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臨床放射線 Vol. 59 No. 11 2014 111411 はじめに 40 歳以上の側頸部腫瘤は扁平上皮癌によるもの が最も多く,悪性リンパ腫がそれに次ぐ。40 歳未満 では炎症や先天性疾患の頻度が高く,悪性リンパ腫 を含む腫瘍がそれらに次ぐ 1) 。悪性リンパ腫の組織 型は病理組織学的にホジキンリンパ腫と非ホジキンリ ンパ腫に大別される。非ホジキンリンパ腫は免疫学 的に前駆細胞リンパ系腫瘍,成熟 B 細胞腫瘍,成 熟 T 細胞腫瘍,そして NK 細胞リンパ腫に大別され, それぞれの予後も異なる。非ホジキンリンパ腫は本邦 の悪性リンパ腫の約 90%を占め,小児を含む全年齢 層に発生する。節外発生が多いが,頭頸部領域で は約半数にリンパ節病変を認める。ホジキンリンパ腫 は本邦の悪性リンパ腫の約 10%を占め,好発年齢は 若年〜中年と高齢者の二峰性である。頸部リンパ節 での初発が多く,周囲,さらに全身のリンパ節へ進展 していく 2) 。悪性リンパ腫の頸部リンパ節病変の CT, MRI 所見は多彩で疾患特異性はない。悪性リンパ 腫であることが既知なら,CT や MRI での頸部リンパ 節病変の解釈は比較的容易である。しかし悪性リン パ腫が頸部リンパ節に限局していると,CT では特異 性のない頸部リンパ節腫大が唯一の所見となり,診断 に苦慮することも多い。本稿では悪性リンパ腫の頸 部リンパ節病変について,CT 所見を中心に概説し 鑑別診断について述べる。 18 F-fluorodeoxyglucose- positron emission tomography( 18 F-FDG) によ る PET や PET/CT については他稿を参照されたい。 CT・MRI の検査法 頸 部 腫 瘤 の CT で は,造 影 が 強く推 奨 され る。 造 影 検 査を行えない 場 合は,MRI や 超 音 波 検査などの代替検査を考慮する。CT の有効視 野(field of view:FOV) は 14 〜 20cm を基 本 とする。病変全体を十分に含む 5mm 以下の断層 像が必要で,2mm 以下の断層像が望ましい。軟 部 条 件,骨 条 件,多 断 面 再 構 成(multi planar reconstruction:MPR)法による冠状断像を作成 し,矢状断像を必要に応じ追加する。MRI では頸 部 用コイルを用い,FOV は 18cm,スライス厚は 3 〜 5mm,スライス間隔は 1mm 以下とする。マトリッ クスは 512×512 が理想だが,信号雑音比(signal- noise ratio:S/N 比)の低下なども考え,撮像機器 の特性に合わせ調整する。T1,T2 強調像,ガドリニ ウム製剤による造影 T1 強調像が基本である。脂肪 抑制 T2 強調像はリンパ節内部の性状評価,特に融 解壊死の検出に鋭敏である。short-tau inversion recovery(STIR)像も診断の助けとなり,造影剤 を使えない場合の有用性も高い。撮像断層面は横 断像を基本に適宜冠状断像を追加する。脂肪抑制 法を用いる場合は磁化率アーチファクトの発生も考え, 脂肪抑制なしの造影 T1 強調像も必ず撮像してお く。拡散強調像を撮像する場合は ADC 画像も作成 し,真の拡散障害と T2 shine-through を見分けるこ とが大切である。 R. Ukisu,T. Yamane,T. Hara,Y. Inoue 北里大学医学部 放射線科学・画像診断学 索引用語: 悪性リンパ腫,頸部リンパ節病変〕 浮洲龍太郎 山根拓郎 原 敏将 井上優介 ѱϦϯύजͷஅͱ চઢ 59ɿ1411-1422ɼ2014 頸部リンパ節病変 頸部腫瘤の鑑別を中心に 画像診断─鑑別診断に重点をおいて─

