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国際化時代に対応したファッションビジネス教育カリキュラム戦略の一考察
-神戸国際大学講義体験を踏まえて-
山 本 ひとみ
Ⅰ はじめに
近年、日本のアパレル業界は不振にあえいでいる。特に日本を代表する、オンワードホールディングス、ワールド、TSI ホールディングス、三陽商会といった 4 社が大幅赤字を計上し店舗の閉鎖やブランドの撤退が相継いでいることから、日本のファッション企業では経営のあり方を根本的に見直し、そこに関わる組織や人材育成のあり方も見直していかなければならなくなっている。 そんな中、2019年度より実践的な職業教育を行う高等教育機関として「専門職大学」1)が創設されることが文部科学省で決定された。したがって専門職大学と大学との差別化を明確化し、専門教育と教養教育や学術研究を併せておこなうという従来の大学の教育カリキュラムのあり方も見直していく必要がでてきた。 アメリカではすでに、グローバル市場に対応できるようファッションビジネスに特化したMBA カリキュラムが構築されている。例えばドレクセル大学(DrexerUniversity)2)やパーソンズ大学(ParsonsSchoolofDesign)3)では、エグゼクティブクラスの実務家が直接指導し、数多くの産学協同プロジェクトやインターンシップの機会を設けて、実践的教育を実施している。しかし、日本の大学や専門学校のファッションビジネス教育は、いまだに家政系の域から脱却できずに経営的視点で捉えることができていない。 本研究は、このような環境変化に対応できる未来志向型のファションビジネス教育を体系化するために、神戸国際大学のファッションビジネスコースで検証し、今後の方向性を検討することを目的としている。 未来志向型のファションビジネス教育の考え方とは、商業論視点で捉えるファッション感性価値を創造したビジネス体系である。これまで消費者と生産者との間の取引問題を担当する商業者のあり方を学問的に研究し「商業者」の人材育成に貢献してきたのは大学の商学部や商業高校で
1) 専門職大学等は、大学制度の中に、実践的な職業教育に重点を置いた仕組みとして制度化するものであり、産業界との密接な連携により、専門職業人材の養成強化を図り、また、大学への進学を希望する方にとっても新たな選択肢が広がるものである。(専門職大学・専門職短期大学:文部科学省 .webloc より引用2017年 8 月20日閲覧)
2) フィラデルフィアのドレクセル大学はファッションビジネスに特化した MBA プログラムを構築しており、DesignandMerchandising はファッションとビジネス教育のバランスのとれたプログラムである。(Design&Merchandising¦WestphalCollegeofMediaArts&Design¦Drexel.webloc より引用2017年 8 月20日閲覧)
3) ニューヨークにあるパーソンズ大学が提供するファッションマーケティングに特化したプログラムは、デザイン、クラフト、マーケティングをバランス良く学べ、オンキャンパス(通学)でもオンライン(通信)でも受講可能である。(Parsons-Fashion,ArtandDesignSchoolinNewYork¦TheNewSchool.webloc より引用2017年 8 月20日閲覧)
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あった。ただ商学や商業学では、売り物として値段をつけた商品の売買にかかわる業務を効率的に行う方法を教育してきた。したがって、その研究は取引対象の商品が主体であって消費者が喜ぶ感性的価値そのものにあまり焦点を充ててこなかった。 しかしファッション消費者から見ると主観的な感性価値を自分で判断して購入しているのであって、商品という取引対象が主体ではなく、そのファッションを楽しむことによって得られる感情的な体験価値が重要になっている。したがって、このような体験価値を商業論的視点で捉え、教育カリキュラムを立案していくことが重要だと考える。
Ⅱ 研究の背景
