26
メンターのためのハンドブック 聖路加国際大学 臨床疫学センター 臨床研究における メンタリング A Handbook for Mentors in Japan Mentoring in Clinical Research

臨床研究における メンタリング - Luke04 臨床研究メンタリングとは?メンター(指導医など)との相互作用により、メンティー(若手医師など)

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

  • メンターのためのハンドブック

    聖路加国際大学 臨床疫学センター

    臨床研究におけるメンタリング

    A Handbook for Mentors in Japan

    Mentoring in Clinical Research

    表 4 表 1

    平成25~27年度 厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業)

    「研究マインドを持つ臨床医に対する疫学教育プログラムの開発と基盤整備」 主任研究者 高橋 理

  • 序文��������������������������������������� 02

    序説:日本の臨床研究メンタリングについて��������������������� 03

    1 臨床研究メンタリング����������������������������������� 04

    2 臨床研究メンターの役割����������������������������������� 05

    3 臨床研究チームによるメンタリング����������������������������������� 06

    4 臨床研究メンタリングの利点����������������������������������� 08

    5 優れたメンタリングの進め方����������������������������������� 09

    臨床研究メンタリングを開始するための資料� ����������������� 11

    ケーススタディ:先行研究を踏まえた解説と解決策� �������������� 18

    研究メンバー� ��������������������������������� 21

    参考文献� ����������������������������������� 22

    Contents目次

    A Handbook for Mentors in Japan

    Mentoring in Clinical Research

  • 02

    臨臨床研究の手法を習得するには、重要な知識、技能、姿勢を熟練世代から新しい世代へと伝承することが重要である。日本に限らず、昔からこうした知識や技能の伝承は上級の先生から弟子へといった徒弟間で行われることが一般的であった。臨床研究のメンタリングは教えられたことがないどころかきちんと説明すらされていない。 「メンタリングは自然に行われるもの」という前提があり、メンタリングのプロセスについて議論されてこなかった。

    しかし、この数年医療におけるメンタリングの理論と実践に対する関心が高まっている。特に臨床研究者が生産性を上げ輝かしいキャリアを手に入れるには正式なメンタリングが欠かせないものであることが先行研究により明らかになっている。系統だった正式なメンタリングは若手研究者にとって論文の執筆・出版および研究費確保の成功とともに、仕事の満足感を高める効果がある。しかし、「現在、メンターはいない」と言っている臨床研究者は多い。また、女性研究者はその傾向が強い。最近日本で行われた研究では、多くの研究者が「メンターがいる」と報告している一方でメンターの役割についての理解は低くメンターとメンティーの双方とも訓練を重ねる必要があることが明らかになっている。日本では臨床研究・トランスレーショナル研究の仕事に携わる医療者が増えており、メンターの訓練・評価方法を再考する必要がある。

    メンターの訓練は効果を示しているという朗報がある。それを受けて、米国の大学病院では新しいメンター育成プログラムが次々と導入され、日本でもメンター訓練の機会が増え始めている。本書などの情報源は、日本のメンター育成を支える上で極めて重要なものである。指導者、臨床研究者らが、メンター訓練に参加し、人望のある同輩と会話しつつ自らのメンタリングの実践を振り返る機会を持てば、メンターとしての腕が上がり、メンタリングからさらに満足感を得るようになり、それが多くの場合メンティーの生産性向上に寄与する。これは、科学にとって、ひいては社会にとって良いことである。

    本書に記載されている資料は一連のコアコンピテンシーとメンターの学習目的が基本となっており、メンティーとの日々の交流をさらに円滑に行う参考になるだろう。対象は、専門能力育成レベルが様々なメンティーにそのレベルを問わず訓練や協力を行っている臨床研究メンターである。フォーマットは、メンタリングの課題の検討を手掛かりとして、ピアラーニングを推進するよう考えられている。その目的は、メンタリングの理念と実践についての考察を進めることである。

