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1 農産物取引の基礎知識

農産物取引の基礎知識...4 もあって、緑線に沿う形で波打つように変化しながら増加していることに注意する必要がある。この緑線と赤線の差である

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農産物取引の基礎知識

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目次

第 1章 農産物取引の魅力 と価格変動のポイント

第 1節 世界の食糧事情

第 2節 農産物の価格変動のポイント

第 2章 とうもろこし・大豆の基礎知識

第 1節 とうもろこし

第 1項 とうもろこしの商品特性

第 2項 とうもろこしの需給

第 3項 とうもろこしの価格変動要因

第 2節 大豆

第 1項 大豆の商品特性

第 2項 大豆の需給

第 3項 大豆の価格変動要因

第 3節 米国政府機関による提供情報と価格変動

第 1項 米国農務省(USDA)報告と価格変動

第 2項 米国商品先物取引委員会(CFTC)建玉明細報告と価格変動

第 4節 穀物流通と穀物取引

第 1項 アメリカの穀物流通

第 2項 穀物取引の実際

第 3章 小豆の基礎知識

第 1節 小豆の商品特性

第 2節 小豆の需給

第 3節 小豆の価格変動要因

第 4章 取引戦略

第 1節 リスクヘッジ

第 2節 買いヘッジと売りヘッジ

第 3節 ロールオーバー

第 4節 裁定取引

第 5章 東京商品取引所の取引ルール

第 1節 取引要綱

第 2節 建玉制限

第 3節 ヘッジ玉取り扱い要領

第 4節 受渡し制度

第 5節 EFP取引

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第 1章 農産物取引の魅力と価格変動のポイント

第 1節 世界の食糧事情

1. 世界人口と食糧

18 世紀の経済学者であるトマス・マルサスは、著書「人口論」の中で、「人口は幾何級数的に増加するのに対し、食

糧は算術級数的にしか増加しない。」として、何もしなければ世界はいずれ過剰人口による食糧不足に陥るとの警鐘を

鳴らした。近年では、ワールド・ウォッチ研究所のレスター・ブラウン博士が、著書「だれが中国を養うのか? 迫りくる食糧危

機の時代」において、増え続ける世界人口と世界最大の人口大国である中国の食糧需要の増大を踏まえ、将来の食

糧危機の可能性について言及している。

図 1 世界人口、穀物生産量・消費量・期末在庫率

(出所)世界銀行、USDA

人類は常にこのような食糧危機の不安に怯えながらも、「緑の革命」に代表される農業技術の革新や近年の遺伝子

組み換え作物の開発、食糧価格の高騰による増産意欲の促進等により何とか人口成長に見合う食糧増産を実現させ

てきた。図 1にあるように、1960年と 2014年で比較すると、人口(胃袋)が 30億人から 73億人と 2.4倍に増加

しているのに対して、穀物生産量も8.2億トンから24.7億トンと約3倍に増加している。ただし、穀物消費量(緑線)

が人口に比例してほぼ直線的に増加しているのに対し、穀物生産量(赤線)は干ばつや冷害などの気象要因の影響

0

10

20

30

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100

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500

1,000

1,500

2,000

2,500

3,000

1960

62

64

66

68

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96

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2000 2 4 6 8

10

12

14

25

35

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億人、%百万トン 世界人口、穀物生産・消費量、穀物期末在庫

世界人口

穀物生産量

消費量

期末在庫(%)

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もあって、緑線に沿う形で波打つように変化しながら増加していることに注意する必要がある。この緑線と赤線の差である

需給ギャップは期末在庫として表れ、その期末在庫を年間消費量で除した結果である期末在庫率(青線)は 1980

年代の約 36%をピークとして、上下しながらも現在は約 24%になるなど、トレンドとしては低下傾向にある。このことは、

1980 年代以降、全体的には穀物需要が穀物供給を上回っており、不足する分は過去に積み上げた在庫を取り崩し

ながら何とかバランスを保っていることを意味している。(※期末在庫率が20%とすると、365日×20%=73日分の在

庫を抱えていることを意味する。)

それでは、今後も同じような傾向が続くのであろうか。国連は、世界人口予測の中で、2024年に80億人、2038年

に 90億人、2056年には 100億人を突破するとしており、穀物消費量は確実に増加するものと見込まれる。一方、生

産量については、遺伝子組換え等のバイオテクノロジーの進歩による増産が期待できるものの、経済発展に伴う耕地面

積の減少や頻発する異常気象による自然災害の発生等により不透明感が増しているのも事実である。需給ギャップは

穀物価格に反映されるため、ギャップの変動が大きくなればなるほど価格変動も大きくなってくる。

2. 農産物の成長銘柄:とうもろこし・大豆

穀物生産量は、全体として、人口増加を上回るスピードで増加してきた。しかし、穀物別に見てみると、成長率に大き

な差があることが分かる。

図 2 三大穀物及び大豆の生産量推移

とうもろこし、小麦、コメは、世界三大穀物といわれている。三大穀物のうち、最も生産量が多いのはとうもろこし(約

10.3億トン)であり、次いで小麦(約 7.5億トン)、コメ(約 4.8億トン)の順番となっている。注目すべきはその増

加率であり、1960年代初頭と 2016年を比較すると、小麦とコメは約 3倍と人口の増加率を少し上回るレベルである

200

とうもろこし 5.1倍

1,027

233

小麦 3.2倍

745

150

コメ 3.2倍

482

30

大豆 11.0倍

330

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400

600

800

1,000

1,200

1960

62

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68

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2000

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百万トン 三大穀物及び大豆の生産量

世界人口

1960年 ⇒ 2015年

30億人 2.4倍 73億人

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が、とうもろこしは約 5.1倍と人口の伸びを大きく上回っている。また、油糧種子である大豆の生産量もこの 50年で大き

く増加しており、1960年代は僅か 3000万トンにも満たなかった生産量が、2016年には 3.3億トンと 11倍に増加し

ている。この増加率の違いは、コメや小麦が「主食用」として直接摂取されることが多いのに対して、とうもろこしや大豆

(正確には、圧搾した後の大豆ミール)は家畜の「餌」として「飼料用」に用いられることが多いことに由来している。

経済が発展し、所得が増加すると、肉の需要が増加する。一般的に、牛肉 1kg の生産には 7kg、豚肉 1kg には

4kg、鶏肉 1kg には 2kg の飼料穀物が必要と言われている。1960 年代から 2015年にかけて、世界人口の増加と

発展途上国の経済発展により、世界の食肉消費量は 5100万トンから 2.5億トンに増加したが、この食肉需要を満た

すために、飼料原料の需要が急拡大し、それに伴ってとうもろこしや大豆の生産量が急増している

東京商品取引所(以下 TOCOM)では、このような農産物の「成長銘柄」である「とうもろこし」と「大豆」の取引

の場を提供している。

図 3 世界食肉消費量

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50

100

150

200

250

300

1960

62

64

66

68

70

72

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78

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2000

2

4

6

8

10

12

14

16

百万トン世界食肉消費量

合計

鶏肉

豚肉(枝肉換算)

牛肉(枝肉換算)

1964年 2016年

51 254

4 88

21 109

26 57

<参考:肉1kg生産に必要な穀物の量>

鶏肉1kg←穀物2kg

豚肉1kg←穀物4kg

牛肉1kg←穀物7kg

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第 2節 農産物の価格変動のポイント

1. 価格変動と価格変動要因

一般消費者に農産物価格について尋ねると、「野菜は価格変動が大きい印象があるけれども、主食であるコメや小麦

等の穀物や、納豆の原料である大豆等の価格は安定している」という答えが返ってくることが多い。確かに、スーパーの店

頭で売られている食料品の価格は、生鮮野菜を除いて比較的安定しているように見える。それでは、本当に穀物や大

豆の価格は安定しているのであろうか。

図 4、5 は、とうもろこしと大豆の過去 30 年間の価格推移を示している。我が国は、とうもろこしや大豆の大部分を海

外からの輸入に依存しており、TOCOM は日本に輸入される米国産のとうもろこし及び大豆の指標価格を提供している。

一方、とうもろこしや大豆の世界的な指標価格は、世界最大の産地でもある米国の CBOT が提供している。下図の赤

線は TOCOMにおける先物価格(期先)、青線はCBOTにおける先物価格(期近)を表しているが、30年間の長

期スパンで見てみると、とうもろこし価格はトン当たり 1万円から 5万円、大豆は 2万円から 8万円の間で大きく変動し

ていることが分かる。

食料は、我々の生活にとって必要不可欠な商品であり、その価格の安定は社会の安定にとって極めて重要であること

から、政府や企業が価格安定のために様々な対応をしていることが価格変動を見えにくくさせているが、実際には食料価

格が大きく変動していることに留意する必要がある。

図 4 とうもろこし価格推移

0

400

800

1,200

1,600

2,000

2,400

0

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20,000

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40,000

50,000

60,000

1986

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93

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2000

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16

セント/bu円/t

とうもろこし価格推移

(TOCOM、CBOT)

TOCOM

CBOT

米国大干ばつ

ラニーニャ現象

米国大干ばつ

リーマンショック

米国需給逼迫懸念

米国産地

長雨・洪水

米国エタノール政策導入

米国記録的豊作

米国在庫率大幅低下

米国記録的作付遅れ

米国干ばつ懸念

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図 5 大豆価格推移

図 4、5 から、とうもろこしや大豆の価格は、天候要因(大干ばつ、長雨等)、需給要因(作付遅延、在庫減少、

豊作)、社会的要因(金融危機等)などが影響して大きく変動していることが分かる。なかでも天候要因は「天候相

場」という言葉があるように、農産物独特の重要な要因であるといえる。

図 6 は、2012年の米国における大干ばつ発生時における CBOT と TOCOM(当時は東京穀物商品取引所で上

場)のとうもろこし価格の推移である。とうもろこしは、播種が早めに終わると収穫までの全ての段階において天候からの

悪影響を避けることができることから、5月 10日までに 75%以上が作付けされることが望ましいとされている。この年は、

春先に非常に良好な天気が続き、作付けも非常に順調で、例年より早めに作付けが完了した。そのため、2012 年は

豊作になる可能性が高いとして、5 月初旬から下旬にかけて価格が大きく下落した。しかし、6 月に入ると、雨が極端に

少なくなり異常な乾燥が進み、米国農務省(以下 USDA)が毎週月曜日に発表する生育状況においても、生育が

悪化している様子が確認されると、6 月の後半から CBOT や TOCOM のとうもろこし価格が連日高騰した。事実、

CBOTでは6月21日(568.5セント/bu)から7月20日(820.5セント/bu)の僅か1ヶ月間で252セント/bu

(44%)上昇、TOCOMでも 6月 14日(21600円/t)から 7月 20日(29660円/t)の約 1 ヶ月間で 8060

円/t(37%)上昇した。最終的に 2012年は 1930年以来の大干ばつという結果となり、CBOT では 843.25 セン

ト/bu、TOCOMでは 30300円/t の高値を示現することとなった。

このように、農産物は天候相場期において、天候次第で短い期間で大きく価格が動くことがある。

0

400

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1,200

1,600

2,000

2,400

2,800

3,200

0

10,000

20,000

30,000

40,000

50,000

60,000

70,000

80,000

90,000

1986

87

88

89

90

91

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95

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97

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99

2000

01

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06

07

08

09

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11

12

13

14

15

16

セント/bu円/t

大豆価格推移

(TOCOM、CBOT)

TOCOM

CBOT

米国大干ばつ

ラニーニャ現象

米国大干ばつ

リーマンショック

米国需給逼迫懸念

米国産地

長雨・洪水

米国エタノール政策導入

米国記録的豊作

中国の大量買い付け

米国記録的作付遅れ

米国干ばつ懸念

米国在庫低水準

南米不作

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図 6 とうもろこし価格変動(2012年天候相場期)

2. 価格変動の大きさ:他商品との比較

農産物は長期間のスパンで見ると大きく動いていることが分かったが、他の商品との比較ではどうであろうか。図 7 は、

貴金属(金)、エネルギー(原油)、農産物(とうもろこし)の価格変動の大きさ(ボラティリティ)を比較したもので

あるが、年度によって違いはあるものの、傾向として農産物は金と原油の中間に位置する「ミドルリスク」の商品であると考

えられる。

図 7 とうもろこし、金、原油のボラティリティ比較

843 3/4

586 1/2

824 1/2

500

550

600

650

700

750

800

850

900

2 12 23 2 11 22 1 12 21 2 12 23 1 10 21 30 11 20

4 5 6 7 8 9

2012

セント/bu CBOTとうもろこし

29660

30300

21600

20000

22000

24000

26000

28000

30000

32000

2 11 20 2 15 24 4 13 22 3 12 24 2 13 22 31 11 21

4 5 6 7 8 9

2012

円/t TOCOMとうもろこし

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

商品別ボラティリティ比較

(年率換算)TOCOMドバイ原油

TOCOMとうもろこし

TOCOM金

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3. 季節変動とトレンド

農産物価格の特徴として、季節変動性の存在と、トレンドの分かりやすさが挙げられる。

農産物は、貴金属や原油などと異なり、基本的に一年一作であり、収穫期に大量に供給され、それを保管し、次の収

穫期まで消費するというサイクルを描く。そのため、1 年の中で、収穫期は供給過剰、端境期はモノ不足というように需要

と供給に極端なアンバランスが生じ、このことが農産物価格に季節性をもたらすといわれている。

図 8は、2014年の端境期から収穫期における CBOT と TOCOMの大豆価格の推移である。この年は、2012年の

大干ばつの影響による供給のタイト感が薄れてる一方、高値による作付面積の大幅拡大と良好な天候により 2014 年

産の大豊作が見込まれていた。6月以降、USDA の生育状況報告において、作柄が良いことが確認されると、6月から

9月末の収穫期の初めまでの3ヶ月間、価格が一方的に下落し、CBOTでは1502セント/buから910.25セント/bu

と 591.75セント(40%)下落し、TOCOMでも 55880円/tから 45810円/tまで 10070円/t(22%)下落し

ている。

しかし、9月末になって底値をつけると、その後は反転し、飼料需要増加観測等が材料となって 11月中旬までの 1 ヶ

月半一方的な値上がりを見せ、CBOT では 1075 セント/bu、TOCOM では 55600円まで切り返した。なお、CBOT

と比較して TOCOM の値上がりが大きかった原因としては、同じ時期に、日銀金融緩和(所謂「黒田バズーカ」)等に

よる急激な円安が重なったことが挙げられる。

図 8 大豆の価格変動(2014年端境期から収穫期)

4. 限月間の価格関係:新穀と旧穀

農産物が貴金属や原油と大きく異なることとして、同じとうもろこしや大豆であっても、新穀と旧穀のように年産が違えば

別物のように価格が動くことが挙げられる。

とうもろこしの新穀限月は、CBOTでは 12月限以降、TOCOMでは 1月限以降と考えられており、大豆の新穀限月

1502

1075

1392 1/2

910 1/4 900

1000

1100

1200

1300

1400

1500

1600

2 11 20 1 11 22 31 11 20 29 10 19 30 9 20 29 7 18 28

6 7 8 9 10 11 12

2014

セント/bu

CBOT大豆

54610

55880 55600

45810

45000

47000

49000

51000

53000

55000

57000

2 11 20 1 10 22 31 11 20 29 9 19 1 10 22 31 12 21 3

6 7 8 9 10 11 12

2014

TOCOM大豆 円/t

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10

は、CBOTでは 11月限以降、TOCOMでは 12月限以降と考えられている。

図 9 新穀と旧穀(4月末のケース)

とうもろこし

CBOT 5月限 7月限 9月限 12月限 3月限 5月限 7月限 9月限

旧穀 新穀

TOCOM 5月限 7月限 9月限 11月限 1月限 3月限

旧穀 新穀

大豆

CBOT 5月限 7月限 8月限 9月限 11月限 1月限 3月限 5月限

旧穀 新穀

TOCOM 6月限 8月限 10月限 12月限 2月限 4月限

旧穀 新穀

このような新穀と旧穀の違いは、限月間の価格関係(サヤあるいはスプレッド)にも表れている。

金などの貴金属では、持ち越し費用を反映して、一般的に期近安の期先高(コンタンゴ)になるといわれている。一

方、農産物は、コンタンゴが基本であるものの、収穫期における大量の供給を反映して収穫期直前の限月において逆ザ

ヤになることが多い。図 10は、2015年 10月中旬における CBOT とうもろこしの限月ごとの価格をプロットしたものであ

るが、2015年産限月は 2015年 12月限から 2016年 7月限までがコンタンゴ、7月限と 9月限の間はバックワーデ

ーションになっており、2016年産限月の 2016年 12月限から 2017年 7月限にかけて再びコンタンゴの価格関係に

なっている。

なお、農産物の場合、潤沢な在庫がある場合にはこのようなコンタンゴが生じやすいが、需給が逼迫している状況では

バックワーデーションが生じるなど限月間の価格関係が大きく変わることがあることに注意する必要がある。

農産物市場では、このような限月間の値差を利用して、新穀限月と旧穀限月のスプレッド取引などが行われている。

図 10 とうもろこしの限月間の価格関係(2015年 10月のケース)

390

410

430

12月限 3月限 5月限 7月限 9月限 12月限 3月限 5月限 7月限

2015年 2016年 2017年

セント/bu CBOTとうもろこし

(限月ごとの価格関係)

コンタンゴ

コンタンゴ

バックワーデーション

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第 2章 とうもろこし・大豆の基礎知識

第 1節 とうもろこし

第 1項 とうもろこしの商品特性

1. とうもろこしの歴史

とうもろこしはコメ、小麦と並ぶ世界三大穀物の一つである。とうもろこしは「Corn(コーン)」と呼ばれるが、これは米

国、カナダ、オーストラリアなどでの呼び名であり、その他の国では一般に「Maize(メイズ)」と呼ばれている。ちなみに、

「コーン」はイギリスでは小麦のことであり、スコットランドやアイルランドではオーツ麦を指す。

とうもろこしの起源については、中央アメリカや南米のアンデス地域が有力であるといわれている。メキシコでは約 8 万年

前のものと思われるとうもろこしの花粉粒が発掘されており、ニューメキシコの洞窟からは 5600 年前のとうもろこしの穂軸

が発見されている。中央アメリカでは紀元前3000年頃には栽培が始まったと考えられており、以来、様々な品種が開発

されていったと考えられている。

西洋諸国へは、1492 年のコロンブス探検隊が西インド諸島で発見してスペインに持ち込み伝わったといわれている。ヨ

ーロッパに持ち込まれたとうもろこしはフランスやイタリアに伝わり、さらにはアフリカにも伝播した、アジアへは、16 世紀には

中国に持ち込まれたといわれており、日本にも 1579年にポルトガルから長崎に持ち込まれたといわれている。

2. とうもろこしの品種・用途

(1) 品種

とうもろこしはイネ科の一年生作物である。とうもろこしは、粒の形状や胚乳の性質により品種分類が行われ、代表的

なものは以下の 7種類である。

品種 特徴・用途

デントコーン(馬歯種)

米国産の飼料用とうもろこしの品種である。

粒の側面が硬質、中央先端が軟質で、成熟すると先端部が窪む。草丈は4メートル程

度になり収穫収量が高く澱粉含有量も高い。主に飼料用途や澱粉用途に用いられる。

フリントコーン(硬粒種)

粒は完熟しても窪みができず丸みを帯びる。草丈は 1 メートル程度で、粒の外側は硬い

角質で虫害を受けにくい。古くから中南米で栽培され、飼料・工業用途のほかメキシコの

トルティーヤ等の食用にも用いられる。

ポップコーン(爆裂種) スナック等の製菓用途に用いられる品種。フリントコーンの変種で粒の大部分が硬質で中

央部に水分を含んだ軟質部があり加熱すると膨張して皮が破られる。

スイートコーン(甘味種) 澱粉が少なく糖分が多い。生食用や缶詰用など食用に用いられる。

ワキシーコーン(糯種) 中国原産で粒の表面がワックスをかけたような外観をしている。澱粉質がアミロペクチンから

成り食品の基材等に用いられる。

ソフトコーン(軟粒種) フラワーコーンとも称され粒が軟質澱粉から成り柔らかく製粉性が高い。南米高地の在来

種であり食用に用いられる。

ポッドコーン(有桴種) 粒が頴(エイ)と呼ばれる衣に包まれており虫害に強い。

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12

このほかにも、品種改良された特殊品種として「高アミロース品種」や「高リジン品種」などがある。さらに、1996 年以降、

米国を中心に遺伝子組換え品種が導入されると、「除草剤耐性種(例:ラウンドアップレディ)」や「害虫耐性種

(例:BT コーン)」、除草剤耐性と害虫耐性など複数の耐性を兼ね備えた「多重形質(スタック)品種」などの栽培

が急速に広がった。2013年時点において、米国産とうもろこしの 90%が遺伝子組換え品種であり、特に、複数の耐性

遺伝子が組み込まれた「スタック品種」のシェアが前年の 52%から 71%へと急拡大している。

(2) 用途

とうもろこしの用途は「飼料用途」と「産業用途」に大別される。

飼料用途としては、配合飼料原料や圧ペン飼料として用いられるほか、青刈りしたとうもろこしを発酵させてサイレージと

しても用いられる。

産業用途としては、異性化等の原料やダンボール製造に用いる糊として用いる澱粉の原料、さらに近年ではエタノール

の原料としての利用が急増している。燃料用アルコールであるエタノールは自動車用ガソリンに混ぜて利用され、原油価

格が高騰する中で、米国のエタノール政策の後押しもあり需要が拡大している。

とうもろこし 1 ブッシェル(bu)から生産される「エタノール」と副産物である「ディスティラーズ・ドライド・グレインズ・ウィズ・

ソリュブル(DDGS)」の生産量は以下のとおり。なお、DDGSはとうもろこしと同様に飼料として用いられる。

3. とうもろこしの生育

とうもろこしの生育期間は約 120 日であり、主要生産地である米国において、以下のような生育過程を経て収穫され

る。

① 播種(Planting)、発芽(Germination)

米国では 4 月中旬から 6 月初旬にかけて作付けが行われる。理想的な発芽のための土壌温度は華氏 60℃

(摂氏 15.5℃)であり、地温が華氏 50℃(摂氏 10℃)以下では発芽しないと言われている。作付けが遅れ

て 6 月以降にずれ込むと、十分成熟しないうちに初秋を迎え、早霜の被害を受ける危険性が高くなるので、5 月

中に作付けを完了することが望ましい。また、米国の農作業は大型機械による大規模な作業であることから、この

時期に雨が多いとぬかるんで機械を畑に入れられない。従って発芽のための水分は欲しいものの、多すぎても障害

になる。とうもろこしは作付け後数日で発芽する。

② タッセリング(Tasseling)

発芽後 4~5週間は植物としての成長段階で、根、茎、葉を成長させる。その後、6月初旬から下旬頃にタッセリ

ング(雄花から穂を出すこと)が始まる。

③ シルキング(Silking)

タッセリング初期からさらに 5~6週間後、時期としては 7月中旬から 8月初旬に、とうもろこしの種実部の先端か

とうもろこし

(1bu=25.4012kg)

エタノール

(2.8ガロン=10.4ℓ)

DDGS

(17ポンド=8.5kg)

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ら細長い絹のような糸が出てくる。この糸はめしべにあたるもので、一本一本が胚珠につながっており、受粉するとこ

の一本ごとの根元にとうもろこしの穀粒ができる。時期としては 7 月中旬から 8 月初旬である。タッセリングとシルキ

ングが完了して初めて受粉の態勢が整ったことになる。

④ 受粉(Pollination)

雄穂(タッセル)から放出された数百万個の花粉が、6~15 メートル以内にあるめしべ(シルク)に付着して受

粉する。成長段階で最も重要な時期である。とうもろこしにとっては最大のエネルギーを必要とし、十分な水分を要

求する時期である。空中を飛散する花粉がめしべにうまく付着するには、適切な湿度が必要であり、摂氏 38℃以

上の高温になると受粉が失敗しやすい。ただし、一番暑い7月中旬から8月初旬に当たるので、関係者がもっとも

神経質になる時期である。とうもろこしは受粉期間が極めて短いことが特徴として挙げられる。

⑤ ミルクステージ(Milk Stage)

受粉から2~3週間経過すると、穀粒がミルクのような状態になる。この時期に澱粉や蛋白を形成する。8月中旬

頃から下旬にかけてこの段階を迎える。

⑥ ドウステージ(Dough Stage)

ミルク状の中身が徐々に柔らかい固まりになってゆく過程である。この時期に早霜に襲われると次の生育段階に進

まなくなり、ソフトコーンになってしまう。8月下旬から9月中旬にかけてこの段階を迎える。早霜の危険は9月初旬

に多い。

⑦ デントステージ(Dent Stage)

ドウステージから約 3 週間たつと実に窪みができる段階に入る。デントステージもドウステージ同様に固まっていく過

程であるので、基本的には乾燥した天候が望ましい。この段階までくれば霜の被害は軽微である。9 月中旬から

10月上旬である。

⑧ 成熟期(Mature)

デントステージから約 2週間でとうもろこしの成熟は完了する。時期的には 10月上旬から 11月初めで受粉から

数えると 8~9週間かかることになる。ただし、成熟しても穀粒の中の水分はまだ高く 20%以上ある。

⑨ 収穫期(Harvest)

成熟後、10月半ばから 11月半ばにかけて天候を見ながら収穫のタイミングを図ることになる。この時期の長雨が

もっとも怖い。とうもろこしが倒れると大型のコンバインでは上手く収穫できない。また収穫する段階では水分が

18%以下であることが望ましい。雨が続くと穀粒の乾燥も遅れることになり、水分が高いまま収穫すると高温の乾

燥機にかけたり、保管中の品質の劣化が進むことになり、問題になりやすい。

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第 2項 とうもろこしの需給

1. 世界のとうもろこし需給動向

(1) 生産量

とうもろこし生産量は、とうもろこしの飼料需要及び産業用需要の拡大に牽引する形で増加している。

世界のとうもろこし生産量(2014/15年度)は 10億 1,437万トンであり、この約 20年間で約 1.81倍に増加し

ている。

世界最大の生産国は米国(3 億 6,109 万トン、世界シェア 36%)、第 2 位中国(2 億 1,565 万トン、同

21%)、第 3位ブラジル(8,500万トン、同 8%)、第 4位EU(7,584万トン、同 7%)、第 5位アルゼンチン

(2,870万トン、同 3%)であり、上位 5 カ国で世界生産量の約 76%を占めている。

従前、米国のシェアは不作年を除くと 40%を超えていたが、近年は中国、ブラジル、ウクライナなどの生産拡大により

30%台にまでシェアを落としている。特に、大干ばつに見舞われた 2012/13 年度は、生産量が 2 億 7,319 万トン

(同 31%)と大きく落ち込んだ。

表 1 世界とうもろこし生産量推移

単位:1,000 トン

国名 2010/11 2011/12 2012/13 2013/14 2014/15 2015/16

(見通し)

2016/17

(予想)

世界合計 835,875 889,782 869,768 990,816 1,014,370 959,141 1,025,693

米国 315,618 312,789 273,192 351,272 361,091 345,486 382,476

中国 177,245 192,780 205,614 218,490 215,646 224,580 216,000

ブラジル 57,400 73,000 81,500 80,000 85,000 67,000 83,500

EU 58,618 68,316 59,142 64,931 75,840 58,481 60,279

アルゼンチン 25,200 21,000 27,000 26,000 28,700 28,000 36,500

ウクライナ 11,919 22,838 20,922 30,900 28,450 23,333 26,000

インド 21,726 21,759 22,258 24,259 24,170 21,800 24,500

その他 168,149 177,300 180,140 194,964 195,473 190,461 196,438

(出所)USDA, FAS, PSD Online

(2) 消費量

とうもろこしの消費は、「飼料需要」と「食料・種子・産業用需要」に大別できる。これまでは、食肉需要の増加に伴う

飼料需要に牽引されて消費量は増加してきたが、近年では、米国を中心にエタノール原料としての産業用需要拡大も

相俟って増加している。

世界のとうもろこし消費量(2014/15年度、輸出量・輸入量乖離修正後)は9億8,076万トンであり、この約20

年間で約 2.32倍に増加している。

世界最大の消費国は米国(3億 179万トン、世界シェア 31%)、第 2位中国(2億 200万トン、同 21%)、

第 3位EU(7,788万トン、同 8%)、第 4位ブラジル(5,700万トン、同 6%)、第 5位メキシコ(3,445万ト

ン、同 4%)となっているが、特に中国の増加が著しい。

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表 2 世界とうもろこし消費量推移

単位:1,000 トン

国名 2010/11 2011/12 2012/13 2013/14 2014/15 2015/16

(見通し)

2016/17

(予想)

世界合計 853,205 885,036 864,810 948,805 980,756 958,005 1,018,933

(内飼料用) (503,493) (508,487) (518,884) (571,879) (585,573) (598,474) (624,247)

米国 284,549 277,961 262,973 292,958 301,792 298,831 312,434

中国 180,000 188,000 200,000 208,000 202,000 217,500 226,000

EU 65,246 69,693 69,846 76,796 77,880 72,714 73,800

ブラジル 50,000 51,500 52,500 55,000 57,000 55,300 58,000

メキシコ 29,500 29,000 27,000 31,700 34,450 36,900 37,500

インド 18,100 17,200 17,500 19,600 22,300 22,650 23,300

日本 15,800 14,950 14,300 15,000 14,600 15,100 15,100

その他 211,385 220,095 225,212 243,684 253,848 258,232 262,651

注:「世界合計」は、世界飼料需要+世界食料・種子・産業用需要+輸出入量差分で算出

「その他」は世界飼料需要と世界食料・種子・産業用需要の合計を基準に算出

(出所)USDA, FAS, PSD Online

(参考) 世界食肉生産量(牛肉、豚肉、鶏肉、上位 4 カ国)

