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61 防衛装備・技術協力とその知的財産戦略 防衛装備・技術協力とその知的財産戦略 原崎 亜紀子 1 < 要旨 > 本稿は、防衛装備品について、様々な過程や形態で得られる技術上の成果を「知的 財産」の観点から捉え直し、その管理の現状について考察する。まず、米国における 知的財産管理をプロパテント政策、イノベーション政策として評価し、バイ・ドール 制度の有効性を確認した。次に、防衛省の知的財産管理に係る諸課題について検討し、 最後に防衛装備・技術協力において有効に知的財産を活用するために、(1)政府契約 から得られる技術上の成果の帰属を明確にすること、(2)未公開技術情報(営業秘密) を保護し、活用を促すこと、(3)国際共同開発・生産における知的財産の取扱い方、 について提言を行う。 はじめに 軍工廠を持たない戦後の日本では、防衛装備品は防衛省が民間の防衛産業部門の協 力を得て開発している。ながらく、国内で開発された防衛装備品は、基本的に防衛省・ 自衛隊が発注元であり、唯一の需要先であった 2 。このため開発過程で生まれる知的財 産、例えば設計図面や試験データ等は全て国に帰属するものとされ、第三者に供する 場合の利用、処分に関する細かな権利については契約段階で要求せずとも、企業側に 営業上の問題は生じなかった。しかし、装備移転三原則が策定され、日本から外国へ の防衛装備及び技術の移転が可能となったことを踏まえる 3 と、旧来の研究開発を含 む取得制度を継続することが政策的に適切なのかの検討も必要となろう。中でも知的 財産の利用、処分に関する企業側の権利について旧来の政府契約の方針では、国際競 1 本論文は、防衛研究所第 64 期一般課程(大学院連携プログラム)提出論文(修正論文)を加筆・修正したものである。 本論文で述べられている見解は、筆者個人のものであり、所属する組織を代表するものではない。本論文作成に あたり、指導いただいた防衛研究所理論研究部社会・経済研究室の富川英生教官、政策研究大学院大学の角南篤、 道下徳成両教授及び小野恵子講師、研究の場を設けていただいた防衛研究所に謹んで感謝の意を表する。 2 防衛省「防衛生産・技術基盤戦略」(2014 6 月)、http://www.mod.go.jp/atla/soubiseisakuseisan.html3 内閣官房「防衛装備移転三原則」(2014 4 1 日)、http://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/bouei.html

防衛装備・技術協力とその知的財産戦略 - MOD · 2018-03-23 · 63 防衛装備・技術協力とその知的財産戦略 て現状とその課題を検討議論する。そして最後に防衛装備・技術協力で知的財産を有

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防衛装備・技術協力とその知的財産戦略

防衛装備・技術協力とその知的財産戦略

原崎 亜紀子 1

<要旨 >

本稿は、防衛装備品について、様々な過程や形態で得られる技術上の成果を「知的財産」の観点から捉え直し、その管理の現状について考察する。まず、米国における知的財産管理をプロパテント政策、イノベーション政策として評価し、バイ・ドール制度の有効性を確認した。次に、防衛省の知的財産管理に係る諸課題について検討し、最後に防衛装備・技術協力において有効に知的財産を活用するために、(1)政府契約から得られる技術上の成果の帰属を明確にすること、(2)未公開技術情報(営業秘密)を保護し、活用を促すこと、(3)国際共同開発・生産における知的財産の取扱い方、について提言を行う。

はじめに

軍工廠を持たない戦後の日本では、防衛装備品は防衛省が民間の防衛産業部門の協力を得て開発している。ながらく、国内で開発された防衛装備品は、基本的に防衛省・自衛隊が発注元であり、唯一の需要先であった 2。このため開発過程で生まれる知的財産、例えば設計図面や試験データ等は全て国に帰属するものとされ、第三者に供する場合の利用、処分に関する細かな権利については契約段階で要求せずとも、企業側に営業上の問題は生じなかった。しかし、装備移転三原則が策定され、日本から外国への防衛装備及び技術の移転が可能となったことを踏まえる 3と、旧来の研究開発を含む取得制度を継続することが政策的に適切なのかの検討も必要となろう。中でも知的財産の利用、処分に関する企業側の権利について旧来の政府契約の方針では、国際競

1 本論文は、防衛研究所第 64 期一般課程(大学院連携プログラム)提出論文(修正論文)を加筆・修正したものである。本論文で述べられている見解は、筆者個人のものであり、所属する組織を代表するものではない。本論文作成にあたり、指導いただいた防衛研究所理論研究部社会・経済研究室の富川英生教官、政策研究大学院大学の角南篤、道下徳成両教授及び小野恵子講師、研究の場を設けていただいた防衛研究所に謹んで感謝の意を表する。

2 防衛省「防衛生産・技術基盤戦略」(2014年 6月)、http://www.mod.go.jp/atla/soubiseisakuseisan.html。3 内閣官房「防衛装備移転三原則」(2014年 4月 1日)、http://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/bouei.html。

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防衛研究所紀要第 20 巻第 2号(2018 年 3 月)

争入札などの場面において十分に対応できない場面も見受けられるようになっており、政府として防衛装備・技術協力を推進するのであれば、知的財産の利活用という観点から、開発装備品における成果の帰属を適切に見直す必要があると考えられる。例えば 2015年 11月末、日本企業が豪州の将来潜水艦の選定プロセスに参加することが国家安全保障会議で認められた 4が、結果は仏国企業に敗れることとなった。報道によれば、当初、日本の潜水艦は総合能力で本命と言われながら選定競争に敗れた一因としては、技術移転、生産移管に関し豪州当局への具体的な提案が消極的であった点が指摘されている 5。現在、日本とインドの間で飛行救難艇 US-2に関する装備・技術協力について二国間協力に向けた合同作業部会(Joint Working Group: JWG)が設置され、協議が行われている 6。インド政府は国内防衛産業への外国企業の参加を促す一方、外国企業が防衛装備品をインドに輸出するためにはオフセット取引として付加価値の 30%以上を技術移転又は生産移管することを求めている 7。少なくとも、技術移転、生産移管する付加価値として、サプライヤーが開発を担当した知的財産の利用、処分に関する権利について整理しておくことが求められている 8。今後、日本が防衛装備・技術協力を推進 9するためには、豪州やインドとの交渉過

程で得た課題を教訓として 10、諸外国の成功事例を参考に知的財産にかかる、権利の帰属、その適切な保護と利活用を促すインセンティブ制度を設計する必要があると考えられる 11。本稿では、防衛省における知的財産管理について、米国を中心に国際競争力を維持

するための知的財産管理を概観し、続いて防衛装備品に係わる知的財産の管理につい

4 経済産業省「防衛装備の海外移転を認め得ることとしました~豪州将来潜水艦の共同開発・生産を我が国が実施することとなった場合の構成品等の豪州への移転について~」、http://www.meti.go.jp/press/2015/11/20151126003/20151126003.html。

5 “Prime Minister, Minister for Defence - Joint media release - Future submarine program,” Department of Defence of Austrian Government, https://www.minister.defence.gov.au/minister/marise-payne/media-releases/prime-minister-minister-defence-joint-media-release-future.; コリン・パッカム、久保信博、ティム・ケリー「豪潜水艦の共同開発相手は仏に軍配、日本敗れる」『ロイター』2016年 4月 26日、http://jp.reuters.com/article/australia-submarines-pm-idJPKCN0XN067?sp=true。; 佐野正『潜水艦のメカニズム完全ガイド』(秀和システム、2016年)43頁。

6 防衛省『平成 28年版 防衛白書』367頁。7 伊豆山真理「インドの装備調達 -買い手からつくり手へ?」『防衛研究所紀要』第18 巻第2 号(2016 年2 月)23-43頁。8 防衛省「第 5回防衛装備・技術移転に係る諸課題に関する検討会 資料 2」、http://www.mod.go.jp/j/approach/agenda/

meeting/sobi-gijutsuiten/sonota/sonota.html。; Basu, Titli. “Make in India and India-Japan Defence Cooperation”, Japan-India Defense Study Workshop 2017(8-9 February, Tokyo).

