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Computerworld.JP Aug, 2008

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■[特集]スパイラルアップ![IT運用管理]──PDCAサイクルを回して継続的改善をサーバやストレージ、ネットワーク・デバイスなどで構成されるITインフラの正常稼働を維持するために、日々、保守・運用管理作業を行っていく──地味には違いないが、この運用管理業務が確実になされることで、ITを活用した企業のビジネス活動は成り立っている。ITシステムの複雑化や管理対象の拡大が進むなかで、ビジネスを止めないITシステムを維持するためには、運用管理業務の“効率”や“品質”に目を向け、高めていく必要がある。つまり、この業務にも、計画・実行・評価・改善のいわゆるPDCAサイクルに沿った、業務効率/品質のスパイラルアップが求められているのである。本特集では、運用管理にまつわる諸課題を挙げながら、今日のIT運用管理基盤の要件や、スパイラルアップを実現するためのポイントを整理する。■[特別企画]IT史に輝く「すべったテクノロジー」ベスト25──「少数に絶賛も、多数に非難」の悲しきプロジェクトたちコンピュータ業界の歴史をひもとくと、まったく不名誉な理由で人々に記憶されている出来事の多さに気づかされる。それらは、すぐれたアイデアが必ずしも成功につながるわけではないこと、たとえMicrosoftでも過ちを犯さずにいられるわけではないことを、われわれに教えてくれる。しかし、「歴史に学ばない者はそれを繰り返すハメになる」との格言どおり、相も変わらず先達の失敗が繰り返されているというのが、この業界の実情だ。そこで本稿では、過去の失敗を今後の糧とするべく、過去20年の間に登場した“すべった”テクノロジーやトレンド、さらにはキーパーソンを振り返る。

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August 2008 Computerworld 5

Features 特集&特別企画

PDCAサイクルを回して継続的改善を

スパイラルアップ![IT運用管理]

人・プロセス・技術の観点から検討を重ね、サイクルを回すIT運用管理の現状分析と改善のアプローチ金谷敏尊

V2を捨てるべからず/発想を転換せよ/過大な期待は禁物……ITIL V3適用を成功に導く5つのポイントGary Anthes

サーバ電力管理やハードウェア・リソース管理など、省電力に貢献するツール群グリーンIT時代のシステム運用管理栗原 潔

新時代アプリケーションの運用管理を学ぶ失敗しないSaaS運用の極意──カギを握るのは「SLA」Juan Carlos Perez

管理者はエンドユーザー自身「マイPC・セルフ管理」の時代

Tom Sullivan

注目の製品が備える機能・特徴をチェックProduct Review[IT運用管理]Computerworld編集部

「少数に絶賛も、多数に非難」の悲しきプロジェクトたち

IT史に輝く「すべったテクノロジー」ベスト25

Neil McAllister

EventReport イベント・リポート

APC Schneider Electric Technology Centerリポート巨大なテスト・センターが示す、データセンター効率化に向けたAPCの“メッセージ”山上朝之

特集

40

42

52

58

64

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75

81

8

Part1

Part2

Part3

特別企画

発行・発売 (株)IDGジャパン 〒113-0033 東京都文京区本郷3-4-5TEL:03-5800-2661(販売推進部) © 株式会社 アイ・ディ・ジー・ジャパン

月刊[コンピュータワールド]

世界各国のComputerworldと提携

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August2008Vol.5No.57contents

2008年8月号

8

Part4

Part5

Part6

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August 2008 Computerworld 7

HotTopicsホットトピックス

IT Inside Topics [ニュースなIT]中国・四川大地震が襲った新興IT都市・成都災害直後のネットワーク、工場、スタッフの被害状況を追うSteven Schwankert、Patrick Thibodeau

IT Inside Topics [ITトレンド・ウォッチ]企業革新のカギは社外にあり。「クラウドソーシング」の可能性

“開かれたアウトソーシング”のメリット/デメリットMary Brandel

News&Topicsニュース&トピックス   20

TechnologyFocusテクノロジー・フォーカス

再考! ブレード・サーバの現状と将来亦賀忠明

RunningArticles連載

ITキャリア解体新書(第5回)

ITアーキテクト横山哲也

Opinions紙のブログ

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IT哲学江島健太郎

テクノロジー・ランダムウォーク栗原 潔

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Computing

contents8

Chew-Mock

Chew-Mock

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I T I n s i d e To p i c s

ニ ュ ー ス な I T

Computerworld August 200812

携帯よりも災害に強かった固定電話とインターネット

 中国国営テレビが5月12日に報じたニュースによる

と、中国四川省を襲ったマグニチュード(M)7.8の大

地震発生直後、固定通信網は影響なく機能したが、

省都である成都西部の携帯電話サービスがダウンし

たという。

 中国および世界最大の携帯電話事業者である中国

移動通信(China Mobile)の上海支社は同日、約2,300

の基地局が大地震による停電や通信障害を受けて復

旧作業に取り組んでいると中国国営通信の新華社に

報告した。

 中国移動通信の携帯サービスに支障が生じたのは

四川省南西部と陝西省北西部であった(ちなみにこの

2つの地域は隣接していない)。同社の報告によると、

地震の影響によってコール・ボリューム(一定時間内

に処理されたコール数)が通常の10倍に膨れ上がり、

疎通率は約50%まで低下したという。

 中国のさまざまなオンライン動画サイトには、国営

テレビ局である中国中央電視台(CCTV)の夜の

ニュース番組で映されなかった被災映像が多数寄せ

られた。例えば、「成都大地震」と題されたビデオ・クリッ

プでは、天井が崩れかかった教室や学生寮で机の下

2008年5月12日午後2時28分(北京時間)、中華人民共和国中西部に位置する四川省を襲ったマグニチュード7.8の大地震は、同省一帯に壊滅的な被害を与えた。なかでも、震源地から約100kmの省都・成都は、新興オフショア拠点として多くの米国企業が関心を寄せている都市であり、今後の被害の広がりが心配されるところである。本稿では、中国・四川大地震による被害状況を伝えたComputerworld米国版のリポートをお届けする。

Steven Schwankert/Patrick ThibodeaulComputerworld米国版取材協力:Sumner LemonIDG News Serviceシンガポール支局

中国・四川大地震が襲った新興IT都市・成都災害直後のネットワーク、工場、スタッフの被害状況を追う

に身を寄せる学生たちが慌てて飛び出そうとすると、

これを撮影しているカメラマンが「まだ動いてはいけな

い、大丈夫だから」と声をかける様子が映し出されて

いる。こうした成都の被災状況を伝える数々の映像

からも、地震後もインターネット・サービスには支障が

なかったことをうかがい知ることができる(画面1、2)。

半導体メーカーは工場を閉鎖従業員の安全確保を最優先

 中国で5番目の規模を誇り、中国南西部最大の学

究拠点である成都では、半導体産業と中国政府の注

力で急成長を遂げているソフトウェア・アウトソーシン

グ産業が盛んだ。半導体製造においては、主要拠点

とまでは言えないが、米国Intelは2005年から成都で

半導体製造を開始しており、同社の組み立て・検査

工場には現在600人の従業員が勤務している。

 Intelシンガポール支社の広報担当、ダニー・チャ

ン(Danny Cheung)氏は、Computerworld米国版に

宛てた電子メールの中で、「今回の地震が成都におけ

る当社の製造業務にどのような影響を及ぼすかは現

在調査中だが、何よりもまず従業員の安全を確保す

ることを先決としている」と記していた。

 ファウンドリー(半導体受託生産会社)大手の中芯

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August 2008 Computerworld 13

国際集成電路製造(SMIC)も成都で組み立て・検査

工場を運営しているが、情報筋によると、SMICは(5

月12日時点で)地震の影響により工場を閉鎖し、製造

を中止したという。

史上最大級のマグニチュードを記録犠牲者拡大の懸念も

 四川大地震は5月12日北京時間午後2時28分に発

生した。中国地震局は当初地震の規模をM7.6と発表

したが、後にM7.8に上方修正した。震源地は成都か

ら約33マイル(約53キロメートル)北西部の四川省汶

川県とされる。CCTVの番組では報道記者が地震発

生当時の状況について、「およそ1分間の揺れのあと、

天井の照明器具が落下して、床に設置してある冷水

機に直撃した」と伝えた。

 (5月12日時点の)余震についてCCTVは報じていな

かったが、米国地質局(USGS)のサイトによれば、現

地時間午後8時45分までに少なくとも10回の余震が観

測された。震源地から遠く離れた北京や中国南東部

沿岸の浙江省などへの影響は少なかったようだ。北京

では、当日の午後2時35分にM3.9の地震が観測された。

 CCTVが初めて四川大地震の映像を流したのは、

現地時間の午後4時23分で、人々が携帯電話で連絡

を取り合っている姿や、自動車が通りを往来する様子、

頭から血を流している女性が車に乗り込む姿などが

映し出された。CCTVの夜のニュース番組では地震

で生じた住居用建物の亀裂部分は放映されたものの、

倒壊家屋や、地震による負傷者あるいは死亡者が映

されることはなかった。

 M7.8を記録した5月12日の大地震は、1976年7月

に北京東部で発生した中国近代史上最大とされる唐

山地震とほぼ同じ規模とされており、このときには20

万〜70万人以上の犠牲者が出たと言われている。5

月28日の時点で死亡が確認された犠牲者数は6万

8109人、行方不明者は1万9,851人、負傷者は36万

4,552人に上り、約1,500万人が避難所で生活してい

ると中国政府は伝えている。

メッセンジャーのアイコンで震災被害者への連帯を表現

 インターネットの世界においても、四川大地震の震

災被害者を支援する活動が広がった。中国のインター

ネット・ユーザーは、インスタント・メッセージング(IM)

を利用し、震災被害者支援の意思表示を行っている。

 MSN Chinaは5月13日、被災者との連帯を示すため、

「MSNメッセンジャー(Windows Live Messenger)」

のハンドルの前に、虹のマークを付加することを呼び

かけ始めた(18ページの画面3)。

 「Rainbow Petition」(虹の願い)と呼ばれるこの行

動は、特定人数のユーザーの動員を目指すものでは

なく、人々に被害者とその窮状を思い起こさせ、救

画面1:中国のオンライン動画サイト「youku.com」では、四川大地震関連の特設ページが設置されている

画面2:「YouTube」にも多数の関連動画がアップロードされた。なかには閲覧回数が100万を超えるものもある(5月末時点)

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Computerworld August 200814

援活動として現金や物品の寄付を促進することを目

的としている。

 中国では最近、国外、特にフランスでの北京オリン

ピックの聖火リレーに対する妨害への抗議が広がっ

たあとも、オンラインで心情を表現する動きが広がっ

ている。

 例えば、4月中旬には中国のMSNユーザーが、愛

国心を示す証としてハンドルにハート・マークを付加

し始めた。MSN Chinaによると、ハート・マークのア

イコン(バリエーションあり)をハンドルに付加したユー

ザーは、230万人程度だという。ちなみに、MSN

Chinaは、このような活動を組織として支援している

わけではない。

 今回のRainbow Petitionは、ハート・マークのよう

な政治的意味合いはなく、ハート・マークのように急

速に拡大してはいないようだ。「Sherry」と名乗るユー

ザーは、「Rainbow Petitionを表示させるつもりはない。

だれからも頼まれていないし……」と述べ、ハート・マー

クは使い続けると付け加えた。

 北京に拠点を構え、中国メディアに関するブログ

「Danwei.org」を執筆するジェレミー・ゴールドコーン

(Jeremy Goldkorn)氏は、「Rainbow Petitionの広

がりは、(ハート・マークのような)ナショナリズムが根

底にあるとは考えられない」と語った。

 Rainbow Petitionは、MSN Messengerユーザー

だけが行っている。中国のIM市場で最も大きなシェ

アを占 めているのはTencentの「QQ」で、MSN

MessengerはQQに大きく水を開けられている。2008

年第1四半期のQQの登録ユーザー・アカウント数は7

億8,340万とされており、中国のインターネット・ユー

ザー1人につき3つ以上のアカウントを持っている計算

になる。QQは、MSN Messengerのような方法によ

るハンドルへのマークの付加をサポートしていない。

Twitterやブログを介して情報がリアルタイムに飛び交う

 震源地に近い四川省の省都・成都では、地震発生

直後から、ミニブログの「Twitter」をはじめ、多数の

ブログ、企業の電子メールを介して地震関連のニュー

スが飛び交った。

 成都は他の中国主要都市と比べると知名度は若干

落ちるものの、成都市内の経済発展区で盛んなITサー

ビス産業は、現在多くの米国企業が注目するところだ。

1906年のサンフランシスコ大地震とほぼ同じ規模で

あった四川大地震は、急成長を遂げるこのソフトウェ

ア開発拠点に大きな被害を及ぼした。

 四川大地震とその犠牲者に関するニュースはブロ

グの世界にも広まった。Twitterを通じてリアルタイ

ムで情報を得たというIT分野の著名ブロガー、ロバー

ト・スコーブル(Robert Scoble)氏は、そのときの様

子を自身のブログで紹介している。

 世界主要都市のローカル・ブログ・サイトを展開す

る米国Gothamistの上海版「Shanghaiist」サイトでは、

画面3:「Rainbow Petition」の表示設定をすると、名前の前に虹のアイコンが表示される

画面4:Shanghaiistのサイトには、国営新華社通信上海支局のIT部門における地震発生直後の写真が掲載されている

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August 2008 Computerworld 15

ス拠点として急成長している都市」と評す。同氏は電

話インタビューの中で、中国政府は成都近辺の大学

からIT関連専攻の卒業生を積極的に採用し、強固な

ITサービス基盤作りに取り組んでいると説明した。「毎

年レベルの高い優秀な卒業生を生み出すこの地域は、

非常に魅力的だ」(Eltschinger氏)

 中国内におけるITサービス・プロバイダーとしての

現在の成都は、北京や上海といった主要都市に次ぐ

存在となっている。

 ただ、中国全体のソフトウェア開発サービス産業は、

「今なおインドに大きく水を開けられたままだ」とアウト

ソーシング・コンサルティングを手がける米国NeoIT

のアナリスト、ディーン・デビソン(Dean Davison)氏

は指摘する。同氏によると、世界ソフトウェア開発市

場の約70%を占めるインドに対し、中国のシェアは

10%未満という。

 「中国政府がこの産業の発展に注ぐ力の入れようを

見るかぎり、中国はいずれ世界の主要オフショア拠点

になるだろうが、事業法、文化、政治などの違いが発

展を阻む障壁となるかもしれない」とDavison氏は言

い添えている。

四川大地震関連のビデオ・リンクを提供したり、地震

発生当時の様子を分単位で伝えたりしており、地震

発生直後の国営新華社通信上海支局のIT部門の写

真も掲載している(画面4)。

 米国メリーランド州ロックビルと中国の北京に拠点

を置くIT開発企業のSymbio Groupは、成都市の

Tianfu Software Parkで働く同社エンジニア100人

は全員無事だったと伝えた。ただ、市内にある多くの

店舗やレストランは閉店したままだという。同社の事

業開発担当エクゼクティブ・ディレクター兼バイスプレ

ジデントを務めるキース・マツナミ(Keith Matsunami)

氏から寄せられた(5月12日付けの)電子メールによれ

ば、携帯サービスは停止状態のようだがインターネッ

ト接続はおおむね機能しているという。

「次なるオフショア拠点」として急成長を遂げる成都

 北京にあるSoftek ChinaのCEOで『Source Code

China』の著者でもあるシリル・エルシンガー(Cyrill

Eltschinger)氏は、成都を「アウトソーシング・サービ

 米国連邦捜査局(FBI)は5月20日、中国が大地震に見舞われた5月12日以降、「救済募金」を求める詐欺メールが米国内で急増していることを受け、これらのメールに応じないよう警告を発した。 FBIによると、これら詐欺メールの中には、正規のオンライン支払いサービスのロゴを偽装して無防備な慈善家から金を盗もうとするものや、「大口寄付者には無料旅行をプレゼント」などとうたうものもあるという。 この手の詐欺メールは、大規模な事件・事故・災害が起こると必ずといっていいほど出現する。例えば、2001年9月11日の米国同時多発テロ事件、ハリケーン・カトリーナおよびリタによる災害、2007年のミネアポリス高速道路崩落事故、最近ではミャンマーのサイクロン被害が起きたときも、「救済募金」を求める詐欺メールが出回った。 FBIの広報担当者、ポール・ブレッソン(Paul Bresson)氏は、

「こうした大災害に注目が集まっているときほど、引っかからないよう慎重にならなければいけない。悲劇的な事件が起こるたびに、詐欺師が言葉巧みに一稼ぎしようと暗躍する。彼らの手口は、素人にはなかなか見抜けない」と話した。 同氏によると、災害発生の一報が流れると、すぐに支援基金の立ち上げを主張するメールが一斉に送信され始めるとい

う。「メールを受け取った人々は、だまされているとは少しも思わないだろう」(Bresson氏) FBIでは、こうしたメールを受信した場合は次の点に気をつけるよう呼びかけている。

●救援金を募る「未承認メール」には絶対に返信しない●電子メールではっきりと寄付を依頼してくる人を簡単に信用

しない●未承認メールに含まれているリンクをクリックしない。クリッ

クすると、悪質なソフトウェアが起動し、コンピュータに攻撃が仕掛けられるおそれがある

●写真を添付したと称するメールの添付ファイルは開かない●寄付をしたいときは、実績があり、かつ有名な正規の人道救

済活動を行っているサイトへ直接行くこと。違法なサイトに転送される可能性のある、未承認メール内のリンクをクリックするのではなく、自分のWebブラウザから寄付用サイトを直接閲覧する。寄付を集めるのに他人を頼ったり、自分の代わりに寄付を集めさせたりしてはならない

●寄付を求めてくる人に個人情報や財務関連情報を提供しない

言葉巧みに「救済募金」を求める詐欺メールが急増、FBIが注意を喚起c o l u m n

Todd R. Weiss Computerworld米国版

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I T Tr e n d W a t c h

ITトレンド・ウォッチ

Computerworld August 200816

開かれたコミュニティの中で不特定多数の人に作業を委託

 最近、新システムの構築を検討していた米国の電

力会社Constellation Energy Group(以下、Conste

llation)は、その構築手法として、これまであまり例

のないやり方を選択することにした。従来であれば、

社内スタッフ、コンサルタント、請負業者、特定のオ

フショア・プログラマーなどにシステム・コードの作成

を委託するのが普通だ。Constellationも当初は、こ

れらの選択肢を考えていた。

 しかし、同社が選択したのは、世界中のプログラマー

にシステム・コードを書かせ、その中からすぐれたもの

を選び出すというものだった。最終的に、数百人の

プログラマーがこのコンペに参加し、Constellationと

同コンペのマネジメントを担当した米国TopCoderが

優秀なシステム・コードを選ぶことになった。

 これは「クラウド(Crowd:群衆、大衆)ソーシング」

と呼ばれる手法である。クラウドソーシング関連の話

題を扱うブログ「Crowdsourcing.com」の管理人、ジェ

フ・ハウ(Jeff Howe)氏は、クラウドソーシングについ

て、「これまで特定の人(通常は社内スタッフ)に委託

していた作業を、開かれたコミュニティの中で不特定

多数の人々にアウトソーシングする行為」と説明する。

「クラウドソーシング」という言葉を耳にしたことがあるだろうか。社外の特定の人間や組織に業務を委託する「アウトソーシング」とは異なり、クラウドソーシングでは、社外の不特定多数の人間が業務にかかわることになる。このモデルは数年前からあり、特に目新しいものではないが、ここにきて注目する企業が増えており、採用例も数多く見られるようになった。しかし、いまだ不透明な部分があるなど、課題を抱えていることも事実だ。本稿では、クラウドソーシングを採用した企業の事例を見ながら、そのメリットとデメリットに迫ってみたい。

Mary BrandelComputerworld米国版

企業革新のカギは社外にあり「クラウドソーシング」の可能性“開かれたアウトソーシング”のメリット/デメリット

Howe氏は近日中に、クラウドソーシングをテーマとし

た単行本を出版する予定だ(写真1)。

 クラウドソーシングという言葉を初めて聞く人にとっ

てはイメージがわかないかもしれないが、これは、ソー

シングの重要な考え方の1つである。このモデルが今、

プログラミングから市場調査、製品開発、研究開発に

至るあらゆる分野で採用され始めており、注目する企

業が増えているのだ。Web 2.0プラットフォームを利

写真1:「Crowdsourcing.com」の管理人、Jeff Howe氏の手による書籍「CROWDSOURCING」。今夏に発売される予定だ

Page 11: Computerworld.JP Aug, 2008

August 2008 Computerworld 17

用して自分のアイデアや能力を共有したがる人々が増

えていることも、この流れに拍車をかけている。

 米国の調査会社Yankee Group Researchのアナ

リスト、ジョナサン・エドワーズ(Jonathan Edwards)

氏は、「YouTubeやWikipediaといった新たな表現の

場を得た消費者が今後、(クラウドソーシングという形

で)企業に発言するようになるだろう」と語る。クラウ

ドソーシングを使えば、「コストをほとんどかけずに消

費者の率直な意見を簡単に集められる」(同氏)からだ。

 Edwards氏によると、イノベーションの推進とコス

トの削減に欠かせない要素として、顧客など社外の

人間の活用を挙げる企業が増加しているといい、こ

のこともクラウドソーシングの拡大を後押ししていると

言える。「今はどの企業もイノベーションに力を入れて

おり、『あらゆる人材を活用しよう』という機運が高まっ

てきている」(同氏)

大衆の声に耳を傾けDellは新機種にXPを採用

 最近になって、クラウドソーシングの事例が数多く

見られるようになった。以下、その一部を紹介しよう。

 米国Dellは同社のプラットフォーム「IdeaStorm」を

とおして、ユーザーにアイデアを募り、お互いのアイ

デアを論議させている(画面1)。評価の高いアイデア

はIdeaStormサイトの上位に押し上げられるとともに、

実現の可能性が高まっていく。Edwards氏によると、

Dellは2007年2月にIdeaStormを立ち上げて以来、ユー

ザーから寄せられた20以上のアイデアを実現させてき

たという。例えば、コンシューマー向けPCの新機種

に最新のWindows Vistaではなく、安定していると

評価の高いWindows XPを採用した事例などがある。

「大衆の声にDellが応えたわけだ」(同氏)

 電機で動くスポーツ・カー(写真2)を扱うベンチャー

企業、米国Tesla Motorsは最近、一般家庭に設置

可能な電気自動車用の充電システムを設計するため

に一計を案じた。一般家庭で使える充電システムを

開発するには、さまざまな家庭における電気配線/負

荷などに関する情報が必要だった。そこでTesla

Motorsは、同社が所有するブログの読者に、必要な

情報をブログを通して提供してもらうことにした。こ

の方法で同社は、さまざまな家庭に対応できる充電

システムを作るための情報収集に成功したという。

 オンラインDVDレンタル事業を展開する米国

Netflixのケースは、ユーザーにとってより魅力的な

クラウドソーシング事例と言えるだろう。Netflixは、

同社のサイトで使われているツールを改善するため、

賞金付きのコンテストを開始した。同コンテストは

2011年まで続けられ、受賞者には5万ドルから最高

100万ドルの賞金が与えられるという。

13万人のプログラマーがシステム構築に参加

 前述したConstellationのケースは、実は完全にオー

プンな形で行われたわけではない。同社は、コンペを

開催するにあたり、米国コネチカット州のTopCoder

という企業に協力を依頼した。TopCoderは、定期的

にコーディング・コンペを開催し、参加した開発者を

ランク付けするとともに、システムを構築したい企業

写真2:Tesla Motorsの電動スポーツ・カー「Tesla Roadster」。同社は、一般家庭用の充電システムを開発するためにクラウドソーシングを利用した

画面1:参加者がアイデアを批評し合うDellのクラウドソーシング・プラットフォーム「IdeaStorm」。すぐれたアイデアはサイトの上位に押し上げられ、実現の可能性が高まっていく

Page 12: Computerworld.JP Aug, 2008

Computerworld August 200818

に人材として紹介している。TopCoderは現在、世界

200カ国以上に約13万人のメンバーを抱えている。

 Constellationから依頼を受けたTopCoderのプロ

ジェクト・マネジャーは、まずConstellationのニーズ

を評価したうえで、システム設計を数十の小さなコン

ポーネントに分けて進めることにした。そして、それら

コンポーネントのうちの約半数をメンバーの優秀な開

発者に開放した。

 開発者から送られてくるコードはTopCoderの基準

に従って評価され、採用者には500ドルから2,000ド

ル近くの報奨金が与えられる。すべてのコンポーネン

トが完成した時点で、TopCoderとConstellationは、

それらを1つのシステムに統合する予定だ。

 「1つのコンポーネントにつき、常に4、5件のコンペ

を開催している」と、ConstellationでIT担当マネージ

ング・ディレクターを務めるケン・オールレッド(Ken

Allred)氏は話す。1つのコンポーネントに対して、世

界各国に散らばる10~30人もの開発者からコードが

送られてくるという。「オンライン上の膨大な数の開発

者が常にコード開発に取り組んでいることになる。ス

ポーツと同じで、お互いを競争相手と見ることで高品

質なコードが生まれるのだ」(Allred氏)

 TopCoderでは、開発者の作業を補う再利用可能

なコンポーネント(Javaおよび.NET)をカタログ化する

ために、自社でもクラウドソーシングを採用している。

例えば、ある開発者がコンペをとおして作り上げたコー

ドがカタログとして採用された場合、採用者にはその

コードが再利用されるたびに永続的にロイヤルティが

支払われる。同社はコードのランク付けおよびテスト

にもクラウドソーシングを採用しており、メンバーに互

いのコードを評価させている。

クラウドソーシングでシステム構築の時間が半減

 Constellationのシステムはまだ完成していないが、

Allred氏は、「TopCoderのクラウドソーシング手法を

使うことで、時間とコストの両方を節約できる」と、早

くも絶賛している。同氏によると、システム構築にか

かる時間は社内スタッフを使う場合のおよそ半分にな

るという。

 ただし、最終的にシステムを完成させるには、各コ

ンポーネントを1つにまとめ上げる作業が別に必要とな

る。それでも「時間の短縮になることはまちがいない」

とAllred氏。機動力とスピードが求められるCon

stellationのような企業にとって、構築サイクルを短

縮できる点はきわめて大きなメリットなのだ。

 米国の調査会社Forrester Researchのアナリスト、

ケイリー・シュウェイバー(Carey Schwaber)氏によ

ると、システム構築にクラウドソーシングを採用する

のは、主に成長の速い企業だという。「一般的に成長

の速い企業では、システム構築の速度が企業の成長

速度に追いついていない。そのため、こうした企業で

は多少のリスクがあるとしても、システム構築の速度

を速められるプロセスを試したいと思っている」

(Schwaber氏)

 一方、ConstellationのAllred氏は、クラウドソー

シングのメリットとして、コードの品質の高さを挙げる。

「コンペに参加するプログラマーの多くは、1日に18時

間もC#言語と格闘している。企業内トップクラスの開

発者をしのぐ技術力の持ち主などざらに存在する」

(Allred氏)

 Allred氏は、世界中から送られてくるシステム・コー

ドを見比べた結果、プログラマーの視点には国によっ

てかなりの違いがあることに気づいたという。「海外の

プログラマーが、いかに独創性と革新性を持っている

かを知ることができた。彼らを使うことで、国内だけ

では得られなかった視点やシステムの構築手法を取

り入れられるようになった」(同氏)

参加者に主導権を握られる危険や偏った意見に影響されるおそれも

 当然のことながら、クラウドソーシングにも課題は

ある。例えば、店の経営を顧客に任すことができない

のと同様、外部の人間にコミュニティの主導権を渡

す のはまず いと、Yankee Group Researchの

Edwards氏は指摘する。「門戸を開くということは、

だれでも好き勝手に発言できることを意味する。なか

にはその会社を嫌っている人や、株価に不満を抱い

ている人がいるかもしれない」(Edwards氏)

 Edwards氏は、外部の人間に主導権を渡さないた

めには、議論の焦点を絞り、コミュニティが目指すゴー

ルを明確にすることが必要だと説明する。これにより

余計な意見が極力排除されるとともに、参加者が議

論に集中できる環境が生み出されることになる。同氏

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August 2008 Computerworld 19

Linuxを採用する決断を下した(写真3)。「この案には

数千人の賛成票が投じられたが、もし参加者がすべ

てLinuxファンだったとしたら市場全体の声を反映し

ているとは言えず、Dellは慎重になる必要があった。

製品やサービスの方向性をクラウドだけで判断するの

は危険だ」と同氏は警告する。

不透明な部分はあるが最適な手法となる可能性も

 TopCoderのシステムを絶賛するConstellationの

Allred氏でさえ、クラウドソーシングにはデメリットが

あると指摘する。例えば、同社の場合、各コンポーネ

ントを1つにまとめ上げる部門を新設し、社内スタッフ

に新たなスキルを持たせる必要が生じたという。

 Forrester ResearchのSchwaber氏も、TopCoder

のシステムには疑問があると語る。「TopCoderはシス

テム構築のプロセスをうまく可視化したという点では

評価できるが、ただ奇をてらっているだけという感じ

も否めない」(同氏)

