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1 CYP3A4 および CYP3A7 メカニズムに する 2007

CYP3A4 および CYP3A7 の酵素活性発現 メカニズムに関する ...opac.ll.chiba-u.jp/da/curator/900047250/IY-O-Y-008.pdfP450(CYP)は最も重要な酵素の一つである。CYP

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  • 1

    CYP3A4および CYP3A7の酵素活性発現 メカニズムに関する研究

    2007年

    鳥本 奈緒

  • 2

    目 次

    序論 4

    第Ⅰ章 CYP3A4の代謝酵素活性に及ぼす内因性ステロイドの影響および 3次元構造

    を用いた理論計算によるメカニズム解析 7

    第 1節 方法

    Ⅰ-1-1 実験材料および試薬 10

    Ⅰ-1-2 CYP3A4および NADPH-P450還元酵素発現ベクターの構築 11

    Ⅰ-1-3 プラスミドの調製法 12

    Ⅰ-1-4 昆虫細胞継代培養法 12

    Ⅰ-1-5 リポフェクチン法 12

    Ⅰ-1-6 ウイルス粒子の計数 12

    Ⅰ-1-7 バキュロウイルスの昆虫細胞への感染 13

    Ⅰ-1-8 昆虫細胞ミクロゾームの調製 13

    Ⅰ-1-9 蛋白定量および P450測定法 13

    Ⅰ-1-10 イムノブロット分析 13

    Ⅰ-1-11 発現 CYP3A4による代謝酵素活性測定法

    Ⅰ-1-11-a ネビラピン水酸化酵素活性測定法 14

    Ⅰ-1-11-b カルバマゼピンエポキシ化酵素活性測定法 14

    Ⅰ-1-11-c トリアゾラム水酸化酵素活性測定法 15

    Ⅰ-1-12 内因性ステロイド添加実験 15

    Ⅰ-1-13 反応速度論的解析法 16

    Ⅰ-1-14 CYP3A4のコンピューターモデリング法

    Ⅰ-1-14-a CYP3A4のコンピューターモデリング法 16

    Ⅰ-1-14-b モデルへの基質のフィッティング法 16

    Ⅰ-1-14-c 内因性ステロイドと基質の密度汎関数理論による量子化学計算

    第 2節 実験結果

  • 3

    Ⅰ-2-1 発現 CYP3A4によるネビラピン水酸化酵素活性およびカルバマゼピン

    エポキシ化酵素活性に及ぼす内因性ステロイドの影響

    Ⅰ-2-1-a ネビラピン水酸化酵素活性およびカルバマゼピンエポキシ化酵素活性 18

    Ⅰ-2-1-b 反応速度論的解析 18

    Ⅰ-2-1-c 分子力場計算と密度汎関数理論を用いた解析 19

    Ⅰ-2-2 発現 CYP3A4によるトリアゾラム水酸化酵素活性

    Ⅰ-2-2-a トリアゾラム水酸化酵素活性と反応速度論的解析 31

    Ⅰ-2-2-b 分子力場計算と密度汎関数理論を用いた解析 31

    Ⅰ-2-3 発現 CYP3A4によるトリアゾラム水酸化酵素活性に及ぼす

    内因性ステロイドの影響

    Ⅰ-2-3-a 発現 CYP3A4によるトリアゾラム水酸化酵素活性に及ぼす

    内因性ステロイドの影響 33

    Ⅰ-2-3-b 反応速度論的解析 34

    Ⅰ-2-3-c 分子力場計算と密度汎関数理論を用いた解析 34

    第 3節 考察 46

    第 4節 小括 51

    第Ⅱ章 CYP3A7の機能的特性の解析 53

    第 1節 方法

    Ⅱ-1-1 実験材料および試薬 55

    Ⅱ-1-2 CYP3A、CYP3Aキメラ酵素および CYP3A7部位指向変異酵素の発現

    Ⅱ-1-2-a CYP3A酵素発現ベクターの構築 55

    Ⅱ-1-2-b CYP3Aキメラ酵素発現ベクターの構築 55

    Ⅱ-1-2-c CYP3A部位指向変異酵素発現ベクターの構築 56

    Ⅱ-1-3 発現酵素による代謝酵素活性測定法

    Ⅱ-1-3-a DHEA 16 -水酸化酵素活性測定法 56

    Ⅱ-1-3-b DHEA-3S 16 -水酸化酵素活性測定法 57

    Ⅱ-1-3-c DHEAおよび DHEA-3S 16 -水酸化反応の反応速度論的解析 57

  • 4

    Ⅱ-1-3-d テストステロン 6 -水酸化酵素活性測定法 57

    Ⅱ-1-3-e エリスロマイシン N-脱メチル化酵素活性測定法 58

    Ⅱ-1-3-f ネビラピン水酸化酵素活性測定法 58

    Ⅱ-1-3-g トリアゾラム水酸化酵素活性測定法 58

    Ⅱ-1-4 CYP3A7のコンピューターモデリング法

    Ⅱ-1-4-a CYP3A7のコンピューターモデリング法 59

    Ⅱ-1-4-b モデルへの基質のフィッティング法 59

    第 2節 実験結果

    Ⅱ-2-1 CYP3A7のホモロジーモデリング 60

    Ⅱ-2-2 CYP3Aキメラ酵素による DHEAおよび DHEA-3S 16 -水酸化反応の

    反応速度論的解析 60

    Ⅱ-2-3 CYP3A7モデルへの DHEAおよび DHEA-3Sのフィッティング 61

    Ⅱ-2-4 CYP3A7とその部位指向変異酵素による DHEAおよび DHEA-3S

    16 -水酸化反応の反応速度論的解析 62

    Ⅱ-2-5 CYP3A7とその部位指向変異酵素の代謝活性比較 62

    Ⅱ-2-6 CYP3A7の変異型ホモロジーモデルを用いた解析 63

    第 3節 考察 76

    第 4節 小括 79

    総括 80

    引用文献 81

    主論文目録 87

    謝辞 88

    主査、副査名 89

  • 5

    序 論

    薬物代謝に関与する酵素として、ヒト肝ミクロゾーム画分に存在するシトクロム

    P450(CYP)は最も重要な酵素の一つである。CYPはその一次構造の相同性から様々

    な分子種に分類されており(1)、ヒトにおける薬物代謝には、CYP1A2、CYP2C9、

    CYP2C19、CYP2D6、CYP3A4が主に関与すると言われている(2)。その中で CYP3A

    分子種はヒト成人肝に存在する総CYP含量の約 30%を占める主要な酵素である(3)。

    また、CYP3A分子種は、動物種によってその一次構造が異なるだけでなく、同一の生

    物においても複数の分子種が存在し、分子種間での基質に対する反応性にも相違があ

    ることが示されている(4)。

    3Aサブファミリーに属するヒトの酵素としてCYP3A4の他に、ヒト成人肝の約 20%

    で発現しているとされる CYP3A5(5-8)、胎児特異的とされる CYP3A7(9-11)、さら

    に、男性生殖器で主に発現していると言われる CYP3A43(12-14)がある。中でも

    CYP3A4は、エリスロマイシン(15)、カルバマゼピン(16)、シクロスポリン A(6)、

    ニフェジピン(17)をはじめ現在臨床使用され、CYPで代謝される医薬品の半数以上

    の代謝に関与すると言われており(2)、薬物代謝を考える上で極めて重要な酵素であ

    る。また、CYP3A4は上記薬物等の外因性物質のみならず、テストステロン(18)、ア

    ンドロステンジオン(18)、プロゲステロン(18)、コルチゾール(19)などの内因性

    ステロイドの酸化的代謝にも関与する。CYPが内因性ステロイドの代謝を触媒する主

    な生理的意義としては、ホルモンの生合成や解毒作用が上げられる。このように

    CYP3A4 は内因性ステロイドの代謝にも関与することから、これら内因性ステロイド

    が CYP3A4の基質となる薬物の代謝に対し影響を与えることは充分に考えられる。従

    って、適切な薬物療法を行う上で、内因性ステロイドと医薬品との相互作用を明らか

    とすることは極めて重要と考えられる。

    CYP による触媒反応は多くの場合 Michaelis-Menten モデルを用いて説明されるが、

    CYP3A4 による触媒反応は時に Michaelis-Menten モデルで説明不可能な複雑な反応速

    度論的特徴を示す場合がある。たとえば、CYP3A4 によるカルバマゼピンのエポキシ

    化は非双曲線を示すことが報告されている(20)。また、CYP3A4は同一薬物の異なる

  • 6

    部位への水酸化を触媒したり、シクロスポリンのような比較的大きな分子量(MW:

