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311 付 録本書でとりあげられた人名を中心に,近世以後の教育メディアに影響を与えた思想家や研究者等 を人名抄録としてまとめた。入手可能な日本語文献も紹介してあるので,各論文の参考文献と合わ せて役立てていただきたい。(掲載は生年順) ◆ ヨハン・アモス・コメニウス(Johannes Amos Comenius,1592-1670チェコのモラヴィアとスロヴァキアの境界付近の村,ニヴェッツェに生まれた教育学者。神への信 仰を基礎に,すべての人に正しい知識を教授することの必要性を説いた。主な著書に,『大教授学』 『世界図絵』などがある。 ◆ ヨハン・ハインリッヒ・ペスタロッチ Johann Heinerich Pestalozzi,1746-1827スイスの教育実践家。孤児や貧民の子などの教育に従事した。実際の物や事象または絵画・模型・ 写真などを観察させ,具体的・感覚的に理解させる直観教授の思想を提唱した。フレーベルや,ヘ ルバルトがその思想を発展させた。主な著書に『隠者の夕暮』『リーンハルトとゲルトルート』な どがある。 ◆ フリードリヒ・シュライエルマッハー(Friedrich Daniel Ernst Schleiermacher,1768-1834ドイツの哲学者・神学者。ベルリン大学において教育学講義を担当し,教育の目的は倫理学に求め なければならないと論じつつも,あらゆる時代や社会に通じる「普遍的教育理論」なるものはあり 得ないと主張した。主な著書に,『独白』『信仰論』『教育学講義』などがある。 ヨハン・フリードリヒ・ヘルバルト (Johann Friedrich Herbart,1776-1841ドイツの哲学者,教育学者。教育の目的を倫理学に,方法を心理学に求め, 「明瞭」「連合」「系統」「方 法」の4段階からなる4段階教授法を提唱した。主な著書に,『一般教育学』『ペスタロッチーの直 観の ABC』などがある。 ◆ フリードリヒ・ヴィルヘルム・アウグスト・フレーベル Friedrich Wilhelm August Fröbel, 1782-1852ドイツの教育学者,ペスタロッチに師事した。幼稚園の創始者であり,幼児の系統的遊具を草案し, 神の贈与物の意味でガーべ(恩物)と名づけた。主な著書に,『人間の教育』『フレーベル自伝』な どがある。 教育メディア人名抄録

教育メディア人名抄録 - NHK · 2016-02-26 · ヨハン・アモス・コメニウス(Johannes Amos Comenius,1592-1670) チェコのモラヴィアとスロヴァキアの境界付近の村,ニヴェッツェに生まれた教育学者。

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■付 録■

本書でとりあげられた人名を中心に,近世以後の教育メディアに影響を与えた思想家や研究者等を人名抄録としてまとめた。入手可能な日本語文献も紹介してあるので,各論文の参考文献と合わせて役立てていただきたい。(掲載は生年順)

◆ ヨハン・アモス・コメニウス(Johannes Amos Comenius,1592-1670)チェコのモラヴィアとスロヴァキアの境界付近の村,ニヴェッツェに生まれた教育学者。神への信仰を基礎に,すべての人に正しい知識を教授することの必要性を説いた。主な著書に,『大教授学』『世界図絵』などがある。

◆ ヨハン・ハインリッヒ・ペスタロッチ (Johann Heinerich Pestalozzi,1746-1827)スイスの教育実践家。孤児や貧民の子などの教育に従事した。実際の物や事象または絵画・模型・写真などを観察させ,具体的・感覚的に理解させる直観教授の思想を提唱した。フレーベルや,ヘルバルトがその思想を発展させた。主な著書に『隠者の夕暮』『リーンハルトとゲルトルート』などがある。

◆ フリードリヒ・シュライエルマッハー(Friedrich Daniel Ernst Schleiermacher,1768-1834)ドイツの哲学者・神学者。ベルリン大学において教育学講義を担当し,教育の目的は倫理学に求めなければならないと論じつつも,あらゆる時代や社会に通じる「普遍的教育理論」なるものはあり得ないと主張した。主な著書に,『独白』『信仰論』『教育学講義』などがある。