9 報道によれば、防衛省は警戒管制レーダ FPS-3をタイへ輸出することを検討しているとされる。「タイに空自レーダー輸出…防衛省、来月入札に参加 基幹装備、中国牽制なるか」『産経新聞』2017年 8月 27日、http://www.sankei.com/politics/print/170827/plt1708270004-c.html。

10 半沢尚久「防衛オフレコ放談」『産経新聞』2017年 11月 9日、http://www.sankei.com/premium/print/171109/prm1711090006-c.html。; 秋山信一「<三菱電機>タイ軍の入札に参加 国産防空レーダー」『毎日新聞』2018年 2月25日、https://mainichi.jp/articles/20180225/k00/00m/020/179000c。

11 財務省「財政制度分科会(平成 29年 10月 31日)資料 3」20頁、http://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia291031.html。

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防衛装備・技術協力とその知的財産戦略

て現状とその課題を検討議論する。そして最後に防衛装備・技術協力で知的財産を有効に活用するための施策について提案する。

1.米国における知的財産の利活用

(1)連邦政府におけるプロパテント制度とイノベーション振興政策1970年代末、米国経済はスタグフレーションと「双子の赤字」と呼ばれる深刻な財

政赤字と経常収支赤字に悩まされていた 12。このため米国の国際競争力低下への懸念が高まり議会などでは科学技術政策およびパテント制度のあり方が超党派で議論された。1980年に法制化された「大学および中小企業特許手続法(Patent and Trademark Law

Amendments Act (Pub. L. 96- 517, December 12, 1980))13」、いわゆる「バイ・ドール制度」14は、国際競争力強化を目的に、公的資金を利用した研究成果の実用化促進を目指した 15。そして公的な研究開発プログラムにおける発明の商業化、中小企業の参加及び産学連携(Small Business Innovation Research : SBIR/ Small Business Technology Transfer: STTR)などの施策が推進された 16。1985年には非営利組織「競争力評議会」が、米国経済の国際競争力の復活を企図し、ロナルド・レーガン(Ronald Wilson Reagan)大統領に「ヤング・レポート 17」を提出した。これは、脱工業化と同時に知識主導社会への転換を図ることを提言し、その重要なツールとして、いわゆるプロパテント政策の推進を求めた。この結果、米国の科学技術政策・パテント制度は、独占の禁止から知的財産権の保護・利活用に大きく舵を切り、その後の米国経済をけん引する情報通信技術(IT)産業やバイオテクノロジー産業などの振興を制度面から支援した 18。この科学技術研究の成果を知的財産として活用し、技術イノベーションを通じて競争力の維持を図るという基本戦略はその後も支持されており、「ヤング・レポート」から 20年経った 2004年には、政府によるイノベーション振興への要請をまとめた報告

12 大村大次郎『お金の流れで探る現代権力史』(KADOKAWA、2016年)172-183頁。13 洪美江「米国バイ・ドール法 28年の功罪 新たな産学連携モデルの模索も」『産学官連携ジャーナル』(2009年 1月)1頁、https://sangakukan.jp/journal/journal_contents/2009/01/articles/0901-02/0901-02_article.html。

14 産業競争力向上のために、政府資金による委託研究開発に係る知的財産権について、受託者である企業に知的財産を帰属させる制度。

15 山口栄一『イノベーションはなぜ途絶えたか -科学技術立国日本の危機』(筑摩書房、2016年)58-104頁。; 松村博行「米国における軍民両用技術開発プロジェクトの分析 - ナショナル・イノベーション・システムの視点から -」『日本国際経済学会第 65 回全国大会報告論文』(2006年 10月 14日 -15日、名古屋)、https://www.jsie.jp/Annual_Meeting/2006f_Nagoya_Univ/jsie9bb.pdf。

16 同上。17 President’s Commission On Industrial Competitiveness, Global Competition: The New Reality Vol.1 (1985).18 吉田侑哉「イノベーションと科学技術」『みずほ情報総研技報』Vol.1 No.1(2007年 12月)1-10頁。

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防衛研究所紀要第 20 巻第 2号(2018 年 3 月)

書「パルミサーノ・レポート 19」が発表されている。同報告では「人材」、「投資」及び「インフラ整備」の三つの側面から政策提言を行い、政府は国家イノベーション・イニシアティブ(National Innovation Initiative : NII)などの施策を通じ、経済の成長と国際競争力の維持を図っている。米国が行ったプロパテント政策、イノベーション振興政策の効果について、定量的な評価は難しいものの、図 1に示すように 1970年以降、「ヤング・レポート」が提出されるまでの技術貿易収支の平均増加率は 7%、「パルミサーノ・レポート」が提出されるまでの平均増加率は 12%、そして、リーマン・ショック前年の 2007

年までの平均増加率が 17%と、米国における知的財産の利活用が促進されたことが確認できる 20。

(2)米国防総省における知的財産権の帰属次に米国防総省が行う政府調達における知的財産の取扱いについて概観する 21。米国防総省は第二次大戦後から時を経ずして、契約者に対して特許を付与する「契

19 Council on Competitiveness = CoC, Innovate America:Thriving in a World of Challenges and Change (2004).20 Teece, David. The transfer and Licensing of Know-How and Intellectual Property. (New Jersey: World Scientifi c, 2008).21 一般社団法人日本航空宇宙工業会「政府契約における知的財産の概観 -欧米諸国と日本との比較 -」(2015年8月)。

図1 米国の技術貿易収支(出所)世界銀行のデータベースを基に加工・作成。

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防衛装備・技術協力とその知的財産戦略

約者保有」の原則を貫いており、軍事技術のスピンオフを図ってきた 22。これは米国特許法に「秘密保持命令(Security Order)」制度 23があることから、公開を望まない軍事技術については米政府が秘密保持命令を発出することができ、国防総省による秘密解除がなされるまで公開されないため、一律に契約者に特許を付与してもそれを管理することが可能であったためである。一方で、バイ・ドール制度が導入された後は、全省庁に適用される連邦調達規則(Federal Acquisition Regulation:FAR)及びそれを補足する防衛連邦調達規則補足(Defense Federal Acquisition Regulation Supplement: DFARS)によって、国防総省との契約においては、米国の契約者に知的財産権を付与することが明確化されている。政府契約から派生した知的財産のうちバイ・ドール制度の対象としては特許権と著

作権が認められており、著作権は更に、未開示の記録された科学 ・技術的性格を有する情報である「技術データ権」(表 1)とコンピュータプログラム、 ソースコード、 アルゴリズム、 プロセス、 フローチャート及び関連資料から構成される「コンピュータソフトウェア権」に分類されている(図 2)。バイ・ドール制度では、契約者に知的財産権を帰属させても、政府には当該知的財産の無償利用権等が保障されている。特許権に関しては、政府が当該発明について交渉不可能な非独占的実施権を持ち、契約者は所有権を持つかどうかの選択が可能である。契約者が所有権を選択する場合は、商業化の義務を負う。「技術データ権」に関しては、政府は表 1に示すように政府資金の多寡により「無制限の権利」、「有限の権利」及「政府目的の権利」のいずれかを得る。「コンピュータソフトウェア権」については、政府資金の多寡により、「無制限の権利」、「有限の権利」、「政府目的の権利」、「特別の交渉による権利」及び「商用目的の権利」のいずれかを得る。米国防総省との契約におけるパテントの利活用について冷戦期間中は、政府と企業の双方が安定した武器の開発・生産体制を求めており、この際、政府契約の成果を契約者に帰属させ先端防衛技術の民生品へのスピンオフを図っていた。しかし冷戦後、防衛技術の位置づけが変化し、例えば米国国防科学委員会(Defense Science Board: DSB)は 1999年の報告書では、グローバル化と共に、米国の防衛産業は国際的な統合再編、国際調達の増加とともに、防衛生産における民生技術の活用が進むと予想した 24。

22 三瀬貴弘「米国産業競争力政策におけるバイドール法の位置」 『アメリカ経済史研究』第 8号(2009年 10月)19-38頁。

23 網仲幸男「米国におけるエコノミックセキュリティと秘密特許」『情報処理学会報告』Vol 2012-DPS-152 No.18 (2012年 10月)1-6頁。

24 佐藤丙午「グローバル化する防衛産業と輸出管理」鈴木一人『技術・環境・エネルギーの連動リスク』(岩波書店、2015年)165-202頁。

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防衛研究所紀要第 20 巻第 2号(2018 年 3 月)

図2 米国における政府契約から派生した知的財産の取扱い(出所) 一般社団法人日本航空宇宙工業会『 政府契約における知的財産の概観 -欧米諸国と日本との比較 -』(2015

年 8月)。

表1 政府に課せられる技術データの取扱い制限政府の無制限の権利 政府の有限の権利 米国政府目的の権利

政府が保有する権利の区分

(1) 技術データ全て或いは部分的にいかなる目的に対しても、使用・修正・複製・実施・表示・開示できる権利であり、他社に対してもそうさせることをライセンス供与により認められる。

(2) 根拠規定:DFARS 257.227-7013(a) (15)

(1) 「政府内で」技術データ全て或いは部分的に使用・修正・複製・実施・表示・開示するための権利

(2) 政府は、有限の権利を主張する企業の書面による許可なしに政府外で技術的データをリリース・開示すること、製造のために技術データを使用すること、当該技術データを他者が使用することは認められない。

