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「多 態モニタリン いた Web システム による 22- 3161- 008 アカデミー 22

河川整備基金助成事業 - public-report.kasen.or.jppublic-report.kasen.or.jp/223161008.pdf · 河川整備基金助成事業 「多摩川水系の市民参加型河川生態モニタリン

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河川整備基金助成事業

「多摩川水系の市民参加型河川生態モニタリン

グ調査情報を用いた電子国土 Webシステム構築による市民環境情報交流の促進」

助成番号: 22- 3161- 008

所 属 特定非営利活動法人自然環境アカデミー

氏 名 島田 高廣

平成 22年度

1.事業内容

1.1 目 的

当会は、多摩川水系規模の市民参加型河川生態系モニタリング調査を流域の市民、河川

管理者、研究者で進めてきた。

これまで実施した市民調査は、外来植物のアレチウリ・オオブタクサ・キクイモなどを

対象とした外来植生調査、礫河原の環境指標生物のイカルチドリ・コチドリ・イソシギ・コア

ジサシなどを対象とした礫河原鳥類調査である。

当会は、外来植生調査は調査協力、更には市民調査事務局を担当し5年の継続調査を迎

える。礫河原鳥類調査は 2008 年度の試行を経て 2009 年度に多摩川・浅川を対象とした礫河原の現況把握と対象種の繁殖期の生息状況の記録を得ており、洪水攪乱による礫河原の

再生が、イカルチドリなどの生息環境の維持のためには、重要な要因となっているとこと

がわかってきた。

本事業は、これまでに実施してきた市民環境調査情報を WebGIS で発信し、河川生態系モニタリング調査情報を基底とした市民、河川管理者、研究者の連携した多摩川流域内交

流に鑑み、モニタリング調査の継続と、そのデータの活用を行うことにより、多摩川の環

境情報を基底とした情報交流を目的として実施した。

1.2 活動の背景

近年、Web を利用した様々なサービスが開発され、無償で提供されるようになってきている。特に、注目を浴びているサービスが、様々な情報が地図ベースで閲覧できる WebGISシステムである。環境情報においても、WebGIS は、情報発信・収集ツールとして、整備利用がされてきているが、その情報発信は、国や自治体の公共機関、また大学などの研究

機関、環境関係を扱う企業などによるものが殆どで、環境 NPO からの情報発信は、まだまだ一部の団体に限られ、その利用促進は十分でない。

WebGIS で代表的なシステムは、Google が開発した Google マップである。Google マップは、世界的に利用され、企業開発ベースで進められてきたシステムであり、誰もが無料

で利用可能である点で普及してきた。

一方で、日本では、国土地理院が 2000 年から提唱している「電子国土」を具体化するツールとして、電子国土 Web システムを開発し、第6次基本測量長期計画の中で、2004年度から 2013 年度までに「電子国土 Web システム」を利用する団体数を 2000 サイトとし、その普及に努め、2008 年にはその指標を達成させている。