    1,201)の化合物も代謝することから、CYP3A4 の基質結合部位周辺の空間は大きく、

    低分子の基質の場合は複数個がその活性部位に共存することが可能と考えられていた。

    このことから、CYP3A4 の複雑な反応速度論的特徴を説明するために、CYP3A4 の活

    性部位では複数の基質と相互作用し得る複数の部位が存在し、そのいずれからも活性

    化酸素を受け取ることが可能とする仮説が複数提唱されてきた。(21-23)。しかし、こ

    れらの仮説では、CYP3A4 の活性部位のどの部位に基質が結合しどのアミノ酸と相互

    作用しているのか、あるいは、複数の基質が活性部位内に同時に存在したときに基質

    同士あるいは基質とエフェクター間でどのような相互作用が生じ酵素活性に影響を与

    えるのかについてはわからない。そこで、理論計算を用いて、CYP3A4 の活性部位内

    で起こる様々な相互作用を解析し、複雑な反応速度論的特徴を説明することとした。

    CYP3A7はヒト胎児肝で最大 50%を占める主要な CYP分子種である。胎児副腎で合

    成された DHEA-3S(デヒドロエピアンドロステロン 3硫酸)は肝臓で 16 水酸化を受

    けた後、胎盤で脱硫酸を受け、さらに芳香環化されてエストリオールとなることが知

    られている。CYP3A7 はこの 16 水酸化を触媒する機能を有することが明らかにされ

    ている(11)。興味深いことにエストリオールの 90%は胎児から供給された DHEA-3S

    より生成され、10%は母胎源の DHEA-3S から作られる。胎児の副腎が ACTH に刺激

    されると DHEA-3Sの合成が促進されるが、この DHEA-3Sが胎児に高濃度に存在する

    と胎児の成長が抑制される。このことから CYP3A7による DHEA-3Sの代謝は胎児の

    生体防御機能の一つであるとも考えられている(24)。胎児期に CYP3A4 の存在しな

    いこと(25)、一歳を過ぎると急激に CYP3A7 が減少すること(26)から、この分子

    種は胎児期において生理的に重要な役割を果たしていると考えられている。

    胎児期に存在しない CYP3A4 は CYP3A7 と塩基配列で 94%、一次構造で 88%の相

    同性を示しながらも、DHEA および DHEA-3S に対して低い活性しか示さない(27)。

    現在までに CYP3A7に関して、その重要性や基質特異性に関する報告はあるが構造と

    機能の相関性に関する研究は行われていない。構造と機能の相関性を解析するもっと

    も直接的な手段は X 線による結晶解析であるが、膜結合性である動植物の CYP は結

    晶化が難しく取得が困難であった。しかし、2000年に、哺乳動物の P450 としては初

  • 7

    めてウサギの CYP2C5(28)の構造が、2004 年には、ヒトの CYP3A4 の X 線結晶構

    造(29、30)が取得されたことから、より詳細な構造と機能の関係を解析することが

    可能となった。しかし、CYP3A7の X線結晶構造は未だ取得の報告がないため、結晶

    構造解析によらずに基質認識領域を調べ、基質認識のメカニズムを推定することは重

    要な課題である。そこで、CYP3A4と CYP3A7のキメラ酵素や、アミノ酸変異を導入

    した酵素を作成し、CYP3A7の基質特異性を示す領域を検討した。

    以上より、本研究では、構造が類似し基質特異性を異にする CYP3A4と CYP3A7に

    着目し、代謝酵素活性変化のメカニズムについて、実験化学と理論計算の両面から解

    析した。

  • 8

    第Ⅰ章 CYP3A4 の代謝酵素活性に及ぼす内因性ステロイドの影響および 3次元構造を用いた理論計算によるメカニズム解析

    CYP3A4 の複雑な反応速度論的特徴や、他の化合物による基質代謝酵素活性の変化

    を解明するために、本章では、まず初めに、複数の基質の代謝酵素活性に及ぼす内因

    性ステロイドの影響を検討し、次に、各種基質の代謝酵素活性が変化する原因を蛋白

    質の立体構造を用い、計算化学的アプローチにより解析した。

    基質として用いた薬剤は、抗 HIV薬で非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害薬に分類さ

    れるネビラピン(NVP)、抗てんかん薬であるカルバマゼピン(CBZ)、ベンゾジアゼ

    ピン系睡眠薬であるトリアゾラム(TZM)であり、いずれも CYP3A4により代謝を受

    けることが知られている。これらの構造および代謝部位を Fig. 1-1 に示した。また、

    検討に用いた内因性ステロイドの構造を Fig. 1-2に示した。本検討の目的は、CYP3A4

    の代謝酵素活性変化の解明であるため、酵素源には、バキュロウイルス-昆虫細胞発現

    系により発現させた CYP3A4ミクロゾームを用いた。

  • 9

    Fig. 1-1 The chemical structure and CYP3A-mediated metabolic pathways of drugs

    used in this study. A, hydroxylation of nevirapine (NVP) by CYP3A4. B, carbamazepine

    (CBZ) 10,11-epoxidation by CYP3A4. C, hydroxylation of triazolam (TZM) by CYP3A4. As

    shown in figure, each rings of NVP and CBZ are named A~C, and each rings of TZM is named

    At~Dt respectively.

    4-hydroxy-TZM-hydroxy-TZM

    B

    CBZ 10,11- epoxideCBZ

    N

    CONH2

    O

    N

    CONH2

    10 11

    AB

    C →

    A

    NVP 2-hydroxy-NVP

    HON

    N

    N

    HCH3

    O

    N2

    12

    N

    N

    N

    HCH3

    O

    NA

    BC →

    C

    At Bt

    Ct

    Dt

    H3C

    N

    NN

    N

    Cl

    Cl

    4 OH

    NN

    N

    N

    Cl

    Cl

    H3CHOH2CN

    N

    N

    NCl

    Cl

    →→

    TZM

  • 10

    Fig. 1-2 The chemical structures of endogenous steroids used in this study.

    CH3

    progesteronepregnenolone pregnenolone-sulfate conjugation

    HO

    CH3

    CH3C OCH3

    HO-SO2-O

    CH3

    CH3C OCH3

    17 OH-pregnenolone-sulfate conjugation

    aldosterone 17 OH- pregnenolone

    HO

    CH3

    CH3C OCH3

    OH

    HO-SO2-O

    CH3

    CH3C OCH3

    OH

    DHEA

    estradiol

    OH

    HO

    CH3

    estrone

    O

    HO

    CH3

    O

    CH3

    CH3C O

    CH2OH

    CO

    HHO

    O

    CH3

    C O

    HO

    O

    CH3

    CH3

    cortisol

    O

    HO

    CH3

    C OCH2OH

    CH3 OH

    17 OH-progesterone

    O

    CH3

    CH3C OCH3

    OH

    testosterone

    OH

    O

    CH3

    CH3

    DHEA-sulfate conjugation

    O

    CH3

    CH3

    HO-SO2-O

    androstenedione

    O

    O

    CH3

    CH3

    A B

    C D

    A B

    C D

    A B

    C D

  • 11

    第1節 方法

    Ⅰ-1-1 実験材料および試薬

    本研究に用いた昆虫細胞は、国立予防衛生研究所 松浦善治博士より TN-5 を、東

    京大学衛生化学教室 新井洋由博士より SF-9をそれぞれ御恵与頂いた。組み換えバキ

    ュロウイルス作成に用いたトランスファーベクターは Invitrogen社の P2Bacを、また、

    ウイルス DNAには、PharMingen社の BacuroGoldを使用した。チトクローム b5は、

    大腸菌より発現したヒスチジンタッグ結合ヒトチトクローム b5(和光純薬工業社製)

    を使用した。

    本実験で使用した購入試薬、酵素およびキットを以下に示す。

    ・Bacto Tryptone (DIFCO)

    ・Bacto Yeast Extract (DIFCO)

    ・Bacto Tryptosephoshatebroth (DIFCO)

    ・Agar (ナカライテックス)

    ・Agarose (宝酒造)

    ・SeaPlaqu agarose (FMC Bio Products)

    ・DNA Ligation Kit ver.2 (宝酒造)

    ・caif intestine alkaline phosphase(CIAP) (宝酒造)

    ・T4 DNA polymerase (宝酒造)

    ・bovine serum albumin(BSA) (Sigma)

    ・Neutral Red Solution (GIBCO)

    ・Ex-cell 405培地 (JRH)

    ・Ex-cell 420培地 (JRH)

    ・SUPREC-01(DNA回収用チューブ) (宝酒造)

    ・Wizard plus Midiprep DNA (promega)

    ・セルバンカーⅡ (十慈化学)

    各種制限酵素は宝酒造より購入した。各種ステロイドのうち、17 -水酸化プレグネ

  • 12

    ノロン、17 -水酸化プロゲステロンはステラロイド社から、他のステロイドは Sigma

    より購入した。

    その他、実験に使用した購入試薬類はすべて特級または生化学用のものを使用した。

    本研究で用いた培地および溶液等の組成は次の通りである。なお組成は全て最終濃度

    で示した。これらは*印以外は 121℃、20分間の高圧蒸気滅菌処理の後に使用した。

    ・LB培地:1.0% Bacto Tryptone、0.5% Bacto Yeast Extract、1.0% NaCl(pH 7.0)

    ・ LB寒天培地:LB培地+1.5% agar

    ・ *NaOH-SDS溶液:0.2N NaOH、1.0% sodium dodecyl sulfate(SDS)

    ・ SOC培地:2.0% Bacto Tryptone、0.5% Bacto Yeast Extract、10 mM NaCl、2.5 mM KCl、

    10 mM MgSO4、*20 mM glucose(濾過滅菌)

    ・ *TAE緩衝液:40 mM Tris-acetate(pH 8.0)、2 mM ethylenediaminetriacetic acid(EDTA)

    (pH 8.0)

    ・ *細胞ソニケーション溶液:250 mM sucrose、1 mM EDTA、0.1 mM phenylmethane

    sulfonyl fluoride(PMSF)

    ・ *ミクロゾームサスペンド緩衝液:50 mM potassium phosphate(pH 7.4)、0.2 mM

    EDTA、20% glycerol

    ・ *P450測定用緩衝液:0.1 M potassium phosphate(pH 7.4)、20% glycerol、0.2% emulgen

    911

    ・ *NADPH生成系:40 mM MgCl2、20 mM G-6-P、5 mM NADP+、10 unit G-6-PDH

    Ⅰ-1-2 CYP3A4および NADPH-P450還元酵素発現ベクターの構築

    CYP3A4 cDNA は、すでにクローニングされ、 pCI-neo に組み込んだもの

    (CYP3A4/pCI-neo)を用いた。

    CYP3A4/pCI-neo を XhoⅠで消化し末端平滑化した後 NotⅠで切断した。同様に、

    p2Bacベクターは、p10プロモーター下流マルチクローニングサイト内にある BsiWⅠ

    消化し末端平滑後、NotⅠで切断し、CYP3A4cDNA を組み込み、E.coli JM109 にトラ

    ンスフォームした。組換えられた正しいクローンを単離、増幅し、プラスミドを調製

    した。ヒト reductase/pUC118を BamH Ⅰと Hind Ⅲで消化し、同様に消化した p2Bac

  • 13

    ベクターの pH プロモーター下流に組み込んだ。組み換えられた正しいプラスミドを

    E.coli JM109 にトランスフォームし、増幅してプラスミドを調製した。組換えの確認

    は制限酵素により行った。

    Ⅰ-1-3 プラスミドの調製法

    QIAGEN Plasmid Midi Kit(QIAGEN)を用いて行った。

    Ⅰ-1-4 昆虫細胞継代培養法

    SF-9細胞はEx-cell 420無血清培地を、TN-5細胞はEx-cell 405無血清培地を使用し、

    27℃の条件下、105~115 rpmで振蕩培養した。細胞は 0.3~2.0×106 cells/mLを維持する

    ように継代培養した。

    Ⅰ-1-5 リポフェクチン法

    ウイルス作成のコトランスフェクションはリポフェクチン法により行った

    (Lipofectin, GIBCO)。SF-9細胞を Ex-cell 420培地で、1×106 cells/35 mm dishとなる

    ように播種した。ウイルス DNA(AcNPV linear DNA)を 50 ng、トランスファーベク

    ターを 3~5 gで全量 8 Lとし、これに 2倍希釈したリポフェクチン試薬 8 Lを加え

    て室温で 15分間インキュベーションした後、細胞に添加した。これを 27℃で 24時間

    培養後、Ex-cell 420培地を 1 mL加えて、さらに 72時間培養した。この上清をウイル

    ス溶液として使用した。

    Ⅰ-1-6 ウイルス粒子の計数

    組み換えバキュロウイルスのタイターの測定は、ニュートラルレッド色素で細胞を

    染色することにより行った。SF-9細胞を 1×106 個/35 mmディッシュにまき、10-4、

    10-5、10-6、10-7、10-8に希釈したウイルス溶液をそれぞれ添加した。1時間後、1.0%ア

    ガロースを含む Ex-cell 420無血清培地を細胞上に重層し、アガロースが凝固した後さ

    らに Ex-cell 420無血清培地を重層した。これを 27℃で培養し、3日後、ニュートラル

    レッドで染色した。翌日、プラークを計数し、タイターを p.f.u.(plaque forming unit)

