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平成25年1月18日 嘉島勇一郎先生によるニワトリの心臓解剖講座 ご紹介いただきました信州大学病院の嘉嶋勇一郎で す。 普段は40歳以上の患者さんと話しています。皆さん のようなお若い方の前で話をするのは初めてですの で貴重な体験をする機会を与えていただいたことに感 謝します。今回はニワトリの心臓を解剖しますが、基 本は人間と同じです。今日は人の心臓についての話 をします。生まれながらにして形が違っている人もい る話をします。緊張しないで気楽に聞いてください。 みなさん、学校の先生は声が大きいですね。心臓について の授業をすることを穂高岳登山の後、蝶が岳に柳田教頭 先生と登ったときに話をしました。 これは先ほど紹介していただいた信大病院の写真です。こ れは信大病院の仲間です。飯田までヘリコプターで20分と いう仕事もたまにしています。 心臓は筋肉のかたまりで、握りこぶし大の臓器です。 1分間に50~100回収縮を繰り返します。体中の細 胞の数は60兆個で、細胞は常に栄養と酸素を必要と している。5分間酸素が来ないと死んでしまう。5分で 脳も死んでしまう。そんな意味で、心臓は全ての臓器 を支えている。 心臓のでき方の話である。心臓は最初1本の管でできて いて、お母さんのお腹の中でたわんでできます。上下左 右が反転して心臓の形ができあがります。そのため、動 脈は体の左側になり、静脈は体の右側になります。動脈 は心臓から血液を送り出す管です。帰ってくる血管のこ とを静脈と言います。外観はハート形です。 1

嘉島勇一郎先生によるニワトリの心臓解剖講座...嘉島勇一郎先生によるニワトリの心臓解剖講座 平成25年1月18日 ご紹介いただきました信州大学病院の嘉嶋勇一郎で

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Page 1: 嘉島勇一郎先生によるニワトリの心臓解剖講座...嘉島勇一郎先生によるニワトリの心臓解剖講座 平成25年1月18日 ご紹介いただきました信州大学病院の嘉嶋勇一郎で

平成25年1月18日嘉島勇一郎先生によるニワトリの心臓解剖講座

ご紹介いただきました信州大学病院の嘉嶋勇一郎です。 普段は40歳以上の患者さんと話しています。皆さんのようなお若い方の前で話をするのは初めてですので貴重な体験をする機会を与えていただいたことに感謝します。今回はニワトリの心臓を解剖しますが、基本は人間と同じです。今日は人の心臓についての話をします。生まれながらにして形が違っている人もいる話をします。緊張しないで気楽に聞いてください。

みなさん、学校の先生は声が大きいですね。心臓についての授業をすることを穂高岳登山の後、蝶が岳に柳田教頭先生と登ったときに話をしました。 これは先ほど紹介していただいた信大病院の写真です。これは信大病院の仲間です。飯田までヘリコプターで20分という仕事もたまにしています。

心臓は筋肉のかたまりで、握りこぶし大の臓器です。1分間に50~100回収縮を繰り返します。体中の細胞の数は60兆個で、細胞は常に栄養と酸素を必要としている。5分間酸素が来ないと死んでしまう。5分で脳も死んでしまう。そんな意味で、心臓は全ての臓器を支えている。

心臓のでき方の話である。心臓は最初1本の管でできていて、お母さんのお腹の中でたわんでできます。上下左右が反転して心臓の形ができあがります。そのため、動脈は体の左側になり、静脈は体の右側になります。動脈は心臓から血液を送り出す管です。帰ってくる血管のことを静脈と言います。外観はハート形です。

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心臓は4つの部屋からできています。上側(頭側)を「心房」あるいは単に「房」といいます。ま

た、下側(足側)を心室と言います。 青色は汚れた血液で(体中を回って帰ってきた血液)右心房から右心室に行きます。これは肺につながっています。右心室で圧力を加えられ肺に行きます。肺では酸素を取り込んできれいになります。また、二酸化炭素は血液より肺に追い出されます。 赤色は体循環と言います。 循環というのは行って帰ってくることで、帰ってきたら肺できれいにしてあげる。