環境、とりわけ河川環境のシステムは、物理的、生物的、そして人為的な様々な要因が

作用し、現在に至っている。この複雑な環境システムを解釈し、理解をするためには、大

量の情報を収集し、構造化、統合化し、市民にわかりやすく情報提供することが、ますま

す重要となっている。

2.事業活動の内容

2.1 市民参加型河川生態モニタリング調査の実施

本法人では、継続的に多摩川において、水系規模のモニタリング調査に取り組んでいる。

本事業助成により、現地におけるモニタリング調査の継続及びそのデータを蓄積、閲覧配

信するための WebGIS サーバーのプロトモデル開発を行った。

2.1.1 多摩川市民による礫河原鳥類調査

礫河原の状態と鳥類の生息の関係を捉え、礫河原と生息環境保全の手がかりを得ること

を目的とする調査である。モニタリング対象種を、多摩川で普通に生息する礫河原鳥類(イ

カルチドリ、コチドリ、イソシギ、コアジサシなど)とし、これら鳥類の繁殖期の生息状況を分担して記録する。

今年度の調査は、市民団体が実施しているまたは指導している鳥類観察会(探鳥会)や

総合的な学習の時間の指導などの機会を通じて、対象となった礫河原鳥類の観察された地

点、種類、個体数を調査地図にマッピングした。したがって、これまで当会で実施した全

川における礫河原鳥類の状況把握ではなく、多摩川及び浅川の下流・中流・上流の主要な

流程でモニタリング調査区間を設置し、実施するモニタリングシステムを採用し行った。

調査区間は世田谷地区、狛江地区、府中下流地区、府中上流地区、立川地区、昭島地区、

福生地区、羽村地区、浅川上流地区の計9地区、各地区 1km~2km の河川区間、調査期間は繁殖期後半の 7 月 21 日~8月 24 日に行った。

2.1.2 多摩川市民による外来植生調査

多摩川で極め広い範囲に繁茂し駆除の必要性が叫ばれているアレチウリを中心に、関連

して繁茂している外来植物、クズなどの繁茂状況を多摩川及び浅川をブロック分けして、

地先の市民・市民団体とともに調査を実施し、経年的な変動を記録しその動向を把握する

ためのモニタリングである。本調査の目的は、単にアレチウリなどの外来種の現状を記録

するだけでなく、沿川市民の多くの方々にご協力いただき外来植物のとの付き合い方など

新しい河川環境の維持管理の在り方についても模索することを大きな目的として実施して

いる。多摩川では 2006 年度から継続して実施されている調査であり、現在は本会が事務局を担当している。

これまで、外来植物などの分布調査(調査地を左右岸及び 200m 区間毎に区分し、調査区毎に対象植物の繁茂量を河川縦断方向の広がりから4段階の順位尺度変数で記録し、水

系全体の繁茂状況を把握する調査)、アレチウリ立地調査(アレチウリ群落内の主要植物の

有・無及びつる植物の被度・地点・土壌厚)、アレチウリ群落面積変動調査(アレチウリ群

落の毎年の変動を把握するため GPS を用いて記録し、その面積の変動を調べる調査など)を組み合わせて調査を実施してきた。

今年度は外来植物等の分布調査に絞り、例年通り、アレチウリが繁茂しきった9月から

アレチウリの痕跡が残る初霜の降りる前までに、多摩川河口から青梅万年橋及び、その支

流の浅川の多摩川-浅川合流点から南浅川合流点までの調査を行った。

調査期間は 9 月 18 日~12 月 17 日、参加延べ人数は、市民・市民団体、学生など 84 名であった。

2.2 WebGIS の整備

2.2.1 アプリケーション

WebGIS の整備にあたっては、以下のアプリケーションを用いた。

市民モニタリング調査で得られた多摩川の河川環境情報の空間情報化は、Arc.View 9.3J (ESRI JAPAN 社)で行った。WebGIS のエンジンは、電子国土 Web システム Version1(プラグイン版)及び電子国土 Web システム Version2(非プラグイン版)(国土地理院)を用いた。更に、これら情報の結果を解釈するため、グラフ作成ツールとしてとして R version2.12.0(CRAN)及び Rpad_1.3.0 パッケージを用いた。

また、データ変換ソフトとして、ArcView の shpe ファイル形式から電子国土 Web システム用 XML データの変換については、Shape ファイル変換ツール(国土地理院)、Shapeファイル変換ツール Ver.2(国土地理院)及国内データ変換ツール(ESRI JAPAN 社)を用いた。

2.2.2 整備手順

市民モニタリング調査データは、直接、ArcView で情報空間化を行い、データ構造に応

じて点データ、ラインデータ、ポリゴンデータとして蓄積した。

また、市民モニタリング調査データと関係づける環境データは、空中写真、地形図、そ

の他の多摩川に関係した環境データとした。

これらのデータについては、GIS に直接取り込める形式のデータとして整理され Web上で公開されているもの他、デジタルデータがない過去に調査・研究などで作成された地

図情報については ArcView 上でデギタイジングして、情報の空間化作業を行った。

これらデータを、データ変換ソフトを用いて電子国土 Web システム用の XML データに変換し、電子国土 Web システムに実装した。

また、電子国土 Web システムの画面などの作成は、市販またはフリーソフトウエアとして入手可能なホームページ作成ソフトなどは使用せず、すべて HTML 及び Java Scriptをエディターでコーディングした。