  • 14

    として算出した。

    Ⅰ-1-7 バキュロウイルスの昆虫細胞への感染

    TN-5 細胞を 1×107 個/75 cm2 フラスコにまいて培地を除き、ウイルス溶液を

    MOI=10 p.f.u./cellとなるように添加した。細胞の表面が乾燥しないように 15分おきに

    ディッシュまたはフラスコを傾けながら、60分間クリーンベンチ内でインキュベーシ

    ョンした後、これに塩化ヘミンを4 g/mLとなるように添加した Ex-cell 405無血清

    培地を加え、27℃で 72時間培養した。

    Ⅰ-1-8 昆虫細胞ミクロゾームの調製

    TN-5細胞ミクロゾームの調製は、Kedzieらの方法(31)に若干の改良を加えて行っ

    た。回収した細胞を細胞ソニケーション溶液中で破砕して 9,000×g、5 分間遠心し、

    さらに上清を 105,000×g、20分間遠心した。沈殿物をミクロゾーム懸濁緩衝液に懸濁

    し、これをミクロゾーム画分とした。尚、微量超遠心には日立 CX120 EXを使用した。

    Ⅰ-1-9 蛋白定量および P450測定法

    蛋白定量は 0 1.0 mgのウシ血清アルブミンを標準物質として用い、Lowryらの方

    法で行った(32)。

    P450の測定は、Omuraと Satoの方法に従い(33)、還元剤としてハイドロサルファ

    イトナトリウムを用いて P450 測定用緩衝液の条件下で還元型-CO 結合差スペクトル

    を測定し、分子吸光係数 91 cm-1 mM-1を用いて算出した。なお、吸光度の測定には日

    立 228 A型ダブルビーム分光光度計を用いた。

    Ⅰ-1-10 イムノブロット分析

    Laemmliらの方法(34)に従い、8.5%のポリアクリルアミドゲルを用いて SDS-PAGE

    を行った。泳動後の蛋白は、Guengerich らのウエスタンブロット法(35)により

    polyvinylidenefluoride(PVDF)膜に転写し、ペルオキシダーゼ結合抗ペルオキシダー

    ゼ染色法により染色した。

  • 15

    Ⅰ-1-11 発現 CYP3A4による代謝酵素活性測定

    ネビラピンおよびカルバマゼピンの代謝酵素活性は、1-1-2 1-1-10 で発現させた

    CYP3A4ミクロゾームを酵素源として用いた。トリアゾラム水酸化酵素活性は、Gentest

    社より購入したミクロゾームを酵素源に利用した。

    Ⅰ-1-11-a ネビラピン水酸化酵素活性測定

    反応溶液は、0.1 M Kpi(pH7.4)、0.1 mM EDTA(pH7.4)、100 M ネビラピン(基

    質)、発現 CYP3A4(20 pmol CYP/mL)、NADPH生成系(0.33 mM NADP+、8 mM G-6-P、

    0.1 unit G-6-PDH、6 mM MgCl2)からなる。酵素反応は NADPH生成系の添加により開

    始し、37℃で 10分間行った後、酢酸エチル 5 mLを加えることにより反応を停止した。

    反応停止後、内標準物質である 20 g/mLフェノバルビタール/メタノール溶液 20 L

    を加え、10分間振倒混和し、3,000 rpmで 10分間遠心分離した。酢酸エチル層を別の

    試験管に移し、減圧下蒸発乾固した後、残渣にメタノール 100 Lを加え溶解したもの

    を HPLC測定試料とした。

    HPLCシステムは、L-6000型ポンプ、L-4200型 UV検出器、AS-2000型オートサン

    プラー(以上日立)を用いた。カラムは、Inertsil ODS-80A (粒径 5 m、4.6×250 mm、

    ジーエルサイエンス)を 35℃のカラム温度で使用した。溶離液は、0.1M リン酸緩衝

    液(pH 4.0):アセトニトリル:2-プロパノール = 75:15:2、流速は 0.9 mL/min、検

    出波長は 220 nmで行った。

    Ⅰ-1-11-b カルバマゼピンエポキシ化酵素活性測定

    Tybring(16)らの方法を若干変更して行った。反応溶液は、0.1 M Kpi(pH7.4)、0.1

    mM EDTA(pH7.4)、100 M CBZ(基質)とチトクロム b5(10 pmol/pmol CYP)、発現

    CYP3A4(20 pmol CYP/mL)、NADPH生成系(0.33 mM NADP+、8 mM G-6-P、0.1 unit

    G-6-PDH、6 mM MgCl2)からなる。酵素反応は NADPH生成系の添加により開始し、

    37℃で 20分間行った後、クロロホルム:エタノール=10:1を 5 mL加えることにより

    反応を停止した。反応停止後、内標準物質である N,N-ジメチルゾニサミドを加え、代

    謝物を抽出し遠心(3,000 rpm、10分)した。上清を除き、下層のクロロホルム層を蒸

  • 16

    発乾固した後、残渣に水:メタノール:アセトニトリル=7:3:1の割合の溶液 100 L

    を加え溶解したものを HPLC測定試料とした。なお、NADPH生成系は予め 37℃で 3

    分間処理したものを用いた。

    HPLC システムは、ネビラピン水酸化酵素活性で用いたものと同様のシステムを用

    いた。カラムは、Puresil C18(粒径 6 m、4.6×150 mm、ミリポア)を 35℃のカラム

    温度で使用した。溶離液は、1% 酢酸:メタノール:アセトニトリル = 7:3:1、流

    速は 1.0 ml/min、検出波長は 235 nmで行った。

    Ⅰ-1-11-c トリアゾラム水酸化酵素活性測定

    Nakamura(36)らの方法を若干変更して行った。本反応に用いた酵素源は、Gentest

    社から購入した発現 CYP3A4を用いた。本酵素は、NADPH-P450還元酵素との共発現

    でチトクロム b5を含有している。反応溶液は、0.1 M Kpi(pH7.4)、0.1 mM EDTA(pH7.4)、

    100 M トリアゾラム(基質)、発現 CYP3A4(10 pmol CYP/mL)、NADPH生成系(0.33

    mM NADP+、8 mM G-6-P、0.1 unit G-6-PDH、6 mM MgCl2)からなる。酵素反応はNADPH

    生成系の添加により開始し、37℃で 7分間行った後、酢酸エチル 5 mLを加えること

    により反応を停止した。反応停止後、内標準物質(5 g/mLロラゼパム/メタノール溶

    液)100 Lを加え、10分間振倒混和し、3,000 rpmで 10分間遠心分離した。酢酸エチ

    ル層を別の試験管に移し、減圧下蒸発乾固した後、残渣にメタノール 120 Lを加え溶

    解したものを HPLC測定試料とした。

    HPLC システムは、カルバマゼピンエポキシ化酵素活性で用いたものと同様のシス

    テムを用いた。カラムは、Inertsil ODS-80A (粒径 5 m、4.6×250 mm、ジーエルサイ

    エンス)を 40℃のカラム温度で使用した。溶離液は、水:アセトニトリル:メタノー

    ル = 7:3:1、流速は 1.0 mL/min、検出波長は 220 nmで行った。

    Ⅰ-1-12 内因性ステロイド添加実験

    各種基質酵素活性に及ぼす内因性ステロイドの影響について検討を行う目的で、内

    因性ステロイド(Fig. 1-2)を反応系に添加し代謝活性の変化を測定した。基質、各種

    ステロイドは、すべて 100 Mとなるように反応系に添加した。

  • 17

    Ⅰ-1-13 反応速度論的解析法

    反応速度論パラメータ算出は、Michaelis-Menten式より Km および Vmax を算出し

    た。なお、Eadie-Hofstee plotでシグモイド型の反応速度論曲線を示したものに関して

    は Eq. 1に示した 2-binding siteモデルにより解析を行った。

    V= (Vmax2S2/Km1Km2)/(1+S/Km1+ S2/Km1Km2) -Eq.1

    本モデルは、酵素(E)と基質(S)は酵素-基質(ES)か ESS複合体を形成するこ

    とができ、ESS複合体からのみ代謝物が生成するといった仮定によるものである(22)。

    それ故、Vmax1=0と設定されることになる。

    反応速度論パラメータは非線形最小自乗法ソフト Pro Fit 5.5 (QuantumSoft, Zurich,

    Switzerland)を用い、Levenberg-Marquardアルゴリズムにて算出した。

    Ⅰ-1-14 CYP3A4のコンピューターモデリング法

    Ⅰ-1-14-a CYP3A4のコンピューターモデルの構築

    ネビラピンおよびカルバマゼピンをドッキングさせるためのCYP3A4のコンピュー

    ターモデルは、Szklarzの方法(37)に若干の変更を加えて構築したモデルを利用した。

    2004 年に CYP3A4 の X 線結晶構造が明らかになったことから、トリアゾラムをドッ

    キングさせるための CYP3A4構造は、Yanoらによって取得された X線構造(PDBコ

    ード 1TQN)を用いた。

    Ⅰ-1-14-b CYP3A4構造への基質のフィッティング

    CYP3A4構造にフィッティングさせる NVP、CBZ、TZMおよびステロイドの安定な

    構造は Gaussian 98(38)プログラムを用い、密度汎関数法により作成した。交換項に

    は Beckeの three parameter式(39)を、相関項には Lee-Yang-Parrの式(40)を、基底

    関数系には 6-31G**を用い、ポテンシャルエネルギー超曲面上における極小点の構造

    を十分最適化した。CBZは、エポキシ化を受ける 10,11位がヘムの第 6配位子へ向く

    ように配置し、分子力場計算によるエネルギー極小化計算を行うことでモデルの活性

  • 18

    部位にフィッティングさせた。なお、分子力場計算には、AMBER 6.0を用いた。

    Ⅰ-1-14-c 内因性ステロイドと基質の密度汎関数理論による量子化学計算

    内因性ステロイドと基質との相互作用の機序を明らかとするため、密度汎関数法

    を用いて相互作用エネルギーを求めた。交換項には Beckeの three parameter式(39)

