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下水道システムとしての排水設備の問題点
はじめに1
現在の排水設備における設計慣行に関わる課題5点、設計方針に関わる課題5点、そして新しい課題2点、の合わせて 12 点の問題提起と提案をさせていただきたいと思います。
設計慣行に関わる課題2
2.1 汚水排水管の勾配
最初に取り上げるのは、宅内の汚水排水管の勾配の問題です。わが国の汚水排水管の勾配は、1/ 100 でよいにもかかわらず、現在、2/ 100 が主流になっています。標準下水道条例に基づいてそうなっているところが多いのですが、この設計慣行が排水設備の問題の中で最も大きな問題ではないかと思われます(図-1)。 この設計慣行は、水洗化工事そのものを難しくし、水洗化工事の遅延や費用の増大にもつながるムダのもとになっています。また、この勾配の関係から、取付ますや取付管、下
水道本管も深く埋設しなければなりません。 排水管の勾配は、下水道法施行令では1/100 となっています。実際、1/ 100 勾配であっても最低流速 0.6 m/秒を超える 0.9 m/秒を確保できます(2/ 100 勾配では流速が 1.27 m/秒となります)。1/ 100 を採用している岐阜市が一昨年から実施している大規模なディスポーザの社会実験でも順調に推移しています。 しかしながら、平成 17 年のクイックプロジェクト事前調査によれば、1/ 100 勾配は全国で 163 の地方自治体しか採用していません。この2/ 100 勾配は陶管時代の名残りから来ていると思われ、昭和 38 年の標準条例から変わっていません。現在、1/ 100 を採用しているのは、岐阜県内のすべての自治体と周辺自治体、九州では長崎市だけです。 この問題を解決し、1/ 100 に変更しようとすると、下水道条例を改正しなければなりません。当然、議会の承認が必要ですが、変更理由の説明が難しく、議会に上程できないのが実状です。 写真-1は、コミュニティセンターの事例を示したものです。このコミュニティセン
成原 富士郎下水道アドバイザー
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ターの排水設備は延長が95 mもあったことから、勾配は1/ 100 にしました。2/ 100 では繋げることができませんでした。また、ある都市の雇用促進住宅では、条例で2/ 100 と決められていましたが、2/ 100 では下水道接続ができないため、1/ 100 を認めていただきました。 なお、雨水管は汚水管の前に整備され、側溝などが先にできていることから現場合わせの仕事になり、一般に勾配規制は
無視されています。土被りゼロを許容する雨水排水管も開発されており、汚水排水管より雨水排水管のほうが進歩的な考え方をしています。
2.2 土被り
汚水排水管は、最小土被りを 1.2 mにしているところがかなり多いです。これは、凍上被害を考慮した、凍結深を最小土被りにするという舗装設計指針によるもので、この凍結深を管頂に設定しているため、汚水排水管は1.2 mというかなり深いところに埋設されるのが多くなっているわけです。 凍上被害は、寒冷地などで冬季に地盤とともに排水管が浮き上がる現象ですが、下水管内の温度は高く、排水管内は汚水が滞留せずに空の状態が多いので、凍上現象や管内の凍結はほとんど起こりません。仮にあっても砂埋戻しにしておけば浮き上がりはありません。 実際、下北半島のある自治体では最小土被
写真-1 �1/ 100 勾配で開削工の本管を接続した 95mの宅内排水管
起点管底高
0.200土被り
宅地の地盤高
(ここが深いと本管は浅くならない)
勾配は 10.0%で十分管径はφ100 ㎜で十分
20.0%φ125 ㎜宅内排水管
10.0%宅内排水管φ100 ㎜VU300
G.L
宅内排水管の原則
管径φ100 ㎜、勾配1/ 100
公共取付ます
ムダな掘削
図-1 1/ 100の汚水排水管勾配
