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DNRについて考える
慈恵ICU勉強会
2017年3月14日亀田慎也
今回はあくまでDNR(DNAR)の話
*終末期の話は他の勉強会を参照ください
DNRDNAR終末期医療 ここ
参考図書
蘇生不要指示のゆくえ ―医療者のためのDNARの倫理
箕岡 真子
2014年
参考図書
INTENSIVISTVol.4No.12012特集:End-of-life
藤谷茂樹、讃井將満、林淑朗、内野滋彦
参考図書
Hospitalist Vol.2No.42014特集:緩和ケア
関根龍一、八重樫牧人
いきなりですが症例です
• 80代 男性
• 膀胱癌末期→推定予後1-2ヶ月
• 肺炎で一般病床に入院
本人・家族に状況を説明しDNR(DNAR)を取得し主治医はカルテにその旨を記載
入院中に想定外の吐血でショックバイタルになった
DNR(DNAR)
正しいのは誰?
• 主治医「輸血して昇圧剤を使え!ICUにも連絡して入室依頼をしろ!家族には連絡しておくから!」
• 研修医「DNR(DNAR)なのに輸血するんですか?DNR(DNAR)なのにICU入室なんて・・・」
• 若手看護師「先生!この患者さんはDNR(DNAR)ですよ!!そもそもDNR(DNAR)なんだから抗菌薬での治療すらいらないんじゃないかな・・・」
どこまでがDNR(DNAR)なのか?
皆さんは自信を持って説明出来ますか?
挿管・MV CPR
昇圧剤
抗生剤
経管栄養
鎮痛・鎮静透析
検査
ICU入室 補助循環装置
昨年2016年は
DNR
祝 40周年!
NEnglJMed.2016Aug11;375(6):504-6.
TheDNROrderafter40YearsJeffreyP.Burns,M.D.,M.P.H.,andRobertD.Truog,M.D.
• DNRという言葉が誕生してから40年経過してDNRは死にゆく
患者に対する儀式のようなものとなり終末期になされる様々な決定の中の1つでしかなくなった
• 心停止は 後のイベントでありそれまでの経過がより重要であり心停止時の決め事が 重要というわけではない
• CPRが一般市民に広く普及・認知されており近年はECPRまで登場しているが患者側の希望があれば施行するのか?
• 症例によっては無益であり苦痛を与えているだけかもしれないCPRを今後どのような時に行うのか?行いたいのか?
NEnglJMed.2016Aug11;375(6):504-6.
DNR(DNAR)という言葉だけが勝手に一人歩きしてしまっている
治療しないとは医師による意図的な殺人だ!
マスコミ医療者A
高齢者だからとりあえず・・・
医療者B
全ての治療がいらないってことだよ・・ね?!
DNR(DNAR)について改めて考える
DNR(DNAR)の概念
• 患者本人の自己決定権に基礎を置いた
「CPRを実施しないという事前指示」
• 疾病の末期に救命の可能性のない患者に対して
• 本人または家族の要望によって医師がカルテに指示を出す
• 基本的には胸骨圧迫による心臓マッサージに加えて
• マスク換気
• 除細動
• 蘇生のための薬物
が含まれる箕岡真子 蘇生不要指示のゆくえ 医療者のためのDNARの倫理
尊厳を保ちながら死にゆく権利を守るために「心停止時にCPRを行わないように」という指示
日本集中治療医学会 DNARの考え方
DNR(DNAR)の概念
• 生命倫理の4原則に従う
自律尊重原則 autonomy:自己決定の尊重
善行原則 beneficence:患者の目標に照らし、善をもたらせ
無危害原則 non-maleficence:do not harm,avoidharm公正・正義原則 justice:全ての人を公平に扱え
• CPR以外の全ての医療を遅滞なく速やかに実施すべき
• 「ICU入室を含めて栄養、輸液、酸素、鎮静・鎮痛薬、抗不整脈薬、昇圧薬など」DNR(DNAR)指示により自動的にこれらの
不開始、差し控え、中止をすべきではないDo not treatではない
箕岡真子 蘇生不要指示のゆくえ 医療者のためのDNARの倫理
Guidelines(旧Standards)forCPRandECCJAMA1992;268:2282-8.
