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健康小児の咽頭および鼻咽腔における Haemophilus influenzae,

Haemophilus parainfluenzae の疫学的研究

千葉大学医学部小児科学教室(主 任:中 島博徳教授)

榎 谷 直 子

(昭 和63年12月13日 受 付)

(平 成1年1月10日 受 理)

Key words: H. influenzae, H. parainfluenzae, throat, nasopharynx,healthy children

要 旨

健 康小 児 の咽頭,鼻 咽腔 に おけ るH.influenzae(以 下Hi)とH.parainfluenzae(以 下Hp)の 検 出

状況 につ い て調べ た.咽 頭 でのHi検 出率 は4,5歳 児38.9%,小 学1年 生18%,小 学3年 生13%,小 学

5年 生4%と 年齢 増加 と共 に減 少傾 向 が見 られ,反 対 にHpは 増 加傾 向がみ られ た.咽 頭 の半 定量 的細 菌

叢百 分 率で は,Hiは4,5歳 児 が高 く,小 学5年 生 で低 か った.反 対 にHpは4,5歳 児 で低 く,小 学3,

5年 生 で高 か った.

Hiの 検 出率 お よび半 定量 的細 菌叢 百分 率 に季節 変動 はなか った.

鼻咽 腔 では,咽 頭 よ りHiの 検 出率,半 定量 的細 菌叢 百 分率 が共 に高 か った.Hpの 検 出率 は咽 頭 よ り

低 か った が,半 定量 的細 菌叢 百分 率 に差 はみ られ なか った.

Hiの 生 物型 は,咽 頭 ・鼻咽 腔共 にI・II・III型 が多 く78～85%を しめた.Hpの 生物 型 はIII型が50～75%

であ った.

ABPc耐 性Hiは 咽頭1.6%,鼻 咽 腔17.7%で あ った.

序 文

E.influenzae(以 下Hi)とH.parainfluenzae

(以下Hp)は 上気道常在細菌叢の一部をなしてい

るが,Hiは 髄膜炎,中 耳炎,呼 吸器疾患の原因菌

として重要である1).し か しなが ら侵入門戸であ

る上気道での,健 康小児におけるこれら2菌 種の

保有状況について詳しい資料は乏 しい.咽 頭細菌

検査,鼻 咽腔細菌検査は日常呼吸器感染症の臨床

検査 として一般 に行なわれているが,実 際にその

培養成績 より原因菌を類推するためには,正 常小

児におけるこれら菌種の検出状態を正確に把握し

ていることが肝要である.健 康小児上気道細菌叢

の研究は1966～1968年 に調査 した寺嶋の咽頭に関

する報告以降本邦ではみ られていず2),現 在の健

康小児における咽頭 ・鼻咽腔の細菌叢につい・て知

る必要がある.そ こで,健 康小児の咽頭 ・鼻咽腔

におけるHi,Hpの 検出率,細 菌叢における量的

比率,生 物型について検討を行ない,ABPC耐 性

Hiの 頻度についてあわせて報告す る.

研究対象 と方法

(1)研 究対象

保護者の同意 をえられた健康小児 を対象 とし

た.対 象児は,基 礎疾患がなく,上 気道培養検査

時の問診および臨床症状で異常を認めず,咽 頭所

見で咽頭発赤,後 鼻漏のみ られない児を対象 とし

た.

1)乳 幼児(153名)

千葉市内A病 院での乳児健診受診児で,3～6

ヵ月児37名,7～12ヵ 月66名.期 間は1983年10月

～12月 までである.

別刷請求先:(〒240)横 浜市保土 ケ谷区岩井 町215

国立横浜東病院小児科 榎谷 直子

感染症学雑誌 第63巻 第7号

健康児の咽頭,鼻 咽腔でのヘモフィルス属の検 出 693

2)幼 稚園児(66名)

C大 学附属幼稚園の4,5歳 児66名 である.検体

採取期間は,1982年5月,7月,10月,1983年2

月の4回 の咽頭swabと,1983年2月 の咽頭検査

と同時に同一人より鼻咽腔からも採取 した.

3)学 童児(314名)

千葉市内W小 学校 と市原市内S小 学校の生徒

で,1年 生104名,3年 生105名,5年 生105名 であ

る.検 体採取期間は,1981年5月,7月,10月,

1982年2月 の4回 の咽頭swabと,1982年2月 の

咽頭検査 と同日に同一人 より鼻咽腔からも採取 し

た.

