1
腸内細菌学雑誌 34 巻 2 号 2020 72 シンポジウム 1-6 腸内細菌の制御を担う新たな「膵臓」の役割 Pancreas as a novel regulator of the commensal bacteria ○倉島洋介 1-4 ,清野 宏 1, 3, 4 1 千葉大学大学院医学研究院 イノベーション医学 / 国際粘膜免疫・アレルギー治療学研究拠点, 2 東京大学医科学研究所 国際粘膜ワクチン開発研究センター 臨床ワクチン学分野, 3 東京大学医科学研究所 東京大学特任教授部門 粘膜免疫学部門, 4 カリフォルニア大学サンディエゴ校医学部 病理学講座 / 内科学講座 Yosuke Kurashima 1-4 , Hiroshi Kiyono 1, 3, 4 1 Department of Innovative Medicine/ Mucosal Immunology and Allergy Therapeutics, Graduate School of Medicine, Chiba University 2 Division of Clinical Vaccinology, International Research and Development Center for Mucosal Vaccines, The Institute of Medical Science, The University of Tokyo 3 Division of Mucosal Immunology, IMSUT Distinguished Professor Unit 4 Department of Pathology/ Gastroenterology Medicine, University of California, San Diego 腸管における微生物との共生と排除の仕組みを担う分子機構の一つに,小腸のパイエル板 M 細胞を介 したサルモネラ菌や大腸菌の捕捉機構が知られている.パイエル板 M 細胞に発現するマーカー分子の探 索から,M 細胞内への細菌取り組みに関わる糖タンパクが見出されている. その一方で,当該タンパクは膵臓腺房細胞に含まれる消化酵素の開口分泌顆粒膜上の 25 パーセント以 上を占める主要な糖タンパクであることが以前より示され,1 日に 500 ミリリットル以上分泌される膵液 にも多く含まれていると推察される.実際に,マウス消化管を用いた組織学的な解析から,膵臓腺房細 胞に豊富に存在する糖タンパクが腸管管腔においてはファーター乳頭より口側では検出されず,肛門側 において強い集積が認められていた.また,炎症性腸疾患においては膵臓糖タンパクに対する自己抗体 が作られることも明らかとなっている. 本発表では,上述のように未だ不明瞭な膵臓糖タンパクの役割について明らかにすることに加えて, 本来は消化酵素の分泌といういわゆる化学消化と代謝に重要な臓器である膵臓が腸内細菌に作用する分 泌タンパクを産生し,「腸内環境の維持」に働くという新たな膵腸連関の可能性について紹介する.

腸内細菌の制御を担う新たな「膵臓」の役割 …72 腸内細菌学雑誌 34巻2号 2020 シンポジウム 1-6 腸内細菌の制御を担う新たな「膵臓」の役割

  • Upload
    others

  • View
    1

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 腸内細菌の制御を担う新たな「膵臓」の役割 …72 腸内細菌学雑誌 34巻2号 2020 シンポジウム 1-6 腸内細菌の制御を担う新たな「膵臓」の役割

腸内細菌学雑誌 34 巻 2 号 202072

シンポジウム 1-6

腸内細菌の制御を担う新たな「膵臓」の役割Pancreas as a novel regulator of the commensal bacteria

○倉島洋介 1-4,清野 宏 1, 3, 4

1 千葉大学大学院医学研究院イノベーション医学 /国際粘膜免疫・アレルギー治療学研究拠点,2東京大学医科学研究所国際粘膜ワクチン開発研究センター臨床ワクチン学分野,

3東京大学医科学研究所 東京大学特任教授部門 粘膜免疫学部門,4カリフォルニア大学サンディエゴ校医学部 病理学講座 /内科学講座

YosukeKurashima1-4, HiroshiKiyono1, 3, 41Department of InnovativeMedicine/Mucosal Immunology andAllergyTherapeutics,

Graduate School ofMedicine, ChibaUniversity2Division of Clinical Vaccinology, International Research andDevelopment Center for MucosalVaccines, The Institute ofMedical Science, TheUniversity ofTokyo

3Division ofMucosal Immunology, IMSUTDistinguished ProfessorUnit4Department of Pathology/GastroenterologyMedicine, University of California, SanDiego

腸管における微生物との共生と排除の仕組みを担う分子機構の一つに,小腸のパイエル板M細胞を介したサルモネラ菌や大腸菌の捕捉機構が知られている.パイエル板M細胞に発現するマーカー分子の探索から,M細胞内への細菌取り組みに関わる糖タンパクが見出されている.その一方で,当該タンパクは膵臓腺房細胞に含まれる消化酵素の開口分泌顆粒膜上の 25 パーセント以

上を占める主要な糖タンパクであることが以前より示され,1日に 500 ミリリットル以上分泌される膵液にも多く含まれていると推察される.実際に,マウス消化管を用いた組織学的な解析から,膵臓腺房細胞に豊富に存在する糖タンパクが腸管管腔においてはファーター乳頭より口側では検出されず,肛門側において強い集積が認められていた.また,炎症性腸疾患においては膵臓糖タンパクに対する自己抗体が作られることも明らかとなっている.本発表では,上述のように未だ不明瞭な膵臓糖タンパクの役割について明らかにすることに加えて,

本来は消化酵素の分泌といういわゆる化学消化と代謝に重要な臓器である膵臓が腸内細菌に作用する分泌タンパクを産生し,「腸内環境の維持」に働くという新たな膵腸連関の可能性について紹介する.