    を、相関項には Lee-Yang-Parrの式(40)を、基底関数系には 6-31G**を用いた。計算

    プログラムは Gaussian 98(38)である。Ⅰ-1-13-bで求めたフィッティング構造から各

    基質および内因性ステロイドを抜き出し、両者が相互作用した状態と各々が単独に存

    在した状態についてそれぞれポテンシャルエネルギー計算を行い、それらを基に相互

    作用エネルギーを求めた。

  • 19

    第2節 実験結果

    Ⅰ-2-1 発現 CYP3A4 によるネビラピン水酸化酵素活性およびカルバマゼピンエポキ

    シ化酵素活性に及ぼす内因性ステロイドの影響

    Ⅰ-2-1-a ネビラピン(NVP)水酸化酵素活性およびカルバマゼピン(CBZ)エポキシ

    化酵素活性

    発現 CYP3A4における NVPおよび CBZの主要な代謝物は Fig. 1-1に示した通り

    である。100 Mの各種内因性ステロイド添加による NVP-2位水酸化および CBZエポ

    キシ化酵素活性の変化を Fig. 1-3 に示す。内因性ステロイドを添加しないコントロー

    ルの活性値は、NVP-2水酸化酵素活性が 4.6 nmol/nmol CYP/min、CBZエポキシ化酵素

    活性が 1.4 nmol/nmol CYP/minであった。NVP-2水酸化酵素活性は、アルドステロン

    (ALD)の添加により、1.8 倍、エストラジオール(EST)、エストロンの添加により

    コントロール活性の 50%、74%へ減少した。一方、CBZエポキシ化酵素活性は、アン

    ドロステンジオン(AND)、DHEA、テストステロンなどのアンドロゲンにより活性値

    の上昇が見られ、コントロールと比較してそれぞれ、3.0、2.4、1.8倍の活性上昇を示

    した。プレグネノロン-Sにおいては、やや活性の減少が見られ、コントロールと比較

    して活性値が 0.7倍に低下した。

    NVP 2-水酸化酵素活性、CBZエポキシ化酵素活性を最も強く活性化した ALDと

    AND、さらに NVP 2-水酸化酵素活性を最も強く阻害した ESTについて、その濃度と

    活性変化の関係を検討した。Fig. 1-4 AにNVP 2-水酸化酵素活性に対するAND、ALD、

    ESTの濃度依存的影響を、Fig. 1-4 Bに CBZエポキシ化酵素活性に対する影響を示し

    た。Fig. 1-4 Aに示したように、NVP 2-水酸化酵素活性は、ALDの添加により 200 M

    まで濃度依存的に活性化し、ESTの添加により阻害された。一方、ANDは大きな影響

    を及ぼさなかった。Fig. 1-4 Bに示したように、CBZエポキシ化酵素活性は、AND添

    加により上昇し、その活性上昇は、特に低い基質濃度で顕著であった。ALD および

    ESTは、いずれの濃度においてもほとんど影響を及ぼさなかった。

    Ⅰ-2-1-b 反応速度論的解析

  • 20

    NVP 2-水酸化酵素活性および CBZ エポキシ化酵素活性を変化させたステロイド

    の影響を明らかにするために、速度論パラメータの変化を解析した。Table 1-1に NVP

    2-水酸化の、Table 1-2に CBZエポキシ化の速度論パラメータを示した。NVP 2-水酸化

    の Vmax/Kmは、ALDの添加により非添加時の 2.6倍に増加した。一方、ESTの添加

    により、Kmが増加し、Vmaxはほぼ変化しなかったことから、Vmax/Kmは非添加時

    の 36%に減少した。ANDの添加により、Kmおよび Vmaxが上昇したため、結果とし

    て Vmax/Kmは非添加時とほぼ同様となった。

    Fig. 1-5 Bの Eadie-Hofstee plotに示すように、CBZエポキシ化はシグモイド様曲線

    を示したことから、速度論パラメータは、Korzekwa 等(1998)(41)により提唱され

    た非Michaelis-Menten反応速度論解析である Two binding siteモデル式(Table. 2 b)を

    用いて算出した。その結果、CBZエポキシ化の Km1値は、AND、ALD、ESTの添加

    により著しく低下することが示された。さらに、AND 添加時には、Km2 値も低下し

    た。また、100 Mの ALD、AND、ESTの添加により、反応速度曲線はMichaelis-Menten

    型に変化した(Fig. 1-5 B)ことから、ステロイド添加時の速度論パラメータの算出は

    通常のMichaelis-Menten式(Table 2 a)でも可能で、そのパラメータは、b式により算

    出した Km2、Vmax2 値とほぼ同等であった。このことから、AND、ALD、EST の存

    在は CBZ の反応速度論的解析において site-1 の存在を無視できることが示唆された。

    この結果、ステロイド添加時の Vmax2/Km2 値は、Vmax/Km 値とほぼ等しくなった。

    AND の存在はこの値を約 4 倍に上昇させたが、ALD、EST の存在では変化しなかっ

    た。従って、AND添加により CBZエポキシ化の代謝触媒効率が増加したと考えられ

    る。

    Ⅰ-2-1-c 分子力場計算と密度汎関数理論を用いた解析

    1) ネビラピン水酸化酵素活性における解析

    Fig. 1-2に示したように、ALD、EST、ANDは構造的に非常に良く似ているが、NVP

    水酸化酵素活性に対して異なる影響を示すことがわかった。この理由は、反応速度論

    的解析のみでは十分に説明できない。また、CYP3A4 の活性部位が存在するとされる

    ポケットは非常に大きいことから、同時に 2個以上の基質分子が存在すると考えられ

  • 21

    る。そこで、CYP3A4の 3次元構造を用いて、1つのポケットに基質である NVPと内

    因性ステロイドが同時に存在していたときに起こり得る分子間の相互作用を分子力場

    計算と密度汎関数理論を用いて解析した。その結果、Fig. 1-6 に示したように、NVP

    と ALDが同時に存在した場合、CYP3A4の 312位の Serの OH基と ALDのカルボニ

    ル基とが水素結合し、また、ALDの D環の OH基と NVPのペプチド基とが水素結合

    すると考えられた。これらの相互作用により、NVPは ALDによって安定に保持され、

    水酸化されやすくなることが考えられた。

    一方、NVP と AND が同時に存在したとき、Ser312 は ALDと同様に水素結合を形

    成すると考えられたが、ANDは ALDのように、NVPを安定に保持しないことが推察

    された。ESTも Ser312と相互作用するが、ESTの芳香環と NVPの芳香環(A環)と

    の間で疎水的な相互作用、即ち - 相互作用を形成することが示唆され(Fig. 1-8 A)、

    その結果、NVPの 2位は水酸化を阻害されると考えられた。

    次に、活性部位内において、NVPとステロイドが安定に相互作用し得るかどうかを

    明らかにするために、安定化エネルギーを算出した。すなわち、Fig. 1-6に示したフィ

    ッティング構造から NVP とステロイドを抜き出し、密度汎関数法を用いて、両者が

    相互作用している状態と単独で存在している状態のポテンシャルエネルギーを計算し、

    その差を安定化エネルギーとした。NVPと ALDとの安定化エネルギーの値は、NVP

    とAND、NVPとESTの安定化エネルギーの値と比較して最も大きいことが示された。

    従って、CYP3A4の活性部位内において、NVPと ALDの複合体は、NVP単独時およ

    び AND、EST存在時と比較して、最も安定に保持されているため NVP 2位水酸化を

    受けやすいことが示唆された。

    2) カルバマゼピンエポキシ化酵素活性における解析

    Fig. 1-7 に示したように、活性部位に CBZ と AND が同時に存在すると、CYP3A4

    の 312位の Serの OH基と ANDの A環のカルボニル基とが水素結合を起こし、AND

    が保持されると考えられた。また、CBZのカルボン酸アミドと ANDの D環のカルボ

    ニル基とが水素結合することが示唆された。これらの結合によって CBZが安定に保持

    され、ヘムに結合している酸素原子と CBZの 10、11位の C-C(被エポキシ部位)と

  • 22

    の相互作用が保たれやすくなり、エポキシ化を受けやすくなると推察された。一方、

    ALDと CBZが同時に存在したときは、Ser 312との距離は保たれるが、ALDの D環

    の側鎖が長いため、被エポキシ部位とヘムに結合している酸素原子との相互作用がや

    や弱くなると考えられた。また、EST と CBZ が同時に存在したときは、EST の芳香

    環と CBZの芳香環(A環)との間で - 相互作用を形成することが示唆された

    (Fig. 1-8 B)が、NVPと ESTとの間で見られた - 相互作用(Fig. 1-8 A)よりも

    若干距離が遠く、さらに Ser 312と ESTとの水素結合が切れるため、ESTが動きやす

    くなり CBZと ESTとの相互作用が弱くなったと考えられた。

    前述した NVPの場合と同様に、密度汎関数法により算出した CBZとステロイドの

    安定化エネルギーを Fig. 1-7に示した。その結果、AND添加時の安定化エネルギーは、

    ALD、ESTと比較して高いことがわかった。

    次に、活性ポケット内に CBZが 2分子同時に存在したときに起こり得る相互作用に

    ついて、分子力場計算と密度汎関数理論を用いて解析した。その結果、Fig. 1-9に示す

    ように CBZのカルボン酸アミド同士が水素結合することで、安定に保持されることが

    明らかになった。CBZが 2分子存在すると、これらの基質間に 2つの水素結合をつく

    ることでダイマーとなり、安定化されると考えられた。このときの安定化エネルギー

    は 12.6 kcal/mol であった。従って、CBZは高基質濃度下において 2分子の CBZ同士

    が水素結合することにより、低基質濃度下よりも安定に保持され、代謝されやすくな

    ることが推察された。この結果、CBZの反応速度曲線はシグモイド様曲線になる可能

    性が推論された。

  • 23

    Fig. 1-3 Effect of steroids on the activities of NVP hydroxylation and CBZ

    10,11-epoxidation by expressed CYP3A4. A, 2-Hydroxylation of NVP; B, CBZ

    10,11-epoxidation. Control means the addition of only organic solvent without endogenous

    steroid with the total concentration of solvent less than 2% (v/v).

    0 1 3 4 5 6 7 8 9 102CBZ 10,11-Epoxidation (nmol/nmol CYP/min)

    B

    0 2.5 5.0 7.5NVP 2- Hydroxylation (nmol/nmol CYP/min)

    Apregnenolone-Saldosterone

    DHEA

    androstenedione

    testosterone

    estroneestradiol

    control

    pregnenolone-S

    aldosterone

    DHEA

    androstenedione

    testosterone

    estroneestradiol

    control

  • 24

    Fig. 1-4 Concentration-dependence of the effect of aldosterone (ALD), androstenedione

    (AND) and estradiol (EST) on NVP hydroxylation and CBZ epoxidation by expressed

    CYP3A4. A, 2-Hydroxylation of NVP; B, CBZ 10,11-epoxidation. Control activity of NVP

    2-hydroxylation was 4.6 nmol/nmol CYP/min. Control activity of CBZ 10,11-epoxidation was

    1.4 nmol/nmol CYP/min. Control means the addition of only organic solvent without

    endogenous steroid with the total concentration of solvent less than 2% (v/v).