(2)方 法

1)検 体採取および培養法

咽頭粘液は市販の滅菌綿棒を用い,歯 列,舌,

頬粘膜,硬 口蓋に触れぬよ うに,両 側 口蓋扁桃,

口蓋垂,咽 頭後壁を擦過 した.鼻 咽腔は,滅 菌 し

た捲綿子の攣曲した先端を上に向け,咽 頭を経て

口蓋垂後方か ら同部へ挿入 し強 く拭った.

採取 した検体は,直 ちに,5%緬 羊血液寒天平

板培地,7%馬 血加 チ ョコレー ト寒天平板培地

BTB寒 天平板培地の一端に直接塗 り,こ れを滅

菌 した白金耳で培地上へ塗 り拡げた.塗 抹 した培

地は,血 液およびBTB培 地は37℃ 恒温槽で,チ ョ

コレー ト培地は5%CO2下 の37℃ 恒温槽で18～24

時間培養後,発 育 した菌の同定,コ ロニー数の算

定を行った.

2)Hi,Hpの 同定

血液,BTB培 地を参考にし,チ ョコレー ト培地

上でヘモフィルス属特有のコロニーについて,塗

抹グラム染色標本を作成 し,鏡 検でグラム陰性短

桿菌であることを確認後,一 検体で,コ ロニーの

性状の異なるものについて各一コロニーずつチ ョ

コレー ト培地に純培養をした後,下 記の如 く同定

を行った.

同定は,馬血液培地での溶血の有無を確認の上,

トリプ トケースソイ寒天平板培地上でのX,V因

子含有ス トリップ(BBL社 製)を 用いたXV因 子

要 求 性 お よ びKilianに よ るδ-Aminolevulinic

acid溶 解液を用いたporphyrintestでHi,Hpを

同定した3).

Table 1 Biotyping of H. influenzae and

H. parainfluenzae (M. Kilian)

生 物 型 は,Kilianの 提 唱 した 方 法 に従 いIndole

産 生 能,Ureaseお よ びOrnithine Decarboxylase

活 性 の 有 無 の バ タ ー ン に よ り判 定 し た(Table

1)4).

3)Hi,Hpの 半 定 量 的 百 分 率

Kaplanら の 方 法 を 一 部 変 更 し,寺 嶋 が 既 に 報

告 して い る方 法 に準 じて 行 っ た2).即 ち,培 地 上 で

各 コ ロ ニ ーが 均 等 に 独 立 散 布 さ れ て い る部 分 に お

い て,各 菌 の コ ロ ニ ー数 と全 コ ロ ニ ー数 の比 を 百

分 率 で あ らわ し,半 定 量 的 指 標 と した.ま ず,血

液 培 地 で の 各 菌 種 の比 を 求 め た の ち,チ ョ コ レ ー

ト培 地 上 で のHi,Hpの 集 落 数 と他 菌 種 との比 を

と り,換 算 し てHi,Hpの 全 集 落 に 対 す る比 率 を

求 め 百 分 率 で あ らわ した.

4)HiのABPC感 受 性

栄 研3濃 度 デ ィス でABC感 受 性(+)以 下 の株

に つ い て,日 本 化 学 療 法 学 会 の 再 改 訂(1981)最

小 発 育 阻 止 濃 度(MIC)測 定 法 に 準 じてMICを 測

定 し5),MIC1.56μg/ml以 上 の もの を 耐 性 と し

た.耐 性 株 に つ い て はRosenblattら の方 法 に よ る

ヨー ド澱 粉 ス ラ イ ド法 で β-lactamase産 生 能 を

測 定 した6).

5)統 計 処 理 法

Hi,Hpの 検 出率,HiのABPC耐 性 率 に つ い て

はx2検 定 を,細 菌 叢 百 分 率 に つ い て はt検 定 を 行

な っ た.ま たHi,Hpの 咽 頭 検 出 率 につ い てAr-

mitageの 検 定 を行 な った.

結 果

(1)咽 頭 で のHi,Hpの 検 出 率(Fig.1)

1)乳 幼 児(1983年10月 ～12月)

Hiの 検 出 率 は,生 後3～6ヵ 月5.7%,生 後7

～12ヵ 月7 .6%で,検 出率 は低 い.Hpの 検 出率 は,

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Fig. 1 Detection rates of H.influenzae and H.

parainfluenzae at each age group in throat cul-tures

生 後3～6ヵ 月4.6%,生 後7～12ヵ 月15.2%で あ

る.

