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Computerworld.JP Jul, 2009

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◆緊急リポート◆オラクルはなぜサンを買収したのか? ~オラクルのサン買収を巡る「5つの疑問」に答えます~◆特集◆ストレージの仮想化を 実践せよ ~ユーザーは何を知り、何を選ぶべきか~サーバから始まった仮想化のうねりは、ストレージ、ネットワーク、データセンター、さらにはデスクトップまでをも飲み込み、ものすごい勢いでITインフラ全体へと広がっている。なかでも、サーバの仮想化は、グリーンITブームの高まりとも相まって、省エネ、省資源の切り札として急速な普及を見せている。だが、コストの削減や効率化という観点で見た場合には、仮想化が最も効果を発揮するのは「ストレージ」の分野だというのが定説だ。そこで本特集では、ストレージの仮想化を実践するための「方法論」と「製品」に注目してみた。PART1では、この分野に詳しいアナリストに、ユーザー企業がストレージの仮想化に取り組むうえで気をつけるべきポイントを解説してもらい、またPART2では、実際にストレージの仮想化を導入している先進ユーザーに、導入する際の注意点を語ってもらった。本特集が、ストレージの仮想化を考えておられるユーザー企業の参考になれば幸いである。◆特別企画◆100ギガビット時代がやってくる!! ~次世代Ethernet「IEEE 802.3ba」の全貌~最大100Gbpsを達成する次世代高速化Ethernet技術「IEEE 802.3ba」の標準化作業が、現在、米国電気電子学会(IEEE)の手で進められている。今年3月にはドラフト第2版が提出され、来年6月には標準化が完了する見通しだ。世界各地でブロードバンド網が整備され、ビデオに代表されるリッチ・コンテンツが急増するなか、100Gbpsという想像を絶する帯域を提供する同規格には大きな期待が寄せられている。そこで本企画では、標準化完了を1年後に控えた次世代Ethernetを取り上げ、その技術的ポイントや導入検討時の注意点などについて解説する。◆特別企画◆ネットブック&UMPC大図鑑[2009-II] ~カラー・バリエーションが充実した新モデルを一挙紹介~2007 年後半に日本に上陸し、昨年大ブレイクしたネットブック/UMPC(Ultra Mobile PC)。当初はアスーステック・コンピューター(ASUS)の「Eee PC」シリーズや、エイサーの「Aspire one」シリーズといった台湾ベンダーの製品が売れ筋を独占していた。しかし、ここに来て国内ベンダーも負けじと新製品/モデルを矢継ぎ早に投入してきた。考えてみれば、小型PCの開発は、もともと日本ベンダーの十八番(おはこ)である。今後は、さらに米国や中国のベンダーも巻き込んで、熾烈な戦いが繰り広げられることになろう。本特別企画では、そんなネットブックの最新トレンドを分析するとともに、2008年末から2009年にかけてリリースされた注目機種の特徴を詳しく紹介することにしたい。

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July 2009 Computerworld 5

Features 特集&特別企画

ストレージの仮想化を 実践せよストレージの視点から仮想化を考えるITインフラのコスト削減、効率化を実現するには、ストレージの仮想化が不可欠編集部

先行ユーザーに学ぶ「ストレージ仮想化」の導入ポイント導入プロジェクトで突き当たる数々の障害に、米国ユーザーはどう向き合ってきたかゲイリー・アンテス

100ギガビット時代がやってくる!!長田 篤

高速化Ethernetが必要とされる理由リッチ・コンテンツの急増に対応、40GEはデータセンター向け

100GE・40GEの2本立て──「IEEE 802.3ba」の要点2種類の多重化方式を併用、10GE技術を踏襲、……

ネットブック&UMPC大図鑑[2009-II]カラー・バリエーションが充実した新モデルを一挙紹介池田圭一

Report緊急リポートオラクルはなぜサンを買収したのか?オラクルのサン買収を巡る「5つの疑問」に答えますパトリック・チボドー、ほか

特集

Part1

発行・発売 (株)IDGジャパン 〒113-0033 東京都文京区本郷3-4-5TEL:03-5800-2661(販売推進部) © 株式会社 アイ・ディ・ジー・ジャパン

月刊[コンピュータワールド]

世界各国のComputerworldと提携

TM

2009年7月号

  7contents

特別企画 1

Part1

32

34

38

45

46

49

53

19

Part2

Part2

July2009Vol.6No.68

次世代Ethernet「IEEE 802.3ba」の全貌

特別企画 2

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July 2009 Computerworld 7

HotTopicsホット・トピックスWindows 7でもXPへのダウングレード権は引き継がれる?!グレッグ・カイザー

登場から1年、「Google App Engine」がようやくJavaをサポートポール・クリル/クリス・カナラカス

マイクロソフトが「Office」をSaaS化しなければならない理由シェーン・オニール

これが“次世代ファイアウォール”だ──パロアルトネットワークスが説く「UTMとの違い」編集部

「幻のPocket Yoga」で、「アップル・ネットブック」対抗をぶち上げたレノボ

マイク・エルガン

ViewPointビュー・ポイント電力損失と発熱を抑える「高電圧直流給電システム」

山口 学

RunningArticles連載アタッカーズ・ファイル──ネットに潜む脅威(第7回)

未来型インターネット犯罪の「傾向と対策」マーカス・ヤコブソン

「フリーソフト&サービス」レビュー(第7回)

サーバ・サイドJavaScriptフレームワークを提供する「Aptana Jaxer」

杉山貴章

「オープンソース活用」成功のコツ(第1回)

エンタープライズ・オープンソースに対する「3つの誤解」寺田雄一

ギョーカイ人のためのIT法律講座(第7回)

発信者情報の開示請求とその対処法森 亮二

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Windows 7発売後もXP搭載PCを販売?

 今年4月13日、マイクロソフトによるWindows XPの

「メインストリーム・サポート」が終了し、セキュリティ・アップ

デート以外のサポートが有料化された。過去の例に照ら

せば、XPはこれを機に、務めを果たしたOSとして扱

われることになる。しかし、実際にはそうはならず、当面

は現役OSとして重用されることになりそうだ。

 この予測は、マレーシアのWebサイト「TechARP.

com」が、“XP現役続行"を示唆する情報を報じたこと

を基にしている。同サイトによると、マイクロソフト側は、

XPのダウングレード権に関するルールを緩和するつもり

らしいのだ。「XPをプリインストールしたPCの販売期限

は、Windows 7の発売から数えて6カ月後まで延長さ

れることになろう」と、同サイトは述べている。

 ここで言われている「ダウングレード権」とは、ユーザー

(またはその代理人としてのPCベンダー)が、追加のラ

イセンス料金を支払うことなく、最新のWindowsを以前

のバージョンのものに置き換えることができる権利のこと

だ。なぜ、XPプリインストールPCを販売するためにダウ

ングレード権が必要なのかというと、ダウングレード権を

行使すること以外の方法で入手したXP搭載PCの販

売を、マイクロソフトは昨年6月以降、ネットブック以外で

は認めていないからだ。

 今回の情報を発信したTechARP.comは、過去に

はWindows Vista Service Pack(SP)1のリリース日

を見事的中させるなど、マイクロソフトの動向予測には

定評のあるサイトである。

 そんなTechARP.comに掲載された情報であるだけ

に、ダウングレード権延長にまつわる情報の信憑性は

高いと言わざるをえない。その後、別のメディアが「ヒュ

ーレット・パッカード(HP)が、XP搭載PCの新製品を

2010年4月まで販売する許可をマイクロソフトから得た」

と報じたことも、情報の信憑性を裏付けた。

ダウングレード後のロゴは「Vista」か「XP」か

 TechARP.comは、独自に入手したとする“メモ”を

引用しながら、新たなダウングレード・オプションの内容

に言及している。

 それによると、新オプションの下では、Windows 7の

正式リリース日から6カ月間、XP Professionalプリインス

トールPCの新製品を販売することが認められる。ただ

し、そのPCにはVista BusinessまたはVista Ulti

mateの物理メディアが添付されていなければならない。

これは、XPへのダウングレード権が、これら2つの

Vistaエディションのユーザー・ライセンスに含まれている

ためである。

 また、PCベンダーがXPプリインストールPCを販売す

る際には、新たな規定に基づいて、当該マシンに「XP

Windows 7でもXPへのダウングレード権は引き継がれる?!Windows 7登場後のOSライセンスの動向を予測する

マイクロソフトの思惑に反して、いまだに遅々として進まないWindows XPからVistaへの移行。これに業を煮やした同社は、VistaプリインストールPCにXPへのダウングレード権を付与するという苦肉の策を打ち出して、ユーザーをつなぎ止めようとしている。そうしたなか、こうした状況がWindows 7でも起きるのに備えて、Windows 7からXPへのダウングレード権を提供することをマイクロソフトが決定したという情報が、インターネット上で流された。そこで本稿では、XPダウングレード権の“行方”と、XPに対するマイクロソフトのスタンスを探ってみたい。

グレッグ・カイザー Computerworld米国版

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July 2009 Computerworld 9

搭載PC」と明記する必要があるという。

 TechARP.comによれば、すでにマイクロソフトは、

「当社の規定を満たすには、『Windows XP Profe

ssional(Windows Vista Businessのダウングレード権

により利用可能)』というような内容を必ず表記するこ

と」といった指導をPCベンダーに行っているそうだ。加

えて、こうしたPCには、上述したようにVistaの物理メ

ディアが付属することになるが、Vistaロゴの記載は禁

止されるという。

 これが事実だとすれば、搭載OSの表記に関する現

在のマイクロソフトの方針とは180度異なることになる。

同社は現在、PCベンダーがユーザーの要望に応じて

Vistaの代わりにXPをPCにプリインストールして出荷

することを認めているが、それらのPCには、「Vista搭

載PC」と表記することを義務づけているからだ。たとえ

XP搭載PCであっても、なるべくその事実は隠し、代わ

りにVistaを全面に押し出すというのが、同社のこれま

でのやり方だったのである。

Windows 7でも、Vista同様のダウングレードが可能に

 TechARP.comが入手したメモには、Windows 7に

付属することになるダウングレード権についての詳しい

情報が記されているようだ。

 その情報によると、Windows 7の場合、ハイエンド

の2つのエディション(ProfessionalとUltimate)にのみ

ダウングレード権が付与されるという。これは、最も高価

な2つのエディションにダウングレード権を付与している

Vistaと同じである。

 このダウングレード権を利用すれば、Windows 7プリ

インストールPCにおいて、VistaもしくはXP Profe

ssionalへのダウングレードが行えるというのである。ま

た、現行のVistaプリインストールPCと同様、PCベンダ

ーが顧客の要望に応じてダウングレード権を代行するこ

とも可能だという。さらに、Windows 7のダウングレード

権の利用可能期限も、Vistaと同様、Windows 7の

一般発売から6カ月後になるとされる。

 実は、当のマイクロソフトも、VistaまたはXPへのダウ

ングレード権をWindows 7で提供することを暗に認めて

いる。同社広報担当者は、Windows 7のダウングレー

ド権に関し、電子メールで次のようにコメントしている。

 「当社が、直前バージョンより古いバージョンのOSへ

のダウングレード権を提供した例は過去にもある」

 これは、Windows 7の場合は、1世代前のVistaだ

けでなく、2世代前のXPへのダウングレードも可能にな

ることをほのめかしたものと受け取ることができる。

 ただし、Windows 7→XPへのダウングレード権に関

しては、TechARP.comの見方は異なる。同サイトで

は、今のところマイクロソフトはWindows 7でもXPへの

ダウングレード権の提供を決めているものの、いずれ方

針を転換し、最終的にはVistaへのダウングレード権し

か認めなくなるだろうとの見通しを示している。

ダウングレード権延長の裏にある“XP人気"

 これまでもマイクロソフトは、新OSリリース後の一定

期間に限ってダウングレードを認めてきた。しかし、XP

へのダウングレードについては、その期限をたびたび延

長するなど、かなり異例な対応がとられている。つい先

日も、同社はPCベンダーに対して、ダウングレード権を

行使する際に必須となるXPの物理メディア(インストー

ル/リカバリDVDメディアなど)を今年7月まで入手でき

るようにすると伝えている。

 もし今回のTechARP.comの予測が正しければ、

XP物理メディアの提供期限は、今年7月からさらに延

長されることになる。

 いずれにせよ、XPへのダウングレード権がちまたで

取りざたされているのは、いわゆる“XP神話”がユーザ

ーの間で根強いことの表れでもある。いろいろと問題

の多いVistaはもちろんのこと、そのVistaの欠点を克

服して登場すると言われるWindows 7ですら、多くの

ユーザーにとっては、「いざとなったらXPにダウングレー

ドできる」という“保険”が付かないことには安心できな

いものなのかもしれない。

マイクロソフトの動向を追い続ける「TechARP.com」サイト

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Computerworld July 200910

アプリ開発者のフィードバックを生かす

 「Google App Engine」はクラウド・コンピューティング

向けのWebアプリケーション開発・運用環境である。昨

年3月に発表され、翌4月のプレビュー版公開を経て、

5月から本格的なサービス提供が開始された。これと同

様のサービスとしては、アマゾン・ドットコムの「EC2

(Elastic Compute Cloud)」がある。

 当初、App Engineがサポートするプログラミング言

語はPythonだけだった。そのため、ほかの言語もサポ

ートするよう、多くの開発者からグーグルに要望が寄せ

られていたという。今回のJavaサポートは、そうした声に

グーグルがこたえたかたちだ。グーグルのGoogle App

Engine担当技術責任者であるケビン・ギブス氏は、同

社公式ブログに4月7日付けでこう記している。

 「本日行われた開発者向けイベント『Google Campfire

One』(写真 1)で、(開発者)コミュニティと社内からの

フィードバックに基づいて開発されたApp Engineの新

機能を発表した。これらの機能により、既存技術と

App Engineとの連携が容易になる」

必須だったJavaのサポートEclipseプラグインも提供

 今回の機能強化の意図は、ギブス氏の言葉を借り

れば「あらゆるアプリケーション開発者にApp Engineの

インフラストラクチャを提供すること」にある。だとすれ

ば、Javaのサポートは必須であったに違いない。Java

の普及度を考えれば、サービス提供から1年経過した

時点でのJavaサポートは、遅きに失したと批判を受けて

もしかたがないほどだ。

 App EngineにおけるJavaサポートの内容は、JRE

(Java Runtime Environment)の搭載、Ajaxアプリケ

ーション・コンパイラ「Google Web Toolkit 1.6」との統

合、統合開発環境「Eclipse」に対応したプラグインな

ど多岐にわたっている。

 にもかかわらず、App EngineがサポートするJavaク

ラスに関しては、早くも見直しを求める声が上がってい

る。詳細は後述するが、Javaコアクラスのサブセットの

みをサポートしている点が問題視されているのだ。

DBのインポート機能やアクセス管理機能も追加

 Javaサポート以外の強化点としては、データベースの

インポート/エクスポート機能、ファイアウォール内にある

データへのアクセス機能、指定した時刻にコマンドを実

行するデーモン「Cron」のサポートなどが盛り込まれて

いる。

 また、オンプレミス・データへのアクセスを集中管理す

るための「Google Secure Data Connector」や、数

登場から1年、「Google App Engine」がようやくJavaをサポートサンのオープンソース責任者は「サブセットのみのサポートは過ち」と批判

グーグルは今年4月、クラウド・サービスの開発・運用環境「Google App Engine」でJavaをサポートしたことを明らかにした。昨年3月の発表時にはPythonのみのサポートだったが、それからおよそ1年を費やして、プログラミング言語として広く浸透したJavaにようやく対応した格好だ。ただし、Javaの生みの親であるサン・マイクロシステムズの幹部は、今回のJavaサポートを不十分だとして、早急に改善するようグーグルに求めている。

ポール・クリル/InfoWorld米国版 クリス・カナラカス/IDG News Serviceボストン支局

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July 2009 Computerworld 11

GBのデータをApp Engineに移動させるためのデータ・

インポート・ツールも新たに搭載された。

 アプリケーションの拡張や分配にまつわる管理面で

の負担を軽減することが、こうした新機能の目的だ。

「App Engineを使用している開発者が、今後も最大

限能力を発揮し、ユーザーの喜ぶサービスを提供でき

るよう機能を追加していく」とギブス氏は語っている。

 グーグルはこの半年で、50近いプロジェクトや機能

をApp Engineに追加した。その中には、各地に分散

しているコミュニティが特定のテーマについて投票できる

「Google Moderator」なども含まれている。

不十分なJavaサポートをサン幹部が批判

 とりあえずベータというかたちでツールをリリースし、ユ

ーザーからのフィードバックを基に改良していくというの

が、グーグルのやり方である。そういう意味では、今回

のApp EngineにおけるJavaサポートも、同社が言うよ

うに“初期の姿”にすぎないのかもしれない。

 しかし、10年にわたってJavaの互換性維持に尽力

してきたサン・マイクロシステムズにとっては、Javaがそ

のように扱われるのは許し難いことだったようだ。サン

でチーフ・オープンソース・オフィサーを務めるサイモン・フ

ィップス氏は、4月11日付けのブログ・エントリーにおい

て、JavaコアクラスのサブセットのみをApp Engineでサ

ポートしたグーグルを「過ちを犯した」と批判した。

 「Javaへの当社の関与についての賛否はどうあれ、

Javaの互換性確保は、これまで10年にわたって、わ

れわれすべてに大きな恩恵をもたらした。アプリケーショ

ン開発者がすべてのJavaコアクラスをすべてのプラット

フォームで確実に利用できることも、互換性が維持され

ているからこそだ。Javaプラットフォームのコアクラスのサ

ブセットを作ることが禁じられてきたのは、非常に理にか

なっている。このルールを平気で無視するのは横暴で

あり、無責任だ」(フィップス氏)

 フィップス氏はTwitterへの投稿でもこの問題を取り

上げ、Javaの互換性をないがしろにする行為だとして、

サポート内容を見直すようグーグルに求めている。とは

いえ、こうした意見は非公式のものであり、同氏として

は、グーグルに圧力をかけるつもりはないようだ。

 「これは、私がサンを代表してコメントできることでは

ない。私の個人的なコメントは、ひとえに私とJavaとの

長いかかわりから出てきたものだ」(フィップス氏から寄

せられた電子メールより)

現時点のJavaサポートはあくまで初期フェーズ

 現時点でApp Engineアプリケーションがアクセスでき

るJavaクラスについては、グーグルが公開しているWeb

ドキュメントに示されている。また、「Will it play in

App Engine」と題したWebページには、App Engine

と互換性のあるJavaツールおよびフレームワークのリスト

が掲載されている。

 今後はこうしたリストにサポート・クラスやツールなどを

追加していく、というのがグーグルの考えなのかもしれ

ない。Javaをサポートすると発表したとき、グーグルは

「App EngineによるJavaサポートの初期の姿を披露す

る」と述べ、App EngineのJava環境を試用するよう、

1万人規模の開発者に呼びかけているからだ。

 グーグルの広報担当者も、App Engineにおける現

時点のJavaサポートはあくまで最初のフェーズにすぎな

いことを強調する。

 「われわれはJava 6ランタイム環境を安全なサンドボ

ックスで提供している。App Engineとともにできるだけ

多くの一般的なJavaツールおよびフレームワークを利用

できるようにするために力を注いだ。(今後は)開発者

からのフィードバックを収集し、製品を改良していこうと

考えている」(広報担当者)

写真1:Google App Engineのリリース1周年を記念して開かれた「Google Campfire One」の様子

登場から1年、「Google App Engine」がようやくJavaをサポートサンのオープンソース責任者は「サブセットのみのサポートは過ち」と批判

グーグルは今年4月、クラウド・サービスの開発・運用環境「Google App Engine」でJavaをサポートしたことを明らかにした。昨年3月の発表時にはPythonのみのサポートだったが、それからおよそ1年を費やして、プログラミング言語として広く浸透したJavaにようやく対応した格好だ。ただし、Javaの生みの親であるサン・マイクロシステムズの幹部は、今回のJavaサポートを不十分だとして、早急に改善するようグーグルに求めている。

ポール・クリル/InfoWorld米国版 クリス・カナラカス/IDG News Serviceボストン支局

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Computerworld July 200912

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Webブラウザ対応Officeは2010年の出荷を予定

 「Microsoft Off ice」の次期バージョンとなる

「Office 14」(開発コード名)では、Webブラウザ上でも

利用でき、なおかつフル機能を備える軽量バージョンの

「Word」「Excel」「PowerPoint」「OneNote」が提供

される。

 「Office Web Application」と呼ばれるWebブラウ

ザ対応バージョンのOfficeは、現在、アルファ・テストが

進行中であり、今年後半にはベータ・テストが行われる

見通しだ(画面1)。ただし、このWebバージョンの正式

版が出荷されるのは、Office 14のデスクトップ・バージ

ョン(パッケージ・ソフト版)が完成してからのことになると

いう。ちなみに、米国マイクロソフトのCEO、スティーブ・

バルマー氏は、今年 2月、Office 14の出荷時期を

「2010年以降になるだろう」と述べた。

  Office Web Applicationは、マイクロソフトが推進

する「ソフトウェア・プラス・サービス」戦略の一環として

提供されるが、同時に、Webベースのオフィス・アプリケ

ーションを提供するグーグルやゾーホー、あるいは無償

オフィス・スイート「OpenOffice.org」などの脅威に対す

る、遅まきながらの対抗策とも位置づけられる。すでに

マイクロソフトは無料サービスである「Office Live

Workspace」を介して、ユーザー間でOffice文書を共

有/閲覧できる環境を提供しているが、実際のところ

この仕組みは企業ユーザーにはほとんど支持されてい

ない。

Linuxネットブックでも利用可能に

 現行のOfficeユーザーを少しでも多くつなぎ止める

べく、マイクロソフトはOffice Web Applicationを

「Firefox」や「Safari」など、同社の「Internet Ex

plorer」以外のブラウザにも対応させることにしている。

 Firefoxブラウザを介して、Microsoft Officeが

Linuxマシンで動作するようになるということは、今後、

LinuxベースのネットブックやスマートフォンでもOfficeが

利用できるようになる可能性があるということである。

 米国の調査会社NPDグループによると、Linux搭

載ネットブックは現在、ネットブック市場の10%を占めて

いるという。今後、そのシェアが拡大することになれば、

OSというマイクロソフトの収益源は縮小せざるをえなく

なる。だが、Webアプリ版Officeを提供するようになれ

ば、少なくともオフィス・アプリケーションのシェアは確保

することができるのだ。

Web版のオフィス・アプリはもはや無視できない存在に

 米国のコンサルティング会社ザ・エンダール・グルー

マイクロソフトが「Office」をSaaS化しなければならない理由Google Docsへの対抗、そしてLinuxネットブックへの対応を考えたうえでの結論か

マイクロソフトは、「Microsoft Office」の次期バージョン「Office 14」を、パッケージ・ソフトウェアとしてだけでなくWebアプリケーションとしても提供することを決めた。Windows OSとともに同社の「稼ぎ頭」となっているOfficeの販売戦略を、なぜいま大々的に転換しなければならないのか。本稿では、「Office Web Application」と呼ばれるWebブラウザ対応Officeの提供に踏み切ることを決めた、マイクロソフトの「真意」を探る。

シェーン・オニール CIO.com

Page 11: Computerworld.JP Jul, 2009

July 2009 Computerworld 13

プで社長兼アナリストを務めるロブ・エンダール氏は、

「Officeをオンライン化するという決断を下すのは、マイ

クロソフトにとって生やさしいことではなかったはずだ」と

分析する。Webアプリとして提供することになれば、パ

ッケージ版Officeとの競合は避けられないからである。

 「マイクロソフト社内でも、きっと大きな議論を呼んだ

に違いない。市場がSaaSやWebアプリの方向に進ん

でいることはわかっていても、既存の収入源(パッケー

ジ版Office)と共食いになる可能性や、製品の人気が

出ない可能性も考えなければならなかったからだ」(エ

ンダール氏)

  マイクロソフトにとって、Google DocsなどのWebオ

フィス・アプリケーションがビジネスに及ぼす影響は、実

際には微々たるものにすぎない。調査会社フォレスター・

リサーチの最新調査によると、北米の成人ユーザーの

うち、Webメールを利用しているユーザーは84%もいる

のに対し、Google Docsを使っているユーザーはわず

か3%にとどまっている。

 それでも、フォレスターのアナリスト、ネイサン・サフロン

氏によると、オンラインのオフィス/プロダクティビティ・ツ

ールは今後の成長が期待される分野であり、ユーザー

もWebベースのメールや無料ソフトウェアの使い勝手の

良さに気づきつつあるという。

 さらにエンダール氏は、「Linuxには不安を感じてい

る消費者やビジネス・ユーザーも、安価で信頼できるブ

ランドのOS、つまりAndroid搭載のネットブックが提供

されるようになれば、おそらく態度を変えてくるのではな

いか」と指摘する。

 こうした時代変化の中で、OfficeをWebに対応させ

ようというマイクロソフトの決断が、大きな意味を持つの

は確かだ。とりわけ、Linuxネットブック(やAndroidネッ

トブック)でもOfficeが動作するという事実は、今後ネッ

トブックが市場規模を拡大し、企業への浸透を進めて

いくうえで、大きな助けとなろう。

 なお、Google Docsと同じように、Office Web

Applicationも完全に無料で提供されるかどうかは、今

のところ明らかになっていない。ただし、これまでの情

報によると、個人ユーザー向けには広告付きの無料版

と、サブスクリプション方式の有料版の両方が提供され

る模様だ。また、企業ユーザーに対しては、既存のボリ

ューム・ライセンス契約に基づいて、ホスティング形式の

サブスクリプション・サービスが販売される見込みである。

ちなみに、価格に関しては、現時点では何も発表され

ていない。

画面1:「Office Web Application」では、ご覧のように、ExcelもWebブラウザ上で動作する

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4

Computerworld July 200914

5

日本法人の設立で本格参入を果たす

 米国パロアルトネットワークスは“次世代ファイアウォー

ル”を売りとするセキュリティ専門のベンダーである。今

年4月、同社は日本法人を設立し、日本市場への本格

参入を果たした。

 パロアルトネットワークスのセキュリティ・ゲートウェイ製

品は、近年人気の高い「UTM(統合脅威管理)」製品

と同等以上のセキュリティ対策機能を持つことが特徴

だ。しかし、そんな自社製品を同社は決してUTMと呼

ぼうとはしない。

 その理由は何か、そして何が次世代ファイアウォール

なのか。同社社長兼CEO(最高経営責任者)のレーン

M.ベス氏に話を聞いた。

従来のUTMとは異なるPAシリーズの特徴

──“次世代ファイアウォール”について説明していただきたい。 一般的なファイアウォールは、ポートやプロトコルによ

って通信を判別して制御する。しかし、攻撃パターンの

多様化・多彩化が進む今日、そうした防御方法だけで

はセキュリティ対策は十分ではないと、だれもが感じて

いるだろう。

 アンチウイルスやIPS(侵入防御システム)、メール・

フィルタリングなどの機能を追加したUTM製品が登場

し、人気を博している背景には、こうした現状がある。

しかし、現行のUTM製品で注意していただきたいの

は、それが既存のファイアウォール製品に機能を後付け

したものにすぎないということだ。だから、そのパフォーマ

ンスや制御には限界がある。

 当社は、グローバル時代に必要とされるファイアウォ

ールを一から作ることを目的に、ネットスクリーンやチェッ

ク・ポイント・ソフトウェア・テクノロジーズの技術者が集ま

って2005年に設立した会社だ。ファイアウォールに他

のテクノロジーを追加するのではなく、ファイアウォール

自体に新機能を持たせることを目指したのだ。そして、

これが“次世代ファイアウォール”だ──パロアルトネットワークスが説く

「UTMとの違い」アプリ、ユーザー、コンテンツの可視化・制御でセキュリティを確保

今年4月に日本法人を設立した米国パロアルトネットワークスは、自社のセキュリティ・ゲートウェイ製品がUTM(統合脅威管理)と呼ばれるのに強い抵抗があるようだ。同社の製品は機能的にはUTMと同等、あるいはそれ以上だが、あくまで“次世代ファイアウォール”だというのが同社の主張なのである。

編集部

米国パロアルトネットワークスの社長兼CEO、レーン M.ベス氏

Page 13: Computerworld.JP Jul, 2009

July 2009 Computerworld 15

“次世代ファイアウォール”と位置づけた「PAシリーズ」

を開発するに至った。

──PAシリーズのセキュリティ機能はどのようなものなのか。 PAシリーズのセキュリティ機能は、通信状況の徹底

した「可視化」と「制御」によって実現されており、これ

らの管理を「統合」している点が大きな特徴だ。

 通信の可視化とは、すなわちアプリケーションの可視

化のことだ。PAシリーズでは、800以上のアプリケーシ

ョンを、名前、カテゴリー、技術によって定義・検索する

ことが可能であり、この情報を基に通信を制御すること

ができる。しかも、こうした識別は、ポート番号やプロトコ

ル、SSL暗号などの秘匿技術には関係しない。

 (PAシリーズで)識別可能なアプリケーションとして

は、Gmail、Salesforce.com、SAP、BitTorrent、

Winny、Skype、YouTube、ニコニコ動画、2ちゃんね

る(閲覧/書き込み)、宅ファイル便、mixi、アメーバブ

ログというように、さまざまなものがある。また、PAシリー

ズを介するすべてのアプリケーション通信には、識別子

「App-ID」を必ず付与する。

 マイクロソフトのActive Directoryと連携して、IPア

ドレスとユーザー/所属グループを動的にマッピングで

きるという点も、PAシリーズの特徴だ。これにより、各

ユーザーには「User-ID」が付与されることになる。

 ネットワーク上のさまざまな脅威に対しては、不正なフ

ァイルやデータ、マルウェア、危険なURLを識別し、

「Content-ID」を付与することで制御することができる。

PAシリーズの場合、これらのシグネチャ・データを統合

し単一エンジンでスキャニングを実行するため、リアルタ

イムに高速検索が可能だ。

 こうしたApp-ID、User-ID、Content-IDを使って、

アプリケーションや利用ユーザー、通信の内容を可視

化すれば、あとはポリシーに沿って制御を行うだけだ。

 例えば、営業部のユーザーにはビジネス・アプリケーシ

ョンと最低限のWebアクセスを許可するとしよう。これ

に対して企画部のユーザーには、情報収集のために

ほぼすべてのWebアクセスを許可するが、業務に影

響を与えるであろうニコニコ動画の閲覧や2ちゃんねる

への書き込みは禁止する、といった具合だ。

 PAシリーズの最後のポイントは、新しいハードウェア・

アーキテクチャである「Single Pass Parallel Process

ing」(SP3)を採用したことだ。これにより、データ処理

やリポーティングなどのサービスを、パフォーマンスを劣化

させることなく実行できるようになった。機能を追加す

ればするほどパフォーマンスが劣化していた従来の

UTMとは、この点でも大きく異なる。

市場に新風を吹き込む次世代ファイアウォール

──セキュリティ・ゲートウェイ市場の現状をどう見ているか。 現在の市場をわれわれはチャンスととらえている。な

ぜなら、景気低迷の影響もあり、アプリケーションの適

切な制御とコストの削減を両立させることが、あらゆる

企業にとって急務となっているからだ。

 ファイアウォールとその他のセキュリティ対策とが分離

されているとしたら、それぞれに管理が必要となる。こ

れは、どのUTM製品でも同じだろう。これに対して、も

ともとアプリケーションの可視化と制御を主要機能とす

る当社のPAシリーズは、当然ながら管理は1つだ。

 当社の“次世代ファイアウォール”は、セキュリティ・ゲ

ートウェイ市場に新風を吹き込むことになると確信してい

る。おそらく今後は、ほかのセキュリティ・ベンダーも、わ

れわれの製品に追従してくるだろう。しかしそのときに

は、当社はさらに一歩先を走っているはずだ。

 日本はポテンシャルの高い市場ではあるが、一方で

要求レベルが高く難しい市場であることも十分に理解

している。日本法人を設立したことで、ネットワンシステ

ムズや日立システムといった販売パートナーとの連携を

さらに強化し、より品質の高いサービスを提供していく

所存だ。

パロアルトネットワークスが“次世代ファイアウォール”と位置づける「PAシリーズ」

Page 14: Computerworld.JP Jul, 2009

5

Computerworld July 200916

5

「超事前発表」でライバルを出し抜いた「iPhone」

 新しいアイデアとエゴとがぶつかり合う技術者のま

ち、シリコンバレー。そこでは、だれが何を考案したのか

を正確に思い出すことは困難だ。商品化には程遠い

テクノロジーを発表する企業が存在する一方で、他社

が考案したテクノロジーを商品化してしまう企業もある。

そして、それが激しい「闘争」に発展することもしばしば

だ。

 その格好の例が、アップルの「iPhone」である。

 2006年、複数のメーカーが新しいアイデアを盛り込

んだ新型の携帯電話をリリースする予定であることが明

らかになった。それは、それまでの小さな画面に数字

/アルファベット・キーが付いたスタイルを一新し、フルワ

イドの画面のみで、入力ボタンはタッチスクリーンというソ

フトウェアの一部として組み込むというアイデアだった。

 実は、アップルも、この新しいアイデアを製品化しよう

としているメーカーの1社にすぎなかったのである。い

や、それどころか、アップルは某アジア・メーカーに先を

越されようとしていた。その劣勢を跳ね返すべく、アッ

プルは思い切った手に打って出た。それこそが、同社

CEOスティーブ・ジョブズ氏による「超事前発表」だっ

た。

 ジョブズ氏は2007年1月に開催された「Macworld

Conference & Expo 2007」において、「iPhone」の

全貌の公開に踏み切った。発売予定日まで、まだ半

年近くも残されていたにもかかわらず、である。

 この作戦は見事に成功した。iPhone発売までの期

待感の高まりと発売後の大フィーバーで、ジョブズ氏の

発表以来、アジア・メーカーの製品の存在感はすっか

りかすんでしまったのである。

 今や、フルワイドのタッチスクリーン携帯電話と言え

ば、だれもがiPhoneを思い浮かべるだろう。IT(特に

モバイル・ガジェット)の動向にそれほど詳しくない人は、

このタイプの携帯端末を最初に考案したのはアップル

であり、その他のメーカーの製品は、すべてiPhoneの

「パクリ」だと思っているはずだ。

究極のネットブック登場!?

