38
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自治体シンクタンクにおけるパートナーシップとは …...A New Role of Local Governments’ “Think Tank” 加藤恵正 (財)21世紀ヒューマンケア研究機構理事

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Page 1: 自治体シンクタンクにおけるパートナーシップとは …...A New Role of Local Governments’ “Think Tank” 加藤恵正 (財)21世紀ヒューマンケア研究機構理事

政策研究セミナー

自治体シンクタンクにおけるパートナーシップとは 日本計画行政学会第27回全国大会ワークショップ

報告書

横須賀市都市政策研究所

横須賀市・三浦市協働研究ワー

MMMaaakkkiiinnnggg CCCooollllllaaabbbooorrraaatttiiiooonnn WWWooorrrkkk

iiinnn LLLooocccaaalll GGGooovvveeerrrnnnmmmeeennntttsss’’’ “““TTThhhiiinnnkkk TTTaaannnkkksss”””

Page 2: 自治体シンクタンクにおけるパートナーシップとは …...A New Role of Local Governments’ “Think Tank” 加藤恵正 (財)21世紀ヒューマンケア研究機構理事

日本計画行政学会第27回全国大会ワークショップB

「自治体シンクタンクにおけるパートナーシップとは」

日 時:2004年9月19日(日)9:45~12:15

場 所:慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)

参加者:30名

座 長 金安 岩男(横須賀市都市政策研究所長/慶應義塾大学環境情報学部教授)

報告者 1.「自治体シンクタンクの新たな役割」

加藤恵正((財)21世紀ヒューマンケア研究機構地域政策研究所長/

兵庫県立大学経済経営研究所教授・所長)

2.「自治体シンクタンクの可能性」

竹内 英樹(横須賀市都市政策研究所副所長)

3.「行政経営の司令塔と自治体シンクタンクの関係について」

木村 乃(三浦市政策経営室長)

4.「自治体シンクタンクと民間シンクタンクのパートナーシップについて」

大塚 敬(UFJ総合研究所主任研究員)

Page 3: 自治体シンクタンクにおけるパートナーシップとは …...A New Role of Local Governments’ “Think Tank” 加藤恵正 (財)21世紀ヒューマンケア研究機構理事

- i -

目 次

はじめに .....................................................................1

第Ⅰ部 個別報告

1 自治体シンクタンクの新たな役割 ...........................................4

(1)転換期の自治体シンクタンク .............................................4

(2)自治体政策形成とシンクタンク:求められる機能と役割 .....................5

(3)自治体シンクタンクの「研究」とは何か? .................................6

(4)自治体シンクタンクのマネジメント:マルチ・ステイクホルダー型組織へ ......6

(5)地域イノベーション・システムと自治体シンクタンク .......................7

2 自治体シンクタンクの可能性 ...............................................8

(1)自治体シンクタンク創設の背景 ...........................................8

(2)自治体シンクタンクの今 .................................................9

(3)自治体シンクタンクの課題 ..............................................11

(4)他のシンクタンクとのパートナーシップ ..................................12

3 行政経営の指令塔と自治体シンクタンクの関係について ......................13

(1)外部機関としての民間シンクタンクに行政が期待していたこと ..............13

(2)シンクタンクとしての機能を併せ持つ行政経営の指令塔「政策経営室」 ......13

(3)政策経営室」と外部有識者からなる会議体としての「みうら政策研究所」

との役割分担..........................................................14

(4)職員とシンクタンクへの意識 ~職員と専門委員のパートナーシップ~ ......15

4 自治体シンクタンクと民間シンクタンクのパートナーシップについて ..........16

(1)はじめに ..............................................................16

(2)自治体シンクタンクの特性と課題 ........................................16

(3)民間シンクタンクとのパートナーシップのメリット ........................17

(4)民間シンクタンクとのパートナーシップの効果を高めるために ..............18

(5)今後の課題 ............................................................19

第Ⅱ部 パネルディスカッション

1 座長より問題提起 ........................................................22

(1)共通質問:自治体シンクタンクについて ..................................22

(2)個別質疑 ..............................................................25

① 出資者に対する成果について(金安→加藤) ..............................25

② 自治体職員の研究手法確立方法について(金安→竹内) ....................25

③ 会議体の自治体シンクタンクの今後について(金安→木村) ................26

④ 自治体シンクタンクと民間シンクタンクの競合について(金安→大塚) ......27

Page 4: 自治体シンクタンクにおけるパートナーシップとは …...A New Role of Local Governments’ “Think Tank” 加藤恵正 (財)21世紀ヒューマンケア研究機構理事

- ii -

2 フロアトーク ............................................................29

(1)質問1:出資者からの要望及び組織変遷に伴う収入の変化について ..........29

(2)質問2:金・情報・人材、及び情報共有方法について ......................29

(3)質問3:市民、地域住民とのパートナーシップについて ....................31

おわりに ....................................................................33

Page 5: 自治体シンクタンクにおけるパートナーシップとは …...A New Role of Local Governments’ “Think Tank” 加藤恵正 (財)21世紀ヒューマンケア研究機構理事

1

はじめに

本稿は、2004年9月 18日、19日に開催された日本計画行政学会第 27回全国大会に

おいて、「自治体シンクタンクにおけるパートナーシップとは」というテーマで行われ

たワークショップの概要を報告するものである。本ワークショップは、自治体シンク

タンクにおけるパートナーシップ(協働)のあり方や効果を検証することを目的とし

ている。

2000年4月に地方分権一括法が施行されたことに伴ない、地方自治体は自らの判断

と責任の下に地域の実情に沿った行政を運営していくことが求められており、旧来の

型にはまった業務知識では多様化する市民ニーズに対応できなくなってきている。そ

こで、より深く、新しい技術やマネジメント手法を駆使して対応していく必要がある

のである。このような状況において、地方自治体は幅広い政策立案機能が必要となる

ことから、政策立案を行うためのシステムづくりを求められているのである。

自治体の政策立案機能を強化する一つの手法として、自治体シンクタンクが注目さ

れている。自治体シンクタンクとは、「一つの自治体と密接に関係を持つ政策研究機関

(シンクタンク)」(牧瀬・立石 2003)と定義されている。「密接な関係」には、自治

体内に設置されるシンクタンクも含まれており、近年全国で自治体に設置されるシン

クタンクの設立が相次いでいる。以前、革新自治体と呼ばれる自治体においてシンク

タンクが設置された経緯はあるが、その動きとは異なり、現在全国各自治体において

シンクタンクの設立が行われている。

神奈川県を例にとると、2000年に小田原市において政策総合研究所が設立されたの

をはじめ、相模原市、三浦市などで自治体シンクタンクが設立されている。横須賀市

においても、2002年4月に都市政策研究所を設立した。

また、自治体シンクタンクの設置形態としては、財団のように外部に設置される場

合や、第3セクターとして設置される場合、自治体内の組織内に部署として設置され

ている場合、などがある。

このように、自治体シンクタンクの設立が相次いでいるが、研究に対するノウハウが

ないことや、政策立案に対する学術的観点の確保などを考慮すると、行政の職員だけ

で政策研究を行うことは困難である。この問題に対する一つの対処法として、自治体

シンクタンクが他の機関や団体とパートナーシップにより研究を行うことが考えられ

る。

例えば、横須賀市都市政策研究所では、この「パートナーシップ」という点に関し

て、所長に慶應義塾大学環境情報学部より金安教授を迎えていることをはじめとして、

市民や他の自治体など、市役所以外の団体・機関等とのパートナーシップ(協働)に

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2

よる研究を進めている。

過去2年間における横須賀市都市政策研究所と他の団体や機関等との協働実績とし

ては、市民参画による(仮称)まちづくり基本条例研究会の運営を行い、市民との協

働研究を行ったことや、民間シンクタンクと国際教育特区に関する研究を行ったこと

などが挙げられる。また、大学からのインターンシップの受入や、研究員の大学院へ

の派遣といった人材面での協働も行っている。その他、他自治体からの職員の受入な

ど、多岐にわたる協働を実践している。

そこで、本ワークショップでは、日頃から自治体シンクタンクと密接に関係してい

るゲストを招き、それぞれの立場からの報告を行い、パネルディスカッション形式で

自治体シンクタンクにおける協働のあり方や効果などの検証を行った。今後、これを

契機にこれからの自治体のありかたや、地域のありかた、研究と実践のありかたをひ

ろく考える機会となれば望ましい。

Page 7: 自治体シンクタンクにおけるパートナーシップとは …...A New Role of Local Governments’ “Think Tank” 加藤恵正 (財)21世紀ヒューマンケア研究機構理事

3

第Ⅰ部 個別報告

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4

1 自治体シンクタンクの新たな役割 A New Role of Local Governments’ “Think Tank”

加藤恵正 (財)21世紀ヒューマンケア研究機構理事 地域政策研究所所長/

兵庫県立大学 経済経営研究所教授・所長

(1)転換期の自治体シンクタンク

(財)21世紀ヒューマンケア研究機機構

(以下研究機構)は、1972年に(財)21世紀

兵庫創造協会として設立されたことが、現在

のシンクタンクとしての最初の姿である。設

立に関する直接の契機は、中国自動車道の建

設に際し、地域整備のあり方を様々な視点か

ら議論することを目的に設立された。

1983年には調査研究部という形で調査研

究部門が独立し、翌 1984年に当時社会問題化していた家庭の問題について研究する研

究所が独立した。1992年には調査研究部そのものが地域政策研究所として分離独立し、

さらに、やや遅きに失したかもしれないが、高齢化社会に対応するため、長寿社会研

究機構が設置され、機構内部に長寿社会研究所が設置された。このような経緯を考え

ると、その時々の問題に対応するため、様々な研究所が設置されてきた、ともいえる。

そして昨年、地域政策研究所、家庭問題研究所、長寿社会研究所を統合する形で、

研究機構が設立された。現在、こうした様々な研究所と心のケア研究する研究所で成

り立っている。心のケアに関する研究所は、阪神淡路大震災の PTSD(心的外傷後スト

レス障害)が大きな課題として現在も存続しており、その専門の医療施設研究所とし

て設立されている。この施設は最近オープンし、精神科医を含めて数十人規模で、臨

床を含めて PTSDを専門とする医療施設と

しては日本で唯一である。

地域政策研究所研究員は9人、長寿社会

研究所研究員は2人、研究所という規模と

しては小さいとも言えるが、形式上このよ

うな形を取っている。また、研究機構は兵

庫県の外郭団体であるため、兵庫県のイベ

ントを主催したり、阪神淡路大震災に関わ

る事業に従事しているメンバーもいる。

3

1-2 転換期の自治体シンクタンク

自治体シンクタンクの再編?! (財)21世紀ヒューマンケア研究機構の

場合・1972(財)21世紀ひょうご創造協会・1983 調査研究部設置・1984 家庭問題研究所設置・1992 調査研究部から地域政策研究所設

置へ・1992 (財)長寿社会研究機構設置・2003 (財)21世紀ヒューマンケア研究機構

へ統合

4

21世紀ヒューマンケア研究機構

地域政策研究所 9名

長寿社会研究所 2名

家庭問題研究所 6名

こころのケア研究所(PTSD医療施設)