2)幼 稚 園 児(1982年5月)

対 象 は,上 述 の 健 康 で あ る とす る条 件 に か な っ

た54例 で あ る.Hi検 出 率 は,38.9%で,Hp検 出

率 は27.8%で あ る.

3)学 童 児(1981年5月)

対 象 は,小 学1年 生82例,小 学3年 生95例,小

学5年 生92例 で あ る.Hi検 出 率 は,1年 生18.3%,

3年 生12.6%,5年 生4.3%で,Hp検 出 率 は,1

年 生42.7%,3年 生69.5%,5年 生56.5%で あ る.

4)各 年 齢 に お け る検 出率 の推 移

Hiは,1歳 まで は検 出 率 が 低 く,4～5歳 で 急

増 し,以 後 加 齢 と共 に減 少 傾 向が み られ,反 対 に

Hpで は,加 齢 と共 に増 加 傾 向 が み られ る.Ar-

mitageの 検 定 で は,4,5歳 児 以 降 で は 直 線 的 傾

向 は み られ な か った が,有 意(P<0.01)にslope

Fig. 2 Percentages of H.influenzae and H.parainfluenzae in the bacterial floraof the throat

〔H.infiuenzae〕 〔H.oarainfluenzae〕

感染症学雑誌 第63巻 第7号

健康児の咽頭,鼻 咽腔 でのヘモ フィルス属 の検出 695

をもって加齢 と共にHiは 減少し,Hpは 増加して

いる.

(2)咽 頭でのHi,Hpの 半定量的細菌叢百分率

(Fig.2)

乳児の半定量的細菌叢百分率は,Hiに おいてば

らつきはみ られたものの,全 例50%以 下である.

Hpは1例(3～6ヵ 月児)67%と 高かったが,他

は30%以 下で,細 菌叢百分率の平均は2%以 下 と

なっている.

幼稚園 と学童児でのHiの 半定量的細菌叢百分

率は,1%以 下から50%ま でのものが大部分であ

るが,4,5歳 児では90%以 上が4例 もみられてい

るが,他 年齢ではみられていない.50%以 上の比

率であった例は,小 学1年 生1例,3年 生2例 で

ある.細 菌叢百分率の平均をみると,4,5歳 児が

他グループより有意に高 く(p<0.01),5年 生は,

4,5歳 児,1,3年 生 よ り有 意 に低 い(p<

0.05～0.01).検 出率 と同様の傾 向である.ま た

Hpは,細 菌叢百分率20%以 下のものが各年齢 を

通 じて大半であるが,加 齢 と共に,細 菌叢の中で

高割合を示す例が増加している.平均では4,5歳

が有意に低 く(p<0.05),3,5年 生が,4,5歳

児,1年 生 より有意に高い(p<0.01)細 菌叢百分

率である.

(3)季 節別Hiの 咽頭での検 出率と半定量的細

菌叢百分率

幼稚園児 と学童児について,年4回 の咽頭培養

検査を施行 したが,各 回共健康で,咽 頭にも異常

所見を認めなかった児は,4,5歳 児27名,小 学1

年生33名,小 学3年 生68名,小 学5年 生68名 の196

名であった.各 年齢共,季 節別Hiの 検 出率に有意

差は認め られない.

年4回 の検査で,各 年齢共,4回 共検出なしか,

1～2回 検 出が大半で,検 出1回 以内が157名 で

80%を 占めている.

4回 検査施行者でのHiの 細菌叢百分率は,低

年齢程例数が少な く比較は難 しいが,各 季節間で

有意差はなく,季 節変動はない.

(4)咽 頭 と鼻咽腔でのHi,Hpの 検出率(Table

2)

各人 より同時期に咽頭,鼻 咽腔よ り検体を採取

Table 2 Comparison of the Detection Rates in

Throat & Nasopharyngeal Cultures with H.influenzae & H. parainfluenzae

した が,対 象 の 健 康 小 児 は,4,5歳 児42例,小 学

1年 生74例,小 学3年 生91例,小 学5年 生91例 で

あ る.

Hiの 検 出 率 は,咽 頭,鼻 咽 腔 に お い て,4,5歳

児 が30.9%,42.9%,小 学1年 生 が29.7%,62.1

%,小 学3年 生 が18.6%,49.4%,小 学5年 生 が

12.o%,32.9%で あ る.鼻 咽 腔 で のHi検 出率 は 小

学1年 生 で4,5歳 児 よ り有 意 に 高 く(p<0・05),

小 学3年 生,5年 生 と次 第 に減 少 して い る(p<

o.01～o.05).4,5歳 児 に お い て はHiの 咽 頭,鼻

咽 腔 で の検 出 率 に大 差 は な い が,小 学1,3,5年

生 で は 有 意 に 鼻 咽 腔 で の 検 出 率 が 高 い(p<

0.01).