現在、ファッション分野を持っている 4 年制大学、短大、専門学校のカリキュラム構成は、クリエイティブ系とビジネス系の 2 本立てで、物作りと販売を分離して組み立てられているケースが多い。この考え方はブランド価値を構築する考え方につながらず、服という物を売る発想であって、ブランドを売る発想ではないといえる。 このような教育背景に対して、ここでは「ファッション商学」の視点に立った、 4 年制大学のファッションビジネス教育カリキュラム戦略を試論的に考察することにしたい。 ファッションビジネスに関する研究は長年継続しているが、未来志向型のファッションビジネス教育に至るまでのカリキュラム研究においては、以下のような研究をおこなってきた。
1 .服飾系専門学校のビジネス教育の体系を構築 最初の研究活動となったのは、服飾系専門学校のビジネス教育の体系づくりである。この構築は1980年~1990年代にかけて菅原が主体となって、ファッションビジネス教育のカリキュラム開発とテキスト作りを手掛け、全国専修学校各種学校総連合会4)が主催で教員教育を実施している。ここに山本も参加し、服飾系の専門学校のビジネス教育の体系を構築していった。ここでは「ファッションアドバイザー入門(接客編)」「ファッションアドバイザー入門(スタイリスト編)」「VMD に強くなる本」「ショップマスター読本」のテキスト本をまとめている。
2 .ブランディングシリーズのテキスト作り 1995年から2000年にかけて、それまでの流通企業の理論的基盤が大きく変化しつつあるのを察知して、次世代流通企業研究会5)が中心になって「次世代マーケティング・シリーズ」(全 5 巻)を山本も参加してまとめた。それから10年が経過し、マーケティング研究の重点がブランディング研究のほうに移行し始めたために、その新しい流れを「次世代シリーズ」と区別して「新世代シリーズ」の編集に新たに取り組み、ブランディングシリーズ全 4 巻をまとめた。「企業ブランディング:新世代マーケティング」「リテール・ブランディング:新世代流通企業」「コミュニティ・
4) 専修学校及び各種学校における教育の振興を図る事を目的としており、地位の向上に資する事業や一般財団法人職業教育・キャリア教育財団の運営に対する協力などをおこなっている(http://www.zensenkaku.gr.jp/profile/index.html より引用2017年 9 月 6 日閲覧)
5) 流通業界のコンサルタント・会社役員及び各大学教員等のメンバーで集結した次世代流通を研究するグループである。1995年~2005年にかけて約10名~15名のメンバーで活動し次世代シリーズ全 5 巻を中央経済社より出版した。「次世代マーケティング」(1997)「次世代流通企業」(1998)「次世代広告コミュニケーション」(1998)「次世代ショッピングセンター」(2000)「次世代流通サプライチェーンマネジメント」(2001)
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ブランディング:新世代ショッピングセンター」「メディア・ブランディング:新世代メディアマーケティング」のテキストである。これらは京都産業大学で山本が担当していた 4 科目のテキストとして 9 年間継続して使用し、現在も大島が講師を務め使用している。
Ⅲ 研究目的
まず本研究の目的を明確化するために、図 1 に示している「 4 年制大学が目指すファッションビジネス教育の位置づけ(現状と今後)」を想定した。 現状の 4 年制大学、短大、専門学校は縦軸の上に示す「技術能力教育」と横軸の右に位置する「未来の専門職育成」のところに集約されていると考える。この「技術能力教育」とは、クリエイティブ系では物作りを創造するデザインや縫製、パターンといった内容で、ビジネス系では商品企画やマーチャンダイジング、売場づくりといった内容になる。これらの知識や技術を身につけることにより将来は、デザイナー、パタンナー、マーチャンダイザー、バイヤーといった職業に就くことができる。これらはスペシャリストと呼ばれる「未来の専門職育成」であり職人的教育ともいえる。
図 1 4 年制大学が目指すファッションビジネス教育の位置付け(現状と今後)(出所)筆者作成
しかし今後重要なのは、グローバルな IT 社会に打ち勝っていける経営者視点に立った人材育成である。したがって矢印で示しているように、 4 年制大学は縦軸の下に示す「経営能力教育」と横軸の左に示す「未来の管理職育成」のポジションに位置しなければならない。専門学校は「技術能力教育」は強みになるため、専門職大学として展開される場合は、「技術能力教育」と「未来の管理職育成」に位置付けられる。この考え方はスペシャリストを経て管理職になるケースを進路としている。短大の場合は、 2 年制ということで未来の管理職を目指す教育をするには時間が短いため、短大から 4 年制に編入するか、卒業して社会人を経験してから再度、専門職大学や