 時は流れて今年の3月17日、新型携帯端末市場で

の地位を不動のものとしたアップルは、「iPhone 3.0」

とそのSDK(ソフトウェア開発キット)の発表会を大々的

に開催した(写真 1)。実は、それ以前から「アップル・

ネットブック」の登場をめぐってはうわさが飛び交ってお

り、3月17日の発表会ではきっとジョブズ氏の決まり文句

「one more thing(もう1つ)」が飛び出す(そして「アッ

プル・ネットブック」が発表される)だろうと期待されてい

た。実際には「one more thing」はなかったものの、そ

れでユーザーの大きく膨らんだアップル・ネットブックへ

「幻のPocket Yoga」で、「アップル・ネットブック」対抗をぶち上げたレノボ

「iPhone」の恨みを「Pocket Yoga」で晴らす?!

市場が「アップル・ネットブック」登場への期待で盛り上がるなか、レノボは商品化されるかどうかも決まっていない「Pocket Yoga」の写真をリークした。この両社の動きには、一見何の関連もなさそうに見える。しかしながら、この2つの「事件」は、どうやら1本の線でつながっているようなのだ。ネットブックという、いま最もホットな市場を巡って、ライバル企業の「虚々実々の駆け引き」が繰り広げられている。この「駆け引き」は、遠く2007年1月の「iPhone」の「事前発表」に端を発するというのだが……。Pocket Yogaを巡るレノボの思惑と、まだ見ぬアップル・ネットブックの影を追った。

マイク・エルガン Computerworld米国版

Page 15: Computerworld.JP Jul, 2009

July 2009 Computerworld 17

の期待がしぼんでしまうことはなかった。

 かつてアップル(iPhone)にしてやられたアジア・メー

カーの1社である中国のレノボから、驚くべき「ネットブッ

ク」の写真が「流出」したのは、ちょうどそのころのことだ

った(次ページの写真2)。

 「Pocket Yoga」と呼ばれるこのネットブックは、写真

が人々の目を驚かせた当初は、発売間近の製品とい

う触れ込みだった。しかし、その後、実際には製造予

定のない2年前のコンセプトにすぎないことが(ブログや

さまざまなメディアを通して)明らかになった。

 アップル初のネットブックの発売が現実味を増すなか

で、なぜ2年も前の試作品が、しかもこのタイミングで

「流出」したのだろうか。「真相」が気になるのは、ひと

り筆者だけではあるまい。

 ここから先はあくまで筆者の推測になるが、ひょっとし

たら、アップル・ネットブックはレノボのPocket Yogaに

酷似しているのではないだろうか。そして、事前にそれ

を知ったレノボが、「この斬新なアイデアとデザインは、

自分たちが最初に考えたんだ」ということを主張しようと

思った。たぶん、いま主張しておかなければ、アップル

の功績になってしまうぞと考えて……。

注目に値するPocket Yogaの斬新さ

 レノボのPocket Yogaには、革新的な特徴が3つあ

る。

 1つ目は、大半のネットブックのように本体の形状を

画面サイズに合わせるのではなく、キーボードの形状に

合わせて全体のデザインを最適化していることだ(次ペ

ージの写真3)。

 通常のネットブックでは従来型の画面寸法を採用し

ているため、キーボードの横幅がかなり狭く、その手前

にムダなスペースがあることが多い。それに対し、

Pocket Yogaのスクリーンは、キーボードと同じ大きさの

ワイド・サイズで、縦に短い。その結果、デバイス本体は

ポケットの幅には収まるものの、上方向に飛び出す格

好になる。

 このスタイルは、今年1月にリリースされたソニーの「VAIO

type P」と似ている。

 2つ目は、ヒンジ部分が360度回転し、タブレットPC

としても利用できるところ。ペン入力を想定しており、既

存のコンバーチブル型タブレットPC(タブレットPCとして

も利用できるノート・パソコン)よりもずっと小さい。

 最後の3つ目は、筐体のベルトがワイヤレス・マウスに

なる点だ。

想定されるアップル・ネットブックの姿

 筆者は、レノボがPocket Yogaを発売することはな

いと見ている。なぜなら、このような小さなデバイス(写

真からの推測でしかないが)にVistaを搭載するのは

現実的ではないし(VAIO type PはVistaを搭載して

いるが……)、製造コストがかかりすぎると思われるから

だ。

 現実に、Pocket Yogaのような超小型PCでVista

を搭載している機種は、Windows XP Home Edition

搭載機種と比較すると、かなり苦戦している。その理

由としては、パフォーマンスの悪さと価格の高さが挙げ

写真1:「iPhone 3.0」の発売は今年夏ごろだが、発表は3月半ばに行われた写真はアップルのWebサイトより

Page 16: Computerworld.JP Jul, 2009

Computerworld July 200918

られる。

 一方、Pocket Yogaがもしも本格的なデスクトップ

OSではなく「iPhone 3.0を搭載したデバイス」という方

向を選択するとすれば、満足のいくパフォーマンスと販

売価格を実現することができ、極めて魅力的なガジェッ

トに仕上がるはずだ。アップル・ネットブックが狙うのは、

おそらくこの路線なのではないか。

 Pocket Yogaがより薄型になった姿を想像していた

だきたい。USBポートは搭載しないものの、Bluetooth

とWi-Fiに対応し、キーはMacBookのキーボードのよう

な、少し丸みを帯びた四角形にする。スクリーンを回転

させればiPhoneやiPod touchとまったく同じように、

指で操作することもできる(Pocket Yogaが想定してい

るペン・タッチはもう古い)。

 また、Macのアプリケーションは動作しないものの、代

わりにiTunes App StoreからダウンロードしたiPhone

のアプリケーションを使用することができる。インターネット

には Wi-Fi 経由で接続するか、そうでなければ

iPhoneのモバイル・ブロードバンド(3Gネットワーク)を利

用してもよい。

 ……と、筆者の頭の中で勝手に「創造」してしまった

が、アップルなら、このようなタイプのネットブックをリリー

スする可能性は十分にある。もしそうなれば、熱心なア

ップル支持者やiPhoneファンは、こぞってそれを買い

求めようとするはずだ。

 同時に、アップルがこうしたデバイスをリリースすること

で、新しい市場が誕生することも十分に考えられる。実

際、iPhoneは使いやすい(と筆者は感じている)から、

iPhoneライクに使えるネットブックは、子供からお年寄り

まで、はたまた出張で飛び回るエグゼクティブから、ハリ

ウッド関係者、ガジェット・マニア、学生に至るまで──

つまり、ありとあらゆる人にとって、理想的なデバイスと

なるはずだ。

*  *  *

 アップルやレノボのような企業は、競合他社の動きを

敏感に察知する。彼らは、互いに同じサプライヤーや

パーツ・メーカーを利用したり、競合会社に勤務してい

た従業員を引き抜いたりしている。そうした環境には独

自のネットワークがあり、企業の垣根を越えて情報がや

り取りされているものだ。

 そういったことから考えれば、アップルがどんなネットブ

ックをリリースするつもりなのかを、レノボが正確に把握

している可能性は高いだろう。したがって、今回レノボ

がPocket Yogaを「あえて流出させた」のは、ネットブッ

ク分野における自社の革新的アイデアを誇示したかっ

たからではないだろうか。

 ひょっとしたらその裏には、アップルがPocket Yoga

と酷似した製品をリリースしたら、同社を知的財産権侵

害のかどで訴えようというレノボの戦略が隠されている

のかもしれない。あるいは、アップル・ネットブックの対

抗馬となる改良版Pocket Yogaの発売を本気で考え

ており、そのアイデアを(だれかに発表される前に)「先

駆けリーク」というかたちで世間に公表しようとしたのか

もしれない。

 どの答えが正しいかはいずれわかることになる。筆者

はPocket Yogaに関する情報リークは、アップルが今

夏に発表するであろう大ニュースの「プロローグ」のよう

な気がしてならないのだが……。

写真3:Pocket Yogaではキーボードの形状に合わせて全体のデザインが最適化されている

写真2:レノボの「Pocket Yoga」。2年前の試作品と判明したが、はたして試作品のままで終わるのだろうか

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July 2009 Computerworld 19

金購入するかたちで行われる。買収総額は

およそ74億ドルで、サンの保有する現金お

よび負債を勘案した正味の買収額は56億

ドルとなる。サンの株主の承認や規制当局

の認可などを経て、今夏には買収が完了す

る予定。

 発表文の中でオラクルは、サンの買収が

もたらす営業利益(非GAAPベース)を、初

年度15億米ドル以上、2年目20億米ドル

以上と見込んでいる。この予測どおりに推

移すれば、買収初年度に得られる営業利益

は、BEAシステムズやピープルソフト、シー

ベル買収で予定されていた営業利益の合

計額を上回ることになる(表1)。

今夏には買収完了へ

 米国オラクルと米国サン・マイクロシステ

ムズは4月20日、オラクルがサンを買収する

ことで両社が合意に達したことを明らかにし

た。この発表によれば、買収は、オラクルが

サンの株式を1株当たり9ドル50セントで現

IBMによるサン・マイクロシステムズの買収交渉とその決裂が報じられてからわずか数週間後の4月20日、急転直下、今度はオラクルによるサンの買収が本決まりになった。業界再編の波に翻弄されるサンと、先端技術を有する有力IT企業を次々と飲み込んできたオラクル。両社の思惑はどこで一致したのか。そして、ついにはハードウェア・ベンダーまで傘下におさめることになったオラクルの狙いはどこにあるのだろうか。

エリザベス・モンタルバーノ/ IDG News Service ニューヨーク支局   パトリック・チボドー/ Computerworld 米国版

PART1オラクルがサンを買収した狙いはオラクルが手に入れたかったのはJava? MySQL? それともハード?

この4月20日、米国オラクルは、米国サン・マイクロシステムズを買収することで両社が合意に達したことを発表した。データベース/エンタープライズ・アプリケーション界に君臨するオラクルは、サンを買収することによって何を狙おうとしているのか。また、この買収で、サンの保有するさまざまなハードウェア/ソフトウェア資産の将来はどうなるのか。本緊急リポートでは、業界を揺るがすこの大型買収を巡って浮かび上がった、さまざまな疑問に答えていきたい。

オラクルのサン買収を巡る「5つの疑問」に答えます

PART1 オラクルがサンを買収した狙いは? p19

PART2 サンの顧客が抱える「不安」と「期待」の正体は? p21

PART3 オラクルはサンのハードウェア事業を生かせるか? p22

PART4 サンのソフトウェア・サポート料金は値上げされるか? p23

PART5 OracleDBとMySQLは共生できるか? p24

緊急リポート

CONTENTS

Page 18: Computerworld.JP Jul, 2009

Computerworld July 200920

写真1:オラクルのCEO、ラリー・エリソン氏

べたが、その具体的な方策について触れる

ことはなかった。

サンのシュワルツCEOは「今までどおり」を強調

 発表当日の電話会見には、サン側から共

同創業者兼会長のスコット・マクニーリ氏と、

社長兼CEOのジョナサン・シュワルツ氏も

参加した(写真2、3)。

 だが、エリソン氏とは異なり、両氏はあらか

じめ用意された声明文を読み上げただけだっ

た。マクニーリ氏は「オラクルに買収されるこ

とになってワクワクしている」とコメントしたが、

やや取って付けたような印象だったし、両氏

に対しては質疑応答の時間も設けられなか

った。

 サンの従業員は現在、レイオフの真っ只

中にある。業績不振の続く同社は昨年11

月、従業員の15〜18%に相当する5,000

〜6,000名規模の人員削減計画を発表し

た。今回の買収によって、社員が今後さらに

深刻な事態に直面することも考えられる。

 買収発表当日、シュワルツ氏はサンの社

員あてに、今回の件について説明した電子

メールを送付した。シュワルツ氏自身が「これ

まで書いたメールの中で、最も難しかったも

のの1つ」と認めているとおり、メールの文面

からは、どう説明すれば社員に納得してもらえ

るかに腐心した様子が如実にうかがえる。

 だが、シュワルツ氏自身は、そのメールの

中で、今回の買収が「サンの終焉」を意味す

 今回の発表のわずか数週間前には、米

国IBMとサンとの水面下での買収交渉とそ

の決裂が報じられていた。オラクルによるサ

ン買収のうわさもあったが、サンが大きな「資

産」を持っているハードウェア分野やサーバ

OS分野の事業をオラクルが手がけていなか

ったために、このうわさの信憑性は疑問視さ

れていた。それだけに、今回の発表は業界

全体に驚きをもって迎えられたと言える。

オラクルが高く評価したのは「Solaris」と「Java」

 オラクルが「サン買収」を決断したのは、サ

ンの資産がオラクルにとって魅力的に見え

たからだ。オラクルのCEO、ラリー・エリソン

氏も、4月20日の電話会見で、買収を決断

した理由の1つとして、サンが「Java」と

「SolarisOS」という2つの重要資産を持っ

ていることを挙げた(写真1)。

 「So la r i sは、市場で提供されている

UNIXの中で最高の技術だと断言できる。

発表日 企業名 主な製品/技術 買収総額

2008/1/16 BEAシステムズ SOA(サービス指向アーキテクチャ)基盤、アプリケーション・サーバ、JVM 約85億ドル

2007/5/15 アジャイル・ソフトウェア PLM(製品ライフサイクル管理) 4億9,500万ドル

2007/3/1 ハイペリオン・ソリューションズ EPM(エンタープライズ・パフォーマンス管理) 約33億ドル

2005/9/12 シーベル・システムズ CRM(顧客関係管理) 約56億5,000万ドル

2004/12/13 ピープルソフト エンタープライズ・アプリケーション群(CRM、ERP、SCMなど) 約103億ドル

表1:オラクルによる近年の主要買収案件。買収価格が非公表のものも含めると、2008年には11件、2007年にも11件の買収が発表されている

実際、OracleDatabaseはさまざまな環境

で運用されているが、その中でも(サンの)

SPARCサーバ+SolarisOSの環境で最も

多く動作している」(エリソン氏)

 また、オラクルにとってはJavaテクノロジー

も重要である。エリソン氏も、「当社のJava

ベース・ミドルウェア『FusionMiddleware』

は、いま最も急成長している事業だ」と証言

している。

 その一方で、エリソン氏は、SPARCプラッ

トフォームに長期的にコミットメントするとの意

思表示は行っていない。また、サンの買収に

よって「購入してすぐに使える構成済みのシ

ステム」(エリソン氏は、「データベースからデ

ィスクまで、完全に統合されたコンピューティ

ング・システム」と表現した)を提供できるよう

になるとは考えているようだが、このシステム

をオラクル・ブランドのハードウェア製品として

販売するかどうかについては明言していない。

 これに対し、複数のアナリストは、「オラク

ルがサンのハードウェア・プラットフォームの

将来性にあまり期待していないとしても、今

回の買収によってSPARCシステムのロード

マップが10年以上延びるのは確実だろう」

と見ている。

 他方、オープンソース・データベースの

「MySQL」など、そのほかのサンの技術につ

いては、4月20日の電話会見で、エリソン氏

は何も言及しなかった。また、オラクルで社

長兼CFO(最高財務責任者)を務めるサフ

ラ・カッツ氏は、「オラクルはサンの収益性を

大幅に高めることができると考えている」と述

Page 19: Computerworld.JP Jul, 2009

July 2009 Computerworld 21

緊急リポート

写真2:サンの共同創業者兼会長、スコット・マクニーリ氏

完了までの数カ月の間、サンがオラクルやエ

リソン氏の影響を受けることなくビジネスを続

けていけるかどうかは疑問だ。

 米国パンドITでアナリストを務めるチャー

ルズ・キング氏は、「エリソン氏が何もせずに

いるはずがない。エリソン氏の統率は非常

に厳しいものになるはずだ」と断言する。

 同氏はまた、両社が密接に協力し合って

事業を進めていけるように、オラクル側が何

らかの指針を示すことになるのではないかと

も見ている。

 「いずれにせよ、エリソン氏はサンの従業

員やパートナーを不安に陥れるようなやり方

でサンを支配することだけは、絶対に避けな

ければならない。サンは独立性を重んじる企

業だ。同社従業員の中には、オラクルという

非自律的な会社でやっていけるのかどうか心

配している人もいるはずだ」(キング氏)

るとは考えていないことを強調している。

 「(オラクルによる買収は)新しい道に進む

ための最初の一歩であると確信している。

(この買収は)われわれと、われわれのイノベー

ションの市場をさらに広げるものであり、われ

われが世の中で果たしてきたさまざまな役割

を確固たるものにするはずだ」(同メールより)

 ただし、同メールでは、サンのテクノロジー

や従業員が今後、オラクルの中でどのように

扱われるかについては、説明がなされていな

い。シュワルツ氏はただ、オラクルによる買

収が完了するまでは「これまでどおり、独立し

てビジネスを続けていく」とだけ記している。

企業文化の異なる両社がうまくやっていくには

 シュワルツ氏が「これまでどおり」を強調す

るように、確かにサンは今後も新しいテクノロ

ジーの発表を予定している。とはいえ、買収

写真3:サンの社長兼CEO、ジョナサン・シュワルツ氏

オラクルによるサン買収のニュースは、当然、サンの既存顧客に大きな衝撃を与えることになった。Java、OpenOffice.org、MySQLデータベースはどうなるのか、そして、サンのハードウェア・サポート体制はどのように変更されるのか。さらには、オラクルとサンという組み合わせから、最終的に何が生まれるのだろうか──。

パトリック・チボドー/ Computerworld 米国版

PART2サンの顧客が抱える「不安」と「期待」の正体はサポート体制はどうなる? そしてMySQLやOpenOffice.orgの開発の行方は?

たって心配なのは、買収によってカスタマー・

サポートにどのような影響が出るかだろう。通

信/インターネット・サービス・プロバイダーの

エンバークでネットワーク技術担当マネジャー

を務めるアルフォンソ・リベラ氏は、サンのカ

スタマー・サポートに対する思いを、次のよう

に打ち明ける。

 「サンのハードウェアの多くは、競合他社

製品よりも割高だ。それでもサンを支持して

いるのは、OSの安定性、ハードウェアの信

頼性、そして傑出したサービスとサポートを高

く評価しているからだ」

 リベラ氏が懸念するのは、「オラクルに買

収されることによって、サンの企業精神が根

底から揺らぎ、優れたサービスとサポートを提

供するというサンのコミットメントにマイナスの

影響が出るのではないかということ」だ。

 「もしサービスとサポートの質が低下すると

すれば、サンのハードウェアに高い料金を支

払う意味がなくなる」(リベラ氏)

十分な説明もないままに取り残されたサンの顧客

 4月20日に行われたサン買収の電話会

見では、買収の理由が簡単に語られただけ

だった。そのため、両社の顧客、とりわけサ

ンの顧客にとっては、多くの疑問と不安が残

ることになった。

 サンのSPARCサーバ+Solarisプラットフ

ォームでシステムを運用している場合、さしあ

Page 20: Computerworld.JP Jul, 2009

Computerworld July 200922

システムでエンタープライズ・コンピューティン

グ・サービス担当マネジャーを務めるスーザン・

ウォーカー氏は、「オラクルによるサン買収

は、エンタープライズIT市場の競争激化に

つながるだろう」と語る。

 「(買収は)サンに新たな道を開くだけでは

ない。オラクルとサンのタッグは、IBMにとっ

て強力なライバルとなりうる。今後、IT業界

の勢力図には興味深い変化が見られること

になるはずだ」(ウォーカー氏)

 一方、ニューコア・スチール・タスカルーサ

のITディレクター、ウィリアム・パターソン氏は、

「オラクルのもとでMySQLなどのサンの技術

が今後どう扱われるようになるかということに

懸念を抱いている。IBMがサンを買収したほ

うがまだ良かったと思う。おそらくIBMのほう

が、サンのソフトウェア(および知的財産)の

よき後見人となっただろう。IBMとの組み合

わせのほうが、(サンは)力を発揮できたはず

だ」と悔しがる。

 また、FCCIインシュランス・グループでシス

テム開発担当スーパーバイザーを務めるバリ

ー・チャン氏は、「サン買収の真の目的と、買

収の“成果物”として開発される今後の製品

についてもっと知りたい」と希望する。

 オラクルのCEO、ラリー・エリソン氏は、

電話会見で「データベースからディスクまで、

完全に統合されたコンピューティング・システ

ムの開発を考えている」と語ったが、チャン氏

は、「エリソン氏の言い方では、OSとDB2デ

ータベースを組み合わせたIBMの『System

i』のようなハードウェアを作っていくことを意味

しているのか、それともまったく新しいものを作

ることを意味しているのかが、よくわからない」

と、ユーザーに情報が十分伝わっていないこ

とに不満を募らせている。

 一方、不動産のサーチ・エンジン開発を

手がけるCLRチョイスのCTO(最高技術責

任者)、アレックス・ウィンゲイアー氏は、「多

くの大手ベンダーがJavaを使用している。ま

た、オラクル自身もJavaに強い関心を持っ

ている。買収後もJavaはある程度守られる

だろう」と指摘する。

 その一方で同氏は、「当社のIT部門のス

タッフは、今回の買収をあまり歓迎していな

い。というのも、オラクルが(サンの資産であ

る)Java、MySQL、OpenOfficeの開発に

注力しなくなるのではないかと見ているからだ」

とも語る。

変貌するIT業界の「勢力図」

 他方、今回の買収を好意的に見る顧客

もいる。セントルーク・エピスコパル・ヘルス・

オラクルは、サンの事業を引き継ぐかたちでハードウェア分野へ参入することになる。問題は、データベースや業務アプリケーションといったソフトウェア分野で強みを発揮してきたオラクルが、サンのハードウェア事業をうまく仕切っていけるかどうかだ。

トム・サリバン/ InfoWorld 米国版

PART3オラクルはサンのハードウェア事業を生かせるかSPARCはいずれOracle DBに最適化されることになる?!