Hpの 検 出 率 は,咽 頭,鼻 咽 腔 に お い て,4,5

歳 児 が50.0%,25.8%,小 学1年 生 が47.2%,

29.7%,小 学3年 生 が54.9%,41.7%,小 学5年

生 が70.3%,52.7%で あ る.鼻 咽 腔 で のHp検 出率

は4,5歳 児,小 学1年 生 で,小 学5年 生 よ り有

意 に低 い(P<0.05～0.01).各 年 齢 共,Hpの 検 出

率 は 鼻 咽 腔 で低 値 で あ る が,有 意 差 が み られ た の

は 小 学1,5年 生 の み で あ る(P<0.05).

(5)咽 頭 と鼻 咽 腔 で のHi,Hpの 半 定 量 的 細 菌

叢 百 分 率(Fig.3)

鼻 咽 腔 の 細 菌 叢 百 分 率 で は,Hiが4,5歳 ～小

学3年 生 で 有 意 差 が な く,小 学5年 生 で減 少 し て

い る(P<0.01).Hpは 小 学3年 生 が 他 グ ル ー プ に

比 較 し,有 意 に 高 い(p<0.01～0.05).

各 年 齢 共,細 菌 叢 に 占め るHiの 割 合 は,咽 頭 よ

り鼻 咽 腔 が 高 い(P<0.01～0.05).細 菌 叢 百 分 率

が50%以 上 の 例 は 鼻 咽 腔 で多 い.細 菌 叢 に しめ る

Hpの 割 合 はHiと 異 な り各 年 齢 共,咽 頭 と鼻 咽 腔

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感染症学雑誌 第63巻 第7号

健康児 の咽頭,鼻 咽腔でのヘモ フィルス属の検 出 697

Table 3 Biotypes of H. influenzae and H. parainfluenzae isolated from

throat and nasopaharyngeal cultures

に差 が み られ な い.

(6)Hi, Hpの 生 物 型(Table3)

今 回 の 結 果 は,1検 体 に つ き無 作 為 に1コ ロ

ニ ー釣 菌 した 生 物 型 で あ る.

同 時 採 取 の咽 頭,鼻 咽 腔 で 検 出 さ れ たHi,Hp

の生 物 型 をTable3に 示 す.Hiの 生 物 型 は 咽 頭,

鼻 咽 腔 共I, II, III型> V型> IV, VI型 で あ る.

Hp株 は,III型 が 咽 頭,鼻 咽 腔 共 に 多 い.

(7)HiのABPC耐 性 率

HiのABPC耐 性 株 は,咽 頭 で は,各 季 節 共1

～4株 で 耐 性 率 は1 .6～6.0%と 有 意 差 は な い.し

か し冬 期 鼻 咽 腔 よ り検 出 のHiのABPC耐 性 率

は17.7%と,同 時 採 取 の 咽 頭(1.6%)と 比 較 し て

有 意 に高 い(P<0.01).ABPC耐 性Hi 20株 の 生

物 型 は, 1型4株, II型9株, III型5株, V型2

株 で あ る.

考 案

健 康 小 児 の 咽 頭 か ら のHi検 出 率 に つ い て,外

国 で は1960年 代 にHarvey, Box, Dunlap, Master

な どに よ り報 告 され て い る.し か し本 邦 に お い て

は1975年 寺 嶋 に よ る報 告 以 外 著 者 が探 した 限 りに

お い て み あ た ら な い2).寺 嶋 の 報 告 はHaemo-

philus属 につ い て の 検 出率 で あ るが,そ の うち50

株 に つ い てHi,Hpの 同 定 が され て い る.今 回,

乳 児,4,5歳 児,小 学1年 生,小 学3年 生,小 学

5年 生 と計538名,延 べ2,058検 体 につ い て 調 査 を

行 な った が,Hiの 咽 頭 で の検 出 率 は,乳 児 まで は

低 率(5～8%)で あ る が,4,5歳 児 で39%と 高

率 に な り,以 後 加 齢 と共 に減 少 傾 向 が み られ る.