2.2.3 実装データ

電子国土システムを用いた WebGIS、『多摩川市民モニタリングサイト』に実装した情報は以下のとおりである。

●多摩川市民モニタリング調査情報

・2009 年度 多摩川市民による礫河原鳥類調査(対象種の確認位置情報、種類、個体数)

・2010 年度 多摩川市民による礫河原鳥類調査(対象種の確認位置情報、種類、個体数)

・2006 年度 多摩川市民による外来植生調査(外来植物分布調査・アレチウリ立地特性調査)

・2007 年度 多摩川市民による外来植生調査(外来植物分布調査・アレチウリ立地特性調査)

・2008 年度 多摩川市民による外来植生調査(外来植物分布調査・アレチウリ立地特性調査)

・2009 年度 多摩川市民による外来植生調査(外来植物分布調査・アレチウリ立地特性調査)

外来植物分布調査(200m 距離杭毎のアレチウリ(特定外来生物)、オオブタクサ(要注意外来生物)、キクイモ(要注意外来生物)、クズの繁茂量)

アレチウリ立地特性調査(アレチウリ群落の位置、土壌厚、混成する植物(つる植

物、下層の植物、樹木の在・不在データ))

●環境情報

・多摩川における砂礫地の分布 2006 年(河口から青梅市万年橋(61.8km))

・多摩川における砂礫地の分布 2007 年(河口から青梅市万年橋(61.8km)

・多摩川流域現存植生図(5万分の1)(1976 年調査)(奥田・藤間・井上・箕輪,1977,とうきゅう環境浄化財団)(一部区間)

・多摩川河川敷現存植生図(5万分の1)(1976 年調査)(奥田・曽根・藤間・富士,1979,東急環境浄化財団)(一部区間)

・多摩川河川敷現存植生図(5千分の1)(1984 年調査)(曽根,1984,とうきゅう環境浄化財団)(一部区間)

・多摩川河川敷現存植生図(5千分の1)(1995 年調査)(奥田,小舩,畠瀬,1995,建設省関東地方整備局京浜河川事務所)(一部区間)

・多摩川水系整備計画【直轄管理区間編】附図 機能空間区分の設定(国土交通省関東地方整備局,2000)

●背景画像情報

電子国土システム背景地図機能を利用

・電子国土基本図(地図情報)NTI

・電子国土基本図(オルソ画像) ORT_L

・国土画像情報第1期(1974 年~1978 年) NLII1

・国土画像情報第 2 期(1984 年~1986 年) NLII2

・国土画像情報第 3 期(1984 年~1986 年) NLII3

・国土画像情報第 4 期(1988 年~1990 年) NLII4

●情報クリアリングハウス関係情報

・1/50,000 主要水系調査利水現況図数値データ(多摩川水系(1998))国土交通省土地・水資源局調査

流域境界・水質観測地点・地下水位観測所・取水施設・井戸・浄水場・配水場・水道

関係_用水供給幹線(導水路)・工業用水関係_取水堰・工業用水関係_用水路・水道用水関係_受益地区・農業用水関係_取水堰・農業用水関係_用水路・発電用水関係_水力発電所・発電用水関係_用水路・下水道関係_ポンプ(排水)・下水道関係_下水処理場・下水道関係_排水路・下水道関係_処理区域・多目的施設_井戸・ダム・溜池_多目的ダム・行政界・一級河川・河岸・海岸線・海・湖・沼等の水部