頸部リンパ節病変...頸部腫瘤の鑑別を中心に 画像診断 鑑別診断に重点をおいて 1412(12) 臨床放射線 Vol. 59 No. 11 2014 CT・MRI所見 正常頸部リンパ節

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臨床放射線 Vol. 59 No. 11 2014 (11)1411

◦はじめに

 40 歳以上の側頸部腫瘤は扁平上皮癌によるものが最も多く,悪性リンパ腫がそれに次ぐ。40 歳未満では炎症や先天性疾患の頻度が高く,悪性リンパ腫を含む腫瘍がそれらに次ぐ 1)。悪性リンパ腫の組織型は病理組織学的にホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫に大別される。非ホジキンリンパ腫は免疫学的に前駆細胞リンパ系腫瘍,成熟 B 細胞腫瘍,成熟 T 細胞腫瘍,そして NK 細胞リンパ腫に大別され,それぞれの予後も異なる。非ホジキンリンパ腫は本邦の悪性リンパ腫の約 90%を占め,小児を含む全年齢層に発生する。節外発生が多いが,頭頸部領域では約半数にリンパ節病変を認める。ホジキンリンパ腫は本邦の悪性リンパ腫の約 10%を占め,好発年齢は若年〜中年と高齢者の二峰性である。頸部リンパ節での初発が多く,周囲,さらに全身のリンパ節へ進展していく2)。悪性リンパ腫の頸部リンパ節病変の CT,MRI 所見は多彩で疾患特異性はない。悪性リンパ腫であることが既知なら,CT や MRI での頸部リンパ節病変の解釈は比較的容易である。しかし悪性リンパ腫が頸部リンパ節に限局していると,CT では特異性のない頸部リンパ節腫大が唯一の所見となり,診断に苦慮することも多い。本稿では悪性リンパ腫の頸部リンパ節病変について,CT 所見を中心に概説し鑑別診断について述べる。18F-fl uorodeoxyglucose-positron emission tomography(18F-FDG) によるPET や PET/CT については他稿を参照されたい。

❶ CT・MRI の検査法

  頸 部 腫 瘤の CT では,造 影 が 強く推 奨される。造影検査を行えない場合は,MRI や超音波検査などの代替検査を考慮する。CT の有効視野(fi eld of view:FOV) は 14 〜 20cm を 基 本とする。病変全体を十分に含む 5mm 以下の断層像が必要で,2mm 以下の断層像が望ましい。軟部条件,骨条件,多断面再構成(multi planar reconstruction:MPR)法による冠状断像を作成し,矢状断像を必要に応じ追加する。MRI では頸部用コイルを用い,FOV は 18cm,スライス厚は 3〜 5mm,スライス間隔は 1mm 以下とする。マトリックスは 512×512 が理想だが,信号雑音比(signal-noise ratio:S/N 比)の低下なども考え,撮像機器の特性に合わせ調整する。T1,T2 強調像,ガドリニウム製剤による造影 T1 強調像が基本である。脂肪抑制 T2 強調像はリンパ節内部の性状評価,特に融解壊死の検出に鋭敏である。short-tau inversion recovery(STIR)像も診断の助けとなり,造影剤を使えない場合の有用性も高い。撮像断層面は横断像を基本に適宜冠状断像を追加する。脂肪抑制法を用いる場合は磁化率アーチファクトの発生も考え,脂肪抑制なしの造影 T1 強調像も必ず撮像しておく。拡散強調像を撮像する場合は ADC 画像も作成し,真の拡散障害とT2 shine-throughを見分けることが大切である。

* R. Ukisu,T. Yamane,T. Hara,Y. Inoue 北里大学医学部 放射線科学・画像診断学〔索引用語:悪性リンパ腫,頸部リンパ節病変〕

浮洲龍太郎* 山根拓郎* 原 敏将* 井上優介*

悪性リンパ腫の診断と治療 臨床放射線59:1411-1422,2014

頸部リンパ節病変頸部腫瘤の鑑別を中心に

画像診断─鑑別診断に重点をおいて─

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臨床放射線 Vol. 59 No. 11 20141412(12)