(出所)USDA, FAS, PSD Online

(3) 輸出量

世界のとうもろこし輸出量(2014/15年度)は 1億 4,174万トンと、この約 20年間で約 2.0倍に増加している。

世界最大の輸出国は米国(4,742万トン、同 33%)、第 2位ブラジル(3,446万トン、同 24%)、第 3位ウ

クライナ(1,966万トン、世界シェア 14%)、第 4位アルゼンチン(1,890万トン、同 13%)となっており、上位 4 カ

0

20

40

60

80

100

2000 2005 2010 2015 2000 2005 2010 2015 2000 2005 2010 2015

牛肉 豚肉 鶏肉

百万トン 世界食肉生産国上位4か国

EU

ブラジル

米国

中国

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国で 85%のシェアを有する極めて寡占的な構造となっている。

世界最大の輸出国である米国は、従前、とうもろこしの輸出市場では 80%超のシェアを有する圧倒的な存在であっ

たが、米国の輸出量の停滞・減少とブラジル、アルゼンチン、ウクライナ等の他の生産国の輸出量増加により、その地位が

低下している。特に、大干ばつに見舞われた 2012/13年度は輸出量が 1,855万トン(同 19%)と大幅に減少し、

これまで維持してきた首位の座を一時的にブラジルに明け渡して 3位まで後退した。

表3 世界とうもろこし輸出量推移

単位:1,000 トン

国名 2010/11 2011/12 2012/13 2013/14 2014/15 2015/16

(見通し)

2016/17

(予想)

世界合計 91,290 116,923 95,134 131,179 141,736 119,457 143,793

米国 46,508 39,096 18,545 48,790 47,421 48,202 56,518

ブラジル 8,404 24,337 24,948 20,967 34,461 16,500 25,500

ウクライナ 5,008 15,208 12,726 20,004 19,661 16,500 17,700

アルゼンチン 16,349 17,149 18,691 17,102 18,902 19,500 25,000

EU 1,096 3,287 2,194 2,404 4,026 1,800 1,700

パラグアイ 1,576 2,477 2,827 2,372 3,288 2,300 2,300

ロシア 37 2,027 1,917 4,194 3,213 4,400 4,500

その他 12,312 13,342 13,286 15,346 10,764 10,255 10,575

(出所)USDA, FAS, PSD Online

(4) 輸入量

世界のとうもろこし輸入量(2014/15年度)は 1億 2,485万トンと、この約 20年間で約 1.8倍に増加している。

世界最大の輸入国(地域)は日本(1,466万トン、世界シェア12%)、第2位メキシコ(1,127トン、同9%)、

第 3位韓国(1,017万トン、同 8%)、第 4位 EU(865万トン、同 7%)となっている。なお、日本は世界最大の

とうもろこし輸入国である。

表 4 世界とうもろこし輸入量推移

単位:1,000 トン

国名 2010/11 2011/12 2012/13 2013/14 2014/15 2015/16

(見通し)

2016/17

(予想)

世界合計 92,665 100,286 99,655 125,112 124,850 138,679 133,645

日本 15,648 14,888 14,411 15,121 14,657 15,000 15,000

メキシコ 8,252 11,086 5,676 10,949 11,269 13,800 13,800

韓国 8,107 7,636 8,174 10,406 10,168 10,300 10,000

EU 7,385 6,113 11,362 16,014 8,646 13,400 13,500

エジプト 5,803 7,154 5,059 8,726 7,841 8,500 8,750

ベトナム 1,300 1,100 1,500 3,500 4,950 7,950 6,500

イラン 3,500 4,000 3,700 5,500 6,100 6,600 6,000

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その他 42,670 48,309 49,773 54,896 61,219 63,129 60,095

(出所)USDA, FAS, PSD Online

注目すべきは中国であり、畜産需要の増加により消費量も増加しているため、生産量で不足する場合は、その分を

埋める形で輸入することとなり、今後の動向が注目される。

2. 米国産とうもろこし需給動向

USDA が提供している米国産とうもろこしに関する統計情報は、重量の単位がブッシェル(bu)、面積の単位がエー

カー(acre)で提供されていることに注意する必要がある。

表 4 USDA World Agricultural Supply and Demand Estimates Report

表 5 米国産とうもろこし需給

Corn とうもろこし 2012/13 2013/14 2014/15 2015/16

(見通し)

2016/17

(予測)

Million Acres(単位:百万エーカー)

Area Planted 作付面積 97.3 95.4 90.6 88 94.5

Area Harvested 収穫面積 87.4 87.5 83.1 80.7 86.8

Bushels (単位:ブッシェル)

Yield per Harvested Acre 単収 bu/acre 123.1 158.1 171 168.4 173.4

Million Bushels (百万ブッシェル)

Beginning Stocks 期初在庫 989 821 1,232 1,731 1,738

Production 生産量 10,755 13,829 14,216 13,601 15,057

Imports 輸入量 160 36 32 67 50

Supply, Total 供給 計 11,904 14,686 15,479 15,400 16,845

Feed and Residual 飼料・その他 4,315 5,040 5,314 5,192 5,650

Food, Seed & Industrial 食品・種子・産業用 6,038 6,493 6,567 6,573 6,650

Ethanol & by-products 内 エタノール、副産物 4,641 5,124 5,200 5,206 5,275

Domestic, Total 国内消費合計 10,353 11,534 11,881 11,764 12,300

Exports 輸出量 730 1,920 1,867 1,898 2,225

Use, Total 需要量 計 11,083 13,454 13,748 13,662 14,525

Ending Stocks 期末在庫 821 1,232 1,731 1,738 2,320

(出所)USDA, OCE, WASDE(2016年 10月)より作成

(1) 供給

① 作付面積・収穫面積

米国産とうもろこしの作付面積は、1932/33年度の 1億 1,302万エーカー(4,574万 ha)をピークに 1960年

米国産とうもろこしの単位

重量: 1 ブッシェル(bu) = 25.4012kg、1t=39.367bu

面積: 1 エーカー(acre) = 0.4047ha

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代まで減少傾向にあり、その後増加に転じ、2012/13 年度は 9,729 万エーカー(3,937 万 ha)まで拡大したが、

2013/14 年度以降は、競合作物である大豆への面積シフトもあって、減少傾向で推移している。収穫面積は干ばつ

や早霜等で減少することもあるが、それ以外にも、毎年 700 万エーカー程度はサイレージ目的に供されるため、収穫率

は 85%から 92%程度にとどまっている。

図 11:米国産とうもろこし作付面積・収穫面積

(出所)USDA, ERS, Feed Grain Yearbook Tables

② 生産量・単収

米国産とうもろこしの生産量は、一貫して増加傾向にある。2012/13 年度は 1930 年代以来最悪といわれる大干

ばつの影響で 107億5,511万ブッシェル(2億 7,319万トン)となったが、2014/15年度には 142億 1,553万

bu(3億 6,109万トン)を記録し史上最高を更新した。

作付面積が 1926/27 年度と同水準でありながら、生産量が 6 倍に増加した理由は単収の飛躍的な向上にある。

単収は 1926/27 年度に 25.7bu/エーカー(1.61 トン/ha)であったが、2014/15 年度には 171bu/エーカー

(10.7 トン/ha)に増加しており、干ばつの影響で大幅に減少した 2012/13 年度でも 123.1bu/エーカー(7.73

トン/ha)を維持している。この要因としては、化学肥料や農薬の開発・使用、農業経営における機械化の進展による

収穫・保管・流通の各段階でのロスの減少、そして遺伝子組換え品種を中心とする種子の改良が挙げられる。

③ 生産地域・州別生産量

米国産とうもろこしの主要産地は、中西部の「コーンベルト」と呼ばれる地域である。コーンベルトとは、USDA の経済調

査局の定める生産地域分類では、イリノイ州、インディアナ州、アイオワ州、ミズーリ州、オハイオ州とされている。ただし、

一般的には、同局が五大湖地域(レイクステイツ)に分類しているミシガン州、ミネソタ州、ウィスコンシン州の一部、北

大平原地域(ノーザンプレイン)に分類しているカンザス州、ネブラスカ州、サウスダコタ州、ノースダコタ州などを含むとさ

れることが多い、

2014年の州別生産量は、アイオワ州、イリノイ州、ネブラスカ州、ミネソタ州、インディアナ州の順となっており、この 5州

0

20

40

60

80

100

120

1926 1933 1940 1947 1954 1961 1968 1975 1982 1989 1996 2003 2010

百万エーカー 米国産とうもろこし作付面積・収穫面積

収穫面積 作付面積

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19

で全米生産量の約 60%を占めている。

表 6 全米及び州別生産量(主要州)

単位:1,000bu

2010 2011 2012 2013 2014 2015

全米 12,446,865 12,359,612 10,780,296 13,828,964 14,215,532 13,601,198

アイオワ州 2,153,250 2,356,400 1,876,900 2,140,200 2,367,400 2,505,600

イリノイ州 1,946,800 1,946,800 1,286,250 2,100,400 2,350,000 2,012,500

ネブラスカ州 1,469,100 1,536,000 1,292,200 1,613,950 1,602,050 1,692,750

ミネソタ州 1,292,100 1,201,200 1,374,450 1,294,260 1,177,800 1,428,800

インディアナ州 898,040 839,500 596,970 1,031,910 1,084,760 822,000

サウスダコタ州 569,700 653,400 535,300 802,820 787,360 799,770

カンザス州 581,250 449,400 379,200 504,000 566,200 580,160

オハイオ州 533,010 508,760 448,950 649,020 610,720 498,780

ウィスコンシン州 502,200 517,920 399,300 439,350 485,160 492,000

ミズーリ州 369,000 349,980 247,500 435,200 628,680 437,360

ミシガン州 315,000 335,070 317,870 345,650 355,810 335,340

ノースダコタ州 248,160 216,300 422,120 396,000 313,720 327,680

テキサス州 301,600 136,710 201,500 265,200 294,520 265,950

ケンタッキー州 152,520 180,700 104,040 243,100 225,940 225,320

ペンシルバニア州 116,480 106,560 132,000 159,140 158,620 138,180

(出所)USDA, NASS, Crop Production Annual Summary

図 12 米国産とうもろこし生産地域

(出所)USDA, OCE, Major World Crop Areas and Climate Profiles

Page 20: 農産物取引の基礎知識...4 もあって、緑線に沿う形で波打つように変化しながら増加していることに注意する必要がある。この緑線と赤線の差である

20

(2) 需要

USDAは、「合計需要(use total)」を「国内消費(Domestic, Total)」と「輸出(Exports)」の 2項目に大

別し、さらに「国内消費」を、「飼料・その他(Feed and Residual)」と「食品・種子・工業用(Food, Seed &

Industrial)」の2分類、さらに2003/04年度から「食品・種子・工業用」の内訳項目として、「エタノール及び副産物

(Ethanol & by-products)」を設けてデータを提供している(参照:表 5)

米国産とうもろこしの合計需要は、右肩上がりで増加し、2014/15年度には 137億 bu(3億 4,921万トン)

を記録している。大干ばつに見舞われた 2012/13 年度は、輸出量の減少もあり合計需要はも 111 億 bu(2 億

8,152 万トン)に落ち込んだが、それ以降は回復しており、2016/17年度は史上最高の合計需要を記録すると予測

されている。

増加する需要の牽引役は、従来は「飼料・その他」需要と「輸出」需要であったが、2000年代半ば以降、エタノールを

中心とする「食品・種子・工業用」需要に移行している。

図 13 米国産とうもろこしの需要推移

(出所)USDA, ERS, Feed Grains Database

① 飼料・その他

米国は、牛肉及び鶏肉生産では世界第一位、豚肉では世界第二位の畜産大国であり、畜産物の餌としての「飼

料・その他」需要は国内消費量の 50%以上のシェアを占める最大の需要用途であった。しかし、2006/07 年にシェア

が 50%を割り込み、2009/10年には「食品・種子・工業用」に抜かれ、さらに 2010/11年には「食品・種子・工業用」

の内訳項目である「エタノール及び副産物」に抜かれている。

需要量も、2004/05年度の 61億 3,500万 bu(1億 5,584万トン)をピークとして、2012/13年度は大干ば

0

2000

4000

6000

8000

10000

12000

14000

16000

1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 2015

百万bu米国産とうもろこしの需要推移

輸出 食品・種子・工業用 飼料・その他

Page 21: 農産物取引の基礎知識...4 もあって、緑線に沿う形で波打つように変化しながら増加していることに注意する必要がある。この緑線と赤線の差である

21

つの影響もあって 43億 1,502万ブッシェル(1億 944万トン)まで減少したが、現在では 50億ブッシェル台で推移

している。とうもろこしの飼料需要は、エタノール生産の副産物である DDGSや飼料用小麦と競合している。

② 食品・種子・工業用(含む「エタノール及び副産物」)

「食品・種子・工業用(含む「エタノール及び副産物」)」需要は、「飼料・その他」需要を抜きシェア 50%を超える最

大の需要用途となっている。

需要量は右肩上がりで増加しており、1980/81年の約 6億 5,900万 bu(約 1,675万トン)から 2014/15年

には約 65億 6,623万 bu(約 1億 6,681万トン)と約 30年間で約 10倍の規模に拡大している。

USDA は、「食品・種子・工業用」の内訳を、「異性化糖」、「ブドウ糖」、「スターチ」、「燃料用アルコール(エタノー

ル)」、「飲料用・工業用アルコール」、「シリアルその他」、「種子」に 7分類して、それぞれの使用量を公表している。これ

によれば、1980 年代は「異性化糖」の使用量が急増して最大の使用用途であったが、1990 年代以降はエタノール向

け使用量が急拡大して現在では「食品・種子・工業用」の約 77%のシェアを占めている。2014/15 年は約 52 億 bu

(約 1億 3,208万トン)のとうもろこしがエタノールの原料として用いられている。

図 14 米国産とうもろこしの「食品・種子・工業」用需要

(出所)USDA, ERS, Feed Grain Yearbook Tables

③ 輸出

米国産とうもろこしの輸出量は、1970 年代以降、旧ソ連の穀物大量輸入などもあって急増し、1980/81 年度には

2億 3,911万 bu(6,073万トン、世界シェア 76%)を記録するなど、世界とうもろこし輸出市場で圧倒的な地位を

占めていた。2007/08年度には 2億 4,374万 bu(6,191万トン)と史上最大の輸出量を記録するものの、南米

のブラジルやアルゼンチン、東欧のウクライナなど競合国の輸出増加もあり、世界シェアは 63%にとどまった。これ以降、世

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

7,000

1980/81 1985/86 1990/91 1995/96 2000/01 2005/06 2010/11 2014/15

百万bu 米国産とうもろこしの「食品・種子・工業」需要の内訳

種子

シリアルその他

飲料用・工業用アルコール

燃料用アルコール(エタノール)

スターチ

ブドウ糖

異性化糖

Page 22: 農産物取引の基礎知識...4 もあって、緑線に沿う形で波打つように変化しながら増加していることに注意する必要がある。この緑線と赤線の差である

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界シェアは減少を続け、2011/12 年度には 50%を割り込んでいる。2012/13 年は大干ばつによる減産と史上最高

値($8.4375/bu)の影響で輸出量が前年比半分以下の 7億3,000万bu(1,855万トン、世界シェア 20%)

となり、長く君臨してきた世界最大の輸出国の座を一時的にブラジルに奪われた。2013/14年度は再び米国が世界最

大のとうもろこし輸出国に返り咲いたが、世界シェアが 50%を下回ることは今後も継続するものと思われる。

米国産とうもろこしの最大の輸出相手国は全体の25%を占める日本である。他にも、メキシコ、韓国、コロンビア、ペル

ー、台湾などが主な仕向け先となっている。

図 15 米国産とうもろこしの輸出量と世界シェア

(出所)USDA, FAS, PSD Online

図 16 米国産とうもろこし仕向地別輸出量及びシェア

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

0

500

1000

1500

2000

2500

3000

1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 2015

百万bu 米国産トウモロコシの輸出量と世界シェア

輸出量(左軸)

米国シェア(右軸)

Page 23: 農産物取引の基礎知識...4 もあって、緑線に沿う形で波打つように変化しながら増加していることに注意する必要がある。この緑線と赤線の差である

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(出所) USDA, ERS, Feed Outlook: October 2016

(3) 期末在庫

米国産とうもろこしの需給のミスマッチは期末在庫に反映される。期末在庫量は豊作で積み上がり、不作で取り崩され

ることから変動が大きい。1980/81年度以降、最高は 1986/87年度の 48億 8,169万 bu(1億 2,400万トン、

期末在庫率 66%)、最低は 1995/96年度の 4億 2,594万 bu(1,082万トン、同 5.0%)となっている。大干

ばつに見舞われた 2012/13 年度も 8 億 2,120 万 bu(2,086 万トン、同 7.4%)と低水準になった。その後、豊

作が続いたことにより期末在庫は増加しており、2014/15 年度は 17億 3100万 bu(4,397 万トン、同 13%)と

2012/13年比で倍増が予想されている。

期末在庫率(Stock to use ratio)は期末在庫量を合計需要で除したものであり、期末(8月末)の在庫が年

間需要の何%をカバーできるか表す指標である。例えば、期末在庫率が 10%とすると、8 月末の在庫は 36.5 日の需

要を賄う計算になる。米国産とうもろこしの期末在庫率の適正水準は 15%から 20%であり、15%を下回ると逼迫状

況と考えられる。

図 17 米国産とうもろこしの期末在庫と期末在庫率

1200, 25%

1133, 24%

437, 9%

393, 8%

256, 6%

184, 4%

149, 3%

990, 21%

米国産とうもろこし仕向地別輸出量(万トン)・シェア

日本

メキシコ

コロンビア

韓国

ペルー

台湾

カナダ

その他

輸出量

4742万トン

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(出所)USDA, FAS, PSD Online

3. 主要生産国のとうもろこし需給動向

(1) 中国

中国は世界第 2 位のとうもろこし生産国であり、2014/15 年度の生産量は 2 億 1,565 万トンである。とうもろこし

増産の背景には、価格面で競合作物である大豆や綿花よりも優位であることや、国内の畜産需要の拡大に伴い飼料

需要が急増していることが挙げられる。主な生産地域は東北部の黒龍江省、吉林省、遼寧省であり、この 3省で 40%

弱を占めている。その他、北部の河北省、山東省、山西省、河南省などでも多く生産されており、この東北 3 省に北部

4省を加えた 7省で約 70%を占める。作付けは 4月から 5月にかけて行われ、10月から 11月にかけて収穫される。

表 7 中国におけるとうもろこしの需給動向

単位:千 ha、千トン

2010/11 2011/12 2012/13 2013/14 2014/15 2015/16

(見通し)

2016/17

(予想)

収穫面積 32,500 33,540 35,030 36,318 37,123 38,120 36,000

単収(MT/ha) 5.45 5.75 5.87 6.02 5.81 5.89 6

期初在庫 51,302 49,415 59,335 67,570 81,315 100,464 110,714

生産量 177,245 192,780 205,614 218,490 215,646 224,580 216,000

輸入量 979 5,231 2,702 3,277 5,516 3,180 3,000

供給 計 229,526 247,426 267,651 289,337 302,477 328,224 329,714

飼料・その他 128,000 131,000 144,000 150,000 140,000 153,500 159,000

食品・種子・産業用 52,000 57,000 56,000 58,000 62,000 64,000 67,000

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

0

1000

2000

3000

4000

5000

6000

1980/8

1

1985/8

6

1990/9

1

1995/9

6

2000/0

1

2005/0

6

2010/1

1

2015/1

6

百万bu 米国産とうもろこしの期末在庫と期末在庫率

期末在庫(左軸)

期末在庫率(右軸)

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国内消費 合計 180,000 188,000 200,000 208,000 202,000 217,500 226,000

輸出量 111 91 81 22 13 10 20

需要量 計 180,111 188,091 200,081 208,022 202,013 217,510 226,020

期末在庫 49,415 59,335 67,570 81,315 100,464 110,714 103,694

期末在庫率 27% 32% 34% 39% 50% 51% 46%

(出所)USDA, FAS, PSD Online

(2) ブラジル

ブラジルは世界第 3位のとうもろこし生産国であり、2014/15年度の生産量は 8,500万トンである。以前は国内需

要を満たすための生産であったが、高単収のハイブリッド種子の導入などにより生産量が増加して輸出余力が増し、現在

では米国に次ぐ世界第 2位のとうもろこし輸出国になっている。ブラジルは、とうもろこしを年 2回収穫することが可能であ

り、ファーストクロップの作付けは 10月から 11月にかけて行われ、翌年の 3月から 4月にかけて収穫される(ただし、ブ

ラジル北部では 12月から 1月にかけて作付けされて 5月から 6月に収穫される)。一方、セカンドクロップは 2月に作

付けが行われ、6月から 7月にかけて収穫される。主な生産地域は、パラナ州、マト・グロッソ州、ミナスジェライス州、リオ

グランドスル州などであり、この 4州で約 60%を占めている。

表 8 ブラジルにおけるとうもろこしの需給動向

単位:千 ha、千トン

2010/11 2011/12 2012/13 2013/14 2014/15 2015/16

(見通し)

2016/17

(予想)

収穫面積 13,800 15,200 15,800 15,800 15,750 16,000 16,400

単収(MT/ha) 4.16 4.8 5.16 5.06 5.4 4.19 5.09

期初在庫 6,491 6,278 4,212 9,150 13,972 7,842 5,342

生産量 57,400 73,000 81,500 80,000 85,000 67,000 83,500

輸入量 791 771 886 789 331 2,300 600

供給 計 64,682 80,049 86,598 89,939 99,303 77,142 89,442

飼料・その他 43,000 44,000 44,500 46,000 48,000 46,800 49,000

食品・種子・産業用 7,000 7,500 8,000 9,000 9,000 8,500 9,000

国内消費 合計 50,000 51,500 52,500 55,000 57,000 55,300 58,000

輸出量 8,404 24,337 24,948 20,967 34,461 16,500 25,500

需要量 計 58,404 75,837 77,448 75,967 91,461 71,800 83,500

期末在庫 6,278 4,212 9,150 13,972 7,842 5,342 5,942

期末在庫率 11% 6% 12% 18% 9% 7% 7%

(出所)USDA, FAS, PSD Online

(3) ウクライナ

ウクライナは、EU を除く単一国としては実質的に世界第 4 位のとうもろこし生産国であり、2014/15 年度のとうもろこ

し生産量は 2,845万トンと、前年度比では減少したものの拡大傾向であり、この背景には、収穫面積が大きく増加した

ことが挙げられる。

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国内消費量も増加しているが、生産量の増加に追い付いておらず、余剰分が輸出に振り向けられている。2013/14

年の輸出量は 2,000万トンを超え、主な仕向け地は中国やエジプトである。

中国は 2012年にウクライナに 30億ドルの信用供与をしたが、その際、その返済をとうもろこしの現物で受けることで合

意している。

主な生産地域はドニプロペトロウシク州、チェルニウツィー州、ボルタバ州、チェルカースィ州、オデッサ州などである。作付

けは 4月頃行われ、10月頃収穫される。

表 9 ウクライナにおけるとうもろこし需給動向

単位:千 ha、千トン

2010/11 2011/12 2012/13 2013/14 2014/15 2015/16

(見通し)

2016/17

(予想)

収穫面積 2,648 3,544 4,370 4,825 4,625 4,085 4,250

単収(MT/ha) 4.5 6.44 4.79 6.4 6.15 5.71 6.12

期初在庫 672 1,121 1,000 1,140 2,402 1,819 682

生産量 11,919 22,838 20,922 30,900 28,450 23,333 26,000

輸入量 38 49 44 66 28 30 50

供給 計 12,629 24,008 21,966 32,106 30,880 25,182 26,732

飼料・その他 5,400 6,500 6,800 8,300 8,000 6,700 6,900

食品・種子・産業用 1,100 1,300 1,300 1,400 1,400 1,300 1,400

国内消費 合計 6,500 7,800 8,100 9,700 9,400 8,000 8,300

輸出量 5,008 15,208 12,726 20,004 19,661 16,500 17,700

需要量 計 11,508 23,008 20,826 29,704 29,061 24,500 26,000

期末在庫 1,121 1,000 1,140 2,402 1,819 682 732

期末在庫率 10% 4% 5% 8% 6% 3% 3%

(出所)USDA, FAS, PSD Online

(4) アルゼンチン

アルゼンチンは、EUを除く単一国としては実質的に世界第5位のとうもろこし生産国であり、2014/15年度の生産量

は 2,870 万トンである。国内消費量が少なく、生産量の約 66%が輸出されている。主な生産地域はコルドバ州、ブエ

ノスアイレス州、サンタフェ州であり、この 3 州で 80%を超えている。作付けは 9 月から 11 月にかけて行われ、3 月から

5月にかけて収穫される。

Page 27: 農産物取引の基礎知識...4 もあって、緑線に沿う形で波打つように変化しながら増加していることに注意する必要がある。この緑線と赤線の差である

27

表 10 アルゼンチンにおけるとうもろこしの需給動向

単位:千 ha、千トン

2010/11 2011/12 2012/13 2013/14 2014/15 2015/16

(見通し)

2016/17

(予想)

収穫面積 3,750 3,600 4,000 3,400 3,500 3,500 4,500

単収(MT/ha) 6.72 5.83 6.75 7.65 8.2 8 8.11

期初在庫 2,480 4,038 896 1,308 1,408 1,909 1,114

生産量 25,200 21,000 27,000 26,000 28,700 28,000 36,500

輸入量 7 7 3 2 3 5 5

供給 計 27,687 25,045 27,899 27,310 30,111 29,914 37,619

飼料・その他 5,300 4,800 5,300 5,800 6,000 6,000 6,800

食品・種子・産業用 2,000 2,200 2,600 3,000 3,300 3,300 3,700

国内消費 合計 7,300 7,000 7,900 8,800 9,300 9,300 10,500

輸出量 16,349 17,149 18,691 17,102 18,902 19,500 25,000

需要量 計 23,649 24,149 26,591 25,902 28,202 28,800 35,500

期末在庫 4,038 896 1,308 1,408 1,909 1,114 2,119

期末在庫率 17% 4% 5% 5% 7% 4% 6%

(出所)USDA, FAS, PSD Online

4. 日本のとうもろこし需給動向

(1) 供給

日本はとうもろこしのほぼ 100%を外国からの輸入に依存している。年間輸入量は、従来約 1,600万トン超(内

訳:飼料用 1,200 万トン弱、コーンスターチ用約 330 万トン、その他食品用・工業用 130 万トン)といわれてきた

が、2011年度以降、飼料用輸入が1,100万トンを割り込んだこともあり、2013年度には約1,464万トンまで減少

したものの、その後は増加に転じ、2015年度には 1,500万トンを回復している。

国別シェアについて、従来は米国産のシェアが 90%を超えていたが、特に 2012年度及び 2013年度は米国産が

大干ばつによる大減産の影響で高値で推移したこともあり、価格的に優位なブラジル、アルゼンチン、ウクライナなどから

の輸入が増加して、2013年度には 50%にまで減少した。2014年度以降、米国産が安値で推移したこともあり、再

び米国産のシェアが増加している。

とうもろこしは「関税割当品目」である。国産いもでん粉の保護を目的として、一定の関税割当数量(枠内)に限り

無税又は低い一次税率を適用し、この数量を超える分(枠外)には高い二次税率が適用されている。コーンスターチ、

コーンフレーク、エチルアルコール、蒸留酒などの製造に使用するとうもろこしの枠内税率は無税であるが、枠外税率は

「50%又は 12円/kgのうちいずれか高い税率」とされている。

飼料用とうもろこしについては、飼料の低廉かつ安定的供給を図るために、関税定率法第 13 条にもとづき、税関長

の承認を受けた配合飼料工場(承認工場)において一定の規格を満たす配合飼料に使用されるものについては無

税で輸入することができる。 畜産農家の自家配合飼料用途で用いる単体丸粒とうもろこしも、関税割当制度の割当

てを受けた者は割当分について無税で輸入することができる。

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表 11 日本におけるとうもろこし輸入量

単位:万トン

2010年度 2011年度 2012年度 2013年度 2014年度 2015年度

輸入合計 1,605 1,531 1,473 1,464 1,473 1,510

用途別

飼料用 1,113 1,085 1,028 1,021 996 1,019

スターチ用 328 329 310 312 315 317

その他工業用等 164 117 135 131 162 174

国別

(全用途)

米国 1,444 1,365 923 737 1,274 1,085

ブラジル 51 75 373 317 133 386

アルゼンチン 87 44 65 180 8 12

ウクライナ 12 29 78 134 31 24

その他 11 19 35 96 27 2

国別

(飼料用)

米国 978 931 540 377 819 659

ブラジル 47 67 324 285 125 327

アルゼンチン 68 41 62 168 25 11

ウクライナ 11 28 74 125 7 22

その他 9 17 28 66 20 1

(出所)財務省貿易統計

(2) 需要

① 飼料需要

とうもろこしは、飼料用に約 1,000 万トン(輸入量の約 70%)が用いられている。近年、日本の配合・混合飼料の

生産量は 2,300 万トン台で推移しており、主原料であるとうもろこしのシェアは約 45%である。とうもろこし使用量及び

使用比率はとうもろこし価格に左右され、とうもろこし価格が高値になると、代替原料として飼料用小麦や DDGS の使

用量が増加する。

② コーンスターチ用需要

とうもろこしは、コーンスターチ用に約310万トンから330万トン(輸入量の約 20%)が用いられている。コーンスター

チはとうもろこしから作られるでん粉であり、年間需要は約 250 万トンである。コーンスターチは、異性化液糖などの糖化

原料、ビールや水産練り製品などの食品用、段ボール・製紙・繊維などの工業用、医薬用などの用途で用いられている。

なお、ビール用等の食品用に用いられるコーンスターチの原料には非遺伝子組換えとうもろこしが使用されている。

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第 3項 とうもろこしの価格変動要因

図 18 とうもろこしの価格変動要因(概念図)