3.事業・活動の効果

3.1 市民環境科学としてのモニタリング調査の継続

河川生態系の基本は変動生態系でありかつ、開放生態系である。したがって、河川のあ

る区間の生態系情報だけでは、河川環境の全体像の変化を掴むことはできない。

今年度の外来植生調査では、多摩川においてアレチウリが繁茂し続けているが、これま

でに比べ大きく増加している様子はみられず、繁茂は鎮静傾向の状況にあること判断され

た。

しかしながら、地区毎のデータを解析すると、各地区レベルでアレチウリ群落が増加し

ている傾向を示している区間と、繁茂の状況を維持している区間、逆に減少傾向を示して

いる区間など、区間毎に違いが見られた。

今年度の特徴的な区間としては、これまでアレチウリの繁茂率が高くなかった羽村の羽

村堰上流から小作堰下流の区間(河口から 54-56km 区間)でオギ群落やツルヨシ群落が繁茂していた場所でアレチウリが大繁茂し、これら抽水植物群落に大きな打撃を与えている

ことが明らかとなった。その状況は、アレチウリをはじめとした外来植生調査を開始した

2006 年度に狛江水辺の楽校(河口から 22km 左岸付近)や府中市四谷地区(36km 左岸付近)で報告されたアレチウリの繁茂状況と極似していた。

河川空間的に言えば、アレチウリが大繁茂する場所がこれまでにアレチウリの影響を受

けなかった場所に移動したと言える。

また、イカルチドリをはじめとした礫河原鳥類調査では、いくつかの河川区間を抽出し、

調査を行ったため、2008 年度に試行、2009 年度に全域調査したデータとは単純な比較はできず、モデル作成などの統計的手法による解析、解釈が必要となるが、2010 年における傾向は、2009 年の調査でイカルチドリが多数記録された福生地区で個体数が、他の地区に比べて高かった。

イカルチドリの繁殖環境要因は、礫河原の一つ一つの面積や、河床材料の粒径の大きさ、

植生の侵入率により、強く影響されることが研究者らの既往の研究でわかっており、いく

つかのモニタリングサイトを流程ごとに設置し、モニタリングを継続することで、多摩川

水系全体のイカルチドリなどの変動を捉えることが可能となるものと考えられる。

河川環境のモニタリングは、主要な環境指標種などを可能な限りモニタリング対象種と

し、かつ調査頻度や調査範囲もより大きい方が良いはずであるが、現実的には困難である。

可能な範囲で、環境データを取り続けることで、今後の河川環境保全に役立つ情報を蓄

積できるのではないかと考えている。

以上のように、市民環境科学の普及・啓発を考えれば、簡単な調査手法でも、継続的に

調査し、記録を取り続けることで河川環境の変動の一部を把握することができる。これら

の情報の解釈については、研究者との更なる連携が必要不可欠であるが、市民参加で、こ

れら生物情報を継続して記録し蓄積できたことは、今後の河川環境保全の促進と流域の市

民活動に寄与できたものと考えられる。

3.2 モニタリング結果及び解釈情報の提供などの作業負荷軽減効果

Web サーバー上に統計処理ソフトを API として機能付加させることにより、基本的なグラフ処理を自動化させることができた。

得られた環境情報をわかりやすく第三者へ提供し、河川生態系の仕組みや現在の多摩川

の河川環境の状況を、市民・市民団体が共通の理解とするためには、グラフによるデータ

の視覚化は非常に重要な要素であり、これら情報を Web ブラウザ上で、双方向に閲覧できるようになったことは、参加者への敏速な情報提供に繋がる。

情報のグラフ化は、データが膨大になる広域・長期的なモニタリング調査のデータの解

釈には必要不可欠であるが、データが多くなればなるだけ、データの管理作業は莫大にな

り負担となる。最終的にはデータ管理ができなくなり、これまで、どれだけ多くの市民・

市民団体の環境情報が、眠ってしまい日の目を見なかったのではないかと考える。

WebGIS サーバーの構築により、情報の視覚化、環境情報に蓄積に労力に関しては、今回の事業で大きく軽減することができた。

3.3 電子国土 Web システムの利用促進

電子国土システムは、国土地理院から無償提供されている API で、ブラウザ(Mic に機能を追加することで利用できる有用なツールである。

プラグイン機能を Web 上からダウンロードすれば、誰もがすぐに国土地理院などが配信している 2万 5000分1地形図を背景として利用でき、全国各地の地図情報を網羅できる。また、国土交通省からは、過去の空中写真が、電子国土基本図(オルソ画像)が利用でき

