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Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol.39, No.3 太陽光発電システムの導入が進む電力系統における ネット電力需要の長周期変動特性 A Study of Long Term Fluctuation Properties of Net Load in Power System with a Large Penetration of Photovoltaic System 根岸信太郎 * ・高山聡志 * ・石 亀 篤 司 * Shintaro Negishi Satoshi Takayama Atsushi Ishigame 出野賢一 ** ・広瀬道雄 ** ・種村健一 ** ・岩田不二雄 ** Kenichi Deno Michio Hirose Kenichi Tanemura Fujio Iwata (原稿受付日 2017 9 12 日,受理日 2018 4 24 日) 1.はじめに 2012 年に施行された再生可能エネルギー固定価格買取 制度(FIT)により,電力系統への太陽光発電(PV)の導 入が急速に進んでいる.資源エネルギー庁が公開している 月別 PV 導入容量データ 1) によると, 2016 12 月末時点で 36,981MW PV が全国に導入されている.PV の普及に伴 い,既存の発電機は実際の需要家負荷から PV 出力を差し 引いたネット電力需要に対して,電力の供給を行うことに なる. PV が大量に導入された電力系統におけるネット電力 需要の日負荷曲線の概形はダックカーブと呼ばれ,日中の ネット電力需要が PV 出力の増加に伴い大きく落ち込む. 日中のネット電力需要が大きく落ち込むことで,火力機の 下げ代不足や周波数調整力不足など,電力の安定供給に支 障が出る可能性がすでに指摘されている 2) これまでネット電力需要の日負荷曲線を対象として,そ の中長期的な概形変化や変動特性について検証した事例は 数例ある.米国エネルギー情報局( Energy Information Administration: EIA)は,2014 12 月にカリフォルニア独 立運用機関(California Independent System Operator: CAISOでのある数日の運用実績を例にとり, PV や風力発電(WGの普及に伴ってネット電力需要の日負荷曲線の概形が変化 していることを報告している 3) .また,国内の中部地方と 北海道地方に PVWG の導入ポテンシャルまで各電源が導 入された場合におけるネット電力需要の変動特性に対する 検討 4) や,東北地方の需要規模に対する PVWG の導入容 量の割合を変化させた場合におけるランプ変動の特徴につ いて検証されている 5) これらの先行研究では,任意の時点での導入容量の実績 あるいは導入ポテンシャルや政府目標等の静的な仮定に基 づいてネット電力需要の日負荷曲線について推計を行い, その変動特性について議論を行っている.ただし電源計画 をはじめとした中長期的な事業計画を策定する上では,先 述した静的な仮定に基づく推計では不十分で,再生可能エ ネルギーの導入容量に関する時系列データ等の実データに 基づく動的な推計を行う必要がある. そこで本論文では, PV の普及が進む関西電力管内を対象 として,エリア内日射量分布と各市町村の PV 導入容量デ ータから中長期的なエリア全体における PV 出力(以降, エリア PV 出力)の時系列データおよびネット電力需要の 日負荷曲線を推計する.また,その推計結果を用いて,出 力変化速度や起動時間といった将来設置する発電機や蓄エ ネルギー設備における需要変動に対応する機能の諸構成を Abstract In 2012, the Japanese government enforces Feed-in Tariff and promotes the installation of renewable energy into the power system. In particular, photovoltaic (PV) system has been installed in large scale. Net load curve in the power system where large amount of PV system is installed is lower than the conventional load curve in the daytime. In this paper, the long term fluctuation of future net load curves in Kansai area which are estimated by distribution of insolation, forecasting data of PV capacity and observed load data in KEPCO is evaluated. The PV capacity forecasting is based on open data of PV capacity in cities, towns and villages provided by Agency for Natural Resources and Energy. The result shows that the phased change of the fluctuation properties is occurred as the large amount of PV system is installed into conventional power system. In particular, the load curves in morning turned in decreasing trends from increasing trends. Moreover, the cases of rise in net load during over 6 hours are increased. Key words: Net Load, Photovoltaic System, L1 Trend Filtering * 大阪府立大学大学院工学研究科 599-8107 大阪府堺市中区学園町 1-1 ** 関西電力()研究開発室技術研究所 661-0974 兵庫県尼崎市若王寺 3-11-20 1

太陽光発電システムの導入が進む電力系統における ネット電 …2012 年に施行された再生可能エネルギー固定価格買取 制度(FIT)により,電力系統への太陽光発電(PV)の導

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Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol.39, No.3

太陽光発電システムの導入が進む電力系統における ネット電力需要の長周期変動特性

A Study of Long Term Fluctuation Properties of Net Load in Power System

with a Large Penetration of Photovoltaic System

根 岸 信 太 郎 *・ 高 山 聡 志 *・石 亀 篤 司 *

Shintaro Negishi Satoshi Takayama Atsushi Ishigame

出 野 賢 一 **・ 広 瀬 道 雄 **・種 村 健 一 **・岩 田 不 二 雄 **

Kenichi Deno Michio Hirose Kenichi Tanemura Fujio Iwata

(原稿受付日 2017年 9月 12日,受理日 2018年 4月 24日)

1.はじめに

2012 年に施行された再生可能エネルギー固定価格買取

制度(FIT)により,電力系統への太陽光発電(PV)の導

入が急速に進んでいる.資源エネルギー庁が公開している

月別 PV 導入容量データ 1)によると,2016年 12月末時点で

36,981MWの PV が全国に導入されている.PV の普及に伴

い,既存の発電機は実際の需要家負荷から PV 出力を差し

引いたネット電力需要に対して,電力の供給を行うことに

なる.PV が大量に導入された電力系統におけるネット電力

需要の日負荷曲線の概形はダックカーブと呼ばれ,日中の

ネット電力需要が PV 出力の増加に伴い大きく落ち込む.

