16
症  例 症 例:64 歳 男性 主 訴:頭痛 家族歴:兄:前立腺癌(?) 既往歴:39 歳頃 刃物切傷 , 64 足白鮮 嗜 好:タバコ 20 / 日× 50 年間,日本酒 2 合ビール大 1 本焼酎 2 / 日× 50 薬 歴:定期内服無し,入院約 3 ヶ月前に白 鮮の薬(詳細不明,抗生物質を含む 2 剤を 14 間) 健診歴:定期受診あり 最終受診は入院 1 前で特に異常を指摘されたことはない 生活歴:独居,明らかな sick contact なし 外渡航歴無し 職 歴:15 20 歳まで鉄工所勤務,20~35 歳まで焼肉屋厨房勤務,以降現在まで精肉所に て豚・牛の内臓を取り扱う仕事 現病歴:入院 2 日前の 20 時頃,業務より帰宅 後よりむかつきと倦怠感を自覚。入院 1 日前起 床時に全身の脱力を自覚し,這って移動する状 態となり,微熱,嘔気,嘔吐が出現。食欲の低 下があり飲水摂取のみを行っていた。入院当日 には前述の症状に加えて水様便を認め耳鳴と左 右手関節・肘関節・首から肩にかけての疼痛を 伴うようになった。15 時ごろ友人に電話した 際に聴力低下を自覚。頭痛も悪化してきたため 救急車にて当院救急外来を受診した。 入院時現症: 身長: 162cm,体重: 59.2kg,体温: 38.5 ℃,血圧:128/74mmHg,脈拍:84/ 整, 概観:皮膚所見異常無し,浮腫無し,虚脱,頭 頚部:眼瞼結膜は貧血無し,眼球結膜に黄染無 し,著明な項部硬直あり,口腔内に特記すべき 所見無し,胸部 : 呼吸音清,心雑音無し,腹部 : 平坦軟,圧痛無し,グル音正常,遊走性の関節 痛(炎?)→発赤はないが腫脹・圧痛・可動制 限あり 神経学的所見:JCS -2,脳神経系:両側聴 力低下を認める(左 < 右),四肢に筋力低下, 協調運動 : 異常無し,感覚障害無し 画像所見:胸部レントゲン:特記すべき所 見無し,頭部 CT:特記すべき所見無し,頭部 MRI:特記すべき所見無し,腹部エコー:肝胆 膵に特記すべき所見無し,腎サイズ 右 121 × 58mm,左 112 × 58mm,両側腎臓ともに CEC はやや不明瞭,心エコー:特記すべき所見無し, EF59%IVC20.6mmasynergy-), vegetation-急性腎不全を伴った Streptococcus suis 敗血症・髄膜炎の一例 西 脇 宏 樹  平 出   聡  柴   潤一郎 山 本 弓 月  岩 崎 滋 樹          聖隷横浜病院 腎臓・高血圧内科 Key WordStreptococcus suis,急性腎不全,敗血症 61 第 51 回神奈川腎炎研究会

急性腎不全を伴った Streptococcus suis 敗血症・髄膜炎の一例 · 「急性腎不全を伴ったStreptococcus suis敗血 症・髄膜炎の一例」。聖隷横浜病院,腎臓・高

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Page 1: 急性腎不全を伴った Streptococcus suis 敗血症・髄膜炎の一例 · 「急性腎不全を伴ったStreptococcus suis敗血 症・髄膜炎の一例」。聖隷横浜病院,腎臓・高

症  例症 例:64歳 男性主 訴:頭痛家族歴:兄:前立腺癌(?)既往歴:39歳頃 刃物切傷 , 64歳 足白鮮嗜 好:タバコ20本 /日×50年間,日本酒2

合ビール大1本焼酎2杯 /日×50本薬 歴:定期内服無し,入院約3 ヶ月前に白

鮮の薬(詳細不明,抗生物質を含む2剤を14日間)健診歴:定期受診あり 最終受診は入院1年

前で特に異常を指摘されたことはない生活歴:独居,明らかな sick contactなし 海

外渡航歴無し職 歴:15 ~ 20歳まで鉄工所勤務,20~35

歳まで焼肉屋厨房勤務,以降現在まで精肉所にて豚・牛の内臓を取り扱う仕事現病歴:入院2日前の20時頃,業務より帰宅

後よりむかつきと倦怠感を自覚。入院1日前起床時に全身の脱力を自覚し,這って移動する状態となり,微熱,嘔気,嘔吐が出現。食欲の低下があり飲水摂取のみを行っていた。入院当日には前述の症状に加えて水様便を認め耳鳴と左右手関節・肘関節・首から肩にかけての疼痛を伴うようになった。15時ごろ友人に電話した際に聴力低下を自覚。頭痛も悪化してきたため救急車にて当院救急外来を受診した。

