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357 新教育課程下における 東京都公立中学校小規模校の 実技教科教員配置に関する研究 【要旨】 平成 24 4 月から完全実施となる平成 20 3 月告示の改訂中学校学習指導要領では、選 択教科及び総合的な学習の時間の時間数が削減されている。このことにより、もともと授業 時数の少ない音楽・美術・技術・家庭の教員が担当する授業時数はさらに減少し、特に小規 模校においては、他の教科の教員との授業時数の差が拡大することとなった。 これまで、先行調査や全日本中学校長会、東京都中学校長会からは、各学校の新教育課程 下における実技教科教員の配置に関する懸念の声が多々挙げられているが、「東京都公立中 学校小規模校の現在の各教科の教員配置状況」や「新教育課程下において実技教科(保健体 育を除く)の教員配置がどのように変化していくか」は明らかではない。 本研究では、東京都による統計資料や教員定数配当基準表などの基礎資料を参考にすると 共に、全学年合計 10 学級以下(特別支援学級を除く)の小規模中学校及びそこに勤務する 教員、さらに、区市町村教育委員会に対して行った調査に基づいた分析及び推察を行い、今 後東京都教育委員会が行ってくべき政策の方向性について考察した。 2012 2 政策研究大学院大学 教育政策プログラム MJE11006 松永 かおり

新教育課程下における 東京都公立中学校小規模校の 実技教科 ...education/epc/wp-content/uploads/2014/...-357 - 新教育課程下における 東京都公立中学校小規模校の

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    新教育課程下における東京都公立中学校小規模校の実技教科教員配置に関する研究

    【要旨】

    平成 24 年 4 月から完全実施となる平成 20 年 3 月告示の改訂中学校学習指導要領では、選

    択教科及び総合的な学習の時間の時間数が削減されている。このことにより、もともと授業

    時数の少ない音楽・美術・技術・家庭の教員が担当する授業時数はさらに減少し、特に小規

    模校においては、他の教科の教員との授業時数の差が拡大することとなった。

    これまで、先行調査や全日本中学校長会、東京都中学校長会からは、各学校の新教育課程

    下における実技教科教員の配置に関する懸念の声が多々挙げられているが、「東京都公立中

    学校小規模校の現在の各教科の教員配置状況」や「新教育課程下において実技教科(保健体

    育を除く)の教員配置がどのように変化していくか」は明らかではない。

    本研究では、東京都による統計資料や教員定数配当基準表などの基礎資料を参考にすると

    共に、全学年合計 10 学級以下(特別支援学級を除く)の小規模中学校及びそこに勤務する

    教員、さらに、区市町村教育委員会に対して行った調査に基づいた分析及び推察を行い、今

    後東京都教育委員会が行ってくべき政策の方向性について考察した。

    2012 年 2 月

    政策研究大学院大学 教育政策プログラム

    M J E 1 1 0 0 6 松永 かおり

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    目 次

    第 1 章 研究の概要 …………………………………………………………………………… 359

    1.1 問題意識と研究の目的 ………………………………………………………………… 359

    1.2 先行研究及び先行調査 ………………………………………………………………… 362

    1.3 研究の方法 ……………………………………………………………………………… 363

    第 2 章 東京都教育委員会の教員配置に関する政策 ……………………………………… 365

    2.1 東京都の中学校教員の種類 …………………………………………………………… 365

    2.2 東京都教員採用選考基準 ……………………………………………………………… 367

    2.3 東京都の教員定数配当基準 …………………………………………………………… 369

    第 3 章 小規模校における教員配置の現状 ………………………………………………… 371

    3.1 平成 23 年度の各学校規模の教員配置 ………………………………………………… 371

    3.2 各教科の教員の主任(主幹)の担当状況 …………………………………………… 376

    3.3 時間講師の現状 ………………………………………………………………………… 378

    3.4.1 兼務発令の現状 …………………………………………………………………… 383

    3.4.2 兼務発令に関する教員の意識 …………………………………………………… 384

    第 4 章 新教育課程下における教員配置の可能性 ………………………………………… 392

    4.1 各学校の新教育課程下の教員配置への意識 ………………………………………… 392

    4.2 各学校規模の教員配置予測 …………………………………………………………… 395

    第 5 章 研究のまとめと考察 ………………………………………………………………… 406

    5.1 研究のまとめ …………………………………………………………………………… 406

    5.2 本研究結果と東京都教育委員会の施策に関する考察 ……………………………… 408

    5.3 政策提言と今後の課題 ………………………………………………………………… 410

    5.4 おわりに ………………………………………………………………………………… 411

    参考文献 ………………………………………………………………………………………… 412

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    第 1章 研究の概要1.1 問題意識と研究の目的「中学校学習指導要領解説総則編(平成 20 年 9 月) 第 1 章 総説 3 改訂の要点」には「(1)

    学校教育法施行規則改正の要点」として、以下のように示されている。

    「学校教育法施行規則では教育課程編成の基本的な要素である各教科等の種類や授業時数

    等について規定しているが、今回の改正ではこれらの規定について次のような改正が行われ

    た。

    ① 選択教科について , 必修教科の教育内容や授業時数を増加することにより教育課程の共

    通性を高める必要があることから , 学校教育法施行規則第 73 条等で規定する標準授業時

    数の枠外で各学校において開設し得ることした。このため , 今回 , 同規則第 72 条を改正し ,

    中学校の教育課程は ,「必修教科 , 選択教科 , 道徳 , 特別活動及び総合的な学習の時間」に

    よって編成すると規定していたのを ,「国語 , 社会 , 数学 , 理科 , 音楽 , 美術 , 保健体育 , 技術・

    家庭及び外国語の各教科 , 道徳 , 総合的な学習の時間並びに特別活動」と改正した。その

    上で , 従来 , 同規則第 73 条及び別表第 2 において選択教科に充てる授業時数が規定されて

    いたが , 今回の改正により選択教科の授業時数は同条及び同表に規定する標準授業時数の

    枠外とした。

    ② 各学年の年間総授業時数については , 従来よりも , 第 1 学年から第 3 学年を通じ年間 35

    単位時間増加することとした。また , 各学年の各教科 , 道徳 , 総合的な学習の時間及び特

    別活動ごとの授業時数については , 各教科における基礎的・基本的な知識・技能の習得や

    それらの活用を図る学習活動を充実する観点から , 国語 , 社会 , 数学 , 理科 , 外国語等の授

    業時数を増加する一方 , 総合的な学習の時間についてはその授業時数を縮減するとともに ,

    アのとおり , 選択教科については標準授業時数の枠外で各学校において開設し得ることと

    した。」

    上記のように、平成 24 年度から完全実施 1 される中学校の教育課程下においては、表 1 —

    1 のように、授業時数が増加する教科と、現行のままの教科が存在する。また、総合的な学

    習の時間の時間数が減ると同時に、選択教科が標準授業時数 2 の枠外の位置付けとなった。

    全日本中学校長会教育情報部による「平成 21 年度『中学校教育に関する調査』まとめ」 3

    では、新学習指導要領に基づく教員配置について課題を述べており、「選択教科を裁量の時

    間 4 を利用しての実施は困難で、実技系の教科は選択の授業が削減されることにより、持ち

    1 平成 20 年 3 月に告示された中学校学習指導要領は平成 21 年度から平成 23 年度までの三年間の移行期間を経て、平成 24 年度に全校完全実施となる。

    2 新しい学習指導要領における中学校の標準授業時数は、各教科、総合的な学習の時間、道徳、学級活動の総授業時数を合わせたものであり、各学年 1050 時間となっている。改訂前は、これに選択の時間を合わせた総授業時数が各学年 980 時間であった。

    3 全日本中学校長会教育情報部「平成 21 年度『中学校教育に関する調査』まとめ」 http://www.zennichu.org/4-kakubu/joho-bu/h21/H21tyuugakukyouikunikansurutyousa-matome.pdf4 各学校においては、標準授業時数以外でも教育活動の一環として学校裁量の時間を設けることができ、

    教育課程内の教育活動の発展的な活動の時間や各教科等発展的な学習活動等の時間として活用したり、

    教育課程外の教育活動の時間として活用したりできる。

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    時間 5 が減少する。」としている。また、東京都中学校長会は、平成 23 年 6 月、東京都教育

    庁に対して「中学校教員の超過勤務の実態や各教科を担当する教員の持ち授業時数のアンバ

    ランス等が、適正な教育課程の実施を阻害する要因となっている」として、人的条件の整備

    についての要請を行った。

    今後、学校、特に小規模校 6 において、音楽・美術・技術・家庭の教員の持ち授業時数が

    他教科と比べて極端に減少することが、新教育課程下における教育課程の編成と適正な実施

    に大きく影響することが予測される。

    表 1 — 1「学習指導要領に示された各教科等の標準授業時数の変化」【平成 10年度改訂学習指導要領】      【平成 20年度改訂学習指導要領】

    都内公立中学校に配当される教員の定数は、「公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員

    定数の標準に関する法律」を基準に東京都が作成した「東京都公立中学校教職員定数配当一

    般方針」に基づいて決定されている。「東京都公立中学校教職員定数配当一般方針」には、

    副校長 7 及び教諭等 8、養護教諭、栄養教諭等 9、事務職員、特別支援教育諸学校の教員定数

    が各学校規模で定められており、各学校はこの方針に基づき、学校の実情に応じた各教科の

    教員の配当を申請する。

    筆者がかつて教員として勤務した 3 つの中学校現場においては、少子化や学校選択制に伴

    う学級減によって定数が削減された場合、まず、過員としての異動対象とされるのが、技術・

    家庭のどちらかの教員や、音楽・美術のどちらかの教員であった。このように、学校規模と

    5 教員一人が教科、総合的な学習の時間、道徳、学級活動のために受け持つ授業の時間の総数。6 法令による小規模校の定義は、学校教育法施行規則第 41 条「小学校の学級数は、12 学級以上 18 学級以

