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多元物質科学研究所 微粒子合成化学・講義 村松淳司 http://www.tagen.tohoku.ac.jp/labo/muramatsu/MURA/kogi/fine-p/index.html E-mail: [email protected]

微粒子合成化学・講義...墨跡の煤量との差が少なくなる。つまり、筆跡とその周辺 へと滲んでいく水溶液に含まれる粒子量の差により出来

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  • 多元物質科学研究所

    微粒子合成化学・講義

    村松淳司

    http://www.tagen.tohoku.ac.jp/labo/muramatsu/MURA/kogi/fine-p/index.htmlE-mail: [email protected]

  • 1m

    10cm

    1cm

    1mm

    100μm

    10μm

    1μm

    100nm

    10nm

    1nm

    1Å

    光学顕微鏡

    電子顕微鏡

    ソフトボール

    硬貨

    パチンコ玉

    小麦粉

    花粉

    タバコの煙

    ウィルス

    セロハン孔径

    100μm

    10μm

    1μm

    1nm

    100nm

    10nm

    微粒子

    超微粒子

    クラスター

    ナノ粒子

    サブミクロン粒子

    コロイド分散系

    粒子径による粒子の分類

  • 牛乳はO/Wエマルション

    O/Wエマルション

    W/Oエマルション

    界面活性剤 界面活性剤

  • ビールの泡

    なぜ合一しにくいのか?– 分散安定化への指針

    – 泡の表面にホップと麦芽由来のフムロンや塩基性アミノ酸が吸着し、分散剤的な働きをしている

  • 多元物質科学研究所

    分散と凝集

  • コーヒー牛乳に塩を入れる

    コーヒー牛乳だけ1 mol/L KCl溶液

    乳脂肪が浮上している

  • なぜ、乳脂肪は浮上したか?

    乳脂肪は水よりも軽い

    牛乳は乳脂肪が分散したもの

    塩を入れることで「凝集」して浮上した

  • 分散と凝集

    分散とは何か‒ 溶媒中にコロイドが凝集せずにただよっている

    凝集とは何か‒ コロイドがより集まってくる

    物質は本来凝集するもの‒ 分子間力→van der Waals力

  • 分散と凝集 (平衡論的考察)

    凝集

    ‒ van der Waals力による相互作用

    分散

    ‒ 静電的反発力

    ‒ 粒子表面の電位による反発分散

    凝集

  • 分散と凝集 (速度論的考察)

    分散するためには

    ‒ 平衡的に分散条件にあること

    ‒ 速度論的に分散条件にあること

    ‒ ブラウン運動(熱運動)

    分散

  • 速度論:ブラウン運動

    分散の平衡論的な解釈は、静電的反発力であるが、水の中を漂い、空気の中に分散する、コロイド粒子の動き、つまり速度論的解釈は、ブラウン運動 Brownian motion である。

    x

    分散

  • 速度論:ブラウン運動

    粒子がブラウン運動を起こして(不規則な運動)いるとすると、ブラウン運動は粒子の熱運動であるので、粒子1個について、kTのエネルギーを持っている。これが運動エネルギーに変換されているとすると

    kT = 1/2 mv2

    となる。

    分散

  • 速度論:ブラウン運動

    Einsteinの統計的計算によると、粒子1個がブラウン運動によって、t時間にx方向へ移動する平均距離xは、

    Dは、粒子の拡散定数。Einsteinは、さらに、拡散定数に関する式

    を提出した。ここで、fは摩擦係数と呼ばれるもので、粒子が媒質の分子に比べて非常に大きいとき、Stoksの法則がなりたつ。

    fkTD =

    sDtx =

    分散

  • 速度論:ブラウン運動

    ここで、ηは物質の粘度、aは粒子半径である。

    結局、

    となる。Rは気体定数、NAはアボガドロ数。

    af πη= 6

    AaNRTtxπη

    =3

    分散

  • 速度論:ブラウン運動

    たとえば、20℃、蒸留水中において、粒子の1秒後の変位xを計算すると、つぎのようになる。

    粒子半径 1秒後の変位(μm)

