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世界の新興中間層に向けた、 収益力ある成長戦略 「次なる40億人」市場から学ぶ pwc.com/india 戦略と調査

世界の新興中間層に向けた、 収益力ある成長戦略 - …...世界 É新興中間層 Æ向 ¬ º Ó ©力 成長 Æ &05 競争を勝ち抜き、それを自社の利点に変え

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世界の新興中間層に向けた、収益力ある成長戦略「次なる40億人」市場から学ぶ

pwc.com/india

戦略と調査

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「次なる40億人」市場から学ぶ02

エグゼクティブサマリー.............................................................................................04

序論:成功のための9つのテーマ.............................................................................07

デモグラフィー(人口統計学的属性)と成長..................................................... 10

新しいバリュープロポジション(価値提案)..................................................... 13

革新的なビジネスモデル............................................................................................. 19

発想の転換.........................................................................................................................26

財務面からの見解...........................................................................................................31

世界の新興中間層の枠組み:インドでの経験が、中国やアフリカで.どのように活かされるか.............................................................................................33

そのほかのケーススタディ.........................................................................................34

調査方法.............................................................................................................................36

参考文献一覧....................................................................................................................37

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世界の新興中間層に向けた、収益力ある成長戦略 03

はじめに世界の新興中間層(Global. Emerging. Mid-dle)は、これから10年にわたって企業の重要な成長の始まりを特徴づける市民、消費者の階級である。その多くは、インド、中国、インドネシア、アフリカと中南米の一部など、私たちが「次なる40億人」諸国.(世界の総人口70億人のうちの40億人以上が暮らす国)と定義する市場に居住している。この人口層は企業のこれからの成長のあり方を決めるだけではない。企業が持続的な成功を実現できるかどうかは、このセグメントで収益力ある成長を促進する戦略にかかっている。

この報告書は、世界の新興中間層市場で収益力ある成長を試みたリーダーたちの戦略にスポットを当てている。ケーススタディと最高経営責任者(CEO)や現場の人々への面接調査によって明らかになった彼らの経験は、この市場で成功するための興味深い指針を与えてくれる。私たちはインドの大きな新興中間層に注目し、詳細な調査を行った。この層は、このセグメントに切り込むイノベーションの最前線と見なされる場合が多い。次いで、こうした戦略を具体化するものとして、インドで学んだことを「次なる40億人」のほかの市場に当てはめたケーススタディをいくつか見ていく。

各企業は、それぞれの業界の原理に則って世界の新興中間層にアプローチしなければならない。また、「次なる40億人」の各国

の差異も、私たちの調査から導かれた戦略的テーマに独自のバリエーションを生み出すはずである。この調査はそれぞれの企業や国がさらなる探求を進めるための出発点にすぎない。しかし、この報告書に示された9つの主要テーマは、一般的な認識とは逆の提案も含め、非常に鮮明に事態を描き出している。

たとえば、この新興中間層の憧れに突き動かされる性質(aspirational. nature)は、「コストオンリー」の戦略に疑問を突きつける。この市場で何かを売り、流通させるためにはネット上ではない現実世界の存在でテクノロジーを補完する必要があるという点も、慎重に考慮すべきである。何より重要なのは、顧客の信頼を築くためにも、またこの市場に合わせて組織のダイナミクスを変化させるためにも、発想の転換が不可欠だということである。

読者が世界の新興中間層を見出し、それに照準を合わせた取り組みを進める上で、この調査から導かれた戦略が最初の足がかりとなれば幸いである。この刺激的な市場で成功するためには、新しいバリュープロポジション(価値提案)、革新的なビジネスモデル、新しい思考方法が必要になるだろう。しかし、この広大な新しい成長の場に本気で力を投じ、能力を確立した企業は、グローバルな戦いで勝利を収めることができるはずである。

Shashank Tripathi

Strategy and Research Leader, Consulting, India

Alastair Rimmer

Global Strategy Leader

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「次なる40億人」市場から学ぶ04

世界的に、企業は成長のために「次なる40億人」諸国に目を向けている。特に、経済が成熟した国々の景気が低迷している今、その動きが顕著である。1人当たりの平均年間所得が1,000ドルから4,000ドルの国と定義されるこれらの国々には、世界の総人口70億人の半数を超える40億人が暮らしている。企業はこれまで、中国、インド、インドネシア、中南米、アフリカの一部の国を含むこのグループの中でも「中間層」と「上位中間層以上」の所得層に重点を置いてきた。しかし、私たちは、中間層のすぐ下に位置する「世界の新興中間層」(GEM)が重要な市場であると考えている。この市場は拡大しつつあり、しかもほとんど手つかずなのである。

益性の高い成長を実現するのは容易ではないと感じることが多い。私たちの調査結果を見ると、この市場で収益性の高い成長に成功しているパイオニアたちは、先進国の場合とは大きく異なる戦略やイノベーションを用いていることがわかる。多国籍企業はこうしたパイオニアから学ぶことができるが、それにはまず先入観にとらわれたアプローチやその背後にあるビジネスモデルを捨て、これまでよりも柔軟にこの新しい市場に対応しなければならない。.

GEMの中でいったん地位が確立されると、顧客は中間層へと上っていく際にもその会社へのロイヤルティを維持する。企業は、この大きく、比較的手つかずの市場に重点

エグゼクティブサマリー

Chapter 01

総人口70億人 高所得国

10億人

中所得国

10億人

「次なる40億

人」諸国

低所得国

10億人

中所得国と 「次なる40億人」

諸国の差

所得レベル > $12,196 $3,946 - $12,195 $996 - $3,945 < $995

教育年数 14.5 13.8 10.3 7.9 25%

都市人口(%) 78 74 41 27 45%

携帯電話加入者(100人中) 106 92 47 22 50%

インターネットユーザー

(100人中)

68.3 29.9 13.7 2.3 54%

自動車所有者(1,000人中) 435.1 125.2 20.3 5.8 84%

出典:世界銀行

ターゲットとする 人口

世界の新興中間層は既に世界全体で23億人に達している。その上、出生率が高く、多くの国が平均を上回る経済成長を遂げているために、その数は増大の一途である。GEM全体では2021年までに年間6兆ドル(USD)を超える市場になると予測されている。インドだけでも、2010年には4億7,000万人であったこのセグメントが2021年には5億7,000万人に膨らみ、その市場規模は1兆ドルのラインを超えると見込まれている。.

成長を求める企業には、このGEM市場によって得られる機会を無視する余裕はない。しかし、このセグメントは急速に成長しているものの、この市場に参入する企業は収

を置くことによって早いうちからロイヤルティを確保することができ、それはこの顧客層が経済力を強めていくときに大いに力になるのである。

また、企業は、その国の中間層に対応するためだけではなく、同様のセグメントを持つほかの「次なる40億人」市場で競争する上でも、GEMの中で得られた能力を利用することができる。

さらに、「次なる40億人」諸国で発展させたイノベーションは、成熟経済国での成長を促し、効率を高める上でも役に立つ。これは、成熟経済国の景気が低迷している昨今、特に重要である。自国でのこの新しい

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世界の新興中間層に向けた、収益力ある成長戦略 05

競争を勝ち抜き、それを自社の利点に変えるためには、多国籍企業は、今GEMで芽を出し始めている戦略やイノベーションを理解すべきである。.

つまり、企業は、これからの10年、このますます重要になりつつあるセクターに参入するか、あるいは参入している会社と競合する用意をしなければならないということである。どちらにしても、この市場におけるリーダーから学び、立ちはだかる課題に対応する方策を身につける必要がある。

そのとき、国際的な企業の強力なイノベーションと研究開発の能力が役に立つ。この力を生かして、魅力的だが難しい環境で成功するために必要な新しいバリュープロポジション(価値提案)、ビジネスモデル、発想を構築することができる。

世界の所得分布の最上部に位置する国に合わせて考えられたバリュープロポジション(価値提案)は、多くの場合、持続可能な形でGEMのニーズを満たすことはできない。GEMに参入するためには、このセグメントが持つ憧れや独特のトレードオフを細部まで理解し、そうしたニーズに対応するためのソリューションを生み出す必要がある。このセグメントの憧れに動かされる構造をつかもうとするならば、単純にコストの低さだけを考えたバリュープロポジション(価値提案)では成功しない。また、新興中間層を均質な顧客の集まりとみなすのも誤りである。場所(都市か農村か)、年齢、宗教、言語による差異があるため、規模の調整が可能な標準プラットフォームを基礎として、カスタマイズされた製品や.サービスを提供することが求められる。しかし、適切なバリュープロポジション(価値提案)を考案することができたならば、急速な成長の実現も可能である。.

また、収益性の高い形でこのセグメントに取り組み、信用システムからサプライ.チェーンにいたる制度上のさまざまな弱点やギャップを乗り越えるためには、革新的なビジネスモデルとプロセスが必要である。自分たちのビジネスモデルを支えるエ

80

世界の新興中間層で成功するための主要テーマ

新しいバリュー

プロポジション

(価値提案)

• 憧れに動かされるトレードオフ。このセグメントの非常に異なる独自の憧れ、影響力、トレードオフを理解すること。

• 低コスト以上の価値。コスト以外の面で製品やサービスのポジショニングを行うこと。機能性の考慮を超えた価格設定を行うこと。

• プラットフォームのカスタマイゼーション。主要な特徴を少数に抑えた製品や サービスを設計し、多様性に合わせて調整を加えること。

革新的な

ビジネスモデル

• エコシステムの協調。エコシステムを作り出すことによって価値を引き出し、組織化されていないセクターと協調すること。

• モジュール式の規模。モジュール方式で設計し、現地の需要を集約し、始めから規模を考慮に入れること。

• 賢い消費者リーチ。マーケティングと流通をクラスター化し、地方の資金調達メカニズムを創出し、テクノロジーとオフラインを通してそれを可能にすること。

発想の転換

• 信頼された保証。憧れを念頭においてブランドを構築し、口コミを使って認知度を高めること。

• 破壊的な思考。この市場に対応するために、しばしば一足飛びのソリューションを用いて破壊的な変化を探ること。

• 企業の価値と測定方法。より広い価値観を持ってこの事業を推進し、さまざまな測定方法を用いてそれを育てること。

インドの人口分布(百万人) 11億9,000万人 13億6,000万人

世帯収入/年(INR) 1人1日当たり 2010年 2021年(予測) (%)

> 850,000 上位中間層以上 >$10 190 14%

300,000 - 850,000 中間層 $5-$10 170 300 23%

150,000 - 300,000 新興中間層 $1.7-$5 470 570 42%

< 150,000 低所得層 <$1.7 460 290 21%

出典:PwCの分析、NCAER(国立応用経済研究所)、CMI *購買力平価(PPP)

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「次なる40億人」市場から学ぶ06

コシステムを作り出すためには、組織化されていない、あるいは非公式な経済活動の主要プレーヤーと協力しなければならない。初期段階ではプロトタイプやパイロット試験が必要であるが、成功のためには規模の調整というソリューションが不可欠である。加えて、参入に成功している企業は、テクニックとチャネルの組み合わせを用いて、このセグメントの多様で、ややもすれば独特なニーズに応えている。言うまでもなく鍵となるのはテクノロジーであるが、物理的サービスセンターのネット.ワークなどといった目に見える形でのオフラインのサポートシステムも重要である。適切なビジネスモデルは持続的な収益力を作り出す。

収益性の高い成長を達成するために不可欠な第3の要素は、発想の転換である。企業は、市場に対する外的なアプローチにおいても、GEMの特別な要求に対する社内のアプローチにおいてもうまく適応しなければならない。そのためには、強力なリーダーシップの存在、破壊的ソリューションを取り入れた大胆なアプローチ、成功の促進と測定のために新たな企業の価値と測定方法を採用する意欲などが必要となることが.多い。.

この市場をターゲットとする企業は、成長の選択、加速、安定のそれぞれの段階において異なる資金調達戦略を取ることになるだろう。たとえば、プロトタイプやパイロット試験を重視する適切な資金調達アプ.ローチは、初期段階では効果が得られる。しかし、このアプローチを成功させるためには、加速段階において大きな投資をし、規模を拡大することが不可欠になる。多くの場合、低コストで利益を上げるためには規模が必要だからである。

この報告書において私たちの調査が焦点を置いているのはインドである。この国には世界で最も多くの新興中間層が暮らしているからである。インドの新興中間層でパイオニアとして活動してきた企業が苦労して得た教訓は、インド、あるいはほかの国で新興中間層向けの事業を行おうとする企業にとって大きな意義を持つだろう。私たちは、アフリカ、中南米、中国などの企業も含め、CEOやイノベーションリーダーに対する面接調査と基礎調査を行い、ケーススタディをまとめた。

新興中間層は1つの国の中でも多様であり、また国によってもその特徴やダイナミクスがある程度異なる。しかし、この報告書の中で私たちが展開している枠組みや教訓は「次なる40億人」諸国全体にかかわっており、さらに調査を進めるための強力な出発点となる。.

私たちの構築した枠組みは、「次なる40億人」という成長の可能性に対応する上での各企業の成熟段階がそれぞれ異なることを認識している。新興中間層市場への参入を意図する企業にとってはバリュープロポジション(価値提案)が重要である一方、既にこの市場に十分浸透している企業にとってはビジネスモデルの改善が必要となるだろう。しかし、どちらにとっても発想の転換が不可欠である。最終的に、この枠組みは、企業が収益性の高い成長を目指す総合的な戦略を策定するのに役に立つはずで.ある。

2012年の世界:

新興中間層が年間.6兆ドルの市場に

AND思考

質と値ごろ感の両方に注力しなければならない。質こそが支点である。

医療サービス会社の.元CEO

信頼された保証

インドでは、口コミでの宣伝が非常に重要であり、それをテクノロジーに置き換えるのはきわめて難しい。

ITES企業の創業者

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世界の新興中間層に向けた、収益力ある成長戦略 07

序論:成功のための9つのテーマGEMの枠組み

世界の人口の半数以上(およそ40億人)は、1人当たりの所得が1,000ドルから4,000ドルの国に暮らしている。そのうちの大部分が、巨大でほとんど手つかずの市場、世界の新興中間層(GEM)を形成している。私たちが「次なる40億人」の国と呼ぶインド、中国、インドネシア、ナイジェリア、そのほかの途上国では、膨大な数の消費者が最低所得セグメントからの上昇を続けている。先進国にとって過去のものとなってしまった高い経済成長率が達成されているからだ。

しかし、この多様で無秩序に広がるセグメント(その多くが広大な農村部に分散して暮らしているか、あるいは経済社会からほとんど分断された都市の密集地域に暮らしている)を対象としてビジネスを行うにはどうすればいいのだろうか。

私たちの調査結果から、成功しているパイオニアは3つの主要な分野に重点を置いていることがわかる。• 新しいバリュープロポジション(価値提案) - 需要の理解

• 革新的なビジネスモデル - . .供給の創出

• 発想の転換 - 消費者と組織的発想の管理

新興中間層において収益性の高い成長を達成するための戦略は、この3つの分野の全てに対応するものでなければならない。

これらの分野はそれぞれ3つの主要な成功戦略を持っている。それらの合計9つの要素が私たちの分析の枠組みとテーマを構成している。.