入院時現症:身長:162cm,体重:59.2kg,体温:38.5℃,血圧:128/74mmHg,脈拍:84/分 整,概観:皮膚所見異常無し,浮腫無し,虚脱,頭頚部:眼瞼結膜は貧血無し,眼球結膜に黄染無し,著明な項部硬直あり,口腔内に特記すべき所見無し,胸部 :呼吸音清,心雑音無し,腹部 :

平坦軟,圧痛無し,グル音正常,遊走性の関節痛(炎?)→発赤はないが腫脹・圧痛・可動制限あり神経学的所見:JCSⅠ -2,脳神経系:両側聴

力低下を認める(左<右),四肢に筋力低下,協調運動 :異常無し,感覚障害無し画像所見:胸部レントゲン:特記すべき所

見無し,頭部CT:特記すべき所見無し,頭部MRI:特記すべき所見無し,腹部エコー:肝胆膵に特記すべき所見無し,腎サイズ 右121×58mm,左112×58mm,両側腎臓ともにCEC

はやや不明瞭,心エコー:特記すべき所見無し,EF59%,IVC20.6mm,asynergy(-),vegetation(-)

急性腎不全を伴ったStreptococcus suis 敗血症・髄膜炎の一例

西 脇 宏 樹  平 出   聡  柴   潤一郎山 本 弓 月  岩 崎 滋 樹         

聖隷横浜病院 腎臓・高血圧内科 Key Word:Streptococcus suis,急性腎不全,敗血症

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図1 図2

尿所見比重 1.017

尿蛋白 2+

尿潜血 3+

WBC 2 /HPF

RBC 120 /HPF

Cast

Hyaline 1

Gran 1

蓄尿24hCCr 28.1 ml/min

尿蛋白 0.43 g/day

β2MG 11400 μg/L

NAG 18.7

血算WBC 12600 /μ l

Neut 93.40 %

Eosino 0.10 %

Baso 0.10 %

Mono 2.80 %

Lymph 3.70 %

RBC 449 万 /mm3

Hb 13.5 g/dl

Hct 40 %

Plt 6.3 万 /μL

凝固aPTT 32.9 sec

PT 107.10 %

Fibrinogen 614 mg/dl

FDP 14.1 μg/ml

d-dimer 9.0 μg/ml

生化学TP 7.1 g/dl

Alb 3.6 g/dl

50.50 %

α1 0.39 %

α2 0.94 %

β 0.63 %

γ 15.50 %

Glu 153 mg/dl

BUN 49.9 mg/dl

UA 8.3 mg/dl

Cre 2.15 mg/dl

Na 131 mEq/L

Cl 95 mEq/L

K 3.4 mEq/L

Ca 7.6 mg/dl

i-P 3.1 mg/dl

T-Bil 0.5 mg/dl

AST 67 IU/L

ALT 36 IU/L

LDH 281 IU/L

ALP 161 IU/L

γ -GTP 40 IU/L

CK 198 IU/L

髄液Cell 1190 /3

poly/mono 1140 /50

protein 320 mg/dl

C-Glu 320 mg/dl

Gram stain GPC(+)

免疫CRP 35.1 mg/dl

IgG 1193 mg/dl

IgA 198 mg/ml

IgM 38 mg/dl

C3 110 mg/dl

C4 37 mg/dl

血清補体価 51.6 CH50/ml

RF 1 IU/ml

特殊検査ANA <×40

P-ANCA <10 IU/L

C-ANCA <10 IU/L

抗GBM抗体 <10 IU/L

ASO 245 IU/ml

血液ガス分析pH 7.496

pCO2 31.1 mmHg

pO2 71.0 mmHg

HCO3 23.5 mEq/L

BE 1.1 mEq/L

AnionGap 13.4 mEq/L

感染症HBsAg (-)HCVAb (-)HIV (-)RPR/TPHA (-)/(-)

検査所見

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図3

図4

図5

図6

図7

図8

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図10

図11

図12

図13

図14

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図15

図16

腎生検:検体数 3

    皮質髄質比 6:4

    観察糸球体数 14

糸球体:管内増殖性変化を伴う糸球体を認め,focal・segmentalな係蹄内の微小血栓様の像を認める血管:内皮障害・動脈硬化性病変は認めない間質・尿細管:間質の繊維化とリンパ球と一

部形質細胞と思われる単核細胞の浸潤を認める。尿細管は広範に浮腫状変化を認める。免疫染色法:IgG・IgM・IgA・C3ともに有

意な所見なし

電子顕微鏡:基底膜内のdepositを散見する。foot process effacementを認める

S. suisについて◦ グラム陽性の通性嫌気性菌。莢膜のpolysac-

charideから35の抗原型に分類される。豚との人畜感染症で臨床上の問題となる。そのほとんどが serotype 2によるものである。ヒツジの血液培地でα溶血を示す。Lancefield抗原分類ではGroup Dとなる。

