13
敗血症性ショックの マネージメント 腎センター 雅俊・岡 英明 2013.2.15 QQ部カンファレンス 【主な参考資料】 Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2012 ・日本版敗血症診療ガイドライン UpToDate;敗血症および全身性炎症反応症候群:定義、疫学、および予後

敗血症性ショックの マネージメント...敗血症性ショックの マネージメント 腎センター 原 雅俊・岡 英明 2013.2.15 QQ部カンファレンス 【主な参考資料】

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 敗血症性ショックの マネージメント...敗血症性ショックの マネージメント 腎センター 原 雅俊・岡 英明 2013.2.15 QQ部カンファレンス 【主な参考資料】

敗血症性ショックの

マネージメント

腎センター

原 雅俊・岡 英明

2013.2.15 QQ部カンファレンス

【主な参考資料】

・Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2012

・日本版敗血症診療ガイドライン

・UpToDate;敗血症および全身性炎症反応症候群:定義、疫学、および予後

Page 2: 敗血症性ショックの マネージメント...敗血症性ショックの マネージメント 腎センター 原 雅俊・岡 英明 2013.2.15 QQ部カンファレンス 【主な参考資料】

敗血症診療のポイント

①敗血症性ショックの知覚 ・内科・外科問わず遭遇する機会がある

・『発熱なし』『低血圧なし』 『CRP正常』等の非典型例も少なくない

・原因不明の「意識障害」「頻呼吸」「高血糖(時に低血糖)」「アシドーシス」

を見逃さない

・速やかな検体検査・画像検査を行い、起炎菌不明・Focus不明を減らす

②初期蘇生

・Golden timeを意識した初期輸液と昇圧が予後を左右する

・乳酸値や平均動脈圧(MAP)、CVP、尿量等を指標とする

③全身管理

・DIC治療、栄養管理、血液浄化療法(CRRT)、エンドトキシン吸着療法、

免疫グロブリン投与(IVIG)等は日本と欧米のガイドラインで意見が

異なる部分がある →・・・→今回は割愛

Page 3: 敗血症性ショックの マネージメント...敗血症性ショックの マネージメント 腎センター 原 雅俊・岡 英明 2013.2.15 QQ部カンファレンス 【主な参考資料】

敗血症の定義は?

感染症に起因した全身性炎症反応症候群(SIRS)

1) 体温>38℃ or <36℃

2) 心拍数>90回/分

3) 呼吸数>20回/分 or PaCO2<32Torr

4) WBC>12000/μL or <4000/μL

※血培陽性(菌血症)の必要はない。

但し、臨床的には 集中治療を要する重症感染症(severe

sepsis, septic shock)のことを 『敗血症』 と呼ぶことが多い。

Page 4: 敗血症性ショックの マネージメント...敗血症性ショックの マネージメント 腎センター 原 雅俊・岡 英明 2013.2.15 QQ部カンファレンス 【主な参考資料】

SIRSの概念とsepsisの包含関係

SIRS Sepsis

Page 5: 敗血症性ショックの マネージメント...敗血症性ショックの マネージメント 腎センター 原 雅俊・岡 英明 2013.2.15 QQ部カンファレンス 【主な参考資料】

ショックの定義は?

臓器障害の指標

・低酸素血症(PaO2/FIO2<300)

・急な尿量減少(尿量<0.5mL/kg/hr)

・Crの上昇(>0.5mg/dL)

・凝固異常(PT-INR>1.5またはaPTT>60秒)

・イレウス(腸蠕動音の消失)

・血小板数減少(<10万/μL)

・高ビリルビン血症(T-Bil>4mg/dL)

臓器灌流の指標

・高乳酸血症(>2mmol/L)

・毛細血管再充満時間の延長、まだらな皮膚(斑状皮斑)

(capillary refilling time>2秒)

主要臓器への酸素供給や利用障害が生じ、

機能不全に陥る全身的な血流分布異常に基づく症候群

(低血圧の有無は問わない)

過去:低血圧を伴う循環不全状態

急性腎障害

(AKI)

敗血症では血圧低下の有無にかかわらず高乳酸血症が生じる!

