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- 19 - *1 開発本部 第四開発部  *2 2010 年8 月退社(四輪事業統括本部 四輪第二開発部) HVAC システム内流体騒音シミュレーション Numerical Simulation of Flow-Induced Noise in Automotive HVAC Systems A computational fluid dynamics (CFD) approach for the prediction of sound generation in automotive Heating Ventilating Air Conditioning (HVAC) systems is investigated. Experimental and numerical results are presented and discussed. A standard CFD approach with Ffowcs Williams-Hawkings (FW-H) method is used to predict the sound generation. We are interested in the flow-induced noise for the case including a rigid boundary and focus on the flow-induced noise due to dipoles only. The transient turbulent flow is simulated with Large Eddy Simulation (LES). The CFD result yields the Sound Pressure Level (SPL) peak around at the same frequency obtained by experiment. Key Words: CFD, Noise/LES, Aero acoustics, Computational aero acoustics, Lighthill, HVAC, Ffowcs Williams- Hawkings 1.はじめに 自動車用 HVAC システムの開発における CFD 技術が長足の進歩を遂げている.また同 時に CFD 自身の数値的な手法も様変わりをし ている.1990 年代当初は HVAC システム内空 気流れのおおよその可視化を目指した程度で あり (1) ,乱流を考慮した計算など当時のマシ ンパワーやノウハウを考えると問題外であっ た.しかし今や乱流モデルはシミュレーショ ンの中にデフォルトで組み込まれており,無 意識のままにシミュレーションを実行してい るという時代となった.HVAC システム開発 において CFD が担う役割の中心的課題は空気 流れの温度分布であり,その解決の鍵を握る のは温冷風の混合を如何に精度良く実行する かであろう.しかしながら市販ソフトのよう に汎用性を重視したコードによる温冷風混合 問題の解決は難しく,現時点では燻ったまま のようである.一方で,流体の非定常運動によ り発生する音は 1950 年ごろ Lighthill により 論文 小 野 寺   淳 *1 伊 藤 榮 信 *2 Jun ONODERA Shigenobu ITOH ※ 2012 年 8 月 30 日受付,(公社)自動車技術会の許諾を得て,2010 年春季大会学術講演会前刷集 No.64-10,310-20105337 より,加筆 修正して転載 研究され (2),(3) ,これが近年の CFD 技術の進 歩により実用化の段階まで漕ぎつきつつある. さて,HVAC システム開発において通常最 終段階に現れる問題のひとつに異常な音(以 下,異音と略)発生に関係するものがあるが, これを設計初期段階で解決しておくことが開 発期間短縮には重要となる.その一翼を担う として期待されるのが上記 CFD による流体 騒音シミュレーションである. HVAC システムで問題となる異音としては さまざまなものがあるが,その中でも流体騒 音に関するものが多い.HVAC システム内で 発生している流体騒音の CFD による先駆的な 研究は Ayar ら (4) により行われているが,こ れはコンピュータシミュレーションという観 点からも包括的な問題に取り組んでいる.ま たこれに類する発表もある.一方で HVAC シ ステムにおいて発生している具体的な問題と 思われる異音,例えば特定周波数域にピーク をもつような音の問題とその対策に関する報 告はこれまでにない.我々は問題をこの現象

論文 HVACシステム内流体騒音シミュレーション-22- HVACシステム内流体騒音シミュレーション また,時間進行法については2次精度の

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- 19 -

ケーヒン技報 Vol.1 (2012)

*1 開発本部 第四開発部  *2 2010 年 8 月退社(四輪事業統括本部 四輪第二開発部)

HVACシステム内流体騒音シミュレーション※

Numerical Simulation of Flow-Induced Noise in Automotive HVAC Systems

A computational fluid dynamics (CFD) approach for the prediction of sound generation in automotive Heating Ventilating Air Conditioning (HVAC) systems is investigated. Experimental and numerical results are presented and discussed. A standard CFD approach with Ffowcs Williams-Hawkings (FW-H) method is used to predict the sound generation. We are interested in the flow-induced noise for the case including a rigid boundary and focus on the flow-induced noise due to dipoles only. The transient turbulent flow is simulated with Large Eddy Simulation (LES). The CFD result yields the Sound Pressure Level (SPL) peak around at the same frequency obtained by experiment.