DNR=DNAR?• DNAR(DoNotAttempt Resuscitation):「蘇生を試みるな」
• 1989年に提唱され2000年頃から普及し始めた
• 院内心停止で施行される蘇生の多くは“無益(Futility)”であることが多く“苦痛が助長される(Harm)”可能性がある
• 患者を蘇生できることをほのめかすDNR「蘇生をするな」という用語は誤解を招き不適切であると考えられたためDNARが普及した
• 蘇生可能性の少ない(ない)患者に対してのみ適応すべき
• 蘇生の可能性がある患者にまで拡大適応しないように注意
箕岡真子 蘇生不要指示のゆくえ 医療者のためのDNARの倫理
出来ることをやらないDNR、出来ないことをやらないDNARすなわちDNR≠DNAR
N Engl J Med.1989Mar9;320(10):673.
DNRの歴史
1960年 CPR(閉胸式心マッサージ)が有効であるという 初の報告
60年代 心停止時にCPRを実施することが一般的になる
60年代後半 CPRのむやみな実施に対して懸念が報告され始める
1970年- 患者の意向を反映しない医療者での内々のDNR指示が横行
1974年 AMAがCPRを実施しない選択肢について初めて言及
箕岡真子 蘇生不要指示のゆくえ 医療者のためのDNARの倫理
死が予期される不可逆性疾患の終末期においては、心停止状態に陥った場合、CPRが適応とならない状況もある“DNRの概念の誕生”
「したふりをするCPR」が流行:chemical code, slow code, show code , Hollywoodcode
JAMA1974;227(Suppl):864-6.
DNRの歴史
1975年 カレン・アン・クインラン裁判(人工呼吸中止)
1976年 初のリビングウィル法(カリフォルニア州)「自然死法」
1976年 NEJMの「Ordersnottoresuscitate」でDNRについて掲載される
1982年 クラレンス・ハーバート裁判(人工呼吸・栄養中止)
1983年 米国大統領委員会
箕岡真子 蘇生不要指示のゆくえ 医療者のためのDNARの倫理
治療中止や蘇生処置を差し控えることについての訴訟、立法か◌゙相次き◌゙DNRが法的・社会的に認知されるようになる
NEngl JMed1976;295:364-6.
延命治療を中止する場合は「患者の自己決定」を基本とすることを提唱
DNRの歴史
1989年 DNARという言葉が提案される
1990年 ナンシー・クルーザン裁判(栄養中止)
1991年 AMA:DNRに関するガイドラインを発表
「患者自己決定権法」
「持続的代理決定委任状に関する法律」
1992年 AHAがDNARの使用を提言
その後 国レベル州レベルでの様々な法律が制定
2000年 DNARという言葉が正式に使用され始める
AND(AllowNaturalDeath)、NoCPRなどが次々と誕生
Guidelines(旧Standards)forCPRandECCの中でも表現や推奨
すべき言葉が変遷していった
箕岡真子 蘇生不要指示のゆくえ 医療者のためのDNARの倫理
NEngl JMed1989;32:673.
DNRの歴史
多くの裁判が行われ様々な法律が制定されたように米国では「DNR(DNAR)指示ほど象徴的で議論を巻き起こした医療上の論点はない」と言われている
患者の権利医学的妥当性
箕岡真子 蘇生不要指示のゆくえ 医療者のためのDNARの倫理
CritCareMed.2003May;31(5):1543-50.
立法
JAMA.1991Apr10;265(14):1868-71.
1. CPRの実施を基本前提とする
2. 心停止の可能性について事前に患者と話し合う
3. 意思決定が不可能な患者のDNR指示は患者の意向や 善の利益に基づいて決定する
4. 医師は患者または代理判断者の意向を尊重する
5. 心肺機能の回復が望めない場合は蘇生処置を無益と判断する
6. DNR指示はカルテに記載する
7. CPR以外の治療方針に影響を与えてはならない
8. DNRガイドラインは定期的に評価し適宜変更する
あらゆるガイドラインの基盤となっている重要なガイドライン
1991年 「DNR指示の適正使用のためのガイドライン」
日本の歴史
1980年代 “蘇生を行わないという指示”としてDNRが紹介された
1990年代 日本蘇生学会、日本救急医学会、日本救命医療研究会の
学術会議でDNRについて議論されるようになった
1994年 アンケート結果がアメリカにおける1970-80年代の状況と類
似していた
1991年に米国ではすでに“DNRに関するガイドライン”が
作成されていることを考えれば米国と比較して単純にスタートが10-20年遅れている
箕岡真子 蘇生不要指示のゆくえ 医療者のためのDNARの倫理
麻酔 1994;43:600-11.
