8
- - 162 4.9.2 余水吐 4.9.2.1 余水吐の分類 余水吐は,入形式によって越型とサイホン型余水吐に分類される.放水工と同地点に設置されることが多 い.余水吐の特徴と意事項は,次のようである.①越型余水吐:水路側壁の一に越堰を設けて,そのク レストを設計水位に一致させ,余剰水を排水するもので,余水吐としての確実性が高く,最も安全である.水路 の水位の上昇とともに,排水量が増加する.②サイホン型余水吐:図-4.32 に示すように,水路の水位が設計水位 以上になるとサイホンが機能して,余剰水を排水する.これは越型余水吐より施設幅が小さいため,設置場所 に制約がある場合に設置されるが,サイホン入口のごみ対策,危険分散のため,余水吐を数個設置するなどの 必要がある.サイホン作用により急速に排水されるため,水位の上昇は小さい. 4.9.2.2 余水吐の設置位置 余水吐は水路の通水能力の少する上側に設置されるが,次の事項に意する.①水路途中の分水工の数と その量によって設置を検討する.一般に余剰水を水 路の余裕高で処理できなくなる場所に設置する.4 5km 1 ヵ所の設置を検討する.②長大サイホン,ト ンネル,暗,水路橋の直上に余水吐の設置を検討 する.③高盛土の水路,市街地を通する水路の直上 に余水吐の設置を検討する.④ポンプ場の直上 には余水吐を設置する.⑤放量(排水)を受け入 れる川・調整池などの有無,その規模によって,余 水吐の設置は制限される.このため放できる場所に ついて,予め十分な調査が必要である.⑥余水吐の設 置による水路工事費の少と余水吐と関施設の設置 に必要な工事費の増加を比較して,その位置や規模を 検討する. -4.32 サイホン型余水吐の例 -4.14 上水位、下水位及び貯量制御方式の比較表

表-4.14 上泿水位、下泿水位及び貯畕量制御方式の …zoukou.life.shimane-u.ac.jp/ruraleng/shisetsuken/12...- 164 - 4.10 管水路 4.10.1 分類 4.10.1.1 概説 既製管を埋設して造成する農業用パイプラインの設計および施工についての一般瘩な事項について述べる.し

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- - 162

4.9.2 余水吐

4.9.2.1 余水吐の分類

余水吐は,流入形式によって越流型とサイホン型余水吐に分類される.放水工と同地点に設置されることが多

い.余水吐の特徴と留意事項は,次のようである.①越流型余水吐:水路側壁の一部に越流堰を設けて,そのク

レストを設計水位に一致させ,余剰水を排水するもので,余水吐としての確実性が高く,最も安全である.水路

の水位の上昇とともに,排水量が増加する.②サイホン型余水吐:図-4.32 に示すように,水路の水位が設計水位

以上になるとサイホンが機能して,余剰水を排水する.これは越流型余水吐より施設幅が小さいため,設置場所

に制約がある場合に設置されるが,サイホン流入口のごみ対策,危険分散のため,余水吐を数個設置するなどの

必要がある.サイホン作用により急速に排水されるため,水位の上昇は小さい.

4.9.2.2 余水吐の設置位置

余水吐は水路の通水能力の減少する上流側に設置されるが,次の事項に留意する.①水路途中の分水工の数と

その流量によって設置を検討する.一般に余剰水を水

路の余裕高で処理できなくなる場所に設置する.4~

5km に 1 ヵ所の設置を検討する.②長大サイホン,ト

ンネル,暗渠,水路橋の直上流に余水吐の設置を検討

する.③高盛土の水路,市街地を通過する水路の直上

流部に余水吐の設置を検討する.④ポンプ場の直上流

部には余水吐を設置する.⑤放流量(排水)を受け入

れる河川・調整池などの有無,その規模によって,余

水吐の設置は制限される.このため放流できる場所に

ついて,予め十分な調査が必要である.⑥余水吐の設

置による水路工事費の減少と余水吐と関連施設の設置

に必要な工事費の増加を比較して,その位置や規模を

検討する.

