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1 平成25年度 高度化プログラム アクション・リサーチ実習発表会 児童が楽しく学習する 小学校体育授業の研究 広島大学教育学研究科 学習科学専攻 カリキュラム開発専修 初等教育開発プログラム(教職高度化) M133212 坂本

児童が楽しく学習する 小学校体育授業の研究 - …1 平成25年度高度化プログラムアクション・リサーチ実習Ⅱ発表会 児童が楽しく学習する

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平成25年度 高度化プログラム アクション・リサーチ実習Ⅱ発表会

児童が楽しく学習する小学校体育授業の研究

広島大学教育学研究科学習科学専攻 カリキュラム開発専修初等教育開発プログラム(教職高度化)

M133212 坂本 亮

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発 表 構 成

1, アクション・リサーチⅠから2, 楽しさや楽しい体育論について3, アクション・リサーチⅡの概要4, アクション・リサーチⅡでの実践5, リサーチ・クエスチョンの検証6, アクション・リサーチⅡのまとめ7, 参考・引用文献

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1, アクション・リサーチⅠからアクション・リサーチⅠでは,「授業場面の期間記録法」を用いて,運動学習の時間の割合と児童が感じる楽しさとの関係を中心に研究を進めた。

課題・特定の教材に限った結果しか得られていない。

・自己の授業改善に役立ちにくい。

アクションリサーチⅡに向けての課題

・児童の情意や単元,教材内容などによって授業における楽しさは変わる。↓・指導者の力量が高まることの方が,影響が高い。↓陸上運動以外の教材を用いて授業実践を行い,自己の授業を分析対象とし,児童が楽しく学習する小学校体育授業を目指す教師の力量の高まりの過程を調べることとした。

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2, 楽しさや楽しい体育論について1970年代 竹之下休蔵の解釈 学校体育における「プレイ論」(杉本,1997年)

ホイジンガ 「プレイは何らかの手段として在るのではなく,それ自体を目的として存在するもの」プレイ(遊び)が目的では,体育の存在意義がない。

カイヨワ 「遊びの四類型」のうち,競争(アゴン)がスポーツに,模倣(ミミクリー)がダンスにある。運(アレア)と眩暈(イリンクス)が入ってない「遊びの四類型」は相互排他的なものではない。遊びが社会的に価値をあまりもっていなかった。

1960年代 「体力づくり」中心の体育

「スポーツ選手養成」 「ミニ運動部」

1970年代 高度経済成長の落ち着き

健康問題や人間疎外が社会問題化

「楽しい体育論」の発展

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2, 楽しさや楽しい体育論についてチクセントミハイ(1979年) 「フロー理論」

フロー「行為に没入しているときに人が感じる包括的感覚をフロー(flow)と呼び,そのフロー状態にある時に,行為は内的な理論(internal logic)にしたがって次々に進んでいき,自我と環境,刺激と反応,過去・現在・未来の経験といった区別はなくなる」

フロー体験「人びとの生活の中で最も記憶に残る幸福なひとときは大抵,技能や集中を仕事がうまくいったときのことや,困難な障害を克服するための奮闘が含まれる」「目的をもって挑戦的な目標に向かって熱中するとき,人びとは幸福を感じる」

スポーツを基準

授業時間は短い授業は時間で区切られる

うまくいくという保障はない。

体育授業では現れにくい

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教材内容についての知識(領域1)

教授方法についての知識(領域2)

児童についての知識(領域3)

CA

B D

「授業についての教師の知識領域」(吉崎,1997年)

・教師の持つ知識に複合領域の知識が増えていくことは,教師の成長といえる。 (吉崎,1997年)

・「反省的実践家」の力量に「省察(reflection)」がある。(佐藤,1993年)

・省察は,「行為の中の省察(reflection in action)」と「行為についての省察(reflection on action)」に分けられる。

(ショーン,1983年)・熟達した教師は,授業中に即興的判断を行いながら,問題に対処している。 (秋田,1996年)

・「反省(reflection)」は,「問題の発見」と「問題の解決」に分けられ,初任の教師の課題は「問題を発見」する所にある。

(木原,2004年)

リサーチ・クエスチョンの確定

3, アクション・リサーチⅡの概要

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3, アクション・リサーチⅡの概要

リサーチ・クエスチョン

授業実践後に反省会を設定し,授業VTRをもとに授業を振り返り,「行為についての省察」を行えば,「行為の中の省察」に影響を与える

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4, アクション・リサーチⅡでの実践対象: 広島大学附属小学校2部5年39名(男19名,女20名)単元: ラグハンドボール(全6時間)単元構成:第一次 ハンドボールをやってみて,ルールを考えよう ・・・・・・1時間第二次 攻撃や守備のポイントを考えながらゲームをしよう ・・・4時間第三次 ラグハンドボール大会をしよう ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1時間主なルール:・ハーフコート制で行う。・4人対4人(守備時は1人の限りゴールキーパーができる。)・ボール運びはランとパス。・ドリブルをせずにボールを運んでも良い。・攻撃側の強い接触,オフサイド(守備ゾーンやゴールキーパーゾーンへの侵入)はファール。守備側チームボールでリスタート・ラインアウトは,守備側チームのボールでリスタート。・試合はクウォーター制で,ペアチームとの合計得点で勝負する。・ポイント獲得のパターン ゴール成功で1点。(出場している4人全員がボールに触っていたらさらに1点加点。)