心臓の左右が仕切られていることが大切です。 発生の時には、心臓の心室部分の壁は下から盛り上がってきます。 一方心房部分は筋肉ではなくて、膜が頭側がら足側に伸びてきます。ところが、その膜は一旦欠けてしまいます。そして、次の段階では足側から頭側に膜が成長します。そして、再度膜が頭側から伸びてきて、④のように重なる状態になります。しかし、膜は合わさりません。いつ合わさるのでしょうか。 お母さんのお腹より出てきたときです。肺の中には空気が最初ありませんので、呼吸はまず「空気を吸う」ことが第一に行われます。吸ったときに瞬間的に肺が膨らんで血管が拡張します。その瞬間に圧力で二枚の膜はくっつくのです。上の膜と心室の仕切が異なっていることが解剖で見られると素晴らしいですね。

心房側は膜で、心室側は筋肉で仕切られています。また、心房と心室は弁で仕切られています。 弁の話をしたいと思います。心臓に圧力がかかると、弁は開き、圧力が無くなると弁は閉じる仕組みになっていますが、一旦送られた血液が戻らない仕組みとなっています。 「弁膜症」これは、弁がうまく動かなくなる病気です。一旦送り出した血液が戻ってしまいますので、心臓のポンプとしての効率が悪くなります。 「心室中隔欠損症」これは左右の心室の壁が欠損している病気で、血液が混じり合ってしまいます。 「心房中隔欠損症」これは比較的多い病気で、心房の膜が欠損します。心臓病の患者の半分くらいを占めます。

心臓は1分間に60回、一日で10万回動いていま

す。

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心臓が動くのは心臓の中に電線に当たる物が走っています。目では見えないので、

イメージとして図では緑色で示します。 「洞結節」は、電気刺激を出す出発点です。出発駅です。ここから出た電線は左右に分かれ、また一つにまとまります。このまとまるところを、「房室結節」と言います。駅で言ったら中継駅です。 心臓は「止まれ」「動け」というようにできません。私たちの意志に従って動いていません。手は自分で「握る」「開く」と言う命令ができますが、心臓ができない点が手とは異なります。 走ったときに脈が速くなるのは神経が洞結節の働きを調節しているためです。どうして洞結節が自分で動く理由はわかっていません。自分で勝手に動くことを自動能といいます。心臓がどうして勝手に動くかもわかっていません。

病気の話をしますが、洞結節の働きが悪く、心拍数が1分間に20回とかという人もいます。ペースメーカーを使う必要があります。また、洞結節は良くても途中の電線が切れてしまう人もいます。これも俣ペースメーカーを入れる必要があります。 今日はレベルを落とさず話をしますので、わからないところは後で聞いてください。また、自分で調べてください。

心臓の心筋細胞という筋肉細胞の集まりです。そのため、心臓は多量の酸素と栄養が必要です。心臓自身も血液が流れていかないといけない。だから、心臓から出てすぐ心臓に戻る血管があります。これを冠動脈と言います。 心臓は握り拳位で、大きくはない臓器なのですが、凄く動く物ですからエネルギーが沢山必要です。そのために血液の5%が心臓自身に送られます。

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冠動脈が詰まる病気を「心筋梗塞」といいます。おじいさんおばあさんでこの病気にか

かった人もいると思います。サッカー選手の

松本山雅FCの松田直樹選手がかかった病

気です。ほんとに恐い病気で、30%の人が

かかったらその場でなくなってしまう病気で

す。 原因は動脈硬化、冠動脈の中に「油かす」がたまってきて、血管が詰まってしまうのです。 20分以上血液が流れてこないと心筋細胞は死んでしまって二度と動くことはありません。 ヘリコプターの話になるのですが、20分のうちに詰まった血管を広げられるかが勝負です。