図-4.32 サイホン型余水吐の例

表-4.14 上流水位、下流水位及び貯留量制御方式の比較表

- - 163

4.9.3 放水工

水路の保守・点検,事故時の緊急放流,水路の改修などに際して水路の水を放水するために設ける.この設置

での留意事項は,次のとおりである.①長大トンネル,サイホン,暗渠,水路橋などの重要構造物の直上流部に

は災害時に緊急放水が可能な放水工を検討する.②市街地の入口付近,地形的に不安定な箇所の直上流には放水

工を検討する.③水路の維持・管理のための放水工は,①,②の位置も考えて,維持管理に便利な間隔で設置す

る.④放流河川などの放流可能流量によって放水工の設置計画は大きく左右されるので,事前に河川の放流可能

流量を調査し,路線の選定,水路の工種の選定時に放

水工の設置を計画する.

放水工の構成は図-4.33 のようで,次の各部より構

成されている.放水工の放水ゲートには角落式と水門

式放水工があり,角落式放水工は本線水路の水深が

50cm 以下の場合,これ以上の水深の水路では水門式放

水工とする.放水工の各部の設計では設計放水量を安

全に流下させる構造とする.放水ゲートは大量の水が

一度に放水されるので,堅牢に設計する必要がある.

放水路は急流になるため,開水路形式が望ましいが,

地形,その他の理由で開水路以外の工種とする場合は,

通水能力,安全性に十分な配慮が必要である.

4.9.4 調整池

わが国の幹線水路システムは河川またはダムから取水後,計画的な使用の必要性から,供給主導型の水管理が

行われている場合が多い.また,幹線水路は開水路が多く用いられている.しかし,中小規模の幹線水路や支線,

派線の水路は水管理と経済的な理由で管水路化されて

いることが多い.さらに夜間のかんがいが減少して用

水の需要が日中に集中し,水需要が大きく変動してい

る.

水需要の変動を調整するため,調整池を設ける.調

整池とは取水量,水路中を流下する流量,用水量の三

者の不均衡を是正し,調整することによって,無効放

流や配水の不均衡を防止することを目的とする.調整

池には,①多目的型調整池:複数の目的をもつ調整池

で,かんがい期間を通して,1 日ないし幼穂形成期~

穂ばらみ期~出穂期の不足用水の確保を行う.②ファ

ームポンド:畑地かんがい計画で 1 日以内の用水を調

整するために設けられる.③バッファポンド:上流側

が供給主導型の開水路,下流側が需要主導型のパイプ

ラインの場合,操作特性の調整や用水到達時間差に当

たる用水量を貯留する調整池である.開水路からパイ

プラインへの移行部に設けられる場合もある.

調整池の主な効果は,次のようである.①調整池上

流部の幹線水路断面の縮小ができる.②水路の組織を

単純化し,管理の省力化ができる.③河川から取水す

る場合,施設管理用水量を少なくすることができる.

④配水の運営が円滑になり,用水の操作損失が少なく

なる.⑤調整池上流部の水路の維持補修,事故対策の

弾力的な運営ができる.⑥かんがい組織全体の配水能

力が弾力性を増し,末端でのかんがいの自由度を高め

る.⑦用水到達時間と水配分が均一化する.⑧パイプ

ラインへの空気連行が防止できる.⑨ポンプの効率的

な運転ができる.

図-4.33 放水工の構成

写真-4.1 万場調整池

写真-4.2 ファームポンド

- - 164

4.10 管水路

4.10.1 分類

4.10.1.1 概説

既製管を埋設して造成する農業用パイプラインの設計および施工についての一般的な事項について述べる.し

たがって,口径が極端に大きい場合や著しく小さい場合,また相当高水圧で使用する場合などでは,管体の耐内

外圧強度,継手の耐圧と機能,水理特性,付属機器および施工性,経済性などをさらに検討する必要がある.