日本の歴史
1990年- 全国各地で終末期医療に関する医療訴訟が多発
医療界のみならずマスメディア、市民の間でも
治療中止→書類送検(殺人容疑)→起訴→殺人罪確定
という図式が出来上がった
1990年代後半 終末期医療における治療の不開始、差し控え、中止が大き
な問題として浮上
2000年代初頭 終末期医療における倫理的・法的諸問題解決に向けて多く
の議論が行われるようになった
箕岡真子 蘇生不要指示のゆくえ 医療者のためのDNARの倫理
日本の治療制限に関する訴訟
1995年 東海大学事件(KCL投与)
2003年 川崎共同病院事件(筋弛緩薬投与)
2004年 北海道立羽幌病院事件
2005年 富山県射水市民病院事件
2005年 寺岡整形外科事件
2006年 和歌山県立医科大学病院事件
2006年 岐阜県多治見病院事件
2008年 亀田総合病院事件
2009年 福岡大学病院事件
など
特に有名な訴訟
2000年代になってから合意形成を重ねて各学会・国レベルでのガイドラインが日本でも作成される様になった
日本の終末期ガイドライン
2006年 日本集中治療医学会
2007年 厚生労働省
日本救急医学会
日本医師会
2008年 *慈恵医大独自のガイドライン
2009年 全日本病院協会
2010年 日本循環器学会
2014年 3学会合同(集中治療・救急・循環器学会)
*慈恵医大ガイドライン改定
2015年 厚生労働省 改定
2016年 日本集中治療医学会
DNR(DNAR)40周年のタイミングでアンケートが行われ日本集中治療医学会としての考え方・勧告が出された
2016年12月16日日本集中治療医学会
DoNotAttemptResuscitation(DNAR)指示のあり方についての勧告
DoNotAttemptResuscitation(DNAR)の考え方
生命維持治療に関する医師による指示書とDNAR指示
アンケート:蘇生不要指示に関する現状・意識調査(医師)
アンケート:蘇生不要指示に関する現状・意識調査(看護師)
まずはアンケート結果から日本の特に集中治療に携わる医師・看護師の現状と意識を見ていく
集中治療学会アンケート(医師)
• DNR(DNAR)指示が施設や医療者によっては異なる解釈や
運用がなされ救命し社会復帰可能な患者の生命が軽視されている懸念がある
• DNR(DNAR)指示の理解と運用、特にCPR以外の医療行為の終了や差し控えなどへの影響を調査することを目的とする
• 2016年10月• 評議員86名・医師会員595名にアンケートを施行
DNR(DNAR)マニュアルがない
①医師が個人でDNR(DNAR)を決定したり
②協議内容が記録されなかったり
③非蘇生行為に治療制限が及ぶなどといった状況がある場合に
→マニュアルを作成し一定の指針が示されることで倫理的・社会的・法的に非難されないDNR(DNAR)指示が出されるようになる
2012年より増加傾向(約9割)↑ 2012年から改善なし
倫理委員会の有無 DNR(DNAR)マニュアルの有無
問題点誤解
治療制限にまで影響を与えているDNR(DNAR)指示で治療制限がかかるかどうか
高侵襲であるほど制限される
1-3群計47施設
慈恵
DNARマニュアルがあるにも関わらず治療制限をかけている施設の方が多い
• DNARが拡大解釈されている
問題点誤解
決定プロセスが医師の独断である
• いずれも「自分を含めた複数の医師と医療従事者で協議する」という回答が一番多かった(42.7%、44.4%)
• 一方で「自分と他の複数の医師で協議する」「自分だけで判断する」という回答も未だに多かった(16.4%、28.2%)
DNR(DNAR)指示を検討する際の判断や決定プロセスについて
問題点誤解
患者の意思を考えていない
• 話し合いの過程を記録することを義務付けられている施設は多い(50.7%)が医療・ケアチームでの話し合いを義務化している施設は少なかった(8%)
• 患者の意思・推定意思を確認していないことが24%認められた
DNR(DNAR)指示・終末期医療の決定フ◌゚ロセスについて
問題点誤解
非終末期にも適応している
• 後期高齢者であることやADLか◌゙低い事はそのまま終末期とはいえない