技術能力教育
経営能力教育
未来の 専門職育成
未来の 管理職育成
専門学校
4年制大学
短期 大学
今後 4年制大学
専門職大学
今後4年制大学が目指す方向性は管 職や経営者的視点で捉えることが出来
る人材を育てる教育
現状の位置付け 今まで業 が めていた
のは専門知識と技術に長けた人材
短期大学
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4 年制大学に行くという考え方で、将来への職業イメージを在学中に充分に指導していくことが重要となる。 このポジショニングの考え方は、専門職大学と 4 年制大学の差別化を明確化することに重きを置いており、本研究の主体となっている 4 年制大学は、在学中に未来の管理職を目指した経営能力を身につける教育が必須と考えている。今までは大学院で学ぶ事だったが、 4 年制の間に基礎レベルとなる経営能力を学び、卒業後の新入社員の時点から未来の管理職を目指して業務をこなしていくことを指導しなければならない。そのためには、在学中にキャリアプランを指導し、経営者視点で捉えることが出来るよう教育していくことが重要となる。 以上の方向性を想定して、本研究は 4 年制大学が目指す未来志向型のファッションビジネス教育カリキュラムの一考察として、神戸国際大学のファッションビジネスコースで検証し、検討することを目的とする。
Ⅳ 先行研究
専門職大学と 4 年制大学の差別化を明確化する先行研究として、まず現状の東京、大阪における11校のファッション専門学校の特徴を、HP を参考にまとめた(山本2013)。6)次に専門職大学の事例研究となるヨーロッパの専門学校にも注目し、その代表事例となる「マランゴーニ・ファッション・スクール」7)のカリキュラムを分析した(山本2013)。8)また 4 年制大学の研究として「ファッションMBA推進機構」9)で立案したファッションMBA基礎教育におけるカリキュラムを再考した。
1 .日本と海外の専門学校のカリキュラム比較検証 まず日本の専門学校の特徴を理解するために専門領域分類のポジショニングを作成した。図 2と図 3 はそれを示したものである。横軸に示す 3 つの分類だが「クリエイション教育重視:プロ育成」は卒業制作でのファッション・ショーを重視し服飾系の衣服構成のコース科目が中心という考え方である。「ファッションビジネス教育重視:夢が実現できる」はファッション販売、ファッションマーケティングといったビジネス系科目が中心の考え方である。「ライフスタイル教育重視:あこがれの職業」は服飾系でファッション・デザインを中心としたデッサンやファッションスケッチング科目が中心の考え方である。 本分析においては HP のみを参考にし、11校の学科構成、年制、カリキュラム等すべての記載内容を解読した。その結果、東京、大阪ともにクリエイション教育とビジネス教育に 2 分化しており、未来の管理職を育成するマネジメント系における統合科目が欠落していることが理解できた。 また縦軸の最上部に示す「プロ育成 社会人 ポストグラジュエイトクラス」においては、
6) 山本ひとみ(2013)「ファッション職業変容に対応した教育カリキュラムの新提案」ファッションビジネス学会全国大会(文化学園大学開催)で発表
7) マランゴーニ学院 ( 専門学校 ) は1935年ミラノで創立。当時より、モード界において即戦力となる高い技術をもつ専門家、プロを育て上げることを基本理念とし、ミラノ、パリ、ロンドンに拠点を構えている。(www.istitutomarangoni.com/en.webloc より引用 2013年 9 月 1 日閲覧)
8) 山本ひとみ(2013)「イタリア・マランゴーニ・ファッションスクールカリキュラム分析」ファッションビジネス学会 ファッション商業論カリキュラム研究会で発表
9) 2013年に、菅原、山本、大島の 3 人で立ち上げたファッション MBA 推進機構で、チーフオフィサーを 目指す教育の考え方を基盤に、ファッション MBA 教育のカリキュラムを研究している。
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国際化時代に対応したファッションビジネス教育カリキュラム戦略の一考察−神戸国際大学講義体験を踏まえて−