総務・調査部   20名(震災復興事業等)

基本財産 28億円(兵庫県20億円,市町3億円,社会システム研究所2.9億円他)

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5

(2)自治体政策形成とシンクタンク:求められる機能と役割

自治体政策形成とシンクタンクの関係に

ついて、求められる機能と役割は三点ある

と考えられる。

一点目は、政策策定基礎調査研究と提案

である。研究所の基本形態は、非常に分か

り易いワンウェイ型の議論をする場ではな

く、双方向型の議論を行う拠点として運営

している。

二点目は、社会実験政策の「提案」「実験」

と「評価」の場である。双方向型の議論を行う場合、政策研究についても、ある種の

社会実験型にならざるを得ない。青写真を作って最短の距離を走っていくのではなく、

ある意味では様々なコストを払い、やりとりをしながら研究を進めていく。すなわち、

そのあり方は、多様なプロセスとゴールが存在しうるという、社会実験型にならざる

を得ない。このような点を考慮すると、自治体のシンクタンクは、公平と平等という

原理を持つ行政本体では動きが取り難い。個人的には、行政はそういった存在でよい

と思うが、社会実験を行う役割を担う場所として研究所が必要ではないかとも思える。

三点目は政策アントレプレナーの育成である。アントレプレナーとはまさに起業家

であるが、政策に関わる新しい提案をし、地域にイノベーション(技術革新)を起こ

していく、という意味での政策アントレプレナーが強く求められている。この場合の

アントプレナーは、既得権益に左右されずに地域に対して提案していき、それを実現

して行く、というスタンスの人を表わす。

もちろん、自治体内部にこうした人たちを養成していくというのも研究所の大きな

役割である、という考え方もあるが、個人的には必ずしも自治体内部ではなくてもい

いのかもしれないと考えている。最近では、NPOや市民グループ、場合によっては企

業など、こうした人たちがパートナーシッ

プという形で参画していく、という事態が

起こりはじめている。こうした事態に際し

ては、研究所がアントレプレナーの育成を

していく、という形もあるのではないかと

感じている。

例として、資料には自治体職員との二人

三脚と書いているが、ここでは、我々研究

5

2-1自治体政策形成とシンクタンク   -求められる機能と役割ー

①政策策定基礎調査研究と提案   既往自治体研究所の主たる機能

②社会実験型政策の「提案」「実験」と「評価」

  論理説得型意思決定システムから参加共振型へ

③政策アントレプレナーの育成   自治体ビジョン形成に求められるプロデューサ

6

2-2自治体政策形成とシンクタンク

自治体職員との二人三脚   たとえば「参画と協働の展開方策調査」(2003)

大学院との連携の可能性  パートナーシップ型シンクタンクへ

中間支援組織としての展開

 マルチ・ステイクホルダー型組織へ

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6

者との二人三脚も同様であるが、近年では政策立案能力を高めている NPOや市民グル

ープなど、多様な主体との二人三脚が重要ではないかと考えている。実際、我々の研

究所でも、大阪にある NPO政策研究所とパートナーシップという形で、地域の将来ビ

ジョンを協働研究しているところである。

また、大学院との連携という形はまだ模索しているところであるが、政策アントレ

プレナーの育成に関しては大学との連携が必要であるという認識は持っている。

こうした視点から、自治体研究所の姿を見定めるのは難しいところではあるが、個

人的には、中間支援組織としての展開を行うのではないかと考えられる。具体的には

マルチステークホルダー型の存立基盤を持ち合わせた、これまでにない組織のあり方、

あるいはマネジメントのあり方が重要ではないかと考えている。

(3)自治体シンクタンクの「研究」とは何か?

この点に関して、神戸市の長田地区にお

いて、震災のダメージが深刻であった地域

に関してまちづくりを我々の研究所がまと

めた。この研究は、法政大学の地域政策研

究所から表彰を受けた研究であるが、こう

した地道な研究が賞を取るというのは、大

変ありがたいと思っている。

(4)自治体シンクタンクのマネジメント:マルチ・ステイクホルダー型組織

自治体シンクタンクのマネジメントとして

は、さきほど述べたマルチステークホルダー

型組織が考えられる。多様な主体が支えるガ

バナンス型の組織、政策論理の形勢、これは

必要だと思えるが、もう一つ、今後は参加共

振型システムが必要である。さらに、新しい

存立基盤、これにはまず独立性の確保が重要

で、自治体の論理を厳密に創るだけではもは

や役割は果たせない、必ずしも共通スタイル

での自治体研究所である必要はない。むしろ、多様なスタイルがあっていいのではな

7

3.自治体シンクタンクの            「研究」とは何か?

兵庫県丹波地域

  「参画と協働の展開方策」

  人間曼荼羅図の作成

神戸市長田地域

  「震災復興とまちづくり」

  復興過程の現実:フィールドワークから

8

4-1自治体シンクタンクのマネジメント

 ーマルチステイクホルダー型組織へー

多様な主体が支えるガバナンス型組織

これまでは,自治体の「政策論理」形成の役割 →今後,「参加共振型システム」の「核」として

新しい存立基盤の形成必要

       →独立性の確保

       →必ずしも既往スタイルでの自

        治体研究所である必要はない

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いかと思える。

また、自治体シンクタンクのマネジメントとしては、①研究学問体系と現場での接

点:政策アントレプレナーの育成、②多様な主体とのパートナーシップ、③デモクラ

ティックディクテータシップと表現している専門家チームによる社会実験型政策提案、

の3つが挙げられる。我々阪神淡路大震災を経験したチームからすれば、やはり参加

協働はあらゆることに貫徹していると思え

る。

しかし、こうした既得権益が張り巡らさ

れ、ある意味硬直化してしまったネットワ

ークで構成される地域を再生するためには、

全員で足並みをそろえて、というのでは変

化が起こらないのである。

むしろ、ある種専門家による強力なリー

ダーシップをもって地域を変えていくということも必要である。こうした地域の個性

や課題に柔軟に対応していく、という仕組みが研究所に求められているのである。

(5)地域イノベーション・システムと自治体シンクタンク

最後に、いくつかのモデルを紹介する。例

として挙げた IBAエムシャーパークは強力な

リーダーシップを持って進められてきた研究

であるが、これ以外にも多様な研究機関が存

在する。

現在では、都市間競争よりもむしろ都市群

間競争をどうしていくか、という大きな課題

があるが、自治体単独での広域連携は仕組み

としても難しい。また、産業的な競争力のためのインフラ整備、例えば PFI手法によ

る一種の自治体関連携を行うにしても基礎的な調査提案にしても、研究所が行ってい

くことも有り得るだろう。

9

4-2自治体シンクタンクのマネジメント

●研究・学問体系と現場での接点:政策アントレプレナーの育成

●多様な主体とのパートナーシップ

 自治体「論理」の形成から多様な主体の参加共振型「プロセス」のマネジメントへ

●専門家チームによる社会実験型政策提案→Democratic Dictatorship ?

10

5.地域イノベーション・システム        と自治体シンクタンク

●様々なタイプのシンクタンク

  たとえば,IBAエムシャーパーク

  ドイツルール工業地帯(RustBelt)再生のための戦略組織→都市・地域再生に向けたEU,政府資金の格付け

●自治体シンクタンクの課題

  事例:都市群競争力強化

  →フルセット型政策を機軸とする現行都

   市政策では困難

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1 1 自治体シンクタンク創設の背景自治体シンクタンク創設の背景①①知恵比べの時代知恵比べの時代

• 地方分権の推進

• 「自己決定・自己責任のシステム」への変革

• 「多様と分権のシステム」への変革

• 「結果の平等」から「機会の平等」へ

• 地方における「知恵比べ」、「都市間競争」の時代へ

・機関委任事務の廃止

・国の関与の見直し

・権限の委譲

*税財源の移譲、補助金、地方交付税の見直しなど、まだ課題は山積

・住む場(定住) ・働く場 ・遊ぶ場(交流、集客) ・学ぶ場(大学等高等教育機関)

として「選択される魅力あるまち」づくり。

・個性を生かして、どのような戦略を立案するかが地方の「知恵比べ」 → 構造改革特区 など

2 自治体シンクタンクの可能性 A Possibility of Local Governments’ “Think Tank”

