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- 21 - 沖縄県立総合教育センター 前期長期研修員 50 研究集録 2011 年9月 〈国語〉 論説文における「PISA型読解力」指導の工夫 思考過程の見えるノートの工夫と自分の考えを書く指導を通して(第3学年)― 沖縄市立宮里中学校教諭 與志平 テーマ設定の理由 21 世紀は,知識基盤社会の到来と同時にグローバル化の進展を受け止め,国際人として急速な変化に対 応できる力が求められている時代である。異なる文化や文明との共存や国際協力の必要性を増大させてい る時代を生き抜いていくためには,他者を受け入れながら自分自身の考えを明確に示す力が大切である。 平成 20 年に改訂された学習指導要領総則によると, 「基礎的・基本的な知識及び技能を確実に習得させ, これらを活用して課題を解決するために必要な思考力,判断力,表現力その他の能力をはぐくむ(中略)」 と示されている。国語科においては,これらの能力が社会生活に生きて働くよう,一人一人の生徒が言語 の主体的な使い手として,相手,目的や意図,多様な場面や状況などに応じて適切に表現したり正確に理 解したりする力として育成することが大切と示されている。特に言語活動については,各教科・領域等に おいても取り組む必要が示されており,各教科等の学習の基本ともなる言語活動例を具体的に内容に示し ている。 平成 22 年度に実施された全国学力・学習状況調査に関して,本校では、B問題の中でも記述式問題の正 答率が 44.8%であり,全国平均正答率に対して 9.7 ポイント下回っている。「書かれている内容をもとに, 自分の考えを書くこと」については,40.3%にとどまり,緊要な課題であり取り組むこととした。これま での授業実践を振り返ると,論説文等の読解指導では,内容を把握させることに終始しがちであった。読 み取った内容から考えたことを書かせるための技能について,連動した指導をすることができなかった。 そこで,読解指導の改善として,筆者の主張に対しての意見・考えを持たせる指導について研究する。具 体的な取組として論説文を取り上げる。筆者の主張とその根拠がどのような文章展開で表現されているの か。その論理的な筋道を辿る方法として三角ロジックを手立てとして読解指導する。読解した論説文を批 評する場面に置いても,同じく三角ロジックを活用し「根拠」に基づいた自分の考えを表現させる。 また,読解の過程と自分の考えを書くための活動を連動させる活動として「ノート指導」の工夫を行う。 ノートづくりを進めることで,生徒にとっては「一連の思考の整理」ができるという利点があると同時に 指導者にとっては,生徒の学びを確認・補充指導する場として有意義だと考える。さらに,これまでワー クシート中心の授業に頼りがちであった点について改善するべきと考える。 本研究では,論理的な文章展開を中心に筆者の主張や文章の工夫についての読解を前半のひとまとまり とする。読解過程においては,自分の意見を形成し表現することを経験させることで,自分と論説文への 関わりを意識させることになる。さらに,自分自身の経験や考えをふまえて気づいた事,疑問等をノート に表現することで,思考過程が整理されると考える。そして,後半では批評文を書かせることで読みが深 まるものと考え,本テーマを設定した。 〈研究仮説〉 「読むこと」の領域における論説文の指導において,三角ロジックを活用し思考過程の見えるノート指 導に工夫することで,作品に対する自分の考えを論理的に表現する「PISA型読解力」が育つであろう。 研究内容 論説とは 論説とは,国語教育指導用語辞典(第四版)において,「書き手が強調したいことを,論理的筋道を 立てて述べた文章で,読み手を説得したり読み手に共感を求めたりすることをねらいにした文章であ る」と定義されている。社会生活におけるコミュニケーションの難しさに象徴されるように,論説文 についても常に書き手と読み手の双方が価値観を共有しているとは限らない。その為に書き手側には、 読み手を説得・納得させるための文章表現の工夫が必要とされる。また,一方で読み手は,自分の意 見や考えに反する場合においても書き手の論を正確に読解できる力が必要となる。 大内俊光(2011)は,主張を捉える指導過程を「通読して要旨を予想し合い共通点や相違点を明ら

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沖縄県立総合教育センター 前期長期研修員 第 50 集 研究集録 2011 年9月