    実際のところ、本書のような臨床研究メンターの訓練資料を支えている概念は、あらゆる人間関係の基本要素、すなわち明確なコミュニケーション、理解度の評価、相互の期待事項の明確化、多種多彩な状況や対象者に合わせられるようにすることである。メンタリングは重要であり、メンタリングのレベル向上そして日本のメンタリング文化をサポートすることを真摯に考えている方々にとって本書「臨床研究におけるメンタリング : メンターのためのハンドブック」はかけがえのない情報源となるだろう。

    ミッチェル D. フェルドマン(MD, MPhil, FACP)カリフォルニア大学サンフランシスコ校

    医学部総合内科教授・暫定責任者教員メンタリング担当学部長代理

    序文

  • 03

    1990 年代、エビデンスに基づく医療(EBM)が日本でも広まり臨床現場に直接応用できる臨床研究の必要性や重要性が益々高まった。しかし、歴史的に日本の医学部では基礎研究に重きが置かれ臨床研究はあまり行われてこなかった。福井らによると、1990 年代日本からの基礎研究の主な英文雑誌への発表数は世界 2位であったが臨床研究は世界 20位で最近 10年の傾向も変わっていない。これらのことより臨床研究者の人材確保と更なる支援体制強化が望まれた。臨床研究を行う上でいくつかのバリアが報告され、時間の確保や特に医療統計学などの知識不足に加え、指導するメンター不足が要因の一つである。メンタリングの重要性は主に米国での多くの先行研究で報告されており、特に若手医師の学術活動を支え、論文発表数を増加させ、仕事の満足度を向上させる。しかし、メンタリングの方法を誤ると、メンターの時間が無駄になり、メンティーの意欲が下がり、逆に臨床研究の妨げになることもある。よって、質の高い臨床研究メンタリング法の普及は喫緊の課題であるメンタリングの指導内容や方法は、各国の文化的背景や研究環境・構造によって有効性が異なる。欧米のメンタリングを参考にするだけでなく、日本の現状に合った臨床研究メンタリング法の確立が必要である。この臨床研究メンタリングハンドブックは、平成25-27年度厚生労働省科学研究“研究マインドを持つ臨床医に対する疫学教育プログラムの開発と基盤整備(主任研究者:高橋理)”の一環として作成された。カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)のフェルドマン教授が中心となって作成したUCSF臨床研究メンター養成プログラムを基に臨床研究メンタリングワークショップでの議論と文献検索・レビュー、定期的な班会議の結果をまとめた。臨床研究を行った経験だけでは優れた臨床研究メンターになれるわけではなく、異なる知識・技術が必要である。このハンドブックが日本での臨床研究メンタリングの普及を促し優れた臨床研究者の養成と日本からの質の高い臨床研究論文の発表、さらに医療の質の改善による患者アウトカムの向上を期待する。

    平成 28年 3月聖路加国際大学 臨床疫学センター

    高橋 理

    序説:日本の臨床研究メンタリングについて

  • 04

    臨床研究メンタリングとは?メンター(指導医など)との相互作用により、メンティー(若手医師など)

    の個人的な成長、キャリアの選択、臨床研究の生産性(論文の出版や研究費獲得を含む)・研究目標を成就させること。

    なぜメンタリングは重要なのか?メンタリングは、若手医師の育成を促す有効な手段であり、多くの研究結

    果が報告されている。(Sambunjak, 2006)

    ● メンティーの個人的成長を促す:適切なメンタリングの関係性はメンティーの人間的成長に重要であり仕事

    上の満足度を向上させる。(Straus, 2013)● �キャリアを重ねていく:

    メンティーがキャリアを重ねていくために必要な専門領域の具体的技能だけでなく資質(ソフトスキル)を伝授する。ロールモデルとしての役割や、メンターの持つ職業的ネットワークを紹介することなどである。(Kashiwagi, 2013)● �研究の生産性を上げる:

    適切なメンタリングにより精神的サポートだけでなく具体的な臨床・研究技能を伝授しメンティーによる定性・定量的研究の生産性を上げる。

    1 臨床研究メンタリング

    メンタリングの目的は、メンティー自身の目標達成を推進することである。メンターは、所属する研究機関や部門、社会の目標達成を推進することも頭に浮かぶかもしれないが、これはスーパーバイザーの役割である。研究機関や部門の目標とメンティーの目標が一致しない場合は、2 つの役割を兼任するのは難しい。メンタリングとは、メンター自身の目標を達成するために、部下であるメンティーに無償で労働を強いるものではない。

    注 意!