ェアや仮想化、オープンソース、ストレージ、

クラウド・コンピューティングなどの分野にお

けるオラクルの信頼性は、一気に高まること

になろう」

 とはいえ、テクノロジー業界であろうとほか

の業界であろうと、企業買収においては、明

るい将来が期待されていたにもかかわらず期

待はずれに終わった例には事欠かない。例

えば、ミニコン市場の雄であった米国DEC

を買収した米国コンパック・コンピュータのケ

ースなどは、その最たる例だと言うことができ

よう。

オラクルにとっては初のハード事業になるが…

 そもそもオラクルにとって、サンの技術や

製品を自社のポートフォリオに加えるというこ

とは、未知の領域であるハードウェア市場に

足を踏み入れるということを意味する。

 ドットコム・バブルが崩壊した2000年代

初頭以来、サンのハードウェア事業は低迷

を続けてきたものの、同社のサーバはいまだ

に巨大なインストール・ベースを有している。

オラクルはこれからの数年間、こうしたインス

SPARC/Solarisの巨大なインストール・ベース

 米国のコンサルティング会社、インフォメー

ション・テクノロジー・インテリジェンス(ITイン

テリジェンス)のアナリスト、ローラ・ディディオ

氏は、オラクルとサンの合併がもたらす相乗

効果に大きな期待を寄せているとして、次の

ようなコメントを寄せる。

 「今回の買収は、オラクルに足りない部分

を補うという点で、きわめて意義深いものが

ある。サンを獲得することによって、ハードウ

Page 21: Computerworld.JP Jul, 2009

July 2009 Computerworld 23

緊急リポート

プレオティーサ氏だ。

 「今後リリースされるハードウェアは、オラク

ルのデータベースに最適化されたものになる

可能性が高い。少なくとも、ソフトウェアに加

えてハードウェアのトラブルシューティング・サ

ービスも提供されることになるはずだ」(プレオ

ティーサ氏)

 しかし、企業はアプリケーションを細かくカ

スタマイズして利用することが多く、アプライ

アンスを購入してもすぐに使えるようなケース

はまれである。そのため、「ハードウェアとOS

およびアプリケーションのシームレスな連携

を目指す」というオラクルの構想は、そう簡単

トール・ベースを足がかりにして、サンの顧客

に新しいシステムへのアップグレードを働きか

けていくことになろう。

 「そのもうけは膨大だ」と、市場調査会社

IDCの欧州システム部門でコンサルティン

グ・ディレクターを務めるクリス・イングル氏は

言明する。

 また、SPARC+Solarisの組み合わせ

は、OracleDatabaseの主要プラットフォー

ムとしての実績も持つ。こうした関係をさらに

強化することが両社にとって大きな強みとな

る、と指摘するのは、アルコール飲料会社キ

ャッスル・ブランドのITディレクター、アンドレ・

買収によって経営主体と経営方針が変わることで、ユーザーにとって最も直接的な影響があるのは、何と言っても「お金が絡む」分野だろう。その意味では、サンがオラクルに買収されたあとの「ユーザーの最大関心事」は、「サポート料金がどうなるか」であるはずだ。

クリス・カナラカス/ IDG News Service ボストン支局

PART4サンのソフトウェア・サポート料金は値上げされるか観測筋は、「当面は据え置かれるが、いずれは値上げされる」との見方で一致

うだ。

 サンはオープンソース戦略の一環として、

MySQLなどを無償で提供するかたわら、保

守契約を結んだ顧客には有償でサポート・サ

ービスを提供している。一方、オラクルは、

顧客にライセンス料と年間サポート料を請求

するプロプライエタリ・ベンダーである。その

年間サポート料は通常、ライセンス料の22

%となっている。

 だが、レッドマンクのアナリスト、ステファ

ン・オグレーディ氏は、「オラクルがすぐにサン

のサポート契約料金を全面的に引き上げる

ようなことはないだろう」と語る。

 「そうした料金改訂があるとしても、製品ご

とに行われるはずだ。オラクルは、自社製品

に対する顧客の依存度を見極めるのが非

景気後退の中でサポート料金を値上げしたオラクルだけに…

 オラクルによるサンの買収後も、当面はサ

ンのソフトウェア・サポート料金は据え置かれ

る。だが、いずれ値上げは避けられない──

サンのサポート料金の行方については、多く

の業界観測筋がこの見方で一致しているよ

サンのSPARCプロセッサ(SPARC T2)とSPARC Server群

には実現できないかもしれない。

 ITインテリジェンスのディディオ氏は、オラ

クルがハードウェア戦争に勝ち残っていける

かどうかはサンの扱い方いかんにかかってい

ると見る。

 「サンのマーケティング戦略は、数年前か

ら迷走を続けてきたとも言える。だが、それで

も同社の技術はハイレベルだし、サポート力

も優れている。HP(ヒューレット・パッカード)が

コンパックに対して行ったように、サンの技術

をそのままのかたちで維持し、サンがサンであ

り続けることをオラクルが認めれば、さらなる

発展が期待できる」(ディディオ氏)

Page 22: Computerworld.JP Jul, 2009

Computerworld July 200924

提供している会社はほかにもあるのだから」

(ワン氏)

 そうした企業の1つがオープンロジックだ。

同社はオープンソース・ソフトウェアのサポー

ト事業を手広く展開している。同社CEOの

スティーブン・グランドチャンプ氏によれば、オ

ラクルのサン買収が4月20日に発表されて

からというもの、オープンロジックには、「不安

になった顧客から、ひっきりなしに電話が舞

い込んでいる」という。

 グランドチャンプ氏によれば、「契約更新

に合わせて値上げが行われるというのが典

型的なパターン」であり、サンの顧客はいず

れ値上げは避けられないと覚悟している様子

だ。

 また、オープンロジックのマーケティング担

当上級副社長、キム・ウェインズ氏は、「オラ

クルの営業部隊が、オラクル製品と競合す

るサン製品のコストに影響を与える可能性も

ある」と指摘する。

 営業担当者がMySQLとOracleDBの

両方を販売するようになった段階で、一部の

顧客がコスト削減のためにMySQLに乗り換

えようとするかもしれない。「そんなことをされ

れば、営業担当者としてはたまったものでは

ない。オラクルはその埋め合わせをするため

に、旧サン製品の値上げに走るだろう」(ウェ

インズ氏)

 サンの顧客はいずれコストアップに見舞わ

れることになると予想する観測筋は、ほかに

もいる。

 契約交渉に関するコンサルティングをオラ

クルの顧客に提供しているミロ・コンサルティ

ングの社長、エリオット・アーロ・コロン氏は、

「オラクルは、買収後数カ月は波風を立てな

いようにし、買収した企業の顧客に偽りの安

心感を与えようとする傾向にある。だが、い

ずれ“ハネムーン期間”は終わりを迎える。契

約更新交渉がそのきっかけになるケースが

多い」と警鐘を鳴らす。

 さらにコロン氏は、オラクルがサンのサポー

ト・サービスを値上げしないとしても、「サンの

顧客は、コンプライアンスに関するオラクル

の厳しさを思い知らされる可能性がある」と

「脅し」をかける。

 「サンの監査が甘いというのは、よく知られ

ていることだ。明らかにコンプライアンスが欠

けている顧客も散見される。このように、サン

の営業担当者は、顧客が自社製品を買って

くれているうちは大目に見ようと考えるが、オ

ラクルの営業担当者の場合は、そうはいか

ない」(コロン氏)

常にうまい」(同氏)

 昨年、オラクルは世界的に景気後退が

進むなかで、ライセンス料を15〜20%値上

げした。「それが通るのは、顧客にとって、オ

ラクル製品を使い続けるほうが、ほかの製品

に乗り換えて苦労するよりも安上がりだから

だ」(オグレーディ氏)

 それに対し、サンの顧客は同社製品にそ

れほど依存しているわけではないという。サン

のソフトウェア製品にはアイデンティティ管理

ソフトウェアやアプリケーション・サーバ

「GlassFish」なども含まれるが、「MySQLを

除けば、どの製品もサンが市場で強い価格

決定権を持てるほどには普及していない」(オ

グレーディ氏)からであろう。

他のサポート・ベンダーに流れる顧客も

 フォレスター・リサーチのアナリスト、レイ・

ワン氏も、オラクルがすぐに料金を引き上げ

ることはないと見ている。サンの顧客には豊

富な選択肢があるからだ。「彼らが値上げを

するのであれば、これまでよりも高い価値を

提供できることを証明しなければならない。オ

ープンソース・ソフトウェアの保守サービスを

サンの買収により、オラクルは「Oracle Database」と「MySQL」という2つの著名なデータベース(DB)製品を手中に収めることになる。だが、これによって反トラスト法に抵触したり、自社製品同士の「共食い」が発生したりするおそれはないのだろうか。

エリック・レイ/ Computerworld 米国版   クリス・カナラカス/ IDG News Service ボストン支局

PART5Oracle DBとMySQLは共生できるか

「DB市場独占」や「自社製品同士の共食い」が起きる心配はないか

年から2007年の3年間におけるOracle

DBの売上高は220億ドルで、DB市場2位

の「IBMDB2」の売上げを2倍以上も上回

る圧倒的なトップ・ブランドであった。

 一方、サンによると、MySQLのダウンロー

ド数はすでに1億を突破している。現在でも

1日当たり7万回のダウンロードがあり、稼働

中のMySQLDBは1,200万本に上るとい

トップ・ブランドDBと人気オープンソースDB

 米国IDCの調査データによれば、2005

Page 23: Computerworld.JP Jul, 2009

July 2009 Computerworld 25

緊急リポート

場のほんの一端を占める製品にすぎず、動

く金額も微 た々るものだ」と指摘するのは、オ

ープンソースCMSベンダー、アルフレスコ・

ソフトウェアのジョン・ニュートン氏だ。

 ガートナーのアナリスト、ケネス・チン氏も、

「規制当局が注目するのは金額だ。オープン

ソース製品は彼らの“レーダー・スクリーン”に

は映ってない」と、その説に同調する。

 そもそもDB市場におけるオラクルの地位

は、PC向けOS市場におけるマイクロソフト

の独占的地位ほど盤石ではない。例えば、

2001年、IBMは米国インフォミックスを買収

することによって、一時的にオラクルからDB

市場の王座を奪ったことがある。

 「オラクルは、DB市場の5分の1ずつを

握るIBMとマイクロソフトのほか、テラデータ

やサイベース、そして数々の革新的なベンチ

ャー企業とも戦っていかなければならない。

DBMS市場はもはや7、8年前のような、安

定した寡占市場ではないのだ」(モナシュ・リ

サーチのモナシュ氏)

それでもMySQLを手放すことはない

 「お金にならない」MySQLだが、業界関

係者の間では、オラクルがMySQLを手放

す可能性は低いとの見方が支配的だ。

 モナシュ・リサーチのモナシュ氏は、

MySQLは低価格DBMSのリーディング・プ

ロダクトとしての地位を確立しているとしたうえ

で、オラクルにとってはそのビジネスにかかわ

ること自体が理にかなっていることなのだと

分析する。

 「オラクルはおそらく、同社のハイエンドDB

(OracleDB)へ容易に乗り換えられるような

かたちで、MySQLを取り巻く製品ポートフォ

リオを構成することになろう」(モナシュ氏)

 一方、フォレスター・リサーチのアナリスト、

ジェームズ・コビーラス氏は、オラクルが

MySQLベースのデータ・ウェアハウス・アプ

ライアンスを開発する可能性を指摘する。

Oracle DBとMySQLの共生を実現するために

 ガートナーのチン氏によれば、例えばオラ

クルがMySQLのエンタープライズ・サブスク

リプションの料金を吊り上げたり、システム上

の一部のDBだけでなく、すべてのMySQL

DBに対して有料サポート契約を締結するよ

う要求したりする可能性はあるという。

 ただし、オラクルが、「2005年のInnoDB、

そして2006年のBerkeleyDB買収後、これ

らのオープンソースDBのセールス/マーケ

ティング・プロセスに一切干渉しなかった」(チ

ン氏)のも事実だ。

 さらに、オラクルは買収発表後早々、「サ

ンは別法人として事業を続けていくことにな

る」とも言明している。

 「つまり、MySQLは少なくとも独立性を保

ち、オラクルの高価なDB製品との間に十

分な距離を確保することによって、共食い状

況に陥るのを避けることになるのではないか」

(チン氏)

 アルフレスコのニュートン氏も、基本的に

はチン氏と同じ見解を持つ。ただし同氏は、

「オラクルは自社の主力DB製品と競合しな

いように、新機能──例えばスケーラブルな

クラスタリングのような機能──の追加を遅

らせることなどによって、MySQLの開発過

程に微妙な調整を加えようとするのではない

か」とも見ている。

 「だが、仮にそうなったとしても、オープンソ

ース・コミュニティとMySQLストレージ・エンジ

ンのサードパーティ・ベンダーが、そうした追

加機能を提供することはできるはずだ」(ニュ

ートン氏)

う。MySQLは主にWeb2.0企業、具体的

にはGoogleやYouTube、Craigslist、

Yahoo!、Diggといったサービス(企業)で利

用されている。

 OracleDBの圧倒的な顧客ベースに膨

大な数のMySQLが加わるとなれば、米国

政府の反トラスト法(独占禁止法)の適用対

象になりそうだが、業界アナリストや専門家

筋によると、どうやらそのおそれはないらしい。

 モナシュ・リサーチのアナリスト、カート・モ

ナシュ氏は、4月20日付のブログに次のよう

に書いている。

 「オラクルがDBMS(データベース管理シ

ステム)市場における巨大ベンダーであるこ

とは確かだが、決して独占企業ではない。今

のところ反トラスト法に引っかかるような要因

は見当たらない」

 オープンソースDBベンダー、米国イングレ

スのCEO、ロジャー・バークハート氏も、オラ

クルによる買収によって「MySQLがオラクル

のエンタープライズ・データベースを脅かす

存在へと成長する可能性は消え、データベ

ース市場における競争は減少する」ことは認

める。だがその同氏でさえ、今回の買収が反

トラスト法に抵触することはないと見ているの

である。

MySQLの収益面での貢献は限定的

 今回の買収が「独占」には当たらない理由

の1つとして多くの専門家が挙げるのが、

MySQLは抜群の人気を誇ってはいるものの、

収益にはさして貢献していないという点だ。

 IDCのデータによると、オラクルは2007

年、DB販売で83億4,000万ドルを売り上

げている。これは世界のDB市場全体(222

億ドル)の37.6%に相当する。一方で、

2007年のMySQLの売上高は3,800万ド

ルにとどまり、DB市場でのランキングも19

位にすぎない。

 「MySQLは影響力こそ大きいものの、市

どうやら、オラクルがMySQLを手放すことはなさそうだが……

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Computerworld July 200932

サーバから始まった仮想化のうねりは、ストレージ、ネットワーク、データセンター、さらにはデスクトップまでをも飲み込み、ものすごい勢いで ITインフラ全体へと広がっている。なかでも、サーバの仮想化は、グリーンITブームの高まりとも相まって、省エネ、省資源の切り札として急速な普及を見せている。だが、コストの削減や効率化という観点で見た場合には、仮想化が最も効果を発揮するのは「ストレージ」の分野だというのが定説だ。そこで本特集では、ストレージの仮想化を実践するための「方法論」と「製品」に注目してみた。PART1では、この分野に詳しいアナリストに、ユーザー企業がストレージの仮想化に取り組むうえで気をつけるべきポイントを解説してもらい、またPART2では、実際にストレージの仮想化を導入している先進ユーザーに、導入する際の注意点を語ってもらった。本特集が、ストレージの仮想化を考えておられるユーザー企業の参考になれば幸いである。

PART1◎ストレージの視点から仮想化を考える

PART2◎先行ユーザーに学ぶ導入上のポイント

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July 2009 Computerworld 33

Page 26: Computerworld.JP Jul, 2009

Computerworld July 200934

ストレージ文化の成熟度の低さがストレージ仮想化のネックに

 運用にかかるコストを削減するとともに、より質の高

いサービスを提供する──月並みではあるが、企業が

ITインフラを改善する意図は、まさにこの点にある。特

に、景気が著しく低迷している現在、「ITインフラのコス

トを削減すべし」という上層部の指示は、ITマネジャー

にとって至上命題ともなっている。

 ガートナー ジャパンのリサーチ部門でITインフラストラ

クチャ リサーチディレクターを務める鈴木雅喜氏は、最

近はこうしたコスト面でのプレッシャーに加えて、テクノロ

ジーの面でもIT部門へのプレッシャーが強まっていると

指摘する。近年、テクノロジーの進化スピードが速まっ

ているが、それにつれて、テクノロジーに関する検討事

項が急激に増えているというのだ。

 「経済とテクノロジーという2つの面で、企業を取り巻

く環境は大きく変化しているが、今日のIT部門はその

どちらの面でもプレッシャーにさらされている。そうしたな

かで、ITインフラのムダを省いてコストを削減し、サービ

スの品質を高めていくことが、IT部門に課せられた今

日的使命となっている」(同氏)

 このような課題に取り組むにあたっては、間違いなく

ストレージがキー・ファクターの1つになる。だが、多くの

企業は、なぜかストレージを軽視しがちな傾向にある。

同氏は、その理由の1つとして、企業における「ストレー

ジ文化の成熟度」の低さを挙げる。

 「人間の成長に例えると、サーバ文化がすでに成人

を迎えつつあるのに対して、ストレージ文化はまだ10歳

程度にしかなっていない」(鈴木氏)

 メインフレーム全盛時代は別として、オープン系の分

散環境が主流となった後、ストレージという概念が根づ

いたのは、やっと2000年代に入る少し前のことだとい

うのが同氏の主張である。それから数えれば、ストレー

ジ文化の成熟度は、まだ10歳程度にしかならない。そ

のため、サーバが重要か、ストレージが重要かという話

題になれば、自然とサーバが重要だということになるわ

けだ。

現在、ユーザー企業の間では仮想化の適用範囲が広がりつつあり、サーバの仮想化だけでなく、ITインフラ全体の仮想化が進んでいる。この仮想化の導入効果を十分に引き出すためには、もっとストレージに目を向ける必要がある──そう語るのは、ガートナー ジャパンのリサーチ部門でITインフラストラクチャ リサーチディレクターを務める鈴木雅喜氏だ。本稿では、同氏へのインタビューを基に、ITインフラのコスト削減、効率化を実現するために、ユーザー企業はストレージの仮想化にどう取り組んでいけばよいかについて解説することにしたい。

Computerworld編集部

ストレージの視点から仮想化を考えるITインフラのコスト削減、効率化を実現するには、ストレージの仮想化が不可欠

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July 2009 Computerworld 35

サーバとの大きな違いは「データを保持すること」

 とはいえ、ITインフラのあり方を考えるにあたって、ス

トレージが重要であることは疑いようのない事実だ。もち

ろん、それはサーバが重要でないということを意味する

ものではないが、「よく考えてみると、サーバはコンピュ

ーティング・リソースの集合体にすぎない。運用管理と

言っても、やらなければならないのはCPUやメモリとい

ったリソースをどのように割り当てるのかということだけだ」

(鈴木氏)と見ることもできるのである。

 もっとも、ストレージのほうも、同様に「リソースの集合

体」でしかないと言うこともできる。だが、「データを持っ

ている」(鈴木氏)という一点において、サーバとは厳

然と異なるのである。つまり、ストレージは、リソース管理

だけでなく、データ管理という重要な役割も担わなけれ

ばならないわけだ。

 「データは、IT活用のかなめと言っても過言ではな

い存在だ。そのデータをどのように管理するのか、どの

ようにセキュリティを確保し、どのようにデリバリーしてい

くのか──こうしたことを考える際に、最も重要な役割

を担うのがストレージなのだ」(鈴木氏)

 この「データを保持する」という特徴から、「ストレージ

は決して軽視できない」と語る鈴木氏は、さらに、「投

資金額がどれくらいの規模になるのか、あるいは、どの

程度認知されているのかといったことは、大きな問題と

はならない。企業がビジネスを進めるにあたっては、スト

レージの存在をないがしろにはできないはずだ」と強調

する。

サーバ仮想化導入時にはストレージに着目すべし

 冒頭にも述べたように、現在、すごいスピードでテクノ

ロジーが進化している。そうした状況下で登場した先端

テクノロジーの1つが、仮想化である。サーバの物理層

を隠蔽することで、1台のハードウェア上で複数の仮想

サーバを動作させるという着想から始まった仮想化は、

その後、ネットワークからアプリケーション、ストレージへと、

その適用領域を拡大させてきた。さらに、いくつかのベ

ンダーは、仮想データセンターというビジョンを描き、その

ビジョンを具現化するための製品を提供し始めている。

 では、ストレージの観点から見た場合には、この仮想

化とどう向き合っていけばよいのだろうか。鈴木氏は、

「サーバ仮想化の効果を十分に引き出すためにも、スト

レージがカギになる」と指摘する。

 サーバ仮想化の活用度合いが高まると、仮想サー

バの数が増え、たくさんの仮想サーバ群のOSイメージ

ガートナー ジャパンのリサーチ部門でITインフラストラクチャ リサーチディレクターを務める鈴木雅喜氏

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Computerworld July 200936

PART1

ストレージの視点から

仮想化を考える

をストレージに格納しなければならなくなる。その場合、

「物理サーバのリソースを各仮想サーバにいかに効率

的に割り当てていくのかということを考えるだけでは、サ

ーバ仮想化のメリットを十分に引き出すことはできない」

(鈴木氏)のである。

 「サーバ仮想化に取り組む際には、ストレージ技術に

も着目すべきだ。現在のストレージには、サーバ仮想化

の導入効果を高めるのに有効なテクノロジーが多数実

装されている」(同氏)

 そうしたストレージ・テクノロジーの一例が、重複排除

である。データ・デデュプリケーションとも呼ばれるこの技

術は、ストレージ内のデータを検証し、同一内容のデー

タを見つけたら、重複したデータを消去したうえで、その

消去したデータを残ったほうの同内容データで代替す

るというものである。複数の仮想サーバ・イメージに同

一のOSが含まれている場合、重複部分の割合が大き

くなることは想像に難くない。そうした仮想サーバ・イメー

ジの重複データを排除すれば、ストレージの使用率を

上げ、仮想環境をより効率的に運用することが可能に

なるわけだ。

実績のある枯れたLUNやRAIDを活用する

 では、ストレージ自体の仮想化にはどう取り組めばよ

いのだろうか。一般的に、ストレージ仮想化はサーバ仮

想化に比べて新しいテクノロジーだと見なされている。

だが、鈴木氏は、「ストレージ分野においては、すでに

仮想化は当たり前のテクノロジーになっている」と説く。

 ここで、あらためて仮想化の定義を試みてみると、そ

れは「物理層を隠蔽して使いやすいかたちでリソースを

提供する仕組み」だと言うことができる。そう考えれば、

確かに、そうしたテクノロジーはストレージ分野では以前

から利用されてきた。

 「仮想化という名前でこそ呼ばれていないが、LUN

(Logical Unit Number)やRAIDといったテクノロジー

は、ハードウェアを隠蔽するという点で、現在のストレー

ジ仮想化と同じような役割を果たしている」(鈴木氏)

 サーバ仮想化と同様のことが、ストレージ分野では以

前から実用化されていたわけだ。

 また鈴木氏は、現在ストレージ仮想化と呼ばれてい

るテクノロジーを、「複数のストレージ装置を1つに見せ

るためのもの」と定義する。この機能では、現在、異機

種ストレージを統合し、1つの仮想ストレージとして構成

することも可能になっている。だが、同氏は、こうした先

進的なストレージ仮想化を導入する前に、LUNや

RAIDといった古くからある仮想化機能をもっと活用す

るようにすべきだと訴える(図1)。

 「LUNやRAIDは、すでに実績のある“枯れた”テク

ノロジーだ。まずは、これらの“ストレージ仮想化”をいか

に活用するかというところから検討を始めるべきだ」(鈴

木氏)

サーバ

付加価値機能仮想化エンジン

付加価値機能コントローラRAID

物理ディスク

異機種ストレージ仮想化

パスの仮想化

RAIDグループの仮想化RAID=仮想化ディスク・グループの仮想化LUN=仮想化

「仮想化」と呼ばれているがメリットは限定的

「仮想化」呼ばれていないが最も有効な仮想化。すでに枯れている

14243

123

123

123

二重投資

図1:最新のストレージ仮想化と“枯れた”ストレージ仮想化

*資料:ガートナー

Page 29: Computerworld.JP Jul, 2009

July 2009 Computerworld 37

容量配分を容易にするシン・プロビジョニング

 物理容量以上の仮想ボリュームの構成を可能にす

るシン・プロビジョニングも、ストレージ仮想化の一種と見

なすことができる。ただし、鈴木氏は、ストレージ仮想化

とシン・プロビジョニングは分けて考えるようにしていると

いう。

 それというのも、「シン・プロビジョニングは、物理リソ

ースの仮想化を行うのではなく、アプリケーションに対し

て仮想的な容量を提供することを目的としたテクノロジ

ー」(鈴木氏)だからである。

 同氏は、「複数のアプリケーションに対する容量の割

り当てを容易に行える」という点で、シン・プロビジョニン

グを評価している。

 「シン・プロビジョニング機能を備えたストレージを使っ

ているユーザー企業の多くが、実際にこの機能を利用

している。やはり、管理が容易になるというメリットは大

きい」(同氏)

 なお、これまで、シン・プロビジョニング対応ストレージ

は、ハイエンドからミッドレンジの分野を中心に製品化さ

れてきた。そのため、シン・プロビジョニング機能も、現

状ではある程度の規模を持った企業でないと使われ

ていないことになる。

ストレージ・チームの構成が運用を効率化させるカギ

 最後に、ストレージの運用を効率化するためのポイン

トを紹介しておくことにしたい。鈴木氏は、ストレージを

運用するにあたっては、「ストレージ・チームを構成する

こと」が重要だと語る。

 「今は経済状況が非常に悪いため、多くのユーザー

企業で人的リソースが不足している。そうした状況下で

ストレージ専任の担当者を配置することは難しいだろう

が、せめて責任者を決めて、行動計画を策定すること

ぐらいは実行してもらいたい。そのような戦略的な対策

をとらないかぎり、ストレージにかかわるコストを削減した

り、運用を効率化したりすることは不可能だからだ」

(鈴木氏)

 同氏がこうした提案をする理由の1つは、ストレージ

製品の多様化が進行していることにある。ベンダーごと

に機能や特性が異なる製品が提供されているストレー

ジの世界では、「自社が使っているベンダーの製品が

一番だとばかり思っていたら、実はそれがとんでもない

間違いだった」(鈴木氏)といったことも珍しくないので

ある。

 また、ストレージ分野では今後、ストレージ・ハードウェ

アに加え、その管理やデータのやり取りなどを担うソフト

ウェア、さらにはサーバ仮想化やデータベース、セキュリ

ティといった周辺領域までをも包括的に最適化すると

いったトレンドが主流になっていくものと予想される。

 その一例が、オラクルなどが提供するデータ・ウェア

ハウス(DWH)アプライアンスの台頭だ。これは、DWH

用途向けに、データベース管理システムなどのソフトウェ

アを専用ハードウェアに組み込んで提供するというもの

である。

 「今までハードウェア市場で強かったからといって、

周辺領域との統合が進んだ後も、そのベンダーが市場

で同じポジションにいられると決まったわけではない。だ

から、ユーザー企業も、担当者を決めて市場の動向を

チェックし、さまざまなベンダーの情報を集めるようにしな

ければ、自社にとって最適な選択肢を選ぶことができ

なくなるだろう」(鈴木氏)

「自社のニーズに最適なストレージ製品を見極めるためには、ストレージ・チームが不可欠」と語る鈴木氏

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Computerworld July 200938

ストレージ仮想化の導入には予期せぬ問題がつきもの

 ITシステムを構築するにあたっては、一般的に2つ

のアプローチが考えられる。1つは、マルチベンダー製

品を組み合せるベスト・オブ・ブリード型のアプローチで

ある。これは、ITシステムの機能性や柔軟性を重視す

るユーザーが好んで採用するアプローチでもある。

 一方で、さまざまなベンダーの製品を組み合わせて

豊富な機能を取り込むことよりも、よりシンプルな構成

にしてアカウンタビリティを高めることのほうを重視すると

いうユーザーもいる。そうしたユーザーは、ベスト・オブ・ブ

リード型のアプローチを避け、もう1つの「自社のITシス

テムを構成するコンポーネント群をシングル・ベンダーの

製品で統一する」というアプローチを選ぶことになる。

 遺伝子の研究などを手がけるJCVI(J.クレイグ・ベン

チャー・インスティチュート)は、ベスト・オブ・ブリード型の

システム構築アプローチを選んだ1社である。同社のIT

インフラでは、Windows、Linux、UNIX、Mac OSなど、

さまざまなOSが稼働している。また、ストレージ環境のほ

うにも、EMC、ネットアップ、アイシロン、データドメインと

いった、複数のベンダーの製品が混在している。

 同社のように複数ベンダーのストレージを使用してい

るケースでは、多くの機能を利用できるというメリットが得

られる反面、ストレージ環境の運用管理が複雑化し、

担当者の負担が増大するという問題が生じる。

 こうした問題を解決するうえで有効なテクノロジーと目

されるのが、ストレージ仮想化である。ストレージ仮想化

を使えば、複数のストレージ・ハードウェアを1つの仮想

的なストレージ・プールと見なし、運用管理を一元化す

ることも可能になる。

 だが、ストレージ仮想化をうまく使いこなすには、その

多様な機能を十分に理解し、適切に扱うことのできる

スキルを持った、優秀なスタッフの存在が不可欠であ

る。JCVIのコンピュータ・システム・マネジャー、エディ・

ナバロ氏は、その事実を認識していただけに、「当社

のITインフラは、まさにヘテロジニアス(異機種混在)

環境の典型的な例だと言える。そのため、運用管理に

ユーザーが新たなテクノロジーを利用する際には、当然、ベンダーがうたい文句にしている導入効果を期待することになる。しかしながら、いざ導入プロジェクトを進める段になると、往々にして予想もしなかったような問題に遭遇するものだ。最新のテクノロジーの1つであるストレージ仮想化の場合も、もちろんその例外ではない。事実、実際にストレージ仮想化プロジェクトに携わった経験を持つ米国企業のITマネジャーやCIOの多くが、「ストレージ仮想化は、ストレージ運用の効率化やコスト削減を促すというベンダーのアピールは嘘ではないが、導入には数々の困難が伴う」と訴えているのだ。本稿では、彼らの経験を基に、ストレージ仮想化プロジェクトを実施するにあたって注意すべきポイントを提示することにしたい。

ゲイリー・アンテスComputerworld米国版

先行ユーザーに学ぶ「ストレージ仮想化」の導入ポイント導入プロジェクトで突き当たる数々の障害に、米国ユーザーはどう向き合ってきたか

Page 31: Computerworld.JP Jul, 2009

July 2009 Computerworld 39

はさまざまな困難が伴う。だが、幸いなことに当社のIT

部門は優秀なスタッフを抱えていたため、それを乗り越

えることができた」と、胸を張る。

 現在、ストレージ仮想化を利用している企業は、その

多くが、導入の過程でさまざまな予期せぬ問題に突き

当たったものの、それを解決してきたという経験を持っ

ている。これからストレージ仮想化を導入することを予定

している企業にとって、そうした経験を持つITマネジャ

ーやCIOの助言を得ることは、ストレージ仮想化導入プ

ロジェクトを成功に導くうえで、きっと大きな支えになるは

ずである。

マルチベンダー環境は結局のところ高くつく

 JCVIでは、レッドハット(Red Hat Linux)の「LVM

(Logical Volume Manager:論理ボリューム・マネジャ)」

を利用して、複数のディスク・ドライブのスパニングを行

ってきた。さらに最近になって、ネットアップのストレージ

仮想化専用装置「V」シリーズ(写真 1)を導入し、

EMCのハイエンド・ストレージ「Symmetrix」とミッドレン

ジ・ストレージ「CLARiiON(日本名:CLARiX)」を接

続して仮想ストレージ・プールを構成した。

 「CLARiiONは、企業合併の際にわれわれのITイ

ンフラに新たに加わった製品だが、これまではあまり活

用できていなかった。現在は、Vシリーズによってストレ

ージからのデータをリフォーマットし、あたかも1つのストレ

ージであるかのように活用している」とナバロ氏。JCVI

では、所有しているそれぞれの製品の特徴を生かすこ

とで、コスト効率に優れたストレージ・アーキテクチャを実

現しているわけである。

 しかしながら、そういう工夫を凝らしていても、複数の

ベンダーのストレージを運用していくとなると、やはりコス

トが跳ね上がるのは避けられないという。

 「競合するベンダーのハードウェアを導入する場合、

障害が発生した際に切り分けができないと、サポートを

依頼するのが難しくなる。したがって、最初に製品間

の相互運用性を確認しておくことが大切だ。また、その

製品によって何ができるのかをしっかりと把握しておく

必要もある」(ナバロ氏)

