーゼ↓CRP↑, IL-6↑など

LH-FSHテストステロン

T4-T3

GH, IGF-1

不可逆的 (??)

予後6か月 5か月 4か月 3カ月 4か月 5か月 6 (月)

担がん生体クロス・トーク

クロス・トーク

がん細胞・組織

白血球、リンパ球、マクロファージ、間質細胞・組織

消耗症候群(炎症,代謝異常がベース)を呈する病態=加齢, CHF悪液質, COPD悪液質, CRF悪液質とがん悪液質症候群が異なる点は?

患者さん

⇅ クロス・トーク

家族、親しい人達、社会など

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・再発結腸がん:骨盤内再発, 腹膜播種, 肺転移,胸膜播種,骨転移,がん悪液質・臨床症状:神経障害性疼痛,腹痛,嘔吐,息苦しさ,倦怠感,抑うつ,浮腫,胸・腹水

中心静脈栄養(TPN)1800ml/日

塩酸モルヒネ800mg/日(持続静注:TPN中に混注)

中心静脈栄養(TPN) 700ml/日NSAID静注(fluribiprofen)

塩酸モルヒネ80mg/日ケタミン150mg/日オクトレオチド 300μg/日+

(持続静注注・皮下注)+

持続静注・皮下注

<入院7日目>胸水減少腹水減少全身性浮腫改善腸閉塞改善神経障害性疼痛:NRS「1」~「2」

<転院時の症状>胸水(呼吸困難)腹水(腹満感)全身性浮腫神経障害性疼痛:NRS「8」腸閉塞

持続皮下注法

・社会的苦痛・スピリチュアル・

ペイン

在宅持続皮下注入法(ディスポーザブル)

酸素投与アルブミン投与利尿剤副腎皮質ステロイド抗不安薬オクトレオチド

ドラッグ・チャレンジテストケタミン、リドカインなど

低アルブミン血症コリンエステラーゼ活性低下CRP, IL-6上昇GH↑, IGF-1↓, T3↓

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終末期の輸液と苦痛- ベスト・エビデンス -

1) 輸液をしないと、脱水は強まるが、輸液による口渇の緩和効果は乏しい

2) せん妄は、神経筋過敏症候群を除くと輸液による改善は少ない

3) 輸液をすると、浮腫、胸水、腹水が強まる

4) 気道分泌は中等度以下の輸液量では輸液の影響は少ない

大量投与では減量による改善が見込める

5) 輸液の減量により、浮腫、胸水、腹水の改善が見込める

6) 輸液の嘔気・嘔吐に対する影響は結論できない

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がん症状緩和治療薬剤投与経路の選択

* 薬剤が、かろうじて服用できる状態では、消化管での吸収が悪く、持続皮下注入投与がよい。食事を1/3以上摂取できる時経口投与とする。

<小型シリンジポンプ>

<携帯ディスポーザブル注入ポンプ>

急速に取り去るべき症状か?

不可(イレウス、衰弱、嘔気等)

持続皮下注(静注)法

はい いいえ

症状緩和

持続皮下注(静注)法 経口

経口

経口

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呼吸困難感に対するモルヒネの作用

* 呼吸数、酸素消費量の減少

* 呼吸困難感の感受性低下

* 気道内分泌、咳嗽の抑制

* 内因性エンドルフィンの誘発

* 心不全の改善

* その他

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がん呼吸困難感治療の3-STEPラダー

モルヒネ ステロイド

抗不安薬を追加

病態の再評価と治療目標の設定 モルヒネの定期投与

呼吸数≧10回で眠気を許容できる範囲で20%/1~3日ずつ増量

step 1

step 2

step 3

酸素

輸液 500-1000mL以下に減量

喀痰の対処:去痰剤, ネブライザー, スコポラミン, 放射線治療, IVR(ステント, i.a.など)

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消化管閉塞の治療

持続性の腹痛(内臓痛)に対してオピオイド鎮痛薬やNSAIDsは有効であるが、間欠的な仙痛発作(蠕動痛)に対して効果

はなく、抗コリン薬(ブスコパン®、ハイスコ®)を投与する

⇒治療の軸は、サンドスタチン®、リンデロン®、セレネース®

プルセニド®、ラキソベロン®、プリンペラン®など、消化管蠕

動亢進作用を持つ薬剤は中止する

輸液量の過剰投与に注意し、投与経路に関しては病態や病

期を加味して検討する

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消化管閉塞-オクトレオチドの作用機序

嘔吐 悪心 腹部膨満 腹部疼痛

嘔吐中枢(延髄網様体)