ファッション MBAに値する大学院を記入したものである。ここでは東京は杉野服飾大学大学院や文化ファッション大学院大学が存在するが、大阪ではそこに値する大学、専門学校は存在しないことが理解できた。 次に2000年に入って欧米でのファッション専門学校の教育のあり方も大きく変わり始めたため、ヨーロッパの専門学校に注目した。特に、パリ、ミラノのラグジュアリーブランド企業が、
図 2 専門領域分類:東京編
図 3 専門領域分類:大阪編(出所)筆者作成
山本ひとみ(2013)「ファッション職業変容に対応した教育カリキュラムの新提案」発表資料より引用
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『神戸国際大学紀要』第93号
表 1 マランゴーニ・ファッション・スクールのカリキュラム(2013年度)
(出所)菅原作成山本ひとみ(2013)「イタリア・マランゴーニ・ファッションスクールカリキュラム分析」発表資料より引用
アジアを始め世界各国の主要都市に出店を始めたために、そのグローバルビジネスを支える管理職の養成が急務になった。 そこで、クリエイターへのビジネス教育が構築されている、ミラノに本拠を置く「マランゴーニ・ファッション・スクール」のカリキュラムを分析した。表 1 はそのカリキュラム概要をまとめたものである。 このスクールでは、 1 年目の大学基礎コースからファッションを芸術デザインと捉え、統合的に学ぶ構成になっており、art&design(芸術デザイン)といったファッション特有の感性・感覚面を学問的に理論立てて理解する方法がとられている。しかも理論立てた感性感覚を視覚的かつ多角的に捉える訓練がプログラム化されており、文化、感性といった個人的主観となる抽象的視点を定性的に捉えるよう明確化されている。 また 1 年目の段階からブランドやマネジメントといった言葉が多く、商品ではなくブランドを捉えるという視点で構成されており、culturalcontext(文化的背景)fashionandculture というように文化的視点で捉え顧客の感性的満足とブランドづくりとの関係性を強調していることがわかる。 以上のような内容で日本と海外のカリキュラムを比較検証した結果、日本の専門学校が得意としている物作りを重視した技術教育と商品販売視点での実務的ビジネス教育に対してマランゴーニは芸術文化的視点で概念と関係性を重視しており、ブランディング等のマネジメント系科目が充実していることが理解できた。つまり、日本の専門学校は、スペシャリスト(専門職)を育てる考え方で構成されており、ヨーロッパではチーフオフィサー(管理職)を育てる考え方であるといえる。
表1 マランゴー二・ファッション・スクールのカリキュラム(2013年度)
表1 マランゴー二・ファッション・スクールのカリキュラム(2013年度)
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国際化時代に対応したファッションビジネス教育カリキュラム戦略の一考察−神戸国際大学講義体験を踏まえて−
2 .ファッション MBA 基礎教育カリキュラム研究 4 年制大学の研究として「ファッション MBA 推進機構」で立案したファッション MBA 基礎教育におけるカリキュラムを再考した。図 4 は 1 年生~ 2 年生前期までのもので、表 2 は 2 年生後期~ 4 年生までの内容である。 未来の管理職を目指した本カリキュラムは、 1 年前期の段階からクリエイティブ系とビジネス系を合同で教育し、ファッション・クリエイション+ファッション・テクノロジー+ファッション・マネジメントを 2 年生前期までにマスターしていくことを目標としている。また高級ブランドなのか、ファストファッションなのかといった業態によって顧客層や商品企画、販売企画の仕組みが大きく違うため、 2 年生後期の段階で業態を選択できる構成を組み立てており、より実践的に教育していく考え方である。
図 4 4 年制大学のファッション MBA 基礎科目カリキュラム( 1 年~ 2 年生前期科目)(出所)菅原作成をもとに筆者が再作成
山本ひとみ(2014)「ファッション MBA 基礎教育・チーフオフィサーを目指す教育の考え方」発表資料より引用
図4 4年制大学のファッションMBA 基礎科目カリキュラム(1年〜2年生前期科目)