PwCの枠組み 世界の新興中間層(GEM)市場で成功する方法

新しいバリュープロポジション(価値提案)-「次

なる40億人」の顧客は何を望み、低コスト以外に何

に価値を置いているのか

革新的なビジネスモデル - この増大する新たな

需要を最大限に満足させるために、どのようにして

供給を創出するか

需要の理解 - 新しいバリュープロポジション(価値

提案)

• 憧れに動かされるトレードオフ - 消費者が何

に最も大きな価値を置いているかを理解すること

• 低コスト以上の価値 - 低コストは当然とし

て、(重視される事柄について)質の高さを提供

すること

• プラットフォームのカスタマイゼーション - 

プラットフォームとなる製品を開発し、多様性に

対応するためにそれをカスタマイズすること

発想の転換 - あなたの組織、顧客、評価システムは「次なる40億人」の

市場で成功できる適切な発想を持っているか

供給の創出 - 革新的なビジネスモデル

• モジュール式の規模 - 最初から規模を考える

こと

• エコシステムの協調 - 市場の空白を克服する

ためにエコシステムの協調を図ること

• 賢い消費者リーチ - 革新的な流通と資金調達の

メカニズム

発想の転換

• 信頼された保証 - 潜在顧客の中に信頼を作り出すこと

• 破壊的な思考 - 破壊的な思考を取り入れること

• 企業の価値と測定方法 - 適切な企業の価値と測定方法を考案すること

Chapter 02

1 2

3

1 2

3

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「次なる40億人」市場から学ぶ08

新しいバリュープロポジション(価値提案) - 需要の理解憧れに動かされるトレードオフ(消費者の評価) - 憧れに動かされるこの消費者セグメントのニーズに対応するソリューションを生み出さなければならない。企業は消費者が購入の決定をするときに直面する(やや直観に反した)トレードオフを理解する必要がある。

低コスト以上の価値(価格設定とポジショニング) - 性能、憧れ、満たされていないニーズを中心として、ソリューションのポジショニングをしなければならない。低コストのみを基礎とするバリュープロポジション(価値提案)を進めていくことはこの市場の成功の処方箋ではない。

プラットフォームのカスタマイゼーション(ソリューションのカスタマイゼーション) - カスタマイズが可能な基本的な製品、テクノロジー、ソリューションのプラットフォームを作り出す必要がある。そのカスタマイズは、提携先やユーザーコミュニティの助けを借りながら行われることもある。このアプローチにより、費用効果の高い包括的な形でGEM市場の多様性に対応することができる。.

革新的なビジネスモデル - 供給の創出エコシステムの協調(地域的な連携) .- 新興国の制度や市場の空白を乗り越えるために、エコシステムの構築に重点を置かなければならない。政府や現地の特有な経済の主要なプレーヤーなどと連携することが必要である。また、エコシステムの中に価値を創出し、そこから自分たちのための価値を取り出さなければならない。

モジュール式の規模(規模のデザイン) - 新規参入者は最初からスケールメリットを目指すべきである。モジュール式のビジネスモデルは、企業ばかりでなく消費者のコストも下げることが可能で、最大の.リーチを提供し、消費を可能にする。

賢い消費者リーチ(バリューチェーンの設計)- この市場の多様性に対応するためにはクラスターアプローチを用いるべきである。このセクターに効果的に浸透するには、革新的な流通モデル、ITの斬新な利用、新たな資金調達のメカニズム、およびオフラインの働きかけが非常に重要で.ある。

.

発想の転換 - 消費者と組織の発想の管理信頼された保証(消費者の発想の管理) - 需要を生み出し、それを加速させるためには、従来の考え方にとらわれない代理人や地域社会内での連携を通して信頼を築かなければならない。

破壊的な思考(新しい市場、新しい価値の源泉) - 市場で地位を獲得するためには、破壊的な製品、サービス、およびビジネスモデルを受け入れるという考えを持たなければならない。

企業の価値と測定方法(業績の管理) .- 収益性の高い形で「新興中間層」に対応するために、リスクを取ること、顧客志向、調査方法、外部プレーヤーとの協調について異なる価値観を採用しなければならない。また、特に当初は、異なる成功の測定方法を用いる必要がある。

私たちの枠組みを指針としてGEM市場に参入する企業の目標は、このセグメントの要求に合った製品やサービス、そして同じ特徴を持ちながら現在のほかの消費者セグメントに提供されているものよりも大幅に安価な製品やサービスを作り出すことである。こうした新しい製品やサービスは、必然的に、先進国で提供されている贅沢な製品の「あると嬉しい(nice-to-have)」特徴の一部が省かれることになるであろう。しかし、購入の主たる基準に関しては、ほかのセグメントや世界のほかの国で適用されている高い水準を満たさなければならない。この意味で、企業は、少ない費用で多くを作り出さなければならないのである。

憧れに動かされるトレードオフ

市場の基本的なニーズは同じである。どの面で妥協するかは、ターゲット集団の人口統計学的属性によって異なる。

医療サービス会社の元CEO.

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世界の新興中間層に向けた、収益力ある成長戦略 09

新しいバリュープロポジション

主要テーマ 主な質問 評価の要素

• 憧れに動かされるトレード

オフ

• あなたの会社のソリューションはこの消費者セグメントをほかのセグメント

(上位中間層、中間層以上)と区別していますか。

• あなたの会社の製品/サービス基盤に対するこの消費者セグメントの購買行

動を推進するものは何か、明確に理解していますか。

• あなたはエンドユーザーにどれだけ近いところにいますか。

• 低コスト以上の価値 • この消費者セグメントに対して、価格以外に明確な価値の源泉を提供してい

ますか。ポジショニングにそれを生かしていますか。

• プラットフォームのカスタ

マイゼーション

• あなたの会社のソリューションは消費者が望む主要な特徴を持っていますか。

• 地域の多様性に対応するためにソリューションに変化を加えていますか。ソリ

ューションのバリエーションの適切な(収益性の高い)組み合わせを取り入れて

いますか。

消費者評価

ポジショニングと価格設定 ソリューションの構築

革新的なビジネスモデル

主要テーマ 主な質問 評価の要素

• エコシステムの協調 • この人口セグメントに浸透するために政府と協力していますか。

• 組織化されていないセクターが提供する代替品によって熾烈な競争が発生していますか。この顧客セグメントに製品またはサービスを供給するために組織化されていないセクターと協力していますか。

• あなたの業界に関する制度や市場の空白をふまえ、それを埋めるためにどのような投資をしていますか。

• モジュール式の規模 • あなたの会社のソリューションは「モジュール式」になっていますか。費用効果

の高い方法で規模の調整をすることができますか。

• エンドユーザーのキャッシュフローの制約を考慮して、どのように需要を集約し

ますか。

• 賢い消費者リーチ • あなたの会社の流通戦略は、この消費者セグメントへのリーチを向上させるためのクラスターアプローチを取っていますか。

• 地域のこの消費者セグメントにソリューションを届けるために、オンラインだけではなくオフラインの方法も利用していますか。それは収益力がありますか。

• この消費者基盤に対して革新的な資金調達戦略を用いていますか。リスク選好を持っていますか。競合会社がこれを行っているかどうか知っていますか。

戦略的な提携と

協力の範囲

バリューチェーン戦略

ソリューションの

設計

流通チャネル

発想の転換

主要テーマ 主な質問 評価の要素

• 信頼された保証 • あなたの会社のブランドは消費者に何を約束していますか。その約束を果たすためにどのような選択を行うことが必要ですか。

• この消費者セグメントに対応するために、直観に反したどのような消費者の認識が必要ですか。

• あなたの会社の製品設計はこの消費者セグメントに適していますか。

• 破壊的な思考 • あなたの会社にはイノベーション能力がありますか。会社の中ではイノベーショ

ンが優先されていますか。

• 新しい破壊的アイディアを試し、その規模を調整するために、組織内の商業化の

モデルについて堅固な考えを持っていますか。

• 価値と測定方法 • あなたの会社では成長や成功がどのように測定されますか。現金のゆとりのないこのセグメントで持続的に成長していくためには、これらのバロメーターの変更が必要ですか。

• この消費者セグメントのニーズを理解するために、どのような調査方法が望ましいと思いますか。

ブランディング

戦略的プランニング

組織の戦略イノベーションの評価と

イノベーション戦略

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「次なる40億人」市場から学ぶ10

市場規模

インドの新興中間層は2021年には5億7,000万人になり、1兆ドルの市場を形成する。

「世界の新興中間層」の台頭と.「次なる40億人」諸国

世界の途上国でデモグラフィー(人口統計学的属性)の変化が起こっている。これからの10年間に、それが各国の社会と経済、およびそこで事業を行う企業に大きな影響を及ぼすのはまちがいない。.

膨大な数の消費者が経済ピラミッドの底辺から上昇して新興中間層を形成しつつある。現在のところ、この人々の収入は多くない。たとえば、インドでは1日1人当たり1.70ドルから5ドルである。しかし、これらの消費者が集団として持つ購買力は大きく、10年後には年間6兆ドルに達すると見込まれる。しかも、多くの国では出生率が高く、経済が大きく成長していることから、その数はさらに増大しつつある。

たとえばインドを見ると、2010年の新興中間層は4億7,000万人であった。しかし、この数は2021年には5億7,000万人に達すると私たちは推定している。そのと

き、最低所得層と中間層にはさまれたこの層は、インドの総人口のおよそ42%を占めることになる。

推定によれば、現在、世界全体でのこのセグメントの人口はおよそ23億人である。このグループを定義する所得のレベルは国によって異なるが、新興中間層の大多数は、1人当たりの年間所得が1,000ドルから4000ドルの国に暮らしている。これらの国々全体で、世界の総人口70億人のうちのおよそ40億人を占める。私たちが「次なる40億人」と呼ぶこのグループがデモグラフィー(人口統計学的属性)の変化の中心であり、企業は、これらの国々において、重要性を増しつつあるこの消費者セグメントで収益の上がる事業を行うために必要な新しいバリュープロポジション(価値提案)、ビジネスモデル、および思考態度を構築できるかどうかが試されている。

デモグラフィー(人口統計学的属性)と成長

出典:IMFおよび世界銀行

55,000

50,000

45,000

40,000

35,000

30,000

25,000

20,000

15,000

10,000

5,000

0

-5,000

-10,000

-2 0 2 4 6 10 12

Germany

Indonesia

United Kingdom

JapanUnited States

FranceGermany

RussiaBrazil

South AfricaAlgeria

Egypt

Pakistan

AngolaSenegal

Kenya Nigeria

Indonesia

India

Argentina China

Real GDP Growth, 2011 (%)

Size of Bubble = Population

United Kingdom

Rich (>$12,000) Middle ($12,000 – $4,000) Global Emerging Middle ($4,000 – $1,000) Low (>$12,000)

特徴

「新興中間層」の消費者は上位の所得層のために作られた製品やサービスへの憧れを持つが、現金のやりくりに非常に苦労しており、収入の60%以上が必需品のために支出される。

Chapter 03

*円の大きさ=人口

GDPの実質成長率 2011年(%)

高所得国(>$12,000) 中所得国($12,000-$4,000) 世界の新興中所得国($4,000-$1,000) 低所得国(<$1,000)

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世界の新興中間層に向けた、収益力ある成長戦略 11

インドの人口分布(百万人)

世帯収入/年(INR) 1日1人当たり($*) 2010年 2021年(予測) (%)

> 850,000 上位中間層以上 >$10 75 190 14%

300,000 - 850,000 中間層 $5-$10 166 307 23%

150,000 - 300,000 新興中間層 $1.7-$5 472 570 42%

< 150,000 低所得層 <$1.7 465 289 21%

出典:PwCの分析、NCAER(国立応用経済研究所)、CMI

1,500

1,200

900

600

300

0

Popu

latio

n (M

illio

ns)

US UK

Spai

n

Gre

ece

Italy

Braz

il

Russ

ia

Alge

ria

Arge

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Oth

ers

Mul

tiple

Rich (1 bn) (>$12,000) Middle (1 bn) (>$12,000 – $4,000) Middle (1 bn) (>$12,000 – $4,000) Low (1 bn) (<$1,000)

Increasing cost pressures may haverelevance in these markets

Reducing disposable income

Catering to needs of themerging middle class inmiddle income nations

Use innovations and local knowledge toenter upper segment of the market

Use cost and innovation advantages toenter the Global Emerging Middle (GEM)

or enter the destitute segment

世界の新興中間層(GEM)または貧

困セグメントに参入するためにコス

トとイノベーションの利点を利用

市場の上位セグメントに参入するた

めに、イノベーションと現地の知識

を利用

これらの市場ではコスト圧力の強

まりが影響する可能性

中所得国の新興中間層

のニーズに対応

高所得国(10億人)

(>$12,000)

可処分所得の減少

人口

(百

万人

出典:IMFおよび世界銀行

中所得国(10億人)

($12,000-$4,000)

次なる40億人諸国(40億人)

($4,000-$1,000)

低所得国(10億人)

(<$1,000)

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「次なる40億人」市場から学ぶ12

インドの1兆ドル市場インドでは、2021年までに、新興中間層が1兆ドル(2010年の価格に基づく)の市場を構成することになると予測されている。これはインドのGDPのおよそ28%であり、6兆ドル程度と見られる世界の新興中間層市場のおよそ16%に相当する。

この人口セグメントは急速に膨らんでいるばかりでなく、その可処分所得の割合も増大しつつある。新興中間層の1年間の平均可処分所得は、2011年には1人当たり2,000ドルであったが、2021年には1人当たり2,190ドル(国際ドル)になると予測されている。

この消費者セグメントはほとんど手つかずであるため、企業にとって、先発者の優位性を確立し、早い時期にロイヤルティを築く大きな商業機会がある。

インドでは若者が主流.インドはまた、人口の年齢中央値が最も低く、ほかの新興国や先進国よりもデモグラフィー(人口統計学的属性)上の利点が大きい。現在、人口の58%が30才未満である。若者の識字率は73%(農村部では62.1%)であるが、高等教育の修了者は9.6%にすぎない。これはインドで熟練労働者の要件を満たす上で問題となっている。.

企業はこの成長する人口セグメントを無視することはできない。多くの企業は大まかに若者のグループをターゲットとしているが、若者、特に新興中間層の若者をもっと細かく分類し、より詳しく理解することにより、このセグメントに合わせた製品、.サービス、およびマーケティング戦略を開発する必要がある。

コストの戦士

インドは今後10年、労働.アービトラージ(安い労働力の提供)にとどまらない成長をするために、多くのイノベーションを行う必要があると私は考えている。

大手テレコム会社CEO

人口 高所得国10億人 中所得国10億人「次なる40億」

諸国低所得国10億人

所得レベル > $12,196 $3,946 - $12,195 $996 - $3,945 < $995

教育年数 14.5 13.8 10.3 7.9

都市人口(%) 78 74 41 27

携帯電話加入者(100人中) 106 92 47 22

インターネットユーザー(100人中) 68.3 29.9 13.7 2.3

自動車所有者(1,000人中) 435.1 125.2 20.3 5.8

出典:PwCの分析、世界銀行、IMF

ターゲットとする 人口

4000

3000

2000

1000

0

1,84324% share

28% share

India GDP

450

3,625

1,000

$ bi

llion

2011 2021

Emerging Middle Market size

大多数が農村に居住.2021年になってもインドでは依然として人口のおよそ67%が農村に暮らしていると予測されている。それは、企業にとって、マーケティング、販売、流通に関しほかにはみられない課題をもたらす。

インドでは、主として農村部からの移動、人口の自然増、新たな「都市」地域の拡大により、都市化が続いているのは確かだ。しかし、10年間の戦略的な視点に立つと、インド国民、特にその新興中間層は、大部分が農村にとどまると見られる。したがって、このセグメントに向けた戦略は、次の5つの主要な分野において、この現実から生じる独自の課題に対応する必要がある。•. 流通の有効性と費用効果

•. 組織化されていないセクターにおけるギャップ

•. 政府と政策の役割

•. 異なる社会経済状況

•. 価格と品質の間での異なるトレードオフ

10億

ドル

インドのGDP 新興中間市場の規模

全体の24%

全体の28%

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世界の新興中間層に向けた、収益力ある成長戦略 13

新しいバリュープロポジション(価値提案)

世界の所得ピラミッドの最上部の国のために考えられたバリュープロポジション(価値提案)は、ほとんどの場合、新興中間層のニーズに持続可能な形で対応できない。企業が中間層や上位中間層以上のために開発したバリュープロポジション(価値提案)に多少手を加えて新興中間層に適用したとしても、問題は解決しない。

問題の明確化と多様性の管理高所得層のために開発されたバリュープロポジション(価値提案)が適用できない理由の1つは、新興中間層の購買力と可処分所得が低いことであるが、もっと大きな問題はターゲットの絞り込みの不適切さだ。企業はこの消費者セグメントが直面している問題を詳細まで理解し、そのニーズに対応する革新的なソリューションを開発する必要があると私たちは考えている。

また、新興中間層を均質な単一の顧客グ.ループとみなすこともできない。地理(都市や工業団地との近さなど)、年齢、雇用状態、宗教、言語、性差に基づく違いは、企業にとって非常に大きな課題を突きつ.ける。

多様性という背景の中で問題を明確化することにより、企業は、消費者が必要とし実際に支払う意欲を持つソリューションを考案することができる。

広範な予備的調査を行った結果、私たちは、新興中間層向けの説得力のあるバリ.ュープロポジション(価値提案)を作り出すために考えるべき3つの主なテーマを提言する。

憧れに動かされるトレードオフ - 企業が提供するソリューションは、この消費者セグメントの憧れのレベルに結びついたものでなければならない。新興中間層は高所得層を満足させる製品やサービスを望むことが多いが、企業は購入の決め手となることが多い新興中間層に独特のトレードオフを深く理解する必要がある。持続的な成功のチャンスを最大にするのは、トレードオフを考慮に入れながら新興中間層の憧れの気持ちを満たすソリューションである。

低コスト以上の価値 - 新興中間層を引き付けるためには、大幅に低いコストで開発されたソリューションを低コスト製品というポジショニングで販売すべきだろうか。私たちの調査の結果は、このセグメントにとって低価格(またはそのほかの革新的な価格設定戦略)は不可欠であるが、ソリューションを成功させるためには、性能、憧れ、満たされていないニーズを中心としたポジショニングが必要だということを示している。

プラットフォームのカスタマイゼーション.- 企業は、カスタマイズが可能な基本的な製品、テクノロジー、ソリューションのプラットフォームを作り、時には提携先やユーザーコミュニティの助けを借りながらそれをカスタマイズすべきである。マス.マーケットのソリューションはその市場に最も適した標準化された一連の特徴を持つ必要があるが、新興中間層は多様性を特徴とするため、費用効果の高い形で実行されるカスタマイゼーションが求められる。

Chapter 04

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「次なる40億人」市場から学ぶ14

憧れに動かされるトレードオフ社会の原動力の変化、急速な都市化、メディア露出の増大、モバイルサービスの急増により、インドの人口のかなりの部分が新興中間層に押し上げられている。こうした要素は、同時に、上昇志向の製品やサービスの展開を強力に後押ししている。しかし、このセグメントの成人1人当たりの1日の収入は1.70ドルから5ドルにすぎず、かろうじてピラミッドの底辺より1つ上の階層に位置付けられている状態である。そのため、このセグメントの消費者は、自分の購買行動を決める際に独特のトレードオフを行わざるを得ない。

新興中間層の憧れの高まりインドでは、ここ数年、特に1991年に経済自由化が行われて以来、憧れに動かされる購入が急速に増加している。消費者の支出のおよそ20%が、必需品からそれ以外の商品やサービス、たとえば消費者耐久財.(白物家電、自動車、電子機器)、衣料品、飲料品、化粧品などに移っている。.