Dunlapら(1956)やMasterら(1958)と 同様 の

傾 向 で あ る.咽 頭 で のHi検 出 率 は25～60%の 報

告 が あ る8)11).寺 嶋 の報 告 で はHaemophilus属 の

検 出 は乳 児 で 低 く,幼 児,学 童 で21.1%, 25.6%

で あ り2)今回 の 報 告 で は2倍 以 上 の 検 出 率 で は あ

るが,培 養 方 法 及 び 同定 法 が,1970年 代 に な り確

立 され た 事 で あ り,一 概 に 保 有 率 が増 加 し て い る

とは い え な い と考 え て い る.

検 出 さ れ たHiの 咽 頭 細 菌 叢 に お け る量 的 比 率

も,検 出 率 同 様,4,5歳 児 が 有 意 に 高 く,ピ ー ク

とな り,小 学5年 生 で 低 くな っ て い る.Kuklinska

らは,健 康 な10人 の子 の 咽 頭 で,Hzemophilus属

は,細 菌 叢 の 約10%を 示 して お り,Hiは 約1.8%で

あ っ た と報 告 して い る10).

咽 頭 で のHpの 検 出率 は,乳 幼 児 期 に低 率 で,小

平成元年7月20日

698 榎谷 直子

学生になると急増 し,小学3,5年 生では56～69%

となった.加 齢 と共に咽頭でのHi検 出率が減少

すると,Hpの 検出率が増加している.Hpは 正常

咽頭細菌叢 として全例にみ られ るとの報告 があ

り9),検出率はHiに 比較 し高率であるとの報告が

あるが8)10),咽頭での検出率の年齢的推移 につい

て,詳 細な報告はない.Hpの 咽頭細菌叢での量的

比率は,Hiと 異な り検出率同様,4～5歳 児で低

く,小 学3,5年 生で高 くなっている.咽 頭細菌叢

において,Hi検 出率並びに細菌叢百分率が4,5

歳をピークとし,加齢 と共に減少し,反対にHpが

増加するとい う結果が今回得 られたが,こ の2菌

種間に何故相対して増減す るのか,咽 頭粘膜への

定着,増 減に相互関連があるのか どうか,今 後の

研究に期待 したい.

Harveyら(1961)は7年 間の健康な家族につい

ての観察で,Hiは 年間を通じてみられ明 らかな季

節差はないとしているが,今 回の研究でも,同 様

に,Hiの 検出率,細 菌叢百分率に季節変動はみら

れず,4回 検査の うち検 出が1回 以内の ものが

80%を しめ,Hiの colonization が transientで あ

る事が再確認された.

健康小児の鼻咽腔でのHi検 出率 は12～36%の

報告がある12)13).今回の結果では,鼻 咽腔でのHi

の検出率は,4,5歳 児,小 学1,3年 生で高 く

43～62%で あるが,岸 本 らの報告の2～4歳 保育

園児のHi検 出率73.3%よ りは低い14).今 回検討

を行なっていない1～3歳 児で検出率がより高 く

なる可能性があると考 えている.Hiの 検 出率は

Michaelsら は,咽 頭の方が鼻咽腔より高率に検出

されるとしているが15),今回の結果では,鼻 咽腔の

方が高率に検出されてお り,Roseburyの 報告 と

同じである7).又,Hiの 細菌叢百分率において も

鼻咽腔の方が高 く,細 菌叢百分率が50%を 越える

例数 も有意に鼻咽腔で高い.こ れ ら,検 出率及び

細菌数の量的割合の両者 より考えるに,Hiの 疫学

調査においては,鼻 咽腔培養の方が有用であると

考える.

鼻咽腔でのHp検 出率は,高 年齢になる程高い

が,咽 頭に比 し低率である.し かし細菌叢百分率

では咽頭 と差はない.Roseburyの 報告 と同じで

あ る7).

