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1.はじめに 本稿では,(1)に例示したような先行の wh 疑問節とそれに後続する疑問要素が分離して いる分離疑問文(split question)がどのような記述的特徴を有し,その特徴が生成文法の「原 理とパラミター理論」を仮定する三次元文法(cf.岩田(1998;2007;2015 aetc.))によって どのように説明されるかについて論考する。 (1)a.Who is John, is he your teacher? (1) b.Who can speak Basque, is it Bob? まず第2節において,分離疑問文が,音韻上,統語上,意味上どのような特徴を持っているか を記述する。次に,それらの特徴の記述を説明する仮説として三次元文法を仮定し,その仮定 に従って第2節の記述がどのように説明されるかを第3節で考察する。そしてその考察に基づ いて最後の第4節で,三次元文法の妥当性について論じる。 2.記述的特徴 (ⅰ)音韻的特徴 分離疑問文の先行する wh 節とそれに後続する要素はいずれも文中のもう一方の要素から独 立した別個の音調単位(tone unit)を形成し,その境界によって文中の他の要素から切り離 されている。(書き言葉では,先行する wh 節と後続要素はコンマやダッシュで切り離されて いる。) 研究ノート 分離疑問文について 〔要 旨〕 本稿の目的は(ⅰ)に例示したような分離疑問文(split question)につい て考察することである。 (ⅰ)Who is John, is he your teacher? 分離疑問文の後続要素(例えば,(ⅰ)の ‘is he your teacher’)は,その先行節(例え ば,(ⅰ)の ‘who is John’)から,音韻的にも,統語的にも,そして意味的にも遊離・ 独立しているという特徴を有していることが分かる。本稿では,分離疑問文に関する記 述的特徴が生成文法の枠組みでどのように説明されるかを論考する。その結果,岩田 (2015 a)で示されている三次元文法の妥当性が高まることを示す。 〔キーワード〕 分離疑問文,記述的特徴,遊離 that 節,三次元分析,三次元文法の妥 当性 1

分離疑問文について - 天理大学 · この文の一部を修飾してはいない。つまり,どちらの要素もこの文のもう一方の要素から意味 的に独立している。

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Page 1: 分離疑問文について - 天理大学 · この文の一部を修飾してはいない。つまり,どちらの要素もこの文のもう一方の要素から意味 的に独立している。

1.はじめに

本稿では,(1)に例示したような先行の wh疑問節とそれに後続する疑問要素が分離している分離疑問文(split question)がどのような記述的特徴を有し,その特徴が生成文法の「原理とパラミター理論」を仮定する三次元文法(cf.岩田(1998;2007;2015a;etc.))によってどのように説明されるかについて論考する。

(1)a.Who is John, is he your teacher?(1)

b.Who can speak Basque, is it Bob?

まず第2節において,分離疑問文が,音韻上,統語上,意味上どのような特徴を持っているかを記述する。次に,それらの特徴の記述を説明する仮説として三次元文法を仮定し,その仮定に従って第2節の記述がどのように説明されるかを第3節で考察する。そしてその考察に基づいて最後の第4節で,三次元文法の妥当性について論じる。

2.記述的特徴

(ⅰ)音韻的特徴分離疑問文の先行する wh節とそれに後続する要素はいずれも文中のもう一方の要素から独立した別個の音調単位(tone unit)を形成し,その境界によって文中の他の要素から切り離されている。(書き言葉では,先行する wh節と後続要素はコンマやダッシュで切り離されている。)

研究ノート

分離疑問文について

〔要 旨〕 本稿の目的は(ⅰ)に例示したような分離疑問文(split question)について考察することである。(ⅰ)Who is John, is he your teacher?

分離疑問文の後続要素(例えば,(ⅰ)の ‘is he your teacher’)は,その先行節(例えば,(ⅰ)の ‘who is John’)から,音韻的にも,統語的にも,そして意味的にも遊離・独立しているという特徴を有していることが分かる。本稿では,分離疑問文に関する記述的特徴が生成文法の枠組みでどのように説明されるかを論考する。その結果,岩田(2015a)で示されている三次元文法の妥当性が高まることを示す。〔キーワード〕 分離疑問文,記述的特徴,遊離 that節,三次元分析,三次元文法の妥当性

岩 田 良 治

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(2)What shrub did you plant, the rhododendron? (Arregi 2010:563)

(ⅱ)意味的特徴まず,分離疑問文の先行する wh節もそれに後続する要素も,文の一部を修飾することはな

く,文中のもう一方の要素から独立している。

(3)What has he done, deceived the public?