  • 05

    2 臨床研究メンターの役割● �サポーターとしての役割:研究を発表、出版の最後まで見届ける▶�リサーチクエスチョンの明確化:研究を進める上で最初のステップは、実

    現可能な研究課題(リサーチクエスチョン)を決定させること▶ 研究の管理:事務作業の期限、個人目標の達成状況、学会抄録や論文投稿

    の期限など、さまざまなことに配慮しつつ臨床研究の進捗状況を管理する▶ ネットワークファシリテーター:文献レビューで得た情報を伝え、さらに

    は国内外のオープンアクセスデータを紹介し、それらにアクセスできるように支援すること。自分の同僚や共同研究者といった個人的なネットワークをメンティーに紹介すること

    ● �チューターとしての役割:臨床研究に必要な以下の技能と知識を伝授する

    ▶ 研究デザインを行う能力:優れた臨床研究を行うには、特に研究全体をデザインすることが重要である。メンティーが研究の基本的要素を理解するために必要な能力を伝授する▶��データを解析する能力:全てのデータは、何らかの形で解析が必要である。

    基本的な生物統計学の知識が必要である。一方で、生物統計家を紹介し、必要な知識を得ることができる情報源をメンティーに教えることも大切である▶�論文作成と発表する能力:学会で研究発表を行い、論文を作成することは、

    臨床研究の最終目的である。抄録やポスター、論文原稿の編集も重要な役割である

    臨床研究メンターになるには、メンタリングへの熱意は最低限大切だが、生産性の高い研究を推進するには熱意だけでは足りない。メンターになることに同意する前に、十分な時間をかけて自ら上記の技能を磨くことが求められる。

    注 意!

  • 06

    3 臨床研究チームによるメンタリング多忙な臨床の場では、いくらメンターに熱意があったとしても、メンティー

    の多彩なニーズ全てに一人のメンターが対応するというのは現実的ではない。メンター制度の中でもチームによる色々な人たちが関与するべきである。(図1, 2)

    ● �リードメンター:総合演出的な役割を果たす。メンティーが一番よく知っている人物、最も

    信頼している人物、または最も付き合いが長い人物がふさわしい。(例:所属長・医局長など)

    ● �キャリアメンター:キャリアゴール達成に向けての決断を支援する役割を担う。個人的に深く

    メンティーを知っている場合も知らない場合もある。(例:病院長・教授など)● �副メンター:

    メンタリングに十分な時間を割くことができる熱意ある若手の先輩医師・同僚が適切である。複数の場合もある。(例:先輩医師・同僚研究者など)● �リサーチメンター:

    臨床研究経験が豊富で、専門的な知識(疫学、生物統計学)や技術(データ解析など)を教える人物。(例:医療統計家・臨床疫学者など)

    チームを構成するそれぞれのメンターは、メンティーの育成について各自の役割について早くからコミュニケーションを取りあうことが重要である。その目的は、(1) 全員にとってメンタリングのプロセスの効率を上げる、(2)「テリトリー」についてメンター間で理解し誤解がないようにする、といったことである。

    注 意!

