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一本曲げ試験機で得られる曲げ測定には、外部環境変化や装
置固有の誤差による測定誤差が生じるため検証を行った.測
定は実験試料と同じものを使用し,30秒おきに同一部分を連
続 5回 連 続 計 測 す る 連 続 計 測 法 で 計 測 し た . 結 果 ,
±0.0017(gf.㎝²/㎝)の誤差が確認でき,B値間の差を論じる
上で、その差が±0.0017(gf.㎝²/㎝)以下であればそれらの測
定値は同一であるとする。
0
0.002
0.004
0.006
0.008
0.01
0.012
0.014
0 1 2 3 4 5 6
曲げ
剛性
(gf.cm
²/cm
)
試料番号
1回目 2回目 3回目 4回目 5回目
▽曲げ剛性値の測定誤差
毛径測定
デジタルマイクロメーター(MDQ-30M:MITUTOYO製)を使用した。
毛髪を根元から10㎝の位置の長径と短径を計測した。
曲げ剛性値測定
毛髪の曲げ剛性測定には、曲げ試験機(KES-FB=S:カトーテック株式会社製)を用い
た。測定は試験機に毛髪の測定部(根元から10㎝)を取り付け曲げ応力を曲線(K)-
2.5~+2.5(cm-1)の範囲を0.4(cm-1・s-1)の変化速度で計測し、得られた曲げ応力-曲率
曲線でのK:0.5~1.5cm-1および-0.5~-1.5cm-1の間における曲線の斜線の平均を曲げ剛
性値として算出した。
現在、私たちはヘアカラーによって髪色を変えることで日々、おしゃれを楽しんでいる。その中でもブリーチ
処理は毛髪の色素を抜き、カラーを重ねることでより多くのカラーを楽しむことができるため、若者の中で多く
行われている。しかし、髪に触れたり様子をうかがう際に指通りや撫でた際の質感が気になるため、ブリーチ処
理は毛髪を傷めるイメージが強く敬遠されがちである。
これらのように、髪の柔らかさ、ハリやコシ感を論じる際には、毛束としての硬さ、柔らかさ、ハリ・コシ感
を論じる上で、毛束を構成する毛髪の曲げ硬さが一つの指標となっている。しかしながら、毛髪の質感が日常の
ヘアケアにより変化することは知られているが、その変化と曲げ物性との関係となると十分に解明されていると
は言えない。そこで本研究では、毛束を構成する毛髪一本ごとの曲げ物性変化を測定することから、毛束として
の曲げ物性の変化を推定する評価法を用い、毛髪のヤング率および毛束としての曲げ硬さに対するブリーチ処理
の影響について検討することとした。
上甲研究室 池田 沙弥香 神谷 実里
黒髪と白髪の曲げ剛性におよぼすブリーチ処理の影響
試料および試薬
毛髪試料には、中国人の成人女性1名の白黒混合毛
束(20cm:ビューラックス社製)を使用した.
この毛束から白髪のみを取り、150本にナンバリン
グを行った。ブリーチ剤には、オルディーブクリ
スタルオキシダン6.0(ミルボン社製)を使用した。
前処理
毛束にシャンプー(LUX:株式会社ユニリーバジャ
パン製)により洗浄した。
ブリーチ処理
ナンバリングした白髪を5本ずつに分け、番号が混
ざらないようにまとめておく。試料を台紙に貼り、
刷毛で試薬約5gを塗布する。均一に薬剤が付くよ
うに手で揉みこみ、常温20分間放置処理を行う。
処理後、試料を取り出し水道水でよく洗い流し、
ドライヤー乾燥させる。
実験方法
±0.0017(gf.㎝ 2/㎝ )
の誤差が確認できた
緒言
〈曲げモーメント(M)〉
一定の長さの構造材料の両端を固定し
曲線を描くように曲げる場合の力を曲
げモーメント(M)と呼ばれ、次式で求
めることができる。
M=E∙I∙1/ρ
ρ:曲率半径、E:ヤング率、
I:断面二次モーメント
〈断面二次モーメント(I)〉
髪断面を楕円に近似し、毛髪の中立に
垂直な短径軸で曲がると仮定した場合
のIは次式で表せられる。
I=𝝅∙𝒂𝟑∙𝒃
𝟔𝟒
a:試料毛髪の短径、b:長径
〈ヤング率〉
測定で求めているBとIとには
B=M∙ρ=E∙I
の関係がある。
この式の定数Eがヤング率であり、
毛髪固有の値である。
各毛髪の曲げループの中位の短径と長径を用いてIを求め、BとIとの関係を図に示した。
測定点と原点を結ぶ直線の傾きは、その毛髪の曲げヤング率(E)を表す。E が4.33E+03~9.57E+02の範囲に分
布しており、図にBとIとの相関性を線形近似で求めた回帰直線の決定係数(R2)が0.15と低く相関はほとんど
ないと見なせる。この原因は、この毛束が曲げ剛性の異なる毛髪の集合体であるためである。
0
0.005
0.01
0.015
0.02
0.0E+00 1.0E-06 2.0E-06 3.0E-06 4.0E-06 5.0E-06
曲げ
剛性
(gf.cm
