25
Discussion Paper Series Vol.2007-9 流域別の選好多様性を考慮した河口域環境対策の便益移転分析 大床太郎 柘植隆宏* 笹尾俊明** 広島大学大学院国際協力研究科 [email protected] 2008 1 7 *甲南大学経済学部 **岩手大学人文社会科学部 Discussion Paper の内容を,著者の許可なく部分的あるいは全文の引用および採録することを 禁ずる.

流域別の選好多様性を考慮した河口域環境対策の便益移転分 …hicec/coe/products/DP2007/DP2007-9.pdf川を事例として,流域住民の選好の多様性を考慮した選択型実験のコンジョイント分析

  • Upload
    others

  • View
    3

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Discussion Paper Series Vol.2007-9

流域別の選好多様性を考慮した河口域環境対策の便益移転分析

大床太郎 柘植隆宏* 笹尾俊明** 広島大学大学院国際協力研究科

[email protected]

2008 年 1 月 7 日

*甲南大学経済学部 **岩手大学人文社会科学部

本 Discussion Paper の内容を,著者の許可なく部分的あるいは全文の引用および採録することを

禁ずる.

流域別の選好多様性を考慮した河口域環境対策の便益移転分析i

大床太郎 柘植隆宏 笹尾俊明

概要

異なる集団を対象として,同様の政策などに関する便益評価の調査を行い,その移転

可能性を検討する便益移転(Benefit Transfer:BT)の分析は,便益評価に用いられる

調査費用を減らすために様々な文脈で行われている. 本研究では,近年,流木・ゴミの流下によって景観や生態系が損なわれつつある北上

川を事例として,流域住民の選好の多様性を考慮した選択型実験のコンジョイント分析

によって,便益移転性を検討した. 検証に際して,ML の推定によって得られるすべての情報を活かした,「各回答者」

の WTP 分布関数を用いた比較検証法を提示し,Outlier を徐々に除去していく方法で

検証を行った. 上流域と下流域において比較した結果,局所的な環境対策では,便益移転を用いるべ

きではなく,流域ごとに独自に調査すべきことが示唆された.よって,河川環境対策の

性質が,全流域的であるか,局所的であるかによって,BT の可否がわかれると考えら

れる.局所的対策の場合は BT を行うべきではないものと思われる.さらに,BT を行

う際には,受益者集団を特定する,社会学ないし社会科学的な調査を行っておく必要が

あることが確認された. キーワード:選好の多様性,選択型実験,混合ロジットモデル,便益移転

1. はじめに 近年,公共事業や政策に関して,様々な形でその対策費用に対する効果を貨幣単位で

表現する費用便益分析(Cost Benefit Analysis:CBA)が実施・提案されている.政策

の透明性や説明責任の遂行に一定の役割を果たしつつあるが,その調査は莫大な時間と

費用が必要とされるため,それらを減らす方法が希求されてきた. 同様の政策を対象とした便益調査の一致性を検討する便益移転(Benefit Transfer:BT)は,調査費用を圧縮し,簡便に便益評価を実施することができる手法として国内

外で注目されている.BT とは,例えば「ある地域(「地域 A」とする)で政策評価実

績があり,別の地域(「地域 B」とする)で同様の政策が行われる時,地域 A の評価

結果を援用してよいかどうか」という,実務的に必要な概念・手法として,様々な文脈

で議論されてきた. 1992 年に Water Resources Research で特集号が組まれて以来,BT は 1 つの研究分

野として確立されてきた(寺脇(2002)).また,2006 年に Ecological Economicsにおいて,様々な論文集に散逸していた BT 研究を統合すべく,特集号が組まれたこと

によって,BT 研究の重要性が再認識されている.国際的な便益移転なども徐々に研究

が進んでおり,国内外での研究蓄積が希求されている. 便益移転を行うには,少なくとも 2 つの,独自に調査したデータセットを用意し,そ

の移転性を統計的に検証する必要がある(大床(2005)).その基本的概念として,

収束的妥当性(Convergent Validity)が挙げられる.つまり,独自に調査した「地域

B」の便益評価結果をそのまま「地域 B」の CBA などに用いる場合と,同様の政策が

すでに行われている「地域 A」の結果を移転して「地域 B」の便益を評価したときに,

2 つの便益の値が,統計的に離れてしまわないことを要請する考え方である.その検証

法は支払意思額(Willingness to Pay:WTP)を比較するアプローチと,パラメータを

比較するアプローチに大別される.現在でも,様々な検証法が提案されている. 笹尾(2002,2004)では,条件付ロジットモデル(Conditional Logit Model:CL)によって分析を行っているが,選好の多様性を考慮した上で BT を分析するという課題

が残された.評価対象は東北地方の長大な河川である北上川の河口域環境対策である.

長大な河川は国内外に多数存在するが,例えば河口域で環境対策をする場合,流域のい

たるところに存在する受益者集団を特定しなければならない.その上で,例えば流域別

に受益者集団が存在する場合,その便益移転性を検討することで,局所的な環境対策の

CBA を行う際に,どのような範囲の調査が必要かを確認することができる.追加的経

費を用いて広く調査すべきか,それとも一部の地域の評価結果を,BT を用いて CBAを行ってもよいのかを判定することが重要である.その判定には何らかの検証法を用い

ることとなる. 水環境に関して,BT 分析を行った例はいくつか挙げられる.以下にそれらを列挙し

ていく. Hanley et al. (2006a) では,イングランドの River Wear とスコットランドの River Clyde で,フィッシング・水環境の生態系・ゴミ問題・土手の木々と適切な自然環境に

関して,選択型実験を行っている.後述する混合ロジットモデル(Mixed Logit Model:

ML)で分析しており,選好の多様性を表現した.そして,BT の分析を尤度比検定と

Wald 検定で行い,いずれも棄却されている. Colombo et al. (2007) では,スペインの Genil と Guardajoz の河川流域に関して,