Page 6: 敗血症性ショックの マネージメント...敗血症性ショックの マネージメント 腎センター 原 雅俊・岡 英明 2013.2.15 QQ部カンファレンス 【主な参考資料】

乳酸値測定の有用性

・敗血症性ショックの定義(SBP<90mmHg、MAP<70mmHg)に高乳酸血症(1mmol/L )を含めると、定義から外れる患者は34%で、死亡率は11%増加

=同じショックでも高乳酸血症の有無で予後が異なる

J Crit Care 2011; 26: 435.e9-14

・敗血症性ショックにおいて、乳酸値1.4~2.3mmol/Lの患者は≦1.4mmol/Lの患者より有意に死亡率、臓器不全が増加

・乳酸値1.4-2.3mmol/L群は2.3-4.4mmol/L群と予後は同等

=正常範囲内の乳酸値でも予後指標として有用

Shock 2012; 38: 4-10

・高乳酸血症の定義は1mmol/L以上 (日本版では≧2mmol/L)

・乳酸値≧4mmo/Lでearly goal-directed therapy (EGDT) を推奨

・乳酸値の正常化を目標とした蘇生(EGDT)により死亡リスクが39%減少 (=LACTATE studyではEGDTをEarly Lactate-Guided Therapy(ELGT)とも呼ぶ)

Am J Respir Crit Care Med 2010; 182: 752-61

・乳酸値の動的指標(時間加重平均や24時間での変化)は静的指標(入院時、最大値、最低値)よりも予後指標として有用

Critical Care 2011; 15: R242

Page 7: 敗血症性ショックの マネージメント...敗血症性ショックの マネージメント 腎センター 原 雅俊・岡 英明 2013.2.15 QQ部カンファレンス 【主な参考資料】

敗血症の原疾患、起炎菌と予後 ・感染巣; ①腹腔内感染 32.0% ②肺 25.9% ③血液 15.8%・・・カテーテル関連を含

④皮膚・軟部組織 10.2% ⑤尿路 8.3% ⑥その他 7.9%

・起炎菌; ①MRSA 22.0% ②大腸菌14.0% ③肺炎桿菌 11.8%

④MSSA 9.7% ⑤緑膿菌 9.2% ⑥エンテロバクタ属 7.4%

⑦肺炎球菌 6.0% 日本集中治療医学会 第1回Sepsis Registry調査(2007.10-12)

初期治療では死亡率の高いMRSA・緑膿菌が

関与している可能性を検討し薬剤選択を行う!

・市中感染より院内感染の方が予後不良

・死亡のオッズ比 ①MRSA 2.7 ②真菌(非カンジダ) 2.66 ③カンジダ 2.32

④MSSA 1.9 ⑤緑膿菌 1.6 ⑥混合感染 1.69

Crit Care Med 2006; 34: 2588-2595

・初期治療の有効性が生命予後改善に有意に関連

Antimicrob Agent Chrmother 2010; 54: 4851-4863

・90日以内の抗菌薬投与歴はグラム陰性桿菌(特に緑膿菌)において死亡率上昇と関連

Crit Care Med 2011; 39: 1859-65

・MRSA菌血症でも、適切な初期治療により予後が改善

J Antimicrob Chemother 2010; 65: 2658-2665

本症例では

CTで focus同定不可

↓ 血流感染susp

↓ 黄色ブドウ球菌

↓ 院内感染

↓ MRSA を想定

↓ MEPM+VCM を選択

Page 8: 敗血症性ショックの マネージメント...敗血症性ショックの マネージメント 腎センター 原 雅俊・岡 英明 2013.2.15 QQ部カンファレンス 【主な参考資料】