    下を標準とする。ただし、地域の実態その他により特別の事情のあるときは、この限りではない。(第

    79 条で中学校に準用する)」とされている。7 東京都では小学校、中学校、高等学校において「教頭」の職を、「副校長」としている。8 東京都には、教諭の他、主幹教諭、主任教諭がいる。9 栄養職員を含む。

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    教員定数によって全ての教科の教員を配置することができない場合は、「標準授業時数の多

    い教科」や「国語、社会、数学、理科、外国語などのいわゆる 5 教科」を優先して教員が配

    置され、「授業時数の少ない教科」を時間講師で対応する傾向が強かった。

    「授業時数の少ない教科」とは、表 1 — 1 にみられるように、実質的には音楽・美術・技術・

    家庭といった、保健体育を除く実技教科を対象としており、当該教科の教員は、「正規採用

    教員を置かず、時間講師のみで対応していることが他教科よりも多い」ということとなる。

    しかしながら、これまで「各学校の正規採用教員に各教科担当者が何名ずつ配置されている

    か」などの具体的な配置状況等について、実態調査が行われた例はない。このため、「実際

    に各学校において、各教科の教員の配置がどのように行われているのか」については、現状

    が把握できていない状況である。

    また、平成 24 年度からの新教育課程完全実施に伴った各学校の教員配置の変化の可能性

    についての調査研究についても、各教科の教員の数に至るまでの詳細については行われてい

    ない。東京都内の学校における今後の配置の予測についても、同様な状況である。

    各教科を担当する正規採用教員が一人もいない場合には、当該教科について、学習指導に

    関する指導計画の作成から授業の実施、学習評価や成績処理まで、時間講師のみで担当する

    こととなる。詳細については後述するが、時間講師とは正規採用教員のように校務全般を担

    当するのではなく、時間単位で授業のみを担当している非常勤の教員である。

    時間勤講師には、「東京都教員採用選考 10 を受験していない者や合格していない者」、「正

    規採用教員としての経験実績が無い者」も多く、採用選考は面接のみである。現在、時間講

    師への授業力等に関するチェック機能が無く、法令上では研修の機会も保障されていない。

    時間講師のみで各教科の授業が行われている学校はこれまでにも多数あるが、時間講師に

    よる授業の実態等を把握する内容の調査報告等はこれまで行われたことがない。

    さらに、全日本中学校長会教育情報部による「平成 21 年度『中学校教育に関する調査』

    まとめ」では、「平成 24 年度学習指導要領の完全実施及び移行期に予測される課題及び要望

    事項」の中で、「実技教科の授業時数が減少し、2 校以上の兼務教員が増えたり、非常勤講

    師での対応となるであろう」としている。実際、他府県では、茨城県笠間市 11 のように、授

    業時数の少ない音楽や美術の教員が、小中一貫教育及び小中連携の一環として、近隣の小学

    校で授業を行うなど、教員が校種を越えた複数の学校を兼務している状況がある。「時間数

    の少なくなった教科の教員は、複数校を兼務する方向になるのではないか。」ということに

    ついては、東京都内の実技教科の教員間でも不安視されている。

    現在、東京都の中には品川区や三鷹市に代表されるように、小中一貫教育や小中連携が推

    進されている学校は存在しているが、実際に兼務により校種を越えて授業を行っている教員

    10 東京都教育委員会「平成 24 年度東京都公立学校教員採用候補者選考実施要綱」 http://www.kyoiku.metro.tokyo.jp/buka/jinji/24senko/24jissi.htm11 茨城県 笠間市教育委員会「中学校教諭の小学校教諭兼務発令による連携」http://www.ed.city.kasama.

    ibaraki.jp/kyoiku/education/additional-post.html

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    の事例があるのか、詳細についての調査や指導内容は公表はされていない。

    このように、新しい学習指導要領の完全実施を平成 24 年度に迎えるに際して、新教育課

    程下における実技教科教員の配置に関する声は多々ある中で、「現在の東京都公立中学校小

    規模校の各教科の教員配置状況」を明らかにするとともに、「新教育課程下において特に実

    技教科(保健体育を除く)の教員配置がどのように変化していくか」について調査研究及び

    推察を行い、今後教育委員会が行ってくべき政策の方向性について考察する必要があると考

    えた。

    1.2 先行研究及び先行調査文部科学省の研究委託により東京大学大学院教授小川正人が行った「教員勤務実態調査」

    (平成 19 年 3 月) 12 は、教員の多忙化増大を明らかにしたが、その調査は平成 10 年改訂の学

    習指導要領に基づいた時期の勤務実態を明らかにしたものである。平成 24 年度に新教育課

    程が完全実施された場合は、さらに多忙化が激しくなるのでは、という不安が、全日本中学

    校校長会教育情報部による「平成 21 年度『中学校教育に関する調査』のまとめ」で述べら

    れている。

    平成 23 年 12 月にベネッセ教育開発センターが発表した「中学校の学習指導に関する実態

    調査報告書」 13 では、「新学習指導要領全面実施で不安に感じること」について、教務主任の

    87.4%が「教員の多忙化の加速」に対して「とても不安」「やや不安」と回答しており、新

    教育課程の完全実施により多忙化が加速するという認識が高いことが明らかとなっている。

    また、次に不安を感じているのは、「担当教科による教員間の負担のアンバランス」(83.5%)、

    次いで「人員の不足」(78.6%)という結果である。

    1.1 で述べたように、国語、社会、数学、理科、保健体育、外国語で授業時数が増加した半面、

    音楽、美術、技術・家庭は教科の時数については増減がないものの、総合的な学習の時間の

    削減や、これまで教育課程内で行っていた選択教科が標準授業時数外の取り扱いとされ、持

    ち時数に入らなくなった影響により、実技教科教員の持ち時数は、実質的に減少する。

    このように、全日本中学校長会や東京都公立中学校長会が指摘してきた教科間の持ち時数

    の差は一層広がる。多忙化の進む学校現場において、今後、校務分掌等の仕事を調整するな

    ど、校務全体で負担のバランスをとり、一部の教員に仕事が集中することがないような取組

    が必要とされる。

    ベネッセ教育研究開発センター「第 5 回学習指導基本調査小・中学校版」 14 では、首都大

    学東京准教授西島央が、「学校規模による違いも、提供できる学校環境に差をもたらす。まず、

    12 文部科学省「平成 18 年度文部科学省委託調査研究報告書「教員勤務実態調査」 http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2011/07/05/1308064_1.pdf13 ベネッセ教育開発センター「中学校の学習指導に関する実態調査報告書」 http://benesse.jp/berd/center/open/report/gakusyuu_jittai/2011/index.html14 ベネッセ教育研究開発センター「第 5 回学習指導基本調査小・中学校版」 http://benesse.jp/berd/center/open/report/shidou_kihon5/sc_hon/index.html

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    当然のことながら教員数が違う。1 ~ 6 学級の小規模校では本務教員数が 15 人以下の学校

    が 90%を越えているのに対して、13 学級を超える大規模校では、ほぼ 100%の学校で 21 人

    以上の本務教員がいる。教員数の多さは、学校としてさまざまな教育実践に取り組む体力が

    あることを意味する。」と述べた上で、「とくに、大都市に組み込まれたことで取り残された

    小規模校や、小都市や郡部で統廃合の結果つくり出された大規模で、これからどのような学

    習指導や教員生活、そして生徒の学習や意識のもちようが形成されていくのか、潮流の方向

    をしっかり注視していく必要がある」と述べている。

    なお、先行研究はいずれも「多忙化している教員の勤務実態」「新学習指導要領に基づく

    指導やその体制」について述べられているものであり、各教科の具体的な教員の配置状況に

    ついて調査しているものではない。

    1.3 研究の方法平成 23 年度の東京都の公立中学校及び中等教育学校数は 627 校 15 である。本研究では、

    そのうち都立高等学校附属中学校、都立中等教育学校、区立中等教育学校、区市町村立通信

    制中学校及び分校等(等は八王子市立高尾山学園) 16 を除いた 619 校を研究の対象として考

    える。

    法令による小規模校の定義は、学校教育法施行規則第 41 条「小学校の学級数は、12 学級

    以上 18 学級以下を標準とする。ただし、地域の実態その他により特別の事情のあるときは、

    この限りではない。(第 79 条で中学校に準用する)」という記述に基づき、通常の学級の数

    が 3 学年合計 11 学級以下のものとして実務上扱われている。本研究では、これを参考にし、

    平成 23 年度の都内公立中学校のうち約半数となる、通常の学級の数が 10 学級以下の学校

    317 校(51%)を小規模校として捉え、東京都による統計資料や教員定数配当基準表などの

    基礎資料を参考にすると共に、学校及び教員を対象に調査を行った。

    具体的な調査の対象は以下の通りである。

    (1)都内 3 学年 10 学級以下(特別支援学級を除く)の区市町村立中学校(回答者は校長

    または副校長)