日中のネット電力需要が大きく落ち込むことで,火力機の

下げ代不足や周波数調整力不足など,電力の安定供給に支

障が出る可能性がすでに指摘されている 2).

これまでネット電力需要の日負荷曲線を対象として,そ

の中長期的な概形変化や変動特性について検証した事例は

数例ある.米国エネルギー情報局(Energy Information

Administration: EIA)は,2014年 12月にカリフォルニア独

立運用機関(California Independent System Operator: CAISO)

でのある数日の運用実績を例にとり,PV や風力発電(WG)

の普及に伴ってネット電力需要の日負荷曲線の概形が変化

していることを報告している 3).また,国内の中部地方と

北海道地方に PV,WGの導入ポテンシャルまで各電源が導

入された場合におけるネット電力需要の変動特性に対する

検討 4)や,東北地方の需要規模に対する PV,WGの導入容

量の割合を変化させた場合におけるランプ変動の特徴につ

いて検証されている 5).

これらの先行研究では,任意の時点での導入容量の実績

あるいは導入ポテンシャルや政府目標等の静的な仮定に基

づいてネット電力需要の日負荷曲線について推計を行い,

その変動特性について議論を行っている.ただし電源計画

をはじめとした中長期的な事業計画を策定する上では,先

述した静的な仮定に基づく推計では不十分で,再生可能エ

ネルギーの導入容量に関する時系列データ等の実データに

基づく動的な推計を行う必要がある.

そこで本論文では,PV の普及が進む関西電力管内を対象

として,エリア内日射量分布と各市町村の PV 導入容量デ

ータから中長期的なエリア全体における PV 出力(以降,

エリア PV 出力)の時系列データおよびネット電力需要の

日負荷曲線を推計する.また,その推計結果を用いて,出

力変化速度や起動時間といった将来設置する発電機や蓄エ

ネルギー設備における需要変動に対応する機能の諸構成を

Abstract

In 2012, the Japanese government enforces Feed-in Tariff and promotes the installation of renewable energy into the power

system. In particular, photovoltaic (PV) system has been installed in large scale. Net load curve in the power system where

large amount of PV system is installed is lower than the conventional load curve in the daytime. In this paper, the long term

fluctuation of future net load curves in Kansai area which are estimated by distribution of insolation, forecasting data of PV

capacity and observed load data in KEPCO is evaluated. The PV capacity forecasting is based on open data of PV capacity in

cities, towns and villages provided by Agency for Natural Resources and Energy.

The result shows that the phased change of the fluctuation properties is occurred as the large amount of PV system is installed

into conventional power system. In particular, the load curves in morning turned in decreasing trends from increasing trends.

Moreover, the cases of rise in net load during over 6 hours are increased.

Key words: Net Load, Photovoltaic System, L1 Trend Filtering

*大阪府立大学大学院工学研究科

〒599-8107大阪府堺市中区学園町 1-1 **関西電力(株)研究開発室技術研究所

〒661-0974兵庫県尼崎市若王寺 3-11-20

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Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol.39, No.3

決める際に重要な情報となる日負荷曲線の長周期的な変動

特性について検討を行い,PV の普及に伴う変動特性の動的

な変化について明らかにする.

本論文の構成は以下のとおりである.2 章では,本論文

で用いたネット電力需要の日負荷曲線を推計する方法の概

要および各手順の詳細について説明する.3 章では,推計

したネット電力需要の変動特性の分析に用いた手法につい

て説明する.4 章では,関西電力管内におけるネット電力

需要の日負荷曲線の推計および変動特性の分析を行う.5

章では,本論文の総括を行う.

2.ネット電力需要の推計方法

2.1 ネット電力需要

ネット電力需要は,需要家負荷から PV をはじめとした

再生可能エネルギー発電出力を差し引いた残りの電力需要

を指す.我が国では FITが 2012 年に施行され,特に PV の

急速な普及が進んでいる.

本章では,PV の導入が進む電力系統におけるネット電力

需要の日負荷曲線,いわゆるダックカーブを中長期的に推

計する方法について述べる.この方法は導入ポテンシャル

や政府目標といった静的な仮定に基づくものではなく,現

在までの PV 導入容量や需要実績データ等を用いることで

動的に推計を行うことができる.

2.2 推計手順

本節では,本論文で用いたネット電力需要の推計方法の

概要について述べる.本推計手法では,任意の期間に計測

された日射量データ・PV 導入容量データ・電力需要実績デ

ータを基に,将来におけるネット電力需要の日負荷曲線を

30分 1単位として推計する.ネット電力需要の推計方法に

ついて概要を示した図を図 1に示す.