一般にパイプラインでは,機構,水圧,配管および送配水の面から,次のように分類する.

4.10.1.2 機構上の分類

オープンタイプとクローズドタイプに大別され,さらに後者は完全クローズドタイプ(単に,クローズドタイ

プと呼ぶ場合が多い)とセミクローズドタイプに分類さ

れる(図-4.34参照).これらの特徴を端的にいえば,オ

ープンタイプは管路の要所要所に頂部が開放されたス

タンドが配置されており,完全クローズドタイプは上流

から末端まで閉管路で流れが連結している.また,セミ

クローズドタイプはフロート弁類を連続的に用いるこ

とにより構成される形式である.

オープンタイプ,クローズドタイプともパイプライン

ではあるが,水管理上の特性は全く異なるので,組織設

計にあたっては,特性の相違に配慮する必要がある.オ

ープンタイプは供給主導型の水管理となるのに対して,

クローズドタイプは需要主導型の水管理が基本となり,

このため上流端では常時需要量を上回る用水供給,また

は調整池のような貯留施設が必要となる.

4.10.1.3 水圧からの分類

送水系では,パイプラインに作用する最大使用静水頭が100mを超えるものを高圧パイプラインと呼び,これ以

下のものは低圧パイプラインと呼ぶ.配水系では,末端給水栓(散水栓)でおおむね0.15MPa以上の水圧を必要

とするものを高圧パイプライン,これより必要水圧が小さいものを低圧パイプラインとする.送水系の高圧パイ

プラインでは,管体および継手の耐圧強度,水密性についての確認など,特に詳細な検討を行うとともに,付帯

する構造物および各設置機器類の安全性,経済性,維持管理費についても十分考慮した施設設計が必要である.

4.10.1.4 配管上の分類

配管方式には樹枝状配管と管網配管とがあり,前者は流路が幹線,支線および派線と順次分岐し,水は上流か

ら未端に向かって一定方向に流れる方式である.これに対して,後者は分岐線が網目状に連結していて,使用給

水栓の位置および制御バルブの開閉などの関係により管内の水は正逆いずれの方向にも流れ得る方式である.

4.10.1.5 送配水上の分類

水源から灌漑地区への送配水方式には,自然圧式(自然流下式),配水槽式,ポンプ直送式および圧力水槽式

がある.なお,配水槽式,ポンプ直送式,圧力水槽式を総称してポンプ圧送式と呼ぶ.

4.10.2 設計の基本

4.10.2.1 基本的考え方

設計は,その目的,立地条件などを的確に把握した上で行うものとし,一連の系として必要な機能を確保する

こと,および安全で合理的な管理ができ,かつ経済的な施設とすることが基本である.すなわち,パイプライン

の設計にあたっては,その目的,立地条件など必要な情報の把握を行い,パイプラインを構成する諸施設とその

他関連水利施設などが有機的に結びついて,一連の系として機能を果たせるように設置することが大切である.

このためには,パイプラインを一つのシステムと考え,先ず,それぞれの施設が相互に調和のとれた機能を発揮

するような設計,すなわち水路組織の設計で最初に大枠を決定し,次に,諸施設について水理的,構造的に安全

でかつ経済的となる管体および各種の付帯施設の施設設計を行う.

この場合の着眼点は,①送配水能力の確保,②分水および調整,調圧機能の確保,③安全機能の確保,④水管

理,施設管理の合理性,⑤建設費と維持管理費の経済性,⑥周辺の環境との調和,などである.特にパイプライ

ンでは,末端の水需要量と適正配水に応える水管理が重要であり,各施設の機能を十分に活用した全体的に調和

のとれた水路組織の設計を行うことをパイプラインシステムの設計という.