Key Words: CFD, Noise/LES, Aero acoustics, Computational aero acoustics, Lighthill, HVAC, Ffowcs Williams-Hawkings

1.はじめに

自動車用 HVAC システムの開発におけるCFD 技術が長足の進歩を遂げている.また同時に CFD 自身の数値的な手法も様変わりをしている.1990 年代当初は HVAC システム内空気流れのおおよその可視化を目指した程度であり(1),乱流を考慮した計算など当時のマシンパワーやノウハウを考えると問題外であった.しかし今や乱流モデルはシミュレーションの中にデフォルトで組み込まれており,無意識のままにシミュレーションを実行しているという時代となった.HVAC システム開発において CFD が担う役割の中心的課題は空気流れの温度分布であり,その解決の鍵を握るのは温冷風の混合を如何に精度良く実行するかであろう.しかしながら市販ソフトのように汎用性を重視したコードによる温冷風混合問題の解決は難しく,現時点では燻ったままのようである.一方で,流体の非定常運動により発生する音は 1950 年ごろ Lighthill により

論文

小 野 寺   淳*1 伊 藤 榮 信*2

Jun ONODERA Shigenobu ITOH

※ 2012 年 8 月 30 日受付,(公社)自動車技術会の許諾を得て,2010 年春季大会学術講演会前刷集 No.64-10,310-20105337 より,加筆修正して転載

研究され(2),(3),これが近年の CFD 技術の進歩により実用化の段階まで漕ぎつきつつある.

さて,HVAC システム開発において通常最終段階に現れる問題のひとつに異常な音(以下,異音と略)発生に関係するものがあるが,これを設計初期段階で解決しておくことが開発期間短縮には重要となる.その一翼を担うとして期待されるのが上記 CFD による流体騒音シミュレーションである.

HVAC システムで問題となる異音としてはさまざまなものがあるが,その中でも流体騒音に関するものが多い.HVAC システム内で発生している流体騒音の CFD による先駆的な研究は Ayar ら(4)により行われているが,これはコンピュータシミュレーションという観点からも包括的な問題に取り組んでいる.またこれに類する発表もある.一方で HVAC システムにおいて発生している具体的な問題と思われる異音,例えば特定周波数域にピークをもつような音の問題とその対策に関する報告はこれまでにない.我々は問題をこの現象

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HVACシステム内流体騒音シミュレーション

こ こ で ,V は 音 源 が 分 布 す る 体 積 ,R はR = |x - y| で,x は観測者の位置,yは音源の位置である.また,

ijjii enppnf +−−= )( 0 (5)

である.n i は面の方向ベクトルの i 成分である.この解は Ffowcs Williams-Hawkingsにより導出された(3).(4)式右辺の第1項は Lighth i l l の理論に現れる4重極を表し,第2項が固体壁の存在によるもので2重極音源を表している.空気中の音を考える場合,通常粘性による影響は無視できる(eij = 0)ので,右辺第2項には圧力の項のみが残る.さらに,

∂∂

−=

∂∂

000

1

c

Rtf

tR

x

cc

Rtf

xi

i

を考慮すると,(4)式2重極項の偏微分計算部分は

t

f

R

x

cRO

x

f

Rf

R

x

Rc

Rtf

Rxii

i

ii

ii

i ∂∂

−=∂∂

+−=

∂∂ −

20

22

0

1111 ( )

となり,R →∞のとき O(R -2)の項は無視することができる.従って,最終的には(4)式の2重極項は

)(d4

1'

20

ySnR

x

cp

Si

i ∫ t∂p∂

π (6)

となる.ここでは(4)式両辺に c02 をかけ圧力

にした.シミュレーションではこの圧力の時間変動を記録する.