新しいテクノロジーの追加は大きな負担になりかねない

 ITインフラの構成がJCVIほど複雑ではないケースで

も、ストレージ仮想化を利用することにより、運用管理の

さらなる簡素化を図ることは可能だ。だが、その際にも、

それなりの手間と労力は必要になる──そう語るのは、

ライフスタイル・ファミリー・フィットネスのISオペレーション

担当ディレクター、マイク・ガイス氏だ。ちなみに、フロリ

ダ州に本拠を置く同社は、60のヘルス・クラブを運営し

ている。

 ライフスタイル・ファミリー・フィットネスが利用しているソ

フトウェアは、SQL Serverや.NETアプリケーションな

ど、マイクロソフトの製品で統一されている。これに対し

て、ストレージ環境のほうは、IBMの「System Storage

DS4700 Express」やEMCのCLARiiONなど、さまざ

まなベンダーの製品で構成されている。

 DS4700は、4Gbpsのファイバ・チャネル(FC)で接

続されており、大量のトランザクションが発生するアプリ

ケーションで利用されている。一方、古くから使用して

いるCLARiiONには、バックアップのような要件の厳し

くないジョブが任されている。

 このようなストレージ環境を持つライフスタイル・ファミリ

ー・フィットネスは、I/Oのボトルネックを解消する目的で、

IBMのストレージ仮想化アプライアンス「SAN Volume

Controller(SVC)」(次ページの写真2)を導入した。

ガイス氏は、「DS4700の高速なFC接続とSVCアプラ

イアンスのキャッシュ機能の相乗効果で、ボトルネックが

解消された」と、満足そうに語る。

 加えて、長年利用してきたCLARiiONを引き続き活

写真1:ネットアップの「V」シリーズは、ストレージ仮想化機能を提供する装置だ。同製品に接続した他ベンダー製ストレージのボリュームを、1つの仮想ストレージ・プールに組み込むことができる。IBM、HP、日立、EMC、富士通、3PARのストレージに対応している(写真は、最大1,176TBまで管理することが可能な「V6000」シリーズの「V6070」)

Page 32: Computerworld.JP Jul, 2009

Computerworld July 200940

PART2

先行ユーザーに学ぶ

「ストレージ仮想化」の

導入ポイント

用できるところも、ガイス氏がSVCアプライアンスを気に

入っている点だ。同氏によれば、「SVCのアーキテク

チャはベンダーの独立性を保証している」のだという。

そのため、IBM以外のベンダーのストレージであっても、

容易にSAN(Storage Area Network)に組み込むこ

とができる。

 SVCのような製品であれば、「現在、当社はIBMと

良好な関係を築いているが、もしその関係に何らかの

変化が生じたとしても、他のベンダーから新たなストレー

ジを入手すれば済む」(ガイス氏)というように、環境の

変化にも問題なく対応することができるわけだ。

 しかし、このメリットも、生かし方を間違えればかえっ

て悪い方向に進むおそれもある。異なるベンダーのスト

レージを次々に導入していくことによって、「ストレージ環

境が複雑になり、コストや作業工数は言うに及ばず、

障害ポイントが増えることもありうる」(ガイス氏)からだ。

 そうした事態を防ぐには、「頼りになるベンダーと

SIerを選択し、彼らの実験台にならないように注意す

ることが肝要だ」と、ガイス氏は主張する。

仮想化を活用するほどITインフラは複雑さを増す

 旅行関連サービスを提供するプライスライン・ドットコム

のCIO、ロン・ローズ氏は、現在、ITインフラ全体の仮

想化を視野に入れているという。同氏が描くビジョンは、

サーバ仮想化、ストレージ仮想化、そしてサーバのプロ

ビジョニングを統合した「仮想化のサンドイッチ」である。

 「仮想化のサンドイッチを適切に展開することができ

れば、ROI(投資利益率)を高めることができるはずだ。

ストレージ仮想化と言っても、ストレージだけでなく、ITイ

ンフラ全体のことを考えたうえで導入・運用を進めるべ

きだ。導入検討の早い段階で専門家にちょっとしたコ

ンサルティングを頼めば、システム全体の姿が見えてくる

だろう」(ローズ氏)

 プライスライン・ドットコムでは現在、3PARの製品を

活用している。ストレージ・ハードウェアには「InServ

S400」および「同E200」(写真3)を採用し、階層化スト

レージを構築したうえで、同社のツールを用いてシン・プ

ロビジョニングを行っている。また、ローズ氏の言う仮想

化のサンドイッチの一部となるサーバ・プロビジョニング

のために、BMCソフトウェアのサーバ管理自動化ツール

「BladeLogic」を利用している。

 ローズ氏は、仮想化のサンドイッチを実現することに

より、ほとんどの企業でサーバやストレージの使用台数

を20%から40%は削減できるとしている。しかしながら、

同氏も、ストレージ仮想化を手がけたことのあるほかの

担当者と同様、仮想化したからといってそう簡単には

楽にはならないと指摘する。

 「ストレージ仮想化を導入する場合には、利用するア

プリケーションをすべて考慮に入れたうえで、ITインフラ

全体のアーキテクチャのプランニングを行わなければな

らない。そのため、稼働中のシステム/アプリケーション

が多ければ多いほど、メンテナンスのスケジューリングの

手間も大変になる」(ローズ氏)

 同氏は、3PARのツールは、仮想化によって生じた

複雑性を解消するのに大いに役立ったと語る。だが、

メンテナンスのスケジューリングのような作業を効率化す

る際に重要になるのは、ツールよりも、むしろプロセス

や方法論のほうだと主張することも忘れない。

既存システム/アプリの移行には大きな手間が…

 ITサービス・プロバイダーのITオンコマンドでCEOを

務めるジョン・スミス氏も、プライスライン・ドットコムのロー

ズ氏と同じように、ITインフラ全体を最適化するという

視点から、ストレージ仮想化を考えている1人だ。

 「私から見れば、サーバであろうがストレージであろう

が大した違いはない。OSを稼働させようが、データを

写真2:IBMの「SAN Volume Controller(SVC)」は、異なるベンダーの複数のストレージを、別々のデバイスではなく、1つのストレージ・リソースとして扱うことを可能にするストレージ仮想化アプライアンスである。同製品により、ヘテロジニアスなストレージ環境を共通のインタフェースによって管理することが可能になり、ストレージ管理者の負担が軽減される。また、ホスト側のアプリケーションは同製品へアクセスすることになるため、ストレージ・インフラを変更する際にもホスト・アプリケーションを変更しなくて済む点も、同製品を利用する大きなメリットとなる

Page 33: Computerworld.JP Jul, 2009

July 2009 Computerworld 41

扱おうが、同じようなものだ」(スミス氏)

 同氏は、仮想化が進化することにより、ストレージ間

のデータ移動が、より自由に実行できるようになるので

はないかと期待している。例えば、高パフォーマンスが

必要なデータはDAS(Direct Attached Storage)に

移動し、信頼性や可用性が必要なデータはSANに移

動するといったように、いずれは要件に応じたデータ移

動が可能になると見ているのである。

 ITオンコマンドでは、ヒューレット・パッカード(HP)のブ

レード・サーバ「BladeSystem c3000」を導入し、そのス

トレージ・ブレードをDASとして利用しているほか、HPの

ストレージ「StorageWorks」でiSCSI SANを構築して

いる。このiSCSI SANのストレージ仮想化には、レフト

ハンド・ネットワークスのストレージ管理ソフトウェア「SAN/

iQ」(画面1)などが利用されている。

 一方、サーバ仮想化に関しては、マイクロソフトの製

品を活用している。具体的には、ハイパーバイザには

「Hyper-V」を、運用管理には「System Center Virtual

Machine Manager」を使っている。スミス氏によれば、

Virtual Machine Managerは、仮想化の仕組みを有

機的に連携させる役割を担っているという。

 「Virtual Machine Managerによって、ITインフラ

全体の仮想サーバを1つの画面から確認できるように

なり、その設定作業も一元的に行えるようになった」と、

スミス氏は同製品を高く評価している。

 現在、ITオンコマンドのITインフラでは、仮想化の

仕組みがうまく機能しているという。とはいえ、「ここまで

の道程は決して楽ではなかった」とスミス氏は振り返

る。同社では、Hyper-Vを導入する前からサーバ仮想

化を利用しており、ITインフラ上ではすでに複数の仮

想サーバが稼働していた。「そうした既存の仮想サーバ

をHyper-Vに移行する作業には、かなりの手間暇を

要した」(同氏)というのである。

 ITオンコマンドで仮想化を進めることの意義を、スミ

ス氏は、「真のユーティリティ・コンピューティング・モデル

をユーザーに提供できるようにすることだ」と定めてい

る。その意味するところは、こうである。

 「1台の物理サーバ上で1つのOSを稼働させるとい

う従来のスタイルは、次第に廃れていくことになる。い

ずれエンドユーザーはハードウェアを所有しなくなり、仮

想化によって必要なときに必要な分の処理能力とスト

レージをデータセンターから入手する時代が来るはずだ」

(スミス氏)

既存ストレージ環境を徹底的に見直す

 ナショナル・メディカル・ヘルス・カード・システムズで、

ビジネス・テクノロジー・オペレーション担当上級ディレクタ

ーを務めるバブ・クダラバリ氏は、ストレージ仮想化を「あ

らゆるベンダー、あらゆるサイズのストレージ製品から、あ

らゆるホストに対してデータを転送することを可能にする

もの」と定義する。

 こうした仮想ストレージ環境の実現に向けた取り組み

の一環として、クダラバリ氏は、HPのStorageWorks

製品の中から価格の異なる3モデルを購入し、階層化

写真3:3PARの「InServ E200」は、主に小・中規模の企業/組織を対象とするストレージである。同社の主力製品であるハイエンド・ストレージ「InServ S400/S800」のミッドレンジ版と位置づけられており、FCやiSCSIなどのインタフェース数や最大搭載容量はS400/S800よりも少なくなっているが、機能の面ではS400/S800と同等である

画面1:レフトハンド・ネットワークスの「SAN/iQ」は、シン・プロビジョニング機能などを提供するストレージ管理ソフトウェアである。なお、iSCSI分野を得意としていたレフトハンド・ネットワークスは、2008年10月にHPに買収された

Page 34: Computerworld.JP Jul, 2009

Computerworld July 200942

PART2

先行ユーザーに学ぶ

「ストレージ仮想化」の

導入ポイント

ストレージ・システムを構築しているところだ。各階層に

導入するストレージは、コストやパフォーマンス、可用性

などの要因を総合的に判断して選択した。

 階層化ストレージの3階層のうち、ミッション・クリティカ

ル・アプリケーションで用いる最も要件の厳しい階層に

はハイエンドの「XP24000」(写真4)を充て、2番目の

階層には「Enterprise Virtual Array 8000」を充当

する。そして、アーカイブやテストといった、さほど要件

の厳しくない用途に利用する3階層目には、低価格の

「Modular Smart Array 1500」を充てる。

 そんなクダラバリ氏は、「ストレージ仮想化を導入する

際には、注意しなければならないポイントがいくつかあ

る」と指摘する。

 注意点の第1は、自社が保有している既存ストレージ

(およびそのストレージが搭載しているソフトウェアのバー

ジョン)が、仮想化機能を提供するストレージやアプライ

アンスに対応しているかどうかという点だ。もし対応して

いない場合は、「陳腐化した既存のストレージをリプレー

スしたり、ソフトウェアを最新のバージョンにアップデートし

たりすることを考えるよい機会だ」(クダラバリ氏)ととらえ

るようにすればよい。

 第2に、慎重にプランニングを行い、製品の機能と

性能の限界を十分に見極める必要がある。クダラバリ

氏は、「ストレージ仮想化を導入することにより、最終的

にストレージ管理を簡素化することは可能だ。だが、仮

想ストレージ環境の構築作業は複雑極まりないため注

意が必要だ」と説く。

 数年前、ストレージ・ベンダー各社はそれぞれ、仮想

化に対してまったく異なった独自の定義やスタンダード

を持っていたとクダラバリ氏は振り返る。

 「今ではやっと足並みがそろいつつあり、似たような

機能や性能を持つ製品も出てくるようになった。とはい

え、まだとても完全に統一されたとは言い難い」(同氏)

仮想化の必要性をあらためて自問せよ

 ストレージ仮想化の導入を検討しているユーザー企

業の多くは、既存ストレージの有効活用を目標にしてい

る。だが、これまでに紹介したユーザー事例が物語って

いるように、導入プロジェクトが当初の計画どおりに進

むのは、むしろレアケースだと言える。それを抜きにして

も、ユーザー企業がストレージ仮想化に対して過度な期

待を抱くこと自体がプロジェクトの進捗を妨げる要因に

なることもあるため、注意が必要だ。

 IDCのストレージ担当アナリスト、リック・ビィラース氏も、

「ストレージ仮想化の本来の目的は、ストレージ・リソース

の割り当て、新規ボリュームあるいはスナップショットの

作成、データのマイグレーションなどの作業を簡素化す

ることにある。しかし、こうした作業を容易にこなせるよう

になると、ユーザーはさらに多くのことをストレージ仮想

化に望むようになってしまう」と、ユーザーの「強欲」ぶ

りに眉をひそめる。

 同氏によると、ストレージ仮想化を実施した企業で

は、ボリュームやスナップショット、さらにはアプリケーショ

ンまでもが不必要に増加する傾向が強いという。「スト

レージ仮想化は、運用を効率化するのに有効な手段

であることは間違いない。だが、その適用範囲が広が

るに従い、新たなムダが増えていくという傾向が見られ

るのも事実だ」と同氏。

 ビィラース氏は、こうした問題は「テクノロジーではな

く、運用にかかわるポリシーの策定やプロセスの見直し

によって防止していかなければならない」と指摘する。

 一方、JCVIのナバロ氏は、「ITマネジャーやCIO

は、ストレージ仮想化を導入する前に、あらためてその

必要性を自問してみるべきだ」と警鐘を鳴らす。

 「仮想化を行わなければならない正当な理由がある

のか。それとも、単に最先端のテクノロジーを試してみ

たいだけなのか。ITマネジャーには、それを自分自身

に問いただしてもらいたい。自分が簡単に流行に流さ

れないという保証はないのだから」(ナバロ氏)

写真 4:HPの「Storage Works XP24000」は、仮想化機能の充実を図ったハイエンド・ストレージである。旧モデルで評価の高かった「外部ストレージ仮想化機能」や「ストレージ・パーティション機能」を踏襲したほか、シン・プロビジョニング機 能「 X P Thin Provisioning」を新たに搭載した

Page 35: Computerworld.JP Jul, 2009

July 2009 Computerworld 43

EMCジャパン、アーキテクチャを刷新したハイエンド・ストレージ「EMC Symmetrix V-Max」を発表ストレージ・コントローラを1ボードに実装、筺体に追加導入することでスケールアウト型の拡張が可能に

ストレージ仮想化ニュース

 EMCジャパンは4月15日、アーキテクチャを刷新し、スケールアウト型の性能拡張を可能にしたハイエンド・ストレージ

「EMC Symmetrix V-Max」を発表した。同製品の最大の特徴は、「EMC Virtual Matrix」アーキテクチャを採用したこと。同社は、18年にわたるSymmetrixの歴史の中で、この新アーキテクチャの採用は最大級の変化であるとしている。 新アーキテクチャでは、「Symmetrix V-Max Engine」というストレージ・コントローラ・ボードを追加し、それを相互接続していくことでスケールアウト型の性能拡張を可能にした。V-Max Engineには、CPU、メモリ、ホスト側およびディスク側のI/Oポート、同コントローラ同士を接続するインタフェースなどが、二重化された冗長構成で搭載されている。 Symmetrix V-Maxの筺体には、最大8基までのV-Max Engineを搭載できる。

8基のV-Max Engineを搭載した状態ではディスクを最大2,400基搭載でき、有効容量は最大2.1PBと従来機種の「Sym metrix DMX-4」の約3倍の容量を実現する。また、既存モデルの Symmet r i x DMX-4と比べて、消費電力を約20%削減した。 EMCでは、Symmetrix V-Maxを「仮想データセンターが連携動作する“プライベート・クラウド”のためのインフラ構築基盤」と位置づけている。発表に際して、同社執行役員でマーケティング本部長の高橋俊之氏は、仮想データセンターを「従来のデータセンターとクラウド・コンピューティングの特徴を併せ持ったもの」と定義したうえで、Virtual Matrixは「仮想データセンター間の垣根を越えて、単一のストレージ環境を構築する」ことを視野に入れたアーキテクチャであると語った。 こうした考えの下に、EMCでは、新製

企業の大規模合併後のストレージ統合をいかに進めるか米国の大手金融機関ウェルズ・ファーゴのCTOに直撃取材

ストレージ仮想化事例

 昨年10月、米国の大手金融機関ウェルズ・ファーゴは、同業のワコビアを約150億ドルで買収することを発表した。両社が事業を統合するうえでは、当然、ITインフラの統合も必要になる。だが、両社のような大規模企業がそれぞれ異なるポリシーで運用してきたITインフラを統合するのは、そう簡単な作業ではない。本稿では、特にストレージ統合という面にフォーカスを絞って、ウェルズ・ファーゴでCTO(最高技術責任者)を務めるスコット・ディロン氏に話をうかがった。

──もともと巨大なウェルズ・ファーゴにワコビアが加われば、ITインフラは恐ろしいほど大規模なものになろう。その巨大なITインフラに、どう立ち向かっていくのか。

ディロン氏:われわれは数年前から、需要

と供給の管理という観点に立って、データセンター全体を考えるようにしている。IT部門はサプライヤーとして、データセンター内の全機器の最適化に携わってきた。今回の買収によってスタッフの数が増えても、こうしたITインフラの最適化をさらに進めるしかない。

──需要と供給の管理というアプローチは、具体的にはどのようなものなのか。

ディロン氏:階層化ストレージが、その好例だ。われわれは、最も高性能な第1階層から最も低価格な第5階層までのストレージを運用しており、それぞれの業務に応じて必要とされる階層を提供することで、ストレージのコストを削減しようとしている。この階層化ストレージのメリットは、実際、非常に大きいものだ。

──ヘテロジニアスなストレージ環境を、どのように統合していくつもりか。

ディロン氏:われわれは、ストレージ統合のために、日立データシステムズの「Hitachi Universal Storage Platform V(USP V)」(日本国内の取り扱いは日立製作所)の仮想化機能を利用している。USP Vには、日立以外のベンダーのストレージも接続しているが、すべてのストレージに対して動的にアクセスすることができる。そのおかげで、われわれは、ストレージ環境の標準化を実現することができた。

 (Computerworld米国版)

▲EMC Symmetrix V-Max

▲Hitachi Universal Storage Platform V

品のスケールアウト範囲の拡充を考えている。そこにおいては、まず複数のSymme trix V-Maxを相互接続してスケールアウトできるようにし、将来的には異なるデータセンター間で複数の同製品を連携動作させるというビジョンを描いている。 なお、今回、ディスクを最大で360基までしか搭 載しないエントリー・モデル

「V-Max SE」も発表された。価格は、最小構成のV-Max SEで2,980万円から。 (Computerworld編集部)

Page 36: Computerworld.JP Jul, 2009
Page 37: Computerworld.JP Jul, 2009

July 2009 Computerworld 45

最大100Gbpsを達成する次世代高速化Ethernet技術「IEEE 802.3ba」の標準化作業が、

現在、米国電気電子学会(IEEE)の手で進められている。

今年3月にはドラフト第2版が提出され、来年6月には標準化が完了する見通しだ。

世界各地でブロードバンド網が整備され、ビデオに代表されるリッチ・コンテンツが急増するなか、

100Gbpsという想像を絶する帯域を提供する同規格には大きな期待が寄せられている。

そこで本企画では、標準化完了を1年後に控えた次世代Ethernetを取り上げ、

その技術的ポイントや導入検討時の注意点などについて解説する。

長田 篤ジュニパーネットワークス SEマネージャー

次世代Ethernet「IEEE 802.3ba」の全貌

[特別企画1]

Page 38: Computerworld.JP Jul, 2009

46 Computerworld July 2009

「限界」近づく10GEのトラフィック処理

 今はインターネット全盛の時代である。とりわけ日本

は、ブロードバンド・インフラの普及率で世界のトップ・レ

ベルにある。

 こうなると、通信事業者にとっては、もはや“速い・

安い”だけでユーザーを獲得するのは難しい。言いかえ

れば、彼らには魅力的な付加価値を提供することが求

められているのだ。高品質の音声通信、IP-TV、ハイ

ビジョン動画配信、動画共有サイト、音楽配信、オンラ

イン・ゲームなどは、その一例である。実際、すでに一

部の通信事業者は、こうしたブロードバンド・サービスの

提供に乗り出している。

 一方、一般消費者の側でも、昨年後半ごろから、ネ

ットブックと呼ばれる個人向け低価格ノートPCや、

「iPhone」などのマルチメディア・デバイスが急速に普及

し、音声や動画を手軽に視聴できる環境が整ってき

た。今では、YouTubeやニコニコ動画などのように、

動画データを簡単に発信できる場も用意されている。リ

ッチ・コンテンツの需要と供給が互いに刺激し合い、マ

ルチメディアへのニーズが今後も増していくことは想像

に難くない。

 こうしたリッチ・コンテンツが牽引役となり、インターネッ

ト・トラフィックは右肩上がりで増え続けている。このまま

いけば、そう遠くない時期にインターネット加入世帯当た

りの使用帯域が数十Mbpsに達する、との試算もある。

 図1は、国内サービス・プロバイダー(IIJ)のコア・ネッ

トワークにおけるキャパシティ増強の推移(2000~2007

年)、また、図2は2013年までのブロードバンド・サービ

ス加入者数の予測を示している。大手サービス・プロバ

イダーで広く利用されている10Gbpsインタフェース

(10GE)のままでは、いずれトラフィックを処理しきれなく

なるのは、だれの目にも明らかだろう。

 高速なWANサービスを構築する伝送方式として

は、従来は「SONET/SDH(Synchronous Optical

NETwork/Synchronous Digital Hierarchy)」技術

が使用されてきた。SONET/SDHは、連続する固定

バイト長のフレームにペイロードを載せて伝送する方式

である。これに対してEthernetは、ペイロードの大きさ

に応じてフレーム長を変える──可変長フレームによる

伝送方式である。

 もともとEthernetは、LANでの使用を前提に開発

されたものであり、高い信頼性が求められる広域ネット

ワーク・サービスには不向きと考えられていた。しかし、(出典:野村総合研究所)2000年 2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年

6 7 2491

205255

693

1,360図1:サービス・プロバイダー(IIJ)のコア・ネットワークにおけるキャパシティ増強の度合い

高速化Ethernetが必要とされる理由リッチ・コンテンツの急増に対応、40GEはデータセンター向けもともとはLANでの使用を前提に開発されたEthernet。それが今ではWANでも主流となり、さらには1年後をメドに最大100Gbpsという帯域を提供する運びとなった。本パートでは、この「IEEE 802.3ba」規格(100Gbps・40Gbps)に基づく次世代高速化Ethernetが必要とされる理由を、インターネット/イントラネット環境の両面から探ってみたい。

Part 1 :T r e n d

Page 39: Computerworld.JP Jul, 2009

47July 2009 Computerworld

「Ethernet OAM(Operations、Administration、

Maintenance)」と呼ばれるEthernet網の運用・保守・

管理機能が実装されたことで、Ethernetサービスの信

頼性や管理性は飛躍的に向上した。しかも、SONET/

SDHより安価であることから、Ethernetは広域サービ

スにおいても主流になってきている。

 こうしてEthernetは、WANサービスを支える伝送方

法としての地位を確立した。そして今、ニーズ面でも技

術面でも機が熟し、次世代高速化Ethernetの登場が

待たれているのである。

 次世代高速化Ethernetは現在、仕様の標準化が

進められているが、これには40Gbps(40GE)と100G

bps(100GE)の2つの伝送速度が存在する。また、次

世代高速化Ethernetの利用が想定されるアプリケーシ

ョンとしては、次のようなものがある。

●データ・ウェアハウスのストレージ用インタフェース●仮想サーバのインタフェース●大規模データセンターのアグリゲーション・スイッチ●サービス・プロバイダーのコア・ルータ接続用インタ

フェース●サービス・プロバイダー間を接続するIX用スイッチ

 詳細はPart 2で述べるが、40GEが用意されている

のは、データセンターにおけるサーバ接続などの用途で

は100GEはオーバースペックだと見られているからであ

る。つまり、40GEは、サーバやストレージのインタフェー

ス用途として期待されているわけだ。なお、40GEはチ

ップ・ベンダーからも支持されているが、これは比較的

安価に製品化できるためだと考えられる。

 一方の100GEは、サービス・プロバイダーのコア接

続部やアクセス網のアグリゲーション部分など、より高い

性能が求められる領域での利用が想定されている。

10GEリンク・アグリゲーションで高速化を図る場合の問題点

 既存の技術だけでもEthernetを高速化することは

可能だが、その場合「リンクをいかに集約するか」と「運

用をいかに効率化するか」という課題が立ちはだかる。

 現在、大手通信事業者のバックボーン・ネットワーク

では主に10GEが利用されているが、帯域不足の個

所が増えていることから、複数の10GEインタフェースを

束ねて広帯域化を実現するリンク・アグリゲーションが

採用されている。10GEインタフェースをいくつ束ねるの

かは帯域にもよるが、通信事業者の中には10本近い

10GEインタフェースを束ねる構成をとっているところも

ある。

 リンク・アグリゲーションのメリットは、トラフィックが増大

したとしても、インタフェースを追加すれば帯域を容易に

増強できる点だ。また、一部のインタフェースが故障して

も運用を継続できるところもメリットの1つだ。

 しかし、束ねるインタフェースの数が増えるとデメリット

も生じてしまう。

 まず、帯域の有効活用が難しくなるというのが1つ目

のデメリットである。リンク・アグリゲーションで束ねた帯域

を有効活用するためには、トラフィックを均等に分散さ

せなければならない。だが、物理インタフェースの数が

増えると、この処理が非常に難しくなる。

 帯域を有効活用するのに最も適している手法は、

単純なラウンド・ロビン方式でトラフィックを分散させると

いうものだが、これが用いられることは実際にはない。

なぜなら、ラウンド・ロビン方式の場合、TCPなどのフロ

ーの順序が逆転してしまうことがあるからだ。フローの逆

転が発生すると、エンドユーザーがトラフィックを受信した

ときにフローを並べ替えて元の順番に戻す必要が生じ、

コンピュータの負荷が高くなってしまう。

 そこで、通信事業者のネットワークの場合は、同一の

2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年(出典:総務省および野村総合研究所)

2,216506

331

1,379

2,533827

361

1,345

2,7491,142

387

1,220

2,8951,392

404

1,099

3,0311,598

416

1,077

3,1421,776

424

942

3,2301,927

429

874

3,3052,059

432

814

3,3692,174

434

761

CAGR:8.0%

CAGR:-7.0%

CAGR:1.1%

FTTHCATVADSL

単位:万人CAGR:年平均成長率。ここでは2009 ~ 2013年の5年間が対象

図2:国内コンシューマー向けブロードバンド・サービス加入者数の推移と予測

Page 40: Computerworld.JP Jul, 2009

48 Computerworld July 2009

[特別企画1]

フローではできるだけ同一の物理インタフェースを選択

し、逆転が発生しないように設計されている。ただし、

この方法でもフローごとにトラフィック量が異なると分散

効率は悪くなり、束ねられた物理インタフェースの本数

が多いほど非効率的になっていく。

 2つ目のデメリットは、物理インタフェースの本数が増

えるとトラブルシューティングに時間がかかるという点だ。

リンク・アグリゲーションの接続でパケット・ロスが発生し

た場合には、どの物理インタフェースに不具合があるの

かを切り分けてからトラブル解決にあたる。このとき、当

然ながら束ねた本数が多ければ多いほど、問題が生じ

ているリンクを発見するのに時間がかかってしまう。

 次世代高速化Ethernetを求める声が日増しに高ま

っている背景には、こうした課題の解決が急務になり

つつあるという事情があるわけだ。これらの課題は、次

世代高速化Ethernetに集約することによって解決で

きるとされている。

企業ユーザー向けの次世代高速化Ethernet

 企業向けインターネット・アクセス回線やデータセンタ

ー内の接続用として、10GEがすでに大手通信事業

者から提供されているが、これを高速化するためにはリ

ンク・アグリゲーションが必要となる。だが、企業ユーザ

ーは一般に、冗長化以外の目的で複数の回線を運用

することを好まない。管理が複雑になるからである。

 こうしたことから、GE(1Gbps)接続サービスを利用し

ている企業では通常、帯域が不足したからといって

GEの本数を増やそうとはしない。それよりも10GE接

続サービスを契約し、使った分だけ料金を支払うほうを

選ぶ。つまり、現行の10GE接続サービスは、“シンプ

ルな運用&高速なインタフェース”というニーズにこたえ

たものなのだ。したがって、将来のトラフィック増加に備

える場合でも、企業の多くは10GEのリンク・アグリケー

ションではなく、100GE接続サービスを選択する可能

性が高い。

 データセンター内で利用されているインタフェースにお

いても、10GEの割合は増えてきているが、もはや

10GEでも帯域が足りないというのが実情のようだ。こ

れは、企業で導入が活発化しているサーバ仮想化技

術とも関係がある。

 サーバ仮想化の目的は、少ないハードウェア・リソース

で多数のソフトウェア(OSやアプリケーション)を稼働さ

せ、リソースの利用効率を高めることにある。そのため、

ネットワーク・インタフェースについても、物理的な数を減

らしつつ帯域を増強することが求められるのだ(図3)。

 データセンター用途に限って言えば、安価かつ迅速

に製品の開発・生産が可能な40GEへの期待がとりわ

け高い。上述したように、40GEが登場するまでは、複

数の10GEを用いてロード・バランシングするか、リンク・

アグリゲーションで束ねて当座をしのぐかしかないため、

一刻も早い次世代高速化Ethernetの登場が待たれ

ているのである。

アプリケーション

サーバ

ネットワーク

アプリケーション

サーバ

ネットワーク

アプリケーション

サーバ

ネットワーク

アプリケーション

アプリケーション

サーバ

ネットワーク

アプリケーション

図3:サーバ仮想化が進めば、ネットワーク・インタフェースも物理的な数を減らしつつ、帯域を増強する必要がある

Page 41: Computerworld.JP Jul, 2009

49July 2009 Computerworld

100GE・40GEの2本立て「IEEE 802.3ba」の要点

2種類の多重化方式を併用、10GE技術を踏襲、……次世代高速化Ethernet技術の標準化作業が終盤を迎えている。現在は仕様もほぼ確定し、ドラフト第2版が提出されている段階だ。2010年6月の標準化完了まであと1年足らずとなったことで、すでに導入の検討作業を開始した企業もあるだろう。本パートでは、技術的解説を交えながら、「IEEE 802.3ba」規格で押さえておくべき要点について解説する。