推計手順は,エリア PV 出力を算出する段階とネット電

力需要の日負荷曲線を算出する段階の 2 段階に分けられる.

また,エリア PV 出力を計算する段階は,各市町村におけ

る日射量値の推定,中長期的な PV 導入容量の算出,エリ

ア PV 出力の算出の 3段階に分けられる.

2.2.1 エリア内日射量値の推定

資源エネルギー庁が取りまとめている月別 PV 導入容量

データ 1)が市町村別にまとめられているため,分散型新エ

ネルギー大量導入促進系統安定対策事業(PV300)にて設

置された設備によって計測された日射量値から各市町村役

所の位置座標における日射量値を推定する.計測地点・推

定地点の位置座標は各地点の緯度経度から日本の平面直角

座標系を用いて平面直角座標に変換する.

次に,各時間帯において PV300 の日射量計測値と各計測

地点・各市町村役所の平面直角座標を用いて各市町村での

日射量値を推定する.本論文では,計測地点群の中で最も

外側に位置する地点を結ぶことで凸包を作成し,その内側

に位置している市町村の日射量値については Natural

Neighbor を用いたデータ補間を行い,凸包外に位置してい

る市町村の日射量値については Nearest Neighbor を用いた

データ補間を行うことによって各市町村での日射量値を推

定した.

Nearest Neighbor によるデータ補間および Natural

Neighbor によるデータ補間の比較を図 2 に示す.点 A~E

はデータ点,アスタリスク(*)はデータを補間したい点

(補間点)を示している.Nearest Neighborはデータを補間

点から最も近いデータ点の値を挿入して補間する手法であ

る 6).例えば,図 2(a)において,補間したい点は点 Dに最

も近いため点 Dの値を挿入する.また,補間の結果として

得られるデータの分布は,各データ点が最近傍となる領域

を表すボロノイ領域として可視化できる.ボロノイ領域の

境界は,ボロノイ境界(図 2 青線)で表される.Nearest

Neighbor によるデータ補間は手法として簡便である一方で,

最近傍のデータ点の値を挿入するため,ボロノイ境界にお

いて補間結果の分布が非連続となる.そのため,日射量の

地理的分布のような連続的な分布が想定される事象に対し

て,Natural Neighborによるデータ補間は適切とは言えない.

Natural Neighborは,Sibson7), 8)によって提案されたデータ内

挿方法である.この手法では,データ点のみで得られるボ

ロノイ領域と補間点を含んだ場合のボロノイ領域を比較し,

データを補間点のボロノイ領域に周囲のデータ点の元々の

ボロノイ領域がどの程度重複しているかで重みづけ平均し

データを内挿する.図 2(b)において,点 A~Eのみのボロ

ノイ領域(青点線)と補間点を含んだ場合のボロノイ領域

(赤線)を比較すると,補間点のボロノイ領域が点 A~E

のみの場合のボロノイ領域で 5 分割されていることが確認

できる.この重なりの面積に応じて各データ点の値を重み

づけ平均した値を挿入する.補間点の位置によって重なり

図 1 ネット電力需要の推計方法

2

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Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol.39, No.3

の面積は変化し,補間結果の分布は連続的になる.したが

って,日射量の地理的分布のような連続的な分布が想定さ

れる事象に対して,Nearest Neighbor よりも,Natural

Neighbor によるデータ補間の方が適切であると考えられる.

しかし,Natural Neighborは先述したような補間点を囲む

データ点を用いてデータの挿入を行うため,データ点で囲

われた凸包の内部(図 2(b)では点 A~Eに囲われた五角形

の内部)でしか補間することができない.そのため,先述

したように,本論文では計測地点の凸包内の市町村では

Natural Neighborによる日射量値のデータ補間を行い,計測

地点の凸包外の市町村については Nearest Neighbor による

日射量値のデータ補間を行うこととした.

2.2.2 中長期的な PV 導入容量の算出

資源エネルギー庁が取りまとめている市町村ごとの月別

PV 導入容量データ 1)を用いて,中長期的な PV 導入容量を

市町村ごとに月別に予測する.

新技術の普及量の模擬には,一般にロジスティック関数

が用いられる.この関数はロジスティック方程式の解とし

て与えられる.ロジスティック方程式とロジスティック関

数をそれぞれ式(1),(2)に示す.

𝑑𝑦

𝑑𝑡= 𝑟 (

𝐾 − 𝑦

𝐾)𝑦 (1)

𝑦 =𝐾

1 + 𝑎 ∙ 𝑒𝑥𝑝(−𝑟𝑡) (2)

ここで𝑡:時間[月],𝑦:普及量,𝐾:普及限界量(導入ポ

テンシャル),𝑎:初期条件に関する係数,𝑟:普及速度で

ある.PV の導入容量データから推定するパラメータは𝑎,

𝑟の 2つである.

また,式(2)について

𝑌 = log (𝐾

𝑦− 1) (3)

𝐴 = −𝑟 (4)

𝐵 = log 𝑎 (5)

とおくと

𝑌 = 𝐴𝑡 + 𝐵 (6)

のように,時間を説明変数とした線形回帰モデルで表すこ

とができるので,ロジスティック関数のパラメータは PV

の導入容量データに対して最小二乗法を用いることで推定

できる.