    (2)通常の学級で音楽・美術・技術・家庭を担当する正規採用教員 

    (3)通常の学級で国・社・数・理・外国語を担当する正規採用教員のうち、最も持ち授業

    時数の多い教員 

    (4)通常の学級で音楽・美術・技術・家庭を担当する時間講師

    15 東京都教育委員会「学校統計調査」による。16 病気や経済的な理由を除き、何らかの心理的、情緒的、身体的あるいは社会的要因や背景により、登校

    したくてもできない児童・生徒のために設立された小・中一貫校である。

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    さらに、区市町村教育委員会 17 に対しても調査を実施し、新教育課程下における教員配置

    に関する取組の現状と課題等について把握した。

    本研究は、先行研究・先行調査や、東京都教育委員会等が公表している統計資料などの基

    礎資料を参考にすると共に上記の調査結果に基づき、「東京都公立中学校小規模校の現在の

    各教科の教員配置状況」を明らかにするとともに、学校や教育委員会における実態と今後へ

    の意向を把握した上で「新教育課程下において特に実技教科(保健体育を除く)の教員配置

    がどのように変化していくか」について研究を行うことで、新教育課程下の教員配置の変化

    の形態を推察し、東京都教育委員会が現在行っている施策の現状と今後の対応の在り方につ

    いて考察したものである。

    表 1 — 2 「調査の対象と回収状況」

    17 東京都の 62 区市町村のうち、指導主事が在籍している 55 区市町村を対象とした。

  • - 365 -

    第 2章 東京都教育委員会の教員配置に関する政策2.1 東京都の中学校教員の種類都内の公立中学校には、校長、副校長のほか、国語、社会、数学、理科、音楽、美術、保

    健体育、技術・家庭、外国語の各教科(分野)を担当する教員及び養護教諭が(1)正規採

    用教員、(2)期限付任用教員、(3)臨時任用教員、(4)時間講師、(5)再任用教員、(6)区

    市町村独自採用教員、のいずれかの立場で、配置されている。

    (1)~(6)の教員の立場や身分等の概要は以下のとおりである。

    (1)正規採用教員 18

    東京都教育委員会が行う教員採用選考に合格し、採用された者である。都道府県が給与負

    担する「都費負担教職員」であり、授業、学級担任、校務分掌、部活動など、学校における

    全教育活動を担当する。また、その職責を遂行するために、絶えず研究と修養に努めること

    とされている。任用期間は 60 歳の定年までで、その間地方公務員法の適用を受けて給料、

    各種手当が支給される。勤務時は 1 週間について 38 時間で、休日は土曜日、日曜日、祝日

    及び年末年始、年次有給休暇は年間 20 日である。その他、病気休暇、妊娠出産休暇、慶事

    休暇、生理休暇、夏期休暇、介護休暇、育児休暇など、勤務条件が保証されている。

    (2)期限付任用教員 19

    東京都教育委員会が行う教員採用選考に不合格だった者の中で、成績が上位であり、期限

    付き任用教員採用候補者の基準に達したと判断された者から任用される。原則として、教員

    の病気休職や退職、学級増など教員の欠員が生じた場合に、臨時的任用教員として学校に勤

    務する。勤務内容は正規教員と全く同様であり、授業だけでなく学級担任や校務分掌も担当

    する。任用期間は最長で 1 年間であり、年度を越えたり、年度をまたがって任用されたりす

    ることはない。任用期間中は地方公務員法の適用を受けることになり、任用期間に定めがあ

    ること以外はすべて正規教員と同様の扱いとなる。給料、各種手当、勤務時間、休暇など、

    給与・勤務条件についても、一部を除き正規採用教員と同じであり、6 か月以上勤務すると

    退職手当の支給対象となる。

    (3)臨時的任用教員 20

    東京都公立学校臨時的任用教職員採用候補者選考により合格した者で、公立学校の教諭、

    養護教諭及び寄宿舎指導員が妊娠出産休暇又は育児休暇をとる場合、その期間中代替として

    臨時的に任用される。勤務内容は正規教員と全く同様であり、授業だけではなく学級担任や

    校務分掌も担当する。任用期間は最長で 1 年間であり、年度を越えたり、年度をまたがって

    任用されたりすることはない。任用期間中は地方公務員法の適用を受けることになり、任用

    期間に定めがあること以外はすべて正規教員と同様の扱いとなる。給料、各種手当、勤務時

    間、休暇など、給与・勤務条件についても一部を除き正規採用教員と同じであり、6 か月以

    18 東京都教育委員会「平成 24 年度東京都公立小学校教員採用候補者選考実施要綱」による。19 東京都教育委員会「平成 24 年度東京都公立小学校教員採用候補者選考実施要綱」による。20 東京都教育委員会「平成 23 年度東京都公立学校臨時的任用教職員採用候補者選考実施要綱」による。

  • - 366 -

    上勤務すると退職手当の支給対象となる。

    (4)時間講師(非常勤講師) 21

    各学校は、東京都教育委員会が示す「東京都公立小・中学校講師時数配当一般方針」に基

    づき、教科編成上の端数時数、指導方法工夫改善などの事由により時間講師が必要な際に東

    京都教育委員会や区市町村教育委員会に申請及び手続を行い、時間講師(非常勤講師)を配

    置することができる。

    非常勤講師は東京都教育委員会及び区市町村教育委員会が行っている「非常勤講師名簿登

    録制度」に基づいて登録した者で、学校で非常勤講師任用の必要が生じた際に、校長の面接

    により採用され、校長の学校経営方針やカリキュラムに沿って正規教員と同様に授業を行う。

    担当する授業時数は 1 週間を単位として 26 時間を超えないこととされている。学級担任や

    校務分掌は行わず、授業のみを担当する。任用期間は任用の事由により異なるが、年度を越

    えたり、年度をまたがって任用されたりすることはない。地方公務員法の適用を受けること

    はない。給料は勤務時間数に応じて支給され、1時間の報酬単価は1,890円から2,890円である。

    (5)再任用教員 22

    東京都では、いわゆる団塊の世代を中心とした毎年 2000 人を超える退職者が 10 年以上続

    くことが見込まれるため、この退職者を再任用教員として積極的に活用することとした。平

    成 19 年にこれまでの非常勤講師条例を改正し、時間講師とは別の日勤の講師(非常勤教員)

    を設けた。再任用教員は、教員経験年数等の一定要件を備えている者を対象に選考を実施し

    て任用している。勤務日数は月平均 16 日とし、月毎に勤務日数を設定している。1 日の勤

    務は原則 8 時間であり、職務内容例は、学力向上のための指導(ティームティーチング、少

    人数指導、補講・補習等)、校務分掌業務、副担任業務・教育相談業務、保護者対応・小一

    問題対応・初任者等若手教員への支援・助言等である。報酬は月額制である。

    (6)区市町村独自採用教員

    政府の構造改革特区で認めている「市町村費負担教職員制度」 23 を活用し、地域の実情や

    ニーズに対応したきめ細かな教育地域の特色ある教育を進めるため、区市町村が独自の財源

    で常勤の教員を採用している。東京都では杉並区 24、品川区 25 において固有の正規採用教員

    を置いている。

    21 東京都教育委員会ホームページ「東京都公立学校時間講師を希望される方へ」 http://www.kyoiku.metro.tokyo.jp/buka/jinji/hijyoukin.htm「都立学校等に勤務する日勤講師に関する規

    則」による。

    22 東京都教育ビジョン(第 2 次)に示された 12 の「取組の方向」、「都立学校等に勤務する日勤講師に関する規則」による。

    23 文部科学省「市町村費負担教職員制度の概要」による。24 杉並区教育委員会は、「杉並師範館における養成を経た杉並区学校教育職員の採用」を行っていたが、平

    成 23 年度をもって終了した。杉並区教育委員会ホームページ「杉並区学校教育職員の採用終了について」 http://www.kyouiku.city.suginami.tokyo.jp/teacher/saiyo2.html25 品川区教育委員会ホームページ「平成 24 年度 品川区学校教育職員採用選考実施要綱」による。http://www.city.shinagawa.tokyo.jp/ct/other000024900/h24koyukyoinsaiyoyoko.pdf