知覚皮質

求心性神経経路

消化管内での神経刺激

蠕動運動亢進消化管閉塞

内容物増大

消化液分泌

がん

消化管拡張

消化管伸展

血液循環遮断

酸素供給

水・電解質の吸収能の喪失

水・電解質の漏出

内容物の増大/逆流

ガス

オクトレオチド

分泌抑制

吸収促進

消化管閉塞の悪性サイクル

プレゼンター
プレゼンテーションのノート
#21 消化管閉塞-オクトレオチドの作用機序(→マニュアルP14) オクトレオチドはソマトスタチン受容体に結合して、次のような作用により消化管閉塞の悪性サイクルを遮断すると考えられています。 ・消化管ホルモンの分泌抑制 ・腸管壁からの電解質、水分の分泌抑制と吸収促進 ・腸管壁の神経細胞を介した蠕動運動抑制 またオクトレオチドによる副作用として口渇がみられることがありますが、多くの場合24時間以内に消失すると考えられます。
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がん倦怠感の誘因* 抗腫瘍治療 (化学療法、放射線療法など)* 症状緩和治療 (鎮痛薬、 向精神薬、利尿剤など)* 臓器障害 ( 貧血、肝機能障害、呼吸機能障害など )* がん疼痛

* 感染症

* がん悪液質 ( がん、がん治療に伴う慢性炎症をベースとした混合性の脳神経・内分泌・代謝・免疫異常 )

* 電解質異常

* 心理・精神的因子 ( 不眠、不安、適応障害、抑うつ過剰なストレスなど )、認知障害 ( 注意力の低下、思考力の停滞など )

* 社会的苦痛、スピリチュアルペイン

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がん患者に発現する精神症状と疼痛の関連性

適応障害(68%)うつ病(13%)

器質性精神障害など(19%)

精神科的診断あり(47%) 精神科的診断なし(53%)

痛みなし(61%)痛みあり(39%)

痛みあり

(19%)痛みなし(81%)

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がん患者さんの抑うつ発症の危険因子

フォローのない安易な病名、病態、予後のインフォーム

治癒や延命を目的とした抗腫瘍治療で無効

疾患の進行に伴う身体症状の悪化

進行したがんの病期

早期の再発

痛みの存在

若年、うつ病やニコチン・アルコール依存の既往、神経質な性格、不十分なソーシャルサポートなど

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がん患者の抑うつ(適応障害、うつ病)担がん患者さんに認められる精神疾患の中で、抑うつ(適応障害、うつ病)の有病率は15~40%抑うつは、QOLの低下、苦痛の閾値低下、治療コンプライアンスの低下、家族の精神的負担の増加、入院期間の延長、希死念慮、自殺企図、安楽死の要請などに関連する

医療者は抑うつを見過ごすことがないように注意し、適切な診断と治療が重要である

スピリチュアル・ペインとの鑑別診断、重複性

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悪い知らせを伝える(SPIKES プロトコール)

☑Setting:適正な場の設定、環境整備

☑Perception:病気に関する認識度の確認

☑Invitation:病気に関してどの程度知りたいか尋ねる

☑Knowledge:情報提供に関する方法

☑Empathy and Exploration:共感と探索的質問

☑Strategy and Summary:治療計画立案と 要約( 本邦では、SHARE プロトコールが開発されている)

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初診時における社会的苦痛

家族のこと

経済面

仕事に関して

その他*

*その他の苦痛はスピリチュアル・ペインの範疇に含まれる苦痛と判断された。

59%21%

31%34%

10%14%

5%3%

0% 20% 40% 60% 80%

患者さん

ご家族

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スピリチュアルペイン(spiritual pain)自己消滅への不安、人生の意味・目的の喪失など、人間の根源的な苦痛・苦悩 であり、終末期に増強する