    1 nm 20.7

    10 nm 6.56

    100 nm 2.07

    1μm 0.656

    である。

    分散

  • 分散するか凝集するか

    平衡論‒ 静電的反発力

    コロイドの界面電位による

    速度論‒ コロイド同士の衝突←熱運動と衝突確率

  • 静電的反発力とは

    力の源は、粒子の表面電位

    表面電位が絡んでいる現象‒ 電気泳動

    ‒ 電気浸透

    ‒ 沈降電位

  • 電気泳動

    電気泳動というのは、電気を帯びた分子(イオン)が、電圧によって動く現象のこと

    プラスの電気を帯びた分子はマイナス電極へ、マイナスの電気を帯びた分子はプラスの電極へ、引きつけられる

    コロイドも同じ。電圧のかかっている場所(電場)の中で、コロイド全体としての電荷の反対符号の電極の方向へ動く

    +-

  • 表面電荷

  • 乳脂肪

    タンパク質

    牛乳では

    ブラウン運動

  • 墨汁では

    ブラウン運動

  • 墨汁と膠

    古墨の価値とは、原料の煤が作られた時代が古いことで生じるのではなく、実際に墨として製造されてからの経時変化により生じる様々の事象により創成される。

    墨の主原料は「煤(すす)」と「膠(にかわ)」。墨を摺るという作業で、煤と膠がうまく混合された水溶液=墨(液)ができる。

    http://www.minase.co.jp/syouhin/sumi/koboku.htm

  • 墨汁と膠

    この墨(液)中の煤をコロイド状に保つのが膠の役目で、コロイド状態であるからこそ、紙に書いた時、水分が紙の中を拡散していく、その水分と共に墨の主成分である煤も水分に乗って拡散していく。

    コロイド状態が完全であればあるほど、拡散していく水分に含まれるコロイド粒子(墨の煤)量と最初に筆が入った墨跡の煤量との差が少なくなる。つまり、筆跡とその周辺へと滲んでいく水溶液に含まれる粒子量の差により出来る濃淡の差が僅かしか生じないと言うことになる。

  • 墨汁と膠

    保護コロイド:疎水コロイドを処理して=膠を加えて=親水コロイドにしたもの 例:墨汁 疎水コロイドである炭素のコロイドに膠を加えて親水コロイドにする→保護コロイド)固形墨を摺って得た墨(液)はこの「保護コロイド」状態にある。固形墨は時の経過と共に、その構成物で有機物の膠が分解していき、分解が一定以上進むと、固形墨を摺ることにより得られる墨(液)は十分な保護コロイドを形成することが出来なくなってくる。

  • 墨汁と膠

    墨(液)の水分に乗って移動するコロイド粒子=煤の量が減少するのだ。これにより、筆が最初に通った墨跡と、そこから滲んでいった(水分が移動していった)墨跡の濃度に差&変化が生ずる。

    この墨量=移動する煤の量=の差や変化の生じ方などが、新しい墨、つまり膠が十分で、完全な保護コロイドになっている墨(液)では表現不可能な作風を創作するのだ。

    古墨を使うと言うことは、墨が作られた後、十分な時間経過があってはじめて表現可能になる作品の表現方法、墨色の濃淡の差を取り込んだ作品の作成を可能にする、それだからこそ古墨は価値が認められるのだ。

  • 墨汁と膠

    墨の外観に時代をつける=古く見せる=化粧方法が進んだ今、本当に古くなった墨かどうかの判断は、実際に墨を摺り、書き、その墨跡の濃淡の差などにより判断するのが一番間違いのない、或いは間違いの少ない方法。

    これには経験が必要。実際に数多くの墨を摺って、そして実際に書いて、墨の変化の様子を視るという一番単純な経験を重ねることで、少しずつ墨の経時変化の判断が正確になっていく

  • 墨汁と膠

    古墨の価値は、前述の主題になった「にじみ」の変化に加えて、墨色の冴え・切れなど、文章では十分に伝えることが困難な、そして困難であるのに、経験が無くとも、何か他とは違う美しさや魅かれる何かが感じられ、更に経験を積むことでその感覚が無限の領域へと広がっていく。

    それらが古墨の持つ美的領域・価値には含まれるのだ。

  • 多元物質科学研究所

    分散と凝集 DLVO理論へ

    Derjaguin,Landau,Verway,OverbeekB.V.Derjaguin and L.Landau;Acta Physicochim.,URSS, 14, 633 (1941).E.J.W.Verwey and J.Th G Overbeek; Theory of the Stability of Lyophobic Colloids, 193 (1948).