授業実践¥ラグハンド試合風景.mpg

イメージが湧かないと思うので,こちらの授業(試合)風景をご覧ください。

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4,アクション・リサーチⅡでの実践

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%児童の学習したい種目やスポーツ

(ラグ)ハンドボールへの関心は,高くも低くもない。

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4,アクション・リサーチⅡでの実践

1

2

3

形成的授業評価票の質問紙調査の結果

第1時後 第3時後 第5時後

研究対象として,一定の価値がある

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5,リサーチ・クエスチョンの検証

リサーチ・クエスチョン

授業実践後に反省会を設定し,授業VTRをもとに授業を振り返り,「行為についての省察」を行えば,「行為の中の省察」に影響を与える

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5,リサーチ・クエスチョンの検証

授業実践「行為の中の省察」

自己反省会「行為についての省察」

メンターとの反省会(「行為についての省察」)

授業計画(「行為についての省察」)

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教材内容についての知識(領域1)

教授方法についての知識(領域2)

児童についての知識(領域3)

CA

B D

5,リサーチ・クエスチョンの検証例: 「シュートの定義を決めきれてない」 「行為の中の省察」の焦点についての変容

第1時 第2時 第3時 第4時 第5時 第6時

教材内容 0 0 0 0 0 0

教授方法 9 12 5 8 3 3

児童 0 0 0 0 0 1

単独領域小計 9 12 5 8 3 4

A:内容・方法 0 1 1 2 1 1

B:内容・児童 0 0 1 2 5 4

C:方法・児童 9 2 0 1 2 2

D:全部 2 0 1 7 6 3

複合領域小計 11 3 3 12 14 10

計 20 15 8 20 17 14

「行為についての省察」の焦点についての変容

第1時 第2時 第3時 第4時 第5時 第6時

教材内容 0 0 0 0 1 1

教授方法 5 10 6 8 1 2

児童 2 1 0 0 1 4

単独領域小計 7 11 6 8 3 7

A:内容・方法 3 5 8 0 1 4

B:内容・児童 1 2 2 0 5 2

C:方法・児童 9 2 1 4 5 1

D:全部 1 1 2 0 3 2

複合領域小計 14 10 13 4 14 9

計 21 21 19 12 17 16

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5,リサーチ・クエスチョンの検証「行為の中の省察」の焦点についての変容

第1時 第2時 第3時 第4時 第5時 第6時

教材内容 0 0 0 0 0 0

教授方法 9 12 5 8 3 3

児童 0 0 0 0 0 1

単独領域小計 9 12 5 8 3 4

A:内容・方法 0 1 1 2 1 1

B:内容・児童 0 0 1 2 5 4

C:方法・児童 9 2 0 1 2 2

D:全部 2 0 1 7 6 3

複合領域小計 11 3 3 12 14 10

計 20 15 8 20 17 14

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5,リサーチ・クエスチョンの検証「行為の中の省察」の焦点についての変容

第1時 第2時 第3時 第4時 第5時 第6時

教材内容 0 0 0 0 0 0

教授方法 9 12 5 8 3 3

児童 0 0 0 0 0 1

単独領域小計 9 12 5 8 3 4

A:内容・方法 0 1 1 2 1 1

B:内容・児童 0 0 1 2 5 4

C:方法・児童 9 2 0 1 2 2

D:全部 2 0 1 7 6 3

複合領域小計 11 3 3 12 14 10

計 20 15 8 20 17 14

授業実践が久しぶり

今後の授業展開を考えるため,児童の見取りが精緻に

児童観との違いを多く発見

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5,リサーチ・クエスチョンの検証「行為の中の省察」の焦点についての変容

第1時 第2時 第3時 第4時 第5時 第6時

教材内容 0 0 0 0 0 0

教授方法 9 12 5 8 3 3

児童 0 0 0 0 0 1

単独領域小計 9 12 5 8 3 4

A:内容・方法 0 1 1 2 1 1

B:内容・児童 0 0 1 2 5 4

C:方法・児童 9 2 0 1 2 2

D:全部 2 0 1 7 6 3

複合領域小計 11 3 3 12 14 10

計 20 15 8 20 17 14

学習規律が不安定

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5,リサーチ・クエスチョンの検証「行為の中の省察」の焦点についての変容