雑多な商品やサービス(公的制度外の医療費、消費者サービス、教育のための貯蓄など)に費やす支出の割合は、2010年度には15%であったが、2021年度には23%になると予測されている。

動きの速い消費者商品の主要プレーヤー.「マリコ(Marico)、ダブール(Dabur)、.パール(Parle)、エマミ(Emami)」

は、たとえば便利さや健康などに関連した消費者の大規模な需要と衝動的な購入が成長を推進すると考え、それらに大がかりな投資をしている。そのような取り組みの中心は価格設定の革新と流通戦略であるが、この調査の中で面談したCEOは、このセグメントの存続のニーズも考慮に入れながら、便利さと高級感に対応するイノベーションの重要性を強調した。.

憧れに動かされる購買行動は農村の家庭にも浸透しつつある。ある意味で、都市の憧れが農村の発想に入り込んでいるのである。たとえば、ボリウッド音楽の着信音、毎日配信される星占いの情報、SMSベースのコンテストへの参加など、携帯電話会社が提供する付加価値の高いサービスがインド農村部で大いに人気を博している。.

このように既存のプレーヤーがインドの新興中間層への浸透に成功する例は少なくない。たとえば、アパレルの分野では、このセグメントの消費者は有名な一流ブランドの類似品を購入する傾向がある。このグ.レーゾーンの市場が繁栄しているのは、偽造品の価格が手頃であるためだけではない。少なくともブランドに関する憧れを満たしてくれる製品が簡単に手に入れられるのも一因である。ゆえに、合法的な企業は2つの課題に取り組まなければならない。すなわち、手頃な価格で憧れを満たす製品をこのセグメントに届けること、および異なる経済、社会環境を考慮に入れながらこのセグメントの本当の需要を鋭敏に理解することである。

独自のトレードオフ生活の収支を合わせるのに苦労している人々が、スタイルを主張する携帯電話を買うと思うだろうか。あるいは、2021年までにインドの新興中間層のレクリエーションと娯楽の支出が3倍になると予測されていることを知っていただろうか。.

全ての消費者は自分の経済と社会の現実に基づいて何らかのトレードオフを行うが、新興中間層の消費者が行うトレードオフは直観に反したものであり、企業はこの特徴を理解することが不可欠だ。このセグメントの消費者の心の中で大きな部分を占めるのが生存(基本的な必要性)であるのは間違いないが、高級感、体面、利便性、娯楽性、子どもの教育も、不釣り合いに大きな割合を占めている。.

私たちの消費者調査に参加したムンバイのタクシー運転手、アラムは、子どもたちが良い学校に入学できるようにするため、食事を削ってお金をためた。しかし、彼の状況は見かけほど悲惨なものではない。アラムとその家族は、ムンバイの簡易アパート(chawl)に小さな部屋を持っているのに加えて、いくつかの耐久財(冷蔵庫、携帯電話、テレビ、ミキサーグラインダー)を持っている。アラムはムンバイに移住し、故郷の田舎にいる仲間たちに比べてそこそこ快適な生活を送っていることを非常に誇りに思っている。彼は、ほかと比べて自分が望ましい暮らしをしていることを、調査の間に何度も強調した。生活の向上を他者に示すのは、全ての所得セグメントで一般的に見られる現象である。

高級感、利便性、そして娯楽性が生存と同程度に重要であるならば、企業は、バリ.ュープロポジション(価値提案)を設計し、このセグメント向けのソリューションのポジショニングを行うとき、コストだけにとどまらない視点を持つことが必要で.ある。

それを実行したのがTata. Skyである。同社は、手の届く価格で憧れを満たす製品としてポジショニングすることにより、ケーブル事業者が支配していたインドのテレビ放送配信業界を破壊した。新興中間層の消費者の満たされていないニーズを見つけ出し、サービスを差別化してそのニーズを満たしたのである。

2021年の新興中間市場の規模*(10億ドル)

雑貨、サービス** 200-250

食品、飲料品 180-230

住宅、ユーティリティ 135-185

交通、通信 170-220

老人医療保険と医療サービス 60-80

衣料品 55-75

教育、娯楽 40-50

出典:PwCの分析;NSSO(全国標本調査局)

*PPP調整なし;**公的制度外の医療費、消費者サービス、輸送、冠婚

葬祭や高等教育のための貯蓄を含む

• 公的制度外の医療費

• 消費者サービス

• 輸送

• 貯蓄(冠婚葬祭、高等教育のため)

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世界の新興中間層に向けた、収益力ある成長戦略 15

Tata. Skyは、顧客のデモグラフィー(人口統計学的属性)上の特徴をつかみ、(ケーブルに比べて)高価なdirect - to -home.(DTH)サービスを導入した。このサービスによって、顧客は個人のデモグラフィー(人口統計学的属性)上の背景と結びついた選択肢、利便性、制御権を得ることができる。顧客にはそれぞれの地域のチャンネルパッケージ、すぐれた伝送品質、ActivやShowcaseなどの付加価値のあるサービスが提供される。また、支払いはインターネットや携帯電話で簡単に行うことができる。2010年、Tata.Skyの加入者の85%が更新料の支払いにインターネットか携帯電話を利用した。さらに、Tata. Skyは顧客サービスに新しい標準を作り出し、大きな投資をした。機器設置者のソフトスキルの訓練さえ行っているのである。.

このサービスは、小さな町に導入される前に都市部で開始された。その結果、製品を取り巻く憧れが生み出された。このサービスがついに小さな町にやってきたとき、都市の顧客に販売されたのと同じブランドと製品が低所得層の消費者に提供された。しかし、新興中間層の経済状況と「価値」の憧れを満たすために、最低料金パッケージの価格はかなり低く抑えられた。Tata. Skyは、これらの顧客向けの地域コンテンツの向上、およびハードウェア価格の着実な引き下げに重点を置いた。

低コスト以上の価値新興中間層を引き付けるためには、大幅に低いコストで開発されるソリューションを低コストの機能的な製品としてポジショニングするべきだろうか。私たちは、低価格(またはそのほかの革新的な価格設定戦略)はきわめて重要であるものの、このセグメントで成功しようとするならば、ほかの価値を中心としたポジショニングを行わなければならないと考えている。.

インドの主要なオートバイメーカーの1つであるBajajは、最近、農村の顧客向けに.“Bajaj.Boxer”という製品を発売した。.“Boxer”は荷物運搬能力が大きく、農村の道路にも強いという機能的利点(ターゲット消費者にとってどちらも意味の大きい特徴)を提供する150ccの(従来の製品よりもパワーが大きい)オートバイである。“Boxer”はオートバイのSUVと位置.

づけられ、パワー、スポーティな外見、機能的な利点という面でまさに男性消費者向けである。“Boxer”は発売以来、Bajajにとって最高の成功物語となっている。

代替品に勝る価値 .低コストだけを重視するのをやめ、機能や憧れといった側面にも着目するとき、企業は、消費者がどのような「仕事」をするためにその製品を「使用する」のかを理解しなければならない。多くの場合、新興中間層には豊富な代替品がある。価格の低さだけで代替品と競うのは難しいため、企業はほかの価値の次元を考え、それに合わせたポジショニングをしなければならない。消費者の「仕事」を明確化することが重要なステップである。製品開発の際に試金石となるのは次の問いである。自社の製品は代替品に比べて優れた性能を持っているか。それは人々の憧れを満たすか。それはこの消費者セグメントのトレードオフを考慮に入れているか。

新たなカテゴリー、新たな市場このアプローチからしばしば製品やサービスのまったく新たなカテゴリーが生み出される。インドの主要な冷蔵庫メーカーの.1つであるGodrejは、標準的な製品からいくつかの特徴を省くだけでは新興中間層向けの効果的な製品を開発することはできないと気付いた。そのような機能を削った製品は性能が劣るばかりではなく、ポジショニングもうまくいかない。「貧困者向けの冷蔵庫」を販売するのは難しいのである。

Godrejの消費者調査チームは、インドの新興中間層のニーズの把握に多大な時間をかけた。その調査から引き出されたポイントは、消費者は、食品、商品(購入者が果物屋や野菜の行商人といった小規模な事業者である場合)、および必需品を最大で二晩保存するために冷蔵庫を「使用」しているということであった。また、こうした消費者はしばしば住居を変えるため、移動可能性が重要な要件であった。加えて、停電への対応や通常の冷蔵庫を稼働させるのに必要なエネルギーの費用の高さも、潜在顧客が重視するポイントだった。.

こうした情報を得て、Godrejのエンジニアたちはマスマーケット向けに新しい冷蔵庫.“ChotuKool”を開発した。“ChotuKool”は狭い住居スペースにも置くことができる小型冷蔵庫(45センチ×60センチ)である。コンプレッサーの代わりに、コンピュータに使われるものに似た冷却チップとファンを使用している。これはインドでよく起こる電力サージや停電のときにも利用することができる。実際、すぐれた断熱性能のおかげで、数時間は電力がなくても中身を冷やしておくことができる。価格はおよそ80ドルで、この消費者セグメントの予算に適している。“ChotoKool”は「冷蔵庫」ですらないといえるかもしれない。少なくとも従来の意味の冷蔵庫ではない。しかし、ほかの製品や代替品では十分に対処されなかった消費者の問題を解決するという事実に比べれば、分類の方法は重要ではない.のだ。

大まかな価格の設定「価格が低すぎれば、人々は質の問題があるのだろうと考える。価格が高すぎれば、多くの消費者の手には届かない」と、.Bajaj. Auto. IndiaのCEO、K.. Srinivasは述べている。

言うまでもなく、この市場の価格設定を困難にしている要因は、この消費者セグメントが支出できる現金資金が不確実でかなり小さいということである。また、この市場では、価格は質を示す重要なシグナルである。確立されたカテゴリーに新製品を導入するとき、企業は大まかな価格の範囲からはみ出さないように努力すべきである。

ポジショニングの課題

Unmet needs?Prestige, convenience,and entertainment

Performance

Aspirations

Low cost低コスト

性能

憧れ

満たされていないニーズ?

高級感

利便性

娯楽性

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「次なる40億人」市場から学ぶ16

大まかな価格の範囲を決める厳格なルールはない。2008年にTataが2,000ドルという価格で“Nano”を販売したとき、市場は騒然となった。Tataは、インドの自動車セク.ターにおいて、二輪車の1,600ドルと大衆向け小型車のおよそ7,000ドルという価格の間に隙間があることに気づいていた。.そこで、新興中間層と中間層にとって手の.届く値段で、4人家族に適した車として.“Nano”を発売した。

現在、Tataはこのブランドをおしゃれな車としてポジショニングしなおすことによって、販売の流れを変化させている。“Nano”の新しい広告とマーケティングは、ターゲットとする消費者の憧れに訴えることに力を注いでいる。加えてTataは、新興中間層の消費者がやりくりできる現金資金に合わせ、頭金300ドル、5年間の月賦払いという支払方法を導入した。.

この市場での価格設定に決まったルールはないが、企業は自分たちが事業を行う環境を評価し、一定の原則に従うべきである。1.. 大まかな価格設定の影響を考察すること。その価格が何を示唆するかを理解する必要がある。

2.. 消費者の現金資金に合わせること。「1口サイズ」の支払いを考えよう。

3.. 価値と憧れに関連させて製品のポジショニングをすること。価格がきわめて魅力的ならば、価格で競争する必要はない。

プラットフォームのカスタマイゼーション新興中間諸国は多様であり、そのニーズがそれぞれ大きく異なっていることから、.ローカライゼーションにとどまらないアプローチが必要である。しばしば求められるのは、製品ソリューションの完全な再設計とリエンジニアリングである。しかし、あるソリューションを再設計し、地域や社会の違いを考慮してローカライズを行うとコストが跳ね上がり、事業を行うことが難しくなる。

この課題に対処するために、企業は、自社によって、また時には提携先やユーザーコミュニティの助けを借りながらカスタマイズすることができる、基本的な製品、テクノロジー、ソリューションのプラットフ.ォームを構築するべきである。マスマーケット向けのソリューションは標準化された一連の特徴を持つ必要があるが、新興中間層に売り込むためには費用効果の高いカスタマイゼーションが不可欠である。

ある国際的な電子機器のメーカーは、新たなテレビの製品ラインを投入することによってインド農村部に参入した。この会社は、農村部の市場でカラーテレビと白黒テレビのギャップを埋めるモデルとして、60ドルのカラーテレビを発売した。同社は品質の面で妥協することなく農村部の低所得層に合わせてコストを下げるため、バリ.ューエンジニアリングと設計のイノベーションに重点を置いた。製品が提供する特徴を減らし、費用効果の高い原材料を使って新製品を作り、製造コストを下げることによってこれを実現した。

この会社は製品のローカライゼーションにも力を入れ、この消費者セグメント向けにヒンディー語と地域言語によるメニューを導入した。さらに、農村部におけるテレビ信号の質の低さを克服するために、画像と音声の受信性能を高める技術的な特徴も取り入れた。

同社は、インドの農村部における生活水準の向上に合わせて農村向けテレビ製品ラインの価格を上げており、現在では競合会社よりも高い価格で販売している。価格の違いにもかかわらず、コストを超えて「提供される価値」のため、この製品ラインの売れ行きは好調である。

この市場における不均質性に費用効果の高い方法で対応するために、完全に再設計したカスタマイズ可能な「プラットフォーム」のソリューションを作り出した企業の例はほかにも数多い。.

こうしたソリューションは、人々の憧れを満たし、製品の適切なポジショニングをすることに加えて、次の重要な要求の少なくとも1つに対応すべきである。

1. 情報の要求:情報の非対称性を解消すること たとえば、インドのコングロマリットであるITCは、農民の意思決定力を向上させるために、E -集会所(e-chaupal)の取り組みを通してリアルタイムの情報とカスタマイズされた知識を農民に提供するプラットフォームを作った。このプラットフォームにより、ITCは農民に有益なデータを届け、その便益を強化している。.