  • 分散と凝集

    分散とは何か‒ 溶媒中にコロイドが凝集せずにただよっている

    凝集とは何か‒ コロイドがより集まってくる

    物質は本来凝集するもの‒ 分子間力→van der Waals力

  • 分散と凝集 (平衡論的考察)

    凝集

    ‒ van der Waals力による相互作用

    分散

    ‒ 静電的反発力

    粒子表面の電位による反発分散

    凝集

  • 分散と凝集

    van der Waals力による相互作用

    静電的反発力

    Vtotal = VH + VelVH : van der Waals力による相互作用エネルギー

    Vel : 静電的反発力による相互作用エネルギー

    考え方

  • 分散と凝集

    Vtotal = VH + VelVH : van der Waals力による相互作用エネルギー

    Vel : 静電的反発力による相互作用エネルギー

    Vtotalが正→粒子は分散

    Vtotalが負→粒子は凝集

    考え方

  • 多元物質科学研究所

    静電的反発力

  • 静電的反発力

    粒子表面は電荷を帯びている

    ‒ 証拠:電気泳動など

    これが静電的反発力の源ではないか

    ここからスタートする

  • 表面電荷

  • 粒子表面の電荷

    イオンの周りの電子雲と同じ

    離れるほど電位は小さくなる

    では、なぜ電荷を帯びるのか

  • 粒子が電荷を帯びる理由

    酸化物の場合

    –-Si-O-H → -Si-O– + H+

    –プロトンが解離して負電荷

    空気の場合–何らかのイオンが吸着

  • 電位は遠ざかると下がる

    Helmholtz理論

    Gouy-Chapman理論

    Stern理論

  • 0 距離

    溶媒中 (バルク)

    表面電位ψ0

    ζ電位

    Helmholtz理論

  • 0 距離

    溶媒中 (バルク)

    表面電位ψ0

    ζ電位

    Gouy-Chapman理論拡散二重層

  • 0 距離

    溶媒中 (バルク)

    表面電位ψ0

    Stern電位

    ζ電位

    Stern理論直線で下がる

    Stern面

    Slip面

    拡散二重層

  • 現実的にはどう考えるか

    実測できるのはζ電位

    ζ電位=Stern電位と置ける

    それなら、ζ電位=Stern電位を表面電位と見なして考えよう

    Stern理論ではなく、Gouy-Chapmanの拡散二重層理論を実社会では適用

  • 0 距離

    面 溶媒中

    (バルク)

    表面電位ψ0=Stern電位ψdと考える

  • 表面電荷

    拡散層だけを考える

  • 1.拡散層中のイオンの濃度はボルツマン分布に従う

    ⎟⎠⎞

    ⎜⎝⎛ −= +++ kT

    eznn ψexp0

    ⎟⎠⎞

    ⎜⎝⎛= −−− kT

    eznn ψexp0

    n: 拡散層中のイオンの個数濃度 n0: バルク溶液中のイオンの個数濃度 z: イオンの価数 k: ボルツマン定数 T: 温度 ψ: 問題にしている点における電位 +,-: 陽イオン、陰イオンを表す

    (1)

  • 表面の電位: ψ0は電位決定イオンのバルク活量 cによって、

    00 ln c

    czFRT

    R: 気体定数 c0: c at ψ0 = 0

    (2)

  • 拡散層内における電位は、Poissonの式

    02

    2

    2

    2

    2

    2

    ) (grad divεερψψψψψrzyx

    −=∂∂

    +∂∂

    +∂∂

    ==∆

    を基礎にして求められる。 εr: 溶液の比誘電率 ε0: 真空の誘電率 ρ: 電荷密度

    (3)

  • ρ: 電荷密度 は、対称型電解質( nnnzzz ==== −+−+ 00 , )に対して、

    ⎟⎠⎞

    ⎜⎝⎛−=

    ⎭⎬⎫

    ⎩⎨⎧

    ⎟⎠⎞

    ⎜⎝⎛−⎟

    ⎠⎞

    ⎜⎝⎛−=

    −= −+

    kTzenze

    kTze

    kTzenze

    nnze

    ψ

    ψψ

    ρ

    sinh2

    expexp

    )(

    (4)