〈国語〉

論説文における「PISA型読解力」指導の工夫

― 思考過程の見えるノートの工夫と自分の考えを書く指導を通して(第3学年)―

沖縄市立宮里中学校教諭 與志平 洋 子

Ⅰ テーマ設定の理由 21 世紀は,知識基盤社会の到来と同時にグローバル化の進展を受け止め,国際人として急速な変化に対

応できる力が求められている時代である。異なる文化や文明との共存や国際協力の必要性を増大させてい

る時代を生き抜いていくためには,他者を受け入れながら自分自身の考えを明確に示す力が大切である。

平成 20 年に改訂された学習指導要領総則によると,「基礎的・基本的な知識及び技能を確実に習得させ,

これらを活用して課題を解決するために必要な思考力,判断力,表現力その他の能力をはぐくむ(中略)」

と示されている。国語科においては,これらの能力が社会生活に生きて働くよう,一人一人の生徒が言語

の主体的な使い手として,相手,目的や意図,多様な場面や状況などに応じて適切に表現したり正確に理

解したりする力として育成することが大切と示されている。特に言語活動については,各教科・領域等に

おいても取り組む必要が示されており,各教科等の学習の基本ともなる言語活動例を具体的に内容に示し

ている。

平成 22 年度に実施された全国学力・学習状況調査に関して,本校では、B問題の中でも記述式問題の正

答率が 44.8%であり,全国平均正答率に対して 9.7ポイント下回っている。「書かれている内容をもとに,

自分の考えを書くこと」については,40.3%にとどまり,緊要な課題であり取り組むこととした。これま

での授業実践を振り返ると,論説文等の読解指導では,内容を把握させることに終始しがちであった。読

み取った内容から考えたことを書かせるための技能について,連動した指導をすることができなかった。

そこで,読解指導の改善として,筆者の主張に対しての意見・考えを持たせる指導について研究する。具

体的な取組として論説文を取り上げる。筆者の主張とその根拠がどのような文章展開で表現されているの

か。その論理的な筋道を辿る方法として三角ロジックを手立てとして読解指導する。読解した論説文を批

評する場面に置いても,同じく三角ロジックを活用し「根拠」に基づいた自分の考えを表現させる。

また,読解の過程と自分の考えを書くための活動を連動させる活動として「ノート指導」の工夫を行う。

ノートづくりを進めることで,生徒にとっては「一連の思考の整理」ができるという利点があると同時に

指導者にとっては,生徒の学びを確認・補充指導する場として有意義だと考える。さらに,これまでワー

クシート中心の授業に頼りがちであった点について改善するべきと考える。

本研究では,論理的な文章展開を中心に筆者の主張や文章の工夫についての読解を前半のひとまとまり

とする。読解過程においては,自分の意見を形成し表現することを経験させることで,自分と論説文への

関わりを意識させることになる。さらに,自分自身の経験や考えをふまえて気づいた事,疑問等をノート

に表現することで,思考過程が整理されると考える。そして,後半では批評文を書かせることで読みが深

まるものと考え,本テーマを設定した。

〈研究仮説〉

「読むこと」の領域における論説文の指導において,三角ロジックを活用し思考過程の見えるノート指

導に工夫することで,作品に対する自分の考えを論理的に表現する「PISA型読解力」が育つであろう。

Ⅱ 研究内容

1 論説とは

論説とは,国語教育指導用語辞典(第四版)において,「書き手が強調したいことを,論理的筋道を

立てて述べた文章で,読み手を説得したり読み手に共感を求めたりすることをねらいにした文章であ

る」と定義されている。社会生活におけるコミュニケーションの難しさに象徴されるように,論説文

についても常に書き手と読み手の双方が価値観を共有しているとは限らない。その為に書き手側には、

読み手を説得・納得させるための文章表現の工夫が必要とされる。また,一方で読み手は,自分の意

見や考えに反する場合においても書き手の論を正確に読解できる力が必要となる。

大内俊光(2011)は,主張を捉える指導過程を「通読して要旨を予想し合い共通点や相違点を明ら

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かにし,予想が正しいかどうかについて文章構成や内容を読み取らせ,文章全体に立ち返り文章の要