  • 07

    Co-mentor

    Lead mentor

    Career mentor Project mentor

    Research/Scholarlymentor

    MENTEE

    図 1.�様々なタイプのメンターがチームを組んで協力しあうことで、メンティーの様々なニーズに応えることができる。

    Dr. Mitchell Feldman の図を転載©2012 Regents of the University of California

    MENTEE

    Co-m

    ento

    r

    Lead

    men

    tor

    Career mentor Project

    mentor

    Research mentor

    図 2.�日本では様 な々メンターの役割が著しく重複していると考えられる。

  • 08

    メンタリングはメンティーだけでなく、メンターと研究機関の双方に、研究の生産性やキャリア満足度、評判、成功という形で多くの利益をもたらす。

    ● �メンターにとっての利益▶ 指導する役割への満足度:新世代の若手医師のメンタリングに関わること

    にやりがいを感じ、役割への満足度が報告されている▶ キャリアでの利点:論文数の増加だけでなく、米国での研究を重視する多

    くの大学では、メンターとしての優れた指導に対し、教員として高く表彰している▶ 研究への利点:メンタリングに触発され自身の研究プロジェクトの進捗が

    よりはかどる例もある。米国の国立衛生研究所 (NIH) では、臨床研究メンター活動を研究費を授与するための重要な判断材料としている。現時点で日本の状況はここまで進んでいないが今後が期待される(Frei, 2010)

    ● �研究機関にとっての利益優れた医療機関は、そこで生み出される研究の質で名声を築き上げている

    ことが多い。科学的に厳密で革新的といった影響力の大きい臨床研究が、その研究を行った医療機関の名声を国内外に広めるかもしれない。▶ 若手医師の採用と指導医の定着:若手医師(ジュニアレジデントとシニア

    レジデント)の採用や指導医の定着に役立つ可能性がある。積極的なメンタリングは、医療機関の臨床研究支援環境整備のなかで、費用対効果が高く比較的簡単な方法となり得ることが様々な研究で報告されている▶ 評判を上げる:研究を推進している機関として評判になれば、より多くの

    優秀な医療研究者が集まるようになり好循環がうまれ、診療の質の向上、患者の増加、研究資金を得る機会の増加があげられる

    4 臨床研究メンタリングの利点

  • 09

    ● メンターになるための準備優れたメンターになるための秘訣を挙げるならば下記 3 つが挙げられる

    であろう。(Ramani, 2006)▶ コミュニケーション(対話力)能力:メンティーのニーズについて深く真

    剣に耳を傾けることが第 1 歩である▶ コミットメント(仕事への献身・責任感):メンタリングの仕事をメンター

    は追加・付属の仕事ではなく責務として欠かせないと考えるべきである。自分の利益よりもメンティーの利益を優先できることが優れたメンターの重要な資質である(Bettmann, 2009)

    ▶ 臨床研究の経験:自分には効果的な臨床研究のメンターになれる十分な知識と経験があるか?と自問する必要がある

    ● メンタリングの成功要因メンタリングを成功に導くには、双方の誠実さや責任感、学ぶことに対す

    る熱心さが重要である。(Straus, 2013)▶ 相互利益:メンターとメンティー双方に得るものがある相互関係という点

    を重んじる▶ 相互尊重:相手の時間と努力を互いに尊重することが大切である▶ 明快な期待:メンターとメンティーの両者がお互いに期待する点を最初の

    段階で話し合って決めることが大切である▶ 個人的な関係:メンターはメンティーに親身に気にかけてくれると思われ

    るようになると最適なメンタリングが実現する▶ 共通の価値観:メンターとメンティーが共通の価値観をもつことも重要で

    ある

    5 優れたメンタリングの進め方

  • 10

    ● 研究機関の環境整備理想的なメンタリングを各個人が行うようになるために、研究機関ができ

    る環境整備は以下の通りである。(表 1)▶ 教員と研修医のメンタリング(例えばコミュニケーション)技術トレーニ

    ングプログラムを実施する:臨床研究を行う計画や研修カリキュラムの導入を検討している研究機関ではメンターを育成するプログラムが必要であろう

    ▶ 常勤以外の柔軟なキャリアの需要に対応する▶ メンターとメンティーのマッチングプログラムを整備する▶ 優れたメンタリングスキルを発揮した教員に対して、報奨・表彰するプロ