1. シカゴのとうもろこし先物価格

とうもろこしの国際的な指標価格はシカゴの CME グループに属するシカゴ商品取引所(CBOT)で形成されている。

したがって、シカゴのとうもろこし先物価格の動向は TOCOM のとうもろこし先物価格にも大きな影響を与えている。

CBOT のとうもろこし先物の限月構成は、3月限、5月限、7 月限、9 月限、12 月限となっており、12 月限が新穀

限月に位置づけられている。一方、TOCOM の限月構成は、1月限、3月限、5月限、7月限、9月限、11月限

であり、1月限が新穀限月に位置づけられている。

CBOT とうもろこし先物価格は、需給要因、天候要因、テクニカル要因などにより変動する。

2. 需給要因

農産物価格は、「需給に始まり需給に終わる」といわれるように、需給バランスが価格の基調を変化させている。

とうもろこしの需要は、人口増加、新興国等の畜産需要拡大、米国のエタノール需要拡大などの要因で増加基調に

ある。供給も、堅調な需要に牽引されて、生産地・生産面積の拡大や遺伝子組換え品種の導入による単収増加によ

って増産基調にある。ただし、需要は安定的な増加傾向にあるのに対して、供給サイドは天候に左右されて大きく変動

するので需給のミスマッチが発生する。需給のミスマッチは在庫の増減に反映され、在庫の増減はとうもろこし価格に直接

的な影響を与える。豊作による需給緩和と在庫増は売りを誘って値下がりし、不作による需給逼迫と在庫減は先高期

待から買いを誘って値上がりする。他方、価格の高騰は需要の抑制と生産者の供給意欲を促し、価格の下落は需要を

喚起して生産者の供給意欲を減退させる。このような「価格メカニズム」を通して需給バランスは調整される。

期末在庫

・生産量=収穫面積×単収

作付面積 天候・輸入

・飼料・産業用(バイオ燃料)

エタノール・輸出

需要

世界需給

米国需給

CBOTとうもろこし価格

TOCOMとうもろこし価格

需給要因 テクニカル要因・その他

・ファンドの動向

・チャート

為替

海上運賃

国内需給

内部要因

供給

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(1)米国の需給

米国は世界最大のとうもろこし生産国・輸出国であり、その動向はとうもろこしの国際需給と国際とうもろこし価格に大

きな影響を与えている。米国のとうもろこし価格は、供給主導の「天候相場」と需要(在庫)主導の「需給相場」に分

けられる。

①天候相場

「天候相場」は、4 月から 9 月までの 6 ヶ月間にわたる「供給主導の相場」である。前年に収穫されたとうもろこしの

在庫状況を踏まえ、その年の生産量を予測しながら将来の供給動向と価格を予想する。この期間は、天候の変化に

一喜一憂して、相場展開は荒くなりやすい。特に、前年が不作で期末在庫率が低下しているときほど、その傾向が強

い。

とうもろこし生産量は、「収穫面積×単収」で計算されるため、その年の生産量を予測するにあたって 2つの材料に注

目する必要がある。

1)作付面積の動向

作付面積を左右するのは、作付け時の「とうもろこし価格」、「競合農産物との価格関係(とうもろこし・大豆比価

等)」、「天候」である。米国の農家は地力維持を目的とした輪作体系を前提としながらも、収益極大化のためにとう

もろこしを作付けしたがる傾向が強い。種子、肥料、農薬などの投入コストは高いが、単収が多いために、天候に恵ま

れれば生産量増と収入増が期待できるからである

米国中西部のコーンベルトでは、とうもろこしの作付けは 4月下旬から開始されて 5月中旬には概ね終了する。この

時期、遅霜や降雨によって作付けが遅れると、生産者は作付けが早いとうもろこしを諦めて大豆にシフトする傾向があ

るので、とうもろこしの作付面積は減少する。ただし、最近では農機具の大型化による作付け能力向上により、短期

間での作付け進捗が可能になったため、以前ほど作付け時の天候は重要視されなくなっている。

USDAは、とうもろこしの作付けに関する情報として、3月末から6月末にかけて「作付意向面積(3月末)」、「作

付進捗状況」、「確定作付面積(6月末)」を公表している。

2)単収を左右する作柄確定までの天候の動向

とうもろこしの単収は、遺伝子組換え品種の導入等によって増加したが、依然として天候が与える影響は大きい。例

えば、大干ばつに見舞われた 2012年の単収は前年の 147.2bu/エーカーから 123.4bu/エーカーへ激減している。

とうもろこしの単収増加・減少の条件は以下のとおりである。

USDAは、とうもろこしの生育ステージごとの情報として、4月から 11月末にかけて「生育状況」を公表している。

単収増加の条件 単収減少の条件

①作付けが早期に終了すること。

②日照に恵まれて勢いよく草丈が伸び、葉が茂ること。

③受粉期(7月)に十分な降雨があること。

④受粉後の成熟期に暖かい日が続くこと。

①低温や長雨で作付けが遅れること。

②日照不足で育ちが悪いこと。

③受粉期(7月)に雨が降らず高温になること。

③ 粉後の成熟期に低温の被害を受けること。

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②需給相場

「需給相場」は、とうもろこしや大豆の収穫がピークを迎える 10月半ばから 4月の新穀の作付け期までの 6 ヶ月間に

わたる「在庫主導の相場」である。収穫が完了して生産量が固まるので、この時期は、収穫された新穀が 4月までにど

れだけ「消費」、「輸出」され、その結果「在庫水準」がどのように変動するかが相場展開のポイントとなる。

1)飼料需要

飼料需要には、配合飼料用と畜産農家の自家消費用があるために正確に把握することは難しい。そのため、家畜

の飼養頭数や食肉生産量などから推測することになる。これらの統計情報については、USDA が「肥育牛頭数

(Cattle on Feed、毎月)」、「豚頭数(Hogs and Pigs、3 月、6 月、9 月、12 月)」、「家禽食肉処理数

(Poultry Slaughter、毎月)」を公表している。ただし、とうもろこし価格が高いと、飼料用小麦や DDGS に需要

が置き換わる可能性があることに留意する必要がある。

2)エタノール需要

米国のエタノール政策導入は、世界のとうもろこし市場を構造的に変化させたといわれている。

米国は、安全保障上の観点から、エネルギー自給化政策を推進する目的で「2005 年エネルギー政策法(Energy

policy act of 2005)」を成立させた。これにより、バイオエタノールやバイオディーゼルなどの再生可能燃料の使用を義

務付ける「再生可能燃料基準(RFS)」が設定され、アメリカ国内で販売されるガソリンに含まれるバイオ燃料の使用

量を 2006年の 40億ガロン(1,514万 Kℓ)から 2012年までに年間 75億ガロン(2,839万 Kℓ)まで拡大す

ることが義務化された。その後、2007 年に成立した「2007 年エネルギー自立・安全保障法(Energy

Independence and Security Act of 2007)」では、バイオ燃料の使用量を 2015年には 205億ガロン(内、

とうもろこしを原料とするエタノールなどの伝統的バイオ燃料は 150億ガロン)まで拡大することが定められた。

エタノール生産量は、原油価格の高騰もあって順調に拡大しており、2013/14年には約141億ガロン、とうもろこし使

用量も 51億 buに達している。

米国のとうもろこし生産量に占めるエタノール需要は、2006 年に輸出需要、2010 年には飼料需要を上回り、現在

では40%を超える最大の需要用途となっている。2011年末の税控除廃止後も、原油価格が60ドル以上であれば採

算が取れるとの試算もあり、今後のエタノール生産動向が注目される。

エタノール需要拡大に伴い、2007 年以降、とうもろこし価格は高い状態が続いている。エタノール需要の増加は、とう

もろこし価格の下支えになるため、とうもろこし価格を占う上で、米国のエタノール生産量及びとうもろこし使用量を把握

する必要がある。これらの情報は USDAのホームページで確認することが出来る。

(http://www.ers.usda.gov/data-products/us-bioenergy-statistics.aspx)

エタノールの増産の結果、副産物である DDGS の生産量も増加している。Agricultural Marketing Resource

Center の試算によれば、DDGS の生産量は 2009/10 年の 3,883 万トン(とうもろこし換算 10 億 5,100 万ブッ

シェル)から 2012/13 年には 3,951万トン(同 10億 8,900万ブッシェル)に増加しており、その分、とうもろこしの

飼料需要及び輸出用需要が侵食されていることにも留意する必要がある。

3)輸出需要

米国は世界最大のとうもろこし輸出国である。輸出需要は需要項目の大きな構成要素として、長期の動向とそれに

よる米国内在庫の変化という点で注目されている。前年比で見た輸出量の増減や、中国等の大口輸出成約のニュ

ースに価格が反応することもあるので、USDA が公表している「週間輸出検証高」や「週間輸出成約高」を確認する

必要がある。

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4)在庫動向

全体的なとうもろこし在庫の推移は、USDAが四半期ごとに公表している「全米穀物在庫」で確認できる。8月末の

期末在庫については、USDA が毎月公表している「世界農産物需給予測」で見通しを確認することができる。

期末在庫を消費量で除した「期末在庫率(Stock to use ratio)」は重要な判断材料であり、とうもろこしは 15%

から 20%が適正水準で、15%を下回ると逼迫状況にあるといわれている。

(2)新興国の需給

世界第 2位のとうもろこし生産国・消費国である中国の需給動向に注目する必要がある。中国は、とうもろこしの自

給政策を掲げており、国内でも増産を図っているが、旺盛な畜産需要に追いつかず、輸入量が増加している。WTO

協定に基づき、中国が低関税率で輸入できる関税割当枠は 720万トンであるが、国内価格が輸入価格より高い状

況が続くと、輸入量がこの枠を超える可能性がある。一方、中国で「鳥インフルエンザ」や「口蹄疫」が発生すると、とう

もろこしの飼料需要が減少するので価格下落材料になる。

国際とうもろこし市場における米国の輸出シェアは、近年、南米のブラジルとアルゼンチン、東欧のウクライナが輸出拡

大を受けて低下している。競合国の出現が米国産とうもろこしの輸出量と価格にどのような影響を及ぼすか注目され

る。

(3)日本の需給

日本の配合・混合飼料生産量は安定して推移しているが、とうもろこし使用量は減少傾向にある。とうもろこし価格

が値上がりすると、代替原料である小麦や DDGS に置き換わる傾向にある。

米国産とうもろこしは極めて汎用性が高く、使い勝手が良いとしてユーザーから好まれている。しかし、2012 年の大

干ばつによる価格高騰のようなことが起こると、価格的に優位なブラジル産、アルゼンチン産、ウクライナ産にシェアを奪

われる。

3. 天候要因

とうもろこしは天候に極めてセンシティブな農産物である。生産量を左右する重要な生育ステージである「受粉期」が

約 1 週間と限られており、この間、干ばつに見舞われると深刻なダメージを受ける。とうもろこしの生育を占う上で重要

なポイントは以下のとおり。

① 播種の遅れ

米国では、最も重要な生育ステージである「受粉期」が高温乾燥の 8 月に当たらないよう、また 9 月初旬に発生

することがある早霜に見舞われても被害を軽微に食い止めるよう、播種作業を 5 月 20 日までに終了させることが

望ましいとされている。低温や降雨などで、この日までに作付けが終了しないと、1 日あたり 1bu の割合で潜在単

収能力が低下すると言われている。好天に恵まれて作付けが早く終了した年は豊作になることが多く、逆に低温や

降雨で作付けが遅れた年は不作になることが多い。

② 降水量

とうもろこしは、6月から 8月の 3 ヶ月で 300 ミリメートルの降水量が必要といわれており、特に 7月中旬の「受粉

期」の 1 週間とその前後 1 週間の計 3 週間は一生のうちで最も多くの水分を必要とする。この間は、1 日当たり

1/4 インチ(約 10 ミリメートル)の降水量があることが望ましい。

③ 積算温度(GDD)

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積算温度(グローイング・ディグリー・デイ)は、気温と生育を関連付ける指標として用いられ、以下の数式から求

められる日々の GDD を累積したものである。とうもろこしが完熟に至るまでの生長に必要な積算温度は品種や場

所によって異なるが、コーンベルトで大体 2,500GDD から 3,000GDD程度といわれている。

50F:Tbase

50F :Tmin

86F:Tmax

Tbase2

TminTmaxGDD

華氏

)氏最低気温(但し下限華

)氏最高気温(但し上限華

5. 為替及びフレート

(1)輸入とうもろこし換算価格

上記は、日本が米国からとうもろこしを輸入する際の換算式であるが、2015年 10月 29日時点のデータ(下記①~

⑤)を用いると以下のように計算できる。

① CBOT とうもろこし:$3.8/bu

② C&F プレミアム(FOB プレミアム+フレート):$1.46/bu(=$0.7+$0.76)

1. FOB プレミアム:$0.7/bu

2. フレート:$30/メトリックトン=$0.76/bu(=$30÷39.367bu)

③ ブッシェル/トン換算:39.367 (1bu=25.4kg)

④ 為替:121円

⑤ CIF係数(保険等):1.05

輸入換算価格:($3.8+$1.46)×39.367×121円×1.05=26,308円/トン

なお、上記の輸入とうもろこし換算式において、CBOT とうもろこし価格以外の諸条件が一定だとすると、CBOT とうも

ろこし価格の 10 セントの値上がりは、約 500円/トンの値上がり要因になる。

(2)為替

とうもろこしの国際取引はドル建てで行われているため、ドル安になると米国産とうもろこしの価格競争力が増して米国

産とうもろこしに対する需要が強まり、ドル建てとうもろこし価格の上昇要因となる。

一方、とうもろこしを輸入する日本から見ると、ドル安(円高)は円建てとうもろこし価格の下落要因となる。TOCOM

のとうもろこし先物価格は円建てで取引されているため、他の条件に大きな変化がなければ、ドル安(円高)は価格下

落要因、ドル高(円安)は価格上昇要因になる。

なお、上記(1)の輸入とうもろこし換算式において、為替以外の諸条件が一定だと仮定すると、1 円の円安は約

218円/トンの値上がり要因になる。

(3)フレート

(CBOT とうもろこし+C&Fプレミアム)×ブッシェル/トン換算×為替×CIF係数

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日本は、輸入の多くを米国に依存している。米国から日本へはパナマックス型と呼ばれる 5万 5000 トン級の本船とハ

ンディマックスと呼ばれる 4万 8000 トン級の本船でとうもろこしが運ばれる。このフレート(運賃)が高くなると TOCOM

のとうもろこし先物価格にとって上昇要因となる。

なお、上記(1)の輸入とうもろこし換算式において、フレート以外の諸条件が一定だとすると、1 ドルのフレートの値上

がりは約 127円/トンの値上がり要因になる。

6. 投資ファンドの動向

株式や債券等の伝統的投資資産と異なるリターンを生むオルタナティブ投資の運用先として商品先物市場にも投資

資金が配分されている。商品市場で運用するファンドには、商品投資顧問業者(CTA)、ヘッジファンド、商品インデッ

クスファンドなどがあり、とうもろこし先物市場にもこれらのファンド資金が流入している。

2006年から 2008年にかけてエネルギー価格や食糧価格が急上昇した際に注目を集めたのが商品インデックスファン

ドである。商品インデックスファンドは、債券や株式の価格変動とは独立してインフレ・リスクをヘッジできる運用資産として

運用規模を拡大し、2008年には主要な農産物先物市場の建玉の 25%から 35%を占めたといわれている。商品イン

デックスファンドが参照する主要な商品インデックスと各商品インデックスにおけるとうもろこしの直近の組入れ比率は表 12

のとおりである

表 12 主要商品インデックスと CBOT とうもろこし組入れ比率

主要商品インデックス とうもろこし組入れ比率

S&P GSCI Commodity Index 4.23%

Thomson Reuters/Jefferies CRB Index 6.0%

Dow Jones-UBS Commodity Index 7.4103730%

Rogers International Commodity Index 4.75%

商品インデックスファンドの運用リターンは、『スポットリターン(原資産である先物価格の価格変動から生じるリターン。

商品インデックスファンドは基本的に「買い」を行うので、価格が上がれば益、下がれば損になる)』、『ロールリターン(限

月をロールオーバーする際に、限月間の価格差から生じるリターン。順鞘は損、逆鞘は益)』、『T-Bill リターン(証拠金

として用いた資金以外の預託資金を米国債で運用することによって得られるリターン)』、の 3 つの源泉から構成される。

商品インデックスファンドは、投資金額が大きいことに加え、長期に亘って建玉を保有する傾向があり、とうもろこしの価格

形成において無視できない存在である。

CBOT のとうもろこし市場におけるこれらのファンドの動向は、CFTC の建玉明細報告(COT)で入手することができ

る。

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第 2節 大豆

第 1項 大豆の商品特性

1. 大豆の歴史

(1)大豆の起源

大豆の起源は非常に古く、中国東北部からロシアのアムール川流域が原産地とされている。中国では2600年前の書

物に大豆が登場しており、諸説はあるものの、4000年以上前から栽培が始まったといわれている。日本には、朝鮮半島

を経て、縄文時代には伝来したと考えられおり、古事記にも「五穀豊穣」の「五穀(稲・麦・粟・小豆、大豆)」の一つと

して記載されているなど、稲作と一緒になって田んぼの畦で栽培されてきた長い歴史がある。

大豆の欧米への伝播には日本が密接に関係しており、ヨーロッパ人にとっての大豆及び大豆食品の歴史は、フィレンツ

ェの商人で「世界周遊記」を書いたフランチェスコ・カルレッティが 1597 年に日本の長崎を訪れた際に「味噌」について記

述したのが記録に残っている限り最も古いといわれている。また 1613 年にはイギリス国王ジェームズ一世の使節として徳

川家康宛の書簡を携えて来日したイギリス東インド会社艦隊司令官ジョン・セーリスも日本の「豆腐」について記録を残

している。実際にヨーロッパに伝わったのは大豆よりも先に大豆食品で、最初に輸入された大豆食品は 1670 年にオラン

ダ人がフランスのルイ 14世のために日本から持ち込んだ「醤油」だといわれている。一方、大豆そのものがヨーロッパに伝わ

ったのは 18世紀初頭で、1730年代にはオランダやフランスで栽培の記録が残っている。

米国に大豆が伝わったのには諸説があり、1804 年に帆船の重石(バラスト)として袋詰め大豆が使われて米国に持

ち込まれたのが最初だという話もある。米国が世界最大の大豆生産国として名乗りを上げるようになったのは、1930 年

代から 40 年代であり、第二次世界大戦が勃発して食用油の輸入が止まってしまったため、食用油の原料として急速に

栽培が広まった。1930年から 1942年の 12年間で、大豆の世界生産量に占める米国のシェアは 3%から 46.5%に

急拡大し、1942年以降は中国を抜いて世界最大の大豆生産国として君臨している。

(2) 大豆市場の構造変化

第二次世界大戦後、世界的な人口増に伴う食肉需要の増加に伴い、高蛋白の飼料原料である大豆ミールが注目

され、米国での大豆生産は急拡大していく。しかし、1970 年代になると米国だけでは世界の大豆需要を賄い切れなく

なり、これに関連するエポックメイキング的な出来事が、1973 年のニクソン大統領による「大豆輸出禁止措置」である。

1972年秋以降、世界的な大豆の不作やアンチョビの不漁等により大豆価格が値上がりし、1973年には、1月に4ド

ルだった大豆の先物価格が6月後半には 12.12 ドルになるなどわずか半年で3倍になった。これを受け、米国は国内

需要を満たすことと国内の飼料価格及び食品価格の抑制を最優先に考え、6月に大豆輸出禁止措置を発表した。こ

のことは日本をはじめ大豆輸入国に大きな衝撃を与え、特に、日本は当時約 340万トンの大豆を輸入し、その9割以

上を米国に依存していたことから、大豆食品業界は大混乱に陥った。この禁輸措置は9月には解除されたが、このことは、

大豆の大輸入国である日本に対して特定の国だけに大事な大豆を依存することの怖さを認識させることとなり、その後、

大豆調達の分散化、多様化が叫ばれるようになった。

南米、特にブラジル・アルゼンチンはこの20年間で大豆の一大生産地として急成長を遂げているが、その歴史は古く

ない。ブラジルが注目を浴びるようになったのは、1970 年代後半に突然中国を抜いて世界第二位の生産国に躍り出て

からである。このブラジルの急激な成長の背景には、1973年の米国による大豆輸出禁止措置があり、日本も深く関わっ

ている。ブラジルは、今でこそ大豆を含む農産物の大生産国・輸出国だが、1970 年代前半までは農産物の純輸入国

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だった。そのため、農地拡大はブラジルにとっても悲願であり、そこで注目されたのが「セラード」と呼ばれるサバンナ地帯であ

った。この場所は土壌が農業に適さず、肉牛生産のための放牧が行われている程度であったが、開発にあたって日本が

技術的な援助を行い、大豆生産を促した。この理由としては、日本は 1973 年の米国による大豆輸出禁止措置で調

達先多様化の必要性を痛感していたからに他ならない。なお、アルゼンチンでも 1970 年代半ばから生産量が拡大して

いる。

米国は1942年以来(1947年を除く)世界最大の大豆生産国の地位を維持してきたが、近年、ブラジルに追い上

げられている。2002/03年にブラジルとアルゼンチンの南米 2 カ国の大豆生産量が米国を追い抜き、その後輸出量でも

南米 2 カ国が米国を抜いている。

一方、消費の面でも、従前、米国が世界最大の消費国であったが、2008/09 年に中国が世界最大の大豆消費国

となり、以降。その差は拡大している。また、ブラジルとアルゼンチンの南米 2カ国の合計消費量も 2002/03年に米国を

上回っている。

このように、大豆市場は生産、消費の両面で大きく構造が変化している。

2. 大豆の品種・用途

(1)品種

大豆はマメ科の一年草で、品種は植物学的に茎の生育習性によって「無限伸張型」と「有限伸張型」に分類される。

「無限伸張型」は原生種の性質に近く、大豆原産地である中国東北部や米国などで栽培されているもので、下から順

番に花を咲かせながら茎が伸びていき、やがて先端が衰えて止まる。「有限伸張型」は日本などで栽培されてもので、下

に花が咲くとやがて茎の先端にも花がついて茎の伸張が止まる。

大豆の品種群はさらに、粒の色(黄色、緑色、茶色、黒色)、粒の大きさ、ヘソ(種子と莢の連結部分)の色(白

目、黒目、茶目等)、葉型、早生晩生の別などにより多くの品種に分類されている。

1996 年以降、米国を中心に遺伝子組換え品種が導入されると、生産コスト削減と単収向上が図れるとして、除草

剤耐性品種(例:ラウンドアップレディ)の栽培が急速に広がった。大豆はとうもろこしよりも遺伝子組換え品種の導入

スピードが速く、2000年にはとうもろこしより 5年早く作付比率が 50%を超え、2012年には 93%になっている。一方

で、日本やヨーロッパでは遺伝子組換え品種の安全性に対する懸念が根強く、日本の食品メーカーは食品用大豆には

非遺伝子組換え大豆を用いている。

(2)大豆の特性と用途

大豆は、水分含有率 13%ベースで蛋白質が約 35%、油分が約 19%、炭水化物が約 28%、灰分が約 5%含ま

れている。

大豆の用途は、主に「食品用」、「大豆ミール」、「大豆油」の 3 つに分けられる。大豆は、日本人にとって豆腐、納豆、

味噌、醤油の原料としての「食品用」のイメージが強いが、世界的には、「大豆油」と「大豆ミール(大豆粕)」の原料と

しての位置付けが強い。

飼料原料は、配合飼料における割合が大きいものは主原料、少ないものは副原料と呼ばれている。主原料の代表格

はとうもろこしであり、副原料の代表格が大豆ミールである。大豆ミールは、蛋白組成分が約 44%の「ロープロ」と約

48%の「ハイプロ」に分けられる。日本はロープロ主体であるが、米国ではハイプロ主体である。

大豆油は、大部分がてんぷら油やサラダ油、あるいはマヨネーズやマーガリンなどの原料としての食品用に用いられるが、

その他にも塗料や潤滑油、印刷インク、バイオディーゼルなどの工業用にも用いられる。競合する植物油としては、パーム

油、菜種油、綿実油などが挙げられる。

Page 37: 農産物取引の基礎知識...4 もあって、緑線に沿う形で波打つように変化しながら増加していることに注意する必要がある。この緑線と赤線の差である

37

大豆 1 ブッシェル(bu)を圧搾して生産される「大豆ミール(ハイプロ)」と「大豆油」の生産量は以下のとおり。

3. 大豆の生育

大豆は主要生産地である米国において以下のような生育過程を経て収穫されるが、大豆は作付地帯が北はカナダ国

境から南はメキシコ国境と広く、品種も多いことから生育期間は地域や品種によって 3 ヶ月から 5 ヶ月と大きく異なること

に留意する必要がある。

大豆は、植物学的には光周期性の高い作物であり、開花や着莢(さや)が昼の長さ(日照時間)で決定されると

いう特性を持つ。生育状況に関わらず、秋の訪れとともに成長が止まる。大豆の生育は以下の通り、大きく4段階に分

類できる。

① 播種(Planting)、発芽・出芽(Germination and Emergence )

米国では、5 月から 6 月上旬にかけて、とうもろこしより 10 日ほど遅れて作付けが行われる。地温が華氏 50℃

(摂氏 10℃)以下では発芽はきわめて不良になるので、華氏 55℃(摂氏 12.7℃)から 60℃(摂氏

15.5℃)になるのを待って作付けが開始される。気温や土壌水分に左右されるが、作付け後、5 日から 20 日

程度で発芽する。

② 開花期(Flowering 又は Blooming)

発芽から約 1 ヶ月後、7 月から 8 月前半にかけて開花が始まる。無限伸張型の品種が多い米国の場合、主茎

下位から上に向かって次々と枝分かれした節の付け根に花が咲き、その後、受粉する。積算温度が重要なとうも

ろこしとは異なり、大豆は光周期感受性の強い作物であり、夜の時間の長さ(暗期)が開花に影響を与える。

③ 着莢期(Setting Pods)

8 月から 9月初旬にかけては着莢期と呼ばれ、大豆生育の中で最もデリケートな時期である。莢の伸張は開花・

受粉後 5日目頃から始まり、20日目頃に最大の長さになって結実期に移り、子実が成長する。着莢から結実が

進むこの期間は登熟期と呼ばれ、光合成が活発に行われるため、十分な降雨があって土中の水分・養分が豊富

に供給されることが望ましく、気温も日中が華氏80度台(摂氏26.7度から 31.7度)、夜間が60度台(摂

氏 15.6度から 20.1度)、平均で 75度(摂氏 23.9度)が理想的といわれる。

④ 落葉期(Dropping Leaves)、収穫期(Harvest)

子実の成長が終盤に差し掛かると、葉や莢が黄変して落葉が始まり成熟期を迎える。その後、莢の色は茶色に

変色し、早ければ 9月中頃から収穫が始まる。

大豆は完熟すると莢が割れて実が落ちてしまうので、とうもろこしより先に収穫が行われ、そのピークは 10 月前半

である。

大豆

(1bu=60ポンド=27.2kg)

大豆ミール

(44ポンド=20kg)

大豆油

(11ポンド=5kg)

(4ポンド=1.8kg)

残渣

(1ポンド=450g)

Page 38: 農産物取引の基礎知識...4 もあって、緑線に沿う形で波打つように変化しながら増加していることに注意する必要がある。この緑線と赤線の差である

38

なお、急速に生産量が増加しているブラジルやアルゼンチンは、北米に位置するアメリカとは季節が逆になるため生育

シーズンも 6 ヶ月ずれることになる。播種期は 10月から 12月、開花・着莢期は 1月から 2月、収穫期は 3月から 5

月になる。

Page 39: 農産物取引の基礎知識...4 もあって、緑線に沿う形で波打つように変化しながら増加していることに注意する必要がある。この緑線と赤線の差である

39

第 2項 大豆の需給

1. 世界の大豆需給動向

(1)生産量

世界の大豆生産量は、旺盛な飼料需要(大豆ミール)と可食油需要(大豆油)に牽引される形で増加している。

世界の大豆生産量(2014/15年度)は、3億 1,978万トンであり、この 20数年間で約 2.3倍に増加している。

世界最大の生産国は米国(1億688万トン、世界シェア 33%)、第2位ブラジルで(9,720万トン、同 30%)、

第 3位アルゼンチン(6,140万トン、同 19%)、第 4位中国(1,215万トン、同 4%)であり、上位 4カ国で世界

生産量の約 86%を占めている。

米国のシェアは、1990 年代までは 50%超、2000 年代初頭は 40%超であったが、南米のブラジルとアルゼンチンの

生産量拡大により低下している。特に、大干ばつに見舞われた 2012/13年は、生産量が 8,279万トンまで落ち込み、

ブラジルに僅差まで迫られたが、2013/14 年以降は再び米国が引き離して世界最大の大豆生産国の地位を維持して

いる。

表 13 世界大豆生産量推移

単位:1,000 トン

国名 2010/11 2011/12 2012/13 2013/14 2014/15 2015/16

(見通し)

2016/17

(予想)