2. サービスの要求:製品サポートを提供すること ムンバイに本社を置く携帯電話会社Idea.Cellularは、アフターサービスに力を注いでいる。顧客が家から30分以内にどこかのサービスセンターに到着できるようにするため、全国に2,000カ所のサービスセンターのネットワークを築いている。このサービスにより、同社は顧客との間に親密な関係を築き、顧客の満足度を高めることに成功している。

情報へのアクセス

熟練労働力を得るのは難しいため、規模の調整には.データと決定支援のシステムが不可欠である。もし.非熟練労働力を用いる必要があるならば、それを可能にするシステムを提供しなければならない。

病院グループのプロモーター

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世界の新興中間層に向けた、収益力ある成長戦略 17

3. 質、値ごろ感、アクセスの容易さの要求:より多くの人が使えるようにすること. General. Electricの構成企業の1つでイギリスに本社を置くGE. Healthcareは、ベビーウォーマー保育器により、母親と新生児の新たなケアを提供するチャンスを見出した。このベビーウ.ォーマーは、「地方のソリューションを通して品質とアクセスを改善しながらコストを削減する」ことを目指す、GEのヘルシーマジネーション(healthymagination)イニシアチブの一環である。.

つまり、インドの消費者、そしてより広く言えば「次なる40億人」諸国の新興中間層の消費者は、自分たちの金銭に見合う価値を求めているのである。彼らがどのような価値を求めているのかを十分に理解し、そのニーズに確実に対応する費用効果の高いソリューションを作り出せるかどうかは企業次第である。

ほかの次なる40億人諸国における.妥当性新興中間層に対応する新しいバリュープロポジション(価値提案)を開発しなければならないという課題は、「次なる40億人」諸国全体に共通している。.

インドのこのセグメントを対象に事業を行っている企業の教訓と経験は、アフリカでこのセクターに参入する会社にとって特に重要である。インドと同じく、アフリカ諸国の新興中間層は若く、自分たちのニーズに対する意識を高めつつあり、多様で、地理的にも拡散している。

コストのポジションを超えて低価格は考慮しなければならない点だが、インドの市場は複雑である。最近のインドの消費は、低価格を求めながらも、快適さや高級感を犠牲にはしない。

自動車会社副会長

国際的なケーススタディ“Bajaj Boxer”:インドのイノベーションをエジプトへ最近、Bajajによるインドでのイノベーションがエジプトの市場に応用された。インドの新興中間層のために開発されたオートバイ、“Bajaj. Boxer”は、現在ではエジプトの新 興 中 間 層 の ニ ー ズ に 対 応 し て いる。“Boxer”は憧れを満たす製品であると同時に実用的であるとみなされており、消費者の取引や仕事に役立ち、生活を向上させる製品であると考えられている。

“Boxer”は、競合製品よりも出力が大きい150ccのエンジンを備えているのに加え、燃料効率がよく、環境に優しいExhausTecの技術を採用している。このオートバイは、エジプト市場における、荒れた道路状況でも安全で、安定性が高く、揺れず、信頼できる製品への需要に合わせて開発された。それまで、エジプトで販売されていたオートバイは振動が激しく、エンジンが.オーバーヒートしやすく、騒音も大きく、非常に信頼性が低かった。Bajaj.Autoによって行われた調査の結果、この市場で販売されている中国ブランドに代わるよりよい.オートバイが求められていることが明らかになった。

Bajaj. Autoがその候補としたのは、「問題のない」オートバイとして同社が販売していた“Boxer”であった。同社は、このオートバイの強みと質の高さを示すために、Bajajマラソンを開催した。15人のライダーが13日間、ピラミッドのふもとから出発してエジプト全国2,500キロを走り、潜在顧客にこのオートバイを印象付けた。.

Bajaj. Autoはこのオートバイの組立と販売を行うために、エジプトの自動車業界最大.手のGhabbour.Autoと提携した。Ghabbour.Autoは全国に大規模な支店ネットワークおよびディーラーネットワークを持って.いる。

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「次なる40億人」市場から学ぶ18

背景GE.Healthcareは、ベビーウォーマーを販売するために、ある非営利組織と世界的な提携を結んだ。ベビーウォーマーは小さな寝袋のような形をしており、乳児を数時間暖かく保つのに役立つ製品である。GEは2011年前半にインドでこの製品を発売し、その後、世界のほかの地域に展開.した。

顧客についての知見GEは、インド農村部の価格の限界に適合する低価格のベビーウォーマーを発売し、その消費者リーチを拡大するために混合型の流通モデルを採用している。ベビーウォーマーはマスマーケットの要求を満たすためにリエンジニアリングされた。2万ドルもする一般的な保育器の1パーセント以下の価格であり、常時電力が供給されなくても機能する。この製品は、早産児と満期産.(低体重)新生児をケアするために考案された。

革新的な戦略バリュープロポジション(価値提案)新生児の死亡と病気の主な要因の1つは低体温、すなわち深部体温が35℃以下になることである。このベビーウォーマーは、寝袋、蝋で密閉された小袋、ヒーターの3つで構成され、新生児をくるむ寝袋にある仕切りの中に温めた蝋の小袋を入れる仕組みになっている。このウォーマーに用いられているのは、仕切りに入れる蝋を温める技術である。この小袋は電気ヒーターで温められ、乳児の生存のために必要な37℃になる。この蝋の小袋のおかげで、寝袋は最長4時間暖かさを保つ。また、再加熱が必要な時にそれを知らせる表示器がついて.いる。

ビジネスモデル .GEのベビーウォーマーは、「地方のソリ.ューションを通して品質とアクセスを改善しながらコストを削減する」ことを目指す、 G E のヘルシーマジネーション(healthymagination)イニシアチブの一環である。

GEは、ベビーウォーマーのコストを削減するために、乳児の脈拍をモニタリングするソフトウェアといった高度な装置を除き、体重を測定するデジタル体重計とデータを示すための液晶モニターをつけた。同社は、現地のニーズを理解することによって、これを単純ではあるが強力な製品にした。インドの新興中間層では、幼児の50%~60%が水を介して黄疸に感染するため、その治療装置を取りつけたのである。また、GEは、西洋のモデルとは大きく異なるコンポーネントを用いている。たとえば、電気がなくても4時間新生児の体温を保つために、温度を調整する蝋を使用して.いる。.

GEはデザイン思考とエンド・トゥ・エンドのソリューションに導かれたアプローチを採用した。同社は、乳児死亡率を下げるというより大きな責務を着実に果たしている。そのためにユーザーの教育にも投資しており、医療センターから自宅に戻った乳児の健康管理を行うために第三次医療機関の技術者の訓練を行っている。

GEは独自の販売ネットワークと提携による流通ネットワークの混合モデルを採用し、まったく新しいチャネルの開拓を行っている。自社の流通ネットワークを用いて、インド農村部の第三次医療機関にベビーウ.ォーマーを販売する一方、差別化された技術(省エネ技術)を利用するためにサンフランシスコに本部を置くNGOと提携した。また、ジョンソン&ジョンソンとの提携によってその流通ネットワークを生かし、3,000店から4,000店に及ぶ同社のディーラーを活用した。

発想の転換GEは、まずインドの新興市場でこの製品を発売し、その後、世界的に販売を拡大していくという戦略を取った。

また、GEは質を落とすことなく、手頃な価格で消費者の要求に合った製品を導入することに成功した。

さらに、GEは効果的なコスト構造と破壊的テクノロジーを取り入れ、消費者と自社の両方にとっての価値を付加するために、小規模な非営利組織と効果的な提携を結び、協力して取り組みを行った。

ベビーウォーマーを通して、GE.Healthcareは、地方へのアクセスを強化し、乳幼児の死亡率を下げながら、母親と乳幼児のケア事業を発展させる機会を得ることができた。国連ミレニアム開発目標(MDG)の達成を目指す同社は、「2015年までに5歳未満の乳幼児の死亡率を3分の2に削減する」というMDG4に焦点を絞って事業活動を行っている。

ケーススタディ GEのベビー

ウォーマー

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世界の新興中間層に向けた、収益力ある成長戦略 19

革新的なビジネスモデル

新興中間層への売り込みを望む企業は、新しいバリュープロポジション(価値提案)を構築することに加えて、ビジネスモデルおよびビジネスプロセスを作り変えなければならない。従来のモデルでは、幅広く多種多様な新興中間セグメントに対応するという努めを果たすことはとてもできない。同時に、企業は定期的に技術革新を行い、そうした技術を活用して新興中間層の消費者に製品、サービスを提供し、規模の経済を確保する必要がある。.

私たちの調査によると、新たなビジネスモデルは、新興中間層にアクセスするために、協調的なエコシステムを創出し、モジュールによって規模を達成し、普通でないアプローチを採用しなければならない:

エコシステムの協調 ―. 組織化されていないセクター、政府、およびそのほかの利害関係者との提携は、新興中間層を多く抱える国でビジネスを行うのには極めて重要だ。このセクターにおける制度や市場の空白を埋める、あるいは克服するためには、エコシステムの創出が不可欠である。.

モジュール式の規模 ―. このエコシステムにおいては、組織はモジュラーアプローチを取り入れる必要がある。このアプローチは物流の効率を高め、コストの低減をもたらし、企業にとっても消費者にとってもメリットがある。最初から規模の経済を目指すこと、および需要を集約することは、事業で利益を生み出すためには欠かせない。

賢い消費者リーチ -. 新興中間層市場の多様性に対処するには、クラスターアプローチが求められる。同時に革新的な流通および資金調達のメカニズムも必要だ。さらに、適切なテクノロジーとオフラインによる働きかけが、消費者に重要な機能を提供するためには重要である。

エコシステムの協調協調によって制度の空白を克服

新興市場には制度の空白があるものの、顧客に対するバリュープロポジション(価値提案)を構築し、それを実際に提案していく必要がある。そのような制度の隙間は数えきれないほど多く、また深刻で、政府による規制、物流、輸送、金融市場、資本市場、サプライチェーンの成熟度、IP管理、労働市場などさまざまな分野に影響を及ぼしている。私たちは、機能的な規制の枠組みがないことが、インドのような新興国における成長の大きな障害になっていると企業のCEOたちが繰り返し指摘しているのに気が付いた。ほかにインフラの不備、サプライチェーンの欠陥、技術不足、および教育の質の問題などが、理由として挙げられている。

そのような課題を克服するために、企業は協調的なエコシステムを作り出さなければならない。協調的なエコシステムによって、空白を明らかにして、そこを埋める、あるいは空白を回避する方法を見つけるのである。

Nokia. Moneyはフィンランドの情報通信会社Nokiaの金融部門である。Nokia. Moneyは、他社に先駆けてインドで基本的な財務管理と携帯電話料金の支払いサービスを提供することを決めたが、その際に新たなエコシステムを構築する必要性に迫られた。当初、同社はObopay(オボペイ)の技術を利用してサービスを提供し、その後他社の決済システムとの相互利用を可能にした。携帯電話事業者および金融機関と提携して業務を行うことを目的としていたため、Nokia. Moneyは代理店や販売業者をダイナミックなエコシステムの中に取り込んで、消費者に新しいサービスをシームレスに提供し、その結果市場の空白に打ち勝つことができた。

Chapter 05

制度の空白

•規制•物流、輸送•金融市場、資本市場•サプライチェーンの成熟度•IP管理•労働市場

大規

模な

組織

化さ

れて

ないセクター

Institutional voids

Understand and build ecosystemsCreate

value withinthe system

Extractpart of the

value

Larg

e U

norg

anis

ed S

ecto

r

• Regulatory

• Logistics and transportation

• Credit and capital markets

• Supply chain maturity

• IP management

• Labour markets

Create value within a system or bringsources of value from outside

エコシステムの理解および構築

システム内に

おける価値の

創出

Institutional voids

Understand and build ecosystemsCreate

value withinthe system

Extractpart of the

value

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ctor• Regulatory

• Logistics and transportation

• Credit and capital markets

• Supply chain maturity

• IP management

• Labour markets

Create value within a system or bringsources of value from outside

源泉をもたらす

システム内における価値の創出、または外部から価値の

価値の一部を

抽出

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「次なる40億人」市場から学ぶ20

組織化されていないセクター組織化されていないセクターが、地域の.ニーズを最もよく理解している。そのため、外部から新規参入する企業は、消費者の信頼を得るために協調的なモデルを展開してきた。インドでは8割を超える労働者が組織化されていないセクターに属しており、国内純生産のおよそ60%を占めている。組織化されていないセクターは基本的に「従業員が1名の企業」からなるため、多くの場合効率的ではあるが測定するのが難しい。

企業セクターは組織化されていないセク.ターといかに協調するかを学ばなければならない。そうした取り組みによって、とてつもない価値を創出することができるか.らだ。

1つには、組織化されていないセクターにおける重要なプレーヤーの多くは新興中間層に属しており、消費者の信用や信頼の代理人の立場にある。たとえば、Bajaj. Autoは、“Boxer”(オートバイ)の販売促進のため300人のsarpanch(村長)と接触を図り、オートバイの製造工程を彼らに公開した。その結果、“Boxer”に対して極めて強力な口コミによるサポートが得られた。

また、協調によって代替品、とりわけ偽造ブランド品の脅威を減らすことができる。銀行およびマイクロクレジットを利用して、より多くの消費者が「本物」を購入できるようになる。.

まさに、組織化されていないセクターをまとめることで、効率性の大幅な向上など、消費者にとっての価値が多くの方法で生み出される。一例を挙げると、携帯電話を介した金融取引処理は、それまでの地元の貸付業者との取引に比べて多くの強みがある。最後に、組織化されていないセクターは地域のニーズを非常によく理解しているので、組織化されていないセクターの主要な主体が新規参入者にやり方を示すことができる。全国規模の小売りチェーン、そして地域の小売りチェーンは、キラナと呼ばれる(家族経営の)雑貨屋のような小規模の地元商店との関係を築くことで、大きなメリットがある。.

賢い消費者リーチ

資金調達によって、製品を消費者のもとに届けることが可能になる。市場を開拓しなければならないなら、消費者の財力を把握し、異なる販売モデルを採用する必要がある。

自動車会社副会長

官民パートナーシップ(PPP)新興中間層の取り込みに成功した企業は、組織化されていないセクターとの協力に加え、政府とも協調して取り組む必要があることを学んでいる。しかし、政府との協調は必ずしも容易ではない。

これまで、発展を続けるPPPモデルはインドの以下のセクターにおいて実施された。•. 貧困層を対象とした医療サービス.

•. 技能開発教育.

•. サービスを効果的に提供するためのインフラ開発

民間セクターと政府セクターは、それぞれに異なる資産および能力を出し合う。民間セクターは、業界スキル、資源、テクノロジー、資本、技術革新を提供する。対する政府は、明確な法律、シード資金、決済システム、行政機構などの分野で協力することができる。

PPPモデルによるメリットを享受できる事業セクターはもっと増えるだろうし、政府は、購買者、チャネル、橋渡しとしての役割を果たし、新興中間層の需要に影響を与えることも可能だ。

この市場の規模が巨大であることを考慮すれば、企業はエコシステムの構築に協調し、投資するより他ない。組織化されていないセクター、政府、およびそのほかの主要な利害関係者と連携した取り組みによって、企業は制度の空白を克服できるだけでなく、賢い消費者リーチおよび規模の経済を達成することもできる。

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世界の新興中間層に向けた、収益力ある成長戦略 21

モジュール式の規模モジュール設計と規模の経済協調的なエコシステムを構築すれば、プロセスの効率を向上させることにより、企業は規模の経済を実現できるようになる。モジュール式のビジネスモデルは企業ばかりでなく消費者のコストも下げることが可能で、最大のリーチを提供し、成長を支えることができる。

モジュラーアプローチは、配送、物流コストを最小限に抑えながら最終顧客へのリーチを最大化し、最終顧客との接近を図ることで組織の力になるだろう。顧客の立場から見れば、モジュラーアプローチは、製品のアップグレードや交換を容易にし、全般的な保守およびサービスを向上させることによって、製品のダウンタイムによるコストを最小化する。

Narayana病院を設立したDevi. Shetty医師は、規模の経済と専門化を併せて活用して心臓手術のコストを徹底的に減らした。.Narayana病院は、手術機器が高頻度で使用され、外科医の腕が上がる特定の手術に特化することで、効率的な手術を無理のない費用で提供できる。Narayana病院はインド、アフリカ、およびマレーシアの病院とビデオおよびインターネットで接続され

ているので、ベテラン外科医が経験の少ない医師にアドバイスすることが可能だ。同病院はまた、近隣の農村にある病院で「移動診療所」を運営し、心臓疾患の検査を行っている。冠動脈バイパス手術から30日以内の死亡率を見ると、Narayana病院は1.4%であるのに対し、アメリカは1.9%である。そうした低い死亡率を実現しながらも、同病院は、一般的な心臓手術のコストを50%以上カットすることができた。

Ease of upgradesand Replacements

• Upkeep with relevant offerings• Quicker replacements• Availability• Maintenance and services

MAX

IMIZ

E

Opportunity costs

• Opportunity costs of downtime of product/services for the consumer• Distance from service centre

MIN

IMIZ

E

Reach

• Proximity with end consumer• Rural penetration• Focus on service component

MAX

IMIS

E

Delivery Costs

• Minimize delivery and logistic costs• Supply chain efficiency• Deep procurement

MIN

IMIZ

E

WHYMODULARITY?