    グラムを作成する

    表 1.研究機関での導入難易度別メンタリングサポート

    難易度 育成 サポート 報奨

    易しいメンター育成コース 同僚からのサポート 学術表彰(実績として認める)

    境界領域の教育・訓練

    メンター育成のためのメンター 金銭ではない報奨

    難しい

    偏見に対する意識を高める

    (性別、年齢など)

    関連する技能習得法の提供

    時間の確保金銭的報奨

    (Ramani 2006 年より転載)

  • 11

    臨床研究メンタリングを開始するための資料●メンタリング契約書:メンターとメンティーが同じ考えを共有していることを確認する方法として、メンタリング契約書(別名「パートナーシップ契約」)が一部プログラムで普及している。この契約は、研究機関やメンティー、メンターのニーズに合わせて調整することが必要である。米国の例を以下に示す。

    From https://www.icre.pitt.edu/mentoring/contracts.html, accessed December 14, 2015.

  • 12

    From https://www.icre.pitt.edu/mentoring/contracts.html, accessed December 14, 2015.

  • 13

    ● �個別キャリアプラン(Individual�Development�Plan:IDP)▶ ここ数年一般的になっている調整戦略として個人キャリアプラン(IDP)

    がある。IDP の目的はメンティーの (1) 研究の短期目標、(2) 長期のキャリア目標、(3) 具体的技能の強みと短所、をメンティー自身が記入しメンターと相談しながら絞り込んでいく。次のステップ 1-4 をくり返すことが重要である。

    日本語 IDP(例)

    研究スキル

    ステップ 1:自己評価以下、研究の広い分野でご自分の得意とする分野および苦手とする分野についてお尋ねします。この評価は、ご自身の一連のスキルについて包み隠さず正直にお答えいただて初めて最も有効に活用できるものであり、「正解」や「不正解」はありません。研究分野が異なれば、質問の定義や解釈も異なるかもしれませんが、評価はあなた自身の内省を目的としたものですのでそれでよいのです。また、「自分には関係ない」と思われる質問はスキップしてかまいません。

    � 1 =改善の必要がある   5=大変優れている1 2 3 4 5

    創造性/新しい研究命題の創出

    研究デザイン

    文献のレビューと批判的評価

    問題解決法

    統計解析法

    データと分析結果の解釈

    コンピュータ・スキル(Excel、統計解析ソフトウェアなど)自分の分野特有の技術的スキル:(具体的に書いてください)自分の分野特有の知識:(具体的に書いてください)

    記録保存とデータ管理

    口頭発表スキル

    ポスター発表スキル

    論文執筆スキル

    助成金/申請書作成スキル

    技術的知識や専門スキルで自分が得意とする分野、改善の余地があると考えているところ、1年後あるいは2年後までに達成したい研究/学術活動をお書きください。

  • 14

    ステップ 2:IDPを書くA.�スキル評価概要ご自身について、少なくとも 3 つ「十分なスキルがある分野」あるいは「十分な訓練を受けている分野」(「得意分野」)、および「もっと訓練が必要と思われる分野」(「能力育成の必要がある分野」)を以下の表に記入してください。 3 つ以上記入してもかまいません。

    B.�今後 6~ 12カ月の目標

    C.�今後 3~ 5年の目標

    得意分野 能力育成の必要がある分野

    対象分野1.�開拓すべき目標または育成すべきスキル

    2.�目標達成の手法/戦略

    3.�期間 4.�達成したことを示す証拠(成果)

    例:複数レベル混合モデルについて学ぶ

    eCRNetを利用したオンライン講義の受講;メンターから個人指導を受ける

    3カ月 別個にDMデータセットを一人で解析し、原稿用データを準備する

    研究(A)

    対象分野1.�開拓すべき目標または育成すべきスキル

    2.�目標達成の手法/戦略

    3.�期間 4.�達成したことを示す証拠�(成果)