◦ 症例の報告の多くが中国などの東~東南アジアなどの食用として豚を消費する国・地域に集中している。中国四川では2005年8月に罹患者数215人,死亡者数38名に達したOutbreakが起きている。

◦ 現在のところヒト-ヒト感染は確認されていない。ブタ-ヒト感染,ブタ-ブタ感染で伝播する。

◦ ヒトでの感染の臨床像としては髄膜炎を呈することが最も多い。難聴が出やすいことも特徴。敗血症による多臓器不全を呈することも多い。心内膜炎の報告もあり。

◦ 敗血症についてはA群β溶連菌やブドウ球菌同様のToxic shock syndromeを呈すると述べられた報告もいくつか見られる。

◦ そのほとんどがペニシリンGを含めた抗生剤に感受性を示すが一部の株にペニシリンG耐性株が報告されている

◦ 腎臓病理についての報告は多くないが4例の剖検例について検討したものでは以下の所見が見られた

 ◦ 腎容量の増大 ◦ 糸球体毛細血管内の微小血栓 ◦ 尿細管内の硝子様円柱 ◦ 尿細管上皮組織の浮腫状変化と萎縮 ◦ 好中球浸潤をともなう多巣状の壊死性変化

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討  論 座長 次の演題へいかせていただきたいと思います。 「急性腎不全を伴ったStreptococcus suis敗血症・髄膜炎の一例」。聖隷横浜病院,腎臓・高血圧内科,西脇宏樹先生,よろしくお願いします。西脇 よろしくお願いします。 「急性腎不全を伴ったStreptococcus suis敗血症・髄膜炎の一例」について発表いたします。 症例は,64歳の男性で,頭痛を主訴に来院されています。バックグラウンドとしては,家族暦,既往歴などに,今回の経過で問題になる点はなかったのですが,本症例について重要な点として,職業で,精肉場でブタを取り扱う仕事をしていた点が後に問題になってきます。 現病歴です。入院二日前仕事から帰宅後,悪心と倦怠感を自覚。入院1日前の朝から前身の脱力が出現し,この時点ですでに,はってでないと移動ができない状態にありました。また,頭痛・発熱・嘔気・嘔吐が出現,食欲が低下し,水のみを取っている状態でした。入院当日には下痢と,耳鳴り,多発関節痛が出現。午後になり,知人と電話の際に聴力低下を自覚したために救急隊を要請し,当院受診となっております。 入院時の現症です。バイタルは,38.5℃の熱を認めましたが,血圧・脈拍は正常範囲内。意識は JCSでⅠ -2,概観はぐったりしていて,身体所見では著明な項部硬直を認めました。また,入院後も持続する遊走性の関節痛を認めております。聴力は右に強い難聴を認め,これは後に感音性難聴性の聴力低下であることが明らかになっております。その他は,四肢の筋力低下を認める以外に,所見の異常は明らかではありませんでした。 検査所見です。尿所見は,尿蛋白(2+)・潜血(3+)。凝固はPTを経過中に軽度の延長と,FDP,Fibrinogen,d-dimerの高値を認めました。順序が逆になったのですが,血算は,白血球が12600で好中球優位,血小板は63000と減少を

認めました。生化学では,クレアチニン2.15,BUN49.9と腎機能の悪化を認め,AST,ALTともに軽度高値を認めました。 入院時に髄膜腫所見を認めたことから,髄液穿刺を施行しております。細胞数が1190で,多核球優位,蛋白濃度の上昇と,血糖153に対して,こちらは記載が間違っていますが,髄液の糖が5と著明な低下を認めました。また,髄液のグラム染色ではグラム陽性球菌を多数認め,入院時に行った血液培養でも,後に同様のグラム陽性球菌を検出しております。 CRPは35.1と抗炎症反応を認め,その他免疫グロブリンや,自己抗体の検査を提出しましたが,特記すべき異常はありませんでした。ASO

は245と軽度高値。血液ガスでは,呼吸性alka-

losisの所見を認めました。入院時の screeningで行う感染症検査は,梅毒・肝炎ウイルス・HIV

については陰性でした。 画像所見です。腎エコーの所見では,腎サイズはほぼ正常で,CECはややpoorな所見。心エコーについても心機能が保たれている所見でした。 入院後の経過です。グラフは上からクレアチニン,下のグラフにCRPと白血球,緑色の数字は経過中の髄液の多核白血球数を示しています。 グラム陽性球菌による髄膜炎,敗血症,DIC