旨を確認させる」とある。

論説文の特性を捉える為には,論理的筋道について考えさせることに主眼を置きながら,筆者の主

張については,自分の考えを合わせ持ちながら読解することで,論理の展開を明確に把握できると考

える。

2 「PISA型読解力」について

文部科学省「読解力向上プログラム」によると,「PISA型読解力」とは,「自らの目標を達成し,

自らの知識と可能性を発達させ,効果的に社会に参加するために,書かれた文章や資料を理解し,利

用し,熟考する能力」と定義されている。「PISA型読解力」では,「何が書かれているか」だけで

なく「いかに書かれているか」,「書かれていることをどう考えるか」が問われている。従って本研究

では受動的な読みと言われた従来の姿勢ではなく,「自分ならこう考える」,「こんな表現をする」等と

課題意識を持たせる手立て

を工夫する。

表1は文部科学省「読解

力向上プログラム」による

「PISA型読解力」の特

徴についてである。本研究

においては,表1の①②③

について工夫し論理的な構

成や表現について指導し,

読解方法で

身に付けた

論理的思考

力で自分の

考えたこと

を書くこと

に生かすと

いう読み書

きの関連指

導に応用で

きると考え

る。

平成 20 年

改訂の中学

校学習指導

要領解説国語編では,「C読むこと」では、「自分の考えの形成」という指導事項が新設された。この

指導事項では,従来もあったように文章の内容やそこに表れているものの考え方に関してだけでなく

表現の形式に関しても自分の考えや意見を持つことが示された。ここでは,「PISA型読解力」を身

につけさせるため、論説文指導の学習展開について図示した(図1)。読解・表現の着眼点として文章

構成や主張の組み立て方について指導を進める。

3 論説文の読解・表現の視点

論説文を読解させ,それについての自分の考えを書かせるという指導を行うにあたり,以下の3点

を共通の視点として設定する。文章構成や三角ロジックについて指導することで論説文を読解する過

程において身につけた論理性は自分自身の考えを書く(主張する)ための手立てとして,有効に機能

すると考える。

(1) 三角ロジック

三角ロジックでは,論の勝敗にこだわるのではなく,どのように説明することでこちら側の意見

見・考えを納得してもらえるかについて考えさせる。論説文の読解では,比較的簡単に理解できる

と思われる主張を確認した上で,その根拠となる事実・理由づけについて考えさせることで論理的

な展開を確認させる。三つの要素がしっかりと関係づけられる事により説得力が生まれることに気

①テキストに書かれた「情報の取り出し」だけではなく,「理解・評価」(解釈・熟考)も

含んでいること。

②テキストを単に「読む」だけではなく,テキストを利用したり,テキストに基づいて自

分の意見を論じたりするなどの「活用」も含んでいること。

③テキストの「内容」だけではなく,構造・形式や表現法も,評価すべき対象となること。

④テキストには,文学的文章や説明的文章などの「連続型テキスト」だけでなく,図,グ

ラフ,表などの「非連続型テキスト」を含んでいること。

表1 「PISA型読解力」の特徴

〈表現〉

文章構成三角ロジック推論(経験・知識)

原稿シート

〈考える〉

ノートの工夫三分割・吹き出し・家庭学習(自由課題・読書メモ)

論説文作品

「論説文」を批評する自分の考えを書くまでの学習の流れ(思考過程)