上例において,‘what has he done’はこの文の一部を修飾しておらず,‘deceived the public’もこの文の一部を修飾してはいない。つまり,どちらの要素もこの文のもう一方の要素から意味的に独立している。次に,分離疑問文の先行する wh節もそれに後続する要素も,文のもう一方の要素の問われ

ている(と理解される)部分には含まれない。

(4)What were they like, were they old men?

この例において,‘what were they like’は ‘were they old men’で問われている(と理解される)部分には含まれず,‘were they old men’は ‘what were they like’の問われている(と理解される)部分には含まれない。次に,分離疑問文の先行節が否定文である場合,その先行節に後続する要素は,先行節で否

定されている(と理解される)部分には含まれない。

(5)What didn’t you tell everyone, was it my age?

例えばこの事例の ‘was it my age’ は ‘what didn’t you tell everyone’ で否定されている(と理解される)部分には含まれない。さらに,例えば(6)から分かるように,分離疑問文が先行する wh節と後続する節で構成

されている場合,そのいずれの節も単独で文になりうる。

(6)a.What didn’t you buy, was it tobacco?b.What didn’t you buy?c.Was it tobacco?

さらに,次例からも分かるように,分離疑問文において,先行する wh節に後続する要素は先行節に対する補足的説明となっている。

(7)What are you doing, are you waiting for your test results?

またさらに,(1a),(1b),(4),(5),(6a),(7)からも分かるように,分離疑問文において,先行する wh節に後続する要素が節である場合,その後続節は,従属節と異なり,文中で,名詞,形容詞,あるいは副詞の機能を果たさない。

2 天理大学学報 第67巻第2号

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(ⅲ) 統語的特徴分裂文(ceft sentence)の焦点(focus)の位置に生じる要素は,動詞の下位範疇化にかか

わる要素,動詞を緩やかに限定する要素,あるいは主語である名詞句に限られ,文の残りの部分からの独立性が強く,その前後にコンマを伴う要素は,その位置に生じることはできない。そして,例えば次例からも分かるように,そのような分裂文の焦点の位置には分離疑問文の先行する wh節も,それに後続する要素も生じない。

(8)a.*Is it who John is that he is a teacher? (cf. (1 a))b.*Is it is he a teacher that who John is? (cf. (1 a))

次に,(6)や次例からも分かるように,分離疑問文において,wh節に後続する要素が無くてもその文は統語的に成立する。つまり,その後続要素が生じる(義務的な)統語的スロットが wh節の中に存在しない。

(9)a.Who is John, is he your teacher? (=(1 a))b.Who is John?

さらに,一般に等位節を含めルート Sのみに見られる主語と助動詞の倒置(subject―auxiliary inversion)という現象が例えば,(1a),(1b),(4),(5),(6a),(7)や次の(10)のような分離疑問文の後続要素において見られる。

(10)And why was he ironing a shirt, wasn’t that Mr. Robinson’s job?

以上から,分離疑問文の先行する wh節とそれに後続する要素はいずれも自立表現であり,主語や修飾語のような文の一部に組み込まれる要素にはならず,音韻的にも意味的にも,また統語的にも文のもう一方の要素から(遊離・)独立していることが分かる。上記の点で,分離疑問文の先行する wh節及びそれに後続する要素は,音韻的にも意味的に

もそして統語的にも独立している2つの等位節から成る(対称的)文等位接続構文の一方の等位節に類似している。しかし,分離疑問文の先行 wh節とそれに後続する要素は以下の点で(対称的)文等位接続構文の一方の等位節とは異なる。まず,(対称的)文等位接続構文の2つの等位節は入れ替えることができるが(cf.(11)),

分離疑問文の先行節とそれに後続する要素の位置を入れ替えることはできない(cf.(12))。

(11)a.John can speak Japanese and Taro can speak English.b.Taro can speak English and John can speak Japanese.

(12)a.What didn’t you buy, was it tobacco? (=(6 a))b.*Was it tobacco, what didn’t you buy?