終盤を迎えた標準化作業来年6月には完了の見込み

 次世代高速化Ethernet技術の標準化を担当して

いるのは「IEEE 802.3ba」ワーキング・グループである。

その母体となったのは、2006年7月にIEEE 802委員

会総会において発足したHSSG(High Speed Study

Group)で、議長はいずれもフォーステンネットワークスの

ジョン・ダンブロージア氏が務めている。

 IEEE 802.3baワーキング・グループは、Ethernetが

これまで10倍単位で高速化してきたことや、リッチ・メデ

ィアの普及でインターネット・トラフィックが急増していること

を踏まえ、100Gbps程度の帯域を確保できる仕様を前

提として標準化を模索してきた。現在は、仕様がほぼ

確定し、ドラフト第2版が提出された段階にある。

 今後のスケジュールとしては、今年11月のドラフト第3

版を経て、来年6月には標準化が完了する見込みだ。

作業に遅れが生じる可能性を考慮しても、来年の半

ばには完了するはずなので、ベンダー各社もそれに合

わせて製品開発を行っていると見てよいだろう。

2種類の多重化方式を併用したパラレル伝送方式を採用

 100GEの標準化作業が始まった当初は、「シリアル

伝送方式」と「パラレル伝送方式」の2つが伝送方式と

して検討された。前者はアルカテル・ルーセントが提案

した伝送方式で、既存の40Gbpsクラスの光伝送と同

程度のコストで100Gbpsを実現できるというのが売りだ

った。しかし、この方式は伝送路上での分散保証によ

るコスト増を招くおそれがあったため、最終的には後者

のパラレル伝送方式が採用されることになった。

 とはいえ、以下に示すように、パラレル伝送方式にも

大きく2つの方式が存在しているため、これをどのよう

に扱うかが問題となった。

10GE物理層多重化方式 この方式は「並列ファイバ方式/10列並列方式」と

も呼ばれ、既存の10GE物理層を多重化することで

100Gbpsクラスの通信速度を実現する。単純に言え

ば、10GEを複数まとめることで高速化を図るわけだ。

 2006年11月に行われたHSSG第2回会合では、

12本のマルチモード光ファイバを束ねた並列ファイバを

使用し、比較的安価な短波長レーザー(波長850ナノメ

ートル)を用いれば、100メートル程度の短い距離で

100Gbpsを実現できるとされた。また、10GE用の技術

や機器・部品を転用できるため、対応製品の開発コス

トを抑え、早期に市場投入できるという長所もある。

 一方、欠点としては、多重数の増加で管理負荷が

高まったり、障害個所の切り分けが煩雑になったりす

ることが挙げられる。

25Gbpsの4波多重化方式 この方式は、25Gbpsクラスの光伝送技術が将来廉

価になることを前提として、25Gbps程度の光信号を4

波分多重化するというものである。HSSG第2回会合

では「WDM(波長分割多重)方式」として21Gbpsの5

波多重化の方式も提案されたが、IEEE 802.3baのド

ラフト仕様では当初の提案どおり25Gbpsの4波多重

化が採用されている。

Part 2 :T e c h n o l o g y

Page 42: Computerworld.JP Jul, 2009

50 Computerworld July 2009

[特別企画1]

 4波多重化方式は、10GE物理層多重化方式に比

べて多重化が少なくて済むため、管理面で有利であ

る。しかし、25Gbpsを実現する機器・部品の開発が必

要になることから、コスト面では不利だと言える。

 これら2つのパラレル伝送方式は、最終的にはどちら

も仕様に取り入れられた。具体的には、マルチモード

光ファイバ(距離100メートル以下)では10GE物理層

多重化方式が、シングルモード光ファイバ(同10キロメー

トル以上)では4波多重化方式が採用されている。ま

た、具体的な方式名称(物理インタフェース名)も採択

されており、100GEの場合は最終的に4つの名称が

提供されることになっている(表1)。

当初は100GEを優先40GEは2008年から審議を本格化

 話は前後するが、IEEE 802.3baで、なぜ2つの規

格(40GEと100GE)の標準化が進められているかに

ついて、その経緯を説明しておこう。

 HSSGでは当初、次世代高速Ethernetとして40G

bps、80Gbps、100Gbpsなど複数のデータ速度が検討

されていたが、第2回会合において、データ速度を100

Gbpsとすることが多数決で決まった。「SONETと伝送

速度を合わせ、SONET-Ethernet間で光コンポーネン

トの共通化を図るべき」という意見もあったが、ニーズの

面から100GEが優先されたのである。

 ところが、その後の議論で、「データセンター内のサ

ーバ接続時などでは100GEはオーバースペック」との

意見が大勢を占めるようになる。これを受け、通信事

業者向けに100Gbps、データセンター向けに40Gbps、

という2本立てで標準化が進められることになった。

 しかし、これで決着したわけではなかった。40GEの

是非については議論が長引き、当初予定から3カ月遅

れの2008年1月になって、ようやく「IEEE P802.3ba

40Gb/s and 100Gb/s Ethernet Task Force」として正

式な標準審議が開始された。

 40GEは当初、サーバ接続を主用途としていたため、

伝送媒体としてはマルチモード光ファイバが想定されて

おり、長距離伝送は考慮されていなかった。しかし、あ

とになって、100GEよりも開発コストが低く、市場価格

を抑えられるという理由から、40GEの用途は企業ユー

ザーのアクセス回線まで広げられ、伝送媒体にシングル

モード光ファイバが追加されることになったのだ。

 なお、40GEのシングルモード光ファイバの場合も、4

波多重化方式と1波シリアル方式のどちらにするかが

議論になったが、既存の10GE部品を活用できるという

点が決め手となり、4波多重化方式が採用された。

10GEの技術を踏襲した100GEの階層化構造

 IEEE 802.3ba規格は基本的に10GEの階層構造

を踏襲しているが、「CGMII(100G Medium Indepen

dent Interface)」と「CAUI(100G Attachment Unit

Interface)」が100GEで採用されている点が新しい

(図1)。CGMIIは、MAC副層と物理層を接続するた

めの“論理的な”インタフェースであり、一方のCAUIは

「PMD(Physical Medium Dependent:物理媒体依

存)」と上位層を接続するための“電子的な”インタフェ

ースである。

 「RS(Reconciliation Sublayer:調停副層)」や

「PCS(Physical Coding Sublayer:物理符号化副

層)」、「PMA(Physical Medium Attachment:物理

媒体接続)」、PMDといった層構成については、

100GEは10GEと同じである。こうした層構成を採用

することで、Ethernetフレームを符合化し物理媒体上

で送受信するための仕組みを提供する。

 RSはMAC副層と物理層との仲介役であり、MAC

フレームを微調整するためにIFG(Inter Frame Gap)

を調節する。一方、PCSは100GEで採用されている

64B/66B符号化を行う。また、PMAはパラレル信号

方式名称(物理インタフェース名) 伝送媒体 伝送距離 伝送方式100GBASE-ER4 シングルモード光ファイバ 40キロメートル 4波多重化方式

100GBASE-LR4 シングルモード光ファイバ 10キロメートル 4波多重化方式

100GBASE-SR10 マルチモード光ファイバ 100メートル 10GE物理層多重化方式

100GBASE-CR10 銅線ケーブル 10メートル 10GE物理層多重化方式

表1:100GEで提供される4つの物理インタフェース

Page 43: Computerworld.JP Jul, 2009

51July 2009 Computerworld

をシリアル信号に変換する仕組みだ。最後のPMDは

E/O変換とも呼ばれ、電気信号を光信号へ変換する

役割を担っている。

10GEでも採用されている64B/66B符号化方式

 100GEの符号化方式には「Multi-Lane Distribu

tion(MLD)」(旧CTBI)と呼ばれる技術が採用され

た。MLDのベースとなっているのは、10GEでも採用さ

れている64B/66B符号化方式である。

 64B/66B符号化方式は、上位のMAC副層から送

られるMACフレームの送信データを、64ビット(8バイト)

ごとに2ビットの同期ヘッダを付加して符号化し、合計

66ビットにして伝送するというものだ。この符号化方式

は、MAC副層と物理層を接続するCGMIIと相性が

良いとされている。

 64B/66B符号化方式の場合、上位のMAC層から

CGMII経由で届いたデータを、送受信に適した符号

に変換する際の送信符号のビット・レートは「100Gbps×

66÷64=103.125Gbps」となる。つまり、100Gbpsより

も約3%大きい数値が得られるわけである。

次世代高速化Ethernet製品を選択する際の注意点

 今後、IEEE 802.3baの仕様が確定していくに従っ

て、100GEのサポートを“売り”にしたネットワーク機器

が徐々に増えていくことになろう。企業/組織の側で

も、導入を検討したり、検討材料を収集したりする動き

が活発化していくはずだ。そこで最後に、次世代高速

化Ethernet製品の導入を検討する際に注意すべきポ

イントを2つ挙げておきたい。

コネクティビティとスループット まずチェックすべきなのは、導入候補の機器が、本

当に100GEトラフィックを双方向で処理できるだけの性

能を有しているかどうかという点である。当たり前だと思

われるかもしれないが、十分な性能を持った製品が実

際に開発されて市場に出回るまでには、相当の時間

がかかるはずなのだ。そのため、標準化の完了に先ん

じて対応をアピールしている製品を検討する際には、

性能という点に特に注意が必要だ。

 ここでの「100GEに対応した性能」とは、次の2点を

満たすことを意味する。

 1つは100GEインタフェース上で100Gbpsの帯域を

双方向で転送できること、つまりコネクティビティを有し

ているということである。そしてもう1つは、100Gbps相

当の帯域を転送するのに必要なFPS(1秒当たりの処

理フレーム数)やPPS(1秒当たりの処理パケット数)を

確保できるだけのスループットを実現可能であるという

点だ。コネクティビティとスループットという2つの条件を

満たしていないかぎり、本当の意味での100GE対応と

は言えないのである。

 ちなみに、Fast EthernetからギガビットEthernet、

ギガビットEthernetから10GEへの移行期にも、これと

同様の懸念があった。帯域条件のみを満たし、FPS/

PPSの性能については従来製品と同じレベルにすぎ

100GBASE-ER4/LR4/SR10

100G MAC

RS

CGMII/CAUI

PCS

PMA

PMD

光ファイバ

100GBASE-CR10

100G MAC

RS

CGMII/CAUI

PCS

FEC

PMA

PMD

銅線

Transceiver Module

MDI

MDI

図1:100GEの階層構造。10GEを踏襲しているが、新たにCGMIIとCAUIという2つのインタフェースが追加されている

Page 44: Computerworld.JP Jul, 2009

52 Computerworld July 2009

[特別企画1]

ないネットワーク機器が少なくなかったのだ。

 フレームおよびパケット単位で転送を行うスイッチやル

ータなどでは、FPS/PPSの限界が機器の処理限界

と一致するケースがほとんどである。

 表 2は、10Gbpsおよび100Gbpsのトラフィックを

Ethernet上で転送するうえで、1秒間に処理しなけれ

ばならないフレーム数を示したものだ。これを見ると、

1,518バイト・フレームで100Gbpsを達成するためには

8,127,430FPS/PPSの性能が必要となるが、これ

は、64バイト・フレームで10Gbpsを転送する性能

(14,880,952FPS/PPS)があれば十分に足りることに

なる。

 つまり、従来製品と同レベルの機器でも、1,518バイ

ト・フレームのみを用いれば、100Gbpsを達成している

ように見えるというわけだ。当然のことながら、この機器

は512バイト以下のフレームを100Gbpsで転送する能

力を有していないため、処理限界を超えたトラフィックは

破棄され、通信障害が発生してしまうことになる。

 ネットワーク管理者の側で、ネットワークを通過するフ

レーム・サイズを制御することは難しい。したがって、あ

らゆるサイズのフレームを100Gbpsで転送できるだけの

性能を有していなければ、真の100GEを実現すること

はできない。

 100GEという超高速のインタフェースを収容する装置

は、ネットワーク上で重要なポイントとなる個所に配置さ

れる可能性が高い。それゆえ、その性能がボトルネック

になるとしたら致命的である。コネクティビティとスループ

ットという2つの条件には、特に注意していただきたい。

レイヤ2とレイヤ3 既存のEthernetネットワークから次世代高速化

Ethernetへとシームレスに移行できるよう、レイヤ2の

互換性は100GEでも維持される予定だ。以下は、関

連する仕様の一部である。

●全2重通信(Full Duplex Mode)のみをサポート●既存の802.3/Ethernetのフレーム・フォーマットを

維持●最小および最大フレーム・サイズを継承●MAC上位層に対するビット・エラー率は10~12%

以下を保証●OTN(Optical Transport Network)のサポート●100GbpsのMACデータ転送速度

 フレーム・フォーマットが維持されるため、MACアドレ

ス・ベースの転送方式に変更はない。したがって、次

世代高速化Ethernetに移行しても、既存のL2ネットワ

ーク装置のアーキテクチャに大きな影響を与えることは

ないとみてよい。スパニングツリー・プロトコルや

Ethernet OAMといった、レイヤ2上で使用されるプロ

トコルも、そのまま使用できる可能性が高い。

 また、MACアドレス体系にも大きな変更は発生しな

いので、学習アドレス数の上限といった拡張性の面で

も、既存のL2ネットワーク装置に対する影響は少ない

はずだ。基本的には現在のレイヤ2仕様を継承するこ

とになるため、Ethernetインタフェースを10GEから

100GEに変更するだけで10倍の性能が得られる、と

言っても過言ではないだろう。

 ルータなどのレイヤ3装置においても、Ethernetはす

でに主要なインタフェース・メディアの1つとなっており、

多くのレイヤ3ルータが10GEをサポート済みだ。

 今後、100GEのニーズが高まれば、もちろんベンダ

ー各社も順次対応していくことになろう。ただし、上述し

たように、レイヤ3のスループットには十分注意していた

だきたい。あらゆるトラフィック・パターンにおいて、

100GEのスループット(PPS)を発揮する装置を選択

すべきである。

 現在の市場動向に照らし合わせると、最初に

100GEのインタフェースをサポートすることになるルータ

は、あらゆるトラフィックが集約される通信事業者のコア・

ルータや、事業者間を相互接続するピアリング・ルータ

だと思われる。こうした重要な個所でボトルネックになる

ことは絶対に避けなければならないため、ベンダー各社

も対応製品の開発を慎重に進めているはずだ。

転送速度(Gbps) フレーム・サイズ(バイト) FPS/PPS

100

64 148,809,520※256 45,289,850※512 23,496,240※1518 8,127,430※

10

64 14,880,952256 4,528,985512 2,349,6241518 812,743

表2:10Gbpsおよび100GbpsのトラフィックをEthernet上で転送するうえで、1秒間に処理しなければならないフレーム/パケット数

※100Gbpsの数値は100GE規格のものではなく、便宜的に10GEのものを10倍している

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July 2009 Computerworld 53

2007年後半に日本に上陸し、昨年大ブレイクしたネットブック/UMPC(Ultra Mobile PC)。当初はアスーステック・コンピューター(ASUS)の「Eee PC」シリーズや、エイサーの「Aspire one」シリーズといった台湾ベンダーの製品が売れ筋を独占していた。しかし、ここに来て国内ベンダーも負けじと新製品/モデルを矢継ぎ早に投入してきた。考えてみれば、小型PCの開発は、もともと日本ベンダーの十八番(おはこ)である。今後は、さらに米国や中国のベンダーも巻き込んで、熾烈な戦いが繰り広げられることになろう。本特別企画では、そんなネットブックの最新トレンドを分析するとともに、2008年末から2009年にかけてリリースされた注目機種の特徴を詳しく紹介することにしたい。

池田圭一

2009年のキーワードは「見た目」と「通信」

 ネットブックの最新トレンドを見る前に、まずは同市場

を巡るこれまでの動きをおさらいしておこう。

 2007年後半から2008年前半にかけて発売された

初期のネットブックは、何よりも小型・軽量で低価格で

あることを「売り」にしていた。そのため、機能的な制限

があるのはやむをえなかった。しかし、2008年の夏から

秋にかけて、中国のレノボをはじめNECや東芝といっ

た大手ベンダーが、続 と々高機能ネットブックを市場に

投入したことで、選択肢の幅は一気に広がることにな

った。その結果、今では、ネットブックがノートPC売り場

の大半を占めているようなPCショップも珍しくない。

 ちなみに、現在、ネットブックの主流を占めているの

は、以下のような仕様の製品である。

●CPU:Intel Atom N270●チップセット:Intel 945GSE(GMA950)●メモリ:1GB(最大2GB)●ストレージ:2.5インチSATA 160GB・HDD●ディスプレイ・サイズ:10インチ型ワイド液晶●ポインティング・デバイス:タッチ・パッド●通信機能:1000BASE-Tおよび無線LAN内蔵●インタフェース:USB 2.0、メモリカード・スロット、オ

ーディオIN/OUTほか●OS:Windows XP Home Edition 液晶ディスプレイ・サイズに関して言えば、8.9インチ

型と10インチ型の差は明らかだ。表示解像度はどちら

もWSVGA(1,024×600ドット)で小型パネルのほうが

精細ではあるが、文字などの視認性では、10インチ型

のほうがすぐれていることは言うまでもない。ネットブック

の登場当初に見られたような「小型至上主義」は薄れ

つつあるようだ。

 また、最近では本体デザインやカラーリングなど、「見

た目」を追求した製品も続 と々登場している。ソニーの

「VAIO type P」などは、その格好の例だ。もっとも、ソ

ニーは同製品を「ライフスタイル・ノートブック」と呼んで、

既存のネットブックとは一線を画そうとしている。

 では、そうした中で、人気機種となっているのはどの

ような製品なのだろうか。

 最近のトレンドを見ると、モビリティより使いやすさのほ

うが重視される傾向にあることがわかる。ベンダー各社

が製品を開発する際には、多少大きく(そして重く)なっ

てもかまわないから、画面サイズやキーボード(キー)の

大きさ・配置、さらには見た目へのこだわりを優先させよ

うという意図が働いているようだ。これは、ユーザーが

「自分だけのネットブック」を求めると同時に、ネットブック

そのものが「Webとメールをチェックするだけのマシン」

&国内ベンダー大健闘! カラー・バリエーションが充実した新モデルを一挙紹介

2

特別企画

大図鑑[2009-Ⅱ]

Page 46: Computerworld.JP Jul, 2009

54 Computerworld July 2009

から「メインのマシンと同様にガンガン利用するマシン」

へと進化した結果だと言うことができよう。

 もう1つのトレンドは、データ通信サービスを提供して

いる通信キャリアと提携した「抱き合わせモデル」が躍

進していることだ。

 大手家電量販店などでは、ネットブック購入時にイー・

モバイルなどが提供するデータ通信サービスを契約す

れば、ネットブック本体は100円(1円というショップもあ

った)で購入できるといったキャンペーンを行っている。

 このような販売モデルは、米国ではすでにごく一般

的になっている。例えば、米国デルのネットブック

「Inspiron Mini 9」を購入する際に、AT&Tのデータ

通信サービス「LaptopConnect」を2年契約すれば、

Inspiron Mini 9は99ドルで購入することができる。

始まった国内ベンダーの猛攻

 さて、2009年のわが国ネットブック市場で特筆すべ

き点は、国内ベンダーの健闘ぶりである。ネットブック登

場当初は外国(とくにアジア系)ベンダーに押され気味

だったが、最近は、NEC、シャープ、東芝といったベン

ダーが、高機能、堅牢性、信頼性などを前面に打ち出

した製品を続 と々リリースしている。

 例えば、2008年秋にネットブック市場に参入した

メーカー ソニー NEC 東芝 東芝 富士通 シャープ製品モデル名 VAIO type P LaVie Light BL100/SA6 NB100/HW dynabook UX(PAUX23) LOOX M/D10 Mebius PC-NJ70A重量 約588g 約1.16kg 約1.07kg 約1.18kg 約1.2kg 約1.46kg本体寸法(幅×奥行×高さ) 245×120×19.8mm 250×176.5×31.3~36.5mm 225×190.5×29.5~33mm 263×192.3×25.4~30.8mm 258×189×20~34mm 260×190×23.3~39.8mm

ディスプレイ・サイズ 8型ウルトラワイドTFT光沢液晶、LEDバックライト 10.1型ワイド低反射液晶/LEDバックライト 8.9型ワイド、光沢/LEDバックライト 10.1型ワイド、Clear SuperView液晶/省電力

LEDバックライト10.1型ワイド、スーパーファイン液晶/LEDバックライト

10.1型ワイド、ピュアクリーン液晶/LEDバックライト

画面ピクセル数 1,600×768ドット 1,024×576ドット 1,024×600ドット 1,024×600ドット 1,024×576ドット 1,024×600ドット外部ディスプレイ出力 1,600×1,200ドット 1,280×1,024ドット 2,048×1,536ドット 1,600×1,200ドット 1,280×1,024ドット 2,048×1,536ドットバッテリー駆動時間 4.5時間 3時間 3.7時間 4時間 2.6時間 3時間無線LAN/ワイヤレス機能 オプション IEEE802.11b/g IEEE802.11b/g、Bluetooth IEEE802.11b/g IEEE802.11b/g、Bluetooth IEEE802.11b/g、Bluetoothクロック数/CPU 1.33GHz/Atom N520 1.6GHz/Atom N270 1.6GHz/Atom N270 1.66GHz/Atom N280 1.60GHz/Atom N270 1.60GHz/Atom N270メイン・メモリ(標準/最大) 2.0GB/2.0GB 1.0GB/1.0GB 1.0GB/1.0GB 1.0GB/1.0GB 1.0GB/2.0GB 1.0GB/2.0GB内蔵ストレージ 60GB HDD 160GB HDD 160GB HDD 160GB HDD 160GB HDD 160GB HDDOS Windows Vista Home Basic SP1 Windows XP Home SP3 Windows XP Home SP3 Windows XP Home SP3 Windows XP Home SP3 Windows Vista Home Basic SP1

その他の機能 ワンセグチューナー、無線LAN、GPS、Bluetoothなどはオプション 131万画素カメラ 30万画素カメラ 30万画素カメラ、SDメモリカードスロット 130万画素カメラ、14種類の辞書ソフト搭載 130万画素カメラ、メモリカードスロット、辞書・

辞典ソフト搭載

実勢価格(括弧内は最安値) 7万9,800円~ 5万9,850円(直販サイトで完売扱い) 6万4,800円(直販サイトでは在庫なし、Webオリジナル・モデル) オープン(5万円台前半) 直販価格5万9,800円 8万円前後の予想(5月下旬発売)

メーカー レノボ レノボ HP HP HP デル製品モデル名 IdeaPad S10e IdeaPad S9e HP Mini 1000 Vivienne Tam Edition HP Mini 1000 夏モデル HP Mini 2140 Inspiron Mini 10 プレミアムパッケージ重量 約1.38kg 約1.3kg 約1.1kg 約1.1kg 約1.19kg 約1.17kg本体寸法(幅×奥行×高さ) 250×196×22~36mm 250×196×22~36mm 261.7×166.7×25.9mm 261.7×166.7×25.9mm 261×166×27.2mm 261×182.5×25.3~28mmディスプレイ・サイズ 10.1型ワイド、光沢/LEDバックライト 8.9型ワイド、光沢/LEDバックライト 10.1型ワイド、光沢ハードコート液晶 10.1型ワイド、光沢ハードコート液晶 10.1型ワイド、光沢液晶/LEDバックライト 10.1型ワイド、光沢画面ピクセル数 1,024×576ドット 1,024×600ドット 1,024×600ドット 1,024×576ドット 1,024×576ドット 1,024×576ドット外部ディスプレイ出力 1,920×1,200ドット 1,920×1,200ドット - - 2,048×1,536ドット 可能バッテリー駆動時間 5.3時間 6.2時間 3.3時間 3.5時間 4.5時間 3.1時間無線LAN/ワイヤレス機能 IEEE802.11b/g、Bluetooth IEEE802.11b/g、Bluetooth IEEE802.11b/g、Bluetooth IEEE802.11b/g IEEE802.11b/g IEEE802.11b/g、Bluetoothクロック数/CPU 1.6GHz/Atom N270 1.6GHz/Atom N270 1.6GHz/Atom N270 1.6GHz/Atom N270 1.6GHz/Atom N270 1.33GHz/Atom Z520メイン・メモリ(標準/最大) 1.0GB/1.5GB 1.0GB/1.5GB 1.0GB/1.0GB 1.0GB/1.0GB 1.0GB/1.0GB 1.0GB/1.0GB内蔵ストレージ 160GB HDD 160GB HDD 60GB HDD 80GB HDDおよび32GB SSD 160GB HDD 160GB HDDOS Windows XP Home SP3 Windows XP Home SP3 Windows XP Home SP3 Windows XP Home SP3 Windows XP Home SP2 Windows XP Home SP3

その他の機能 130万画素カメラ、Expressカードスロット、インスタントON機能

30万画素カメラ、顔認証機能、Expressカードスロット VGA Webカメラ、特製サテンバック付属 VGA Webカメラ Expressカードスロット、SDカードスロット Atom Z530/1.6GHz、10.1型ワイド(1,366×

768ドット)選択可能実勢価格(括弧内は最安値) 4万9,800円(3万8,000円前後) 3万~3万5,000円 5万4,600円 4万9,980円(HDDモデル) 5万9,850円 5万2,331円(4万9,980円)

メーカー/ ASUS ASUS ASUS ASUS エイサー エイサー製品モデル名 Eee PC 1000HE Eee PC S101H Eee PC 1002HA Eee PC 900HA Aspire one D250 Aspire one D150重量 約1.45kg 約1.1kg 約1.25kg 約1.12kg 約1.07kg 約1.18kg本体寸法(幅×奥行×高さ) 266×191.2×28.5~38mm 264×181×25~27.5mm 264×181×27.6~27.8mm 225×170×20~34mm 258.5×184×25.4mm 260×185×33.4mmディスプレイ・サイズ 10型ワイド 10.2型ワイド 10型ワイド 8.9型ワイド 10.1型ワイド、光沢/LEDバックライト 10.1型ワイド、光沢画面ピクセル数 1,024×600ドット 1,024×600ドット 1,024×600ドット 1,024×600ドット 1,024×600ドット 1,024×600ドット外部ディスプレイ出力 2,048×1,536ドット 2,048×1,536ドット 2,048×1,536ドット 2,048×1,536ドット 可能 可能バッテリー駆動時間 9.3時間 4時間 4.1時間 4.5時間 3.5時間 3時間無線LAN/ワイヤレス機能 IEEE802.11b/g/n、Bluetooth IEEE802.11b/g/n、Bluetooth IEEE802.11b/g/n、Bluetooth IEEE802.11b/g/n、Bluetooth IEEE802.11b/g、Bluetooth IEEE802.11b/g、Bluetoothクロック数/CPU 1.66GHz/Atom N280 1.6GHz/Atom N270 1.6GHz/Atom N270 1.6GHz/Atom N270 1.66GHz/Atom N280 1.6GHz/Atom N270メイン・メモリ(標準/最大) 1.0GB/1.0GB 1.0GB/1.0GB 1.0GB/1.0GB 1.0GB/1.0GB 1.0GB/1.0GB 1.0GB/1.0GB内蔵ストレージ 160GB HDD 160GB HDD 160GB HDD 160GB HDD 160GB HDD 160GB HDDOS Windows XP Home SP3 Windows XP Home SP3 Windows XP Home SP3 Windows XP Home SP3 Windows XP Home SP3 Windows XP Home SP3その他の機能 130万画素カメラ、6セル・バッテリー標準 30万画素カメラ 130万画素カメラ 30万画素カメラ 30万画素カメラ、4色のカラー・バリエーション 30万画素カメラ実勢価格(括弧内は最安値) オープン(4万8,000円前後) オープン(5万7,000円前後) オープン(4万8,000円前後) オープン(3万5,500円前後) オープン(5万円前後) オープン(4万円前後)

表1:現在国内で販売されている主要ネットブック&UMPC

Page 47: Computerworld.JP Jul, 2009

特別企画2

55July 2009 Computerworld

NECと東芝は、2009年4月に従来モデルを大幅に改

良した製品をリリースした。2008年秋の時点では、両

社のネットブックの知名度はそれほど高いとは言えなか

ったが、新モデルは、モバイル志向のユーザー・ニーズ

を第1に考えたつくりになっており、評判も上々だ。

 一方、海外ベンダーの強みは、販売網を持たないた

めにかえって自社サイトなどを利用した直販体制を充実

させられること、そしてその結果、合理的な生産および

販売管理体制を構築できることである。事実、同じ海

外ベンダーでも、店頭販売を主体にしているレノボより

も、大規模な直販体制を構築しているデルやヒューレッ

ト・パッカード(HP)のほうが勢いがある(ような印象を受

ける)。

 また、スペック的には普及モデルと同一の「プレミア・

デザイン・モデル」を積極的に展開しているのも、海外

ベンダーの特徴だ。例えば、デルはInspiron Mini

9/12に、トイ・デザイナーのトリスタン・イートン氏のデザイ

ン5種類を含む9種類のカバー・バリエーションを用意し

ている。一方、HPは女性に大人気のファッション・デザ

イナー、ヴィヴィアン・タム氏がデザインした「HP mini

1000」限定モデルを2009年から発売している。

 ということで、以下では、2008年後半以降に登場し

た注目のネットブックを、ベンダー/製品別に紹介して

いくことにしたい。

(注)価格については、ダイレクト販売のみの製品に関しては原稿執筆時(2009年 4月20日現在)における最小構成価格

(税込み/送料別)を、それ以外の製品に関しては実勢価格および最安価を掲載した。ただし、期間限定のキャンペーン価格であったり、今後価格改定が行われたりすることもあるため、あくまでも参考にとどめるようにしていただきたい。