  • - 367 -

    教科担任制である中学校において、「どの教科の教員を何名配当するか」については、法

    令による具体的な定めはなく、各学校は、学校ごとの実情に応じて各教科の教員の配当を申

    請している。

    2.2 東京都教員採用選考基準 26

    都内の各区市町村では、教育政策の一環として、小中一貫教育や小中連携の推進へ向け教

    員への兼務発令を実施しているところもある。そのため、都内には小学校と中学校両方にお

    いて授業を行う教員が存在する。教員の配置はこのような区市町村教育委員会の政策に影響

    して行われているが、小中一貫教育や小中連携では、校種を越えて授業を行ことができるよ

    う、各教科の教員免許の取得状況が重要となる。

    ここでは、東京都公立小学校、中学校及び高等学校に勤務する正規採用教員がどのような

    教員免許を取得しているか、また校種を越えて授業を行うことが可能な場合について確認する。

    「平成 24 年度東京都公立学校教員採用候補者選考実施要綱」によると、本論文において主

    に対象となる中学校の音楽・美術・技術・家庭の教員は教員採用試験の形態がそれぞれ異なっ

    ている。

    (1)音楽、美術

    音楽・美術の教員を目指す受験者が、中学校又は高等学校への採用を希望する場合には、

    受験者は「中学校・高等学校共通」で受験することとなる。この場合、採用後は区市町村立

    中学校又区立中等教育学校、都立高等学校、都立中学校、都立中等教育学校のいずれかへの

    配属となる。

    また、音楽・美術の教員を目指す受験者が、中学校教員又は小学校の専科教員への採用を

    希望する場合には、受験者は「小学校・中学校共通」で受験することとなる。採用後は、本

    人の希望を考慮した上で、区市町村立小学校、区市町村立中学校、都立中学校、都立中等教

    育学校のいずれかへの配属となる。

    その際、小学校では、取得免許の関係により、担任をもつことはできない。

    (2)技術

    技術は中学校のみで存在する教科のため、受験者は「中学校技術」としての受験すること

    となる。

    (3)家庭

    家庭の教員を目指す場合、中学校、高等学校、小学校での専科教員のいずれを指す場合も、

    受験者は「小学校・中学校・高等学校共通」で受験することとなる。採用後は、本人の希望

    を考慮した上で、区市町村立小学校、中学校、中等教育学校、また、都立高等学校、都立中

    学校及び都立中等教育学校へ配属されることとなる。

    その際、小学校では取得免許の関係により、担任をもつことはできない。

    26 平成 24 年度東京都公立小学校教員採用候補者選考実施要綱による。

  • - 368 -

    表 2 — 1 「平成 24年度 東京都教員採用選考実施要綱に見る募集する校種・教科の受験に     必要な免許状」

    募集する校種等・教科(科目等) 採用見込者数必要な免許状

    ◆免許状の種類(専修・1種・2種)は問わない

    小学校 1,600 名 小学校教諭普通免許状

    中学校・

    高等学校共通

    国語、社会(地理

    歴史)、社会(公民)、

    数 学 理 科( 物 理、

    化学、生物)英語、

    音楽、美術、保健

    体育

    900 名

    受験する教科(科目)の中学校教諭普通免許状

    受験する教科(科目)の高等学校教諭普通免許

    ◆中学校、高等学校の両方の免許状が必要

    小学校・

    中学校共通

    音楽

    美術(図画工作)100 名

    受験する教科の中学校教諭普通免許状

    小学校・

    中学校・

    高等学校共通

    家庭

    30 名

    家庭の中学校教諭普通免許状

    家庭の高等学校教諭普通免許状

    ◆中学校、高等学校の両方の免許状が必要

    中学校技術 技術 30 名 技術の中学校教諭普通免許状

  • - 369 -

    2.3 東京都の教員定数配当基準東京都は、平成 23 年 4 月に、「公立義務教育諸学校の学級編成及び教職員定数の標準に関

    する法律の一部改正」に伴う、「東京都公立小学校、中学校及び中等教育学校前期課程の学

    級編成基準の一部改正」として、「教職員定数配当一般方針」の一部改正を行った。

    各学校規模の教員定数は、表 2 — 2 及び下記のとおりである。各学校はこの教職員定数配

    置表に基づき、学校の実情に応じた各教科の教員の配当を、区市町村教育委員会及び東京都

    教育委員会に申請する。

    なお、本論文では、表中の太枠内が対象となる。

    東京都教育委員会「東京都公立小学校、中学校及び中等教育学校前期課程の学級編成基準の一般方針」による記述(1)校長(統括校長 を含む)は本校に 1 人とする。

    (2) 副校長(分校主任を含む)は、1 学級から 26 学級まで 1 人、26 学級から 40 学級 2 人とする。

    (3) 一般教諭(主幹教諭、主任教諭を含む)は、平成 23 年度に編成した学級数を基礎とし

    て算出し、各教科担任教諭及び特別支援学級等担任並びに指導方法の改善等に伴う加配

    教員等の合計数とする。

      ① 各教科担任教諭

    表の教諭定数のとおりである(18 学級以上校には生活指導担当分の定数を含む)。

    ただし、「島しょ地区の 3~ 5学級の学校については、別表の定数に 1人付加する。また、

    第一学年の生徒数が別に定める規模に該当した結果、定数配当基準上、教諭の数が増加

    した場合、その差分を付加する。(ただし、中等教育学校及び都立中学校を除く)。」とする。

      ② 指導方法の改善に伴う加配教員

    「指導方法の改善に伴う教職員配置の基本的な考え方」(平成 16 年 10 月 5 日付教

    人人第 338 号)に基づいて、ティームティーチング・少人数授業等を実施する加配数

    を各区市町村教育委員会(島しょ地域を除く。)及び教育庁各出張所ごとに決定するこ

    ととする。

  • - 370 -

    表 2 — 2「平成 23年度中学校教職員定数配当基準表」 27

    学級数 教員定数事務職員定数

    計 学級数 教員定数事務職員定数

    校長 副校長 教諭 養護教諭 校長 副校長 教諭養護教諭

    1 1 1 4 1 1 8 21 1 1 33 1 1 37

    2 1 1 5 1 1 9 22 1 1 34 1 1 38

    3 1 1 9 1 1 13 23 1 1 36 1 1 40

    4 1 1 9 1 1 13 24 1 1 37 1 1 41

    5 1 1 9 1 1 13 25 1 1 39 1 1 43

    6 1 1 10 1 1 14 26 1 1 39 2 1 44

    7 1 1 12 1 1 16 27 1 1 41 2 1 46

    8 1 1 13 1 1 17 28 1 1 42 2 1 47

    9 1 1 14 1 1 18 29 1 2 44 2 1 50

    10 1 1 15 1 1 19 30 1 2 45 2 1 51

    11 1 1 16 1 1 20 31 1 2 47 2 1 53

    12 1 1 18 1 1 22 32 1 2 49 2 1 55

    13 1 1 19 1 1 23 33 1 2 51 2 1 57

    14 1 1 20 1 1 24 34 1 2 53 2 1 59

    15 1 1 22 1 1 26 35 1 2 54 2 1 60

    16 1 1 24 1 1 28 36 1 2 55 2 1 61

    17 1 1 25 1 1 29 37 1 2 57 2 1 63

    18 1 1 27 1 1 31 38 1 2 59 2 1 65

    19 1 1 29 1 1 33 39 1 2 60 2 1 66

    20 1 1 31 1 1 35 40 1 2 61 2 1 67

    注・学級数は 40人編成による学級数とする。 ・分校は、校長定数、養護教諭定数及び事務職員定数を減ずる。 ・副校長及び養護教諭の定数は、特別支援学級(固定)を含む学級数を基準とする。 ・18学級以上校には、生活指導担当分の定数を含む。

    27 東京都教育委員会「平成 23 年度 東京都公立小学校、中学校及び中等教育学校前期課程の学級編成基準の一般方針」による。

  • - 371 -

    第 3章 小規模校における教員配置の現状3.1 平成 23年度の各学校規模の教員配置東京都教育委員会が公表している学校統計調査 28 では、各学校の学級数や生徒数、教員数

    は掲載されているが、各教科の教員の人数など、具体的な配置の状況まで把握することはで

    きなかった。

    前述のとおり、東京都は各学校の教員の配置について「東京都公立中学校教職員定数配当

    一般方針」を定めており、各学校はこの方針に基づき、学校ごとの実情に応じて各教科の教

    員の配当を申請している。本研究では、調査対象校が、この「東京都公立中学校教職員定数

    配当一般方針」に基づき、平成 23 年度の通常の学級を担当する各教科(分野)の正規採用

    教員数、区市町村が独自に採用している正規採用教員、期限付任用教員、臨時任用教員、再

    任用教員及び時間講師をどのように配置しているかを調査した。回答のあった 94 校の結果

    を各学校規模でまとめると次頁の表 3 — 1 のようになった。

    表 3 — 1 から確認できる特徴は以下のとおりである。

    (1)各教科(分野)の平均正規採用教員配置数は、国語1.7人、社会1.3人、数学2.3人、理科1.7人、

    音楽 0.9 人、美術 0.7 人、保健体育 1.6 人、技術 0.8 人、家庭 0.3 人、外国語 2.0 人である。

    数学、外国語の平均正規採用教員配置数は 2 人を超えており、音楽、美術、技術、家庭は

    いずれも平均正規採用教員配置数が 1 人に満たない。

    (2)家庭は回答のあった 94 校のうち、正規採用教員の配置が 28 名(29.7%)であったのに対し、

    時間講師の配置が 68 名(72.3%)である。家庭は、正規採用教員の数よりも、時間講師

    の数の方が多いことが明らかとなった。

    この結果には、第 1 章で述べた「各教科の標準授業時数の差」に加え、各学校が実施して

    いる「教員の加配措置の理由」 29 も影響している。

    図 3 — 1 は「加配されている教員の有無についてのグラフ」である。94 校中、「加配され

    ている教員がいる」という学校が 83 校(88%)であった。また、「加配されている教員の数」は、

    図 3 — 2 のとおり、最も多いのが、2 人(41%)、次いで、1 人(30%)、3 人(23%)の順である。

    28 東京都教育委員会ホームページ「平成 23 年度 公立学校統計調査報告書【学校調査編】」による。 http://www.kyoiku.metro.tokyo.jp/toukei/23gakkoucho/toppage.htm29 「平成 23 年度 東京都公立小学校教職員定数配当一般方針」では、「指導方法の改善に伴う加配教員とし