❷ CT・MRI 所見 

❶ 正常頸部リンパ節 まず正常リンパ節の解剖として CT,MR 所見について簡単に述べる。リンパ節は薄く密な線維性被膜で覆われ,脂肪織に富むリンパ門をもつ。リンパ節には複数の輸入リンパ管があり,周囲からのリンパ流を受ける。節内に洞窟のような構造があり,リンパ節内へ流入したリンパ液が還流する。皮質リンパ小節に後毛細動静脈が分布し,血液中のリンパ球がリンパ節内に流入する。リンパ門には動静脈と輸出リンパ管が存在する。動静脈はリンパ節の血流を担い,輸出脚は節外へのリンパ液の流出路をなす(図 1)。 正常リンパ節はソラマメのような形状で,造影 CTでは筋に比べ少し高吸収である。薄層断層面を観察すると,脂肪織に富むリンパ門が低吸収域を示し,その中に動静脈が線状構造として描出されることがある(図 2A,B)。正常リンパ節は MRI の T1 強調像

において筋とほぼ等信号,T2 強調像では筋と脂肪の中間程度の信号強度を示し,リンパ門はいずれにおいても脂肪織由来の高信号を示す(図 2C)。正常リンパ節はガドリニウムにより造影され,特に脂肪抑制造影 T1 強調像では明瞭な造影剤増強効果が観察される。 画像診断における一般論として,CT,MRI において正常の頸部リンパ節はレベルⅠB(顎下リンパ節),レベルⅡ(上内深頸リンパ節)では最大径<15mm,他は<10mmとし,より大きなものは腫大リンパ節とする。MRI でリンパ門の脂肪織の不明瞭化,中心壊死などによる節内の吸収値や信号の変化があれば,大きさにかかわらず病的所見とすべきである 3-5)。悪性リンパ腫における臨床病期の Ann Arbor 分類では頭頸部のリンパ節はワルダイエル輪,頸部・鎖骨上・喉頭・耳前部リンパ節の 2 領域のみである。悪性リンパ腫患者の診断は生検での組織診断によりなされ,治療方針の決定には画像診断が不可欠である。

図 1 正常リンパ節の模式図

輸入リンパ管

輸出リンパ管

髄質

動静脈

被膜皮質リンパ小節中間洞リンパ濾胞梁柱

リンパ門

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臨床放射線 Vol. 59 No. 11 2014 (13)1413

 造血器腫瘍診療ガイドラインでは悪性リンパ腫の治療前評価として頸部〜骨盤 CT が必要と明記され,FDG-PET や PET/CTを施行することが望ましいとの記載がある。悪性リンパ腫の画像診断基準は,他の悪性腫瘍と異なることにも注意が必要である。Ann Arbor 分類,効果判定基準の JCOG-LSG はいずれも,「CT で径 1.5cmをこえるリンパ節のみ有意腫大とする」といった主旨の記載がある。悪性リンパ腫取扱い規約において,効果判定には Japan Clinical Oncology Group Lymphoma Study Group

(JCOG-LSG)の基準が広く適用され,治療後にリンパ節が 1.5cm 以下なら「正常化」,一度縮小したリンパ節が再度 1.5cmをこえれば「再増大」と判定する 6)7)。本稿では混乱を避けるため,頭頸部癌取扱い規約 8)およびレベル分類 9)(図 3)における呼称を併記した。

❸ 悪性リンパ腫の頸部リンパ節病変

 悪性リンパ腫における頸部リンパ節腫大は,両側性,多発性が多い。造影 CT では,筋と等〜軽度高吸収で,境界明瞭,均一な性状を示せば典型的である。リンパ節の被膜は保たれ,周囲脂肪織の混濁はないか,あっても軽微で悪性リンパ腫の頸部リンパ節病変に特徴的な所見はない。 単一病変の場合は,顎下リンパ節(レベルⅠB),上内深頸リンパ節(ⅡA)が侵されやすい(図 4A)。MRI でも均一な性状のリンパ節腫大で,T1 強調像で筋に比べ等〜軽度高信号,T2 強調像で筋と脂肪の中間信号,脂肪抑制 T2 強調像や STIR 像では高信号を示し,拡散強調像では著明な高信号である