需要の集約費用効率の高い方法で需要を集約することは、拡張可能で収益性の高いビジネスモデルにとって不可欠だ。新興中間層の個々の取引が小規模になるのは避けられないと思われるため、需要の変動を判断し、供給計画を固め、リスクに関する意思決定を行うために、需要の集約は必須であり、また多くの場合、ほかの利害関係者を関与させる有効な手段としても役立つ。需要の集約に関連するのは以下の要素である。•. 需要のバンドリング.―.消費者需要を集約し、1つのまとまりとして扱う

•. リスクの相互担保化.―.ポートフォリオリスクを最小化する

•. 需要の予測可能性.-.需要を概算し、それによって最適なサプライチェーンのための在庫管理を行う

•. 非公式なプレーヤーとの提携.―.非公式チャネルとの協調によって、需要を最大化する.

•. 供給面の集約. ―. 供給面の無駄をなくし、供給を集約することで、可能性を高め、事業活動の効率化を図る

なぜ モジュール式の

ビジネスモデルが必要なのか?

最大

最小

化最

小化

最大

製品のアップグレードおよび交換が容易

•適切な提供を維持

•製品交換の迅速化

•入手可能性

•保守、サービス

最小

機会費用

•消費者にとっての、製品/サービスのダウンタイムによる機会費用

•サービスセンターからの距離ス

最小

配送費

• 配送、物流コストの最小化

• サプライチェーンの効率

• 大規模な調達

最大

リーチ

• 最終顧客への接近

• 農村への浸透

• サービスの構成要素を重視達

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「次なる40億人」市場から学ぶ22

賢い消費者リーチクラスターアプローチ新興国の新興中間セクターは地域による多様性が計り知れないため、リーチを最大にするためには「クラスター」アプローチが必要だ。クラスター化は、経済性志向、取引の流れ、移動パターン、所得、デモグラフィー(人口統計学的属性)といったさまざまな基準に重点を置いて行うことが可能である。

一例を挙げれば、Nokia. Moneyはインドの移動クラスターを1年かけて分析し、特定のクラスターをターゲットにカスタマイズした広告およびサービスを提供した結果、最適な費用で新たな顧客を獲得することができた。

クラスターアプローチによって、セグメントのマーケティング、流通、資金調達、需要、テクノロジー、および情報ニーズの分析を介して、消費者の行動および嗜好を理解することができる。

協調的な流通メカニズム協調的な流通のメカニズムは、適正な費用で製品やサービスを供給するという課題を解決するのに重要だ。企業独自の流通チャネルだけに頼っていては、新興中間層市場では一般に桁違いの費用がかかる。リーチを妨げることは言うまでもない。それをやめて、企業は既存のプレーヤーがもつ流通ネットワークを利用した方がいい。地域の非公式チャネルを見つけることも、やはり重要だ。.

インドの電気通信会社Bharti.Airtelは、.Godrej、Unileverといった消費者製品メーカーがもつインド全体を網羅する流通ネットワークを活用することを決めた。インド農村部への浸透を図るために、Bhar t i.Airtelは大手マイクロファイナンス機関と手を結んだ。両社の提携により、消費者は月々85ルピーずつ25回の分割払いでNokia1650を購入することが可能になった。Bharti. Airtelはさらに肥料製造を行うインド農民肥料協同組合(IFFCO)とも共同の取り組みを行い、小売店を介して提携加入者識別モジュールカードを販売し、市

クラスター基準   種類

場価格、農業技術、天気予報、肥料の利用可能性についての音声による最新情報を無料で農民に提供した。.

一方、Bajaj. Autoは、地方のある組織を利用して、ニーズを満たす新たなチャネルを構築した。同社が製造するオートバイ(“Boxer”)を農村地域で販売するために、Bajaj. Autoは地元の認定サービスセンター代理店と提携関係を結び、それらの代理店をサブディーラーにした。サブディーラーは地域の経済状況をよく把握しており、信用度の判断にも優れていた。その上、代理店は地域社会からの信頼も厚く、その信頼がやがては“Boxer”ブランドに対する信頼へとつながっていった。

地元における資金調達私たちの調査の結果、資金の貸し手と新興中間層の借り手との間にある情報の非対称性が、借り入れコストを著しく上昇させることもわかった。借り手が信頼を築き、借り手の事業の性質を認めてもらうのには、時間と努力を要し、コストもかかる。そのために、金利が高くなるのである。

このような空白は、マイクロファイナンスを活用し、3つの根本的な方法で埋めることができた。第1に、マイクロファイナンス機関は借り手をひとまとめにし、リスクを担保するだけでなく、取り決めを行って借り手がお互いに監視し合うようにした。第2に、マイクロファイナンス機関は、債務不履行が発生した場合、これ以上の融資は行わないという警告を出した。第3に、マイクロファイナンスは構造的な返済メカニズムであるために、非公式な融資制度よりも柔軟性に欠けていた。しかしながら、返済の点からみて柔軟性が欠如しているということは、新興中間層の消費者にとっては今も重要な問題である。そのため、地元の貸付業者が今でも主要な借り入れ源になっている。.

地元の金融業者に権限を与えるというのが、選択肢としてはより良いことが、調査から明らかになっている。貸し手の側に信用判断を課すことにはなるものの、消費者

Economicorientation

• Services vs. Manaufacturing• Agriculture• Infrastructure and connectivity

• Direction and pattern of trade flow• Nature of trade• Trade hubs/SME hubs

• Rural to urban/semi-urban• Migration to SME hubs• Reverse direction of money transfers

• Distribution• Disparity• Human development indicators

• Language• Ethnicity• Networked (e.g. mobile penetration)

Cluster apporach:1. Marketing, distribution2. Demand analysis3. Financing4. Technology, system design5. Information relevance

Trade flows

Migration patterns

Income

Demographics

In India, migration from rural tourban areas tends to followa predictable geographicpattern. While migration tocenters of trade and SMEclusters occur from ruralareas), the remittance flowtends to be reverse.

Nokia Money conductedaoneyr+ analysis on suchmigration clusters in India,and targeted specific clusters with customisedadvertising and services – acquiring more customerswith optimised spend

Demographics

経済性志向

取引の流れ

移動パターン

所得

デモグラフィー(人口統計学的属性)

• サービス業対製造業

• 農業

• インフラおよび接続性

• 取引の流れの方向、およびパターン

• 取引の性質

• 取引のハブ/SMEのハブ

• 農村から都市/準都市へ

• SMEハブへの移動

• 送金とは反対方向

• 分配

• 格差

• 人間開発指数

• 言語• 民族性• ネットワーク化(例:携帯電話

の普及率)

消費者行動および嗜好

クラスターアプローチ1.マーケティング、流通

2.需要分析

3.資金調達

4.テクノロジー、システム設計

5.情報の妥当性

インドでは、農村から都市部

への移住は予測可能な地理的

パターンにしたがって起きる

場合が多い。人は農村から商

業中心地およびSMEクラス

ターに移動するのに対し、送

金の流れは逆になる傾向に

ある。

Nokia Moneyはインドにおける

そのような移動クラスターを

1年超にわたって分析し、特

定のクラスターに絞ってカス

タマイズした広告とサービス

を展開し、最適な費用でより

多くの顧客を獲得することが

できた。

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世界の新興中間層に向けた、収益力ある成長戦略 23

にとっては柔軟性が高まるからである。この選択肢にはけん制機能を設け、略奪目的の融資が行われないようにし、また地方の代理店が必ず「投資する」ようにしなければならない。

現実は厳しいもので、新興中間層に属する消費者は資金繰りに苦労している。彼らが憧れるようなバリュープロポジション(価値提案)を推し進めるためには、適切な資金調達メカニズムが鍵となる。

しかしながら、そのようなメカニズムが十分な保護措置を備えていなければ、企業は自らがリスクを負担して対処しなければならない。Bajaj.Auto.Financeは損失を被ったが、新興中間層はお金に余裕がないだけでなく、公式な融資による資金の供与を受けられないということに気が付いた。そこで同社は直接集金(DCC)モデルを考案し、同社のオートバイを購入する際の資金調達を容易にすると同時に貸倒率を低く抑えた。DCCモデルで、消費者に対し購入後に同社の一元窓口となるのが、認定サービスセンター(ASC)である。ASCのオーナーは地元の企業家で、購入者の信用度を判断する責任を負う。ASCオーナーはまた、購入者の金銭面の状況に関する個人的な認識を基に、「債務不履行させる」権限を付与されている。貸倒率は現在1%を切っており、損失は2%~3%前後と大幅に減少.した。

テクノロジーとオフラインによる働きかけ適切なテクノロジーとオフラインによる働きかけも、新興中間層を対象にしたビジネスモデルにおける重要な要素である。テクノロジーによって、重要な消費者の特徴をカスタマイズして製品やサービスに反映し、多様な新興中間層の適切なニーズを満たすことが可能になる。テクノロジーは次のような役割を果たしている。•. 言葉の壁や地域的な障壁を克服する

•. 異なる産業を結びつける

•. 高性能システムを構築する

•. 教育および非熟練労働者の活用を行う

•. 情報へのアクセスを提供する

•. サプライチェーンを管理する

テクノロジーを活用したITCのE-集会所(e-chaupal)の取り組みは、作物価格、天候、科学的な農業のやり方、農民の同輩グループ、および土壌試験サービスに関する有益な情報を農民に提供し、その購買力を向上させた。クアラルンプールに拠点を置く病院チェーンのColumbia. Asiaでは、より優れたシステムの構築にテクノロジーが利用された:医療記録と検査所見報告書を全部デジタル保存し、インド、インドネシア、マレーシア、およびベトナムにある全てのColumbia. Asiaの病院に勤務する医師がコンピューターでアクセスできるようにした。Columbia. Asia病院でかかる医療費は、同じサービス地域にある同様の病院に比べて15%~20%安い。

しかし、テクノロジーだけでは新興中間セグメントに効果的なサービスを提供するには不十分である。従来型のインフラで、それを支えなければならない。信頼を構築し、消費者に教育や経験を提供するためには、オフラインによる働きかけが必要だ。そうした教育や経験は、今や手に入れられるようになりつつあるさまざまな製品や.サービスを最大限に活用するため、消費者が求めているものである。

Nokia. Moneyは、オフラインによる働きかけを用いて見込み顧客に教育を行った。Nokiaはソフトウェアのモバイルマ.ネー(Mobile. Money)を導入するのにあたって、自営およびフランチャイズの小売業者(30万超)、ならびに銀行と提携し、小売業者や銀行の実店舗をそのような働きかけの場所として活用した。.

ある国際的な電子メーカーは段階的アプ.ローチを採用して町や村への進出を図り、大規模チャネルをサポートすることができない、辺鄙な小さな町にオフィスを構えた。ほどなくして同社は全国に4,000近くの営業所を網羅した販売ネットワークを張り巡らせた。.

同様に、ITCが村に施設を置いたことが、E-集会所の取り組みが成功した決定的な要因である。ITCはおびただしい数のインターネットキオスクを設置した。管理は村の農民が行っている。キオスクは最新の情報を農民に提供するのみならず、イン.ターネットの使い方を教える教育の場としての役割も果たした。このようにしてITCは信頼を勝ち取ったのである。.

ほかの次なる40億人諸国における妥当性インドで開発された新興中間層向けのビジネスモデルが持つ革新的な要素の多くは、ほかの次なる40億人諸国にもそのまま適用できる。.

協調的なエコシステムの必要性は、インド同様中国やアフリカでも高く、国や地方自治体との連携から得られる価値もやはり大きい。このセグメントの多様性、および膨大な顧客数を常に意識しながら、企業が規模の経済を達成し、どの国で事業を行うかに関わらずモジュラー設計を採用することの重要性がますます高まっている。

中でもビジネスモデルの1つの側面である賢い消費者リーチは、複雑な寄せ集めであるアフリカ市場にとって適切だ(セクションVII、XXページを参照)。インドの場合と同様に、アフリカ諸国で現地のプレー.ヤーやネットワークと提携する企業は、より速く、より効率的に顧客を獲得できる。

オフラインによる働きかけ

適切なテクノロジーとオフラインによる働きかけは、新興中間層を対象にしたビジネスモデルにおける重要な要素である。

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「次なる40億人」市場から学ぶ24

国際的なケーススタディボーダフォンのM-PESAサービス(ケニア).アフリカの新興中間層が近年世界中の大企業の注目を大いに集めている。世界最大の小売業者であるWalmartは、アフリカの13カ国に店舗を持つ南アフリカの小売業者マスマートを買収し、アフリカに基盤を構築した。同じように、Bharti. Airtelは携帯電話セクターの成長を有効に活用するため、クウェートに本拠地を置く携帯電話通信会社Zainの事業を買収した。

アフリカの新興中間層市場におけるイノ.ベーションが最も成功したのは、ケニアのM-PESAである。M-PESAはイギリスの大手携帯通信会社ボーダフォンが提供するサービスだ。ボーダフォンは、ケニアにおける携帯電話事業の急成長をうまく利用することに成功した。M-PESAは、携帯電話を利用した顧客向けの送金サービスで、既存の送金方法では満足させることができなかったニーズを満たした。それまでも農村地域ではPostaPayというサービスを使うことができたが、効率が悪く、現金が不足するという不満の声が聞かれていた。M-PESAが導入したモデルは、より迅速、安価、安全、かつより便利であった。

確実に成功させるために、M-PESAモデルはまず試験的に導入され、マーケティングチームと技術チームが協力して取り組みを行い、使いやすい製品を完成させた。製品はマスコミによって積極的に宣伝され、.サービス代理店のネットワークを活用したオフラインによる方法によるサポートを受けた。.

インドに進出したNokia. Moneyの事例と比較すると、M-PESAは、ケニアに数多くいる、増加を続ける銀行サービスを受けていない人々をターゲットにして、送金手数料を低く設定し、農村地域で幅広く利用可能なサービスを提供することによって成功を収めた。顧客基盤は、2007年4月の5万2000人からわずか3年後には967万3000人へと急拡大した。.

満たされていないニーズ

M-PESAは、既存の送金方法では満足させることができなかったニーズを満たした。

賢い消費者リーチ

より迅速、安価、かつより便利なモデル。送金手数料を低くし、農村地域で幅広く利用可能なサービスを提供する。

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世界の新興中間層に向けた、収益力ある成長戦略 25

背景わずか5年ほど前、インドの医療インフラは、テクノロジー、有能な人材、および資本の著しい不足に苦しんでいた。CTスキャン(CT)や磁気共鳴映像法(MRI)を行うための高性能の診断装置がないため、外科手術を始めとする治療が遅れる場合がほとんどだった。多くの患者は間違った診断を受け、痛ましい結果を招くケースもあ.った。.

2007年にインド医療評議会(MCI)が新たな規制を設けると、状況は変わり始めた。それ以降、放射線診断法として知られる放射線学で大学院の学位を与えるインドの全ての教育病院は、CTおよびMRI設備を置くことが義務付けられた。

新しい規制に対応するため、Bangaloreに拠点をもつITサービスコンサルティング会社のWiproはGEHealthcareと協力し、インドの教育病院に質の高い画像診断センターを低コストで建設するという構想に参加した。取り組みは官民提携(PPP)の形をとり、最初の診断センターはJabalpurの国立医大病院に創設されることになった。.