メーカー ソニー NEC 東芝 東芝 富士通 シャープ製品モデル名 VAIO type P LaVie Light BL100/SA6 NB100/HW dynabook UX(PAUX23) LOOX M/D10 Mebius PC-NJ70A重量 約588g 約1.16kg 約1.07kg 約1.18kg 約1.2kg 約1.46kg本体寸法(幅×奥行×高さ) 245×120×19.8mm 250×176.5×31.3~36.5mm 225×190.5×29.5~33mm 263×192.3×25.4~30.8mm 258×189×20~34mm 260×190×23.3~39.8mm

ディスプレイ・サイズ 8型ウルトラワイドTFT光沢液晶、LEDバックライト 10.1型ワイド低反射液晶/LEDバックライト 8.9型ワイド、光沢/LEDバックライト 10.1型ワイド、Clear SuperView液晶/省電力

LEDバックライト10.1型ワイド、スーパーファイン液晶/LEDバックライト

10.1型ワイド、ピュアクリーン液晶/LEDバックライト

画面ピクセル数 1,600×768ドット 1,024×576ドット 1,024×600ドット 1,024×600ドット 1,024×576ドット 1,024×600ドット外部ディスプレイ出力 1,600×1,200ドット 1,280×1,024ドット 2,048×1,536ドット 1,600×1,200ドット 1,280×1,024ドット 2,048×1,536ドットバッテリー駆動時間 4.5時間 3時間 3.7時間 4時間 2.6時間 3時間無線LAN/ワイヤレス機能 オプション IEEE802.11b/g IEEE802.11b/g、Bluetooth IEEE802.11b/g IEEE802.11b/g、Bluetooth IEEE802.11b/g、Bluetoothクロック数/CPU 1.33GHz/Atom N520 1.6GHz/Atom N270 1.6GHz/Atom N270 1.66GHz/Atom N280 1.60GHz/Atom N270 1.60GHz/Atom N270メイン・メモリ(標準/最大) 2.0GB/2.0GB 1.0GB/1.0GB 1.0GB/1.0GB 1.0GB/1.0GB 1.0GB/2.0GB 1.0GB/2.0GB内蔵ストレージ 60GB HDD 160GB HDD 160GB HDD 160GB HDD 160GB HDD 160GB HDDOS Windows Vista Home Basic SP1 Windows XP Home SP3 Windows XP Home SP3 Windows XP Home SP3 Windows XP Home SP3 Windows Vista Home Basic SP1

その他の機能 ワンセグチューナー、無線LAN、GPS、Bluetoothなどはオプション 131万画素カメラ 30万画素カメラ 30万画素カメラ、SDメモリカードスロット 130万画素カメラ、14種類の辞書ソフト搭載 130万画素カメラ、メモリカードスロット、辞書・

辞典ソフト搭載

実勢価格(括弧内は最安値) 7万9,800円~ 5万9,850円(直販サイトで完売扱い) 6万4,800円(直販サイトでは在庫なし、Webオリジナル・モデル) オープン(5万円台前半) 直販価格5万9,800円 8万円前後の予想(5月下旬発売)

メーカー レノボ レノボ HP HP HP デル製品モデル名 IdeaPad S10e IdeaPad S9e HP Mini 1000 Vivienne Tam Edition HP Mini 1000 夏モデル HP Mini 2140 Inspiron Mini 10 プレミアムパッケージ重量 約1.38kg 約1.3kg 約1.1kg 約1.1kg 約1.19kg 約1.17kg本体寸法(幅×奥行×高さ) 250×196×22~36mm 250×196×22~36mm 261.7×166.7×25.9mm 261.7×166.7×25.9mm 261×166×27.2mm 261×182.5×25.3~28mmディスプレイ・サイズ 10.1型ワイド、光沢/LEDバックライト 8.9型ワイド、光沢/LEDバックライト 10.1型ワイド、光沢ハードコート液晶 10.1型ワイド、光沢ハードコート液晶 10.1型ワイド、光沢液晶/LEDバックライト 10.1型ワイド、光沢画面ピクセル数 1,024×576ドット 1,024×600ドット 1,024×600ドット 1,024×576ドット 1,024×576ドット 1,024×576ドット外部ディスプレイ出力 1,920×1,200ドット 1,920×1,200ドット - - 2,048×1,536ドット 可能バッテリー駆動時間 5.3時間 6.2時間 3.3時間 3.5時間 4.5時間 3.1時間無線LAN/ワイヤレス機能 IEEE802.11b/g、Bluetooth IEEE802.11b/g、Bluetooth IEEE802.11b/g、Bluetooth IEEE802.11b/g IEEE802.11b/g IEEE802.11b/g、Bluetoothクロック数/CPU 1.6GHz/Atom N270 1.6GHz/Atom N270 1.6GHz/Atom N270 1.6GHz/Atom N270 1.6GHz/Atom N270 1.33GHz/Atom Z520メイン・メモリ(標準/最大) 1.0GB/1.5GB 1.0GB/1.5GB 1.0GB/1.0GB 1.0GB/1.0GB 1.0GB/1.0GB 1.0GB/1.0GB内蔵ストレージ 160GB HDD 160GB HDD 60GB HDD 80GB HDDおよび32GB SSD 160GB HDD 160GB HDDOS Windows XP Home SP3 Windows XP Home SP3 Windows XP Home SP3 Windows XP Home SP3 Windows XP Home SP2 Windows XP Home SP3

その他の機能 130万画素カメラ、Expressカードスロット、インスタントON機能

30万画素カメラ、顔認証機能、Expressカードスロット VGA Webカメラ、特製サテンバック付属 VGA Webカメラ Expressカードスロット、SDカードスロット Atom Z530/1.6GHz、10.1型ワイド(1,366×

768ドット)選択可能実勢価格(括弧内は最安値) 4万9,800円(3万8,000円前後) 3万~3万5,000円 5万4,600円 4万9,980円(HDDモデル) 5万9,850円 5万2,331円(4万9,980円)

メーカー/ ASUS ASUS ASUS ASUS エイサー エイサー製品モデル名 Eee PC 1000HE Eee PC S101H Eee PC 1002HA Eee PC 900HA Aspire one D250 Aspire one D150重量 約1.45kg 約1.1kg 約1.25kg 約1.12kg 約1.07kg 約1.18kg本体寸法(幅×奥行×高さ) 266×191.2×28.5~38mm 264×181×25~27.5mm 264×181×27.6~27.8mm 225×170×20~34mm 258.5×184×25.4mm 260×185×33.4mmディスプレイ・サイズ 10型ワイド 10.2型ワイド 10型ワイド 8.9型ワイド 10.1型ワイド、光沢/LEDバックライト 10.1型ワイド、光沢画面ピクセル数 1,024×600ドット 1,024×600ドット 1,024×600ドット 1,024×600ドット 1,024×600ドット 1,024×600ドット外部ディスプレイ出力 2,048×1,536ドット 2,048×1,536ドット 2,048×1,536ドット 2,048×1,536ドット 可能 可能バッテリー駆動時間 9.3時間 4時間 4.1時間 4.5時間 3.5時間 3時間無線LAN/ワイヤレス機能 IEEE802.11b/g/n、Bluetooth IEEE802.11b/g/n、Bluetooth IEEE802.11b/g/n、Bluetooth IEEE802.11b/g/n、Bluetooth IEEE802.11b/g、Bluetooth IEEE802.11b/g、Bluetoothクロック数/CPU 1.66GHz/Atom N280 1.6GHz/Atom N270 1.6GHz/Atom N270 1.6GHz/Atom N270 1.66GHz/Atom N280 1.6GHz/Atom N270メイン・メモリ(標準/最大) 1.0GB/1.0GB 1.0GB/1.0GB 1.0GB/1.0GB 1.0GB/1.0GB 1.0GB/1.0GB 1.0GB/1.0GB内蔵ストレージ 160GB HDD 160GB HDD 160GB HDD 160GB HDD 160GB HDD 160GB HDDOS Windows XP Home SP3 Windows XP Home SP3 Windows XP Home SP3 Windows XP Home SP3 Windows XP Home SP3 Windows XP Home SP3その他の機能 130万画素カメラ、6セル・バッテリー標準 30万画素カメラ 130万画素カメラ 30万画素カメラ 30万画素カメラ、4色のカラー・バリエーション 30万画素カメラ実勢価格(括弧内は最安値) オープン(4万8,000円前後) オープン(5万7,000円前後) オープン(4万8,000円前後) オープン(3万5,500円前後) オープン(5万円前後) オープン(4万円前後)

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56 Computerworld July 2009

VAIO type P│ソニー

 ソニーがVAIO type Pを発表したのは、2009年1月に米国ラスベガスで開催された「2009 International CES

(Consumer Electronics Show)」においてであった。横長の本体サイズ(幅245mm×奥行き120mm×高さ19.8mm)と588gという重量は、「スタイルのソニー」が健在であることを示すのに十分なインパクトがあった。 VAIO type Pの本体は、ちょうどB5サイズのノートPCのキーボード部分をそのまま取り出したような印象。キーピッチ16.5mm/ストローク1.2mmのキーボードは多少小さめではあるものの、ほどよく間隔があいており、タッチ・タイピングでもそれほど戸惑うことはない。ポインティング・デバイスにはスティック・タイプを採用しているが、レノボのThinkPadなどでこの方式に慣れ親しんでいるユーザーには歓迎されそうだ。 液晶パネルは、1,600×768ドット表示(UWXGA)の8インチ型ワイドとなっている。ほかに類を見ない横長の表示解像度だが、惜しむらくは画面サイズが小さい。ソニーでは、左右に2つのウィンドウを表示して作業できるようにしたと説明しているが、細かい文字を判別するのは、やや厳しい。OSがWindows Vistaなので、文字の表示解像度を変更することは可能だが、解像度を上げると縦が短くなってしまう。 VAIO type Pのもう1つの特徴は、スペックがカスタマイ

ズできることだ。例えば、CPUはAtom Z540(クロック周波数/1.86GHz)、Atom Z530(同 1.6GHz)、Atom Z 520(同1.33GHz)から選択できる。また、ストレージはSSD 64GB/128GBあるいはHDD 60GBから選択可能だ。 バッテリーの駆動時間は約4〜4.5時間(標準バッテリー・パック)だが、液晶パネルの輝度を下げたり、無線LAN機能をオフにしたりすることによって省電力に努めれば、5〜6時間は使用できる。 と、ここまでは良いことずくめなのだが、問題は価格である。VAIO type Pは、ほぼすべてのパーツが小型化に向けて新しく設計されている。そのため、最小構成でこそ8万円を切るものの、スペック・アップしたオプション構成になると、すぐに10万円を超えてしまう。結論的には、「スタイルにもスペックにもこだわりたい。そのためには多少コストがかさむのもいとわない」という高級志向のユーザー向きの製品と言えそうだ。

B5サイズのモバイル・ノートPC(ThinkPad X61s)と比較してみると、そのコンパクトさがわかる

デザインを重視し、各種ステッカーなども、通常は見えない位置に貼るという徹底ぶり。バッテリー容量は2100mAh。本体底面の半分ほどをバッテリーが占める

折りたたんだ状態ではPCに見えない「SONY VAIO type P」。外装カラーには4色が用意されているが、いずれも深みのある光沢仕上げで高級感がある

ポケットに入るスタイリッシュなボディ

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特別企画2

57July 2009 Computerworld

ビジネス・ユースにも対応できるdynabookブランドの真骨頂

dynabook UX/23│東芝

 2008年秋に国内ベンダーとして初めてネットブック市場に参入し、その後もWindows Vista搭載モデルを投入するなど、攻撃の手を緩めない東芝。「dynabook UX/23」は、そんな東芝が全面的に新しく設計したネットブックだ。 本体サイズは、幅 263mm×奥行き192.3mm×高さ25.4-30.8mmで重量が1.18kgと、ほぼスタンダードなネットブック仕様。しかし、「中身」は、CPUにAtom N280

(1.66GHz)を採用し、「Office Personal 2007」搭載モデルをラインアップに加えるなど、ビジネス・ユースを念頭に置いた構成になっている。 dynabook UX/23の特筆すべき点は、キーボードである。スクエア・デザインのすっきりしたキートップは、B5ノートPCと同等のキーピッチ19mm(横)で、タッチ・タイピングがしやすく、長時間文書作成をする場合にもストレスを感じない。 ほかにも、見やすさに定評のあるClear SuperView液晶を採用したり、マウス・ボタンをタッチ・パッドの下部に配置したりといったように、使い勝手にこだわっている。

「dynabook UX/23」。カラー・バリエーションにもサテン・ブラウンとスノー・ホワイトの2色が用意されている

 さらに、3D加速度センサーと連携したHDDプロテクション(ヘッド退避)機能が備わっていたり、オプションの大容量バッテリーで10時間の使用が可能だったりと、ビジネス・シーンにおいても安心して使える工夫が凝らされている。価格もオープンで5万円前後と手ごろだ。

トレンドの10インチ液晶を採用。入手が困難な人気モデル

LaVie Light BL100/SA6│NEC

 「LaVie Light BL100/SA6」は、「ネットブックの基本を網羅した製品」と言えるだろう。CPUにはAtom N270を、内蔵ストレージには160GB・HDDを採用しており、実勢価格は5万円以下、スクエアなデザインと国内ベンダーならではの親近感で、多くのユーザーに受け入れられている。実際、直販サイトでも完売扱いとなっているほどの人気商品だ。 LaVie Light BL100/SA6は従来モデルのLaVie Light BL100/RAと比較しても、省電力化と軽量化が図られている。バッテリー駆動時間は2.9時間から3時間に、本体重量は1.17kgから1.16kgに改善された。カラー・バリエーションもソリッド・ピンクやソリッド・ブルーなど、奇をてらわないパステル調を採用し、幅広いユーザーに受け入れられている。「LaVie Light BL100/SA6」にはパステル調カラー4色が用意されている

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58 Computerworld July 2009

光センサー液晶パッド搭載の新感覚ネットブック

Mebius PC-NJ70A│シャープ

 ネットブック市場への参入には積極的ではなかったシャープだけに、同社が2004年に重量880gの超小型ノートPC「MURAMASA」をリリースしたことを覚えている人は少ないのではないか。 そんなシャープが満を持してネットブック市場に投入したのが、

「Mebius PC-NJ70A」である。重量は1.46kgで10インチ・ワイド液晶を搭載。Atom N270、160GB・HDDを採用した基本構成は、スタンダードなネットブックと言えるものだ。ちなみに、OSにはWindows Vista Homeを採用している。 そんなMebius PC-NJ70Aの特徴は、なんと言ってもタッチ・パッド部に4インチ(854×480ドット表示)「光センサー液晶パッド」を採用している点である。光センサー液晶とは、液晶の画素そのものに画像読み取り機能を組み込んだものだ。これにより、従来のマウス機能に加えて、ペンによる絵や字の手書き入力や、複数の指でのマルチタッチ(ジェスチャー)操作が可能になる。 また、従来方式のタッチ・パネルには欠かせないタッチ・センサーや保護膜を液晶パネル表面に貼り付ける必要がないため、図や写真などをより鮮明に表示することができる。サブ・ディスプレイとして専用アプリケーションを表示することも可能だ。

「Mebius PC-NJ70A」。カラー・バリエーションとしてホワイトとブラックがあるほか、オプションのアドオンジャケット(天板裏を覆う樹脂カバー)を装着すれば、自分好みのデザインにカスタマイズすることも可能

満員電車の中で押しつぶされてもヘタレない

LOOX M/D10│富士通

 据え置きを想定した(要はハイスペックで重い)ノートPCは「BIBLO」シリーズ、モバイル性を重視したノートPCは「LOOX」シリーズと、ブランドを使い分けてきた富士通。同社が4月21日に発売した「LOOX M/D10」は、(LOOXブランドを名乗ってはいるが)両シリーズの中間に位置する製品だと言える。 CPUに1.6GHzのAtom N270を採用、メモリ1GB搭載、160GB・HDDを内蔵という基本構成は、ネットブックのスタンダード仕様だが、国内ベンダーらしく(?)付属ソフトが充実している点が特徴だ。「三省堂デイリー3か国語辞典」や「ジーニアス・明鏡MX統合辞書」など14種類の辞書ソフトや、作成時までの利用環境を復元できる「マイリカバリ」などまでが標準で備わっているのはありがたい。 また、天板からの全面加圧で200kgf、1点加圧で35kgfの耐圧評価試験もクリアしており、「満員電車にも耐えうる」

(とは富士通は言っていないが)仕様になっている。

 カラー・バリエーションも、富士通にしては珍しく、光沢ホワイトとレッドの2種類をそろえている(ちなみに、直販モデルでは、限定版ブラック・カラーも用意)。国内ベンダーならではの手厚いサポートを受けたい人にはお勧めの一品だ。

「LOOX M/D10」。直販では5万9,800円だが、実勢価格は5万円前後になっている(4月28日時点)

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特別企画2

59July 2009 Computerworld

「パワーユーザー仕様」のIdeaPadを、驚きの低価格で提供

IdeaPad S9e│レノボ

 2008年12月に発売したネットブック「IdeaPad S10e」が絶好調のレノボ。2009年2月にはカラー・モデルも追加され、さらに2009年4月には海外のみで販売されていたブラック・モデルが国内で販売されることも決定した。 「IdeaPad S9e」は、そうした一連の流れを受けて登場した期待のモデルである。液晶ディスプレイのサイズを除けば、基本スペック(CPU:Atom N270、メイン・メモリ:1GB、HDD:160GB)はIdeaPad S10eと同じだ。8.9インチ型になったおかげで、バッテリーの駆動時間も5.3時間から6.2時間に延びた。また、表示解像度も1,024×576ドットからSVGAの1,024×600ドットに向上し、IdeaPad S10eで課題とされていた「画面欠け」も解消された。

「IdeaPad S9e」。画面上の中央部にあるカメラは、I d e a P a d S10eの130万画素タイプから30万画素タイプへとスペック・ダウンしたが、生体認証として使える顔認証機能が追加された

 IdeaPad S9eの特筆すべき点は、何と言ってもその価格だろう。IdeaPad S10eとほぼ同等のスペックであるにもかかわらず、3万円台前半で販売されているのだ。 ただし、徹底したコスト削減のためか、マニュアルにはIdeaPad S10eと同じものが使われている。初めてネットブックを購入するユーザーにとっては、少々敷居が高い機種だと言えそうだ。

高速CPUを搭載した「ネットブックの代名詞」       価格と性能のバランスに優れた「定番ネットブック」

Aspire one D250│エイサー

 各社のネットブックのスペックが横並び傾向にあるなか、本体のスリム化とCPUの高速化で差別化を図っているのが、エイサーの

「Aspire one D250」である。ディスプレイに10インチ型を採用したところは前モデルの「Aspire one D150」と同じだが、幅・奥行きをほぼそのままに、高さをジャスト1インチ(25.4mm)にまで圧縮した。また、ネットブックの標準CPUであるAtom N270よりも高性能なAtom N280(1.66GHz)を採用していながら、バッテリー(3セル)駆動時間は約3.5時間と、Aspire one D150より約30分向上させた。 もう1つ特筆すべきは、旧モデルの8.9インチ型ともバッテリー・パックを共用できる点だ。これにより、予備バッテリーなどを購入済みのユーザーも、既存の資産を無駄にしないで済むわけである。実勢販売価格は5万円前後と、(エイサーにしては)高めになっている。ただし、ボーナス商戦ごろには多少値下がりすると思われる。

液晶パネル部が薄くなった「Aspire one D250」。6セル・オプション・バッテリーを使用した場合、約 7時間の稼働が可能だ

Aspire one D150│エイサー

 従来の「Aspire one」シリーズは、ディスプレイ・サイズが8.9インチ型だった。それが、Aspire one D150では10インチ型になった。そのため、8.9インチ型モデルと比較すると、一回り(横幅11mm×奥行き15mm×高さ4.4mm)大きくなり、重量も120gほど増えている。 しかし、価格は据え置かれたうえ(実売価格では、8.9インチ型モデルより安い場合もある)、タッチ・パッドのボタン位置の変更といった、使い勝手の向上を主眼に置いた改良もなされている。CPUやメイン・メモリは8.9インチ型モデルと同様だが、HDDには容量160GB/回転数5,400rpmの高速版を採用している。

2009 年 2月に発売された「Asp i r e one D150」。D250よりも若干重いが、4万円前後という実勢価格は魅力だ

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60 Computerworld July 2009

ビジネス・ユーザーをターゲットに定めた安全設計

HP Mini 2140│HP

ビジネス・ユーザーをターゲットにした「かゆいところに手が届くサービス」も提供されている。現在は直販のみで販売されており、価格は、発売当初は6万4,890円とやや高めだったが、現在は5万9,850円に値下げされている。

外観はそっけない(?)が信頼性は高い「HP Mini 2140」

あらゆるニーズにこたえるEee PCシリーズの「豪華」ラインアップ

「Eee PC 1000HE」。マウス・ボタンをパッド下部に配置したことで操作性が向上した。キーの配置にも余裕がある

パワーもバッテリー駆動時間もビジネス用途に堪えうる

 従来はSSD搭載モデルに力を入れていたASUSだが、2008年後半から160GB・HDD搭載モデルにも力を注ぎ始めた。その第 1号が「Eee PC 1000H-X」で、「Eee PC 1000HE」はその後継モデルに当たる。 Eee PC 1000HEの本体サイズは既存のEee PCより一回り大きく(幅266mm×奥行き191mm×高さ28.5-38mm)、ディスプレイにも10インチ型を採用している。それに伴いキーボードのサイズも若干大きくなって、使い勝手が向上した。 タイプしやすいキーボートを備え、9.3時間というバッテリー駆動時間を実現した同機種は、モビリティ性を重視するビジネス・ユーザーから高い評価を得ている。さらに、CPUにはAtom N280(1.66GHz)を採用しているため、Atom N270を搭載した一般的なネットブックに比べて動作がスムーズだ。 外装も高級感があり、ビジネス・ユース向きに仕上がった。この構成で5万円以下という価格は、かなり魅力的だ。

「Eee PC S101H」。シャープなデザインで、スタイルを重視するユーザーに人気が高い

「大容量」と「スタイリッシュ」を極めたトレンド・ネットブック

 「Eee PC S101H」はEee PCシリーズの中でもスタイリッシュなモデルに位置づけられる。ウルトラスリム・タイプの液晶パネルを採用し、ヒンジ部はスワロフスキーのクリスタル・ガラスで仕上げた。カラー・バリエーションもブラウン/シャンパン/グラファイトの3種類をそろえるなど、全面的に高級感を打ち出している。Eee PC S101Hは当初、ストレージには容量16GBのSSDしか採用していなかった。しかし、2009年2月に発売された新モデルからは容量160GBの2.5インチHDDを搭載したモデルが追加された。ただし、バッテリー駆動時間は、SDDモデルでは6時間なのに対し、HDDモデルは約4時間と短くなっている。

Eee PC 1000HE│ASUS

 ファッション・ブランド「Vivienne Tam」とのコラボ・モデルを展開するなど、コンシューマーをターゲットにしている「HP Mini 1000」シリーズに対して、「HP Mini 2140」のほうは一貫してビジネス・ユーザーを対象としている。 10インチ型ディスプレイを採用し、CPUにAtom N270、メイン・メモリは1GB、HDD容量は160GB というスペックは他社の製品と横並びだが、衝撃時のHDDプロテクト機能や、ディスプレイ表面の保護パネル、キーボード下の耐水機構、HDDのセキュリティ・ロックなど、データの安全性には十分な配慮がなされている。また、リカバリー・ディスクが付属していたり、オプションで保守サービスが延長できたりと、

Eee PC S101H│ASUS

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特別企画2

61July 2009 Computerworld

Atom Z520を採用し、「ワンランク上」を目指す

Inspiron Mini 10│デル

 ネットブックとして「Inspiron Mini 9(8.9インチ型)」、小型ノートPCとして「Inspiron Mini 12(12.1インチ型)」の2機種をラインアップしていたデルが、2009年2月にリリースしたのが、10インチ型液晶ディスプレイ搭載のネットブック

「Inspiron Mini 10」だ。同機種は「ワンランク上」を目指したネットブックと言えるだろう。C P Uに A t o m Z 5 2 0

(1.33GHz)、チップセットにグラフィックス内蔵の「GMA 500」を採用し、基本仕様のネットブックとの差別化を図っている。また、160GBの大容量HDDやBluetoothの搭載など、パワーユーザーが求めるツボもきちんと押さえている。 さらに、CPUにAtom Z520を採用したことで、標準では

「Inspiron Mini 10」。マウス・ボタンは省略され、タッチ・パッドをタップして操作する

WSVGA表示の液晶画面を1,366×768ドット(WXGA)表示にアップグレード(オプション)できるほか、バッテリー駆動時間も向上した。カラー・バリエーションも6種類と豊富。また、直販価格が5万円を切っている点もポイントが高い。

「Eee PC 900HA」。プレミア・デザインが多くなった今となっては少 “々古風”な印象だが、価格を考えれば文句は言えない

使い勝手の良さとスタイリッシュさを両立

 Eee PC 1000HEシリーズが使いやすさを追求し、Eee PC S101シリーズがデザイン性を重視しているとすれば、「Eee PC 1002HA」はこれら2モデルのいいとこ取りをした機種である。 基本スペックは、ディスプレイには10インチ型を搭載し、CPUには Atom N270、内蔵ストレージには 2.5インチの HDD

(160GB)を採用と、スタンダードなネットブック仕様になっている。 本体サイズはS101/S101Hとほぼ同様の幅264mm×奥行き181mm×高さ27.6-27.8mmで、基本構造を継承していることがうかがえる。また、キーピッチは17.5mmと大きめで、タッチ・パッドも同サイズの他製品と比較すると広い。問題は、競合するのが自社の「Eee PC S101H」だという点だ。Eee PC S101HとEee PC 1002HAとでは、バッテリーの駆動時間と、Webカメラの画素数(30万画素/130万画素)ぐらいしか違いがないのだ。ちなみに、実売価格では、Eee PC S101HよりもEee PC 1002HAのほうが1万円程度安い。

価格に「そそられる」コンパクト・ネットブック

 8.9インチ液晶を搭載したコンパクトなネットブック「Eee PC 900」シリーズも、ついに160GB・HDD搭載モデルをリリースした。CPUも、従来の「Eee PC 900-X」ではインテルの「Celeron M 353」が採用されていたが、Eee PC 900HAではAtom N270が採用されている。 8.9インチ型ディスプレイを搭載したモデルの魅力は、そのコンパクトさにある。重量は1.12kgに抑えられており、幅225mm×奥行き170mm×高さ20mmの本体は、通常サイズのビジネス・バッグにすっぽりと収まる。バッテリー駆動時間も、4セル・バッテリーで4.5時間と問題ない。さらに、3万5,000円前後という実勢価格は、ネットブックを「今すぐ欲しい」という層にはたまらないだろう。

Eee PC 1002HA│ASUSEee PC 900HA│ASUS

「Eee PC 1002HA」。本体や液晶パネル部の外装にアルミニウム合金を使い、落ち着いた雰囲気を醸し出している

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Computerworld July 200962

電力損失と発熱を抑える「高電圧直流給電システム」データセンターなどに供給する電力を節約する方法として高い効果が期待できるのが、給電方式の変更である。IT機器に最初からDC(直流)で電力を供給すれば、内部でAC(交流)への変換を行う必要がなくなり、電力損失や発熱を抑えることができるわけだ。そうした給電方式の1つに、NTTファシリティーズが中心となって実証実験を進めている「高電圧直流給電システム(HVDC)」がある。同方式を使えば、400V程度のDC電力を給電することで、20%程度の電力節減効果が見込める。

山口 学

400V直流給電でサーバのグリーン化に貢献

DC給電方式のメリットを見直す

 よく知られているように、一般家庭に供給されている

電力は「AC100V」規格である。そして“AC”が交流を

意味することも、本誌読者ならご存じのはずだ。発電

所で作られた電力を、変電所や柱上変圧器を経由し

て住宅やオフィス・ビルなどに供給するという現在の送

配電網の下では、ごく一部の例外を除いてACが用い

られている。

 ACの利点の1つは、変圧器で容易に電圧を変えら

れることだ。そのため、発電所で作られた電力を高電

圧・小電流で送出し、変電所や変圧器で徐々に電圧

を下げていけば、長距離の送電途中で発生する電力

損失を抑えることが可能になる。

 しかし、無停電電源装置(UPS)を備えるデータセン

ターやサーバ・ルームにおいては、AC給電はかえって

電力損失を増大させる要因となってしまう。

 UPS内部のバッテリーを充電するためには、ACか

らDC(直流)に変換する必要がある。一方、サーバや

ストレージ、ルータ、スイッチといったIT機器の場合は、

AC入力仕様の電源ユニットを搭載しているのが一般

的なので、これらにUPSから給電するときは、DCから

ACに再度変換しなければならない。ところが、IT機

器内部の電子回路はDCで動作するため、ACで給電

しても、IT機器内蔵の電源ユニットで再びDCへの変

換が行われることになるのだ(図1)。 AC/DC変換やDC/AC変換を行うと、そのたびに

電力の損失が生じる。しかも、それだけでなく「熱」も発

生する。高温の熱は、データセンターの冷却に要する

電力を増加させるおそれがある。

 だったら、最初からDCで給電するように変えればよ

いのではないか──。AC/DCやDC/AC変換の“ム

ダ”をなくすうえで、こんなアイデアが生まれてきたのも

必然の帰結であった。

 実は、ITに近い電話の世界では歴史的にDC給電

が行われてきた。例えば、各家庭に伸びている電話線

(銅線)には電話局からDC48Vが給電されており、古

い固定電話機ではこの電力を使ってベルを鳴らしてい

た(現在の多機能電話機は、別途AC100Vコンセント

からの電力も利用)。また、電話局舎内でも、電話交

換機用にDC48V給電が行われている。

 通信業界向けのサーバやネットワーク機器の中にも、

DC給電に対応した製品がすでに存在する。DC給電

への対応は、技術的にはさほど難しくないからである。

単純に言えば、通常のAC対応IT機器とは電源ユニッ

トが異なる(AC/DC変換ではなくDC-DC間で電圧を

変える)だけだ。

 ITやデータセンターのグリーン化が強く求められてい

る今日、DC給電は十分に検討する価値がある節電方

策の1つなのである。

DC給電の普及に向けて解決すべき3つの課題

 もっとも、DC給電方式に問題がないわけではない。

解決すべき大きな課題が3つある。

 まず1つ目の課題は、現代のデータセンターに適した

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July 2009 Computerworld 63

電圧値がはっきりしないことだ。

 電話機向けのDC48Vは、もともとはアナログ電話

交換機の時代に策定された仕様である。これに対し

て、最新型のサーバは1台当たり100ワット超、ラック単

位だと数キロワットから数十キロワットもの電力を消費す

るため、DC48Vでは力不足の感が否めない。給電ケ

ーブルを太くしたり本数を増やしたりすることで一応対

応は可能だが、そうすると敷設コストが上昇し、使い勝

手も悪くなる。

 したがって、DC給電の場合は、より高い電圧を利

用するほうがよいということになるが、電圧を高くする

と、感電やアーク発生のリスクも高まる。そうした危険を

避けるためには、専門の電気工事担当者に設置作業

を依頼すればよいのだが、サーバの増設や移設のた

びに業者を呼ぶというのは、あまり現実的ではない。

 また、現在のAC100/200Vと同様、DC給電でも、

だれもが手軽かつ安全に扱える配線機器(電源プラグ

やコンセントなど)の登場が望まれている。これが2つ目

の課題である。

 残る3つ目の課題は、こうしたDC給電に関する統

一的な仕様が現時点では存在しないことだ。サーバや

ネットワーク機器を提供するベンダーは多岐にわたって

おり、いつまでも仕様がバラバラのままではDC給電の

普及はおぼつかないだろう。

実証実験が始まったNTTの高電圧直流給電システム

 こうした課題の解決を目指して研究開発が進められ

ているのが、NTTグループ主導の「高電圧直流給電

システム(HVDC)」である。NTTファシリティーズが

2004年に基礎的な研究をスタートさせたHVDCは、今

年1月、NTTデータが運用するデータセンターなど都内

3カ所の施設で実証実験が始まった。本稼働は2010

年度の予定だ。

 HVDCの導入先として想定されているのは、通信ビ

ルやデータセンターなどである。商用電源から供給され

るAC電力を、AC/DC変換によりDC400V前後の電

力に変換し、サーバなどのIT機器に直接給電するとい

うのが、HVDCの仕組みである(図2)。

空調

交流給電(AC)

商用電源

AC DCAC 100V、200V

通信ビル/データセンター

AC/DC変換

DC/AC変換

AC/DC変換

DC電圧変換 CPU

交流電源システム IT機器

無停電電源装置(UPS) AC/DC、DC/AC変換を行うたびに電力損失(=熱)が発生してしまう!

