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2016年のダイヤモンド業界においては、従来のビジネスが今後は衰退していくのか、緩やかに発展していくのかを決定する過渡期にあると考えます。 今年以降のダイヤモンド販売戦略を考えるにあたり、大きく3つの角度から見て捉える必要があります。1流通においてのトレーサビリティー2販売においてのプロフェッショナリティー3ITがもたらすビジネスモデルの変化
1「流通においてのトレーサビリティー」がどのようになっているのか、各ブランドや会社の取り扱いのダイヤモンドについて、主に3つの点について明確にしておく必要があります。⑴コンフリクト ダイヤモンドではない事⑵合成ダイヤモンドではない事⑶2次流通ダイヤモンドか否かが明確であること
コンフリクトダイヤモンドに関しては、原石のキンバリープロセスの観点から国内ではあまり心配をする必要はないと考えます。しかし、合成石や2次流通のダイヤモンドは大きな問題になっています。合成ダイヤモンドについては、2014年に一度日本中で話題なりましたが、それ以降2015年11月、東京でのGIA主催のセミナーまでは話題にすら上がっていませんでした。 昨年9月の香港国際宝飾展では、ベルギーのHRDアントワープのブースにおいて合成石のオープンセミナーが何度も開催されていました。常にセミナーは満杯であり、海外と日本との間にはかなりの関心度合いに差があると感じました。 メレー石を含む合成ダイヤモンド対策は、お店やブランドをプロテクトする為に、積極的に準備をすればリスクは大幅に軽減できます。それにはまず、合成ダイヤモンドの知識を得た上で、常に最新の現状を把握しておく必要があります。 今月のIJTでは、昨年香港国際宝飾展で発表された2016年1月発売の最新の鑑別機械「M-Screen」を見ることができます。ただし1月生産分は既に完売しており、未だ日本で導入予定はありません。予約しても納品までには数ヶ月かかる事になりそうです。
2次流通ダイヤモンドの取り扱いを完全に排除するのは、かなり困難であると思います。しかし、ブランドとしてしっかりと輸入からの流通をフローチャートにして、段階的解法を理解しておく必要があると思います。当然企業モラルの問題にはなりますが、ダイヤモンドをブランドとして展開し、そこに2次流通品ではなく輸入されたダイヤモンドである事が大事。つまりユーザーにまでアナウンスできる信頼、信用の証があるダイヤモンドを取り扱う必要があると考えます。
2「販売においてのプロフェッショナリティー」は、簡単に言うとしっかりとした専門知識を持ったジュエラーが少なくなったという事です。昨今は、エンゲージメントリングの売上が急激に低下しているとよく耳にします。その理由として婚姻者数の低下や、結納など儀式が無くなってきたなど外的要因ばかりを言いますが、急激な売上低下の理由は本当にそれだけでしょうか?確かに少子化による婚姻者数の低下などの外的要因はあります。しかし結納に関して言えば、儀式的なものではない結婚前の両親の顔合わせで食事会を行う数は増えており、つまり両親との食事会でエンゲージメントリングを渡す機会は、以前の結納の数より多くなっているのです。 では、急激な売上低下が外的要因によってではないとすると、なぜなのでしょうか?それは、エンゲージメントリングの販売方法にあると考えます。昨今エンゲージメントリングはブランドごとにディスプレイされ、VMD下で綺麗に括られています。多くのショップにおいて、それぞれのブランドのストーリーを説明し、そしてお客様に合う枠のデザインで接客販売をします。 つまり、ダイヤモンドの説明はそこそこで「ストーリー」と「デザイン」で接客トークし、予算内で決めてもらう販売方法です。この「ストーリー型販売」の良い点は、極端に言うと、昨
日までアパレルなど異業種で販売をやっていた宝石販売の新人も、専門知識無くして「ストーリー」と「デザイン」で今日からエンゲージメントリングを販売できるという点です。 ダイヤモンドの販売方法にも、スプリングの様な循環論は存在すると考えます。スプリングの様に回り回って同じ地点に戻っても、テクノロジーの進化等による時代の差異があり、その差異を理解した上で原点回帰する時期にきていると思います。 1990年代には小売店をはじめ、業界ではダイヤモンドの知識を身に付けるべくセミナーなどが数多く行われ、知識を身につけはじめました。お客様にしっかりとしたダイヤモンドの説明を行い、ダイヤモンドの価値を伝えた上で、単価を上げる接客をしていました。ダイヤモンドは2つと同じものがありません。個々に異なるダイヤモンドの価値を、今はお客様に伝えていないのが現状です。 「ストーリー型販売」によって、ジュエリー専門店が専門知識を持たず勉強せず、ダイヤモンドの美しさなどの価値を伝えずに販売するお店が増えた為に、若いカップル
の結婚記念品は、別にダイヤモンドのエンゲージメントリングでなくても良いとなるのも当然の流れだと思います。 「ストーリー型販売」がこれ以上蔓延すると、エンゲージメントリングのみならず、全てのダイヤモンドが売れなくなっていくことを懸念しています。 昨年は、専門知識のないスタッフに勉強会を実施して欲しいという小売店の要望が多く、昨年秋以降だけでも23回もプロフェッショナルな販売スタッフ養成の為のセミナーを行いました。「ストーリー型販売」に危機感を覚えているショップが増えてきているのが、何よりも救いであると言えるでしょう。
