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1 ポートフォリオ・バランス・アプローチ (テキスト第5) 1.「リスク回避的」な投資家と「資産の不完全代替」 補論:期待効用仮説とリスクプレミアム 2.リスク・プレミアムを含む為替レート・モデル 補論:一国の資金循環(マネーフロー) 3.ポートフォリオ・バランス・アプローチ 4.まとめ

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1

Ⅴ ポートフォリオ・バランス・アプローチ (テキスト第5章)

1.「リスク回避的」な投資家と「資産の不完全代替」 補論:期待効用仮説とリスクプレミアム 2.リスク・プレミアムを含む為替レート・モデル 補論:一国の資金循環(マネーフロー) 3.ポートフォリオ・バランス・アプローチ 4.まとめ

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2

投資家にとって内外資産が完全に代替的であるとき、 金利平価条件が成立する。

*eS Si iS−

= +

・左辺>右辺⇒投資家は、自国通貨建て資産を保有。 ・左辺<右辺⇒投資家は、外国通貨建て資産を保有。 ▶内外資産の予想収益率の水準だけで投資を決める場合、 投資家はリスク中立的(risk neutral)であるという。 ▶リスク中立的な投資家にとって、予想収益率が同じ水準である ならば、内外資産は無差別(indifferent)であり、 これが資産の完全代替(perfect substitutability)の意味である。

資産の完全代替(perfect substitutability) =リスク中立的(risk neutral)

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3

資産の不完全代替(imperfect substitutability) =リスク回避的(risk averse)

▶これに対し、予想収益率が同じであるならば、よりリスクの小さい資産を保有しようとする場合、投資家はリスク回避的(risk averse) ▶言いかえれば、リスク回避的な投資家は、リスクの高い資産を保有する場合、それに見合ったリスクプレミアム(risk premium)を要求。 ▶このとき、予想収益率が同じ水準であっても、投資家にとって内外資産は無差別ではなく、これが資産の不完全代替(imperfect substitutability)の意味である。

この場合、RPをリスクプレミアムとすると、UIPは成立せず、外国為替市場の均衡条件は、以下の表される

*eS Si i RPS−

= + +

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4

期待効用仮説 (expected utility hypothesis) by フォン=ノイマン & モルゲンシュテルン

状態1(不況)と状態2(好況)の2つの状態を考え、

状態1ではα1の確率で所得x1

状態2ではα2の確率で所得x2

が得られるとする(ただし、α1+α2=0, x1<x2)。

このとき、状態1および状態2から得られる効用の期待値 Eu(x)は、

1 21 2( ) ( )( ) u x u xEu x α α= +

他方、状態1および状態2から得られる所得の期待値 Ex は、

1 1 2 2Ex x xα α= +

と表され、この所得の期待値から得られる効用を u(Ex) と表す。 この効用の期待値Eu(x)と、期待値の効用u(Ex)の大小関係から、

個人のリスクに対する態度は、以下の3つに分類される。

⇒点3

⇒点4

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5

1 0 x

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6

(a) リスク回避的(risk averse) 限界効用が逓減=効用関数が上に凸な曲線(凹関数)

点3(効用の期待値):Eu(x) – 点1で示されているu(x1)と点2で示されているu(x2)の期待値。 – 得られるかどうかが不確実な所得(x1, x2)から得られる不確実な(u(x1), u(x2))の期待値。

点4(期待値の効用) :u(Ex) – 期待所得Exから得られる効用。期待所得Exが確実に得られるとしたときの効用がu(Ex)

Eu(x)<u(Ex) リスク回避的な個人は、所得に不確実性がない方を好む。

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リスクプレミアム • 効用の期待値(不確実な効用)Eu(x) と等しい効用をもたらす

所得水準x0とすると、 RP=Ex-x0 をリスクプレミアム(risk premium)定義する。 • リスク回避的な個人は、不確実な効用をもたらす所得(x0)に