世界合計 264,286 240,559 268,571 282,462 319,776 313,012 333,219

米国 90,663 84,291 82,791 91,389 106,878 106,857 116,180

ブラジル 75,300 66,500 82,000 86,700 97,200 96,500 102,000

アルゼンチン 49,000 40,100 49,300 53,400 61,400 56,800 57,000

中国 15,080 14,485 13,050 11,950 12,150 11,600 12,500

インド 10,130 11,940 12,186 9,477 8,711 7,125 9,700

パラグアイ 7,128 4,043 8,202 8,190 8,154 9,000 9,170

カナダ 4,445 4,467 5,086 5,359 6,049 6,235 6,000

その他 12,540 14,733 15,956 15,997 19,234 18,895 20,669

(出所)USDA, FAS, PSD Online

(2)消費量

① 大豆の消費量

大豆の消費は、大豆ミールと大豆油を生産する「圧搾需要」が中心であり、「食品需要」、「圧ぺん用の飼料需要」は

相対的に少ないため、大豆消費量の動向を占う上で、大豆ミールと大豆油の需給動向が鍵となる。大豆ミールは、世

界人口増加と食肉需要の増加に伴い飼料需要が増加しており、これに牽引される形で大豆消費量は増加傾向にあ

る。

世界の大豆消費量(2014/15 年度)は 3 億 77 万トンと、この約 20 年間で約 2.3 倍に増加している。世界最

大の消費国は中国(8,720万トン、世界シェア 29%)、第 2位米国(5,496万トン、同 18%)、第 3位アルゼ

ンチン(4,418万トン、同 15%)、第 4位ブラジル(4,341万トン、同 14%)であり、上位 4 カ国で 76%を占め

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40

ている。中国は、国内の圧搾需要が急増した結果、2000/01 年度にブラジル、2008/09 度に米国を抜き、それ以降、

世界最大の大豆消費国の地位を維持している。

表 14 世界大豆消費量推移

単位:1,000 トン

国名 2010/11 2011/12 2012/13 2013/14 2014/15 2015/16

(見通し)

2016/17

(予想)

世界合計 252,658 260,120 262,594 276,129 300,771 315,244 328,750

中国 65,900 72,070 76,180 80,600 87,200 95,000 100,700

米国 48,351 48,786 48,550 50,070 54,955 54,634 56,509

アルゼンチン 39,914 38,636 36,811 39,760 44,184 47,666 48,750

ブラジル 39,230 40,983 38,160 39,811 43,410 43,401 44,100

EU 13,160 13,270 13,580 14,560 15,070 15,980 15,390

インド 10,920 11,300 11,800 9,720 8,410 7,696 9,250

メキシコ 3,660 3,710 3,685 4,065 4,210 4,390 4,545

その他 31,523 31,365 33,828 37,543 43,332 46,477 49,506

(出所)USDA, FAS, PSD Online

② 大豆ミールの需給動向

大豆 1bu(60ポンド)を圧搾すると、44ポンド(20kg)の大豆ミール(ハイプロ)が生産される。

2014/15年度の世界の大豆ミール需給動向は表 15のとおり。

表 15 世界の大豆ミール需給動向(2014/15年)

単位:1,000 トン

生産量 消費量 輸出量 輸入量

世界合計 207,328 世界合計 202,182 世界合計 64,014 世界合計 60,356

中国 59,004 中国 57,467 アルゼンチン 28,575 EU 19,158

米国 40,880 EU 29,542 ブラジル 14,390 ベトナム 4,502

ブラジル 31,300 米国 29,282 米国 11,891 インドネシア 3,844

アルゼンチン 30,928 ブラジル 15,700 パラグアイ 2,530 タイ 3,068

EU 10,744 メキシコ 5,100 ボリビア 1,673 フィリピン 2,205

インド 5,440 ベトナム 4,750 中国 1,595 イラン 1,948

その他 29,032 その他 60,341 その他 3,360 その他 25,631

(出所)USDA, FAS, PSD Online

1) 生産量

世界の大豆ミール生産量(2014/15年度)は 2億 733万トンであり、中国、米国、ブラジル、アルゼンチンの上位

4カ国で約 78%を占めている。

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41

中国の生産量拡大は著しく、1990/91 年度は僅か約 300 万トンであったのが、2009/10 年度には米国を抜いて

世界最大の大豆ミール生産国になっている。なお、米国と南米2カ国は自国で生産した大豆から大豆ミールを生産する

「生産地型」であるのに対し、中国は輸入大豆から大豆ミールを生産する「消費地・輸入地型」である。

2) 消費量

世界の大豆ミール消費量(2014/15年)は2億218万トンであり、中国、EU、米国、ブラジルの上位4カ国(地

域)で約 65%を占めている。

大豆ミールの国内生産量に占める国内消費量の比率は、中国が約 97%、米国が約 72%、ブラジルが約 51%であ

るのに対して、アルゼンチンは 8%と極端に低い。

3) 輸出量・輸入量

世界の大豆ミール輸出量(2014/15 年)は 6,401 万トンであり、アルゼンチン、ブラジル、米国の上位 3 カ国で

86%を占めている。アルゼンチンは国内生産量の 92%を輸出に振り向けている。

一方、世界の大豆ミール輸入量は 6,036 万トンであり、EU、ベトナム、インドネシアが上位 3 カ国を占めている。EU

は約 32%のシェアを有している。

③大豆油の需給動向

1)生産量

大豆 1bu(60ポンド)を圧搾すると、11ポンド(5kg)の大豆油が生産される。

2014/15年度の世界の大豆油需給動向は表 16のとおり。

表 16 大豆油需給動向(2014/15年度)

単位:1,000 トン

生産量 消費量 輸出量 輸入量

世界合計 49,064 世界合計 47,906 世界合計 11,089 世界合計 9,997

中国 13,347 中国 14,200 アルゼンチン 5,094 インド 2,799

米国 9,706 米国 8,600 ブラジル 1,510 中国 773

ブラジル 7,760 ブラジル 6,265 EU 1010 アルジェリア 605

アルゼンチン 7,687 インド 4,056 米国 914 バングラディシュ 511

EU 2,584 アルゼンチン 2,501 パラグアイ 690 エジプト 480

インド 1,210 EU 1,950 ロシア 423 モロッコ 432

その他 6,770 その他 10,334 その他 1,448 その他 4,397

(出所)USDA, FAS, PSD Online

1) 生産量

世界の大豆油生産量(2014/15年度)は4,906万トンであり、中国、米国、ブラジル、アルゼンチンの上位4カ国

で約 78%を占めている。大豆ミールと同様、中国の生産量の伸びが突出している。

2)消費量

世界の大豆油消費量(2014/15 年度)は 4,791 万トンであり、中国、米国、ブラジル、インド、アルゼンチンの上

位5カ国で 74%を占めている。中国の消費量は生産量の伸びと同様に突出している。アルゼンチンは、大豆ミールをほ

ぼ全量輸出しているのに対し、大豆油は生産量の約 3割をバイオディーゼル用として国内消費に回している。

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3)輸出量・輸入量

世界の大豆油輸出量(2014/15年度)は 1,109万トンであり、アルゼンチン、ブラジルの上位2カ国で約 60%を

占めている。

一方、世界の大豆油輸入量は 1,000万トンであり、インド、中国、アルジェリア、バングラディシュ、エジプトの上位5カ

国で約 52%を占めている。中国は大豆ミールを自給しているものの、同時に生産される大豆油は不足しており、その不

足分を輸入で補っている。

(3) 輸出量

世界の大豆輸出量(2014/15年度)は 1億 2,622万トンと、この約 20年間で約 3.9倍に増加している。世

界最大の輸出国はブラジルで(5,061万トン、世界シェア 40%)、第 2位米国(5,014万トン、同 40%)、第 3

位アルゼンチン(1,057 万トン、同 8%)となっており、上位 3 カ国で 88%のシェアを有する寡占的な構造となってい

る。

従来、大豆輸出市場では、米国がシェア 80%超と圧倒的な地位を有していたが、近年、ブラジル等の輸出拡大によ

りその地位が低下している。米国が大干ばつに見舞われた2012/13年度に、ブラジルが世界最大の大豆輸出国になっ

り、今後もブラジルが世界最大の輸出国の地位を維持すると予想されている。

表 17 世界大豆輸出量推移

単位:1,000 トン

国名 2010/11 2011/12 2012/13 2013/14 2014/15 2015/16

(見通し)

2016/17

(予想)

世界合計 91,705 92,186 100,802 112,722 126,218 132,535 138,779

ブラジル 29,951 36,257 41,904 46,829 50,612 54,383 58,400

米国 40,959 37,186 36,129 44,594 50,143 52,688 55,112

アルゼンチン 9,205 7,368 7,738 7,842 10,573 10,300 9,650

パラグアイ 5,226 3,574 5,518 4,800 4,488 5,300 5,300

カナダ 2,943 2,933 3,470 3,469 3,854 4,258 4,000

ウルグアイ 1,820 2,607 3,532 3,195 3,114 1,825 2,750

ウクライナ 989 1,338 1,323 1,261 2,422 2,400 2,300

その他 612 923 1,188 732 1,012 1,381 1,267

(出所)USDA, FAS, PSD Online

(4)輸入量

世界の大豆輸入量は 2013/14 年度に初めて 1億トンを超え、2014/15 は1億 2,388万トンとこの約 20年間

で約 3.9 倍に増加している。世界最大の輸入国は中国(7,835万トン、世界シェア 63%)、第 2 位 EU(1,342

万トン、同 11%)、第 3位メキシコ(382万トン、同 3%)、第 4位日本(300万トン、同 2%)となっている。中

国以外の国の輸入量がほぼ横ばいで推移していることから、世界大豆輸入量の増加分はほぼ中国の輸入量増加分に

相当すると考えられる。中国は、今後も輸入量を大幅に増加させると見込まれている。

Page 43: 農産物取引の基礎知識...4 もあって、緑線に沿う形で波打つように変化しながら増加していることに注意する必要がある。この緑線と赤線の差である

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表 18 世界大豆輸入量推移

単位:1,000 トン

国名 2010/11 2011/12 2012/13 2013/14 2014/15 2015/16

(見通し)

2016/17

(予想)

世界合計 89,763 94,553 97,197 113,070 123,881 131,652 136,223

中国 52,339 59,231 59,865 70,364 78,350 82,500 86,000

EU 12,472 12,070 12,538 13,293 13,421 14,200 13,000

メキシコ 3,498 3,606 3,409 3,842 3,819 4,065 4,200

日本 2,917 2,758 2,830 2,894 3,004 3,250 3,100

タイ 2,139 1,907 1,867 1,798 2,411 2,798 2,650

台湾 2,454 2,285 2,286 2,335 2,520 2,550 2,600

エジプト 1,644 1,661 1,730 1,694 1,947 1,300 2,400

その他 12,300 11,035 12,672 16,850 18,409 20,989 22,273

(出所)USDA, FAS, PSD Online

図 19 大豆、大豆ミール、大豆油需給相関図(2014/15年度)

4. 米国産大豆需給動向

USDA が提供している米国産大豆に関する統計情報は、重量がブッシェル(bu)、面積がエーカー(acre)で提

供されていることに注意する必要がある。

0 4,000 8,000 12,000 16,000 20,000 24,000 28,000 32,000 36,000

消費量

輸入量

輸出量

生産量

万トン

世界大豆需給

米国 ブラジル アルゼンチン 中国 EU メキシコ 日本 その他

0 5,000 10,000 15,000 20,000 25,000

消費量

輸入量

輸出量

生産量

万トン

世界大豆ミール需給

中国 米国 ブラジル アルゼンチン EU インドネシア ベトナム その他

0 2,000 4,000 6,000

消費量

輸入量

輸出量

生産量

万トン

世界大豆油需給中国 米国 ブラジル アルゼンチン

EU インド アルジェリア その他

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表 19 米国産大豆の需給

Soybean 大豆 2012/13 2013/14 2014/15 2015/16

(見通し)

2016/17

(予測)

Million Acres(単位:百万エーカー)

Area Planted 作付面積 77.2 76.8 83.3 82.7 83.7

Area Harvested 収穫面積 76.1 76.3 82.6 81.7 83

Bushels (単位:ブッシェル)

Yield per Harvested Acre 単収 bu/acre 40 44 47.5 48 51.4

Million Bushels (百万ブッシェル)

Beginning Stocks 期初在庫 169 141 92 191 197

Production 生産量 3,042 3,358 3,927 3,926 4,269

Imports 輸入量 41 72 33 24 30

Supply, Total 供給 計 3,252 3,570 4,052 4,140 4,496

Crushings 圧搾量 1,689 1,734 1,873 1,886 1,950

Exports 輸出量 1,317 1,638 1,842 1,936 2,025

Seed 種子用 89 97 96 97 95

Residual その他 16 10 50 24 31

Use, Total 需要量 計 3,111 3,478 3,862 3,943 4,101

Ending Stocks 期末在庫 141 92 191 197 395

(出所)USDA, OCE, WASDE(2016年 10月)より作成

(1) 供給

① 作付面積・収穫面積

米国産大豆の作付面積は、1960年代から70年代にかけて約3倍になり、7,000万エーカー(約2,833万ha)

に達した。その後、80年代に停滞して 6,000万エーカー(2,429万 ha)を割り込んだが、90年代から 2000年代

にかけて再び増加し、2014/15年には史上最高の 8,330万エーカー(3,371万 ha)に達している。大豆は、とうもろこ

しのようにサイレージ目的で青刈りされることがないため、作付面積占める収穫面積の割合は約 98%と高い。

大豆に関する重量、面積換算

重量:1 ブッシェル(bu)= 27.2kg、1 トン=36.7437bu

面積:1 エーカー(acre)=0.4047ha

Page 45: 農産物取引の基礎知識...4 もあって、緑線に沿う形で波打つように変化しながら増加していることに注意する必要がある。この緑線と赤線の差である

45

図 20 米国産大豆作付面積・収穫面積

(出所)USDA, ERS, Oil Crops Yearbook Table

② 生産量・単収

米国産大豆の生産量は、2009/10年に当時としては史上最高の 33億 6,093万 bu(9,147万トン)を記録した

後、2012/13 年度は 1930 年代以来最悪といわれる大干ばつの影響で減産となったが、2014/15 年には 39 億

2,700万 bu(1億 689万トン)と、2009/10年を上回る史上最高を更新している。

単収は、1990 年代に遺伝子組換え品種が普及してからは 40bu/エーカー近辺で推移しており、2009/10 年度に

は史上最高の 44bu/エーカー(2.96 トン/ha)を記録した。2012/13 年度は大干ばつの影響により 39.8bu/エー

カー(2.68 トン/ha)に減少したが、とうもろこしよりも単収の減少率は小さい。2014/15 年には史上最高の

47.5bu/エーカー(3.19 トン)を記録している。

③ 生産地域・州別生産量

米国産大豆の生産地域は、北はカナダ国境から南はメキシコ国境までと非常に広く、なかでも中西部の「コーンベルト」

と重なる「ビーンベルト」と呼ばれる地域が主要産地になっている。生産量はアイオワ州、イリノイ州、ミネソタ州、ネブラスカ

州となっており、この 4州で全米の 42%を占めている。

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1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 2015

百万エーカー 米国産大豆作付面積・収穫面積

収穫面積 作付面積

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表 20 全米及び州別生産量(主要州)

単位:1,000bu

2010 2011 2012 2013 2014 2015

全米 3,329,181 3,093,524 3,014,998 3,357,984 3,927,090 3,929,885

アイオワ州 496,230 475,345 413,850 420,875 498,270 553,700

イリノイ州 466,075 423,225 383,560 474,000 547,120 544,320

ミネソタ州 328,950 274,560 300,570 278,040 301,705 377,500

ネブラスカ州 267,750 261,360 207,085 255,195 287,820 305,660

インディアナ州 258,505 240,695 223,590 267,285 301,920 275,000

オハイオ州 220,320 217,920 206,100 222,255 246,225 237,000

サウスダコタ州 157,320 150,590 141,300 185,490 229,950 235,520

ノースダコタ州 138,380 114,840 160,820 141,215 202,515 185,900

ミズーリ州 210,405 190,165 155,170 201,960 259,935 181,440

アーカンソー州 110,250 126,280 135,880 140,940 158,400 155,330

カンザス州 138,125 101,520 83,820 130,980 140,580 148,610

ミシシッピー州 76,230 70,200 87,750 91,540 113,880 104,420

ミシガン州 88,740 85,360 85,570 85,440 86,700 98,980

ウィスコンシン州 82,315 74,865 70,550 60,450 78,760 92,565

(出所)USDA, NASS, Crop Production Annual Summary

図 21 米国産大豆生産地域

(出所)USDA, OCE, Major World Crop Areas and Climate Profiles

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47

(2) 需要

USDAは、「合計需要(use total)」を「圧搾(Crushing)」、「輸出(Exports)」、「種子(Seed)」、「その

他(Residual)」に 4分類してデータを提供している。

米国産大豆の合計需要は、生産量に比例して増加傾向にあり、大干ばつに見舞われた 2012/13年度は需要量も

31 億 1,100 万 bu(8,468 万トン)に落ち込んだものの、2014/15 年度には 38 億 6,200 万 bu(1億 510

万トン)を記録した。

最大の需要項目は「大豆ミール」と「大豆油」を生産するための圧搾需要であり、合計需要の50%から60%を占めて

いる。輸出需要は 35%から 46%を占めているが、2007/08 年度以降、圧搾需要減・輸出需要増により、現在では

ほぼ拮抗している。

図 22 米国産大豆の需要推移

(出所)USDA, ERS, Oil Crops Yearbook Table

① 圧搾

圧搾とは、大豆から大豆ミールと大豆油を生産する工程を意味する。昔は大豆を潰して大豆油を抽出していたが、今

はヘキサンを利用した化学的抽出法が用いられている。米国における圧搾数量の月間統計データは、全米油糧種子加

工業者協会(NOPA)が毎月 15日に Thomson Reuters社を通じて提供している。

2014/15 年度の圧搾量は 18 億 7,300 万ブッシェル(5,098 万トン)である。圧搾動向を占う指標としては、製

品価格(大豆油及び大豆ミール)と原料価格(大豆)の差から大豆圧搾工場の粗利益を計る「圧搾マージン

(Gross processing margin, GPM)」がある。ただし、圧搾マージンは圧搾工場ごとに異なるため、全米の全体的

な GPM の指標として、CBOT の大豆先物価格、大豆ミール先物価格、大豆油先物価格を利用して算出された「ボー

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1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 2015 2/

百万bu米国産大豆の需要推移

種子・その他 輸出 圧搾

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ド・マージン」が利用される。

GPM が圧搾コストを上回れば、圧搾工場は圧搾量を増やすので、その分大豆の国内需要が増加する。一般的に、

GPM の損益分岐点は 40セント/bu といわれている。

1)米国における大豆ミールの需給動向

大豆ミールは、配合飼料において、蛋白原料とアミノ酸を提供する副原料の代表格として欠かせない飼料原料である。

大豆ミールには、植物蛋白の組成分が約 44%(ロープロ)と約 48%(ハイプロ)のものがあるが、米国では一般的に

ハイプロを用いている。米国産大豆ミールの需給動向は表 21のとおり。

米国産大豆ミールの生産量(2014/15年度)は 4,506万ショートトン(約 4,088万トン)で、需要のうち飼料

需要を中心とした国内需要が 3,228 万ショートトン(約 2,928 万トン)、輸出需要が 1,311 万ショートトン(約

1,189万トン)であり、EU、メキシコ、フィリピン等へ輸出されている。

世界大豆ミール輸出市場に占める米国産大豆ミールのシェアも 17%程度と、1990 年代の平均 20%超と比較して

(参考)圧搾マージン(GPM)の算出方法

1. 前提

・ 1bu(60 ポンド=27.2kg)の大豆を圧搾すると、11 ポンド(5kg)の大豆油と 44 ポンド(20kg)の大豆ミ

ール(ハイプロ)が生産される。

2. 単位の統一(大豆油と大豆ミールの価格をドル/bu に換算)

①大豆(セント/bu) :換算の必要なし

②大豆油(セント/ポンド) :11 ポンド×大豆油価格

③大豆ミール(ドル/ショートトン) :44 ポンド(ハイプロ)/2000 ポンド×大豆ミール価格

=0.022×大豆ミール価格

※ 1ショートトン=2,000ポンド=0.907 トン

3. 圧搾マージン(GPM)の計算

GPM=(大豆ミール価格×0.022+大豆油価格×11)-大豆価格

4. 具体例(ボードマージン)

①シカゴ大豆価格(11月限) :$12.4325/bu

②シカゴ大豆油価格(12月限) :$0.4568/ポンド

③シカゴ大豆ミール価格(12月限) :$366/ショートトン

・ 単位換算

①シカゴ大豆価格(11月限) :換算の必要なし

②シカゴ大豆油価格(12月限) :11 ポンド×$0.4568/ポンド=$5.0248 ル

③シカゴ大豆ミール価格(12月限) :0.022×$366/ショートトン=$8.052 ル

GPM=($5.0248 ル+$8.052)-$12.4325=$0.6443

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49

低下している。

表 21 米国産大豆ミールの需給

Soybean Meal 大豆ミール 2013/14 2014/15 2015/16

(見通し)

2016/17

(予測)

Thousand Short tons

(単位:1000 ショートトン)

Beginning Stocks 期初在庫 275 250 260 300

Production 生産量 40,685 45,062 44,690 46,275

Imports 輸入量 383 333 400 325

Supply, Total 供給 計 41,343 45,645 45,350 46,900

Domestic Disappearance 国内消費量 29,547 32,277 33,200 34,300

Exports 輸出量 11,546 13,108 11,850 12,300

Use, Total 需要 計 41,093 45,284 45,050 46,600

Ending Stocks 期末在庫 250 260 300 300

(出所)USDA, OCE, WASDE(2016年 10月)より作成

2)米国における大豆油の需給状況

大豆油は、米国における植物油生産量の約 70%を占めている。米国産大豆油の需給動向は表 22 のとおり。

米国産大豆油の生産量(2014/15 年度)は 214 億ポンド(971 万トン)であり、その内 139 億ポンド(632

万トン)が食料・飼料・その他工業用、50億ポンド(228万トン)はバイオディーゼル用に用いられている。バイオディー

ゼル需要急増の背景には、「2005年エネルギー政策法(Energy policy act of 2005)」及び 2007 年に成立し

た「2007年エネルギー自立・安全保障法(Energy Independence and Security Act of 2007)」によってバイ

オ燃料の使用量拡大が定められたことがある。 輸出量は 20 億ポンド(90 万トン)近辺で推移している。世界大豆

油輸出市場に占める米国産大豆油のシェアは 1990年代の平均 16%から直近では 9%と低下傾向にある。

表 22 米国産大豆油需給

Soybean Oil 大豆油 2013/14 2014/15 2015/16

(見通し)

2016/17

(予測)

Million Pounds(100万ポンド)

Beginning Stocks 期初在庫 1,655 1,165 1,855 1,750

Production 4/ 生産量 20,130 21,399 21,960 22,525

Imports 輸入量 165 264 285 250

Supply, Total 供給 計 21,950 22,828 24,100 24,525

Domestic Disappearance 国内消費量 18,908 18,959 20,100 20,550

Biodiesel 3/ バイオディーゼル 5,010 5,039 5,600 5,950

Food, Feed & other Industrial 食品・飼料・その他 13,898 13,920 14,500 14,600

Exports 輸出量 1,877 2,014 2,250 2,250

Use, Total 需要 計 20,785 20,973 22,350 22,800

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50

Ending stocks 期末在庫 1,165 1,855 1,750 1,725

(出所)USDA, OCE, WASDE(2016年 10月)より作成

② 輸出

米国産大豆の輸出量は増加傾向にあり、2010/11年度には史上最高の15億ブッシェル(4,096万トン)を記録

している。需要合計に占める割合も、最近では 42%前後になるまで増加している。

輸出量の増加にもかかわらず、世界の大豆輸出市場に占める米国産大豆の地位は、南米大豆の輸出拡大によって

低下している。1970年代に90%を超えていたシェアは、2014/15年度には40%まで低下し、世界最大の大豆輸出

国の座をブラジルに譲っている。

2012/13年度の米国産大豆の仕向け先は、中国、メキシコ、日本、インドネシアなどである。

図 23 米国産大豆輸出量と世界シェア

(出所)USDA, FAS, PSD Online

5. 主要生産国・消費国の大豆需給動向

(1) 中国

中国は、第二次世界大戦までは世界最大の大豆生産国であったが、2014/15年度の生産量は 1,215万トンと世

界第4位である。主な生産地域は旧満州地域である黒龍江省、遼寧省、吉林省の「東北三省」で、特に黒龍江省は

40%強のシェアを有している。中国産大豆の多くは豆腐等の食品用に供されており、約 1,020 万トンの食品需要があ

る。

中国は、世界最大の大豆消費国・輸入国として世界の大豆需要に大きな影響を与えている。中国は、1995/96

年度までは大豆の純輸出国であったが、WTO 加盟を控えて、1996 年に大豆輸入を許可制から関税割当制に移行

すると大豆輸入が急増し、2001 年に WTO に加盟して関税割当制を撤廃すると輸入に拍車がかかった。中国の大豆

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1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 2015

百万bu 米国産大豆輸出量と世界シェア

輸出量 世界シェア

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輸入量は、1995/96年の 79万 5,000 トンと比較すると、約 20年で約 100倍の規模に膨らんでおり、ほぼ 100%

を米国、ブラジル、アルゼンチンの 3カ国から輸入している。中国の大豆輸入急増の原因としては、畜産需要・水産需要

の増加に伴う大豆ミールの飼料需要の拡大と、可食油である大豆油需要の拡大が挙げられる。中国は、大豆ミール需

要を全量国内生産で賄い、余剰分のを日本をはじめ海外に輸出している。一方、植物油生産の中で最大の 40%超

のシェアを有する大豆油は、生産量が増加しているものの国内需要全体を賄うには足りず、毎年 130 万トンから 150

万トン程度をアルゼンチンなどから輸入している。

表 23 中国の大豆需給

単位:1000 トン

2010/11 2011/12 2012/13 2013/14 2014/15 2015/16

(見通し)

2016/17

(予想)

収穫面積 8,516 7,889 7,172 6,791 6,800 6,440 7,100

期初在庫 13,209 14,538 15,909 12,378 13,877 17,034 16,014

生産量 15,080 14,485 13,050 11,950 12,150 11,600 12,500

輸入量 52,339 59,231 59,865 70,364 78,350 82,500 86,000

供給 計 80,628 88,254 88,824 94,692 104,377 111,134 114,514

圧搾量 55,000 60,970 64,950 68,850 74,500 81,300 86,500

食品用 9,100 9,300 9,450 9,850 10,200 10,800 11,200

飼料用 1,800 1,800 1,780 1,900 2,500 2,900 3,000

国内消費 合計 65,900 72,070 76,180 80,600 87,200 95,000 100,700

輸出量 190 275 266 215 143 120 150

需要量 計 66,090 72,345 76,446 80,815 87,343 95,120 100,850

期末在庫 14,538 15,909 12,378 13,877 17,034 16,014 13,664

期末在庫率 22% 22% 16% 17% 20% 17% 14%

(出所)USDA, FAS, PSD Online から作成

(2) ブラジル

ブラジルは米国に次ぐ世界第 2 位の大豆生産国である。ブラジルは南半球に位置するため、大豆の生育時期は北半

球の米国とは正反対で、米国の収穫期である 10 月から 12 月が播種期にあたり、重要な生育ステージは 1 月、収穫

期は米国の端境期である 3 月から 4 月が収穫期にあたる。主な生産地域は、マット・グロッソ州、パラナ州、リオグランド

スル州、ゴイアス州、マット・グランドスル州、などであり、この 5州で約 70%を占めている。

ブラジルは、2012/13 年に大干ばつで生産量が減少した米国を抜いて世界最大の大豆輸出国になった。ブラジル

産大豆の仕向け先は中国、スペイン、タイとなっている。主な輸出港はブラジル南東部に位置するサントス港、パラナグア

港、リオ・グランデ港である。

ブラジルは、生産地が内陸部の中西部へ拡大しており、生産地から輸送港までの輸送インフラに問題を抱えている。米

国と異なり、輸送の多くをトラックに依存しているため、輸送コストが高い。加えて、港湾インフラの未整備により、荷積み

の遅延等の問題も発生している。

ブラジルの 2014/15年の大豆圧搾量は 4,044万トンであり、3,130万トンの大豆ミールと 776万トンの大豆油が

生産されている。生産された大豆ミールの半分弱は輸出され、残りの半分は国内消費されている。一方、大豆油は生

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産量の約 19%が輸出され、残りが国内消費されるが、国内需要のうち約 60%強は食用、残りの 40%弱はバイオディ

ーゼル等の産業用に用いられている。

表 24 ブラジルの大豆需給

単位:1000 トン

2010/11 2011/12 2012/13 2013/14 2014/15 2015/16

(見通し)

2016/17

(予想)

収穫面積 24,200 25,000 27,700 30,100 32,100 33,100 33,800

期初在庫 17,480 23,636 13,024 15,355 16,020 19,503 18,629

生産量 75,300 66,500 82,000 86,700 97,200 96,500 102,000

輸入量 37 128 395 605 305 410 350

供給 計 92,817 90,264 95,419 102,660 113,525 116,413 120,979

圧搾量 36,330 38,083 35,235 36,861 40,435 39,901 40,500

食品用 0 0 0 0 0 0 0

飼料用 2,900 2,900 2,925 2,950 2,975 3,500 3,600

国内消費 合計 39,230 40,983 38,160 39,811 43,410 43,401 44,100

輸出量 29,951 36,257 41,904 46,829 50,612 54,383 58,400

需要量 計 69,181 77,240 80,064 86,640 94,022 97,784 102,500

期末在庫 23,636 13,024 15,355 16,020 19,503 18,629 18,479

期末在庫率 34% 17% 19% 18% 21% 19% 18%

(出所)USDA, FAS, PSD Online から作成

(3) アルゼンチン

アルゼンチンは、ブラジルと同様に 1970 年代の大豆価格の高騰を契機として飛躍的な発展を遂げている。特に、

1990 年代に誕生したメネム政権が大豆及び大豆製品を含む農産加工品の輸出税と農業投入財の輸入税を引き

下げてから大豆生産量が飛躍的に拡大した。現在では、米国、ブラジルに次ぐ世界第 3 位の大豆生産国であり、

2014/15年度は史上最高の 6,140万トンの大豆を生産している。

アルゼンチンは南半球に位置するため、大豆の生育時期は北半球の米国とは正反対で、作付期が 11 月から 12

月、収穫期は 4月から 5月である。主な生産地域は、コルドバ州、ブエノスアイレス州、サンタフェ州の 3州であり、この

3州で約 80%を占めている。

2014/15 年度、アルゼンチンは、米国、ブラジルに次ぐ世界第 3 位の大豆輸出国であるが、生産量の大部分は圧

搾を中心とした国内消費に回される、生産量に占める輸出量の割合は 17%弱と低い。

アルゼンチンは、大豆ミール及び大豆油の生産国としては世界第 4 位であるが、輸出国としては世界最大である。ア

ルゼンチンは、大豆ミール生産量の約 90%を輸出しているのに対し、大豆油は生産量の約 60%を輸出、残りを国内

消費(バイオディーゼル向け)に回している。

Page 53: 農産物取引の基礎知識...4 もあって、緑線に沿う形で波打つように変化しながら増加していることに注意する必要がある。この緑線と赤線の差である

53

表 25 アルゼンチンの大豆需給

単位:1000 トン

2010/11 2011/12 2012/13 2013/14 2014/15 2015/16

(見通し)