図-4.34 パイプラインの機構上の分類

- - 165

4.10.2.2 設計の手順

パイプラインでは,多くの配慮すべき項目が複雑に関

与しているため,これらの関連を十分考慮したうえで,

適正な手段に従って設計を進め作業の効率化を図る.

a) パイプラインシステムの設計手順 先ず,送水系

と配水系に機能を区分し,調整池,調圧水槽および分水

施設などの配置を検討して送水側の供給条件と配水側

の需要条件とを決定し,必要な緩衝施設を設置する.次

に,区分したそれぞれについて,地形条件や灌漑方式,

水利用形態などを検討のうえ,管体と各種付帯施設を概

定しながら進める.実際の作業では,適宜点検を行い,

必要に応じて総合的な検討を繰返すことが重要である.

b) 施設設計の手順 施設設計はパイプラインシステ

ムの設計により概定されたパイプラインを構成する管

体および各種の付帯施設について,水理,構造の詳細な

設計を行うもので,その結果に基づき,適宜パイプライ

ンシステムの設計を見直し,パイプラインシステムとし

ても適切となっているか否かを点検しながら,図-4.35に

示す手順に従って実施する.

c) パイプラインの構成 パイプラインは次の諸施設

により構成され,それらが合理的かつ有機的に組合わさ

れ,一連の系として一体となってその機能を発揮するよ

うに十分考慮する.

ⅰ) 通水施設:パイプラインの主体をなすもので,直

管,異形管および継手などからなる送配水管路(管路)

である.

ⅱ) 調整施設:用水の円滑な配分調整,効率的な水利

用および水路の補修,点検時における水の確保などを目

的として,パイプラインの適当な位置に設けるもので,調整池,バッファーポンド,ファームポンドなどがある.

ⅲ) 調圧施設:分水工および給水栓から各圃場ヘの給水に必要な水圧,水量を調整する施設と,パイプライン

内の余剰圧力を減圧調節する施設の2種類に大別される.

ⅳ) ポンプ施設:水源が灌漑地区より低位部にある場合や,自然圧のみでは必要な水圧が得られない場合にポ

ンプ施設が組み入れられる.このポンプ施設は水源に設置される場合と,管路の途中に加圧ポンプ(ブースター)

として設置される場合がある.

ⅴ) 分水施設:送水系パイプラインの分岐,または送水系パイプラインから配水系パイプラインヘと調整配分

するためのものと,直接灌漑するためのものがある.前者を分水工といい,後者を給水栓とよぶ.

ⅵ) 量水施設:対象地域の適正な配水管理のため設置される量水計およびその付帯施設がある.

ⅶ) 通気施設:管内の滞留空気の排除と通水急停止時における管内への空気の吸入を目的として設けるもので,

通気スタンド,通気孔,および空気弁がある.

ⅷ) 保護施設:パイプラインに発生する異常な圧力変動を軽減,排除し,パイプラインの安全を保持するため

の水撃圧緩衝装置および管内の水,泥を排除する余水吐および排泥施設などがある.

ⅸ) 安全施設:水管理者および第三者の安全を確保するためのもので,ガードレール,フェンス,手すり,救

助ロープ,はしご,標識などがある.

ⅹ) 管理施設:諸施設の維持管理を行うためのもので,除塵施設,制水弁,マンホール,監査ます,管理用道

路,通信施設などがある.

ⅺ) 水管理制御施設:用水の円滑な配分,安全かつ経済的な監視,制御を行うためのもので,監視制御施設な

どがある.

ⅻ) その他関連水利施設など:パイプラインと一体に機能しなければならない施設として,ダム,頭首工など

の水源施設,水源としての河川,湖沼などの種々の関連施設がある.

図-4.35 パイプラインシステムの設計手順

- - 166

4.10.3 設計

4.10.3.1 路線選定

路線選定にあたっては,地形,地質などの自然的条件,施工条件,管理の容易さ,維持管理費,土地利用,主

要農作物などの社会的条件および分水位置と型式などを考慮する.この場合,用地の取得,地域の開発計画など

に関連する問題への対処のため,図上で数路線について比較検討し,慎重に最適路線を選定する.なお,路線選

定の際の留意事項は,次のとおりである.