景観・水質・動植物・農業・現状の改善を行う面積について選択型実験を行い,ML で

分析を行っている.後述するスケールパラメータを導入した尤度比検定で効用パラメー

タの同質性を検定したところ,5%水準でそれが棄却された.また,消費者余剰を計算

した上で BT の分析を Convolutions Approach で分析したところ,ほとんどのシナリ

オで便益移転の可能性が棄却されている. Hanley et al. (2005) では,Hanley et al. (2006a) で用いているイングランドの

River Wear での選択型実験を,ML で分析している.その際に,価格属性の設定を,

高いものと低いものの 2 通りのシナリオを用意し,尤度比検定と信頼区間の重なりで

BT の分析を行っている.双方の検証で,BT ができるとの結論が導かれ,価格属性の

設定の影響がなかったことを確認している. Hanley et al. (2006b) では,スコットランドの東部の Motray と Brothock における

集水池に関して,高い富栄養化と夏季の水量低下を解決する方向性を考えるために,灌

漑規制・肥料使用規制を属性とした選択型実験を行っている.環境改善のシナリオでは,

環境属性として複数の変数を設定した際に,それぞれの効用パラメータが相関してしま

う可能性があるので,その相関を許した ML で分析している.まず,尤度比検定によっ

て,効用パラメータは,相関を削除したものと許したものとで比較検証した場合,有意

差は生じていないことを確認している.さらに,Convolutions Approach によって,

WTP を限界的なものとログサム型の 2 通りで算出して,その異同を検証し,ほとんど

の WTP に有意差がないことを示している. また,本研究でも採用している選択型実験のデータを用いた便益移転研究として,

Morrison and Bennett(2006)が挙げられる.USA の New South Wales における代

表的な河川である,Gwydir River・Murrumbidgee River・Clarence River・Bega River・George River において,選択型実験を行っている.河川の水が,社会と環境に

どのように利用されるよう配分すべきか,という懸案事項を受けて,レクリエーション

(ピクニック・ボート・釣り・河川浴)・適切な川岸の自然環境・土地特有の魚類・水

鳥他の動物と,一回限りの水利用料金を属性として設定している.分析はネステッドロ

ジットモデル(Nested Logit Model:NL)で行い,暗黙価格(Implicit Price:IP(選

択型実験での WTP のこと))とその総計額,そして消費者余剰(ログサム型の WTPに相当)で BT の分析を行っている.IP の分析では,独自の調査データが利用不可能,

ないし不適切である場合に限って便益移転を使用すべきことを考察している.また,IPの総計額と消費者余剰では,後者のほうがより多くの要因に対するインパクトを表現で

きるために,便益移転をする際に推奨されるとしている. 本研究では,大床他(2007)で用いた,東北地方の北上川における選択型実験の結

果を使用して,流域別の調査結果に関する BT 分析を行う.大床他(2007)では,北上

川河口域の環境対策に関して,空間的に非常に離れた 2 つの調査地(岩手県盛岡市周

辺・宮城県石巻市周辺)において同様のアンケート調査を実施したデータを用いている.

そこで得られた見解として,流域住民の選好の多様性を考慮した分析が推奨された.本

研究では,選好の多様性を考慮できる混合ロジットモデル(Mixed Logit Model:ML)を用いて,調査地のデータセットごとに分析を行う.

その上で,アンケート回答者の個人別の WTP を算出し,サンプル集団内での WTPの分布を用いて便益移転性を検証する.2 つの WTP の分布が重なっており,それぞれ

の WTP の平均値が,お互いの分布の中に入っているかを見ることで検定する.簡便性

と直感的な理解に優れている方法であると思われる. 以上の分析によって,河口域という局所的な環境対策の費用便益分析を行う際に,全

流域で調査すべきか,一部の調査結果をBTすべきかを,環境対策の種類別に検証する. 本稿の構成は以下のとおりとなる.まず,2 章において,選択型実験と使用した分析

モデルに関して概観する.3 章ではアンケート調査の内容を詳述する.4 章において,

分析結果を示した後に,5 章で BT 分析の考察を行い,6 章で全体を総括する.

2. 選択型実験と分析モデル 2.1. 選択型実験 選択型実験とは,コンジョイント分析の一種であり,計量心理学やマーケティングの

分野で発展してきた手法である(鷲田(1999)).複数の選択肢を回答者に提示し,

も望ましいものを選択してもらう環境評価手法である.アンケートを用いる上で,表

明選好法(Stated Preference Method:SP)という種類に属している. 選択肢は,プロファイル属性と呼ばれるいくつかの特徴で構成されており,それぞれ

の部分効用を推定することができる.また,代替案間の差を便益として計測することも

可能である.選択肢をいくつか組み合わせて,選択セットというものを作り,それを回

答者に提示する.通常,選択セットを複数提示して,反復質問として聞くことになる. 選択肢自体をプロファイルと呼ぶが,SP では,適切な統計的手法を用いてデザイン

することで,市場データを用いて分析する顕示選好法(Revealed Preference Method:RP)に比べて,多重共線性を回避することができる.また,プロファイル属性自体を

仮想的な領域まで広げることによって,RP よりも頑健な推定が可能となる. 分析の基本となるのは,ランダム効用モデルという概念である.ここで言うランダム

とは,例えばアンケート回答者が,選択肢を適当に選んでいるという意味ではなく,選

択肢から得られる満足度である効用の関数が,実験者にとって観察できる部分とそうで

ない部分から構成されているということである.回答者 n が選択肢 iを選んだときの具

体的な効用関数形は,以下の 1 式を基にしている.

(1) ここで, iV は実験者に観察可能な部分で, iε は観察できない誤差項である.この誤差

項に,例えば第一種極値分布(Gumbel Distribution)を仮定すると,CL となる.以

下に詳述する ML は,すべて CL を基本としている.回答者の選択確率の式は,以下の

2 式のように定式化される(McFadden(1974)).C は選択肢の数を表す.

(2) 通常の分析では,実験者に観察可能な iV に,線形の定式化を仮定することが多い.具

体的な関数形は,以下の 3 式のようになる.

(3)

iii VU ε+=

∑=

=J

jijiji xV

1

β

( )( )∑ ∈

=Cm m

ii V

VP

expexp

ここで, ijx ( )Jj ,,1L= はプロファイル属性変数であり, ijβ はその限界効用となる. ijβは効用パラメータと呼ばれる.本研究でも,以上のような線形の定式化を行った. なお,効用パラメータは,誤差項の逆数に比例するスケールパラメータと呼ばれるλと,混同(confound)して推定される.具体的には以下の 4 式のような形状となる.