    て、ティームティーチング・少人数授業等を実施する加配数を各区市町村教育委員会(島しょ地域を除く)

    及び各教育庁出張所ごとに決定する」としている。

  • - 372 -

    表 3 — 1 「平成 23年度の各学校規模の教員配置」

  • - 373 -

    図 3 — 3 は、「教員が加配されている理由」をまとめたグラフである。教員が加配されてい

    る理由として最も多いのは、「数学の少人数指導をしているため(64 校)」、次いで「外国語

    の少人数指導をしているため(44 校)」、「理科の少人数指導をしているため(20 校)」の順

    であった。

    図 3 — 1 「加配されている教員の有無」   図 3 — 2 「加配されている教員の数」

    図 3 — 3 「教員が加配されている理由」

    表 3 — 1 では、最も平均正規採用教員数の多い教科が数学、次いで外国語、理科と続いて

    いる。元々標準授業時数が多いことに加え、少人数指導の実施による教員の加配が、他教科

    との正規採用教員配置数の差につながっていることが考えられる。

    いる83校88%

    いない11校12% 1人

    30%

    2人41%

    3人23%

    加配されている教員の有無 加配されている教員の数4人以上6%

    0

    0

    8

    2

    65

    20

    44

    9

    2

    13

    20 40 60 80

    研究指定を受けているため

    国語の少人数指導をしているため

    社会の少人数指導をしているため

    数学の少人数指導をしているため

    理科の少人数指導をしているため

    外国語の少人数指導をしているため

    不登校生徒への対応のため

    40人未満の学級編成を実施しているため

    その他の理由

    教員が加配されている理由(複数回答)

  • - 374 -

    さらに、保健体育は平均正規採用教員配置数が 1.6 人と、他の実技教科に比べて多い結果

    となっている。このことは、標準授業時数が多いことに加えて、各学級を男女別に分けて授

    業を実施している実態がほとんどであることが理由であると考えられる。

    表 3 — 1 からは、「音楽、美術、技術、家庭はいずれも平均正規採用教員配置数が 1 人に満

    たない」ことが明らかとなったため、各学校の「正規採用教員が配置されていない教科の有無」

    及び「当該教科に正規採用教員が配置されていない理由」を確認したところ、表 3 — 2、表 3 —

    3、及び図 3 — 4 のような結果となった。

    表 3 — 2 「各学級規模の正規採用教員が配置されていない教科の有無」

    表 3 — 3 「各教科に正規採用教員が配置されていない理由」

  • - 375 -

    図 3 — 4 「各教科に正規採用教員が配置されていない理由」

    教科に関係なく持ち時間数の多い教科を複数配置するため  20%

    教科に関係なく持ち時間数の多い教科を複数配置するため  20%

    5教科の教員を複数配置するため  0%

    時間数増加の教科の教員を複数配置するため  0%

    学級減により生じた過員解消のため  20%

    その他60%

    正規採用教員が配置されていない理由(音楽)

    学級減により生じた過員解消のため  11%

    教科に関係なく持ち時間数の多い教科を複数配置するため  32%

    教科に関係なく持ち時間数の多い教科を複数配置するため  32%

    5教科の教員を複数配置するため  46%

    時間数増加の教科の教員を複数配置するため  0%

    その他11%

    正規採用教員が配置されていない理由(美術)

    学級減により生じた過員解消のため  7%

    時間数増加の教科の教員を複数配置するため  7%

    教科に関係なく持ち時間数の多い教科を複数配置するため  29%

    教科に関係なく持ち時間数の多い教科を複数配置するため  29%

    5教科の教員を複数配置するため  36%

    その他21%

    正規採用教員が配置されていない理由(技術)

    学級減により生じた過員解消のため  9%

    教科に関係なく持ち時間数の多い教科を複数配置するため  44%

    教科に関係なく持ち時間数の多い教科を複数配置するため  44%5教科の教員

    を複数配置するため  28%

    時間数増加の教科の教員を複数配置するため  5%

    その他14%

    正規採用教員が配置されていない理由(家庭)

  • - 376 -

    回答のあった 94 校のうち、正規採用教員が配置されていない教科(分野)がある学校は

    81 校(86.2%)である。そのうち、国語・社会・数学・理科・外国語で正規採用教員が配置

    されていない学校は、「社会が期限付任用教員のみ配置されている」という学校が 1 校のみ

    であった。また、保健体育に正規採用教員が配置されていない学校はなかった。

    音楽、美術、技術、家庭の正規採用教員が配置されていない学校は、94 校中、音楽 5 校

    (5.3%)、美術 28 校(29.8%)、技術 14 校(14.9%)、家庭 64 校(68.1%)であった。

    音楽、美術、技術、家庭の、正規採用教員が配置されていない理由で最も多いものは、

    美術…5 教科の教員を複数配置するため(46.4%)

    技術…5 教科の教員を複数配置するため(35.7%)

    家庭…教科に関係なく持ち時数に多い教科を複数配置するため(43.8%)

    音楽…その他(60.0%)

    であった。音楽の教員を配置していない理由として、「5 教科の教員を複数配置するため」

    と回答した学校はなかった。また、音楽の理由で最も多い「その他」とは、表 3 — 1 や、具

    体的な記述から、「音楽を担当する教員が期限付任用教員、臨時任用教員、再任用教員である」

    ことがわかった。

    正規採用教員を配置していない理由で「その他」に回答した学校は、具体的な記述として、

    「生活指導上保健体育は必要」「学校行事のために、保健体育と音楽は正規採用教員を欠かせ

    ない。技術・家庭をどちらか優先する場合、技術の講師確保は、家庭に比べて難しい。」と

    いうものがあった。

    3.2 各教科の教員の主任(主幹)の担当状況「生活指導上、保健体育の教員は正規採用教員が必要」という意見をもった学校があったが、

    校務分掌等は教科とは関係なく位置付けられているものである。実際には教科によって校務

    分掌の担当に差異があるのだろうか。調査結果を基に、「各学校では校務分掌上の主任(主幹)

    をどの教科の教員が担当しているか」をまとめたところ、表 3 — 4 のようになった。

  • - 377 -

    表 3 — 4 「校務分掌上主任(主幹)を担当している教員の教科(分野)」

    表 3 — 4 から確認できる特徴は以下のとおりである。

    (1)12.3%の割合で、国語の教員が何らかの主任(主幹)を担当している。

    (2)9.7%の割合で、社会の教員が何らかの主任(主幹)を担当している。

    (3)16.1%の割合で、数学の教員が主任(主幹)を担当している。特に、教務主幹を数学の

    教員が担当している割合は、25.5%である。

    (4)14.1%の割合で、理科の教員が何らかの主任(主幹)を担当している。特に、教務主幹

    を理科の教員が担当している割合は、24.5%である。

    (5)13.8%の割合で、保健体育の教員が主任(主幹)を担当している。特に、生活指導(生

    徒指導)主幹(主任)を保健体育の教員が担当している割合は、44.7%で、他教科を大き

    く上回っている。

    (6)9.9%の割合で、外国語の教員が何らかの主任(主幹)を担当している。

    (7)保健体育以外の実技教科の教員が主任(主幹)を担当している割合は、技術(8.2%)、

    音楽(5.3%)美術(5.2%)、家庭(1.4%)であった。実技教科の教員の中では、技術の

    教員が何らかの主任(主幹)を担当している割合が高い。

    (8)養護教諭が何らかの主任(主幹)を担当している学校はなかった。

  • - 378 -

    3.1 で述べたように、各教科(分野)の平均正規採用教員配置数は、国語 1.7 人、社会 1.3 人、

    数学 2.3 人、理科 1.7 人、音楽 0.9 人、美術 0.7 人、保健体育 1.6 人、技術 0.8 人、家庭 0.3 人、

    外国語 2.0 人であり、特に数学、理科、外国語の平均正規採用教員配置数は 2 人を超えており、

    音楽、美術、技術、家庭はいずれも平均正規採用教員配置数が 1 人に満たない。平均正規採

    用教員数が多い教科は主任(主幹)を担当している割合が高かった。

    また、数学や理科など、理数系の教科担当者が教務主幹(主任)をしている割合が高いこ

    とや、保健体育が生活指導(生徒指導)主幹(主任)を担当している割合が他教科を大きく

    上回ることなど、今回の調査により、各主任(主幹)における教科間の偏りが明らかになった。

    3.3 時間講師の現状各学校は、東京都教育委員会が示す「東京都公立小・中学校講師時数配当一般方針」に基

    づき、教科編成上の端数時数、指導方法工夫改善などの事由により時間講師が必要な際に、

    東京都教育委員会や区市町村教育委員会に申請を行うことで、時間講師を配置することがで

    きる。

    しかし、各学校が時間講師を必要とする教科や時数等は様々である。各学校のニーズに応

    じた時間講師が容易に見つからないという課題は多い。表 3 — 5 は、「時間講師を人選する際

    の課題」について各学校及び区市町村教育委員会に聞いた結果である。

    複数回答可としているが、学校、教育委員会共に「必要な時間に来てくれる人材確保が困

    難である」(学校 72.3%、教育委員会 91.7%)という回答が最も多かった。続いて、「経験や

    授業力などの資質や能力がわからない」(学校 71.3%、教育委員会 75.0%)となっており、

    時間講師についての情報が不足していることがわかる。さらに、「吟味選定するほどの人材

    数がいない」(学校 48.9%、教育委員会 69.4%)と続き、学校が必要とする時間に来てくれ

    る講師が見つかったとしても、選定するほどの人数はいないという現状がある。

    表 3 — 5 「時間講師を人選する際の課題」(複数回答)