るようになり、国土画像情報として4期(第1期:1974-1978 年 ; 第2期 1979-1983 年 ; 第3期:1984-86 年 ; 第4期 1987-90 年)のオルソ空中写真が整備され、提供されるようになった。これにより、過去の河川環境の概況と現在のモニタリング情報を視覚的に比較

できるようになった。

更に、GIS データの共通フォーマットとなっている SHP ファイルのコンバータもバージョンアップし提供され、地理情報システム(GIS)ベースに蓄積された情報の XML への変換も容易になった。

しかも、これの基本システムを無償で提供されている点において、環境 NPO などの経済基盤の弱い組織でも、基本的なプログラミング技術の技能を持てば、WebGIS の機能拡

張は容易にできるのではないかと考えられた。

電子国土システムは市民参加型のモニタリング調査を推進していくうえで、より有効な

ツールになったと言える。

当会において実施している多摩川関係の市民モニタリング調査では、調査地図などの基

盤情報として河川管理者(国土交通省関東地方整備局京浜河川事務所)から提供を受けた

河川図(縮尺 1/ 2500)を基本縮尺として利用している。

現在、電子国土ポータルサイトから提供される背景地図は、2万5千分1地図がベース

であり、堤防内地のような短期的な自然環境の大改変はない環境条件であれば、モニタリ

ング調査のベース地図情報としても利用可能であるが、河川環境のような継時的に大きく

変動する特異な自然環境では、調査データと背景地図画像情報との一致性が悪い部分も見

られる。

現在の画像背景地図は、縮尺が小さく、河川環境に興味を持つ一般の市民や市民団体の

人々が閲覧した場合、モニタリングデータの持つ意味の解釈に支障をきたす部分がみられ

る。現在、国土地理院はより詳細な 2500 分の1を全国その作業を進めている最中である。地図がより詳細になれば、電子国土 Web システムを用いて調査地図を作成、大運ロードできるようになる。早期の作業完了を求めたい。

更に、国土交通省河川局では、河川水辺の国勢調査を定期的に実施しており、植生図な

どの作成も電子化が進んでいる。また、一方では、河川 GIS を整備し、河川情報の蓄積、統合化を進めている。河川水辺の国勢調査の植生図などの電子化されたデータは、電子国

土 Web システムに直接取り入れる形式で、電子国土 Web システムに即したデータ形式として提供、公開がなされていないが、そうした河川環境情報の公開を強く望みたい。

とりわけ環境基盤情報の作成及び提供は、一 NPO 団体だけではできずまた、そうした情報が基盤情報として提供されれば、市民モニタリング調査データとオーバーレイさせる

ことにより、河川環境保全に役立つ新たな知見と、市民・市民団体が保有する環境情報を

眠らせず、将来の河川環境保全に役立たせることが可能であると考えられる。

3.4 モニタリング調査を柱とした市民ネットネットワーク強化

多摩川では、1998 年に多摩川流域懇談会が設置され、緩やかな合意形成に基づいた市民と行政が協働・連携した川づくりを推進してきた。

その成果として、2001 年に、河川管理者側は、『多摩川水系整備計画(京浜河川事務所)』を作成し、一方では、市民側は、『多摩川市民行動計画(当時:多摩川市民フォーラム)』