なお,FITにおける PV 発電出力の買取価格は制度導入以

降減少を続けており,将来における PV の導入容量を予測

する上で勘案すべき要因の 1 つだと考えられる.しかしな

がら,本論文で用いる月別 PV導入容量データは,FITの認

定容量ではなく FIT の下で買取が開始された,すなわち電

力系統に連系された設備容量であるため,いつ認定されど

の買取価格が適用されているのかは分からない.したがっ

て,月別 PV 導入容量データから買取価格の設定による導

入促進効果を推定し PV 導入容量の予測に反映させること

は難しい.そのため,本論文では FIT の買取価格設定によ

る PV 導入促進効果の変化は無視するものとする.

2.2.3 エリア PV出力の算出

上記の過程で算出した,各市町村における日射量値と各

市町村における月別 PV 導入容量の予測値を用いてエリア

PV出力を算出する.エリア PV出力を算出するにあたって,

水平面日射量から傾斜面日射量を算出する必要がある.し

かし,エリア PV 出力を扱うため,PV の設置角度・方角,

さらに設置する市町村の緯度によって水平面日射量に対す

る傾斜面日射量が異なる.そこで本論文では NEDO日射量

データベースの MONSOLA-11 で閲覧できる年平均傾斜面

日射量データから,方位角 0°(真南)・傾斜角 10°におけ

る年平均傾斜面日射量を用いて,この平均傾斜面日射量が

各地点の年平均水平面日射量の何倍であるかを全地点で算

出し平均し,その値から傾斜面日射量を算出することとす

る.上記で,方位角 0°(真南)・傾斜角 10°の値を用いた

理由について述べる.一般家庭や野立てのものを含め実際

に設置されている PV は,設置環境に応じて様々な方位角

で設置されているものの,おおむね方位角 0°~90°およ

び 270°~360°の間で設置されていると考えられる.その

(a) Nearest Neighborの場合 (b) Natural Neighborの場合

図 2 Nearest Neighborと Natural Neighborによるデータ補間方法の比較

3

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ため,中間である真南の日射量値を採用した.また,一般

に PV の設置角は風圧荷重や施工コスト等も含めて最適設

置角よりも小さい 10°~30°で設置されることが一般的

である.いま,PV がすべて真南を向いていると想定してお

り,最適設置角に近い傾斜角を想定したとき,結果として

算出される PV 出力が過大に見積もられる可能性がある.

そのため,一般的な傾斜角の中でも比較的小さい傾斜角

10°とした.

各地点の PV 出力は PV 導入容量および傾斜面日射量を

用いて式(7)で算出する.

𝑃𝑔 = 𝜂𝑃𝐶𝑆𝜂𝑇𝐶𝑃𝑉𝑃𝑠 (7)

ここで,𝑃𝑔:PV 出力,𝜂𝑃𝐶𝑆:PCS の変換効率,𝜂𝑇:PV

の温度特性,𝐶𝑃𝑉:PV 導入容量,𝑃𝑠:傾斜面日射量である.

式(7)により算出された各市町村の PV 出力を合計するこ

とにより,エリア PV 出力を求めることができる.

2.2.4 ネット電力需要の日負荷曲線算出

算出されたエリア PV 出力データからネット電力需要の

日負荷曲線を算出する手順について述べる.ネット電力需

要の算出手順を示した図を図 3に示す.

本論文で用いる任意の時点における電力需要実績データ

は発電側の実績値であり,需要家側等に設置されている PV

出力は含まれないため,はじめに,1 日の各時間帯におけ

る電力需要実績データ(青線)に,電力需要実績データと

同じ日時のエリア PV 出力を足し合わせ,実際の電力需要

(緑破線)を算出する(図 3①参照).これをシミュレーシ

ョンの基準となる電力需要データとする.次に,2.2.3節で

述べた,将来の任意の日時におけるエリア PV 出力を①で

求めた電力需要データから引く(図 3②参照).この算出手

順を各時間帯について行う.以上の段階を経て,将来の任

意の日におけるネット電力需要の日負荷曲線を算出するこ

とができる.

なお,需要家の電力消費行動は経済活動や技術革新等に

依存して変化する.しかし本論文は,エリア内の PV 導入

容量が増加することによる日負荷曲線の長周期的な変動特

性の動的な変化を考察対象としているため,需要家の電力

需要そのものは任意の時点における電力需要実績データに

固定して考える.

3.変動分析方法

ネット電力需要の日負荷曲線の長周期的な変動特性が中

長期的に見てどのように変化するのかを把握することは,

出力変化速度や起動時間といった将来設置する発電機や蓄

エネルギー設備における需要変動に対応する機能の諸構成

を決めるために必要である.そこで本論文では,ネット電

力需要の日負荷曲線について変動分析を行う.変動特性の

分析には 2 つの方法を用いる.ひとつは算出したネット電

力需要の日負荷曲線の各時間帯間の差分をとる方法,もう

ひとつはL1トレンドフィルタリング 9)と呼ばれる時系列解

析手法を用いた方法である.