(4) 通常の分析では,スケールパラメータは 1 に基準化されるため,本研究でもそれに従っ

たii. 2.2. 混合ロジットモデル 本節では,ML に関して,栗山・庄子(2005)と Revelt and Train(1998)を参考

に概観する. 基本形の ML では,回答者 n の選択確率を以下の 5 式のように定式化する.

(5) ここで, ( )Ω|βf は混合分布(Mixing Distribution)と呼ばれ,効用パラメータ自体

に密度関数の母パラメータベクトルΩに従う分布を与えるものである.これによって,

効用パラメータに対する標準偏差パラメータが推定されることとなり,効用パラメータ

の平均と標準偏差とが確認される.積分計算内の残りの項は CL の形式をとっている.

推定はシミュレーションを導入した 尤法を用いることになる. 選択型実験を例えば CL で分析する際には,1)個人間での選好の同質性と 2)無関係な

選択肢からの独立性(Independence of Irrelevant Alternative:IIA)が仮定される.

非常に強い仮定であるが,ML はこれを完全に解消することができる柔軟なモデルであ

る.CL に比べて,対数尤度などが大幅に改善されることが多い. 選択型実験では,前述のように,選択セットを複数回提示する反復質問の形式を採る

ことが多い.本研究でもそれを採用しているが,反復回数と個人の選択結果で,パネル

データ(Repeated Choice Data)を形成することができる.Revelt and Train(1998)は,ML を反復質問のパネルデータの分析に拡張して提案した.本研究でも,パネルデ

ータの分析に拡張したモデルを採用した.その際の選択確率の式は以下の 6 式となる.

(6) ここで ( )Ttt ,,1L= は選択質問の反復回数である.積分計算の内部で,反復回数ごとの

選択肢が掛け算になっていることで,より適切なモデルを構築することになる.

λββ ijij ′=

( ) ( )( ) ( )∫ ∑

Ω=Ω

ββ dfV

VP

Cmnm

nini |

expexp

( ) ( )( ) ( )∫ ∑

ΩΠ=Ω

= ββ dfV

VP

Cmtnm

tniTtni |

expexp

|

|1

3. 調査概要 3.1. サーベイデザイン アンケート調査では,まず北上川の地理的な位置関係などの情報を与え,北上川と関

連した生活を送っているかどうか質問した. その後,自然環境に関する説明と質問を行った.続けて,その自然環境が悪化してい

ることを伝え,それらの認知度を質問している. 次に,ヨシ原保全,シジミの保護,流木等のゴミの量,レクリエーション(遊歩道,

休憩施設,親水設備)の整備について説明し,それらに対する意識を質問している.さ

らに,その対策の費用負担のあり方に対する意識を尋ねた後,CVMiiiおよび選択型実験

を行った. 選択型実験は 3 選択肢のものを 6 回繰り返した.以下の図 1 のような選択セットを

用いている.

計画案1 計画案2 現状 ヨシ原保全面積 30ヘクタール 60ヘクタール 30ヘクタール

シジミ漁獲量(年間) 300トン 240トン 240トン 流木やごみの量(年間) 現状のまま 1000 立方メートル 1 万立方メートル

レクリエーション整備 な し 遊歩道+休憩施設

+親水機能 な し

税 金 3000円 8000円 0円

望ましい案に○

図 1:選択セットの例

調査票は 3 種類用意した.すなわち,1)上流地域の住民を対象に用いたもので,費用

負担が全流域に課されると想定したもの(上流),2)下流域の住民を対象に用いたもの

で,費用負担が全流域に課されると想定したもの(下流 A),3)下流域の住民を対象に

用いたもので,費用負担が下流域のみに課されると想定したもの(下流 B)である. 属性とレベルは表 1 のとおりである.全属性の全レベルを組み合わせると 1024 通り

のプロファイルができるが,全てを用いるとプロファイル数が膨大になってしまうので,

主効果直交デザイン(Fractional Factorial Main Effect Design)によってプロファイ

ル数を減らした. 終的なプロファイル数は 16 となった.

表 1:属性とレベル 属性 Level1 Level2 Level3 Level4 Level5

ヨシ原保全面積

(ha) 30 60 90 120

シジミ漁獲量(年

間:t) 240 280 320 360

流木やごみの量

(年間:m^3) 1000 4000 7000 10000

レクリエーショ

ン整備 遊歩道のみ +休憩施設 +休憩施設

+親水機能

なし 基準:現状

税金(円) 1000 3000 8000 15000 0 基準:現状

第 3 選択肢

後に,回答者の社会経済特性に関する質問と,その他のコメントを記入する欄を設

けた. 3.2. 調査時期と対象 選択型実験を成功に導くためには,本調査の前に,プレテストあるいはパイロットサ

ーベイを実施することが望ましい.本研究では,まず下流域の北上町と,上流域の盛岡

市において,訪問留め置きでプレテストを実施した.北上町は 2001 年 11 月 17,18日に,盛岡市では 2001 年 12 月 1,2 日にそれぞれ行った. そして,本調査では郵送で行っている.調査時期は 2002 年 11 月 20 日発送で,12月末日到着分までサンプルとして加えた.調査は,上流域では岩手県盛岡市 200 世帯・

滝沢村 200 世帯・矢巾町(やはばちょう)100 世帯・紫波町(しわちょう)100 世帯を,

下流域では宮城県北上町(きたかみまち)200 世帯・河北町(かほくまち)200 世帯ivを

対象とした. 記述統計量は大床他(2007)に示したために割愛する.必要とされる読者はそちら

を参照されたい.大床他(2007)では,記述統計量から,各項目について意見のばら

つきが確認されることから,選好の多様性を考慮した分析を行うことが適当であるとし

ている.

4. 分析結果

以下の分析において,変数選択は全て Akaike Information Criterion(AIC)で行っ

ている.さらに,全体的なモデルの適合度として,自由度修正済尤度比指数(Adjusted Likelihood Ratio Index:ALRI)を用いることとした. また,分析においては,選択肢特有定数項(Alternative Specific Constant:ASC)

を導入している.ASC1 は第 1 選択肢の,ASC2 は第 2 選択肢の ASC であり,これら

が負に有意である場合,現状を好む傾向が存在することになる.分析は Limdep8.0 + NLOGIT3.0 で行った. 分析に際して,アンケートに対する抵抗回答を考慮して削除することが必要となる.