    例 :�准教授就任 自分の研究分野で

    年に論文を3 本発表する。研修医に教え始める

    3年 履歴書には、第 1・第 2 著者の出版物が 9本以上必要

    研究(G)

  • 15

    D.�目標の優先順位づけご自身の仕事の様 な々面について短期・長期両方の視点から答えていただきました。活動を整合させるには、目標達成にとっての最重要事項をはっきりさせることが重要です。 表に、優先度の高い順に記入してください。

    E:プロジェクトご自身の活動や学術活動についてよく考えてお書きください。必要であればページを足してもかまいません。

    I.�計画しているプロジェクトa. テーマ:

    b. 共同研究者:

    c. 日程/期限:

    d. 予算:

    II.�継続中のプロジェクト�a. タイトル:

    b. 共同研究者:

    c. 完了までの予定:

    d. 研究費の調達:

  • 16

    ステップ 3:メンターとIDPの内容を確認する(必要に応じて書き直してください)

    ステップ 4:少なくとも年 1回 IDPを見直し更新する

  • 17

    日本において、次世代の臨床研究者のメンターになる(または続ける)にあたって、このガイドブックが有用であることを、我々は願っている。メンタリングは、臨床研究に活かすことができる人間的芸術である。多くのメンタリング関連文献で繰り返し強調されていることは、結局のところ基本的には同じ教育概念である。それはメンターがメンティーと風通し良く意思疎通ができる関係を築き上げること、効果的なメンタリング計画を立てそれを実行すること、さらに自分のメンティーが研究プロジェクトを進めていくにあたって、教師として、支援者として、親代わりとして、あるいは専門家の同僚として、思いやりを持ちつつ能動的な役割を果たすことができるよう努めることである。これらは、研究的価値だけでなく、同時に人間的な価値も生む。メンタリングに関する文献の多くは欧米から発信されているが、これらの人間的価値は、教師と生徒が相互的に関係性を持つ日本はもちろん、世界中どこでも認められるものである。日本においても、広がりつつある臨床研究環境を整備するための活動がさらに推進されることで、メンタリング関係が可能な限り最適に形作られ、臨床研究分野の生産性を高めることにつながることを期待する。

    聖路加国際大学�臨床疫学センター

    ゴータム A.デシュパンデ

    まとめ

  • 18

    ケース1ある研究者(医師)はリサーチメンターとして、同じ病院に勤務する若い

    医師(メンティー)から、研究の相談を受けていた。メンティーは臨床業務の多忙を理由に約束の時間を何度も直前でキャンセルし、研究を予定通りに進めることができなかった。メンティーは目標にしていた学会発表の抄録提出が間に合わず、リサーチメンターが分析をしてくれなかったからだと責任を追求した。

    ● 解説:Straus らによると、優れたメンターは、経験が豊富で、責任感が強く、積極的に傾聴し、利他的であるとし、優れたメンティーは、メンターの知識や時間に敬意を表し、メンターから指摘された事項に耳を傾け、ミーティングの開催やアジェンダに責任を持つこととしている 2。

    このケースを見ると、メンティーはメンターの忙しい時間や仕事については軽視しているといわざるをえないだろう。代わりに仕事を進めておいてほしいという期待をメンターに抱いていたのかもしれない。このメンティーとメンターの間では、積極的な傾聴が行われていたとは言いがたく、コミュニケーションをより積極的に取るように心がけることが必要だったのかもしれない。互いの認識を一致させるには、メンタリング契約書の作成が一助となるであろう。近年、欧米の研究機関で採用されているメンター契約書では、メンティーのニーズ、メンターに求めることなどを明文化している。メンタリングを始める前に、オリエンテーションを開催し、優れたメンター、メンティーについて双方に伝える機会を持つのもよい。