• 後期高齢者であることやADLか◌゙低いということを理由に生命に関わるCPRの差し控えが合法であるということは言えない
• 臨床の現場では患者の年齢やADLがDNR(DNAR)指示の決定に影響しているのは紛れもない事実
• 非蘇生医療行為の差し控えにも影響している
DNR(DNAR)を考慮する状態・病態
高齢者や認知症などが理由で考慮されている
問題点誤解
高齢者ということだけでDNR(DNAR)指示が出されてる
• 後期高齢者て◌゙は蘇生できてもその後の生活は十分なADLか◌゙確保できないことが多いと考えられ、患者が治療を望まないと思われる状態になってしまった場合に治療が中止できないと考えられていることが背景にあると思われる
• 蘇生後のADLを予想した結果DNR(DNAR)が出されていると考えられる
後期高齢者ということのみでDNR(DNAR)を考慮することがあるか
その理由
約7割で検討されている
問題点誤解
ADLが低いというだけでDNR(DNAR)が出されている
• DNR(DNAR)の決定にADLの低さを重視する群(1)でより低侵襲の医療行為さえも制限される傾向があった
• DNR(DNAR)指示のみならず非蘇
生行為にまて◌゙治療制限が及ぶとなればそれは患者にとって不利益となる可能性がある
患者の入院前のADLが低い(寝たきり、全介助でコミュニケーションが取れない)ということのみでDNR(DNAR)を検討するか
約8割で検討されている
「ADLが低いとDNR(DNAR)を考慮するか否か」と差し控えられる医療行為の数
問題点誤解
患者意思と家族意思の重視を混同している
• 自己決定権を尊重する医師が多いといえるかもしれない
• 一方で患者の判断・意思表示ができる場合においても約7割で家族の
意思確認が必須であると考えていることから家族の意思を重視する医師が多いことも分かる
協議の過程を記録することにしているのか◌゙7割程度である
ことは今後改善の余地か◌゙ある
意思の推定と家族の意思の区別は不明
DNR(DNAR)指示の決定について
DNR(DNAR)指示の記録と協議過程の記録
問題点誤解
協議過程が記録されていない問題点誤解
状況によってDNR(DNAR)指示は変わる
CPRをする83.4%
CPRをしない16.6%
• CPRをしない群543人中90人(16.6%)では後期高齢者であること、ADLが低い場合にDNR(DNAR)を考慮すると答えた割合が相対的に高かった(78.9%vs.62.7%)、(92.2%vs.42.2%)
心不全以外の理由(医原性)で心停止DNARは取っていないケース
問題点誤解
次のスライドへ
状況によってDNR(DNAR)指示は変わる
• 終末期ではない後期高齢者やADLが低い患者にCPRを行わ
ないことは「蘇生可能性があるがあえて行わない」すなわち“DNR”の場合があり、本来の目的である終末期患者への蘇生行為を禁止するために適応されるDNARとは異なる
• DNR(DNAR)が決定されればどのような場合でも心停止に際してCPRを行わないのかという議論も重要
• 模擬症例で提示したようにDNR(DNAR)を決定した理由の疾
患とは別の原因て◌゙心停止に至った場合、特に医療行為による合併症で心停止に至った場合の行動(場合によってはDNR(DNAR)がキャンセルされる事もある)についてあらかじめ患者や家族らと話し合っておく必要がある
問題点誤解
看護師がジレンマを感じる状況
• 家族や患者の思いが不明確な中で医師が治療を進めていく状況
• 家族と医師との考えに温度差がある状況
• 医師が無理にDNARに持っていこうとする状況
• 医師の間での意見の違いにより方針が決定できない状況
• 医師だけで方針が決定されていく状況(看護師の意見を聞いてくれない)
• 医学的限界を超えた医師の治療により患者の苦痛が緩和できない状況
• 患者の思いが尊重されない状況
• 家族間での意見が別れた状況
アンケート:蘇生不要指示に関する現状・意識調査(看護師)
看護師がジレンマを感じる状況
• 本当に終末期なのか、救命の可能性があるのに医師の判断でDNARが決定される状況
• DNARだからと全ての治療が差し控えられる状況
• DNARが決定した後、医師が患者への興味をなくしてしまう状況