本研究では,アンケートが煩雑になることを避けるために,「なぜその選択肢を選んだ

のか」という質問項目を設定しなかった.唯一抵抗回答として懸念されるものは,現状

ばかり選択している回答であるが,本研究ではその回答の意味を,「現状維持を望み,

対策を必要としない」という意思表明と捉えることとした. また,分析に際して,効用パラメータの平均値は有意でなくとも,モデルの適合度を

重視し,標準偏差パラメータは有意に推定されたもののみ,ステップワイズで選択した. さらに,本研究では BT の分析を行うため,費用負担のシナリオが共通で,空間的に

離れた調査地点で採取された「上流」と「下流 A」についてのみ分析することとした.

4.1. 混合ロジットモデルの結果 4.1.1. プロファイル属性のみのモデル まず,上流域で,費用負担が双方の流域であるサンプル(上流)の分析結果を表 3 に示

す. 表 3:上流の ML 結果

Coeff. t-ratio P-value ヨシ原保全 -0.012*** -3.524 0.000 シジミ保護 5.278E-03*** 3.415 0.000 流木・ゴミの量 -5.730E-05** -2.233 0.026 遊歩道 -0.186 -1.035 0.301 休憩施設(遊歩道に加えて) 0.094*** 0.486 6.270E-01 親水設備(遊歩道・休憩施設に加えて) 0.427*** 2.311 2.080E-02 保全税 -3.200E-04*** -10.031 2.890E-15 ASC1 1.059*** 6.248 4.160E-10 ASC2 1.734*** 6.517 7.160E-11 ヨシ原保全の s.d. 0.022*** 7.713 1.220E-14 流木・ゴミの量の s.d. 2.670E-04*** 8.569 2.890E-15 シジミ保護の s.d. 0.006** 2.513 0.012 保全税の s.d. 3.100E-04*** 10.364 2.890E-15 No.of obs. 1380 Log-likelihood -1176.230 ALRI 0.220

注 1:有意水準は 10%:*,5%:,**1%:***(以下の表も同様)

注 2:E-0X は 10 のマイナス X 乗を表す(以下の表も同様) 注 3:s.d.は標準偏差パラメータ(Standard Deviation)を表す(以下の表も同様)

次に,下流域で,上流サンプルと同じ費用負担シナリオ(下流 A)の結果を表 4 に示

す.

表 4:下流 A の ML 結果 Coeff. t-ratio P-value ヨシ原保全 -0.011** -2.365 0.018 シジミ保護 -0.021*** -3.756 0.000 流木・ゴミの量 -1.800E-04*** -4.877 1.080E-06 遊歩道 1.021*** 2.981 0.003 休憩施設(遊歩道に加えて) 4.980E-01 1.479 0.139 親水設備(遊歩道・休憩施設に加えて) 1.401*** 4.644 3.420E-06 保全税 -7.880E-05*** -3.224 0.001 ASC1 -1.010E-01 -0.432 0.666 ASC2 0.611* 1.820 0.069 保全税の s.d. 6.850E-05* 1.751 0.080 シジミ保護の s.d. 0.039*** 6.963 3.330E-12 No.of obs. 526 Log-likelihood -477.757 ALRI 0.165

以上の分析結果で得られる効用パラメータベクトルを用いて,限界的(Marginal)な WTP が以下の 7 式のように定式化される.ここで pβ は価格属性の効用パラメータ,

xβ はそれ以外のプロファイル属性の効用パラメータである.

(7) これによって,プロファイル属性が限界的に 1単位変化するときの WTP が計算できる.

また,効用パラメータの比をとるために,上記のスケールパラメータに関わる問題を回

避できるv. 栗山・庄子(2005)によれば,ML においては,母集団のパラメータ β の従う密度

関数 ( )Ω|βf が情報として与えられるので,ここから個人別のパラメータを推定するこ

とができる.今,回答者 n の選択した選択肢を ny ,回答者の選択した ny の条件付確率

分布関数を ( )Ω,| nyh β とする.このとき,ベイズルールより,以下の 8 式が成立する.

(8)

pxMWTP ββ−=

( ) ( ) ( ) ( )Ω⋅=Ω⋅Ω |||,| βββ fyPyPyh nnn

ここで, ( )β|nyP は母集団のパラメータ β が与えられた下で,個人 n が選択肢 y を選

ぶ確率である.ベイズルールは,事前分布を,尤度関数を通して事後分布へと変換する

手続きであるため,尤度関数 ( )•L を用いて以下の 9 式のように表現することができる.

(9) このとき,回答者の個人別パラメータの期待値は,以下の 10 式のように表現できる.

一般的には解析的に解くことができないため,シミュレーションを用いることとなる.

(10) 以下の表 6~表 8 に流域別の各データセットを用いた ML 分析から得られた限界

WTP を示す.最大値と最小値は,アンケートの回答者の中で,最も大きな WTP を持

つサンプル個人の WTP と,最も小さなそれを表している. BT の検証法の 1 つとして,WTP の信頼区間を用いる方法がある.Krinsky and Robb(1986)が提案した,モンテカルロ・シミュレーションを用いる方法が頻繁に用いら

れる.効用パラメータの平均と分散共分散行列の情報を用いて,いわゆる「代表的個人」

の情報を乱数発生によって増幅し,WTP の信頼区間を得るものである.本研究で用い

た ML では,標準偏差パラメータが推定されているため,「各回答者」の WTP を得る

ことが可能である.そこで,ML で得られる情報をすべて利用し,「各回答者」の WTPで WTP 分布関数を作成し,その比較によって BT 分析を行う手法を提案する. ただし,上記の表 3~4 では価格属性の標準偏差パラメータが推定された.これによ

って,価格以外のすべての属性に関する個人別 WTP を計測することができる反面,

WTP の外れ値(Outlier)が多くなってしまう可能性が否めない.Outlier が多いと,

WTP の分布で有効に検証することが難しいと考えられる. そこで,個人別 WTP の分布の上下限を,いくつかの基準で削除することによって

BT 分析を行う.本研究で採用する基準の数値は,95%・90%・80%・70%・60%とす

る.例えば 95%では,個人別 WTP の分布関数の上下を,それぞれ 2.5%分削除するこ

とで得られる分布の広がりをもとにする.その上で,分布の重なりと,2 つのデータセ

ットに関する WTP の平均値が,お互いの区間内に入っているかを見ることで,BT が

可能かどうかを判断することとする. 以下の表 5~6 に,各データセットから求められた,個人別 WTP の平均値と最大値・

最小値を示す.なお,WTP の平均値は,「各回答者」の WTP の平均値を用いているvi.