次に,(対称的)文等位接続構文の二つの等位節は対等の命題(proposition)を表す。一方,分離疑問文においては,(対称的)文等位接続構文の場合と異なり,後続する要素が先行するwh節の補足的説明をするという機能を持つ(cf.(7))。

分離疑問文について 3

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以上から,分離疑問文の特徴について下記のように記述することができる。

(13)分離疑問文の先行する wh節とそれに後続する要素は,文のもう一方の要素から音韻的にも,意味的にもそして統語的にも遊離・独立している。しかし,分離疑問文の先行する wh節に後続する要素は,2つの等位節から成る(対称的)文等位構造の後続の等位節ほどは文のもう一方の節と対等の関係にはなく,もう一方の節(つまり,先行する wh節)にある程度従属している。

3.分析と説明

第2節で記述された分離疑問文の先行する wh節とそれに後続する要素の特徴は,岩田(2012b)で記述されている下記(14)に示された離接詞(disjunct)としての that節(遊離that節とも言う)を含む文における先行節とその that節の特徴と同じである。

(14)a.遊離 that節を含む文において,thatの前にコンマあるいはダッシュなどがあるか,または話しことばでは thatの前に休止(pause)が置かれる。(cf.住吉2005:31)(e.g. (ⅰ) “That’s the first thing I thought about, that we’vegot to go there,” offensive tackle L.J. Shelton said. (Arizona Daily Sun,

Sep. 14. 2001) / (ⅱ) This cannot be happening, that we are in such asituation. / (ⅲ) A very important point is this ― that there is no singlefunction of religion. (J. Huxley, Man in the Modern World)(住吉 2005:31)

b.遊離 that節が生じる統語的スロットが先行節内に存在しない。また,遊離 that節を表現しなくても,文の必須要素が欠けるわけではない。(住吉 2005:32)(e.g. (ⅰ) We find these truths to be self―evident, that all men arecreated equal. / (ⅱ) “We are not in disagreement about China, that Chinashould try much, much harder to take the lesson that has been there for

so many, that economic liberalization and political liberalization need to

go hand―in―hand,” said Ms. Rice. (Voice of America, Feb. 9, 2005)(住吉205:31)/ (ⅲ) Susan rested on what she thought was her best case, thatthe jury would surely find her client not guilty. / (ⅳ) ‘..., so what are yousaying, that the council should have been straight round to board it up? ’

(BNC : FX 5 262)(住吉 2005:28)つまり,統語的に,遊離 that節は先行節に組み込まれておらず,先行節から独立しているという特徴を持つ。

c.遊離 that節は先行節に情報を追加する機能を持つ。つまり,what疑問文のあとでは質問者の想定という情報を追加し(e.g.(14b)(ⅳ)),平叙文のうしろでは前言(の一部)を敷衍する情報を追加する(e.g.(14a)(ⅰ),(14a)(ⅱ),(14a)(ⅲ),(14b)(ⅰ),(14b)(ⅱ),(14b)(ⅲ))。(cf.住吉 2005:32)。

そして,岩田(2012b)は,離接詞としての that節を含む文を三次元文法に基づいて考察し,その文の特徴を説明した。三次元文法(機構)のうち,本稿の内容に係わる部分を示すと以下

4 天理大学学報 第67巻第2号

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のようになる(2)。

(15)(ⅰ)三次元構造生成条件:Xの最大投射 Ximaxは,その背部に別の Ximaxを持つことができる。(X=C(omp), I(nfl), N, V, A, P, Adv。指標ⅰは前後の Xが同一の範疇であることを示す。)そして,(ⅰ)背部の Xmaxは,X=Cの場合は,前部の Xmaxと対等の位置あるいはそれに直接支配される位置にあり,X≠Cの場合は,前部のXmaxと対等の位置にある。(ⅱ)前部の Xmaxと対等の位置にある背部の Xmax

は,前部の Xmaxを直接支配する節点が存在する場合には,その節点に直接支配される。

(ⅱ)等位構造条件:文法の規則,条件および原理は,(三次元構造にある)すべての等位項に適用される。

上記の条件は文法(の仕組み)の中に(16)に示したように組み込まれている。

(16) Xバー理論二次元構造生成条件三次元構造生成条件

等位構造条件

D構造

変形部門

S構造

PF部門 LF部門

PF LF

等位構造条件

直線化規約等位構造条件 等位構造条件

本稿では,以下,本稿第2節の分離疑問文の記述的特徴と上記の三次元文法に基づいて考察を進める。分離疑問文の先行する wh節と後続する要素は,上述のように,岩田(2012b)で論じられ