本邦の緩和ケア病棟の報告では、希死念慮を訴えた終末期がん患者の約40%に依存の増大に基づく苦悩が認められている

欧米の報告では、患者が自殺幇助や安楽死を希望した主な理由に尊厳の喪失、依存の増大、独立性の喪失があげられている

対応は傾聴、共感、ライフレビュー、さらに医療者以外の介入(宗教、哲学、倫理学、法律学など)が求められる

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予防的がん緩和医療:骨転移を例に

骨痛、病的骨折予防に対してはWHO方式がん疼痛治療法を基本に、ビスホスホネート製剤や放射線療法、IVRなどの併用を考慮する

臨床的に問題となる長管骨骨折は約10%に発現し、特に2/3以上が癌細胞で置換された場合は約80%が骨折を合併する

乳癌では骨転移発現後の平均予後は24ヶ月、長管骨骨折発現後の予後は12ヶ月、さらに脊椎圧迫骨折発現後の予後は中央値で4ヶ月に短縮する

脊髄圧迫に伴う症状は、四肢の運動神経や知覚神経や、呼吸筋の麻痺、腸管運動麻痺、膀胱・直腸障害など多彩であり、スピリチュアル・ペインが前面に出る代表的な病態である

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<骨転移に対する集学的アプローチ>

がん

体動変換の低下により褥創や肺炎の併発

肋骨痛や神経障害に伴う換気障害や呼吸不全

膀胱直腸障害に伴う尿路感染やイレウス

スピリチュアル・ペイン

骨転移 骨合併症(骨痛・骨折)

整形外科/ IV

R

鎮痛

抗がん

放射線治療・メタストロン

ビスホスホネート注(ゾメタ®)

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がん腫 患者数過去6か月の体重減少率(%)

0 0~5 5~10 >10Non-Hodgkin's lymphoma 290 69 14 8 10Breast 289 64 22 8 6Acute nonlymphocytic leukemia 129 61 27 8 4Sarcoma 189 60 21 11 7Unfavorable non-Hodgkin's lymphoma 311 52 20 13 15

Colon 307 46 26 14 14Prostate 78 44 28 18 10Lung, small cell 436 43 23 20 14Lung, non-small cell 590 39 25 21 15Pancreas 111 17 29 28 26Non-measureable gastric 179 17 21 32 30Measurable gastric 138 13 20 29 38総数 3,047 46 22 17 15

各がん腫におけるがん悪液質の発現頻度

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がん悪液質の病態~慢性炎症をベースとした混合性脳神経・内分泌・代謝・免疫異常~

がん細胞・組織など

・筋蛋白の崩壊・萎縮・筋蛋白合成抑制NF-κB活性化促進ユビキチン産生促進

・糖新生の増加・Cori cycle活性の亢進・P450, コリンエステラーゼ、リポプロテインリパーゼなどの酵素活性を抑制・肝グリコーゲンの減少・アルブミン合成抑制・ヘプシジン↑でがん性貧血に

・脂肪分解の亢進・遊離脂肪酸の酸化更新・脂肪合成の減少・リポプロテインリパーゼ活性の抑制

胃の運動低下グレリン分泌低下

筋肉組織 肝臓など 脂肪組織

インターロイキン6(IL-6)IL-1, TNF-αMIC-1(TGF-βsuperfamily)その他

proteolysis-inducing factor (PIF)

lipid mobilizing factoranemia-inducing substance

レプチン分泌低下

摂食抑制

睡眠障害抑うつ食欲不振倦怠感せん妄難治性疼痛

脳神経系への作用

疼痛,発熱⇠COX-2↑

GH・IGF-1 axis

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CRPとAlbを用いたがん悪液質の分類

CRPを0.5mg/dl 、Albuminを3.5g/dlで各2群に分類

CRP Alb (正常パターン)

CRP Alb (通常低栄養パターン)

CRP Alb (がん悪液質予備軍)

CRP Alb (がん悪液質パターン)

A群

B群

C群

D群

CRP:がん組織由来のIL-6が誘導し、さらにIL-6の作用のAmplifierとして働く

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マグネシウム不足/欠乏の症状・徴候

A. 神経・筋

こむら返り、手足のもつれ、易疲労性、しびれ、筋力低下、振戦、テタニー、筋線維攣縮性痙攣、Chvostek徴候、Trousseau徴候など

B. 精神・行動

抑うつ、無欲、感情鈍麻、注意力散漫、不安、興奮性の亢進、睡眠障害、錯乱、記憶障害、記銘力低下など

C. 循環器系

頻脈、不整脈(期外収縮、心室頻拍、心室細動、Torsades de pointes)、ジギタリス作用増強、心電図異常(QT延長、T波平低化、ST短縮)、血圧低下など