(1) 「政府内で」無制限に技術データの使用・修正・複製・実施・表示・開示するために、また、米国政府目的のために政府外に技術データを開示することで5年間の権利を有する。

(2) 5年間が満了すれば、政府は制限のない技術データの権利を有する。

契約における資金条件

1. 政府が無制限の権利を取得することができる場合

(1) 政府資金により専用に開発された品目

(2) 契約者が納入する技術マニュアル(※)にデータが記載されている場合(※) 修理・維持・操作マニュアル

を含む。(3) 根拠規定:DFARS 227-7103-

5(a) 他2. 契約者又はサブ契約者(所有者)も同様に使用でき、或いは他社に使用させることができる。

1. 政府が制限付権利を持つことができる場合

(1) 私的資金による専用に開発された品目⇒政府は制限された実施権しか与えられない。

(2) 根拠規定:DFARS 227-7103-5(c)他

2. 例外(1) 当該データが緊急修理とオーバホールに必要な場合

(2) 政府の利益になる外国政府に対し当該データを開示・リリースする場合等

1. 政府が政府目的権利を持つことができる場合

(1) 私的資金と政府資金の両方を使用して開発された品目

(2) 根拠規定:DFARS 227-7103-5(b)他 

(出所) 一般社団法人日本航空宇宙工業会『政府契約における知的財産の概観 -欧米諸国と日本との比較 -』(2015年 8月)に一部加筆修正して作成。

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防衛装備・技術協力とその知的財産戦略

事実、冷戦の終結とともに、防衛技術の研究開発プログラムに起源を持つ半導体やインターネット、全地球測位システム(GPS)等の技術の利用と開発が、大学や研究所等を通じて急速に広がり、米国の情報通信の国際競争力を発展させてきた 25。そして、防衛目的の研究開発プログラムよりも、はるかに速いスピードで技術ブレークスルーが進み、また多様な応用技術が展開されることで、その成果を再度防衛技術としてスピンオンさせようとする取組みが、米国国防高等研究計画局 (Defense Advanced Research

Projects Agency: DARPA)が中心となって進められている 26。このような状況の中では、国防総省が行う政府契約において、政府と民間の資金が混在した状況を前提とした制度設計が求められる。米国防総省は官民の間での知的財産の権利を政府資金の多寡により区分し、民間資金をうまく取り込むインセンティブを与えている 27。米国のバイ・ドール制度を含むプロパテント政策の事例を見て、欧州諸国や豪州でも産業の競争力向上の手段として導入しており、民生技術と防衛技術の境界がぼやける中で、スピンオフとスピンオンのサイクルを加速させることに成功しているように見える 28。バイ・ドール制度を含めて国家主導のイノベーション政策の効果を評価するのは難しいところだが、世界知的所有権機関(World Intellectual Property Organization: WIPO)が 2015年に発表した報告書(World Intellectual Property Report 2015)では航空機、 抗生物質及び半導体の各分野の事例研究を行い、欧州及米国で行われた国家主導の大規模イノベーション政策は効果的であったと結論付けている 29。

(3)米国の政府契約における技術データに関する知的財産管理技術データ権に関し、表 1にあるように 100%民間資金で得られた技術データは、当該製品の生産を目的としたものであっても、政府は契約企業による同意なしには政府外に開示することができないこととなっている。このため、企業側は政府契約プログラムにおいて安心して自己資金による研究開発投資ができる契約制度になっていると言える。知的財産権は各国で法制が異なる属地主義が基本であり、米国においては著作権で保護される技術データ権は、日本の著作権法では保護されず、不正競争防止法における「営業秘密」として広義の産業財産権で保護されることとなっている。前述のヤン

25 同上。26 独立行政法人 科学技術振興機構 研究開発戦略センター「米国DARPA(国防高等研究計画局)の概要 (ver.2)」(2014年 9月)、https://www.jst.go.jp/crds/report/report06/US20140901.html。

27 山口『イノベーションはなぜ途絶えたか -科学技術立国日本の危機』58-104頁。28 出口治明『日本の未来を考えよう』(クロスメディア・パブリッシング、2015年)290-336頁。29 World Intellectual Property Organization (WIPO), “Chapter 2 Historical Breakthrough Innovations,” in World Intellectual

Property Report 2015, 49-93, http://www.wipo.int/econ_stat/en/economics/wipr/.

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防衛研究所紀要第 20 巻第 2号(2018 年 3 月)

グ・レポートでは米国の国際競争力を復活させるために、「知的財産権の保護が独占禁止法によって不当に制限されており、この保護を強化しなければならない。米国政府は国内の保護強化を図るとともに、海外での保護強化を目指して国際社会で攻撃的な働きかけをなすべきである。」と提言していた。そして米国は自国の生産技術を未公開技術情報として積極的に保護した。そして日本に対しては、基礎研究への貢献の少なさを指摘し、技術ただ乗り論で攻撃する一方で、産業界が有する生産技術が標的とされた 30。このような経緯もあって FAR及び DFARSは、米国及びカナダ以外の国の企業と契約する場合、 得られた技術データは、その資金源に関係なく、全てを政府に無制限の権利として与える特別条項を付与できるとしている。近年では欧米で広く行われる国際共同開発及び生産における知的財産の取扱いにつ

いて、FAR(Part 27.302(b)(1))では、米国政府は非米国籍企業の契約者に知的財産権を保有させず、政府保有を主張できるとしている。同様にDFARS Clause 252.227-7032(Rights

in technical data and computer software (foreign))では 「米国政府は、米国政府とその他の政府の相互防衛推進のための他政府への納入を含め、いかなる目的 ・やり方でも、契約の下で契約者から米国政府へ納入するように指定された、全ての技術データ (報告、図面等を含む )及びコンピュータソフトウェアの複製 ・使用 ・開示ができる」と規定しており、米国政府に有利かつ米国籍企業を優遇した契約内容になっている。

2.日本の知的財産管理の現状と防衛省の課題

(1)知的財産権における産業財産権の法的位置づけ2004年に川崎重工業によって中国鉄道省に対して行われた新幹線に係る技術供与は、結果として供与先において企業競争力の源泉である知的財産を保護出来なかった事例と評価されている 31。このような海外への技術移転や生産移管における教訓を踏まえて、日本においても防衛技術に係る知的財産の意図せぬ流出を防止するよう喫緊の保護対策が必要となる 32。

30 河村豊「国際比較による科学技術政策史の考察― 協調型科学技術政策と軍民両用技術という 2つの視点から ―」『立命館経営学』第 52巻 第 2・3号(2013年 11月)111-134頁。; 塙賢治「わが国企業の知的財産有効活用に向けて-企業内の非中核技術と環境技術の活用を中心に -」『日本政策投資銀行調査』第 84号(2005年 7月 14日)12-14頁、http://www.dbj.jp/reportshift/report/research/index.html。 ; James Fallows, “Containing Japan”, The Atlantic, May 1989 Issue, https://www.theatlantic.com/magazine/archive/1989/05/containing-japan/376337/.

31 Norihiko Shirouzu, “Train Makers Rail Against China's High-Speed Designs,” The Wall Street Journal, published 17 Nov. 2010, https://www.wsj.com/articles/SB10001424052748704814204575507353221141616.

32 ユージン B・スコルニコフ(薬師寺泰蔵、中馬清福監訳)『国際政治と科学技術』(NTT出版、1995年)132-253頁。

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防衛装備・技術協力とその知的財産戦略

日本における知的財産は知的財産基本法(平成 14年法律第 122号)第 2条において「発明、考案、植物の新品種、意匠、著作物その他の人間の創造的活動により生み出されるもの(発見又は解明がされた自然の法則又は現象であって、産業上の利用可能性があるものを含む。)、商標、商号その他事業活動に用いられる商品又は役務を表示するもの及び営業秘密その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報」と定義されている。このような知的財産は二つの類型に区分することができる。第 1の類型は産業、文化の上における人間の精神的な創作活動である。第 2の類型は産業活動における識別標識等である 33。防衛装備品に関係する知的財産は第 1の類型のものとなり、産業発展のための創作的活動の成果に関する権利である産業財産権に属する特許権、実用新案権、意匠権、営業秘密に加えて、言語による著作物、図形による著作物、プログラム等の著作物を保護する著作権が中心となる。競業的色彩の強い狭義の産業財産権である特許権、実用新案権、意匠権等は、産業