 Allred氏は、機密情報をどう取り扱うかという点も

課題だと指摘する。Constellationでは、システム設

計を複数のコンポーネントに分けて進めることに決め

たが、そのうちの一部のコンポーネントについては同

社の独自情報(ビジネス・ロジックやルール)を使う必

要があったため、社内で設計せざるをえなかった。

 一方、知的財産権をどう守るかという参加者にとっ

ては切実な問題もある。クラウドソーシング・プラット

フォームを通して、参加者がすばらしいアイデアを公

開したにもかかわらず、まったく評価されないばかりか、

企業や他の参加者がそのアイデアを持ち逃げすること

もありえない話ではないからだ。

 この点についてInnoCentiveでは、すべての参加

者に守秘義務の契約に署名することを義務づけてい

るほか、問題提起した企業だけがソリューションのア

イデアを見られるようにすることで、第三者が他人の

アイデアを見たり盗んだりするのを防いでいるという。

 こうしたマイナス面も確かにあるが、Yankee

Group ResearchのEdwards氏は、さまざまなクラウ

ドソーシング手法を試すよう企業に勧めている。「まだ

不透明な部分はあるが、企業によっては最適な手法

となる可能性もある。ますます競争が激化するなか、

まずは試してみるべきだと考えている」(同氏)

は、参加者の知性を最大限に発揮させる環境こそが

議論の質を高めると指摘する。

 もう1つの方法は、米国Think Passengerや米国

Leverage Softwareといったコミュニティ・ソリュー

ション・ベンダーのプラットフォームを利用してプライ

ベート・コミュニティを作ることだと、Edwards氏は

話す。同氏によると、米国Hewlett-Packard(HP)と

米国Salesforce.comは、顧客、パートナー、ディベロッ

パーとの関係構築に向けた専用のソーシャル・ネット

ワークを作るためにLeverage Softwareを採用して

いるそうだ。

 クラウドソーシングの中には、必然的に参加者が制

限されていくタイプもある。例えば、米国InnoCentive

の「オープン・イノベーション・マーケットプレース」に参

加できるのは、同社が設定した非常に難解な設問に回

答できた人──多くの場合、科学者やエンジニア、発

明家、ビジネスの専門家など──に限られる。

 InnoCentiveの参加者は、アイデアが採用されると、

賞金として最高10万ドルを受け取ることができるとい

う。「そういう参加者は、いわゆる一般大衆とは違う。

つまり同社は、研究施設(コミュニティ)を一般人に開

放しているわけではないのだ」と、Edwards氏。

 InnoCentiveのケースでは、コミュニティが荒らさ

れる可能性は皆無と言っていいだろう。しかし、明ら

かに技術に詳しい人たちだけでコミュニティが構成さ

れているため、多様性に欠けると言わざるをえない。

企業は意思決定の際に、一部の層だけの影響を受け

すぎないよう注意すべきである。

 Dellは以前、IdeaStormにオープンソースOSを求

める声が多数寄せられたことを受け、同社のPCに

写真3:DellのIdeaStormから生まれた「Ubuntu Linux 7.04」採用のデスクトップPC「XPS 410n」

Page 14: Computerworld.JP Aug, 2008

NEW

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Computerworld August 200820

デスクトップPC時代の終焉は近い?──アナリストが市場減退を指摘価格競争の激化による利幅減少と低価格化が進むノートPCへの移行が原因

 かつてはPCベンダーの主要な収益源で

あったデスクトップPCが、ここにきて市場

としての魅力を急速に失いつつあると、ア

ナリストらが指摘している。その原因は、

価格競争による利幅減少と、ノートPCに

乗り換えるユーザーの増加にあるという。

米国で進むデスクトップPCでの収入減 ユーザーの間では価格の下落が進む

ノートPCを選択する傾向が強まっており、

デスクトップPCは負荷の大きいタスクや

ゲーム向けといったニッチ製品と化してい

るのが現状だ。また、ローエンド向けデス

クトップPCの価格も下落しており、特に

米国ではPCベンダーの収益性が徐々に悪

化し始めている。

 米国Dellは5月29日、2009会計年度第

1四半期(2-4月期)のデスクトップPCの出

荷台数は前年同期比9%増となるものの、

その売上高が同5%減少したと発表した。

Dellの広報担当を務めるデビッド・フリン

ク(David Frink)氏は、「デスクトップ製品

からモバイル製品への移行が加速し、当

社のノートPCの成長率が高まった」と述べ

ている。なお、ノートPCの出荷台数は前

年同期比43%増を記録し、売上高も49億

ドルと同22%増を達成したという。

 米国Endpoint Technologies Associ

atesの社長、ロジャー・ケイ(Roger Kay)

氏は、「数年前までデスクトップPCをビジ

ネス・モデルの中核としてきたDellは、ノー

トPCへの転向が遅れたために財政難に

陥った。しかし、ここにきて主力製品ライ

ンをモバイル製品へシフトさせることに成

功し、経営を立て直しつつある」と分析し

ている。「ノートPCに注力する傾向は今後

も続くだろう。この傾向が収束することは

当面ないと見ている」(Kay氏)

 米国Pund-ITの社長、チャールズ・キン

グ(Charles King)氏は、Dellのデスクトッ

プPCの売上高が減少した要因は、利幅の

薄さにあると指摘する。同氏によると、PC

ベンダーの大半は、競争の激化ともうけの

少なさからデスクトップ事業に慎重な姿勢

を見せており、売上げもノートPCがデスク

トップPCを上回りつつあるという。

世界的にはいまだ需要は根強いが今後は変化の可能性も とはいえ、米国において需要が縮小して

いるデスクトップPCも、国際的にはまだ寿

命は尽きていない。米国IDCの調査による

と、世界屈指のPCベンダーである米国

Hewlett-Packard(HP)は、2007年第4

四半期の米国でのデスクトップPC出荷台

数が前年同期を割り込み、わずか215万

台にとどまったものの、世界では686万台

を出荷しており、しかも前年同期比10.7%

●サン、企業向けSSD製品を投入──2.5インチ・ドライブを年内出荷へ(6/5)⇒26ページ

●iPhoneの日本発売がソフトバンクに決定――アップルとの契約締結を発表(6/4)

●ゲイツ氏、開発者に別れを告げる――開催中のTechEdで最後のスピーチ(6/3)⇒24ページ

●デスクトップPC時代の終焉は近い?――アナリストが市場減退を指摘(6/2)⇒20ページ

●マイクロソフト、次期OS「Windows 7」のドライバ・テストを6月1日からベンダーに義務づけ(6/2)

●アドビ、ホステッド型文書管理サービス分野に本格進出――Acrobat.comを発表(5/30)⇒22

ページ●シーゲイト、企業向けSSDストレージと2TBの

HDDを来年投入へ(5/29)●アップル、Mac OS X Leopardをアップデート

――68件の改善/フィックスを実施(5/28)●欧州委、IPv6への早期移行をEU加盟国に要請(5/28)⇒25ページ

●SaaSとVPNを“セット”で提供――セールスフォースとNTTグループが提携(5/26)⇒27ページ

●BIに必要なのは“予見力”――SAS、BIプラットフォームの最新版「SAS 9.2」を発表(5/26)⇒23ページ

●ウィルコム、新型スマートフォン「WILLCOM 03」を発表(5/26)

●サムスン電子、256GBの2.5インチSSDを年内に量産(5/26)

●シスコ、SOAPに代わる新メッセージング・プロトコル「Etch」を開発(5/23)⇒27ページ

●シトリックス、Xenエンジン採用のデスクトップ仮想化ソフト「XenDesktop」を出荷開始(5/20)

●日本オラクル、SaaS型CRMの新版「Oracle CRM On Demand Release 15」を提供開始(5/20)

●EMCのトゥッチ会長「クラウド・コンピューティングが情報の断片化を解消する」(5/19)⇒21ページ

RESE

ARCH

増を達成したという。

 米国ではデスクトップPCとノートPCの

価格は拮抗しているが、途上国ではローエ

ンド向けデスクトップPCのほうがノート

PCよりも安価であり、ユーザーが初めて

買うマシンとしては前者がより好まれると、

Kay氏は説明する。もっとも、非営利団体

One Laptop Per Child(OLPC)の「XO」

や台湾ASUSの「Eee PC」といった低価格

ノートPCも登場しており、従来の流れも

変わりつつあるという。

 King氏は、「ノートPCの価格競争は激

化する一方であり、個人的には今後もさら

に加熱すると予想している。ベンダーは、

ゲームやビジネス向けのハイエンド・マシ

ンではなく、ローエンド・マシンの売上げに

頼るようになっている。その結果、販売数

は伸びるものの収入は落ち込むという事態

に陥っている」と指摘する。

(IDG News Service)

DellのノートPC「XPS M1530 RED」

Page 15: Computerworld.JP Aug, 2008

M a y , 2 0 0 8

August 2008 Computerworld 21

EMCのトゥッチ会長「クラウド・コンピューティングが情報の断片化を解消する」EMC Worldで、“情報の爆発”時代に対応するために、コンシューマー市場とクラウドに注力すると表明

 米国EMCの年次コンファレンス「EMC

World Conference 2008」が5月18日か

ら5日間、米国ネバダ州ラスベガスで開幕

された。19日の基調講演には同社会長・

社長兼CEOのジョー・トゥッチ(Joseph

Tucci)氏が登壇し、“情報の爆発”時代に

対応するアプローチとして、ストレージ分

野/市場のさらなる領域拡大と、クラウド・

コンピューティングへの注力を宣言した。

EMCがコンシューマー市場にも注力する理由 情報量が爆発的に増大しているなか、

ストレージの総合ベンダーとして確かな解

決策を提示する──これが近年のTucci

氏のメッセージだ。今年のEMC Worldで

も、ハードウェア/ソフトウェアの両面で

同社の対象領域を拡大・進展させていくこ

とをあらためて表明した。エンタープライ

ズ市場で実績を積んできた同社も、“情報

の爆発”時代には、一般消費者向け市場が

大きなカギになると見ているのだ。

 「2002年ごろのEMCは、ハイエンド・

ストレージ市場にフォーカスし、利益の

80%ほどは、その領域から得ていた。そこ

から先は、ハイエンドからローエンドへ、

大手企業向けからSMBへと領域を拡大し

てきた。今や、コンシューマーは最も多く

の情報を生み出しているからだ」(同氏)

 なおEMCは2007年10月、米国Berke

ley Data Systemsを買収してオンライン

のバックアップ・ツール「Mozy」を手中に

収め、「MozyEnterprise」として提供して

いる。また、今年4月には、個人/小規模

企業向けリムーバブル・ディスクで知られ

る米国Iomegaの買収を発表している。

変遷するストレージの要件とクラウド・コンピューティングの可能性 情報の爆発という潮流は、インターネッ

トやブロードバンド・ネットワークの進化自

体が推し進めているわけだが、そこに

YouTubeやGoogleに代表されるWeb 2.0

系技術/サービスが台頭したことで、それ

らを利用する世界中のPCユーザー、一般

消費者もこの流れを後押ししている。こう

した相乗効果により成長してきた情報の集

合体に対し、「人々はオンデマンドで、必要

な情報を入手しようとする傾向が加速して

いる」(Tucci氏)わけだ。その際、ストレー

ジは信頼性、可用性、迅速性のより高い

ものが求められる。

 「99.9999%の可用性でも、必ずしも十

分ではない。ソフトの力でそれを補完する」

とTucci氏が語るように、EMCは上述した

ストレージの要件を向上させることに力点

を置いている。そのうえで、仮想化、暗号

化といった技術を付加することで、製品や

●中堅・中小企業の国内IT市場規模、2007年は3兆8,341億円に(5/19)

●グーグル、健康記録管理サービス「Google Health」の一般提供を開始(5/19)

●Facebook日本語版が登場――来日したCEO「リアルな人間関係で情報共有の輪を広げてほしい」

(5/19)⇒23ページ●アドビ、「Flash Player 10」のベータ版を公開(5/15)

●ヤフー、開発者向けプラットフォーム「Search Monkey」を一般公開(5/15)

●米国のオンライン広告市場、2007年は26%増

の212億ドルへ拡大(5/15)●CBS、CNET Networksを18億ドルで買収へ(5/15)

●世界の労働者の16%が、7種のデバイスと9種のアプリを駆使する“ハイパーコネクト・ユーザー”

(5/15)⇒26ページ●FCC、無線700MHz帯の一部を再競売へ(5/14)●サン、クアッドコアOpteron搭載の「Sun Fire」新

サーバをリリース(5/13)●EDSの買収で、HPはIBMに勝てるのか(5/13)

⇒24ページ●デルが仮想化製品/サービスを強化――仮想化

ソフト組み込み型「PowerEdge」サーバなどを発表(5/13)

●ヴイエムウェアが仮想サーバの管理ソフト2種を発表、障害復旧/アプリ導入を支援(5/12)

●マイスペース、ユーザーのプロファイルを他SNSと共有へ(5/8)

●6コアの次は一気に12コア――AMDがCPUロードマップを大幅変更(5/7)⇒25ページ

●スプリントとクリアワイヤ、モバイルWiMAX事業で合弁(5/7)

●サン、JavaFXのロードマップを公開――JavaOne 2008が開幕(5/6)⇒22ページ

EVEN

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サービスを補強し、データ管理基盤を充実

させている。ここまでは、従来から見られ

るEMCのスタンスだ。

 では、今後のEMCはどう戦略を進めて

いくのか。その解としてTucci氏は、クラ

ウド・コンピューティングというキーワード

を挙げ、次のように語った。

 「クラウド・コンピューティングは、正に

情報中心型のコンピューティングを実現さ

せる。現在、情報は個々のアプリケーショ

ンや機器の中に閉じ込められ、断片的だ。

だが近い将来、ポリシーやデータ保護の

仕組みは共有、統合化され、情報の断片

化は解消される」 (大川 淳)

「クラウド・コンピューティングには大きな可能性がある」と語るJoseph Tucci氏

Page 16: Computerworld.JP Aug, 2008

Computerworld August 200822

サン、JavaFXの第1弾となるデスクトップ向けSDKを今年7月に公開へRIA開発プラットフォームのロードマップをJavaOne 2008で発表

 米国Sun Microsystemsは5月6日、米

国サンフランシスコで開催されたJava開発

者向け年次コンファレンス「2008 Java

One Conference」において、RIA(リッチ・

インターネット・アプリケーション)開発プ

ラットフォーム「JavaFX」のロードマップを

発表した。

 昨年5月のJavaOneで正式発表された

JavaFXは、新開発のスクリプト言語

「JavaFX Script」を使ったGUI構築プラッ

トフォームだ。競合となる他社のRIAプラッ

トフォームには、Microsoftの「Silverlight」

やAdobe Systemsの「AIR」などがある。

 Sunとしては、成長著しいRIA市場で

JavaFXの存在感を高め、支配的地位を

確立したい考えだ。基調講演に登壇した

Sunの社長兼CEO、ジョナサン・シュワル

アドビ、ホステッド型文書管理サービス分野に本格進出──ワープロやWebコンファレンス機能からなるAcrobat.comを発表

“オフィスSaaS”分野でマイクロソフトやグーグルに真っ向から対抗する構え

 米国Adobe Systemsは6月2日、Web上

での文書の作成・共有・保存を可能にする

ホステッド型文書管理サービス「Acrobat.

com」のベータ版を公開した。同時に、文書

共有ソフトの新版「Acrobat 9」も発表した。

 Acrobat.comは、米国Microsoftや

Googleなどが提供する同様のオンライン・

サービスに真っ向から対抗するものだ。

Adobeは今回初めて、ホステッド型の文書

サービスという分野に本格的に進出するこ

とになる。同社では、Acrobat.comおよび

Acrobat 9を組み合わせたリッチ・メディ

アを、オンラインとオフラインの両方で提

供するとしている。

 Acrobat.comに含まれるサービスのうち、

Webベースのワープロ「Adobe Buzzword」

は、Adobeが昨年9月に買収したVirtual

Ubiquityの技術を利用したものだ。また、

最大3名まで参加可能なWebコンファレン

ス機能「Adobe ConnectNow」は、文書を

オンラインで共有/保管する機能を備える。

さらに、最大5件までの各種文書を無料で

PDF形式に変換できる機能もあるという。

 一方、同時に発表されたAcrobat 9は、

文書共有ソフトAcrobatの新版だ。同製品

には、PDF化する文書にマルチメディア技

術Flashのコンテンツを埋め込むことができ

る新機能が追加されている。Adobeの

Acrobat製品管理/マーケティング担当バ

イスプレジデント、ケビン・リンチ(Kevin M.

Lynch)氏は、「(Acrobat 9を使えば )

Flashを使って制作したダイナミック・メ

ディアを、どこにでも持ち歩くことができる」

と強調した。

NEW

SNE

WS

Acrobat.comのトップ画面(現在はベータ・サービス)

 Adobeが企業向けのオンライン・サービ

スに本腰を入れれば、Microsoftとの勝負

に野心を燃やすGoogleを出し抜く可能性

もある。Googleが提供している「Google

Docs」は、現時点ではホステッド型のWeb

コンファレンス機能には対応しておらず、

この点はAcrobat.comの差別化ポイントと

なっている。 (IDG News Service)

ツ(Jonathan Schwartz)氏は、「JavaFX

によりRIA市場を席巻したい」と意気込みを

語った。

 JavaFXは、複数タイプのインタフェー

ス(機器も含む)にまたがったアプリケー

ション配備を実現できるのが特徴だ。講演

では、JavaFXアプリケーションをWebブ

ラウザからデスクトップ上に移動するデモ

も披露された。

 JavaFXは一連のコンポーネントを備え

ており、それにはランタイム、メディア・コー

デック・フレームワーク、JavaFX Script

などが含まれる。同社ソフトウェア担当エ

グゼクティブ・バイスプレジデントのリッチ・

グリーン(Rich Green)氏は、「JavaFXは

あらゆる局面で実行可能だ」と自信をのぞ

かせた。

 Sunによると、JavaFX製品群のうち、

デスクトップ向けの「JavaFX Desktop

SDK」が今年7月に公開される予定だ。その

後、今秋には正式版の「JavaFX Desktop

1.0」、来春には「JavaFX Mobile」と「Java

FX TV」の最初のバージョンがリリースさ

れるという。 (InfoWorld米国版)

Sunの社長兼CEO、Jonathan Schwartz氏(写真右)と、ソフトウェア担当エグゼクティブ・バイスプレジデントのRich Green氏

Page 17: Computerworld.JP Aug, 2008

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August 2008 Computerworld 23

Facebook日本語版が登場──来日したCEO、「リアルな人間関係で情報共有の輪を広げてほしい」GoogleとのSNS連携については「話し合って妥協点を見つけたい」と含み

 米国Facebookは5月19日、同社のSNS

(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)

「Facebook」日本語版の提供を同日より開

始した。

 Facebookは、2004年に当時大学生だっ

た現同社CEOのマーク・ザッカーバーグ

(Mark Zuckerberg)氏が、大学生を対象

に開設したSNSである。未上場企業のた

め企業業績は明らかにされていないが、

2007会計年度の売上高は1億5,000万ド

ルに達したと見られている。

 Zuckerberg氏によると、Facebookの

ローカライズは、その言語ユーザーがボラ

ンティアで行っているという。同氏は日本

語版の提供に際し、430人のユーザーが、

約3週間かけて日本語化を行ったことを明

らかにした。

 Zuckerberg氏がFacebookの“強み”と

して強調するのは、「ユーザーが実名で利用

することによる情報の信頼性」である。

 「われわれはユーザーが個人情報を安心

して公開できる環境を提供しており、ユー

ザーは実名で利用している。匿名ユーザー

が多いSNSとは、そこに公開されている情

報の信憑性が違う」(Zuckerberg氏)

 ただし、Facebookには課題も多い。同

社は5月16日、個人データの再配布に問題

があるとして、米国Googleが提供する

「Google Friend Connect」からのアクセ

スを遮断した。

 これについてZuckerberg氏は、「Google

Friend Connectは、ユーザーがアクセス

すると、そのユーザーの許可なく(ユーザー

の)個人情報をGoogle側のアプリケーショ

BIに必要なのは“予見力”──SAS、BIプラットフォームの最新版「SAS 9.2」を発表データ統合機能、分析機能、セキュリティ機能を強化

 SAS Institute Japanは5月26日、ビジ

ネス・インテリジェンス(BI)プラットフォー

ムの最新版「SAS 9.2」を発表した。すで

に米国では今年3月に発表されている。日

本での出荷開始は、2008年第3四半期後

半(9月)を予定しているという。

 SAS 9.2は、データ統合や予測的分析

を行うBIプラットフォーム「SAS 9」のアッ

プデート版で、企業内に散在するデータを

統合/蓄積し、予測分析を行うことで、企

業の課題/意思決定を支援するものであ

る。同社によると、SAS 9.2ではデータ統

合機能、分析機能、セキュリティ機能が

強化されたという。同社執行役員ビジネス

開発本部長兼プロフェッショナルサービス

本部長の宮田靖氏は、次のように同製品

の優位性を強調した。

 「SAS 9.2の前身であるSAS 9は、メタ

データによるプロセス統合を目的に開発さ

れた製品だ。われわれは統計解析に必要な

機能を発展させるという位置付けで、分析

やデータ・インテグレーション、データ管理、

リポーティングなどを強化し、BIコンポー

ネントを強化してきた。この流れはSAS 9.2

にも受け継がれており、この点が大手ベン

NEW

SPR

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ダーが提供しているBI製品との違いだ。大

手ベンダーが提供しているBI製品は企業買

収で寄せ集められたラインアップで、プロ

セス統合がきちんとなされていない」

 また、同社代表取締役社長の吉田仁志

氏は、現在の日本におけるBI市場動向に

ついて、「グローバル化や規制緩和など、

企業を取り巻く環境は著しく変化してい

る。その中で企業は、企業価値の最大化、

収益の拡大化などをはじめ、コンプライア

ンス/リスクへの対応が求められている」と

語り、企業が競争力を確保するためには、

将来を洞察する「予見力」を持つ必要があ

るとした。なお、SAS 9.2の最小構成価

格は650万円で、標準的な構成での価格

は3,000万円からとなっている。

(Computerworld)

ンで共有する仕組みだ。これはわれわれの

『個人情報は個人が管理する』というポリ

シーに反する。この件については事前に

Googleからの相談がなかったため、アク

セス遮断に踏み切った。今後はGoogleと

話し合ったうえで、妥協点を見つけたい」と

語り、妥協案を模索する考えを示した。

(Computerworld)

日本語版の提供に合わせて来日したFacebookのCEO、Mark Zuckerberg氏

SAS Institute Japan代表取締役社長の吉田仁志氏

Page 18: Computerworld.JP Aug, 2008

Computerworld August 200824

 米国Microsoft会長のビル・ゲイツ(Bill

Gates)氏は6月3日、米国フロリダ州オー

ランドで開催された「Tech・Ed Develo

pers 2008」において、同社の常勤取締役

として公の場で最後となるスピーチを行っ

た。同氏は開発者に対し、彼らがいかに重

要な存在かを訴えたうえで、「Microsoftが

成功したのは開発者の皆さんのおかげだ」

と労をねぎらった。

 Gates氏は7月1日付で活動の主軸をビ

ル&メリンダ・ゲイツ財団に移すことにつ

いて、「突然ではあるが……」と前置きし、「新

たな分野に挑戦することにした。17才のと

きから長年ソフトウェアに携わってきたが、

今回初めて別の仕事に就くことになる」と

簡単に説明した。

 またGates氏は同社の今後の戦略につ

いて、SOA(サービス指向アーキテクチャ)

の開発を容易にすることを目指した同社の

アプリケーション開発プラン「Project

Oslo」にのっとり、アプリケーションのモデ

ル化に進む方向性を明らかにした。これに

より、企業のネットワークを動かしている

基盤ソフトウェアを、標準的なネットワー

クとアプリケーション・インタフェースを

使ってファイアウォール外のソフトウェア

とやり取りさせることで、コンポジット・ア

プリケーションの開発が可能になる。

 一方、サービスに関してGates氏は、ホ

ステッド・サービスに向けて業界最大の

データセンターを提供すべく、Googleや

Amazon.comなどと競争していく意向で

あることを明言した。

 「サーバ・レベルでのビジネスをすべて掘

「Microsoftの成功は、開発者の皆さんのおかげ」──ゲイツ氏、開催中のTech・Edで最後のスピーチ今後の戦略については、SOA開発とホステッド・サービスに向けたデータセンターの提供を明言

打倒IBMの第一歩か──HP、ITサービス企業のEDSを139億ドルで買収へサービス分野の拡充はデータセンターの“数”で勝負? 独自の路線を突っ走る戦略に顧客の反応は……

 米国Hewlett-Packard(HP)は5月13日、

ITサービス企業の米国Electronic Data

Systems(EDS)を139億ドルで買収する

と発表した。HPは今回の買収の目的を、

「サービス分野の拡大を目指すため」として

いる。

 HPでCEOを務めるマーク・ハード(Mark

Hurd)氏は電話インタビューにおいて、「今

回の買収はアウトソーシング分野および

サービス分野の拡大を目指すものだ。特に

EDSの顧客は、低価格で質の高いサービ

スを享受できるようになる」と語った。

 なおこの買収でHPは、自社の従業員15

万9,000人に加え、EDSの従業員13万

9,000人も擁することになる。

 HPは近年、積極的に企業買収を行って

いる。アナリストらによると、今回の買収

は「打倒IBMの第一歩」だという。

 HPとEDSの統合がスムーズに完了すれ

ば、すぐにでもIBMに匹敵する巨大なサー

ビス部門が誕生する。言うまでもなくIBM

の「Global Technology Services」部門は、

グローバル・サービス市場において長期的

NEW

SNE

WS

「Tech・Ed Developers 2008」で講演するMicrosoft会長のBill Gates氏

り起こし、それに対応するサービスを提供

していく。今まで考えたこともない規模の

データセンター、つまりMicrosoftをはじ

めとする数社しか持ちえない巨大なデータ

センターを構築したい」(Gates氏)

(IDG News Service)

米国HPでCEOを務めるMark Hurd氏

に利益を上げている。

 ただし、Hurd氏は“新生HP”のサービス

部門を、IBM型のサービス部門にするつも

りはないようだ。

 そもそも、EDSとIBMのグローバル・サー

ビスには決定的な違いがある。EDSはデー

タセンターやヘルプデスク、ネットワーク

の運用など、インフラストラクチャ管理サー

ビスに特化し、数多くのデータセンターを

所有しているベンダーである。

 一方IBMは、EDSと同様にインフラスト

ラクチャ管理サービスを提供しているが、

経営コンサルティング分野にも注力してい

る。この点が両社の明確な違いだと言え

るだろう。どちらのサービスに顧客が軍配

を上げるのか、両社の戦いは始まったばか

りだ。 (Computerworld米国版)

Page 19: Computerworld.JP Aug, 2008

M a y , 2 0 0 8

August 2008 Computerworld 25

PROD

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 米国AMDは5月7日、これまで予定して

いた8コアCPUの開発を中止し、12コア

CPUを製造する計画を明らかにした。

 AMDの広報担当者によると、同社は

「Magny Cours」(開発コード名)と名づけ

られたサーバ向けの12コアCPUを2010年

前半にリリースする予定だという。同CPU

は12MBのL3キャッシュを備え、DDR3

(Double Data Rate 3)メモリをサポート

する。

 AMDは6コアCPU「Istanbul」(開発コー

ド名)を2009年後半にリリースする予定だ

が、その翌年にいきなり12コアCPUをリ

リースすることになる。同社が先月まで開

発を続けてきた、サーバ向けの8コアCPU

「Montreal」(開発コード名)はお蔵入りと

なった。

 AMDの副社長兼ゼネラル・マネジャー、

ランディ・アレン(Randy Allen)氏は、今回

のロードマップの変更について、「12コアは

8コアよりも大量の処理が可能なうえ、製

造しやすいという利点がある」と説明した。

 同社は2010年に、別の6コアCPU「Sao

Paulo」(開発コード名)のリリースも計画し

ている。同CPUは6MBのL3キャッシュを

搭載し、DDR3メモリをサポートする。

Allen氏は、「Sao Pauloは12コアを必要と

しないシステムの需要に応えるものだ」と

付け加えた。

 現行のクアッドコアCPU「Barcelona」

では65nm(ナノメートル)プロセスが採用

されているが、新CPUはいずれも45nmプ

ロセスが採用される予定で、電力効率が向

上する見通しだ。

6コアの次は一気に12コア──AMDがCPUロードマップを大幅変更処理性能の高さ/製造のしやすさを重視し、8コアの開発は中止

 欧州連合(EU)の行政執行規制機関で

ある欧州委員会は5月27日、EU内の公共

機関などに対し、2010年までに、現行の

インターネット・プロトコルIPv4から新バー

ジョンのIPv6へと移行するよう促す声明を

発表した。

 この移行に伴い、欧州全体のインター

ネット基盤においても、その4分の1が

2010年までにIPv6への移行を完了すると、

欧州委は見ている。

 同声明は、27カ国が加盟するEU諸国

の公共機関への注意喚起を目的に発せら

れた。欧州委は各公共機関に対し、インター

ネット、公共Webサイト、電子政府サービ

スなどで率先してIPv6を採用するとともに、

遅滞なく移行するよう促した。

 欧州委の説明では、IPv4からの迅速か

欧州委、IPv6への早期移行をEU加盟国に要請公共機関では2010年までに完全移行を目指す

つ効率的な移行は、消費者の余分な出費

を回避することにつながるほか、EUの企

業にとっても世界の国 と々競争するうえで

有利に働くという。

 欧州委の情報社会およびメディア担当

委員、ビビアン・レディング(Viviane

Reding)氏は、「公共機関や企業は、(IPv4

で問題が生じないうちは)IPv4で事を済ま

そうと考えるかもしれない。しかし、今の

ままでは最新のインターネット技術を活用

するうえでEUは不利な立場に置かれ、古

いシステムのアドレスが足りなくなったとき

危機に直面することになる」と述べた。

 IPv4では約43億のアドレスが利用可能

だが、そのうち、未使用で新規の接続に

利用できるのは約7億(16%)である。一方、

新しいIPv6では、ほとんど無制限にIPアド

レスが利用できる。そのため、数が多すぎ

てIPアドレスを付与できない家電製品など

でもIPv6ならばサポートできる。

 「もしも、家電製品やカーナビ、ICタグな

どにIPアドレスを付与しようとしたら、それ

だけでIPアドレスの需要は1,000倍増える

ことになる。われわれはEU加盟諸国の公共

機関や産業界に対し、必ず2010年までに

IPv6を採用するよう要請した」(Reding氏)