竹内 英樹 横須賀市都市政策研究所副所長

(1)自治体シンクタンク創設の背景

横須賀市都市政策研究所は、2000年4月に市役所の庁内に創設された研究所である。

当研究所を事例にし、自治体シンクタンク創設の背景や課題、他のシンクタンクとの

パートナーシップについて整理し、今後の可能性について考えたい。

今、地方分権の推進に伴い、「知恵比べの

時代」が到来し、「自己決定、自己責任のシ

ステムへの変革」が求められている。「結果

の平等」から「機会の平等」に移行し、こ

れからは「知恵比べ、都市間競争の時代」

になると認識している。

住む場(定住)・働く場・遊ぶ場(交流、

集客)・学ぶ場(大学等高等教育機関)とし

て「選択される魅力あるまち」づくりをどのように行うのか、それぞれの地域の個性

を生かして、何を重点にした戦略を立案するかが地方の「知恵比べ」になる。

最近の動きからも、この事例が見られる。例えば、政府は規制改革を通じて経済活

性化を図る「構造改革特区制度」を進める中で、具体的な構想の提案は「国があらか

じめモデルを示すのではなく、地方公共団体の提案が最大限生かされること、個別事

業は地方公共団体が代替措置を講じて責任を持って実施すること」などを前提にして

おり、政策立案主体として自治体を捉え、その自発性を求める方向になってきている

と考えることができる。

振り返ると、これまでの中央集権型システムにおいては、「国の官僚機構がシンク

タンク(頭脳集団)の役割を果たし、自

治体は行政執行機関」であるとされてき

た。2000年に「地方分権一括法」が施行

されてから、国と自治体の役割の変化が

急速に進み、「職員の政策形成能力の向

上」と「自治体そのものの政策立案機関

への変貌」が必要になってきた。自治体

におけるシンクタンク創設は、近年、大

1 1 自治体シンクタンク創設の背景自治体シンクタンク創設の背景②②

• 中央集権型システムにおいては、「*国の官僚機構がシンクタンク(頭脳集団)の役割を果たし、自治体は行政執行機関」 (*佐々木信夫 自治体政策学入門 1996)

• 分権型社会においては、「職員の政策形成能力の向上」と「自治体そのものの政策立案機関への変貌」が必要

• 横須賀市都市政策研究所を創設 2002.4

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9

きな流れになりつつある。

自治体に関連するシンクタンクの設置形態はいくつかのパターンがある。過去の例

を見ると自治体が中心となった財団、第 3セクターによる設置・運営、○○研究機構

というような任意団体による設置・運営のパターン。このほか、県の研修所内に研究

部門を設置するパターン、大学が地域政策研究所を付置するパターンがある。また、

NPOがシンクタンクを創設している例も出て

きている。このほか、最近増えてきているの

が、自治体内組織として設置・運営するパタ

ーンである。これは、常設型と会議体に分け

られ、常設型として、上越市創造行政研究所

(2000.4)、横須賀市都市政策研究所(2002.4)、

さがみはら都市未来研究所(2003.4)、会議体

として、みうら政策研究所(2003.4)の例があ

る。私は、自治体職員が、研究スタッフなの

か、事務スタッフなのかによって、創設効果は異なると考えている。市の政策形成能

力を高めるためには、職員を事務スタッフとしてだけではなく、研究スタッフとして

活用すべきである。次代を担う人材育成が重要ではないだろうか。

(2)自治体シンクタンクの今

横須賀市都市政策研究所は、21世紀の都市

づくりにおいて必要な都市政策を行うための

支援装置として、自治体を取り巻く社会経済

環境の変化を認識しつつ、調査研究・政策立

案を行うということを設立目的としている。

そこで、研究所の使命を、自治体の持つ「諸

機能の統合化」と「創造的な破壊」を組み合

わせて中長期的なまちづくりの展望を図るこ

と、理論のみに走るのではなく、「実践」と「学術研究」の効果的な連携を図ることと

している。また、実際の調査研究を通して、自治体の政策形成の意欲を高める場にも

できればよいと考えている。研究組織だが、企画調整部の事務分掌に「都市政策研究

所に関すること」を位置付けるとともに、「横須賀市都市政策研究所設置規則」では、

「市政に関する総合的な調査研究を行うため、横須賀市都市政策研究所を企画調整部

に設置する」と定めている。

本日の座長である慶応義塾大学の「金安岩男教授」に所長をお願いしている。副所

1 1 自治体シンクタンク創設の背景自治体シンクタンク創設の背景③③自治体内設置型シンクタンクの創設自治体内設置型シンクタンクの創設

(組織形態)

○財団による設置・運営○第3セクターによる設置・運営○任意団体による設置・運営○研修所内に研究部門を設置

◇大学に付置・運営◇NPOによる設置・運営

○自治体内組織として設置・運営→常設型=上越市創造行政研究所(2000.4)、横須賀市都市政策研究所

(2002.4)、さがみはら都市未来研究所(2003.4)など→会議体=みうら政策研究所(2003.4)*上記はシンクタンク年報2004掲載

22..自治体シンクタンクの今自治体シンクタンクの今①①横須賀市横須賀市都市政策研究所の使命都市政策研究所の使命

「横須賀市都市政策研究所」は、地方自治体「横須賀市都市政策研究所」は、地方自治体

がもつがもつ「諸機能の統合化」「諸機能の統合化」とと「創造的な破「創造的な破

壊」壊」を組み合わせ、中長期的なまちづくりを組み合わせ、中長期的なまちづくり

の展望を図る。の展望を図る。

•• 実践は新たな知恵を生み出す源であり、実践は新たな知恵を生み出す源であり、

「実践」と「学術研究」との効果的な連携「実践」と「学術研究」との効果的な連携をを図る。図る。

Page 14: 自治体シンクタンクにおけるパートナーシップとは …...A New Role of Local Governments’ “Think Tank” 加藤恵正 (財)21世紀ヒューマンケア研究機構理事

10

長は市職員の担当課長(政策

研究担当)を配置している。

所長は市長の命を受け政策研

究所の研究活動を掌理するこ

ととなっており、組織上は企

画調整部にあるが、研究に関

する権限を持っている。市職

員は私(副所長)を含め6名

配置している。うち 1名は職

員公募により、大学院(立教

大学大学院)へ行きながら研

究員の業務を行っている。その他の市職員もそれぞれ研究テーマをもった研究員であ

り、学会発表するなど研究活動を行っている。今回の計画行政学会でも 2人の研究員

が研究報告をしている。その他博士及び博士課程の非常勤職員の研究員 2名は公募に

より採用した。その他、三浦市からの派遣研究員を 1名受け入れている。

また、政策研究所に専門委

員等を位置づけ、助言を受け

ながら協働で研究活動を行っ

ている。現在、早稲田大学の

伊藤滋教授、慶應義塾大学の

駒井正晶教授、産能大学の斉

藤進教授、民間リサーチャー

の田中孝司氏、そして 2年間

研究員として勤務した法政大

学RAの牧瀬稔氏がいる。職

員による政策研究プロジェク

トチームや市民を交えた研究会では、専門委員、研究員、市職員、市民が協働して、

様々な「研究テーマ」に取り組んでいます。市民との協働研究については、2002年度

にユニバーサルデザイン、2003年度にはまちづくり基本条例について、市民参画の研

究会やセミナーを開催しており、2004年度は、まちづくり基本条例(自治基本条例型)

について、市民参画の勉強会や、セミナーの開催を予定している。

研究組織の特徴を5点に要約する。1点目は所長を市役所外部から招聘することで、

内部組織ながら研究の独立性を確保していること。2点目は、大学院博士課程修了者

を常勤に近い形態で研究員として採用することで、政策形成機能を高めていること。3

点目は、専門委員を政策ブレーンとして位置づけ、共同研究体制を整備していること。

22..自治体シンクタンクの今自治体シンクタンクの今④④横須賀市都市政策横須賀市都市政策研究所の役割研究所の役割

自主調査•社会経済環境の動向調査・分析•人口など基礎的データの比較分析•国内外の先進的政策の動向調査

自主研究•テーマ設定による調査研究テーマ①人口減少、少子高齢社会研究②産業政策研究③政策分析手法研究④ファシリティマネジメント研究⑤高齢者等健康サービス研究⑥新事業手法研究⑦まちづくり基本条例研究⑧国際教育特区推進

人材育成•共同研究•政策研究論文・政策提案募集•論文作成講座開設

ネットワークの構築•政策研究セミナーの開催•学会・シンクタンク交流会への参加など

情報収集•都市情報の収集・ライブラリー化•市民意識調査の実施・分析 など

情報発信•図書の発行と販売•ホームページの運営•mail magazineの発行 など

調査

研究

人材

ネットワーク

情報

政策提言

研究支援・庁内コンサルティング

22..自治体シンクタンクの今自治体シンクタンクの今②②

横須賀市都市政策研究所横須賀市都市政策研究所 研究組織研究組織

所長(非常勤)

慶應義塾大学教授 金安岩男

専門委員

(非常勤)

(大学教授等)

政策研究

プロジェクトチーム

(職員公募)

主任研究員(主査)

研 究 員

16・17

大学院

派 遣

研 究 員

(非常勤職員)

博士

市長

研 究 員

三浦市か

ら派遣

研 究 員

(非常勤職員)

博士課程

市民参加型

ワークショップ、研究会、勉強会

副所長(主任研究員兼務)

政策研究担当課長

研 究員

(担当)

研 究 員

14・15

大学院

派 遣

研 究員

(担当)