²/cm
)
断面二次モーメント(I)
9.5×10²(㎏f/㎝²)
4.33×10³(㎏f/㎝²)
様々な傾き (ヤング率)をもった毛髪の集合体であることがわかった
0
0.005
0.01
0.015
0.02
0 50 100 150
曲げ
剛性
(gf.cm
²/cm
)
試料番号
▽毛髪の曲げ剛性
毛髪間の均一性は低く、毛束は様々なB値を有する毛
髪の集合であると言える。これは、毛髪の曲げ剛性
が太さ等の形状因子および個々の毛髪固有の構造因
子により決定されるからである。
▽毛髪の太さ▽
1本の毛髪としてみると,短径、長径での太さの差
はほぼないことがわかる.毛束を構成する毛髪は毛
髪間の均一性は低く、毛束は様々な太さを有する毛
髪の集合であると言える。
結果と考察
▽毛髪の曲げ剛性▽
太さ同様,毛髪ごとに曲げ剛性のばらついていることがわかった
▽内部構造の指標:ヤング率▽
毛髪を一般構造材料として扱うこととした
内部凝集構造に依存している。
次に同一ヤング率の毛髪群の分画を行った
=
0
0.02
0.04
0.06
0.08
0.1
0.12
0 50 100 150
太さ
試料番号
よこ
たて
毛髪ごとに太さのばらつきがみられた
0
0.005
0.01
0.015
0.02
0.00E+00 1.00E-06 2.00E-06 3.00E-06
曲げ
剛性
(gf.cm
²/cm
)
断面二次モーメント(m⁴)
N1.6E+03≦E≦2.7E+03
(n:22)未処理
1回
0
0.005
0.01
0.015
0.02
0.00E+00 1.00E-06 2.00E-06 3.00E-06
曲げ
剛性
(gf.cm
²/cm
)
断面二次モーメント(m⁴)
1.6E+03≦E≦2.7E+03
(n:22) 2回
3回
0
0.005
0.01
0.015
0.00E+00 1.50E-06 3.00E-06 4.50E-06
曲げ
剛性
(gf.cm
²/cm
)
断面二次モーメント(m⁴)
4.0E+02≦E≦1.5E+03
(n:18)未処理
1回
0
0.005
0.01
0.015
0.02
0.00E+00 1.00E-06 2.00E-06 3.00E-06
曲げ
剛性
(gf.cm
²/cm
)
断面二次モーメント(m⁴)
1回
2回
1.6E+03≦E≦2.7E+03(n:22)
▽ブリーチ処理が構成毛髪に及ぼす影響▽
毛束を構成する毛髪におよぼすブリーチ処理の影響を、ヤング率が同一と見なせるグループ毎で見ていくことと
した。ブリーチ処理は同じ毛髪に1回~3回繰り返して行ったが、回数ごとの影響はそれぞれの処理前後での変化
として図に示した。以下の左サイドは1回処理による未処理からの変化を、中央は2回処理による1回処理からの変
化、右サイドは3回処理による2回処理から変化を示した。
0
0.005
0.01
0.015
0.00E+00 7.00E-07 1.40E-06 2.10E-06
曲げ
剛性
(gf.cm
²/cm
)
断面二次モーメント(m⁴)
4.0E+02≦E≦1.5E+03
(n:18)2回
3回
0
0.005
0.01
0.015
0.00E+00 1.00E-06 2.00E-06 3.00E-06
曲げ
剛性
(gf.cm
²/cm
)
断面二次モーメント(m⁴)
4.0E+02≦E≦1.5E+03
(n:18)1回
2回
y = 2013x
R² = 0.88160
0.002
0.004
0.006
0.008
0.0E+00 1.0E-06 2.0E-06 3.0E-06
曲げ
剛性
(gf.cm
²/cm
)
断面二次モーメント(㎝⁴)
1.6E+03≦E≦2.7E+03
y = 1279.3x
R² = 0.89610
0.002
0.004
0.006
0.0E+00 2.0E-06 4.0E-06曲げ
剛性
(gf.cm
²/cm
)
断面二次モーメント(㎝⁴)
4.0E+02≦E≦1.5E+03
y = 4506.1x
R² = 0.98420
0.005
0.01
0.015
0.E+00 1.E-06 2.E-06 3.E-06
曲げ
剛性
(gf.cm
²/cm
)
断面二次モーメント(㎝⁴)
4.0E+03≦E≦5.1E+03
y = 3389.8x
R² = 0.97350
0.005
0.01
0.015
0.02
0.0E+00 1.5E-06 3.0E-06 4.5E-06曲げ
剛性
(gf.cm
²/cm
)
断面二次モーメント(㎝⁴)
2.8E+03≦E≦3.9E+03
毛髪の曲げ剛性率を求めた未処理試料を
使用し,低い方から1.1E+03刻みごとに
区切り、BとIとの回帰直線のR2が0.88以
上となるように行った。その結果、10グ
ループに分けることができた。
