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公 開フォーラム 「医薬品のリスクコミュニケーションの現状とこれから 〜患者さんへの医薬品の安全性情報提供のあり⽅を考える〜」 薬物療法におけるコミュニケーション :インフォームド・コンセントと シェアード・デシジョンメイキング 京都⼤学⼤学院医学研究科 社会健康医学系専攻健康情報学分野 中⼭健夫 2017年11⽉23⽇ AMED 医薬品等規制調和・評価研究事業 『患者及び医療関係者に向けた医薬品等のリスク最⼩化 情報の伝達⽅法に関する研究』班

薬物療法におけるコミュニケーション :インフォー …shared-decision making 読売新聞 医療ルネサンス 「ワーファリンを飲み続けれ 〇 四年

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Page 1: 薬物療法におけるコミュニケーション :インフォー …shared-decision making 読売新聞 医療ルネサンス 「ワーファリンを飲み続けれ 〇 四年

公 開フォーラム「医薬品のリスクコミュニケーションの現状とこれから

〜患者さんへの医薬品の安全性情報提供のあり⽅を考える〜」

薬物療法におけるコミュニケーション:インフォームド・コンセントと

シェアード・デシジョンメイキング京都⼤学⼤学院医学研究科

社会健康医学系専攻健康情報学分野中⼭健夫

2017年11⽉23⽇AMED 医薬品等規制調和・評価研究事業

『患者及び医療関係者に向けた医薬品等のリスク最⼩化情報の伝達⽅法に関する研究』班

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もしご家族が「進⾏がん」と⾔われたら

•あなたはどうされますか?•…•主治医「治療はA(⼿術)とB(放射線)があります」

•どちらを選びますか?•どんな情報が必要ですか?

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どちらが良い…•主治医の経験による意⾒•臨床研究のエビデンス

•それぞれの治療を受けた10⼈の1年後・・・

•亡くなったのは⼿術3⼈、放射線 2⼈

•・・・どちらを選びますか?3

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治療 ⼈数 1年以内の死亡 リスク

+ -⼿術 10 3 7 0.3

放射線 10 2 8 0.2

データをまとめると:2×2表

絶対リスク 3/10 2/10相対リスク (リスク⽐) 0.67 (2/3)95%信頼区間 0.14 to 3.17 P=0.61

治療Bの有効性に確信は持てない…エビデンスは不確実…

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治療 ⼈数 1年以内の死亡 リスク

+ -⼿術 1000 300 700 0.3

放射線 1000 200 800 0.2

数を増やすと

絶対リスク 300/1000 200/1000相対リスク (リスク⽐) 0.67 (200/300)95%信頼区間 0.57 to 0.78 P<0.001

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⼈間における科学的な⼀般論を得るには?

•疫学 epidemiology•⼈間に⾒られる病気や健康に関する出来事の「因果関係」を解明し、予防や治療に役⽴てる科学

•⼈間を守る「情報」をつくる医学研究

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• 1991年 ACP journal club にGuyattが“Evidence-based Medicine(EBM)”と題する⼩論を掲載。

「根拠に基づく医療」の誕⽣

背景・・・ 「医療の質」に対する意識の⾼まり、その後、“Evidence-based”の考え⽅が各領域で急速に浸透。EBMは医療⾏為の有効性を科学的に捉え直す試み。

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公益財団法⼈⽇本医療機能評価機構 医療情報サービス事業MindsH14年度 発⾜、H23年度より厚⽣労働省委託事業

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頭痛でつらい時・・・• 明⽇は⼤切なプレゼンがある。• 今⽇中に資料を作らないといけない…• …2種類の痛み⽌めがあります。• 良く効く薬A(頭痛を90%改善)と効きが穏やかな薬B(30%改善)

• どちらを選びますか・・・?• 薬A・・・• 薬B・・・

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⼿術できないがんだったら・・・?•「良く効くけれど副作⽤が強い薬A」と「あまり効かないけれど、⾝体に優しい薬B」

•⾃分⾃⾝だったら?• 薬A・薬B

•⾃分⾃⾝でなく、家族だったら…?• 薬A・薬B

• ・・・⼈間の価値観は多様・・・

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SDMがなければ、EBMは

エビデンスによる圧政(evidence tyranny)

に転じてしまう。

The connection between evidence-based medicine and shared decision making.