①動水勾配線以下に保てば,開水路におけるような地形上の制約は受けない.ただし,埋設深さを一定として,

地形の起伏に沿った路線勾配とした場合,通気施設,異形管などが必要となり,必ずしも経済的とならないこと

や管理上不利な場合がある.②路線は極力最短距離を通すようにする.ただし,起伏の激しいところでは,管に

作用する内水圧が大きく,凹部では高圧となる.このため,このような地形では,路線延長は長くなっても迂回

し,低圧で対応できる路線が有利な場合がある.③分水工は下流側のパイプラインにとっては,管路入口で流量

調節がされることになり,パイプラインの路線と分水工の位置によっては,空気混入を招くことになる.分水工

の調節によるパイプライン上下流の流況の変化と路線位置に十分配慮する必要がある.④軟弱地盤や被圧地下水

が分布しているところはできるだけ避ける.⑤道路,河川および軌道などの横断はできるだけ直角交差とする.

⑥施工,管理の便を考慮して,一般に道路,耕地境界などに沿って配置する.⑦路線は,分水工の位置によって

制約を受けるので,受益地との関連を十分把握しておく.⑧パイプラインの路線は放水工,余水吐,調整施設な

どの設置位置,規模の決定が,相互に関連しているので,関連する河川,渓谷の状態についても十分考慮する.

⑨パイプラインに設けられた制水弁,ポンプなどの操作に伴い系内に発生する水撃圧および負圧対策に配慮する.

⑩特に,大口径のパイプラインでは,送水停止時に管内が空にならないことが重要であり,管理の水準および管

理体制を考慮して路線選定を行う.

4.10.3.2 設計流量と設計水圧

a) 設計流量 パイプラインの設計に使用する流量には,計画最大流量,最多頻度流量,最小流量がある.設

計流量は,計画最大流量とする.通常,パイプライン施設の規模(口径,水槽類)は設計流量をもとに決定する.

ただし,断面,構造などの決定にはそれ以外の流量についても必要に応じ検討する.特にパイプラインシステム

の設計では,設計流量よりも小さな流量時の挙動についても留意する.また,設計流量は,各地点での必要水頭

の確認,流速の確認のうえで重要な要素である.しかし,完成したパイプラインシステムの流況を必ずしも示す

ものではないことに留意する.設計時の流況をパイプライン系内で実現するためには,圧力調整などの対策が必

要であることに十分留意する必要がある.

b) 設計水圧 パイプラインでは送水が停止している場合の各地点での静水圧の把握が重要である.特にポン

プ圧送式にあっては,ポンプ締切圧を静水圧と考えなければならない.設計水圧はこの静水圧に水撃を加えたも

のである.これは,通水停止時に大きな水撃圧が発生し,最も危険な内圧荷重を与えるので,安全な設計とする

ためである.農業用パイプラインでは,特別な場合を除いては,特に大きな圧力を用いる計画は避ける.一般に

は,静水圧1MPa以下となるように減圧型調圧施設などを設置して設計する.

c) 使用管種 管体および継手などは,JIS規格などにより数種類が製造販売されており,一般的には,この中

から必要な水理条件,構造条件および施工条件を満足し,その特性が十分生かせるものを選定する.表-4.15に主

として農業用パイプラインに使用される既製管の規格,特性などを示す.

d) 水理解析 設計流量を流すために必要な口径は,定常的な水理現象を把握することによって求める.適切

な流速の範囲で,必要な流量が流せるよう設計する.この場合の水理計算に用いる水理公式は,その適用範囲を

十分考慮して選定する.