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11

4点目は、専門委員、研究員、市職員による政策研究プロジェクトチームを設置し、

職員の知見を集積していること。5点目が、周辺自治体とのネットワークの構築とし

て、三浦市から派遣研究員を受け入れていることである。

研究の独立性について若干補足すると、研究所自体の運営は、運営会議により決定

されている。理事会などの役員会がある財団等と異なり、運営会議は、所長、副所長、

企画調整部長、専門委員等で構成されており、動きやすい組織になっている。研究に

関する決定事項は、市の企画調整会議等への協議を行う定めもなく、運営会議で決定

できるため、研究テーマも比較的自由に決めることができる。これについては、設置

規則の中に「研究総括は所長が行う」ということを強く出したのがよかったのではな

いかと思っている。研究所の役割については、調査研究、情報収集・発信、ネットワ

ークの構築、人材育成、庁内の研究支援などがある。これについては配布資料を参考

にされたい。

(3)自治体シンクタンクの課題

シンクタンクを自治体の限られた資源

(人材・ノウハウ)で運営していくにはいく

つかの課題がある。自治体がシンクタンク

を設置した場合、最初の課題は人材(研究

スタッフ)の確保である。長期的視点にた

てば、自治体そのものの政策形成能力を高

めるには「自治体職員」の活用が前提であ

る。しかし、基礎的な研究技術をもたない

「職員」だけのスタッフでは、高い研究レベルは望めない。横須賀市都市政策研究所

では、この課題に対応するために専門的な研究スタッフを外に求めた。それが研究組

織で説明した専門委員等と大学院博士後期課程修了者の研究員である。

2点目は研究の独立性である。シンクタンクの政策提言は客観性を求められており、

独立性は重要な要素である。本研究所は市の企画調整部に設置されたものであり組織

上の独立性はないが、外部からの所長の招聘や専門委員制度などにより、内容的には

可能な限り独立性を確保したいと考えている。

3点目は研究交流である。自治体はそれぞれ異なる課題と共通の課題を併せ持って

いる。それらの輻輳する課題を一つの自治体で研究し、新たな政策を導き出していく

にはどうしても限界がある。「知」の共有の場、「情報」の共有の場、議論の場が必要

である。本研究所では、政策研究セミナーの開催、学会・研究交流会への参画を通じ

て、研究員の発表や交流の場を設けている。

3.自治体シンクタンクの課題

1研究人材の確保→自治体内の資源(ノウハウ、人材)は限られている。

2独立性の確保→研究成果の独立性をいかに担保するか。

3研究交流機会の充実→「知」と「情報」の共有の場である研究交流の機会を充実する。

4協働研究の実施→地域で学ぶ人、働く人、住む人々の知恵を生かす。

5研究成果の活用→都市に求められる政策を立案し、実践されるか。→報告書の数は成果ではない。

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4点目は協働研究の実施である。自治体シンクタンクには、そこに住む人々の知恵

をいかに政策研究に生かしていくかという一つの使命があると考える。市民研究員制

度を設けている例もあるが、当研究所では、市民参画の研究会を設置し、協働研究を

実践している。

5点目は、研究成果の活用である。自治体にシンクタンクを創設して、学術研究に

没頭し、実践と遊離しては市民や庁内からの信頼を得られない。実践と学術研究をい

かに融合し、実現性が高い政策提言を行っていくかが自治体シンクタンクの使命であ

る。

政策・施策をいかに提言し、そしていかに実現させるかが課題となる。本研究所が

自治体内の「研究プロデューサー」として認められるようにならなければその存在意

義は薄いであろう。

(4)他のシンクタンクとのパートナーシップ

他のシンクタンクの強みを知ることによって、自治体シンクタンクの「中核機能」

を問うということについて述べたい。

自治体の扱う政策研究の領域は広く、自治体シンクタンクはそれぞれの強みを持つ

必要がある。しかし、限られた人員・予算の中で政策の総合デパートにはなりようが

ない。私は、それぞれの自治体シンクタンクで得意分野を持つことが重要だと思う。

それには、他のシンクタンクの研究に触れることが重要である。そのためには、他の

シンクタンクとの研究交流は欠くことができない。交流を通じて、自らの強みと弱み

が見えてくる。同時にそれぞれの自治体シンクタンクとって、どの分野の専門店を目

指すのかより鮮明になるのではないだろうか。また、自治体シンクタンクの政策研究

はその設置の性格上、市長等からの特命研究もあり、直接政策に結びつくことができ

る。しかし政策の実現性だけを優先すると。

調査分析が不十分で、研究内容のレベルが

低い場合も生じる。研究報告の自己満足は

とても危険である。優れた調査ノウハウを

持つ他のシンクタンクとの協働研究は、市

場における競争が存在しない自治体シンク

タンクの「研究の質」を高める場になるの

ではないだろうか。

4 他のシンクタンクとのパートナーシップ

• 他のシンクタンクの強みを知ることによって、自治体シンクタンクの「中核機能」を問う。

→自治体の扱う政策研究の領域は広い。自治体シンクタンクはそれぞれの強みを持つ必要がある。デパートにはなれない。

• 市場における競争が存在しない自治体シンクタンクの「研究の質」を高める。

→研究報告の自己満足は危険。ノウハウを持つ他のシンクタンクとの共同研究は、スキルアップにつながる。

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3 行政経営の指令塔と自治体シンクタンクの関係について Relationship between “PlayMaker”of Policy Management and In-house “Think

Tanks”

木村 乃 三浦市政策経営室長

(1)外部機関としての民間シンクタンクに行政が期待していたこと

行政には外部機関としての民間シンクタ

ンクに対して、外部のお墨付きが欲しい等

の不純な期待をしている時期があった。し

かし、現在では、幅広いネットワークで培

われた知識、独立研究機関としての客観性

や中立性、または複眼性などの見識、論理

的な解決力等への期待という純粋なものへ

と時間的変遷を辿った。現在、知識への期

待については、職員自身が研鑚して身に付

けるべきものとして行政内部に内製化していく方向にあると考えられる。

また、見識への期待については、研修や外部への研鑚などにより、少なくとも政策

立案に携わる職員についてはこれを内部にもつことを期待されていると考えられる。

さらに、解決への期待についても、自分たちの問題は自分たちで考えるべき、とな

りつつある。しかし、これらは行政が単独で獲得するのは難しいと考えられ、ここに

コンサルティングのニーズが存在すると考えられる。

(2)シンクタンクとしての機能を併せ持つ行政経営の指令塔「政策経営室」

三浦市の政策経営室(以下経営室)の設

立は、市役所としてのマネジメントシステ

ムをいかに確立していくか、という課題に

対する一つの成果である。

先ほど述べた不純な期待や知識への期待

は、自治体が自己責任で身につけるものと

考えられ、経営室がその責を負うものと考

えられる。経営室は、市長の政策を具現化

する「行政経営の司令塔」の役割を担う機

内製化内製化

不純な期待不純な期待不純な期待

純粋な期待純粋な期待純粋な期待

知識への期待知識への期待知識への期待

見識への期待見識への期待見識への期待

解決への期待解決への期待解決への期待コンサルティングへのニーズ

コンサルティングへのニーズ

1.外部機関としての民間シンクタンクに行政が期待していたこと

1.外部機関としての民間シンクタンクに行政が期待していたこと

行政経営の司令塔と自治体シンクタンクの関係について

ニーズの変遷

ニーズの変遷

意識改革・職員研修(内製化努力、自己責任)

2.シンクタンクとしての機能を併せ持つ行政経営の司令塔「政策経営室」

2.シンクタンクとしての機能を併せ持つ行政経営の司令塔「政策経営室」

行政経営の司令塔と自治体シンクタンクの関係について

純粋な期待純粋な期待純粋な期待 見識への期待見識への期待見識への期待

解決への期待解決への期待解決への期待

不純な期待不純な期待不純な期待

知識への期待知識への期待知識への期待

政策経営室がカバー

政策経営室がカバー

シンクタンクへの

ニーズの一部を担う

シンクタンクへの

シンクタンクへの

ニーズの一部を担う

ニーズの一部を担う

シンクタンク・コンサルシンクタンク・コンサル

タント経験者の登用タント経験者の登用

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関である。同時に、職員の意識改革・研修という意味で、内製化した知識への期待を

カバーするとともに、シンクタンク・コンサルティング経験者を登用することにより、

見識への期待、解決への期待というシンクタンクへのニーズの一部を満たしていると

いえる。

(3)政策経営室」と外部有識者からなる会議体としての「みうら政策研究所」

との役割分担

経営室に対して、外部有識者からなる

会議体としてのみうら政策研究所(以下

研究所)は、もともとコンサルティング

機能を有していた「政策進行管理委員会」

を発展させた会議体の組織である。

研究所の役割は本来経営室が果たすべ

きであるとも考えられるが、行政内部の

指揮命令系統に属する経営室では担い難

い見識への期待や解決への期待、という

役割を補完する機能として位置づけられている。

研究所は委託者である経営室から、見識への期待、解決への期待を受託するものと

位置づけられる。経営室と研究所は、抽出された政策・施策・事業という市政の課題

に関して経営室が研究所に課題提示と情報提供を行い、研究所はそれをもとに問題解

決方策を経営室に提言し、経営室はその成果を市政に反映していく、という関係にあ

る。

課題としては、経営室が研究所の研究に

どの程度関与していくのか、研究所の成果

をどのように評価していくのか、という点

が挙げられる。受託者たる研究所には、委

託者たる経営室の意向を汲み取りながら研

究に携わるべきであると考えられるし、発

注者の都合を考慮すべきであると考えられ

る。

したがって、委託者たる経営室は、研究

所の研究に積極的に関与すべきであると考えられる。

しかし、研究所の客観性、複眼性、中立性を大切にする立場も重要である。そこで、

行政経営の司令塔と自治体シンクタンクの関係について

3.「政策経営室」と外部識者からなる会議体としての「みうら政策研究所」との役割分担

3.「政策経営室」と外部識者からなる会議体としての「みうら政策研究所」との役割分担

市  政

(政策・施策・事業)

市  政

市  政

(政策・施策・事業)

(政策・施策・事業) 課題抽出課題抽出 課題提示

情報提供

課題提示情報提供

問題解決方策の提言問題解決方策の提言

政策経営室

政策経営室

政策経営室

発注者発注者発注者

みうら政策研究所

みうら政策研究所

みうら政策研究所

受託者受託者受託者

研究関与?成果評価?