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表 2 4 年制大学のファッション MBA 基礎科目カリキュラム( 2 年後期~ 4 年生科目)
(出所)菅原作成山本ひとみ(2014)「ファッション MBA 基礎教育・チーフオフィサーを目指す教育の考え方」
発表資料より引用
Ⅴ 検証方法
以上の先行研究をもとに、神戸国際大学のファッションビジネスコースで「ファッションMBA 基礎科目カリキュラム」の考え方を取り入れ検証してみた。 神戸国際大学のファッションコースは非家政系で、洋服だけでなくライフスタイル全体を捉えて教育するというコンセプトであるため、ファッション・マネジメントとファッション・テクノロジーにウエイトを置いて構成した。このカリキュラムの到達目標は、出口戦略である。「就職に役立つ知識」「企業ブランド知識」「総合職:感性+経営能力」といった実践的能力を身につけることを目的として組み立てている。図 5 はその科目構成を示したものである。 1 年生の段階でファッションビジネスコースに興味をもつきっかけとなるよう、感性分類の基礎学習となるイメージレッスンを「ファッション心理」の科目に導入した。これはファッションMBA 基礎科目カリキュラムの「ファッション美学概論」に値する内容で、パソコンを使用しながら数多くのビジュアル画像をテーマに沿って分類していくレッスンである。また 1 年生の早々から「企業ブランディング」となるファッションビジネスに欠かせないブランドイメージ作りと生活文化概念を「ファッション生活論」の科目に導入し、マネジメント的視点で捉える教育を実施した。 2 年生ではファッション・マネジメント科目となる「リテール・ブランディング」を「ファッションビジネス論」の科目に導入し、その他の科目はファッション・テクノロジーの内容を加味しながら内容調整を図った。「メディア・ブランディング」を「マーケティングコミュニケーション」に、「オムニメディア消費者行動論」を「消費者心理」に、「メディアデザイン概論」を「アートマーケティング」にそれぞれ導入した。
表2 4年制大学のファッションMBA 基礎科目カリキュラム(2年後期〜4年生科目)
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国際化時代に対応したファッションビジネス教育カリキュラム戦略の一考察−神戸国際大学講義体験を踏まえて−
図 5 2016年~2017年度の神戸国際大学・ファッションビジネスコースの科目構成 (出所)筆者作成
プロゼミでは、よりリアルに身近な内容が学べるよう、ファッションショップの運営や出店戦略といった、販売員や店長、店舗開発担当の業務内容を学習していくことを実施した。これはファッション MBA 基礎科目カリキュラムでは「ファッションリテール概論」と「コミュニティ・ブランディング」に値する内容であるが、学生が直接見たり聞いたりしたことのある職業の業務内容を学ぶということを目標にし、ここでは就職して即役立つ事柄に絞り込んで進行していった。
Ⅵ 検証結果と考察
本研究は 4 年制大学が目指す未来志向型のファッションビジネス教育カリキュラム戦略の一考察として、神戸国際大学のファッションビジネスコースで検証し、検討することを目的としたが、検証の結果、現状の科目構成では不十分な要素が多々あることが解明できた。 山本が実際に講義を実施したことで得られた内容は、それぞれの科目は丁寧に演習を導入しながら進めていくことにより、本学の学生は充分に興味を示し理解をしてくれるということであった。したがって、この検証結果で明らかになったことは、部分的に科目を追加していくことではなく、体系立てた科目構成全体を組み立て直すことである。特に未来の管理職育成を目指すためには、マネジメント系の科目に沿った体験学習を充実させ、ファッションビジネスコース全体の構成バランスを学生に理解させないと意味が無いと考えられる。つまり、 1 年生から 4 年生までの科目全体を総合的に理解することは、未来の管理職で必要な要素をすべて理解する事につながるということである。 以上のような検証結果から導き出したファッションビジネスコースの改善案が、図 6 である。ここでは新規導入していく科目と、既存科目の内容変更及び移動を示している。まず新規導入し
図5 2016年〜2017年度の神戸国際大学・ファッションビジネスコースの科目構成