が策定された。当時、当会も多摩川水系整備計画づくりに市民セクターとして参加した経

緯がある。

市民行動計画では、市民アクションという地先の市民団体に現地案内頂き、各地先にお

ける多摩川の課題を市民側の意見として集めた。更に、治水、利水、河川環境部会を設け、

各視点からの課題を整理した。

河川環境部会では、市民・市民団体の日常活動(観察会など)から得られる自然環境情

報の重要性と、その情報の蓄積と今後の川づくりにおける利用方法などが当時、議論され

多摩川流域懇談会でもとりあげられていた。

したがって、当会で推進している市民による河川環境のモニタリング調査の実施及び情

報蓄積、発信情報の推進事業は、当時から議論されていた市民側の川づくりに対する思い

を継続、実体化に大きく寄与する事業となった。

3.5 環境情報の利用と環境体験学習教育の連携

多摩川水系整備計画が策定され、10 年余りが経ち、多摩川では水辺の楽校が 18 校を数

える。日常的な川の自然体験学習活動、川の安全管理についての重要性は多くの市民に理

解され、普及がなされた。これを後押したのは、学校教育課程における『総合的な学習の

時間』、『ゆとり学習』の推進であったと考えられる。しかしながら、現在は、全国的な児

童・生徒の学力低下がアナウンスされ、自然体験学習を含むこれまでの学習教育体系が疑

問視されている風潮も見られる。

この社会的な学習体系課題を解決するためには、環境体験学習教育の中に、積極的に環

境情報教育を取り入れるべきと考える。川の河相やそこに生息・生育する生物は、数学(算数)や理科(生物・物理・化学)を学ぶための学習材料としての利用価値は高いはずである。しかしならが、それらのデータを収集し学習教材として利用できるように情報加工するに

は、長期的、定期的な河川環境情報収集と、パソコンを利用するための幾ばくかの知識が

必要であり、初等・中等教育において環境情報を小・中学校で扱うのは難しい現状にある。

この点を現在、体験学習などをイベントとして実施している各地先の NPO が環境体験学習の指導と併せ、過去の河川環境情報などを提供できるようになれば、環境情報学習と

環境体験学習の双方を組み合わせた基礎教育学習を進めることが可能となる。

今回、試行した WebGIS システムは、地理情報には電子国土システム及びグラフ作成や基礎統計に関する事項はフリーソフトである R により作られているため、インターネットの接続環境さえあれば、理系教育科目の教材として利用できるはずである。

3.6 まとめと今後の課題

本事業により、当初の目的であった市民モニタリング調査データの WebGIS による情報発信のためのプロトモデルの開発ができたことは、今後の多摩川の市民環境情報の蓄積、

統合に向けた大きな第一歩だと考えられる。様々な基本情報とのオーバーレイは、データ

の意味・解釈をする上での強力なツールとなり得る。

これまで、空間解析は、専門家の研究者や技術者でなければ扱うことができなかったが、

これらの作業を Web ブラウザ上でクリックすることで、データの概要が整理されるようになったことは、様々なデータを追加していくことで、河川環境と治水、利水との関係性な

どをより深く理解することにつながる。

しかしながら、本格的な実用化に向けては、多くの課題が残る。一つは、各種データを

WebGIS 上に載せるための情報の空間化作業には、莫大な時間と人材登用がなければできずまた、その作業を行うためには、IT 関係の GIS、CAD、サーバーサイト、プログラミングなどの知識・技能を持つ人材が必要不可欠であるという点である。

今回、情報の空間化のために用いた ArcView は、作図作業のハンドリングはしやすいが、商用ソフトであり非常に高価なアプリケーションである。また、そのソフトを習得するた

めにはかなりの時間が必要であるため、全国で活動している NPO が容易に入手し、使えるアプリケーションではない。電子国土 Web システムおいても、作図機能を持った APIが供給されているが、まだまだ作図機能が十分とは言えず、ハンドリングも悪く、実用的

に利用するためには更なるバージョンアップが必要と考えられた。

また、情報整理解析に用いた Rpad は、Web ブラウザが立ち上がった時点で、8079 番ポートを開放してしまうためセキュリティー性が悪く、公開サーバーでの利用は非常に脆

弱である点が指摘されている。ローカルソフトとしての R 本体の統計機能、グラフ作図機能については、無料であること、様々な統計・作図パッケージが開発され、多くの研究者

が研究ベースで利用している点からも有用なツールであり、今後、NPO が自らの河川環境情報を解析するためのツールとしての利用が促進されるものと考えられる。しかしながら、

それら機能をサーバーサイトで行いアウトプットを、安全に双方向でやりとりするために

は API のセキュリティーの強化が必要である。今回、Rpad を用いた自動グラフ作成機能は、外部閉鎖されたイントラネット環境では具現化できているものの、公開サーバーへの