(図 4B 〜 E)。ときにリンパ節病変に中心壊死を認め,高分化型扁平上皮癌や甲状腺乳頭癌における転移

図 2 正常リンパ節A 造影 CT B 造影 CT 冠状断像 C MRI T2 強調像 正常リンパ節(→)はソラマメのような形態をなし,リンパ門の脂肪織(▲)が CT では低吸収,MRI では T1,T2強調像で高信号となる。リンパ門の脂肪織にみられる索状,点状構造は主に動静脈である。

A

B

C

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臨床放射線 Vol. 59 No. 11 20141414(14)

リンパ節に似た性状を示すことがある(図 5,6)。 結節硬化型のホジキンリンパ腫などに伴う線維化の強いリンパ節病変は,T2 強調像で著明な低信号を示すことがある(図 7)。悪性リンパ腫における頸部リンパ節病変の ADC 値は,0.66 ± 0.17

(×103mm2/s)と他の悪性腫瘍や炎症性疾患に比べ低いことが知られる 10-12)。頸部リンパ節病変がみられ,悪性リンパ腫との鑑別に苦慮するときは,MRI での ADC 値の計測が鑑別の一助となる可能性もある。患者の主訴や現病歴,理学的所見,血液生化学所見,免疫学的所見など,できるだけ多くの情報を参照しながら画像診断を進めることも大切である。これらの情報を加味してもなお悪性リンパ腫を除外できないときは,鑑別にその点を明記すべきである。

❹ CT,MRI で悪性リンパ腫との鑑別を要する主な頸部腫瘤(表 1)

 悪性腫瘍としては扁平上皮癌のリンパ節転移が最

多で,悪性リンパ腫がそれに次ぐ。炎症性リンパ節腫大は悪性腫瘍のそれに比べ軽度のことが多く,隣接する脂肪織の混濁をしばしば伴う。ウイルス感染としては,伝染性単核球症や human immunodeficiency virus(HIV)感染がよく知られる。HIV 感染では悪性リンパ腫の合併も多いため,画像の解釈に苦慮することもある。細菌感染では有痛性リンパ節腫大がみられ,リンパ節内に膿瘍を形成することがある。頸部リンパ節結核,猫ひっかき病などもしばしば不染域を示す。特発性としては,上気道感染,サルコイドーシス,川崎病などに伴う反応性腫大が多い。サルコイドーシスなどの悪性腫瘍を合併しやすい病態では,リンパ節生検が必要となることもある 11)12)。以下,悪性リンパ腫との鑑別すべき疾患を中心に述べる。❶ リンパ節性腫瘤

(1)充実性  ワルダイエル輪は悪性リンパ腫の好発部位だが,頭頸部扁平上皮癌の頻度はそれ以上に高い。特に上咽頭癌は他の頭頸部扁平上皮癌と異なり,低分化,

図 3 頸部リンパ節(A 頭頸部癌取扱い規約 B レベル分類)

顎下オトガイ下

副神経

前頸部 鎖骨上窩

上内深頸

下内深頸

中内深頸

舌骨

甲状軟骨

ⅠA

ⅡAⅡB

ⅠB

Ⅲ ⅤA

ⅤBⅣ

輪状軟骨

A B

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臨床放射線 Vol. 59 No. 11 2014 (15)1415