    ●解決策▶ メンタリング開始時にメンター契約書を結び、メンティーのニーズ、メ

    ンターに求めることなどを明文化する。▶メンタリング開始時にオリエンテーションを開催する。

    ケーススタディ:先行研究を踏まえた解説と解決策

  • 19

    ケース2ある研究者はリサーチメンターとして、同じ大学に勤務する若い医師(メ

    ンティー)から、研究の相談を受けていた。研究は順調に進んでいたが、目標にしていた学会の抄録提出の直前になり、メンティーが所属する医局の教授に研究の進捗を初めて報告したところ、研究結果は受け入れ難い内容であり、抄録締め切りの 1 日前にすべてのデータ分析のやり直しをメンティーに要請した。リサーチメンターは他の会議をキャンセルして付き合わなければならなくなった。

    ● 解説:抄録締め切り 1 日前にすべてのデータ分析のやり直しを手伝う羽目になるというのは、大げさなケースに聞こえるかもしれないが、Bickel 5 らが行ったリサーチメンターを対象にした質的研究でも、締め切り 24 時間を切っている仕事の手伝いをさせられるのは、ワークライフバランスが著しく悪化するという意見を報告している。

    このケースで残念だったのが、リードメンターである医局の教授への進捗報告が抄録提出の直前まで行われなかったことである。メンティーは、様々な専門性をもった複数のメンターにチームで支えられていることを認識し、他のメンターとの連携を実現させるために連絡を怠ることがないようにする必要がある。また、リサーチメンターを始め、メンティーにかかわるメンター 1 人 1 人がチームの 1 員であることを認識し、メンティーが他のメンターへの連絡を失念することがないように促すとよいであろう。

    ●解決策▶ メンティーとメンターチームのメンバーにおけるコミュニケーション

    を豊富に行えるように工夫する。

  • 20

    ケース3リサーチメンターとして活動し始めた若い研究者は、受け持ちになったメ

    ンティーとの関係に悩んでいる。互いに年齢が近いという理由で上司から紹介されたのだが、メンティーである医師は、よい研究を指南しようと試みても、専門医でないとわからないことがあると切り返されてしまう。分析のみを当てにされているようで、時間をかけて進めたにもかかわらず、学会や論文発表のときになって、共同著者には入れてもらえなかった。

    ● 解説:Jackson15 ら、優良なメンタリングを構築する際にメンターとメンティーのマッチングが重要であると述べている。マッチングに考慮すべき項目には、性別、年齢、人種、専門分野なども考えられるとすると一方で、必ずしも同じ性別、同世代、同じ人種がうまく行くわけではないとも述べている。このケースは、メンティーとなった医師には、同世代のメンターよりも年齢が上のメンターのほうがベストマッチだったのかもしれない。機械的にマッチングを行うよりも、十分に情報収集して、客観的に分析した上でマッチングを行うべきとしている。

    またリサーチメンターを務める者は、Sambunjak1 らがまとめているように、臨床研究の経験が豊かで知識豊富である必要がある。自信を持ってリサーチメンターとして仕事をするために、自身も経験を積み続ける必要があると考える。便利屋でなく研究者であると認識してもらい、オーサーシップなどについては、最初の段階で話し合いを持つ必要がある。

    ●解決策▶ メンター、メンティーのマッチングは十分に情報収集して、客観的に分

    析した上で行う。▶ オーサーシップなどについては、最初の段階で話し合いを持つ。

  • 21

    研究メンバー

    研究班メンバーリスト(平成27年度)

    区分 氏名 所属

    研究代表者 高橋 理 聖路加国際大学臨床疫学センター

    研究分担者 新保 卓郎 太田西ノ内病院

    松井 邦彦 熊本大学医学部附属病院地域医療システム学

    Gautam A. Deshpande 聖路加国際大学臨床疫学センター

    大出 幸子 聖路加国際大学臨床疫学センター

    石田 也寸志 愛媛県立中央病院小児医療センター

    尾藤 誠司 東京医療センター教育研修部 /臨床疫学研究室

    野村 恭子 帝京大学医学部衛生学公衆衛生学講座

    吉田 穂波 国立保健医療科学院生涯健康研究部

    浦山 ケビン 聖路加国際大学臨床疫学センター

  • 22

    1. Sambunjak, D., Straus, S. E., & Marušić, A. (2006). Mentoring in academic medicine : a systematic review. JAMA, 296(9), 1103-1115.