  • - 379 -

    第 1 章で述べたように、各教科を担当する正規採用教員が一人もいない場合には、当該

    教科について、学習指導に関する指導計画の作成から授業の実施、学習評価や成績処理ま

    で、時間講師のみで担当することとなる。時間講師とは東京都教育委員会及び区市町村教育

    委員会が行っている「非常勤講師登録名簿に登録した者」であり、「東京都教員採用選考を

    受験していない者や合格していない者」、「正規採用教員としての経験実績が無い者」も多い。

    また、現在「非常勤講師名簿登録制度」には、登録希望者の授業力等に関するチェック機

    能が無く、法令上では研修の機会も保障されていない。調査では、複数回答可で「時間講師

    は学校にどのような利点をもたらしていますか」という設問を設けているが、「特に利点は

    ない」(学校 44.7%、教育委員会 25.4%)という回答が最も多かった。

    さらに、「時間講師について、日常的に課題となっていることがありますか。」という学校

    に対する設問では、「課題がある」という回答が 58.5%であった。

    表 3 — 6 は「時間講師について、日常的に校内で課題となっていること」について、学校

    及び教育委員会の考えをまとめたもの、表 3 — 7 は、「表 3 — 6 から、『とてもそう思う』と『ま

    あそう思う』の回答を足した割合」である。これらの表からわかることは、

    (1)学校 80.0%、教育委員会 66.6%が「授業力に問題がある講師がいる」と回答している。

    (2)学校 45.5%、教育委員会 63.9%が「生徒に対して適正な評価ができない講師がいる」と、

    回答している。

    (3)学校 47.3%、教育委員会 50.0%が、「教員としての資質や能力に欠ける講師がいる」と、

    回答している。

    (4)学校 65.4%、教育委員会 63.9%が、「講師に研修の機会が無いため、学校で講師に教え

    なければならないことが多い」と、回答している。

    これらのことから、学校、教育委員会共に時間講師に関する日常的な課題意識が高いとい

    うことがわかる。

  • - 380 -

    表 3 — 6 「時間講師について、日常的に校内で課題となっていること」

    表 3 — 7 「表 3 — 6から、『とてもそう思う』と『まあそう思う』を足した割合」

  • - 381 -

    学校への調査では、「新学習指導要領の全面実施にあたって感じている不安」 30 について聞

    いているが、「教員の指導力不足」について「とてもそう思う」「まあそう思う」と回答した

    学校は、併せて 58 校(61.7%)であった。正規採用教員についても、時間講師同様指導力

    不足の教員がいる場合がある。正規採用教員についても、今後とも研修の機会を活用し、必

    要なスキルを身に付けることが求められるが、時間講師については、そもそもその研修の機

    会が設定されていないという実情がある。

    一方、時間講師自身への「あなたは指導力の向上を図るために、次のことをどれくらいし

    ていますか」という設問について、「よくする」「ときどきする」と回答した時間講師は以下

    のような割合となった。

    (1)「関連する雑誌や本を読んでいる」(89.9%)

    (2)「校内で、教材・授業研究をする」(89.9%) 

    (3)「校外で、教材・授業研究をする」(75.4%) 

    (4)「先輩、同僚からアドバイスをもらう」(65.2%) 

    (5)「管理職からアドバイスをもらう」(39.1%)

    (6)「他校の教員と話し合う」(59.4%)

    これらの結果から、「関連する雑誌や本を読む」「教材・授業研究をする」など、時間講師

    は自主的な研修を行っていることがわかる。「管理職からアドバイスをもらう」と、「他校の

    教員と話し合う」については「よくする」「ときどきする」という回答よりも、「あまりしな

    い」「まったくしない」という回答の方が上回っていた。

    また、「あなたは、東京都や区市町村が、講師を対象とした研修の機会を設けた場合、参

    加しますか」という設問については、表 3 — 8 のような回答であった。

    表 3 — 8 「東京都や区市町村が講師を対象とした研修の機会を設けた場合の参加意思」

    30 P405 参照

  • - 382 -

    (1)勤務や旅費等の保障があれば参加するという時間講師は 55.9%であった。

    (2)勤務や旅費等の飛翔が無くても参加するという時間講師は 26.5%であった。

    (3)勤務や旅費等の保障があってもなくても参加しないという時間講師は 13.2%であった。

    (1)と(2)を合わせた時間講師の 82.4%が、何らかの形で研修の機会を求めていること

    がわかる。

    さらに、「あなたは、東京都や区市町村が、講師を対象とした研修の機会を設けた場合、

    どのようなことを学びたいですか。」という各設問に対して「とてもそう思う」「まあそう思

    う」と回答した割合は以下のようになった。

    (1)教科の専門的な知識やスキルを学びたい(81.2%)

    (2)教科の具体的な指導法や教材研究を学びたい(76.2%)

    (3)生徒の学習の評価方法を学びたい(68.1%)

    (4)授業規律の確保のために、生徒指導の具体的な方法や事例を学びたい(63.8%)

    東京都教育委員会は、現在時間講師を対象とした研修の機会は設けていない。区市町村教

    育委員会への調査結果からは、時間講師に研修を実施している地域と、その内容がわかった。

    図 3 — 5 「時間講師に対する研修の実施の有無」

    図 3 — 5 は、「時間講師に対する研修の実施の有無」に関するグラフである。今回の調査に

    回答のあった 36 区市町村のうち、教育委員会として「勤務や旅費を保障して実施している」

    のは、港区のみであった。港区は、年 2 回の「区費講師レベルアップ研修」を実施しており、

    平成 23 年度は指導力向上に向けた講義、人権研修、授業研究を行っている。

    また、「教育委員会として勤務や旅費を保障せず実施」している」のは、武蔵野市、昭島市、

    日野市、あきる野市であった。形態や内容は各市によって異なるが、校内研修会や市で設定

    している正規採用教員対象の研修会など、既存の研修会を時間講師に提供し、各講師の自主

    的な参加が可能な形をとっている。内容としては、「夏期研修や学校を会場とした研修時に、

    所属長である校長より申し出があれば参加を認めている。(武蔵野市)」「校内研修に指導主

    研修の機会は設けていない

    30地域83%

    教育委員会として勤務や旅費を保障して実施

    1地域3%

    教育委員会として勤務や旅費を保障せず実施

    5地域14%

    時間講師に対する研修の実施の有無

  • - 383 -

    事が訪問し、具体的な指導・助言をする。(昭島市)」「生活指導や特別支援などに関する教

    員全体研修会への参加(日野市)」「あきる野市教育研究会、教育相談研修(夏期休業中)へ

    の呼びかけ(あきる野市)」であった。

    3.4.1 兼務発令の現状第 1 章でも述べたが、全日本中学校長会教育情報部による「平成 21 年度『中学校教育に

    関する調査』まとめ」では、「平成 24 年度学習指導要領の完全実施及び移行期に予測される

    課題及び要望事項」の中で、「実技教科の授業時数が減少し、2 校以上の兼務教員が増えたり、

    非常勤講師での対応となるであろう。」としている。実際、茨城県笠間市 のように、他府県

    では、授業時数の少ない音楽や美術の教員が、小中一貫教育及び小中連携の一環として近隣

    の小学校で授業を行うなど、教員が校種を越えた複数の学校を兼務している状況がある。「時

    間数の少なくなった教科の教員は、複数校を兼務する方向になるのではないか。」というこ

    とについては、東京都内の実技教科の教員間でも囁かれている。

    現在、東京都の中には品川区 31 や三鷹市 32 に代表されるように、小中一貫教育や小中連携

    が推進されている学校は存在しているが、実際に兼務により校種を越えて授業を行っている

    教員についての調査や指導内容の公表はされていない。

    本項では、調査結果に見られた東京都の兼務発令の現状について述べる。

    図 3 — 6 「兼務発令の有無と実施されている学校と地域及び学校」

    図 3 — 6 は、兼務発令の有無に関するグラフと、兼務発令の実施されている地域及び学校

    である。調査回答のあった 94 校のうち、「兼務発令を受けている教員がいる」と回答した学

    いる8校

    いない86校

    兼務発令を受けている教員の有無

    31 品川区教育委員会リーフレット「品川区の小中一貫教育」32 三鷹市教育委員会ホームページ「小・中一貫教育校検証委員会」 http://www.city.mitaka.tokyo.jp/c_service/003/003682.html