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りを 20㎝にしています。私の地元の近くの、冬季はかなり寒くなる岐阜県の山間部では、凍上現象や排水管内の凍結の有無を確認する調査を実施した上で、最小土被りを 30㎝にしています。また、最小土被りを大きく取れないため排水管を浅埋設し、勾配を1/ 100にして、取付管を側溝の上越しにした事例もあります(図-2参照)。
2.3 取付ます(汚水ます)の深さ
取付ます(汚水ます)は、一律 1.2 ~ 0.8mの深さに設置するところが非常に多いです。一律の深さですので設計をするほうは楽なのですが、経済的ではありません。地域の状況を考えながら、取付ますの深さを浅くする工夫をしていくべきでしょう。だんだん改められてきていますが、一律の 1.2 ~ 0.8 m深では住民も行政も損です。現在、工夫して浅いますにしているのは、全国で 304 の自治体です。 また、家庭用の集合トラップますを取り付ける自治体がありますが、集合トラップますを取り付けることで、取付ますは 10㎝深く
しなければなりません。これも経済的ではありません。現在は改善される方向で進んでいますが、設置しているところがまだあります。 ただし、歯科医院では水銀アマルガムの流出があるため、汚泥中の水銀濃度を上げないために、集合トラップは必ず必要です。逆に歯科医院に集合トラップを設置するよう指導している自治体は圧倒的に少ないです。
2.4 取付ますの口径
取付ますの口径は 200㎜が望ましいのですが、平成 17 年の調査では全国で 89 の地方自治体でしかφ 200㎜を採用していません。現在は、当時よりも採用自治体が増えており、500 ~ 600 の自治体が採用しているとは思いますが、多くはまだ口径 300㎜を採用しています。 φ 300㎜を使うとどういうことになるかというと、3方向に切ってあるインバートに油や洗剤などが堆積しスカム生成物質となります。また、数年前の政令改正でマンホール蓋の空気孔がなくなり、空気が入らない状態になっています。取付ますが全然呼吸できなく
VUφ125
50.5m
SGP 鋼管φ200
10‰以上
コンクリート防護TSフランジ
φ100プレーシェン切管
断面図
土被り1.0m
図-2 最小土被り 20㎝で取付管も本管もコストを縮減した事例
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なっているわけです。その結果、硫化水素が発生し、腐食の原因になります。 供用開始から 14 年しか経過していない汚水ポンプ場出口近くで、硫化水素腐食が発生し道路陥没事故を起こし、1万人の下水が10 日間程度も処理できなかった例もあります。この事故は、取付ますの口径が大きかったことから発生したスカムが原因と考えられます。口径を 200㎜にすれば、スカムの生成・堆積はたいした量にはなりません。 取付ますの口径は、昔は50㎝でした。初期のこの 50㎝ますは蓋を載せているだけで、土砂が流入しますので、施設機能に支障をきたすことがあります。誰が責任を取るかといっても、写真-2のように更地になって責任の所在がわからない場合も少なくなく、行政が探して回らなければならないという悲しい現実
があります。 その後取付ますの口径は 30㎝になり、平成 12 年頃までは 30㎝の口径しか製造されておりませんでした。20㎝の口径はそれ以降に登場し、採用している自治体はお話ししたとおりですが、さらに小口径の 15㎝ますを採用しているところもあり、それでも十分かと思われます。 東日本大震災の大津波では、口径の大きいますの蓋が飛んでしまい、大量の土砂が下水管に流れ込むもとになりました。その一方で小さい口径のますの蓋は飛んでいませんでした。 取付ますの口径は条例で決められているわけではありませんので、スカム生成による腐食対策としても、またコスト縮減策としても、ぜひ小口径化を進めていただきたいと思います。
2.5 取付管の口径
現在、宅内排水管の内径は 100㎜が一般的ですが、公共下水道の伝統がある都市ほど、家庭からの取出し管である取付管の管径について、特定環境保全公共下水道と農業集落排水は 100㎜、公共下水道は 100㎜でない 150
写真-2 �更地の中の蓋を載せてあるだけの初期のます
本管
支管
φ125 ~ 150 ㎜なぜ、ここを太くする?