職員研究員

職員研究員

研究

参加

育成

成果反映成果反映

報 告報 告

3.「政策経営室」と外部識者からなる会議体としての「みうら政策研究所」との役割分担

3.「政策経営室」と外部識者からなる会議体としての「みうら政策研究所」との役割分担

行政経営の司令塔と自治体シンクタンクの関係について

みうら政策研究所

みうら政策研究所

「政策進行管理委員会」というコンサルティング機能を「研究所」として発展させた「政策進行管理委員会」というコンサルティング機能を「研究所」として発展させた

本来役割を果たすべき「政策経営室」の役割を補完する機能としての「研究所」本来役割を果たすべき「政策経営室」の役割を補完する機能としての「研究所」

純粋な期待純粋な期待純粋な期待 見識への期待見識への期待見識への期待

解決への期待解決への期待解決への期待

政策経営室=発注者政策経営室=発注者

(受託者)

(受託者)

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研究への関与や成果に対する評価がどこまで許されるか、という両者の関係性を現在

も模索していることである。

また、行政内シンクタンクの最大の効果としては、職員研究員が政策研究に参加す

ることにより、人材育成につながる、ということが挙げられる。

(4)職員とシンクタンクへの意識 ~職員と専門委員のパートナーシップ~

行政の職員と有識者である専門委員

との関係性は、図のように釣り合って

いることが望ましい。

しかし行政の職員は有識者に対する

過度の畏怖心や気後れなど自信のなさ

から、有識者である専門委員を「セン

セイ」扱いしがちである。もちろん敬

意を表することは前提ではあるが、ま

ずは有識者に対して「先生」という呼

称を止め、「さん付け」にしようと職員に呼びかけている。

そのような意識で、職員が自信を持ち専門委員と議論することで相互信頼関係を構

築し、議論することにより、対等な協働関係、すなわちパートナーシップが築けるも

のと考えている。

4.職員のシンクタンクへの意識 ~ 職員と専門委員のパートナーシップ

4.職員のシンクタンクへの意識 ~ 職員と専門委員のパートナーシップ

行政経営の司令塔と自治体シンクタンクの関係について

相互信頼関係

相互信頼関係

専門委員専門委員職 員職 員

自信をもつこと議論をすること

自信をもつこと議論をすること

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自治体シンク タ ンク の課題

幅広い研究ニーズに応えるためのリソースをどう確保するか

膨大な研究ニーズに対して不足するマンパワーをどう補っていくか

人材の入れ替わり時の能力や専門性の低下をどのように補っていくか

自治体シンクタンクの特性と課題自治体シンクタンクの特性と課題

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4 自治体シンクタンクと民間シンクタンクのパートナーシップについて

Partnership between Local Governments’ “Think Tanks” and Privates’ “Think Tanks”

大塚 敬 ㈱UFJ総合研究所 国土・地域政策部 主任研究員

(1)はじめに

自治体シンクタンクの外部機関とのパー

トナーシップを想定する時、業務の内容が

最も類似している主体として民間シンクタ

ンクがあげられる。

本報告では、自治体シンクタンクにおけ

る民間シンクタンクとの効果的なパートナ

ーシップのあり方を検討する。まず、自治

体シンクタンクの特性と課題について明ら

かにしたうえで、民間シンクタンクとのパートナーシップのメリットや方向性につい

て述べる。続いて民間シンクタンクとの効果的なパートナーシップのあり方について

述べる。最後に留意すべき課題を提示し、若干の検討を加える。

(2)自治体シンクタンクの特性と課題

自治体シンクタンクの目的は、①政策・施策一般に係る情報収集、基礎研究、②具

体的な政策・施策に係る調査・立案・評価、③新しい政策の提言、である。また基本

特性としては、特別なケースを除き地方自治政策全般を領域としてカバーすることを

期待されていること、一般に民間総合シ

ンクタンクと比較して人員は小規模であ

り、インフラも十分でないこと、研究員

の一部ないしは大部分をローテーション

で配置される自治体職員が占めること、

などが挙げられる。すなわち、期待され

ている役割は幅広く深い一方、体制は十

分でないのが現状である。このため、幅

広い研究ニーズに応えるためのリソース

をどう確保するのか、膨大な研究ニーズに対して不足するマンパワーをどう補ってい

発表の要旨発表の要旨

自治体シンクタンクの特性と課題

課題の解決に資する民間シンクタンクとのパートナーシップの方向性

民間シンクタンクとのパートナーシップの効果を高めるポイント

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くか、人材の入れ替わり時の能力や専門性の低下をどのように補っていくのかが、課

題として指摘されるのである。

(3)民間シンクタンクとのパートナーシップのメリット

自治体シンクタンクにとって、民間シン

クタンクとのパートナーシップのメリット

は、必要な情報やノウハウを効率的に調達

できるという点である。自治体シンクタン

クにおいて、必要なすべてのものを保有す

ることは現実的ではなく、外部機関とのパ

ートナーシップによる調達は不可欠である。

この際、民間シンクタンクは、業務の内容

が類似しているが故に、必要となる情報や

ノウハウ、人的資源を容易に調達することが可能であり、効率的、効果的なパートナ

ーシップが可能である。

民間シンクタンクとのパートナーシップ

の具体的な方法は、業務委託によるプロジ

ェクト単位でのマンパワーやノウハウの調

達、任期付採用、嘱託、専門委員等による

人材調達、業務提携等による情報・ノウハ

ウの獲得、民間シンクタンクへの出向派遣

による情報・ノウハウの獲得などがあげら

れる。

こうしたパートナーシップをより有効性の高いものとするためには、不足する情報

やノウハウとマンパワーをどのように調達するかだけでなく、強化すべきコア・コンピ

タンスを明確にした上で、その強化に有

効なパートナーシップのあり方を戦略的

アウトソーシングの視点から検討する必

要がある。自治体シンクタンクにおける

コア・コンピタンスとは調査研究等のプ

ロジェクトのプロデュース技術、情報や

ノウハウを探索する技術、収集した情報

やノウハウを使いこなす技術であると考

える。

民間シンクタンクとのパートナーシップの方向性民間シンクタンクとのパートナーシップの方向性

民間シンクタンクとのパートナーシップの具体的イメージ

業務委託によるプロジェクト単位での調達

任期付採用、嘱託、専門委員等による人材調達

業務提携等による情報・ノウハウの獲得

民間シンクタンクへの出向派遣による情報・ノウハウの獲得

不足する情報・ノウハウとマンパワーの外部調達

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民間シンクタンクとのパートナーシップの方向性民間シンクタンクとのパートナーシップの方向性

設立目的は?

設立目的に照らして重点的に強化すべき経営資源(コア・コンピタンス)は?

選定されたコア・コンピタンスの強化に有効なパートナーシップのあり方は?

制約条件は?

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民間シンクタンクに何を求めるか(戦略的アウトソーシングの視点から)

民間シンクタンクとのパートナーシップの方向性民間シンクタンクとのパートナーシップの方向性

強化すべき経営資源(コア・コンピタンス)は?

調査・研究の中核的技術に限られた資源を集中し、随時外部調達が可能な要素はアウトソーシング

有効なパートナーシップのあり方は?

全体発注ではなくチーム間のコワークとしての業務委託

上質なプロデューサー、リサーチャーの受け入れによる職員への技術移転

それぞれ、分野横断的に共通の基本技術だけでなく、分野別に固有の専門的技術があり、都市づ

くりの戦略、重点分野を見据えた強化が必要

調査研究等のプロジェクトのプロデュース技術

情報やノウハウを探索する技術

収集した情報やノウハウを使いこなす技術

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民間シンク タ ンク と のパート ナーシッ プの民間シンク タ ンク と のパート ナーシッ プの効果を高めるポイ ント効果を高めるポイ ント

全体発注ではない、コワークとしての業務委託とは?

全体を統括するプロデューサーとしての役割は大部分を実質的に留保

ただし、一定割合は民間シンクタンクにも委ね、ノウハウを最大限に引き出す

調査研究プロジェクトのグランドデザイン

個別分野の調査研究計画の設計や技術的提案

自治体シンクタンクの役割 民間シンクタンクの役割

結論の導出

調査研究実施

個別分野の行程管理

調査研究プロジェクト全体の行程管理

調査研究プロジェクト全体の品質管理

個別分野の調査研究の品質管理

プロデュースの領域

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そして、これらのコア・コンピタンスの強化に有効なパートナーシップのあり方と

して、全体発注ではなくチーム間のコワーク(co-work)としての業務委託と、上質な

プロデューサー、リサーチャーの受け入れによる職員への技術移転があげられる。

(4)民間シンクタンクとのパートナーシップの効果を高めるために

民間シンクタンクとのパートナ

ーシップは、業務の内容が最も類

似する相手だけに、ともすれば業

務の大部分を委ねてしまいがちと

なり、その結果、内部にノウハウ

が蓄積されなくなってしまう懸念

がある。内部にノウハウが蓄積で

きるようにするためには、民間シ

ンクタンクのノウハウを最大限に

引き出し、これを自治体シンクタ

ンクの研究員が確実に吸収できる

ようにする必要がある。このため、パートナーシップのもとに行う研究において、そ

の成果だけでなくプロセスをも重視するこ

とが重要となる。

具体的には、調査研究プロジェクトの全

体を統括するプロデューサーとしての役割

は、自治体シンクタンクが大部分を掌握し

つつ一定割合を民間シンクタンクにも担わ

せる。また、調査研究の技術的提案や実務

面は多くを民間シンクタンクに委ねる一方、

一部は自治体シンクタンクも自ら手がける。

こうすることで、民間シンクタンクのノウハ

ウを最大限に引き出すとともに、プロデュー

ス機能に重点を置きながら調査研究全般のノ

ウハウを実践を通じて内部に蓄積することが

可能となる。

また、民間シンクタンクからの研究員の受

け入れ態勢もパートナーシップを組む上で重

要なポイントである。柔軟な受け入れ条件の

上質なプロデューサー、リサーチャーを受け入れるためのポイントとは?

柔軟な受け入れ条件の提示

研究員個人にとってのインセンティブ

「地方公務員法及び地方公共団体の一般職の任期付職員の採用に関する法律の一部を改正する法律(平成16年8月1日施行)」(任用・勤務形態の多様化)の狙い

1) 短時間勤務制度により、原則フルタイムのみの勤務形態の下では就労し難かった者に門戸を拡大

2) 短時間勤務の職員によるワークシェアリングで、地域雇用を創出3) 短時間勤務職員を活用することにより、行政サービスの向上にきめ細かく、かつ

効率的に対処

4) 一定期間内に終了することが明らかな事業、業務の増加が一時的な事業に対し、任期付職員を充て、行政ニーズに的確に対応しつつ、行政の肥大化を防止

5) 短時間勤務(部分休業)を認めることにより、職員が、大学等で学ぶことや、ボランティア活動に参画することをバックアップ(出典:総務省「地方公務員制度における任用・勤務形態の多様化について」(2003)

受け入れ条件の幅を広げるための選択肢が拡大

→あとは、人脈形成、キャリア形成、能力向上など研究員個人にとって魅力的な環境を如何に提供できるか

派遣の是非は会社が決めるが、

誰が来るかは本人次第

民間シンクタンクとのパートナーシップの民間シンクタンクとのパートナーシップの効果を高めるポイント効果を高めるポイント

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上質なプロデューサー、リサーチャーを受け入れるためのポイントとは?