の診断にて,当院脳外科のほうに初め入院しまして,入院時にゲンタマイシンの髄注を行い,その後,髄液移行性のよいセフトリアキソンによる治療を開始しております。 治療後も全身状態が悪化し,腎機能も悪化したため腎臓内科のほうに転科となりまして,起因菌として耐性の肺炎球菌等を想定しましてバンコマイシンを追加,その後,腎臓で用量調節が必要ないリネゾリドのほうに変更になっております。 その後も全身状態が悪化しまして,腎機能はクレアチニン6を加えまして血液浄化療法を開始,点滴量に対して尿量が少なく肺鬱血像を呈してきたため,血液浄化療法を開始しております。

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 その同日中に,起因菌がStreptococcus suisであることが判明しまして,感受性試験を基に,ビクシリンに抗生剤を変更しました。その後腎機能は改善し,そのほかのパラメーターについても改善しました。 第17病日に腎生検を施行しております。腎生検施行時のクレアチニンは,2.8でした。献体数が3本で,皮質髄質が6.4,観察糸球体は14でした。約半数の糸球体に,富核を伴う管内増殖性の変化を見られる糸球体を認めました。 また,一部の,これは同じ糸球体のMasson

ですが,マッソントリクローム染色,こちらの3時方向にあるような微小血栓にも見えるような像を認めておりますが,今回こちらのほうに関しては,PT,AH染色等は行っていないので,これが本当に血栓かどうか分かりませんでした。 これはまた同じもののPAMです。全くこういったほぼ正常に見えるような糸球体もありました。 血管については,構築の乱れ等もなく,内膜の肥厚についても明らかな変化はないように思えました。 尿細管間質については,広範な尿細管の浮腫状変化を認めまして,一部で上皮の脱落も認めました。また,間質性は,皮質,髄質ともに,単核細胞の浸潤を認め,一部には形質細胞の浸潤を認めました。 こちらのほうが髄質の所見になります。 電子顕微鏡の所見ですが,幾つか基底膜内に大小不同のdepositを認めました。あと,foot

processのeffacementも認めております。こちらの赤印で示したものを何カ所かでこういった像を認めました。 われわれのほうでの,腎生検の所見のまとめとしてはこちらのとおりになっておりまして,免疫染色法については,今回提示しませんでしたが,有意な所見はなかったように思いました。 Streptococcus suisについては,あまりなじみのない細菌ですので,ちょっと簡単にまとめま

した。Streptococcus suisは,グラム陽性の連鎖球菌で莢膜のpolysaccharideから35の抗原型に分類されます。人間の感染症で問題になるのは,そのほとんどが type2といわれる抗原型で,本症例についても,国立感染症研究所でPCR法で抗原型を同定し,type2であると判明しております。溶血パターンはα溶血で,Lancefield

の抗原型ではGroup D,一部ではGroup Rというふうな表記も文献上認めますが,そのような分類になっております。 東アジアなどの特にブタを食用として用いている国からの報告が多くて,スライドにあるように,中国からの症例報告が圧倒的に多くを占めております。また,2005年には四川で死者38人を出すOutbreakの報告もあります。あまり日本にはなじみのない感染症ですので,今回患者様にブタの出どころということについて聞いたのですけれども,一番初めは「国産です」ということだったのですが,その後,「そう言わないとあまり売れないので」ということでちょっと産地偽装を疑わせるような言動が聞かれました。詳細は不明です。 感染経路については,現在のところヒト-ヒト感染はあまり確認されていませんで,ブタ-ヒト感染,また,ブタ-ブタ感染での伝播が主だということです。 臨床像としては,髄膜炎や敗血症をきたす例が多くて,toxic shock syndromeの機序も報告されています。今回の症例でもそうだったのですが,この髄膜炎のときに難聴がほかの髄膜炎に比べて出やすいというような報告も見られています。ただ,toxic shockに関しては,ビルレンスファクターとか,どういったものが toxic

shockの原因になっているかということについては,明らかになっていません。 感受性に関しては,ペニシリンGでほとんどよい感受性が示されているのですが,一部の報告ではペニシリンGの耐性株についても報告がされています。 腎臓との病理ということに関して,われわれ

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が探したものについてですが,2008年10月にpublishされたものなのですけれども,こちらのほうで4例の中国での(★00:15:32 /一語不明)の症例ですが,報告がありまして,このような腎容量の増大ですとか,糸球体の毛細血管内の微小血栓,尿細管の硝子様円柱,尿細管上皮組織の浮腫状変化と委縮とか,好中球浸潤を伴う多巣状の壊死変化といったような病理像が認められたという報告があります。 以上を踏まえて,臨床経過と病理についてのまとめです。今回,Streptococcus suisによる敗血症と,それに伴うDIC,MOFが中心病態と考えられ,一症状として腎不全をきたしたものと考えられました。腎不全の遷移要素としては,敗血症自体の腎障害があったということと,敗血症自体の腎障害というのは,髄質を含む広範な間質の障害からちょっとそういったものがあったのではないかと考えました。 また,血栓様の像を認めたことからも,DIC