ている離接詞としての遊離 that節を含む文における先行節とそれに後続する離接詞としてのthat節と同じ特徴を持つ。したがって,分離疑問文は,岩田(2012b)で離接詞としての遊離that節を含む文に対して仮定されたのと同じ,概略,次の三次元的統語構造を持つと仮定される。(分離疑問文の先行する wh節は(17)の C1”に生成され,その wh節に後続する要素は(17)の C2”に生成される。)

分離疑問文について 5

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(17) C1”

C’ C2”

I”C C’

I”C

そして,分離疑問文に対して仮定された上記の三次元構造は,離接的 that節を含む文の三次元構造の場合と同じように,次の直線化規約に従って直線的な(音声)連鎖に解釈される。(cf.岩田1989;1998:55)

(18)直線化規約 II(3):次の構造において,A1の構成素と A2を任意の順で解釈せよ(4)。(cf.分離疑問文に関して言えば,(17)の C1”は次の構造の A1として表記され,C2”は A2として表記される。)A1

A2

では,次に,分離疑問文に関する上記の(三次元)分析によって,本稿の第2節で記述された分離疑問文の特徴がどのように説明されるかを考察してみる。分離疑問文の先行する wh節に後続する要素は,三次元文法の分析では先行する wh節と統語構造上,空間的に異なる平面に存在する。したがって,その構造が PF部門で解釈される際に,wh節と後続要素は別個の音調単位を形成すると考えるのが自然である(cf.2節の(ⅰ))。さらに,分離疑問文の wh先行節に後続する要素が三次元構造の異なる平面に位置する wh先行節の一部を修飾するという解釈は不自然である(cf.2節の(ⅱ))。また,wh先行節に後続する要素とは別の平面にある節が疑問節や否定節である場合,wh先行節に後続する要素はその疑問節で問われている内容には含まれず,否定節で否定されている部分には含まれないと仮定するのが自然である(cf.2節の(ⅱ))。さらに,本稿の三次元分析では分離疑問文の wh先行節とそれに後続する要素はともに文のもう一方の節とは独立した CP(=C”)を形成するので,それらの要素が単独で文になりうるという特徴もこの分析から自然に導かれる(cf.2節の(ⅱ))。さらに,分離疑問文の構造が(17)であると仮定することによって,C2”の位置に生成される分離疑問文の後続要素が C1”の位置に生成される先行する wh節への補足的説明の機能を果たすことが分かる(cf.2節の(ⅱ))。さらに,wh先行節に後続する要素は本稿の三次元構造から仮定できるように,文のもう一方の要素から遊離・独立した要素であるので,それが分裂文の焦点の位置に生じないという事実は自然の帰結として得られる(cf.2節の(ⅲ))。また,wh先行節(=(17)の C1”)は後続の要素(=(17)の C2”)から独立しており,後続する要素が無くても統語的に成立する。したがって,wh先行節に後続する要素が生じる(義務的な)統語的スロットが存在しないのは本稿の三次元構造から自然に得られる帰結である(cf.2節の(ⅲ))。さらに,分離疑問文の三次元構造(17)において,分離疑問文の後続節はルート Sであるので,その S(=(17)の C2”)において,主語と助動詞の倒置が起こるということは自然に説明される(cf.2節の(ⅲ))。

6 天理大学学報 第67巻第2号

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4.結び

本稿では,疑問文のうち,先行する wh節とそれに後続する疑問要素が分離しているいわゆる分離疑問文について,生成文法の「原理とパラミター理論」を仮定する三次元文法に基づいて考察した。この疑問文において,後続の疑問要素と先行する wh節は互いに遊離・独立しているが,前者は後者にある程度従属している要素であると記述することができる。そして,この記述的特徴は,離接詞としての that節を含む文における先行節とそれに後続するその that節の持つ特徴と同じであり,その that節を含む文の場合と同じように,分離疑問文を三次元の統語構造を持つものであると分析することによって説明され得るということを論証した。分離疑問文と離接詞としての that節を含む文だけでなく,岩田(2015a,2015b)でも示し

たように,下記の構文が三次元の統語構造を持つものと分析される。

(19)a.離接詞としての文副詞(sentence adverb)を含む構文e.g. I don’t want the money, confidentially. (Quirk et al.1985:616)

b.非制限的副詞節(nonrestrictive adverbial clause)を含む構文e.g. He’s not coming to class, because he just called from San Diego.

(Rutherford1970:97)c.論評節(comment clause)を含む構文

e.g. There were no other applicants, I believe, for that job. (Quirk et al.