〈読解〉

文章構成三角ロジックマッピング

記録する・練習する・確認する

思考を広げ・深める

情報の取り出し・解釈 熟考・評価

「PISA型読解力」

情報テクスト

行動表現

思考回路

認知

分析

思考意味づけ・推論・因果関係の認識解釈・判断・批判

論理

図1 思考回路と読解・ノートの工夫・表現の学習過程

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図3 読解を視覚化するシート

表2 主張の型

づかせる(図2)。ディベートの指導では,事実・データの扱いに工夫させて,相手よりもより優位

に自分の意見・主張を述べる為に論の展開を考えさせたが三角ロジックでは,主張者側の考えを明

確に伝えることで,納得してもらうことである。具体的には,事実をどのように解釈・理由づけし

根拠とするのか,筋道を立てて説明・説得し,理解を求

めることになる。根拠の整え方としては,説得力が増す

ようにこれまでの知識や経験をも加味することを含めて

論の展開について考えさせる。一連の活動は,「PISA

型読解力」の学習過程(情報の取り出し・理解・評価・

熟考)と重なる。

本研究においては,その手立てとして目に見えない思

考過程を視覚化するシートを活用する(図3)。上段にお

いて,三角ロジックの定義を確認させ,主張・事実・理

由づけの関係を例文も参考にし,理解させる。漠然とし

ている思考を文字・図に示すことで,概念を認識するこ

とが可能となる。三角ロジックの三つの枠を埋めること

で,論理の三要素が確認出来る為,読解や文章表現の場

面において,論理的に思考を整理し理解させる指導の手

だてとして活用する。

(2) 文章構成

生徒作文の中には,文章の構成について,三段構成の形式をとりながらも,単に出来事の順番に

従って「時系列的」に書いている文章が多い。これは,出来事だけ書いて「何をどう感じ・どう考

えたのか」という総括・結論が抜け落ちている。

渡辺雅子(2004)はこのこと

を「つまりなぜ三段構成で書く

のかという理由が曖昧で意識

されにくい」と指摘している。

つまり主張したい内容がしっ

かりと意識されていないということになる。論説文には,読み手を説得し,納得させたい主張が込

められており,構成や表現に筆者の工夫がある。本研究においては,具体的に主張の位置を示す頭

括型・尾括型・双括型について確認させる(表2)。ここでは,文章全体に対して主張の位置がどこ

にあるのかという確認にとどまらず,頭括型を用いることで,主張を最初で強く印象づける効果が

あることを確認させる。また,逆に尾括型では主張を最後にすることで,結論にいたるまでの根拠

について読み手に丁寧に説明することとなる。双括型では,主張を文章の最初と最後で繰り返すこ

とで読み手に丁寧さを示すことができる。文章構成の基本的な知識として身に付けさせる。自分の

考えを書く場面においては,それぞれの特徴・効果を生かした構成について判断し,表現させるた

めの指導とする。尾括型で構成された論説文を指導するに当っては,根拠を丁寧に読解することに

注意させる。

(3) 文章表現

「PISA型読解力」を身に付けさせる為には,「何が書かれているか」ではなく,「いかに書か

頭括型 「自分の意見」(結論)を読み手に最初に強く印象づけることができる。

尾括型 自分が考えた「根拠」を読み手に丁寧に説明していくことができる。

双括型 「自分の意見」(結論)を読み手に繰り返し丁寧に示すことができる。

図2 三角ロジック

※根拠の適切さにより説得力が異なる

①【主張】学級レクはドッジボールがいい。

【事実】そのルールは全員が知っている。

【理由づけ】ルールを知っていれば,全員がゲームに参加出

来るから。

②【主張】学級レクはドッジボールがいい。

【事実】私はドッジボールが好き。

【理由づけ】好きなものは楽しいから。

※①の方が事実の選択が妥当で,②より説得力がある。

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図4 3分割ノートの記入例

かれているか」ということについて考えさせる。主張がいかに述べられているかを考える為に文章

構成と合わせて,表現の工夫についても指導する。文章の表現工夫として,あえて筆者の主張と相

反する考え方を並べて表現する事がある。それぞれの考え方の違いを確認させたうえで,筆者の主

張を強く訴えようとする方法である。文章に用いられている言葉の持つ意味の違いが考え方の違い

であり,主張の根拠を捉えることができる。対比する表現をすることで,読み手に考えさせるとい

う論の展開は,筆者の意図的な表現工夫であったりする。

対比する表現の意味を考えさせ,効果的な文章展開について考えさせることが可能となる。また

説明的文章において「例えば」で書き出される表現は,筆者の考え方や根拠が具体的に説明されて

いることや「」を使用した筆者独自の表現工夫などについて考えさせる。

4 思考過程の見えるノート工夫について

論説文を読解し自分の考えを表現する指導過程に

おいて,自分自身の思いをめぐらせ,考えをまとめ

させる場としノート指導の工夫に取り組む。相澤秀

夫(2009)は,「特に国語科においては生徒が言葉や

数を操作して,自分の考えや読みを広げ,深める契

機並びにそれを展開する場」と述べている。論説文

の批評文を書くという課題解決に向けて,習得事項

や自分の考え,主体的な学びのノートづくりを工夫

させる。具体的なノート活用について,冨山哲也

(2011)が提唱する学力の3要素の育成につながる

ように見開きを3分割とする(図4)。上段には授業

内容と自分の考えを書き込ませる。「思考」という目

に見えない世界がノートで「言葉」という形で確認

できる事になる。中段は,授業後に語句の練習や通

読に関する家庭学習として活用するスペースとする。

下段は、教材内容から関心をもった事について調べ

た新聞記事の切り抜きや読書記録等の主体的学習を

文章化する。これらは,ノートに学習内容や思考の

過程が整理・蓄積され,いつでも学習の確認・振り

返りを可能とする。また,見開きの上のページを読

解のまとめとして整理させ,下のページを表現活動のための準備として二分割でまとめさせる。記号

や論理的思考を図式化した三角ロジックを活用させる。単元の学習内容を一覧させることで学びの実

感が高まり自分の考えを書く参考にするものと考える。ノート指導と対をなす板書については、一単

位時間の展開を一覧できるように工夫する。本時の目標や発問とそれに対する生徒の多様な考え,考

えの交流等が一覧できること,単元の重要な語句などは常にカードなどで黒板に明示し習得させ,そ

れらを使って思考したり表現したりすることを促す。板書を参考に生徒各自がノートを思考の場とし,

交流することで,読解したことに対する自分なりの考えに深まりが生まれると考える。

5 自分の考えを書く指導の工夫

論説文の批評文を書かせることになるが,論説文をどのように理解したのか,さらに,文章を書く

為に自分の考えをどのようにまとめさせるかについての指導が必要となる。この二点いずれも論理的

な展開について理解できることが必要であり,自分の考えを書かせる手だてとして,読解の過程でも

活用させる三角ロジックを基本にしたワークシート作成が考えられる。また,「PISA型読解力」の

育成をめざすことから批評対象は,主張に対する考えだけではなく,形式や表現にまで広げ書き手の

意欲や関心を尊重することが大切である。書くことは考えることであり,それぞれの学習活動の振り

返りでは,ペアやグループで交流や相互評価をさせ,考えに深まりが生まれるように計画する。論説

文について,三角ロジックを活用し整理することで文章構成を理解させ,さらに筆者の表現の工夫や

考え方を取り上げた読解過程を振り返り,表現させる。その上で見開きのノートに批評文を書くため

の三角ロジックを書かせる。読解から表現までの思考過程を一覧する表現活動・ノート活用が,読解

と表現を連動させた学習となり,自分の意見を書くための学習になると考える。

Ⅲ 指導の実際

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1 単元名 「論理の展開」

2 教材名 「生き物として生きる」(第3学年 光村図書)

3 単元目標 文章の論理的展開を捉え,自分の考えを深める。

(1) 生命科学について関心を持ち,課題について根拠をとらえて読み取る。

(2) 筆者の主張に対して,根拠をもって自分なりの考えや意見を表現する。

4 評価規準

ア 国語への

関心・意欲・態度 イ 読む力 ウ 書く力

エ 言語についての

知識・理解・技能

①論理的な文章展開について,関心を持

ち,ノート等にまとめようとしている。

②人と生命科学との関わりについて,自

分なりの考えを持とうとしている。

①文章構成や变述の工夫に

ついて理解している。

②文章を読むことで,自分

なりの考えや意見を持っ

ている。

①本文からの引用をもとに主

張したいことについて,根

拠(事実・理由づけ)を適

切行い、自分の考えなどを

書いている。

①学年別配当漢字表に

示されている漢字を

文や文章の中で使っ

ている。

5 指導計画(全7時間)

時 目標 学習活動 指導上の留意点 評価規準(評価方法)