の影響もあったのではないかと考えています。また,尿細管の著しい節状の変化を認めたことから,尿細管壊死があったものと思われ,β2MGの上昇というのは,そういったものを指示するものではないかと考えました。 硬化などの糸球体自体の変化が乏しかったことから,少なくとも光顕所見からは,今回の腎不全の病態というのは,急性尿細管壊死がメーンの病態ではないかと思っています。 ですが,電子顕微鏡で基底膜にdeposit様の像もあったのですが,これが,これらの病態で説明がつくかどうかということは,われわれの中で結論が出せませんでした。それ以外にも,ほかの光顕所見でも,実を言うと,Streptococ-

cus suis的な特有の変化といえるものがあるのかどうかということに関して,ご意見を賜ればと思います。 また経過中,各種抗生剤も使っていますので,そういった影響もあったのかどうかということについて,もし,病理の像から何かそういったものを示唆するものがあれば,ぜひご意見をい

ただければと思います。 以上,Streptococcus suisの腎生検について,多少の文献的考察を交えて発表しました。ご教示のほうをよろしくお願いします。座長 ありがとうございました。ただ今のご発表に対しまして,ご質問のほう,よろしくお願いします。重松 電顕では immune depositがずいぶん示されていましたけれども,IFでどれも有意に染まっていないということは,immune depositではないということですか。西脇 IFのほうなのですけれども,一番初めにbiopsyした組織から取ったものは糸球体が入っていなかったので,あれはパラフィン切片から取りだしたものなのです。送らせていただいたと思うのですけれども,同じ糸球体の中で,IgGが染まっているものと染まっていないものが同じ画面内に写ったりとか,ちょっとあれをもってどうかなというのがあったのと,その後免疫染色を送らせていただいたのですが,確かにあちらのほうでも僕らの目で見て,ちょっとそういった有意なものがなかったので,一体あれは何なのかなという疑問はずっと残ってしまったのです。それが疑問点として残ったところではあるのです。座長 ほかにありますでしょうか。この方の場合,感染の経路は,手か何かに傷があったために感染したということなのでしょうか。西脇 この症例は,国立感染症研究所のほうをとおして,感染症のほうで国内で発表もさせていただいたのですが,この方は作業中に手袋を使って作業されていたのです。それで,今まで国立感染症研究所のほうとしては,suisの感染防護策として手袋を使ってくださいということだったにもかかわらず,この方は手袋を使って感染をしてしまったので。所見上は,明らかに手の傷だとか,そういった傷口がなかったので,何が感染経路なのかというのは,ちょっとはっきり。要するに進入部位がちょっとはっきりしなかったというのが今のところです。

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森田 藤が丘の森田と申します。病理の所見を述べていただく際に参考になると思うので,ちょっとまとめでもう一度言っていただきたいのですけれども。6月24日に腎生検をしたときには,臨床的にはまだ急性腎不全で,血清のクレアチニンがどれぐらいで,発症のどのステージにあるかということと,そのときの尿所見,蛋白も含めてどんなふうだったか,もう一度教えてください。西脇 クレアチニンが2.8で,尿量としては,すみませんちょっと具体的な数値は忘れたのですけれども,尿所見は。森田 多尿期に入っている?西脇 ちょっとごめんなさい。はっきり覚えていないのです。ただ,もう腎生検が行えるだけの,全身状態としては腎生検を行うのに十分な状態だったというふうに。森田 蛋白尿はどのぐらい出ていましたか。西脇 蛋白尿は,この方は経過中,蓄尿を3回しかしていなくて,この時点での蓄尿というのが取れていないというのが実際のところなのです。森田 沈渣成分で各種円柱はどんな感じですか。西脇 この時点でということですか。森田 はい。生検のときです。西脇 顆粒円柱はもう出ていたか。すみません,ちょっとはっきり覚えていません。森田 だから,ピークアウトした感じで。西脇 そうです。森田 どうもありがとうございました。座長 ほかにありませんでしょうか。suisで感染症になって,剖検例のペーパーをお示しになられていますけれども,今まで腎生検をされたというのはあるのかどうか。西脇 われわれが探した限りは,ちょっと見つからなかったのですけれども,もしかしたらちょっと見逃しているかもしれません。座長 日本において,この suisの感染症ということに対しての報告例は。西脇 今まで約10例あるかないかということです。