表 5~6 を概観すると,いずれの属性のパラメータも,最大値と最小値がかなりかけ離

れている.上記において懸念したとおり,Outlier がかなり多いものと考えられる.BT分析として,基準を変化させた分析が正当化される.

( ) ( ) ( )( ) ( )∫ Ω⋅

Ω⋅=Ω

βββ

βββ

dfL

fLyh

n

n

y

yn |

|,|

[ ] ( )( ) ( )( ) ( )∫ ∫

∫Ω⋅

Ω⋅=Ω=Ω

βββ

ββββββββ

dfL

dfLdyhE

n

n

y

yn |

|,||

表 5:上流の WTP(単位:円) mean maximum minimum

ヨシ原保全 -27.6 2219.3 -2819.5 シジミ保護 17.0 1264.2 -495.6

流木・ゴミの量 0.1 35.4 -12.9 遊歩道 -471.8 19226.2 -30540.1

休憩施設(遊歩道に加えて) 238.2 15421.1 -9708.21 親水設備

(遊歩道・休憩施設に加えて) 1083.0 70103.1 -44132.7

表 6:下流 A の WTP(単位:円) mean maximum minimum

ヨシ原保全 153.9 28795.1 -2910.8シジミ保護 -1090.6 8972.9 -89578.9

流木・ゴミの量 2.5 476.4 -48.2遊歩道 -14541.7 274997.4 -2720386.0

休憩施設(遊歩道に加えて) -7099.0 134248.7 -1328042.0親水設備

(遊歩道・休憩施設に加えて) -19949.7 377268.6 -3732094.0 BT を用いた分析として,「上流」と「下流 A」の結果を比較する.これによって,

空間的に離れた 2 地域の WTP を比較していることになり,それらの便益移転性を議論

できる.従来の BT は空間的に離れたデータセットの比較であったため,文字通り便益

移転分析と定義できる.BT 分析を,プロファイル属性別に見ていくことで,環境対策

別に BT が可能かどうかを検証できることが,本研究で採用した選択型実験の利点であ

る. 以下の表 7 に 95%~60%までの基準で Outlier を削除した後の,WTP の上下限と平

均値を示す.

表 7:WTP 分布の平均値と上下限 上流 下流 A

基準 属性 項目

mean lower bound

upper bound

mean lower bound

upper bound

0.95 ヨシ原 -27.6 -495.5 317.2 153.9 -1274.4 323.3 シジミ 17.0 -183.3 234.0 -1090.6 -1469.8 3633.3 流木・ゴミ量 0.1 -7.2 8.0 2.5 -21.1 5.3 遊歩道 -471.8 -6473 7825.8 -14541.7 -30545.1 120397.6

休憩 施設

238.2 -3951.6 3268.7 -7099.0 -14911.5 58775.9

親水 設備

1083.0 -17963.7 14859.2 -19949.7 -41904.7 165173.3

0.9 ヨシ原 -27.6 -230.7 226.9 153.9 -374.9 -65.5567 シジミ 17.0 -70.6 76.6 -1090.6 -597.0 930.6827 流木・ゴミ量 0.1 -3.0 3.0 2.5 -6.2 -1.08451 遊歩道 -471.8 -2994.8 2918.7 -14541.7 6193.4 35418.42

休憩 施設

238.2 -1642.8 1502.3 -7099.0 3023.5 17290.62

親水 設備

1083.0 -7467.9 6829.5 -19949.7 8496.7 48590.5

0.8 ヨシ原 -27.6 -108.4 104.1 153.9 -275.0 -85.5 シジミ 17.0 -21.8 47.0 -1090.6 -587.1 402.5 流木・ゴミ量 0.1 -1.4 1.0 2.5 -4.5 -1.4 遊歩道 -471.8 -1605.0 1134.2 -14541.7 8078.7 25981.9

休憩 施設

238.2 -572.7 810.4 -7099.0 3943.9 12683.9

親水 設備

1083.0 -2603.6 3684.1 -19949.7 11083.1 35644.6

0.7 ヨシ原 -27.6 -94.9 62.2 153.9 -236.8 -94.8 シジミ 17.0 -6.1 34.4 -1090.6 -584.3 213.8 流木・ゴミ量 0.1 -1.1 0.659 2.5 -3.9 -1.6 遊歩道 -471.8 -1021.0 -246.5 -14541.7 8958.3 22370.0

休憩 施設

238.2 124.1 478.4 -7099.0 4373.3 10920.6

親水 設備

1083.0 564.1 2174.7 -19949.7 12290.0 30689.3

0.6 ヨシ原 -27.6 -74.3 26.0 153.9 -204.0 -102.2 シジミ 17.0 -0.576 28.4 -1090.6 -575.9 162.9 流木・ゴミ量 0.1 -0.832 0.461 2.5 -3.4 -1.7 遊歩道 -471.8 -835.3 -279.2 -14541.7 9658.4 19274.3

休憩 施設

238.2 140.0 419.9 -7099.0 4715.0 9409.3

親水 設備

1083.0 636.2 1908.8 -19949.7 13250.3 26442.3

以下の表 8 に,上流と下流 A の WTP 分布での比較結果を示す.比較検証は上記の表

7 の情報をもとに,分布の重なりと,お互いの平均値が双方の分布内に入っているかど

うかで判定した.

表 8:上流と下流 A の信頼区間比較の結果 項目 95% 90% 80% 70% 60% ヨシ原保全 ○ ○ - - - シジミ保護 - - - - - 流木・ゴミの量 ○ - - - - 遊歩道 - - - - - 休憩施設(遊歩道に加えて) - - - - - 親水設備(休憩施設と遊歩道に

加えて) - - - - -

注:○は便益移転可能,-は不可能を示す 表 8 より,比較的移転しやすいのはヨシ原保全であり,他の属性に関する WTP は

90%の時点で移転が棄却されたvii.