 主要ベンダーが市場投入している最新

のPC/サーバ・ソフトウェアの大半は、す

でにIPv4だけでなくIPv6にも準拠している。

しかし、現在職場などで使われているPC

やサーバ本体は、まだ古いIPv4アドレス

でしかアクセスできないものがほとんどで

ある。

(IDG News Serviceブリュッセル支局)

 米国の調査会社Mercury Researchの

代表、ディーン・マカロン(Dean McCarron)

氏は、「業績の苦しいAMDは、財政面およ

び技術面の両方からロードマップを見直

し、6コアから12コアに“ジャンプ”する結

論を出したのだろう」と解説する。同氏に

よると、コアを増やすというこの計画変更

によって、製品の利益率の向上と、製造

コストの抑制が共に実現できるという。

 ただし、単一のチップに12コアを積んだ

CPUよりも、6コアを積んだ2つのCPUを

1つのパッケージにまとめて12コアCPUと

するほうが製造コストを抑えられるため、

AMDにとっては後者のほうがより現実的

な選択肢となる、とMcCarron氏は分析し

ている。

(IDG News Serviceサンフランシスコ支局)

Page 20: Computerworld.JP Aug, 2008

Computerworld August 200826

 世界各国で働く人々の16%が、仕事と

プライベートの両方で少なくとも7種のデ

バイスと、インスタント・メッセージング(IM)

やテキスト・メッセージング、Web会議シ

ステム、SNSといった9種のアプリケーショ

ンやシステム、サービスを駆使する“ハイ

パーコネクト”な状態にあることが、カナダ

のNortel Networksの委託を受けて米国

IDCが行った調査から判明した。

 これによれば、全体の36%は、仕事用、

プライベート用含めて最低4つのデバイス

を使い、6個以上のアプリケーションやサー

ビスにアクセスする“準ハイパーコネクト・

ユーザー”だという。こうしたユーザーは過

去5年間で40%もの成長を遂げており、ま

もなく“ハイパーコネクト・ユーザー”に昇格

すると予測されている。

世界の労働者の16%が、7種のデバイスと9種のアプリを駆使する“ハイパーコネクト・ユーザー”──IDC/Nortel調査

仕事/プライベートの両面でコミュニケーション技術の活用が進む

 IDCはこの調査を、北米、欧州、中東、

アジア太平洋、ラテンアメリカ地域の17カ

国で、さまざまな業界に属する異なる規模

の企業で働く、幅広い年齢の2,400人を

対象に実施した。調査対象者に占めるハ

イパーコネクト・ユーザーの割合が最も高

かった国は、米国と中国だった。同調査か

らは、次のような事実も明らかになった。

●ハイパーコネクト層と準ハイパーコネク

ト層を合わせた割合が最も高かったのは

ラテンアメリカで64%。アジア太平洋

(APAC)地域の同割合は59%、欧州は

50%、北米は44%となった。

●ハイパーコネクト・ユーザー層の割合は、

ヘルスケア業界では9%、IT業界では

25%、金融業界では21%だった。

●1種類以上のデバイスを使用し、自宅か

らインターネットに接続している回答者

は全体の70%に上った。18歳から34

歳までの回答者のうち、1つ以上のデバ

イスを用いて自宅からインターネットに

接続している人の割合は約80%だった。

(Network World米国版)

PROD

UCTS

RESE

ARCH

ハイパーコネクト層と準ハイパーコネクト層を合わせた割合(グラフのオレンジ部分)の地域別比較

ラテンアメリカ APAC地域

欧州 北米

64% 59%

50% 44

 米国Sun Microsystemsは6月4日、フ

ラッシュ・メモリを用いた半導体ドライブ

(SSD:Solid State Disk)製品を年内に

出荷開始する予定であると発表した。

 Sunは、あるメーカーと共同で、自社の

ソフトウェアやサーバ、ストレージ製品を

確実にサポートできる2.5インチと3.5イン

チのSSDを開発しているという。同社幹部

は、新しいSSDについて、「サーバやストレー

ジの前面から簡単に組み込めるものとなる

予定だ。気になるSSDの普及率だが、わ

れわれはいずれ本格的に普及すると見込ん

でいる」と説明している。

 Sunは、2.5インチ・ドライブを年内に、3.5

インチ・ドライブを来年出荷する予定だが、

価格やパッケージの詳細については明らか

にしていない。

サン、企業向けSSD製品を投入──2.5インチ・ドライブを年内出荷へ大手ストレージ・ベンダーの市場参入に追随

 Sunの説明によると、SSDの開発にあ

たっては、オープンソースのファイルシス

テム「Solaris ZFS」や、買収により獲得し

たオープンソースRDBMS「MySQL」の確

実なサポートに重点が置かれているという。

同社は、まず大規模なデータベースや業

務アプリケーション、データ分析ソフトウェ

アなどを導入している大手企業をターゲッ

トにSSDを売り込む方針だ。「SSDは、I/

Oボトルネック問題の解消にも貢献するだ

ろう」と同社幹部は述べている。

 米国Clipper Groupのアナリストは、

SSD向けに最適化されたアプリケーション

を用意しないかぎり、ユーザーから支持を

得るのは難しいと指摘する。ただし、「Sun

の意向に沿うような結果にならないかもし

れないが、いずれは市場を確保できるだろ

う」と同アナリストは予測する。

 Sunは、SSDを投入することで、大手

ストレージ・ベンダーの動きに追随したい

考えだ。米国EMCは今年1月、ハイエンド・

ストレージ・アレイ「Symmetrix」製品群対

応のオプションとしてフラッシュ技術を提

供する計画を発表した。また、米国Net

Appの設立者であるデーブ・ヒッツ(Dave

Hitz)氏も最近、ソリッド・ステート技術の

メリットを強調している。

 多くのアナリストが、今年以降HDDに

代わる技術としてSSDの普及が始まると

の見方を示しているが、現在のところ企業

のITマネジャーの反応は芳しくなく、SSD

の信頼性やコスト面の問題を指摘する声も

少なくない。

(Computerworld米国版)

Page 21: Computerworld.JP Aug, 2008

M a y , 2 0 0 8

August 2008 Computerworld 27

 セールスフォース・ドットコム、NTTコミュ

ニケーションズ、NTTの3社は5月26日、

セールスフォースのSaaS型アプリケーショ

ン「Salesforce」をNGN上で提供していく

ことで合意したと発表した。これに伴い、

NTTコムのVPN経由でSalesforceが利用

できる「Salesforce over VPN powered

by NTT Communications」(Salesforce

over VPN)の提供が7月1日から開始される。

 Salesforceのユーザーは、これまで通常

のインターネット回線を介して米国Sales

force.comのデータセンターへアクセスして

おり、セキュアな閉域網が必要な場合には

自社でVPNを構築しなければならかった。

その割合は国内のSalesforceユーザーのう

ちの約70%に達する(NTTコム)という。

 また、今年9月にはNTTドコモのiモード

からSalesforceへのアクセスが可能にな

るほか、2008年度内をめどに、提案書/

見積書などの各種データをSalesforceの

データベースとひも付け、シングル・サイ

ンオンでアクセスできるようにするサービ

スの提供も計画されている。

 Salesforce over VPNの利用料金は、

「Enterprise VPN Edition」が月額1万

6,000円 /ID、「Professional VPN

Edition」が同8,500円/IDとなる。ちなみ

に、ユーザー拠点側のVPN費用などが別

途必要となる。

 なお、セールスフォースは今後、NGN

を基盤にSaaSを提供する方針で、NGN

の特徴である高い信頼性や高可用性など

を生かしてよりセキュアな認証スキームを

構築する構えだ。具体的には、NGNを基

盤としたNTTの提供する認証連携プラット

フォームとSalesforceを連携させ、アク

セス回線の識別を実現する考えだという。

これにより、アプリケーション側の認証手

段が補強され、よりセキュアな認証が可能

になる。NTTは、認証連携プラットフォー

ムを年内にも提供開始したいとしている。

(Computerworld)

SaaSとVPNを“セット”で提供──セールスフォースとNTTグループが提携NGNを基盤としたSaaS提供でも協業し、より強固な認証スキームを実現へ

NEW

S

セールスフォース・ドットコムの代表取締役社長、宇陀栄次氏(写真左)とNTTコミュニケーションズの代表取締役副社長、野村雅行氏(写真中央)、NTTの研究企画部門チーフプロデューサー、端山聡氏(写真右)

 米国Cisco Systemsは5月末、SOAP

のようにクライアント/サーバ間で多種多

様なアプリケーションを統合できるように

する新しいメッセージング・プロトコル

「Etch」を開発したことを明らかにした。今

夏には、Etchのベータ版がリリースされる

見通しだ。

 Etchは、SOAPなどの既存のメッセー

ジング・プロトコルに代わる、魅力的な選

択肢になる可能性が高い。Etchを利用す

ることで、分散アプリケーションを開発す

る際に、SOAPを使ったときのような複雑

なシステム構築を行うことなしにクロスプ

ラットフォーム環境を実装できるほか、既

存のSOAインフラが想定しているよりも

メッセージングが多いリアルタイム・アプリ

ケーションにおいて実用に耐えるパフォー

マンスを発揮できるという。

 Ciscoの幹部の説明によると、 Etchは

一般的なクライアント/サーバ・アプリケー

ションへの適用性を持つよう設計されてい

るという。「Etchの設計上の目標の1つは、

SOAPのような複雑さやオーバーヘッドの

ないアプリケーション間通信技術を開発す

ることだった」と、同社の幹部は語る。ク

ライアント/サーバ間のインタフェースを

定 義する際、SOAPは非 常に 複 雑な

WSDLファイルに頼る。これに対し、

EtchはJavaインタフェース・ファイルとの

類似点が多いCisco独自のインタフェース

定義言語のファイルを使用する。

 SOAPと比べた場合のEtchのオーバー

ヘッドについては、SOAPが1秒当たり約

900のコールを処理した環境で、Etchは

一方向モードでは5万件を超えるメッセー

ジを生成し、双方向モードでは1万5,000

件のトランザクションを生成した、と

Cisco幹部らは説明した。

 Etchがサポートする言語やプラット

フォームについては、Etchの最初のリリー

スではC#とJavaが 予 定 されており、

Visual StudioとEclipseにも統合される

という。さらに近い 将 来、Ruby、Py

thon、Cなどもサポートされる予定だ。

 Ciscoでは、Etchをオープンソースとし

て公開する方針であり、おそらくApache

かMozillaのライセンスを採用すると見られ

る。ライセンス方式の決定については、6

月に最終的な発表を行う見通しだ、と

Ciscoの関係者は語っている。

(CIO米国版)

シスコ、SOAPに代わる新メッセージング・プロトコル「Etch」を開発複雑さの排除、オーバーヘッドの小さいアプリ間通信が特徴

NEW

S

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Computerworld August 200840

Page 23: Computerworld.JP Aug, 2008

August 2008 Computerworld 41

特集

S p i r a l - u p ! S y s t e m O p e r a t i o n & M a n a g e m e n t

PDCAサイクル

を回して継続的改善をス

パイラル

[IT運用管理]サーバやストレージ、ネットワーク・デバイスなどで構成されるITインフラの正常稼働を維持するために、日々、保守・運用管理作業を行っていく──地味には違いないが、この運用管理業務が確実になされることで、ITを活用した企業のビジネス活動は成り立っている。ITシステムの複雑化や管理対象の拡大が進むなかで、ビジネスを止めないITシステムを維持するためには、運用管理業務の“効率”や“品質”に目を向け、高めていく必要がある。つまり、この業務にも、計画・実行・評価・改善のいわゆるPDCAサイクルに沿った、業務効率/品質のスパイラルアップが求められているのである。本特集では、運用管理にまつわる諸課題を挙げながら、今日のIT運用管理基盤の要件や、スパイラルアップを実現するためのポイントを整理する。

アップ!

Page 24: Computerworld.JP Aug, 2008

Computerworld August 200842

みが求められるのである。

 運用管理コストの削減は確かに重要だが、その前

提として、安定稼働を続けられる情報システムについ

ての議論がなされなくてはならないはずである。実の

ところ、どの企業においても情報システムには何らか

の“欠陥”があり、多くの事業活動は、深夜作業をい

とわず障害対応にあたるスタッフの下支えの上に成り

立っていると言っても過言ではない。

 本稿では、今日の企業に求められるIT運用管理基

盤を整備するための改善手法について説明する。現

状をユーザーと市場/ベンダーの両面から分析したう

えで、推奨されるアプローチを示していきたい。

 企業のIT投資において、情報システムの運用管理

にかかるコストが年々重みを増している。このため、

CIOやITマネジャーは、コスト削減を主軸とした中期

的なIT投資計画を策定し、運用管理基盤の改善を優

先度の低い課題として扱う傾向が強くなってきている。

 しかしながら、情報システムが経営資源としての存

在意義を大幅に増し、大半の企業における事業活動

の屋台骨となっている今日、IT運用管理への要求が

さらに高まっているのも事実だ。製造業の成長過程

で生産現場にQCD(Quality, Cost, Delivery:品質・

価格・納期)の概念やISO規格が持ち込まれたのと同

様に、成熟したITには体系化された運用管理の仕組

人・プロセス・技術の観点から検討を重ね、サイクルを回す

昨今、情報システムの大規模化・複雑化が進み、その運用管理に要するコストも確実に増大傾向にある。だが、今や経営活動の基盤として高い重要性を持つ情報システムに対しては、コスト削減ばかりを優先することはできず、継続的な改善による運用管理体制/基盤の整備が求められている。本パートでは、IT運用管理の現状分析として、動向をユーザー側、市場/ベンダー側の両面から確認したのち、今日必要とされる体制/基盤を整備するうえでの具体的なアプローチを説明していく。

金谷敏尊アイ・ティ・アール シニア・アナリスト

IT運用管理の現状分析と改善のアプローチ

Part

1

IT運用管理の動向分析[プロセス編]

 まずは、国内のユーザー企業の特徴的な傾向を取

り上げて、IT運用管理上の課題を掘り下げてみる。

以下、IT運用管理のプロセスや人材のあり方につい

ての着眼点を挙げていく。

システム障害の根本的な課題

 ここ最近、国内企業におけるシステム障害の例をよ

Page 25: Computerworld.JP Aug, 2008

August 2008 Computerworld 43

特集 スパイラルアップ![IT運用管理]

ユーザー部門 開発部門

開発条件の悪化

運用部門

運用品質の低下

ギャップ

ITニーズの増大

短期開発納期厳守

ギャップ

運用設計の不在不十分な品質保証

*資料:ITR

図1:ITライフサイクルにおける部門間のギャップ

く耳目にする。社会的影響度の高いものは公表され、

広く知れわたることになるが、水面化でも、システム

障害による業務活動の停止や遅延に陥る企業があと

を絶たない。開発コードのバグ、ハードウェアの欠陥、

人為ミスによるエラー、自然災害など、原因はさまざ

まである。読者の中にも、比較的規模の大きなシステ

ム障害に見舞われ、原因調査や再発防止策の提出を

迫られた経験を持つ方は少なくないことだろう。

 では、根本的な原因はどこにあるのだろうか。シス

テム・アーキテクチャの複雑性や“枯れた技術”か否か

といった技術的な要因もあるが、ここではプロセスの

観点から考察してみる。

 システム障害に見舞われる企業には、ある共通す

る事象が見受けられることがある。それは、開発工程

を経て運用に至る段階で、運用リスクが潜んだままシ

ステムを本番稼働させてしまっているケースだ。

 大半の企業では、事業展開の即戦力となるシステ

ムを望んでおり、納期も短期化の傾向にある。経営

層や事業部門(ユーザー部門)からの要請で、開発部

門が短期開発や納期厳守など悪条件下での開発を強

いられるケースも多い。その際、運用設計や品質チェッ

クにかける時間が優先的に短縮されてしまうために、

不完全な状態でシステムを本番投入せざるをえない

機会が増える。これでは、運用フェーズで対処療法

を施したところで、暖簾に腕押しとなる。新規システ

ムが投入されるたびに、運用の負荷が重くのしかかり、

結果として、経営層やエンドユーザーからの信頼を損

ねることにつながる。

 開発・保守・運用の各プロセスが適切に体系化され、

明文化されたルールが浸透していれば、こうした問題

は減少するが、ルール化が手薄で、各部門あるいはチー

ムの独立意識が強い企業では、利害が一致しないこ

とから部門間のギャップが生じやすい(図1)。 「IT組織内の部門間に溝はないか」「レビュー会など

で会話が成り立たなくなっていないか」「責任の押し付

けが発生しないか」──筆者の所属するアイ・ティ・

アール(ITR)では、これらの問題を、情報システムの

安定運用を実現するうえで早急に解決すべき重要課

題であるととらえている。

組織・人材面での課題

 特に日本の企業においては、IT部門の組織や人材

についても少なからず問題が見受けられる。典型的な

組織構成として、国内企業のIT部門は、大きく、開

発フェーズの業務を主とする部門と、運用フェーズの

業務を主とする部門に分かれる。前者は事業部門や

大型プロジェクトにひもづく形で複数存在するケース

が多く、後者はデータセンター業務やユーザー・サポー

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Computerworld August 200844

P a r t 1 │ I T 運 用 管 理 の 現 状 分 析 と 改 善 の ア プ ロ ー チ

トを行うために1つ配置されるケースが多い。このとき、

開発フェーズにおけるインフラ領域の業務(需要予測、

ハードウェア・サイジングなど)、また運用フェーズに

おけるアプリケーション領域の業務(バージョンアッ

プ、DB管理/チューニングなど)は軽視される傾向

が強く、対応が場当たり的になりやすい(図2)。 インフラの構築やアプリケーション運用にかかわる

必須業務への認識が十分でない企業では、データ

ベース管理者(DBA:Database Administrator)、ネッ

トワークやセキュリティの管理者/エンジニアといっ

た各分野の専門技術者の不在を招く。ひいては、シ

ステム性能低下やシステム障害を発生させ、復旧を

遅らせる原因となりうる。

 各分野の専門技術者は、欧米の企業では必須の

職能と見なされており、社内のIT部門に専門技術者

を配置するケースが多く、概して待遇(給与)も良好だ。

欧米では、ユーザー企業のIT部門に多数の正社員が

配置されるという組織文化が定着していることが影響

しており、国内企業との大きな違いとなっている。し

たがって、国内企業のIT部門ができることとして、少

なくとも業務分掌をきちんと見直したうえで、必要な

ときに必要な技術を適用できるスキルを確保し、プロ

セスの整備を図ることが求められる。

課題解決へ向けた基本的方針

 前節では、IT運用管理プロセスにかかわる課題を

確認したが、いずれも運用部門/フェーズに閉じた

課題ではないことに、すでにお気づきのことと思う。

実際のところ、重大なシステム障害が発生するのは運

用フェーズであり、一時切り分けの任務を負う運用部

門が矢面に立たされるケースが多いのは事実である。

しかし、前述のような悪条件の連鎖反応が起きてい

る場合は、そのルートである開発部門やユーザー部門

をたどって原因を追求しないことには、課題の解決は

できない。

 実際のところ、有事の際に、運用部門やその外部

委託先の責任追及に終始するIT部門も少なくないよ

うだが、そのような組織がいっそう悪循環に陥るのは

明らかだ。根本的な解決に向けては、横断的にプロ

セスを見直し、責任、役割、権限、ルールを再定義

する必要がある。

 このほかにも、IT運用管理におけるプロセス上の

課題や対策にはさまざまなものが存在するが、紙幅の

都合から、上で述べた課題に基づく要点のみを以下

に示す。

*資料:ITR

開発フェーズ

要件定義パッケージ選定開発業者選定設計・開発テスト・導入

バージョンアップDB管理/チューニングアプリケーション監視パッチ・マネジメントアクセス権限管理

需要予測ハードウェア・サイジングハードウェア選定ネットワーク設計セキュリティ設計

ヘルプデスクPC調達・管理

サーバ/ストレージ管理ネットワーク管理セキュリティ基盤運用ファシリティ管理

運用フェーズ

アプリケーション

インフラストラクチャ

必須業務としての認識が不十分な領域

図2:組織・人材面での課題──業務への認識不足と専門技術者の不在

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P a r t 1 │ I T 運 用 管 理 の 現 状 分 析 と 改 善 の ア プ ロ ー チ

August 2008 Computerworld 45

特集 スパイラルアップ![IT運用管理]

①開発工程の、運用要件への組み込み 要件定義やRFP(提案要請書)への運用要件の反

映、運用設計、性能テスト/セキュリティ・テストなど

を確実に実施する。開発部隊やプロジェクト・チーム

のレビュー・ポイントに実運用の担当者を関与させる

ことで、より現実味のある運用設計が期待できる。

②運用部門の責任と権限 運用部門は、一定水準のサービス・レベルや安全

性が実現できることを確認してからでなければ、シス

テムのリリース要求を受け入れるべきではない。この

ため、CIOやITマネジャーは、運用責任者に交渉・

調整に長けた人材を登用するべきである。運用の責

任者に十分な権限が与えられていなければ、その企

業の情報システムは常に重大な脆弱性を抱えることに

なる。

③業務分掌と人材の配置 今日では、インフラの設計・構築、アプリケーション/

DBの運用・保守といった各分野の業務を定義し、必

要に応じて専門的な人材を配置することが求められ

る。社内や情報システム子会社などから確保できない

のであれば、ITベンダーやプロフェッショナル・サー

ビス事業者からの調達も視野に入れて、候補をリスト

アップしておくことが望ましい。

運用管理の標準規格/ガイドラインの活用

 運用管理プロセスの体系化や明文化に際しては、

各種の標準規格やガイドラインを参照することができ

る。国内で利用可能な、アプリケーション開発および

システム運用管理関連の主要な規格を対象範囲に応

じてマッピングしたものを図3に示す。

 この図3における色の濃淡は焦点の度合いを表して

おり、例えば、COBIT(Control Objectives for

Information and Related Technology)では、全体

を網羅しつつも、特にITガバナンスに焦点を当てて

いることが表されている。

 言うまでもないが、各規格は目的に照らして活用す

ることが重要である。例えば、ISOやCMM(Capability

Maturity Model:能力成熟度モデル)の認定取得を

目的としないのなら、必ずしも全面準拠を目指すので

はなく、参考書やチェックリストとして利用すればよ

い。標準規格を利用するメリットとしては、次のよう

なものが挙げられる。

*資料:ITR

FISC:金融情報システムセンター、SLCP:Software Life Cycle Process、CMM:Capability Maturity ModelITIL:IT Infrastructure Library、ISMS:情報セキュリティ・マネジメント・システム

ITガバナンス アプリケーション開発 システム運用管理 情報セキュリティ

COBIT

FISCガイドライン(金融機関などのシステム監査指針)

システム管理基準

SLCP共通フレーム

ISO 9001

CMM

ITILISO 20000 ISMS

ISO 17799/27001

網羅的

局所的

図3:IT運用管理関連の主な標準規格

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Computerworld August 200846

P a r t 1 │ I T 運 用 管 理 の 現 状 分 析 と 改 善 の ア プ ロ ー チ

●効率性:方針やルールをゼロから策定するのではなく、規格に示される考え方をたたき台にすることで時間が短縮できる。

●網羅性:既存の、あるいは新規作成した規定・ガイドライン類の記述内容の漏れや抜けのチェックに利用できる。

●標準への対応:標準規格には一般的な考え方やあ

るべき姿が盛り込まれており、適用することで標準への対応が期待できる。この際は可能なかぎり最新バージョンの規格を参照すべきである。

●意識改革:標準規格を参考・引用することの最大の意義は、普及率や知名度の高い規格を目標に置くことで、改善活動に付きまとう変化への抵抗感を緩和し、社内にそれを容認する空気を作ることである。

 情報システムと、そこから提供されるサービス群は、

人とプロセスと技術によって成り立っている。ここで

は、IT運用管理の技術面に焦点を当てて、その動向

を分析する。

IT運用管理のモデル化

 IT運用管理専用のツールやデータベース、ワーク

フローなどを導入することは、効率性と経済性の観点

から推奨される。運用管理にかかわる技術は、製品

として提供されるだけでなく、ERPパッケージやOS

に組み込まれたり、フリー・ソフトウェアやオープンソー

ス・ソフトウェアとして提供されることもあり、選択肢

は多岐にわたる。そのため、適切な技術選定のため

に運用管理のモデル化を検討することがしばしば試

みられる。

 しかし、時代とともに要件が変化することから、モ

デル化にあたっては、技術および市場の変遷を見据

えることが重要だ。10年前の運用管理アーキテクチャ

は、主にホスト・コンピューティングによる集中処理環

境から、クライアント/サーバ(C/S)コンピューティン

グを中心とする分散環境への適合を意図したもので

あった。そして昨今では、複雑なシステム環境に適合

し、ITサービス管理を具現化するためのアーキテク

チャが求められるようになってきている(図4)。 図4のシステム運用管理アーキテクチャで特徴的な

のは、SLM(サービス・レベル管理)に並んで、構成

管理が全体のハブとして位置づけられている点だ。

複雑化するシステム環境は、テスト/リリース、障害

対応、保守計画などさまざまな局面で不具合を発生

させる。IT資産の棚卸し、構成情報の把握、変更の

反映といった作業にかかる労力は格段に増してきて

おり、ツールによる自動化が求められている。また、

SLMも依然として重要な役割を果たしている。これは、

システムの利用機会が増え、サービス・レベルをユー

ザー視点でコントロールする必要性が増したのと同時

に、調達先であるベンダーを管理する要求が強まって

いるという背景からきている。

IT運用管理ツールの市場動向

 ここで、IT運用管理製品市場およびベンダーの動

向を見てみよう。

 分散システムの普及に伴い発展してきたIT運用管

理製品市場は当初、主にネットワーク監視やジョブ管

理といった必要性の高い機能に焦点を当てた製品が

提供されていた。一方、1990年代後半にオープン化

が進み、システム構成が複雑化したことから、あらゆ

るシステム・コンポーネントを統合的に管理する必要

が生じることとなり、大手ベンダーは「統合運用管理

ツール(ソフトウェア)」と称して、製品群を体系化した

スイート/ファミリー製品を提供するようになった。以

IT運用管理の動向分析[テクノロジー編]

Page 29: Computerworld.JP Aug, 2008

P a r t 1 │ I T 運 用 管 理 の 現 状 分 析 と 改 善 の ア プ ロ ー チ

August 2008 Computerworld 47

特集 スパイラルアップ![IT運用管理]

降、大規模なユーザー企業やサービス事業者を中心

に、統合運用管理ツールの導入は一巡し、市場は比

較的成熟したと見られるようになった。

 しかし、ここにきてITサービス管理や仮想化技術

の利用といった新しいニーズが生まれており、ベン

ダーによる新製品の市場投入は止むことなく、市場の

拡大が続いているという状況になっている。

IT運用管理製品の分類 現在のIT運用管理製品は、大きく、システム運用

管理分野とITサービス管理分野の2分野に分類され

る(48ページの表1)。システム運用管理分野は、主に

監視、運用、障害対応といった内部的な管理を意図

したもので、イベント管理、ネットワーク管理、サー

バ管理、DBMS管理、アプリケーション監視、ジョ

ブ管理、ストレージ管理、バックアップ/リカバリ、

仮想化、自動化が該当する。

 一方のITサービス管理分野は、ユーザーに対する

ITサービスの管理を意図したものと言える。サービス・

デスク/インシデント管理、IT資産管理、変更/構

成管理、PC資産管理、エンドユーザー体験管理、

SLM / BSM、キャパシティ計画が該当する。ITサー

ビス管理の標準フレームワークであるITIL(IT

Infrastructure Library)が国内でも徐々に普及して

いることから、この方針に沿った製品は今なお多くリ

リースされている。

拡大するITサービス管理市場 ITサービス管理製品市場は、現在のところ小規模

であるが、今後の成長市場と目される。この背景には、

日本版SOX法(金融商品取引法)の施行により内部統

制を推進する機運が増したこと、企業責任としてビジ

ネス・コンティニュイティ(事業継続性)への社会的要

求が強まっていることなどがある。

 内部統制の要求事項として、IT資産の把握や変

更管理に着手する企業が多く見られるようになってき

た。また、大企業・組織のシステム障害事例が報道さ

れるなどして、事業継続性の確保への懸念が高まっ

ていることから、ITサービスの提供体制の見直しに

本腰を入れて取り組み出した企業も少なくない。こう

した市場環境の変化は、間接的にITサービス管理の

必要性を企業に訴求しており、結果として、IT運用

管理製品市場全体の拡大と、ベンダー各社の新製品

投入や新規参入を促している。

システム運用管理アーキテクチャ(SOMA:Systems Operation & Management Architecture)