RPだけのリスクプレミアムがつけられれば、確実な期待所得(Ex)から得られる効用と同じ満足度が得られる。

• このようなリスク回避的な投資家にとって、内外資産は完全には代替的なものではなく、不確実な効用をもたらす収益に対しては、(例えば為替リスクに対して)リスクプレミアムが要求されることになる。

• つまり、リスク回避的な投資家を仮定すれば、異なった通貨建ての資産の不完全代替性(imperfect asset substitutability)を仮定しなければならない。

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(b) リスク中立的(risk neutral) 限界効用が一定=効用関数が右上がりの直線

点3(効用の期待値):Eu(x) 点4(期待値の効用) :u(Ex) Eu(x)> u(Ex) • リスク中立的(risk neutral)な個人は、同じ期待所得が得られるな

らば、リスクは問わない。リスク中立的な個人のリスクプレミアムはゼロ。

• UIPで用いられる予想為替レートは直物レートであり、当初の予想為替レートと、満期日に判明する実際の直物レートは、乖離する可能性がある。こうした為替リスクにもかかわらず、UIPが成立しているということは、投資家が為替リスクを気にせず、投資家にとって異なる通貨建て資産無差別で、完全に代替的なものである。

• つまり、リスク中立的な投資家を仮定することは、異なった通貨建ての資産の完全代替性(perfect asset substitutability)を仮定していることと同じである。

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(c) リスク愛好的(risk loving) 限界効用が逓増=効用関数が下に凸な曲線(凸関数)

点3(効用の期待値):Eu(x) 点4(期待値の効用) :u(Ex)

Eu(x)= u(Ex) • 確実な所得よりも不確実な所得を好む態度をリスク愛好的(risk loving)という。

• リスク愛好的な個人のリスクプレミアム RP=Ex-x0はマイナスの値をとる。つまり、RPだけの参加料を支払ってでも、勝ち(x2)負け(x1)のギャンブルに参加し、そのギャンブルから得られる効用に賭ける。

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「資産の不完全代替」とリスクプレミアム •カバーなし金利平価

では、自国資産と外国資産が、リスクの面において無差別⇒期待収益率のみが異なる完全に代替的な資産を仮定。 •現実には、自国資産と外国資産を保有することに対するリスクが異なる⇒不完全代替 •投資家が、危険資産を保有するためには、その期待収益率だけでなく、安全資産を保有する場合より、リスク・プレミアムρだけ高くなくてはならない ⇒リスク・プレミアムρを、自国通貨建て債券と外国通貨建て債券の期待収益率の差と定義。 *( )

eS Si iS

ρ −= − +

SSEii −

+= *

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2.リスク・プレミアムを含む為替レート・モデル • しかし、自国債券と外国債券が不完全代替であるという仮定を導入すると、「MFモデルの結論」および「トリレンマ命題」は修正される。

• B:自国通貨建ての国債発行残高 • A:中央銀行が保有する自国国債 • B-A:民間部門が保有する自国国債 • この式は、投資家にとって自国債券と外国債券は完全な代替物ではなく、自国債券を保有することに対するリスク・プレミアムρは、民間部門が保有する自国国債 (B-A)が増加するほど上昇し、中央銀行が保有する自国国債 (A)が増加するほど低下することを意味している。

*

'

( , )

( ), 0

M L i YP

E Si iS

B A

ρ

ρ ρ ρ

=

−= + +

= −

               ①

             ②

ただし、     >      ③

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③式について •自国債券に対する需要Bdは、自国債券と外国債券の 期待収益率格差(=リスクプレミアムρ)の増加関数 ⇒投資家は、自国債券に対するリスク・プレミアムが上昇すると、自国債券への需要を増やす。

•自国債券の供給Bsを、簡単化のため国債のみについて考える。政府による国債発行残高Bから、中央銀行が保有している国債Aを引いた、B-Aが市場に供給される国債。

* ( )d d dE SB B i i BS

ρ− = − − =

sB B A= −

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リスク・プレミアム(ρ)

自国債券の需要と供給(Bd, Bs)

自国債券の需給均衡とリスク・プレミアム

Bs1 Bs2 Bd=Bd(ρ)