• 医師からのICの内容に疑問を感じる状況
• 医師の心無い言動
• それまで疎遠であった身内が急に現れ、それまでの家族の意向に反対する状況
• DNARだからと看護ケアに手を抜く看護師がいること
• DNARが決定しているのにフルコードで蘇生処置が行われることがあること
• 救命が困難な状況でも家族の意向が強く積極的な治療が行われる状況
アンケート:蘇生不要指示に関する現状・意識調査(看護師)
今回のアンケート結果から
「医師アンケートで判明した問題点」
「看護師が抱えているジレンマ」
が現在のDNR(DNAR)の全ての状況を反映していると考えられる
• これらの結果を元に日本集中治療医学会から以下の勧告・考え方が出された
DoNotAttemptResuscitation(DNAR)指示のあり方についての勧告
DoNotAttemptResuscitation(DNAR)の考え方
生命維持治療に関する医師による指示書とDNAR指示
2016年12月16日日本集中治療医学会
『DoNotAttemptResuscitation(DNAR)指示のあり方についての勧告』1. DNAR指示は心停止時のみに有効である。心肺蘇生不開始以外は集中治療室
入室を含めて通常の医療・看護については別に議論すべきである
2. DNAR指示と終末期医療は同義ではない。DNAR指示に関わる合意形成と終末期医療実践の合意形成はそれぞれ別個に行うべきである
3. DNAR指示に関わる合意形成は終末期医療ガイドラインに準じて行うべきである
4. DNAR指示の妥当性を患者と医療・ケアチームが繰り返して話合い評価すべきである
5. Partial DNAR指示は行うべきではない
6. DNAR指示は日本版POLST-PhysicianOrdersforLifeSustainingTreatment-(DNAR指示を含む)「生命を脅かす疾患に直面している患者の医療処置(蘇生処置を含む)に関する医師による指示書」に準拠して行うべきではない
7. DNAR指示の実践を行う施設は、臨床倫理を扱う独立した病院倫理委員会を設置するよう推奨する
1つずつ見ていく
DoNotAttemptResuscitation(DNAR)指示のあり方についての勧告
1. DNAR指示は心停止時のみに有効である
心肺蘇生不開始以外は集中治療室入室を含めて通常の医療・看護については別に議論すべきである
心停止を「急変時」の様な曖昧な語句にすり変えるべきではないDNAR指示のもとに心肺蘇生以外の酸素投与、気管挿管、人工呼吸器、補
助循環装置、血液浄化法、昇圧薬、抗不整脈薬、抗菌薬、輸液、栄養、鎮痛・鎮静、ICU入室など、通常の医療・看護行為の不開始、差し控え、中止を自動的に行ってはいけない
日本集中治療医学会 DoNotAttemptResuscitation(DNAR)指示のあり方についての勧告
あくまで心停止時のCPRのみ
挿管・MV CPR
昇圧剤
抗生剤
経管栄養
鎮痛・鎮静透析
検査
ICU入室 補助循環装置DNR(DNAR)
DNR(DNAR)指示のみで通常の医療・看護行為の開始、差し控え、中止を自動的に行ってはいけない
DoNotAttemptResuscitation(DNAR)指示のあり方についての勧告
2. DNAR指示と終末期医療は同義ではないDNAR指示に関わる合意形成と終末期医療実践の合意形成はそれそ◌゙れ別個に行うべきである
終末期医療における治療の不開始、差し控え、中止に、心停止時に心肺蘇生を行わない(DNAR)選択が含まれることもあるしかし、DNAR指示が出ている患者に心肺蘇生以外の治療の不開始、差し控え、中止を行う場合は、改めて終末期医療実践のための合意形成が必要である各施設倫理委員会がDNAR指示と終末期医療に関する指針(マニュアル)を明確に分離して作成することを強く推奨する
日本集中治療医学会 DoNotAttemptResuscitation(DNAR)指示のあり方についての勧告
DNR(DNAR)と終末期医療の関係性
DNRDNAR
終末期医療 終末期医療の中にDNR(DNAR)は含まれる
DNR(DNAR)は終末期医療の合意形成の
代用にならず改めて治療制限の合意形成が必要
両者の混同に注意!!