図 4 60 歳,男性 右顎下部腫瘤 ホジキンリンパ腫A 造影 CT B MRI T1 強調像 C MRI T2 強調像D MRI STIR 像 E 拡散強調像 造影 CT(A)では右上内深頸リンパ節(レベルⅡA)に境界明瞭,均一な性状の腫瘤(→)が形成されている。周囲との境界は明瞭で,筋と等吸収である。T1 強調像(B)では筋と等信号,T2強調像(C)では筋と脂肪の中間程度の信号を示し,STIR像(D),拡散強調像(E)では高信号である。腫瘤のADC 値は 0.71(×103mm2/s)であった。

B

D

C

E

A

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臨床放射線 Vol. 59 No. 11 20141416(16)

未分化癌が大部分を占める。早期に頸部リンパ節転移を来すため,約 70%の患者は原因不明の頸部腫瘤を主訴に受診する。 上咽頭扁平上皮癌のリンパ節転移巣は,均一な性状を示し多発することが多い(図 8)。CT で悪性リンパ腫類似の頸部リンパ節腫大を認めたときは,上咽頭扁平上皮癌の可能性も考慮し必要と思われる例には生検を行う。 白血病もしばしば多発性の頸部リンパ節腫大を来し,CT,MRI 所見は非特異的である。特に就学前の小児における多発性,無痛性の頸部リンパ節腫大では,悪性リンパ腫や白血病の可能性についても配慮することが必要である。キャスルマン病の10〜15%は頭頸部に発生し,その多くはリンパ節病変を示す。病理学的に硝子血管型(80 〜 90%),形質細胞型

(10 〜 20%),混合型(まれ)に分類される。 造影剤静注後,CT や MRI で早期より著明に造影,増強され,比較的特徴的な所見といえる。反応性リンパ節腫大の多くは,先行感染や炎症に伴い生じると考えられている。腫大リンパ節に自発痛,圧痛がみられ,先行感染があれば反応性腫大が疑わしい。CT 所見は非特異的で,悪性リンパ腫との鑑別は難

しいことが多い(図 9)。反応性リンパ節腫大はときに悪性疾患に随伴し生じることにも注意が必要である。 サルコイドーシスは全身性の肉芽腫性疾患で,あらゆる臓器に類上皮性肉芽腫を形成する。頭頸部では頸部リンパ節,耳下腺,涙腺,眼球などが侵されやすく,頸部リンパ節腫脹は約 1/3 の患者にみられる(図 10)。CT や MRI で頸部リンパ節,耳下腺内リンパ節に性状均一で,多発性の腫大があれば,悪性リンパ腫,サルコイドーシスの可能性が高く,木村病も鑑別となる。木村病は原因不明の慢性肉芽腫性疾患で頭頸部に好発し,無痛性の頸部リンパ節腫大,耳下腺腫瘤に末梢血中の好酸球増多,IgE 上昇を伴えば典型的である(図 11)。 川崎病における頸部リンパ節病変の CT 所見は非特異的だが,しばしば咽頭後間隙の浮腫が低吸収域を示す(図 12)。診断にあたり画像所見のみにとらわれず,眼球結膜の著明な充血,指尖落屑や苺舌といった特徴的な臨床所見の有無を確認することも重要である。組織性壊死性リンパ節炎(菊池病,菊池・藤本病)は,女性に多く患者のほとんどは 40 歳未満である。臨床的には発熱と有痛性の頸部リンパ節腫大を認め,末梢血中の白血球減少,LDH の上

図 5 81 歳,男性 両頸部腫瘤 濾胞性リンパ腫 造影CT両側の顎下部(レベルⅠB),右上内深頸(レベルⅡA)リンパ節の腫大(→)がみられる。右顎下リンパ節内には壊死を示唆する広範な低吸収域(▲)を認める。ときに,悪性リンパ腫のリンパ節病変は変性壊死を来し,嚢胞性腫瘤を示すことがある。

図 6 69 歳,男性 右頸部腫瘤 濾胞性リンパ腫 辺縁優位の造影効果を示すリンパ節病変 造影 CT右中内深頸リンパ節(レベルⅢ)が腫大し(→),右内頸静脈を前外側へ圧排している。腫大リンパ節の辺縁に造影効果が目立ち,内部の吸収値は筋に比べ低い。