これは人の血管です。ここのところがとぎれそうになっている

ことがわかりますか。

99%詰まっているのですが、

100%詰まってしまうと血液が

行かなくなってしまいますからこ

の付近の細胞が死んでしまい

ます。

1%でも流れていると救われ

ます。この人にとっては良かっ

たのです。

写真では大きく出ていますが、

この血管は直径が2~3mmくら

いです。凄く細い血管です。こ

れを治療する、きれいにするの

が仕事の一つになります。

これは動いている心臓ですが、ここが動いていないことが

わかりますか。 これはカテーテルと言います。くるっと回っているのがわかりますか。「ピックテール」「豚のしっぽ」と言います。丸くなっているわけは先がとがっていると心臓を傷つけてしまうからです。 左が治療前で、右が治療後です。これはさっきと同じ人です。 血液が送られていないと心臓が気絶している状態です。血液が流れるようにして栄養とか酸素を送ってあげると心臓が良く動くようになります。

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Page 5: 嘉島勇一郎先生によるニワトリの心臓解剖講座...嘉島勇一郎先生によるニワトリの心臓解剖講座 平成25年1月18日 ご紹介いただきました信州大学病院の嘉嶋勇一郎で

今日お話ししたかったのは以上です。心臓の成り立ちと病気

との関わり合いについてです。 どういうところを見るかというと、アドバイスとしては黄色の油が付いていますが、周囲にある油はメタボリック症候群に関係します。病気の元で冠動脈や電気の伝わる道を痛める物質を出します。 心臓の壁の厚さの左右の違いを注意してみてください。 弁も枚数が違います。同じだったら同じでも良いと思います。冠動脈も細いと思いますが、ルーペで見ると見つかるかもしれません。 どこでつながっているかよく見て欲しい。循環していることを知ろう。なんか物を通してみてください。ちゃんと自分の目で見てください。

ニワトリの命に感謝して、心臓の構造をしっかり自分の目で見てください。

ニワトリの心臓解剖講座生徒の感想 ・ 2年生のときには習わなかった冠動脈や心臓のでき方を知ったのは良い経験でした。実際に解剖してみて

心室の中を観察して、ひだがある心室とひだのない心室があることがわかった。(3年生)

・ 心臓のでき方や脈の役割など知らなかったことが勉強できてよかったです。(3年生)

・ 今年は受検なので、生物の体のつくりを再確認できる良い機会になりました。(3年生)

・ 前に一度やったので、順序良くやることができて、きれいに切ることができた。大動脈を二つにしたとき

先生に「きれいに切れているね」と言っていただいて嬉しかった。先生の最初のお話の中に心臓のでき方

の部分がありましたが、生命の不思議さをそこで感じることができました。(2年生)

・ 解剖を今までこれほどしっかりやったことはなかった。最初、切ることに抵抗はあったが、心臓の中を見

たり心臓の回りに膜があることを見ることができて勉強になりました。1 日に 7200 リットルも血液が心臓

から送り出さされることも教えていただきました。(1年生)

・ 最初は「ワァッ」と思いましたが、心臓にメスを入れることで命のありがたみを感じることができました。

心臓についている多くの脂肪を見て健康に注意したいと思いました。(1年生)

・ 最初心臓の勉強をする話を聞いたとき、正直「難しそうだな」と思いました。嘉嶋先生にわかりやすく話

していただいて良かったです。解剖という貴重な経験をさせていただきました。(1年生)

・ 今回はニワトリの心臓を解剖しましたが、機会があれば他の動物の心臓も解剖してみたいと思いました。

心臓には色々な自分の知らない部分があり、それがわかって良かったです。(1年生)

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▲大動脈から切開する方法(方法

2)

ニワトリの心臓解剖の授業の様子

▲心臓を横に切開する方法(方法3)

▲ 生徒の解剖した心臓で生徒に説明される嘉嶋先生 ▲生徒代表のお礼の言葉

書画カメラを用いて、嘉嶋先生の手元を拡大して、見えるようにしました。

◆心臓は筋肉の中に電線が通っていて、その電気により収縮する。    冠動脈は心臓に栄養や酸素を供給する。脂肪で冠動脈はつまりやすい。

▲脂肪組織をまず切除する。脂肪がたくさんついてました。前は切断した肝臓

▲心臓を縦に切開する。(方法1)

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