    【小中併設校】

    利島村

    (A 小中)社・数・理・音・美・体・技・家

    【小中一貫教育校】

    足立 (B 中)国・社・数・理・音・美・体品川 (C 中)国・体・技・外   (D 中)社・数・理・音・美・技・外八王子(E 中)外   (F 中)不明三鷹 (G 中)国・社・数・理・音・体・技・外

    【その他】

    小笠原村(F 中) 家

  • - 384 -

    校は 8 校、「兼務発令を受けている教員はいない」と回答した学校は 86 校であった。回答の

    あった 94 校のうち、「兼務発令により他校と兼務して授業を行っている学校がある」と回答

    したのは品川区、足立区、八王子市、三鷹市、利島村、小笠原村の学校である。

    兼務発令を受けている教員がいる学校には、「全教員が兼務発令を受けて校務全般にわたっ

    て小中一貫教育を実施している学校」と、学校の小規模化等により、「一部の教科の教員だ

    けが兼務発令を受け、当該教科の小学校の授業も受け持っている学校」がある。

    表 3 — 9 は回答のあった学校の「兼務の状況」をまとめたものである。兼務発令を受けて

    いる教員は、「一人で小学校の教科の授業を受け持っている」「小学校教員とティームティー

    チングで授業を行っている」など、学校の方針によって、様々な取組を行っている。

    具体的な兼務の状況は表 3 — 9 の通りである。

    表 3 — 9 「兼務の状況(複数回答)」

    調査の回答で兼務発令を受けている教員のいる 8 校のうち、「小中一貫教育校や小中併設

    校による兼務を行っている教員がいる学校」が 7 校、「小中一貫教育校や併設校ではないが、

    兼務を行っている教員がいる学校」しているのは島しょ地区の 1 校のみであった。

    今回の調査結果から見る限りでは、現在の東京都における兼務発令の実態は、教員の持ち

    時数のアンバランスを解消するために行われているものはなく、小中一貫教育校や小規模化

    に伴う併設校という条件の下で行われているものであった。

    3.4.2 兼務発令に関する教員の意識調査では、正規採用教員の兼務発令に関する意識を把握するため、実技教科の教員と各学

    校で最も持ち授業時数の多い 5 教科の教員を対象に、兼務発令に関する意識の設問を設けた。

    表 3 — 10 から表 3 — 12 は、「授業に関すること」「児童・生徒の理解や指導に関すること」「校

    務全般に関すること」それぞれについて、教員の意識をまとめたものである。

    表 3 — 10「授業に関すること」について確認できることは、以下のとおりである。

    (1)「児童に専門性を生かした指導ができる」という設問に対して「とてもそう思う」「まあ、

    そう思う」と回答した教員の割合は、実技教科 59.5%、5 教科 55.5%である。また、「9 年

    間を通した系統的な指導ができる」という設問に対して「とてもそう思う」「まあ、そう思う」

    と回答した教員の割合は、実技教科 55.2%、5 教科 52.8%である。「小学校での学習成果

  • - 385 -

    を中学校での指導に生かすことができる」という設問に関しては、実技教科 66.3%、5 教

    科 59.7%、「児童の教科担任制への不安の軽減となる」という設問に対しては、実技教科

    55.3%、5 教科 52.8%である。

    これらの設問は、いずれも「兼務発令による授業の効果」に関する内容であるが、「と

    てもそう思う」「まあ、そう思う」と回答した割合は、「小学校での学習成果を中学校での

    指導に生かすことができる」という設問の、実技教科(66.3%)以外は、全て 50%から

    60%の間であった。

    (2)「児童にわかりやすい学習指導ができるか不安である」という設問に対して「とてもそ

    う思う」「まあ、そう思う」と回答した教員の割合は、実技教科 53.7%、5 教科 54.2%である。

    また、「校種を越えた複数の授業の準備が負担である」という設問に対して「とてもそう

    思う」「まあ、そう思う」と回答した教員の割合は、実技教科 83.1%、5 教科 91.6%、「児

    童の成績について、適正に評価ができるか不安である」という設問に対しては、実技教科

    67.9%、5 教科 68.1%である。

    これらの設問は、いずれも「兼務発令による授業への不安」に関する内容であるが、全

    体的に「兼務発令による授業による効果」よりも高い割合の回答が出ている。特に、「校

    種を越えた複数の準備が負担である。」という回答の割合は、実技教科 5 教科教員共に高い。

  • - 386 -

    表 3 — 10 「兼務発令への教員の意識『授業に関すること』」

  • - 387 -

    また、表 3 — 11「児童・生徒理解や指導に関すること」について確認できることは以下の

    とおりである。

    (1)「児童の様子がわかり、中学進学後の生徒理解に役立つ」という設問に対して「とても

    そう思う」「まあ、そう思う」と回答した教員の割合は、実技教科 79.4%、5 教科 80.6%

    である。また、「児童の中学校進学への不安の軽減となる」という設問に対して「とても

    そう思う」「まあ、そう思う」と回答した教員の割合は、実技教科 57.4%、5 教科 62.5%

    である。また、「いわゆる中 1 ギャップ 33 など、児童の中学校への不適応の対応策となる」

    という設問に対しては、実技教科 50.0%、5 教科 51.4%である。

    これらの設問は、いずれも「兼務発令による児童・生徒理解や指導上の効果」に関する

    内容であるが、「とてもそう思う」「まあ、そう思う」と回答した割合は、いずれも実技教

    科、5 教科共に 50%を越えている。特に、「児童の様子がわかり、中学進学後の生徒理解

    に役立つ」という回答の割合は、実技教科、5 教科共に高い。

    (2)「自分が中学校を留守にする間の生徒指導が心配である」という設問に対して「とても

    そう思う」「まあ、そう思う」と回答した教員の割合は、実技教科 78.4%、5 教科 77.8%

    である。また、「児童の特性をつかむなど児童理解ができるか心配である」という設問に

    対して「とてもそう思う」「まあ、そう思う」と回答した教員の割合は、実技教科 56.4%、

    5 教科 58.4%である。

    これらの設問は、いずれも「兼務発令による児童・生徒理解や指導への不安」に関する

    内容であるが、特に、「自分が中学校を留守にする間の生徒指導が心配である」という回

    答の割合は、実技教科 5 教科教員共に高い。

    33 東京都教育委員会は、平成 22 年度、東京都公立小・中学校における第 1 学年の児童・生徒の学校生活への適応状況を把握し、小 1 問題・中 1 ギャップの予防・解決に向けた今後の施策に生かしていくことをねらいとして、調査報告書を発表した。

  • - 388 -

    表 3 — 11 「兼務発令への教員の意識『児童・生徒の理解や指導に関すること』」

  • - 389 -

    表 3 — 12 「兼務発令への教員の意識『校務全般に関すること』」

  • - 390 -

    さらに、表 3 — 12「校務全般に関すること」について確認できることは以下のとおりである。

    ここでの設問は、いずれも「兼務発令による校務全般への不安」に関する内容である。

    (1)「所属校への帰属意識が欠けるのではないかと不安である」という設問に対して「と

    てもそう思う」「まあ、そう思う」と回答した教員の割合は、実技教科 51.6%、5 教科

    44.5%である。また、「両校の学校文化の違いに対応できるか不安である」という設問に

    対して「とてもそう思う」「まあ、そう思う」と回答した教員の割合は、実技教科 68.9%、

    5 教科 63.9%である。

    (2)「授業変更等への対応が不安である」という設問に対して「とてもそう思う」「まあ、そ

    う思う」と回答した教員の割合は、実技教科 83.7%、5 教科 82.0%と、両者共に高い。教

    科担任制を行っている中学校の教員にとって、授業変更は他の教員にも影響が大きく配慮

    を要するものであるため、このような結果が出ていることが予測される。 

    (3)「小学校の学級担任との連携が不安である」という設問に対して「とてもそう思う」「ま

    あ、そう思う」と回答した教員の割合は、実技教科 72.1%、5 教科 59.7%である。

    実技教科の教員の回答が、5 教科の教員の回答よりも 12.4 ポイント高い結果となっている。

    (4)「中学校で担任をもつことができるか不安である」という設問に対して「とてもそう思う」

    「まあ、そう思う」と回答した教員の割合は、実技教科 68.5%、5 教科 56.9%である。兼

    務により中学校を不在することがあるため、学級担任をもつことが難しくなることや、学

    級担任をしている際に学級経営上の課題が生まれることへの懸念が予測される。

    (5)「中学校で部活動をもつことができるか不安である」という設問に対して「とてもそう

    思う」「まあ、そう思う」と回答した教員の割合は、実技教科 59.5%、5 教科 50.0%である。

    (6)「授業のための学校間の移動が不安である」という設問に対して「とてもそう思う」「ま

    あ、そう思う」と回答した教員の割合は、実技教科 77.9%、5 教科 70.8%と高い。兼務を

    する学校が隣接しているなど、移動時間や交通手段に問題が無い場合と、近隣とはいえ移

    動に時間がかかる場合とは条件が大きく異なってくるためであると予測される。

    調査では、「兼務発令に関する自由記述」を設けた。以下は、自由記述にみられる教員の

    兼務発令に関する考えをまとめたものである。

    自由記述の多くは、表 3 — 11 ~表 3 — 13 の結果を具体化した内容であった。特徴的な内容

    を数点挙げると、次のようになる。

    (1)中学校では、教科の授業はもちろん、日常的な生徒理解から行う生活指導(生徒指導)