  • 従って、 平板電気二重層に対する、Poisson-Boltzmann式は、(3),(4)式から x方向だけを考えて

    kTzenze

    dxd

    r

    ψεε

    ψ sinh2

    02

    2

    =

    (5)式を積分して、

    )exp(4

    tanh4

    tanh 0 xkT

    zekT

    ze κψψ −⎟⎠⎞

    ⎜⎝⎛=

    (5)

    (6)

  • 1

  • 次に平板電気二重層間の相互作用を考える

    平板間の相互作用をまず考えよう

  • 溶液中の2枚の平行平板(板間距離: h)に 作用する力 Pは

    OE PPP += 静電気成分 + 浸透圧成分 (電気力線により内側に引かれる力)+ (対イオンの浸透圧により外側へ押される力)

    nkTkTnnPdxdP

    O

    rE

    2)(2

    20

    −+=

    ⎟⎠⎞

    ⎜⎝⎛−=

    −+

    ψεε

    (15)

    (16)

  • POは常に PEよりも大きく、板は反発力を受ける 板の接近過程で表面の電位ψ0が変化しなければ、 PEの寄与を無視して、(1)と(16)の POの式から、 板の受ける反発力 PR(h)は単位面積あたり (このときの考え方は、2つの平板の丁度中間の 面と無限遠の面を考え、中間の面上では、対称性 から電場は零、無限遠の平面でも電場は零である から、浸透圧成分のみを考えればよい、というこ とになる)

    ⎭⎬⎫

    ⎩⎨⎧ −= 1cosh2)( 2/

    kTzenkThP hRψ

    (17)ψ2/h: 板間の中央における電位

  • 相互作用が弱ければ、ψh/2は単独の電気二重層の 電位ψs(h/2)の2倍と考えて、

    kTzekTzekTze 4/)4/tanh( then14/ ψψψ ≅

  • (17)式で 2

    2/2/ }/{)( then1/ kTzenkThPkTze hRh ψψ ≅1、つまり、hが電気二重層の厚さ よりも長いところで成り立つ 近似には cosh y ≅ 1 + y2 を使用した)

    すると、 )exp(64)( 2 hnkThPR κγ −= (20)

  • 従って、平板間の電気二重層の相互作用エネルギーは

    )exp(64)()( 2 hnkTdhhPhVh

    RR κγκ−=−= ∫∞

    (21)

  • 次に球形粒子間の相互作用を考える

    次に球形粒子間の相互作用を考えよう

  • Derjaguin近似から球形粒子の相互作用力へ

    Derjaguin近似: 半径 a1と a2の球形粒子の最近接距離 Hのとき (H

  • 従って、半径 aの球形粒子の相互作用エネルギーは

    )exp(64

    )()(

    22 h

    ankT

    dHHPHVH

    RR

    κγκπ

    −=

    −= ∫∞(24)

  • いま、 kTzekTzekTze 4/)4/tanh( then14/ 000 ψψψ ≅

  • )exp(2)( 200 haHP rR κκψεεπ −= )exp(2)( 200 haHV rR κψεεπ −=

    (13)式を使うと、

    )exp(2)(0

    2

    HaHPr

    R κεκεσπ

    −=

    )exp(2)(0

    2

    2

    HaHVr

    R κεεκσπ

    −=

    (25)

    (26)

    (27)

    (28)

    000 κψεεσ r= (13)

  • van der Waals相互作用

    van der Waals力の近似式

    212)(

    HaAHPA −=

    HaAHVA 12

    )( −=

    Aは Hamaker定数

    (29)

    (30)

    凝集の源

  • 全相互作用エネルギーは

    20

    2

    12)exp(2)(

    HaAHaHP

    rT −−= κεκε

    σπ

    HaAHaHV

    rT 12

    )exp(2)(0

    2

    2

    −−= κεεκσπ

    が得られる。 あるいは、

    HaAhaHV rT 12

    )exp(2)( 200 −−= κψεεπ

    (31)

    (32)

    (33)