まず,算出したネット電力需要の日負荷曲線について各

時間帯間の差分をとる方法について説明する.式(8)に示す

ように時間帯間の差分を計算し,需要の増減を把握する.

本論文ではこの差分を時間帯間変動と呼ぶことにする.

∆𝑦𝑖 = 𝑦𝑖+1 − 𝑦𝑖 (8)

ここで,𝑖:データ番号(𝑖 = 1,… ,47),𝑦𝑖:時間帯𝑖におけ

る時系列データの原系列,∆𝑦𝑖:時間帯間の時系列の差分で

ある.

時間帯間変動を確認することにより,時間帯間に存在す

る基本的な変動傾向を確認することができる.類似した手

法はほかにも提案されている.例えば由本ら 10)は PV の出

力変化速度を算出するため,30分の時間窓を設定し 1分ご

とにずらしながら直線回帰を行っている.しかし,時間帯

間変動のみの評価では複数の時間帯にわたって続くような

変動のトレンドを直接的に捉えることができない.時間窓

を用いない変動分析手法として片岡ら 11)が,ランプ変動検

出手法を提案している.この手法は単位時間当たりの変動

が任意に設定した閾値を超えたときに増加/減少トレンド

が開始したと判断し,次に閾値を下回った時に増加/減少

トレンドが終了したと判断することでその間の長周期的な

変動を検出することができる.しかし,この手法では任意

の閾値を超えた変動は抽出できるが,閾値以下の緩やかな

変動については検出することができない.本論文では,算

出したネット電力需要が持つ長周期的な変動特性の全体像

がどのように変化を把握することを目的としているため,

図 3 ネット電力需要の日負荷曲線算出

4

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変動の大小を問わず長周期的な変動を抽出できる方法が必

要である.

そこで本論文では,時間帯間変動を算出することによる

変動分析に加えて L1 トレンドフィルタリングと呼ばれる

時系列解析手法を用いる方法による変動分析も行う.この

手法は,時系列データに対して区分線形関数をあてはめる

ことによりすべての時系列データに対して時系列トレンド

を抽出することのできる非線形回帰分析手法である.区分

線形関数が折れ曲がる箇所を変化点とすることで,複数の

時間帯にわたって続くような変動のトレンドの開始点およ

び終了点を明確にすることができる.本論文では,この複

数の時間帯にわたって続くような変動のトレンドを変動ト

レンドと呼ぶことにする.変化点間で生じた変動トレンド

の変動幅と継続時間を用いてネット電力需要の変動トレン

ドの評価を行う.

L1 トレンドフィルタリングにおいて,区分線形関数のパ

ラメータ推定に用いる評価関数は式(9)のように表される.

1

2∑(𝑦𝑡 − 𝑦�̂�)

2

𝑛

𝑡=1

+ 𝜆∑|�̂�𝑡−1 − 2�̂�𝑡 + �̂�𝑡+1|

𝑛−1

𝑡=2

(9)

ここで,𝑡:時刻[/30min],𝑛:考察期間[/30min],𝑦𝑡:時

系列データの原系列,𝑦�̂�:近似した区分線形関数の時系列

データ,𝜆:正則化パラメータである.

式(9)の第 1項は回帰の残差を表しており,第 2項は回帰

の滑らかさに関する罰則項(正則化項)である.L1トレン

ドフィルタリングにおける正則化項は 2 階階差で表され,

任意の連続する 3点の 2階階差が 0のとき,その 3点は直

線上にある.正則化パラメータは,予測モデルの学習デー

タに対する適合度と曲線の滑らかさを調整するとともに推

定量の安定化に寄与する役割を果たすパラメータである 12).

正則化項を設けることで回帰モデルの学習データに対する

過剰適合を避けることができる.

正則化パラメータを 0にすると,式(9)より区分線形関数

と時系列データの残差が 0 になるように当てはめられる.

これにより抽出される変動は時間帯間変動に一致する.そ

の一方で正則化パラメータを非常に大きくとると,正則化

項の重みが大きくなるので,得られる変動トレンドは考察

期間内で一直線なものとなる.そのため,L1トレンドフィ

ルタリングによる変動トレンドの抽出には,原系列と当て

はめた区分線形関数を確認しながら正則化パラメータを調

整する必要がある.

4.関西電力管内を対象とした推計

4.1 推計条件

本章では,2章で述べた推計方法を用いて 2014年 1月 1

日~2028年 12月 31日までの関西電力管内におけるネット

電力需要を 30分 1単位として推計する.加えて,3章で述

べた方法を用いて,推計結果として得られた日負荷曲線の

変動特性の分析を行う.また,その変動特性の変化につい

て年次比較を行い,PV 導入容量の増加が変動特性の傾向に

与える影響について考察する.

ネット電力需要の算出に用いる電力需要実績データは,

東日本大震災による節電要請の影響が少なくなったと考え

られる 2014年 1月 1日~12月 31日に関西電力管内で計測

された電力需要実績データ 13)を用いた.