○論説文に関心を持って

読み*主張について考え

る。

○マッピングする。「機械・生き物・遺伝子」

○ペアで交流。全体で確認。

○教材文を通読し、主張を探す。

○初読の感想・疑問等をノート・交流。

○語句の確認。

○今日の学習の振り返り

○読解と書く活動の意義づけを行う。

○教材に関する興味・関心を高めると同時に読

解の視点を与える。

○文章構成を意識させる。

○脚注の語句をノート②のスペースへ記入さ

せ,漢字プリントと総合化させる。

○図書室に自由学習の環境作りをしておく。

○マッピングに取り組も

うとしている。(ワーク

シート・発言)ア②

○主張が分かる(ノート)

イ①ア①

○友達の考えなどをメモし

ている。ア②

○論説文の定義が分かる

○三角ロジックを理解す

る。

○「論説文」の定義,「論理の三要素」を知

る。

○論理の三要素を図式化した三角ロジック

を理解する。

○主張を考えながら範読を聴く。

○ワークシート③の演習問題・教材の「主

張」「事実」「理由づけ」を抜き出す。

○論説文の論証(読解)過程について,「主張」

「事実」「理由づけ」を視点とし,教材を読解

させる。

○根拠(事実・理由づけ)と主張の関係を確認

○序論の事実と結論の主張が対応している事

に気づかせ,理由づけについては次時の課題

○感想・疑問等をノートにまとめる。

○論理の三要素を論理的な

展開の仕方を理解してい

る。イ①。(ワークシート

③)

○文章構成を理解している。

イ①

○文章(論理)構成

が分かる。

○本論を三つに分ける。

○前時の三角ロジックで序論・本論・結論

に分ける。

○論説文の三角ロジックを作る

序・本・結論を記入する。

形式段落番号を記入する。

キーワードを書き込む。

○本論の具体例に注意させる。

「例えば」が繰り返されていることに気付か

せる。具体例の表現効果が分かる。

○(便利=機械=思いどおり←→不便=生き物

=思いどおりにいかない,思いどおりにして

はいけない。)

○文章の論の展開方法が分

かる。イ①

○文脈上の語句の意味をと

らえ,論の根拠となる事実

について理解することが

出来る。イ①

○自分の考えを出し合う

○表現技法(「」,具体例,対比する表現)

○対比する表現を抜き出し整理する「思い

どおり」にすることに対する筆者の考え

を理解する。

○子どもは「授かる」「作る」のどちらとす

るか、自分の考えを書く。

○ノート交換し、他者の考えを参考にする

○(機械=設計図,人間=遺伝子について,そ

の特性を読み取っているか。)

○筆者の主張となる根拠について、「自分の考

え」を持たせる。

○本文読解について、主張・事実・理由づけの

関係が整っている⑫段落について取り上げ

る。

○表現の効果について考え

ることが出来る。イ①

○人間,社会などについて自

分の意見を持つことができ

るイ②

○主張を支える根拠が分か

る。イ①

5

○筆者と自分の考えをま

とめる。

○筆者の主張について確認する。

○形式段落⑯筆者の考えの根拠(本論から)

探すことができる。

○主張の型を確認する。(ワークシート④)

○表現の工夫をまとめる。

○作品全体をノートに表現する。

○各自ノートに学習内容を図式化

○(筆者の主張について,まとめることが出来

るか。※1時間目にワークシートで実施)

○筆者の主張や文章表現等について評価(批

評)する。表記内容として(全体構成,段落

関係,表現,三角ロジック,感想等)を提示

する。・「例えば」の具体例がある。・対比にな

る表現がある。・「」が使われている。

○論理の展開や表現の仕方

が分かる。イ①

○関心のある事柄に関して

書くことができる。ウ①

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図5 論理の三要素が整っているか。

6

56

16

24

75

14

3

6

0% 25% 50% 75% 100%

事後

事前

①主張のみ ②主張+根拠③主張+根拠の整合性 ④無答

① ② ③ ④

○自分の考えを論理

的に書く。

○三角ロジックを参考に論理の三要素を書

く。(相互評価・交流)

○構成を考え,構成欄に明記する。

○接続語を検討し,構成枠を文章化する。

○ワークシート⑤に(400 字)について,

「自分の考え」を批評文を書く。

○(本文から根拠などを引用し,自分の知識や

経験と関連づけて,教材に対する自分の考え

を書かせる。(評価票で考えを交流させる)

○効果的な表現について考えさせる。

○原稿用紙の使い方や表記に注意して書く。

○教科書巻末を(常用漢字)活用させる。

○論理の展開や表現の仕方

が分かる。イ①

○関心のある事柄について

書けるウ①

○教科書巻末の常用 漢字

を活用する。エ①

○考えの

交流・振り

返り

○清書・グループ発表を行う。

○全体へ2・3名の代表で発表。

○まとめ(発表の感想・振り返り)

○(発表1分+メモ・準備)一斉進行させる。

○全体は,教師で評価コメントする。

※読書指導

○文章を読み合い,お互いの

考えに深まりが生まれた。

イ②

6 本時の計画(6/7時間)