テスト/検証 サービス・デスク

システム監視

サービス・レベル管理(SLM)

単体/結合テスト インシデント管理問題管理

ヘルプデスクナレッジ・ベース

サービス・カタログ

統合コンソール

サービス・モデリング実績報告

サービス・マッピングサービス監視(エンド・ツー・エンド)

負荷テストセキュリティ・テスト

最適化

サーバ/ストレージのキャパシティ計画

ネットワークのキャパシティ計画

設計/テスト/可視化

計測・最適化テスト管理

構成管理

IT資産マッピング機器構成マッピング実装と配布変更管理

CMDB(構成管理データベース)

性能管理可用性管理

障害管理イベント相関管理

セキュリティ監視ログ管理

*資料:ITR

図4:システム運用管理アーキテクチャ

Page 30: Computerworld.JP Aug, 2008

Computerworld August 200848

P a r t 1 │ I T 運 用 管 理 の 現 状 分 析 と 改 善 の ア プ ロ ー チ

国内市場規模の推移/予測 ITRの調査では、2007年の国内IT運用管理製品

市場での総出荷金額は1,010億円であった。この額

は前年比114%であり、2008年も約12%増の伸びを

予測している(図5)。 先に述べたように、大企業ではシステム運用管理

製品の導入が一巡した感もあるが、大規模システムの

トラブルが国内で相次ぎ、CSR(Corporate Social

Responsibility:企業の社会的責任)が喚起されたこ

とで、市場の拡大が後押しされているようだ。また、

2006年度以降、内部統制やコンプライアンス(法令順

守)の強化のため、IT運用管理基盤の見直しを進める

企業が増えていることも市場の伸びに貢献している。

 企業で、ITが「サービス」として意識され始めたのは、

比較的最近のことである。メインフレームが主流であっ

た時代の情報システムとは、巨大な“箱”とそこから吐

き出される膨大な帳票を意味し、今日のように高度な

技術やオペレーションを組み合わせて提供するサー

ビスとしては認識されていなかった。

 しかし、IT部門のミッションは、「コンピュータの稼

働」から「ITサービスの提供」に変化しており、ITサー

ビス管理製品への関心が高まるのは必至だ。一方、

IT運用管理製品は、サービスの源となる業務システ

ムに不可欠なツールとなり、総合的なITマネジメント

基盤としての役割がより深まるものと予想される。

IT運用管理ツールのベンダー動向

 図6に、2007年度のIT運用管理製品の国内におけ

る市場シェアの実績を示す。IT運用管理市場には多

種のプレーヤーが存在し、国内で入手可能な製品を

網羅すると数十社に及ぶ。製品ごとのシェアについ

システム運用管理分野

イベント管理 ITインフラ全般から発生するイベントの監視、評価、追跡、問題解決を行う。システム管理者向けの統合監視コンソールを備える

ネットワーク管理 ネットワークのパフォーマンス監視、管理、最適化を行う

サーバ管理 サーバのパフォーマンス監視、管理、最適化を行う

DBMS管理 データベースのパフォーマンス監視、管理、最適化を行う

アプリケーション監視 アプリケーションのパフォーマンス監視、管理、最適化を行う

ジョブ管理 分散システムにおいてジョブ計画、実行管理、フロー管理を行う

ストレージ管理 ストレージ・システムのリソース管理、ボリューム管理、レプリケーションなどを行う

バックアップ/リカバリ バックアップの取得/保管および管理を行い、必要時に復元を行う。障害/災害によるデータの紛失・破損の被害を最小限にとどめることを目的とする

仮想化 単一のサーバを論理的に分割し、複数のOSやアプリケーションの実行環境を構築する。x86系CPUを搭載するWindows/Linuxサーバを対象とする

自動化 プロビジョニング、自動構成、オーケストレーションなど、サーバ運用の自動化を行う

ITサービス管理分野

サービス・デスク/インシデント管理

サービス・デスク機能を提供し、インシデント管理の実行を支援する。インシデント/問題の集約、記録、優先づけ、追跡、管理を行う

IT資産管理 IT資産のライフサイクルを通じて、財務的側面からIT資産全般を管理する。ライセンス管理、リース管理、コスト管理、調達管理、契約管理などを行う

変更/構成管理 ITインフラの構成情報および関連情報の保管と変更を管理する。CMDB(構成管理データベース)、あるいはその枠組みを提供する

PC資産管理 クライアントPCの構成情報の取得と変更を管理する。インベントリ収集、ソフトウェア配布などの機能を提供する

エンドユーザー体験管理 エンドユーザーの視点から、ITサービスのパフォーマンスの測定、管理、最適化を行う

SLM/BSM SLM(サービス・レベル管理)は、ITサービスにおけるSLAの策定、実行、評価、改善を支援する。BSM(ビジネス・サービス管理)は、ビジネスの優先度に基づいて、ITサービス管理の最適化を行う

キャパシティ計画 ITインフラのパフォーマンス分析や需要予測を通じて、キャパシティ計画を支援する

表1:IT運用管理製品の分類

*資料:ITR「ITR Market View」

Page 31: Computerworld.JP Aug, 2008

P a r t 1 │ I T 運 用 管 理 の 現 状 分 析 と 改 善 の ア プ ロ ー チ

August 2008 Computerworld 49

特集 スパイラルアップ![IT運用管理]

ての説明は割愛するが、全体的な動向は押さえてお

いていただきたい。

 一方、海外市場では、CA、BMC Software、

IBM、Hewlett-Packard(HP)の米国大手4社の勢

力が強く、この4社はビッグ4と呼ばれている。IT運

用管理製品に限った話ではないが、積極的な買収に

よる製品ラインアップの拡充は、海外ベンダーの典型

的な経営戦略である。例えば、IBMは2006年に設備

資産管理ツールのトップ・ベンダー、MRO Software

を買収し、サービス・デスクやIT資産管理などの製品

強化を図っている。また、ビッグ4以外にもEMC、

Oracle、Symantecといったいくつかのベンダーが、

(単位:億円)

*資料:ITR

ITサービス管理製品分野システム運用管理製品分野

2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年0

300

600

900

1,200

1,500

1,800

図5:国内のIT運用管理製品市場規模/推移

キャパシティ計画 1%

*資料:ITR

イベント管理 12%

ネットワーク管理 9%

サーバ管理 10%

DBMS管理 4%アプリケーション監視 3%

ジョブ管理 14%ストレージ管理 14%

バックアップ/リカバリ13%

仮想化 2%

自動化 1%

サービス・デスク/インシデント管理 3%

IT資産管理 2%変更/構成管理 4%PC資産管理 7%

エンドユーザー体験管理 2% SLM/ BSM 1%図6:国内のIT運用管理製品の市場シェア実績(2007年度)

*資料:ITR

海外ベンダー 国内ベンダー

専業

ベンダー

サーバ・

ベンダー

その他

ConcordWily technology

SmartsnLayers

BMC Software

RemedyMarimba

IBM

EMC Symantec Oracle

Tivoli/MRO SoftwareCollation

HP

富士通 NEC日立製作所

野村総合研究所

Peregrine SystemsMercury Interactive

CA

AltirisRelicore

PeopleSoft

図7:国内外の主要なIT運用管理製品ベンダー

それぞれ特定分野での競争力を増してきている。

 国内ベンダーに目を向けると、日立製作所、富士通、

NECなどのサーバ・ベンダーの製品が多くのユーザー

に支持されている。これらのベンダーは従来、運用管

理ツールを自社のハードウェア製品にバンドルして提

供する傾向が強かったが、最近はITサービス・マネジ

メントにも注力しており、海外ベンダーと同様、製品

ラインアップの拡充に力を注いでいる。

 図7に、国内外の主要なIT運用管理製品ベンダー

(と各社の買収したベンダー)を示す。なお、国内にも

特定分野における専門ベンダーは存在するが、CAや

BMCのような大手は見られない。

Page 32: Computerworld.JP Aug, 2008

Computerworld August 200850

P a r t 1 │ I T 運 用 管 理 の 現 状 分 析 と 改 善 の ア プ ロ ー チ

 ここまで、IT運用管理の現状をプロセスと技術の

両面から確認してきた。最後に、IT運用管理の将来像、

向かっているベクトルを把握したうえで、IT部門とし

てとるべき適切なアプローチを挙げていく。

IT運用管理製品導入のアプローチ

 従来、IT運用管理ツールは、新規システムの導入

やITインフラの刷新といったプロジェクトに応じて、

個々の要件に合わせて検討・導入されるケースが多

かった。企業の情報システムには相互干渉を好まな

いいくつかの“サイロ”が生まれ、その運用管理も、そ

れぞれのサイロ内に閉じて実行される傾向にあった。

しかし、この傾向は異なるベンダーの運用管理ツール

を個別に導入することを助長し、運用面での合理性

を損ねるばかりか、全社的なITマネジメント環境の標

準化を遅らせるという不利益な状況を招いている。

 サイロごとに個別に構築されたIT運用管理環境で

は、オペレーションの自動化といった最小限の要件に

焦点を当てたツール導入に陥りやすい。しかし、本来

求められているのは、部分的な自動化ではなく、シス

テム全体を見据えたITマネジメントの合理化である

(図8)。したがって今後は、個別の局所的なツール導

入ではなく、システム環境全体を見据えて、ツール間

の連携や共通オペレーションを意識したツールの配

備・構成を行っていく必要がある。そのためには、個々

の製品分野の特徴や市場動向を把握して、自社で求

められるIT運用管理基盤の将来像を明確にしていく

ことが求められる。

プロジェクトごとに分断したサイロ型のツール導入

局所的な要件を満たす必要最小限の機能

ITインフラ監視やオペレーションの自動化

管理情報の集約と一元的なコントロール

システム全体を見据えたツール構成の最適化

ITマネジメントの自動化と合理化

マネジメントの合理化

オペレーションの自動化

*資料:ITR

導入目的

スコープ

局所的 全体的

図8:今後、IT運用管理製品の導入で求められるアプローチ

IT運用管理基盤の将来像と求められるアプローチ

Page 33: Computerworld.JP Aug, 2008

P a r t 1 │ I T 運 用 管 理 の 現 状 分 析 と 改 善 の ア プ ロ ー チ

August 2008 Computerworld 51

特集 スパイラルアップ![IT運用管理]

自社の成熟レベルに応じたIT運用管理基盤の整備を

 これまで見てきたように、市場には多種の運用管

理ツールが存在し、機能的な改善が進んでいる。企

業は、変化を見据え、自社の成熟レベルに見合った

IT運用管理基盤を整備することが求められる。

 図9は、米国Forrester Researchが提唱する基

盤整備のアプローチをモデル化したものに、国内外の

調査結果を加えたものである(ワールドワイドの結果は

Forresterによる2008年度予測値から/国内はITR

と本誌が2007年10月に実施した調査の結果から)。

 この図から、IT運用管理基盤の整備度合いは、ワー

ルドワイドと国内とで無視できない格差があることが

確認できよう。第1段階のIT資産管理については、

整備状況に両者でそれほど差は見られない。しかし、

第2段階以降、国内大手企業の実施率はワールドワイ

ドを大幅に下回っている。第2段階では、基盤構築の

基礎をなす施策が多く、その後の整備度の進展が期

待される。したがって、第2段階の施策に着手するこ

とは、特に国内の大手企業の多くにとって、IT運用

管理の改善を導くことになると予想される。

 そこには、ITILの適用、CMDBの導入、アプリケー

ション・マッピングなどが示されるが、この段階では

ツールへの依存度が高くなることから、適切な技術評

価を行うことが求められる。整備が非常に高いレベル

に達する企業では、BSMを導入し、ビジネス視点か

らITサービスの最適管理を行うことになる。

 これらの傾向は、当然、企業規模や業種によって

大きな差異がある。IT資産管理が不十分な企業では

まず、それを見直し、CMDB導入の素地を作るべき

である。次に基礎的ITILの適用、そしてSLMといっ

たように、段階的に整備することが求められる。

 IT運用管理基盤の整備にあたっては、人、プロセス、

技術の各観点から改善のための施策を検討し、実行

することが求められる。そのためには、部門間のギャッ

プや業務分掌の不備を解消し、必要なプロセスを体

系化することが前提となる。自社のIT運用管理基盤

の整備の度合いを把握し、段階的にツールを導入す

ることは、プロセスの効率化につながる。その際、多

くの企業にとっては、ITIL、SLM、CMDBなどがキー

ワードになるであろう。

*資料:ITR(米国Forrester ResearchおよびITR/月刊Computerworldの調査データを基に作成)

時間

ITマネジメント環境の整備度

75%67% 50%

31%

12%35%

16%65%

35%11%

25%7%

35%7%

6%

7%

0%

25%

第1段階 : 混沌 第2段階 : 受動的 第3段階 : 安定 第4段階 : 能動的 第5段階 : 成熟

IT資産管理

SLM

CMDBの実装

ITIL(全体)の適用

BSMの導入

ITIL(基礎)の適用

アプリケーション・マッピング

ビジネス・プロセス・マッピングの実装

ITマネジメントの統合

ワールドワイド国内大手企業

図9:IT運用管理基盤の整備レベル(ワールドワイドと国内の比較)

Page 34: Computerworld.JP Aug, 2008

Computerworld August 200852

 多くのユーザーは、ITIL V2の欠点を他の方法論

や自前の対策でカバーするなどしており、旧バージョ

ンでも十分満足している。また、どのバージョンであれ、

ITILの完全導入は非常に大きな負担を強いられ、し

ばしば大規模なシステム改変を余儀なくされることも

ある。

 ITILは1980年代後半、英国政府機関(現在の政

府調達庁:OGC)がITサービスの調達、管理に関す

る体系的なアプローチを説明する手法として作成した

ものだ。1990年代に欧州で広く普及したが、ITILが

米国で認知されるようになったのは2000年以降のこ

とである。

 ITILはその名のとおり、複数の書籍で構成される

「ライブラリ」だが、OGCはWebサイト(画面1)でも大

量のITIL関連資料を提供している。

 2001年に出版されたITIL V2は、ITのインフラス

トラクチャとオペレーション、すなわちサービス・サポー

トとサービス・デリバリの2つを柱に、インシデント管理、

変更管理、キャパシティ管理、構成管理などのベスト・

プラクティスをまとめたものだ。これらのベスト・プラ

クティスを適用して、企業はデータセンターの運用を

議論が分かれる新旧バージョンの評価

 ITサービス・デリバリのベスト・プラクティスをまと

めたフレームワーク「ITIL(Information Technology

Infrastructure Library)Version 3」(以下、ITIL

V3)が登場してから、約1年が経過した。ITILの最

新版は意図的に照準を絞り込むことで、結果的にこ

れまでよりも幅広い層から注目を集めることになった

と評価されている。

 だが、本当にそうだろうか。その答えは「イエス」で

もあり「ノー」でもある。アーリー・アダプター(先進的

導入企業)の間ではITIL V3を称賛する声が多い。

日常業務に焦点が絞られた乱雑な規範の寄せ集めで

あったITIL V2と比べて、ITIL V3はより包括的に

かつ高度に体系化されており、ITサービス・デリバリ

に対して「サービス・ライフサイクル」というアプローチ

を採用した点などが大きな進歩だとして支持を集めて

いる。

 ただ、それでもITIL V2ユーザーのすべてがITIL

V3に殺到しているわけではない。

V2を捨てるべからず/発想を転換せよ/過大な期待は禁物……

IT管理・運用業務のベスト・プラクティスをまとめたフレームワークとして、今や日本企業の間でも定着しつつある英国生まれのITIL。その最新バージョンである「ITIL Version 3」(ITIL V3)が登場してからおよそ1年が経過したが、導入ユーザーはどのような手ごたえを得ているのだろうか。本パートでは、ITIL V3の導入に成功している米国ユーザーの声を基に、ITILのメリットを最大限に引き出す方法を探ってみたい。

Gary AnthesComputerworld米国版

ITIL V3適用を成功に導く5つのポイント

Part

2

Page 35: Computerworld.JP Aug, 2008

August 2008 Computerworld 53

特集 スパイラルアップ![IT運用管理]

改善、標準化することが可能になった。

 ところがITIL V2では、セキュリティ管理や財務

管理、ITサービスとビジネス価値の関係、ITILと他

のプロセスのリンクといった重要なテーマについては、

ほんのリップ・サービス程度しか言及していない。また、

目標達成までの具体的な方法を示さず、実行すべき

ことだけを記述する傾向にあった。多くの企業は、そ

れぞれの社内状況に応じてITILを導入できる自由度

の高いアプローチを好んだが、一部からは具体性に

欠けると不満の声も上がっていた。

満を持して登場した“戦略”重視のITIL V3

 新たに登場したITIL V3は、こうした初期の批判

の多くを払拭した。新バージョンでは、アドバイスの

実行方法についてより具体的に解説するとともに、

ITIL V2の理論をビジネス・ケースのサンプルとテン

プレートに落とし込むことでわかりやすくし、パフォー

マンス・メトリクスとワークフローの事例を提供するこ

とで深いレベルまで掘り下げている。

 「ITIL V3で実現したのは、ITILのさまざまなコン

ポーネントの統合化だ」と、米国Computer Sciences

(CSC)のグローバル・プロセス・ガバナンス・ディレク

ター、ロバート・ハンフリー(Robert Humphrey)氏は

指摘する。「新バージョンは、設計から継続的改善に

至る全戦略をカバーするライフサイクル・モデルを採

用したことで、より自然なフローを提案できるように

なっている。すべての要素の比重も同等に置かれて

いる」(同氏)

 ITIL V3では、ITサービス・デリバリのコンセプト

がサービスの日常的オペレーションから、5つのライフ

サイクル・フェーズ、すなわち「サービス戦略」、「サー

ビス設計」、「サービス移行」(実装と変更を含む)、「サー

ビス運用」、「継続的サービス改善」に拡張され、それ

ぞれが1冊のガイドブックにまとめられた。

 また戦略的な視点から、ITIL V3はITサービスの

設計、保守、改善に、組織のビジネス目標をベース

とするよう求め、ビジネス・マネジャーのプロセスへの

関与を促しており、ROI(投資利益率)、ビジネス・メ

トリクス、ビジネス・ベネフィットについても詳細にカ

バーしている。

 米国Forrester Researchのアナリスト、イブリン・

ハバート(Evelyn Hubbert)氏は、「ITIL V3が、

ITILの普及をさらに加速させるだろう」と語る。同氏

によると、ITILが確固たる地位を築いたのは、単に

それ以外に参照できるガイダンスがなかったからだと

いう。「非IT系の組織は昔から構造化されたプロセス

と規律を持っていたが、IT部門もようやくプロセスを

構造化する時期を迎えたというわけだ。この流れに乗

り遅れてはならない」とHubbert氏は警告する。

 では、今こそITIL V3に飛びつくべきタイミングな

のだろうか。経験豊かなユーザーは、次のようにアド

バイスする。

ポイント①

ITIL V2を捨てるべからず

 長い間、ITIL V2にパッチを当てて補強してきた

画面1:英国政府調達庁(OGC:Office of Government Commerce)のサイト。ITILは、英国出版局(TSO:The Stationary Office)が発行し、OGCが提供している。ITIL V3の書籍版は全5冊で構成される。ちなみにITIL V2は副読本を含め9冊で構成されていた

Page 36: Computerworld.JP Aug, 2008

Computerworld August 200854

P a r t 2 │ I T I L V 3 適 用 を 成 功 に 導 く 5 つ の ポ イ ン ト

企業は、ITIL V3への移行を急ぐべきではない。自

動車販売会社の米国AutoNationで統合サービス担

当ディレクターを務めるフィリス・ドラッカー(Phyllis

Drucker)氏によると、同社ではITIL V2でカバーさ

れていない、いくつかのプロセスを、MicrosoftのITIL

ベース・フレームワークである「Microsoft Operations

Framework(MOF)」と社内開発のプロセスで補完し

たという。「結果、非常に堅牢かつ統合化された変更、

キャパシティ、設計、管理プロセスが実現した」と

Drucker氏は満足げに語る。

 はたして同社は、ITIL V2とMOFを今すぐ捨てら

れるだろうか。答えは「ノー」だ。Drucker氏は、「現行

のプロセスにITIL V3を重ね合わせて、不都合な点

があるかどうかを今後調査するつもりだ」と述べてい

る。

 米国フロリダ州の電力大手Progress Energyは、

6年前からITIL V2に取り組んできた。「しかし、まだ

実装していない部分も多い」と語るのは、同社プロセ

ス・エンジニアリング・サービス担当マネジャーのシェ

リ・キャシディ(Sheri Cassidy)氏だ。

 ITILプログラム・マネジャーという非公認の肩書き

を持つ同氏は、ITIL V3に移行しようと考えている

ユーザーに対して、「ITIL V3はITIL V2の代替では

なく、補完するものととらえるべきだ」とアドバイスし

ている。

 Cassidy氏は、ITIL V3が発行される前に計画し

ていたITIL V2への取り組みを継続し、今後も追加

的な作業を進めていく考えだが、ナレッジ管理やサー

ビス・カタログ管理、移行管理、継続的改善、SLA(サー

ビス・レベル契約)のテンプレートなどに対する規範的

アプローチは、ITIL V3でカバーするという。

 フロリダ州タンパ市のビジネス・アプリケーション担

当マネジャー、アラン・クレイプール(Alan Claypool)

氏は、過去18カ月にわたってITIL V2に取り組んで

きた。最初に手をつけたのは、旧式の運用手順で実

行されていた古いレガシー・アプリケーションだった。

 最近実施された2つの調査によると、大企業のITマネジャーは今後、データセンターを効果的に稼働させるために、さまざまな自動化技術を導入し、ITILなどのベスト・プラクティス・フレームワークを採用することになりそうだ。 米国の調査会社Enterprise Strategy Group(ESG)のシニア・アナリスト、メアリー・ジョンストン・ターナー(Mary Johnston Turner)氏は、「2008 IT Service & Infrastructure Management Survey」と題した報告書の中で次のように指摘している。 「IT管理の効率化を図るには、サーバ、ストレージ、ネットワーク、ソフトウェア、エンドユーザー・システムがどのように相互作用しているのかを正確かつタイムリーに把握する必要がある。そのためにはIT管理の自動化が不可欠であることを当社の調査は示している」 ESGの調査は「データセンターがどのように変化しているか」「その変化にITマネジャーはどのように対応しているか」をテーマに、グローバル企業のIT意思決定者602人を対象に実施されたもの。それによると、回答者の4分の3以上が、仮想化技術は向こう2年間でIT管理の要件に「かなり」または「ある程度」の影響を及ぼすだろうと回答し、SOAやWeb 2.0の場合も同程度の影響を及ぼすと予想していることがわかった。 また、「非常に効率的なIT組織では、複数の技術レイヤにわたってワークフ

ローの自動化が図られている」との回答が36%に上った。「IT資産管理ツールやイベント監視/相関処理/根本原因分析(RCA)ツールのほか、ITILのようなITサービス管理のベスト・プラクティスが効率的なIT環境の実現に貢献しているようだ」とTurner氏は報告書で指摘している。 一方、システム管理ソフトウェア・ベンダーの米国CAも先ごろ、世界中のCIO(最高情報責任者)300人を対象に、データセンターの自動化に関する調査を実施した。この調査では、回答者の65%が「データセンターのタスクの多くを自動化している」と答え、31%は「中央集中型の管理を行っている」と答えたという。平均すると、多くのCIOがデータセンターのタスクの48%を自動化しており、向こう1年半でその比率が56%に増える見通しだ。 「この調査は、サーバの整理統合、仮想化、性能管理、アップタイム、事業継続性などに関する取り組みが、自動化の必要性を加速させていることを示している」とCAは指摘している。 同調査では回答者の半数近くが「ITILを採用している」と答え、30%が「ビジネス・サービス管理に取り組んでいる」、23%が「(ITガバナンスの評価標準フレームワークである)COBITを採用している」と答えたという。「ベスト・プラクティス・フレームワークは、自動化技術よりも先に導入するのが望ましい」とCAはアドバイスしている。

Column 1

データセンター管理のキーワードは「ITIL」と「自動化」──2つの調査に見るユーザー意識の高まり

「いずれも効率的なIT環境の実現に貢献」とアナリストが指摘

Denise Dubie / Network World米国版

Page 37: Computerworld.JP Aug, 2008

P a r t 2 │ I T I L V 3 適 用 を 成 功 に 導 く 5 つ の ポ イ ン ト

August 2008 Computerworld 55

特集 スパイラルアップ![IT運用管理]

 「われわれにはオペレーションのフレームワークがす

でにあり、ほとんどの場合、それで問題はなかった。

しかし、実行結果の品質を毎回保証できる構造化さ

れたフレームワークであるとは必ずしも言えず、改善

の必要があった」(同氏)

 Claypool氏は、ITIL V3導入に着手する前に

ITIL V2の取り組みをさらに推し進める考えだが、一

方でITIL V3の「サービス戦略」の研究も開始してい

るという。「われわれはサービス設計から研究を始めた

が、確固たる戦略がないことを認識し、あらためてサー

ビス戦略から研究することにした。ITIL V3がすぐれ

ているのは、ビジネスの基本に立ち戻ることができる

点だ。そこからサービスの設計を開始することになる」

と同氏は説明する。

ポイント②

ITIL V3の導入価値は高い

 ITIL V3の最も重要な進歩は、ITサービスとビジ

ネス・サイドの強固な連携にあると多くのユーザーは

口をそろえる。

 米国Hewlett-Packard(HP)では、国際業務と顧

客向けサービスにITILを導入している。同社のITサー

ビス管理プラクティス主任で、ITIL V3の「サービス

運用」の共著者であるデビッド・キャノン(David

Cannon)氏によると、ITIL V2の限界は、すべての

議論がROIにとどまったことだという。すなわち、コ

ストをいかに圧縮するかに力点が置かれ、ITサービス

のコストに注目するばかりで、ビジネスに対するサー

ビスの価値には関心が払われなかったのである。「そこ

でITIL V3では、サービスの具体的な目的に重点が

置かれた」とCannon氏は語る。

 例えば、ITIL V3ではITサービスのコストを請求

書発行数などの“アウト・プット”と均衡させるのではな

く、改善されたキャッシュ・フローの価値と均衡させ

るプロセスが明確化されている。「ITIL V3にはサー

ビスをブレークダウンする方法から、それらを実行結

果にマップする方法、サービスのコストを見積もる方

法まで、非常に多くのガイダンスが用意されている」と

Cannon氏は説明する。

 フロリダ州サラソータ郡の官庁/学校サービス管理

ディレクター、デール・オット(Dale Ott)氏は、ITIL

V3の最もすぐれた点は、従来のサービス運用から領

域を拡張してサービス設計やロールアウトの段階まで

カバーし、それらをビジネスにひもづけたことだと評

価している。同氏の部署でもすでに郡のイントラネッ

トなど、最近運用を開始したいくつかのアプリケーショ

ンを評価するためにITIL V3を利用しているという。

「そうしたアプリケーションを前に、“やるべきことはす

べてやったか”と再確認するのにITILは役立ってい

る。この先VistaやOffice 2007などの導入も控えて

おり、引き続き参考にしたい」とOtt氏は語っている。

ポイント③

サポート・ツールを探せ

 ITILの進化に合わせて、さまざまなベンダーが

ITILの記述内容をサポートするツールを開発してき

た。タンパ市のClaypool氏は、ITIL V2の導入初期

に、コンフィギュレーション管理データベースなどの

重要なITIL要素をサポートする自動化ソフトウェアが

なかったため、作業効率を高めることができなかった

という。「今はITILストラクチャに適合する製品を自

由に選べる。その違いは大きい」と同氏は語る。

 Progress EnergyのCassidy氏は、ITIL V3の内

容がより高度に統合された点を称賛する一方、サポー

ト・ツールの進化も大きく貢献していると指摘する。

同社では今年8月から、ITIL V3プラクティスをサポー

トするWebベースのユーティリティ「Service-now.

com」の利用を開始する予定だ(56ページの画面2)。

Cassidy氏は同ユーティリティを、「さまざまな(ITIL)