B-A1 B-A2 (A2<A1)

ρ1

ρ2

1

2

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③式について(cont.) • したがって、均衡(Bd=Bs)においては、以下が成り立っていなければならない。 • ここで、国債の供給B-Aが増加すれば、リスク・プレミアムρが上昇して、国債への需要Bdが増加する。すなわち、③式の関係が導かれる。

• ③式は、自国債券を保有することに対して投資家が要求するリスク・プレミアムρは、 民間部門に供給される国債B-Aが増加するほど上昇 中央銀行が保有する自国国債 Aが増加するほど低下 することを意味している。 • 図は、縦軸に、自国債券に対するリスク・プレミアムρ、横軸に、自国債券の需要と供給Bd、

Bsをとり、③式の関係を図示したもの。 ⇒債券需要Bdは、リスク・プレミアムρの増加関数として右上がり ⇒債券供給Bsは、外生的に与えられるものとして垂直線 • 中央銀行が保有する国内資産がA1のとき、点1で債券市場は均衡し、そのときのリスク・プレミアムはρ1

⇒公開市場操作(売りオペ) を通じて、中央銀行が保有する国内資産をA2に減少させると、 債券市場の均衡点は点2に移り、リスク・プレミアムはρ2に上昇 ⇒すなわち、民間部門が市場で消化しなければならない国債残高が増えると、投資家は 高いリスク・プレミアムを要求する。

ABBd −=)(ρ

'( ), 0B Aρ ρ ρ= −    >         ③

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補論:一国の資金循環(マネーフロー)

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固定相場制の下での金融政策(リスク・プレミアムがある場合)

2* E Si

Sρ−

+ +

*1

E SiS

ρ−+ +

2MP

予想収益率(円ベース)

為替レート(S)

貨幣供給

貨幣需要

1’

1

2’

2

3

1MP

1i2i

1S

2S

リスク・プレミアムの低下(ρ1> ρ2)

マネーサプライの増加(M1< M2)=買いオペ

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固定相場制の下での金融政策(リスク・プレミアムがある場合)

•貨幣供給の増加による金融緩和を行った場合、中央銀行が保有する資産構成についてみれば、「自国債券買い」のオペレーションによって、自国債券(A)が増加するので、リスク・プレミアムρは低下 (ρ1>ρ2)。

•外国資産の収益率は左方にシフトすることによって、外国為替市場の均衡点は、1から3へ移り、為替レートはS1で固定されたまま、金利をi1からi2へ下げることができる。

•したがって、「為替レート政策」(固定相場制の維持)と「金融政策」は独立に運用することができ、「①為替レートの固定、②金融政策の独立性、③資本移動の自由」という3つの政策目標は全てが達成できる(トリレンマ命題の否定)。

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不胎化介入(sterilized intervention) •中央銀行による外為市場への介入が貨幣市場に及ぼす影響を相殺するため、外国資産の売り(買い)と国内資産の買い(売り)という反対取引を同時に行う政策。

•例えば、 外貨売り(自国通貨買い)介入+買いオペレーション 外貨買い(自国通貨売り)介入+売りオペレーション によって、貨幣供給を一定に保つ政策。

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固定相場制の下での金融政策(不胎化介入の有効性)

*1

E SiS

ρ−+ +

2* E Si

Sρ−

+ +

2MP

予想収益率(円ベース)

為替レート(S)

貨幣供給

貨幣需要

1’

2’

3

1MP

1i2i

1S

リスク・プレミアムの上昇(ρ1< ρ2)

市場介入(自国通貨売り) ⇒不胎化(自国債券売り)

1

2 2S

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• 固定相場制下で自国通貨の切下げを狙った中央銀行による「自国通貨売り」の市場介入

⇒増加したマネー・サプライを相殺するため、「自国債券売り」の オペレーション(不胎化介入) ⇒マネー・サプライがもとの水準に戻る ⇒固定相場制下の不胎化介入は効果がない • しかし、不胎化によってマネー・サプライに変化がなくても、中央