    2. Straus, S. E., Johnson, M. O., Marquez, C., & Feldman, M. D. (2013). Characteristics of successful and failed mentoring relationships: a qualitative study across two academic health centers. Academic medicine: journal of the Association of American Medical Colleges, 88(1), 82.

    3. Kashiwagi, D. T., Varkey, P., & Cook, D. A. (2013). Mentoring programs for physicians in academic medicine: a systematic review. Academic Medicine, 88(7), 1029-1037.

    4. Scherer, R. W., Dickersin, K., & Langenberg, P. (1994). Full publication of results initially presented in abstracts: a meta-analysis. JAMA, 272(2), 158-162.

    5. Bickel, J., & Rosenthal, S. L. (2011). Difficult issues in mentoring: Recommendations on making the “undiscussable” discussable. Academic Medicine, 86(10), 1229-1234.

    6. Zerzan, J. T., Hess, R., Schur, E., Phillips, R. S., & Rigotti, N. (2009). Making the most of mentors: a guide for mentees. Academic Medicine, 84(1), 140-144.

    7. Cho, C. S., Ramanan, R. A., & Feldman, M. D. (2011). Defining the ideal qualities of mentorship: a qualitative analysis of the characteristics of outstanding mentors. The American journal of medicine, 124(5), 453-458.

    8. Bettmann, M. (2009). Choosing a research project and a research mentor. Circulation, 119(13), 1832-1835.

    9. Guberman, J., Shapiro, B., & Torchia, M. (2006). Making the right moves: a practical guide to scientific management for postdocs and new faculty. Maryland, North Carolina: Howard Hughes Medical Institute and Burroughs Wellcome Fund.

    10. University of California, San Francisco, Mentor Development Program: https://accelerate.ucsf.edu/training/mdp-materials (Website Accessed 2016.3.28)

    11. Ramani, S., Gruppen, L., & Kachur, E. K. (2006). Twelve tips for developing effective mentors. Medical teacher, 28(5), 404-408.

    12. Keyser, D. J., Lakoski, J. M., Lara-Cinisomo, S., Schultz, D. J., Williams, V. L., Zellers, D. F., & Pincus, H. A. (2008). Advancing institutional efforts to support research mentorship: A conceptual framework and self-assessment tool. Academic Medicine, 83(3), 217-225.

    13. Frei, E., Stamm, M., & Buddeberg-Fischer, B. (2010). Mentoring programs for medical students-a review of the PubMed literature 2000-2008. BMC medical education, 10(1), 1.

    14. Cho, C. S., Ramanan, R. A., & Feldman, M. D. (2011). Defining the ideal qualities of mentorship: a qualitative analysis of the characteristics of outstanding mentors. The American journal of medicine, 124(5), 453-458.

    15. Feldman, M. D. (2012). From the Editors’ Desk: Realizing the Dream: Mentorship in Academic Medicine. Journal of general internal medicine, 27(1), 1-2.

    16. Jackson, V. A., Palepu, A., Szalacha, L., Caswell, C., Carr, P. L., & Inui, T. (2003). “Having the right chemistry”: a qualitative study of mentoring in academic medicine. Academic Medicine, 78(3), 328-334.

    参考文献

  • Memo

  • Memo

  • メンターのためのハンドブック

    聖路加国際大学 臨床疫学センター

    臨床研究におけるメンタリング

    A Handbook for Mentors in Japan

    Mentoring in Clinical Research

    表 4 表 1

    平成25~27年度 厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業)

    「研究マインドを持つ臨床医に対する疫学教育プログラムの開発と基盤整備」 主任研究者 高橋 理