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ていく科目は「サプライチェーンマネジメント論」「ファッションバイヤー論」である。既存科目の内容変更及び移動は「ファッション生活論」に「ファッションマーケティング」内容を新規変更し前期に移動する。「企業ブランディング」は独立させ 2 年生後期に配置する。また「マーケティングコミュニケーション」は 2 年生の後期ではなく前期に移動する。
図 6 神戸国際大学・ファッションビジネスコースのカリキュラム改善案(出所)筆者作成
Ⅶ おわりに
以上のような改善案カリキュラムはあくまでも一考察であるが、実行するには、エグゼクティブクラスの実務家講師を導入し、より実践的に教育していくことが重要となる。また体験学習を充実させ、体系的なロジックとともに、身体で理解する訓練をおこなうことも必須といえる。そのためには、企業とのタイアップや専門職大学を目指す専門学校との連携が望ましいと考える。徐々に山本独自でこのような試みを始めているが、ファッションビジネスコースだけでなく、国際文化ビジネス観光学科全体とのカリキュラムの連携、さらには、経済経営学科との学科間の連携も思考したいと考えている。
参考文献1 )杉原淳一、染原睦美(2017)「誰がアパレルを殺すのか」日経 BP 社2 )尾原蓉子(2016)「Fashion Business 創造する未来」繊研新聞社3 )高原昌彦(2013)「ファッションビジネス入門」繊研新聞社4 )塩田千織(2017)「ファッション・ストアマネジメント学科の感性教育に関する一考察- FA プロフェッショナルを目指したアクティブ・ラーニング方法-」第12回日本感性工学会春季大会予稿論文集 企画セッション 2 :ファッション美学とサービスデザインで掲載:USBmemory)
5 )菅原正博、山本ひとみ、大島一豊、他(2010)「企業ブランディング:新世代マーケティング」中央経
図6 神戸国際大学・ファッションビジネスコースのカリキュラム改善案
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済社6 )菅原正博、山本ひとみ、大島一豊、他(2010)「リテール・ブランディング:新世代流通企業」中央経済社
7 )菅原正博、山本ひとみ、大島一豊、他(2011)「コミュニティ・ブランディング:新世代ショッピングセンター」中央経済社
8 )菅原正博、山本ひとみ、大島一豊、他(2012)「メディア・ブランディング:新世代メディアマーケティング」中央経済社
9 )マランゴーニ・ファッション・スクール HP www.istitutomarangoni.com/en.webloc 2013年 9 月 1 日閲覧
10)専門職大学・専門職短期大学:文部科学省 .webloc http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/senmon/index.htm 2017年 8 月20日閲覧
参考資料1 )山本ひとみ(2008)「ファッション・ブランディングにおける人事部の新しい戦略的課題」発表資料 ファッションビジネス学会全国大会 杉野学園開催
2 )山本ひとみ(2013)「ファッション職業変容に対応した教育カリキュラムの新提案」発表資料 ファッションビジネス学会全国大会 文化学園大学開催
3 )山本ひとみ(2013)「イタリア・マランゴーニ・ファッション・スクールカリキュラム分析」発表資料 ファッションビジネス学会 ファッション商業論カリキュラム研究会
4 )山本ひとみ(2014)「ファッション MBA 基礎教育・チーフオフィサーを目指す教育の考え方」発表資料 ファッションビジネス学会 ファッション商業論カリキュラム研究会
5 )山本ひとみ(2014)「オムニチャネルに対応した人材育成方法」発表資料 ファッションビジネス学会、関西支部合同研究会大阪文化服装学院開催
6 )山本ひとみ(2014)「オムニチャネルブランドビジネス教育」発表資料ファッションビジネス学会、関西支部合同研究会・大阪文化服装学院開催
7 )山本ひとみ、松岡依里子(2014)「短期大学の未来型教育」発表資料 ファッションビジネス学会全国大会 大阪文化服装学院開催
8 )山本ひとみ(2017)「行政と取り組む実践的 MBA 基礎教育」発表資料 ファッションビジネス学会全国大会 大阪文化服装学院開催