銀行が保有する資産構成についてみれば、「自国債券売り」のオペレーションによって自国債券(A)が減少しているので、リスク・プレミアムρが上昇している(ρ1<ρ2)。

• したがって、外国資産の収益率は右上方にシフトし、外国為替市場の均衡点は1から3へ移り、為替レートはS1からS2へと切り下げられる。

• すなわち、 「為替レート政策」(為替レートの切り下げ)と「金融政策」(一定の貨幣供給量)は独立に運用することができる。

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3.ポートフォリオ・バランス・アプローチ •投資家は、保有する金融資産の総額Wを、 自国通貨M 国内債券B(自国通貨建て) 外国債券F(外国通貨建て) の形で、分散して保有するものとする。 [注] •マネタリー・アプローチでは、自国資産と外国資産の完全代替という暗黙の仮定があったので、貨幣市場の均衡条件(及び外為市場の均衡条件[i=i*+μ])だけから分析。 •ポートフォリオ・バランス・アプローチでは、この仮定を緩めて、自国資産と外国資産は完全には代替的ではないと考えるので、貨幣市場・自国資産・外国資産それぞれに均衡条件を分析(各市場の変数として、 i, i*+μ [i≠i*+μ]を考える) 。

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3.ポートフォリオ・バランス・アプローチ(cont.) 予算制約式 3つの資産市場の需給均衡条件

符号条件 貨幣需要(Md) : i↑⇒Md↓, i*

+μ↑⇒Md↓, W↑⇒Md↑ 国内債券需要(Bd) : i↑⇒Bd↑, i* +μ↑⇒Bd↓, W↑⇒Bd↑ 外国債券需要(Fd) : i↑⇒Fd↓, i* +μ↑⇒Fd↑, W↑⇒Fd↑

      ⑦ 

      ⑥

     ⑤

),,(

),,(

),,(

*

*

*

++−

+−+

+−−

+=

+=

+=

WiiFF

WiiBB

WiiMM

d

d

d

µ

µ

µ

( )eS SS

µ −=ただし、   期待減価率

       ④  SFBMW ++=

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24

4.ポートフォリオ・バランス・アプローチ(cont.) ④式は恒等的に成立 ⇒⑤~⑦式のうちの2つが成立すれば、残りの1つは自動的に成立(ワルラス法則) ⇒独立した2つの式から、自国利子率(i)と為替レート(S)が決定 (外国利子率(i*)と期待為替レート(E)は外生変数) MM曲線とBB曲線 MM曲線:貨幣市場を均衡させる自国利子率(i)と為替レート(S)の組み合わせ (右上がり) BB曲線:国内債券市場を均衡させる自国利子率(i)と為替レート(S)の組み合わせ (右下がり) 為替レート(S)↑(減価)⇒自国民の保有する外国債券の自国通貨建て価値(SF)↑ ⇒総資産額(W)↑ ①⇒貨幣需要(Md)↑⇒貨幣市場の超過需要⇒利子率(i)↑ ⇒均衡回復(MM曲線右上がり) ②⇒国内債券需要(Bd)↑(資産効果)⇒自国債券市場の超過需要⇒利子率(i)↓ ⇒均衡回復(BB曲線右下がり)

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25

固定相場制の下での金融政策(ポートフォリオ・バランス・モデル)

B

B

M

M

M’

M’ B’

B’

S

i

S1

i1 i2

1 2

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26

固定相場制の下での金融政策(ポートフォリオ・バランス・モデル)

•中央銀行による買いオペ⇒貨幣供給量の増加(M↑) ⇒MM曲線の左方シフト (∵⑤式においてM↑⇒貨幣の超過供給 ⇒一定のSに対してi↓⇒Md↑) •中央銀行による買いオペ⇒自国債券の供給の減少(B↓) ⇒BB曲線の左方シフト (∵⑥式においてB↓⇒自国債券の超過需要 ⇒一定のSに対してi↓⇒Bd↓) •したがって、「為替レート政策」(固定相場制の維持)と「金融政策」は独立に運用することができ、「①為替レートの固定、②金融政策の独立性、③資本移動の自由」という3つの政策目標は全てが達成できる(トリレンマ命題の否定)。