◆  ヨハン・フリードリヒ・ヘルバルト (Johann Friedrich Herbart,1776-1841)ドイツの哲学者,教育学者。教育の目的を倫理学に,方法を心理学に求め,「明瞭」「連合」「系統」「方法」の4段階からなる4段階教授法を提唱した。主な著書に,『一般教育学』『ペスタロッチーの直観の ABC』などがある。

◆ フリードリヒ・ヴィルヘルム・アウグスト・フレーベル(Friedrich Wilhelm August Fröbel, 1782-1852)

ドイツの教育学者,ペスタロッチに師事した。幼稚園の創始者であり,幼児の系統的遊具を草案し,神の贈与物の意味でガーべ(恩物)と名づけた。主な著書に,『人間の教育』『フレーベル自伝』などがある。

教育メディア人名抄録

Page 2: 教育メディア人名抄録 - NHK · 2016-02-26 · ヨハン・アモス・コメニウス(Johannes Amos Comenius,1592-1670) チェコのモラヴィアとスロヴァキアの境界付近の村,ニヴェッツェに生まれた教育学者。

放送メディア研究 No.12 2015

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◆ ヴィルヘルム・ディルタイ(Wilhelm Christian Ludwig Dilthey,1833-1911)ドイツの哲学者。教育の目的は倫理学に,その方法は心理学に依拠すると論じつつも,時代や社会を超えた「普遍的道徳」や教育目的などはないと主張した。主な著書に,『青年時代のヘーゲル』『体験と創作』『教育学論集』などがある。

◆ ジョン・デューイ(John Dewey, 1859-1952)アメリカの哲学者・教育学者。「子ども中心主義」を掲げ世界中で大流行し,20世紀の新教育運動の思想的・理論的支柱となった。また,自らもシカゴ大学附属小学校(デューイ・スクール)を創設し,「なすことによって学ぶ」を合言葉とした「経験主義教育」の実践に励んだ。主な著書に,『学校と社会』『民主主義と教育』『経験と教育』『確実性の探求』『経験としての芸術』などがある。

◆ レフ・セミョノヴィチ・ヴィゴツキー (Lev Semenovich Vygotsky,1896-1934)ロシアの発達教育,心理学者。唯物弁証法を土台として,精神の歴史的 ・文化的発達理論を唱え,既存の生物学的 ・自然主義的理論を批判した。学習活動のあり方に関して「発達の最近接領域」という概念を提唱した。主な著書に『「発達の最近接領域」の理論』,『思考と言語』などがある。

◆ ジャン・ピアジェ(Jean Piaget, 1896-1980)スイスの心理学者。自己中心性など子どもの思考の特質を研究,次いで乳児期からの知能や思考の発達過程を分析。知の個体発生としての認知発達と知の系統発生としての科学史を重ね合わせて考察する発生認識論を構築した。主な著書に『構造主義』『知能の心理学』『発生的認識論』などがある。

◆ エドガー・デール(Edgar Dale,1900-1986)アメリカの教育学者。具体的経験と抽象的概念の結びつきを表した「経験の円錐 cone of experience」の考え方は,視聴覚教育の理論的基礎となった。主な著書に,『学習指導における視聴覚的方法』『デールの視聴覚教育』などがある。

◆ バラス・フレデリック・スキナー(Burrhus Frederic Skinner, 1904-1990)アメリカの心理学者,行動分析学の創始者。人間の学習行動,言語条件づけなどについて研究を進め,「オペラント条件づけ」(ある行動をした結果,環境がどう変化したか,を経験することで,環境に適応するような行動を学習すること)を唱えた。さらにティーチングマシンの開発によるプログラム学習などを利用した臨床技術,行動療法などで業績を残した。主な著書に『教授工学』『科学と人間の行動』などがある。

◆ ハーバート・マーシャル・マクルーハン(Herbert Marshall McLuhan, 1911-1980)カナダのメディア思想家,英文学者。メディアはすべて人間の身体の拡張であるとしたことや,「メディアはメッセージである」という言葉で知られる。カナダを中心とするメディア・リテラシー教育にも影響を与えた。主な著書に『グーテンベルグの銀河系』『メディア論-人間の拡張の諸相』