活動上の絶対的な排他独占権を認めているため、国家経済の進展に直接影響するところが大きく、属地主義が原則となる 34。従って、日本で登録された産業財産権は日本においてのみ権利を有するものとなる。一方で著作権は相対的な排他独占権しか認めていないので、国家の利害の対立が少なく、ベルヌ条約及び万国著作権条約により、著作権の成立及び効力ともに属地性が緩和されている。すなわち、著作権については条約加盟国のどの国でも権利の享有及び行使ができるものとなる 35。防衛装備・技術協力を実施するにあたり、日本国内でのみ権利化された産業財産権については、このような属地性の違いに配慮し、協力相手国においても適切な保護が受けられるよう対応することが求められる。

(2)防衛関連企業における知的財産の管理体制日本は 1995年制定の科学技術基本法を基に、基礎研究支援に乗り出し、企業及び政

府ともに研究開発経費を増やした 36。そして、2003年 3月には技術を知的財産として守るべく知的財産戦略本部が内閣府に設置された。知的財産戦略本部は毎年、日本の

33 紋谷暢男『知的財産権法概論(第 3版)』(有斐閣 , 2012年)1頁。34 西口博之「外国特許権の保護と属地主義」『平安女学院大学研究年報』第 7号 (2007年 3月 )1-3頁。35 紋谷『知的財産権法概論(第 3版)』375-391頁。36 文部科学省『平成 27年版科学技術白書』75-113頁、http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/hpaa201501/

detail/1359576.htm。 ; 直江清隆「技術観のゆらぎと技術をめぐる倫理」『岩波講座 現代 2 ポスト冷戦時代の科学 /技術』(岩波書店、2017年)39-66頁。 ;スコルニコフ『国際政治と科学技術』20-23頁。 ; 戦時中の 1941年より、日本では「科学技術」が政策用語として造語され定着しているが、本稿では、「科学」と「技術」を別ものと扱い、その意味については科学技術政策を専門とする国際政治学者のスコルニコフの著作『国際政治と科学技術』に従うものとする。

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知的財産戦略として知的財産推進計画を策定している 37。2003年に知的財産戦略本部が設置されたことを受けて、経済産業省では「知的財産

の管理・取得指針」を策定した。企業自らが知的財産を自社の競争力の源泉として経営戦略の中に位置づけ、それを事業活動に組入れることにより、収益性と企業価値の最大化を図るための一つの要素として、事業戦略、研究開発戦略及び知的財産戦略を三位一体で構築するよう、日本の研究開発費の概ね 8割を占める産業界に求めた 38。しかし、日本においては防衛事業部門と民生事業部が同一企業に共存しているにも拘らず、防衛省との政府調達では秘密保全や情報保全関連規則への対応から、企業内では防衛事業部門独自の知的財産に関する管理体系を有しており、そのため防衛事業部門は三位一体の経営戦略から取り残されている。防衛装備品の開発・量産過程で、米軍現有装備品に係るライセンス生産の場合には、

特別防衛秘密、国産開発の装備品の場合には、特定秘密又は防衛省秘密に相当する情報が含まれることがある。これらの秘密事項について、防衛省は契約の特別条項として厳格な秘密保全を求めている。「特別防衛秘密の保護に関する訓令」及び「秘密保全に関する訓令」はともに 1958年に制定されており、企業の従業員を含めた防衛事業部門と民生事業部門を物理的に隔離することで秘密保全を図る物理的対策、人的対策を要求している 39。更に 2004年より、秘密事項に該当しないものの、防衛省の職員以外の者又は当該事務に関与しない職員にみだりに知られることが業務の遂行に支障を与えるおそれのある文書、図画又は物件に関し、情報セキュリティ管理に関する基準などを策定し、情報セキュリティの確保を防衛関連企業との契約において対策実施を求めている 40。このような防衛省の秘密保全、情報保全へ対応するため、防衛事業部門は企業全体の知的財産である各種技術情報の管理体系の外で独自の体系を有することが多くなっている。

(3)防衛省における知的財産の管理体制と日本版バイ・ドール制度の導入防衛省・自衛隊における知的財産は、職員の職務上の創造的活動により生じるものと、

防衛省・自衛隊が企業、国立研究開発法人等の研究機関に検討、分析、設計、製造等

37 久貝卓「知的財産戦略の評価と今後の方向-新たな知財政策の開始を-」『RIETI Policy Discussion Paper Series 10-P-006』(2010年 8月)4-6頁。

38 妹尾堅一郎『技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか―画期的な新製品が惨敗する理由』(ダイヤモンド社、2009年)iii-xx頁。; 特許庁「戦略的な知的財産の管理に向けて -技術経営力を高めるために - <知財戦略事例集>」(2007年 4月)1-3頁、https://www.jpo.go.jp/torikumi/hiroba/chiteki_keieiryoku.htm。

39 防衛省「特別防衛秘密の保護に関する訓令」及び「秘密保全に関する訓令」、http://www.clearing.mod.go.jp/kunrei_web/。

40 防衛省「防衛関連企業における情報セキュリティ確保について」、http://www.mod.go.jp/j/approach/others/security/security.html。

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の研究開発行為、試験、評価等の品質保証行為を契約により委託する際に生じるものから構成される。職員による発明のうち特許、実用新案及び意匠(以下「特許等」という。)については「職務発明に関する訓令(防衛庁訓令第 46号。39.11.12)」に基づき職務発明として認定し、防衛省が発明者である職員から特許等を受ける権利を譲り受けて特許庁に出願を行っている。職員による著作物は、著作権法(昭和 45年法律第 48号)第 15条により職務上作成する著作物となり、防衛省が著作者としての権利を有する。契約により生じる知的財産については国有財産法(昭和 23年法律第 73号)第 2条

柱書と同条 5号の規定により国有財産となるため、国が権利を有することとなる。又、財政法(昭和 22年法律第 34号)第 9条の規定により適正な対価なくして国有財産を譲渡し若しくは貸し付けてはならないこととなっている。防衛省のみならず全省庁において、政府契約で生じた知的財産については、受託者である企業から知的財産を受ける権利を譲り受けて国が出願申請を行って権利化していた。しかし、1980年に米国でバイ・ドール制度が法制化され、軍事部門を含め国有財産として保護してきた知的財産を積極的に民間開放し、利活用を推進することで、国際競争力の回復に寄与したとの認識から 41、日本でも 1999年に産業活力再生特別措置法により日本版バイ・ドール制度 42が導入されることとなった。防衛省においては 2002年に「研究委託契約又は試作契約に係る特許等を受ける権利等の取扱いに関する訓令(防衛庁訓令第 49号。48.10.15)」が改正されて、研究委託契約及び試作研究請負契約に限り、日本版バイ・ドール制度が導入された 43。一方で、防衛省で取り扱う五つの類型、売買契約、製造請負契約、役務請負契約、研究委託契約及び試作研究請負契約うち 44、量産過程の装備品や艦船の建造は製造請負契約として、また装備品の維持・修理・整備は役務請負契約として、日本版バイ・ドール制度の対象とはなっていない。また、プログラムの著作物を役務又は製造により納入させる契約においては、「プログラムの著作権に関する特約条項」によって、その著作権を防衛省に譲渡させているという現状も残っている。防衛省における知的財産管理の目的は図 3に示すように、日本版バイ・ドール制度

41 経済産業省「『日本版バイ・ドール』について(産業活力再生特別措置法第 30条)」、http://www.meti.go.jp/policy/innovation_policy/bayh-dole.pdf。

42 日本版バイ・ドール制度は 1999年に産業活力再生特別措置法により導入され、2007年からは産業技術力強化法第 19条として恒久法化され、対象とする知的財産の範囲も拡大された。2011年の改正により受託者に帰属させる特許権等の移転に際しては国の承諾を求める条項が追加された。

43 「防衛庁が民間企業に研究委託して行う研究開発に伴って発生する工業所有権を国に帰属させる」とする「昭和四十五年度決算書についての参議院の議決(昭和四十八年七月)」を受け、バイ・ドール制度が導入されるまでの間は、契約企業から工業所有権(産業財産権)を受ける権利を防衛庁が譲り受けて、防衛庁の費用で出願して権利化させていた。

44 防衛装備庁「装備品の調達制度等に関する情報」、http://www.mod.go.jp/atla/souhon/contract/index.html。

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の一部導入を契機に少しずつ拡大していると考えられる。1964年に「職務発明に関する訓令」45が制定されてから 2002年にバイ・ドール制度が導入されるまでは、防衛省は科学技術政策として知的財産管理を行ってきたと考えられる。もちろん、この間も財政法第 9条の規定によって適正な利用料で知的財産の第三者への実施許諾を行うことが可能であったが、その実施事例はなかった。そして日本版バイ・ドール制度が導入されてからは法律制定の趣旨を踏まえ、産業技術政策として知的財産管理が加わった 46。防衛省を含む公的研究開発機関は、研究開発の成果として得られた知的財産の有効活用を継続的に求められており、例えば「知的財産推進計画 2015」においても、経済産業省の「委託研究開発における知的財産マネジメントに関する運用ガイドライン」を参考に、国の研究開発プロジェクトにおける知財マネジメントの在り方を検討し、必要な措置を講ずることが求められている 47。