    Per

    cent

    of c

    ontro

    l act

    ivity

    (%)

    Steroid concentration ( M)

    0

    50

    100

    150

    200

    250

    300

    0 50 100 150 200

    ALD

    AND

    EST

    A

    0

    100

    200

    300

    400

    500

    0 50 100 150 200

    ALD

    EST

    AND

    Steroid concentration ( M)

    Per

    cent

    of c

    ontro

    l act

    ivity

    (%) B

  • 25

    Table 1-1 Kinetic parameters of NVP 2-hydroxylation by expressed CYP3A4.

    Km Vmax Vmax/Km

    NVP only 36.9 4.1 0.11

    plus aldosterone 51.8 15.2 0.29

    plus androstenedione 121.0 14.5 0.12

    plus estradiol 112.2 4.3 0.04

    The reactions were performed in the absence or presence of 100 M steroids. Units are as

    follows: Km, M; and Vmax, nmol/nmol CYP/min.

  • 26

    Fig. 1-5 Substrate-Velocity curve (A) and Eadie-Hofstee plots (B) of CBZ 10,11-

    epoxidation by expressed CYP3A4.

    The reaction was performed in the absence or presence of 100 M effectors.

    ○, CBZ only; ●, plus EST; □, plus ALD; ■, plus AND

    V/S

    0

    2

    4

    0 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05

    0

    2

    4

    0 0.01 0.02 0.03 0.04

    0 0.05 0.1 0.150

    2

    4

    6

    8

    10

    12

    0 0.1 0.2 0.30

    2

    4

    3

    1

    5

    5

    3

    1

    1

    3

    5

    0 100 200 3000

    2

    4

    0 100 200 3000

    2

    4

    CBZ ( M)

    0 200 4000

    2

    4

    6

    8

    10

    12

    0 200 4000

    2

    4

    Act

    ivity

    (nm

    ol/n

    mol

    CY

    P/m

    in)

    Act

    ivity

    (nm

    ol/n

    mol

    CY

    P/m

    in)

    Act

    ivity

    (nm

    ol/n

    mol

    CY

    P/m

    in)

    Act

    ivity

    (nm

    ol/n

    mol

    CY

    P/m

    in)

    1

    3

    5

    1

    3

    5

    5

    1

    3

    (A) Substrate-Velocity curve (B) Eadie-Hofstee plot

    Act

    ivity

    (nm

    ol/n

    mol

    CY

    P/m

    in)

    Act

    ivity

    (nm

    ol/n

    mol

    CY

    P/m

    in)

    Act

    ivity

    (nm

    ol/n

    mol

    CY

    P/m

    in)

    Act

    ivity

    (nm

    ol/n

    mol

    CY

    P/m

    in)

  • 27

    Vm

    ax/K

    m

    T

    able

    1-2

    K

    inet

    ic p

    aram

    eter

    s of C

    BZ

    10,

    11-e

    poxi

    datio

    n by

    exp

    ress

    ed C

    YP

    3A4.

    The

    reac

    tions

    wer

    e pe

    rfor

    med

    in th

    e ab

    senc

    e or

    pre

    senc

    e of

    100

    M

    eff

    ecto

    rs.U

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    of c

    onst

    ants

    are

    as f

    ollo

    ws:

    K

    m (a

    ppar

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    , M

    : and

    Vm

    ax, n

    mol

    /nm

    ol C

    YP/

    min

    .

    Vm

    ax 2

    Km

    2

    Km

    1

    Para

    met

    ers

    CB

    Z on

    lyPl

    us A

    LDPl

    us E

    STPl

    us A

    ND

    Km

    Vm

    ax

    - - -

    58.3

    259.

    7

    7.3

    386.

    6

    8.9

    0.02

    3

    2.3

    349.

    0

    8.4

    230.

    3

    6.3

    0.02

    7

    1.1

    220.

    4

    6.2

    132.

    8

    13.0 0.09

    8

    8.6

    118.

    7

    12.9

    Vm

    ax2/

    Km

    20.

    024

    0.02

    80.

    110.

    028

    a:

    Ana

    lyze

    d by

    the

    Mic

    hael

    is-M

    ente

    n eq

    uatio

    n V

    =Vm

    ax/(1

    +(K

    m/S

    ))

    b: A

    naly

    zed

    by th

    e m

    odif

    ied

    two-

    site

    equ

    atio

    n (V

    max

    1=0)

    V=(

    Vm

    ax2

    S2/K

    m1

    Km

    2)/(1

    +S/K

    m1+

    S2

    /Km

    1 K

    m2)

    (Kor

    zekw

    a et

    al.,

    1998

    )

    Equa

    tion

    a a a b b b b

  • 28

    Fig. 1-6 Proposed interaction between NVP and steroids in the active site of a CYP3A4

    model. NVP docked into the active site of CYP3A4 in an orientation conducive to its

    2-hydroxylation. A, Interaction between NVP and aldosterone (ALD); B, Interaction between

    NVP and androstenedione (AND); C, Interaction between NVP and estradiol (EST). The heme

    group is shown in red. NVP is shown in yellow. AND, ALD and EST are shown in blue.

    Phe304 and Ser312 are shown in green.

    B

    Ser 312

    Heme

    NVP

    Phe 304

    AND

    O

    3.68

    3.44

    2.533.53

    2.83

    1.86

    Fe

    Stabilization energy, -0.75 kcal/mol

    C Phe 304

    Ser 312

    Heme

    NVPEST

    O

    2.77

    1.803.42

    2.51

    Fe

    Stabilization energy, 0.11 kcal/mol

    A

    ALD

    Ser 312

    Phe 304

    NVP

    Heme

    2.67 1.693.12

    2.84

    2.74

    1.772.53

    3.57O

    Fe

    Stabilization energy, 5.66 kcal/mol

  • 29

    Fig. 1-7 Proposed interaction between CBZ and steroids in the active site of a

    CYP3A4 model. CBZ docked into the active site of CYP3A4 in an orientation conducive

    to its 10,11-epoxidation. A, Interaction between CBZ and aldosterone (ALD); B,

    Interaction between CBZ and androstenedione (AND); C, Interaction between CBZ and

    estradiol (EST). The heme group is shown in red. CBZ is shown in yellow. AND, ALD and

    EST are shown in blue. Phe304 and Ser312 are shown in green.

    A

    Heme

    CBZ

    Phe 304

    Ser 312ALD

    2.82 1.81

    3.48

    4.09

    1.70

    2.67

    OFe

    Stabilization energy, 2.89 kcal/mol

    C

    Heme

    Phe 304

    Ser 312ESTCBZ

    O3.50

    3.22

    3.21

    2.24

    Fe

    Stabilization energy, 2.68 kcal/mol

    B

    Heme

    Phe 304

    ANDSer 312CBZ

    O

    2.861.85

    3.61

    3.27 1.75

    2.72

    Fe

    Stabilization energy, 6.03 kcal/mol

  • 30

    Fig. 1-8 Proposed interactions between substrates and estradiol. The distances

    between A-ring of estradiol and A-rings of NVP (A) or CBZ (B) were also shown. The

    interaction between estradiol and NVP was based on the model D of Tsuzuki et al. (41).

    The interaction between estradiol and CBZ was based on the model F (41).

    B

    A

    CBZEST

    1

    a

    bc

    d

    ef

    2

    NVP

    EST

    1

    a

    b

    cde f

    NVP-EST distance (Å)

    1-a 3.76 1-b 3.71 1-c 3.80 1-d 4.01 1-e 4.11 1-f 3.94

    CBZ-EST distance (Å)

    1-a 4.38 2-a 4.56 1-b 4.46 2-b 4.20 1-c 4.42 2-c 3.84 1-d 4.23 2-d 3.83 1-e 4.08 2-e 4.16 1-f 4.19 2-f 4.55

  • 31

    Fig. 1-9 Proposed interaction between CBZ and CBZ in the active site of a CYP3A4

    model. CBZ docked into the active site of CYP3A4 in an orientation conducive to its

    10,11-epoxidation. The heme group is shown in red. Phe304 and Ser312 are shown in

    green.

    Heme

    CBZCBZ

    Phe 304

    Ser 1801.99 2.95

    2.88

    1.95

    3.23

    3.37 3.11

    3.14

    Fe

    O

    Stabilization energy, 12.6 kcal/mol

  • 32

    Ⅰ-2-2 発現 CYP3A4によるトリアゾラム水酸化酵素活性

    Ⅰ-2-2-a トリアゾラム(TZM)水酸化酵素活性と反応速度論的解析

    発現 CYP3A4における TZM 位および 4位水酸化酵素活性を測定し、その速度

    論パラメータをMichalis-Menten式を用いて非線形最小二乗法により算出した。(Fig.

    1-10)

