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12―――第31回 実践研究助成 研究課題 電子デジタル・ポートフォリオを用いた 保育の評価と家庭との連携 副題 学校名 東広島サムエル保育園 所在地 〒739-2125 広島県東広島市高屋町大字中島490-5 学級数 13 児童・生徒数 297名 職員数/会員数 63名 学校長 柏本 和子 研究代表者 柏本 和子 1.はじめに 少子化時代をむかえ幼稚園・保育所は、今後地域に開かれ たものとともに、保護者へも開かれた施設へという変容が期 待されている。これまで保護者は、自分の子どもの幼稚園・ 保育所での姿を、「連絡帳」や子どもの製作物で確認するこ とが多かった。ところが保育者にとって「連絡帳」は保護者 との連携を図る上で重要であるが労が多く、また保育者が幼 稚園・保育所で製作したものを保護者に見せたいと願っても、 家庭ではすべてを飾るには限界がある。 2.研究の目的 このような現状を踏まえ、両者の連携をさらに強化するた めに、電子デジタル・ポートフォリオを作成し負担を軽減し 情報共有を図ることを目的とする。近年、幼稚園・保育所は 利用者に対し、保育のアカウンタビリティ(説明義務)を果た すことが求められており、欧米ではポートフォリオがその目 的に適ったものとして広く利用されている。この意味におい ても本研究の果たす意義は大きいと考える。 3.研究の方法 まず、日常の保育場面をデジタルカメラで撮影し、保育記 録として保存する。そのデータを、保護者に公開することで 保育内容や子どもの姿を知ってもらい、情報の共有を図る。 また、それらのデータを個別に保存し、年度末に保護者に配 布する。 4.研究の経過 (1) 研究の環境構成 ①保育場面の公開 3歳児クラスの保育室前の廊下に、撮影した保育場面の写 真を掲示するスペースを確保し、保育場面をポートフォリオ で公開した。保護者は送迎時にその写真を見て、保育者や子 どもと保育について話し、情報を共有した。掲示の内容は、 行事のあった日の保育内容が中心となったが、絵の具遊びや プール遊び、食事場面など、日常生活の内容も適宜公開した。 (ポートフォリオの掲示スペース) ②子どもへのフィードバック ポートフォリオの掲示は、保護者への情報提供のみならず、 子どもたちへの日々の活動のフィードバックという役割も果 たした。自分たちの日々の活動が視覚的に示されることで、 関心が高まり、次の展開につながることが期待された。 実践研究助成 幼稚園

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12―――第31回 実践研究助成

研究課題

電子デジタル・ポートフォリオを用いた 保育の評価と家庭との連携

副題

学校名 東広島サムエル保育園

所在地 〒739-2125

広島県東広島市高屋町大字中島490-5

学級数 13

児童・生徒数 297名

職員数/会員数 63名

学校長 柏本 和子

研究代表者 柏本 和子

1.はじめに

少子化時代をむかえ幼稚園・保育所は、今後地域に開かれ

たものとともに、保護者へも開かれた施設へという変容が期

待されている。これまで保護者は、自分の子どもの幼稚園・

保育所での姿を、「連絡帳」や子どもの製作物で確認するこ

とが多かった。ところが保育者にとって「連絡帳」は保護者

との連携を図る上で重要であるが労が多く、また保育者が幼

稚園・保育所で製作したものを保護者に見せたいと願っても、

家庭ではすべてを飾るには限界がある。

2.研究の目的

このような現状を踏まえ、両者の連携をさらに強化するた

めに、電子デジタル・ポートフォリオを作成し負担を軽減し

情報共有を図ることを目的とする。近年、幼稚園・保育所は

利用者に対し、保育のアカウンタビリティ(説明義務)を果た

すことが求められており、欧米ではポートフォリオがその目

的に適ったものとして広く利用されている。この意味におい

ても本研究の果たす意義は大きいと考える。

3.研究の方法

まず、日常の保育場面をデジタルカメラで撮影し、保育記

録として保存する。そのデータを、保護者に公開することで

保育内容や子どもの姿を知ってもらい、情報の共有を図る。

また、それらのデータを個別に保存し、年度末に保護者に配

布する。

4.研究の経過

(1) 研究の環境構成

①保育場面の公開

3歳児クラスの保育室前の廊下に、撮影した保育場面の写

真を掲示するスペースを確保し、保育場面をポートフォリオ

で公開した。保護者は送迎時にその写真を見て、保育者や子

どもと保育について話し、情報を共有した。掲示の内容は、

行事のあった日の保育内容が中心となったが、絵の具遊びや

プール遊び、食事場面など、日常生活の内容も適宜公開した。

(ポートフォリオの掲示スペース)

②子どもへのフィードバック

ポートフォリオの掲示は、保護者への情報提供のみならず、

子どもたちへの日々の活動のフィードバックという役割も果

たした。自分たちの日々の活動が視覚的に示されることで、

関心が高まり、次の展開につながることが期待された。

実践研究助成

幼稚園

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第31回 実践研究助成―――13

幼稚園

(2) 実践報告

①年間を通じての情報公開

お散歩、プール遊び、焼き芋、節分など、保護者の参加し

ない行事を中心に、掲示板に保育場面を写真で公開した。時

には日常の保育場面を取り入れながら、年間を通じて定期的

に(およそ月2回程度)掲示板の情報を更新した。従来の連絡

帳による家庭との情報共有と並行するかたちでの実践であっ

た。デジタル・ポートフォリオの公開により、連絡帳では、

時間などの制約により、伝えることのできない多くの情報の

提供が可能となった。実際に、連絡帳にも、「どのように遊

んでいるのかがよくわかる」「子どもの話からだけではわか

らなかった様子が伝わった」など声が寄せられた。

(ブロックの製作の記録)