45 防衛省「研究委託契約又は試作契約に係る特許等を受ける権利等の取扱いに関する訓令」、http://www.clearing.mod.go.jp/kunrei_web/。

46 ここで言う科学技術政策は防衛装備庁技術戦略部が所掌する範囲の科学技術振興のための施策を指しており、一方で産業技術政策は同庁装備政策部が所掌する研究開発、調達、補給及び管理を通して装備品等を自衛隊に提供して行く(いわゆる「取得」)ための防衛産業基盤に係る施策を念頭に置いている。すなわち、バイ・ドール制度は産業技術競争力を高める政策であり、この制度を防衛省において効率かつ効果的に運営して行くためには、技術戦略部と装備政策部が垣根を超えて緊密に連携することが求められている。

47 知的財産戦略本部「知的財産推進計画 2015」39頁。;会計検査院「各府省等における研究開発事業の実施状況等について」(平成 29年 3月)、http://www.jbaudit.go.jp/pr/kensa/result/29/pdf/290329_zenbun_2.pdf。; 公的部門に於ける知的財産について、企業に次いで研究開発費が大きい大学部門 の中では「国立大学法人法」により独立した法人格が付与されたことにより、主体的な判断で知的財産を管理・活用していくことが可能となった。詳しくは文部科学省 科学技術・学術政策研究所「科学技術指標 2016」及び伊藤学司「大学における知的財産の創出・管理・活用に向けて -文部科学省の取組み」『日本知財学会誌』(2005年 Vol.2 No.1)を参照。

図3 防衛省における知的財産管理の目的(出所) 「職務発明に関する訓令」、「研究委託契約又は試作契約に係る特許等を受ける権利等の取扱いに関する訓令」

及び「財政制度分科会(平成 28年 10月 20日開催)資料 3」等より著者作成。

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防衛省においては、日本版バイ・ドール制度による特許が 2002年以降、相当数がみとめられるようになった。このうち多数を占めているのは民間が 100%の権利を持つものだが、官民共同出願によるものもある。そして、わずかながらではあるが官民共同出願特許において、第三者への実施許諾の事例も見られる 48。一方、民間が 100%の権利を持つものについては、「研究委託契約又は試作契約に係る特許等を受ける権利等の取扱いに関する訓令」第 3条 3号に規定する民間に権利を帰属させる条件として、活用状況の調査・報告を契約条項において要求していないため、防衛省として、その利活用の実態は把握できていない 49。バイ・ドール制度では、国は権利を帰属させた受託者が技術の実用化に向けて適切

な努力をしていないと判断した場合に第三者に強制的に実施権を許諾できる介入権を契約条項として要求することができる。そのため、バイ・ドール制度を含めた知的財産管理は、今後、防衛装備・技術協力を行う際の個別企業の競争力向上のみならず、国費による知的財産を活用して、防衛部門から撤退する企業があったとしても防衛省が他の企業に実施権を許諾することで産業全体として技術競争力を維持する役割も期待される。

(4)防衛省における知的財産管理上の課題知的財産に関する法律、防衛省の訓令、契約条項等の規定から防衛省における知的

財産の管理は図 4のように整理される。防衛省の知的財産とは、大きく分けて「狭義

48 特許庁の特許情報プラットホーム(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/all/top/BTmTopPage)等から得られる統計データによる。 ; 財務省「財政制度分科会(平成 28年 10月 20日)資料 3」、http://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fi scal_system_council/sub-of_fi scal_system/proceedings/material/zaiseia281020.html。

49 防衛装備庁「装備品の調達制度等に関する情報」、http://www.mod.go.jp/atla/souhon/contract/index.html。

図4 防衛省における知的財産管理の現状(出所)「職務発明に関する訓令」、「防衛省行政文書管理規則」及び「研究委託契約特別条項」等より著者作成。

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の知的財産」、「プログラムの著作物」、及び「契約上の提出物である技術資料」に区分できる。例えば、研究開発報告、制式要綱及び防衛省規格は、「技術資料」の二次的な著作物という位置づけとなる。そして、今後、第三者との防衛装備・技術協力を行うことを念頭においた場合、それぞれの知的財産の区分において、いくつかの課題が残されている。

ア 狭義の知的財産産業財産権のうち特許、実用新案及び意匠は「職務発明に関する訓令」及び「研究

委託契約又は試作契約に係る特許等を受ける権利等の取扱いに関する訓令」により、職員である発明者からは権利を防衛省に譲渡させ、民側(企業側)に共同発明者がいる場合は、官(政府側)民共同出願の形で権利化を図っている。研究委託契約及び試作研究請負契約の場合は、民側の知的貢献による持ち分は権利を発明者が所属する企業に留保させている。防衛省に発明者がおり、権利化された特許等は国有財産となり、「国有財産台帳等取扱要領について(財理第 1859号。平成 13年 5月 24日)」第 1条の11項により国有財産台帳に登録し、その際の台帳登録価格は購入価格等の取得価格又は見積価格とされるため、通常は権利化されるまでの費用が計上される 50。一方で近年、財政上の制約から、研究開発段階では装備品のうち技術リスクの高い部分のみを試作研究請負契約において試作する傾向がある。そのため、従来、知的貢献が想定されていなかった製造請負契約、役務請負契約で行われる量産段階においても、産業上の利用価値が高い生産技術に係る知的財産が生じるようになっている。製造請負契約、役務請負契約はバイ・ドール制度の対象となっていないため、本来、契約の中で生じた知的財産は国に帰属するはずである。しかし、製造請負、役務請負の契約条項においては、技術上の成果の取扱いについて何ら規定されていない。このため防衛省としても、どのような知的財産が生じたかの状況を掌握できておらず、結果として知的財産について何ら管理していないという状況が生まれる余地が残されている。また、「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(Agreement on Trade-Related

Aspects of Intellectual Property Rights: TRIPs協定)」第 39条では、営業秘密として技術的、営業的活動における情報、知見、経験等を保護し、保有者に競業活動上の有利な地位を保障している。日本では 1990年に不正競争防止法(平成 5年法律第 47号)が改正され、日本においても営業秘密が知的財産として保護されるようになった。この営業秘密は

50 財務省「国有財産台帳等取扱要領について」、https://www.mof.go.jp/about_mof/act/kokuji_tsuutatsu/tsuutatsu/TU-20010524-1859-14.pdf。

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他の産業財産権と異なり未公開とすることで保護を受ける事が可能となる。上述の量産段階で生じる生産技術に係るノウハウ等は、一般的に非開示であり、この営業秘密として管理されるべき性格のものと言えるが、防衛省には営業秘密については、受託者から申告させる制度がなく、また、その保護を図る規則体系も現状では存在しない。

イ プログラムの著作物プログラムの著作物が納入品又は提出物となっている場合、「プログラムの著作権に関する特約条項」により、著作権は官に譲渡され、著作者人格権は行使しない規定となっている。また航空自衛隊補給本部においても「プログラム等一般共通仕様書」により同様の措置を行っている。このように著作権を官に帰属させる理由は、いわゆるベンダー・ロックインを防止し、契約における平等な競争環境を担保するための措置である 51。この官側に著作権が帰属したプログラムについて、もし継続的な維持管理や開発契約が結ばれなければ、民側、すなわち開発者側においてそのソースコードを維持管理する技術者を置く義務やインセンティブがない。このため、官側が類似の事業で当該プログラムを再利用しようとしても、既にそのノウハウ等が失われ、十分な利活用ができず、新規のプログラムを開発することになり、結果として、コスト増につながることが指摘されている。また「プログラムの著作権に関する特約条項」等において、共通に利用されるノウハウ、ルーチン、 サブルーチン、 モジュール(以下「ノウハウ等」という。)は民側への留保は論理的には可能であるものの、どの部分が留保されるものかを特定することは技術的に困難なため、民側は従来から保有するノウハウ等も含めて著作権が失われることを危惧し、陳腐化した技術しか提供しなくなるリスクが存在する。一方で、民側に著作権が帰属するプログラムについては、開発者が他の民生事業等で活用するために、自身の負担で機能の拡張やバージョンアップなどの開発投資を行うため、官側も無償で当該成果を利用できる。しかし現行の制度では、著作権が官側に譲渡され、著作人格権も行使しない規定となっており、このようなメリットが享受できる契約とはなっていない。

ウ 契約上の提出物である技術資料技術資料は関連試験報告書、基本設計計算書、細部設計計算書、設計図、製品試験実施要領、製品試験成果報告書等から構成される。試験報告書の一部として生データ