座長 その,だいたい10例ぐらいの症例の経過というのは,どういったものなのでしょうか。西脇 10例の経過に関しては,敗血症というかたちで来たものもあれば,髄膜炎というかたちで来たものもあるのですけれども,死亡例もあってというかたちです。 すみません,具体的に10例程度のもののうち,どれぐらいが死亡例,死亡に至ったかというのはちょっと把握していないです。座長 ほかにありますでしょうか。多くはsepticshockという,rushに症状が進行するという typeですか?西脇 そうですね。ただ,今回,いわゆるA群βみたいな toxic shockみたいな経過とは違うのではないのかな。そこまで rushにはきていないかなというふうに考えたのですけれど。座長 よろしいでしょうか。そうしましたら病理のほうに移させていただきますので,重松先生お願いします。重松 この症例は,結局,Sepsisに伴う腎病変ということになると思うのです。それで,ちょっと IFの所見とEMの所見がうまくかみ合わないところがあるのですけれども。 わたしは,Sepsisに伴う IgA関連の腎炎として解釈してもおかしくはないのではないかと思っています。

【スライド01】間質にかなりの細胞浸潤があります。糸球体にも,軽度か,中等度のmesan-

giumの増殖がある腎炎像があります。それから,演者が言われているように尿細管の空胞変性があります。ただ,tubular necrosisと言えるような変化は,わたしはこの症例ではそんなに強いものではないと思います。

【スライド02】やはり,強い変化は,髄質にある間質の細胞浸潤です。一部は尿細管の中に入っていますけれども,これはどうも血行由来で何か immune complexみたいなものが流れてきて起こっている間質炎としておかしくない変化と思います。

【スライド03】一部は少し線維の増殖がありま

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すけれども,細胞浸潤部は,急性の変化になっています。

【スライド04】糸球体の病変は,この程度の増殖性の腎炎です。crescentとかはありません。そこに動脈がありますが,動脈もそれほど強い変化はないし,ここに大きな静脈がありますが,静脈炎様の変化もないということです。

【スライド05】やはり間質の病変が,確かに糸球体病変などに比べて有意にひどくて,しかもそれが臨床症状に相関しているということで,ここらへんを検索しました。ご覧のように好酸球も結構出ていますし,monoclonalではなくて,polyclonalの細胞が浸潤しているというのが分かります。

【スライド06】PAS染色陽性のglycogen richの好中球が,周りに強く出ています。

【スライド07】どうしてこんなに基底膜についているのでしょうか。先ほどの尿路感染症と違って,管壁にうんとついているのです。これは何かのTBMの上に問題があって,それに対する反応と病理の組織を読む目では見なければいけないかと思います。一部はTBMが壊れてしまっているところもあります。

【スライド08】それで,PAS染色で見ているのですが,確かにperitubular capillaritisなどがあって,細胞がそういう血管から出て,そしてこの周りに集まっているということです。

【スライド09】パラフィン切片で IgAの染色がやってありました。これは非常に役に立ったのですが,特に IgA positiveのplasma cellが結構周りに出ているのです。そして管内にも出ているものもあります。

【スライド10】こういうふうにマクロファージも入っているでしょうけれども,IgAが陽性の細胞があって,そして,基底膜の一部にこういうふうにdepositionが,こっちはちょっとgranularになっていますが,depositionがあるのです。細胞がうんと集まっているところはそんなに強くないのですけれども,要するに何かTBMに病変があって,それで細胞が集まって

きているということが言えると思います。これは IgAのついたタム・ホースファル蛋白だろうと思います。

【スライド11】それから糸球体のほうなのですが,diffuseの増殖性の腎炎というかたちを取っています。ここに空胞変性を起こした尿細管がありますけれども,これは電解質の異常か。血管運動性の尿細管病変というふうに言っていますけれども,低カリウム血症などでよく起こってくる変化で,これ自身はまだ尿細管壊死の直接の引き金にはならないと言われています。

【スライド12】PAS染色でmesangium増殖性の腎炎であるというところです。

【スライド13】これもそうです。【スライド14】immune depositと思われるのは,

mesangiumにあるとわたしは思いました。【スライド15】送られてきた IFの写真なのですけれども,これは何を染めたか書いてなかったのですけれども,こういうcastが染まっていますから恐らく IgAだと思います。そうしますと,これはmesangial patternで IgAが染まっていますから,それから血管極部も染まっています。これは IgAが陽性と見たほうがいいと思います。

【スライド16】後の標本はどれがどれだかちょっと分かりません。これも IgAがちょっと入っているのかもしれないです。

【スライド17】これもちょっとコメントができません。

【スライド18】これなんかもちょっと IgAパターンなのですが,ちょっと背景が強過ぎて分かりません。

【スライド19】電顕を見ます。そうすると,電顕にはmesangial depositが結構あります。

【スライド20】これも,mesangial depositが主です。それから辺緑部のほうにもちょっとdeposit

が見られます。【スライド21】これは,subendothelialみたいに見えますけれども,これはmesangial interposi-

tionのあるところなので,間入部のmesangium

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基質に沈着したと言ってもいいと思います。ここは,mesangial areaだと思いますけれども,細かいdepositがあります。