0
0.005
0.01
0.015
0.02
0.00E+00 1.50E-06 3.00E-06 4.50E-06
曲げ
剛性
(gf.cm
²/cm
)
断面二次モーメント(m⁴)
1回
2回
2.8E+03≧E≧3.9E+03(n:13)
0
0.005
0.01
0.015
0.02
0.00E+00 1.50E-06 3.00E-06 4.50E-06
曲げ
剛性
(gf.cm
²/cm
)
断面二次モーメント(m⁴)
未処理
1回
2.8E+03≧E≧3.9E+03(n:13)
0
0.005
0.01
0.015
0.02
0.00E+001.00E-062.00E-063.00E-064.00E-06
曲げ
剛性
(gf.cm
²/cm
)
断面二次モーメント(m⁴)
2回
3回
2.8E+03≧E≧3.9E+03(n:13)
▽ヤング率によるグループ分け▽毛束構成毛髪のEが同一と見なせる毛髪群(G:グループ)に分けると10グループにわかれた
以下では、毛髪本数が10本以下のグループを議論から省き,上に示した4グループでブリーチの影響について議論することとした
結言毛束を構成する毛髪1本ごとの曲げ剛性変化を測定することから、毛束としの曲げ硬さの変化を推定する評価法を用
い、毛髪の曲げヤング率および毛束の硬さ硬さに対するブリーチ処理の影響について検討した。
その結果、任意にサンプリングした毛束は、ヤング率の異なる毛髪の集合体であり、ヤング率によりグループ分けを
行うと10のグループに分けることができた。
4つのグループに含まれる毛髪についてブリーチの影響では、同一ヤング率を有する毛髪においても凝集構造の変化
の影響は異なり、曲げ硬くなる毛髪、ほとんど変化しない毛髪、曲げ柔らかくなる毛髪が混在していることが明らかと
なった。このことから、ブリーチ処理は曲げ外力に対する応力の源となる毛髪構成たんぱく質の凝集構造を変性させ、
相対的に曲げ硬くするように作用していると推察された。また、このような変化は毛束としての曲げ硬さに反映するよ
うで、ブリーチ処理回数により変動するものの毛束としては明らかに曲げ硬くなっていることが確かめられた。
0
0.005
0.01
0.015
0.02
0.025
0 10 20 30 40 50
曲げ
剛性
(Gf.cm
²/cm
)
試料番号
未処理 1回 2回 3回
▽ブリーチ処理が毛束の硬さにおよぼす影響▽
0
0.005
0.01
0.015
0.02
0 10 20 30 40 50
試料番号
未処理 1回 2回 3回
曲げ
剛性
(Gf.cm
²/cm
)
0
0.005
0.01
0.015
0.00E+00 1.00E-06 2.00E-06 3.00E-06
曲げ
剛性
(gf.cm
²/cm
)
断面二次モーメント(m⁴)
1回
2回
4.0E+03≦E≦5.1E+03(n:33)
0
0.005
0.01
0.015
0.00E+00 1.00E-06 2.00E-06 3.00E-06
曲げ
剛性
(gf.cm
²/cm
)
断面二次モーメント(m⁴)
未処理
1回
4.0E+03≦E≦5.1E+03(n:33)
0
0.005
0.01
0.015
0.00E+00 2.00E-06 4.00E-06 6.00E-06
曲げ
剛性
(Gf.cm
²/cm
)
断面二次モーメント(m⁴)
2回
3回
4.0E+03≦E≦5.1E+03(n:33)
ブリーチ処理は曲げ外力に対する応力の源となる毛髪構成たんぱく質の凝集構造を変性させ曲げ物性を変化させてい
ることは明らかである。しかし、同一ヤング率を有する毛髪においても凝集構造の変化の影響は異なり、曲げ硬くな
る毛髪、ほとんど変化しない毛髪、曲げ柔らかくなる毛髪が混在していることも明らかとなった。また、回数ごとに
その凝集構造は変化するが、その変化による影響は一律でなく、同一毛髪において曲げ硬くなったり柔らかくなった
りとある一定の範囲内で周期的に変動するものと推察される。
毛髪によってB値が高くなるもの、また低くな
るものがあることがわかる。このように毛束
を構成する毛髪の曲げ剛性が変化することか
ら、毛束としての曲げ硬さにも影響が及ぶも
のと考えられる。
ブリーチ1回処理の分布曲線が未処理より高B値域に
位置しており、毛束としてはブリーチ処理により曲
げ硬くなることがわかる。また、2回目処理では毛束
としての曲げ硬さはほとんど変わらないようである
が、3回目処理によって未処理とほぼ同じ硬さにも
どっていると見ることができる。ただ,N<40では3
回目試料の方が高B値に位置しており、感性的には硬
く感じるかもしれない。
ブリーチ処理は毛束を曲げ硬くするものと言える
毛髪によって曲げ剛性が高くなるもの低くな
るものがある