(1) 本時のねらい 作品に対するする自分の考えを論理的に書く。

(2) 授業仮説 三角ロジックで,論理の三要素が明確になり自分の考えを書くことができるであろう。

7 仮説の検証

論説文の読解過程や作品に対する自分の考

えを書く際に「三角ロジック」を活用させ,そ

の過程をノートに工夫しまとめることで,作品

に対する自分の考えを表現する「PISA型読

解力」の指導として有効かどうかについて,生

徒ノート,ワークシート,事前事後の調査結果,

生徒感想,批評文から分析・考察する。

(1) 論理の展開について

これまでの話合い活動の様子を振り返る

と,他者に向かって自分の考えや意見を述べ

る時に論の筋道を意識し,その根拠を整えて考えたり書いたりということが出来ていないことが多

かった。主張に至るまでの考え方や根拠の説明が不十分であることもその一因と考えられる。

本研究においては,筆者の考え・主張が込められている論説文の読解・表現において,結論まで

の思考過程を整えるために論理の三要素「主張」,「事実」,「理由づけ」を視点とした指導結果を検

証する。

論理的な思考について指導する手立てとして三角ロジックを取り入れたが,自分の考え・意見に

ついて,どの程度筋道立てた論理的な展開がされているかの事前・事後調査の結果である(図5)。

程 学 習 活 動 指導上の留意点 評価規準

1 書き方の手順を確認する。

・ワークシート⑥で文章書きの手順を確

認する。

・学習のめあてを表示し,学習の見通しを持たせる。

(ワークシート拡大コピーで一斉指導)

○論理の三要素を

論理的な展開の

仕方を理解して

いる。ウ①。

○接続に注意し展

開に工夫してい

る。イ①

学習の目標を理

解し振り返りが

出来ている。

○評価シートを介

してお互いの文

章を参考にして

いるイ②

2 三角ロジックを作る。

・読解した論説文に対する考えを持つ。

・教師の説明と生徒の例文紹介。

・例文を参考にしたり,意見交換する。

3 三角ロジック評価シートで交流する。

4 三角ロジックを再検討し、主張の型を決

める。構成欄に記入する。

5 三角ロジックを構成欄に文章化する

6 解説文評価シートで交流をする。

・論説文に対する自分の主張を決め,事実・理由づ

けを考えさせる。(全体で共有し確認)

・手順の説明に添って他者2名に評価・記入させる。

・評価を参考に三角ロジックを整え,文章構成に工

夫させる。

・双括型は,構成欄を 4 つ使うことになる。

・ロジックを文章化する為の接続語に気づかせる。

・手順の説明に添って他者2名に評価・記入させる。

7 今日の振り返り

次時の学習内容を確認。

・自分の考えを書く事が出来たか。

・交流を通して,他者の考えを参考にすることが出

来たか。

論説文への(自分の考え)を論理的に書こう。

N=34

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●「生物」「遺伝子」「機械」の見方が変わった。

●友達と見比べると違うところをたくさん書いてい

たので,考えることがみんな違うなあと感激した。

●違う言葉がありなるほどと思ったね。

表3 マッピングの感想

はい

85%

いいえ

15%

事前調査では,自分の考えを他者に向けて述べる場合に根拠を持たずに主張のみという①が 34人中

19人(56%)を占めていたのに対して,事後調査においては,③主張と根拠を整えて述べた生徒は

26人(75%)となり成果が見られる。

(2) 三角ロジックの有効性

これまでの説明的文章の指導では,筆者の主張の読解に偏る傾向にあり,論理的に筋道立てて考

えることを意識させることが充分ではなかった。根拠について考える学習に関しても,生徒は当初

混乱や面倒だという様子であった。しかし,論説文や自分の考えを「事実」,「理由づけ」,「主張」

の三角ロジックに当てはめられるようになると,論理的展開のおもしろさや大切さに気づくように

なった。生徒の発言にも「何が言いたいの?主張は?」とか「なぜ,そう考えたの?理由は?」と

互いで問いかけるようになり,論理の三要素を意識し論理的に考えようと意識するようになった。

ワークシートを活用して形式段落 12と 17について,本文をその主張と事実,理由づけの三角ロ

ジックに抜き出させて整理させた。その結果,形式段落 12については,表現が明確な事もあり主張,

事実,理由づけを抜き出すことができていた。しかし,形式段落 17に関しては,その主張の根拠と

なる「事実」と「理由づけ」の扱いについては難しさがあった。数字やデータの場合は容易だが,

文章表現については多尐の混乱が生じがちである。授業では論理の展開を考えさせることを優先し,

主張を支える根拠についての指導を組み立てた。語彙の検討に吟味し三点を取り上げるよりも,主

張に対してどのような根拠(事実・理由づけ)