ⅰ) 許容設計流速:管内の平均流速の許容最大限度は,管内面が摩耗されないような値とする.管内面の状態

および継手の水密性などによって異なり,コンクリートの場合は3m/s,それ以外の場合は5 m/sとする.この値以

内であっても,水理ユニット内の平均流速が大きい場合には一般にバルブ操作などにより異常な圧力変動を生じ

るなどの問題が起こる場合があるので十分注意する.一方,水中の浮遊土砂などが管内に沈殿することを避ける

ため,管内流速の最小限度は設計流量時で0.3m/s以上とする.特に配水管で防除や施肥など多目的に使用する場

合などは0.6 m/s 以上とすることが望ましい.ただし,スラリー輸送などの許容設計流速は別途検討する.設計上

採用すべき管内流速は,損失水頭との関係について管路の経済性に大きく影響し,路線の条件,使用管種,口径,

水路形式などによって一概に決められないが,原則として送配水方式によって次のように決定する.

自然流下式の管路の場合,与えられた始点,終点間の落差を最大限度に利用して,流速をできるだけ大きくし

たほうが口径は最小となり経済的である.したがって,その口径は与えられた個々の水理条件から定まるので,

許容最大限度の流速以内で設計すればよいことになる.しかし,この許容最大限度の流速は,水理ユニット内の

- - 167

局部的な区間の流速の点検に

用いるものであって,水理ユ

ニット内の平均流速の限界値

は2.0m/s以内を原則とし,経

済的な観点から安全性を確か

めたうえで2.5m/sまでとする.

ポンプ圧送式管路の場合,

一般的にはポンプの吸水側の

低水位と吐出側の高水位から

その揚程を考えて設計する.

しかし,管路内の流速すなわ

ち口径とポンプ揚程の組合せ

は多様である.自然流下式の

場合と同じ考えで口径を小さ

くすれば管関係費は少なくて

すむが,通水抵抗が増加する

ため,動水勾配が急となって

ポンプ揚程が大きくなり,結

局ポンプ設備費と運転費が嵩

む.逆に口径を大きくとれば

ポンプ関係費は少なくなるが,

管関係費が増加する.いずれ

の場合も不経済な設計といえ

る.したがって,管関係費と

ポンプ関係費の和が与えられ

た流量に対して最小となるよ

うに流速を設定すれば,最も

経済的である.この時の設計

流速を平均流速として表-4.16

の流速が目安として使用され

る.

ⅱ) 水理計算:古くから多くの実験が行われ,これらの資料の蓄

積に基づく経験式としての平均流速公式が数多く提案され,実用化さ

れている.これらの式の中で実際の水理設計の際,一般に使用される

も の は マ ニ ン グ ( Manning ) 公 式 と ヘ ー ゼ ン ・ ウ ィ リ ア ム ス

(Hazen-Williams)公式である.マニング公式はレイノルズ数および

相対粗度が大きい粗面上の流れ(粗い管の領域)に対してよい精度を

もち,一方,ヘーゼン・ウィリアムス公式は,粗滑遷移領域の流れに

適している.両式の適用範国を明確に区分することは困難であるが,一般に農業用パイプラインの設計条件の大

半に適用できると思われるヘーゼン・ウィリアムス公式のほうがよく利用される.経年変化を考慮した鋼管など、

一部の管種には理論的にこの公式よりもむしろマニング公式のほうが適当な場合もあるが,同一パイプライン組

織について管種によって適用公式を異にすることはパイプライン全体の水理解析を統一的に行うという,設計実

務上の立場から不都合であり,特殊な場合を除きヘーゼン・ウィリアムス公式によったほうがよい.

ⅲ) 圧力調整とキャビテーション:農業水利施設の大規模化,広域化に伴い,パイプラインも大口径化,高圧

化してきた.また,その運用,操作に際しては,流量の確保と同時に,正確な圧力調整が要求されることが多く

なった.それとともに,圧力調整とキャビテーション対策が重要な課題となっている.このため,当初設計にお

ける水理解析の段階から圧力調整,キャビテーションなどの検討を行って対策を講じる必要がある.圧力調整装

置には,各種のバルブ,オリフィスあるいはノズルが用いられる.これらの装置は,まず装置の一次側で流れを

急縮させ,これらを二次側で急拡させることによって,急拡部での流れの内部擾乱(じょうらん)を利用して圧

力減殺を行うものである.