2016/17

(予想)

収穫面積 18,300 17,577 19,750 19,250 19,340 19,530 19,450

期初在庫 20,729 20,623 14,719 19,472 25,271 31,916 31,400

生産量 49,000 40,100 49,300 53,400 61,400 56,800 57,000

輸入量 13 0 2 1 2 650 300

供給 計 69,742 60,723 64,021 72,873 86,673 89,366 88,700

圧搾量 37,614 35,886 33,611 36,173 40,017 43,300 44,300

食品用 0 0 0 0 0 0 0

飼料用 2,300 2,750 3,200 3,587 4,167 4,366 4,450

国内消費 合計 39,914 38,636 36,811 39,760 44,184 47,666 48,750

輸出量 9,205 7,368 7,738 7,842 10,573 10,300 9,650

需要量 計 49,119 46,004 44,549 47,602 54,757 57,966 58,400

期末在庫 20,623 14,719 19,472 25,271 31,916 31,400 30,300

期末在庫率 18,300 17,577 19,750 19,250 19,340 19,530 19,450

(出所)USDA, FAS, PSD Online から作成

6. 日本の大豆需給動向

(1) 供給

日本は大豆の 90%以上を輸入に依存している。輸入量は 2003年の 517万トンから 2012年には 273万トン

と、製油用大豆を中心にほぼ半減していたが、その後は増加傾向にあり、2015年は 324万トンと 300万トン台を回

復した。2003 年と比較し、2015 年の輸入大豆の国別シェアは、米国産及び製油用のブラジル産はやや減少したも

のの、食品用を中心にカナダ産が 4%から 11%に拡大している。

表 26 日本の大豆需給

単位:1000 トン

2010年 2011年 2012年 2013年 2014年 2015年

製油用 2,473 2,067 1,935 1,911 1,992 2,248

食品用 976 950 932 936 942 959

飼料用 113 106 108 104 98 102

輸出 0 0 0 0 0 0

需要計 3,562 3,123 2,975 2,951 3,032 3,309

国内生産量 230 223 219 236 200 232

輸入 3,456 2,831 2,727 2,762 2,828 3,243

ロス(▲) ▲69 ▲57 ▲55 ▲55 ▲57 ▲65

供給計 3,617 2,997 2,891 2,943 2,971 3,410

期末在庫 234 166 182 143 192 191

Page 54: 農産物取引の基礎知識...4 もあって、緑線に沿う形で波打つように変化しながら増加していることに注意する必要がある。この緑線と赤線の差である

54

(出所)我が国の油脂事情、財務省貿易統計、農水省作物統計、農水省油糧生産実績調査

図 24 日本の大豆輸入量推移

(出所)財務省貿易統計

(2) 需要

① 製油用需要

大豆の国内圧搾量は、2006年の約 298万トンから 2013年には 191万トンまで大幅に減少(大豆ミール生産

量も 226万トンから 145万トン、大豆油生産量も 58万トンから 38万トンへ大幅に減少)していたが、その後は回復

基調となっている。

大豆油生産量の回復要因としては、大豆の価格が下落し、菜種に比べて大豆の搾油コストが割安となったことなどが

挙げられる。

大豆ミール生産量は、大豆油生産量の増加により、2015 年には 170 万トンを回復した。飼料需要も旺盛なため、

国内生産量の減少分をインド、中国、米国、ブラジルからの輸入で補っている。大豆ミール輸入量は、2009 年に国内

生産量を初めて上回り、それ以降も輸入量が国内生産量を上回る状態が続いている。

② 食品用需要

大豆の食品用需要も減少しており、現在では100万トンを割り込んでいる。ただし、製油用のように代替原料がある

わけではないので減少幅は比較的小幅にとどまっている。製油用には、遺伝子組換え大豆・遺伝子組換え不分別大豆

が用いられているが、食品用には非遺伝子組換え大豆が用いられている。

国産大豆はほぼ全量が食品用に用いられており、輸入大豆ではカナダ産のシェアが高い。従来シェアが高かった米国

産と中国産のシェアは減少傾向にあり、南米産は僅か 1%にとどまっている。

用途としては、豆腐・油揚げ用が 50%以上を占め、次いで納豆用、味噌用となっている。食品用大豆には様々な種

類があり、用途ごとに使用される品種が異なっている。

75%

17%

4%

11%

16%

72%

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

2003 2005 2007 2009 2011 2013 2015

千トン 日本の大豆輸入量推移

その他

中国

カナダ

ブラジル

米国

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55

表 27 日本における油糧生産実績

単位:トン

2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015

大豆国内圧搾量 2,485,203 2,473,480 2,067,428 1,935,352 1,911,070 1,992,314 2,248,340

大豆油

国内生産量 476,936 467,707 401,455 376,484 379,640 392,112 431,884

輸入量 35,597 18,314 19,820 23,568 39,495 9,327 6,485

中国 22,054 9,091 5,168 9,153 24,199 1 1

台湾 4,261 3,974 6,266 7,860 7,405 4,277 3,529

米国 7,210 4,661 3,012 2,600 2,633 3,140 1,897

マレーシア 950 105 953 1,368 2,001 1,298 597

その他 1,122 483 4,421 2,587 3,257 611 461

大豆ミール

国内生産量 1,879,804 1,867,882 1,584,103 1,462,309 1,446,279 1,501,441 1,700,347

輸入量 1,914,810 2,186,075 2,204,493 2,108,599 1,758,334 1,752,816 1,749,359

インド 647,949 817,435 1,298,524 792,653 561,650 111,492 73,837

中国 687,269 780,246 245,762 672,795 544,069 979,594 1,181,877

ブラジル 42,734 71,811 195,908 202,978 207,924 121,056 99,716

米国 410,161 428,443 376,556 288,437 204,276 225,002 185,784

アルゼンチン 81,183 40,387 39,963 112,141 93,684 16,327 0

その他 45,514 47,753 47,780 39,595 146,731 299,345 208,145

(出所)農林水産省 油糧生産実績、貿易統計

図 25 日本における食品用大豆の輸入シェア・用途

(出所)大豆油糧日報、貿易統計

豆腐油揚

54%

納豆

15%

味噌

14%

煮豆

きな粉

7%

豆乳

5%

醤油

4%

凍豆腐

2%

カナダ

42%

米国

34%

国産

19%

中国

4%

南米

1%

食品用大豆

生産国別シェア・用途別シェア

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56

第 3項 大豆の価格変動要因

図 26:大豆の価格変動要因(概念図)

1. シカゴの大豆先物価格

大豆の国際的な指標価格はシカゴの CME グループに属するシカゴ商品取引所(CBOT)で形成されている。したが

って、シカゴの大豆先物価格の動向は TOCOMの一般大豆先物価格にも大きな影響を与えている。

CBOT の大豆先物の限月構成は、1月限、3月限、5月限、7月限、8月限、9月限、11月限となっており、11

月限が新穀限月に位置づけられている。一方、TOCOMの限月構成は、2月限、4月限、6月限、8月限、10月限、

12月限であり、12月限が新穀限月に位置づけられている。

CBOT大豆先物価格自体は、需給要因、天候要因、テクニカル要因などの影響を受けて変動する。

2. 需給要因

農産物価格は、「需給に始まり需給に終わる」といわれるように、需給バランスが穀物価格の基調を変化させている。

大豆の需要は、人口増加、新興国等の畜産需要及び大豆油需要拡大などの要因により増加基調にある。供給も、

堅調な需要増加に牽引されて、生産地・生産面積の拡大や遺伝子組換え品種の導入による単収増もあって増産基

調にある。ただし、需要は安定的な増加傾向にあるのに対して、供給は天候に左右されて大きく変動するので需給のミ

スマッチが発生する。需給のミスマッチは在庫の増減に反映され、在庫の増減は大豆価格に直接的な影響を与える。豊

作による需給緩和と在庫増は売りを誘って値下がりし、不作による需給逼迫と在庫減は先高期待から買いを誘って値

上がりする。他方、価格の高騰は需要の抑制と生産者の供給意欲を促し、価格の下落は需要を喚起して生産者の供

給意欲を減退させる。このような「価格メカニズム」を通して需給バランスは調整される。

期末在庫

・生産量=収穫面積×単収

作付面積 天候・輸入

・大豆ミール(飼料)・大豆油・食品用大豆・バイオ・ディーゼル・輸出

需要

世界需給

米国需給

シカゴ大豆価格

東京大豆価格

需給要因 テクニカル要因・その他

・ファンドの動向

・チャート

為替

海上運賃

国内需給

内部要因

供給

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(1)米国の需給

米国は世界最大の大豆生産国であり、その動向は大豆の国際需給と国際大豆価格に大きな影響を与えている。米

国の大豆価格は、供給主導の「天候相場」と需要(在庫)主導の「需給相場」に分けられる。

①天候相場

「天候相場」は、4月から9月までの6ヶ月間にわたる「供給主導の相場」である。前年に収穫された大豆の在庫状況

を踏まえ、その年の生産量を予測しながら将来の供給動向と価格を予想する。この期間は、天候の変化に一喜一憂し

て、相場展開は荒くなりやすい。特に、前年が不作で在庫率が低下しているときほど、その傾向が強い。

大豆の生産量は「収穫面積×単収」で計算されるため、その年の生産量を予測するにあたって 2 つの材料に注目する

必要がある。

1)作付面積の動向

作付面積を左右するのは、作付け時の「大豆価格」、「競合農産物との価格関係(とうもろこし・大豆比価等)」、

「天候」である。米国の農家は地力維持を目的とした輪作体系を前提としながらも、収益極大化のためにとうもろこし

を作付したがる傾向が強い。種子、肥料、農薬などの投入コストは高いが、単収が多いために、天候に恵まれれば生

産量増と収入増が期待できるからである。この結果、とうもろこしの作付面積増加は大豆の作付面積の減少要因に

なる。

米国中西部では、大豆の作付けは 5 月から 6 月上旬にかけて、とうもろこしより 10 日ほど遅れて開始される。この

時期、遅霜や降雨によってとうもろこしの作付けが難しくなると、生産者はとうもろこしを諦めて大豆にシフトする傾向が

あるので、大豆の作付面積は増加する。ただし、最近では農機具の大型化による作付け能力向上により、短期間で

の作付け進捗が可能になったため、以前ほど作付け時の天候は重要視されなくなっている。

USDAは、大豆の作付けに関する情報として、3月末から 6月末にかけて「作付意向面積(3月末)」、「作付進

捗状況」、「確定作付面積(6月末)」を公表している。

2)単収を左右する作柄確定までの天候の動向

大豆の単収は、遺伝子組換え品種の導入によって増加したが、依然として天候が与える影響は大きい。単収増

加・減少の条件は以下のとおり。

USDAは、大豆の生育ステージごとの情報として、4月から 11月末にかけて「生育状況」を公表している。

②需給相場

「需給相場」は、大豆やとうもろこしの収穫がピークを迎える10月半ばから4月の新穀の作付期までの6ヶ月間にわた

る「在庫主導の相場」である。収穫が完了して生産量が固まるので、この時期は、収穫された新穀が 4月までにどれだけ

「消費」、「輸出」され、その結果「在庫水準」がどのように変動するかが相場展開のポイントとなる。

単収増加の条件 単収減少の条件

①作付けが早期に終了すること。

②日照に恵まれて勢いよく草丈が伸び、葉が茂ること。

③開花・着サヤ期(8月)に十分な降雨があるjこと。

④開花・着サヤ後の結実期に暖かい日が続くこと。

①低温や長雨で作付けが遅れること。

②日照不足で育ちが悪いこと。

③開花・着サヤ期(8月)に雨が降らず高温になること。

③ 花・着サヤ後の結実期に低温の被害を受けること。

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1)圧搾需要

米国は中国に次ぐ世界第二位の大豆消費国である。大豆の主な消費用途は圧搾である。圧搾量は大豆ミールの

飼料需要、大豆油の食用需要及びバイオディーゼル需要に左右され、そのデータを全米油糧種子加工協会

(NOPA)が毎月のデータをホームページで公表していたが、2013年 2月からトムソン・ロイター社が有料で提供して

いる(http://commoditiesupdates.thomsonreuters.com/nopa/)。

2)輸出需要

米国はブラジルに次ぐ世界第二位の大豆輸出国である。輸出需要は圧搾需要と並ぶ需要項目の大きな構成要

素として、長期の動向とそれによる米国内在庫の変化という点で非常に注目されている。前年比で見た輸出量の増

減や、世界最大の大豆輸入国・消費国である中国向けの大口輸出成約のニュースに価格が反応することもあるので、

USDAが公表している「週間輸出検証高」や「週間輸出成約高」を確認する必要がある。

3)在庫動向

全体的な大豆在庫の推移は、USDAが四半期ごとに公表している「全米穀物在庫」で確認できる。8月末の期末在

庫については、USDAが毎月公表している「世界農産物需給予測」で見通しを確認することができる。

期末在庫を消費量で除した「期末在庫率(Stock to use ratio)」は重要な判断材料であり、大豆は 10%から

15%が適正水準で、10%を下回ると逼迫状況にあるといわれている。

(2)中国の需給

中国は、大豆ミール需要の増加と大豆油需要の増加に牽引されて、2008/09 年に米国を抜いて世界最大の大豆

消費国となった。中国は、自給政策を掲げるとうもろこしとは異なり、大豆の自給を諦めたため輸入量が増加している。

中国は、大豆の輸入を米国、ブラジル、アルゼンチンの3カ国にほぼ100%依存しており、中国の輸入動向が大豆価格

に与える影響は大きい。

また、中国は国内の食用油高騰への対応等で、大豆の国家備蓄放出を行うことがあり、このようなニュースが流れると

大豆価格の下落要因になる。

(3)南米の需給

南半球に位置する南米は、北半球の米国とは生育サイクルが逆になるため、米国の出来秋以降の需給相場期が南

米にとっての天候相場期にあたる。世界の大豆需要が拡大する中で、南米のブラジルとアルゼンチンを合わせた大豆生

産量と輸出量は、世界全体の約 50%に相当することから、南米の天候相場期における天候と作柄に関する情報が価

格に影響を与える。

また、ブラジルでは、輸送インフラ及び港湾インフラの未整備による荷積みの遅延等の問題が発生しており、これらのニュ

ースは大豆価格の上昇要因になる。

(3)日本の需給

日本の大豆需要は減少している。特に、製油用需要は国内圧搾量が 200 万トンを下回るまで減少している。また、

米国産のシェアが低下する一方でブラジル産のシェアが増加している。

食品用大豆は依然として 90万トン強あるが、ほぼ全量が非遺伝子組換え大豆が用いられている。

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3. 天候要因

大豆の生育を占う上で重要なポイントは以下のとおり。

① 作付け時の長雨

作付け時に低温多雨型の天気が続くと、作付け作業がはかどらず、その後の生育日数を制約することになる。作

付けが遅れると発芽が遅れ、着莢数も減少し、単収の低下につながる。農家は、開花期が夏場の高温・乾燥を

避けるよう、とうもろこしと同様に作付けを早める傾向にある。

② 夏場の気温・降水量

大豆の最も重要な生育ステージである 7 月から 8 月にかけての「開花・着莢期」に高温・乾燥の干ばつに見舞わ

れると、ストレスによって開花・受粉が阻害され、落花現象がおこり着莢不良を招いて単収が低下する。特に 8 月

の降水量は単収に大きな影響を与える。

③ 秋の早霜と収穫時の長雨

8 月末から 9 月初旬の早霜は大豆の生育を阻害し、未熟粒のままでの刈り取りを余儀なくされるリスクを伴う。ま

た、収穫時に雨が続くと、収穫ロスの発生や品質の低下につながる。

4. バイオディーゼル需要

とうもろこしのエタノール需要ほど目立たないが、大豆にもバイオディーゼル需要がある。エタノールはガソリンと混合される

のに対し、バイオディーゼルは石油ディーゼルと混合される。

米国は、安全保障上の観点から、エネルギー自給化政策を推進する目的で「2005 年エネルギー政策法(Energy

policy act of 2005)」を成立させた。これにより、バイオエタノールやバイオディーゼルなどの再生可能燃料の使用を義

務付ける「再生可能燃料基準(RFS)」が設定された。現在では、米国における大豆油消費量の約 27%はバイオデ

ィーゼル向けに消費されている。

また、米国以外でも、南米のブラジル及びアルゼンチンにおいて、バイオディーゼルの生産量が増加している。

5. 為替及びフレート

(1)輸入大豆換算価格

上記は、日本が米国から大豆を輸入する際の換算式であるが、2015年 10月 29日時点のデータ(下記①から⑤)

を用いると以下のように計算できる。

① CBOT大豆:$8.82/bu

② C&F プレミアム(FOB プレミアム+フレート):$1.52/bu(=$0.82+$0.7)

・ FOB プレミアム :$0.7/bu

・ フレート :$30/トン=$0.82/bu(=$30÷36.7454bu)

③ ブッシェル/トン換算 : 36.7454 (1bu=27.2155kg)

④ 為替:121円

(CBOT大豆+C&Fプレミアム)×ブッシェル/トン換算×為替×CIF係数

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⑤ CIF係数(保険等):1.05

輸入換算価格:($8.82+$1.52)×36.7454×121円×1.05=48,272円/トン

なお、この輸入大豆換算式において、CBOT大豆価格以外の諸条件が一定だとすると、CBOT大豆価格の 10 セン

トの値上がりは、約 467円/トンの値上がり要因になる。

(2)為替

大豆の国際取引はドル建てで行われているため、ドル安になると米国産大豆の価格競争力が増して米国産大豆に対

する需要が強まりドル建て大豆価格の上昇要因となる。

一方、大豆を輸入する日本から見ると、ドル安(円高)は円建て価格の下落要因となる。TOCOM の一般大豆先

物価格は円建てで取引されているため、他の条件に大きな変化がなければ、円建て大豆価格にとってドル安(円高)

は価格下落要因、ドル高(円安)は価格上昇要因になる。

なお、上記(1)の輸入大豆換算式において、為替以外の諸条件が一定だと仮定すると、1円の円安は約 399円/

トンの値上がり要因になる。

(3)フレート

日本は、輸入の多くを米国に依存している。米国から日本へはパナマックス型と呼ばれる 5万 5000 トン級の本船とハ

ンディマックスと呼ばれる 4万 8000 トン級の本船で大豆が運ばれる。この運賃が高くなると TOCOMのとうもろこし価格

にとって上昇要因となる。

なお、上記(1)の輸入大豆換算式において、フレート以外の諸条件が一定だとすると、1 ドル/トンのフレートの値上

がりは約 94円/トンの値上がり要因になる。

6. 投資ファンドの動向

株式や債券等の伝統的投資資産と異なるリターンを生むオルタナティブ投資の運用先として商品先物市場にも投資

資金が配分されている。商品先物取引で運用するファンドには、商品投資顧問業者(CTA)、ヘッジファンド、商品イ

ンデックスファンドなどがあり、大豆市場にもこれらのファンド資金が流入している。

2006年から 2008年にかけてエネルギー価格や食糧価格が急上昇した際に注目を集めたのが商品インデックスファン

ドである。商品インデックスファンドは、債券や株式の価格変動とは独立して、インフレ・リスクをヘッジできる運用資産とし

て急速に認知され、運用規模の拡大に伴い、2008年には主要な農産物先物市場の建玉の 25%から35%を占めて

いたといわれている。商品インデックスファンドがベースとする主要な商品インデックスとしては、S&P GSCI Commodity

Index、Thomson Reuters/Jefferies CRB Commodity Index、Dow Jones-UBS Commodity Index、

Rogers International Commodity Indexなどがあり、それぞれ、インデックスに組み込む商品数やその組入れ比率

が異なっている。各商品インデックスにおける大豆の直近の組入れ比率は以下のとおり。

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61

表 28 主要商品インデックスと大豆組入れ比率

主要商品インデックス 大豆組入れ比率

S&P GSCI Commodity Index 2.95%

Thomson Reuters/Jefferies CRB Index 6.0%

Dow Jones-UBS Commodity Index 5.8387700%

Rogers International Commodity Index 3.50%

商品インデックスファンドの運用リターンは、『スポットリターン(原資産である先物価格の価格変動から生じるリターン。

商品インデックスファンドは基本的に「買い」を行うので、価格が上がれば益、下がれば損になる)』、『ロールリターン(限

月をロールオーバーする際に、限月間の価格差から生じるリターン。順鞘は損、逆鞘は益)』、『T-Bill リターン(証拠金

として用いた資金以外の預託資金を米国債で運用することによって得られるリターン)』、の 3 つの源泉から構成される。

商品インデックスファンドは、投資金額が大きいことに加え、長期に亘って建玉を保有する傾向があり、大豆の価格形成

において無視できない存在である。

CBOTの大豆市場におけるこれらのファンドの動向は、CFTC の建玉明細報告(COT)で入手することができる。

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第 3節 米国政府機関による提供情報と価格変動

第 1項 米国農務省(USDA)報告と価格変動

穀物相場は、「需給に始まり需給に終わる」といわれる。需給予測は様々な調査機関からも公表されているが、情報

量と迅速度の両面で、USDAの報告書に勝るものはない。USDAの統計情報は膨大であり、とうもろこしや大豆の生育

ステージを含めて毎月のように様々な情報が提供されるが、相場にインパクトを与える重要性が高い情報として以下の報

告が挙げられる。

表 29:USDA の重要報告

公表データ名 重要度 発表頻度

1 世界需給予測(WASDE) ★★★ 毎月 10日頃

2 全米穀物在庫(Grain Stocks) ★★★★ 年 4回

1月中旬,3月末,6月末,9月末

3 作付意向面積(Prospective Planting) ★★★★ 年 1回、3月末

4 最終確定面積(Acreage) ★★★★ 年 1回、6月末

5 生育状況(Crop Progress) ★★★ 4月~11月、毎週月曜

6 輸出成約高(Export Sales) ★★ 毎週木曜、必要に応じて随時

7 輸出検証高(Grain Inspection) ★★ 毎週火曜

表 30:とうもろこしの生育ステージと USDAの重要情報発表時期

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月

米国

播種・発芽 タッセリング シルキング

受粉

ミルク ドウ デント 成熟 収穫

世界需給予測 ● ● ▲ ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●

全米穀物在庫 ● ● ● ●

作付意向面積 ●

最終確定面積 ●

生育状況 作付進捗率 収穫進捗率 作況

輸出成約高 毎週木曜日、必要に応じて随時

輸出検証高 毎週月曜日

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63

表 31:大豆の生育ステージと USDAの重要情報発表時期

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月

米国

播種発芽 開花 着莢 収穫

ブラジル

播種・発芽 開花

着莢 収穫

世界需給予測 ● ● ▲ ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●

全米穀物在庫 ● ● ● ●

作付意向面積 ●

最終確定面積 ●

生育状況 作付進捗率 収穫進捗率 作況

輸出成約高 毎週木曜日、必要に応じて随時

輸出検証高 毎週月曜日

1. 世界需給予測(WASDE、World Agricultural Supply and Demand Estimates)

発表機関:World Agricultural Outlook Board (世界農業需給予測委員会、WAOB)

URL :http://www.usda.gov/oce/commodity/wasde/

発表頻度:月次

発表日 :毎月 10日(休日の関係で 2、3日ずれることがある)

原則として毎月 10日に発表。世界及び米国の小麦、とうもろこし、大豆、大豆粕、大豆油、粗粒穀物、コメ、砂糖、

畜産物、綿花などの最新予測が掲載されており、統計の信頼性が高いので、世界中の市場関係者が注目している。5

月の世界農産物需給予測からは、その年に収穫予定の新穀の需給予測が公表される。この 5 月以外にも、特に以下

の月の情報が重要である。

月 内容

1月 前年の秋収穫された穀物の最終確定生産高が発表される。

5月 新穀の需給予測が発表され、単収の傾向値が示される。(3 月発表の作付意向面積に基づく生

産予測)

7月 6月発表の確定面積に基づく生産予測が発表になる。

8月 とうもろこしの受粉が終わるので、とうもろこしのおおよその生産高の見通しがつけられる。

9月 とうもろこしの受粉期と登熟期が終わり、大豆の開花・着莢の時期が終盤に差しかかるので、実際

の単収に近い生産見通しが示される。

10月 とうもろこしや大豆の収穫が進み、実際の単収が生産見通しに反映される。

11月 とうもろこしや大豆の収穫が概ね終了しているため、かなり正確な生産見通しが発表される

生産量は面積に単収を乗じて計算することが出来る。USDA による、とうもろこしや大豆の生産量見通しに用いられ

る面積や単収は以下の通り・

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64

【面積】

5月と 6月の予測では 3月末に公表された作付意向面積が基礎。

7月以降は 6月末に公表された最終確定面積が基礎。

【単収】

5月から 7月までは机上計算モデルを使った単収見通しが用いられる。

8月以降は中西部の主要生産州での実地調査の結果に基づく単収が用いられる。

2. 全米穀物在庫(Grain Stocks)

発表機関:National Agricultural Statistics Service (農業統計局、NASS)

URL :http://usda.mannlib.cornell.edu/MannUsda/viewDocumentInfo.do?documentID=1079

発表頻度:年 4回(1月、3月、6月、9月)

発表日 :1月中旬、3月末、6月末、9月末

USDAは、とうもろこし、大豆、小麦等の全米穀物在庫を年4回(1月、3月、6月、9月)発表している。これは、

3月、6月、9月、12月の各月の前半 2週間に、それぞれの月の 1日現在の生産者在庫及び非生産者在庫に関し

て行った調査結果をまとめたものである。3 月、6 月、9 月はそれぞれ月末に発表しているが、12 月の在庫は月末が年

末年始に重なることから 1月に発表している。

この調査において、とうもろこしや大豆は9月、小麦は6月の全米穀物在庫が前穀物年度の期末在庫の確定値、つ

まり当穀物年度の期初在庫となる。

全米穀物在庫は四半期という節目での在庫確認であり、生産者の販売状況や消費動向の目安となる重要な役割

を果たす。

3. 作付意向面積(Prospective planting)

発表機関:National Agricultural Statistics Service (農業統計局、NASS)

URL :http://usda.mannlib.cornell.edu/MannUsda/viewDocumentInfo.do?documentID=1136

発表頻度:年 1回

発表日 :毎年 3月末

USDAは 3月末にとうもろこし、大豆、小麦、コメ、綿花等についての生産者の作付け意向面積を発表する。これは、

3 月初めに全米各地の 8 万 3500 戸以上の生産者に対して行った、3 月 1 日時点の生産者の作付け意向面積調

査をまとめたもので、その後の生産者の作付け変更の参考になる。

注意すべきは、作付意向面積と実際の作付面積は 4月中旬から 5月末までの作付け期の天候と価格関係によって

変わる可能性があることである。4 月に好天が続き、作付けが順調に進んでいるところへとうもろこし価格の上昇が加われ

ばとうもろこしの作付けが増加する。逆に 4 月中旬から 5 月上旬まで長雨に見舞われて作付けが遅れているところへ大

豆価格の上昇が重なれば、単収低下リスクの大きいとうもろこしの作付けを諦め大豆に転換する動きが出てくる。

この 3月末の作付け意向面積の発表を受けて、4月から本格的な天候相場が始まる。

4. 最終確定面積(Acreage)

発表機関:National Agricultural Statistics Service (農業統計局、NASS)

URL :http://usda.mannlib.cornell.edu/MannUsda/viewDocumentInfo.do?documentID=1000

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発表頻度:年 1回

発表日 :毎年 6月末

USDA は、6 月末に、とうもろこし、大豆、小麦、コメ、綿花等の作付面積について最終確定面積を発表する。これは、

6 月前半 2 週間において、調査官が全米約 9900 箇所、7 万戸以上の生産者に対して行った調査結果をまとめたも

のである。4 月以降の天候及び価格変動により、3 月末の作付け意向面積に対してどの程度の乖離が生じたのかが注

目される。

最終確定作付面積に対する収穫面積の比率を収穫率と呼ぶ。一般に米国における収穫率は、とうもろこしが

92.0%、大豆が 98.6%、小麦が 84.4%程度である。最終確定作付面積がわかれば、収穫率を乗じることにより収

穫面積を予想することが出来る。そして、この予想収穫面積に予想単収を乗じることで予想生産量を算出することがで

きる。なお、USDA の世界農産物需給予測では、5月及び 6月は作付意向面積を基に予想生産量を算出するが、7

月以降の需給予測はこの最終確定面積を基にして算出される。

5. 生育状況(Crop Progress)

発表機関:National Agricultural Statistics Service (農業統計局、NASS)