バッテリー DC 12V、5Vなど

電力損失(熱)

図2:高電圧直流給電システム(HVDC)の概要。図1と比較すると、AC/DCおよびDC/AC変換の回数が少ないため、変換時に発生する電力損失や発熱が抑えられ、電力効率が向上する

空調

高電圧直流給電(HVDC)

商用電源

ACDC 400V程度

通信ビル/データセンター

AC/DC変換

DC電圧変換 CPU

直流電源システム IT機器

ACに再変換せず、DCのままで給電。電力損失(発熱量)が少ない

発熱量が少ないので、空調の消費電力も削減できる

バッテリー DC 12V、5Vなど

電力損失(熱)

図1:データセンターにおける現在の一般的な電力の流れ。ACとDC間で何度も変換が行われており、見るからに無駄が多い。実際、変換のたびに電力損失と熱が発生する

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Computerworld July 200964

 HVDCの下ではIT機器はHVDC対応のものでな

ければならないが、上述したように、対応させる際には

電源ユニットを交換するだけでよい。ミッドレンジ以上の

サーバ・マシンは電源ユニットが交換可能になっている

ことが多く、DC-DCコンバータ内蔵の電源ユニットをベ

ンダーから入手できれば、既設のサーバでもHVDC対

応は容易である。

 また、図2に示したように、従来UPSが担ってきた停

電対策については、HVDCの場合は電源線に接続さ

れたバッテリーが果たすことになる。なお、バッテリーの

多くは充電電圧と放電電圧が異なるため、配線距離

や建物内の設置条件によっては、電源線との間に電

圧補償装置を挟むケースも考えられる。

 一方、2つ目の課題として挙げた、容易かつ安全に

扱える配線機器についても、現在、開発が進んでい

る。例えば、NTTファシリティーズと富士通コンポーネン

トは、新方式の電源プラグ/コンセント・バーを試作し、

すでに発表している(写真1)。 では、肝心の節電効果はどうなのか。NTTファシリ

ティーズの試算によると、現行のAC100V/200V給電

方式と比較して、HVDCは給電効率が約20%向上す

るという。

IECで標準化活動進む決定後はITU勧告にも

 3つ目の課題、すなわち仕様の統一については、国

際標準化組織への提案というかたちで解決が図られよ

うとしている。すでに、IEC(国際電気標準会議)に対

して、HVDCに関するさまざまな分野の活動が欧州か

ら提案されており、今後は日本を含む各国との調整が

図られる見込みだ。

 また、HVDC用コンセント/プラグについても、IEC

標準化の第1回作業会が今年2月にパリで開催され、

NTTファシリティーズから試作品が提案された段階だ。

関係者によれば、具体的な公称電圧はまだ確定して

いないが、DC400V前後に落ち着くと見られている。

 今でも電話網で利用されているDC48V給電の仕

様は、米国ベル研究所の流れをくむ業界標準規格

「NEBS」(Network Equipment Building Systems)

に代表されるように、国やエリアに関係なくほぼ同一の

条件で規定/運用されていた。そうした経緯もあって、

通信システム向けの高電圧DC給電の世界標準をITU

(国際電気通信連合)で定める動きがあるほか、ITUと

IECの間で規格の整合化が図られることも期待されて

いる。

 開発元のNTTファシリティーズでは、標準化組織へ

の提案と並行して、HVDCの大容量化に向けた基本

検討にも取り組んでいる。電源装置1ラック当たり100

キロワットまでの電力供給を想定した現状のHVDC仕

様は、大型のサーバやストレージを複数台稼働させるに

は役不足だからだ。

 いつとは断言できないものの、そう遠くない時期に、

1,000キロワット程度までの基幹システムを運用する大

規模データセンターでHVDCの実運用が始まると見て

よさそうだ。

写真1:HVDC向けに開発されたコンセント・バーと電源プラグ。接続後、機械的スイッチでプラグをロックしないと通電しない。また、アーク放電(電源プラグ挿抜時の火花)も防止する。人体への安全を考えた設計だ

■コンセントバー外観

■コンセント部(拡大) ■電源プラグ(機械的スイッチ動作状態)部(拡大)

最大出力電力:20キロワットサイズ:W約80×D約80×H約1,750(ミリメートル)

コンセント10個

コンセント10個

直流ブレーカー

直流ブレーカー

ON

機械的スイッチ動作状態の突起(抜け留め)

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Computerworld July 200966

インターネット詐欺の蔓延 現在のマルウェア/クライムウェアの蔓延が、経

済的な理由によるものだということに異を唱える人

はまずいないだろう。

 初期のウイルスは、知的好奇心や競争心から生み

出されることがほとんどで、制作者の暇つぶしにす

ぎないものすら珍しくなかった。ところが現在では、

ワンクリック詐欺やフィッシング詐欺のように、金銭

を詐取するのを目的としてマルウェアを開発するケ

ースが主流を占めるようになった。また、スパム・メ

ールも、同じ目的の下に発信されている。もし金もう

けができないのであれば、スパム・メールなど存在

するわけがないのだ。つまり、犯罪者が既存のイン

ターネット機能を悪用して金もうけをたくらむ方法

を観察すれば、今後の犯罪傾向を予測することも不

可能ではないのである。

 ここで興味深いのは、セキュリティ専門家の多く

が、最近のサイバー犯罪には、技術的な要素よりむ

しろソーシャル・エンジニアリング的な要素が濃くな

っていると見ていることである。そのよい例が、フィ

ッシング詐欺だ。

  2008年初頭に発生した「Better Business Bureau

詐欺」もフィッシング詐欺の一種であり、米国商事改

善協会を装う詐欺師によって、苦情申し立ての電子

メールが企業に送信されたというものであった。こ

のメールにはファイルが添付されており、メッセー

ジには、そのファイルに苦情の内容が詳しく記載し

てあると書かれていた。お察しのとおり、そのファイ

ルこそが、トロイの木馬のダウンローダだったのだ。

なお、こうした電子メールは、特定の企業・組織の経

営者や幹部社員、あるいは苦情対応担当者を狙って

送信されるケースが多い。

インターネット上の犯罪は増大する一方で、減少する気配すら見せない。それというのも、マルウェアの作成などを手がける犯罪者の動機が、「愉快犯」的なものから経済的な利益を追求する「経済犯」的なものへと移ってきたからだ。それにつれて、インターネット詐欺などの犯罪手口も、ソーシャル・エンジニアリングを活用した複雑で込み入ったものへと変化しつつある。本稿では、今後出現することが予想される「追跡するのが困難」なインターネット詐欺を紹介するとともに、そうした新手口への対処法を考えてみたい。

マーカス・ヤコブソン(Markus Jakobsson)パロアルト研究所主任研究員

(協力:マカフィー)

未来型インターネット犯罪の「傾向と対策」

セキュリティ研究家が予測するインターネット詐欺の新しい手口

──【第七回】

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July 2009 Computerworld 67

【第七回】 未来型インターネット犯罪の「傾向と対策」

 犯罪者からすれば、インターネット詐欺は比較的

「安全な」犯罪である。自宅から簡単に実行できるし、

規模を拡大して大きな利益を得ることも難しくない。

また、追跡される可能性が低い点からも、リスクの

小さな犯罪なのだ。これでは、インターネット詐欺が

大流行するのも当然だと言えよう。

 こうしたインターネット詐欺の犯罪者に対抗する

ためには、3つの方向から対策を講じる必要がある。

3つの方向とは、「技術」(ウイルス対策ソフトウェア、

スパム・フィルタリング、フィッシング詐欺対応の

Webブラウザ・プラグインなどの開発・適用)、「啓蒙

活動」(インターネット・サービス・プロバイダー、銀

行、大学研究機関、セキュリティ啓蒙サイトなどによ

る活動)、および「法的手段」である。

 技術と啓蒙活動には、犯罪者の得る利益を少なく

する効果がある。一方、法的手段には、犯罪のリスク

を大きくする効果がある。インターネット詐欺の規

模を考えると、犯罪者にリスクが大きいと感じさせ

ることにはかなりの抑止力があると言える。

 次世代のマルウェアには、技術や啓蒙活動による

対策をくぐり抜け、追跡をさらに困難にするような

コンポーネントが組み込まれることになろう。その意

味でも、法的手段の意義は小さくない。以下では、こ

の点を踏まえて、今後出現することが予想される「追

跡が困難な攻撃」について考えてみたい。

ファイルを人質にするランサムウェアは失敗に終わったが

 新しい攻撃について言及する前に、まずはその先

駆けになったとも言える「ランサムウェア」について

紹介しておきたい。

 1990年代後半、コロンビア大学の研究者が新しい

マルウェアの出現を予言した。それは、被害者のコ

ンピュータにあるファイルを自身の公開鍵で暗号化

し、そのファイルを「人質」として、暗号解読に必要

な秘密鍵の代金(身代金)を要求するというものであ

った。

 そしてその予言から数年後、公開鍵ではなく対称

鍵暗号を使うという点で予言とは少しばかり違った

ものの、ほぼ同じような攻撃を行うトロイの木馬

「Archiveus(MayArchive)」が登場した。だが、幸いな

ことに、このトロイの木馬に対してリバース・エンジ

ニアリングを実施して暗号鍵を復元し、それを被害

者に配布したため、攻撃は失敗に終わった。もし公

開鍵を使用していれば、コード内に解読用の鍵が存

在しなくなるため、リバース・エンジニアリングを行

っても鍵は抽出できなかったことになるが、それで

も結局この試みは失敗していたに違いない。という

のも、Archiveusが失敗した理由は技術面にあった

わけではなく、動機面(金銭の奪取を目的としていた

こと)にあったからである。

 たとえITを使っていても、犯罪者が痕跡を残さず

安全に「身代金」を受け取る方法はないのだ。

バンダルウェアによる株価の操作

 では、そのランサムウェアを念頭に置いて、「バン

ダルウェア」と呼ばれる新しい攻撃について考えてみ

ることにしたい。バンダルウェアとは、Javaアプレット

やActiveXコントロールなどを悪用して、データの窃

盗・改竄・削除などの操作を行う悪質なプログラムの

ことである。バンダルウェアによる攻撃も、他のマル

ウェアと同じく、その目的とするところは金銭である。

 攻撃者は、攻撃に先立って、次のように周到な準

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Computerworld July 200968

備を整える。

 まず最初に、標的とする企業を選び、データ・マイ

ニングの手法を用いて、「攻撃に適した」社員に関す

る情報をできるかぎりたくさん入手する。攻撃に適

した社員とは、会社の機密情報やWebサイトに内部

からアクセスすることが可能な人物である。

 次に、会社の組織構成、役員・幹部の氏名、電子

メールの形式といった情報を入手する。

 そこまでの準備を終えたら、ここで、この企業の

「プット・オプション」を購入する。詳しい説明は省く

が、プット・オプションとは、対象企業の株価が下が

るほど利益が上がる(買い手の場合)金融商品のこと

である。投資家は、値下がりしそうな株を予測する

ことで利益を得るわけだ。したがって、攻撃の対象

となる企業は、株式を公開している必要がある。標

的となる企業の株が広く取り引きされているのであ

れば、もちろん攻撃者だけでなく多くの一般投資家

がプット・オプションを購入しているはずだ。

 プット・オプションを購入したら、攻撃者はいよい

よ電子メールを使って企業への攻撃を開始すること

になる。

 具体的には、例えば、攻撃対象の社員に、上司を

装って次のようなメッセージを送付する。

 あるいはシステム管理者に成り済まして、次のよ

うなメッセージを送付してもよい。

 上の添付ファイルを開いたり実行したりしたらど

うなるかは、読者にもすでにおわかりだろう。この電

子メールが迷惑メールとも認識されず、ウイルス・ス

キャンをかけてもウイルスが検出されることもなけ

れば、攻撃者が仕込んだウイルス(トロイの木馬)に

間違いなく感染してしまうはずだ。しかも、前述した

ように、感染したコンピュータ(のユーザーである社

員)は、機密データやWebサイトに直接アクセスでき

る権限を有しているのである。

 こうしてトロイの木馬を仕込まれたコンピュータ

から機密データがインターネット上に漏洩したり、

Webサイト上で公開されたりしたら、対象となった

企業の株価は大打撃を被ることになる。そうなった

ら、攻撃者は待ってましたとばかりにプット・オプシ

ョンを行使し、指し値で売り抜けるわけだ。この場

合、攻撃者と一般投資家を区別する手だてはなく、

痕跡も残らないため、追跡することは不可能である。

プロバイダーからは見えないクリック詐欺の手口

 クリック詐欺は、言うまでもなく、代表的なオンラ

イン詐欺の1つである。

 オンライン広告では、ユーザーがWebサイトの広

告をクリックすると、広告出稿者(スポンサー)から掲

Jimさんへ添付のPowerPointファイルを見て、それについて意見を聞かせてください。できれば、明日の朝までにお願いします。よろしく。

新種のコンピュータ・ウイルスが検出されました。皆さんがお使いのクライアントPCにはまだパッチが適用されていません。安全のため、添付したプログラムをすぐにインストールしてください。なお、作業はできるだけ速やかに行ってください。

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July 2009 Computerworld 69

【第七回】 未来型インターネット犯罪の「傾向と対策」

載サイトと広告代理店の役割を担うポータルの双方

に対して手数料が支払われることになる。クリック詐

欺は、この仕組みを悪用して広告料を詐取する手口

である。似たような手口として、ユーザーが何も操作

を実行しなくても、バナー広告を表示しただけで課

金がなされたり、ユーザーが広告を表示すると購入

などの操作が勝手に実行されたりする手口もある。

 こうしたクリック詐欺の目的は、課金によって利

益を得ることにあるが、場合によっては競合相手に

莫大な広告費を支払わせるためにライバル企業が仕

掛けることもある。

 多くの場合、犯罪者はユーザーが実際にその広告

を見ているように見せかけるため、ボットネットなど

を使ってトラフィックを自動的に発生させることに

なる。また、特定の広告のみをクリックする人(クリ

ック・ファーム)を雇うこともある。

 実は、このクリック詐欺の分野でも、現在、ソーシ

ャル・エンジニアリングを使った新しい攻撃の登場

が懸念されているのである。

 では、新しいクリック詐欺では、どのようにソーシ

ャル・エンジニアリングが使われることになるのであ

ろうか。以下では、話をわかりやすくするために、ク

リック詐欺ではない標準的なWebサイトの仕組みか

ら見ていくことにしよう。

(1)標準的なWebサイト まずは、何らかのサービスを提供し、そのサービ

スに関連する広告を表示する正規のWebサイトの仕

組みを見てみたい。

 この場合、広告の内容は、GoogleやYahoo!などの

広告ポータルによって自動的に決定される。具体的

には、広告ポータルがWebサイトのコンテンツを評

価して、それに関連したトピックの広告を選択する

ことになる。例えば、料理に関するWebサイトであ

れば、鍋やフライパン、コーヒー・メーカーなどの広

告が選択される。「包丁」「テフロン」などといったキ

ーワードを含む広告が表示されても、違和感はない。

このようなサイトに不審な点はない。

(2)キーワード裁定 次に、「find a attorney」(弁護士を探す)というキー

ワードに対応する広告が選択されるコンテンツを持

つWebサイトの仕組みを見てみよう。「an attorney」

ではなく「a attorney」となっている点に注意してい

ただきたい(その理由については後述する)。

 このWebサイトのテキストには、このフレーズが

繰り返し出てくる。このような広告にかかる費用は、

本稿執筆時点で1.07ドル〜7.05ドルであった。正確

な価格は、掲載個所や時間、オークションによって

決められるキーワードそのものの値段によって決定

されることになる。

 ユーザーがこのサイト上で広告をクリックすると、

その広告の掲載者(スポンサー)は広告ポータルに料

金を支払い、ポータルは手数料を差し引いた金額を

広告掲載サイトに支払う。

 次に、このサイトが、「find an attorney」というキー

ワードを使用して広告を掲載したとしよう。上のキ

ーワードとの違いは、「a」か「an」かだけである。新し

いキーワードの価格は、0.87ドル〜3.82ドルとしてお

く。

 このWebサイトの管理者が、訪問者が直前にアク

セスしていたサイトに対して1人当たり2.00ドルを支

払い、広告をクリックした訪問者1人当たり4.00ドル

を受け取るとする。訪問者の50%が2.00ドルのサイ

トから来訪して4.00ドルの広告をクリックすれば、

このサイトは何もサービスを提供することなく1人当

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Computerworld July 200970

たり2.00ドルの利益を得ることになる。

 これは「キーワード裁定(arbitrage)」という手口で、

純粋な意味ではクリック詐欺とは呼べないが、それ

に近いものだと言うことができる。

(3)ソーシャル・エンジニアリング ではここで、ソーシャル・エンジニアリングをどの

ように活用すれば、「裁定テクニック」を駆使して膨

大な利益を手にすることができるのかを考えてみよ

う。前提として、犯罪者が「中皮腫」(アスベストの吸

引によって生じる癌)というキーワードを生成する

Webサイトを作成したとする。本稿執筆時点で、こ

のキーワードのGoogle価格は63.42ドルであった。

 犯罪者は、このサイトにユーザーを誘導するため、

「喘息」(キーワード価格0.10ドル)というキーワードの

トラフィックを購入する。このWebサイトに634人が

訪れたとして、その中から1人でも中皮腫の広告を

クリックすることになれば、その犯罪者は利益を得

ることになる。

 だが、「喘息」でアクセスしてきたユーザーが、簡

単に「中皮腫」の広告をクリックするとは考えられな

い。

 そこで、例えばこのWebサイトに、「喘息患者の10

%は中皮腫を発症する危険性がある」という文言を、

ある有名な医師のコメントとして掲載しておく。もち

ろんそれは事実ではないわけだが、喘息に関心があ

る一方で、中皮腫については何の知識もないユーザ

ーであれば、この広告をクリックしてしまう可能性

は高い。

 このサイトの訪問者の半数が広告をクリックする

と仮定すれば、1日1,000人のユーザーが同サイトを

訪れた場合、毎日3万ドルの利益が得られる計算に

なる。あまり目立たないキーワードでさえ、こうすれ

ば莫大な利益を得ることができるのだ。

 以上の3つのシナリオで、異なる点は、ソーシャ

ル・エンジニアリングを行っているかどうかだけであ

る。サービス・プロバイダーから見れば、ユーザーが

Webサイトを訪問し、コンテンツを読み、広告をクリ

ックするという点で、3つのシナリオは非常に似てお

り区別がつかない。

 もちろん、ユーザーを呼び込むキーワードと別の

サイトに誘導するキーワードを比較すれば違いを見

つけることは可能だが、犯罪者が呼び込みと誘導と

で異なるサービス・プロバイダーを使い分けること

も考えられる。このような手口が多くのWebサイト

で、しかも小規模に行われたとすれば、攻撃を検知

したり未然に防いだりするのは容易なことではない。

*   *   *

 インターネット上のソーシャル・エンジニアリング

は、今後も使われ続けるだろう。フィッシング詐欺を

見ればわかるように、その経済効果は明らかだから

だ。

 犯罪者たちは、ソーシャル・エンジニアリングを駆

使して、巧妙なスパムやマルウェアを仕掛けること

になろう。上に紹介したように、クリック詐欺におい

ても、ソーシャル・エンジニアリングが用いられ、よ

り巧妙なアプリケーションが開発されることになる

に違いない。

 しかし、そうした手口の存在を知っておけば、技

術的な対策を講じることは可能だ。また、そうした攻

撃がどのように行われるかを理解しておくことによ

って、防御策を強化することもできる。

 ただし、それだけでは不十分だ。ユーザー・インタ

フェースや手順を改善し、法規制を強化し、より広

い範囲で啓蒙活動を行う必要がある。新たなインタ

ーネット詐欺の登場におびえる前に、やるべき対策

はまだたくさん残っているのだ。

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Computerworld July 200972

FREESOFT & SERVICE REVIEW「 フ リ ー ソ フト & サ ー ビ ス 」 レ ビ ュ ー 7 7

連 載

位置づけは「Ajaxサーバ」

 「Aptana Jaxer」(以下、Jaxer)は、「サーバ・サイド

JavaScript」を実現するためのフレームワークを統合した

Webサーバである。Aptanaプロジェクトでは、この製品を

Ajaxアプリケーションの効率的な開発をサポートする「Ajax

サーバ」と位置づけている。

 通常、HTMLなどに記述されたJavaScriptコードは、

クライアント側のWebブラウザに用意されたランタイムを使っ

て実行されるため、サーバ側のファイルやデータベースに

直接アクセスすることはできない。JavaScriptからサーバ

上のリソースにアクセスするためには、サーバ側に橋渡しと

なるプログラムを用意したうえで、HTTPのセッションや

Ajaxの仕組みなどを利用してそのプログラムを呼び出すこ

とになる。

 一方、サーバ・サイドJavaScriptは、サーバ側のランタイ

ムで動作するため、サーバ上のリソースに直接アクセスす

ることができる。これにより、複雑なロジックを必要とせず

にJavaScriptだけでWebアプリケーションを構築すること

が可能になる。

 Jaxerは、このサーバ・サイドJavaScriptを実行する仕

組みを備えたWebサーバである。単にサーバ・サイド

JavaScriptを実行できるだけではなく、サーバ側で実行す

るコードをクライアント側のファイル(例えばHTMLファイル)

に記述することも可能である。したがって、サーバ側とクラ

以前、本欄で「Aptana Studio」を取り上げた際に、同ソフトウェアに付属する「Aptana Jaxer」について少しだけ触れたことがあった(2009年5月号参照)。そのときにも紹介したように、Aptana Jaxerは、

「サーバ・サイドJavaScript」を実現するためのフレームワークを統合したWebサーバである。今回は、このAptana Jaxerについて詳しく解説することにしたい。

サーバ・サイドJavaScriptフレームワークを提供する「Aptana Jaxer」Ajaxアプリケーションの効率的な開発を支援

杉山貴章

ソフトウェアの入手先 Aptana Jaxer http://www.aptana.com/jaxer

イアント側でファイルを分ける必要がない。

 また、サーバ側のコードでWebページのDOM(Docu

ment Object Model)にアクセスできる点も、Jaxerの大き

な特徴である。例えば、データベースから取得した結果をリ

アルタイムにWebページに反映させるにはDOMを書き換

える必要があるが、それをサーバ側のコードだけで行うこと

ができるのだ。

 さらに、この機能を使えば、Prototype.jsやjQueryのよ

うな主要なJavaScriptライブラリを、そのままサーバ側で利

用することも可能になる。

Aptana StudioでJaxerを利用する

 Jaxerには、「Aptana Studio」のバンドル版とスタンドア

ロン版の2種類が用意されている。どちらも機能的には同

じであるため、Aptana Studioを使用している場合には前

者を、その他の開発環境を使用している場合には後者を

選べばよい。

 本稿では、最初にAptana Studioバンドル版で基本的

な使い方を解説したうえで、スタンドアロン版のインストール

方法および利用方法を紹介する。なお、Aptana Studio

のインストールやプロジェクトの作成方法については、2009

年5月号の記事を参照していただきたい。

 まず、プロジェクト作成ウィザードを利用してプロジェクトを

作成する。ここでは「MyJaxerProject」というプロジェクト

Page 65: Computerworld.JP Jul, 2009

July 2009 Computerworld 73

名を付けた。ウィザードの途中で、Jaxer用のオプション設

定画面が表示される(画面1)が、今回は、とりあえずすべ

てにチェックを入れておく。このオプションは、上から順に

次のような内容になっている。

●プロジェクトにJaxerのサンプル・アプリケーションを含め

●Jaxer推奨のフォルダ構成で構築する

●プロジェクトの作成後にServer viewを開く

●プロジェクトの作成後にJaxer Shell viewを開く

 次のプレビュー用サーバの選択は、とりあえずデフォルト

の「Built-in Preview Server」のままでよい。作成され

たプロジェクトは、画面2のようなフォルダ構成になっている

はずだ。

 jaxer_sample.htmlというのがJaxerのサンプル・コード

を含むHTMLファイルである。まずはこれを開いてJaxer

でプレビューしてみよう。

 初期状態ではJaxerが起動していないので、Servers

ビューから「Jaxer Internal Server」を選んで起動する

(画面3)。

 ここで、Statusが「Running」になったら準備は完了だ。

この状態でHTMLエディタのFirefoxタブまたはIEタブで

プレビューしてみると、画面4のようにサンプル・ページが

表示される。

 この表示だけではわかりにくいが、左側中央の「Jaxer

build number」という部分には、サーバ・サイドJavaScript

を用いてJaxerのバージョン番号を表示している。ソースコ

ードではリスト1のように記載されている部分だ。

 scriptタグに「runat」という属性を指定しているが、こ

れはサーバとクライアントのどちらでJavaScriptを実行する

かを決めるJaxer独自の属性だ。

簡単なアドレス帳の作成

 次に、簡単なサンプル・アプリケーションを作りながら

Jaxerの使い方を説明することにしたい。ここでは、フォー

ムから名前とアドレスを入力してデータベースに登録するア

ドレス帳アプリケーションを作成してみる。

<script runat="server"> document.write("<p class='note'>Jaxer build number: " + Jaxer.buildNumber + "</p>");</script>

リスト1:サーバ側で実行されるJavaScriptコード

画面1:Jaxerを利用する際のオプション指定 画面2:プロジェクトのフォルダ構成。j a x e r _ sample.htmlはサンプル・コード

画面3:ServersビューからJaxer Internal Serverを起動する

画面4:Jaxerを使ってサンプル・プログラムをプレビューした様子

Page 66: Computerworld.JP Jul, 2009

Computerworld July 200974

FREESOFT & SERVICE REVIEW「 フ リ ー ソ フト & サ ー ビ ス 」 レ ビ ュ ー 7 7

連 載

<!DOCTYPE HTML PUBLIC "-//W3C//DTD HTML 4.01 Transitional//EN""http://www.w3.org/TR/html4/loose.dtd"><html xmlns="http://www.w3.org/1999/xhtml"> <head> <meta http-equiv="Content-Type" content="text/html; charset=utf-8" />

<script runat="server"> // DBにテーブルを作成 var sql = "CREATE TABLE IF NOT EXISTS addresses " + "( id INTEGER PRIMARY KEY AUTO_INCREMENT, name TEXT NOT NULL, email TEXT )"; Jaxer.DB.execute(sql); </script> <script runat="server-proxy"> // DBにアドレスを登録 function register(name, email) { try{ Jaxer.DB.execute("INSERT INTO addresses (name, email) VALUES (?, ?)", name, email); return true; } catch(e) { return false; } }

// DBからアドレスの一覧を取得 function getAddresses() { var rs = Jaxer.DB.execute('SELECT * FROM addresses'); var divHtml = ''; var length = rs.rowsAsArrays.length; for(var i = 0; i < length; i++) { name = rs.rowsAsArrays[i][1]; email = rs.rowsAsArrays[i][2]; divHtml += '<div>' + name + ': ' + email + '</div>'; } return divHtml; } </script>