(Hoffmann TC, et al. JAMA 2014; 312(13):1295-6)

最適な患者ケア

EBM 患者中心のコミュニケーション技能

SDM 共有意思決定

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協⼒してヘルスケアの選択を⾏うために、患者と医療専⾨職の間で交わす対話「エビデンスの不確実性」と「⼈間の価値観の多様性」の調和を⽬指す新たな医療コミュニケーション

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•SDMには、治療⽅針を決める時、互いに相⼿は何を重要と考えているかを理解するために、患者と医療者の両⽅の参加が必要です。

•医療者は、健康に関する問題に向き合うため、患者にすべての治療の選択肢に関する情報を提供します。

•さらに、患者個⼈の病歴と検査結果に基づいて、医学的に望ましいと思われる選択肢の情報を伝えます。

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• 患者は、医療者に、病気や治療が⾃分の⼈⽣にとってどのような体験であるかについての情報を提供します。

• 患者は、「⾃分の⼈⽣にとって、どの選択肢がより良いのだろうか」という⾒⽅をします。

• 患者の⾒解は、医学的に最適な治療と異なる場合があります。

• 患者にとって最良の選択は、医学的に最良の治療法という理由の場合も、その患者の⼈⽣のために最⾼の選択肢だという理由の場合もあるでしょう。

• 患者と医療者は対話を通じて、両者はもとの⾃分の考えとは違うかもしれない別の⾒解を理解し、最終的に患者にとって最良の選択がされたと納得できるでしょう。

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0

50

100

150

200

250

300

1960 1970 1980 1990 2000 2010

Informed consent と shared decision making を

タイトルに含む論⽂数

informed consent shared decision making

informed consent 2014年 ピーク 280編2016年informed consent 216編

shared decision making253編

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Shared decision making • 協働的意思決定• 共有意思決定

• ・・・ 何を共有するのか?• 情報• ⽬標• 責任

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それらの共有を進める基本がコミュニケーション

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informed consent& shared decision making

• Informed consent• 「医療者が⽰す選択肢」への着地が

期待される• 必ずしもその選択肢がエビデンスで

⽀持されているかは問われない• 医療者の誘導の影響が⼤きい

• SDM• 患者さんも医療者も、どこに着地す

るか分からない• しかし⽬指す⽬標が、過程の中で共

有されていく• 「エビデンスの確実性」が⾼くない

場合に特に⼤切17

⽬標

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Barry MJ, Edgman-Levitan S. N Engl J Med. 2012 ;366(9):780-1.「事実上、ほぼすべての患者が「そのアウトカムが望ましい」とする場合にのみ、その治療法を”standard”とみなすべきである」 (Eddy) この条件を満たさない多くの臨床的意思決定(≒不確実性の⾼い)では、患者さんが⽅針の決定に参加する必要がある。

どうしたら良いか困ったら、⼀緒に悩んで、

考えて、決めよう

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﹁個⼈の価値観﹂と

shared-decision making

読売新聞

医療ルネサンス

⼆〇⼀四年⼀⽉七⽇

「ワーファリンを飲み続ければ、けがをすると出⾎が⽌まりにくくなる。打撲が頻繁に起こるサッカーを続けるのは困難だ」・・・肺塞栓予防の確⽴した治療法のワーファリン服⽤ではなく、主治医と相談して、⾶⾏機搭乗時だけ(短時間に有効な)ヘパリンの⾃⼰注射を選ぶ

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医療における協働的な意思決定(Muir Gray, Evidence-Based Healthcare, 2nd Edition, 2001 )

Values(価値観・文化)

Resources(資源〈人・物・

金・時間・・〉)

Evidence(エビデンス・

情報)

医療者の視点患者の視点家族の視点Shared decision making /social consensus development

臨床の場医療政策の場

…ご清聴、ありがとうございました