顧客についての知見Wipro.GEは主要な利害関係者を消費者、政府、および政府の医療規制当局、ならびに病院とした。

パートナーシップの目的は、これら3つの利害関係者のニーズを満たすことにあった。消費者には、高品質かつ迅速ながら安価な医療を提供する。政府および規制当局には、大規模な投資資本、および民間セクターの専門知識を利用できるようにする。そして病院には、熟練労働力、および最新設備の最高のメンテナンスを安定的に供給する。

革新的な戦略バリュープロポジション(価値提案)WiproとGEは提携し、政府入札に参加した。政府の入札はMCIによる規制の結果行われることになったもので、入札により最新のCTやMRI設備を提供する。機械の販売に加え、Wipro.GEは貧しい患者のために治療費を30%~50%低減することを目標とした。Wipro.GEの見解では、設備を設けることはソリューションの一部にすぎない。主要な消費者ニーズが同時に満たされなければ、新しい装置の利用率は低いものになってしまう。

ビジネスモデルWipro.GEは政府機関および医療サービス提供事業者と提携を結んだが、それが収益を上げることができるエコシステムを創出.するのに役立った。Wipro.GEは、テクノロ.ジーを提供し、設備の設置やメンテナンスを担当してPPPプロジェクトのかじ取りを担うと同時に、医療サービス提供事業者を説得してインフラを構築した。画像診断センターは政府が無償で提供した土地に建設された。業績リスクはWipro. GEが負い、.サービス提供事業者は臨床的リスクを負担した。

このビジネスモデルが収益性の高いものになった要因は、民間セクターが医大病院から多くの患者を取り込んだことである。地域の医療サービス提供業者が送った紹介状をもつ患者は、画像診断センターの患者数の約60%を占めた。

大学病院から紹介を受けた患者と外部の患者とで、別々の料金システムが考案された。政府は費用の30~40%を助成し、貧困ライン以下の一部の患者の診察料金を全額サービス提供業者に払い戻した。

発想の転換ほとんどの企業はPPPプロジェクトを敬遠するが、それは政府が無気力で形式主義なのではないかと危惧するからだ。しかし、Wipro.GEはこのパートナーシップの可能性を絶対的に信頼していた。Wipro.GEは、.PPPモデルを、持続可能な患者数を確実に獲得し、その結果収益を確保できる手段と考えていたのである。.

ビジネス上の利益2007年にJabalpurで実施された試験的プロジェクトの成功で弾みがついたWipro.GEは、ほかの州でも同じモデルを採用した。2008年5月、同社は2つめのパート.ナーシップ契約を結んだ。提携先はGujarat州政府で、目的は、Ahmedabad、Baroda、Bhavnagar、Jamnagar、およびRajkotにある5つの国立医大病院にある画像診断設備の向上だった。

2010年7月に、Wipro.GEはAndhra.Pradesh州政府およびChennaiに拠点を置くMedall.Healthcareとパートナーシップ契約を締結し、さらにKakinada、Kurnool、Vizag、およびWarangalの4つの大学病院に同様の画像診断サービスを提供した。

画像診断設備の向上と同時に、Wipro.GEは100以上の「コスト効率の高い」医療製品および医療装置を2015年までに開発する計画である。

ケーススタディ WiproGE

官民パートナーシップ

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「次なる40億人」市場から学ぶ26

企業も消費者も、新興中間層市場を対象としたビジネスによくみられる伝統的パラダイムを刷り込まれてきている。概して、企業そして消費者ともに最初に頭に浮かぶのは値ごろ感だ。このパラダイムからわずかでもほかの価値観寄りに外れれば、消費者は手元に残る実質的な価値に疑念を抱き、エグゼクティブからはそうしたアプローチの持続可能性について不信を買うことに.なる。

しかし、企業が特定の業界で収益を上げつづけるビジネスモデルを構築するなら、このような不信の連鎖を打ち破らなければならない。このセグメント特有の市場への適応方法と、企業自体の適応のための対処の仕方の両方を理解するには、発想の転換が必要とされる。私たちの調査からは、変化の鍵となる分野として次の3つが浮かび上がった。.

信頼された保証(消費者の発想を管理する)―.非伝統的な代理人を通じた信頼性の構築とパートナーシップが極めて重要である。その信頼を活用すれば、企業はマーケティング手段やメッセージング、パッケージングを通じて、自社の製品とサービスが、低コストを上回る価値を提供して顧客の特別な憧れに応えていることを、新興中間層の消費者に納得させることができる。.

破壊的な思考(革新の発想を管理する)―.企業が新興中間層の消費者を相手に成功するには、破壊的な製品やサービス、ビジネスモデルを作り出さなければならない。彼らは従来のコストを絞り込んだ製品では提供されてこなかった値ごろ感や品質、サービスなどの価値を求めている。もちろん、こうしたニーズに企業は規律ある投資プロセスをもって応えなければならないが、同時に企業のリーダーたちは、消費者の求める価値を持つ製品を作るためにリスクをとれるだけの従業員の裁量と組織構造を実現できる環境も整えなければならない。.

企業の価値と測定方法(企業内の発想を管理する)―.企業風土は通常、トップダウンで形成される。しかし新興中間層ビジネスで収益を上げるため、企業リーダーは意思決定の分散につながる価値観と、このセクター向けにカスタマイズされた測定方法も含めた、さまざまな文化的力学を説き聞かせる必要がある。この発想の転換には、リスクを取ること、顧客志向、外部プレー.ヤーとの協調、新しい調査方法と成果測定方法の開発を重視することも含まれる。.皮肉なことだが、こうした風土の変化の経時的展開は、トップダウン方式で緊密に管理する必要がある。

信頼された保証―消費者の発想を管理する他社に先駆けてインドの新興中間層の消費者と向き合った多くの企業のCEOたちは、消費者からブランドに対する信頼を勝ち取ることが成功の鍵であると言う。しかしそのためのプロセスは、上の所得層とは大きく異なる。.

企業は深入りする前に次の質問に答えなければならない. ―. 「自社のブランドは消費者に何を約束しているのか」、「その約束の実現に向け、企業はどのような選択を迫られるのか」、「対応を要する消費者の直観に反する認識にはどのようなものがあるか」、そして「製品デザインはこのセグメントに適しているか」である。

信頼構築によるブランドの確立製品を判断するにあたり、新興中間層の消費者は現地のオピニオンリーダーや情報源を参考にすることが多い。これらのオピニオンリーダーが実質的な信頼の代理人である。企業はリーダーたちを介して信頼関係を築き、ほかの代用性と連携を利用して自社製品の品質と値ごろ感を強調する必要がある。信頼関係を築く手はずが従来と違うため、高額所得セグメントに販売する場合とは大きく異なるスキルが必要とされる。私たちの調査で有望なアプローチが明らかになった。

発想の転換

発想の転換

製品のイノベーションに的を絞ってはいけない。むしろ憧れに着目し、販路や差別化戦略などの.マーケティングメカニズムを一新してマスマーケットに入り込む。販路とファイナンスイノベーションは、マスマーケット参入と値ごろ感演出の鍵となる。

自動車会社CEO

信頼された保証

ブランドは杖、あるいは盟友である

携帯電話メーカー.常務取締役

Chapter 06

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世界の新興中間層に向けた、収益力ある成長戦略 27

信頼の代理人との連携. ―. 上述したよう.に、企業は現地のarditya(貸金業者)、.sarpanch(村長)といった地域社会の.リーダーである信頼の代理人と関係を構築することできる。たとえば本レポートの前半で触れたBajaj.Autoは300人の村長たちを活用して“Boxer”ブランドのオートバイを売り出した。

パートナーシップの形成. ―. 非政府組織(NGO)との関係も、消費者からの信頼を確立する上で役に立つ。たとえばインドの大手日用消費財(FMCG)企業は、地方販売促進に向けたコンテンツを開発するためにNGOと提携していた。実績の良い製品とのブランド提携もパートナーシップの1つである。

精神的なつながりの構築. ―. 有名人やス.ポーツ選手などのロールモデルを起用すると、ブランドに憧れの要素が加わる。地域ごとの違いを理解し、それをふまえて製品のマーケティングをすればブランドの評判も好意的なものになる。Tata. Skyはこの両方を実行した。つまり、人気映画スターをブランドの宣伝に起用し、地域ごとにカスタマイズされた販売パッケージを投入したのである。

消費者の認識をボトムアップで管理するインド新興中間層の消費者が持つ認識の管理は、企業にとって課題であった。マーケティングには口コミと伝統的メディア、各種パートナーシップを併用したボトムアップアプローチが必要とされる。.

極端な価値の提供は、直観に反する消費者の認識からすると実際に裏目に出ることがある。インド新興中間層の消費者市場を対象とする病院チェーンのCEOは、「病歴を理解しようと患者1人に時間をかける医師は無能であると見なされるだろう。同じ患者でも現地の医師だとあまり時間をかけないからだ」と述べている。

口コミ:意識向上と需要喚起口コミマーケティングはこのセグメントでブランドに対する信頼を勝ち取る上で重要な手段であり、分散的なアプローチが必要とされる。地域社会のリーダーたちを通じて適切な盛り上がりを演出できれば、低コストで意識と需要を促進できる。

このセグメントの憧れを満足させる上でマスメディアの活用も効果的だ。ただしこの手法は費用が高いことに加え、製品の採用を促すのに十分でない。ほかに地元のパートナーシップやオフラインでの働きかけも必要になる。これらの手段も高額で、時間がかかることは言うまでもないが、どちらも需要の促進に不可欠である。.

消費者の関心を引きつける―デザインの場合マーケティング以外に製品の提示方法も、このセグメントで顧客の関心を引き寄せ、受け入れてもらうための重要な要素である。憧れをかきたてる、優れたデザインとパッケージング、およびテクノロジーを提供することで、多くのレベルで現地顧客の関心を引き続けることが目標となる。.

カラフルなパッケージングで 関心を引くプロテクター&ギャンブルは、Tideブランドの粉末洗剤(新興中間層の顧客向け)を明るい色彩のパッケージで発売し、関心を集めた。

HULブランドのSunsilkシャンプーはカラフルなボトルと廃棄しやすいパッケージングで他ブランドとの差異化を図っている。

製品デザインのカスタマイズ顧客の住居における空間的な制約を考慮し、ゴドレジインダストリーズは小型の.ポータブル冷蔵庫、Godrej. Chotukoolを発売した。この冷蔵庫は、ターゲット消費者層の生活条件と、さらには予算にも合うようにカスタマイズされた。

テクノロジーの活用.2008年にNokiaは、特にインドの小規模の町や農村に住む消費者を対象として設計された農業と教育、娯楽サービスがパッケージ化されたNokia.Life.Toolsを発売した。このパッケージでは、ユーザーの位置や個人の好みに合わせてカスタマイズした、タイムリーで的確な情報が提供され、各モバイル機器に直接送信された。

破壊的な思考―革新の発想を管理するこのセグメントの消費者と企業をつなげるのはイノベーションである。消費者が値ごろ感以外に求めるものが品質であれ、サービスなどの価値であれ、そのほとんどは提供されていない。それをかなえるにはイノベーションが必要とされる。.

企業は自社のイノベーション能力を評価し、企業風土やプロセスにある空白を特定しなければならない。「組織の中でイノ.ベーションは優先事項とされているか」、「新たな破壊的なアイディアをテストし、規模を調整する商品化モデルを使用しているか」が問われている。

ANDのアプローチ:品質も値ごろ感も同時に実現Bajaj. Moters. CEOのK.. Srinivasは、ANDアプローチを、「製品のイノベーションだけを追求しているなら、よそのゴールポストを目指していることになる」と鋭い一言でまとめている。

この市場で、企業はORではなくANDを考えることが求められる。このセグメントの消費者は自らの要求実現に極度に熱心なため、品質と値ごろ感の両方が必要なのだ。企業がこのようなニーズの組み合わせを提供するには発想の転換が必要になる。新興中間層向けにするということは、よくある単に製品を小分けにするアプローチだけではなく、ある一線を超えさせ、さらに手に

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「次なる40億人」市場から学ぶ28

届く範囲にすることも含まれると企業は理解しなければならない。企業がこれを全て実現し、利益の出る形で市場に持ち込むには、革新的でなければならないのは確.かだ。.

私たちで調査を進めるにあたり、ほかにもこのような考えを示す複数名のCEOと面談した。GE.Healthcareインドの前社長でCEOのV.. Rajaは語る。「品質と値ごろ感に注力しなければならない。特に品質は支柱に当たる」と語る。インドボーダフォンCEOの.Marten. Pietersも値ごろ感とサービス提供について同様の見解を持っていた。「インドは労働力提供とITから抜け出さなければならない」と語り、「次の成長の波はサービスからやってくる」と続けた。

破壊的躍進の発想破壊的変化を介した躍進は「AND思考」に必要なパートナーだ。この市場はテクノロジーを丸1世代逃すことが多く、次の世代も受け入れられるため、企業は躍進的な製品とサービスを提供できるようにするべきである。

Nokia. Moneyは、新興中間層にモバイル金融サービスを提供する際に躍進的なテクノロジーを活用した。新サービスは送金や製品購入、請求決済などで、全て音声通話かSMSで利用できる上に、24時間対応で.ある。

Nokia. Moneyは、金融サービスへのアクセスという、一般にまだ満たされていない.ニーズをターゲットに携帯電話を使用した点で破壊的である。Nokiaは、携帯電話を通じて銀行を利用していない層や銀行を利用できない層にアクセスを提供し、人にも企業にも力を与えるとともに、仲介業者の入る余地をなくしたのである。

Nokia. Moneyはモバイル決済に新しい、ダイナミックなエコシステムを構築した。このシステムでは、新サービスが円滑に提供されるよう、モバイルネットワーク運営事業者や、金融機関、販売店、加盟店が連携して運営するように設計されている。

最も恩恵があったのは銀行を利用していなかった層で、Nokia. Moneyはこのグループにとって唯一の金融サービスへのアクセスかもしれない。これらのサービスはシンプルで利用しやすく、安全で、異なる運営事業者のネットワークでも、事実上どの携帯電話を使っても利用できる。

パートナーシップに対する考え方破壊的テクノロジーを展開するには、大企業と小企業間のパートナーシップが必要だ。大企業にとって、提携先を探すにあたって候補となるのは、小規模の革新的な企業だ。コスト構造の効率が良く、破壊的イノベーションを生み出せる企業である。

大企業側からは、自社ブランドの優位性や確立されたネットワーク、資本へのアクセス、一連の定評あるプロセスやテクノロ.ジーがもたらされる。一方で小企業側には、革新的なアイディアのインキュベー.ターとして機能する以外にも、敏捷性や消費者から得た信頼がある。.

企業の価値と測定方法.―.企業内の発想を管理する.新興中間層向けのバリュープロポジション(価値提案)を理解した企業は、それがほかのセグメントからいかにかけ離れているかに気づくだろう。配送関連の課題や、市場の成熟度、販売達成への絶え間ない圧力に加えて、バリュープロポジション(価値提案)も根本的に異なっているという現実により、企業は成長と成果をいかにして計測するかを再考しなければならなくなる。資金に余裕のないこのセグメントでは、バロメーターの扱いを変えなければならないのだろうか。

課題は、いかにして運営を軌道に乗せ、従来とは異なる計測方法で進捗をとらえるかを習得することだけではない。どのようにして企業独自の価値をこのセクター特有のニーズに適合させるかも含まれる。その点で要求される変化には、リスクを取ること、顧客志向、外部プレーヤーとの協調が、新たに重視されることが挙げられる。どのようなケースでも使える万能なアプ.