3.HVACシステム内で発生する流体騒音

HVAC システムから発生する音で不快をもよおすものについては厳しいチェックを受けその対策が必要となる.これら異常な音の種類はいくつかあるが,その中で SPL グラフ上,特定周波数にピークをもつものがある(参Fig. 2).

に絞りそのシミュレーションによる再現を試みた.HVAC 内空気流れのマッハ数は 0.2 よりも充分小さく,音の強度としては 4 重極音よりは2重極音のほうが充分に強く,従って,この2重極が発生する音のみを対象とし,これが CFD によりどこまで再現できるか,さらにシミュレーションによる対策事例について報告する.

2.Lighthill による空力音響学

流体騒音解析コードが基礎とする波動方程式は

=−jx∂ix∂c2

0

ijT∂2

∇2 'ρc ∂∂

220

2 '

τρ

(1)

であり,これは Lighthill 方程式と呼ばれている.ここで,r ' は密度,c0 は音速,Lighthill 応力テンソル Tij は

ijijjiij ecppvvT −−−−+= )]([ 0200 ρρδρ (2)

で あ り ,ei j は 粘 性 応 力 テ ン ソ ル で あ る .Lighthill 方程式は流体の質量,運動量,エネルギ保存の3つの式から導出される.ここでエネルギ保存則とは微小変化が断熱的に起こるとした,断熱関係式である

'' 20ρcp = (3)

を指している.ここで r ' = r - r 0 であり,p ' も同 様 で あ る .同 式 右 辺 は 波 動 方 程 式 の 源

(source)であり流体自身の運動により生成される音源であることが分かる.

流れ場の中に固体境界 S がある場合(簡単の為,固体境界は流体中で静止しているとする),Lighthill 方程式の解は

)(d1

4

1

d1

4

1'

020

0

2

20

y

y

Sc

Rtf

Rxc

c

RtT

Rxxc

Si

i

Vij

ji

∫∫

∂∂

∂∂∂

=

π

πρ

(4)

Page 3: 論文 HVACシステム内流体騒音シミュレーション-22- HVACシステム内流体騒音シミュレーション また,時間進行法については2次精度の

- 21 -

ケーヒン技報 Vol.1 (2012)

この現象は流れの中に正帰還が発生し自励音が発生していると考えられ(6),笛吹き音と称している.走行時これらが乗員に聞こえるほど大きな音ではないが,それでも HVAC 付近に耳をつけて聞こえるようなものであるならば対策しなければならない.

Case1:ブロワ内外気切換えダンパ部隙間ブロワ入口に付けられた内外気切換えの

ためのダンパ(板)が完全に閉じず,隙間が生じそこを通過する空気流が原因と考えられる音の例である(Fig. 1).測定によればこれは4 KHz 付近で発生している(Fig. 2).

Case2:温冷風混合用ダンパ開閉部隙間エバポレータを通過した冷風はダンパ角度

により配分され一部はヒータを通過しこの温風と前述の冷風が混合し目標温度を達成させる.ダンパが流路を調整しエバポレータからの空気量を制御する.この時,隙間を通過する

流れが発生する(Fig. 3),これが流体騒音を誘起している例である.

この場合およそ 700 Hz にピークが現れる(Fig. 4).

Fig. 1 The gap formed on a top of FRE/REC switch damper

Sound SourceDamper

Blower

Fig. 2 Frequency spectrum of SPL by experiment (Case 1)

30

35

40

45

50

55

60

0 1000 2000 3000 4000 5000

Frequency [Hz]

SPL

[dB

]

Peak

Fig. 3 Narrow passage near a shutout rib

Sound Source

Damper

HVAC

Fig. 4 Frequency spectrum of SPL by experiment (Case 2)

-10

0

10

20

30

40

0 500 1000 1500 2000

SPL

[dB

]

Frequency [Hz]

Peak

4.数値シミュレーション内容および結果

時間変動する流れ場をシミュレーションするため平均流を扱う k-e 乱流モデルではなく,LES(スマゴリンスキーモデル採用)を使用した.メッシュ最小サイズは各々の事例でスマゴリンスキーモデルが成立するとされるKolmogorov スケールh の 50~100 倍程度の

(慣性小領域内に入る)長さとした.なお,h とレイノルズ数 Re との間には

LeR 4/3−=η (7)

の関係がある.ここで L は注目箇所の代表的な長さである.