【スライド22】ここにはmesangium間入がありまして,そこにdepositが見られます。これもmesangium間入です。

【スライド23】ここには少し上皮側に沈着物が出ています。

【スライド24】nterpositionがあります。【スライド25】間質の病変です。間質の病変はvacuolar changeがいっぱいありまして空胞変性という状態なのですけれども,まだ核はちゃんとしていますし,まだネクローゼではない。ただ,細胞がずっと基底膜に接して集まっています。

【スライド26】そして,こういうところにはdepositがあるのです。恐らくこれはパラフィン切片で見た IgAのdepositionですから,恐らく糸球体と,間質の病変はともに感染によって起こった immune complex型の tubulitis,それからglomerulitisが起こったのだろうというふうに考えました。 ということで,ちょっと演者の考え方と違っているのですけれども,わたし自身は,これはやはり感染症に伴う IgA関連の感染性腎炎と見ていいと思いました。座長 ありがとうございました。では,山口先生,よろしくお願いします。山口 ちょっと重松先生と似て非なるものかもしれませんけれど。

【スライド01】比較的全体がよく撮れているのではないでしょうか。髄質のほうにもずいぶん病変がありますので,糸球体の数はそれほど多くないですが,つぶれた糸球体も特にないようです。

【スライド02】こちらが皮質で,こちらが髄質です。髄質にずいぶん炎症所見が強いです。先ほど重松先生が出されて,非常に強調的に集簇したように部分的には見られる場所もあります。ただ,それ以外にも比較的ぱらぱらと,瀰漫性にあります。基質のほうにも,糸球体は意

外とおとなしいのですが,炎症がずっと波及して尿細管のこういう foamy changeが散在性に見られている。上のほうは少し線維化が絡んできています。

【スライド03】先ほどと同じですが,好酸球,好中球,リンパ球,plasma cell。そういったものが比較的局所に集簇して見られて,一部こういうような尿細管内のcell debrisを構成しているわけで,通常こういうcell debrisがある場合は,ピエロを一つ考えないといけない所見だろうと思います。 好中球もいますし,2核のplasma cellとか,慢性,反応性の少しリンパ球形質細胞系の反応も見られている。一部尿細管内に,こういうように入り込んでいるところもあります。

【スライド04】1カ所だけなのですが,何だか多核の巨細胞みたいなものが1カ所だけなのです。これは1カ所だけなので,なぜ出てきてしまったのかというのが問題になってしまうのですが,薬剤性の間質性腎炎でも肉芽腫ができる場合もありますし,あるいは局所に何か処理できないものがあったときに,ここに何か抜けたようなものがありますけれども,そういったものに対しての反応ということもあり得ると思います。 これは,髄質部の炎症層で,少し fragmentus

になったapoptoticないろいろなcell debrisがたまっている場所です。炎症層の一部ということで,1カ所だけなのでこれだけで意味付けるのはちょっと難しいように思います。

【スライド05】あと,確かに重松先生が言われたのですが,このTBMにへばりつくように好中球がくっついて見えるわけで,tubular質の場合は,もちろんこういうように中に入ってここに居座るというのが一般的ですが,この場合はやはり,TBMに何か所見がないとこういう変化は出てこない。広い意味での尿細管炎というふうにとらえられる所見だろうと思います。このままこちら側は,どちらかというと,尿細管の中にリンパ球が入り込んで,尿細管炎的な反

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応が見られています。 ここはちょっとつぶれてしまって,基底膜がはっきりしなくなっていますけれども,ちょっとこうグラニュラー(★00:36:36 /一語不明)ですかね,組織球様の細胞がちょっと混ざってきている印象です。

【スライド06】そういうような感じの変化です。capillaritisは,この場所はよく出てくるので,非特異的な変化だろうと思います。

【スライド07】一部,ヘモジデリンか,リポフシン様のものが尿細管上皮内にあって,plas-

ma,好中球,リンパ球系の集まり,エオジノがちょっと混ざっている。尿細管上皮障害もあるということだと思います。

【スライド08】際立った変化は,このサイクロスポリンとか何かで見るような,いわゆるfoamyな,非 常 にuniformな foamy chainで, 薬剤による障害でもおかしくはないと思います。通常のATNに伴う(★00:37:42 /一語不明,リジネアティブ)な変化ともちょっと言えないように思いますので,ARFがあったのが,間質炎と,尿細管上皮障害と両方が相まって少しこういうところは扁平化していますので,やはりATM様の所見もこのへんを見ると,ちょっと否定はできないかなというふうには思います。

【スライド09】銀で見ますと,糸球体は特に…。少し全体に大きくなっているというのが印象的だったです。capillaryが非常に細かくなっているのですが,大きく糸球体の展開が広がる。軽いend capillaryというか,何か糸球体がglowする理由があったのだろうと思います。