公共ます底部
宅内排水管φ100 ㎜
硬質塩化ビニル管製蓋
図-3 急勾配なのになぜか太くしなければならない取付管
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㎜にするという使い分けを行っています。 家屋条件が変わらないにもかかわらず、公共下水道だけ排水管の管径と違うサイズにするのはおかしいですし、φ 150㎜で長い取付管の場合、汚水だけが先に走り、夾雑物を残していくことになります。さらに、本管を200㎜より小さくできないという問題もあります。
設計方針に関わる課題3
3.1 取付ますの位置
取付ますの位置が、住民(受益者)主導で不合理な場所に決められてしまうことが少なくありません。実際、地権者が風水の関係などから取付ますの位置を指定し、下水道管を大回りさせ、コストが高くなる配管になってしまった例もあります。また、受益者負担金の関係などから、不必要なところまで下水道管を設置する無理が通る例もあります。これらの例は設計も悪いですが、行政も悪い、弱腰です。不合理な設計で夾雑物が溜まり、下水道機能に支障を来す場合もありますので、改築更新時には従前のかたちを改める必要が出てくる可能性もあります。コストを考え、地権者とよく協議するなど現場で工夫すべきです。
3.2 露出配管
写真-3には、床下配管を行った例を示しました。この配管でも夏期に汗をかいたり冬期に凍ることはありません。というのも、使わないときに排水管内に汚水があるのは不良品であって、凍結も結露もありません。宅内排水管で床下露出配管にすると大幅なコスト縮減になります。 露出配管はどこの自治体も嫌っていますが、取付管や下水道本管も、工事が郊外に移っ
ている実態を考えると、クイックプロジェクトの露出配管の社会実験を背景に大々的にやっていただき、コスト縮減に寄与していただきたいと思います。露出配管による、夏の暑い時期の伸び縮みの問題も解決されてきていますし、防食テープも開発されています。また、布設後 40 年を経過している露出雨水配管も、特に問題は出ていません。
3.3 背割り下水道
道路より低い宅地の場合、1戸毎に宅内ポンプが設置されており、ものすごいコスト高になっています。1戸だけのポンプにかかる電力量を年に1度調べていますが、電力消費はポンプの性能もよくなっており1日に1kWと少ないものの、その基本電力料は1戸毎に行政が支払っているのです。行政の下水道経営を大きく圧迫するもとになっています。 この解決策として背割り下水道があります。背割り下水道にして隣接の民地を通す方
写真-3 �床下の露出配管(上:被覆のある水道管、�下:使ったときしか流れない裸管の排水管)
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法により、ポンプがいらなくなることも考えられます。行政がこのかたちでなければ布設しないと主張すればいいのですが、ここでも行政の弱腰です。道路下の川沿いの連たん住戸で、河川に張り出した 600 mの背割り下水道管露出配管によってコスト縮減した例も見られます。
3.4 取付管の伏越し
多くの自治体は、取付管の伏越しに非常に消極的です。これにより本管の埋設深さを浅くできるのですが、全国で 21 の自治体しか採用していません。分流式下水道の起源である岐阜市では取付管伏越しを多く採用しています(図-4)。ディスポーザの社会実験においても、ベンドサイホンが活躍しています。また、取付管の伏越しでは通気構造が必須の存在です。さらに最近では取付ますに溜めないようにする効率的なタイプも開発されています。
3.5 チェック体制
宅内配管工事は水道工事店の責任施工ですが、排水設備責任技術者試験などの制度だけではチェックが不十分で、現在はチェック体制がないに等しいものとなっています。県ベースの責
任技術者のための講習も実施していますが、技術や経験の少ない工事店が入ることもままあります。チェック体制が不十分なために、排水管と他の構造物の離隔(10㎝)や、埋戻し土からの転石の除去、十分な転圧による埋戻しなどが守られていない工事があります。
新たな課題4
4.1 通気管
岐阜県下の自治体では、すべて家の排水設備に通気管が設置されています(写真-4)。昔の分流式下水道では通気構造がありましたが、通気の必要性が薄い合流式下水道が普及し、通気の配慮がないままマンホール蓋の通気孔もカットされていきました。しかしなが
取付ます
サヤ管
水 路
下水本管
図-4 取付管の伏越し(ベンドサイホン)
写真-4 宅内通気管
通気口
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ら、通気管は必要です。特に取付管伏越しの場合は必須です(なお、最近、東京でも通気管を付ける傾向となっていることを発見しました。写真-5は、東京・大田区の3階建て住居の2階に風呂とトイレがあり、入居後トラブル解消のために通気管を設置した事例です)。 臭気の問題があるのではないかと指摘され
たことがあるので、トイレと風呂場の排水時の通気管出口にビニール袋を付けて調べたところ、臭気はありませんでした。
4.2 浄化槽型排水設備仕様との整合
新しい整備地域では浄化槽の切り替えが多いです。浄化槽は土被りが 35㎝という仕様になっているため(写真-6)、この高さに合わせて起点宅内ますの土被りがなくなってしまう問題があります。下水道への切り替え時にこれをやり直すかどうかは行政の力関係に左右されるようですが、やり直せないところが圧倒的に多いです。こういう新しい問題も出てきています。
写真-6 浄化槽仕様で土被りのない起点排水管
土被りの無い起点配水管
写真-5 トイレ用と風呂用の2つの通気管
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