5. 考察 以上の BT 分析結果より,以下のことが考えられる. 上下流の比較結果から,ヨシ原保全が比較的移転しやすく,他は移転可能性が棄却さ

れた.ヨシ原という自然生態系は,大床他(2007)において,環境対策に関する外部

者と考えられる上流の住民の方が価値を高く評価しているために,移転が比較的しやす

くなっている可能性がある.塚本(2004)においても,多くの市民が自然生態系に肯

定的な評価を行っているため,上記の結果となっていることが伺える. その他に関しては,BT が困難であるという結果になっている.住民には局所的対策

という性質に捉えられており,BT がそもそも認められないことが示唆される. すなわち,局所的性質を有する環境対策に関して,BT を行うべきではなく,独自に

調査する必要性が示唆されている.受益者集団が広範囲にわたるときのみ BT は推奨さ

れうる.よって,BT を行う際には,受益者集団を特定する,社会学ないし社会科学的

な調査を行っておく必要があると思われる.

6. おわりに 本研究では,北上川河口域の環境問題を受けて,流域住民の選好の多様性を考慮した

ML の分析結果を用いて,便益移転性を検証した. 検証に際して,ML の推定によって得られるすべての情報を活かした,「各回答者」

の WTP 分布関数を用いた比較検証法を提示し,Outlier を徐々に除去していく方法で

検証を行った. 上流域と下流域において,双方とも費用負担するというシナリオで比較した結果,局

所的な環境対策では,便益移転を用いるべきではなく,流域ごとに独自に調査すべきこ

とが示唆された.よって,河川環境対策の性質が,全流域的であるか,局所的であるか

によって,BT の可否がわかれると考えられる.局所的対策の場合は BT を行うべきで

はないものと思われる.さらに,BT を行う際には,受益者集団を特定する,社会学な

いし社会科学的な調査を行っておく必要があると思われる. 分析の拡張として,WTP を比較検証するために,Poe et al.(2005)の完全対応比較

(Complete Combinatorial)が考えられる.完全対応比較は,WTP の差をとった形式

の統計量を作成する.それから得られる数値は,P-value と同じ概念を有しており,帰

無仮説は「WTP が移転可能」である.2 つの確率変数wa・wbが,それぞれ p 個・q個

発生していたと仮定する.それぞれの要素全てを対応させて, wbwa − のような差のベ

クトル(要素の数は qp ∗ 個)を考える.Poe et al.(2005)では,以下の 11 式のよう

な統計量が,wa・wbに有意差がないことの P-value 的な役割を示すことを提案した.

すなわち,移転可能性の棄却域が示されることになる.ここで, ( )•# は括弧内の要素の

個数である.

(11) また,Kristofersson D. and Navrud S.(2005)や Muthke T. and Holm-Mueller K.(2004)では,計量薬学(Pharmacometrics)で用いられている,Two One-Sided Test Procedure を便益移転の検証法として提案している.こちらも WTP の差異を検証する

方法である. 以上の分析的な課題は今後挑戦していく所存である.

付記:本研究は草稿段階である.したがって,著者の許可のない一切の転載・流用を禁

じる.

( )qp

wbwa∗

≥−=

0#γ̂

7. 参考文献 [1]Bech M. and Gyrd-Hansen D. (2005) Effects Coding in Discrete Choice Experiments, Health Economics, Vol.14, pp.1079-1083. [2]Colombo S., Calatrava-Requena J. and Hanley N. (2007) Testing Choice Experiment for Benefit Transfer with Preference Heterogeneity, American Journal of Agricultural Economics, Vol.89, No.1, pp.135-151. [3] Graves, T., Hamada M., Booker J., Decroix M., Chilcoat K. and Bowyer C.(2007) Estimating a Proportion Using Stratified Data from Both Convenience and Random Samples, Technometrics, Vol. 49, Issue 2, pp.164-171. [4]Hanley N., Wright R. and Alvarez-Farizo B. (2006a) Estimating the Economic Value of Improvements in River Ecology Using Choice Experiments: An Application to the Water Framework Directive, Journal of Environmental Management, Vol.78, pp.183-193. [5]Hanley N., Colombo S., Tinch D., Black A. and Afrab A. (2006b) Estimating the Benefits of Water Quality Improvements under the Water Framework Directive: Are Benefits Transferable?, European Review of Agricultural Economics, Vol.33, No.3, pp.391-413. [6]Krinsky I. and Robb R.(1986)On approximating the Statistical Properties of Elasticity, Review of Economics and Statistics, Vol.68, pp.715-719. [7]Kristofersson D. and Navrud S.(2005)Validity Tests of Benefit Transfer ― Are We Performing the Wrong Tests?, Environmental and Resource Economics, Vol.30, pp.279-286. [8]栗山浩一・庄子康(2005)『環境と観光の経済評価-国立公園の維持と管理-』, 勁草書房. [9]McFadden D.(1974)Conditional Logit Analysis of Qualitative Choice Behaviour, Frontiers in Econometrics, ed. Zarembka P., pp.105-142., Academic Press. [10]Morrison M. and Bennett J.(2006)Valuing New South Wales Rivers for Use in Benefit Transfer, Choice Modelling and the Transfer of Environmental Values, ed. Rolfe J. and Bennett J., pp.71-96, Edward Elgar. [11]Muthke T. and Holm-Mueller K.(2004)National and International Benefit Transfer Testing with a Rigorous Test Procedure, Environmental and Resource Economics, Vol.29, pp.323-336. [12]大床太郎・笹尾俊明・柘植隆宏(2007)河川環境の流域単位での管理対策評価, HICEC Discussion Paper Series, Hiroshima University, Vol.2007-6. [13]大床太郎(2005)便益移転の検証法に関する展望と考察, 六甲台論集, 第 52 巻, 第1 号, pp.1-10.