    Fig. 1-10 Bの Eadie-Hofstee plotに示すように、 位、4位ともに TZM水酸化の

    反応はMichalis-Menten型であることが示された。TZM濃度 60 M以下においては

    位水酸化体、4位水酸化体の生成量に差が見られなかったが、60 M以上の TZM

    濃度においては、4位水酸化体が多く生成することがわかった。

    速度論パラメータについては、Km、Vmax どちらも 4 位水酸化反応の方が高い値

    を示した(Table 1-3)。すなわち、4位水酸化の方が反応速度は速いが、親和性に関

    しては低いという結果になった。Vmax/Kmに関しては 位水酸化反応の方が高い

    値を示した。

    Ⅰ-2-2-b 分子力場計算と密度汎関数理論を用いた解析

    1) トリアゾラム 位水酸化における解析

    発現 CYP3A4による TZM 位および 4位水酸化酵素活性の相違を明らかにする

    ために、CYP3A4 の X 線結晶構造(PDB コード 1TQN)を用いて、基質結合部位

    周辺の空間(活性部位)中に TZMを配置させ、 位および 4位水酸化反応を分子

    力場計算と密度汎関数法によって解析した。

    Fig. 1-11 Aは CYP3A4活性部位内に TZMを 1個配置させ、 位水酸化反応を分

    子力場計算によって解析した場合の図である。TZM のベンゼン環(Fig. 1-1 C At

    環)と CYP3A4のアミノ酸残基である 304位 Pheとが - 相互作用を起こし、ヘ

    ムに結合している酸素原子と距離を一定に保ちながら水酸化を受けることが示唆

    された。また、CYP3A4の活性部位は非常に大きいことから、同時に 2個以上の基

    質分子が存在することが可能と考えられている(29、30、42)。そこで、CYP3A4

    活性部位の中に TZMが 2個同時に存在したと仮定して起こりうる相互作用につい

    て分子力場計算によって解析した。その結果、Fig. 1-11 Bに示すように、2分子の

  • 33

    TZMの間に 2つの - 相互作用と 1つの CH- 相互作用が起こることで、ダイ

    マーとなることが示唆された。すなわち、Fig. 1-11 Bにおける TZM-1の Dt環と、

    TZM-2 の At 環および Dt 環との間でそれぞれ - 相互作用を形成し、TZM-1 の

    Ct環と TZM-2のメチル基との間で CH- 相互作用を形成する。さらにそのダイマ

    ーは CYP3A4の 312位 Serの水酸基との水素結合や、304位 Pheのベンゼン環との

    間の弱い相互作用によって保持されるが、ヘムに結合している酸素原子と TZMの

    被水酸化部位との距離は 5.388 Åでありモノマーで存在する場合の 3.137 Åよりも

    高値を示した。このことが高基質濃度下においては代謝されにくくなる要因と考え

    られた。

    2) トリアゾラム 4位水酸化における解析

    位と同様、TZM の 4 位が水酸化を受ける場合についても分子力場計算により

    解析した。CYP3A4活性部位の中に TZMがモノマーで存在すると、Fig. 1-11 Cに

    示すように、304位 Pheのベンゼン環と TZMのベンゼン環(At環)とが - 相

    互作用を起こし、ヘムに結合している酸素原子と距離を一定に保ちながら水酸化を

    受けることが示唆された。ヘムに結合している酸素原子と被水酸化部位との距離は、

    4位が 3.630 Å(Fig. 1-11 C)、 位が 3.137 Å(Fig. 1-11 A)とほぼ同様であったこ

    とから、TZM 低濃度条件下では両活性が同等であることが推察された。また、活

    性部位の中に 2分子の TZMが同時に存在したとき、Fig. 1-11 Dに示すように、TZM

    間に 2つの - 相互作用(TZM-1の At環および Dt環と TZM-2の Dt環)と 1つ

    の CH- 相互作用(TZM-1のメチル基と TZM-2の Ct環)を起こして安定なダイ

    マーを形成することが示唆された。さらにそのダイマーは CYP3A4 の 312 位 Ser

    の水酸基との水素結合や、304位 Pheのベンゼン環との - 相互作用によって保

    持が強まり、ヘムに結合している酸素と被水酸化部位との相互作用が保たれやすく

    なるために 4位水酸化を受けやすくなることが推察された。しかし、ダイマー形成

    時、ヘムに結合している酸素原子と被水酸化部位との距離は 3.628 Åであり、モノ

    マーで存在した場合の 3.630 Åと比べて変化は見られなかった。そこで、TZMがモ

    ノマーで存在する場合とダイマーで存在する場合のどちらがより安定か、密度汎関

    数法によりポテンシャルエネルギー値と安定化エネルギー値とを算出し、比較する

  • 34

    こととした。

    3) 2分子のトリアゾラム間における相互作用の解析

    Table 1-4 には TZMの 位、4位それぞれの反応生成物である水酸化体、反応中

    間体とされるラジカル体、そして TZM-TZM相互作用において形成されたダイマー

    の安定化エネルギーを密度汎関数法によって求めた結果を示した。4 位水酸化体、

    ラジカル体のエネルギーは 位のそれぞれのポテンシャルエネルギーを 0 とした

    ときの差で表している。またダイマーの安定化エネルギーは活性部位内において、

    基質同士が相互作用していない状態と相互作用している状態のポテンシャルエネ

    ルギーの差を示している。水酸化体、ラジカル体、ダイマーすべてにおいて 4位の

    方が安定であり、さらに 位に関してはダイマーの安定化エネルギーが負の値を

    示したことから、モノマーの状態よりもわずかながら不安定であるという結果にな

    った。以上の解析結果から、TZM 高濃度条件下においては、 位水酸化よりも 4

    位水酸化の方がより起こりやすいことが示唆された。

    Ⅰ-2-3-a 発現 CYP3A4によるトリアゾラム水酸化酵素活性に及ぼす内因性ステロ

    イドの影響

    Fig. 1-12に、発現 CYP3A4を用い、100 Mの 14種類の内因性ステロイド添加に

    よる TZM 位および 4位水酸化酵素活性の変化を示した。内因性ステロイド無添

    加時のコントロール活性は、 位が 11.3 nmol/nmol CYP/min、4位が 14.0 nmol/nmol

    CYP/minであった。 位水酸化については、ほとんどのステロイドにおいて活性が

    阻害され、その割合は 4位よりも大きく、特に著しいものとしてはプロゲステロン、

    DHEA、エストラジオール(EST)で、それぞれコントロール活性の 16%、25%、

    28%の活性値を示した。一方、4位についても同様にほとんどのステロイドにおい

    て活性が阻害され、著しいものとして、プロゲステロン、ESTが挙げられ、それぞ

    れコントロール活性の 43%、44%の活性値となった。

    発現 CYP3A4において TZMの 位、4位ともに水酸化酵素活性に強い阻害を示

    した ESTと、 位水酸化酵素活性を強く阻害した DHEA、 位、4位ともに水酸化

    酵素活性に大きな変化の見られなかったアルドステロン(ALD)の 3種類の内因性

  • 35

    ステロイドに関して、その濃度と活性変化の関係について検討を行った。 Fig. 1-13

    に示したように、200 Lの ALD添加により、 位、4位水酸化酵素活性は、コン

    トロール活性のそれぞれ 15%、31%に減少したが、IC50値を算出すると、それぞれ

    1000 M以上、442.2 Mであったことから、強い阻害ではないことが示唆された。

    一方、EST、DHEAは、濃度依存的に両活性を阻害し、その IC50値は、 位水酸化

    に対してはそれぞれ 26.1 M、31.1 M、4位水酸化に対しては、87.8 M、175.8 M

    であることが示された。

    Ⅰ-2-3-b 反応速度論的解析

    TZM 水酸化酵素活性を変化させたステロイドの影響を明らかにするために、

    ALD、EST、DHEA存在下における TZM 水酸化酵素活性の速度論パラメータの変

    化を解析した。

    Fig. 1-14の Eadie-Hofstee plotに示すように、 位、4位ともに TZM水酸化の反応

    速度曲線はステロイドの添加によらず、いずれも Michalis-Menten モデル曲線を描

    いた。Michalis-Menten 式を用いた非線形最小二乗法により求めた速度論的パラメ

    ータを Table 1-3に示した。ALDの添加により、Km、Vmax値はほとんど変化しな

    かったが、ESTの添加は、Km値の増加と Vmax値の減少を引き起こした。 位、4

    位水酸化体の Km 値は EST の添加により、それぞれ 256%、125%に増加した。一

    方、Vmax 値は、 位、4 位それぞれ 40%、45%に減少し、 位、4 位水酸化体の

    Vmax/Km値は、コントロール値の 13%、37%に減少した。一方、DHEAの添加は、

    位水酸化の Km 値を 446%に増加させたが、4 位水酸化の Km 値はほとんど変化

    させなかった。また、Vmaxについては 位、4位ともに低下を示し、コントロー

    ル値の 51%、56%に減少させた。その結果、 位、4位水酸化体の Vmax/Km値は、

    DHEAの添加によりそれぞれコントロール値の 10%、58%に減少した。DHEAの

    位水酸化体に対する IC50値は、4位水酸化体に対する IC50値よりも小さかったこと

    も考えあわせると、DHEAは 4位水酸化よりも 位水酸化に対して阻害を示しやす

    いことが推察された。

    Ⅰ-2-1-c 分子力場計算と密度汎関数理論を用いた解析

  • 36

    1) トリアゾラム水酸化酵素活性に及ぼすアルドステロンの影響

    TZM水酸化酵素活性におよぼす ALDの影響を明らかにするため、CYP3A4活性

    ポケット中に TZM と ALD が同時に存在していたと仮定した場合の分子間相互作

    用について分子力場計算を用いて解析を行った。活性部位内に TZM と ALD が同

    時に存在すると、 位が水酸化を受ける場合(Fig. 1-15 A)においても、4位が水

    酸化を受ける場合(Fig. 1-15 B)においても、ALDの水酸基と CYP3A4のアミノ酸

    残基である Ser 315位の水酸基との間に水素結合を起こし、ALDは CYP3A4により

    保持されることがわかった。また ALD の水酸基が TZM の 位水酸化反応の場合

    は 7員環(Fig. 1-1 Bt環)中の、4位水酸化反応の場合は 5員環(Fig. 1-1 Ct環)中

    の窒素原子と水素結合を起こすことで、TZMは ALDによって保持されるが、被水

    酸化部位とヘムに結合する酸素原子との距離は ALD非存在時( 位:3.137 Å、4

    位:3.630 Å)に比べて、ALD存在時( 位:3.381 Å、4位:3.913 Å)では、さほ

    ど変わらないために活性にも変化を生じないことが示された。また活性部位内にお

    いて TZM と ALD が相互作用していない状態と相互作用している状態のポテンシ

    ャルエネルギーの差を密度汎関数理論によって算出した結果、安定化エネルギーは

    位水酸化反応では 7.88 kcal/mol、4位水酸化反応においては、11.51 kcal/molとど

    ちらも安定な相互作用であることが示された(Table 1-5)。

    2) トリアゾラム水酸化酵素活性に及ぼすエストラジオールの影響

    ALDと同様、CYP3A4の活性部位内における TZMと ESTの相互作用を分子力場

    計算によって解析した。 位が水酸化を受ける場合(Fig. 1-15 C)においても、4

    位が水酸化を受ける場合(Fig. 1-15 D)においても、活性部位に TZMと ESTが同

    時に存在すると、ESTの酸素原子と CYP3A4の Ser 312位の水酸基とが水素結合を

    起こし、EST は CYP3A4 の活性部位内に保持されることがわかった。また、EST

    のもつ別の水酸基と TZMの 5員環(Fig. 1-1 Ct環)中にある窒素原子との間に水

    素結合が、そして、その 5 員環と EST のベンゼン環との間に - 相互作用が起

    こり、これらによって TZMが ESTによって強く保持されるために被水酸化部位と

    ヘムに結合する酸素原子との距離は EST非存在時( 位:3.137 Å、4位:3.630 Å)

    に比べて、EST存在時( 位:5.698 Å、4位:4.437 Å)では大きく遠ざかったた

  • 37

    めに水酸化酵素活性の低下が生じたものと考えられた。その活性変化は特に 位

    の場合で著しかった結果と矛盾しなかった。また、安定化エネルギーは 位水酸

    化反応では 4.52 kcal/mol、4位水酸化反応においては、3.75 kcal/molとどちらも安

    定な相互作用であることが示された(Table 1-5)。

    3) トリアゾラム水酸化酵素活性に及ぼす DHEAの影響

    CYP3A4の活性部位内に TZMとDHEAが同時に存在していたと仮定した場合の

    分子間相互作用を分子力場計算によって解析した。 位が水酸化を受ける場合

    (Fig. 1-15 E)においても、4位が水酸化を受ける場合(Fig. 1-15 F)においても

    DHEA の酸素原子と CYP3A4 の Ser 315 位の水酸基との間に水素結合が起こり、

    DHEA は CYP3A4 の活性部位内に保持されることがわかった。また、DHEA のも

    つ別の水酸基と TZMの 5員環(Fig. 1-1 Ct環)中にある窒素原子とが水素結合を

    起こし、それによって TZMは DHEAによって強く保持されるために、被水酸化部

    位とヘムに結合する酸素原子との距離が DHEA非存在時( 位:3.137 Å、4位:

    3.630 Å)に比べて、DHEA存在時( 位:5.690 Å、4位:4.145 Å)では大きく遠

    ざかることが示された。その結果、水酸化酵素活性が低下したものと考えられた。

    また、安定化エネルギーは 位水酸化反応では 5.40 kcal/mol、4 位水酸化反応に

    おいては、5.58 kcal/mol とどちらも安定な相互作用であることが示された(Table

    1-5)。

  • 38

    Fig. 1-10 Substrate–velocity curves (A) and Eadie–Hofstee plots (B) of - and

    4-hydroxylation of triazolam formation by expressed CYP3A4. Open and closed circles

    show - and 4-hydroxytriazolam formation, respectively. Each value represents the mean

    of duplicate determinations.