D. 消化器系

便秘、食欲不振、消化不良、腸管運動低下など

E. その他

低カリウム血症、低カルシウム血症、低リン血症など

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がん患者の栄養障害に対する栄養療法の有効性の検討

栄養指導1

– 体重、除脂肪体重(LBM)、QOLに変化なし

標準的な経口栄養補助食品2

– 1999年のレビューで、有意な体重増加が見られたものは11件中1件のみ

経管栄養法3

– 無作為化臨床試験はほとんどない

中心静脈栄養法4,5,6,7

– 多くの無作為化試験で、化学療法と同時にTPNを受けている患者は、化学療法のみを受けている患者より生存率が低い

1. Ovesen, et al. 1993. J Clin Oncol 11: 2043-2049. 2. Stratton and Elia. 1999. Clin Nutr 18(Suppl2): 29-84.3. Rivadeneira, et al. 1998. Cancer J Clinician 48: 69-80. 4. Ovesen, et al. 1993. Nutr Cancer 19: 159-167.5. McGeer, et al. 1990. Nutrition 6: 233-240. 6. Detsky, et al. 1987. Ann Int Med 107: 195-203.7. McGeer, et al. 1989. Ann Int Med 110:734-735.

プレゼンター
プレゼンテーションのノート
従来の栄養療法では、CIWL(がん誘発性体重減少)による低栄養を改善するには限界があります。 栄養指導では、食事摂取量が増加しますが、体重、LBM、QOLに変化はありません。 標準的な経口栄養補助食品は、1999年のレビューで、がん患者を対象とした11件の無作為化臨床試験のうち、9件が体重変化について調べており、対照群と比較して栄養補助食品群の体重に有意な増加がみられたのは1件のみでした。 経管栄養法について、経管栄養法を受けているがん患者を対象として実施された無作為化対照試験はほとんどありません。より大規模な、前向き試験が必要です。 中心静脈栄養法(TPN)については、化学療法を受けている人を対象にTPNの効果を評価する多くの無作為化試験が行われています。これらの試験で、化学療法と同時にTPNを受けている人は、化学療法のみを受けている人よりも生存率が低いことがわかりました。このメタ分析の結果、米国内科学会は、化学療法を受けているがん患者へのTPNの使用を思いとどまらせるよう推奨しました。
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がん緩和医療におけるアロマセラピーマッサージ

➮芳香分子は、1) 嗅神経を介して大脳辺縁系・視床下部へ作用、2) 肺胞からの吸収、3)皮膚から血液中へ移行することで薬理効果を発現する

➮自律神経系を副交感神経優位に保つことで症状緩和効果が期待される(倦怠感、不安、抑うつなど)

➮マッサージは脊柱起立筋を中心に行なうことで自律神経系への作用が期待される

➮Cancer Fatigue Scale(CFS), HADS, 採血(Alb, CHO-E, CRP),自律神経モニタリング機器(TAS9)を用いた臨床研究が進行中(癌研有明病院緩和ケア病棟)

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インターベンショナルラジオロジー*

インターベンショナルラジオロジーとは

放射線診断技術を用い、針やカテーテルを介して画像誘導下に行う経皮的検査・治療行為の総称

病巣への到達経路

管腔臓器(血管、消化管、胆管、気道、瘻孔)内の病巣へは「カテーテル」で

管腔臓器から到達できない病巣へは直接「針」を穿刺して

できること

塞ぐ(塞栓)、広げる(狭窄などを拡張)、つなぐ(短絡)、注ぐ(選択的薬物投与)、吸い出す (ドレナージ)、焼く(焼却)

• 症状緩TEG)により消化管閉塞で不可能だった経口摂取を可能に

① 腹腔ー静脈シャントを造設して腹水による苦痛を緩和

• 病巣部に電極を挿入し、ラジオ波でがん細胞を焼却して症状を緩和和治療例

① 埋め込み型ポートで点滴の煩わしさから解放

② ステント留置で消化管や気道の狭窄・閉塞を広げ、通過障害や呼吸困難感を緩和

③ 経皮的経頚部食道胃管挿入術(PTEG)