    が大きな意味をもっており、兼務により中学校を不在にすることで生徒と対応する時間が

    削減されることや、学級担任や部活動等をもつことが不可能になってくることについて触

    れているものが多い。正規採用教員として、これまで行ってきた生徒との関わりが変化す

    ることへの不安や懸念が大きいことが見える。

    (2)実技教科の教員の意見として、授業の持ち時数が少ないという事実はあるが、実技教科

    特有の多忙を訴えるものも目立った。東京都教育委員会による「東京都公立小・中学校講

    師時数配当一般方針」では、講師時数算出のための基準として、週当たりの持ち時数を国

  • - 391 -

    語、社会、数学、外国語については 24 時間(学級担任の道徳、学級活動を含む)として

    いるのに対し、理科、音楽、美術、保健体育、技術、家庭の教員の持ち時数を 22 時間と

    している。実技教科の教員は特別教室の管理や、3 学年分など複数の学年にわたって授業

    準備や片付け、作品及び定期考査等の採点や評価を行うなど、他の教科の教員と比較して

    教科に係る時間が少なくとも 2 時間分は多いと捉えられていることがわかる。実技教科担

    当教員からの「単純な持ち時数だけで兼務をさせる方向では考えないでほしい。」という

    意見は複数ある。

    (3)音楽については、区市町村単位で行っている連合行事 34 や、学校行事の継続に関する懸

    念もみられた。校務分掌の担当にも関連した内容である。

    (4)「例えば教員採用試験で「中高共通」の枠で受験した場合や、教員免許上小学校での授

    業が不可能な教員についての兼務はどのように考えるのか」という声もあった。

    (5)兼務発令への肯定的な意見としては、「義務教育期間 9 年間の系統的な学習が可能」「小

    中一貫教育や併設であれば効果がある」「至近の学校であれば可能」といった意見があった。

    34 区市町村内の中学校が一同に会して行う行事。例として、音楽鑑賞教室、連合合唱祭、連合体育大会連合作品展などがある。

  • - 392 -

    第 4章 新教育課程下における教員配置の可能性4.1 各学校の新教育課程下の教員配置への意識第 3 章では、新学習指導要領への移行期間最終年である平成 23 年度の教員配置と時間講

    師や兼務の状況について論じてきた。移行期間であっても、学習指導要領総則によって「平

    成 21 年度より先行実施」とされてきた数学や理科はすでに新しい時数での教育課程が組ま

    れており、それ以外の教科についても各学校の実態に応じて新しい時数に基づく教育課程が

    組まれてきた。平成 24 年度から、各学校で異なってきた取組が一律に完全実施となる。 

    繰り返しとなるが、新しい学習指導要領に基づく教育課程では、授業時数が増加する教科

    と、現行のままの教科があり、総合的な学習の時間の時間数が減ると同時に、選択教科が標

    準授業時数の枠外の位置付けとなるため、今後、特に小規模校においては、音楽・美術・技

    術・家庭の教員の持ち授業時数が他教科と比べて極端に少なくなる。

    このような背景の下、各学校では、平成 24 年度以降の教員の配置を行う際に、どのよう

    なことを優先したいと考えているのだろうか。

    表 4 — 1 は、「各学校が平成 24 年度以降の教員配置で優先したいこと」をまとめたもので

    ある。

    表 4 — 1 「各学校が平成 24年度以降の教員配置で優先したいこと」

    表 4 — 1 から、「平成 24 年度以降の優先したいこと」は、各学級規模で傾向が異なってく

    ることが見えてきた。

    3 学級の学校では「9 教科全てに正規採用教員を配置」(25.0%)、が最も高く、4 学級の

    学校では「9 教科全てに正規採用教員配置」と「時間数増加の教員を複数配置」がそれぞれ

    50.0%で、最も高かった。5 学級の学校は「9 教科全てに正規採用教員を配置」と「5 教科の

    教員を複数配置」がそれぞれ 50%で最も高く、6 学級の学校は「教科に関係なく持ち時数の

    多い教科を複数配置」と「5 教科の教員を複数配置」がそれぞれ 28.6%で最も高かった。

  • - 393 -

    さらに、7 学級から 10 学級の学校は、すべて「教科に関係なく持ち時間数の多い教科を

    複数配置」が最も高く、7 学級 87.5%、8 学級 40.0%、9 学級 41.7%、10 学級 30.8%であった。

    学級規模が大きくなるにつれて、「持ち時間数の多い教科を複数配置したい」という傾向が

    見える。94 校全体でみると、

    (1)「教科に関係なく持ち時間数の多い教科を複数配置」(35.1%)、

    (2)「5 教科の教員を複数配置」(20.2%)、

    (3)「9 教科全てに正規採用教員を配置」(17.0%)

    (4)「時間数増加の教科の教員を複数配置」(11.7%)の順となった。

    また、各学校が「優先したい」とした教員配置の利点と課題について自由記述で回答を求

    めたが、特徴的な回答をまとめると表 4 — 2 のような結果となった。

  • - 394 -

    表 4 — 2 「『優先したい教員配置』を行う際に考えられる、利点及び課題」利点 課題

    5教科の教員を複数配置

    ・5 教科の授業時数を確保しやすい。・ 教員の授業時数のアンバランスを無くし、時間的なゆとりが生まれ、生徒と接する時間が

    増える。

    ・学習指導要領の目標達成に指向しやすい。

    ・基礎基本を学ぶ教科を手厚くカバーできる。

    ・ 教員の負担軽減により、授業改善や学習指導の充実が推進される。

    ・学力定着への期待

    ・高校受験に有利

    ・ 公立中学校でも進学先への期待が強く、学力の向上を図る必要がある。

    ・ 各学年に 5 教科の正教員を配置すると進路学習指導上の利点がある。

    ・ 個に応じたきめ細かい習熟度学習指導ができる。

    ・少人数、習熟度別学習指導ができる。

    ・放課後の補充教室など、補修等を組みやすい。

    ・ 生徒・保護者等の要請に応え、少人数等によるきめこまかな指導が行える。

    ・学校の評価を高め生徒数の確保を図るため。

    ・ 積み重ね学習が必要な 5 教科の先生を厚くしたい。

    ・講師対応となり、専任が不在の教科が生じる。

    ・教科としての公平性が確保しにくくなる。

    ・美術・家庭科が講師対応になる。

    ・文化的教育レベルが上がらない。

    ・実技教科の授業の質の低下

    ・教科間・教員間の仕事上の関係にひびが入る。

    ・ 実技教科、諸行事、部活動等の指導や特別教室・準備室の管理に不安を伴う。

    ・音楽は行事のため必要

    ・ 生活指導という観点が中学校では大切なため、体育科が必要。

    ・ 講師で対応する教科で、講師の授業力によっては、そこから生活指導上の問題に発展する。

    ・講師の質(指導力)に不安がある。

    ・実技教科の講師確保が難しい。

    ・特に技術の講師の確保が難しい。

    ・学力の低いクラスのモチベーション向上。

    新しく時間数増加の教科の教員を複数配置

    ・教科の担当教員の疲労軽減

    ・授業時数のアンバランスが多少解消できる。

    ・ 授業時数の多い教員の健康悪化を防止できる。不公平感が無くストレスを防止できる。

    ・講師を最少にできる。

     →教育計画等柔軟に実施できる。

    ・ 学習教室など、学力向上を組織的に運営できる。

    ・基礎学力の充実

    ・ティームティーチングへの対応

    ・全教科に正規教員を配置できない。

    ・講師が配置の資質・能力の問題がある。

    ・教室等の管理、成績等の処理が不安である。

    ・ 実技教科の軽視等考えられるが、現実的には持ち時数等の関係でやむを得ない。

    ・ 正規教員がいない実技教科の指導力に不安が残る。

    ・ 専任教員の不在な教科があり、補充学習や成績処理にしわ寄せが出る。

    ・ 区展への出品やこれまで積み上げてきた体験的な活動のための関係機関との交流が厳しく

    なる。

    ・教科の軽視につながりやすい。

    ・力量ある講師の配置が難しい。

    ・ 特定の教科で講師をも確保できない可能性がある。

  • - 395 -

    教科に関係なく持ち時間数の多い教科を複数配置

    ・ 5 教科を中心に増時数教科の時間講師対応を避けることができる。該当教科の教育力の向

    上、時