プロセス間の統合化をさらに進めることができる。問

題管理に携わりながら変更チケットをアップデートす

るといったこともシームレスに実行できる」と高く評価

している。

 Cassidy氏は、プロセスにマッチするツールを探す

前にプロセスを徹底的に解析すべきという教条主義

に懐疑的な見方を示している。「ITIL導入から3年ほ

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Computerworld August 200856

P a r t 2 │ I T I L V 3 適 用 を 成 功 に 導 く 5 つ の ポ イ ン ト

どで、われわれの利用していたツールに限界があるこ

とを認識した。あとから考えると、もっとすぐれたツー

ルがあったら作業の進み方も違っていただろう」と同

氏は振り返る。

ポイント④

カルチャーショックに備えよ

 「われわれの最大の挑戦は、企業風土を変革する

ことだ」とClaypool氏は語る。困難は、よりすぐれた

ものがあるにもかかわらず、現行のプラクティスで「問

題ない」と考えがちなIT部門の発想を転換することに

あると同氏は言う。

 サラソータ郡では8年前からITILに取り組んでき

た。ITILが米国で広く知られるはるか以前からだ。

「Gartnerでさえ、2000年の流行予測チャートに

ITILを入れていなかった」と、サラソータ郡のCIO(最

高情報責任者)、ボブ・ハンソン(Bob Hanson)氏は語

る。同郡では、ITIL V2の基本をすでにマスターし

ているが、「それほど簡単ではなかった。問題はプロセ

スにあるのではなく、人の側にあった」(Hanson氏)と

している。ITスタッフはヒーローの役割を担うのにや

ぶさかでないというのが従来のモデルだ。すなわち、

彼らはプロセスが暴走したとき、事態沈静のために果

敢に困難に立ち向かう。「だが、ITILはそうしたヒー

ローの役割を構造化によって奪ってしまった」と同氏

は指摘する。

 タンパ市はITIL導入に着手したばかりだが、報酬

の高いコンサルタントは雇っていない。Claypool氏は

次のように語る。「われわれはサラソータ郡と手を組ん

だ。先方のプロセスを見せてもらい、郡と市が非常に

似通っていることがわかった。そこで郡のプロセスを

ほぼ丸ごとコピーし、もし不都合な点があれば、そこ

だけ修正して用いている」

ポイント⑤

過大な期待は禁物

 Progress EnergyのCassidy氏は、ITIL V3が万

能ではないことを認めている。例えば、ITアーキテク

チャ評価委員会をセットアップする方法は、どこを探

しても見つからなかったという。またITIL V3のプロ

ジェクト管理の取り扱いについても、同氏は弱点を見

つけたと話す。「ITIL V3の書籍の何冊かで言及され

てはいるものの、プロジェクト管理とITILプロセスの

統合化については新バージョンでもまったく参考にな

らない」

 多くの人々がITIL V3の視野の広さを称賛するも

のの、CSCのHumphrey氏は、ITIL V3の新しいトピッ

クである「サービス戦略」にはそれほど感銘を受けてい

ないと述べ、「記述されているプロセスが少ない。より

成熟した領域に足を踏み込もうとするユーザーにとっ

ては実用性に欠ける」と批判的に評価している。

 また、Humphrey氏は、「ITIL V3はビジネスの継

続性の扱いについても弱い。ビジネスの継続性を無

視してITサービスの継続性を考えることは無意味だ」

と指摘する。

 一方、ITIL V3はガバナンスの面が十分でないと

されるが、ITILと内部統制のフレームワーク「COBIT

画面2:「Service-now.com」のサイト。企業のITIL V3実装を支援するサービスをWebベースで提供している

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P a r t 2 │ I T I L V 3 適 用 を 成 功 に 導 く 5 つ の ポ イ ン ト

August 2008 Computerworld 57

特集 スパイラルアップ![IT運用管理]

(Control Objectives for Information and related

Technology)」との相互運用などについては、「今後改

善される可能性が高い」と同氏は見ている。

今後の進化の方向性

 HPのCannon氏によると、ITIL V3を拡張する作

業──おそらくVersion 4へ向けたもの──は、デー

タセンターの運用から他の技術領域、例えば、電気

通信やエンドユーザーのモバイル・デバイスなどへ範

囲を拡大することにフォーカスしているという。「コン

ピューティングの分散化という長期的なトレンドを考

えれば、そうした方向はきわめて重要だ」と同氏は語

る。

 例えば、ITサービスにクレームのデータを取り込ん

だり、処理する機能や外交員のハンドヘルドから画像

を取り込んだりする機能が欠かせない保険会社に

とって、ITILの次期バージョンは非常に有用となる

だろう。

 Cannon氏によると、ITIL V3の著者グループは、

iPodなどの特定の技術に対応しないことを決めたが、

そうした方針がここにきて変わりつつあるという。新

しいプロセッシング・アプローチについても、SOA(サー

ビス指向アーキテクチャ)など、急速に進化しているも

のや、現時点で厳密に定義することが困難なものは

慎重に除外されたが、そうした方針も変更される見通

しだ。また、ITIL V3の有効期限は8年から10年と

想定されているが、その時々の注目されるトピックに

関しては適宜「補完的ガイド」を提供することになると

いう。

 サラソータ郡のOtt氏は、ITILの領域がビジネス・

コンセプトを取り込むまで拡大したことで、IT部門以

外でサービスを提供するシチュエーションにおいて、

ITILが有効になったのではないかと考えている。例

えば、IT分野以外のさまざまなタイプのコールセンター

にもITILを適用できるだろう。「米国から多くのサー

ビスが海外へアウトソーシングされたが、それらを再

び呼び戻すのにITILが一役買うかもしれない」とOtt

氏は述べている。

 ITサービスの提供ベンダーであるDimension Data(ヨハネスブルグ)は先ごろ、ITILなどのベスト・プラクティス・フレームワークの採用動向に関する調査結果を発表した。それによると、米国では現在、ITILの採用が一般的になりつつあるものの、多くのCIOがそうしたITサービスの提供スキルを自社がマスターしていないと考えていることが明らかになった。 今回の調査では、5大陸14カ国にまたがる370人のCIOから回答を得ている。 調査結果によると、米国の企業/団体に所属する100人のCIOのうち、60%近くがITILを採用していると答えているが、ITILを「本格的に実践できている」と自認しているのは10%未満にとどまった。米国以外の企業/団体に所属する270人のCIOにおいては、66%がITILを採用しており、17%がITILを本格的に実践できていると回答している。 一方、85%に及ぶ米国企業のCIOが、ITILやその他のITサービス・マネジメントのベスト・プラクティスには、既存のベスト・プラクティスを改善する潜在能力があると回答している。また、40%の米国企業のCIOは、ITILを利用することでより効率的なタスク処理が可能になると考え、同じく25%のCIOが、

ITILによってビジネス部門とIT部門に共通した技術を提供することができると答えている。  その反面、ITILを採用していると回答した米国企業のCIOのうち、31%がベスト・プラクティス・フレームワークには改良の余地がある点を指摘している。25%の米国企業のCIOがITILなどのベスト・プラクティスにはもっと柔軟性があったほうがいいと見ており、米国企業のCIOの5%に至っては、ITILは規定が細かすぎるため、その採用によってイノベーションが阻害されたと回答している。 また、今回の調査結果によれば、米国や世界のIT企業におけるITILやITサービス・マネジメントの採用促進を阻害している要因には、訓練/認定取得/導入に関連したコストと、導入開始に向けた基盤が整備されているかを評価する社内リソースの不足も関係しているという。 調査に協力した米国企業/団体の大多数はITILを採用していたが、他のベスト・プラクティスも採用している。例えば、46%が「Six Sigma」、38%が「Microsoft Operations Framework」、33%がISO標準、30%が「Total Quality Management」を採用していると回答している。

Column 2

ITIL採用の陰に潜む“習熟度”の問題──CIOへの調査結果で明らかに 多くのCIOがスキル不足を懸念。「ITILを本格的に実践」との回答は米国で10%未満

Denise Dubie / Network World米国版

Page 40: Computerworld.JP Aug, 2008

Computerworld August 200858

費の低減が急務になっている。グリーンITは、環境

問題という政治的・倫理的な要請であるだけではなく、

コスト削減という経済的・財務的な要請でもあるのだ。

さらに、企業によっては、データセンターの冷却・電

源設備の容量が限界に近づいていることにより、サー

バやストレージの追加が困難になっているケースもあ

る。このようなケースでは、電力消費の低減はさらに

差し迫った課題になっている。

 ITにおける電力消費の低減のための最も自明なア

プローチは、消費電力の少ないIT機器を採用し、デー

タセンター冷却・配電設備の効率性を改善していくこ

となどだ。しかし、これら以外にも忘れてはならない

重要な取り組みがある。それは、これらの機器の効

率改善であり、その際には、システム運用管理ツール

が重要な役割を果たすことになる。

グリーンITに貢献する運用管理ツール

 典型的なユーザー企業が運営する小型サーバやス

トレージの利用率はあまり高いとは言えず、大体20%

グリーンITの機運の高まり

 ITの活用により、あるいは、ITの活用において地

球環境問題に貢献する(図1)──国内のユーザー企

業において、グリーンITに向けた機運が高まりを見

せている。一般的なユーザー企業のIT部門にとって

は、IT機器による電力消費の低減にフォーカスが当

てられることが多い。そこで、本稿では、IT機器の

電力消費低減への取り組みを総称して、グリーンIT

と呼ぶこととする。

 IT部門にとってのグリーンITの意義は2つに分け

られる(図2)。1つは、CSR(Corporate Social Res

ponsibility:企業の社会的責任)やサステナビリティ

(Sustainability:持続可能性)に基づく環境問題へ

の対応であり、もう1つはIT機器の運用に要する電力

コストの削減である。

 データセンターにおけるIT機器のライフサイクル・

コストにおいて、電力コストの総額はハードウェアの

購買コストと同等以上のレベルに達している。すなわ

ち、情報システムのコスト削減を行ううえで、電力消

サーバ電力管理やハードウェア・リソース管理など、省電力に貢献するツール群

グリーンITへの関心が高まり、企業の情報システムにおけるIT機器の電力消費を管理しなければならない必要性が増している。現在、ベンダー各社から提供されているシステム運用管理ツールにおいても、グリーンITへの対応の強化が進むトレンドが見られる。本パートでは、グリーンIT時代のシステム運用管理のあり方について考えてみたい。

栗原 潔テックバイザージェイピー 代表

グリーンIT時代のシステム運用管理

Part

3

Page 41: Computerworld.JP Aug, 2008

August 2008 Computerworld 59

特集 スパイラルアップ![IT運用管理]

から30%程度であることが多い。このように、相応の

コストをかけて導入したIT機器の多くが“遊休状態”

にあるようだと、ハードウェア・コストやサーバ台数の

増加による運用管理負荷の増大という点で問題とな

るのは当然として、グリーンITという観点からも大き

な問題である。

 例えば、サーバの平均利用率が10%にすぎなかっ

たとする。これは、理想的なケースで必要とされるサー

バの10倍の台数のサーバが稼働しているということを

意味する。つまり、本来必要とされる電力の10倍の

電力が消費されているわけだ。そこで、ハードウェア・

リソースの利用率を向上させ、電力消費の低減を図っ

ていくことが求められる。

ハードウェア・リソース管理 ハードウェア・リソースの利用率の向上には、サー

バ統合やストレージ統合を行うことが最善の道だ。多

数の小規模サーバによる運用では、各アプリケーショ

ンのピーク時に合わせて余裕のある構成を採用しな

ければならないため、どうしても必要以上のハードウェ

ア・リソースを確保してしまいがちだ。少数の大規模

サーバにアプリケーションを集約することで、個々の

アプリケーションではなく全体に対して余剰能力を用

意すればよくなるため、必要以上に大容量のハード

ウェアが購入されるような状況を改善できる。さらに、

仮想化技術の活用により、アプリケーション間でのリ

ソースの融通が自由に行えるようになるため、固定的

広義のグリーンIT狭義のグリーンIT

最も狭義のグリーンIT(本稿のフォーカス)

ITを活用した環境への貢献(ITによるエコ)

IT利用における環境配慮(ITにおけるエコ)

(例)サプライチェーン最適化テレワークテレビ会議ITS(高度道路交通システム)空調制御

●IT機器製造段階での環境配慮

●オフィス内PCの電力消費量低減

●データセンターの電力消費量低減

●IT機器廃棄段階での環境配慮

図1:グリーンITの定義

CSRやサステナビリティに基づく環境問題への対応

IT機器の運用に要する電力コストの削減

グリーンITへの取り組み

図2:グリーンITの推進要因

Page 42: Computerworld.JP Aug, 2008

Computerworld August 200860

P a r t 3 │グ リ ー ン I T 時 代 の シ ス テ ム 運 用 管 理

 ミック経済研究所は5月7日、日本国内のデータセンターにおける電力消費量やグリーンITへの取り組みの実態を調査した「データセンター市場の電力消費とグリーンIT化の実態調査 2008年度版」を発表した。それによると、国内データセンターの総電力消費量は、2007年度で57億kWhとなり、現状の省エネ対策を継続したと仮定した場合でも、2012年度には107億kWhと2倍近くまで増加することが予想されている。 今回の調査では、データセンターの電力消費量とグリーンITへの取り組み状況について、データセンター事業を手がける主要21社への個別調査と、データセンターの総床面積を公表している55社のデータを基に数値が推定されている。 また、国内データセンター市場のデータに関しては、同時期に刊行しているミック研の「ITアウトソーシング市場展望 2008年度版」のものを利用しているという。 ミック研によれば、2007年度の国内データセンター市場は1兆1,600億円規模であり、今後も年率7%前後の成長を続け、2012年度には1兆6,300億円規模に拡大するとしている。一方、データセンターの総電力消費量は、コロケーション・サービスをデータセンター事業の中心とする中堅企業の事業拡大に後押しされる形で、2006 ~ 2008年度で年率平均13%増加すると見ている。

 また、データセンターの総床面積についても、2007 ~ 2009年度の平均で約13%ずつ増加していくと予測している。これは、データセンター需要の高まりを見据えて、国内でデータセンター事業に対する設備投資が活発化していることを示しているという。 こうした点を加味すると、国内のデータセンター全体においては、今後継続的に13%前後で電力消費量の増加が見込まれるとしている。ミック研によれば、2007年度における国内データセンターの総電力消費量は57億kWh、総床面積は126万㎡あり、現在の省エネ対策を継続したとしても2012年度で電力消費量は107億kWhに増加し、総床面積も223万㎡まで拡大することが予想されるという。 一方、グリーンITへの取り組みに関しては、データセンターの電力消費量の低減を目指した米国の非営利団体Green Gridが提唱している「PUE

(Power Usage Effectiveness:電力利用効率指標)」の値を基に評価している。PUEは、データセンターやサーバ・ルームにおけるエネルギー利用効率を示す指標である。 対象企業21社のうち、17社のPUEが2006 ~ 2008年度で平均約2.0であり、電力消費量の増加とともに、若干の増加傾向を示しているという。また、PUEを積極的に活用していると答えてきた企業は、17社中5社であったとしている。

Side Story

国内データセンターの総電力消費量、2007年度は57億kWhに──ミック経済研究所調査2012年度には倍近くの107億kWhへの拡大を予想

Computerworld編集部

国内データセンター市場、電力消費量、総床面積の推移予測

0

5,000億円50億kWh

1兆円100億kWh

1兆5,000億円150億kWh

2兆円200億kWh

2兆5,000億円250億kWh

3兆円300億kWh

0

50万m2

100万m2

150万m2

200万m2

250万m2

市場(円)電力消費量(kwh) 総床面積(m2)

2006年度(実績)

2007年度(実績)

2008年度(予測)

2009年度(予測)

2010年度(予測)

2011年度(予測)

2012年度(予測)

*資料:ミック経済研究所

データセンター市場(円)電力消費量(kWh)総床面積(m2)

Page 43: Computerworld.JP Aug, 2008

P a r t 3 │グ リ ー ン I T 時 代 の シ ス テ ム 運 用 管 理

August 2008 Computerworld 61

特集 スパイラルアップ![IT運用管理]

なリソース割り当ての場合と比較して、ハードウェア

の利用率を大きく改善できるようになる。

 実際、大規模なサーバ統合の事例では、電力消費

を半減以上に抑えることができたケースもある。最適

な統合作業を行う過程では、サーバやストレージの利

用率を監視し、管理していくためのシステム運用管理

ツールの活用が重要になる。特に、ストレージ・リソー

ス管理(SRM)ツールの重要性は高い。SRMにより、

DBMSなどOSの上位層で管理されるデータ・ストア

の実質的な利用率を把握することができるようになる。

ストレージ・リソースの実質的な利用率を管理し、向

上させていくためには必須のツールと言えよう。

分散ワークロード管理 また、サーバの利用率を最適化していくためには、

分散ワークロード管理ツールが有効となるケースも多

い。分散ワークロード管理ツールは、アプリケーショ

ン実行のためのサーバを動的に選択することを可能に

するソリューションであり、サーバの稼働状況に応じ

て、新しいアプリケーションを実行するサーバを自動

的に選択してくれる。

 Webサービスを提供する環境で見られるロード・バ

ランシングは、分散ワークロード管理の最も基本的な

形態と考えてよい。従来の分散ワークロード管理では、

処理の並列性をできるだけ高めて、システム全体のス

ループットを向上することに主眼が置かれることが多

かったが、ポリシーを変更することでサーバの利用率

を優先した割り当てを行うこともできる。そして、ピー

ク時以外では余剰サーバの電源をオフにすることで、

全体の電力消費量を低減することができる。なお、

分散ワークロード管理ツール製品としては、Hewlett-

Packard(HP)の「gWLM(Global Workload Mana

ger)」などがある。

階層型ストレージ管理(HSM) 上記したSRMなどのハードウェア・リソース管理

ツールや分散ワークロード管理ツールは、グリーンIT

が注目を集める前から重要な存在であったが、グリー

ンITへの取り組みにおいても高い効果を発揮できる。

これらに加えて、もう1つ、有効なアプローチとして、

階層型ストレージ管理(Hierarchical Storage Mana

gement:HSM)ツールがある。

 ストレージには階層管理という概念がある。高速だ

が高価な記憶媒体(主にハードディスク)と低速だが

安価な記憶媒体(主にテープ・ストレージ)を適材適所

で組み合わせることで、コストと性能を最適化すると

いう考え方だ。HSMはこのような階層管理を自動化

するためのツールである。

 具体的には、ディスク上からめったに使われていな

いファイルを見つけ出し、テープや光ディスクに移動

する機能などが提供される。HSMはストレージ機器

を有効に利用するためのツールとして価値を提供して

きたが、グリーンITという観点からも魅力的なソリュー

ションである。テープはバイト単価だけではなく、電

力効率性という点でもディスクと比較してはるかにす

ぐれているからだ。ディスク装置に電源が投入されて

いれば、仮にまったくアクセスが行われなくてもモー

ターの回転により定常電力を消費するのに対して、

テープは保存しておくだけでは電力を消費せず、実

際に読み書きを行う際にしか機器の電力を消費しな

いので、これは当然のことだ。

データ・デデュープ ここ1、2年で、バックアップの際に重複データを

排除するデータ・デデュープ(Data De-duplication:

データ重複除外)技術を採用したバックアップ・ツー

ルが多く登場し、注目を集めている。これは、重複し

たデータを排除して、実質的なストレージ・リソースの

利用率を向上するための技術だ。企業情報システム

では、同じ内容のデータのコピーが多数存在するケー

スが多い。重複を排除することで、ストレージの容量

を抑制でき、消費電力の低減にも結び付けることが

できる。データ・デデュープ機能を備えたツール製品

には、EMCの「EMC Avamar」や、Symantecの「Veritas

NetBackup PureDisk」などがある。

ブレード・システム管理ツール 上述した運用管理ツールに加えて、より直接的に

Page 44: Computerworld.JP Aug, 2008

Computerworld August 200862

P a r t 3 │グ リ ー ン I T 時 代 の シ ス テ ム 運 用 管 理

電力消費の低減を実現するツールとして注目すべき

なのが、ブレード・システム(ブレード・サーバおよび

ブレード・ストレージ)用の管理ツールだ。

 電源や冷却ファンを複数のサーバ間で共用するブ

レード・サーバは、本質的に電力効率性にすぐれた機

器であると言える。現在、多くのサーバ・ベンダーが、

自社のブレード・サーバの電源管理に特化した管理

ツールを提供することで、電力効率性をさらに向上さ

せている。ブレード・サーバはベンダー独自の設計を

比較的行いやすいことから、筐体のパッケージング技

術やシステム管理ツールの機能において、ベンダーが

差別化要素を提供しやすい状態になっているのだ。

 各ブレードの稼働状態を監視するためのツールの提

供は当然のこととして、使われていないブレードの電

源を自動的にオフにしたり、電源が投入されていない

ブレード近辺のファンの稼働を停止したりすることが

できるツールが標準的に提供され始めている。ブレー

ド・サーバとその運用管理ツールの採用により、同等

構成のラックマウント・サーバと比較して、30%程度

の電力消費の低減が可能であると推定されている。

 このほか、電力消費とは別の観点になるが、出力

管理ツールも環境問題に貢献しうるツールの1つであ

る。帳票類を紙に印刷することなく画面上で確認し

たり、配付したりすることで、プリンタ用紙および消

耗品の使用を最小化することができるからだ。過去に、

これらのツールの採用の是非を検討し、結局、採用

しないことを決定した企業であっても、今、グリーン

ITという観点から再度検討を行う価値はあるだろう。

データセンター/PCレベルでのグリーンITを実現する運用管理ツール

 前節で、グリーンITに貢献できる、今すぐに利用

可能な運用管理ツール群を紹介した。これらに加えて、

動的な電源・冷却管理をより広範なデータセンター・

レベルで行うソリューションも取り上げておきたい。

いわば、全体最適型のアプローチである。

 HPが提供するダイナミック・スマート・クーリング・

ソリューションを例に挙げて説明する(図3)。同ソ

リューションでは、各ラックに温度センサーを設置し、

空調機器に外部からの制御インタフェースを設置す

る。そして、管理ツールがデータセンター全体の温度

を監視しながら空調をダイナミックに調整することで

電力消費の適正化を実現するという構成になってい

る。HPによれば、最大40%の電力・空調コストの削

減が可能であるという。特に、iDC(インターネット・デー

タセンター)のように大多数の顧客の多様なワークロー

ドを稼働するようなデータセンターにおいては有効な

ソリューションと言える。

 さて、データセンター/サーバ・ルーム環境以外で

も、運用管理ツールによるグリーンITへの取り組みを

進めることは可能だ。例えば、企業内のクライアント

PC管理がその例だ。エンドユーザーが1人1台以上

使用するPCは台数が多く、当然、企業内で分散配

置されているため、省電力のルールを全体に行きわた

らせにくいという課題がある。このような場合には、

Windowsに標準で備わる電源管理の設定ポリシー(例

えば、アイドル状態が設定した時間を超えれば強制

管理ツール

温度センサー

冷却設備 冷却設備

ファン制御

図3:データセンター・レベルでのグリーンITを実現する運用管理のイメージ

Page 45: Computerworld.JP Aug, 2008

P a r t 3 │グ リ ー ン I T 時 代 の シ ス テ ム 運 用 管 理

August 2008 Computerworld 63

特集 スパイラルアップ![IT運用管理]

的にシステムを休止状態に移行するハイバーネーショ

ン機能など)を集中型管理ツールで全PCに強制的に

適用したり、その適用状況を監視したりすることが効

果的だ。

 さらに一歩進んだアプローチとして、各PCの電源

状態と稼働状態を監視し、電源が投入されたまま夜

までアイドル状態となっているPCがあれば、センター

から電源を自動的にオフにすることも技術的には可能

だ。例えば、日立製作所の「JP1」の最新バージョンで

は、このようなグリーンIT指向のPC管理機能が強化

されている。

 また、PCの集中メンテナンス時においても、電力

消費への考慮を行うべきだ。ソフトウェア・アップデー

トなどの保守作業を夜間に行いたいというニーズは強

い。しかし、夜間メンテナンスのためにPCの電源を

オンにしたまま社員に帰宅させるというやり方は、グ

リーンITの観点から、そして、もちろんセキュリティ

の観点からも不適切だ。この場合には、WOL(Wake

On LAN)機能を活用することで、問題が解決される。

WOLは、ネットワーク・アダプタに特殊なパケットを

送信することで、リモートからPCの電源を投入する

ための機能である。ハードウェア的に実装される機能

なので、対応PCの導入が前提となるが、最近のノー

トPCや企業向けデスクトップPCでは対応している

ケースが多いので、検討に値する場合もあるだろう。

*  *  *

 システム運用管理とは、一定のリソースの制約の中

で情報システムのサービス・レベルを最適化すること

である。過去においては、サービス・レベルとは主に

性能と可用性の2つを意味していたが、グリーンITの

要請により、電力消費をサービス・レベルの1つとして

積極的に管理対象とすべきニーズが増している(図4)。ハードウェア・リソース管理、サーバの電力管理、デー

タセンター・レベルの動的空調調整、PC集中管理な

どの分野を中心に、システム運用管理ツールのグリー

ンIT対応は今後も進んでいくだろう。ユーザー企業

にとっては、グリーンITの視点からも、システム運用

管理ツールの価値を再検討すべきタイミングであると

言えよう。

伝統的なサービス・レベル

今日求められているサービス・レベル

可用性

可用性 性能 消費電力 ・・・

性能

図4:サービス・レベルに関する考え方の変化

Page 46: Computerworld.JP Aug, 2008

Computerworld August 200864

発生した問題が、自社の業務にどれだけ支障を来す

のかを把握しておく必要がある。どれくらいのダウン

タイムなら許容できるのか、そしてそれはSaaSプロバ

イダーが提示している内容と一致しているのかを調査

することが大切だ」

 いったん契約を締結し、ホステッド・アプリケーショ

ンが実装されると、途中から他のSaaSプロバイダーに

乗り換えることは、コスト的にも時間的にも困難になる。

カバーするアプリも限定的“お寒い”SLAの現状

 残念なことに、今日、ユーザー本位のSLAが

SaaSプロバイダー間に浸透しているとは言えない。

たとえSaaSプロバイダー側からSLAが提示されたと

しても、その内容は限定的で中身のないものがほとん

どである。これはプロバイダーの規模と関係なく、ど

こも似たり寄ったりだ。米国THINKstrategiesでア

ナリストを務めるジェフ・カップラン(Jeff Kaplan)氏は、

「現時点では、ホステッド・サービス・スイートを幅広

く網羅するSLAが確立されていない」と指摘する。

SaaSプロバイダーの問題が自社の業務にダメージを……

 SLAとは、SaaSプロバイダーに、ユーザー企業と

合意したサービスの提供を保証させるものである。具

体的にはアプリケーションのアップタイム、パフォーマ

ンスの保証をはじめ、データ・セキュリティ、データ・バッ

クアップ/リストアといったサービスのレベルも網羅す

る。もちろん、これらのサービスが契約内容に満たなかっ

た場合のペナルティ条項(大抵は利用料金の減額)も

SLAに含まれる。

 なぜSaaSを導入するうえでSLAは重要なのか。

それは、ユーザー企業がソフトウェアの運用管理を

SaaSプロバイダーに一任するため、プロバイダー側

で発生した問題に対して、ユーザー企業はほとんど(あ

るいはまったく)手を出せないからだ。

 米国Burton Groupでアナリストを務めるエリック・

メイウォルド(Eric Maiwald)氏は、SaaSプロバイダー

と契約する前に、次の点を明確にしておくべきだと指

摘する。

 「ビジネス・マネジャーは、SaaSプロバイダー側で

新時代アプリケーションの運用管理を学ぶ

SaaS(Software as a Service)モデルで提供されるホステッド・アプリケーション・スイートを活用する企業が増えている。自社のニーズに応じてホステッド・アプリケーション・スイートを選んだ後も、ビジネス・マネジャーには重要なプロセスが待っている。それは、SaaSプロバイダーと、適切なSLA(Service Level Agreement:サービス・レベル契約)を締結することだ。本パートでは、SLA締結の事例を紹介するとともに、有利なSLAを引き出すための交渉テクニックを示してみたい。

Juan Carlos PerezIDG News Serviceマイアミ支局

失敗しないSaaS運用の極意──カギを握るのは「SLA」

Part

4

Page 47: Computerworld.JP Aug, 2008

August 2008 Computerworld 65

特集 スパイラルアップ![IT運用管理]

 例えば、米国Googleが提供している企業向けホス

テッド型アプリケーション・スイートの「Google Apps

Premier Edition」(以下、Google Apps)も、SLAは

電子メールの「Gmail」に限定されており(稼働率

99.9%を保証)、オフィス・スイートの「Google Docs」

やWebページ作成ツールの「Google Page Creator」

などは対象外だ(画面1)。 オンライン・マーケティング・サービス会社の米国

Abraham Harrison(画面2)の創設パートナーである

マーク・ハリソン(Mark Harrison)氏は、「スイートに

包含されているすべてのアプリケーションをカバーす

るSLAがあれば、ユーザー企業の安心感は高まるの

だが……」と語る。

 Abraham Harrisonは、Google Appsを使い始め

て1年になる。「サービスのアップタイムは100%ではな

いが、使い勝手に不満はない。今までダウンタイムが

発生したことはほとんどなく、発生したとしても短時

間で解消されているので、業務に支障を来したことは

ない」(Harrison氏)