柔軟な受け入れ条件の提示

研究員個人にとってのインセンティブ

自治体シンクタンク(自治体内設置型)において民間シンクタンク研究員を受け入れる際に活用可能な従来の制度的枠組み(主なもののみ)

・任期付採用:「地方公共団体の一般職の任期付職員の採用に関する法律」に規定。地方公務員法の適用を受ける。法改正前は「専門的な知識経験又は優れた識見を有する」こと、フルタイムで勤務することが前提だった。

・嘱 託:「地方公務員法3条」に規定される特別職公務員。地方公務員法の適用を受けない。

・専門委員:「地方自治法174条」に規定される非常勤の職。地方公務員法の適用を受けない。

派遣の是非は会社が決めるが、

誰が来るかは本人次第

民間シンクタンクとのパートナーシップの民間シンクタンクとのパートナーシップの効果を高めるポイント効果を高めるポイント

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提示と研究員個人にとってのインセンティブを明確にすることが求められる。民間シ

ンクタンク研究員を受け入れる際に活用可能な制度的枠組みは、主に任期付採用、嘱

託、専門委員の3つがある。平成 16年8月に施行された「地方公務員法及び地方公共

団体の一般職の任期付職員の採用に関する法律の一部を改正する法律」をはじめ、外

部の多様な人材の活用に向けた制度改革も進展しており、これらも活用しつつ、柔軟

な受け入れ体勢を整えることが重要である。

(5)今後の課題

最後に、自治体シンクタンクの今後の課題として、2点述べる。

1点目は、いかに、外部との連携を行うシステムを組み上げ、機動的、効率的に研

究体制を確保できる環境を整備するか、という点である。分権化の進展により、基礎

的自治体の政策的課題は質・量ともに増大が確実である。負担がより大きくなる中で、

外部との連携が今まで以上に重要となってくるからである。

2点目は、「評価」と「アカウンタビリティ」

の重要性が増す、ということである。選挙時

に限らず、ローカル・マニフェストの普及に

より、地方自治体には「評価」と「アカウン

タビリティ」がより一層求められる。こうし

た中、自治体シンクタンクの役割としては、

「評価」機能の重要性が高まることから、や

はり外部との連携等によって中立性、客観性

や独立性を高めていくことが必要となるのである。また、同様に自治体シンクタンク

自体もコストに見合う成果をもたらしているか厳しく評価されるようになる。これか

らは、地域あるいは自治体内部にどのようなアウトカムをもたらしているのか、明確

に示すことも求められることとなる。

今後留意すべき課題今後留意すべき課題分権化の進展により、基礎的自治体の政策的課題は質・

量ともに増大が確実

→外部との連携による機動的、効率的に研究体制を確保できる環境を整備することが極めて重要

ローカル・マニフェストの普及により「評価」と「アカウンタビリティ」への市民意識が一層高まる。

→自治体シンクタンクの役割として「評価」機能の重要性と、外部との連携等による中立性、客観性を担保する仕組みの必要性が高まる。

→自治体シンクタンク自体もコストとアウトカムのバランスに関する評価、説明が求められ、外部のリソース活用の有効性向上が不可欠となる。

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第Ⅱ部 パネルディスカッション

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1 座長より問題提起

(1)共通質問:自治体シンクタンクについて

<金安>

近年設立された、自治体シンクタンクの存在において、人口規模が大きいところは

対応できるが、規模が小さいところでは対応が難しい。こういった中で、自治体シン

クタンクの存在についてはどのように捉えているか、お聞かせ願いたい。

<加藤>

多様な姿の研究所、機能でよいのでは、と個人的には思う。大塚氏からコストパフ

ォーマンスという話が出たが、自治体研究所の活動費(職員の人件費まで含めて)は、

必ずしもコストパフォーマンスが高いとも言い切れない部分もある。アウトソーシン

グは可能で、自治体丸抱えは必ずしも賛同できない。

しかし、この問題は、研究所で生産される知識・情報のサービスの特質と関わってく

る。知識や情報単体でのアウトソーシングはわかりやすいだろう。自治体や政策と連

動している場合には、知識がどのようにその地域に組み込まれ、どのように評価され

るか、循環サイクルの中で知識そのものが自己増殖される過程に入っていかねばなら

ない。

単純なアウトソーシングで可能かどうかという点に関して、あらゆる主体を巻き込

みながら知識を形成していく過程において、研究所が役割を果たしているなかで、単

純なアウトソーシングは難しいのではないだろうか。研究の一部について民間の研究

機関と連携は可能であるが、どのように合理化していくかが重要である。

次に、単に情報を生産していくだけではなく、ガバナンスという視点からの議論に

なりつつある。自治体としての厳密な論理を作るということではなく、多様な主体が、

ある意味では民主主義のコストを支払いながら、政策立案を行い、自治体研究所がサ

ポートしていくということで、自治体研究所の役割は大きいと考えられる。

<竹内>

知恵比べの時代において、自治体の政策形成能力を高めるのは非常に重要な要素で

ある。政策の執行機関である自治体が、政策立案の機関へと変貌するためには、政策

立案のノウハウを知って、それを使える人材が集まる場所が必要である。

都市政策研究所はノウハウと人材が集まる拠点として活きてくる。外部への委託は

必要であるが、すべてを外部に委託している状況の中では、自治体内に政策形成能力

は蓄積されない。自らが政策立案を身に着けていくために研究所が必要であると考え

られる。

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都市政策研究所にも年に何市も視察に訪れているが、最近の自治体シンクタンク設

立のブームを見ていると、準備が不十分で、企画担当ではなく組織担当が、組織とし

て自治体シンクタンクを作ってしまうことには危険を感じる。なぜ必要なのかを庁内

で十分議論してうえでシンクタンクを作るべきである。

また、人材育成の拠点という意味で、政策全般を見られるプロデューサーを育成す

る場、という意味でも研究所は大きな役割を果たす。これらを総合すると、自治体内

にシンクタンクは必要ではないかと考えられる。

<木村>

シンクタンクそれ自体の使命や、本業としての機能自体は、いずれ行政の中に内製

化していくことが必要である。リソースは大塚氏や加藤氏の主張と同じくネットワー

クで確保していき、確かなアウトカムをもたらしていくことが必要不可欠である。使

命や機能本体は内製化すべきというのは、研究所からでてきた提言について、議会等

で話題になるからである。これはどういうことかと言うと、研究所といっても、公が

設置して公費で活動していくものである。したがって、「その成果は中立で、研究所が

いっていることであるから行政の意思とは違うことがあっても、それは差し支えない」

という主張は世間一般では通るものではない。卑近な言い方かもしれないが、これが

現実というものであって、中立の機関がやっていることだから、行政意思とは違って

いても、それは成果として存在するとしても、行政の成果として是認したとしか捉え

てくれない、という問題が生じるということである。

研究所だから自由だという素朴な見方もあるかもしれないが、税金を使って設置し

て活動しているのだから、市民によるガバナンスという意味で、評価を受けるべきで

あるし、監視されるべきである。ところが、職員あるいは行政体というのは、学識者

の主張に対して無批判な面がある。横浜市では、5~6年前、審議会等に諮問した答

申については、基本的に答申を踏襲すると、高秀市長が記者会見で発表したのを聞い

たとき、ガバナンスという視点はどうなるのかという危機を感じた。同じようなケー

スで、研究所が出してくる成果について、誰がどのような責任を持って、どのような

形で評価するのか、こういったシステムが不在であるため、今後の課題であると捉え

ている。

<大塚>

自治体シンクタンク設立の動きは、約 30数年前の自治体への計画行政導入の際の動

向に通ずる論点であると考える。かつて、1969年の自治法改正により基本構想の策定

を市町村に義務づけられ、計画行政を行うようになった当時、それまで自治体には企

画という部門がなかった。長期的な視野にたって計画を策定する能力は各部門にばら

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ばらに存在し、自治体全体の計画を総合的に検討し策定することができる部門が存在

しなかった。こうした背景から企画部門を設ける動きが全国の自治体に広がった。

その後、今日まで企画部門が政策立案など自治体の司令塔的な機能を果たしてきた

が、近年、従来の企画部門の機能だけではそうした役割を十分果たすことができなく

なってきて、今度は自治体シンクタンクが必要となってきたのではないだろうか。

30数年前に自治体に企画部門ができて以降、各事業部門において、必要に迫られて

各分野の専門的な政策立案機能が形成、蓄積されてきた。こうした中、地方分権の進

展や行政課題の多様化、複雑化を背景として、今また庁内の政策形成機能の再結集が

必要となったことが、行政内部に自治体シンクタンクが設置されている動きであると

理解することができるのではないか。とすると、どこの自治体でもシンクタンクは必

要で、30数年前に、それまで無かった企画部門がやがてほとんどの自治体に設置され

たように、形はさまざまだが、シンクタンク的な機能・部門がほとんどすべての自治

体に設置されていく可能性がある。

さらに言えば、自治体シンクタンクを横須賀市のように企画調整部内に設置するケ

ースを想定すると、少し飛躍するが、従来の企画調整課には調整機能だけが残り、政

策立案を中心とする企画機能はシンクタンク飲み込まれていき、企画という部門がな

くなっていくという可能性もある。

<金安>

ここ数年のうちに、色々な試みがされていき、淘汰されていくのではないだろうか。

その中で、しっかり考えたところは生き残るし、形だけ考えたところは、人も動かな

い、魂もない、方法論もないので潰れてしまうのではないだろうか。個人的には、自

由競争で、とにかく様子見をした方が良いのではないか、と思う。何がいいか悪いか

は瞬時に分かる時代になったので、世間の目は厳しい、と個人的に思う。

横浜市が、30年ほど前に都市デザイン室を作ったときに、当時の室長は、元々コン

サルティングの仕事を請け負っていた人物であり、そのコンサルティング部隊がそっ

くり入って部署が出来た、という珍しいケースがあった。ただし、当時という時代背

景、かつ横浜市だからこそできた、という解釈があったと思うが、今や全国的にどの

自治体がどのような試みをし、どのような考えが自分の自治体にも採用できそうか、

という見極めはそれぞれの自治体がしていると思える。

私自身は、色々な試みがなされるのが重要であると考える。そういった意味で、敷

居の高さは大分低くなってきた。制度や過去の縛りなどは気にしていられなくなり、

とにかくやってみる、というのが重要であると考えられる。

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(2)個別質疑

① 出資者に対する成果について(金安→加藤)