51 社団法人 電子情報技術産業協会「情報システム政府調達に関する提言(第 2版)」(平成 20年 4月 15日)26頁、http://home.jeita.or.jp/is/committee/solution/guideline/080415ITservice/index.html。

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が含まれることもある。防衛装備庁の研究開発部門においては、技術資料の保護を著作権で図る方針を執っているが 52、設計図又は生データは著作物と認められないとの見解があり 53、注意が必要である。一つの解決策としては、設計図又は生データを非公開とすることで営業秘密の要件でもって保護することが考えられるが、防衛省においては営業秘密の保護に関する規則体系は今のところは存在しない。装備品の量産を行う製造請負契約や装備品の維持・修理・整備を行う役務請負契約

では、契約上の提出物である技術資料は物品の扱いとなっている場合があり、納入とともに物品の所有権は官に移転されるが、著作権は著作者(著作物の著作者又は著作者が所属する法人等)である民に帰属することにも注意する必要がある。著作権が民にある場合、当該技術資料の複製や配布、公開はすべて著作者の同意を得ることが求められる。

3.知的財産を生かす防衛装備・技術協力のために

2015年に「防衛装備・技術移転に係る諸課題に関する検討会」54がまとめた報告書 55

では、防衛装備・技術移転に伴う運用情報や技術情報の開示のあり方が今後の課題の一つとされ、その対応策として、㋐国が保有する技術資料の利用料の在り方の制度設計、㋑知的財産の帰属の明確化、㋒国際共同開発・生産の場合における秘匿性の高い情報の提供・接受の適切な枠組みや体制の整備が求められた 56。そこで本節では、諸外国の制度を参考に、防衛省の知的財産管理の課題とその対策について試案を提示する。

52 防衛装備庁「M & S ガイドライン」(平成 27年 10月)、http://www.clearing.mod.go.jp/kunrei_data/j_fd/2015/jz20151001_00039_000.pdf。

53 峯唯夫「設計図の保護」『パテント』(2006年 1月)27-30頁。; 三山裕三『著作権法詳説-判例で読む 14章-第 10版』(勁草書房、 2016年)70-75頁。

54 2014年 12月から 2015年 8月までに計 7回開催された政策研究大学院大学の白石隆学長(現 JETROアジア経済研究所長)を座長とする有識者会議。

55 「防衛装備・技術移転に係る諸課題に関する検討会報告書」(平成 27年 9月 30日)、http://www.mod.go.jp/j/press/news/2015/09/30c.html。

56 2016年 2月 23日から 2017年 6月29日までの間に白石政策研究大学院大学学長(現 JETROアジア経済研究所長)を座長とする「防衛装備・技術政策に関する有識者会議」が計 6回開催されたが、移転に伴う運用情報や技術情報の取扱いについて具体的な提案はなされていない。防衛省「防衛装備・技術政策に関する有識者会議 その他の情報」、http://www.mod.go.jp/j/approach/agenda/meeting/bouei_gijutsu/sonota/jouho.html。

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防衛装備・技術協力とその知的財産戦略

(1)政府契約から得られる技術上の成果の帰属

ア バイ・ドール制度の対象拡大防衛省で取り扱う売買契約、製造請負契約、役務請負契約、研究委託契約及び試作

研究請負契約のうち、売買契約を除く 4類型は、研究開発を一部委託する内容が含まれる。特に、装備品等の開発終了に近い段階でなされる役務請負契約である形態管理契約や、製造請負契約である量産契約では、十分に特許となりうるような技術上の成果が生じる可能性がある。繰り返しとなるが、製造請負契約と役務請負契約で生じる特許は、国有財産法第 2条により国に帰属するが、一方で特許法等では契約条項に記載がない限り、契約企業に帰属する。このため、現在の契約条項を含めた知的財産に関する規則体系では、その帰属がはっきりとしない技術上の成果が存在する可能性がある。帰属がはっきりしない知的財産が含まれる防衛装備品や技術は、その利活用について、交渉の権限が誰にあるのか分からず、交渉できる範囲が不明瞭なため、当然、防衛装備・技術協力の対象にはなり得ない。将来、防衛省・自衛隊が国内外の第三者を交渉相手として、防衛装備・技術協力案件を形成するべく、交渉のテーブルに着くには、まず防衛省と契約企業のそれぞれが持つ権利を明確化することが前提となる。財産は何であれ、所有権者が管理するため、国に帰属させる場合には、管理する部門を用意する必要がある。防衛省の 2016年度の予算は約 4.9兆円であり、そのうち知的財産が生じうる経費は研究開発費、装備品等購入費及び維持費などとした場合は、その割合は 42.4%となり、金額としては約 2.1兆円となる 57。例えば民間企業と比較した場合、知的財産経営を積極的に行っているとされるキヤノン株式会社では 2016年度の売上高は約 3.4兆円であるのに対し知的財産部門の在籍者は 400人を超えるとされる 58。単純に比較した場合、防衛省の 2.1兆円の契約から生じる知的財産を有効に管理するには約 250人の担当者が必要となるが、現実的には不可能である。このため、欧米に倣い、政府契約で派生する技術上の成果は、政府側に使用権、処分権を留保した上で、企業側に商業化の義務を課して、その所有権を契約企業側に帰属させるバイ・ドール制度が、知的財産を積極的に利活用する手段として考えられる。米国のバイ・ドール制度は、その後の技術貿易収支の伸びなどを勘案すると、イノベーション政策として一定の成功を収めたものと評価できる。

57 防衛省『平成 28年版 防衛白書』190-193頁。58 赤間愛理「知的財産部門と開発部門の戦略的協働─キヤノンの事例から─」『IP マネジメントレビュー』第 17 号(2015年 6月)67-78頁。

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先述のように防衛省が行う契約のうち、製造請負契約、役務請負契約、研究委託契約及び試作研究請負契約については研究開発行為を一部委託する要素を含み、知的財産となりうる技術上の成果が生じうることから、この 4つの類型の契約についてはバイ・ドール制度の対象とするのが適切であると考えられる。この際、防衛省の契約から派生する技術上の成果を契約者に帰属させるためには、研究委託契約又は試作契約に係る特許等を受ける権利等の取扱いに関する訓令(以下「バイ・ドール訓令」という。)において、対象とする契約と知的財産の範囲を拡大する必要がある。

イ プログラム著作物および営業秘密に係る契約と帰属知的財産権の第 1類型である、特許権、実用新案権、意匠権、営業秘密、著作権、回路配置利用権については、企業に装備品等に係る研究開発行為を一部委託した場合に生じうる技術上の成果であることから、これらを、その対象範囲とするのが適当である。このうち、特許権、実用新案権、意匠権は既に現行の訓令でも対象となるが、営業秘密、著作権、回路配置利用権については新たに、その対象として追加する必要があると考えられる。著作権のうちプログラムの著作物については「プログラムの著作権に関する特約条項」が付与された場合、著作権は国に帰属することとなる。しかし、産業技術力強化法第 19条及びバイ・ドール訓令はともに、対象とする知的財産の契約者への帰属は選択的としている。従って、国又は契約者のいずれかが国に著作権を帰属させる選択をした場合にのみ、当該特約条項を付与するという運用を行えば、著作権をバイ・ドール制度の対象としても矛盾は起こらないものと考えられる。営業秘密を日本版バイ・ドール制度である産業技術力強化法第 19条により契約者にどのように帰属させるかについては、より詳細な検討が必要である。第 19条で対象とする知的財産は「特許権その他の政令で定める権利」とされ、その他の政令で定める権利は産業技術力強化法施行令(平成 12年政令第 286号)第 11条において、「特許権、特許を受ける権利、実用新案権、実用新案登録を受ける権利、意匠権、意匠登録を受ける権利、著作権、回路配置利用権、回路配置利用権の設定の登録を受ける権利及び育成者権」であると規定している。営業秘密とはこのうちの「特許を受ける権利、実用新案登録を受ける権利、意匠登録を受ける権利及び回路配置利用権の設定の登録を受ける権利」(以下「特許等を受ける権利」という。)に相当する。具体的には、「特許法第 35条第 6項に基づく発明を奨励するための相当の金銭その他の経済上の利益について定める場合に考慮すべき使用者等と従業者等との間で行われる協議の状況等に関する指針」(経済産業省告示(平成 28年 4月 22日))関する Q&Aの Q21に記載のよ

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59 特許庁「指針に関するQ&A」、https://www.jpo.go.jp/seido/shokumu/shokumu_guideline.htm。; 平成 27年知的財産高等裁判所判決 (平成 26年(ネ)第 10126号)、http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/search7。