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HVACシステム内流体騒音シミュレーション

また,時間進行法については2次精度のAdams-Bashforth 法を使っている.

音源探索については実験から既に音源位置の見当がついているので必要はないが,実験による推測とシミュレーションによる音源位置予測との整合性を見るために,マッハ数が小さい場合に適用できる,Powell の方法(5)を使った.

最後に,シミュレーション実行時の時間刻み幅 D t について記す.時間刻み幅の選定は目標とするピーク周波数を捉えきれる程度に設定すべきであろうが,クーラン条件 C =(物理的な伝播距離 uD t)/(数値的な伝播距離 D x)まで考えると,かなり小さく設定しなければならなかった(D t = 1×10-5 [s ]).これは,LES用メッシュサイズ D x の小ささが一因である.

Case1:ブロワ内外気切換えダンパ部隙間音が発生していると考える隙間での Re

は 1200 程度である.よって(7)式よりKolmogorov スケールはh = 0.006 [mm] となるので,注目箇所付近の最小メッシュサイズを 0.2 [mm] とした.この場合,総メッシュ数は約 640 万となった.流れのシミュレーション結果の流速を Fig. 5 に示した.Fig. 6 は音源の分布を表しているが,着目している部分で最大となっており,これは実測を考慮すると予想通りの結果である.

本題である(6)式を表す圧力時間変動のシミュレーション結果を Fig. 7 に示した.このFFT の結果が Fig. 8 である.

Fig. 8 から分かるようにシミュレーションで得られた結果は実測 Fig. 2 の結果とよく一致することがわかる.

さらに,隙間部の流速を変化させシミュレーションを行った結果,ピークとなる周波数が変化することを確認した.これはピーク発生原因が正帰還であることを裏づけている.因みに,シミュレーション結果から隙間での流速は約 U = 12 [m/s ],また隙間幅は約L = 2.8 [mm] である.よって U/L によりこの領域での特徴的な周波数を計算すると 4.3 kHzが得られる.これは実測のピーク周波数 4 kHzとおおよそ一致する.

Fig. 5 Velocity distribution around the gap

V [m/s]

Damper 16.7

12.5

8.4

4.2

0.0

Fig. 6 Sound source distribution by Powell

Sound Source

Damper

1814321152

817799616

-178721920

-1175243520

-2171764992

Fig. 7 Pressure fluctuation represented eqn. (6)

-0.015

-0.005

0.005

0.015

0.05 0.07 0.09 0.11

Pres

sure

[Pa

]

Time [s]

Fig. 8 Calculated SPL spectra for Case 1

-20

-10

0

10

20

Frequency [Hz]

SPL

[dB

]

0 50004000300020001000

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ケーヒン技報 Vol.1 (2012)

シミュレーションによる異音対策としてダンパ受けの形状を2つ提案し(Fig. 9),その結果の周波数特性を調べた.初期形状とこれら2つの SPL 特性を Fig. 10 に示した.対策案として提言した形状が騒音を低減していることが分かる.

Case2:温冷風混合用ダンパ開閉部隙間この事例の隙間における Re は 5500 程度と

なるのでηは 0.011 [mm] 位となる.ここではこれの 20 倍程度の充分に小さなメッシュを作成した.総メッシュ数は約 1200 万となった.シミュレーション結果である流速を Fig. 11

に示す.Powell による最大音源位置の結果,Fig. 12 は予想通りであった.

シミュレーションによる SPL 結果を Fig. 13に示した.図からも分かるようにシミュレーションではおよそ 520 [Hz ] にピークが現れ,一方実測では 700 [Hz] 付近であり(Fig. 4)一致はしていないがピークの出現は確認できる.