【スライド10】それで見ていますと,血栓はちょっと僕もはっきりしないように思います。少し好中球様の外来性の細胞が,場所によってはちょっと入り込んできているのかなという感じなのですが,PASを見ると,ほんのわずかなのです。あまり目立たないです。 mesangiumの反応は,ほとんどあまり際立っていないように思います。無理やり言えば,糸球体が少し育って,管内の増殖がちょっとある

のかなという印象だったです。【スライド11】糸球体がだいぶ大きいです。それから,capillaryが非常に細かくなって,増えているということで,外来性の細胞はパラパラにしかないです。

【スライド12】この動脈には特になくて,尿細管間質に非常に強い変化があります。

【スライド】電子顕微鏡なのですが,どちらかというと僕は,こういうところも確かにmesan-

gial matrixのあれなのですが,intramembranous,あるいは内皮下にちょっと近い側のdepositが主体で,mesangiumの反応は比較的軽いように思います。 このように,どちらかというと,感染に絡んだ intramembranous depositというふうに取ったほうが,こういうちょっと境界不明瞭な,amor-

phousなdensityがあるものというのは,よく感染に伴って出てくる所見のように思います。

【スライド13】これはhumpかどうか分かりませんけれども,ちょっとhump-likeなものです。それから境界がやや不明瞭な,内皮側にちょっと寄って。interpositionは否定はできないように思いますが,どちらかというと,本来のpara mesangiumの領域よりも,膜の基底膜内にmesangium matrix内には一部それ様のdensityのものがありますけれども,ぼわっとした感じのものが多いように思います。こういうようなもの。intramembranous,どちらかというと感染に絡んだ,いわゆる感染関連の腎炎で見るようなdepositのような気がします。

【スライド14】同じような。これは比較的はっきりしていますけれども,こういうような,少し内皮下にあるようなやつ。intramembranous

か,あるいは内皮下にちょっとあるぐらいの感じで,ここはちょっと強いかもしれないです。内皮細胞のちょっと腫大が見られています。

【スライド15】こういう感じで,intramembra-

nous depositで,一部内側に少し寄っているかなという感じのものであります。

【スライド16】ちょっとTBMは気が付かなかっ

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たのですが,foamy changeのこちらの変化です。光顕で見られましたような,いわゆるvacuolar

が異常に増えている状態ですので,やはり何かtoxicな尿細管上皮障害といったものも,一応,サイクロスポリンとか,カルチニンインヒビターでもこういう同じような,必ずしもERではなくて,こういうようなvacuolarがたくさん増えて見られることがありますので,何かやはり toxicな変化も考えないといけないだろうと思います。

【スライド17】IFはちょっと分からなかったのですが,普通のあれではあまり特異的な沈着はないように思いました。

【スライド18】そういうようなことで,感染に絡んだ tubular-interstitialなnephritisで,もしかしたらcell debrisもありますので,少しピエロ的なものもあるので,intramembranous subendo

depositを中心に考えると,感染に絡んだ軽いendocapillary な glomerulonephritis で,tubular

vaculizationが あ っ て, こ れ が も し か し た らtoxicな変化かもしれないということだろうと思います。

【スライド19】たまたま文献が同じになってしまいましたけれども,ARFの程度が非常に強いというようなことで,これ以外の文献で間質性腎炎がきたという文献がほかの文献にありましたので,感染に絡んだ急性の尿細管間質炎ということも一つ考える必要があるのではないかというふうに思います。 以上です。座長 ありがとうございました。今までの病理所見を踏まえて何かご質問ありますでしょうか。鎌田 この症例を記憶にとどめるにあたって,演者に確認をしたいのですけれど。先ほど重松先生が「これは IgAじゃないか」とおっしゃった IFは,IgAでよろしいのでしょうか。西脇 どれがどれだかというお話だったと思いますけれども,一応ファイルに名前がついていたのでそれで分かるかなと思って取ってしまったのですが,すみません。

 ちょっと僕も,IFに関してはああやってばらつきがあったので,あまり記憶にとどめていないというのが今の実情なのです。ちょっとすみません,確認を。鎌田 この症例を整理すると,感染症糸球体腎炎で,小山先生が報告したMRSA腎炎,ないしは super antigen nephritisというメサンギウムに IgA沈着が見られるものに近いと思います。HSP腎炎でも原因として感染が挙げられていますが,同様にメサンギウムに IgAは沈着が見られます。HSPの光顕所見は一部がMPGNの形を取ります。本例の光顕所見はHSP腎炎のMP-

GNtypeに類似しています。Streptococcus suis感染症でも,super antigen nephritis様の病変を取ると記憶にとどめたいので,あの IFが IgAであるか否かというのは非常に重要な点となりますので確認してお教えください。西脇 分かりました。すみません。座長 ありがとうございました。次の演題に移させていただきたいと思います。西脇 ありがとうございます。

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