<script runat="client"> // 登録ボタンが押された際の処理 function submitted() { name = document.getElementById("namefield").value; email = document.getElementById("emailfield").value; register(name, email); } </script>

<script runat="both"> // アドレスのリストを表示 function listAddresses() { var divHtml = getAddresses(); var addressList = document.getElementById('addressList'); addressList.innerHTML = divHtml; } </script>

<title>アドレス帳 </title> </head>

<body onserverload="listAddresses();"> <h1>アドレス帳 </h1>

<form accept-charset="utf-8"> <p>名前:<input type="text" id="namefield" value="" /><br/> E-mail:<input type="text" id="emailfield" value="" /></p> <p><input type="submit" value="登録 " onClick="submitted();" /></p> </form>

<div id="addressList"></div>

</body></html>

リスト2:アドレス帳のサンプル・コード

Page 67: Computerworld.JP Jul, 2009

July 2009 Computerworld 75

 上述したように、HTML内に記述されたJavaScriptが

クライアント側とサーバ側のどちらで動作するのかを決める

のがrunat属性である。runat属性には以下の4種類の

値を指定することができる。

●server:サーバ側で実行されるコードを記述するときに

使用

●client:クライアント側で実行されるコードを記述するとき

に使用

●both:サーバとクライアントの両方で実行されるコードを

記述するときに使用

●server-proxy:クライアントからサーバ側の関数を呼び

出すような場合に使用

 以上を踏まえて書いたコードがリスト2だ。

 以下、リスト2の内容を詳しく見ていくことにしよう。

 まず、リスト2-①に注目していただきたい。これは、デー

タベースにテーブルが存在しない場合に作成するコードで

ある。runat属性の値がserverなのでサーバ側で実行さ

れることになる。

 Jaxer.DBは、Jaxerに用意されているデータベース・ア

クセスのためのオブジェクトである。このオブジェクトの

execute()メソッドにSQL文を渡すことで、データベースに

対してSQLが発行されることになる。DBMSとしては、デ

フォルトではJaxerに付属するSQLiteが使用される。

 [登録]ボタンが押された場合には、最初にsubmitt

ed()関数が呼び出されることになる(リスト2-②)。この関数

はフォームの値を取り出してregister()関数に渡す。これ

はクライアント側のみの処理で済むため、runat属性の値

はclientにしてある。

 リスト2-③のregister()関数は、Jaxer.DBを介して渡さ

れた値をデータベースに登録するためのものだ。この登録

処理自体はサーバ側で実行する必要があるため、runat

属性はserver-proxyとなっている。

 続いて、データベースからアドレスの一覧を取得する部

分だが、ここではgetAddresses()という関数を用意して、

リスト2-④のように記述した。Jaxer.DB.execute()で実行

したSQLの結果はJaxer.DB.ResultSetオブジェクトとし

て返される。

 rowsAsArraysプロパティは、実際のデータを配列とし

て保持するプロパティである。ここでは、このプロパティか

ら名前とアドレスのデータを取得し、HTMLのタグを付加し

て返している。この処理までが、runat属性をserver-

proxyに指定したscriptタグに含まれている。

 最後のscriptタグ内に記述したlistAddresses()関数

は、getAddresses()から返されたHTML文字列を、実際

のページのDOMに追加するという処理を行う(リスト2-

⑤)。ここでは、サーバとクライアント双方のDOMに反映さ

せるため、runat属性はbothになる。

 以上のコードをAptana Studioでプレビューすると画面5のように表示される。

 ここで、名前とE-mailの欄に適当な値を入力して[登

録]ボタンをクリックすると、それがデータベースに記録さ

れ、画面6のように一覧として下部に表示される。

 もちろん、通常のWebブラウザから利用することもでき

る。デフォルト設定のままなら「http://127.0.0.1:8000/

MyJaxerProject/」にアクセスすればよい(次ページの画面7)。

スタンドアロン版のJaxerを利用する

 今度は、Jaxerのスタンドアロン版を使って、作成したア

画面6:[登録]ボタンを押すと、入力した名前とアドレスがデータベースに記録される

画面5:作成したアプリケーションをJaxerでプレビュー

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Computerworld July 200976

FREESOFT & SERVICE REVIEW「 フ リ ー ソ フト & サ ー ビ ス 」 レ ビ ュ ー 7 7

連 載

ドレス帳アプリケーションを実行してみることにしたい。

 まずは、ダウンロード・サイトから、使用しているプラットフ

ォーム用のファイルを入手する。ファイルはzip形式になっ

ているが、これを展開すればインストールは完了だ。スタン

ドアロン版のJaxerは、Apache WebサーバにJaxer用の

モジュールが追加された構成になっており、Webサーバと

しての設定方法はApacheと同じである。

 スタンドアロン版のJaxerを起動するには、インストール・

フォルダの直下にある「StartServers.bat」というファイル

をダブルクリックする。そうすると、コマンド・プロンプトに画面8のように表示されてJaxerが起動する。

 そこに書かれている「http://localhost:8081/aptana/」

にWebブラウザでアクセスすると、Jaxerのサンプル・ペー

ジが表示される(画面9)。

 自分で作成したWebアプリケーションをスタンドアロン版

のJaxerで公開したい場合は、インストール・フォルダにあ

るpublicフォルダ以下に配置する。今回のアドレス帳アプ

リケーションの場合は、「MyJaxerProject」のプロジェクト・

フォルダごとp u b l i cフォルダにコピーする。その後、

「http://localhost:8081/MyJaxerProject/index.html」

にアクセスすれば、画面10のように表示される。

*   *   *

 以上、見てきたように、1つのHTMLファイルを書いた

だけで、サーバ側のデータベースを利用したアプリケーショ

ンを作成することができる。

 この例のように、Jaxerを使えば、Webサーバ側の設定

に煩わされることもなければ、サーバとブラウザ間の通信

でつまずくこともない。これがJaxerの最大の魅力だと言う

ことができる。

画面8:スタンドアロン版Jaxerの起動

画面9:Jaxerのサンプル・ページ

画面10:スタンドアロン版でもFirefoxからアクセスしてみたところ

画面7:Firefoxからアクセスした例

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Page 70: Computerworld.JP Jul, 2009

Computerworld July 200978

誤解その1:保守コストが高くなる?

 「オープンソースを使うと、ライセンス費は無料だが、

保守費はかえって高くなるのではないか」といった声を

しばしば耳にします。

 確かにオープンソースの保守については、弊社が提供

するオープンソース・ワンストップサービス「OpenStandia」を

始め、各社の有償サービスを利用するケースが多く、

完全に無料ではありません。しかし図1の例でもわかる

ように、通常、オープンソースは保守費も商用製品と同

様か若干安く価格設定されており、ライセンス費と合わ

せた5年間コストで計算すると、多くの場合、商用製

品の2分の1〜4分の1に抑えることができます。

 また、「オープンソースを使ったプロジェクトで、逆にコ

ストが割高になってしまった」といった記事もまれに見か

けます。これはオープンソースに不慣れな担当者がプロ

ジェクトを遂行し、構築に時間がかかったり、保守フェ

ーズでのトラブルがなかなか解決できなかったりして、

余計な人件費がかかってしまったことが大きな理由で

す。初めてオープンソースを使用する場合は、オープン

ソースの導入経験が豊富なベンダーやインテグレーター

の有償サービスを上手に活用し、そのノウハウを活用し

ながら、効率よくプロジェクトを進めることが重要です。

ますます活躍の場を広げるオープンソース

 ここ数年、オープンソースは着実に普及しています。

特に最近は不況を背景としてシステム・コストの削減要

求が強まっており、オープンソースの活用がもたらす「ソ

フトウェア・コストの削減効果」が注目されています。

 例えばデータベース(DB)の場合、商用DBとオープ

ンソースDBの「MySQL」を比較すると、5年間のコスト

で3分の1、場合によってはそれ以上のコスト削減効果

があります(図 1)。DBはソフトウェア・コストの中でも大

きな割合を占めるため、システムによっては億単位のコ

スト削減につながるケースもあります。

 また、オープンソースと言えばOS(オペレーティング・

システム)のLinuxが有名ですが、最近ではWebアプリ

ケーション・サーバの「Tomcat」や「JBoss」、DBの

「PostgreSQL」や「MySQL」など、ミドルウェア層への

オープンソース導入も盛んに行われています。さらに今

後は、CRMやERPといった業務アプリケーション・パッ

ケージについても、オープンソースが普及してくるものと

予想されています(図2)。

 とは言え、ユーザー企業の間ではまだまだオープンソ

ースに対する「誤解」があり、オープンソースの導入に

踏み切れないでいるお客様も少なくないようです。

景気後退によってITコスト削減が求められる中で、オープンソース(OSS:OpenSource Software)に対するユーザー企業の注目度が高まっています。本連載では、ワンストップ・オープンソース・サービス「OpenStandia」が手がけた200社超の導入事例に基づき、オープンソースの導入と活用を成功させるためのポイントを考えていきます。

カテゴリー 商用製品 オープンソース

OS Windows(Microsoft) HP-UX(HP)

Red Hat Enterprise LinuxCentOS

Webアプリケーションサーバ WebLogic(Oracle) WebSphere(IBM)

TomcatJBoss

データベース Oracle Database(Oracle) SQL Server(Microsoft)

MySQLPostgreSQL

シングルサインオン HP IceWall(HP) Tivoli Access Manager(IBM) OpenSSO

企業情報ポータル SharePoint(Microsoft)INSUITE(ドリーム・アーツ) Liferay

情報分析 BusinessObjects(SAP)Hyperion(IBM)

PentahoJasperReports

12,000

10,000

8,000

6,000

4,000

2,000

0商用DB(A)

(千円)

商用DB(B) オープンソースDB

■ 5年間保守費■ ライセンス費

図1● 商用DBとオープンソースDBの5年間コスト比較 図2● 主要な商用製品と対応するオープンソースの一例

筆者●寺田雄一(野村総合研究所 オープンソースソリューションセンター)NRIオープンソースソリューションセンターのマネージャー。2003年に同センターを設立、2004年よりセンター長。2006年、オープンソース・ワンストップ・サービス「OpenStandia」を開発。現在はユーザー企業へのオープンソースの普及促進を目的とした「オープンソースビジネス推進協議会(OBCI)」の理事も務める。

「オープンソースまるごと」OpenStandiaが教えるオープンソース活用成功のコツ

エンタープライズ・オープンソースに対する「3つの誤解」第 回1

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Page 71: Computerworld.JP Jul, 2009

July 2009 Computerworld 79

においては製品ベンダー側が保有し、各種サービスとし

てユーザー企業に提供してきたものです。オープンソー

スを使用する場合も考え方は同じで、オープンソースの

有償サポートを提供する企業が保有し、サービスとして

提供するものなのです。ユーザー企業は、ここでもオー

プンソースの有償サポートを上手に活用するべきです。

 2つ目は「オープンソースを使うスキル」です。従来の

商用製品を使ったシステム開発/運用においては、

「商用製品を使うスキル」はユーザー企業の情報システ

ム部門や、システムの開発や運用を請け負うインテグレ

ーターが保有していました。オープンソースを使ったシス

テム開発/運用においても同様に、「オープンソースを

使うスキル」は情報システム部門やインテグレーターが保

有するべきです。

 ただし、このスキルは簡単に習得できます。例えば

Webアプリケーション・サーバやデータベースについては、

それぞれ標準規格が定められており、商用製品もオー

プンソースも標準規格に準拠しています。「WebLogic」

の技術者であれば簡単にJBossを使うことができます

し、「Oracle Database」の技術者であれば簡単に

MySQLを使うことができるのです。

 弊社ではオープンソースを導入するプロジェクトにお

いて、ユーザー企業の情報システム部門やインテグレー

ターと共同で作業を行うことで、「オープンソースを使う

スキル」のスキル・トランスファーを実施してきた実績があ

ります。このような事例についても、次回以降でご紹介

したいと考えています。

 今回は、オープンソースに対する3つの誤解につい

て、簡単に説明してきました。次回からは、これらの誤

解を解き、理解をより深めていただくために、実際のオ

ープンソース導入事例をご紹介していきましょう。

誤解その2:オープンソースは品質が低い?

 次によくある誤解が「オープンソースは安いけど、性

能や安定性に問題があるのではないか」というもので

す。これは完全に誤解です。

 例えばオープンソースのWebアプリケーション・サーバ

であるJBossについて、弊社では過去数回にわたり商

用製品との性能検証を実施し、商用製品と比較して

遜色ない性能が出ることを証明しています。また、前

述のMySQLについては、比較的単純な処理につい

ては商用製品よりも高速であることで有名です。

 安定性については、実績でご説明するのがよいでし

ょう。すでに弊社では、TomcatやJBoss、MySQLや

PostgreSQLなどを中心とするオープンソースを活用し

た、多数のプロジェクトの実績があります。特に、金融

機関にJBoss/MySQLを導入した事例や、自治体に

JBoss/PostgreSQLを導入した事例、大手製造業に

おける情報システムの共通プラットフォームとして

Tomcat/PostgreSQLを導入した事例などは、オープ

ンソースの信頼性を評価するうえで大変参考になるか

と思います。こうした事例は、第2回以降で詳しくご紹

介する予定です。

 さらにオープンソースの場合、ソースコードが公開され

ているため、商用製品と比べて長期間にわたり継続

的に利用できる、不具合があればすぐに修正できると

いったメリットがあります。実際にこうした点を評価して、

「商用製品よりもサポートレベルが高いので、オープンソ

ースを採用する」といった企業も現れています。

誤解その3:スキルを備えた人材が不足している?

 オープンソース導入に対する課題として「人材不足」

を挙げる企業も多いと思います。恐らく「オープンソース

は難しい。自社に高度なスキルを持った技術者がいな

いと使えない」と考えられているのではないでしょうか。

しかし、これも大きな誤解です。

 一口に「オープンソースのスキル」と言っても、それは

大きく2つに分けられます。

 1つ目は「オープンソースを開発/修正するスキル、

ソースコード・レベルで障害調査をするスキル」です。確

かにこちらは高度なスキルと、そのオープンソースに関す

る豊富な経験が必要となります。ただし、このようなスキ

ルは、従来の商用製品を使ったシステム開発/運用

お問い合わせ先

TEL:045-335-9538  E-Mail:[email protected]://www.nri-aitd.com/openstandia/

株式会社 野村総合研究所 オープンソースソリューションセンター

エンタープライズ・オープンソースに対する「3つの誤解」

「OpenStandia(オープンスタンディア)」について野村総合研究所の「OpenStandia」は、お客様のオープンソース活用をトータルにバックアップするワンストップ・サービスです。OSからミドルウェア、業務アプリケーションまで約50種類のオープンソースと大手企業への豊富な導入事例で、企業の情報システム部門やインテグレーターの皆様のIT活用を全力で支援します。

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Page 72: Computerworld.JP Jul, 2009

Computerworld July 200980

発信者情報の開示を要求できる制度

  Webサーバや掲示板の管理者が、ユーザーから誹

謗中傷や著作権侵害を理由に発信者情報の開示を

求められた場合、どのように対応すればよいのであろう

か。かつてこの問題は、インターネットの法律実務にお

ける最も困難な課題とされてきたが、現在ではガイドライ

ンや裁判例が出そろったこともあって、正しい対応の道

筋を示すことができるようになった。

 ここで、情報開示への対応をより具体的に見るため

に、次のようなケースを考えてみたい。

 A社は、株情報に関するインターネット掲示板サービス

を運営している。この掲示板に書き込むことができるの

は、A社のサービスの会員だけである。

 あるときA社は、「プライバシー侵害の被害者」と称す

る上場企業B社の社長Cから、B社の株情報に関する

書き込みについて、発信者情報の開示請求を受けた。

 A社の担当者が問題の書き込みを確認したところ、次

のようなものであった。

 タイトル:怒れる株主の皆さんへ

皆さん、B社が起こした今回の不祥事について、社長

に対して直接抗議しましょう!

 社長の住所は、「港区赤坂○丁目○番○グランドキャ

ッスル○号室」。

 電話番号は「03-1234-WXYZ」です。

 A社の顧問弁護士に相談したところ、まずは書き込み

をした人の意見を聞いたほうがよいということになり、担

当者がこの書き込みをした会員Dに連絡を取り、事情を

伝えた。会員Dの返答は次のとおりだった。

 「株情報の掲示板に批判を書かれて逆切れするとは、

考えられない馬鹿な経営者だ。上場企業の社長は政治

家などと同じ『公人』なので、プライバシー侵害は簡単に

は成立しない。しかもこの住所は会社の登記簿に載って

いる。私の情報の開示には、当然応じられない」

ブログ・サービスやWebホスティング・サービスの事業者、あるいはインターネット掲示板の管理者が、ユーザーから「発信者情報の開示」を求められた場合、どのように対処すればよいのだろうか。また、ユーザーはどのような場合に開示を求めることができるのだろうか。この問題は、「インターネットと法律に関する最も古い難題」の1つであったが、ガイドラインや裁判例が出そろったことで、正しい対応方法が見えてきた。そこで今回は、発信者情報開示制度に基づいて、ブログやWeb掲示板の発信者情報の開示を請求する際の要件について解説するとともに、サービス・プロバイダーなどが実際に開示を求められた際、どのように対応すべきかについて考察することにしたい。

弁護士 森亮二弁護士法人英知法律事務所

わかっている“つもり”では済まされない!

発信者情報の開示請求とその対処法第 回7

Page 73: Computerworld.JP Jul, 2009

July 2009 Computerworld 81

わかっている“つもり”では済まされない!

 このケースにおいて、A社がどう対応すべきかを語る

前に、まず「発信者情報開示制度」とはどのようなもの

であるのかを解説しておくことにしたい。

 発信者情報開示制度は、プロバイダ責任制限法に

よって作られた制度である。同法が施行される前は、

上のようなケースで、被害者が発信者の情報を得るこ

とはきわめて困難だった。というのも、このケースでA社

が発信者Dの情報を開示することは、A社による通信

の秘密の侵害になりうるため、警察が令状を持って捜

査に来ないかぎり、発信者情報を開示してはならない

とされていたからである。

 このケースは、被害者である社長Cにとっては大変

厳しいものだと言える。名誉毀損であれば、刑事事件

となって警察に発信者を突き止めてもらえる可能性が

ある(ただし、その可能性は非常に小さい)。しかしなが

ら、このケースのように、被害者のプライバシーを公表

するものではあっても、社会的評価を低下させるような

表現がない場合には、名誉毀損とはならない。そのた

め、刑事事件になる可能性はなく、したがって発信者

を特定するチャンスはない。

 これでは、いくら何でも被害者がかわいそうだ。また、

通信の秘密がどれほど重要であったとしても、明らかに

違法な情報を発信する者を守ってやる必要はないだろ

う。そういう発想の下に新設されたのが、プロバイダ責

任制限法の発信者情報開示制度であり、同制度では

「違法な情報によって権利を侵害された被害者は、一

定の要件の下に、プロバイダーに対して発信者情報の

開示を求めることができる」とされている。

開示請求の対象と請求の手順

 発信者情報開示制度(プロバイダ責任制限法)で

は、被害者は、発信者の住所、氏名、メール・アドレ

ス、書き込みのIPアドレスと時間といった情報の開示

を求めることができるとされている。発信者が、所属企

業や学校の端末を用いて情報を発信した場合には、

それらの名称も開示の対象となる。

 開示請求をする先は、掲示板の管理者やインターネ

ット・サービス・プロバイダー(ISP)、ホスティング・プロバ

イダーなどとなる。違法情報が掲示板に書き込まれた

場合、この情報は発信者→発信者のISP→掲示板

→受信者という経路で流通する。発信者情報開示請

求の順番はこの逆で、まず掲示板の管理者から書き

込みのIPアドレスと時間を開示してもらい、次に発信

者のISPから該当する会員情報を開示してもらう。した

がって、掲示板の場合、発信者情報開示請求は原則

として2回必要となる。

 違法情報が、告発サイトやブログのエントリーであるよ

うな場合には、告発サイトにホスティングを提供している

ホスティング・プロバイダーや、ブログ・サービスのプロバ

イダーから発信者情報を開示してもらうことになる。これ

らのプロバイダーは、掲示板の管理者とは異なり、発

信者の住所や氏名などの情報を所有していることがあ

るため、この時点で発信者を特定できることもありうる。

もし特定できなければ、掲示板の場合と同様、発信者

のISPに対して情報開示を求めることになる。

 なお、P2Pファイル交換ソフトを介して違法情報が流

通した場合には、流通行為(アップロードなど)を行った

者のISPが、発信者情報開示請求の対象となる。

開示請求権の要件(1)情報の流通自体が権利を侵害していること

 次に、どのような情報であれば発信者情報開示請

求が認められるかを考えてみよう。

 プロバイダ責任制限法の対象となるのは、違法情

報の中でも、名誉毀損やプライバシー侵害、著作権侵

害など、個人や法人などの権利を侵害する情報のみ

発信者情報の開示請求とその対処法

Page 74: Computerworld.JP Jul, 2009

Computerworld July 200982

第7回 発信者情報の開示請求とその対処法

だ。逆に言えば、単なるわいせつ情報などは、たとえ

違法であっても対象外となる。おせっかいな閲覧者が

「わいせつ画像を投稿した者を告発したいので、発信

者情報を開示せよ」と求めてきたとしても、プロバイダー

は応じなくてよい(というより、そもそも応じることができな

い)。

 また、情報の流通自体が権利侵害になることも必要

とされている。例えば「あなたもこのノウハウで年収

2,000万円が確実に!」というような偽りの広告で、ほと

んど価値のない情報商材を販売しているサイトがあると

しよう。これに対し、「だまされて価値のない情報を購

入した」とする被害者から、発信者情報の開示を求め

られたとする。

 確かに被害者には、権利侵害が生じている。しか

し、この権利侵害はだまされてお金を支払ったことによ

って生じたものであり、情報の流通自体によって生じた

ものではない。前述したA社のケースのようなプライバシ

ー侵害であれば、その情報が流通すること自体が社長

Cの権利を侵害している。しかし、このような詐欺的サイ

トの場合は、だまされる人がいなければ情報の流通に

よる権利侵害は生じない。そのため、発信者情報開

示請求の対象外となり、被害者の請求に応じることは

できない。

開示請求権の要件(2)権利の侵害が明白であること

 次いで必要とされるのは、「権利侵害の明白性」で

ある。

 法律の世界で何かの「明白性」を問題にすることは

あまりないのだが、裁判所はこれを主張・立証責任の

問題を解決するために利用している。

 例えば、名誉毀損が成立するためには、次の2つが

必要になる。

(1)表現によって人の社会的評価が低下すること

(2)違法阻却事由がないこと

 違法阻却事由が認められるためには、次の3つがそ

ろっている必要がある。

(a)公共の利害に関する事実であること

(b)公益目的による表現であること

(c)表現内容が真実であること

 損害賠償請求のような通常の名誉毀損の訴訟で

は、被害者(例えば女優)が(1)の社会的評価の低下

を主張・立証し、表現行為者(例えば週刊誌の出版

社)が(2)の違法阻却事由を主張・立証することにな

っている。

 つまり、女優が社会的評価の低下を立証し、かつ

出版社が違法阻却事由を立証できなければ、名誉毀

損が成立して週刊誌側の敗訴となる。

 これが名誉毀損の不法行為に基づいて損害賠償

請求がなされる際の役割分担である。

 このような役割分担を、法律用語では「立証責任の

分配」と言う。

 一方、発信者情報の開示に関しては、「権利侵害

の明白性」が必要とされる。つまり裁判所は、(1)社

会的評価の低下と(2)違法阻却事由がないことの両

方を、被害者が立証しなければならないとしたのだ。

要するに、「権利侵害の明白性」とは、被害者側が(1)

(2)を同時に立証できる状態を指すのである。

 プライバシー侵害の事例についても同様だ。従来、

プライバシー権の要件は次の3つであるとされていた

が、最近では(ii)のみを要件とする判決も多く出てい

る。

(i)私生活上の事実、または私生活上の事実らしく受

け取られる事柄であること

(ii)一般人であれば公表を望まないような事柄であるこ

(iii)公に知られていないこと

 いずれの場合でも、違法阻却事由によって違法性

が阻却される場合がある。「公表事実が社会一般の

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わかっている“つもり”では済まされない!

正当な関心事であり、かつ公表の内容・方法が必要

かつ相当である場合」や「公表することによる価値が、

プライバシーの価値を上回る事情がある場合」などが違

法阻却事由に当たる。

 発信者情報開示請求の場面では、名誉毀損の場

合と同様に、(i)(ii)(iii)の3要件(あるいは(ii)のみ)

と違法阻却事由がないことの両方を、被害者が立証

できなければならない。

 さらに、発信者情報開示請求の要件としては、権

利侵害の明白性のほかに、開示を受ける正当な理由

があることも必要とされる。もちろん、「発信者に対して

損害賠償請求をするため」というのも正当な理由に当

たる。

ガイドラインに従って適切な対応を

 さて次に、実際に開示請求を受けた場合の対応に

ついて考察する。

 開示請求を受ける側は、次のような確認・判断手順

を踏んで、開示の可否を決定することになる。

(1)開示請求者の本人確認 発信者情報は、権利侵害を受けた者以外には開示

してはならないため、開示請求者の本人確認が必要と

なる。誤って無関係な者に開示してしまうと、発信者の

「通信の秘密」やプライバシーを侵害することになりか

ねない。

 運転免許証やパスポートなどのコピーを要求するの

が一般的である。

(2)発信者情報を保有しているかどうかの確認 開示請求を受けても、そもそも発信者情報を保有し

ていなければ、開示のしようがない。もし保有していな

ければ、その旨を開示請求者に速やかに通知して手

続きは終了だ。

(3)権利侵害情報の確認 開示請求者が権利侵害情報であるとする情報の存

否とその内容を確認する。そのような情報が存在しな

い場合や、権利侵害とは認められないような場合に

は、その後の手続きを取る必要はない。

(4)発信者からの意見聴取 開示請求を受けたサービス・プロバイダーなどは、発

信者情報を開示するかどうかについて、発信者自身

に意見を聞くこととされている。意見聴取の結果、発

信者が「和解のため自分の弁護士から連絡する」と言

ってきて、その後の面倒な手続きを免れることができる

場合もある。また、発信者が開示を拒否した場合でも、

その理由が「権利侵害の明白性」の有無を判断する

際の参考になることもある。

(5)権利侵害の明白性、開示を受ける正当な理由の有無の判断 これら2つの要件、特に権利侵害の明白性は、判

断するのが非常に難しい。前述したA社の株情報掲

示板のケースでは、権利侵害の明白性を次のように

判断することができる(先に示した、プライバシー権の

要件(i)〜(iii)を参照しながら読み進めていただきた

い)。

 まず、掲示板に投稿された「個人の住所・電話番

号」は、(i)の私生活上の事実である。確かに上場企

業の社長には「公人」としての面もあるが、企業の役職

とは無関係な個人の住所や電話番号はみだりに公開

されてよい情報ではない。裁判例の中には、有名人

について住所を公開する行為がプライバシー侵害に当

たるとしたものもある。

 また、「自分の住所や電話番号を公開されること」

は、通常は(ii)の一般人であれば公表を望まないよう

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第7回 発信者情報の開示請求とその対処法

な事柄である。それが「会社の登記簿に記載されてい

ること」が、(iii)の公知に当たるかどうかだが、裁判例

の中には、電話帳に出ている住所などについてもプラ

イバシー侵害を肯定したものがあり、登記簿に出ている

からといって公知であるとは言い切れない。

 違法阻却事由については、そもそも社長の自宅に押

しかけて抗議させようという目的も、そのような行為をあ

おりながら住所を公表するという表現方法も、相当な

理由があるとは言えない。また、抗議に押しかけるため

に住所を公開することで得られる社会の利益が、公開

される社長個人の不利益を上回っているとも思えない。

したがって、違法阻却事由があるとは言えないだろう。

 このように、A社の件では、権利侵害の明白性が認

められると考えられるため、A社はB社社長Cの開示

請求に応じることになる。

 なお、このような判断手順については、「プロバイダ

責任制限法対応事業者協会 プロバイダ責任制限法

関連情報ウェブサイト(http://www.isplaw.jp/)」にお

いてガイドラインが公開されている。開示請求書や意見

照会書などの書式も充実しているので、ぜひ活用して

いただきたい。

判断に迷ったら開示しないのが正解

 発信者情報開示を巡っても、本連載第5回におい

て解説した「情報の削除要請」と同様に、「進むも地

獄、退くも地獄」の状況に立たされることがある。つまり、

「本当は開示の要件を満たしているのに開示しなけれ

ば」被害者=開示請求者から責任を追求され、「開示

の要件を満たしていないのに開示すれば」発信者から

責任を追求されることになるのである。

 それでも、進むか退くか、どちらにするかを決めなけ

ればならないわけだが、この場合、どちらが正しいのか

──。連載第5回目の削除要請の場合は「迷ったら

削除すべし」と主張したが、こちらは逆で「迷ったら開

示しない」のが正解だ。

 プロバイダ責任制限法では、通信の秘密の権利と

しての重要性と「いったん開示したものは取り返しがつ

かない」という状況の特殊性から、誤って開示しなかっ

たことによる開示請求者の損害については、「プロバイ

ダーは故意・重過失がないかぎり責任を負わない」と

規定されている。要するに、単なる過失で要件具備の

判断を誤って開示しなかった場合には、責任を負わな

くてよいのだ。

 例えば、「弁護士に相談した結果、開示しないことに

した」といったケースでは、ほぼ確実に責任を免れるこ

とができるだろう。これに対し、要件が満たされていな

いのに判断を誤って発信者情報を開示したケースで

は、このような免責は用意されていない。

 なお、本連載では、削除要請と開示請求を別々の

回で解説することになったが、この2つは通常は一緒

になされるものだ。その場合、迷ったときにとるべき対

応は「削除するが開示しない」というものになる。