    Activ

    ity (n

    mol

    / nm

    ol C

    YP/ m

    in)

    S ( M)

    0

    10

    20

    30

    0 100 200 300 400

    A

    V / S

    Activ

    ity (n

    mol

    / nm

    ol C

    YP/ m

    in)

    0

    10

    20

    30

    0 0.05 0.1 0.15 0.2 0.25 0.3 0.35

    B

  • 39

    Table 1-3 Effect of steroids on kinetic parameters of triazolam - and

    4-hydroxylation by expressed CYP3A4.

    Metabolite Km

    ( M)

    Vmax

    (nmol/nmol CYP/min)

    Vmax/Km

    (mL/nmol CYP/min)

    TZM only -hydroxy TZM 59.36 17.79 0.30

    4-hydroxy TZM 288.77 55.60 0.19

    TZM + aldosterone -hydroxy TZM 54.31 17.37 0.32

    4-hydroxy TZM 280.95 54.11 0.19

    TZM + estradiol -hydroxy TZM 152.06 7.06 0.04

    4-hydroxy TZM 361.96 25.29 0.07

    TZM + DHEA -hydroxy TZM 264.56 9.11 0.03

    4-hydroxy TZM 293.87 31.34 0.11

    Triazolam concentrations were 5 to 300 M. The reaction was carried out in the absence or

    presence of 100 M steroids. Values are mean of two experiments.

  • 40

    Fig. 1-11 Proposed interaction between two triazolam molecules in the active site of

    CYP3A4. Triazolam is docked into the active site of CYP3A4 in an orientation conducive

    to - (A and B) or 4-hydroxytriazolam formation (C and D). The heme group is shown in

    red. One triazolam is shown in pink (TZM-1) and the other in blue (TZM-2). Phe304 and

    Ser312 of CYP3A4 are shown in green.

    B

    A

    Heme

    Phe304

    TZM

    3.1373.692

    2.612

    2.730

    / interaction

    C

    Heme

    Phe304

    TZM

    3.630

    3.9092.711

    / interaction

    Heme

    Phe304

    Ser312

    TZM1

    TZM2

    5.388

    4.8255.227

    5.353

    / interaction

    CH/ interaction

    weak interaction

    2.062

    2.982

    Phe304

    D

    Heme

    Ser312TZM2

    TZM13.628

    4.1842.744

    1.968

    2.874/ interaction CH/

    interaction

  • 41

    Table 1-4 Potential and stabilization energy of triazolam - and 4-hydroxylation by

    expressed CYP3A4.

    Potential energy a)

    (kcal/mol)

    Stabilization energy d)

    (kcal/mol)

    hydroxy TZM radical TZMb) dimer TZM c) dimer TZM c)

    -hydroxy TZM 0.00 0.00 0.00 -1.21

    4-hydroxy TZM -4.16 -9.60 -5.56 0.09

    a) Relative values to potential energy of -hydroxytriazolam ( -hydroxy TZM).

    b) Radical intermediate which would appear in the process of triazolam - and

    4-hydroxylation by CYP3A4.

    c) See Figure 1-11 B and 1-11 D.

    d) Calculation of stabilization energy is described in Materials and Methods.

  • 42

    Fig. 1-12 Effects of endogenous steroids on activity of triazolam hydroxylation by

    expressed CYP3A4 supersomes, which is co-expressed with human

    NADPH-cytochrome P450 reductase and cytochrome b5 as described in the Materials

    and Methods. The concentrations of substrates and endogenous steroids used in this

    experiment were 100 M. Open columns show -hydroxytriazolam formation and hatched

    columns show 4-hydroxytriazolam formation. Control activities of - and

    4-hydroxytriazolam formation were 11.3 and 14.0 nmol/nmol CYP/min, respectively.

    Control experiments involved the addition of organic solvent only, without endogenous

    steroid, at a total concentration of 1% methanol (v/v). Each value represents the mean of

    duplicate determinations.

    0

    25

    50

    75

    100

    cont

    rol

    preg

    neno

    lone

    prog

    neno

    lone

    -S

    aldo

    ster

    one

    17O

    H-p

    regn

    enol

    one

    17O

    H-p

    regn

    enol

    one-

    S17

    OH

    -pro

    gest

    eron

    eco

    rtiso

    lD

    HEA

    DH

    EA-S

    andr

    oste

    nedi

    one

    test

    oste

    rone

    estro

    nees

    tradi

    ol

    Perc

    ent o

    f con

    trol a

    ctiv

    ity (%

    )

    prog

    este

    rone

  • 43

    Fig. 1-13 Concentration-dependence of effects of aldosterone, estradiol, and DHEA

    on triazolam hydroxylation by expressed CYP3A4. A, -hydroxytriazolam formation; B,

    4-hydroxytriazolam formation. The concentration of substrates was 100 M. Aldosterone

    (□), estradiol (△) and DHEA (●) were added at concentrations of 0, 20, 50, 100, 200 M,

    as shown. Activities of - and 4-hydroxytriazolam formation without steroids (100%) were

    11.3 and 14.0 nmol/nmol CYP/min, respectively. Control experiments involved the

    addition of only organic solvent, without endogenous steroid, and at total concentration of

    1% methanol (v/v). Each value represents the mean of duplicate determinations.

    Per

    cent

    of c

    ontro

    l act

    ivity (%

    )

    A

    Concentration of steroids ( M)

    0

    25

    50

    75

    100

    125

    0 50 100 150 200 250

    Per

    cent

    of c

    ontro

    l act

    ivity (%

    ) B

    Concentration of steroids ( M)

    0

    25

    50

    75

    100

    125

    0 50 100 150 200 250

  • 44

    0

    10

    20

    30

    0 100 200 300

    S ( M)

    Act

    ivity

    (nm

    ol/n

    mol

    CY

    P/m

    in)

    0

    10

    20

    30

    0 100 200 300

    S ( M)

    Act

    ivity

    (nm

    ol/n

    mol

    CY

    P/m

    in)

    A B

    0

    10

    20

    30

    0 0.1 0.2 0.3

    V/S

    Act

    ivity

    (nm

    ol/n

    mol

    CY

    P/m

    in)

    0

    10

    20

    30

    0 0.1 0.2 0.3

    Act

    ivity

    (nm

    ol/n

    mol

    CY

    P/m

    in)

    V/S

    C D

    Fig. 1-14 Effects of aldosterone, DHEA, and estradiol on substrate–velocity curves

    and Eadie–Hofstee plots of triazolam hydroxylation expressed by CYP3A4. Each

    value represents the mean of duplicate determinations. A, Effects of three steroids on

    substrate–velocity curves of -hydroxytriazolam formation. B, Effects of three steroids on

    Eadie–Hofstee plots of A. C, Effects of three steroids on substrate–velocity curves of

    -hydroxytriazolam formation. D, Effects of three steroids on Eadie–Hofstee plots of C.

    The reactions were performed in the presence or absence of 100 M steroids. (○), control;

    (■), aldosterone added; (△), estradiol added; (●), DHEA added. Each value represents

    the mean of duplicate determinations.

  • 45

    Fig. 1-15 Proposed interactions between triazolam and steroids in the active site of

    CYP3A4. Triazolam was docked into the active site of CYP3A4 in an orientation

    conducive to its - (A, C, E) or 4-hydroxylation (B, D, F). A and B, Interactions between

    triazolam and aldosterone (ALD); C and D, interactions between triazolam and estradiol

    (EST); E and F, interactions between triazolam and DHEA. The heme group is shown in

    red. Triazolam is shown in blue. ALD, EST, and DHEA are shown in pink. Phe304, Ser312

    and Ser315 of CYP3A4 are shown in green.

    A

    2.816

    1.697

    2.673

    3.381

    ALD

    Ser315Phe304

    1.851

    Heme

    TZM

    4.076 3.293

    B

    Ser315

    ALDPhe304

    Heme

    TZM 1.8812.826 2.685

    1.745

    3.242 3.5863.913

    Phe304

    HemeTZM

    2.8982.004

    1.767

    2.707

    5.698

    5.5225.433

    5.340

    ESTSer312

    C

    DHEA

    Ser315

    Phe304

    Heme

    TZM

    5.3905.606

    5.2795.690

    2.902

    1.9921.748

    2.711

    EDHEA

    Ser315

    Phe304

    Heme

    TZM 1.7952.742

    2.079

    2.955

    4.1453.977 3.445

    F

    Ser312

    ESTPhe304

    Heme

    TZM2.999

    2.741

    1.780

    4.0565.409

    4.437π/πinteraction

    D

    2.028

    π/πinteraction

  • 46

    Table 1-5 Comparison of distances between ferryl oxygen and the oxidation site,

    relevant angles and stabilization energy of the substrate-effector interaction.

    Distance

    (Å)

    Angle

    (degree)

    Stabilization energy

    (kcal/mol)

    -hydroxy TZM TZM only 3.137 139.1 -

    TZM + TZM 5.388 153.9 -1.21

    TZM + ALD 3.381 124.7 7.88

    TZM + EST 5.698 157.2 4.52

    TZM + DHEA 5.690 158.5 5.40

    4-hydroxy TZM TZM only 3.630 130.0 -

    TZM + TZM 3.628 124.2 0.09

    TZM + ALD 3.913 129.6 11.51

    TZM + EST 4.437 153.6 3.75

    TZM + DHEA 4.145 157.4 5.58

    a) The distances between ferryl oxygen and the oxidative site of carbone in triazolam were

    illustrated in Fig. 1-11 and Fig. 1-15.

    b) The relevant angles indicate the degree of Fe-O-C of oxidative site.

    c) Calculation of stabilization energy is described in Materials and Methods.