であるのか,主張と根拠の二点で捉えさせた。

授業後に論説文の読み取りができたかのア

ンケートに関して,できた(23%),どちら

かといえばできた(50%)と合わせて7割を

超える生徒が読み取れたと実感している。

「論理の三要素が理解できたから」または

「三角ロジックを使うことで分かりやすか

った」との回答があった。

三角ロジックを用いたことについて,事後

調査において,読解で 34人中 32人(94%),

表現で 34人中 31人(91%)と学習の手立て

として高い有効性を示した(図6)。一方で,

読み取れたと感じていないおよそ3割を占める生徒の回答

には,論理展開を考える以前に「漢字が分からない」,「難

しい言葉が多い」と有り,言語事項の習得については今後

とも課題である。

(3) 「PISA型読解力」について

「PISA型読解力」では作品の読解だけでなく,作品

を批評する力を育てることから,詳細な読解のための時間を縮小する

ことに取り組んだ。書き手の主張や文章構成,表現の工夫などについ

て,読み手自身の考えを持たせるための指導について検証する。

① 文章構成と文章表現について

単元の導入として、論説文の展開に関わる「生き物」,「遺伝子」,

「機械」のタイトルをマッピングさせ,ノートを交換させた。3つ

のタイトルは,文章展開のキーワードである。文字にして表現する

ことで初めて自分の考えを認識する様子や他者のノートから意外な

発想への感慨や新たな気づきが感じられる。自分が描くイメージと他者の考えとの隔たり,筆者

が意図したこととのずれを確認していた(表3)。論説文を理解する過程や批評文を書く過程にお

いて,自分や他者との考えを比較させる指導を行った。

検証後のアンケートから,授業での活動を通して,他人の考えを参考にしたという生徒が 85%

で「ものの見方が変わった」等の回答があり,自他の考えの相違を意識している(図7)。論説文

の特性をどのような方法で理解・解釈させるのか,今回の学習に限らず作品読解の視点について

は,文章構成を視点とさせるために「序・本・結論」のそれぞれを構成している段落番号を把握

図6 三角ロジックの有効性

44

53

47

41

6 3

6

0% 25% 50% 75% 100%

表現

読解

①大変役に立った ②役に立った③あまり役に立たなかった ④役に立たなかった

N=34 ① ② ③④

図7 考えの参考

他人の考えを参考に

しましたか

参考にしたか。

N=34

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表4 文章構成と形式段落の習得について(N=34)