第1時 第2時 第3時 第4時 第5時 第6時

教材内容 0 0 0 0 0 0

教授方法 9 12 5 8 3 3

児童 0 0 0 0 0 1

単独領域小計 9 12 5 8 3 4

A:内容・方法 0 1 1 2 1 1

B:内容・児童 0 0 1 2 5 4

C:方法・児童 9 2 0 1 2 2

D:全部 2 0 1 7 6 3

複合領域小計 11 3 3 12 14 10

計 20 15 8 20 17 14

学習規律の安定

教師の力量の高まり

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6, アクション・リサーチⅡのまとめ

リサーチ・クエスチョンの答え

授業実践後に反省会を設定し,授業VTRをもとに授業を振り返り,「行為についての省察」を行えば,「行為の中の省察」に影響を与える

と考えられる。

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6, アクション・リサーチⅡのまとめ

今後の課題

・ 事例を増やす

・ メンター教諭の支援・指導の影響を分析

・ 記述の具体的内容を加味した研究

課題解決実習Ⅰの方針

引き続き,自己の授業実践をもとに,省察についての研究を行っていく。

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7, 参考・引用文献赤羽根直樹・澤田浩(2003)「佐久の体育授業研究―ザ・シューター(ハンドボール型)の実践―」『体育授業を観察評価する』明和出版pp129-132秋田喜代美(1996)「教師教育における『省察』概念の展開―反省的実践家を育てる教師教育をめぐって―」『教育学年報5―教育と市場―』世織書房pp451-467藤岡完治(1998)「仲間とともに成長する‐新しい校内研究の創造」『成長する教師‐教師学への誘い』金子書房pp227-242廣瀬貴志(2013)「投捕の技能が低い中学年で行う戦術学習の授業計画」『体育科教育』第61巻第2号,大修館書店pp22-25岩田昌太郎・久保研二・嘉数健悟・竹内俊介・二宮亜紀子(2010)「教員養成における体育科目の模擬授業の方法論に関する検討‐「リフレクション」を促すためのシート開発‐」『広島大学大学院教育学研究科紀要』第二部,第59号,pp329-336岩田靖(2003)「小学校中学年における侵入型ゲームの授業実践の検討―ハンドボールゲームの分析―」『体育授業を観察評価する』明和出版pp103-106ジャクソン,S.・チクセントミハイ,M:今村浩明他訳(2005)「挑戦と技能のバランス」『スポーツを楽しむ―フロー理論からのアプローチ―』世界思想社pp49-89木原俊行(2004)「授業研究と教師教育の連結」『授業研究と教師の成長』日本文教出版pp17-42木原俊行(2004)「若手,中堅,ベテラン教師の授業力量の差異点とその形成の段階性に関する基礎的・記述的研究」『授業研究と教師の成長』日本文教出版pp45-132

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7, 参考・引用文献コルトハーヘン,F:武田信子他訳(2010)『教師教育学―理論と実践をつなぐリアリスティック・アプローチ―』学文社久保研二・木原成一郎(2013)「教師教育におけるリフレクション概念の検討」『広島大学大学院教育学研究科紀要』第一部(学習開発関連領域)第62号,広島大学大学院教育学研究科pp89-98久保研二・木原成一郎・大後戸一樹(2008)「小学校体育科授業における『省察』の変容についての一考察」『体育学研究』第53巻第1号pp159-171佐藤政臣(2013)「ドリルとタスクをメインゲームにつなげる授業計画とその実践」『体育科教育』第61巻第2号,大修館書店pp38-41佐藤学(1993)「教師の省察と見識=教職専門性の基礎」『日本教師教育学会年報』第2号pp20-35澤本和子(1998)「授業リフレクション研究のすすめ」『成長する教師‐教師学への誘い』金子書房pp212-226ショーン,D.:柳沢昌一他訳(2007)『省察的実践とは何か-プロフェッショナルの行為と思考-』鳳書房杉本厚夫(1997)「プレイ論の主張」『戦後体育実践論』第2巻,創文企画pp179-192高田俊也・岡澤祥訓・高橋健夫(2003)「体育授業を診断的・総括的に評価する」『体育授業を観察評価する』明和出版pp8-11高橋健夫(2003)「体育授業を観察評価する」『体育授業を観察評価する』明和出版pp1-6吉崎静夫(1997)『デザイナーとしての教師アクターとしての教師』金子書房湯口雅史・月本直樹(2013)「やってみる・ひろげる・ふかめるで作るハンドボールの授業計画」『体育科教育』第61巻第2号,大修館書店pp34-37

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ご清聴ありがとうございました

ご指導よろしくお願いします

ハンドボール日本代表宮崎 大輔 選手