Sepsisの救命のためには…

早期診断と適切な治療の開始が重要な2本柱

適切な治療:EGDT, Surviving sepsis campaign(SSC) 2004, SSC 2008

早期診断:身体所見は非特異的なものが多い

バイオマーカーなどの検査も進歩に乏しい

➡結果として治療が進歩しても診断が遅れれば死亡率は増加してしまうため、依然として死亡率は高いまま。

Page 9: 敗血症性ショックの マネージメント...敗血症性ショックの マネージメント 腎センター 原 雅俊・岡 英明 2013.2.15 QQ部カンファレンス 【主な参考資料】

SSCG(surviving sepsis campaign GL)

Page 10: 敗血症性ショックの マネージメント...敗血症性ショックの マネージメント 腎センター 原 雅俊・岡 英明 2013.2.15 QQ部カンファレンス 【主な参考資料】

Early Goal-Directed Therapy (EGDT)①

輸液の実際

・細胞外液 1L/h(5%アルブミナーなら0.6~1L/h)をボーラス(30分以内)投与

目標達成まで1~2L/hを継続、達成後は50ml/h程度で維持

(∵過剰輸液は死亡率↑Crit Care Med 2011; 39: 259-265 Crit Care Med 2006; 34: 344-353)

※CVPは体内水分量の目安とならないとの報告がある。一方で急速輸液負荷時の初期12時間まではある程度正確との報告もある。

CVPが参考とならない場合には動的指標も参考とする。

①CVP呼吸性変動幅>1mmHg

②Leg Raise Test

※橈骨Aライン圧は通常より低値に出易く、昇圧剤により更に正確性が失われる。※上腕でのNIBP(非観血的血圧)とAライン圧のいずれがより正確かを常に吟味する。

①MAP>65mmHg ②尿量>0.5ml/kg/h ③CVP>8~12mmHg の早期達成

※乳酸クリアランス;2時間で10%以上の低下、6時間で30%以上の低下を目指す!

※目標尿量が達成できない場合にはMAP>80mmHgを目指した昇圧や腎代替療法を検討する!

Page 11: 敗血症性ショックの マネージメント...敗血症性ショックの マネージメント 腎センター 原 雅俊・岡 英明 2013.2.15 QQ部カンファレンス 【主な参考資料】

Early Goal-Directed Therapy (EGDT)②

【 昇圧剤使用の手順 】

①ノルアドレナリン 0.05γ→・・・→0.3γ

②低用量バゾプレッシン 0.01U/分→・・・→0.03U/分

③低用量ステロイド:ソルコーテフ®300mg/日以下×5~14日で漸減中止

④アドレナリン???(NAに対する効果が不十分な場合に検討)

(cold shockでは禁忌)

※ドパミンは推奨度↓・・・ 不整脈・死亡率↑、血管拡張(β2) 、炎症惹

起、

細菌増殖、好中球アポトーシス・遊走能↓

※むしろβ-blockerが死亡率改善との報告もある

※SSCG2012では適切なvolumeにも関わらず

①Low outputの心筋障害

②MAP維持しつつも組織低灌流が持続

の場合に、ドブタミン20γまでの追加を考慮、と記載。

Page 12: 敗血症性ショックの マネージメント...敗血症性ショックの マネージメント 腎センター 原 雅俊・岡 英明 2013.2.15 QQ部カンファレンス 【主な参考資料】

抗菌薬治療

原則広域抗菌薬

投与前に検体を採取すべきであるがこれによって抗菌薬投与

が遅れてはならない(1C)

Septic shock認知後1時間以内に投与すべき(1B)

感染源と思われる部位の画像診断と検体採取を積極的に行う

べき(1C)

Page 13: 敗血症性ショックの マネージメント...敗血症性ショックの マネージメント 腎センター 原 雅俊・岡 英明 2013.2.15 QQ部カンファレンス 【主な参考資料】

まとめ

Sepsisの治療予後は早期診断と治療開始によって規定される。

いかに早期に診断し、適切な処置(輸液負荷、抗菌薬使用、

感染巣のコントロール)を開始できるかが課題

現時点では絶対的な診断ツールは無くバイタルサイン、身体所見、検査所見等の総合的な判断が必要である。