読解のための習得事項 事前 → 事後

A 文章構成が分かる 41% → 65%

B 対比する表現が分かる 31% → 76%

させノートに図示させた(図8)。生徒感想

では「序・本・結論を意識して読むことで

理解しやすくなった」,「読み手に分かりや

すく説明する工夫があった」と有り,文章

の構成や表現についての基礎的な事項の定

着が進んだ(表4)。どのように書くことで

効果的なのかと考えたことで「PISA型

読解力」の指導へつながったものと考察す

る。

さらに,主張(結論)を文章全体のどこ

に置くことで,より効果的な文章表現とな

るかという点に注目させた。6時間目の授

業では,実際に批評文「自分の考えを書く」

という場面で各自が文章構成について,頭

括・尾括・双括型の効果を検討し,表現活

動に取り組んだ(図 15)。

文章の表現については,特に対比する表

現や具体例の多さに注目させた(写真1)。

黒板に対比する表現を抜き出し,それぞれ

の語句の意味と考え方の違いを確認させた。

次に,赤ちゃんを「授かる」と「作る」の

場合,自分ならどちらを選択するのか発問

し,各自の考えを照らし合わさせた。この

事は,筆者の主張を支える根拠について理

解させる指導でもある。実際に生徒作文に

は,「作者は……と述べていたが,私は……

と考える。」等と論説文の構成や表現,内容

について他者の考えも引用し,自分の考え

との比較がされていた。

② 詳細読みを補完する読解の準備

単元の終盤で「自分の考えを書く」とい

う学習の見通しを持たせたことで,生徒は

主体的な学習に取り組んだ。批評文を書くためには,作品が理解されていることが前提であり,

文章を繰り返し読むことが必要になる。読後の感想や分かったこと等の記録を提示すると,ノー

トに各自の考えや感想を書く等の取り組みが確認できた(図 10)。事前調査(図9)では,読む

必要を感じていない等の理由から 34人中 27人(78%)の生徒が授業以外では全く取り組んでい

ないと回答しているが,事後調査では 34人中 15人(44%)に減尐し,授業以外においても主体

的に学び,考えを形成しようとする傾向が見られた。

また,漢字の書き取り練習や副教材の国語便覧から,「意見文の書き方」,「文章構成」等と授業

図9 授業以外での本読み

6

6

26

3

24

13

44

78

0% 25% 50% 75% 100%

① ② ③ ④① ② ③ ④

①3回以上 ②2回 ③1回 ④読まない

N=34

図8 生徒ノート・文章構成と表現の工夫

写真2 図書館での自由学習

写真1 対比する表現

図 10 対比する表現について

図 10 生徒ノート・自由学習欄

図 13自由学習のノート

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図 13 自分の考えを書くシート

図 12 文章構成を意識して読んでいますか。

内容に関連する項目を選び出しまとめた生徒もいた。指導者が学習日を特定するのではなく,読

解を助ける環境づくりとして,図書館に関連するコーナーを設置し活動を促した(写真2)。10

名程度の生徒は放課後等を活用して自

分の意見・考えを形成する調べ学習に

取り組んだ。論説文の内容に関する情

報や考えを批評文に引用した生徒は2

名だったが,作品に主体的に関わらせ,

課題解決への手立ての定着をねらいと

することから,取り組みの継続は有意

義だと考える。

(4) 思考過程の見えるノートの工夫

学びの振り返りとしてノート活用させ

るために,具体的に次の事項についてま

とめさせた(図 11)。上のページには論

説文について読解した内容をまとめてい

る。文章構成については,a全体と b本

論部分に含まれる形式段落 12 について

三角ロジックを作成し,それぞれに対応

する序論・本論・結論と形式段落番号を

記入している。文章構成に注意して読ん

でいるか(図 12)の事前調査では,「意

識して読んでいる,どちらかと言えば意

識して読んでいる」が 40%から事後調査

では 65%に増え,文章構成が読解の視点

として意識された結果と考えられる。

また,表現の工夫として用いられてい

る技法などを書き込むことで,あらため

てその効果と意味を振り返っている。つぎに,下

のページには,批評文を書くためにc「私の考え!

三角ロジック」を書いている。さらに,生徒はそ

れぞれの工夫によって感想や疑問,調べた情報等

を批評文の参考にしていた。見開きのページで読

解から表現へと思考する過程をまとめ,これまで

の学習を一覧できるノートは効果的であると考え

る。

(5) 「自分の考えを書く」ための指導の工夫

批評文を書くことが出来るように,具体的な

手順を示したワークシート(図 13)を活用させ,

読解の過程で活用した三角ロジックAを記入

させることで,論理の三要素を明確にさせた。

Bでは三つのロジックをどう位置づけると効

果的な文章構成かと考えさせた。次にCでは,

原稿の下書きとして三つのロジックを文章化

させた。双括型のみ四つの枠を埋めることにな

る。それぞれの枠を繋げる接続語に注意し表現

の工夫を意識している。AやCの活動後には,

評価票を活用し他者からの助言を取り入れさせ表

現過程の参考として効果的であった。読解過程と

同じ手立てを表現活動でも取り入れたことは,論理的に思考させることに有効だったと考えられる。

(6) 批評文についての検証

図 12 自分の考えを書くシート

図 11 思考過程の見える生徒ノート

読解→表現

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表5 批評文について

(テーマ)

内容 11,構成2,表現 19,他2

(主張の型)

頭括3,尾括4,双括 25,他2

読解・表現の視点を内容に限らず構成や表現への視点も示した事で,題材のひろがりが見られた

(表5)。「自分の考えを書くこと」を得意と感じているかどうかの調査結果を考察する(図 14)。

事前では「不得意」の 38%が,事後では 15%まで減尐しており,自分の考えを持ち,書くことの指

導は効果的だと考察できる。また,「得意」の 16%が事後では3%と大幅に減尐してはいるが,論

理的に読解・表現出

来るかどうか(図5)

についての事前調査

では 14%が,事後で

は 75%の生徒が出

来ていることから,

生徒自身が評価の視点を認識できたことで

自己評価が厳しくなったと考えられる。「文

章を書くこと」は「論理的に書けること」だ

と意識したものと考察できる。「PISA型

読解力」指導の成果として,A4,1枚程度

(400字)の批評文を書けており,根拠につ

いては 51%が自身の体験・知識を盛り込んでいる。また,81%の生徒が自分の言葉での表現に工夫

し,主張を最初と最後で述べる双括型(図 15)においても全く同じ繰り返しではなく論説文につい

ての思考過程が感じられる表現になっている。生徒感想(表6)からも読解と表現活動を通してそ

れぞれの考えが深まったものと考える。

Ⅳ 成果と課題

1 成果

(1) 論説文についての読解過程や表現過程において,三角ロジックを活用したことで,「PISA型読

解力」指導において効果があった。

(2) 論説文の読解した内容・構成・表現と自分の考えを見開きノートで一覧させたことで,論理的展

開に気がつき表現活動へとつながった。

2 課題

(1) 論理性を確実に身につけさせるためには,根拠の整合性について反復的・螺旋的な継続指導が必

要である。

(2) 情報の取り出し理解・熟考・評価の指導について3年間の系統的な計画と指導が必要である。

〈主な参考文献〉

有元秀文編 2010 『PISA型読解力が必ず育つ 10の鉄則』 明治図書

鶴田清司 2010 『対話・批評・活用の力を育てる国語の授業』 明治図書

相澤秀夫編 2009 『中学校国語科PISA型読解力を培うノート&ワーク』 明治図書

3

16

32

16

50

31

15

38

0% 25% 50% 75% 100%

事後

事前

①得意 ②どちらかと言えば得意③どちらかと言えば不得意 ④不得意

図 13 自分の考えを書くシート

① ② ③ ④

N=34

0% 25% 50% 75% 100%

図 14 自分の考えを書くことは得意ですか。

○論説文をいろんな視点で考えられた。

○色んな意見を聞いて,少し見方や考え方が

変わったと思います。

○インターネットや図書館で調べたりした。

○三角ロジックの学習は数学の授業なども

同じように,何かを説明するために必要だと

思った,

図 15 生徒の批評文

表6 生徒感想 構成の要素を記入 主