日射量の観測データとして 2014 年に PV300 で計測され

た関西電力管内 56地点の 10秒値データを 30分平均した値

を用いた.また,データの前処理として,明らかに日の出

前・日没後であるにも関わらず値を持っているデータに関

しては,すべて計測値を 0に修正した.

PV300 の計測地点および各市町村役所の位置座標は,緯

度経度情報から平面直角座標系 VI 系を用いて平面直角座

標に変換した.平面直角座標への変換には,国土地理院が

公開している座標変換プログラム「TKY2JGD」を用いた.

平面直角座標系 VI系は福井県中部を原点とし,緯度の減少

方向,経度の増加方向を正とした座標軸を持つ.VI系によ

る変換が推奨されるのは兵庫県を除く関西エリアであるが,

本論文では兵庫県内の位置情報も平面直角座標系 VI 系で

変換を行った.図 4に PV300 の計測地点および各市町村役

所の位置座標を平面直角座標に変換したときの位置関係を

示す.丸で示された点が PV300 の計測地点,星で示された

点が各市町村役所の位置座標である.本論文では,先述し

たように点線で示される計測地点の凸包内の市町村では

Natural Neighborによる日射量値のデータ補間を行い,計測

地点の凸包外の市町村については Nearest Neighbor による

日射量値のデータ補間を行うこととした.

PV 導入容量の算出に用いるロジスティック関数のパラ

メータ推定には,資源エネルギー庁が公開している PV 導

入容量データ(2014 年 4 月~2016 年 12 月)から関西電力

図 4 PV300の計測地点および市町村役所の位置座標

5

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が供給対象としている 206 市町村のデータ(10kW 未満・

10kW 以上・10kW 未満(移行認定分)・10kW 以上(移行

認定分)の合計値)を用いた.

また,PVの普及限界量を表す導入ポテンシャルKには,

環境省の平成 24 年度再生可能エネルギーに関するゾーニ

ング基礎情報整備報告書に記載されている市町村別の導入

ポテンシャルから関西電力が供給対象としている 206 市町

村のデータを用いた.

さらに,NEDO 日射量データベース MONSOLA-11 に収

録されている月平均斜面日射量データから,方位角 0°(真

南)・傾斜角 10°における年平均斜面日射量を用いて,こ

の平均斜面日射量が各地点の年平均水平面日射量の何倍で

あるかを日射量データベースに収録されている関西地域の

全地点で算出し平均した.その結果,推定された各市町村

における水平面日射量を 1.05倍し,その値をその地点にお

ける斜面日射量とした.さらにPVのシステム効率として,

次の 2つの要素を考慮した.

・PV の温度特性:0.9(12月~2月),0.85(3月~5月・9

月~11月),0.8(6月~8月)

・PCSの変換効率:0.95

なお,PV の温度特性は JPEA方式の温度補正係数を採用

し,PCSの変換効率は一般的な PCSを参考に,著者らで任

意に設定した.

推計した結果として得られたネット電力需要の日負荷曲

線データに対して行う L1 トレンドフィルタリングの正則

化パラメータ𝜆は 0.05とした.

4.2 日負荷曲線の推計結果

本節では,先述した方法を用いて将来におけるネット電

力需要の日負荷曲線について試算した結果について述べる.

まず,表 1に 2014年・2018 年・2023年・2028年 1月にお

けるエリア内の合計 PV 導入容量の予測結果と,同月にお

けるエリア内の合計 PV 導入容量に対するシェアが大きい

5都市の PV 導入容量と導入比率を示す.表 1より,市町村

により PV の普及速度が異なるため,月によってエリア PV

出力の値に対して影響を与える市町村が異なることが分か

る.例えば,2018年 1月に関西電力管内で 3番目のシェア

を持つ兵庫県淡路市は,2014 年 4 月~2016 年 12 月で大規

模な太陽光発電所が運転開始しており,PV 導入容量が急速

に増加しシェアを伸ばした.しかしながら,淡路市の導入

ポテンシャルは他の都市に比べて小さいため,PV 導入容量

の伸びは徐々に小さくなり,2023年時点では 22番目(1.13%)

にまで落ちている.また,2028年時点では,人口が多く住

宅用の導入ポテンシャルが大きい都市部の PV 導入容量が

比較的大きなシェアを占めている.

次に,2014年の電力需要実績値と推計した 2018年・2023

年・2028年の日負荷曲線を比較する.図 5に 2014年・2018

年・2023年・2028年におけるネット電力需要の日負荷曲線

の分布について時間帯ごとの箱ひげ図で示す.各時間帯の

箱ひげ図には,1年(365日)分のネット電力需要の分布が

示されている.箱ひげ図は,赤線が中央値,青色の箱の両

端は第一四分位数(25%点)と第三四分位数(75%点),箱

から伸びているひげの両端が最大値と最小値を表している.