URL :http://usda.mannlib.cornell.edu/MannUsda/viewDocumentInfo.do?documentID=1048

発表頻度:毎週(ただし、生育期である 4月から 11月まで)

発表日 :毎週月曜日

USDAは 4月から 11月末まで 8 カ月余りにわたって、毎週月曜日にとうもろこしや大豆等の作付進捗率、開花率、

収穫率等のデータのほか、作況(5段階評価)や土中水分等を発表している。

(1)作付け進捗率(Corn Planted、Soybean Planted)

USDAは、とうもろこしについては 4月中旬から 6月中旬まで、大豆については 5月上旬から 6月下旬までの毎週月

曜日に、主要生産州における発表日前日(日曜日)時点の作付け進捗率を発表する。

とうもろこしは平年であれば 5月 10日までに 75%以上が作付けされることが望ましいとされており、5月 11日以降に

作付けされるとうもろこしは1日遅れるごとに単収が少しずつ減少するといわれている。播種が早めに終わると収穫までの

全ての段階において天候からの悪影響を避けることができる。大豆は5月25日までに85%以上作付けが終了すること

が望ましいとされている。

作付進捗率の発表に続いて発芽率(Corn Emerged、Soybean Emerged)も発表される。作付け終了後の

気温が高く、土中水分が多いときは発芽率が高くなり、逆に気温が低く土壌が乾燥しているときは発芽率が低くなる。

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図 27 作付進捗状況と単収(とうもろこし)

図 28 作付進捗状況と単収(大豆)

(2)収穫進捗率(Corn Harvested、Soybean Harvested)

とうもろこしは 8月下旬、大豆は 9月上旬から、収穫進捗率(Corn Harvested)が発表される。

アメリカ最南部では 8 月半ばから少しずつとうもろこしや大豆の収穫が始まるが、中西部の穀倉地帯で大豆の収穫作

業が本格化するのは 9月 20日以降で、10月半ばには概ね終了し、とうもろこしは 10月 5日以降に収穫作業が本

格化して、11月半ばまでに概ね終了する。

米国の生産者は大豆の収穫をとうもろこしに優先させる。大豆は収穫期に鞘が乾燥し過ぎると弾けて豆が地面にこぼ

れ落ちて収量が落ちるのに対し、とうもろこしは 1週間や 2週間収穫作業が遅れても収量が減少する心配がないからで

ある。

100

120

140

160

180

200

0

20

40

60

80

100

2010 2011 2012 2013 2014 2015

bu/エーカー進捗率(%) 作付進捗状況と単収(とうもろこし)6月4週

6月3週

6月2週

6月1週

5月5週

5月4週

5月3週

5月2週

5月1週

4月4週

4月3週

4月2週

4月1週

単収

40

42

44

46

48

50

0

20

40

60

80

100

2010 2011 2012 2013 2014 2015

bu/エーカー進捗率(%) 作付進捗状況と単収(大豆)6月4週

6月3週

6月2週

6月1週

5月5週

5月4週

5月3週

5月2週

5月1週

4月4週

4月3週

4月2週

4月1週

単収

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(3)作況(Corn Condition、Soybean Condition)

とうもろこしは作付け終了後の 6 月上旬から 10 月下旬、大豆は 6 月中旬から 10 月上旬にかけて発表日の前日

(日曜日)時点の作況指数が発表される。

作柄を「大変良い(Excellent)」、「良い(Good)」、「普通(Fair)」、「悪い(Poor)」、「大変悪い(Very

Poor)」の5段階に分けて評価し、それぞれが全体でどれくらいの割合になっているかを表すもので、「大変良い」と「良い」

を合計して 60%を上回るときは豊作になることが多く、「悪い」と「大変悪い」を合計して 35%を超えるときは不作になる

傾向がある。ただし、作況は作柄のおおよその目安を示すに過ぎず、必ずしも予想収量と密接な関係があるわけではな

い。

6.輸出動向

とうもろこし、大豆ともに輸出動向が「週間輸出検証高」及び「週間輸出成約高」として USDA から発表されている。

輸出は需要の大きな項目の一つであり、長期の動向とそれによる米国内在庫の変化という点で非常に注目されている。

(1)輸出成約高(U.S. Export Sales Reports)

米国の輸出業者には輸出成約の報告が義務付けられており、虚偽報告には罰則規定もあるので信頼度は高い。ま

た万が一、輸出禁止措置が発動された場合、登録済みであれば、既契約の保護(損失補填を含め)の対象となるメ

リットがある。

輸出成約高報告には、大口成約だけを対象とした日次ベースのものと、大口、小口を問わず過去 1 週間の全ての輸

出成約を対象とした週間ベースのものがある。

① 大口成約高(デイリー)

発表機関:Foreign Agricultural Service (海外農業局、FSA)

URL: http://www.fas.usda.gov/newsroom

発表頻度:大口成約があった都度

発表日 :報告日の翌営業日の朝 9時

同一輸出業者が、同一仕向地の輸出について、穀類では 10 万トン、製品では 2 万トンを超える成約をした場合、

大口成約として24時間以内の報告が義務付けられている。15時までに報告された大口成約は翌営業日の9時に海

外農業局のホームページの「ニュースルーム」で公表される。

②週間輸出成約高(ウィークリー)

発表機関:Foreign Agricultural Service (海外農業局、FSA)

URL: http://www.fas.usda.gov/export-sales/esrd1.asp

発表頻度:毎週

発表日 :毎週木曜日

毎週木曜日に、先々週の金曜日から先週木曜日までの1週間の全ての輸出成約高が、商品(銘柄)ごと、穀物

年度ごと、仕向地別、新規契約、キャンセル量、成約残高・既船積の区分付きで公表される。輸出進捗の先行指標と

して利用される

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(2)輸出検証高(Grain Inspected for export)

発表機関:Agricultural Marketing Service (農業マーケティングサービス、AMS)

URL: http://www.ams.usda.gov/mnreports/wa_gr101.txt

発表頻度:毎週

発表日 :毎週月曜日

毎週月曜日に、先々週金曜日から先週木曜日までの1週間の輸出検査数量(実質的な輸出数量)が発表され

る。米国からの農産物輸出には、法律で最終輸出時点での品質と重量の検査が義務付けられており、商品ごとの集計

が公表されている。個々の銘柄別に、船積地域別、仕向地別に発表されるので、輸出市場や現物市場の動きを把握

するのに不可欠な資料である。足元の輸出量、積み込み占有度を図る指標として利用される。

7. 週間天候及び作柄報告(Weekly Weather and Crop Bulletin、WWCB)

発表機関:米国商務省、農務省、米国海洋大気庁

URL: http://www.usda.gov/oce/weather/pubs/Weekly/Wwcb/

発表頻度:毎週

発表日 :毎週火曜日

天候推移と土壌水分などの生育環境に関する全米各州の詳細が「週間天候及び作柄報告」として毎週火曜日に公

表される。世界各地の天候推移が含まれるほか、月次での総括報告もある。

USDA から需給統計の数字が公表されると、それらを見た市場の参加者が穀物需給の方向性をつかむことで穀物相

場は動き出す。しかし、実際にとうもろこし価格や大豆価格を大きく動かすドライバーとなっているのはUSDAの発表数字

そのものよりも、「USDA発表数値に対する事前予想とUSDAが発表した数値の乖離」、即ち「予想と実際の乖離」とい

える。

特に、世界需給予測(期末在庫等)、全米穀物在庫、作付意向面積、最終確定面積等の重要情報については、

USDAの発表の数日前に、Informa社などの民間調査会社や投資銀行、穀物商社系商品取引会社等のアナリスト

が独自の調査に基づき事前予想を行い、ロイターやブルームバーグなどの通信社がそれらのアナリスト予測を集計したもの

を公表している。また、 2014 年 11 月からは、日本においても商品先物取引業者各社の農産物アナリストによって構

成される「農産物アナリストの会」が同様の事前予想を開始し、日本商品先物振興協会のホームページにおいて公表し

ている。

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図 30:ブルームバーグにおけるアナリスト事前予想

図 31:「農産物アナリストの会」による事前予想:日本商品先物振興協会 HP

https://www.jcfia.gr.jp/shouhin/agri_forecast/

このような事前予想を通じて相場のコンセンサスが形成されるが、事前予想とUSDAの発表数字に大きな乖離が見ら

れる場合、CBOT や TOCOM で大きな価格変動が発生する可能性がある。したがって、全米穀物在庫の発表日(年

4回、1月中旬、3月末、6月末、9月末)、作付意向面積の発表日(年1回、3月末)、最終確定面積の発表

日(年1回、6月末)、世界需給予測の発表日(毎月 10 日頃)などは普段よりも価格が大きく動く可能性が高

い。

全米穀物在庫は年 4 回発表されるが、1 月の発表日は世界需給予測、3 月の発表日は作付意向面積、6 月の

発表日は最終確定面積の発表日とも重なることもあって、過去の例を見ても大きな価格変動が見られる傾向がある。

下表は、全米穀物在庫発表日における CBOT と TOCOM のとうもろこしの価格変動(前日比)を示したものだか、

2011年 1月から 2016年 9月の 20回の発表のうち、CBOTのとうもろこしでは中心限月である期近限月において 4

回、一日の価格の上下限値に価格が張り付いたまま取引が終了しており、TOCOM においても、中心限月である期先

限月では 1000円を超える価格変動が 2回発生している。

また、3月と6月の全米穀物在庫発表については他にも注意すべき点がある。全米穀物在庫は、前年の秋に収穫さ

れたとうもろこしや大豆、即ち旧穀がどのように消費されて残っているかを表しているため、期近限月の価格に大きな影響

を与える。一方、同時に発表される作付意向面積(3 月)や最終確定面積(6 月)は、まだ収穫されていない新穀

限月(とうもろこし:CBOT12月限、TOCOM1月限、大豆:CBOT11月限、TOCOM12月限)の価格に影響を

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与える。もちろん、新穀限月の価格も足元の在庫の影響を受けるものの、2012 年6月のとうもろこしのように、時として、

期近限月は足元の需給逼迫を反映して値上がりしているにもかかわらず、新穀限月は作付面積の増加(将来の供給

増加)が嫌気されて値下がりすることもある。

表 32 全米穀物在庫の発表日と価格変動(とうもろこし)

表 33 作付意向面積の発表日と価格変動(とうもろこし)

乖離 期近 新穀(12月限) 期近 期先

(実績-予想) (前日比) (前日比) (前日比) (前日比)

2011年12月1日分 2012/1/12 9,642 9,439 203 2012/1/12 -40.00 -21.50 2012/1/13 850 -640

2012年3月1日分 2012/3/30 6,023 6,164 -141 2012/3/30 40.00 16.00 2012/4/2 1,060 560

2012年6月1日分 2012/6/29 3,148 3,168 -20 2012/6/29 20.50 2.50 2012/7/2 420 370

2012年9月1日分 2012/9/28 989 1,145 -156 2012/9/28 40.00 21.75 2012/1/1 2,000 1,240

2012年12月1日分 2013/1/11 8,033 8,219 -186 2013/1/11 10.00 -7.00 2013/1/15 1,000 210

2013年3月1日分 2013/3/28 5,400 4,995 405 2013/3/28 -40.00 -32.50 2013/3/29 -1,980 -1,270

2013年6月1日分 2013/6/28 2,766 2,862 -96 2013/6/28 12.00 -27.50 2013/7/1 -950 -940

2013年9月1日分 2013/9/30 821 694 127 2013/9/30 -12.50 -11.25 2013/10/1 -270 -250

2013年12月1日分 2014/1/10 10,426 10,764 -338 2014/1/10 20.75 17.00 2014/1/14 150 340

2014年3月1日分 2014/3/31 7,006 7,098 -92 2014/3/31 10.00 11.00 2014/4/1 980 630

2014年6月1日分 2014/6/30 3,854 3,723 131 2014/6/30 -18.75 -22.00 2014/7/1 -1,010 -920

2014年9月1日分 2014/9/30 1,236 1,191 45 2014/9/30 -5.00 -4.00 2014/10/1 -290 -280

2014年12月1日分 2015/1/12 11,203 11,138 65 2015/1/12 1.75 4.50 2015/1/13 0 490

2015年3月1日分 2015/3/31 7,745 7,609 136 2015/3/31 -18.25 -17.50 2015/4/1 -1,000 -770

2015年6月1日分 2015/6/30 4,447 4,557 -110 2015/6/30 30.75 29.25 2015/7/1 1,150 950

2015年9月1日分 2015/9/30 1,731 1,739 -8 2015/9/30 -1.25 1.25 2015/10/1 1,230 -40

2015年12月1日分 2016/1/12 11,212 11,246 -34 2016/1/12 5.00 4.25 2016/1/13 0 250

2016年3月1日分 2016/3/31 7,808 7,798 10 2016/3/31 -15.50 -15.25 2016/4/1 -1,040 -570

2016年6月1日分 2016/6/30 4,722 4,520 202 2016/6/30 -14.00 -11.75 2016/7/1 -250 -150

2016年9月1日分 2016/9/30 1,738 1,754 -16 2016/9/30 7.50 7.50 2016/10/3 690 320

世界需給報告も同時に発表

作付意向面積も同時に発表

最終確定面積も同時に発表

TOCOMとうもろこし(前日比、円/t)

取引日

全米穀物在庫(とうもろこし、百万bu)

発表日(現地) USDA発表値 事前予想平均

CBOTとうもろこし(セント/bu)

取引日

乖離 期近 新穀(12月限) 期近 期先

(実績-予想) (前日比) (前日比) (前日比) (前日比)

2012年3月1日分 2012/3/30 95,864 94,673 1,191 2012/3/30 40.00 16.00 2012/4/2 1,060 560

2013年3月1日分 2013/3/28 97,282 97,339 -57 2013/3/28 -40.00 -32.50 2013/3/29 -1,980 -1,270

2014年3月1日分 2014/3/31 91,691 93,000 -1,309 2014/3/31 10.00 11.00 2014/4/1 980 630

2015年3月1日分 2015/3/31 89,199 88,834 365 2015/3/31 -18.25 -17.50 2015/4/1 -1,000 -770

2016年3月1日分 2016/3/31 93,601 89,997 3,604 2016/3/31 -15.50 -15.25 2016/4/1 -1,040 -570

取引日 取引日発表日(現地) USDA発表値

作付意向面積(とうもろこし、百万エーカー) CBOTとうもろこし(セント/bu) TOCOMとうもろこし(前日比、円/t)

事前予想平均

Page 71: 農産物取引の基礎知識...4 もあって、緑線に沿う形で波打つように変化しながら増加していることに注意する必要がある。この緑線と赤線の差である

71

表 34 最終確定面積の発表日と価格変動(とうもろこし)

表 35 全米穀物在庫の発表日と価格変動(大豆)

乖離 期近 新穀(12月限) 期近 期先

(実績-予想) (前日比) (前日比) (前日比) (前日比)

2012年6月1日分 2012/6/29 96,405 95,878 527 2012/6/29 20.50 2.50 2012/7/2 420 370

2013年6月1日分 2013/6/28 97,379 95,431 1,948 2013/6/28 12.00 -27.50 2013/7/1 -950 -940

2014年6月1日分 2014/6/30 91,641 91,709 -68 2014/6/30 -18.75 -22.00 2014/7/1 -1,010 -920

2015年6月1日分 2015/6/30 88,897 89,136 -239 2015/6/30 30.75 29.25 2015/7/1 1,150 950

2016年6月1日分 2016/6/30 94,148 92,781 1,367 2016/6/30 -14.00 -11.75 2016/7/1 -250 -150

最終確定面積(とうもろこし、百万エーカー) CBOTとうもろこし(セント/bu) TOCOMとうもろこし(前日比、円/t)

発表日(現地) USDA発表値 事前予想平均 取引日 取引日

乖離 期近 新穀(11月限) 期近 期先

(実績-予想) (前日比) (前日比) (前日比) (前日比)

2011年12月1日分 2012/1/12 2,366 2,319 47 2012/1/12 -19.00 -16.00 2012/1/13 -500 -380

2012年3月1日分 2012/3/30 1,372 1,375 -3 2012/3/30 47.50 53.25 2012/4/2 700 1,680

2012年6月1日分 2012/6/29 667 635 32 2012/6/29 46.75 24.25 2012/7/2 650 760

2012年9月1日分 2012/9/28 169 130 39 2012/9/28 30.25 30.25 2012/1/1 2,990 670

2012年12月1日分 2013/1/11 1,966 1,981 -15 2013/1/11 7.25 -15.75 2013/1/15 -1,190 710

2013年3月1日分 2013/3/28 999 948 51 2013/3/28 -49.00 -26.75 2013/3/29 -160 -600

2013年6月1日分 2013/6/28 435 448 -13 2013/6/28 16.00 -23.25 2013/7/1 -50 0

2013年9月1日分 2013/9/30 141 127 14 2013/9/30 -37.00 -37.00 2013/10/1 -1,800 -420

2013年12月1日分 2014/1/10 2,148 2,158 -10 2014/1/10 7.50 -1.25 2014/1/14 1,530 -300

2014年3月1日分 2014/3/31 992 987 5 2014/3/31 27.50 -3.25 2014/4/1 -1,490 660

2014年6月1日分 2014/6/30 405 382 23 2014/6/30 -31.50 -70.75 2014/7/1 -400 -1,560

2014年9月1日分 2014/9/30 92 131 -39 2014/9/30 -10.25 -10.25 2014/10/1 -3,580 -630

2014年12月1日分 2015/1/12 2,524 2,599 -75 2015/1/12 -38.00 -25.75 2015/1/13 1,650 -90

2015年3月1日分 2015/3/31 1,334 1,348 -14 2015/3/31 5.50 6.00 2015/4/1 -10 310

2015年6月1日分 2015/6/30 625 679 -54 2015/6/30 -12.25 57.25 2015/7/1 870 1,290

2015年9月1日分 2015/9/30 191 208 -17 2015/9/30 7.75 6.00 2015/10/1 -600 860

2015年12月1日分 2016/1/12 2,715 2,742 -27 2016/1/12 9.75 12.50 2016/1/13 1,740 450

2016年3月1日分 2016/3/31 1,531 1,557 -26 2016/3/31 1.75 1.75 2016/4/1 -400 60

2016年6月1日分 2016/6/30 870 831 39 2016/6/30 30.50 40.75 2016/7/1 -400 240

2016年9月1日分 2016/9/30 197 200 -3 2016/9/30 3.75 3.75 2016/10/3 1,480 220

世界需給報告も同時に発表

作付意向面積も同時に発表

最終確定面積も同時に発表

全米穀物在庫(大豆、百万bu) CBOT大豆(セント/bu) TOCOM一般大豆(前日比、円/t)

発表日(現地) USDA発表値 事前予想平均 取引日 取引日

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72

表 36 作付意向面積の発表日と価格変動(大豆)

表 37 最終確定面積の発表日と価格変動(大豆)

世界需給予測は、原則として毎月 10日に発表されるが、それに先立ち、ブルームバーグやロイター、「農産物アナリス

トの会」などから、それぞれの穀物年度ごとの「期末在庫」に関する事前予想が発表される。なお、「期末在庫」を予想す

るに当たっては、供給面(作付面積、単収、期初在庫等)及び需要面の各項目を分析する必要がある。

このような事前予想と USDA の実際の発表数字に乖離があった場合、相場が大きく動くことがある。例えば、下の表

は2016年8月12日に発表された大豆の世界需給予測であるが、2016/2017産(新穀)の期末在庫予測量は、

単収の増加に伴う生産量の増加が、圧搾量や輸出量の需要の増加を上回ったことにより、7月発表値(290百万bu)

に比べて 8月発表値(330百万 bu)は大幅に増加(+40百万 bu)した。

一方、事前予想は、ブルームバーグが 321 百万 bu、ロイターが 316 百万 bu、農産物アナリストの会が 306 百万

bu といずれも 7月発表値比で上方修正を予想していたが、USDAによる期末在庫量の発表値は、それら予想をさらに

上回る増加であったことから、大きなサプライズとなって CBOT で前日比約 19 セントと大幅な価格下落となった。

TOCOM においては、2016年 8月 15日が納会日であり、受渡し前のポジションが確定していたことから、期近では取

引がなく、値動きもなかったが、期先においては、ドル/円の為替が 1 円程度、円高に急騰した影響に伴い、値段が下が

ったところを安値で買われたことなどにより、CBOTの下落の値動きに反して、350円の上昇となった。CBOT と TOCOM

では時差があるため、急激な為替変動や予想外の経済指標によっては、異なる値動きが生じることにも注意が必要とな

る。

乖離 期近 新穀(11月限) 期近 期先

(実績-予想) (前日比) (前日比) (前日比) (前日比)

2012年3月1日分 2012/3/30 73,902 75,414 -1,512 2012/3/30 47.50 53.25 2012/4/2 700 1,680

2013年3月1日分 2013/3/28 77,126 78,351 -1,225 2013/3/28 -49.00 -26.75 2013/3/29 -160 -600

2014年3月1日分 2014/3/31 81,493 81,162 331 2014/3/31 27.50 -3.25 2014/4/1 -1,490 660

2015年3月1日分 2015/3/31 84,635 85,949 -1,314 2015/3/31 5.50 6.00 2015/4/1 -10 310

2016年3月1日分 2016/3/31 82,236 83,070 -834 2016/3/31 1.75 1.75 2016/4/1 -400 60

作付意向面積(大豆、百万エーカー) CBOT大豆(セント/bu) TOCOM一般大豆(前日比、円/t)

発表日(現地) USDA発表値 事前予想平均 取引日 取引日

乖離 期近 新穀(11月限) 期近 期先

(実績-予想) (前日比) (前日比) (前日比) (前日比)

2012年6月1日分 2012/6/29 76,080 75,377 703 2012/6/29 46.75 24.25 2012/7/2 650 760

2013年6月1日分 2013/6/28 77,728 75,377 2,351 2013/6/28 16.00 -23.25 2013/7/1 -50 0

2014年6月1日分 2014/6/30 84,839 82,213 2,626 2014/6/30 -31.50 -70.75 2014/7/1 -400 -1,560

2015年6月1日分 2015/6/30 85,139 85,332 -193 2015/6/30 -12.25 57.25 2015/7/1 870 1,290

2016年6月1日分 2016/6/30 83,688 83,946 -258 2016/6/30 30.50 40.75 2016/7/1 -400 240

最終確定面積(大豆、百万エーカー) CBOT大豆(セント/bu) TOCOM一般大豆(前日比、円/t)

発表日(現地) USDA発表値 事前予想平均 取引日 取引日

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表 38 世界需給予測における「期末在庫」の事前予想と発表後の価格変動

※8 月は、単収がそれまでの机上計算モデルによる予想値から実地調査に基づく調査結果の数値に変更されるため、

上記のように大幅に生産量や期末在庫量が変わることがある。

期近 新穀(11月限) 期近 期先

(前日比) (前日比) (前日比) (前日比)

ブルームバーグ 321

ロイター 290 316 330 2016/8/12 -19.00 -2.25 2016/8/15 0 350

農産物アナリストの会 306

CBOT大豆(セント/bu) TOCOM一般大豆(円/t)

取引日 取引日

USDA

7月発表値

事前予想

(平均)

USDA

8月発表値

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第 2項 米国商品先物取引委員会(CFTC)建玉明細報告と価格変動

1. CFTC建玉明細報告(Commitments of Traders report)

( http://www.cftc.gov/marketreports/commitmentsoftraders/index.htm )

発表機関:米国商品先物取引委員会(U.S. Commodity Futures Trading Commission、CFTC)

発表時期:毎週金曜日

商品価格は需給バランスに大きな影響を受けるが、短期的には需給要因以外の内部要因で動くことがある。その際に

注目されるのが、米国商品先物取引委員会(CFTC)が発表する「Commitments of Traders(COT、建玉明

細報告)」である。

米国では、取引参加者が先物あるいはオプションの少なくとも 1 限月において CFTC が規定する建玉報告枚数(とう

もろこし:250 枚、大豆:150 枚、粗糖:500 枚)以上の大口建玉を保有している場合は、その取引参加者が保

有している当該商品についての全建玉枚数を日々の取引終了時に CFTC に報告することになっている。

CFTC では、この大口建玉報告について、火曜日時点の報告内容を集計して COT として週 1 回(原則金曜日)

公表している。

なお、農産物については、現在3種類の COT が公表されている。

(1)伝統的な COT(Legacy Report)

従来から公表されている COT。「非当業者(Non-Commercial)」「当業者(Commercial)」、「報告不要者

(Nonreportable Postions)」の 3 つのカテゴリーに分類されている。

(2)COT補足版(COT-Supplemental Report、CIT Report)

2007 年 1 月 5 日以降、商品インデックスファンドの実態を把握する目的で、とうもろこしや大豆などの農産物 12 商

品について公表しているもの。伝統的な COT の項目において、「当業者」に分類されていた「インデックストレーダー

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(Index Trader)」を除いて別分類にしている。

分類項目 説明

非当業者 当業者、インデックストレーダー以外の大口投機家

当業者 農産物、畜産物の生産、加工、販売を行う現物業者、金融機関など保有する現

物のためのヘッジを行っている者

インデックストレーダー

商品ファンド、年金基金、商品指数連動型の長期的運用を行う機関投資家、

OTC 商品インデックスなどにおいて、年金基金などの買いに対して売りポジションを持

ち、そのヘッジのために先物市場で買いポジションを保有するスワップディーラー(ただ

し、商品インデックス取引を主に行っていないトレーダーは含まれない)

報告不要者 報告を要しない者

(3)COT非集計版(Disaggregated COT)

2009 年 9 月 4日以降、商品先物市場の透明性向上を目的とし、伝統的な COT の「当業者」から「スワップディー

ラー」を除いて別分類にしている。「生産者/販売業者/加工業者/ユーザー」、「スワップディーラー」、「マネージドマネー」、

「その他の報告者」、「報告不要者」の 5 つのカテゴリーに分類されている。

分類項目 説明

生産者/販売業者/加工業者

/ユーザー

主な業として、現物の生産、加工、梱包、流通に従事し、これらの事業活動に付随

するリスクを先物市場でヘッジまたは管理する者

スワップディーラー

コモディティ・スワップ取引に従事し、そのスワップ取引に付随するリスクを先物市場で

ヘッジまたは管理する者。スワップディーラーのカウンターパーティーは、ヘッジファンドの

ような投機家や現物取引から生じるリスクを管理する当業者などがある。

マネージドマネー 登録されたCTA、CPO、またはCFTCが確認している未登録ファンド。これらのトレー

ダーは、顧客の代理として組織的に先物取引の実行及び管理をしている。

その他の報告者 上記の 3 つの分類に属さない報告者

報告不要者 報告を要しない者

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2. CFTC建玉明細報告と価格変動

COTはトレーダーが注視している指標の一つであり、従来の「伝統的な COT」では、非当業者(Non-Commercial)

の建玉動向が注目されていた。非当業者は現物の受渡しがなく、いずれ手仕舞われることになるため、非当業者の「買

い越し(ネットロング)ポジション」が過剰になると相場が天井を示して下落に転じ、「売り越し(ネットショート)ポジショ

ン」が過剰になると相場が底を打って上昇に転じる可能性が高いと見られていた。

その後、インデックスファンドの市場に与える影響力が重視されるようになると、「COT 補足版」の中のインデックスファン

ドの建玉動向が注視されるようになった。

現在では、最も情報量が多い「COT 非集計版」を利用するトレーダーが多く、各分類項目における買建玉及び売建

玉の状況を確認している。なかでも、各分類項目のネット建玉(買い建玉-売り建玉)のうち、プロのトレーダーである

「マネージドマネー」のネット建玉動向は、相場の先行きを占う材料としてよく用いられている。

図 32 COT非集計版におけるマネージドマネーのネット建玉と CBOT とうもろこし価格

0

100

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2012/1

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/3

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2013/7

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2014/4

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2015/4

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2015/1

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/3

2016/1

0/3

単位:セント/bu 単位:千枚 CFTC建玉明細 (各分類のネット建玉と価格)

生産・販売・加工業者、ユーザー(ネット建玉)

スワップディーラー(ネット建玉)

マネージドマネー(ネット建玉)

CBOTとうもろこし

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図 33 COT非集計版におけるマネージドマネーのネット建玉と CBOT大豆価格

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(1000)

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2013/1

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2014/4

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2014/1

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2015/4

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/3

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2016/1

/3

2016/4

/3

2016/7

/3

2016/1

0/3

単位:セント/bu 単位:千枚 CFTC建玉明細 (各分類のネット建玉と価格)

生産・販売・加工業者、ユーザー(ネット建玉)

スワップディーラー(ネット建玉)

マネージドマネー(ネット建玉)

CBOT大豆

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第 4節 穀物流通と穀物取引

第 1項 アメリカの穀物流通

1. アメリカの穀物流通

アメリカの農家は、収穫された穀物を近隣のカントリー・エレベーター(産地倉庫)に販売する。買い付けられた穀物は、

その後集散地にあるターミナル・エレベーターやリバー・エレベーターを経て、輸出港にあるエクスポート・エレベーターに運び

込まれて本船に積み込まれる。

穀物の輸送手段として、農場から近隣のカントリー・エレベーター、穀物加工工場、フィードロットなどへの短距離輸送に

は大型トラックなどが用いられる。一方、ターミナル・エレベーターやリバー・エレベーターからエクスポート・エレベーターなどへ

の長距離輸送には主に貨車とバージ(艀)が利用されている。

ミシシッピー河口の大穀物輸出基地であるルイジアナ州ニューオーリンズへはミシシッピー川の水運を利用して穀物をバ

ージ単位にまとめて運搬している。アメリカの西部太平洋岸のポートランド、カラマ、タコマ、シアトルにも穀物の輸出基地

があり、大量の穀物が日本、韓国、台湾、中国などへ積み出されている。この場合、穀物はユニット・トレイン(1 貨車

100 トン、110両編成)と呼ばれる列車で中西部の穀倉地帯からロッキー山脈を越えて太平洋岸まで運ばれていく。

穀物の輸送は「規模の利益」を得ることが容易なので、輸送量が大量になればトン当たりの輸送コストはそれだけ安上

がりになる。

2. 海上輸送

ミシシッピー川の河口に位置するニューオーリンズのエクスポート・エレベーターで本船(穀物の海上輸送のほとんどは、

パナマックス型と呼ばれる5万5000トン級の本船とハンディマックスと呼ばれる4万8000トン級の本船が利用される)