[14]Poe G., Giraud K. and Loomis J.(2005)Computational Methods for Measuring the Difference of Empirical Distributions, American Journal of Agricultural Economics, Vol.87, No.2, pp.255-267. [15]Poe G., Severance-Lossin E. and Welsh M.(1994)Measuring the Difference(X-Y)of Simulated Distribution: A Convolutions Approach, American Journal of Agricultural Economics, Vol.76, pp.904-915. [16]Revelt D. and Train K. (1998) Mixed Logit with Repeated Choices: Households’ Choices of Appliance Efficiency Level, The Review of Economics and Statistics Vol80, No.4, pp647-657. [17]笹尾俊明(2004)ヨシ原をめぐる地域共同管理システムの経済価値評価, 『ヨシ原

をめぐる地域環境のグランドデザイン構築:平成 14 年度-平成 15 年度科学研究費補

助金(基盤研究(B))研究成果報告書』, pp.165-174. [18]笹尾俊明(2002)北上川河口域の自然環境及びその保全に対する社会経済的評価, 『北上川河口域における地域共生システムに関する総合的研究』, pp.76-80. [19]寺脇拓(2002)『農業の環境評価分析』, 勁草書房. [20]Train K. (1998) Recreation Demand Models with Taste Differences Over People, Land Economics, Vol. 74, No. 2, 230-239. [21]塚本善弘(2004)ヨシ原をめぐる地域共同管理システムの社会学的研究, 『ヨシ原

をめぐる地域環境のグランドデザイン構築:平成 14 年度-平成 15 年度科学研究費補

助金(基盤研究(B))研究成果報告書』, pp.153-164. [22]鷲田豊明(1999)『環境評価入門』, 勁草書房.

Benefit Transfer Analyses of River Basin Management Implemented by Area Units with Preference Heterogeneity Considered

Taro OHDOKO

COE Researcher at Graduate School of International Development and Cooperation, Hiroshima University, Japan

Mail to: [email protected]

Toshiaki SASAO Associate Professor at Faculty of Humanities and Social Science, Iwate University,

Japan

Takahiro TSUGE Associate Professor at Faculty of Economics, Konan University, Japan

Abstract Benefit transfer (BT) analyses are conducted in many contexts about environmental economics. BT concept is the comparison between policy evaluation results. We conducted the benefit transfer analysis as to the river basin management of Kitakami River estuary, where the landscape and ecology are destroyed by inflowing driftwoods and rubbishes. When BT analysis conducting, we suggested the comparison method using individual WTP distribution which is estimated by Mixed Logit Model. As the result of the comparison between upper river area and lower river area, it is suggested that benefit transfer should not be used with the provision against local areas such as estuary. In addition, when benefit transfer conducted, social surveys should be conducted which clarify beneficiary of policy or provision.

Key Words: River Basin Management, Preference Heterogeneity,

Choice Experiment, Mixed Logit Model

i 本研究は,平成 13~14 年度河川整備助成金(河川環境管理財団)「北上川河口域における地域

共生システムに関する総合的研究」と,平成 14~15 年度科学研究費補助金(基盤研究 B)「ヨ

シ原をめぐる地域環境のグランドデザイン構築」(研究代表者:岩手大学人文社会科学部・牧陽

之助 教授)の一部です.ここに記して深く感謝いたします. ii 本研究では簡単化のため,以下ではすべてスケールパラメータを 1 に基準化している. iii CVM を選択型実験の前に 3 回行っている.本稿ではその分析は割愛する. iv 両町とも平成 17 年 4 月に石巻市と合併している. v もう 1 つの方法として,ログサム型の WTP がある.詳しくは Hanley et al. (2006b) を参照

されたい. vi 効用パラメータの平均値で WTP の平均値とする考え方もあるが,本研究では「各回答者」の

WTP を用いているために,分析の整合性をとるように,「各回答者」の WTP の平均値で議論す

ることとする. vii ただし,80%ですべて BT の可能性が棄却されていることに注意を要する.

広島大学 21 世紀 COE プログラム「社会的環境管理能力の形成と国際協力拠点」 ディスカッションペーパー Vol.2003-1 松岡俊二・岡田紗更・木戸謙介・本田直子(広島大学大学院国際協力研究科)「社

会的環境管理能力の形成と制度変化」2004/2/13. Vol.2003-2 木村宏恒(名古屋大学大学院国際開発研究科)「インドネシアの地方分権と社会的

環境管理能力形成をめぐる諸問題」2003/11/21. Vol.2003-3 吉田謙太郎(筑波大学大学院システム情報工学研究科)「都市生態系の社会経済評

価」2004/3/31. Vol.2004-1 Fujiwara, A., Zhang, J., Dacruz, M.R.M. (Graduate School for International Development

and Cooperation, Hiroshima University) “Social Capacity Development for Urban Air Quality Management the Context of Urban Transportation Planning” 2004/4/20.

Vol.2004-2 藤倉 良(法政大学人間環境学部)「公害克服経験における社会的アクターの関係

‐工業都市の硫黄酸化物対策‐」2004/4/20. Vol.2004-3 柳下正治(名古屋大学大学院環境学研究科)「市民参加による循環型社会の創生ス

テークホルダー会議の評価」2004/11/15. Vol.2004-4 松本礼史(日本大学生物資源科学部)「横浜市における社会的環境管理能力の発展

モデルの検討」2004/5/31. Vol.2004-5 本田直子(広島大学大学院国際協力研究科)「日本の大気汚染における社会的環境

管理能力の役割‐都道府県別パネルデータによる実証分析‐」2004/6/18. Vol.2004-6 金原達夫・金子慎治(広島大学大学院国際協力研究科)「環境効率と経済効率の両

立可能性」2005/3/10. Vol.2004-7 本田直子(広島大学大学院国際協力研究科)「日本の大気汚染問題における社会的

環境管理能力の形成に関する因果構造分析」2004/10/25. Vol.2004-8 金原達夫・金子慎治(広島大学大学院国際協力研究科)「環境パフォーマンスと環

境管理行動の関係」2005/3/10. Vol.2004-9 木村宏恒(名古屋大学大学院国際開発研究科)「ジャカルタにおける社会的環境管

理能力形成の現状と展望」2005/3/10. Vol.2005-1 Tanaka, K. (Graduate School for International Development and Cooperation, Hiroshima

University) “The Role of Environmental Management Capacity on Energy Efficiency: Evidence from China's Electricity Industry” 2005/9/15.

Vol.2005-2 程 雅琴(中国国際民間組織合作促進会)「中国 NGO の活動・役割」2005/10/1. Vol.2005-3 村上一真・松岡俊二(広島大学大学院国際協力研究科)「都市大気汚染政策におけ

る社会的能力の評価」2005/10/3.