また、今回の研究を実践した3歳児の制作活動は、作品を

完成させるよりも、制作する過程を楽しむ特色があった。そ

のため、保護者は作品から子どもの活動を確認することが困

難であった。このような課題も、ポートフォリオを用いるこ

とで、制作活動そのものを保護者が視覚的に確認することが

可能となり、また、作品が完成されなくても、記録として蓄

積することができた。加えて、これまで粘土やブロックとい

った作品を完成させても、部屋の片付け時に作品を壊さざる

を得なかったものも、記録として残していくことが可能とな

り、これらの情報も、保護者と共有することができた。

(絵の具遊びの記録)

しかし、実践をすすめる中で、保育を撮影する際に、保育

者は撮影のために手を止めなければならないことによって生

ずる問題点を指摘する保育者があった。すなわち、子どもと

保育者が1対1で接しているような場面において、二者の間

にカメラが介入することで、その空間が失われてしまう危険

がある。そのような空間は、子どもとの信頼関係の構築にお

いて大変重要であるため、実際に保育を行っている保育者が、

保育の手を止めて写真を撮影する必要性について、園内で検

討を行う必要があると考えられた。また、蓄積されたデータ

の処理(掲示物の作成、個別のポートフォリオの作成)にかけ

る時間の確保が、保育者には求められることとなった。少な

い手間で多くの情報を提供することが可能であった今回の実

践であるが、従来の保育に加えての労となり、それだけ保育

者の負担が増える結果となってしまった。保育所では特に、

勤務時間がそのまま保育時間となり、事務仕事等をする時間

を確保することが困難である。そのような限られた時間の中

で、従来の連絡帳の記入と平行して行ったポートフォリオの

実施は、保育者にとって大きな負担となってしまった。より

多くの情報を保護者と共有すること、保育者の負担を軽減す

ることが今回の狙いとなっていたが、負担の軽減の点におい

ては、改善することができなかった。これは、画像の処理な

どのデジタル・ポートフォリオに必要とされるスキルを身に

つけている保育者が、園内で限られていたことにも原因があ

る。

ポートフォリオによる保育場面の公開について、年度末に

保護者に感想をたずねた。すると、「これまで想像しかでき

なかった子どもの姿を見ることができてよかった」「園で何

をしているのか、よくわかった」と情報を得られたことを喜

ぶ声が多く寄せられた。加えて、行事だけでなく、食事や午

睡といった日常生活も見てみたいという期待も寄せられた。

保護者の求める情報としては、保育内容を求める声と、我が

子の生活する姿を求める声とが挙げられた。感想にも、「保

育の内容を知ることができるのは嬉しいが、写真の中に我が

子がないとがっかりした。」「撮影されている子どもが偏って

いるように感じられる。」など、自分の子どもの姿を見るこ

とを望む声が挙がっていた。

ポートフォリオによる情報公開を望む声が多くあった反面、

その作成に要する労を気にかける保護者もあった。中には、

「情報を得られるのはありがたいが、(掲示物の)作成に時間

をかけるよりも、子どもたちと過ごすことに時間をかけてほ

しい」という声も寄せられた。さらに、「1日の流れを写真

で公開してもらえば、お迎えの時間を配慮できる」「年度は

じめには、担任紹介などもしてほしい」など、保育場面の公

開や記録の蓄積だけでない、情報公開への希望も挙がった。

これらの意見は、保育園と保護者との情報共有を検討する上

での、新たな展望となった。

②「色あつめ」の実践

11月、3歳児クラスで、「色あつめ」の活動を行った。子

どもたちはその日のテーマの色を部屋の中から探し、持ち寄

った。それらを写真で撮影し、すぐに部屋に掲示した。実践

後すぐに視覚的にフィードバックでき、日々蓄積していくこ

とができるのは、デジタル・ポートフォリオの利点であった。

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14―――第31回 実践研究助成

子どもたちは日々増えていく「色」の写真に関心を寄せ、次

の活動への期待も高まった。2週間の活動を終えた後、部屋

に掲示されていた「色」の写真は、1冊の本にまとめられ、

子どもたちが自由に見ることができるようにした。本として

まとめられた自分たちの活動により、子どもたちは「色」に

関してのみならず、その色を表す文字、友人との意見の交換

など、さまざまな認識を深めることができた。

(色集めの絵本)

5.研究の成果と今後の課題

保育場面の公開は、保護者からの評判もよく、今後も継続

することを望む声が多く挙がった。しかし、情報を提供する

保育者の側に、画像処理等行うことのできるスキルが身につ

けられていない場合も多く、特定の保育者にのみ可能な実践

となっていた。保育者がより容易に情報公開をしていくこと

ができるスキルを身につけること、またより手軽に行うこと

のできる方法を模索することで、継続が可能となるのではな

いかと考える。実際、画像から得られる情報は多いことが明

らかとなった。従来では保護者に伝えることが困難であった、

制作活動場面やさまざまな製作物、子どものありのままの表

情などの情報提供が可能であることが、今回の実践で確認さ

れた。この、有効であるが継続的な実践が困難となっている

状況の改善が望まれる。

また、写真を撮影することによって、子どもと共有してい

る時間や空間に支障が出ることへの懸念が課題として挙げら

れた。現在は、子どもたちの姿を、メモをとることで随時記

録している。ある程度記憶しておいて、手が空いた時に行え

ばよいメモと、その場面の撮影が求められる写真とで、記録

の手法に差があることが確認された。また、情報量としては、

メモよりも写真の方が多いことも確認されている。特に写真

は、保育者が保育を振り返る上で、その時には気がつくこと

ができなかった多くの情報を得ることもできた。メモ、写真

撮影という手法を、いずれの長所も活かしつつ、どう使い分

けていくのかが課題となる。