DNRDNAR
終末期医療
DNAR指示と終末期医療に関するマニュアルを明確に分離すべき
DoNotAttemptResuscitation(DNAR)指示のあり方についての勧告
3. DNAR指示に関わる合意形成は終末期医療ガイドラインに準じて行うべきである
厚生労働省「人生の 終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」、あるいは日本集中治療医学会・日本救急医学会・日本循環器学会「救急・集中治療における終末期医療に関するガイドライン~3学会からの提言~」の内容を忠実に踏襲すべきである
日本集中治療医学会 DoNotAttemptResuscitation(DNAR)指示のあり方についての勧告
2015年厚生労働省
• 国家レベルで作成されたガイドラインとして重要
【人生の 終段階における医療及びケアの在り方】
1. 医師等の医療従事者から適切な情報の提供と説明がなされ、それに基づいて患者が医療従事者と話し合いを行い、患者本人による決定を基本としたうえで、人生の 終段階における医療を進めることが も重要な原則である
2. 人生の 終段階における医療における医療行為の開始・不開始、医療内容の変更、医療行為の中止等は、多専門職種の医療従事者から構成される医療・ケアチームによって、医学的妥当性と適切性を基に慎重に判断すべきである
3. 医療・ケアチームにより可能な限り疼痛やその他の不快な症状を十分に緩和し、患者・家族の精神的・社会的な援助も含めた総合的な医療及びケアを行うことが必要である
4. 生命を短縮させる意図をもつ積極的安楽死は、本ガイドラインでは対象としない
*2007年の「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」が改定された
「人生の 終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」
2015年厚生労働省
「人生の 終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」
【人生の 終段階における医療及びケアの方針の決定手続】1. 患者の意思の確認ができる場合
⑴患者の意思を尊重
⑵合意内容を文書にまとめておく。状況による患者の意思の変化の再確認を行う
⑶拒まない限り決定内容を家族にも知らせる
2. 患者の意思の確認ができない場合
⑴推定意思を尊重
⑵家族と十分に話し合い→患者にとっての 善の治療方針
⑶家族がいない・判断を医療者側に委ねる→患者にとっての 善の治療方針
3. 複数の専門家からなる委員会の設置
治療方針の決定に際し決定が困難・合意が得られない・意見がまとまらない場合などに治療方針等についての検討及び助言を行う
2014年3学会合同
• 救急・集中治療における終末期の判断やその後の対応について考える道筋を示したもの
【救急・集中治療における終末期の定義】集中治療室等で治療されている急性重症患者に対し適切な治療を尽くしても救命の見込みがないと判断される時期
【終末期の判断】1. 不可能な全脳機能不全(脳死診断後や脳血流低下の確認後なども含
む)と診断された場合
2. 生命が新たに開始された人工的な装置に依存し、生命維持に必要な臓器の機能不全が不可逆的であり、移植などの代替手段もない場合
3. その時点で行われている治療に加えて、さらに行うべき治療方法がなく、現状の治療を継続しても数日以内に死亡することが予測される場合
4. 悪性疾患や回復不可能な疾病の末期であることが、積極的な治療の開始後に判明した場合
「救急・集中治療における終末期医療に関するガイドライン~3学会からの提言~」
【治療制限の対応】1. 患者に意思決定能力がある、あるいは事前指示がある場合→本人の意思
2. 患者の意思は確認て◌゙きないが推定意思がある場合→推定意思を尊重
3. 患者の意思が確認できず推定意思も確認できない場合→家族の総意
• 家族らが積極的な対応を希望している場合→原則継続しつつ確認を重ねる(*)
• 家族らが延命措置の中止を希望する場合→患者にとって 善の対応• 家族らが医療チームに判断を委ねる場合→患者にとって 善の対応
4. 本人の意思が不明で、身元不詳などの理由により家族らと接触できない場合→患者にとって 善の対応
2014年3学会合同
「救急・集中治療における終末期医療に関するガイドライン~3学会からの提言~」
DoNotAttemptResuscitation(DNAR)指示のあり方についての勧告
4. DNAR指示の妥当性を患者と医療・ケアチームが繰り返して話合い評価すべきである
DNAR指示は患者が終末期に至る前の早い段階に出される可能性がある
このため、その妥当性を繰り返して評価し、その指示に関与する全ての者の合意形成をその都度行うべきである
日本集中治療医学会 DoNotAttemptResuscitation(DNAR)指示のあり方についての勧告
DoNotAttemptResuscitation(DNAR)指示のあり方についての勧告
5. Partial DNAR指示は行うべきではない