実装は見送った。

以上のように、現在のところ、Web サーバシステムによる環境情報の発信については、様々な課題が残るものの、今回、メインフレームとして採用した電子国土 Web システムは、NPO ベースの地理情報発信システムとして、有用性が高いことが結論付けられた。

今後、本事業で得られたプロトモデルをバージョンアップさせながら、市民モニタリン

グ調査を継続し、データの蓄積、電子国土 Web システムを用いた情報発信を行いながら市民環境科学の推進、多摩川流域の市民交流に寄与していく予定である。

4.実施した事業・活動の写真など

4.1 活動の写真

写真 4.1 多摩川市民による外来植生調査(多摩地区)

写真 4.2 多摩川市民による外来植生調査(府中下流地区)

写真 4.3 多摩川市民による外来植生調査(浅川上流地区)

写真 4.4 多摩川市民による外来植生調査(羽村地区)

アレチウリが樹木の樹冠まで繁茂

4.2 視覚化した多摩川市民モニタリングサイト情報の例

図 4.1 2006~2009 年までに実施した多摩川外来植生調査アレチウリ立地特性調査地点

図 4.2 2006~2009 年までに実施した多摩川外来植生調査アレチウリ立地特性調査地点(拡大)

図 4.3 1974 年~1978 年に撮影された空中写真とアレチウリ生息地点のオーバーレイ

図 4.4 2007 年に撮影された空中写真とアレチウリ生息地点のオーバーレイ

様式Ⅰ-6・2 3.国民的啓発運動 [:概要版報告書の原稿]

助成番号 助成事業名 所属・助成事業者氏名

22- 3161- 008 多摩川水系の市民参加型河川生態モニタリング調査情報を用いた電子国土Webシステム構築による市民環境情報交流の促進

特定非営利活動法人自然環境アカデミー 代表理事 島田 高廣

〔目 的〕 本会は、多摩川水系規模の市民参加型河川生態系モニタリング調査を流域の市民、河川管理

者、研究者で進めてきた。これまで実施した市民調査は、外来植物のアレチウリ・オオブタクサ・キクイモなどを対象とした外来植生調査、礫河原の環境指標生物のイカルチドリ・コチドリ・イソシギ・コアジサシなどを対象とした礫河原鳥類調査である。 本事業は、これまでに実施してきた市民環境調査情報を WebGIS で発信し、河川生態系モ

ニタリング調査情報を基底として、多流域情報交流を目的として実施した。 〔内 容〕 1.市民参加型河川生態モニタリング調査の実施 礫河原鳥類調査では、今年度の調査は、市民団体が実施しているまたは指導している鳥類観察会(探鳥会)や総合的な学習の時間の指導などの機会を通じて、対象となった礫河原鳥類の

観察された地点、種類、個体数を調査地図にマッピングした。調査区間は世田谷、狛江、府中、立川、昭島、福生、羽村、浅川上流の計9地区、各地区 1km~2kmの河川区間、調査期間は繁殖期後半の 7月 21日~8月 24日に行った。外来植物調査は分布調査を実施し、例年通り、アレチウリが繁茂しきった9月からアレチウリの痕跡が残る初霜の降りる前までに、多摩川河口から青梅万年橋及び、その支流の浅川の多摩川-浅川合流点から南浅川合流点までの、総延長 75km×左右岸の調査を行った。調査期間は 9月 18日~12月 17日、参加延べ人数は、市民・市民団体、学生など 84名であった。 2.WebGISの整備

WebGISのエンジンは電子国土Webシステム Version1(プラグイン版)及び電子国土Webシステム Version2(非プラグイン版)(国土地理院)を用いた。更に、これら情報の結果を解釈するため、グラフ作成ツールとしてとして統計ソフト R 用いた。実装したデータは、市民参加型河川生態系モニタリング調査情報の他、電子国土 Webシステムの地図・空中写真などの背景情報、過去の多摩川の植生図(一部区間)、多摩川水系河川整備計画の機能空間区分などの地図情報、GIS情報クリアリングハウスに登録されているデータを実装した。 〔結 果〕 1.市民参加型河川生態モニタリング調査の実施 礫河原鳥類の生息記録、及び外来植生の繁茂状況の記録が得られた。今年度の特徴としては、