図 5より,PV 導入容量の増加に伴って日中の需要が低め

にシフトするダックカーブの特徴が現れてくることが分か

る.また,各時間帯の中央値を見ると 2014年では確認でき

る午前中の需要の立ち上がりが徐々になくなり,代わりに

表 1 エリア内の合計 PV 導入容量の予測結果とシェアの大きい市町村

2014 年 1月 2018年 1月 2023年 1月 2028年 1月

導入容量 1842.79MW 6343.11MW 16614.09MW 25140.31MW

PV 導入容量の

シェアが大きい

市町村

兵庫県

神戸市

91.46MW

(4.96%)

兵庫県

姫路市

318.22MW

(5.02%)

兵庫県

姫路市

872.23MW

(5.25%)

兵庫県

神戸市

1256.55MW

(5.00%)

兵庫県

姫路市

79.90MW

(4.34%)

兵庫県

神戸市

243.49MW

(3.84%)

兵庫県

神戸市

674.24MW

(4.06%)

兵庫県

姫路市

1130.20MW

(4.50%)

大阪府

大阪市

74.23MW

(4.03%)

兵庫県

淡路市

175.61MW

(2.77%)

和歌山県

和歌山市

446.53MW

(2.69%)

京都府

京都市

871.58MW

(3.47%)

大阪府

堺市

63.90MW

(3.47%)

和歌山県

和歌山市

144.65MW

(2.28%)

奈良県

奈良市

406.03MW

(2.44%)

和歌山県

和歌山市

699.10MW

(2.78%)

京都府

京都市

53.42MW

(2.90%)

京都府

京都市

136.93MW

(2.16%)

京都府

京都市

395.67MW

(2.38%)

奈良県

奈良市

585.69MW

(2.33%)

6

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Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol.39, No.3

午後の PV 出力の減少に伴う急激な需要の立ち上がりが確

認できる.また,日中のネット電力需要分布の分散は PV

導入容量が増加するにしたがって大きくなっていることが

確認できる.具体的には 9時~16時における各時間帯の分

散の増加量を平均すると,2014 年を基準として 2018 年に

は 1.16倍,2023年には 2.16倍,2028年には 3.60倍に増加

している.

年間の最大電力需要に着目すると,2014年の最大電力需

要が 26,758[MW]なのに対して,2028 年の最大電力需要が

24,952[MW]と 6.75%減少しており,ネット電力需要の最大

値はPV導入量の増加量と比較するとほぼ変化していない.

その一方で,正のネット電力需要量の年間合計値を比較す

ると,2014 年は 146,914[GWh]なのに対して,2028 年では

119,909[GWh]と 18.4%減少している.したがって,供給電

力量の観点で言えば,日中において PV は他の電源を一部

代替することができる一方で,年間の最大電力需要がほぼ

変化していないため,PV 以外の電源の総設備量は現状をほ

ぼ維持する必要があることが分かる.

4.3 時間帯間変動の分析結果

本節では推計したネット電力需要の日負荷曲線について,

時間帯間変動の分析を行った結果について述べる.図 6に

2014 年・2018 年・2023 年・2028 年におけるネット電力需

要の日負荷曲線について時間帯間変動を算出した結果を示

す.変動量は 2014 年の最大電力需要 26,758[MW]で正規化

している.縦軸は年内の通し日数を示している.黄色・赤

色が需要の増加傾向,水色・青色が需要の減少傾向,緑色

は需要の変化がないことを示している.

2014年から 2028年へPV導入容量が増加するにしたがっ

て,午前中の PV 出力増加に伴うネット電力需要の減少傾

向,午後の PV 出力減少に伴うネット電力需要の増加傾向

が強まっている様子が確認できる.

午前中については,2014 年時点では年間を通じて需要の

増加傾向がみられたが,2023 年では減少傾向に転じ,2028

年ではその傾向が強まっている.

また,2023年や 2028年のように PV 導入容量が増加する

と,日の出時刻の季節変化に伴いネット電力需要が減少傾

向になるタイミングが変化することが分かる.特に冬期は,

朝の需要増加のタイミングよりも日の出に伴う PV 出力増

加のタイミングが遅いため,午前 6時ごろ(12コマ目)か

らいったん需要が増加し,午前 7時ごろ(14コマ目)から

PV 出力の増加によりネット電力需要が減少し始めるとい

う特徴的な変動が生じている.

さらに,200日前後の夏季については,午前 8時ごろ(16

コマ目)から午前 10 時ごろ(20 コマ目)にかけて 1 コマ

当たり 0.04~0.07pu 程度の需要増加が生じている.この需

要増加の傾向は 2018年から 2028年にかけて,PV 導入容量

の増加に伴い弱まるものの,他の季節ほど減少傾向に転じ

ているケースが少なく,需要家の需要増加と PV 出力の増

加が互いに変動を打ち消しあうように作用していることが

分かる.

一方,午後のネット電力需要の増加傾向は,日没に向け

た PV 出力の減少と電灯需要の増加に起因する.PV 導入容

(a) 2014 年 (b) 2018年

(c) 2023年 (d) 2028年

図 5 各年におけるネット電力需要の日負荷曲線分布

7

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Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol.39, No.3

量の増加とともに時間帯間変動が徐々に大きくなっており,

特に,2028年では 30分で 0.1pu 近い変動が継続的に生じて

おり,正午から日没までのネット電力需要の増加傾向に対

応するための対策が必要であることがわかる.

4.4 変動トレンドの分析結果

本節では複数の時間帯にわたって続く変動トレンドにつ

いて分析を行った結果について述べる.加えて,本論文で

基準とした 2014 年における変動トレンドの特徴と,2014

年以降 PV 導入容量が増加するに従って生じる変化につい

て考察を行う.