Vol.2005-4 Matsuoka, S., Murakami, K., Aoyama, N., Takahashi, Y., Tanaka, K. (Graduate School for International Development and Cooperation, Hiroshima University) “Capacity Development and Social Capacity Assessment (SCA)” 1st ed., 2005/10/24, 2nd ed., 2005/11/17.

Vol.2005-5 松岡俊二・村上一真・青山直人・高橋与志・田中勝也(広島大学大学院国際協力研

究科)「キャパシティ・デベロップメントと社会的能力アセスメント手法」 2005/11/17.

Vol.2005-6 Fujiwara, A., Senbil, M., Zhang, J. (Graduate School for International Development and

Cooperation, Hiroshima University) “Capacity Development for Sustainable Urban Transport in Developing Countries” 2006/1/20.

Vol.2005-7 Yosida, K. (Department of Social Systems and Management, University of Tsukuba)

“Benefit Transfer of Stated Preference Approaches to Evaluate Local Environmental Taxes” 2006/1/29.

Vol.2005-8 松岡俊二・淵ノ上英樹(広島大学大学院国際協力研究科)「開発援助政策の革新と

キャパシティ・ディベロップメント」2006/1/31. Vol.2005-9 Matsuoka, S., Fuchinoue, H. (Graduate School for International Development and

Cooperation, Hiroshima University) “Innovation in Development Aid Policy and Capacity Development Approach” 2006/3/1.

Vol.2005-10 村上一真・松岡俊二(広島大学大学院国際協力研究科)「社会的環境管理能力に関

する研究:都市大気汚染対策を事例として」2006/3/30. Vol.2006-1 村上一真・松岡俊二(広島大学大学院国際協力研究科)「都市大気質と経済成長お

よび社会的環境管理能力の因果構造分析」2006/7/10. Vol.2006-2 Nakagoshi, N., Kim, J. E., Watanabe, S. (Graduate School for International Development

and Cooperation, Hiroshima University) “Social Capacity for Environmental Management for Recovery of Greenery Resources in Hiroshima” 2006/7/28.

Vol.2006-3 Senbil, M., Zhang, J., Fujiwara, A. (Graduate School for International Development and

Cooperation, Hiroshima University) “Motorcycle Ownership and Use in Jabotabek (Indonesia) Metropolitan Area” 2006/8/01.

Vol.2006-4 Senbil, M., Zhang, J., Fujiwara, A. (Graduate School for International Development and

Cooperation, Hiroshima University) “Land Use Effect on Travel Behavior in Jabotabek (Indonesia) Metropolitan Area” 2006/8/02.

Vol.2006-5 村上一真・松岡俊二・金原達夫(広島大学大学院国際協力研究科)「社会的環境管

理能力の形成プロセスに係る因果構造の分析:都市大気汚染対策を事例にして」

2006/9/28. Vol.2006-6 Timmermans, H. (Urban Planning Group, Eindhoven University of Technology)

“Modelling Land Use and Transportation Dynamics: Methodological Issues, State-of-Art, and Applications in Developing Countries” 2006/10/2.

Vol.2006-7 Takahashi, Y., Ohno, A., Matsuoka, S. (Graduate School for International Development and Cooperation, Hiroshima University) “Alternative Export-Oriented Industrialization in Africa: Extension from ‘Spatial Economic Advantage’ in the Case of Kenya” 2007/1/12.

Vol.2006-8 福原由美・松岡俊二(広島大学大学院国際協力研究科)「持続可能な都市と社会的

環境管理能力の形成に関する研究‐途上国における都市の持続可能性の向上を目

指して」2007/2/8. Vol.2006-9 Komatsu, S., Matsuoka, S., Tanaka, K. (Graduate School for International Development

and Cooperation, Hiroshima University) “Estimating Willingness to Pay (WTP) for Rural Water Supply Improvements for Pastureland Conservation in Mongolia” 2007/2/20.

Vol.2006-10 大野 敦(広島大学大学院国際協力研究科)「インドネシア国家開発計画と国際援

助潮流に関する研究」2007/2/21. Vol.2006-11 山下哲平(広島大学大学院国際協力研究科)「東アジア諸国のエネルギー消費効率

性とガバナンス指標との相関関係:環境政策に係わる「市場」と「政府」の失敗に着

目して」2007/2/22. Vol.2007-1 Daisaku GOTO (Graduate School for International Development and Cooperation,

Hiroshima University) “Rewards versus Intellectual Property Rights in Green Innovation: Incentive Design for Capacity Development” 2007/5/23.

Vol.2007-2 Metin SENBIL, Akimasa FUJIWARA and Junyi ZHANG (Graduate School for

International Development and Cooperation, Hiroshima University) “What can we do to decrease private car ownership and its usage in developing countries: A Capacity Development Approach for Jabotabek MA (Indonesia)” 2007/6/6.

Vol.2007-3 山下哲平(広島大学大学院国際協力研究科)「インドネシアにおける大気質管理と

社会的能力:AQMS (Air Quality Monitoring System) 評価・分析から」2007/7/31. Vol.2007-4 Junyi ZHANG and Akimasa FUJIWARA (Graduate School for International Development

and Cooperation, Hiroshima University) “Development of the DPSIR+C Framework for Measuring the Social Capacity of Environmental Management” 2007/10/4.

Vol.2007-5 Pham Duc UY and Nobukazu NAKAGOSHI (Graduate School for International

Development and Cooperation, Hiroshima University) “Urban green space gradient analysis and building eco-network in Hanoi, Vietnam” 2007/10/15.

Vol.2007-6 大床太郎・笹尾俊明*・柘植隆宏**(広島大学大学院国際協力研究科, *岩手大学人文

社会科学部、**甲南大学経済学部)「河川環境の流域単位での管理対策評価」

2007/11/11. Vol.2007-7 Nobukazu NAKAGOSHI and Keiko NAGASHIMA (Graduate School for International

Development and Cooperation, Hiroshima University) “Indicators for Social Capacity Development on Ecosystem Management in Urban Areas” 2007/12/20.

Vol.2007-8 Katsuya TANAKA and Shunji MATSUOKA (Graduate School for International

Development and Cooperation, Hiroshima University) “Reconsidering the Environmental Kuznets Curve: Geographically Weighted Regression Approach” 2007/12/27.