 しかし、それでも、Google Appsに深刻な障害が

発生した場合は、Abraham Harrisonの業務に影響

を与える可能性がある。

 そもそも同社がGoogle Appsの導入を決めたのは、

同スイートで提供されているアプリケーションを利用

し、世界各国の拠点で働く社員とのコミュニケーショ

ン/コラボレーションを実現するためだった。同社は

世界4大陸、6カ国に社員22名を擁し、14の異なるタ

イムゾーン(時差)で稼働している。そして彼らの仕事

は、コラボレーション作業が大半を占める。

 「MicrosoftのOfficeドキュメントを電子メールに

添付してやり取りするよりも、中央のサーバに保管さ

れたGoogle Appsを利用し、共同でドキュメントを編

集するほうが、われわれの業務形態には適していると

判断した」(Harrison氏)

 実は、Abraham HarrisonはGoogle Appsのモデル・

ユーザー(小規模企業部門)で、Google Appsの開発

チームに定期的にフィードバックを行っている。ただし、

Google Appsのメリットを言いはやすことでGoogleか

ら何らかの報奨金を受け取っているわけではない。強

いてメリットを挙げるとすれば、Harrison氏が

Google Appsチームと頻繁に連絡を取り合う仲にあ

ることぐらいだ。

万が一に備えデータの保証も明確にする

 では、ビジネス・マネジャーは、どんな条件をSLA

に盛り込むべきなのだろうか。最も基本的な項目は、

アプリケーション稼働のアップタイム保証だろう。理

想的には99.9%、あるいはそれ以上の保証値が望ま

しい。また、メンテナンス目的のダウンタイムも、契約

前に明確にしておきたい。あまりに頻繁に行われると、

画面1:Googleが提供している「Google Docs」の画面。使い勝手はMicrosoft Wordとほぼ同じだ

失敗しないSaaS運用の極意──カギを握るのは「SLA」

画面2:米国Abraham HarrisonのWebサイト。14の異なるタイムゾーン(時差)で社員が働いているため、コラボレーション・アプリとしてのGoogle Appsは重宝しているという

(http://www.abrahamharrison.com/)

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Computerworld August 200866

P a r t 4 │ 失 敗 し な い S a a S 運 用 の 極 意 ── カ ギ を 握 る の は 「 S L A 」

偶発的な障害よりも業務に支障を来す要因となる。

 契約する前には、SaaSプロバイダーが独自にデー

タセンターを所有しているかどうかも確認しよう。もし、

データセンターをアウトソーシングしているのであれ

ば、そのベンダー名とデータセンターのロケーション、

そしてデータセンターのインフラ状況も調査したい。

また、SaaSプロバイダーが公認会計士協会(AICPA)

の監査標準である「SAS 70 Type II」などの監査を受

けているかどうかも確認しておく必要がある。

 SLAには、ユーザー企業とSaaSプロバイダーの

双方が合意したパフォーマンス・レベルも、具体的に

明記すべきである。動作が遅すぎるアプリケーション

では企業の業務に悪影響を及ぼす。さらにアプリケー

ションで生成したデータの保証に関する条項も盛り込

む必要がある。SaaSプロバイダー側の過失でデータ

が破壊されたり、盗難されたりした場合についての責

任も明確にする必要がある。

 前出のKaplan氏はユーザー企業に対し、「SaaSプ

ロバイダーの倒産」という最悪のケースを想定して

SLAを取り交わすことを勧めている。「SaaSプロバイ

ダーが倒産した場合を想定し、ユーザー企業はアプ

リケーションのソースコードとデータを『エスクロー・プ

ロバイダー』(第三者の企業機関など)の元に保管する

よう要求すべきだ」(Kaplan氏)

 表1に、SLAを締結する際に最低限確認したい項

目を挙げた。

 もっとも、満足できるSLAを取り付けるには、ビジ

ネス・マネジャーが積極的に行動しなければならない。

Point 1

最悪の事態を想定してSLAの内容を決める 「SaaSを導入したのは、IT部門が抱えていたソフトウェアのメンテナンス/サポートにかかる負担を軽減し、より生産性の高い開発業務に集中できるようにするためだった。SLAの作成にはかなり手間を要したが、契約したSaaSプロバイダーとともに取り組んだ結果には非常に満足している」──こう語るのは、TSGでCIOを務めるダグラス・メネフィー(DouglasMenefee)氏である。 同氏によると、TSGが利用しているSaaSプロバイダーは大量のデータベースとネットワーク管理アプリケーションを所有し、十分な帯域幅と冗長性を備えているという。「彼らに保守管理業務を任せることで、われわれは提供されるアプリケーションやプラットフォームを自社のビジネス環境でどう活用すべきかに集中できる」(Menefee氏) 2年半ほど前、Menefee氏はSaaSを手がける米国Salesforce.comや米国PeopleSoft(現米国Oracle)、米国PeakeSoftwareらとSLAを交わしたという。 「契約を交わす際、SaaSプロバイダーに要求したのは、主にアップタイム保証、停電時の障害復旧といったビジネス・コンティニュイティと、システム内のデータ保護。それに顧客サポートのレスポンス・タイムだった」(Menefee氏) 同時にTSGは医療サービス企業という立場上、データの保護/保管に関する国の規制を順守しなければならない。そのため、SaaSプロバイダー各社と取り交わすSLAにも、そうした規制の順守が含まれる。例えば同氏がSalesforce.comと交わしているSLAの75%は、Salesforce.com側が確約する標準的な内容のもので、残り25%はTSG側が提示したカスタマイズ要件に関す

るものだという。 SaaSスイートには、多くの“可動部分”がある。そのため、既存のパッケージ・ソフトと比較すると、パフォーマンスが不安定になる要素は多い。この課題を解消するため、Menefee氏はトラブル・シューティングを担当する専門チームの設置を推奨している。 例えば、ホステッド・アプリケーションが、SaaSプロバイダーとは関係のない原因で誤作動したとしよう。原因はユーザー企業のPCにあるかもしれないし、その企業のネットワークにあるかもしれない。あるいはインターネット・サービス・プロバイダー(ISP)のトラブルか、インターネットのインフラ自体の可能性もある。これらが原因であれば、SaaSプロバイダーはお手上げである。このような事態を想定し、Menefee氏は次のような対応をすべきだとアドバイスする。 「問題の原因がどこにあるのかを明確に知るため、SaaSプロバイダーにサービスの提供状況を定期的に報告させること。同時に、独自のモニタリング・プロセスを設置することも重要だ。また、万が一に備え、事業の継続性が失われた際のアクション・プラン(行動計画)を立てておく必要がある」 幸いなことにTSGは、ホステッド・アプリケーションのパフォーマンスや可用性に関する深刻な問題に直面したことはなく、むしろメリットを感じることのほうが多いという。「ホステッド・アプリケーションのパフォーマンスとアップタイムは、社内ソリューションのそれをはるかに上回っている」(Menefee氏) それでもMenefee氏は、「SaaSにはSLAが必要不可欠だ」と主張する。TSGが利用しているホステッド・アプリケーションは、緊急医療スタッフや医療機関に向けて管理サービスを提供するという、同社の基幹業務を担っているからである。

Side Story

先進SaaSユーザー企業に学ぶ、SLAの     交わし方医療スタッフの派遣業務を手がける米国The Schumacher Group(TSG)は、適切なSLA(Service Level Agreement)の下、2年前にホステッド・アプリケーションを導入した。SaaS(Software as a Service)の導入に消極的な企業が多いなか、同社はホステッド・アプリケーションを積極的に活用している。その背景には、各SaaSプロバイダーと満足のいくSLAを締結しているという自信があるようだ。

かしこい

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P a r t 4 │ 失 敗 し な い S a a S 運 用 の 極 意 ── カ ギ を 握 る の は 「 S L A 」

August 2008 Computerworld 67

特集 スパイラルアップ![IT運用管理]

当然のことだが、SaaSプロバイダーから、“気前のよい”

サービス保証が提示されることはない。「SLAを結び

たいと顧客から申し出れば、それを拒むSaaSプロバ

イダーはいない。しかし、SLAがカバーする内容は、

あくまでプロバイダーの管理が及ぶ範囲に限られる」

と、Burton GroupのMaiwald氏はクギを刺す。

 実際、SaaSプロバイダーのコントロールが及ばな

い外部要因が、アプリケーションのパフォーマンスに

影響を及ぼすことはある。例えば、ユーザー企業側

のPCで利用しているセキュリティ・ソフトウェアの動

作や、ローカル・ネットワークの状況によって、アプリ

ケーションのパフォーマンスが低下する場合がある。

 とはいえSLAが重要であることは、ユーザー企業

とSaaSプロバイダーとの間で(少しずつではあるが)

浸透しつつあるという。専門家らは、「SLAが認知さ

れることで、SaaSの導入を考えている企業のIT管理

者やビジネス・マネジャーが抱く不安は取り除かれる

方向に向かうだろう」と見ている。

アプリケーション稼働のアップタイム(99.9%以上が望ましい)

メンテナンス目的のダウンタイム発生率

独自データセンターの有無

SaaSプロバイダーのアウトソーシング先の詳細

公認会計士協会などの監査頻度(監査を受けていないプロバイダーは論外)

アプリケーションで生成したデータの保証(損害賠償金額の明確化)

エスクロー・プロバイダーへのデータ・バックアップ

表1:SLAを作成する際にユーザー企業が(最低限)確認したい項目

Juan Carlos Perez  IDG News Serviceマイアミ支局

Point 2

ホステッド・アプリと自社運用アプリを見極める 当然のことながら、SaaS導入を検討する企業は、利用したいソフトウェアを審査する必要がある。 TSGが利用しているSalesforce.comのSaaSスイート「UnlimitedEdition」は、PeakeSoftwareの「Tangier」や、Oracleの「PeopleSoft」などのホステッド・アプリケーションとも統合されている。そしてデータ入力スタッフから上級管理者に至る約250人の社員が、それぞれの用途に必要な業務機能を利用している。 TSGには、SaaSが利用可能であっても、あえて自社で運用管理しているアプリケーションが複数ある。米国GEHealthcareが提供する請求書発行アプリケーションの「CentricityBusiness」がその1つだ。 同アプリケーションを自社で運用している理由について、Menefee氏は「CentricityBusinessがその他のアプリケーションと密接に統合されていること、そして、同アプリケーションを購入した当時、GEHealthcareが将来的にホステッド・サービスを提供することを視野に入れていたことに私が気づかなかったからだ」と語る。 同様に、TSGでは米国HylandSoftwareの文書管理ソフトウェア「OnBase」も社内で運用している。同ソフトウェアの場合、容量の大きい画像をやり取りすることから、社内サーバで運用しなければ、帯域幅の制約を受けるおそれがあるからだという。 TSGはこれらに加えて、米国Microsoftのサーバ・ソフトウェア群も社内で運用している。「ExchangeServer」は、Microsoftのパートナー企業からホステッド・サービスとして提供されているが、TSGはExchangeServerを自社で運用している。 これは、ExchangeServerのホステッド・サービスが提供される前から同ソフトを自社運用していたため、ホステッド版ExchangeServerへの切り替えは、かえってコスト高になると判断したためだ。

 Menefee氏によると、TSGが要求する保証、法令順守、監査といった各種項目に応じられないSaaSプロバイダーとは一切契約を交わさない方針だという。 「SaaSプロバイダーとの交渉はタフな作業だが、最終的にはTSG側の要求をすべて網羅したSLAを交わしている。確かにホステッド環境には不便な部分もある。だが、適切なSLAを交わすことで、結果的にはメリットのほうが大きくなると考えている」

米国The Schumacher Group(TSG)のWebサイト(http://schumachergroup.com/)

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Computerworld August 200868

P a r t 4 │ 失 敗 し な い S a a S 運 用 の 極 意 ── カ ギ を 握 る の は 「 S L A 」

大規模企業の本格参入がSLAレベルを引き上げる

 SaaSにおけるSLAの課題は、多くの大規模企業

がSaaSを積極的に導入することで、徐々に解消され

る可能性がある。

 米国のForrester Researchでアナリストを務める

リズ・ハーバート(Liz Herbert)氏によると、これまで

SaaSの導入を小規模な事業部門や部署ごとに限定

してきた大規模企業が、最近その範囲を広げ、全社

的に導入する傾向にあるという。その結果、ソフトウェ

ア購入の経験がほとんどないビジネス・マネジャーが

SaaSプロバイダーとの交渉を行うようになり、現在

ではIT部門や資材調達部門も巻き込んで、ユーザー

企業にとって好条件の保証をSaaSプロバイダーから

勝ち取っているというのだ。

 ホステッド・アプリケーションを導入する大規模企

業向けのコンサルティングを行っている米国Bluewolf

の 共同 創 設 者 であるエリック・ベリッジ(Eric

Berridge)氏は、「SaaSプロバイダーが本腰を入れて

エンタープライズ市場に参入しようとすれば、『説得

力のないSLAは通用しない』というユーザー企業の

声を無視できなくなる」と指摘し、次のような見解を

示す。

 「Google Appsが大規模な企業ユーザーを獲得す

るためには、SLAのカバー範囲をGmail以外にも広

げる必要がある。Google Appsは大規模企業を対象

にするサービスとしては、12カ月~ 24カ月遅れている」

 ちなみに、BluewolfもGoogle Appsを導入してい

るGoogleのパートナー・ベンダーである。

 企業の間でSaaS(SoftwareasaService)が急速に普及している実態が、米国の調査会社KeltonResearchの調査により明らかになった。同調査によると、大企業の約73%がすでにSaaSを導入しているか、もしくは18カ月以内に導入する予定だという。 同調査は、フォーチュン500企業の幹部約100名を対象に行われた。回答者はIT関連のバックグラウンドを持つ人が大半であったが、中には一般的なビジネス部門出身者も含まれていたと、同調査を主導したKeltonResearchのエグゼクティブ・ディレクター、ネイサン・リヒター(NathanRichter)氏は説明した。 IT部門出身と非IT部門出身の幹部の間に回答の違いがさほど見られなかったことから、SaaSが企業におけるIT利用のあり方を大きく変化させていると、Richter氏は指摘している。すなわち、SaaSに詳しいIT部門に限らず、あらゆる部門が何らかのアプリケーションやテクノロジーを採用する際に、自主的にSaaSでの導入を選択しつつあるのだという。 米国のコンサルティング会社AcumenSolutionsのCMO(最高マーケティング責任者)、ドニタ・プラカシュ(DonitaPrakash)氏は、「2年前、SaaSはまだ世に出たばかりだったが、今では業務ソフトウェアを自前で運用する代わりに、SaaSを採用する企業が増えている」と語った。 Prakash氏によると、SaaSで導入されるソフトウェアの大半がCRM製品であるという。米国Salesforce.comのオンデマンドCRM「Salesforce」は、その代表的な製品だ。一方、最近Salesforceとの連携強化を図った「GoogleApps」に代表される生産性ソフトウェア(アプリケーション・スイート)に関しては、比較的ゆっくりと導入が進んでいるという。 企業は従来、時間とともに減価償却される一度限りのコストを支払ってソ

フトウェアを購入してきた。しかし、SaaSは基本的に1カ月もしくは1年分のソフトウェア使用料金を支払う「サブスクリプション方式」を採っている。調査結果によると、ソフトウェアのサブスクリプション購入に抵抗があるとした回答者は21%ほどで、企業のほとんどがサブスクリプション・モデルに不安を感じていないことが明らかになった。 また調査結果は、SaaSの爆発的な普及を促した主要因として、ベンダーが製品を市場投入するまでの時間を短縮できる点と、投入した製品のメンテナンスが簡単である点を挙げている。SaaSであれば、ソフトウェアを提供するベンダーは、アップデートを滞りなく行うことができる。IT部門やユーザー自身が手作業でアップグレードをしなければならない「インストール方式」のソフトウェアとは、この点が大きく異なる。 さらに、価格の安さもSaaSの普及に大きく貢献したと、Keltonは分析する。同社によると、サブスクリプション方式を採るSaaS製品の大部分は、インストール方式の製品より安価だという。SaaSにおいては、社員がソフトウェアを使った分だけ料金を支払えばよいうえに、社員がソフトウェアを使わなくなった場合、管理者はいつでもサブスクリプション(および支払い)を止めることができるのだ。 とは言え、SaaS導入にあたって企業が不安と考える点もあるようだ。調査結果によると、すでにインストールして使用している業務用アプリケーションと、SaaSで導入した製品がきちんと統合されるかどうかを懸念する回答者が、およそ半数(56%)に上った。また、SaaSを利用する場合、SaaSプロバイダー側で顧客のデータをホスティングするのが一般的であるため、自社のファイアウォールに守られていないデータの安全性を心配する声も多かった(62%)。

Side Story

大企業の7割がSaaSを選択──フォーチュン500企業の幹部100名への調査で判明

C.G. Lynch  CIO米国版

Page 51: Computerworld.JP Aug, 2008

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August 2008 Computerworld 69

特集 スパイラルアップ![IT運用管理]

 すでにSaaSの利用が始まっているのは、オフィス・

アプリケーション、メール、CRM、プロジェクト管理、

人事業務といった分野のアプリケーションである。一

方、株式取引システムやPOSシステムなど、ダウンタ

イムが命取りになるようなバックエンドの基幹アプリ

ケーションには、あまり利用されていない。将来的に

SaaSがこうした基幹アプリケーション分野で利用さ

れ るようにな れ ば、SLAも 充 実 するは ず だ。

Berridge氏は、「SaaSが基幹アプリケーション分野

に本格的に進出すれば、まったく新しいタイプの

SLAが登場するだろう」と述べている。

 Kaplan氏も、「SaaSプロバイダーにとって高い収

益率を期待できるユーザー企業からの要望や、SaaS

プロバイダーどうしの競争、そして機能やサービスの

追加が容易であるというホステッド・アプリケーション

の特性が、SaaS市場を進化させるだろう」と語る。

稼働性100%を保証するSaaSプロバイダーも登場

 このような状況のなか、積極的にSLAの内容を充

実させるよう取り組んでいるSaaSプロバイダーもある。

 小規模企業向けに電子メール・ホスティング・サー

ビスを提供している米国Mailtrustでは、100%のアッ

プタイム保証を行っている(画面3)。同社で社長を務

めるパット・マシューズ(Pat Matthews)氏は、「ダウン

タイムは決して容認されるものでないことを、皆に知っ

てほしい」と話す。

 マネージド・ホスティング・ベンダーの米国Rack

spaceを親会社に持つMailtrustは、顧客を囲い込む

長期契約ではなく、月間ベースで契約を更新する形

態を採用している。このため、同社のサービスに満足

できない顧客は、1カ月以内に契約を打ち切ることが

できる。もちろん、ペナルティ(契約解除金)を支払う

必要はない。

 さらにMailtrustは、本来はユーザー企業が行うべ

きトラブル・シューティングやアプリケーション診断に

ついても支援している。「トラブル・シューティングやア

プリケーション診断は、サービスの1つだと考えている。

問題が顧客やサード・ベンダーに起因していたとしても、

彼らのせいにしないよう問題解決に尽力している。結

果として顧客が喜んでくれれば、それでよい」

(Matthews氏)。ちなみにオンライン・サービス・レベル

を調査する米国RealMetrics.comによると、Mailtrust

のアップタイムは99.997%に達しているという。

 一方、米国OpSourceが提供している「OpSource

On‐Demand」サービスでは、サーバのアップタイムと

ともに、顧客に提供するアプリケーションの可用性/

稼働性を100%保証している。

 同社は、ソフトウェア・ベンダーが自社のソフトを

SaaS化するのを支援するサービスを提供しているベ

ンダーである。同社でCMO(最高マーケティング責任

者)を務めるリチャード・ディム(Richard Dym)氏は、

「顧客の時間をむだにしないことが、サービス提供の

最重要事項であると判断し、アプリケーションの可用

性/稼働性の100%保証に踏み切った」と語る。ちな

みにOpSourceの顧客には、米国BMC Softwareや

米国Business Objectsが名を連ねている。

 Dym氏は、SaaS市場全体がSLA策定の方向に向

かっていると指摘する。

 「SLAの概念が、SaaSビジネスにもようやく浸透

し始めた」(Dym氏)

画面3:米国Mailtrustは100%のアップタイム保証を行っている数少ないSaaSプロバイダーだ

(http://www.mailtrust.com/)

Page 52: Computerworld.JP Aug, 2008

Computerworld August 200870

では、従業員は自身が使うPCに対してすべての責任

を負うことになる。つまり、業務の最適化を図るのに

必要なハードウェア/ソフトウェアの選択とその設定、

管理、さらにはサポートに至るまでを従業員みずから

が行うのである。

 こうしたPCのセルフ管理モデルに価値を見いだし

ているのは、GoogleとBPだけではない。

 「これこそ、長い間探し求めていた“答え”だと言え

る」と話すのは、米国メイン州の情報技術局でシステ

ム部長を務めるグレン・エンジェル(Glenn Angell)氏

だ。メイン州では、何らかの規則を設けてPCのセル

フ管理を実施しているわけではないが、同氏は自分が

閲覧できる形式でデータを渡してくれるのであれば、

職員たちがオフィス・スイートに何を使おうと、どのア

プリケーションで図表やグラフを作成しようと、まっ

たくかまわないと述べている。

 米国の某大手地方銀行でマネジメント・リポーティ

ング担当バイスプレジデントを務めるリチャード・レズ

ニック(Richard Resnick)氏も、次のように語っている。

「IT部門はユーザーを制限するポリシーを何かと策定

しようとするが、多くの場合それらは、『重要なデータ

セルフ管理モデルに価値を見いだす企業が続々と

「ユーザーが使用するPCはユーザー自身が選び、管理すべきである」 これは、まともなCTOであれば直ちに却下してし

まうような過激な意見に聞こえるかもしれない。だが、

ちょっと待っていただきたい。「IT部門は、ユーザー

が使用するPCやモバイル・デバイスを指定すべきで

はないし、場合によっては管理すべきでもない」という

考え方は、一部の企業が実際に採用している、ある

いは検討しているポリシーである。

 検索最大手の米国Googleは、「choice, not cont

rol」(束縛せず、選択肢を与えよ)というポリシーの下、

社内ツールを介して提示する選択肢の中から、使用

するハードウェアとアプリケーションをユーザー自身に

選ばせている。また、英国の石油会社大手BP(画面1)も同様の施策を試験的に実施しており、みずからが

使用するPCおよびモバイル・デバイスを選択、購入

するための予算をユーザーに与えている。

 このWeb 2.0的なセルフサービス・アプローチの下

管理者はエンドユーザー

IT部門が管理する従来型のPC管理モデルを見直し、従業員みずからがPCを管理する「セルフ管理モデル」の導入機運が徐々に高まっている。すでに米国Googleがこのモデルを導入しているほか、英国の石油大手BPも試験運用を開始している。なぜ今、自社のPC管理モデルを企業は見直し始めているのか──。本パートでは、PCのセルフ管理モデルへと企業を突き動かす背景やそのメリットを解説していく。もちろん、セルフ管理だからといってIT部門がPCを管理しなくてよいというわけではないし、それなりのリスクもある。それでもなお、セルフ管理モデルを導入・検討する企業の考えを知り、自社のPC管理モデルがベストかどうかを見直す際の参考にしていただきたい。

Tom SullivanInfoWorld米国版

「マイPC・セルフ管理」の時代

Part

5

Page 53: Computerworld.JP Aug, 2008

August 2008 Computerworld 71

特集 スパイラルアップ![IT運用管理]

の取り扱いをユーザーにゆだねることなどできない』と

いうまちがった信念に基づいて行われている。だが実

際のところ、ユーザーを縛るようなポリシーは必ずし

も必要ではない。(プロフェッショナルである)従業員

に、データ処理に必要なデバイスに対して責任を持

たせれば、企業は時間と予算の両方を節約できるの

だから」

セルフ管理がもたらすメリット

 多くの企業で採用されている、ほぼすべての従業

員に同じPCを支給するというアプローチは、極端に

言えば、高いPCスキルを備えたナレッジ・ワーカーの

生産性をテクノロジー嫌いのユーザーと同レベルにま

で低下させることにつながる。また、PCのサポート業

務はIT部門にとって大きな負担となっているほか、

ヘルプデスクは予算全体の相当な部分を占めており、

多くのIT部門は景気の後退を受けて経費節減を求め

られている。加えて、多くのITプロフェッショナルに

とって、ヘルプデスク業務がおもしろみに欠ける仕事

であることは周知の事実である。

 IT部門にとってPCのセルフ管理は、サポート・コ

ストを削減し、ヘルプデスクへの些末な問い合わせを

大幅に削減できるという明確な利点がある。そして当

然のことながら、ユーザーに対してPCのトレーニング

を実施する必要もなくなる。PCのトレーニングには、

ある種の失敗やまちがいがつきものであり、それらが

原因となって実施する側と受ける側の双方が不快な

経験をすることが少なくない。

 また遠隔地にいる従業員の多くは、「そうせざるをえ

ない」という必然的な理由から、すでにPCのセルフ管

理を実践している。みずからの手に負えない問題もあ

るだろうが、彼らにしてみれば、自社のヘルプデスク

に問い合わせることと、ハードウェア/ソフトウェア・

ベンダーに問い合わせることに大きな違いがあるわけ

ではない。加えて多くの従業員は、ネットワークへの

接続、アプリケーションのインストール、無線LANや

共有プリンタの設定といった基本事項はマスターして

いる。

 Resnick氏は、従業員の自由を認めることは彼らの

生産性を向上させるだけでなく、それ以外の面でも組

織への貢献度を高めることにつながると話す。「こうし

た施策を打ち出すことは、“敵対者”や“必要悪”などで

はなく、ナレッジ・ワーカーを管理職層がパートナーと

見なしているという明確な意思表示になる。そのため、

仕事に対する従業員のモチベーションを高め、従業

員個人と組織の目標をリンクさせることにつながる。

企業にとってこれは、非常に大切なことであるはずだ」

 GoogleのCIOであるダグラス・メリル(Douglas

Merrill)氏も、「従業員が使用するハードウェアは、

従業員自身に選ばせるべきだ。Googleの『choice,

not control』ポリシーには、自分たちこそが自社の業

務の担い手であり、必要不可欠な存在であると従業

員に自覚させる効果がある」と説明する。

 また、PCは標準化が進む一方であり、メーカーご

との違いはほとんどなくなってきている。したがって、

ユーザーがPCをセルフ管理することは、今後さらに

容易になっていくはずである。Resnick氏は、「結局の

ところ、今日のIT部門は“PC”というテクノロジーへ

の関心を失っているのだ。PCを利用して組織の成長

画面1:英国の石油大手BPは、「Digital Allowance」というPCセルフ管理のパイロット・プログラムにより、最大で年間2億ドルのITサポート・コストの削減を見込んでいる

Page 54: Computerworld.JP Aug, 2008

Computerworld August 200872

P a r t 5 │「 マ イ P C ・ セ ル フ 管 理 」 の 時 代

を手助けしようとするのではなく、それがもたらすリス

クを抑え込むことばかり考えるようになっている」と指

摘している。

PCの機種ではなく、“選択基準”がより重要に

 使用するPCをユーザー自身で購入・管理させると

いう思い切った施策を実施している企業は、これまで

ほとんど存在しなかった。だがその状況も、徐々に変

わりつつあるのかもしれない。ここまで述べてきたよう

に、Googleは全社的にこの施策を採用しており、BP

も試験運用を開始している。

 Googleでは、その名も「Stuff」という社内ツールを

介して、10数種類あるPCの中から従業員が自分の

好みに合ったPCを選べる体制を整備している。OS

についてもWindows、Mac、Linuxを選択できる。ハー

ドウェアを選択する際の9割ほどはStuffを介して行

われるが、Stuffが提示するPCの中から選ぶ必要が

あるわけではない。Merrill氏によると、より“奇抜”な

ハードウェア/ソフトウェア構成を選択可能な仕組み

も用意しているという。

 ベンダーを1社に絞ってPCを大量に調達したほう

が1台当たりのコストは安く済むはずなのだが、

Merrill氏は、「ビジネス的にデメリットはないし、むし

ろ生産性という面でメリットがある。このモデルを採

用したことで、従業員の生産性はまちがいなく向上し

ており、IT部門のスリム化にも貢献している」と話す。

 BPの場合、使用するツールを従業員に選ばせ、

外部のヘルプデスク・サービスにサポート業務を委託

する「Digital Allowance」というパイロット・プログラ

ムにより、最大で年間2億ドルのITサポート・コストの

削減を見込んでいる。ただし、このプログラムは、技

術スキルの高い従業員(BPの広報担当者いわく、10

万人以上いる従業員のうち“ギーク寄り”の人々)向け

の内容になっているという。

 米国の調査会社Gartnerは、最近発表したリポー

トにおいて、「IT部門が購入するソフトウェア/ハード

ウェア/サービスの半数は、2010年までにエンドユー

ザーの意向を反映したものになる」と述べている。そ

して、「Webブラウザというインタフェースが至るとこ

ろで使用されるようになった現在、コンピューティン

グが非常に身近なものとなっており、結果として個

人/ビジネス用途を問わず、ユーザーが使用するテク

ノロジーはユーザーみずからが選ぶようになっている」

と記している。

 米国の調査会社Institute for Applied Network

Security(IANS)のアナリスト、アラン・ケアリー(Allan

Carey)氏は、「今日、テクノロジーにユーザーが関与

する度合いは、かつてないほど高まっている。これは、

使用するノートPCやモバイル・デバイスをユーザー自

身が自由に選択するというレベルにまで達している」と

語る。

 「こうした動きは“Consumerization of IT”(消費者

向け技術の企業利用)の事例の1つであり、IT部門は

今後、どのようなPCを従業員が使うか心配するので

はなく、彼らがPCを選ぶときに従うべき基準やポリ

シーを策定することが重要になってくる」(Carey氏)