PartialDNAR指示は心肺蘇生内容をリストとして提示し「胸骨圧迫は行うが気
管挿管は施行しない」のように心肺蘇生の一部のみを実施する指示である心肺蘇生の目的は救命であり、不完全な心肺蘇生で救命は望むべくもなく、一部のみ実施する心肺蘇生はDNAR指示の考え方とは乖離している
日本集中治療医学会 DoNotAttemptResuscitation(DNAR)指示のあり方についての勧告
DoNotAttemptResuscitation(DNAR)指示のあり方についての勧告
6. DNAR指示は日本版POLST-PhysicianOrdersforLifeSustainingTreatment-(DNAR指示を含む)「生命を脅かす疾患に直面し
ている患者の医療処置(蘇生処置を含む)に関する医師による指示書」に準拠して行うべきではない
日本版POLST(DNAR指示を含む)は日本臨床倫理学会が作成し公表しているPOLSTは米国で使用されている生命維持治療に関する医師による携帯用医
療指示書である急性期医療領域で合意形成がなく十分な検証を行わずに導入することに危惧がありDNAR指示を日本版POLSTに準じて行うことを推奨しない
日本集中治療医学会 DoNotAttemptResuscitation(DNAR)指示のあり方についての勧告
POLSTとはPhysicianOrdersforLife-SustainingTreatment
• 米国で提唱された概念
• 医師からの指示
• 対象:重症患者が終末期に受ける医療の質を向上させる目的で開発され予後1年以内
もしくは高齢で終末期に自分の思う通りのケアを受けたい患者
• 転院しても共有される
• 全米の多くの州(50州中40州以上)で採用か◌゙進んでいる
A:心肺蘇生(CPR)、B:医学的処置、
C:人工的栄養水分補給、D:書類作成
の4つで構成されている
カリフォルニア州のPOLST
Hospitalist Vol.2No.42014 特集:緩和ケア
学会のPOLSTに対する考え• 米国でも根強い反対意見や肯定的導入効果への疑問があり法制上の
問題点が指摘されている制度
• 日本集中治療医学会では勧告とは別に以下の指示書の中でPOLSTに対して意見を述べている
• 医療費削減の道具であるという見方ができる
• 必要な医療を制限している可能性がある
• 患者がPOLSTを携帯していれば救急隊が搬送しないとか高齢者を切り捨てる免罪符に使われ救命の努力が放棄されるなどの懸念がある
• 考え方や法律など様々なものが異なる海外のものを直接取り入れることへの懸念がある
「生命維持治療に関する医師による指示書(PhysicianOrdersforLife-sustainingTreatment:POLST)とDoNotAttemptResuscitation(DNAR)指示」
DoNotAttemptResuscitation(DNAR)指示のあり方についての勧告
7. DNAR指示の実践を行う施設は、臨床倫理を扱う独立した病院倫理委員会を設置するよう推奨する
日本集中治療医学会倫理委員会が評議員を対象に施行した「臨床倫理に関する現状調査」では、臨床倫理を扱う独立した倫理委員会が設置されている施設は67.1%であるDNAR指示は臨床倫理の重要課題であり、終末期医療の実践とともにDNAR指示を日常臨床で行う施設は独立した臨床倫理委員会を設置するよう推奨する
日本集中治療医学会 DoNotAttemptResuscitation(DNAR)指示のあり方についての勧告
勧告を踏まえて
• DNR(DNAR)と治療制限について
• DNR(DNAR)という言葉の誤解
• 現代のICUにおいてDNR(DNAR)という言葉は必要か
について検討する
DNR(DNAR)と治療制限について
「DNR(DNAR)は治療制限の一部であるがDNR(DNAR)によってそれ以外の医療・ケアが制限されてはいけない」
• 厚生労働省のガイドラインと3学会合同ガイドラインに準じてDNR(DNAR)指示もそれ以外の終末期になされる治療制限も行われるべきである
• 治療制限には酸素投与、気管挿管、人工呼吸器、補助循環装置、血液浄化、昇圧薬、抗不整脈薬、抗菌薬、輸液、栄養、鎮痛・鎮静、ICU入室などが含まれる 3学会合同ガイドライン
DNRDNAR
治療制限 治療制限DNRDNAR
DNR(DNAR)という言葉の誤解
• DNR(DNAR)指示でCPR以外の治療制限まで行われている
• 終末期医療とDNR(DNAR)を混同している
• 非終末期など本来適応ではない蘇生の可能性がある病態・患者に対してもDNR(DNAR)指示が出されている(ADLが低い、後期高齢者等)
• DNR(DNAR)を取らないと何か問題があった時に殺人容疑で書類送検・起訴されてしまうと思っている
• Partial DNARをDNR(DNAR)だと思っている
• 1回DNR(DNAR)を取得すれば終わりだと思っている
など
誤解の多くは言葉の曖昧さや共通認識形成の難しさ・不十分さからきていると考えられる
IntJGenMed2016;9:213-220.