  • 47

    第3節 考察

    本章では、まず初めに、発現 CYP3A4による NVP 2位水酸化、CBZエポキシ化

    酵素活性に及ぼす各種内因性ステロイド添加の影響について検討を行った。その結

    果、いくつかの内因性ステロイドにより NVP 2位水酸化、CBZエポキシ化が活性

    化あるいは阻害されることが明らかとなった。当研究室におけるこれまでの検討か

    ら、ヒト肝ミクロゾームを用いた場合にも同様なステロイドによる活性上昇を見い

    出している(36)。その活性上昇の割合は発現 CYP3A4を用いた時の方がやや小さ

    かったが、単一の酵素系で起こる現象であることが明らかになった。

    特に NVP 2位水酸化酵素活性を顕著に上昇させた ALD、CBZエポキシ化酵素活

    性を上昇させた AND、NVP 2位水酸化酵素活性を減少させた ESTについてさらに

    詳細に検討を行った。Fig. 1-5、Table. 1-2に示したように、CBZエポキシ化の反応

    速度論的解析において、Km1は AND、ALD、ESTの添加により著しく低下し、Km2

    は AND添加時に低下した。AND、ALD、EST添加時の解析はMichaelis-Menten式

    でも可能で、そのときのパラメータは、Table. 1-2の aに示してある。AND、ALD、

    EST添加時には、b式による Km2、Vmax2値と a式による Km、Vmaxの値とが近

    くなり、これらの結果は、AND、ALD、ESTの存在下での CBZの反応速度論的解

    析において site-1の存在を無視できることを示唆している。この結果は、当研究室

    においてヒト肝ミクロゾームを用いた検討結果とも一致する。すなわち、AND、

    ALD、ESTの site-1への affinityは CBZと比べて非常に高いため、CBZと AND、

    ALD、ESTが共存すると site-1はこれらのステロイドで占有され CBZは site-1に結

    合しにくくなる、と考えられる。ANDの存在で CBZの site-2への affinityは大幅に

    上昇し、それゆえ CBZエポキシ化酵素活性が上昇し、かつ、site-1が ANDにより

    占有されるため CBZのシグモイド様曲線が解消されたと考えられる。同様に、ALD、

    ESTの添加時、これらのステロイドが site-1を占有することにより、CBZは site-1

    に結合しにくくなり、CBZのシグモイド様曲線が解消される。しかし、CBZの site-2

    への affinity は大きく変化していないので、代謝活性の変化は見られないものと考

    えられる。しかし、この様なこれまでに提案されている two binding site理論のみで

    は、なぜ ANDは CBZの site-2への親和性の上昇を引き起こすのに、ALD、ESTは

  • 48

    変化させないのか、なぜ CBZ の反応速度曲線がシグモイド様曲線を示すのかにつ

    いては十分に説明ができない。また、今回速度論パラメータの算出に用いたような

    モデルでは、Vmax1 = 0と仮定するなど、速度論解析の段階でいくつかの仮定が必

    要となってくる。このため、このようなモデルのみを用いて、酵素活性変化を説明

    することには、限界があると考えられた。

    これらの問題を解決するために、基質とステロイドが CYP3A4 の活性ポケット

    内に同時に存在したと仮定し、そこで起こり得る分子間の相互作用について分子力

    場計算と密度汎関数理論を用いて検討した。その結果、Fig. 1-7に示したように、

    ANDと CBZとの間に水素結合が生じることでこれらが安定に保持され、CBZエポ

    キシ化の触媒効率が上昇することが示唆された。一方、EST については、CBZ と

    の相互作用は弱く、酵素活性に影響を及ぼさないことが推察された。また、ALD

    は D 環の側鎖が長いため、CBZ の非エポキシ部位とヘムに結合している酸素原子

    との相互作用がやや弱くなると考えられた。Fig. 1-7より、安定化エネルギーは、

    AND添加時に ALD、EST添加時と比較して高くなることが示された。以上のこと

    から、CYP3A4活性部位内では、基質とエフェクターが直接相互作用し、活性を変

    化させている可能性が強く示唆された。

    次に、CBZと CBZの相互作用について分子力場計算と密度汎関数理論を用いて

    検討した結果、Fig. 1-9に示すように、CBZのカルボン酸アミド同士が水素結合す

    ることで安定化し、その際の安定化エネルギーは 12.6 kcal/molであった。このこと

    から、CBZ は低基質濃度下においては、活性ポケット内で相互作用する頻度が低

    く、高基質濃度になると、CBZ 同士が水素結合することでダイマーとなる確率が

    増加し、被エポキシ部位が安定に保持され代謝されやすくなることが示された。こ

    のように、CBZの反応速度曲線がシグモイド様曲線となったことも、CYP3A4活性

    部位内での基質同士の相互作用で説明できることが示された。

    発現CYP3A4によるTZM水酸化反応の反応速度論解析を行ったところ、Fig. 1-10

    にも示したように、 位、4位ともに TZM水酸化反応はMichalis-Menten曲線を描

    いた。また、水酸化酵素活性については TZM濃度 60 M以下までは 位、4位

    ともに同程度の値を示したが、TZM 60 M以上になると、4位水酸化体の方に多く

    代謝されることがわかった。この相違を明らかにするため、分子力場計算および密

  • 49

    度汎関数理論による量子化学計算により TZM水酸化反応を解析することにした。

    CYP3A4の活性部位内に TZMが 1個で存在していたときの水酸化反応を解析す

    ると、 位の場合を Fig. 1-11 Aに、4位の場合を Fig. 1-11 Cに示したが、どちらが

    水酸化される場合も CYP3A4のアミノ酸残基との相互作用により TZMが保持され、

    ヘムに結合している酸素原子との距離を一定に保ちながら水酸化を受けることが

    示唆された。その距離は 位と 4位でほぼ同様であった。

    一般的に CYPによる 1酸素原子添加反応機構は、フリーラジカルの性質を有し

    ているヘムの第 6 配位座に結合する酸素原子が基質の炭化水素から水素原子を引

    き抜く段階と、その結果できた基質ラジカルと水素を結合させた酸素原子が再結合

    して基質の水酸化体を生成するという 2段階反応であることが示されている(43)。

    そこで、TZM 位、4位水酸化反応の、反応中間体である基質ラジカルのポテンシ

    ャルエネルギーと反応生成体である水酸化体のポテンシャルエネルギーを密度汎

    関数理論によって算出した。Table 1-4 に示したように、水酸化体、ラジカル体と

    もに 位の方が低いエネルギーを示した。これは被水酸化部位である TZMの 4位

    が、 電子をもつ 2つの原子に挟まれていることに起因すると考えられる。したが

    って、水酸化反応は 4 位水酸化の方が 位水酸化よりも早く進むと考えられた。

    以上より、CYP3A4 活性部位内に TZM がモノマーで存在している場合、Km 値が

    低いのは 位の方であったが、水酸化体、ラジカル体ともに 4位の方が安定であ

    ったために、低基質濃度下において 位水酸化、4 位水酸化が同程度の活性を示

    したと考えられる。

    次に CYP3A4活性部位内に TZMが 2分子同時に存在していたと仮定したときの

    分子間相互作用について分子力場計算による解析を行った。 位の場合を Fig. 1-11

    Bに、4位の場合を Fig. 1-11 Dに示したが、 位、4位どちらが水酸化を受ける場

    合にも基質間に 2つの - 相互作用と1つのCH- 相互作用を起こしてダイマー

    を形成することが示唆された。しかし、そのダイマーと CYP3A4 のアミノ酸残基

    である Phe 304や Ser 312との相互作用は 4位の方が強く、ヘムに結合している酸

    素原子と被水酸化部位との距離は 4位の方が小さかった。また、Table 1-4に示した

    ようにダイマーの安定化エネルギーも 4位の方が安定であり、一方で 位が水酸

    化を受ける場合に形成されるダイマーの安定化エネルギーはモノマーに比べてわ

  • 50

    ずかに不安定であるという結果を得た。これは - 相互作用や、CH- 相互作用

    による安定化エネルギーをダイマー形成による立体反発エネルギーが上回ってし

    まうためであると考えられる。以上より、高基質濃度下においては TZMが安定な

    ダイマーを形成するが、ダイマーと CYP3A4 の相互作用は 4 位水酸化の方が有利

    であるために活性に差が生じたと考えられた。

    今回の研究に用いた内因性ステロイドの殆どが、TZM 水酸化酵素活性を阻害す

    ることが明らかとなった。その中でも活性に対してあまり変化の見られなかった

    ALDと、 位、4位どちらの水酸化酵素活性にも強い阻害を示した ESTと、 位

    水酸化酵素活性に対して強い阻害を示した DHEA に着目して、さらに詳細な検討

    を行った。ALDに関して CYP3A4 活性部位内における相互作用を、分子力場計算

    を用いて解析したところ、TZM の 位、4 位どちらが水酸化を受ける場合にも

    ALDはCYP3A4のアミノ酸残基であるSer 315との水素結合を起こすことによって

    保持され、TZMは ALDとの水素結合によって安定に保持されることで、被水酸化

    部位とヘムに結合している酸素との距離を一定に保ちながら水酸化を受けること

    が示唆された(Fig. 1-15 A、B)。しかし、その距離は ALD非存在時と比べて変わ

    らなかったために、活性にも変化が生じなかったと考えられた。

    TZM 位、4位水酸化酵素の両活性に対して強い阻害を示した ESTに関しては、

    Fig. 1-15 C、Dに示したように、ESTは CYP3A4の Ser 312との水素結合により保

    持され、さらに、TZMは 位、4位どちらが水酸化を受ける場合にも ESTとの間

    において水素結合や - 相互作用により安定に保持されていた。その結果、ヘム

    に結合している酸素原子と被水酸化部位との距離は EST 非存在時に比べて大きく

    遠ざかり、代謝触媒効率が減少したと示唆された。では、Kmについてはなぜ、 位

    水酸化の場合のみに著しい上昇がみられたのだろうか。おそらく、ステロイド非添

    加状態での TZM 水酸化反応は 位が水酸化を受ける場合においては活性部位内

    におけるモノマーの状態を反映していて、EST添加により ESTと TZMの間に安定

    な相互作用が起き、1つの複合体になったことでかさ高くなったことが原因の 1つ

    に考えられる。また、ヘムのポルフィリン環と基質であるステロイドの芳香環との

    間に相互作用( - 相互作用)が起こるという報告があり(44)、今回の結果に関

    しても同様に、ポルフィリン環と TZMの塩素を含むベンゼン環との間に - 相

  • 51

    互作用が起きてヘムとの距離を遠ざけたという可能性が示唆され、このことも EST

    添加時において 位が水酸化される場合に Kmが上昇した原因の一つであると考

    えられる。

    DHEAは TZM