に積み込まれた穀物は、メキシコ湾を南下してパナマ運河を通り、太平洋を横断して日本へ到着する。ニューオーリンズ

から日本までの航海日数は約 33日である。

アメリカ西部太平洋岸のポートランドを出航した大型船もベーリング海を渡り、アリューシャン列島沿いを南下して日本

へ到着する。ポートランドから日本までの航海日数は約 17日である。

ブラジルのサントス港で船積みされたとうもろこしは、大西洋を横切って東へ進み、喜望峰を回ってインド洋に入る。イン

ド洋を横断してマラッカ海峡を通過し、南シナ海を北上して日本へ到着する。航海日数は 42日程度である。

アルゼンチンのブエノスアイレス港でとうもろこしを積み込んだ本船は、多くはブラジル大豆と同じ航路を通って日本へ到

着する。しかし、たまにマゼラン海峡を抜けて太平洋へ入り、太平洋を北上して日本へ到着することもある。その場合の航

海日数は 45日程度である。

日本から南米までは距離が遠いため、海上運賃が値上がりすると価格競争力が失われやすいという問題点がある。

3. 海上運賃

日本向けの穀物の海上輸送の主力はパナマックス型の本船である。この型の本船の運賃は 2014年 10月には、ニュ

ーオーリンズ・日本間がトン当たり 46 ドルになっている。(ロングトンも用いられることがある。1 ロングトン=2240ポンド、

1 ロングトン=1.016 メトリックトン)

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海上運賃は 2002年くらいまではおおむね 20 ドルから 24 ドルくらいの範囲であったが、中国の鉄鋼生産が急増による

原料の鉄鉱石と石炭輸入の急増により、船腹需給がタイトになり、2003年春に 30ドルを超えてから急速に値上がりし

始め 2007年 10月には135ドルと史上空前の値上がりを記録した。その後は、リーマンショックに伴う世界的な景気後

退による需要不振と船腹の供給過剰から値下がりした。

4. 穀物輸出の担い手

アメリカと世界の穀物輸出の担い手は穀物メジャーと呼ばれる大手穀物商社である。大手穀物商社は年間を通じて

農家から穀物を集荷、輸送し、価格競争力のある価格で世界市場へ供給している。世界の穀物取引は大手穀物商

社による寡占化が進んでいる。代表的な大手穀物商社にはカーギル、ADM、バンゲ、ルイ・ドレファスなどがある。大手穀

物商社は全米に穀物集荷網を張り巡らしている。その集荷網を通して穀物を集荷し、輸送し、販売し、輸出に回してい

る。大手穀物商社は世界中に販売拠点を持っており、これらの拠点を通して穀物を輸出している。なお、日本への輸送

については、総合商社や全農によって行われている。

大手穀物商社は穀物事業のほか、穀物加工事業や畜産業へ進出して経営の多角化を推し進めており、現在ではカ

ーギル、ADM、バンゲなどは世界的な搾油業者に成長している。なお、カーギルは全米屈指の製粉・畜産業者であり、

ADMは全米最大のエタノール製造業者でもある。

大手穀物商社は、1990 年代以降、大豆生産量が急拡大している南米に積極的な投資を開始した。輸出エレベー

ターを買収したり、建設したりしているだけではなく、生産地で集荷網を拡張し、地元企業と戦略的同盟を結ぶなどして

大豆の供給力を飛躍的に高めている。2000 年代以降、中国が世界最大の大豆輸入国になり、南米は中国向け大

豆の供給基地になっている。

なお、日本の総合商社も、アメリカの穀物商社の買収を行ったり、南米で穀物集荷網を拡大するなど存在感を高めて

いる。

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第 2項 穀物取引の実際

1. ベーシス価格とフラット価格

穀物取引ではある地点における現物価格を表現する方法が二つある。一つはフラット価格で現物価格を「$3.50/bu

(ブッシェル)」のように絶対価格で表現する方法であり、もう一つはベーシス価格で現物価格を「CBOT とうもろこし先

物3月限価格($3.00/bu)より$0.50/buオーバー」のように「基準となる先物価格±α」として先物価格との価格差

で表現する方法である。

この現物価格と先物価格の価格差であるαはベーシスと呼ばれており、品質格差(等級格差等)、空間的格差(あ

る場所から先物市場で指定された受渡場所までの輸送コスト)、時間的格差(現在から先物市場で指定された受渡

日までに要する保管料及び金融費用)などが織り込まれている.米国では,各地のフラット価格、ベーシス価格、ベー

シスなどの情報が USDAや大学などから発表されており、農業関係者は経営判断の材料に利用している。

2. 穀物取引と価格決定

米国の穀物取引において、集荷流通部門は厳しい集荷競争と価格リスクに晒されているため、農協や穀物商社など

の集荷流通業者は農産物先物市場を積極的に利用して価格リスクをヘッジするとともに、常に一定のマージンが確保で

きるように価格決定についても先物部分とベーシス部分を意識したオペレーションを行っている.

(1)フラット価格での集荷及び販売の例

生産地の集荷流通業者は、農家から穀物を確定価格で買い付けると直ちに買い付けた穀物に等しい量の先物を売

って値下がりリスクをヘッジする。このヘッジ行為はフラット価格を先物部分とベーシス部分に分解されたベーシス価格に変

換することにもなる。なお、このような生産地でのベーシスのことを「生産地ベーシス」と呼ぶ.

集荷流通業者が買い付けた穀物を顧客である加工業者にフラット価格で販売する場合も、その時点の先物価格と

販売先への輸送コストや販売マージンを加味した「販売ベーシス」を念頭に価格決定を行う。そして,実際に販売した時

に、買い付け時に売りヘッジしていた先物売りポジションを買い戻してヘッジを解除する。このようなオペレーションによる集

荷流通業者の利益は,販売時のフラット価格と買い付け時のフラット価格の差額に先物取引の損益を加えた額となる

が,これは「販売ベーシス」と「生産地ベーシス」の差額に等しくなる.

現物価格(フラット価格)-先物価格=ベーシス

現物価格(フラット価格)=先物価格+ベーシス

現物価格(フラット価格):$3.50/bu

ベーシス:$0.50/bu

ベーシス価格:CBOT とうもろこし先物 3月限価格よりも$0.50/bu上

($0.50/bu over CBOT March Corn futures)

先物価格:CBOT とうもろこし先物 3月限価格($3.00/bu)

分解

Page 81: 農産物取引の基礎知識...4 もあって、緑線に沿う形で波打つように変化しながら増加していることに注意する必要がある。この緑線と赤線の差である

81

表 39.集荷流通業者の確定価格による集荷及び販売の例

農家 集荷流通業者 加工業者

現物 現物 先物 ベーシス 現物

11/15 売:$3.15/bu 買:$3.15/bu

売:$3.35/bu 生:-$0.20/bu

11/25 売:$3.05/bu 買:$3.05/bu

買:$3.00/bu 販:+$0.05/bu

損益 損:-$0.10/bu 益:+$0.35/bu 計:+$0.25/bu

(2)ベーシス契約での集荷及び販売の例

集荷流通業者は,買い付け先である農家と販売先である加工業者の双方とベーシス契約を締結してベーシス取引

を行うこともできる。

例えば、11月 1日に集荷流通業者は農家と加工業者の双方との間で「11月中に CBOT とうもろこし先物 12月

限を用いて指値するベーシス契約」を締結し,それぞれ生産地ベーシス(-$0.20/bu)と販売ベーシス(+

$0.05/bu)を決定したとする.11月15日になって先に加工業者の方からその時点の先物価格である$3.00/buで

指値するよう指示があり、「販売ベーシス」を加えた$3.05/bu で販売価格を確定した。同時に、集荷流通業者は農家

から買い付ける価格が将来値上がりするリスクに備えて「買いヘッジ」を行い先物買いポジションを持った。その後、11 月

25 日になって先物価格が$3.35/bu に値上がりしたので農家から指値の指示があり,「生産地ベーシス」を加えた

$3.15/buで買い付け価格を確定すると同時に先物の買いポジションを転売してヘッジを解除した。この場合、買い付け

価格よりも販売価格の方が安くなるが、先物取引の利益を加えることでトータルでは$0.35/bu、すなわち「販売ベーシ

ス」と「生産地ベーシス」の差額を利益として手に入れることができる。つまり、ベーシス取引を締結し、販売ベーシスが生

産地ベーシスを上回っている限り、その後の先物価格がどのように変化しようとも(従って実際の買い付け価格や販売価

格がどうなろうと)必ず利益を確保することができる。

表 40.集荷流通業者のベーシス価格による集荷及び販売の例

農家 集荷流通業者 加工業者

現物 現物 先物 ベーシス 現物

11/1 販:+$0.05/bu

生:-$0.20/bu

11/15 買:$3.00/bu ←値決め指示

売:$3.05/bu 買:$3.05

11/25 値決め指示→ 売:$3.35/bu

売:$3.15/bu 買:$3.15/bu

損益 損:-$0.10/bu 益:+$0.35/bu 計:+$0.25/bu

このように,米国の農産物流通において一般的であるベーシス取引は,全ての取引当事者が基礎となる先物部分と

取引条件によって異なるベーシス部分に価格を分解することによって明快な価格決定を可能にしており,価格決定の時

期を取引先に自由に選択させるオプションを与える便宜を図りながらも,価格リスクは先物市場でヘッジして価格動向に

関係なく「販売ベーシス」と「生産地ベーシス」の差額を利益として確保できるという利点がある。

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第 2章 小豆の基礎知識

第 1節 小豆の商品特性

1. 小豆の概要

小豆は「アズキ」または「ショウズ」と呼ばれ、縄文時代の遺跡からも種子が発見されるなど古くから食用に供されてきた。

また、大豆と同様に「古事記」に出てくる「五穀」の一つとして、日本人の生活と密接に結びついており、小豆の赤い色に

は神秘的な力が宿ると信じられていたことにより、伝統的に神事に供され、邪気を払う厄除け・魔除けに用いられてきた。

小豆は餡子の原料というイメージが強い商品であるが、一般庶民の食物として普及するようになったのは、砂糖が普及

するようになった江戸時代以降といわれている。それ以降、その独特の風味が愛され、羊羹などの和菓子の原料として用

いられている。

2. 小豆の種類及び品種

小豆は、「普通小豆」、「大納言小豆」、「その他の小豆」の3種類に分類される。それぞれの種類の特徴及び用途は

以下のとおり。

表 1 小豆の種類

種類 特徴 用途

普通小豆 市場に出回る標準品の小豆 製餡、和菓子、菓子パン、しるこ、ゆで小

豆、赤飯

大納言小豆 大粒で煮ても皮が破れにくい特徴を持つ特定の

品種群で価格的にも高級な小豆

甘納豆、粒餡の原料

その他の小豆 白小豆や黒小豆などがあるが生産量は限られ

ており市場ではほとんど出回らない

特殊な餡の原料

(出所)雑豆に関する資料、(公財)日本豆類協会

小豆は豆類の中では環境の影響を受けやすい作物であり、小豆の品種には、積算温度が一定に達すると開花が始ま

る「感温性」が高い品種と、日の長さが一定以下に短くなってから開花が始まる「(短日)感光性」の高い品種がある。

小豆は日本全国で栽培されているが、北海道や東北北部で栽培されている品種は感温性が高く、本州で栽培されて

いる品種は短日感光性が高い。

小豆は、品質、収量、天候、土質などへの適応のために品種改良が加えられてきた。普通小豆の主な品種と、その特

徴は以下のとおり。

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表 2 小豆の主な品種

品種名 特徴

サホロショウズ 早生、良質、土壌病害抵抗性なし

きたろまん 早生、耐冷性、多収、落葉病・萎凋病抵抗性あり

エリモショウズ 中生、耐冷性、多収、良質、土壌病害抵抗性なし

きたのおとめ 中生、耐冷性、良質、落葉病・萎凋病抵抗性あり

しゅまり 中生、良質、落葉病・萎凋病・茎疫病抵抗性あり

きたあすか 中生、多収、落葉病・茎疫病抵抗性あり

(出所)雑豆に関する資料、(公財)日本豆類協会

日本に輸入されている中国産小豆の出回り量は、天津小豆や東北小豆が多いが、その品種には、天津紅小豆、唐

山紅小豆、宝清紅小豆など多数存在する。

3. 小豆の生育

小豆の生育期間は 5 月下旬から 9 月下旬までの約 4 ヶ月であり、その生育過程は、「播種期」、「出芽期」、「生長

期」、「開花期」、「莢伸張期」、「成熟期」に分けられる。

図 1 小豆の生育ステージ

(出所)ホクレン農業協同組合連合会(http://www.mame.hokuren.or.jp/azuki/index01.html)

第 2節 小豆の需給

1. 小豆の需給概観

小豆の年間供給量(期首在庫、国産出回り、輸入量の合計)は、年ごとのバラツキが大きく、H18豆年度(2006

年度)から H27豆年度(2015年度)の 10年間では、11万 800 トンから 14万 400 トンの間で推移している。

供給量の内訳は、在庫が 2万 8,800 トンから 4万 9,700 トン、国内出回り量が 4万 9,500 トンから 7万 600 ト

ン、輸入量が 1万 9,100 トンから 2万 8,300 トンとなっている。消費量は H18豆年度(2006年度)から H27豆

年度(2015年度)まで 7~8万トン台で推移している。国内需要量で比較すると、小豆の市場規模は食品用大豆

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(国内需要量約 94万トン)の約 14%に相当する。

表 3 小豆需給実績(豆年度:前年 10月~9月、単位:トン)

豆年度 期初在庫 国産出回り 輸入量 供給計 消費量 輸出量 期末在庫 需要計

H18(2006) 40,300 68,500 23,400 132,200 87,600 0 44,600 132,200

H19(2007) 44,600 54,800 27,900 127,300 84,100 0 43,200 127,300

H20(2008) 43,200 58,400 27,500 129,100 84,500 0 44,600 129,100

H21(2009) 44,600 62,300 22,400 129,300 85,500 0 43,800 129,300

H22(2010) 43,800 49,500 19,100 112,400 80,500 0 31,900 112,400

H23(2011) 31,900 55,800 23,100 110,800 82,000 0 28,800 110,800

H24(2012) 28,800 57,200 25,600 111,600 80,800 0 30,800 111,600

H25(2013) 30,800 64,000 27,000 121,800 83,900 0 37,900 121,800

H26(2014) 37,900 67,500 28,300 133,700 84,000 0 49,700 133,700

H27(2015) 49,700 70,600 20,100 140,400 79,500 0 60,900 140,400

(出所)雑豆に関する資料、(公財)日本豆類協会

2. 生産

小豆は日本全国で生産されているが、北海道が約 80%のシェアを有している。

小豆の作付面積は、かつては全国で 4 万 ha、北海道で 3 万 ha を超えることもあったが、現在では全国で約 2 万

7,300ha、北海道で約 2万 1,900ha となっている。

小豆の生産量(収穫量)は、単収の変動が大きいこともあってブレも大きく、H18豆年度(2006年度)から H27

豆年度(2015 年度)では、全国で約 5万 2,800 トンから 7万 6,800 トン、北海道で約 4 万 6,500 トンから 7

万 2,100 トンとなっている。北海道の振興局別では十勝地区が最も小豆の生産量が多く、北海道全体の 3分の 2の

シェアを有している。

表 4 小豆の作付面積・単収・収穫量

作付面積(ha)、単収(kg/10a) 収穫量(トン)

全国 単収 北海道 単収 全国 北海道

北海道全体 (十勝) (上川)

H18(2006) 32,200 198 22,800 246 63,900 56,000 29,600 6,530

H19(2007) 32,700 201 23,800 244 65,600 58,100 32,104 6,799

H20(2008) 32,100 216 23,400 262 69,300 61,300 33,675 6,917

H21(2009) 31,700 167 23,500 198 52,800 46,500 27,331 4,744

H22(2010) 30,700 179 23,200 210 54,900 48,700 28,600 4,590

H23(2011) 30,600 196 23,800 227 60,000 54,000 33,200 3,730

H24(2012) 30,700 222 24,400 258 68,200 63,000 41,256 4,441

H25(2013) 32,300 211 26,200 243 68,000 63,700 41,515 4,569

H26(2014) 32,000 240 26,300 274 76,800 72,100 48,736 4,889

H27(2015) 27,300 233 21,900 272 63,700 59,500 40,943 2,763

(出所) 特定作物統計調査/農林水産省、 農林水産統計/農林水産省北海道農政事務所、麦類・豆類・

雑穀便覧/北海道庁農政部生産振興局農産振興課、雑豆に関する資料/(公財)日本豆類協会

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3. 輸入

(1)輸入制度

小豆の輸入は「関税割当制度」の下で行われている。関税割当制度とは、昭和36年度の貿易自由化に際し、国内

産業に対する急激な衝撃を緩和して、自由化を円滑に推進するための激変緩和措置として導入された制度であり、一

定の輸入数量の枠内に限り無税又は低税率(一時税率)を適用して国内の需要者に安価な輸入品の供給を確保

する一方、この枠を超える輸入分については高関税(二次税率)を適用することによって国内生産者の保護を図る仕

組みである。従って、低税率である一次税率の適用を受ける数量は、原則として、国内需要見込数量から国内生産見

込数量を控除した数量を基準として、国際市況その他を勘案して国が定めることとなっている。

小豆についての関税割当数量は、年 2回、上期分(4月~9月)と下期分(10月~3月)がそれぞれ 4月の第

一営業日と 10月の第一営業日に発表されている。

表 5 小豆の期別関税割当数量 単位:トン

年度・期 一般枠 年度・期 一般枠 一般枠合計

H17下期 11,000 H18上期 12,300 23,300

H18下期 12,900 H19上期 15,000 27,900

H19下期 13,400 H20上期 14,100 27,500

H20下期 11,400 H21上期 11,200 22,600

H21下期 10,200 H22上期 9,800 20,000

H22下期 10,800 H23上期 12,300 23,100

H23下期 13,200 H24上期 12,400 25,600

H24下期 14,400 H25上期 12,600 27,000

H25下期 14,400 H26上期 13,900 28,300

H26下期 13,300 H27上期 7,600 20,900

(出所)雑豆に関する資料、(公財)日本豆類協会

(2)小豆の輸入量及び輸入先

小豆は、関税割当制度との関係もあり、基本的に国内生産量で不足する分が輸入されており、現在、約 2 万

9,500 トンを輸入している。輸入先としては中国が最も多い。カナダ産小豆は、もともと日本から種子が持ち込まれ、五

大湖周辺のオンタリオ州で契約栽培されており、近年ではカナダからの輸入が増加している。かつては3万トンを超える輸

入量があったものの、近年は 3 万トン以下で推移しているが、このように小豆の輸入量が減少している要因としては、消

費そのものの減少のほか、「加糖餡」や「冷凍豆」など主に中国から製品輸入される競合品の存在が挙げられる。なお、

「加糖餡」はデフレを背景に安い製品が求められたこと等の理由で輸入量は増加傾向にあったが、2008 年に発生した

冷凍餃子事件による消費者の不安が高まったことなどを背景に大きく減少している。

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図 2 小豆の輸入量推移

(出所)貿易統計、財務省

表 6 加糖餡、冷凍豆輸入量

単位:トン

豆年度 H19

(2007)

H20

(2008)

H21

(2009)

H22

(2010)

H23

(2011)

H24

(2012)

H25

(2013)

H26

(2014)

H27

(2015)

加糖餡輸入量(1) 92,350 81,507 67,551 72,374 76,867 74,285 73,568 71,068 66,034

冷凍豆輸入量(2) 9,405 8,243 7,833 7,654 6,376 6,711 6,834 5,806 4,472

乾豆換算

(1)÷3+(2)÷2 35,486 31,291 26,434 27,952 28,810 28,118 27,940 26,592 24,247

(出所)貿易統計 財務省(HS コード:加糖餡(2005.51-190)、冷凍豆(2004.90-212))

(3)中国の小豆生産量・輸出量

中国は世界最大の小豆生産国・輸出国である。ここ数年の作付面積は約 15万 ha、生産量は約 25万トン、平均

単収は 170 キロ/10a、輸出量は約 5 万トンである。過去 10 年間の推移で見ると、いずれも減少傾向にあり、ピーク

時の 2002 年と比較すると、作付面積は約 50%、生産量は約 35%、輸出量は約 40%減少している。小豆の国内

市況が低迷し、収益面で他の農産物に劣ったことが農家の小豆作付け意欲を減退させたことが理由といわれている。

中国では、日本と同様に国内各地で小豆が生産されるが、主要産地は東北、華北、西北、東部で、作付面積及び

生産量が多いのは黒龍江省、内蒙古、江蘇省、陝西省及び安徽省などである。

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1,000

2,000

3,000

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6,000

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5,000

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15,000

20,000

25,000

30,000

35,000

40,000

H18

(2006)

H19

(2007)

H20

(2008)

H21

(2009)

H22

(2010)

H23

(2011)

H24

(2012)

H25

(2013)

H26

(2014)

H27

(2015)

円/30kg トン 小豆輸入数量推移

(豆年度:前年10月から9月) その他 カナダ産 中国産 中国産輸入平均価格 カナダ産輸入平均価格

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図 3 中国産小豆の作付面積、生産量、輸出量

(出所)中国雑豆研究報告、中国の雑豆需給と対外貿易、東京大学社会科学研究科

表 7 中国省別小豆生産量

2000年 2005年 2012年

地域 生産量 シェア 地域 生産量 シェア 地域 生産量 シェア

1 黒龍江省 11.9万 t 34% 黒龍江省 11.7万 t 33% 黒龍江省 8.2万 t 30%

2 吉林省 3.5万 t 10% 吉林省 6.0万 t 17% 内蒙古 4.0万 t 15%

3 江蘇省 3.2万 t 9% 内蒙古 4.3万 t 12% 江蘇省 2.2万 t 8%

4 雲南省 2.5万 t 7% 遼寧省 2.3万 t 7% 陝西省 1.7万 t 6%

5 河北省 1.8万 t 5% 江蘇省 2.1万 t 6% 安徽省 1.3万 t 5%

全国 34.5万 t 100% 全国 35.3万 t 100% 全国 27.4万 t 100%

(出所)中国雑豆研究報告、中国の雑豆需給と対外貿易、東京大学社会科学研究科

4. 流通・消費

(1)小豆の流通

国産小豆は産地で収穫後、農協や産地問屋が買い付け、豆の選別・調整を経て農産物検査法に基づく検査を受

検する。その後、東京など消費地の消費地問屋に販売され、トラックやコンテナで出荷されて消費地の倉庫に保管され

る。消費地問屋は製餡業者等の実需家に販売し、その製品が消費者の元に届けられる。

輸入小豆も、横浜港や神戸港で水揚げされ、通関後に輸入業者から消費地問屋に販売される。なお、小豆加工メ

ーカーの場合は輸入会社から直接仕入れることも多い。また、輸入業者から問屋や加工メーカーに販売される際には必

要に応じ豆の選別・調製が行われる。(参考:(公財)日本豆類協会ホームページ)

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2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012

万ha 万トン 中国産小豆の作付面積、生産量、輸出量

生産量 (内輸出量) 作付面積

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(2)消費

小豆の消費量は減少傾向にあり、近年では約 8.0万トンと、ピークであった平成 4豆年度の約 12万トンと比較する

と 3分の 2程度の規模となっている。もっとも、製品輸入される「加糖餡」や「冷凍豆」を乾豆換算(加糖餡は 3分の 1、

冷凍豆は 2分の 1)した数量を加えると約 10万トン程度を維持していると考えられる。

小豆の用途別消費は、「製餡用」が約 68.9%、「甘納豆等菓子類用」が約 12.8%、「煮豆用」が約 2.4%、「その

他」が約15.9%と推定されているが、需要の大宗を占める「製餡用」需要は製品輸入される「加糖餡」と競合している。

第 3節 小豆の価格変動要因

図 4 小豆の価格変動要因(概念図)

1. 天候要因

小豆は生産の大部分が北海道で行われているため、北海道の天気に注意する必要がある。北海道の気候について

は、気象庁札幌管区気象台が、以下のような予報を出しており参考にすることができる。

(参考:http://www.jma-net.go.jp/sapporo/)

期末在庫

北海道の:・生産量=作付面積×単収・天候・輸入(中国、カナダ等)関税割当数量(4月,10月)

・製餡 加糖餡・甘納豆等菓子類・煮豆

需要

TOCOM小豆価格 [普通小豆]

需給要因 テクニカル要因・その他

・投資家の動向

・チャート

供給

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予報種類 発表時期

暖候期予報 毎年 2月 25日

3 ヶ月予報 毎月 25日頃 14時

1 ヶ月予報 毎週木曜日 14時 30分

週間天気予報 毎日 11時と 17時の 2回

小豆の生育期間は 5月下旬から 9月下旬までの約 4 ヶ月であるが、この間が「小豆の天候相場期」といえる。

この期間で注意すべきは「気温」と「降霜」である。夏場、特に 7 月の低温と日照不足は単収の低下につながる。降霜

については、出芽期の晩霜と成熟期の早霜に注意が必要である。出芽期の晩霜は生長点を凍死させ、秋の成熟期の

早霜は小豆の成熟を止めてしまう。下表は十勝における小豆の生育過程と降霜時期を示しているが、冷害による凶作

年であった 2003年は、出芽期(6/7)と晩霜(6/7)が重なったこともあり、開花始(8/1)や成熟期(10/6)が、

当該年を含む 10 カ年平均や翌年以降と比較しても遅くなっている。

表 8 十勝における小豆の生育過程と降霜

()は平成 6~15

年の10ヵ年平均

H19

2007

H20

2008

H21

2009

H22

2010

H23

2011

H24

2012

H25

2013

H26

2014

H27

2015

播種期 (5/24) 5/24 5/28 5/22 5/21 5/24 5/23 5/24 5/23 5/26

出芽期 (6/8) 6/11 6/12 6/10 6/12 6/8 6/6 6/6 6/5 6/8

開花始 (7/25) 7/26 7/27 7/28 7/19 7/20 7/24 7/21 7/18 7/24

成熟期 (9/23) 9/20 9/23 9/27 8/31 9/13 9/13 9/13 9/12 9/21

降霜 晩霜 5/28 5/12 5/16 5/18 6/1 5/13 5/8 5/8 5/15

初霜 10/14 10/13 10/10 10/18 10/2 10/9 10/19 10/7 10/6

(出所)北海道立十勝農業試験場作況調査成績、気象庁帯広測候所、

雑豆に関する資料、(公財)日本豆類協会

2. 需給要因

(1) 国内生産量

小豆の国内生産量は作付面積と単収によって決まる。小豆の作付面積については、8 月末に北海道の作付面積、9

月中に全国の作付面積が農林水産省の「特定作物統計調査」において発表される。

(参考:http://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/tokutei_sakumotu/)

小豆の単収を判断する材料としては天候及び作況(生育状況)があるが、作況(生育状況)については、北海道

農政部が「農作物の生育状況」として、5月 15日から 10月 15日までの間、月 2回、1日と 15日の状況をそれぞ

れ 2~3営業日後に発表している。

(参考:http://www.pref.hokkaido.lg.jp/ns/gjf/seiiku/index.html)

なお収穫量について、以前は 9 月に予想収穫面積が発表されていたが、現在では、収穫年の翌年 2 月に農林水産

省の「特定作物統計調査」において発表される。

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90

図 5 小豆の生育状況

(出所)北海道庁農政部

(2) 輸入量

小豆は関税割当品目であり、低い一次税率の適用を受ける数量(関税割当数量)は、農林水産省の「関税割当公

表(数量公表)」により、上期分が 4 月 1 日、下期分が 10 月 1 日にとして発表され、その後「関税割当てを受けた

者」については、上記分は 6月、下期分は 12月に発表される。

(参考:http://www.maff.go.jp/j/kokusai/boueki/triff/index.html)

なお、実際に輸入された小豆の数量および価額は、「財務省貿易統計」で確認することができる。

(参考:http://www.customs.go.jp/toukei/srch/index.htm)

(3) 競合品の輸入量

小豆の消費の 70%弱を占める製餡需要は、中国等から輸入される「加糖餡」等と競合する。小豆製品の消費量が

一定の場合、価格的に安い加糖餡の輸入量が増加すれば小豆の消費量は減少することとなる。加糖餡の輸入量は

「財務省貿易統計」で確認することができる。

(4) 在庫

国内産小豆の収穫後は、在庫量の変動によって価格が変動する「需給相場」に入る。在庫量は、TOCOM や大阪

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堂島商品取引所が毎月1回第5営業日に公表している「小豆指定倉庫在庫」が一つの判断材料になる。これにより、

国内産小豆と中国産小豆それぞれについて、取引所の受渡場所になっている指定倉庫の在庫の動き(前月末在庫、

入庫、出庫、当月末在庫)を知ることができる。

(参考:http://www.tocom.or.jp/jp/market/reference/kurani_azuki_redbean.html)

(参考:http://ode.or.jp/yoko/zaiko.html)