1985:1112)d.非制限的関係詞節(nonrestrictive relative clause)を含む構文

e.g. Many people, who live in town, are deprived of life’s greatest blessing

― a healthy environment. (Leech and Svartvik1975:285)e.thanと asが等位連結詞(coordinator)である比較構文

e.g. Bill ate more peanuts than Harry grapes. (Jackendoff1971:22) / Morestudents than teachers signed the petition. (Keenan1987:481) / Fredcan read newspapers as quickly as Jim can letters. (Emonds1985:327) / As many students as teachers signed the petition.(岩田1998:64)

f.付加節を含む構文(5)

e.g. John loves Mary, doesn’t he?

g.不連続構成素(=「動詞と不変化詞(particle)」と「一部が後置されている名詞句」)を含む構文e.g. John put the money away. / The lag was stale that you sold me.

(Quirk et al.1985:1397)h.直接話法構文

e.g. “I am so happy,” said Mary.(岩田 2001:5)i.分詞節(participle clause)を含む構文

e.g. John, knowing that his wife was expecting a baby, started to take a

course on baby care. (Quirk et al.1985:1123)j.推論用法(inferential use)の because節を含む構文

分離疑問文について 7

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e.g. He likes them, because his wife told me so. (Quirk et al.1985:1073)k.離接詞としての if節を含む構文

e.g. We can do with some more butter, if you’re in the kitchen. (Quirk et

al.1985:1072)l.推論用法の since節を含む構文

e.g. Elizabeth enjoyed last night’s concert, since her brother told me so.

(Quirk et al.1985:1073)m.比較相関(comparative correrative)構文

e.g. The more you eat, the less you want. (= If / When/As you eat more,

you want correspondingly less.) (Culicover and Jackendoff1999:545)n.同格構文

e.g. A senior Chinese official recently told Japanese and Korean diplomats

it is not convinced of U.S. claims that North Korea has a uranium

program, a statement that angered some U.S. officials. ― The

Washington Post : 1/12/2004(下地2004:49)o.全域的 wh疑問文

e.g. What did John lose and Bill find? (Citko 2011:55)p.wh&wh疑問文

e.g. What and where did Sally sing? (Gracanin−Yuksek 2007:18)

その三次元分析を仮定する「原理とパラミター理論」は,岩田(2015a)で述べられているように,記述的妥当性があるだけでなく説明的妥当性もある。そして,上述のように,(19)に示した種々の構文に加えて本稿で扱った分離疑問文も三次元の統語構造を持つものとして分析されることが本稿での考察によって論証された。その帰結として,本稿での分離疑問文に関する考察の結果は上記の三次元分析を仮定する「原理とパラミター理論」の記述的妥当性をさらに高めたことになる。

註(1) 本稿の(1a),(1b),(3),(4),(5),(6a),(7),(8),(10),(12b)の容認性につ

いては,天理大学の D. Hopkins先生に判断していただいた。ここに記して謝意を表したい。(2) 三次元文法の仕組みの詳細は岩田(1998;2007;2015a)を参照されたい。(3) 直線化規約 IIの IIは,岩田(2012a)で提出された三次元文法機構を構成する下記(ⅰ)の

直線化規約と区別するためのものである。

(ⅰ)直線化規約(linearization convention):次の構造において,(a)X1と X2の右側に同一の要素がある場合は,その同一の要素より先に X1と X2を解釈しなければならない。

(b)すべての X1と X2は同じ順序に解釈されなければならない。(c)X1と X2の同じ左枝の位置に共通して含まれる要素の二度目およびそれ以降の解釈に際しては,それ(ら)をゼロと解釈してもよい。

(d)X1と X2を解釈する際に,X1と X2の一方に等位接続要素(の音韻素性と形式素性)を付加してもよい。

8 天理大学学報 第67巻第2号

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X1

X2(X(≠φ)は要素の連鎖あるいはその一部である。)

(4) 分離疑問文の構造(17)がこの直線化規約 IIに従って解釈規則によって直線化された結果,wh節に後続する要素を不適切な位置に持つ連鎖が生じた場合,その連鎖は,岩田(1998:63)で仮定されているように,語順に関する何らかの装置によって排除されると考える。

(5) 本稿(19f)で用いている ‘John loves Mary, doesn’t he?’のような文における ‘doesn’t he?’の部分を付加節と呼ぶ。

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分離疑問文について 9

Page 13 語学・文学・人文・社会・自然編カンマ使用/本文(横)※リュウミンL・カンマOTF/岩田良治       p001-009横 2016.02.16 09.39.51