60 東洋経済新聞社「自衛隊のコスト、航空機や戦車、艦艇などを開発・製造する防衛産業の実態とは」『週刊東洋経済』(2012年 1月 21日)1頁、http://toyokeizai.net/articles/print/8455。

61 経済産業省「委託研究開発における知的財産マネジメントに関する運用ガイドライン」(平成 27年 5月)、http://www.meti.go.jp/press/2015/05/20150515002/20150515002.html。

62 公正取引委員会「知的財産の利用に 関する独占禁止法上の指針 第 3-2-(1)-ア」、http://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/chitekizaisan.files/chitekizaisangl.pdf。

63 「防衛装備・技術移転に係る諸課題に関する検討会報告書」(平成 27年 9月 30日)9頁。

うに「発明が特許権として成立しておらず、営業秘密又はノウハウとして保持されている場合」となる 59。すなわち、防衛省としては特許等を受ける権利を契約者に帰属させると同時に契約者には非公開とすることを約束させる手続きが必要となる。

ウ パテントプール制度現在、一つの防衛装備品の製造には、多数の下請負企業がかかわっているのは、民

生品の場合と同様である。装備品の複雑・高度化に伴い、この傾向は強くなる。大企業が「主契約企業」(プライムコントラクター)として 防衛省と契約するものの、実際の製造には「下請負企業」(ベンダー)と呼ばれる企業がかかわる。戦車で約 1300社、護衛艦で約 2500社、戦闘機は約 1100社ものベンダーがかかわり、その大部分が中小企業である。ベンダーの中には、オンリーワンの技術を持ち、その技術がなければ生産が成り立たないという企業も少なくはない 60。すなわち、知的財産を契約者に帰属させる場合には、知的財産は 1000社を超える企業連合のそれぞれの企業に分散するおそれがある。一つの装備品に伴う知的財産が複数社に分散する状況では、これを防衛装備・技術

協力に再利用するにあたり、手続き上の煩雑さが生じ、知的財産の活用を阻害する可能性がある。この点は民生品の場合でも同じであり、経済産業省の「委託研究開発における知的財産マネジメントに関する運用ガイドライン」61においても、企業間においてパテントプール(特許等の複数の権利者が、それぞれの所有する特許等又は特許等のライセンスをする権限を一定の企業体や組織体(その組織の形態には様々なものがあり、また、その組織を新たに設立する場合や既存の組織が利用される場合があり得る。)に集中し、当該企業体や組織体を通じて構成員等が必要なライセンスを受けるもの)62のような形態を構成することを契約前に国に約することをバイ・ドール制度適用の要件としている。防衛省の場合は、経済産業省の措置に加えて、「防衛装備・技術移転に係る諸課題に関する検討会」がまとめた報告書が指摘する「部品や構成品等の移転(ライセンス生産部品を含む。)」の様態 63においては、部品や構成品等の単位まで考慮に入れたパテントプールとすることが求められる。

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バイ・ドール制度は商業化又は当該知的財産を活用することを前提に契約者に権利を帰属させるものである。従って、商業化又は活用することを怠る場合には国は介入権を行使して改善を図らせることができる 64。介入権を機能させるため、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構は 2011年度からバイ・ドール制度を適用する条件として、企業に利用状況調査への協力を業務委託契約の約款において義務化している 65。防衛省においても契約条項に利用状況調査への協力義務を盛り込むことが求められる。

(2)未公開の技術情報(営業秘密)の運用

ア 営業秘密の適用と保護1980年代の米国による日本の基礎技術ただ乗り論は、一方で米国に日本が得意とした生産技術を知的財産として改めて認知させ 66、これを強力に保護する方向へ知的財産政策の舵を切らせた。生産技術は図面、試験報告書、技術記述書、コンピュータソフトウェアドキュメント等から構成される、公に開示されてない、 記録された科学 ・技術的性格を有するノウハウ的な情報であり、米国では著作権のうち技術データ権として保護を受けている。一方で、日本の著作権法では、未公開のノウハウといった情報が保護され得るとは言いがたい。しかし近年、日本企業から企業競争力の根幹に係わる未公開のノウハウが他国企業へ流出するような案件が相次いだため 67、2016年に未公開のノウハウなどのような「営業秘密」を保護する不正競争防止法が大幅に強化された 68。このため、防衛省としても、企業との契約に際して不正競争防止法で規定する「営業秘密」を運用できるよう規則を整備する必要があると考えられる。営業秘密の保護については経済産業省が法律の保護を受ける最低水準の管理策とし

ての「営業秘密管理指針」69及び技術流出の未然防止を含めた高度な管理策の事例を含む「秘密情報の保護ハンドブック ~企業価値向上に向けて~」70を公表している。防衛

64 古谷真帆、渡部俊也「バイドール制度の各国比較」『IAM ディスカッション・ペーパー ・シリーズ』第 17号(2014年 8月)、http://pari.u-tokyo.ac.jp/unit/iam/index.html。

65 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「知的財産権に関する説明会資料」(平成 28年 10月-11月版)、http://www.nedo.go.jp/itaku-gyomu/shisan.html。

66 松村昌廣『日米同盟と軍事技術』(勁草書房、1999年)21-32頁。67 経済産業省知的財産政策室「近事の技術流出事例への対処と技術流出の実態調査について」(平成 24年 12月)、

http://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/121221gijutsuryushutsu.pdf。68 経済産業省「不正競争防止法のこれまでの改正について」、http://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/

kaisei_archive.html。69 経済産業省「営業秘密管理指針」、http://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/trade-secret.html。70 経済産業省「秘密情報の保護ハンドブック ~企業価値向上に向けて~」(平成 27年 2月)、http://www.meti.

go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/trade-secret.html。

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省にとっても防衛に関する機微技術を厳格に管理し、技術流出の未然防止対策を徹底することは不可欠であることから、同ハンドブックを参考とし、施策を講ずることが適切であると考えられる。ただし、この場合の営業秘密は行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成 11年日法律第 42号)第 5条二号の未公開の技術情報として位置づけられるものであり、同法第 5条三号の安全保障上の「秘密」又は「特定秘密」とは異なるものとなる。この際、防衛省の文書管理上では「取扱い上の注意を要する文書等及び注意電子計算機情報の取扱いについて(通達)(防防調第 4608号。19.4.27)」71

の運用指針通達として規則を整備するのが妥当と考えられ、営業秘密の要件に該当し、かつ安全保障上の「秘密」又は「特定秘密」に指定される技術情報については、当然、より厳しい秘密保全の規則の下で管理されるのが適当である。

イ 営業秘密に係る情報へのアクセス営業秘密は企業の競争力の源泉であるので、企業活動の効率化と円滑化の観点が求められ、情報へのアクセスも容易であることが不可欠となる。また、経済のグローバル化に伴い、研究開発、設計・製造・生産拠点が世界中に分散していることから、クラウドネットワーク環境の中での情報への円滑なアクセスと情報漏えい対策を両立させる必要性に迫られている。例えば米国防総省は 2017年 12月末までに管理すべき重要情報(Controlled Unclassified Information : CUI)の取扱いに関し契約企業に対して「NIST

SP800-17172」を順守するよう求めているが、これはサイバー空間においてアクセス性と情報セキュリティを両立させることが目的である 73。そして、複雑な通信環境や通信モデル下で高度な機能を付与することができる公開鍵暗号(関数型暗号)による情報漏洩防止ソリューションや「NIST SP800-171」へ適合させるためのコンサルティングサービスが既に民間企業から提供されている 74。独立行政法人情報処理推進機構は「暗号化による <情報漏えい > 対策のしおり」に

71 防衛省「取扱い上の注意を要する文書等及び注意電子計算機情報の取扱いについて(通達)」、http://www.clearing.mod.go.jp/kunrei_web/。

72 米国国立標準技術研究所(National Institute of Standards and Technology: NIST)が策定した企業が保有する管理すべき重要情報(Controlled Unclassified Information : CUI)をサイバー攻撃から守る技術標準。

73 U.S. Under Secretary of Defense for Acquisition, Technology and Logistics, “Memorandum for Commander,” September 2, 2017, https://www.acq.osd.mil/dpap/policy/policyvault/USA002829-17-DPAP.pdf. ; 経済産業省「サイバーセキュリティ経営ガイドラインを改訂しました」、http://www.meti.go.jp/press/2017/11/20171116003/20171116003.html。; 防衛装備庁「防衛装備庁の最近の取組について」(2017年 6月 29日)15頁、http://www.mod.go.jp/j/approach/agenda/meeting/bouei_gijutsu/sonota/06_a.pdf。; 「社説 米防衛調達の厳格化」『日本工業新聞』 2018年 2月 28日 4面。