*Interventional Radiology (IVR)

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セデーションを倫理的に妥当とする3条件

1. 苦痛の緩和を目的としたセデーションである

①医療チームが、セデーションを行う意図が、あくまでも苦痛の緩和であり、生命の短縮ではないことを理解している

②セデーションを行う「苦痛の緩和」という目的からみて,相応の薬物、投与量、投与方法が選択されている

2. 患者および家族の意思がある(自律性原則:①または②、かつ③)

①患者に意思決定能力があり、セデーションに関する必要かつ十分な情報の提供を受けた上での明確な意思表示がある

②患者に意思決定能力はないが、患者の価値観や以前の意思表示に照らして、セデーションを希望することが十分に推測できる

③家族がいる場合は、家族の同意がある

3. セデーションが現況に最も相応な行為であると判断される(相応性原則)

①耐えがたい苦痛があると判断される

②苦痛は、医療チームにより治療抵抗性(セデーション以外に苦痛を緩和する手段がない)と判断される

③原疾患の増悪により、数日から2~3週間以内に死亡が生じると予測される

セデーションは、一般的に、以下の3条件を満たす場合に限り、倫理的に妥当とみなされる

厚生労働省厚生科学研究「がん医療における緩和医療及び精神腫瘍学のあり方と普及に関する研究」班、緩和苦痛のための鎮静に関するガイドライン作成委員会編:苦痛緩和のための鎮静に関するガイドライン、

日本緩和医療学会、2005. (一部変更)

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緩和ケア病棟における持続深鎮静治療の内訳

国際標準治療抵抗性の苦痛に対する鎮静治療

(鎮静治療は日本緩和医療学会のガイドラインに則り実施:2008年度:施行率 18%)

Palliative Prognostic (PaP) Score呼吸困難感スコア+食欲不振スコア+KPS*スコア+臨床的予後予測スコア+総白血球数スコア+リンパ球百分率スコア*KPS: Karnofsky Performance Status(全身状態の指標)

〈リスクグループ〉 〈スコアの合計〉

A群:30日生存の可能性 >70% 0~5.5B群:30日生存の可能性 30~70% 5.6~11.0C群:30日生存の可能性 <30% 11.1~17.5

Palliative Prognostic Index (PPI)4× (PPS*が10~20)+2.5× (PPSが30~50)+3.5×安静時呼吸困難感+2.5×数口以下の経口摂取+1.0×数割の経口摂取+1.0×浮腫+4.0×せん妄*PPS: Palliative Performance Scale

PPIが6以上で予後3週間を感度 80%、特異度 85%で 予測する。

PPIが4以上で予後3週間を感度 80%、特異度 77%で 予測する

高度な倦怠感

(がん悪液質)33%過活動型せん妄

(がん悪液質)26%

鎮痛薬・鎮痛補助薬に抵抗性の突発的な耐え難い疼痛・出血

11%

高度な呼吸困難感

30%

① 6.5② 5.0③ 8≦④ 3時間⑤ 65時間

① 12.5② 10.5③ ―④ 7時間⑤ 75時間

① 14.5② 11.5③ 8≦④ 5時間⑤ 55時間

① PaP score(中央値) 16.5② PPI(中央値) 11.5③ 苦痛の強さ(NRS*) 8≦④ 症状緩和までの期間(平均値) 3時間⑤ 死亡までの平均値 40時間

*NRS: Numeric Rating Scale(痛みの数値的評価スケール)

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死の過程を

完全に医学的に管理

一般病棟

● 延命治療を控える傾向

● 苦痛・つらさの緩和のために医学の進歩を取り入れる試みが開始されている

患者の人生の価値を高めるために

先端医学・医療を導入する

根拠に基づいた個別化

死の過程から

完全に医学を排除

ホスピス

目標:①包括的なQuality of lifeの向上②患者の個別的な価値観の尊重

日本 欧米 将来

医学か?脱医学か?がん緩和医療の歴史的経緯と今後の方向性

● 脱医学化は手段であって目的ではない