表-4.16 ポンプ圧送式の平均流速

表-4.15 既製管の一覧表

- - 168

流れが圧力調整装置の急縮部とそれに続く急拡部を通過するとき,その部分で局所的に流速が増大し,ベルヌ

ーイの定理で知られるように圧力が低下する.圧力が流れの温度に対応する水蒸気圧以下に低下すると,水は気

化して流れの中に水蒸気の空洞を生ずる.このような現象をキャビテーションという.この空洞は,流れの低圧

部から高圧部に移動すると,そこで急激に圧潰,消滅して大きな衝撃を生ずる.そして,この衝撃によって,騒

音および振動が発生する.また,空洞圧潰が管壁上,あるいはそのごく近傍で起これば,ピッチングによって管

壁に侵食,損傷を生ずる.キャビテーション現象は,管路の安全性に対して,好ましくない作用を及ぼすので,

設計に際して十分な配慮が必要である.

ⅳ) 非定常水理現象の解析:パイプラインでは,管内の流量を急激に変化させた場合,水撃圧,圧力脈動,サ

ージングといった過渡水理現象が生じ,次のような障害を惹き起こす.①管内圧力の上昇降下による管体,バル

ブ,ポンプなどの機器の破損,②管内に生じた負圧が大きくなることにより水に溶け込んでいた空気が分離した

り,空気弁などから空気が混入することによって惹き起こされるエアーハンマ現象による管体および機器の破損,

③空気の滞留による通水および分水の機能低下,または管路系を再稼働させるための空気抜きおよび注水作業に

よるパイプラインの送配水機能の停止,④水面動揺による分水工やファームポンドからの越水.

水理解析において非定常現象を把握する目的としては,水利用上,送配水および分水の機能を確保するための

検討はもちろんのこと,構造設計における設計条件(内圧荷重)を得ることにある.

e) 管路の構造設計 管体に作用する荷重は,これを埋設する現地の地形条件,土質条件,水理条件,施工条

件などを考慮して適切に決定し,構造設計にあたっては,これらの荷重に対して管体が,その横断方向,縦断方

向のいずれについても十分安全であるようにする.安全性の検討は,耐圧強さ,移動,変形,水密性などの項目

について行う.一般に管路の設計は,まず横断方向について行い,次いで縦断方向について検討することが多い.

通常の場合,縦断方向の耐圧強さについては,埋設管の特性として,管体にかかる荷重がほぼ均衡する場合が多

い.したがって,縦断方向の曲げモーメントは非常に小さいため,その検討を省略することがある.ただし,荷

重が均衡しない場合,たとえば道路,軌道などの横断個所,構造上局所的に荷重が集中する個所などにおいては,

縦断方向の耐圧強さの検討が必要である.

ⅰ) 埋設深:管路の保護の面から0.6m以上とするのが一般的である(図-4.36参照).ただし,公道下,軌道下

または河川下などに埋設する場合,管理者と協議して決定する必要がある.一般に,公道下では1.2m以上,農道

または私道下では1.0m以上とする.

ⅱ) 管体の基礎工法:基礎工法は現地の状態を十分把握して決定する.一般的には,①管体の敷設地盤が岩盤

など堅固な場合,管体を直接地盤上に敷設すると,管材部と地盤との間に不陸が生じ管体に局部的な集中反力が

生じ,管体の折損および破壊などの事故を惹き起こすことがあるので,図-4.37に示すように余掘りを行い,礫質

土または砂質土で置換し十分締固めた基床を設ける,②普通地盤の場合で,直接管体を敷設すると不同沈下が起

こる可能性が予測される地盤は,礫質土または砂質土で十分締固めた基床を設け,その上に管体を敷設する(図

-4.38および表-4.17参照).③軟弱地盤の場合は原則として砂で置換する.また,軟弱層が深い場合の基礎工法は,

図-4.39による.