これまでアレチウリの繁茂率が高くなかった羽村地区で、アレチウリが大繁茂し、オギやツルヨシ群落に大きな打撃を与えていることが明らかとなった。 2.WebGISの整備 本事業により、様々な課題は残るが、当初の目的であった市民モニタリング調査データの

WebGISによる情報発信のためのプロトモデルの開発ができた。今後の多摩川の市民環境情報の蓄積、統合に向けた大きな第一歩だと考えられる。また、様々な基本情報とのオーバーレイ

は、データの意味・解釈をする上での強力なツールとなり得る。

様式Ⅰ-6・3 2.環境整備対策 3.国民的啓発運動(一般的助成) [:自己評価シート2]

助成番号 助成事業名 所属・助成事業者氏名

22- 3161- 008 多摩川水系の市民参加型河川生態モニタリング調査情報を用いた電子国土Webシステム構築による市民環境情報交流の促進

特定非営利活動法人自然環境アカデミー 代表理事 島田 高廣

評 価

〔事業・活動計画の妥当性〕 多摩川では、1998 年に多摩川流域懇談会が設置され、緩やかな合意形成に基づいた市民と

行政が協働・連携した川づくりを推進してきた。その成果として、河川管理者側は『多摩川水系整備計画(京浜河川事務所)』を作成し、市民側は『多摩川市民行動計画(当時:多摩川市民フォーラム)』が編纂された。『多摩川市民行動計画』では、市民・市民団体の日常活動(観察会など)から得られる自然環境情報の重要性と、その情報蓄積と今後の川づくりにおける利

用促進などが当時議論され、多摩川流域懇談会でもとりあげられていた。 したがって、河川整備計画策定当時から議論されていた市民情報の蓄積・活用の実体化、継

続に大きく寄与する事業となったと言える。

〔当初目標の達成度〕 当初の目標は、市民参加型河川生態モニタリング調査の実施と、モニタリング情報を公開す

るための電子国土Webシステムと統計ソフトRを用いてのWebGISプロトモデル構築であった。 市民参加型河川生態モニタリング調査は、多摩川市民による礫河原鳥類調査及び多摩川市民による外来植生調査の活動の継続ができた。また、2010年度のデータも追加できた。

WebGISプロトモデル構築に当たっては、これまでのモニタリング調査データ、公開さている河川情報の一部、電子国土から配信される背景地図及び過去の空中写真のオーバーレイ機能を付加させ、データ解釈を容易にできる関連情報を付加させるWebシステムができた。 しかしながら、WebGISにおける統計グラフ閲覧は、セキュリティー管理の面から、公開実

装は控えた部分がある。したがって、当初の概ねの目的は達成されたと考えられる。 〔事業・活動の効果〕 モニタリング調査を継続することにより、市民環境科学の普及・啓発を考えれば、簡単な調

査手法でも、継続的に調査し、記録を取り続けることで河川環境の変動の一部を把握すること

ができる。これらの情報の解釈については、研究者との更なる連携が必要不可欠であるが、市民参加で、これら生物情報を継続して記録し蓄積できたことは、今後の河川環境保全の促進と流域の市民活動の促進に寄与できたものと考えられる。また、WebGISプロトモデル構築により、モニタリング結果及び解釈情報の提供などの作業負荷の軽減がなされたことは、今後、モニタリングを継続していく上でのいくつかの課題の一つの解決の糸口につながった。 〔河川管理者等との連携状況〕 モニタリング調査において、河川図、空中写真などの基盤となる情報の提供を頂いた。 これら情報がなければ、現地調査時の、モニタリング対象種の地点マッピングや、調査者が歩いている場所、調査区分けの目印となる距離杭の位置確認などが難しくなり、データの精度もわるくなってしまう。更に、多摩川水系河川整備計画【付図】などの情報提供により、多摩川河川敷の機能空間区分などと、アレチウリ繁茂状況の関係性などを視覚的に表現し、モニタリ

ング調査データに付加価値を持たせることができた。河川管理者との連携により、モニタリングデータの価値の向上と円滑な調査活動が可能となった。