<金安>

(財)21世紀ヒューマンケア機構に対する県の出資金額は大きいが、今日の発表の

なかでも評価をどうするか、という話題があったが、スポンサーに対して、自分たち

の研究活動、その他もろもろ、数字で評価できる部分もあれば、数字化できない貢献

もあるだろうが、どういう研究成果の返し方などをどのように行っているのか、お聞

かせ願いたい。

<加藤>

出資金の割合は、約7割が県、1割が市・町、あとはその他、ということになって

いる。直接的な研究の成果、あるいはプロセス、成果との関係で言うと、例えば研究

テーマの提案をするときに、出資している自治体の課題は何か、など実際には広く公

募というかたちで行い、外部の委員を含めた上で、研究のテーマを決定する。

研究成果についてはセミナーや出版物で返しているが、この成果自体は大きなフィ

ードバック、プロセスへの参加にならない。むしろ、様々な形で地域との連携を行っ

ていることが成果であるといえる。昨年も兵庫県と調査を行ったが、県庁職員と現場

に入っていった。通常、企画担当の職員は現場に入っていくことはあまりないが、研

究所との連携ということで、地域の基礎自治体あるいは地域のグループと、これまで

なかったような研究成果を挙げている(長田での例)。

私たちは、阪神淡路大震災の際に、国の枠をこえた提案を行った。例えば、今では

構造改革特区として一般化してしまったが、 エンタプライズゾーンということで、税

の軽減と規制緩和を期間内で徹底して行うことで、都市経済の自律的な再生を図る、

という提言を行った。この提言は、当時、一国二制度はまかりならぬ、という国の方

針で潰れてしまった。しかし現在では、都市再生、地域再生、構造改革特区という考

え方や制度が一般的になりつつある。そういう意味では、国の政策に先行した形にな

っており、地域のイニシアチブを取って研究してきたという自負がある。他にもこう

いった制度の提案はいくつかあるが、これらが私たちが地域に誇る成果であるといえ

る。

② 自治体職員の研究手法確立方法について(金安→竹内)

<金安>

これまで自治体職員は、従来業務を執行するということが主な仕事だったが、これ

が研究となった途端、自治体の職員が研究者になる、という飛躍が生じる。

外部の有識者は実務的な能力を問われるかもしれないが、内部の職員は研究的な能

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力を問われるかもしれない。どのような方法論、手法を提示し、アピールできるのか。

研究といった途端に道のりは遠くなると思われるが、どのようなメソドロジーを構築

したのか、また、どのような工夫をしたのか、どのような方法があるのだろうか。私

個人は、実践の中に知のあり方が存在する、と考えているが、その点お聞かせ願いた

い。

<竹内>

研究所のスタッフは実践の中で、スキルを身につけてきた。一番大きかったのは、

総合計画策定に際し、社会経済環境変化と横須賀市をどうみていくか、というテーマ

で金安所長や当時シンクタンク職員で横須賀市のパートナーであった木村氏と議論し

た。その過程で、ファーストステップは、総合計画のような計画を作る過程で、ノウ

ハウや研究者の研究の方法を垣間見ることができたのが大きかった。

その後、他の方法論を考える中で、横須賀市は情報政策や市民協働など、先進的な

政策を打ち出したときに注目される機会が大きく、講演会やセミナーに呼ばれたりと

いう機会が多かった。その中で、会場の皆さんやコーディネーターと意見交換する中

で、担当者のスキルが上がってきたということも挙げられる。

業務面でのスキルアップにつながった部分と、職員研究員のほとんどが学会に所属

し、一年に一回は学会で発表するか、研究誌にレポートを提出するかなど、職員に宿

題を出している。今回の学会でも、研究員2名と専門委員1名が研究報告を行ってお

り、積極的にチャレンジしている。専門委員の指導もあるが、積極的に学会用の論文

を書き、そこでたたいてもらう、という作業を繰り返している。

少しずつの力がアップしていると考えられ、まだわずかな期間であり、実践で学ぶ

部分もあるが、未知の領域でたたかれて強くなる、というのが重要な要素である。

③ 会議体の自治体シンクタンクの今後について(金安→木村)

<金安>

自治体の組織の中で発注と受注という話が出た。会議体の形式をとっている自治体

シンクタンクは全国的にも多くはないと思われるが、今後部署にするのかプロジェク

ト型のような委員会にする方が機動性がよいのか、三浦市の規模や体質、考え方など

とあわせてお聞きしたい。

<木村>

会議体として発足させた背景には、組織設置に伴う負荷を軽減し、またその活動や

成果を見極めたうえで、その後のあり方を検討しなければならないという、いわばリ

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スクヘッジという意味あいがあった。

組織とする場合は、一つは、大塚氏が示唆した企画部門に取り込まれていく、とい

う状態と似た意味で、政策経営室と一体化する、という可能性がある。どちらが主に

なるのかはわからないが、政策経営室と一体化しつつ、政策経営室を補完し、しかも

政策経営室側からは補完を受けずにリソースは外に求めていく、というのが一つの方

法である。

もう一つは、完全な外部化、市民化、ということかもしれない。本市でも相模原市

のように市民研究員を増やしていく構想があるが、いずれ、自立、民間運営していく、

という可能性もある。

④ 自治体シンクタンクと民間シンクタンクの競合について(金安→大塚)

<金安>

自分のこれまでやってきたことに関連して、危惧していることがある。従来、役所

が民間に委託し、委員会が形成され、われわれ大学の教員等が委員等でお手伝いをす

る、といった形式が多かった。しかし、行政内部の政策立案能力が高まり、分析能力

も高まるだろうが、外注する部分は、予算がタイトだからでにくくなった、という部

分もある。

政策立案能力や分析能力が行政に内製化し、かなりの金額が削減されていく中で、

民間シンクタンクへの委託の場合と、これまでの経験を生かしパートナーシップ的に

かかわる場合とでは、民間シンクタンクとしては、取り分が少なくなってしまうので

はないか、という問題がある。最近では入札制度の改革、横須賀市でいえば電子入札

など、受託する側にも厳しくなっていると思うが、その辺はどのように考えているの

かお聞かせ願いたい。

<大塚>

最終的にどういう方向にむかっているかというと、シンクタンクあるいはコンサル

ティングという業種は、確実に市場規模が縮小していくといわざるを得ないし、現在

既に縮小しつつあると考える。ただし、一方で、これまで日本のシンクタンクは本当

にシンクタンクだったのかという疑問もある。すなわち作業受託で仕事を成り立たせ

ていたのではないかという反省である。

知的生産の部分だけで、本当にこの業界で一本立ちしているコンサルタントがどれ

くらいいるのかわからないが、知的生産に特化したコンサルタントにとっては、ほと

んど状況は変わってはいない。たとえば、アンケート調査票の設計をして、調査を実

施し、グラフを作成して、分析レポートを書く。これで委託費数百万円、という仕事

がある。これからは、こういった仕事は、設計と分析は自治体シンクタンクが自前で

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やり、単純作業は事務系の外注先を利用するという形で処理できるようになってしま

う。しかし、こういった知的生産のウエイトが低い業務をこれまでもしてこなかった

しこれからもするつもりもない、というコンサルタントにとっては、今の変革には全

く影響を受けない。

知的生産の部分に特化しているコンサルタントは、プロセスを任せっきりというの

ではなく、こっちも分担してやるから一緒にやろうと投げてくれるクライアントの方

が、出てくる成果も面白いものになるし、仕事の中身が濃くなるという意味で歓迎す

る意識がある。このため、自治体シンクタンクにとって効果的なパートナーシップの

相手となりうると考える。

ただし、自治体シンクタンクが普及することで、前述の通りシンクタンクが従来担っ

ていた役割のうち、ニーズがなくなる部分があることも確かである。この観点からは、

シンクタンクを一つの産業として捉えるなら、自治体シンクタンクが普及すれば少な

くとも需要の総量は減少し、成長性は低下すると判断をせざるを得ない。

<金安>

要は、お金の使い方、とも思える。1970年代前半に、国土開発の分野で若手の研究

者に、お金を渡して、「今世界中で君が研究している分野が、どういう状況なのか見て

報告して欲しい」というやり方を行っていたと聞いたことがあり、それも一つのやり

方であると思える。

例えば民間のシンクタンクに委託をするやり方もあるが、おそらく、特定の分野な

ら博士課程や助手など、ある分野を一生懸命やっている人にお金を渡して、海外に行

って色々な研究をし議論をすれば、その研究者も育つし中身にお金を出す役所の人た

ちもいい成果が得られる。このようなお金の使い方もあるのかな、と思う。

今日議論した自治体のシンクタンクも、税金という性格上、限られた予算について

どのような使い方をしたら最も効果的なのか、ということである。まだ模索中ではあ

ろうが、一つの試みとして、このような形が展開しているのか、とも思える。また、

別の形として、NPOにある額を渡してそこで研究してもらうという手法もあるだろう。

さらに、今は昔と違って、専門的な訓練をうけたシンクタンクの人材が豊富である

し、市民等で専門的な知識を持っている人が無償で研究してくれるかもしれないし、

実費程度で研究してくれるかもしれない。様々な可能性が出てきたので、現在のよう

な状況があるのではないだろうか。

加藤氏の報告の中で「ガバナンス」という言葉が出てきたが、イギリスにおけるガ

バナンスに関する議論を読んでいたときに、様々な組織等がいかに係わり、それらが

どのような連携をとったらいいのか、という例があった。また、マネジメント機能を

どう現代風に柔軟性を持って対応するかというガバナンスなど、その他様々なガバナ

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ンスがある。多様な時代になって私たちはどのような取組みを行ったらうまくいくの