ローチはないが、この市場で成功するためにパイオニアが活用した戦略をまとめて.みた。

イノベーションのリソースプールを制限する成功した企業が繰り返し活用する非常に有効な戦略に、革新的製品の開発に利用するリソースプールの制限がある。イノベーションにはリソースを豊富に投入するのが最善の策と大抵の企業が考えていることからすれば、これは反直感的なアプローチで.ある。

私たちは、予算や市場調査、製品価格(競合品の市場価格の3倍以内が多い)、企業内のリソースを含む多くの側面で、イノ.ベーションチームが大幅な制限を受けていたとのサクセスストーリーを見聞きした。この考え方はインド有数のイノベーション専門家であり、政府イノベーション協議会の理事でもあるRamesh.Mashelkar博士とのインタビューで簡潔に要約されていた。「企業は『More. for. Less. for. More』の精神を持たなければならない。言い換えるなら、はるかにより多くの価値を大幅に低い価格で、大きな消費者プールに提供する、ということだ」と述べている。

側面調査へのシフト(欲求vs.需要)従来の市場調査では、消費者の間で特定カテゴリーの製品にニーズがあるのは判ったかもしれないが、消費者がそうしたニーズを満たすために実際にお金をかけるかまでは必ずしもフォローできていない。最終的に欲求は、消費者がそれを「とるに足らない」、「単なる憧れ」とみなせば、無視していい。たとえばインド農村部では、発がん性物質との関連が疑われる競合品よりも良いオプションであるバイオガス燃料ス.トーブにほとんど買い手がつかない。その同じ消費者グループが携帯電話を買い、金にも投資していることから、彼らが有名人の認める最新の耐久消費財の購入を好むことが見てとれる。企業は消費者の状況をわずかなニュアンスのレベルで理解し、これまで十分に対処されていなかった問題を解決しなければならない。これにより、自社

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世界の新興中間層に向けた、収益力ある成長戦略 29

製品に対する需要は既に存在していることを確認できる。

消費者調査のプロセスにバイアスがかかる余地をなくすため、複数の企業で「側面的」なリサーチが採用されている。つまり、関連分野を専門とするパートナー企業と契約して調査させるのだ。たとえばある大手医療機器メーカーは、現地の眼科治療提供業者と契約して自社の新製品ラインの要件作成に協力させた。この種の調査プロセスは難航しがちだが、そこで得られる知見には既存の製品ベースに対するバイアスがほとんどかからないのが利点である。.

これまでとは違う測定方法をよりどころにこれまで高所得者層で実績評価に使われてきた測定方法が、この市場では同等に機能しない可能性があることを、企業は認識する必要がある。

たとえば、アナリストはよく携帯電話サービス提供業者を加入者1人当たりの平均売上(APRU、Average. Revenue. Per. User)を元に評価する。また市場も、企業が四半期報告に記載するAPRUの変動に反応.する。.

しかしあるインドの大手携帯電話サービス提供業者は、このマスマーケットでの顧客1人当たりの売上は決して高所得者層にかなわないことを理解していた。市場から反感を買うリスクはあったが、この企業は主要な金融指標を資本収益率と売上総利益とし、実質的に長期的な視点を取ることにした。この先例に倣い、マスマーケットでこの企業の先発者利益に対抗していくのは、他社にとって困難な経験になった。

常に価値を念頭に置くこの市場への投資には、大変なリスク選好度と忍耐を好む志向が求められる。イニシアチブが資本コストを上回る収益を挙げるまでに多少なりとも時間がかかるのだ。企業は損益分岐点の予想を修正し、提携関係の確立に時間を割き、収益を挙げるまでの現実的な期間予測を立てなければならなく

なる。企業が新興中間層をターゲットにしようとする際には、こうした予測の設定において、リーダーが積極的な役割を担わなければならない。

世界的に見ても、このセグメントの機は熟している。新たな発想を積極的に受け入れる、最大の未開拓市場だ。企業にとっての課題は、この市場に対する見方を根本的に変え、この機会を捉えることにある。社会的見地からの貧困層(bottom. of. the. pyra-mid)ではなく、商業的見地のみからの富裕層でもない、価値を基本とする見地からの、大きく異なる台頭する新興中間層として認識を新たにするべきである。

ほかの次なる40億人諸国における妥当性新興市場への参入で違いが出るのは、何よりも企業の発想の転換姿勢である。発想の転換はインドの新興中間層の消費者に対してだけではなく、世界のほかの地域の新興中間層の消費者に対しても重要である。.

成功の核となるのは消費者から信頼を勝ち取る能力である。多くの企業が挑戦し、インド系、非インド系を問わず一部の企業だけが成功した。勝者は信頼された支持をかき集め、ローカライゼーションに注力した。彼らは破壊的な考え方を用い、このセクターの可能性を解き放つための戦略を展開した。その上で顧客の求めるバリュープロポジション(価値提案)を損ねることなく、品質と値ごろ感を併せて提供した.のだ。.

国際的なケーススタディ中国でのCarrefourの成功―中国の消費者を引きつけるための事業のローカライズ世界第2位の小売チェーンであるCarrefourは、1995年に中国事業を開始した。中国の消費者には直後から好評を得ている。同社ではこの成功を、1989年に開始した台湾市場での事業経験から得た中国人消費者動向についての知見に帰していた。その知見が、中国本土の市場で事業を軌道に乗せる際に、確たる土台になったのである。

Carrefourが大きな成功を収めた理由は、同社が実施した高水準のローカライゼーションにある。ローカライゼーションは在庫管理や販売といった部門まで横断的に行われた。同チェーンでは、中国全土に15の都市別仲介拠点(CCU、City. Commision. U-.nit)を設け、同社が中国で販売する消費財の95%相当の在庫管理と販売に活用した。Carrefourの採用戦略も非常にローカライズが進んでおり、文化的ギャップの橋渡しに一役買っている。現地で小売の専門職を探しだして育成するために、同社は大変な労力を払っていた。2 0 0 3年にCarrefourは、上海に現時従業員向けの研修センターを設立する。2008年に60人の店長を任命したが、そのうち57人までが中国人だった。

低価格と優れたサービス、快適なショッピング環境のおかげでCarrefourは短期間で無名企業から大人気企業に発展した。現地消費者にとってワンストップで買い物が済むのは新しい概念で、関連サービスも人気を呼んでおり、消費者は「ハッピーショッピング」を謳歌している。

中国Carrefourは事業慣行の持続可能性にも非常に注意を払っている。リサイクル資材のショッピングバッグを導入し、農家から農産品を直接買い取る新しい購買モデルも採用しており、小売業界では革新的と考えられている。

リーダーシップの発想

企業は当初から売上の達成に注力しなければならない。

イノベーションリーダー

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「次なる40億人」市場から学ぶ30

背景Idea. Cellularはインドの大手携帯電話サービス業者である。この10年間で高いシェアを獲得しただけでなく、ブランドの評判も高い。

電話通信市場におけるIdeaの力強い成長を後押ししたのは、非都市部と農村部での浸透ぶりである。農村部の加入者ではGSM事業者の中でも第1位のシェアを誇る。Ideaの新規加入者の3人に2人は農村部か準都市部の居住者だ。

顧客についての知見1990年代のIdeaはインド6大都市のいずれでも認可を得ておらず、それよりも小規模な町で事業の構築を開始していた。事業運営はハブ・アンド・スポーク方式である。

転機は2007年、携帯電話通信への需要が急速に伸びたときに訪れた。当時の事例では、販売、マーケティング、およびサービスが需要の伸びについていけなかったことがはっきりとわかる。未開発の人口が集中するこのセグメントに求められるレベルの集中管理は、インドでも、世界のどこでも、まだ行われていなかった。Ideaは事業計画に立ち戻り、基本方針を一から定義し直した。.

革新的な戦略バリュープロポジション(価値提案)顧客を念頭に置いたIdeaは、農村部にいる低所得の顧客に合わせて調整し、カスタマイズした製品とサービスを導入した。この低所得カテゴリーの中でも、製品は年齢などの要素に合わせてさらにカスタマイズされていった。

当初の宣伝も年齢と所得セグメントによって大きく異なっている。Ideaはブランドアンバサダーとしてインドの大物俳優と契約し、ブランドに憧れの対象としての価値とカリスマ性を付け加えた。

ビジネスモデル農村と第3階層の都市群をターゲットにするために、Ideaはインド全土に1,520のブランドを冠したサービスセンターと、.700,000以上ものマルチブランドの販売店を設置して流通ネットワークを構築し、スケールメリットを実現している。

大きな市場シェアを獲得して人気が高まると、Ideaは3Gなどのサービスを付加して第1階層と第2階層(ティア1とティア2)の都市にターゲットを移した。農村部や準都市部の加入者向けに格安の3Gサービスまで立ち上げ、それらのセグメントの若者を.ターゲットにしたのである。

発想の転換2007年にIdeaは、直接顧客に接する販売員の生産性に着目し、自社の販売ネット.ワークをハブ・アンド・スポークから完全に現地的な方式に変更した。同社はまず、農村部市場の販売員がどのように1日を過ごすのが生産的かを定義した。次に、その目的を達成するために必要なことを、いわゆる「マネジメントの信条」を捨て去ることも含めて全て行った。その後に設置された管理部門は現場担当者の支援を目的として改編された。同様に、サービス、財務、研修、および人事慣行もこの販売担当者を中心として構築された。新たなモデルの主題は、微細なレベルまで理解し、それを全てのレベルでやり通すことにある。大いに熟考を重ね、細部を詰め、文書化を進めた結果、知的洞察はIdeaの慣行の一部にな.った。

Ideaはインドの5つの村でパイロットプロジェクトを実施した。販売担当者と村の住人との個人的な関係が、ブランドの信頼を高めるのに有効に働き、その結果Ideaの評判は口コミによって広まっていった。パイロットプロジェクトの成功を受けて、Ideaは全国的な販売アプローチの変更の見積もりおよび統合に投資を行った。

ケーススタディ Idea

Cellular

これに加えてIdeaは販売後のサービス提供にも注力した。国内全域の顧客が30分以内に着けるよう、サービスセンターを2000拠点開設したのである。

このアプローチはIdeaが規模の経済を実現する上で役立つと同時に、各地販売担当者を通じた顧客との関係づくりにも有効だった。信頼性の要素も向上するが、ブランドとしてのIdea自体も低所得の携帯電話ユーザーにとって近づきやすく、心情的にもなじみやすい存在になったのである。

ビジネス上の利益戦略を変更してからのこの4年間で、Ideaは売上ベースの市場シェアを8%から14%に向上させた。今日ではIdea. Cellularは、.2012年度第1四半期に売上ベースで13.9%のワイヤレス市場シェアを誇る、インド国内第3位の大手携帯電話サービス事業者となっている。.

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世界の新興中間層に向けた、収益力ある成長戦略 31

財務面からの見解

新興中間市場に対する企業の財務的アプ.ローチは基本的にリスク選好度によって決まる。ただし、決定にかかわる重要なポイントはほかにもいくつかある。.

「新興中間」市場が価格/取引量のせめぎ合いになるのは明らかである。言い換えれば、一般的に価格は抑えるべきであり、それ故に持続可能な売上を維持するには、取引量は大きくなければならない。以上から、企業は運営コストと資本効率について長期的な資本収益の向上を目指した選択をしなければならない。.

企業にとって基本的な戦略面での選択肢は、「Asset.Lite」か「Capex.Heavy」である。とは言っても、ビジネスライフサイクルの中でも段階が異なれば、途中で調整が必要になる可能性がある。.

「Asset Lite」モデル ― 設備投資(Capex)から営業経費(Opex)への変換に注力するAsset. Liteモデルは、新しい市場に参入する予定だが、固定資産への事前投資については判断を保留している企業に適している。このモデルでは、迅速なプロトタイピングとパートナーシップを通じた共同投資の必要性を強調しており、需要の変動にいち早く 対 応 で き る 点 で リ ス ク 管 理 に 有.効だ。

企業は下記の一部または全ての方法を用いて設備投資の経費を運営経費に変換することにより、設備投資による初期費用を抑制することができる。.•. 資産のリース、プロトタイピングとパイロットの迅速な実施、流通のための提携関係締結

•. 他社との協調とエコシステム構築への共同投資

•. 売上利益率と組織の学習曲線の管理

•. 運営経費の効率向上への注力

長期目標 中心的要素 決定変数 決定の性質

長期的ROCE*

売上利益率 運営コスト(Opex)

Asset Lite:設備投資(Capex)の営業経費(Opex)への変換に注力

主にOpex 主にCapex

経費の規模 採用度 伸長度 安定状態

Capex

Opex

資本効率 固定費と運転資金投資(Capex)

• 資本投資から営業投資への変換に注力。リース、迅速なプロトタイピングおよびパイロット、ならびに流通におけるパートナーシップなど

• 協調および借り入れ:提携関係の構築とエコシステム構築への共同投資に注力して設備投資を抑制

• 売上利益率と組織の学習曲線の管理

- 運営経費の効率向上に注力。マーケティング支出当たりの売上は長期的に上昇傾向にあるべき。

長期目標 中心的要素 決定変数 決定の性質

長期的ROCE*

売上利益率 運営コスト(Opex)

Capex Heavy:資本効率に注力

主にOpex 主にCapex

経費の規模 採用度 伸長度 安定状態

Capex

Opex

資本効率 固定費と運転資金投資(Capex)

• 初期段階でエコシステム構築とCapexに大きく投資

• 投資決定の性質から、売上利益率が高い

• 積極的に資本効率と資本回転率の向上を目指す

- 営業資本のニーズを管理

- 賢い消費者リーチ:売上を最大する地域別の選択

Chapter 07

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「次なる40億人」市場から学ぶ32

その後、加速期や安定期には、企業は設備投資を増やすことも、Asset. Liteモデルを続けることもできる。.

CapexHeavyモデル―資本効率に注力Capex. Heavyモデルはこの市場で先発者となった企業に適している。そうした企業にとって、事前投資はエコシステムを構築し、競合企業に先んじるだけの優位性を作り出す際に効果を発揮する。

こうした企業は早期に設備投資を重ねるが、採用した段階で高い営業利益率を享受できる。さらに、営業資本のニーズを巧みに管理し、売上高を最大化する地域的な.「賢い消費者リーチ」のイニシアチブを通じて、資本効率と資本回転率の向上に注力することもできる。

実務上は、AssetLiteとCapexHeavyを組み合わせる以下は投資スケジュールの例である。投資の規模とタイミングは業界により著しく異なるが、通信セクターにおける経験からサンプルを選び、成功のカギとなるテーマを表すよう時系列にマッピングした。.

図は、一般的な投下資本収益率(ROCE)の曲線である。

採用段階である、プロジェクトの最初の3年間は必然的にAsset. Liteの期間であり、以下の特徴がある.•. 選ばれたティア2、ティア3の都市と特定の農村地域におけるライセンス購入と、小売インフラの構築のために抑制しつつ設備投資を行う(ハブ・アンド・スポーク).

•. SGA(販売費および一般管理費)に高額な支出をする.

•. マーケティングおよび販売スタッフ、ポジショニング、ならびに革新的な価格設定を重視した、需要創出への注力

•. 協調と共同投資を目的としたパートナーシップを通じた販路の構築.

この段階で大抵の通信会社はAsset. Liteモデルを採用する。注目を集め、乗り換えを促すため、マーケティングに多額の出費を強いられるからだが、それ故に営業利益率は低い。この段階での主要な戦略重点事項は、営業経費のさらなるインパクトに備えて「学習曲線」を密に差配することで.ある。

プロジェクト開始から3年目以降の加速期に、企業はCapex. Heavyモデルに移行するか、それともAsset. Liteを継続して顧客の新規獲得と保持というコアコンピテンシーを重視するかを選択しなければならない。

この例で用いた架空の企業は先制戦略としてCapexモデルを選び、ほかの都市と農村地域の市場参入に投資する(ライセンス購入とインフラ構築)。付加価値の高いサー

ビスを導入したおかげで粗利益が向上する。この段階で、企業は資本効率に着目しなければならない。.

安定期では、資本回転率の重要性が増す。架空の通信会社は、営業効率と資本効率の改善から得た経験を制度化することに力を入れ始める。さらに売上単価あたりの販売経費削減も行う。最終的には、この組み合わせが長期的なROCEを向上させ、株主の利益を増大させる。

財務的な例示としては確かに簡略化されているが、「この市場で事業を行う企業は、事業ライフサイクルのさまざまな時点で、非常に多岐にわたる財務的アプローチを採用する必要性を注意深く評価しなければならない」というこの要点は重要である。また、長期的にROCEを押し上げるには忍耐が必要ということも理解しなければなら.ない。.

ROCE

Time

WACC

Adoption – Asset Lite Acceleration – Capex heavy Steady State – Capital Turns採用 -

Asset Lite加速 -

Capex Heavy安定-

資本回転率

時間

ROCE

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世界の新興中間層に向けた、収益力ある成長戦略 33

世界の新興中間層の枠組みインドでの経験が、中国やアフリカでどのように.活かされるか

新興中間層セクターの市場はどこも何らかの側面で異なるものの、インドで学んだ経験を幅広く適用することができる。私たちが提案した枠組み、そして新たなバリュープロポジション(価値提案)の必要性と、革新的なビジネスモデル、大がかりな発想の転換は、どの途上国にも当てはまる.のだ。.

世界の新興中間層世界的に見て2つの大きなデモグラフィー(人口統計学的属性)の変化が進行しており、そのために企業は途上国をこれまでとは全く違った見方で捉えている。.