図-4.36 耕地下の埋設の場合

図-4.37 岩盤の場合

図-4.38 普通地盤の場合

図-4.39 軟弱地盤の場合

表-4.17 普通地盤の基床厚

- - 169

f) 耐震設計 埋設パイプラインは長大で多種の地盤にまたがるので,地震時の入力も場所によって異なる.

長大なパイプラインのような構造物では均一な耐震性を確保することは容易でないので,次に示す方針で耐震設

計を行う.①埋設管では,地盤の特性が管体に大きな影響を与えるので,路線の選定,付帯施設の位置の決定の

際,土質調査,地盤調査を行い,軟弱地盤,高い切土や盛土部,地形や地質の急変部などは避けるのが望ましい,

②特殊継手を設け全体的に伸縮に富む構造(柔構造)とする.特に,調整池,スタンド,土砂吐,スラストブロ

ック(アンカーブロック),制水弁およびポンプ室など,管体と固有周期の異なる付帯施設との接合部では,地

震時に大きな変形や応力が発生することが考えられるので,特殊(伸縮または可とう)継手などを設けることが

望ましい,③長い管路に曲管部があると地震時に応力集中を生じやすいので,水平,鉛直とも曲管部の半径は大

きくとり,急激な屈曲は避けることが望ましい,④送配水における危険分散または被災後の保安対策(送水停止

機構の確立など)および復旧工についても考慮しておく.したがって,大口径管では,地震被害があった場合,

外部からの点検は大規模な作業となるので内部からの点検ができるように,適当な間隔でマンホールなどを設け

る.また,内部から点検のできない小口径管では区間ごとに漏水量の点検ができるよう,分水工および異形管の

設置個所などを利用して制水弁を設けることが望ましい,⑤埋戻し砂の液状化に対する抵抗力の向上は極めて重

要であり,地下水位が高く,現地盤が軟弱な地区では,埋戻し砂の締固め度を大きくする,液状化抵抗力を改善

するなどの検討をする.

4.10.4 施工

4.10.4.1 管体の敷設

圧力管としてその機能を保持しなければならないので,特に継手など接合部の施工の際は,それぞれの管種の

接合部の機構を十分把握し,その仕様や管理基準に基づき所定の耐水圧強度を得られるものとする.

4.10.4.2 掘削

管体を埋設する溝は管体の接合作業や埋戻し材の締固め作業が支障なく実施できる幅を確保することとし,管

径ごとに設定されている標準溝幅を参考にして決める.掘削後は,原地盤の緩みを少なくするためにできるだけ

早く基礎の施工を行い,短期間に埋戻すことが重要である.

4.10.4.3 埋戻し

管体が地中に埋設される場合,土の反力による抵抗を高めることによってパイプラインをより安全な構造とす

ることができる.したがって,基礎も含め管頂部までの埋戻し土は良質なものを用い十分締固めを行う.特に,

施工の困難な管底部分の締固めが最も重要である.

4.10.4.4 構造上の弱点部の施工

パイプラインは非常に長い線的構造物であり,この区間内において他の構造物と管体との取付部,異形管との

接続部,曲率半径の小さな曲線部,不同沈下のおそれのある個所,さらに震動に対する構造上の弱点部などがあ

る.したがって,このような部分においては,パイプライン全体をほぼ均一な安全率を有する構造物とするため,

各部の細部を合理的に設計し,かつ入念に施工する.

4.10.4.5 通水試験

管体敷設後,パイプラインの水密性,安全性を確認するため通水試験を行う.通水試験には漏水試験(試験水

圧=設計内水圧-設計水撃圧)と水圧試験(試験水圧=設計内水圧)とがある.通水試験は,漏水試験が一般的

である.