か、という模索の形として色々な議論が生じているのかなという気がしている。

2 フロアトーク

(1)質問1:出資者からの要望及び組織変遷に伴う収入の変化について 加藤氏へ質問がある。シンクタンクの運営ということで、兵庫創造協会が財団法人

ヒューマンケア研究機構へ変遷していく過程で、ヒューマンケアという分野に重点を

置くようになったと理解しているが、県庁のほうから、もっと全般的にやってくれと

いう声があったのかお聞かせ願いたい。また、出資金が変わってきたことについて、

実際の収入の変化は、特化した分野の助成財団からの収入が増えたなど、そういった

ケースがあればお聞かせ願いたい。

<加藤>

統合の際に、様々な議論があった。自分は昨年からの所長であるため、経緯を熟知

しているわけではない。しかし、指摘のとおり、ヒューマンケアという地域政策その

ものとは少し違うカテゴリーの中で、従来の地域政策を継続しなければならない、と

いうことについては常に議論している。

広い意味で、ヒューマンケアは造語だが、我々は阪神淡路大震災を経て、ボールデ

ィングが言っているヒューマンベターミングという、よりよく生きることの重要性を

体感した。現在はそういう視点から地域政策研究を行う、としている。

県庁からは特にダイレクトにそういった要望はない。おそらく管理する総括部門に

は、なにかオーダーがあるかもしれないが、我々研究サイドには、管理的な側面から

意見がなされることはない。

収入面では、自治体財政が逼迫しているということもあって、これまでは、基礎自

治体、市や町からの依頼が多かったが、その部分の予算が減少している。全員が県職

員ではなく、半分以上がコンサルタントの方が非常勤で兼ねていたり、我々のような

大学の教員が兼務していたりする。そういった意味での柔軟性は自治体研究所として

は持っている。現時点では何とかやっているが、財団そのものの再編が大きな議論と

なっているので我々も無関係ではいられない。

(2)質問2:金・情報・人材、及び情報共有方法について

2点伺いたい。1点目は、県レベルの研究機関では、整理統合の対象となっている

なかで、金・情報・人材について、自治体シンクタンクにおいて内部から仕事を依頼

される場合、公務員は費用的な意識がない場合が多いので、限界費用はどのように整

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理されているかお聞きしたい。

2点目はシンクタンクの生命は情報共有である、ということに関連して、各氏はど

のようにこれを確保しているのか、ということである。キーポイントは住民との情報

共有、分野を横断した情報共有、時系列的に担当が替わっても情報が共用できる、と

いうことであると考えられる。木村氏の指摘通り、これから求められる付加価値はソ

リューションがワンストップサービスか否かである、と考えられる。また、プロデュ

ーサーが重要であるし、これからは必要になってくると考えられる。しかし、大塚氏

の指摘のように、そもそも本当は行政の仕事ではないかとも考えられるので、そのあ

たりをお聞かせ願いたい。

<加藤>

ソリューションは、基本的には自治体の研究所が担っていくことが重要である。お

そらく地域の問題にはソリューションがなく、議論していくプロセスをどうプロデュ

ースしていくかについて、自治体の職員も我々もあまり持っていない。このあたりに、

自治体の役割や専門性があるのではないか、と考えられる。

<竹内>

庁内において、庁内コンサルティングが非常に増えている。金銭的というよりも、

時間と研究員が対応しきれる容量か否かが重要なテーマとなってくる。ひとりの研究

員が3つも4つも重ねて仕事をするというケースが出てきて、先々人数的に限界が出

てくるという懸念はある。

また、情報共有について、都市政策研究所では、市民参画型のセミナーを実施して

いる。研究のスタート時や研究報告がまとまった段階でセミナーをやっており、大体

150人くらい集まる。去年はまちづくり基本条例研究、その前年はユニバーサルデザ

イン(UD)研究であった。市民が参加しやすいテーマについては、やはり盛況である。

研究所のホームページやメールマガジンは手探り・手作りの状態であるが、メールマ

ガジンについては 200人くらいに送付している。

<木村>

自治体のソリューションがどこにあるのか、正直に言えばよくわからない。ただし、

ソリューションと表裏一体にあるのは、コンセンサスとかデシジョンだと思われる。

三浦市だけの事情を言えば、現在はみうら政策研究所に市民的なコンセンサスを形

成していくという能力はないし、デシジョンという点でも、会議体であるという限界

がある。つまり、事務局を市役所企画情報課が持っているという都合上、組織体とし

ての統一的なデシジョンを持ちあわせてはいない。プロデューサーという話であれば、

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政策経営室長である私がプロデューサーという役割を担っていると考えられる。現在

は、私が市民・議会・行政全て含めたところでの、デシジョンという責任を負う立場

にあるのであって、研究所がその責を負う立場にはない。

(3)質問3:市民、地域住民とのパートナーシップについて

自治体シンクタンクのパートナーシップの相手方として、学系や民間シンクタンク

として議論頂いたが、ダイレクトに市民、地域住民とのパートナーシップをどのよう

に考え・実際に行っているのか、お聞かせ願いたい。

<加藤>

この点は、重要な課題であり、実際にどういう踏み出し方をした方がいいか、研究

所で模索しているところである。市民研究員、県民研究員等を公募していることや、

今行っている研究は全て公開していること、あるいは研究の中でも市民の方と協働で

研究できるものについては、一緒に研究を行うよう提案していること、などが挙げら

れる。

実際に、ある研究に 10人くらいの方が応募されて、公募研究員の方々とやり取りし

ながら進めている。ただし、我々が行っている研究に、完全に組み込まれる形ではな

かなか難しいので、現時点では試行錯誤をしている最中である。

<竹内>

横須賀市では、研究所設立当初から、市民研究員に関する議論はあった。しかし、

市民研究員制度については、職員研究員や学系研究員が、市民研究員をサポートする

事務局的立場になってしまう例が多い。

現在では市民参画型のワークショップや勉強会の中で、市民との協働研究を進めて

いくという方針であるため、今のところはすぐに市民研究員制度を設けることは考え

ていない。

<木村>

三浦市は、人口約5万人の市で、議員定数が 18人ということもあり、議員が非常に

身近な存在である、という面がある。研究所で出した成果は公開しているので、研究

所で出した成果が議会において議論になるということがしばしばあり、それが比較的

平場での議論という形になっているという面がある。すなわち、市民との接点の一つ

として議会があると考えられる。

市民研究員の導入については、設立当初から模索をしているが、なかなか実践に至

っていない。

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組織体としての方向性は、一つは政策経営室との一体化である。一体化すると、政

策経営室は補助執行機関としての一部を構成している責任ある立場であるから、いわ

ゆる市民参加のシステムを行政として作っていかに稼動させていくか、ということが

重要である。もう一つは、組織として、市民化して、市民シンクタンクとして独立化

して欲しいという願いもある。この場合は、市民シンクタンクと政策経営室とのパー

トナーシップ、という形になっていくと思う。

<大塚>

市民とのパートナーシップについて、自治体シンクタンクの政策形成に係る機能の

うち、判断・決定に関わらない基礎研究だけ行うのであれば全く問題はない。しかし、

判断・決定に関わる機能を担うというのであれば、これは市民協働全般に関する議論

になるが、市民が参画をした場合にある種の権限がそこに生じてしまうという懸念が

ある。この部分をどう調整するかが大きな問題である。

行政内部に外部から人を受け入れる制度として、任期付採用や嘱託、専門委員等が

ある。こういった人々に対しては、任期付採用は公務員法の適用を受けるし、適用を

受けない特別職の場合でも、ある程度採用にあたってスクリーニングがかけられてい

るから良い。

しかし、一般公募で参画した市民を、無原則に政策の判断・決定に影響力を行使で

きる立場に立たせて良いのかは多いに疑問である。極端な例をいえば、ある自治体シ

ンクタンクにおいて、市民研究員が「わが街には新たな図書館が必要である」という

政策提言を取りまとめ、実はその市民が「○○市に図書館をつくる会」の会員であっ

た時、その政策提言をどう取り扱えば良いのか。これは、自治体シンクタンクに限ら

ず市民協働全般の問題でもあるが、多くの自治体シンクタンクで導入されている市民

研究員のあり方を考える上で、今後重要となってくるだろう。

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おわりに

本ワークショップでは、自治体シンクタンクにおけるパートナーシップには、多様

な相互関係が存在し、それぞれの立場における主張があることが明らかにされた。こ

れを踏まえたうえで、自治体シンクタンクのより良い展開につなげていくためには、

以下の二つの次元においてバランスの取れたパートナーシップが必要となると考えら

れる。

第一の次元は、距離感と緊張感である。距離感とは、相互の関係が接近しすぎず離

れすぎずという関係である。緊張感とは、緊張で萎縮することもなく、馴れ合いにな

ることもない関係である。

第二の次元は、理解と協力である。理解とは盲信することではなく、地域や立場が

違うことに対する理解である。協力とは従属ではなく、自治体シンクタンクの限界を

補完するための協力である。

自治体シンクタンクにおけるパートナーシップはこれら二つの次元においてバラン

スが取れた状態でその真価を発揮するであろう。今後もこうした機会を設け、生産的

に議論を積み上げることによって、より良い自治体や地域のあり方を考えてみたい。

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2005(平成 17)年 2 月発行 横須賀市都市政策研究所

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