異音を低減するための対策形状とシミュレーションによる流れ場を Fig. 14 に,またその周波数特性を,Fig. 15 に示した.対策によりピークの音圧レベルが低減したことがわかる.

Fig. 9 Newly designed shape to improve noise problem

Type1 Type2

Damper Damper

Fig. 10 Comparison of calculated SPL for improved shape

-40

-30

-20

-10

0

10

20

0 1000 2000 3000 4000 5000

SPL

[dB

]

Frequency [Hz]

Type1

Original

Type2

Fig. 11 Velocity distribution (Case 2)

13.2

9.9

6.6

3.3

0.0

V [m/s]

Damper

Fig. 12 Sound source distribution by Powell (Case 2)

188376304

91541936

-5292424

-102126784

-198961152

Sound Source

Damper

Fig. 13 Calculated SPL spectra for Case 2

0

-30

-20

-10

10

20

30

Frequency [Hz]

SPL

[dB

]

0 200015001000500

Fig. 14 Improved model of narrow passage and flow field

15.7

11.8

7.9

3.9

0.0

V [m/s]

Damper

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HVACシステム内流体騒音シミュレーション

5.まとめ

HVAC システム開発においてしばしば発生するいわゆる異音の,CFD による,再現およびその対策のためのシミュレーションを行った.その結果,次のことが分かった.

(1) 流体騒音シミュレーションにより異音と呼ばれるピークをもつ周波数を再現できた.

(2) 異音対策として音源となる渦が発生しにくい隙間形状を考案し,その形状についてもシミュレーションを行った結果,異音ピークの音圧レベルを低減することができた.

参考文献

(1) 伊藤榮信 他:熱交換器用フィン周りの空気流れの数値解析と可視化実験,日本機械学会論文集(B 編),61 巻,582 号 p.564-571 (1995)

(2) 神部勉:流体力学の展望「流れと音」,日本流体力学会 (1983)

(3) M. E. Goldstein,今市,辻本訳:流体音響学,共立出版株式会社,第2章,第3章 (1991)

(4) A. Ayar et al.: Prediction of Flow-Induced Noise in Automotive HVAC Systems Using a Combined CFD/CA Approach, 2005 SAE World Congress, 2005-01-0509 (2005)

著 者

小野寺 淳 伊 藤 榮 信

近年の HEV や EV に代表されるように車の静粛性能が格段に向上している.車室内に搭載される空調装置(HVAC~ブロワ)においても例外なく静粛性が求められ,開発現場では苦慮している状況にある.本報告で示した流体騒音シミュレーションについては,2007 年頃より開発適用を目指した取り組みを行い現在の活用に至るが,音問題全てに対応できるものではなく,よって今後更なる改善(例えば共鳴音考慮)が必要である.(小野寺)

ここで扱っている流体音とは空気力学的な運動により発生した音を意味しており,物体などの振動によるものではない.その根幹はLighthill によるものである.筆者が Lighthillの空力音響学に出会ったのは 30 年程前であったが,凡人である筆者には Lighthill の妄想としか思えなかった.何せ,流体の運動を司るNavier-Stokes 方程式ですらまともに解けないからである.コンピュータによる流体力学という形でまがりなりにも扱うことが可能になったことには隔世の感を抱くが,まだまだその緒に就いたばかりである.(なお,Lighthillの方程式は 1950 年頃 Manchester から Londonへ向かう列車の中で作りあげられたそうで,この理論は放射パワーがU 8 に比例するという重要な結論をだしている.U:流速)(伊藤)

Fig. 15 Comparison of calculated SPL spectra (original/improved)

-30

-20

-10

0

10

20

30

Frequency [Hz]

SPL

[dB

]

Improvedmodel

Original

0 200015001000500

(5) M. S. Howe: Acoustics of Fluid-Structure Interactions, Cambridge University Press p.121-122 (1998).

(6) 社団法人日本音響学会:音源の流体音響学,コロナ社,第 4 章 p.132, (2007)