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不胎化介入(sterilized intervention)

B

B

M

M

M’

M’ B’

B’

S

i

S2

i3 i2

3 2

S1

i1

市場介入 (自国通貨売り)

1

不胎化 (自国債券売り)

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• 「市場介入」(自国通貨売り介入) ⇒MM曲線左方シフト⇒新しい均衡点は1→2 ⇒利子率はi1→ i2へ下落 ⇒為替レートはS1→S2へ切り下げ。 • 「不胎化」(自国債券売り) ⇒自国債券と外国債券のポートフォリオ構成を変化

⇒「自国通貨売り→外国債券の供給の減少」 +「売りオペ→自国債券の供給の増加」 ⇒自国債券の供給の増加⇒BB曲線右方シフト ⇒均衡点は2→3⇒利子率はi2→ i3へ上昇 ⇒為替レートはS2へ切り下げ。

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ま と め 1.資産の不完全代替を前提とする「ポートフォリオ・バランス・アプローチ」では、金融政策と為替政策を独立に運営されることが示され、固定相場制下での不胎化介入や金融政策の有効性が結論づけられる。

2.確かに、理論的に「資産の代替性」と「資本の移動性」とは異なる概念であるが、多くの実証研究では、資本規制がない場合に内外資産の代替性が高いこと、つまり資本移動が自由になるほど、内外資産の代替性も高まることを示している。これが事実なら、分析手段としてのポートフォリオ・バランス・アプローチは必要なく、より単純なマネタリー・アプローチで十分なことになる(高木[2006],163頁-167頁)。

3.他方、多くの実証研究では、マネタリー・モデルが依拠するUIP仮説は必ずしも支持されず、それを棄却している。もしも、UIP仮説が棄却されるべきであるという推論が、リスク・プレミアムの存在を反映しているなら、資産の不完全代替に依拠するポートフォリオ・バランス・モデルは支持されることになる。

4.要するに、「資本の移動性」と「資産の代替性」の区別や、両者を区別した上で金融政策と為替政策の独立性は維持できるかという問題は、理論的にも実証的にも解決がついていない問題である。

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30

「資本の完全移動」の仮定とは? (Perfect capital mobility)

● Traditional Flow Approach(例えば、MFモデル) ⇒「小国の仮定」=「資本移動の利子弾力性が∞」 ● Modern Asset Approach 1.価格面からの条件 ⇒カバー付き金利平価(CIP)が成立 2.数量面からの条件 ⇒Feldstein=Horioka(FH)の条件:資本移動が自由化するにつ

れ、国内貯蓄と国内投資は無相関になるはず 3. 制度的な条件 ⇒capital account convertibility (vs. current account convertibility) [後述]

*iiS

SF−=

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31

「資本の完全移動」=CIPの成立の典型例(日米間のCIP) (高木信二『国際金融(第3版)』日本評論社,2006,117頁)

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為替レート・モデルの分類と仮定

Exchange Rate Determination

Traditional Flow Approach Modern Asset Approach

Perfect capital mobility CIP (i - i* = d)

Portfolio-Balance Approach Imperfect asset sustitutability (ρ≠0)

Monetary Approach Perfect asset sustitutability (ρ=0)

UIP (I - i* =μ)

Flexible-Price Monetary Model (Monetarist model)

PPP + Fisher Equation

Sticky-Price Monetary Model (Overshooting/Dornbusch Model)

Definitions i - i* = interest differential d = forward discount μ= expected depreciation ρ= risk premium (d - μ) CIP = Covered Interest Parity UIP = Uncovered Interest Parity PPP = Purchasing Power Parity

Frankel, Jeffry A. (1983), “Monetary and Portfolio-Balance Models of Exchange Rate Determination”, in Bhandari Jagdeep S., and Bluford H. Putnam (eds.), Economic Interdependence and Flexible Exchange Rates, The MIT Press (Cambridge, Mass).pp.84-115.