Webアプリと仮想化を利用してセルフ管理を実現へ

 従業員がPCをセルフ管理することに会社側が前向

きだとしても、セキュリティ面やデータの管理など、

IT部門が引き続き関与すべきことは山ほどある。

 前述したメイン州の情報技術局に勤務するAngell

氏は、次のように話している。「ほとんどのケースでは、

アンチウイルス製品やスパム/フィッシング・フィルタ

の適用など、従業員が使うPCに対して基本的なセ

キュリティ基準を定めることになるだろう。これらのソ

フトウェアを会社が提供したり、あるいは企業ネット

ワークに従業員が接続したときに、ソフトウェアがき

ちんと動作しているかどうかをチェックしたりできるシ

ステムを導入する必要がある」

 またAngell氏は、「会社のデータは、会社の所有物

として適切に管理する必要がある。そのため、データ

を扱うアプリケーションは、Webアプリケーションとし

て提供するか、あるいはCitrixのような仮想化技術

Page 55: Computerworld.JP Aug, 2008

P a r t 5 │「 マ イ P C ・ セ ル フ 管 理 」 の 時 代

August 2008 Computerworld 73

特集 スパイラルアップ![IT運用管理]

を利用したプラットフォーム上で運用するといった対

応が必要となる。こうしたシステムを利用すれば、従

業員のPCへ個別にソフトウェアをインストールする手

間が省け、会社側がデータへのアクセスをコントロー

ルすることも可能だ。Webアプリケーションが進化し

た現在なら、こうしたことが容易に行える」と語る。

 GoogleのMerrill氏によれば、データ管理とセキュ

リティ対策のためにWebアプリケーションを利用する

アプローチは、Googleがすでに採用しているモデル

であるという。Googleの従業員は、利用しているPC

の機種に関係なく、全員が「Google Apps」を使って

いる。そのため、すべての企業データはGoogleのサー

バに保存されることになる。そしてこのことは、ノート

PCの盗難といった情報漏洩問題から会社を守ること

にもつながっている。「エンドポイント・セキュリティが

万全に機能することなど、まず期待できない。実際、

エンドポイントに起因するセキュリティ問題は増え続

けており、もしエンドポイント・セキュリティが機能し

ているのなら、そのようなことは起こらないはずだ。だ

から個人的には、エンドポイント・セキュリティが重要

だという意見には説得力を感じない」(Merrill氏)

 とは言え、Googleもセキュリティとコンプライアン

スに影響する不審な振る舞いを検知するために、モ

ニタリング・システムをITインフラに数多く組み込ん

でいる。「この点に関してわれわれに選択の余地はな

い。Googleはさまざまなコンプライアンス関連法の対

象となっており、例えば社内に医師がいるために

HIPAA法(Health Insurance Portability and

Accountability Act:医療保険の相互運用性と説明

責任に関する法律)を順守しなければならない。ただ

し、セキュリティとコンプライアンスのコントロールは

バックグラウンドで行われており、ユーザーはその存

在を意識せずに済むようになっている」(Merrill氏)

 セルフ管理モデルを支援するWebアプリケーション

以外のテクノロジーとしては、デスクトップ仮想化技

術が挙げられる。デスクトップ仮想化を利用すれば、

IT部門が用意したOS /アプリケーションの標準構成

を基本レイヤとしながら、それとは別のレイヤでユー

ザーはアプリケーションを自由に使用できる。そのた

め、基本レイヤでのマルウェア感染やデータの破損を

防止することが可能だ。大手地銀に務めるResnick

氏は、「デスクトップ仮想化では、規定外のソフトウェ

アを使用したり、個人的な電子メールを送受信したり

するといった作業は、仮想化環境の外側で行うこと

になる。このことは、セキュリティ要件を満たしつつ、

最新のテクノロジーを活用して従業員の利便性を向

上させるという合理的な妥協策だと言える」と述べて

いる。

 Merrill氏は、PCのセルフ管理モデルをすでに確

立している側の意見として、その導入を検討している

企業に対し、次のように助言している(図1)。「(セルフ

管理モデルの確立に向けて)なすべきことは3つある。

1つ目は、自動化できるものはすべて自動化すること。

2つ目は、自動化は『クラウド』の中で行うこと。そして

3つ目は、スキルの高いサポート・スタッフを集めるこ

とだ。Googleのサポート・スタッフは心から仕事を楽

しんでいる。それゆえ、有能な人材が集まりやすく、

さらに自動化を推進できる環境にもなっている」

業種によっては適さず、セキュリティ面にはやはり不安も

 もちろん、あらゆるタイプの企業がPCのセルフ管

理モデルに向いているわけではない。このモデルの導

入に取り組んでいる企業は、自宅にもPCを所有し、

1 自動化できるものはすべて自動化せよ

2 自動化は「クラウド」の中で実行せよ

3 高いスキルを持ったサポート・スタッフを集めよ

図1:Google的セルフ管理を成功に導く3カ条

Page 56: Computerworld.JP Aug, 2008

Computerworld August 200874

P a r t 5 │「 マ イ P C ・ セ ル フ 管 理 」 の 時 代

ある程度の技術スキルがあるホワイトカラーを対象に

していることが多い。対照的に、コールセンターはPC

のセルフ管理には適していない。保険会社の証券管

理や、製造現場、病院など、作業内容が定型化され

ている業務で使用されるPCも同様にセルフ管理に不

向きである。

 米国Forrester Researchの主席アナリスト、マット・

ブラウン(Matt Brown)氏も、「セキュリティやコンプラ

イアンス、高い可用性が求められる分野では、PCの

セルフ管理モデルは適さない」と述べている。セルフ

管理モデルが内包する問題点を指摘するのはBrown

氏だけではない。

 キャンペーン・プロモーション・サイト、YouChoose.

netのCTOであるジョン・クイレン(John Quillen)氏は、

次のような懸念を示している。「長期的に見た場合、

セルフ管理モデルは、従来モデルよりもコスト高にな

り、既存の問題の解決以上に新たな問題を生み出す

ことになるのではないだろうか。また、ネットワーク/

プリンタ/ソフトウェア/ドキュメントなどを介した相

互運用性やウイルスの問題、そして企業の知的財産

が個人のPCに保存されるといったことは、やはり懸

念される点だ」

新社会人にとってセルフ管理はもはやあたりまえ

 しかし、YouChoose.netのQuillen氏は、会社に

は無断で個人的にセルフ管理モデルを実践している

という。「前言と矛盾するようだが、わたしも私物の

MacBook Proを実は仕事で使い始めている。ほかの

役員は全員、Windowsユーザーなのだが…」と

Quillen氏。

 実際、Quillen氏のようなケースは増えてきており、

ForresterのBrown氏も、「常時利用する企業アプリ

ケーションは電子メールだけだからと、企業環境では

あまり一般的でないAppleのノートPCを使用するエ

グゼクティブが増えているように感じる」と話している

(写真1)。 多くのPC管理者が認めているように、許可を得て

いるかどうかを問わず、PCをセルフ管理しているアウ

トロー的ユーザーは多かれ少なかれ社内に存在するも

のだ。さらに、ここ数年の間に入社した新社会人やそ

れに続く世代は、PCのセルフ管理にすでにかなり慣

れている。そのため、「PCをセルフ管理できるほどの

知識がない」ということを理由に企業がセルフ管理を

認めないのは、今後ますます難しくなっていくことだ

ろう。

 「最近の新社会人たちは、以前の世代とは異なり、

自分たちが使うテクノロジーを適切に評価・選択・管

理できるだけの知識をすでに持ち合わせている。彼ら

は、Webサイト上で便利そうなツールを見つけてはイ

ンストールし、日々作業効率を向上させている。その

手際のよさにはいつも感心させられるばかりだ」

(Brown氏)

写真1:YouChoose.netのJohn Quillen氏は、私物のMacBook Proを仕事で使っており、PCのセルフ管理に否定的な立場を取りながらも、実はそれを実践している。実際、Quillen氏のようなケースは増加傾向にあるようだ(写真はMacBook Pro)

Page 57: Computerworld.JP Aug, 2008

August 2008 Computerworld 75

WebSAM Ver.7のサービス・レベル管理におけるサービス・コール画面

●統合システム運用管理ソフトウェア

WebSAM Ver.7 NEC

Part

6 Product Review[IT運用管理] Computerworld編集部

Spec Sheet製品名 WebSAMVer.7開発元 NEC稼働環境 要問い合わせ価格 要問い合わせURL http://www.nec.co.jp/middle/WebSAM/

ITシステムの全体統制を支援する統合運用管理ソフトウェア NECの「WebSAM Ver.7」は、企業のITシステム

に関わる全体統制を支援する統合運用管理ソフト

ウェアである。同製品は「コーポレート・マネジメント」

「オペレーション・マネジメント」「システム・マネジメント」

という3つの視点から統合管理が進められるように構

成されている。この3領域は、目的別にさらに細かく

分類されており、各企業が目指している全体統制の

方向性に即した、きめ細かな製品選択が可能である。

 昨今ではITシステムの複雑化が著しいため、それ

らを確実に統合し、適切な運用管理を行うにはソフト

ウェアがシンプルでなければならないとの考えから、

NECは、WebSAM Ver.7の開発コンセプトとして、「シ

ンプルさ」を掲げている。

シンプルな管理で確実な全体統制を実現 3つの視点のうちのコーポレート・マネジメントでは、

企業全体にかかわるITシステムの統合管理、NECが

蓄積してきたナレッジの提供による適切なシステム運

用の支援、運用履歴の記録/監視による統制強化な

どが進められる。具体的な製品には、統合管理、サー

ビス・レベル管理、資産管理、IT全般統制支援がある。

例えば、統合管理では、企業内に散在する各サーバ

の稼働状況や、異なるプラットフォーム/OSで構成

されるシステムなどを1つのコンソールから一元監視・

管理することが可能になる。このように、統合管理が

シンプルに行えることで、確実に全体統制が進められ

ると共に、システム管理者の作業の軽減やコスト削減

も実現する。

 オペレーション・マネジメントでは、人手がかかわる

ことによる運用リスクを減らすためのシステムの自動

化や、ITリソースを有効活用するためのリソース最適

化などが進められる。具体的な製品には、ジョブ管理、

バックアップ・アーカイブ、ソフトウェア配布、プラッ

トフォーム管理がある。例えば、ジョブ管理を利用す

れば、ルーチン・ワークとなっている定型業務やバッ

チ処理などを自動化できる。そのため作業が効率化

され、作業ミスの低減も期待できる。この製品にはまた、

帳票の設計から電子保存までをシンプルかつ確実に

遂行するための機能もあり、企業活動にとって重要

な帳票運用業務をトータルでサポートする。

 システム・マネジメントでは、ITシステムを構成す

るコンポーネントの現状とリスクの監視が進められる

と共に、ITシステムの迅速な状況把握を支援する快

適な操作環境が提供される。具体的な製品には、サー

バ管理、ストレージ管理、ネットワーク管理、アプリケー

ション管理がある。例えば、サーバ管理では、企業

内に散在するマルチ・プラットフォーム環境のサーバ

の監視、電源やリブートの制御などを、同一操作で

シンプルに行うことを可能にする。サーバの構成情報・

性能情報・障害情報を一元管理することで、サーバ

の状態を安定して保つことができ、分散するサーバの

集中統合管理が実現する。

Page 58: Computerworld.JP Aug, 2008

Computerworld August 200876

P a r t 6 │ P r o d u c t R e v i e w [ I T 運 用 管 理 ]

●統合システム運用管理ソフトウェア

JP1 Version 8 日立製作所

システムの効率的な運用/監視でサービス品質とROIの向上を実現 日立製作所の「JP1 Version 8(V8.5)」(以下、JP1

V8.5)は、ITシステムの運用と監視を効率化させるこ

とでサービスの品質を高め、ROI(投資利益率)の向

上へとつなげる統合システム運用管理ソフトウェアで

ある。同製品は、「モニタリング」「オートメーション」「IT

コンプライアンス」「ファウンデーション」の4つのカテゴ

リーから構成されており、企業ごとの目的に合った運

用管理を支援する。

 モニタリングでは、ITシステム全体の稼働状況を

監視することで業務の統制を進める。具体的には、

部署間を行き来する業務の作業状況を監視し、作業

手順の未整備な部分を洗い出すことで、リスクが軽

減される。これにより、ITILに沿った運用プロセス

の統制が実現することになる。

 オートメーションでは、日々の業務を自動化するこ

とで人為的ミスを軽減し、ITシステムの適正な運用

を進める。具体的には、社内ポリシーやスケジュール

に基づく業務の自動化により、ポリシー違反や作業遅

延の回避が可能となる。また、チェックの自動化によっ

て、問題発生時に即座に処理を中止できるなど、リス

クを回避できるようになる。

 ITコンプライアンスでは、資産情報を集中管理す

ることでセキュリティ・ポリシー、法令、規則に基づく

内部統制の強化を進める。具体的には、不正ソフト

や不正PCの使用、社内PCの社外への持ち出しなど

をシステムとして禁止することでクライアントPCの統

制が実現する。また、システム内のソフトウェア/ハー

ドウェアに関する変更履歴、活動履歴の記録と管理

により不正回避や容易な監査が実現する。

 ファウンデーションでは、システム内のハードウェ

アを監視/管理することで、安定して業務を遂行で

きるようになる。具体的には、ネットワーク、ストレージ、

サーバを一元管理することで業務が効率化されるとと

もに、障害時における迅速対応が可能になる。

グリーンITおよび内部統制への対応を踏まえた機能強化を実施 JP1 V8.5のもう1つの特徴は、「グリーンIT対応」と

「内部統制対応」を踏まえた機能強化を図っている点

である。

 JP1 V8.5におけるグリーンIT対応は省電力に主眼

を置き、オフィスにおけるPCの省電力管理と、マシ

ン室/データセンターにおける省電力運用の2つを

テーマに機能強化を行っている。

 一方、内部統制対応については、従来より提供し

てきたITILサービスデスクや監査証跡管理機能を中

心に、簡単導入/自動化/見える化の観点から機能

強化を図っている。具体的には、ポリシー・ベースの

案件優先度/作業期限の自動設定や、案件対応状

況の時系列表示による作業履歴の見える化などが可

能になっている。

JP1 V8.5のITシステム監視画面(状況管理機能)

Spec Sheet製品名 JP1Version8開発元 日立製作所稼働環境 Windows、Linux、HP-UX、AIX、Solaris価格 要問い合わせURL http://www.hitachi.co.jp/jp1/

Page 59: Computerworld.JP Aug, 2008

P a r t 6 │ P r o d u c t R e v i e w [ I T 運 用 管 理 ]

August 2008 Computerworld 77

特集 スパイラルアップ![IT運用管理]

●統合システム運用管理ソフトウェア

Systemwalker V13 富士通

を提供する「Systemwalker Centric Manager V13」

において、各種アクセス・ログを自動取得する機能が

用意されている。この機能により、リアルタイムにセ

キュリティ違反を検出し、その違反を追跡することが

可能となる。

各種システムの一元管理でITILプロセスの構築を支援 さらにCentric Managerにおいては、各種システ

ムをグループ単位で監視することが可能になってい

る。障害が発生したときにはサーバやノードといった

単位でドリルダウンして表示することができ、障害の

発生元を管理画面上のアイコンで迅速に特定するこ

とができる。

 また、同製品では、プラグインを組み込むことで、

さまざまなミドルウェアの管理コンソールを統合する

ことができる。これにより、すでに構築してある監視

イベント取得の仕組みを一元化して管理することが可

能になる。

 加えて、パッチ情報の自動収集機能が提供される。

これらをはじめとする一連の機能群により、System

walker V13では、変更管理などのITILプロセスの

構築を支援する。

「PSM」コンセプトに基づきポリシー・ベースの運用管理を実現 富士通の「Systemwalker V13」は、コンプライアン

ス強化を支援するために、情報セキュリティ対策と

ITILプロセスの導入に主眼を置いた統合運用管理ソ

フトウェアである。同社が「PSM(Policy-based

Systems Management)」と呼ぶコンセプトを軸に、企

業ごとのポリシーに基づいた情報システムの運用管理

の実施を図る。

 PSMについて同社は、ITILをベースに「安定稼働」

「変化への即応」「統制された運用」を可能とする考え

方としている。このPSMを軸として、Systemwalker

V13では、構成する製品群を「サービス管理」「リソー

ス管理」「エンタープライズ管理」という3カテゴリーに

分類してラインアップしており、クライアントPCから

サーバ、ネットワークまでを含めたトータルな運用管

理を可能とする。

現行のV13ではファイル単位のアクセス制御が可能に 現行バージョンであるV13の特徴としては、ファイ

ル単位のアクセス制御によって情報漏洩を防ぐ

「Systemwalker Desktop Rights Master V13」が追

加されたことが挙げられる。同製品では、Office文書

やPDFなどのフォーマットのファイルごとにアクセス

制御を行うことができ、個々のファイルに対して、利

用できるユーザー、印刷の可否、ファイルの有効期

限といった設定が可能になっている。対象となった

ファイルには暗号化が施されているため、社外に流出

したときでも情報漏洩を防ぐことができる。

 また、ソフトウェアやネットワークの集中監視画面

Systemwalker V13が実現するPSMの概念図

ビジネス層

サービス層

ミドルウェア層

ハードウェア層

サービス管理

リソース管理

エンタープライズ管理

ポリシー

Spec Sheet製品名 SystemwalkerV13開発元 富士通稼働環境 要問い合わせ価格 要問い合わせURL http://systemwalker.fujitsu.com/jp/

Page 60: Computerworld.JP Aug, 2008

Computerworld August 200878

P a r t 6 │ P r o d u c t R e v i e w [ I T 運 用 管 理 ]

●統合システム運用管理ソフトウェア

System Center マイクロソフト

のソフトウェアで、従来の「Microsoft Operations

Manager 2005」の後継製品にあたる。

 旧バージョンが個々のサーバの状態監視に重点を

置いていたのに対して、Operations Manager 2007

では、分散アプリケーションの監視にも配慮されてい

る。具体的には、分散アプリケーションをサービスと

してモデル化する機能が提供され、定義されたモデ

ルの監視という形で分散環境への対応を可能として

いる。サービス・モデルの定義には分散アプリケーショ

ン・デザイナーを利用する。

 また、Operations Manager 2007向けに、マイク

ロソフトのOS、サーバ・ソフトウェア、アプリケーショ

ンなどの運用ノウハウをパッケージ化した「管理パッ

ク」が提供されている。対応する管理パックを導入す

ることで監視・管理業務の効率化を図ることができる。

必要な情報を一元管理する「Configuration Manager 2007」 「System Center Configuration Manager(SCCM)

2007」は、企業内のIT資産やシステム環境の管理/

展開/評価を包括的に行うソリューションである。こ

れまで「System Management Server(SMS)」と呼ば

れていた製品の後継に当たり、「Operating System

Deployment」「Software Distribution」といった管

理ツールなどを提供している。もちろん、「Windows

Server 2008」と連携し、クライアント管理やソフトウェ

アの配布/展開なども実行可能だ。

 今後もMicrosoftは、System Center製品群を拡

張していくと見られている。同製品群が充実すること

で、MOFが対象とする運用管理領域は、すべて網

羅されることになるだろう。

ITILを拡張した管理フレームワーク「MOF」ベースの運用管理製品群 マイクロソフトの「System Center」は、同社が提供

するシステム運用管理ソフトウェア製品群を包括する

ブランド名である。System Centerという製品ブラン

ドは2006年に発表された。それ以降、従来から個別

に展開されていた製品も統合する形で、ラインアップ

の拡充が進められている。

 System Center製品群に共通する特徴は、ITIL

をベースにマイクロソフトが策定したMOF(Microsoft

Operations Framework)という運用管理フレームワー

クを採用している点である。同社によれば、MOFは

ITILを包括する内容に加えて、パートナー企業から

のフィードバックや、同社におけるWindowsシステム

の運用管理ノウハウを取り入れたものだという。

 以下、System Center製品の中でも特徴的な2製

品について解説する。

分散環境の監視にも配慮した「Operations Manager 2007」 「System Center Operations Manager 2007」は、

Windowsシステムの監視・管理を統合的に行うため

Operations Manager 2007の分散アプリケーション・デザイナー

Spec Sheet製品名 SystemCenter開発元 マイクロソフト稼働環境 要問い合わせ価格 要問い合わせURL http://www.microsoft.com/japan/systemcenter/

Page 61: Computerworld.JP Aug, 2008

P a r t 6 │ P r o d u c t R e v i e w [ I T 運 用 管 理 ]

August 2008 Computerworld 79

特集 スパイラルアップ![IT運用管理]

Spec Sheet製品名 HPOperationsCenter開発元 日本HP稼働環境 要問い合わせ価格 要問い合わせURL http://h50146.www5.hp.com/products/software/

hpsoftware/centers/oc/

●統合システム運用管理ソフトウェア

HP Operations Center 日本ヒューレット・パッカード

実現している。具体的には、Windows NT4.0/

2000/XP、Windows Server 2003をはじめ、UNIX、

Linuxの各種OSをサポートするほか、主なLinuxディ

ストリビューションやMicrosoft SQL Serverなどの

管理を実現しており、同種の他社製品より多くのプ

ラットフォームに対応しているという。

 また、独自の表示機能である「Service Map」により、

ITインフラの各コンポーネントとサービスを関連づけ、

マッピングすることができる。これにより、問題の原

因や、問題が影響を及ぼすサービスを迅速に突き止

めることが可能になる。

 拡張性と柔軟性の高さも同製品の特徴である。同

製品をインストールした管理サーバは、1,000以上の

管理対象ノードと数千ものイベントをサポートしてい

る。加えて、複数の管理サーバ間でメッセージを完

全に同期するといった分散管理機能の「Manager of

Manager」も搭載している。

 オペレーターによる管理は、MMC(Microsoft

Management Console)とWebベースのコンソールを

使用できる。管理マネジャーと管理インタフェース(コ

ンソール)が別構造になっていることから、Webベー

スのコンソールを通じて、遠隔地から管理することも

可能である。

OpenViewブランドに代わり運用管理ソフトはOperations Centerに 「HP Operations Center」は、日本ヒューレット・パッ

カード(HP)が提供するITシステムの統合運用管理ソ

フトである。サービス駆動型の総合的なアプローチで

ITシステムの管理を実現し、個別管理された情報を

関連づけることが可能である。

 Operations Centerは、米国HPのソフトウェア事

業再編により誕生した製品である。米国HPは、2006

年11月に米国Mercury Interactiveを買収し、自社

製品である統合運用管理ソフトウェア製品群「HP

OpenView」とMercury製品を統合、新ブランドとし

て「HP Software(BTO Software)」を立ち上げた。

 BTO(Business Technology Optimization)

Softwareのポートフォリオでは、「Business Availavi

lity Center」「Service Management Center」「Network

Management Center」など、統合した両社の製品を

Centerと呼ぶ12のカテゴリーに分類している。その

中で統合運用管理機能を提供するのが、Operations

Centerである。

 事業再編により、両社の製品ブランドである

OpenViewと「Mercury」は事実上廃止され、BTO

Softwareに一本化されている。これにより、HPは、

ITによるビジネス価値の最大化を目指したBTOを推

進していく構えだ。

異機種混合のIT環境における統合システム運用管理を実現 Operations Centerにおいて中核をなすのが、「HP

Operations Manager for Windows software」である。

同製品では、異機種が混在したITシステムの管理を

HP Operations Manager for Windows softwareの画面

Page 62: Computerworld.JP Aug, 2008

Computerworld August 200880

P a r t 6 │ P r o d u c t R e v i e w [ I T 運 用 管 理 ]

●統合システム運用管理ソフトウェア

Tivoli 日本IBM

チなどのネットワーク装置、サーバ、ストレージ、OS、

ミドルウェア、アプリケーションを管理対象とし、それ

らのすべてのITリソースの構成管理、変更管理、リリー

ス管理をサポートする。これにより、これまで時間や

コストを多く要していた手作業での管理作業の大半が

自動化されるため、より少ない人数で、より多くのIT

リソースの管理が可能になる。その他の特徴的なツー

ルとしては、サーバ群の稼働状況を監視し、問題発

生の予兆を検出すると、自動的に問題回避のアクショ

ンをとる「Tivoli Monitoring」が挙げられる。

ITILに基づいたITサービス・マネジメントの適用を支援 日本IBMでは、同社のサービスとTivoli製品をベー

スに、ITILに則ったシステム運用管理環境の構築を

支援する「IBM ITサービス・マネジメント・ソリューショ

ン」を提供している。

 同ソリューションの中核となるレイヤである「ITサー

ビス管理プラットフォーム」は、ワークフローと管理タ

スク間の“橋渡し”を担当する。このプラットフォームに

含まれる主要コンポーネントが、変更・構成管理デー

タベースの「Tivoli Change and Configuration Mana

gement Database(CCMDB)」である。CCMDBは、

運用管理データを統合的に扱うためのデータベース

で、既存のTivoli製品が使っているデータベースと連

携して動作しながら、管理対象となるITリソースの自

動発見、データ・クレンジング、正規化、同期、フェ

デレーションなどの機能を提供する。また、ソリュー

ション全体にかかわるコンポーネントとして、ベスト・

プラクティスの実装サービスも提供されている。

ITリソース管理、可視化、コンプライアンスの3領域でツールを提供 日本IBMの「Tivoli」は、システム全体の状態を一

元的に把握し、障害が発生する前にその傾向を検出

して未然に防止する統合システム運用管理ソフトウェ

アである。サーバやネットワークなどの稼働状況やパ

フォーマンスの管理はもちろん、情報漏洩を防ぐため

のアクセス管理、ユーザーID管理、バックアップ、

SAN(Storage Area Networks)環境管理など、多

彩な運用管理をサポートする。また、システム運用管

理のベスト・プラクティスであるITILベースの管理を

実現する製品群もラインアップしている。

 Tivoliは、「ITリソース管理」「可視化」「コンプライア

ンス」の3つの領域に分類された30以上の運用管理

ツールによって構成されている。なお、Tivoli製品全

体の統一したバージョン番号は特に付されておらず、

同製品を構成する各ツールは個別にバージョンアップ

されるというリリース形態がとられている。

 データセンターにあるさまざまなITリソースのプロビ

ジョニング、構成、展開に必要なプロセスを自動化して、

人的ミスや管理者負担を軽減するTivoliを代表する

運用管理ツールが「Tivoli Provisioning Manager」

である。同ツールは、ファイアウォール、ルータ、スイッ

IBM ITサービス・マネジメント・ソリューションの体系

ITプロセス管理製品群

ITサービス管理プラットフォーム

IT運用管理製品群

ベスト・プラクティスと実装サービス

「プロセス・組織のあるべき姿」の設計

「ITIL CMDBのあるべき姿」の設計

ITILプロセスからツール活用の設計

プロセスと既存Tivoli製品の連携

CMDBと既存Tivoli製品の連携

既存Tivoli製品(タスク自動化)の導入

Spec Sheet製品名 Tivoli開発元 日本IBM稼働環境 AIX、HP-UX、Solaris、Windows、Linux (ツール/コンポーネントによって異なる)価格 要問い合わせURL http://www-06.ibm.com/jp/software/tivoli/

Page 63: Computerworld.JP Aug, 2008

「話題の製品の機能を詳しく知りたい」「自社では、どのような技術を使うのが最適なのだろうか」──企業において技術や製品の選択を行う「テクノロジー・リーダー」の悩みは尽きない。そこで、本コーナー[テクノロジー・フォーカス]では、毎号、各IT分野において注目したい製品や技術をピックアップし、その詳細を解説する。

[テクノロジー・フォーカス]

C

TechnologyFocus

August 2008 Computerworld 93

omputing[コンピューティング]