現代のICUにおいてDNR(DNAR)という言葉は必要か?
3つのケースのシミュレーション(日本)
1:進行癌、2:進行認知症、3:非末期心不全
各ケースでDNRの有無で行われる治療の割合
→DNRがあれば高侵襲である程治療制限される
各ケースにおけるDNRの有無によるCPR以外の延命治療を行う割合→DNRがあるとCPR以外が制限される
IntJGenMed2016;9:213-220.
• DNRがあってもCPRに含まれる医療行為をする医師が意外といる
• DNRという言葉が曖昧なままでは治療制限による害を及ぼすかもしれない
医師の意思決定に影響する侵襲度による影響→全ケースとも高侵襲である程影響した 各ケースでDNRの有無で行われるCPRの割合
→DNRありで心停止ならCPRを行わないがVFならDNRがあってもCPRを行う医師が意外と多かった
• 悪予後群(Decile10:神経学的良好予後予想率4.0%)のDNR指示率は36.0%
→予後予測とDNR取得率が必ずしも相関するとは言えない
JAMA.2015Sep22-29;314(12):1264-71.
院内心停止後に自己心拍を再開した患者における心拍再開12時間以内の蘇生不要(DNR)指示と神経学的アウトカムの関連を検討(n=26,327)
現代のICUにおいてDNR(DNAR)という言葉は必要か?
• 文献が示すようにDNR(DNAR)指示があっても状況によっては該当する医療行為を行っていたりDNR(DNAR)指示の有無と予後予測が相関していなかったりとDNR(DNAR)という指示の存在自体がとても曖昧である
• 予定外のイベント(医原性の合併症による心停止など)やDNR(DNAR)指示に至った原因以外での心停止(治療可能な心停止など)といったあらゆる状況においてDNR(DNAR)指示を細かく設定することやこのような状況でもDNR(DNAR)指示
を有効にするのかをあらかじめ決めておくことは現実的ではない
現代のICUにおいてDNR(DNAR)という言葉は必要か?
• 繰り返し述べているようにDNR(DNAR)への誤解というものは根深いものがあり共通認識の形成やDNR(DNAR)マニュアルを独立して作成することで改善される可能性はあるが理想論と言えるかもしれない
• 少なくとも治療制限を含め患者への 適な医療について日々話し合いを行い患者本人・家族・医療者間で合意形成が得られているようなICUにおいてはわざわざ誤解を生じやすいDNR(DNAR)という言葉を使う必要がないのではないかと思われる
現代のICUではもはやDNR(DNAR)は不要か?!
まとめ
• DNRという言葉がこの世に生まれて40年が経過した
• 2016年に行われたDNR(DNAR)に対する現状・意識調査からDNR(DNAR)に関する様々な誤解や問題点が浮き彫りとなり日本集中治療医学会から「DNAR指示のあり方についての勧告」が出されるに至った
• DNR(DNAR)は「心停止時に心肺蘇生をしない指示て◌゙あり通常の医療・看護・ケアに影響を与えない」ということである
• 共通認識が形成されDNR(DNAR)の独立した運用指針が作
成されるのが理想であるが日々患者への 適な医療について話し合いを行なっているICUにおいては誤解を生じやすいDNR(DNAR)をもはや使用する必要はないのかもしれない
皆さんは現代のICUにおいてDNR(DNAR)という言葉は必要だと思い
ますか?