74 独立行政法人情報処理推進機構「 暗号化による <情報漏えい > 対策のしおり」(2014年 3月 20日)2頁、https://www.ipa.go.jp/security/keihatsu/announce20140320_2.html。; 富士通株式会社「米国連邦政府機関外の組織および情報システムに対するセキュリティ対策基準 NIST SP800-171に対応するコンサルティングサービスを提供開始」(2017年 10月 19日)、http://pr.fujitsu.com/jp/news/2017/10/19.html。

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おいて情報へのアクセスと情報漏えい防止を両立させる手段として暗号化を勧めている 75。また経済産業省は、2015年より計 3回、官民の実務者間において、営業秘密の漏えいに関する最新手口やその対策に係る情報交換を行う場として「営業秘密官民フォーラム」を開催し、暗号化の推進を含めたサイバーセキュリティ対策との協働が進められている 76。この際、行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成 11年日法律第 42号)第 5条三号の安全保障上の未公開情報については、暗号鍵の使走を伴う共通鍵による暗号化といった厳格な情報保全措置が適当と考えられるが、一方で営業秘密は未公開の技術情報であり、安全保障上の未公開情報とは異なる取扱いであると整理することで、例えば実績のない公開鍵の導入なども可能であると考えられる。

(3)国際共同開発・生産における知的財産の取扱い

ア 重要技術の管理と帰属防衛装備品の多国間での共同生産や、複数の国家に所在する技術等を利用した国際調達を通じて防衛装備システムを構築することが、先端兵器の取得に必要な措置となっていることは、欧米諸国で共有された認識とされる 77。防衛省においても、1970年の装備の自主的な開発と生産を推進する「国産化方針」に替わるものとして「防衛生産・技術基盤戦略」を策定し、防衛費の横ばい傾向の長期化、装備品の高度化及び単位コストの上昇、国際共同開発・生産の活発化へ対応しようとしている。米国における壮大な実験である F-35計画は、国際共同開発・生産における優位なポ

ジションを占めるためには、代替性が低い比較優位な技術を共同開発に持ち込める技術力と、ビジネスとして利益が得られる生産割当の獲得が国内の産業基盤の維持発展には不可欠であることを示しているとされる 78。比較優位な技術は先端技術、そして比較優位な産業基盤は高い生産技術を意味する。欧米においては、代替性が低い比較優位性を持つ死活的技術を重要技術(クリティカル・テクノロジー)として安全保障貿易管理の中で保護を図り、企業の競争力を図る政策を行っている。オバマ政権は輸出管理改革で、通商管理リスト(Commerce Control List: CCL)と米国軍需品リスト(U.S.

Munitions list: USML)を統合することで管理制度の重複を解消し、管理にメリハリを付

75 経済産業省「営業秘密 ~営業秘密を守り活用する~」、http://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/trade-secret.html。

76 同上。77 スコルニコフ『国際政治と科学技術』132-253頁。; 佐藤「グローバル化する防衛産業と輸出管理」165-202頁。78 佐藤「グローバル化する防衛産業と輸出管理」178-189頁。

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けて米国の競争優位性の活用をうまく図っている 79。防衛装備庁においても日本の重要技術を特定し、育成すると共に技術流出を防止する技術管理を進めている 80。このような重要技術については、国際共同開発・生産に参入する形態が、政府が案件形成を主導する戦闘機やミサイルのような装備システムである場合は、政府の裁量を大きくする観点から、基礎的な技術が生み出される段階で、敢えてバイ・ドール制度を適用せず政府に知的財産権を帰属させる選択がありうる。

イ フォアグランド知的財産の管理欧米においては国際共同開発・生産のプロジェクトについては、参加者が持ち込む技術であるバックグランド知的財産とプロジェクトの成果として派生するフォアグランド知的財産の帰属と利用、処分について規定を設けている。一般社団法人日本航空宇宙工業会の調査分析によれば、米国の場合は基本となる法律が「US Code Title10 2350A

Cooperative R&D Agreements NATO Organizations; Allied and Friendly Foreign Countries」となっており、F-35計画もこれに準拠して行われている。欧州の場合は国際共同開発・生産のプロジェクトに関係する知的財産の帰属と利用、処分は共同装備協力機構(Organization

Conjointe de Coopération en matiére d’ARmement: OCCAR)協定又は欧州防衛庁(European

Defense Agency: EDA) の「General Provisions Applicable to Ad Hoc Research & Technology

Projects and Programmes of the EDA (June 10 2010)」に拠るとされる 81。日本は、これまで実績のある二国間の共同研究や共同開発プロジェクトでは、個別

案件毎に相手先とバックグランド知的財産とフォアグランド知的財産の取扱いを協議して了解覚書(Memorandum of Understanding: MOU)に記載してきた 82。しかし、今後、国内防衛生産・技術基盤の維持及び先端技術へのアクセスを目的に国際共同開発・生産に参加するのであれば、参加する際の基本的な方針を欧米と同様に類型化して表明する必要がある。そうして初めて、欧米の基本方針と衝突が生じる場合に、国が主導して交渉に持ち込む余地が生じ、企業側に安心感を与えて国際共同開発・生産へ参加するインセンティブが生じるものと考えられる。

79 経団連防衛生産委員会「米国の防衛産業政策に関する調査ミッション報告」(2011年 7月 1日)、http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2011/071.pdf。

80 防衛装備庁「防衛装備・技術政策、防衛装備・技術協力の現状」(平成 28年 2月)、http://www.mod.go.jp/j/approach/agenda/meeting/bouei_gijutsu/sonota/01_b.pdf。

81 一般社団法人日本航空宇宙工業会『 政府契約における知的財産の概観 -欧米諸国と日本との比較 -』。82 大島孝二「防衛装備品の国際共同研究開発の方向性と我が国の対応 -技術集約型共同研究の推進と産学官の連携のあり方を中心として -」『防衛研究所紀要』第 12 巻第 2・3 合併号(2010 年 3 月)147-183頁。

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おわりに

自主開発装備品の量産に至る契約において、関連する生産技術や技術情報等が契約者企業の知的財産としては見做されて来なかったため、これらを利活用する際の条件と同時に保護する施策も不明確なままであった。従って、防衛省は知的財産の利活用を促進するためには、いくつかの類型の契約において成果の全てを国に帰属させる現行の契約条項を見直し、官民が協議し、技術や情報等を知的財産として適切に分類、その帰属、利用及び処分についての条件を明確に規定する方向へ施策の転換を図るべきである。権利関係が明確になることで、受託企業側は開発された技術を有効に活用し、適切に保護しようとするインセンティブが起こるものと考えられる。加えて産業財産権 4法 83に含まれない広範な技術や情報等についても、受託企業側に権利の一部を帰属させることは、企業が主体となる国際競争入札等の場で交渉を進めるうえで必要な施策である。日本の法制では事業活動に有用な技術上または営業上の情報等は、営業秘密にあたる知的財産として不正競争防止法によって保護されており、これらを営業秘密として規定し、保護するような施策を講じることが適当である。又、防衛省としても、いわゆる日本版バイ・ドール制度の意義を理解し、防衛装備品の一環として研究又は開発された知的財産に関する権利の一部を受託者である企業に帰属させることが、防衛装備・技術協力を促進させ、効果的・効率的な取得および国際競争力の強化という目的にかなうとの考え方を政府、財政当局とも共有し、バイ・ドール制度の対象となる知的財産及び契約の種類を極力、拡大すべきである。防衛装備品は複雑・高度化しており、複数、時として千社を超える企業が主契約企業の下請外注として製造に関わっていると言われており、バイ・ドール制度の適用に当たっては、それぞれの企業に帰属させた知的財産が相互利用できるパテントプールのような措置も必要となる。最後に、先端装備品の分野では高性能化・高価格化が進んでいるため、その開発・生産においては、同盟国・友好国が持つ高い技術を活用しつつ開発・生産コストを抑制する国際共同開発・生産への参加が主流となっている。この際、日本が優位性を有する技術について、国内の契約企業との間で知的財産についての権利関係が整理されているだけでなく、同盟国・友好国との間で各国が持ち寄った先進技術から派生する技術について、その帰属、利用及び処分について、基本的な方針を欧米と同様に類型化して公表すべきである。方針を内外に示すことで、日本企業が国と共に国際プロジェ

83 特許庁「産業財産権について」、https://www.jpo.go.jp/seido/s_gaiyou/chizai01.htm。

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クトに参加するメリット、そしてデメリットをトレードオフ・スタディして、防衛部門へ研究開発の投資を行うべきかについての予見性を高めると共に、防衛生産のグローバル化にいち早く対応した欧米先進国に対して、日本が官民を挙げて国際共同開発・生産を通じて防衛生産・技術基盤を維持しようとする意欲が示せるものとなる。

(はらさきあきこ 防衛技官 防衛装備庁電子装備研究所研究調整官)

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