再考! ブレード・サーバの現状と将来

Page 64: Computerworld.JP Aug, 2008

Computerworld August 200894

Technology Focus

ているのである。

 一方、コモディティ化が進んでいるサーバ分野にお

いて、ブレード・サーバは、サーバ・ベンダーが唯一、

戦略性を発揮できる製品でもある。例えば、タワー型

サーバやラック・マウント型サーバでは差別化が図り

にくいため、同じスペックや特性を持つ製品が市場に

あふれており、必然的に価格競争が生じてしまってい

る。

 しかし、ブレード・サーバの提供を通じてベンダー

は、価格競争に陥ることなく、独自の差別化戦略を

展開することができる。実際に、ヒューレット・パッカー

ド(HP)やIBMといったベンダーは、ブレード・サー

バに、ストレージやネットワークなどのコンポーネント

を加えたブレード・システムのコンセプトを有し、実装

の方式と戦略展開のスピードによって差別化を図っ

ている。

 こうしたシステム・アプローチは、ベンダーが自社の

インフラ・テクノロジーのメリットを語る際に効果を発

揮する。「ユーザーにとって最も重要なものは、単体

のサーバではなく、システムである」──このことを技

術的に説得力のある形で訴求できるベンダーが、ブ

レード・システム競争において有利となる。

ブレードは統合テクノロジーの代表格

 2007年、ブレード・サーバの出荷台数の対前年度

比成長率は世界で19.9%増を記録した。サーバ市場

全体の台数成長率が世界で7.4%増であったことから

すれば、ブレード・サーバはサーバ市場の主力製品と

して市場を牽引していると言っても過言ではないだろ

う。日本のブレード・サーバ市場も、世界には後れる

ものの、基本的に同期を取る形で成長していくことは

確実とされている。ユーザーは、世界のこうしたトレ

ンドも踏まえ、自社の情報システムの今後を検討すべ

きである。

 ブレード・サーバの成長の背景には、サーバに対す

るユーザーの視点が「コンポーネントからシステムへ」

と拡大していることが挙げられる。

 ここ数年、企業の情報システムはビジネスへの即

効性が強く求められるようになっており、それを実現

するためには、ばらばらなコンポーネントではなく、コ

ンポーネントの物理的および論理的な統合を可能に

するテクノロジーが必要となる。ブレード・システムは、

こうした統合テクノロジーの代表格として注目を集め

Cここ数年、サーバ分野において最も著しい成長を遂げているブレード・サーバ。コモディティ化が進んでいるサーバ分野において、ブレード・サーバは、統合テクノロジーの代表格として、また、IT運用管理コスト削減の切り札として多くのユーザーが関心を寄せている。本稿では、ブレード・サーバの最新動向や、今後の展望について紹介する。

亦賀忠明ガートナー ジャパン リサーチ ITインフラストラクチャ バイス プレジデント兼最上級アナリスト

omputing[コンピューティング]

再考! ブレード・サーバの現状と将来進化を遂げる次世代の統合テクノロジー

Page 65: Computerworld.JP Aug, 2008

August 2008 Computerworld 95

Com

putingComputing

上記2社は次の時代において最も高い競争優位性を

有するシステム・ベンダーとなるだろう。なお、ガート

ナーでは2012年までに、次世代のブレード・システム

が一般化する可能性があると予測している。

 このように、ベンダーはブレード・サーバが、すで

製品の選定にあたって留意すべきポイント

 今日のIT市場は、いわゆるコンポーネントの時代か

らシステムの時代に向けた過渡期にある。革新的なシ

ステム・アプローチを採らないベンダーは、包括的な

ビジョンを有するベンダーの戦略の下で、コンポーネ

ント事業に甘んじることとなる。こうした危機感に加え、

次世代のシステム市場をみずから作り、その覇権を早

期に獲得したいという戦略上の思いが、ブレード・シ

ステムの継続的強化へとベンダーを走らせているので

ある。

 なかでもHPとIBMは、ビジネス・ニーズへの即応

性と高い信頼性を持つインフラを目指してブレード・

サーバの開発に取り組むという姿勢を明確に打ち出

しており、ブレード・システムの将来のビジョンも有し

ている。今後ブレード・システムの成熟化が進み、ガー

トナーが提唱する「リアルタイム・インフラストラクチャ

(RTI)」のような「必要な時に必要なリソースやサービ

スを提供できるユーティリティ基盤」が実現した場合、

写真1:�IBMが今年5月に発表した新型ブレード・サーバ「IBM�Blade�Center�QS22」。最新のCellプロセッサの搭載により、高速なエンタープライズHPC環境に対応している

写真2:�HPのタワー型ブレード・エンクロージャ「HT�BladeSystem�c3000�タワーエンクロージャ」。底部にキャスターが付いたユニークな形状が特徴

スケールアップ

マシン規模による拡張

●メインフレーム●ハイエンドUNIXサーバ

●次世代ブレード・システム●テラ・アーキテクチャ

スケールアウト

台数による拡張

●IAサーバ●ブレード・サーバ

両要素を併せ持つ次世代インフラ

融合

図1:ITインフラの今後の方向性

Page 66: Computerworld.JP Aug, 2008

Computerworld August 200896

Technology Focus

よう。ブレード・システムとは、ブレード・サーバを、

もしくはブレード・サーバとストレージ、ネットワーク

製品を一貫したコンセプトとアーキテクチャによって

組み合わせることができる製品を指す。今日、ほぼす

べてのサーバ・ベンダーがブレード・システムの提供を

手がけている。

 現在、サーバを含むすべてのITインフラ製品やソ

リューションは、新しい世代への移行期にある。ここ

では、システム全体の最適化と次世代へ向けた成熟

化が重要なテーマとなっている。このような包括的な

テーマの中で、パフォーマンスとキャパシティの向上、

省電力化と熱対策、コストの最適化、信頼性と柔軟

性の向上、監視/管理/制御などが、昨今のシステ

ムに求められる要件となっている。

 ここで言うシステムとは、ハードウェアと仮想化、

OSといった実行環境はもとより、その上位で稼働す

に始まっている次世代の競争における重要な差別化

要因であることを認識すべきであり、ユーザーも同様

に、製品評価のポイントを見直し、将来につながる最

適な製品選定を行う必要がある。

 製品の選定にあたっては、製品単体の価格だけで

なく、システム全体の運用管理コストや電力消費量な

ども含めて検討する必要がある。また、システムを「必

要な時に必要なリソース/サービスを提供できる仕組

み」へと進化させるべく、サーバ・システムをいかに段

階的に最適化していくかがユーザーにとってのチャレ

ンジとなるだろう。

サーバ単体からシステムへと進化

 ここで、ブレード・システムの定義について整理し

出荷台数

2000年 2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年

現在

第1世代●低性能●低電力●高密度●各種サービス・プロバイダー対象

第2世代●高い電力消費●性能向上●中密度●企業のデータセンター対象

第3世代●ブレードの多様化●I/Oの向上●管理性向上●幅広いユーザー対象

第4世代

第5世代

●標準化の成熟●システム化●省電力/放熱対策●自動化の成熟

図2:ブレード・サーバの進化

*資料:ガートナー

Page 67: Computerworld.JP Aug, 2008

August 2008 Computerworld 97

Com

putingComputing

 逆に日本では、IT投資に対して慎重なユーザーが

少なくない。だが、日本のユーザーが今後グローバル

で競争を勝ち抜いていくためには、「テクノロジーはビ

ジネス競争上の武器」という考えで臨む必要があるだ

ろう。少なくとも「ハードウェアはどのベンダーのもの

でも同じ」という従来の発想は捨てるべきである。

*  *  *

 以上、ブレード・サーバの現状について説明してき

た。ブレード・サーバ/ブレード・システムは、ITイン

フラのベースとなる重要なテクノロジーとして今後も

注目を集めるだろう。まだブレード・システムを導入し

ていないユーザーは、自社のスキルを高めるためにも、

まずは小規模なシステムから試験的に導入することを

勧める。次世代のシステム構築へ向けた準備は、そ

うした試行を通じて開始することが現実的なアプロー

チであると考えられる。�

るアプリケーション・サーバやデータベースを含むす

べてのITインフラのことであり、最終的に「必要な時

に必要なリソース/サービスを、最小限の人的リソー

スで提供する仕組み」が構築できるかどうかが、今後

のITユーザーにとってのチャレンジとなる。

 こうしたビジネス要件を、まずはハードウェア中心

の環境で満たすために、ブレード・システムにはさま

ざまな考え方や技術が包括的に組み込まれている。

これらには、デュアルコア、クアッドコアなど最新の

マルチコア・プロセッサや省電力プロセッサ、省電力

設計と実装、高速なインターコネクト、低価格なスト

レージ・ブレードの採用、メモリ・ベースのストレージ

の採用、サーバ・ベース・コンピューティング(SBC)

環境の実装(サーバ内での大規模クライアント環境の

実現)、システム・リソースの柔軟な変更機能、仮想

化技術の実装、運用管理ソフトウェアとの一貫性、

などがある。

 このように、検討すべきスコープをシステムとした

場合、考慮すべき要件は従来のサーバ製品選定と比

較して格段に広がる。ブレード・システムの選定・実装・

運用におけるさまざまな検討は、今後のITインフラの

方向性の骨子を決める重要な先駆けとなるはずだ。

テクノロジーは「武器」ととらえよ

 サーバ・ベンダー間の競争は総合戦に突入してい

る。「メインフレーム対オープン」などと言われていた

のはもはや昔の話で、今日ではビジネスに合わせたシ

ステム設計がより重視されるようになっている。

 そうしたなか、欧米のユーザーの多くがブレード・

システムの積極的な採用を進めている。そのねらいは、

競合に先駆けてシステムを強化することで、収益の差

につながる新サービスを早期に作り出すことにある。

ITに対する先行投資はハイパフォーマンス・コン

ピューティング(HPC)分野などでよく見受けられる

が、欧米のユーザーにとってIT投資は、文字どおり

投資的な意味合いが強いことがうかがえる。

●スピーディーなサービスでデリバリーを実現する仕組み

●信頼性保証のプロセス

●継続的/段階的な進化の仕組み

状態を適切に管理して全体を制御する仕組み

状態が一元的に把握できる仕組み

必要なときに必要なサービスを提供するサービス・インフラ

安定と変化に対応できるリソース・インフラ

図3:ITインフラストラクチャの考え方

*資料:ガートナー

Page 68: Computerworld.JP Aug, 2008

経営管理編販売/サービス編ITトレーナー編システム運用管理編システム開発編

ITキャリア解体新書IT業界でサバイバルするための

Computerworld August 200898

つ監督、実際に作業を行う俳優やスタッフでチームを

構成する。システム開発の現場では、プロデューサー

がプロジェクト・マネジャー、監督がSEである。もち

ろんスタッフはプログラマーたちだ。

 インディペント系のショート・フィルムを製作する場

合には、監督は1人で全体の整合性を取ることができ

る。しかし、ハリウッド映画のような大規模映画では、

特定分野ごとの監督が必要になる。そして各分野の

監督は、総監督の方針を実現するために働く。ITアー

キテクトの役割は、その総監督と考えてよいだろう。

小規模なシステムが1つしかなく、短期間しか使用し

ない場合、ITアーキテクトは不要である。しかし、規

模が大きくなったり、複数のシステムを連携させたり、

長期にわたって利用したりする場合には、ITアーキ

テクトは必要不可欠な存在となる。

 ITアーキテクトは現在、SEからのスキル・パスとし

ても注目されている。プロジェクト・マネジャーもSE

の次のステップだが、プロジェクト・マネジャーの本質

は管理職である。技術職としてステップ・アップを目

指す場合、ITアーキテクトが最有力候補なのだ。

職務概要

 大規模なシステムを構築する場合、詳細な仕様は

機能ごとに作成され、個別に実装される。ITアーキ

テクトは複数の実装方法から最適なものを選択し、整

合性のとれたシステム全体の統一方針を打ち出す。

 個々の機能は、ITアーキテクトが示した「アーキテ

クチャ(構造)」に準拠して設計される。ITアーキテク

トは、システム全体を大所から俯瞰した姿を示すシス

テムの総監督なのだ。

存在意義

 システム・エンジニア(SE)や上流プログラマーは、

与えられた予算と期限の範囲で最適な設計を考える。

しかし複雑なシステムでは、機能ごとの個別の最適

解が、全体の最適解になるとはかぎらない。

 映画の制作を考えてみよう。映画は、予算とスケ

ジュールを管理するプロデューサー、内容に責任を持

「ITアーキテクト」は、たとえるなら映画の監督/総指揮官である。複数のITシステムを1つにまとめ上げる実務力と、それをいかに“魅せる”かといった芸術力、そしてシステム・エンジニアやプログラマーをはじめとするスタッフらと一体となり、「最終ビジョン」に向けて邁進するリーダー力が求められるからだ。システム開発職の“最高峰”と言っても過言ではないITアーキテクト。技術屋として生きていくと誓った人は、ぜひ目指してほしい。

横山哲也グローバル ナレッジ ネットワーク、マイクロソフトMVP

ITアーキテクト第5回

Page 69: Computerworld.JP Aug, 2008

August 2008 Computerworld 99

うなレストランが見つかりました。いくつかのブログ

サイトを見たところ、レストランの評判も上々です。

あなたはその店を利用しますか」

 この質問に「情報は参考にしますが、デートする相

手の性格によって判断します」ぐらいの柔軟性を持っ

て答えられればITアーキテクトとしての資質は十分

だ。逆に「利用する/しない」二者択一だと思い込ん

でしまう人は、ITアーキテクトにはまだ早い。

待遇

 求められる技術レベルが高いことから、プロジェク

ト・マネジャーと同程度の収入が期待できる。技術職

で年収1,000万円を超えるのも夢ではない。技術職で

は最高ランクと言ってよいだろう。

必要な経験/スキル

 ITアーキテクトは、利用可能な技術から最適なもの

を見極め、システム全体の統一方針を立てるのが仕事

である。そのため、常に最新技術を習得する姿勢と、

現実に役に立つものを見極める姿勢の両方が必要とな

る。目新しい技術にすぐに飛びつくのは、現実的では

ない。だからといって、確立された技術だけに固執して

いては進歩がない。両方のバランス感覚が重要なのだ。

SEの経験 SEとして場数を踏むことは、現実を知るために非

常に重要である。顧客の要望を知らないITアーキテ

クトは、現実的なシステムの方針を示せない。

新しい技術を独学で学ぶ力 新しい技術をいち早く学び、長所と短所を把握す

ることも重要だ。いったん構築したシステムは、10年

以上使われることも少なくない。日進月歩のIT業界

で10年たっても陳腐化しないシステムを提案するに

は、最新技術の習得が不可欠である。

ビジョンを示すコミュニケーション能力 ITアーキテクトの大きな役割に、システムのビジョ

ン(構想)を示すことがある。ビジョンは現実的であり、

かつプロジェクトに携わるメンバーを納得させられる

ものでなければならない。

採用の決め手となる“究極の質問”

「最新技術を学ぶのは好きですか?」

「次のシステムでは最新技術を使いますか?」

 前者がNoでは理想は語れない。後者をYes/Noで

即答するようでは、場当たり主義者の要素が強い。後

者の質問は、「状況次第」というのが正解だ。ただし、こ

れは“無難”な回答であり、これだけでITアーキテクト

の資質を判断することは難しい。ではこれでどうだろう。

「来週は彼女(彼氏)との初めてのデートです。よさそ

ITアーキテクトは、インフラ設計とシステム設計の両方を行うため、対応する資格も両方が必要になる。ただし、「これがあればITアーキテクトになれる」という資格はない。資格の数ではなく、複数の資格範囲にまたがる大局的な見方が要求される。例えばマイクロソフトには、「Microsoft Certified Architect(MCA)」という資格があるが、これには口頭試問が含まれ、日本では実施されていない。ITアーキテクトになるには、○×式の知識だけでは不十分だという実例である。

国家資格系●情報処理技術者試験 「プロジェクト・マネジャー」「テクニカル・エンジニア」

ベンダー資格系●マイクロソフト Microsoft Certified Systems Engineer(MCSE) Microsoft Certified Database Administrator(MCDBA) Microsoft Certified Solution Developer(MCSD)●オラクル Oracle Master Platinum●シスコシステムズ Cisco Certified Internetwork Expert(CCIE)

ITアーキテクトが持っていたい資格ワ ン ポ イ ン ト お 役 立 ち

2 2 2 2

情 報

年収やりがい将来性モテ度

★★★★★

★★★★★

★★★★

★★

システム開発職の“最高峰”ですから……

システムを生かすも殺すもアーキテクト次第だ

アーキテクトで実績を残せれば、食いぶちに困ることはない

IT業界以外の人の認知度は低い

Page 70: Computerworld.JP Aug, 2008

IT

K

EY

WO

RD

41

Computerworld August 2008100

 VisualRankとは、米国Googleが現在開発中の

新しい画像検索技術のことである。現行の画像検

索技術では、画像に付属するファイル名やアンカー・

テキストなどの文字情報を基に検索/ランク付けが

なされるが、VisualRankでは、視覚的な情報に基

づいて画像(候補となる画像)が検索/ランク付けさ

れる。同技術が目指しているのは、求められる画像

が検索結果の極力上位にランクされることだ。

 Googleの研究者が今年4月に発表した資料によ

ると、VisualRankでは候補となる一連の画像(テス

ト段階ではGoogleイメージ検索で収集されたもの)

の視覚情報を基にそれらの関連性が調べられ、候

補画像の中で“最も関連性の高い画像”と見なされ

たものが上位にランクされる。具体的には、候補画

像中の2つの画像を比べた際に類似点が多数あれ

ば、それらは関連性が高いと判断される。

 例えば、Googleイメージ検索で「モナ・リザ」の画

像を検索すると、オリジナルの肖像画の他に“パロ

視覚的な情報を基にランク付けを行うGoogleの新しい画像検索技術

Computerworld 編集部

VisualRank▼

41IT KEYWORD

ディ版”の画像などが上位にランクされる。パロディ

版の中には、オリジナル版より上位にランクされるも

のもある。VisualRankを使ってこれらの画像をラン

ク付けすると、例えばパロディ版Aおよびパロディ

版Bとの関連性が最も高い画像は共にオリジナル版

となり、AとBの関連性はそれよりも低くなる。した

がって、A、B両方との関連性が高いオリジナル版

が上位にランクされることになる。

 Googleの研究者が、Googleイメージ検索と

VisualRankの比較実験を行ったところ、関連性の

低い画像が上位にランクされる確率は、Visual

Rankを使った場合のほうが圧倒的に低かったとい

う。ただし、複数の画像が連想される対象をどのよ

うに表示するか、そもそも候補画像をどう収集する

かなど、課題は多い。VisualRankの稼働時期につ

いては明らかにされていないが、VisualRankの応

用例として、画像/文字情報を併用する検索技術

などがすでに論じられている。

画像中の類似点の比較

候補画像の関連性を示したグラフ

モナ・リザのオリジナル版とパロディ版(AまたはB)に見られる類似点の数は、AとBの類似点の数よりも多い。VisualRankでは、他の画像との類似点が多い画像ほど関連性が高いと判断される(類似しているかどうかの判別には既存の技術を利用)

中心に見える2つの大きな画像が最も関連性の高い画像であり、VisualRankを用いた画像検索の最上位にランクされる

オリジナル版とパロディ版Aの

比較

パロディ版AとBの比較

オリジナル版とパロディ版Bの比較

類似点が多い

類似点が少ない

類似点が多い

A

A

B

B

VisualRankを用いた画像検索/ランク付けの構図(候補画像の類似点から関連性を引き出す)

Page 71: Computerworld.JP Aug, 2008

August 2008 Computerworld 101

P R O F I L E

ささき・としなお。ジャーナリスト。1961年兵庫県生まれ。毎日新聞社記者として警視庁捜査一課、遊軍などを担当し、殺人事件や海外テロ、コンピュータ犯罪などを取材する。その後、アスキーを経て、2003年2月にフリー・ジャーナリストとして独立。以降、さまざまなメディアでIT業界の表と裏を追うリポートを展開。『ライブドア資本論』、『グーグル——既存のビジネスを破壊する』など著書多数。

 ここ数年、この折り込み広告をIT化

しようという試みがいくつか現れてきて

いる。例えば凸版印刷が提供している

「Shufoo」は、ネット上で折り込み広告

を実現したサービスだ。無料でサイン

アップすると、複数の場所をお気に入

りエリアとして登録し、その周辺で配布

されている折り込み広告をスキャンした

デジタル版を受け取ることができる。

ウィジェットも配布されていて、デスク

トップに常駐させておけば、チラシの自

動更新情報も受け取り可能だ。共働き

などで買い物場所が多様化する中で、自宅周辺の情

報しか読めない折り込み広告に飽きたらない都市部の

人たちが、このShufooを積極的に利用しているという。

 さらに、「リアルトレンド」という広告クライアント向

け機能もある。チラシのどの部分がクリックされたの

かを集計・表示する機能だ。このクリック率を地域別、

年齢別などで分類していけば、お店にとっては利用価

値の高いマーケティング・データとなるわけだ。

 このようなサービスは、折り込み広告という古臭い

広告ビジネスを、最先端のネット広告へと進化させる

ことができる。これまで片方向だったスーパーマーケッ

トやショッピングセンターと消費者の関係が、双方向

に変わるからだ。

 こういったビジネス・モデルが確立されてくると、新

聞販売店の収益構造は崩壊してしまいかねない。その

日が来たとき、新聞社は販売店をどう支援していくの

か、あるいはこのような進化型折り込み広告をどう吸

収していくのかという課題に直面することになる。

 「Craigslist」という米国のWebサイト

がある。「売ります」「買います」「求人」「求

職」「友達募集」など、日本ではよくミニコ

ミ誌やタウン誌が掲載している「クラシ

ファイド」(classifieds)と呼ばれる案内

広告を、全米の都市別にだれでも掲載

できるようにしたサイトだ。ビジュアル

要素が皆無で、味も素っ気もないサイト

だが、このCraigslistが米国の地方紙を

窮地に陥れている。米国の地方紙の多

くは、クラシファイドから得られるもうけ

を収益の柱にしてきたからだ。

 その結果、例えば1990年代にはシリコンバレーの

情報を扱って多くの業界人が注目していたSan Jose

Mercury Newsも著しく弱体し、最近はテクノロジー

のページでさえも記事が埋まらなくなり、紙面がスカ

スカになってしまっている。紙面の停滞がますます購

読者離れを招き、お先真っ暗という状況だ。

 日本の新聞は今のところ、そのような状況にはなっ

ていない。Craigslistは日本語サービスを提供してい

ないし、そもそも日本の新聞にはクラシファイドはほと

んど掲載されていない。企業からの広告と販売収益の

2本柱が消失しないかぎり、新聞のビジネスが崩壊す

ることはない。

 しかしその2本柱は、あくまでも新聞社本体の収益

だ。日本の新聞ビジネスをこれまで成り立たせてきた

のは、全国に張り巡らされた販売店網に負うところが

大きい。販売店は独立企業で、そしてその収益の中で

は、折り込み広告が大きな部分を占めている。

インターネット劇場

佐々木俊尚T o s h i n a o S a s a k i

折り込み広告の進化が

新聞業界に与えるインパクト

Entry

25

Page 72: Computerworld.JP Aug, 2008

Computerworld August 2008102

P R O F I L E

えじま・けんたろう。インフォテリア米国法人代表/XMLコンソーシアム・エバンジェリスト。京都大学工学部を卒業後、日本オラクルを経て、2000年インフォテリア入社。2005年より同社の米国法人立ち上げのため渡米し、2006年、最初の成果となるWeb2.0サービス「Lingr(リンガー)」を発表。1975年香川県生まれ。

 去年に引き続き、今年もIPAが主催

した、IT業界の重鎮と現役学生とで行

われた討論会が反響を呼んでいます。

どうやら、いつの間にか、若い人たちに

とってIT業界はカッコイイところではな

くなってしまったようです。「この中で、

入社して最初の10年は泥のように働け

るという人は?」という重鎮からの問い

かけに対して、学生はだれ1人として挙

手しませんでした。このことが象徴する

ように、世代間での労働観の食い違い

がますます鮮明になってきています。

 ここで「最近の若いモンは……」と嘆いてみたくなっ

たアナタ、ご自身は会社でのキャリアパスをどのように

描いていますか? 一口にIT業界と言っても、中にい

ると大局がよく見えないものですが、特に華やかだっ

た時代は1980 ~ 90年代。メインフレームからUNIX、

PCへとダウンサイジングを繰り返してきた歴史的な転

換の時代です。つまり、産業構造的には、ハードウェ

アやインフラなど「利益が出る仕組み」が別にあって、

その上でサービスを提供するのが一般的でした。

 業界の人でも知らない人が多いので驚くのですが、

今でも大手ハードウェア・ベンダーの営業利益の3分

の1を超える割合がメインフレームの売上げおよびその

関連ビジネスで占められています。SI業界に身を置く

人で、レガシー・マイグレーション案件に携わったこと

のない人はいないでしょう。そう、いまだにレガシーは

死んでいないのです。

 メインフレームは、各ベンダーの独自

仕様であり、かつノウハウの流通がない

ため、簡単にスイッチできません。した

がって、日本の大手ベンダーにはこの

分野で競争力があります。一方、UNIX

以下、PCにいたるまで、オープン・シ

ステムは、ほぼすべて外資系に圧倒さ

れてしまいました。純粋な実力勝負の

世界では完敗だったわけです。

 それでもまだサーバやPCは日本のベ

ンダーもがんばっていますが、ソフトウェ

ア・パッケージ、Webサービスと、どん

どんレイヤが上がるにつれ、とうとう日本企業にはまっ

たく出番がなくなってしまいました。

 利益の出ている部門は発言力も強いので、会社の

カルチャーというものは利益の出ている部門に強い影

響を受けます。その意味で、日本のIT業界というのは、

極論すればメインフレームのカルチャーなのです。

 日本のIT産業を支えているのはメインフレームであ

り、逆に言うと、メインフレームの顧客基盤を持たな

い独立系のベンダーは、自前の「利益が出る仕組み」を

見つけなくてはいけません。残念ながら、役務提供と

してのサービスだけで持続可能な利益を上げられると

いうのは幻想です。そして、利益が出る仕組みは、急

速に成長している市場にしか構築できません。

 私が日本のIT業界を1,200字で総括するとこういう

ことです。では、これからどういうアクションを起こす

べきか。それは私たちに課せられた宿題です。

IT哲学

江島健太郎K e n n E j i m a

メインフレーム文化の中で

どのようにして利益を上げる?

Entry

35

Page 73: Computerworld.JP Aug, 2008

August 2008 Computerworld 103

P R O F I L E

くりはら・きよし。テックバイザージェイピー(TVJP)代表取締役。弁理士の顔も持つITアナリスト/コンサルタント。東京大学工学部卒業、米国マサチューセッツ工科大学計算機科学科修士課程修了。日本IBMを経て、1996年、ガートナージャパンに入社。同社でリサーチ・バイスプレジデントを務め、2005年6月より独立。東京都生まれ。

 あらためて言うまでもありませんが、

MicrosoftがWindowsで成功できた理

由の1つは、ソフトウェアの全階層を独

り占めしようとするのではなく、他社に

積極的にWindowsアプリケーションを

開発してもらう戦略をとったことでしょ

う。Windowsは決してオープンなプラッ

トフォームとは言えませんが、他社にプ

ラットフォームを使ってもらうことで製

品/ソリューションの数を増やし、プ

ラットフォーム自身の価値を高めるとい

う戦略は、もしうまくいけば、きわめて

強力なものとなります。

 このように自社の基盤を“プラットフォーム化”し、

他社が価値を提供できる場とすることで、逆に市場の

コントロールを高めるという方法はWebの世界でも有

効でしょう。

 GoogleやAmazon.comなどのように、Webの世

界では、自社のWebサイトの機能をWebサービスの

APIとして公開することがかなり一般的になっています

が、さらに一歩進んだプラットフォーム化戦略をとる

ことで成功している企業もあります。

 例えば、Salesforce.comは、同社のSaaS型

CRMアプリケーションのAPIを公開し、さらに開発環

境も提供することで、積極的にサードパーティのアド

オン機能開発を推進する戦略をとってきました。さら

に、「AppExchange」という、アドオン機能を販売す

るサイトまで提供しています。「Salesforce.comのプ

ラットフォームを使ってどうぞ商売をしてください」とい

う戦略です。同社の成功の一要因がこ

こにあると言ってよいでしょう。

 もう1つの例は、注目度急上昇中の

SNSサービス企業Facebookです。米

国のSNS市場では、News Corp傘下

のMySpaceが大多数のユーザーを集

め、ほぼ独占的な地位を維持するだろう

と考えられていましたが、2007年の後

半辺りからFacebookが急速にユーザー

数を伸ばし、MySpaceの牙城を脅かし

ています。FacebookにはMicrosoftも

投資を行っており、現在、その企業価値は150億ドル

に相当すると評価されています。

 Facebookの成功要因の1つは、Facebook上で他

社のアプリケーションを稼働できる環境を提供し、積

極的にプラットフォーム化を進めた点にあると言われ

ています。例えば、株取引、ゲーム、中古車売買など

サードパーティが開発したミニ・アプリケーションを

Facebook上で実行できるようになっています。ユー

ザーは、あたかもFacebook自身が提供している機能

であるかのようにそれらを利用しています。さらに、

SNSならではの特性を生かした付加価値も提供されま

す。例えば、あるユーザーがゲームをダウンロードして

自分のFacebookで遊ぶと、その情報が友人リストに

伝えられるなどです。このような一種のクチコミ・マー

ケティングはきわめて効果が高いことが知られています。

 Web系企業の将来を評価する場合には、このプラッ

トフォーム戦略をとっているかどうかが1つの目安にな

るかもしれません。

テクノロジー・ランダムウォーク

栗原 潔K i y o s h i K u r i h a r a

Webの世界における

「プラットフォーム化」

Entry

35