3「ITがもたらすビジネスモデルの変化」とは、テクノロジーによって生活環境が変化したのと同様に、ダイヤモンドを取り巻く環境も年々大きく変化していることです。 ダイヤモンドは心理価値で成り立っているもので、テクノロジーで測るものではないのもよく解っています。しかし、日々進化続けるITを無視し続けていくのは得策なのでしょうか? 例えば、ダイヤモンドの輝き、美しさの多くはダイヤ原石のタチ、もしくはキジといわれる素材要素が影響すると言われています。もちろん美しいクリスタルのダイヤ原石からカットされる研磨済みダイヤモンドは確かに美しいです。この考えには全く同感です。ただ、これは理想論であると考えます。 というのも、例えば研磨済みダイヤモンドを10個並べて見て、どれがタチの良いダイヤ原石からカットされたものかをわかる人がいるでしょうか?また、タチの良いダイヤ原石と、そうでないダイヤ原石との境は何でしょうか?もし、わかる人がいるとしたなら、誰もがわかる良し悪しのルールを明確に説明できるでしょうか?今の時代に感覚的なものは通用しません。つまり理想論としては正しいですが、現実とは大きくかけ離れていると考えます。 2013年、英国宝石学協会の機関紙にダイヤモンドの輝きの計測についての論文が発表されました。その理論を基にイスラエルのサリネ社がサリネ・ライトというマシンを開発し、昨年は完成度の高い輝きのレポートを作成するところまできました。今まで通りの4Cという希少価値の目安に、輝きのレポートが付いてダイヤモンドの価値を説明する時代に入っています。すでに米国マーケットではメジャーな販売方法になっていますが、日本でも一昨年と昨年では、6倍以上の輝きのレポートが発行されており、今年はその需要が加速すると予想できます。 また、世界中の鑑定機関でカットグレードのプロポーションスコープとして使用されているサリネ社のダイヤメ
ンションですが、ミクロンの単位で計測ができる新機種アクシアムがリリースされました。そこまでの精度を持つプロポーションスコープは必要ないと思う人は多いと思います。ただ、このアクシアムによってダイヤモンドのシンメトリーが肉眼で判断する必要がなくなり、ロジックを入力することで正確なカットグレードが行われます。必要ないと思われる人も今までと異なるカットグレードが出る可能性があると聞けば無視できないはずです。
昨年のIJTで公開された、WEB上でダイヤモンドを3Dでリアルに見ることができ、流通が大きく変わるとされるサリネ・ルーペも、昨年から海外で実用化され、サリネ・プロファイルとしてカスタマイズされたシステムになりました。
例えば、お客様が小売店に来て5カラットのダイヤモンドが欲しいと言われたとします。お店にはそのような大粒のダイヤモンドは無く、取引メーカーに聞いても在庫はなかったとしましょう。しかし、このシステムを使うと、ネットで検索された幾つかの5カラットの3D画像を、お客様に見せながら接客できます。ダイヤモンドの内包物の位置やファセットの形状などもルーペで見るように自由に拡大できるのです。ファイル内には4Cや輝きの評価書などの情報もあります。そしてお客様への販売が決まり、仕入れはクレジットカード決済をすれば3日後には海外のダイヤモンド会社から、FedExによってお店までGIA付き5カラットのダイヤモンドが届くのです。 これは、未来の話ではなく、既に実用化されている話なのです。今月のIJTではより進化したシステムを見ることができますが、今年は輸入業者や問屋はもちろん、小売店もこのシステムによって新たな方向性を考えさせられる年になるでしょう。 ダイヤモンドにおいては、テクノロジーと心理価値は相容れないものであることは十分に理解しています。しかし、テクノロジーの波はせき止めることは不可能です。であれば、テクノロジーを理解して新たなビジネスモデルを構築していく事が、より進歩的な販売を行えると考えます。
以上を通じて、今年はもう一度ダイヤモンドという素材について考え直し、現状を踏まえた上で、皆様方の2016年のダイヤモンド販売戦略に、少しでもお役に立てれば幸いです。
1962年:東京都出身。1984年:大学卒業後、イスラエルのテルアビブ大学に留学。 同時にウルパン メイール(国立語学学校)に入学1986年:株式会社AP入社。 ベルギー、アントワープダイヤモンド取引所駐在員に着任。1990年:Sarin Technologies Ltd. 日本総代理店となる 1993年:株式会社AP代表取締役社長に就任。2004年:ベルギー アントワープの老舗ショコラティエ「DEL REY」を銀座にオープン。2013年:シュートボクシング協会 理事就任2013年:HRD Antwerp Equipment 日本代理店となる
衰退か?発展か?ダイヤモンドビジネスの将来
『ダイヤモンド論・2016
』
株式会社AP 代表取締役社長 石田茂之氏
香港ジュエリ-ショーで展示された鑑定書付合成ダイヤモンド
DiaMension TM AXIOM
Sarine LoupeTM
マシンによる原石の完全なカットシミュレーション
(2)2016年(平成28年)1月1日 第2302号 第3種郵便物認可