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付録:教育メディア人名抄録

などがある。

◆ ベンジャミン・ブルーム(Benjamin Samuel Bloom,1913-1999)アメリカの教育心理学者。教育の目標とする領域を認知・情意・運動に3つに分類,教授過程の具体的学習目標と達成基準を提示して,教育目標の分類学を推進した。完全習得学習(mastery learning)の理論を提唱したことでも知られている。主な著書に『教育評価法ハンドブック』『学習評価ハンドブック』などがある。

◆ ジェローム・シーモア・ブルーナー(Jerome Seymour Bruner, 1915 - )アメリカの教育心理学,認知心理学者。人の行動を「刺激に対する反応」として定式化する行動主義を排し,積極的な認知活動を重視する認知主義を主張した。発見学習,教科の構造化の提唱者である。主な著書に『教育の過程』『教育という文化』などがある。

◆ ロバート・M・ガニェ(Robert M. Gagne,1916-2002)アメリカの学習心理学者。学校や研修プログラムなどで行われる「意図的・目的的学習」にフォーカスして研究,学習を支援する授業構成を9つの教授事象としてまとめた。主な著書に『カリキュラムと授業の構成』『インストラクショナルデザインの原理』などがある。

◆ パウロ・フレイレ(Paulo Freire, 1921-1997)ブラジルの教育哲学者。「意識化」「問題解決型教育」などを唱え,抑圧構造の下で言葉を奪われ「沈黙の文化」に埋没されている被抑圧民衆が,識字と対話の共同作業によって文字を獲得し,文化と政治の主体に再生していく解放の理論をラテン・アメリカやアフリカで体系化し実践した。主な著書に『希望の教育学』『被抑圧者の教育学』などがある。

◆ イヴァン・イリッチ(Ivan Illich,1926-2002)ウィーン生まれの哲学者。自然科学,歴史,哲学,神学などを幅広く学び,世界各地で仕事をしながら現代産業社会を鋭く批判した。主な著書に,『脱学校の社会』『脱病院化社会』『生きる思想』などがある。

◆ シーモア・パパート(Seymour Papert,1928 - )南アフリカ出身のアメリカの数学者,計算機科学者,発達心理学者。ジャン・ピアジェの構成主義の研究をもとに,構築主義という独創的な学習法を考案。子どもが問題をよりよく考えたり解いたりできるツールとしてプログラミング言語 LOGOを開発した。主な著書に『マインドストーム̶子供,コンピューター,そして強力なアイデア』などがある。

◆ ドナルド・A・ショーン (Donald A.Schön,1930–1997)アメリカの組織心理学者。エール大学で哲学を学んだ後,産業問題に関する調査研究教育機関や,

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アメリカ商務省の応用技術研究所所長,MIT都市研究地域開発学科学科長などを務めた。専門職としての実践経験を基に,専門的知識のあり方について「省察的実践」を提唱した。主な著書に『専門家の知恵―反省的実践家は行為しながら考える』などがある。

◆ アラン・カーティス・ケイ(Alan Curtis Kay, 1940 - )アメリカの計算機科学者,教育者。複数でコンピューターを共有するのが当たり前だった時代に,パーソナルコンピューターという概念を提唱した。子どもたちのよりよい教育環境の開発に尽力しており,現在もライフワークとしてさまざまな活動に取り組んでいる。主な著書に『アラン・ケイ』などがある。

◆ ハワード・ガードナー (Howard Gardner,1943 -)アメリカの認知心理学者。知能を単一のものとせず,異なる方向性を持つ多元的なものだと考える理論(MI理論)を展開。知能を多元的に見て,お互いに補い合う教育活動の必要性があるとした。主な著書に『多元的知能の世界―MI理論の活用と可能性』などがある。

◆ レン・マスターマン (Len Masterman)イギリスのメディア教育研究者。1980年代にメディア・リテラシーの理論的枠組みを提示し,各国のメディア教育の進展にも影響を与えた。メディア・リテラシーの最終的な目標は,メディア社会を生きる人間の主体性の確立にあることを主張した。主な著書に『メディアを教える-クリティカルなアプローチへ』などがある。

教育メディア人名抄録の作成にあたっては,本書の執筆者でもある苫野一徳氏,小柳和喜雄氏の協力を得ました。