第1に、今後10年間の人口増加のほとんどは、途上国で起きる。第2に、(中国も含めた)所得の高い先進国の人口は高齢化が顕著に進む。.

世界の人口増加に占める割合が最も高いのはインドと、ナイジェリアと南アフリカを除くサハラ以南のアフリカだ。一人っ子政策と全般的な高齢化にもかかわらず、中国も人口増に大きく寄与している。

こうした新たな現実が、世界中で雇用の伸びや需要の動向、貯蓄性向、投資行動、生産性と生産量に大きな影響を及ぼすようになる。途上国の人口が増加し、それぞれの新興中間層がさらに拡大するにつれ、インドとサハラ以南のアフリカ、中国はこれらの経済的変化の中心地になる。.

「次なる40億人」の大半がこの3地域に居住するため、この調査で議論した枠組みからは、この3地域のどこで事業を行うにも有効な知見やガイダンスを得られるため、重要性が増している。.

以降のセクションでは、私たちがインドで立てた仮説や概念を、いかにして中国とアフリカに応用するかを検証する。

インドと中国インドと中国は世界で最も高い成長を誇る新興国である。また、インドと中国には世界最多の人口が居住しており、そのうち60%以上が労働人口で占められる。しかしながら両国には共通しない点もいくつかあり、新興中間層の枠組みを当てはめる前に入念な評価が必要である。

一 人 っ 子 政 策 を 採 用 し て い た 中 国は、2014年からは速いペースの人口高齢化と、それによる労働人口の減少に直面することになる。その一方でインドには、全体に若く、拡大し続ける人口のおかげで.「人口ボーナス」が期待される。この若年層の増加は不安定要因にもなり得るが、政府が新世代に教育と機会を提供できれば、成長の上で大きな強みになるだろう。.

中国の1人当たり所得と都市化レベルはインドよりも高く、新興中間層にとってのトレードオフは少ない。中国の消費者ははるかに「自信を持ち」、ブランド志向である。インドが持つ文化的、宗教的、言語的、そして社会的な多様性も、共通の標準中国語を話す、概ね均質な社会である中国と大きく相違する点である。

また、中国が文化的、社会的に均質なので、賢い消費者リーチとそのクラス.ターアプローチもインドほどには当てはまらなくなる。しかもインドに比べ中国のインフラは、はるかに整備されており、インターネットや電話通信がよく普及している。インフラと回線接続の良さ、さらには規制環境が全く異なることも相まって、中国では協調的なエコシステムの必要性は.低い。

ただしインドでもそうだったように、現地政府は支配的役割を果たすため、政府との協働は企業が中国でのプレゼンスを確立する上で重要なステップである。.

とは言うものの、中国の政府機関はインド以上に製造業に融資の促進と仲介を行っており、中国を世界的な製造拠点に押し上げる要因となっている。

インドとアフリカ中国よりもアフリカ諸国の状況のほうがインドの状況に近い。アフリカでの持続的な経済成長により、歴史上始めて分厚い新興中間層が誕生した。アフリカ大陸を横切るように広がるこの層は、中国とインドにいる10億単位の新興中間層と同等の規模で.ある。

この10年でアフリカの新興中間層の消費者数は60%以上も拡大した。2010年にはこのセクターがアフリカの全人口の34%を占めるようになっている。新興中間層の台頭で、世界の投資家にとってのアフリカは、可能性のある大規模で魅力的な未開拓市場に様変わりした。かつてないほどに将来性豊かな若年人口のおかげもあり、アフリカは消費者として他国の製品を引き寄せ始めている。

アフリカの新興中間層とそれに伴う消費者需要は経済の強力なエンジンと見なされており、従来からの農業、エネルギー、ならびに鉱物の製造および輸出への依存を補完することが期待される。

アフリカの長期的な成長は、今後ますます相互に関連する社会とデモグラフィー(人口統計学的属性)の変化を反映するようになるだろう。インドと同じように、そうした変化には都市化や、労働力人口の拡大、新興中間層消費者の台頭が含まれる。

また、インドと同じようにアフリカも地域的な多様性が高い点で特徴的で、農村部の人口が多く、地域によって文化や言語、宗教の違いが大きい。こうした組み合わせのおかげで、賢い消費者リーチや、プラットフォームのカスタマイゼーション、モジ.ュール式といった概念が非常に適切になってくるのである。

この組織化されていないセクターのギャップを埋め、制度的な空白を克服するには、政府とのパートナーシップは極めて重要であり、この点でもインドと類似している。最後に、これもまたインドと同じだが、これまで以上に大きな顧客基盤で固定費を分散できるため、企業は規模の経済を実現できる。

Chapter 08

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「次なる40億人」市場から学ぶ34

背景世界第1位の携帯電話メーカー、Nokiaは携帯電話による金融サービスに大きな可能性を見いだし、大衆向け携帯電話金融サービスであるNokia. Moneyを開始した。Nokia.Moneyでは基本的な財務管理と決済を携帯電話で行うことができる。Nokiaはインドでのモバイル決済に当たり、携帯電話の金融サービスを全土に拡大するために、複数のパートナー(銀行、加盟店、請求処理業者、サービスプロバイダー)で構成されるオープンなエコシステムを構築している。

顧客についての知見携帯電話の所有者数が銀行口座数を大きく上回っており、携帯電話ユーザーの多くが基本的な金融サービスに全くアクセスできていないか、アクセスを非常に限定されていると見られることから、Nokiaはこのようなサービスにニーズがあると判断した。

世界には携帯電話が40億台あるが、銀行口座は16億しかなく、それ故に「銀行サービスを受けていない」携帯電話ユーザー市場は巨大だ。インドだけで携帯電話のユー.ザーは8億人もいるが、そのほぼ半数が銀行口座を持っていない。

革新的な戦略バリュープロポジション(価値提案)Nokia. Moneyを使うと、顧客は携帯電話から安全かつ簡単に友人や家族に送金し、公共料金を支払い、プリペイドのSIMカードをチャージし、残高を確認し、小さな明細書を受け取り、加盟店から商品を購入し、保険料を支払う、といったことが可能になる。ソフトウェアはほとんどのNokia製携帯電話にプレインストールされているが、顧客は最寄りのNokia正規販売店でインストールしてもらうことも、無線でダウン.ロードすることもできる。使い方は簡単かつ安全で、インドにあるほぼ全ての携帯電話で使うことができ、異なる事業者のネットワークでも利用できる。

そのほかのケーススタディケーススタディ Nokia

Maney

これらのサービスにはSMS-IVR(音声通話)経由か、あるいはGPRS接続を介してアプリケーションにアクセスすることもでき、24時間利用可能だ。

ビジネスモデルこうしたサービスへのアクセス需要全般に応えるため、Nokiaは携帯電話の利用と金融サービスを組み合わせたビジネスモデルを導入した。R B I ガイドラインに従い、Nokiaの販売店がユニオン・バンク・マネー(Union. Bank. Money)サービスの業務窓口(BC代理店)になっている。BC代理店で見込み顧客はサービスに登録し、口座への入金や出金ができる。この仕組みにより、銀行サービスを国内の僻地にも展開できるようにした。Nokiaは、携帯電話を介して銀行サービスが不十分かまったく受けられていない層に金融サービスへのアクセスを提供し、それにより人と企業に力を与えている。これらの取引では中間業者が入る余地も排除されている。

Nokia. Moneyは、モバイル決済のための新しいエコシステムを構築した。モバイルネットワーク事業者や金融機関との提携により機能するよう設計された、そのダイナミックなエコシステムには流通業者や加盟店も加わって、この新しいサービスをシームレスに提供している。

インドでは、農村部から都市部への移住は予測しやすい地理的パターン(農村部から商業中心地およびSMEクラスターへの移動)に沿って行われる傾向があり、送金の流れはそれと逆行する形が多い。Nokia.Moneyでは、インド国内のこのような移住クラスターを特定するために詳細な分析を行い、特定のクラスターに絞ってカスタマイズした広告とサービスを展開し、最適な費用でより多くの顧客を獲得することができた。見込み顧客にはオフラインの働きかけによる対面指導も行っている。

Nokiaはソフトウェアのモバイルマネーを導入し、実店舗を持つ小売業者や金融機関と提携してサービスを提供した。

セキュリティについて:このサービスは口座名義人データへの不正アクセスを防止するために最も先進的なセキュリティテクノロジーが用いられており、安全性は完璧である。ユーザーにも取引ごとの認証が求められる。このサービスによる送信データは、不正アクセスを防ぐための先進のセキュリティテクノロジーで保護される。この水準のセキュリティを提供するために高度な暗号化アルゴリズムが幾層にも重なって用いられており、送信データが傍受されたり、改ざんされたりすることはない。暗号化テクノロジーは、携帯電話アプリケーションとユーザー口座間の取引と、携帯電話やデータのネットワークでのデータ送信の安全を確保する目的で使用されている。

発想の転換Nokia.Moneyのサービスを通じてNokiaは橋渡し的な商品を提供した。Nokiaは金融.サービス市場にあるギャップを理解し、特に新興市場の人々に自社の携帯電話の簡単な操作から必要な銀行サービスを受けられるよう、破壊的なテクノロジーを導入したのである。

「銀行サービスをまったく受けてこなかった」層への恩恵は大きかった。Nok i a.Moneyはこの層にとって唯一の金融サービスかもしれない。世界の携帯電話による金融サービスの市場は2014年までに180.ユーロ(270億ドル)規模に達することが見込まれる。

Chapter 09

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世界の新興中間層に向けた、収益力ある成長戦略 35

背景Bajajグループはインドでもトップ10に入る大手民間企業である。同グループの旗艦会社、Bajaj.Autoは世界第4位の二輪、三輪車メーカーであり、そのブランドは中南米、アフリカ、中近東、南アジア、および東南アジアの国々でよく知られている。

顧客についての知見2011年初頭にBajaj. Autoはオートバイの新しいモデル、“Bajaj. Boxer”を発売した。このオートバイはインドの下位中間層を想定して設計されている。同社は、調査から浮かび上がった顧客に関する知見に基づき、インドの新興中間層にとって憧れのオートバイを作り上げた。“Boxer”は農村部の顧客に高い生産性を提供する、画期的な製品である。このオートバイは顧客と顧客の.ニーズをふまえて設計されただけでなく、プロモーションと販売も適切なチャネルで行われた。

革新的な戦略バリュープロポジション(価値提案)このオートバイはターゲットとする顧客の憧れに訴求するよう設計された。競合他社とは対象的に、Bajaj. Autoはこのオートバイに低燃費の100ccではなく150ccの高いエンジン性能を搭載した。その理由の1つ目は、このオートバイをよりパワフルにして、重い積荷、村や町の悪路、複数人数の搭乗といった問題に対処できるようにすることであり、2つ目は、このセグメントの青年男性と彼らが持つ力と支配への欲求にアピールすることにあった。“Boxer”は.「オートバイのSUV」として宣伝され、このセグメントに特有の憧れに働きかけたことから、競合他社よりも優位に立った。

ケーススタディ Bajaj

Auto

ビジネスモデル“Boxer”は複数の革新的な資金調達と、インド全土で展開された流通イノベーションを活用して発売された。

車輌のプロモーションが最も革新的だった。Bajaj. Autoは300人のsarpanch(村長).と接触し、オートバイの製造工程を公開した。これがブランドの口コミプロモーションとなり、村長たちが信用と信頼性、近接性の象徴であるため、その効果は極めて強力だった。

さらにBajaj.Autoは地元のASCオーナーをオートバイのディーラーに任命した。地元のディーラーは友愛と信用のネットワークを作り、顧客と信頼関係を築いたため、ブランドリーチの向上に役立った。この仕組み.はBajaj. Autoの利益につながった。ASCオーナーと顧客の個人的関係のおかげで、.顧客の信用能力を簡単に確認できたか.らだ。

Bajaj.Autoはさらに直接集金(DCC)モデルも導入した。都市部でも販売される全てのオートバイを、農村部の顧客にも確実に購入できるよう、僻地にも融資オプションを提供する点で、DCCは革新的だった。このモデルで、顧客が購入後に企業と連絡する一元的な窓口はASCである。ASCオー.ナーと現地顧客の関係が大きな収益につながったおかげで、この仕組みはBajaj. Autoに有利に働いた。同社のこのモデルでの損失は、分割払い金のわずか0.2%にとどまった。ACSオーナーは利益の50%を報奨金として受け取るため、同社だけでなくASC.オーナーにとっても大きな収益が出た。

発想の転換同社はこのセグメントが価格よりも価値に敏感であることを、おそらくは正しく理解していた。提供される製品の品質は価格と同程度に重要だが、それ以上には重視されない。価格設定にも注意を要した。あまりに低価格だと低品質を連想させ、高価格だと手が出ない。少なくとも30%は安い中国製のオートバイは、値段は手ごろでも品質が低かったためにこの市場では苦戦して.いた。

Bajaj. Autoは製品のイノベーションにとらわれることなく、このセグメントの憧れを理解した。代わりに彼らはパッケージングのイノベーションと、顧客(オートバイ愛好者)の欲求と要望にアピールできる方法によるプロモーションに注力した。燃費よりもむしろエンジン性能を重視したことで、品質と価格に敏感な新興中間層の消費者に訴求できた。

ビジネス上の利益1%未満という低い顧客の貸倒率が、Bajaj.Autoが作った貸付モデルの成功を物語っている。

Bajajには既に600のディーラーと2500のサブディーラーがあり、インド全土であらゆる製品を販売している。

このカテゴリーでパイオニアとなった“Bajaj.Boxer”は、既に新興中間層に十分に受け入れられている。非常に競争力のある価格でありながら、農村部の顧客に特化した比類のない仕様となったこのオートバイは、今後、大きな成功を収めるだろう。

組織化されていないセクターとの連携

流通や販売プロセスの主な利害関係者を対象としたインセンティブを設けて関与させ、その後も彼らのモチベーションを保つこと.です。

自動車会社CEO

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「次なる40億人」市場から学ぶ36

調査方法

私たちは30人を超える大手企業のCEOそのほかのリーダー、多数の草の根団体のメンバー、ならびにイノベーションの専門家と詳細な面談を行った。さらに新興中間層の欲求と要望への理解を確かなものにするために、この層の個人や家族を対象とした構造的な消費者調査も実施した。ほかにも情報を複数の二次ソースに依存している。

最後に、私たちはこの調査をインド以外の新興中間市場に応用できるかどうかを検証し、PwCのグローバルネットワークの上級リーダーたちにもインタビューを行い、共通する傾向や戦略を特定した。

これらのリソース全てから得た見解と知見を組み合わせた結果、本書が基礎とする枠組みを考えるに至った。

Chapter 10

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世界の新興中間層に向けた、収益力ある成長戦略 37

参考文献一覧

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Chapter 11

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「次なる40億人」市場から学ぶ38

戦略調査チームについて市場で実行できる戦略的知見とアドバイス.―.「機能する特徴的な戦略」

PwCでは戦略と調査の慣行により、クライアントが市場優位を勝ち取り、維持するための戦略的イニシアチブを実行できるよう助力している。「機能する特徴的な戦略」を策定するに当たり、私たちは企業のCEOや役員に、将来について前向きなビジョンと計画を立てるだけでなく、成功するために必要な能力を構築するよう助言を行っている。私たちは電話通信、医薬、ヘルスケア、小売消費財、金融サービス、工業用製品など各業界のリー.ダーと緊密に連携し、彼らの戦略や調査面での要件についてアドバイスしている。クライアントによるこれらの戦略の実施を支援する能力を高めるため、戦略調査グループはPwC内部のほかの機能グループとも連携する。この調査プロジェクトは、PwCのグローバル戦略ネットワークと緊密に連携するインドの戦略調査グループにより実施された。

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PwCについてPwCは、企業や個人が求める価値を創出するためのお手伝いをいたします。私たちは、158カ国に保険、税務、コンサルティングで質の高いサービスの提供に邁進する169,000名近い従業員を抱える企業のネットワークです。あなたが抱える問題を教えてください。PwCについての詳細は、www.pwc.comをご覧ください。

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本誌はPwC Globalが2012年1月に発行した『Profitable growth strategies for the Global Emerging Middle-Learning from the ‘Next 4Billion’markets』をPwC Japanで翻訳したも

のです。

日本語版発刊月: 2012年8月