Hiの 生 物 型 は,咽 頭,鼻 咽 腔 検 出 株 共 に,I,

II, III型が 多 く,咽 頭 で85.2%,鼻 咽 腔 で78.9%

を しめ る.Grattenら の健 康 小 児 で の検 討 で は,上

気 道 でI, II型 が 多 く(60%),つ い でIV, III型

(29%)と し て い る16).臨 床 分 離 株 の 報 告 で は,

Oberhoferら が 鼻 咽 腔 で はII (54.3%)>I

(21.4%)>III (15.7%)型 の順 に 検 出 され た と報

告 して い る17).今 回 の 生 物 型 分 布 も 同様 の傾 向 に

あ っ た が,Kuklinskaら は,健 康 児10人 の 咽 頭 検

出株 に つ い て詳 細 な 報 告 を して お り,生 物 型 は8

人 に各2～5種 検 出 され,細 菌 量,分 布 は い ろ い

ろ で あ る と して い る事 よ り10),今 回 の 成 績 も集 団

と して 分 布 状 況 を み る一 助 に は な る が,各 年 齢 の

生 物 型 分 布 を み るに は よ り詳 細 な検 討 が 必 要 と考

え る.同 様 の 観 点 か ら,咽 頭,鼻 咽 腔 の一 致 率 は,

75.5%で あ る が,生 物 型I型 を み る と,ど ち らか

一 方 の み の検 出 が41例 あ るが,個 々 の 検 体 で全 検

出 コ ロ ニ ー を 調 べ る と異 な る結 果 とな る可 能 性 が

残 され て い る.Hpの 生 物 型 はIII型 が,咽 頭,鼻 咽

腔 共 に 多 い.Oberhoferら に よ る と 臨 床 分 離Hp

株 は,I, II, III型同程 度 検 出 さ れ て お り17),今 回

の 成 績 とは 異 な る.

HiのABPC耐 性 率 は,今 回,咽 頭 で1.6%と 低

い が,鼻 咽 腔 で は17.7%と 高 く,同 時 期 の 黒 崎 の

報 告(3.6%)よ り高 率 で あ った19).上 原 らの 全 国

調 査 で り 疾 患 由 来 株 のABPC耐 性 率 は5.4～13.0

%と これ よ り低 い18).健 康 小 児 の 咽 頭 で のABPC

耐 性 率 の報 告 は,3～34%と い ろ い ろ で あ るが,

地 域 差,そ の 地 域 の 抗 生 物 質 の 使 用 頻 度 な ど と関

連 が あ るの で は な い か と考 え る8)11)20)21).今後,経

年 的 に健 康 小 児 で も,ABPC耐 性 率 を見 て い く必

要 が あ る と痛 感 した.又,HpのABPC耐 性 率 の

報-告 で は26～72%とHiのABPC耐 性 率 の2

～3倍 を 示 して お り21)22),HpがHaemophilusの

耐 性plasmidのreservoirで あ る とい う仮 説 も あ

り,HiとHpの 今後 の 基 礎 研 究 に期 待 した い と考

え る.

御校 閲いただいた千葉大学 医学部小児科中島博徳教授 と

同教育学部上原す ゴ子教授,帝 京大附属市原病院小児科寺

嶋 周教授,千 葉県立 こども病院感染症科中村 明医長 に

感染症学雑誌 第63巻 第7号

健康児の咽頭,鼻 咽腔 でのヘモ フィルス属 の検出 699

深謝致 します.ま た御支援いただいた感染研究班 の同僚お

よび,検 体採取に御協力下 さいました下記施設 の諸先生に

深 く謝意を表 します.

千葉市立若松小学校,市 原市立 白幡小学校,千 葉大学附

属幼稚園,川 崎製鉄千葉病院.

文 献

1) 上 原 す ゞ子: イ ン フル エ ンザ 菌感 染 症 に 関す る最

近 の問 題. 小 児 医 学, 10: 92-122, 1977.

2) 寺 嶋 周: 小 児 期 咽頭 細 菌叢 に関 す る研 究. 日児

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平成元年7月20日

700 榎谷 直子

Relative Proportions of H. influenzae and H. parainfluenzae in theThroat and Nasopharynx of Healthy Children

Naoko ENOKIDANI

Department of Pediatrics, Chiba University, School of Medicine

To determine normal proportions of pharyngeal H. influenzae and H. parainfluenzae, qualitativeand quantitative mapping of the species in the pharynx of 538 healthy children was carried out. Thedetection rates of H. influenzae rose to a peak at 4, 5 years, with a slow decline thereafter. In contrastto H. influenzae, the detection rates of H. parainfluenzae rose as the child became older in age. Therates of H. influenzae and H. parainfluenzae of the total cultivable flora showed the same tendency asthe detection rates. No consistent seasonal fluctuations was found with H. influenzae.

The pharyngeal swab was inferior to the nasopharyngeal swab in each age group, for detecting thecarriage of H. influenzae and H. parainfluenzae in the upper respiratory tract.

The rate of ampicillin-resistent H. influenzae was 17.7% in the nasopharynx.

感染症学雑誌 第63巻 第7号