図 6 小豆指定倉庫在庫

(出所)TOCOM HP

2. その他の要因

TOCOM では、標準品である国内産(北海道産)小豆以外にも、受渡供用品である中国産小豆を 6000 円

/30kg 値引きする条件で受渡しが可能である旨を格付表で定めている。したがって、小豆先物価格が仮に 12300 円

/30kg とすると、売方が中国産小豆を受渡しに供する場合には 6000円引きの 6300円/30kgで渡すことになる。国

内産小豆が不作見通しなどにより仮に15000円/30kgに値上がりしたとすると、中国産小豆も6000円引きの9000

円/kg で渡せることになるが、輸入採算との関係で、中国産小豆の価格が 9000 円/kg 以下であった場合には、先物

市場で中国産小豆を渡ししたほうが有利であるとして中国産小豆の受渡しが多く行われる。その結果、小豆先物価格

も割安な中国産小豆に引っ張られて、「中国産小豆の輸入価格+格付表で定める格差(6000 円)」に鞘寄せする

ことになる。逆に、国内産小豆が値下がりして 10000円/30kg になった場合、6000円の格差を減じると中国産小豆

を受渡しする際の価格は 4000 円/30kg になるが、この価格では輸入採算との関係で割が合わないとなると、中国産

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小豆が受渡しに供されることはなく、先物価格は国内産小豆の価格を基準に価格形成が行われることになる。

このように、小豆先物価格は、需給要因に加え、国内産小豆価格と中国産小豆の輸入価格、それに格付表で定め

た格差が勘案されて価格形成が行われるという特徴がある。

なお、平成 26年(2014年)産からは、カナダ産小豆を受渡供用品に加えており、その格差は国産に対して 5000

円の値引きとすることを格付表で定めている。

図 7 小豆現物価格と先物価格

(出所)雑豆に関する資料、(公財)日本豆類協会

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

14,000

2009年

1月

2009年

7月

2010年

1月

2010年

7月

2011年

1月

2011年

7月

2012年

1月

2012年

7月

2013年

1月

2013年

7月

2014年

1月

2014年

7月

2015年

1月

2015年

7月

単位:円/30kg

小豆現物価格と先物価格

(現物:東京仲間相場、東京深川、倉前渡し価格)

(先物:期近、月足)

現物価格

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93

第4章 取引戦略

第 1節 リスクヘッジ

企業は事業活動を継続していく上で様々なリスクを抱えている。例えば、原材料の調達や製品売却の際の価格変

動リスク、資金調達・運用のリスクなど、企業活動の側面には多様なリスクが存在する。

リスクヘッジとは、このようなリスクを回避することである。例えば価格変動リスクについては、先物市場を利用して将来の

価格変動から生じる不確定要素を排除することが可能である。リスクヘッジ機能は、先物市場における最も重要な役割

の一つである。企業はリスクヘッジを行うことにより、将来の価格変動から生じるリスクを回避し、利益の確保を図ることが

できる。また、受け入れたくないリスクを回避することにより本業に資源を集中させることもできる。

商品先物市場におけるヘッジ取引は主に、生産リスク(原材料の購入価格の変動リスク)や販売リスク(製品の販

売価格の変動リスク)を回避するために行われている。

*ヘッジ(Hedge=保険つなぎ)

第 2節 買いヘッジと売りヘッジ

現物市場と先物市場の価格連動性を利用して、双方の市場で反対の取引を行うことにより、互いの利益と損失を

相殺するのがヘッジ取引である。つまり、現物取引で損失が発生する場合には、先物取引の利益でその損失を相殺させ

るというポジションをつくる取引である。

基本的なヘッジ取引には、将来の購入のため値上がりに備える「買いヘッジ」と、将来の売却のため値下がりに備える

「売りヘッジ」の 2種類がある。

第 1項 買いヘッジ(ロング・ヘッジ=Long Hedge)

将来のある時点で原材料の購入を予定しており、今後の価格変動に係りなく現在の価格に近い価格で原材料を購

入したい場合に用いるのが買いヘッジである。

<買いヘッジの例>

飼料メーカーである A社は、12月時点において、6 ヶ月後の 6月に飼料用に用いる大豆 1,000t を購入する計画

がある。12月時点の現物価格(45,000円/t、税抜き)であり、6ヵ月後もこの値段で購入できれば利益は充分に確

保できるが、大幅に上昇すると採算が採れなくなる可能性もある。

そこで、A社は 6 ヵ月後に大豆価格が値下がりして、その分、コスト低減による収益増加が図れる可能性を犠牲にして

も、大豆の値上がりによる採算割れ(損失)を回避することが望ましいと考え、大豆先物市場で 6 ヶ月後の 6月限

(46,000円/t)の取引を利用してリスクヘッジを行うことにした。

<ケース 1>

① A社は一般大豆先物 6月限(46,000円/t)で 40枚(25t/枚×40枚=1,000t)買い建てた。

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その後、南米が天候不順で生産量が減少したことや、中国が旺盛な大豆ミール需要を背景に大量に大豆を買い付け

たことを受けて大豆需給が逼迫し、大豆現物価格は上昇して、6月の大豆現物価格は、52,000円/t(税抜き)に

値上がりした。現物価格と先物価格は連動するという前提で、大豆先物価格も 53,000円/tになり、買建玉を手仕

舞った。

② 先物取引の利益: 700万円=(53,000円/t-46,000円/t)×25t×40枚

③ 大豆の購入費用: 5,200万円=52,000円/t×1,000t

④ 先物取引とあわせた購入に係る費用: 4,500万円=5,200万円-700万円

つまり、A社は当初の計画通り、1tあたり 45,000円で大豆を仕入れることができたことになる。

<ケース 2>

反対に、南米の豊作により、6ヶ月後の大豆現物価格が42,000円/tに値下がりしたとする。現物価格と先物価格

は連動するという前提で、大豆先物価格も 43,000円/t になったとする。

② 先物取引の損失: ▲300万円=(43,000円/t-46,000円/t)×25t×40枚

③ 一方、現物の購入費用: 4,200万円=42,000円/t×1,000t

④ 先物取引とあわせた購入に係る費用: 4,500万円=4,200万円-(▲300万円)

つまり、この場合も A社は計画通リ 1tあたり 45,000円で大豆を仕入れることができた。

<ケース 1>、<ケース 2>の結果、A社はヘッジ取引により購入費用を 1tあたり 45,000円で価格を固定できたとい

うことになる。

ここで、当初の時点で A社は大豆を購入して保管しておくという選択肢よりも、先物取引を利用した方が有利である

点に注目したい。

もし、当初の時点で大豆を購入していれば、購入価格は 1t あたり 45,000円で、その他にも金利や保管費用までも

負担することになり、さらに、6 ヶ月後までその商品が不要であれば、保有することにより生じる便益(コンビニエンス・イー

ルド)の価値もないからである。

第 2項 売りヘッジ(ショート・ヘッジ=Short Hedge)

将来のある時点で商品の売却を予定しており、今後の価格変動に係りなく現在の価格で商品を売却 したい場合に

用いるのが売りヘッジである。現在保有している商品の価値が下がることに対する、価格下落リスクを避けるためにも使用

される。

<売りヘッジの例(1):価格下落リスクのヘッジ>

小豆の問屋であるB社は、製餡会社との間で、(ア)3ヶ月後に小豆24t(800袋、袋=30kg)を売却する、(イ)

価格については 3 ヵ月後の現物価格の時価とする、販売契約を結んだ。

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現在の小豆現物価格は12,500円/袋であり、この価格を基準にすれば、B社は3ヶ月後の小豆現物価格が現在よ

り 1,000円/袋上昇すれば収益が 80万円(1,000円/袋×800袋)増加し、逆 1,000円/下落すれば収益が

80万円減少することになる。

そこで、B社は値下がりによる収益の減少を回避するために、小豆先物取引を利用して、リスクヘッジを行うことにした。

<ケース 1>

① B社は小豆先物市場で 3 ヶ月後の限月(12,700円/袋)で 10枚(1枚あたり 80袋、24t)売り建てた。

3ヶ月後、B社の懸念通り小豆価格が12,000円/袋に値下がりしたとする。現物価格と先物価格は連動するという

前提で、先物価格も 12,200円/袋になったとする。

② 先物取引で得られる利益: 40万円=(12,200円/袋-12,700円/袋)×80袋×(-10枚)

③ 現物売却の収益: 960万円=12,000円/袋)×800袋

④ 先物取引とあわせた収益: 1,000万円=40万円+960万円

つまり、B社は当初の計画通り、800袋の小豆を 1袋あたり 12,500円で販売できたことになる。

<ケース 2>

反対に、小豆現物価格が3ヶ月後に13,000円/袋に値上がりしたとする。現物価格と先物価格は連動する前提で、

小豆先物価格も 13,200円/袋になったとする。

② 先物取引の損失: ▲40万円=(13,200円/袋-12,700円/袋)×80袋×(-10枚)

③ 現物売却の収益: 1,040万円=13,000円/袋×800袋

④ 先物取引とあわせた収益: 1,000万円=1,040万円+(▲40万円)

つまり、この場合も B社は 1袋あたり 12,500円/袋で小豆を売却することができたことになる。

<ケース1>、<ケース2>の結果、B社はヘッジ取引により売却価格を1袋あたり12,500円/袋で販売価格を固定

できたことになる。

今までの例でみたように、ヘッジ取引によって価格変動リスクを回避して、将来の現物取引に伴う利益を確保すること

ができるが、反対に利益増大の機会も失うことにもなる。しかし、ヘッジ取引の目的は、将来の不確実性を取り除き利益

を確保するということであるから、その目的が満たされている点を評価するべきである。

<売りヘッジの例(2)現物の売却リスクと価格下落リスクの両方をヘッジ>

C商社は、顧客である飼料メーカーD社から40,000トンのとうもろこし、搾油メーカーE社から12,000トンの大豆の

注文を受けた。C商社は、とうもろこしと大豆の合計 52,000 トンを輸入するにあたって、パナマックス(積載量約

55,000トン)の船を傭船することとなるが、傭船料は積載重量に関わらず同一料金である。C商社は、トンあたりの傭

船料を引き下げるために、取りあえず余っている 3,000 トン分のスペースを埋める目的で、販売先の決まっていない

3,000 トンの大豆も購入して一緒に輸入することとした。なお、C商社はこの合計 55,000 トンのとうもろこしと大豆につ

いては、CBOT を利用して値決めを行っており、為替についても為替予約を済ましていることとする。

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現在の大豆価格は 45,000円/t である。アメリカから日本への輸送期間は約 33日あるが、この間、販売先の決まっ

ていない 3,000 トンの大豆の買い手が見つかり、価格も現在の価格以上で売却できれば十分採算が合うが、買い手が

見つからなかったり、買い手が見つかったとしても大豆価格が下落して現在の値段を大きく下回ったりする採算が合わなく

なる。

そこで、C商社は、(ア)販売先の決まっていない3,000トンの大豆を日本に輸入した後に販売先が見つからないリス

クと、(イ)輸送期間中に大豆価格が値下がりするリスク、の 2 つのリスクを回避するために、大豆先物市場で 2 ヶ月後

の限月(46,000円/t)の取引を利用してリスクヘッジを行うことにした。

① C商社は大豆先物市場で2ヶ月後の限月(46,000円/t)を 120枚(1枚あたり 25t、3000t)

売り建てた。

日本への輸送期間中、3,000 トンのうち 1,000 トンの大豆の販売先が見つかった。しかし、大豆価格は下落してい

て44,000円/tで決まった。この結果、1,000トン分の大豆については先物市場でヘッジしておく必要が無くなったので、

40枚分の売建玉(25t/枚、1,000 トン)を手仕舞った。なお、現物価格と先物価格は連動するという前提で、先物

価格も 45,000円/tになったとする。

② 先物取引で得られる利益: 100万円=(45,000円/t-46,000円/t)×25t×(-40枚)

③ 現物売却の収益: 4,400万円=44,000円/t×1,000t

④ 先物取引とあわせた収益: 4,500万円=4,400万円 + 100万円

つまり、C商社は 1,000t分について 45,000円/tで大豆を売却したことになる。

その後、残りの 2,000 トンについては、最後まで販売先を見つけることができなかったので、日本で荷下ろしした後、大

豆先物市場で現物受渡しを行うことにした。このとき、大豆現物価格はさらに値下がりしていて 43,000円/tになってお

り、大豆先物市場の納会値段(受渡値段)も 44,000円/t になったとする。

⑤ 先物市場での値洗い差損益と受渡代金の合計; 9,200万円

・値洗い差益: 400万円=(44,000円/t-46,000円/t)×25t×(-80枚)

・受渡代金(税別): 8,800万円=44,000円/t×25t×80枚

つまり、C商社は、残りの 2,000 トンについては 46,000円/tで大豆を売却したことになる。

このように、売却先が決まっていない場合でも、先物市場で売りヘッジした後に、現物受渡しを行うことによって、価格下

落リスクだけでなく、現物の売却リスクもヘッジすることができる。

第 3項 ベーシスリスク(Basis risk)

これまで、先物市場でのヘッジ活動により、「先物の利益(+)=現物の損失(-)」あるいは「先物の損失(-)

=現物の利益(+)」が成り立つため、価格変動リスクを回避することが可能であると説明してきたが、これは、現物価

格と先物価格がヘッジ期間を通じて完全にパラレルに変動する、即ち、現物価格と先物価格の差が一定のときにのみ成

り立つことであり、実際には、そのようなことは稀で、「先物利益(+)<現物損失(-)」や「先物損失(-)>現

Page 97: 農産物取引の基礎知識...4 もあって、緑線に沿う形で波打つように変化しながら増加していることに注意する必要がある。この緑線と赤線の差である

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物利益(+)」などのような関係が生じ、必ずしもヘッジによって現物価格の価格変動リスクを 100%回避することがで

きるわけではない。

現物価格と先物価格の差は「ベーシス」と呼ばれ、このベーシスの変動により当初想定していたヘッジ効果が享受でき

なくなるリスクのことを「ベーシスリスク」という。(ただし、逆に、ベーシスの変動により想定外の利益を得ることもある。)

同一商品でありながら、現物価格と先物価格に差が生じる理由としては、先物市場は契約条件が定型化・標準化さ

れているのに対し、現物市場では契約によって契約条件が様々であることなどが挙げられる。したがって、現物価格と先

物価格の差である「ベーシス」には、

① 品質等級の価格差(例:1等と 2等の価格差)

② 荷姿等の違いによる格差(例:袋詰めとバラ積みの格差)

③ 空間的な格差(例:生産地と消費地の運賃格差)

④ 時間的な格差(例:現在と先物市場での受渡日までの期間にかかる保管料)

⑤ 地域ごとの需給要因から生じる保有便益(コンビニエンス・イールド)(例:消費地における過大な在庫等)

などが反映されており、その結果としてベーシスはプラスにもマイナスにもなる。

このような「ベーシスリスク」が存在するにもかかわらず、先物取引は有効なリスクヘッジ手段であると評価されている。そ

の理由は、価格水準の変動の大きさよりもベーシスの変動の大きさのほうがはるかに小さいからである。つまり、先物市場

でヘッジをするということは、大きな価格変動リスクを相対的に小さなベーシスリスクに置き換えることを意味している。

(1)ベーシスの強含み・弱含み

ベーシスは変動するが、「現物価格が先物価格に対して相対的に上昇するとき(=ベーシスのプラス幅が拡大するか

マイナス幅が縮小すること)」を「ベーシスが強含む」といい、逆に「現物価格が先物価格に対して相対的に下落するとき

(=ベーシスのマイナス幅が拡大するかプラス幅が縮小すること)」を「ベーシスが弱含む」という。

ベーシスの強含み・弱含み

現物価格が先物価格に対して 相対的に上昇(強含み)

現物価格が先物価格に対して 相対的に下落(弱含み)

0

100

200

-100

-200

【ベーシス】 ベーシスが強含む ベーシスが弱含む

・ ベーシスのブラス幅が拡大

・ ベーシスのマイナス幅が縮小

・ ベーシスのマイナス幅が拡大

・ ベーシスのプラス幅が縮小

ベーシス=現物価格 ― 先物価格

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(2)「ベーシス買い・ベーシス売り」とベーシスの変動による損益

「ベーシス買い(Buy basis又は Long Basis)」とは、ヘッジ活動において、新たに売りヘッジを開始したり、買いヘッ

ジを終了したりするために「現物買い・先物売り」を行うことをいう。

「ベーシス売り(Sell basis又は short basis)」とは、ヘッジ活動において、新たに買いヘッジを開始したり、売りヘッ

ジを終了したりするために「現物売り・先物買い」を行うことをいう。

「ベーシス売り」を行ったときの「売りベーシス」と、「ベーシス買い」を行ったときの「買いベーシス」の差がベーシスの変動に

よる損益になる。

(3)ベーシスとヘッジ損益

最初に「ベーシス買い」を行った売りヘッジャーにとっては、「ベーシスが強含む(現物価格が先物価格に対して相対的

に上昇)」とベーシス変動による利益が生じ、逆に「ベーシスが弱含む(現物価格が先物価格に対して相対的に下

落)」とベーシス変動により損失が生じる。

最初に「ベーシス売り」を行った買いヘッジャーにとっては、「ベーシスが弱含む」」とベーシス変動による利益が生じ、逆に

「ベーシスが強含む」とベーシス変動により損失が生じるになる。

(例:ベーシスの弱含み、売りヘッジャー)

現物 先物 ベーシス変動 ベーシス分類

6/1 (買)12,000円 (売)12,200円 ▲200円(買いベーシス) ベーシス買い

8/2 (売)11,000円 (買)11,600円 ▲600円(売りベーシス) ベーシス売り

損益 ▲1,000円 +600円 ▲400円(=▲600円-▲200円)

(売りベーシス-買いベーシス) ▲400円

(例:ベーシスの強含み、売りヘッジャー)

現物 先物 ベーシス変動 ベーシス分類

6/1 (買)12,000円 (売)12,200円 ▲200円(買いベーシス) ベーシス買い

8/2 (売)11,000円 (買)11,000円 0円(売りベーシス) ベーシス売り

損益 ▲1,000円 +1,200円 200円(=0円-▲200円)

(売りベーシス-買いベーシス) +200円

(例:ベーシスの弱含み、買いヘッジャー)

現物 先物 ベーシス変動 ベーシス分類

6/1 (売)12,000円 (買)12,200円 ▲200円(売りベーシス) ベーシス売り

8/2 (買)11,000円 (売)11,400円 ▲400円(買いベーシス) ベーシス買い

損益 1,000円 ▲800円 +200円(=▲200円-▲400円)

(売りベーシス-買いベーシス) +200円

Page 99: 農産物取引の基礎知識...4 もあって、緑線に沿う形で波打つように変化しながら増加していることに注意する必要がある。この緑線と赤線の差である

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(例:ベーシスの強含み、買いヘッジャー)

現物 先物 ベーシス変動 ベーシス分類

6/1 (売)12,000円 (買)12,200円 ▲200円(売りベーシス) ベーシス売り

8/2 (買)11,000円 (売)11,000円 0円(買いベーシス) ベーシス買い

損益 1,000円 ▲1,200円 ▲200円(=▲200円-0円)

(売りベーシス-買いベーシス) ▲200円

(4) ベーシスリスクの例

①第 1項買いヘッジの例で、飼料メーカーである A社が 12月時点の現物価格(45,000円/t、税抜き)に対して大

豆先物市場で 6 ヶ月後の 6月限(46,000円/t)を 40枚買い建てた。

その後、大豆現物価格が上昇して 6月時点では 7,000円/t値上がりして52,000円/tになったのに対し、大豆先

物価格は 6,000円/t だけ値上がりして 52,000円/tになったとする。

ベーシスは、「▲1,000円」から「0円」に強含んだため、買いヘッジャーとして最初にベーシス売りをした A社にとっては、

ベーシス変動によって損失が発生することになる。

現物 先物 ベーシス変動 ベーシス分類

12/1 (売)45,000円/t (買)46,000円/t ▲1,000円/t(売りベーシス) ベーシス売り

6/1 (買)52,000円/t (売)52,000円/t 0円/t(買いベーシス) ベーシス買い

損益 ▲7,000円/t 6,000円/t ▲1,000円/t(=▲1,000円/t-0円/t)

(売りベーシス-買いベーシス) ▲1、000円/t

② 先物取引で得られる利益: 600万円=(52,000円/t-46,000円/t)×25t×40枚

③ 大豆の購入費用: 5,200万円=52,000円/t×1,000t

④ 先物取引とあわせた購入に係る費用: 4,600万円=5,200万円-600万円

A社は当初の 12月時点の現物価格(45,000円/t)よりも条件が 1,000円が悪い 46,000円/tで大豆を仕

入れたことになる。ただし、この場合でも、ヘッジをしないで仕入価格が 52,000円/t になるリスクは回避できたことにな

る。

第 3節 ロールオーバー(ローリング・ヘッジ/スイッチ取引)

第 1項 ロールオーバーは

ヘッジャーがヘッジの期間を延長するために行う取引のことをロールオーバーあるいはローリング・ヘッジまたはスイッチ取

引とよんでいる。

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ロールオーバーは、ヘッジャーの行うヘッジ対象期間が長期間の場合、先物市場の流動性が乏しい市場や 6 ヶ月以

上先の限月の設計がない市場が多いことから、短期間の流動性の高い限月を複数回乗り換えて決済期限を繰り延べ

ることで、長期間のリスクヘッジと同じ効果を得ることを目的とする。一旦建てたある限月のヘッジ・ポジションを手仕舞いし、

目標価格確保が可能と思われる期先の限月へもう一度同様のポジションを建て直すもので、期先の限月に取引の評価

損益を繰り延べし、かつ、現物ポジションを動かさずに、先物ポジションを入れ替えるコストだけで、新しいヘッジ・ポジション

を組成することができる。

第 2項 ロールオーバーの例-小豆先物市場で買いヘッジ

小豆問屋が TOCOMの小豆先物市場を利用して、長期間の小豆の値上がりリスクをローリング・ヘッジする。

①1月限を 1枚買建てし、約定価格は 12,000円/袋であった。

②1月になり、スポット価格と同じ 12,500円/袋で手仕舞いし、同時に 2月限を 1枚買建てる。このときの約定価格

は 12,700円/袋であった。

③この時点での買いヘッジによる 1枚分の調達コストは、12,200円/袋(=12,700円/袋-(12,500円/袋-

12,000円/袋)

第 4節 裁定取引

裁定取引(アービトラージ:Arbitrage)とは、ある 2つ以上の市場価格の間に一定の関係が存在するとの仮定の

もとに、一定の関係から大きく逸脱した価格が形成されていると判断し、かつ将来的にその関係と整合的な価格水準に

収束することが予想される場合に、相対的に高いほうを売って、安いほうを買うことで利益を上げようとする取引のことであ

る。

とうもろこしや大豆市場において活発に行われる裁定取引としては、異地点間(場所の違いによる)裁定取引(ロケ

ーション・アービトラージ)、異時点間裁定取引(タイム・アービトラージ)が挙げられる。以下では、これらについて詳しく

解説する。

ロールオーバー

買い

12,700円/袋

2月限

1月限

12,000円/袋

仕切 買い

12,500円/袋

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第 1項 キャッシュ・アンド・キャリー・アービトラージ

現物市場と先物市場のミスプライスを利用する戦略。一般的には、現物の購入・保有と先物の売りを組み合わせて

行う。

(例)

輸入地の先物価格である東京とうもろこし・大豆先物価格と、輸出地の先物価格であるシカゴとうもろこし・大豆先物

価格にフレートなどのプレミアムを加えて円換算した輸入現物価格を比較して、東京とうもろこし・大豆先物価格が割高

である場合には、現物を調達して輸入現物価格を確定すると同時に東京とうもろこし・大豆先物を売ることによって無リ

スクで利益を上げる機会を得ることができる。

第 2項 ロケーション・アービトラージ(Location Arbitrage)

東京とうもろこし・大豆先物市場とシカゴとうもろこし・大豆先物市場、の価格関係に着目して、理論値に比べ、相対

的に高いほうを売り、相対的に安いほうを買い、理論水準に価格が収斂したときに反対売買をすることで利益を上げるオ

ペレーションをロケーション・アービトラージと呼ぶ。

図 1 TOCOM とうもろこしと CBOT とうもろこしのスプレッド推移

(データ)Bloomberg

第 3項 タイム・アービトラージ(Time Arbitrage)

基本的には先物価格が現物価格から計算した理論値から乖離したときに、相対的に高いほうを売って、安いほうを

買うことで、将来、理論値に収束すれば利益をあげることができる。現物と先物の値差をベーシス、あるいはサヤと呼ぶ。

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2014 2015

円/t円/t

TOCOM、CBOTとうもろこし(2015年7月限)価格比較

スプレッド(TOCOM-CBOT) CBOTとうもろこし(円換算) TOCOMとうもろこし

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この現物と先物とのベーシスに着目した裁定取引をタイム・アービトラージという。現物に対して先物が高い場合を順ザヤ

またはコンタンゴといい、逆に先物が安い場合を逆ザヤ、バックワーデーションあるいはディスカウントという。また、先物の納

会日までの期間と先物価格の関係をグラフに描いたときの曲線をフォワード・カーブといい、期間によるフォワード・カーブの

形状のことを期間構造という。

また、理論値に収束するまでの期間がどのくらいかは判断がつかないことが多く、長期にわたり理論値からの乖離が継続

し、相場の好転が見られない状況で手仕舞いしなければならないこともあるため、裁定取引といえどもある程度のリスクは

存在することは認識しておかなければならない。

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第5章 東京商品取引所のルール

第 1節 取引要綱

取引要綱には、当社で上場している商品について、品質・種類、数量、受渡し条件等が記載されている。

商品 URL

とうもろこし http://www.tocom.or.jp/jp/guide/youkou/corn.html

一般大豆 http://www.tocom.or.jp/jp/guide/youkou/soybean.html

小豆 http://www.tocom.or.jp/jp/guide/youkou/azuki_redbean.html

第 2節 建玉制限

建玉制限は、取引参加者が保有できる建玉数量の上限を売建玉又は買建玉のそれぞれについて定めている。建玉

制限の数量は、TOCOM の取引参加者の自己と委託者及び海外顧客に分けて設定している。なお、委託者及び海

外顧客は、当業者、投資信託等、マーケット・メーカー又はそれ以外の者に区分され、それぞれ建玉可能な数量が異な

っている。ただし、小豆のみ、これら区分のほか、「当業者」の区分があり別の建玉制限が設定されている。また、小豆に

ついては、取引参加者や当業者等が、既存限月の繰越しによって通常の建玉数量を超えることとなった場合の措置等

がとうもろこしや一般大豆と異なっているので注意が必要である。

参照規定 URL

農産物・砂糖市場管理細則 http://www.tocom.or.jp/jp/rule/documents/8_AgriculturalProductS

ugar_Shijyo_161031.pdf

第 3節 ヘッジ玉の取扱い

ヘッジ玉については、現物商品等の取引等によって生じる価格変動リスクを回避又は軽減することを目的として、通常

の建玉制限を超過する取引を予定しているなどの場合に、現物取引の契約書等を当社へ提出して、当社が承認すれ

ば、承認した枚数をヘッジ玉として、通常の建玉制限以上の建玉を認める制度である。

ただし、とうもろこし、一般大豆、小豆については、それ以外の上場商品と異なり、建玉数量の制限を超える部分の受

渡しを行うことができないので注意する必要がある。

参照規定 URL

農産物・砂糖市場ヘッジ玉取

扱要領

http://www.tocom.or.jp/jp/rule/documents/40_AgriculturalProduct

Sugar_Hedge_161031.pdf

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第 4節 受渡制度

現物先物取引では、当月限の建玉について納会日までに差金決済を行わず、売り・買いの建玉を保有した場合、

現物の受渡しを行うことになる。農産物・砂糖市場の場合、この受渡しを「基本受渡」といい、この他に、大豆については、

受渡しに柔軟性を持たせた制度として「申告受渡制度」や「受渡条件調整制度」が導入されている。

参照ページ:http://www.tocom.or.jp/jp/guide/seido/agriculturalproduct_sugar.html

参照規定 URL

農産物・砂糖受渡細則 http://www.tocom.or.jp/jp/rule/documents/28_AgriculturalProduct

Sugar_Ukewatashi_161031.pdf

農産物・砂糖受渡細則取扱

要領

http://www.tocom.or.jp/jp/rule/documents/29_AgriculturalProduct

Sugar_Ukewatashi_Toriatsukai_161031.pdf

農産物・砂糖申告受渡実施

要領

http://www.tocom.or.jp/jp/rule/documents/30_AgriculturalProduct

Sugar_Shinkoku_161031.pdf

農産物・砂糖受渡条件調整

実施要領

http://www.tocom.or.jp/jp/rule/documents/31_AgriculturalProduct

Sugar_JyokenCyosei_161031.pdf

第 5節 EFP取引について

大量のヘッジ・ポジションを建てたり、解消したりする場合、先物市場に大量の売り注文や買い注文を入れると、自らの

注文発注によって価格が不利な方向に動いてしまうことがある。

そこで現物取引が背後にあるといった一定の条件の下に、先物の買いと売りを個別競争売買を介さずに、取引所へ

申出て、その承認をもって先物取引を成立させることが認められており、このように現物取引の契約を結んだ売り方と買い

方が、同一価格の先物の買いと売りを個別競争売買を介さずに成立させる取引を、EFP 取引(Exchange of

Futures for Physicals)と呼ぶ。

また、スワップ契約(現物取引の売買契約における変動価格と固定価格の交換)を締結した当事者が、EFP 取引

と同様の手法で、スワップのポジションとの交換で先物の約定を成立させることも認められており、これは EFS 取引

(Exchange of Futures for Swaps)と呼ばれる。

参照ページ:http://www.tocom.or.jp/jp/guide/nyumon/tougyou/efp02.html

参照規定 URL

EFP取引及びEFS取引

実施細則

http://www.tocom.or.jp/jp/rule/documents/11_EFPEFS_161031.p

df

※EFP・EFS取引については、TOCOM 「業務規程」第 32~35条も参照のこと。