図 7に 2014年・2018年・2023 年・2028年のネット電力

需要の日負荷曲線から L1 トレンドフィルタリングを用い

て抽出した変動トレンドの変動幅とその継続時間について

散布図で比較した結果を示す.横軸は変動の継続時間,縦

軸は変動幅を示している.また,青い丸印が推計したネッ

ト電力需要の日負荷曲線が持つ変動トレンドの変動幅とそ

の継続時間をプロットしたもので,赤い十字が 2014年の日

負荷曲線が持つ変動トレンドの変動幅とその継続時間をプ

ロットしたものである.

まず,2014年の変動トレンドについて考察を行う.2014

年では,最大 360 分(6 時間)までの増加傾向の変動トレ

ンドと最大 480 分(8 時間)の減少傾向の変動トレンドが

確認できる.

図 5,図 6 とあわせて確認すると,増加傾向の変動トレ

ンドは主に深夜帯におけるボトムからの立ち上がり,朝か

ら正午にかけての立ち上がり,正午過ぎにおける昼休憩終

わりの立ち上がり,昼過ぎ~日没にかけての電灯の点灯需

要の立ち上がりであることが分かる.特に 180~330 分(3

時間~5 時間半)にわたって大きな変動幅を持つ変動トレ

ンドは,主に夏季および冬季における朝から正午にかけて

の立ち上がり,冬季における昼過ぎ~日没にかけての電灯

の点灯需要の立ち上がりによって生じていることが分かる.

減少方向の変動トレンドは主に正午の昼休憩始まりの落

ち込み,日没ごろに生じる電灯需要のピーク以降の落ち込

みによって生じていることが分かる.

次に,2014 年以降に PV 導入容量が増加することによっ

て,ネット電力需要の変動トレンドがどのように変化して

いくのかについて考察を行う.

2014 年以降,PV 導入容量の増加に伴い,ネット電力需

要の増加・減少方向の両方について段階的に変動幅が増加

している.また,増加傾向・減少傾向ともに最大 480分(8

時間)の変動トレンドが確認できる.図 5,図 6 とあわせ

て確認すると,2014年の変動トレンドに比べて大きな変動

幅が生じているのは,これは午前中の PV 出力増加にとも

なうネット電力需要の減少と,午後の PV 出力減少に伴う

ネット電力需要の増加を示している.これは,PV 導入容量

の大きい電力系統におけるネット電力需要の日負荷曲線で

の特徴的な変動といえる.加えて,増加傾向の変動幅と減

少傾向の変動幅を比較すると,増加傾向の方が 2 割程度大

きいことが分かる.これは,午前中において PV 出力が増

(a) 2014年 (b) 2018年

(c) 2023年 (d) 2028年

図 6 各年におけるネット電力需要の日負荷曲線の時間帯間変動

8

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Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol.39, No.3

加するとともに需要家の電力需要も増加するため,ネット

電力需要の減少傾向の変動トレンドが緩和されているとい

うことと,午後に PV 出力が減少するとともに日没時刻に

向けた需要家の電灯需要の増加が同時に生じることでネッ

ト電力需要の増加傾向の変動トレンドが強められているこ

とによるものである.

5.おわりに

本論文では,PV の普及が進む関西電力管内を対象として,

エリア内日射量分布と各市町村の PV 導入容量データから

動的に推計した中長期的なエリア PV 出力の時系列データ

およびネット電力需要の日負荷曲線を用いて,ネット電力

需要の日負荷曲線の分布および長周期的な変動特性につい

て検討を行った.加えて,それらの特性に関する年次変化

についても検討を行い,現在の電力需要の日負荷曲線から

将来のネット電力需要の日負荷曲線,いわゆるダックカー

ブへどのように移行していくのかを明らかにした.

なお,本論文で検討したネット電力需要の日負荷曲線や

変動特性に関する定量的な評価は,あくまで一地域の推計

上の任意の想定における一結果であることに留意されたい.

別地域の電力需要や PV の普及シナリオ,需要家負荷に関

する経済的あるいは技術的な想定如何によって,推計結果

として得られるネット電力需要の量的・時間的変化の程度

は変化する.例えば,今後はゼロエネルギーハウス(ZEH)

をはじめとした FIT に依存しない形で PV を活用する技術

の普及も考えられる.もし考察期間内に PV に対する FIT

が終了したとしても PV の継続的な普及が期待できるが,

FITによる PV の普及速度とは異なることが考えられる.そ

の場合においても,ZEH 等における PV 導入容量データが

蓄積されることで,本論文で用いたロジスティクス関数を

用いた手法を援用することにより,FIT以降の PV 導入容量

を中長期的に推計することができる.

また,本論文でネット電力需要の推計に用いた方法およ

びデータによって,我が国の他の地域についても同様の推

計を行うことが可能である.

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図 7 L1トレンドフィルタリングで抽出したネット

電力需要の長周期変動成分の分布に関する年次比較

9

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13) 関西電力;過去の電力使用実績データのダウンロー

http://www.kepco.co.jp/energy_supply/supply/denkiyoh

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