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成長の喜びを実感しながら活動する子どもを育てる 幼稚園教育・生活科学習指導の在り方 -自己の変容への気付きを促す教師の支援を通して- 福岡市教育センター 幼稚園教育・生活科研究室 子どもが,成長の喜びを実感しながら活動するためには,自己の変容に 気付くことが必要である。そこで本研究室では,子どもが「活動への願い をもつ」「自分の学びを振り返る」「自分自身のよさや可能性に気付く」 ための教師の支援の工夫や関連などを中心に検討し,授業改善を行った。 その結果,活動における自分の工夫や努力の足跡を通して,自分のよさや 可能性に気付き,成長の喜びを実感しながら活動する子どもを育てること ができた。 平成 26 年度 研究紀要 (第951号)

成長の喜びを実感しながら活動する子どもを育てる 幼稚園教 …...イ 幼稚園教育要領と小学校学習指導要領の目標から 幼稚園教育要領では,領域「人間関係」の「内容の取扱い」に「幼児が自己を発揮し,教師や

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成長の喜びを実感しながら活動する子どもを育てる

幼稚園教育・生活科学習指導の在り方

-自己の変容への気付きを促す教師の支援を通して-

福岡市教育センター 幼稚園教育・生活科研究室

子どもが,成長の喜びを実感しながら活動するためには,自己の変容に

気付くことが必要である。そこで本研究室では,子どもが「活動への願い

をもつ」「自分の学びを振り返る」「自分自身のよさや可能性に気付く」

ための教師の支援の工夫や関連などを中心に検討し,授業改善を行った。

その結果,活動における自分の工夫や努力の足跡を通して,自分のよさや

可能性に気付き,成長の喜びを実感しながら活動する子どもを育てること

ができた。

平成 26 年度

研究紀要

(第951号)

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目 次

第Ⅰ章 研究の基本的な考え方

1 主題について ····················································· 幼・生‐1

(1) 主題設定の理由

(2) 主題及び副主題の意味

2 研究の目標························································ 幼・生‐3

3 研究の仮説························································ 幼・生‐3

4 研究の構想························································ 幼・生‐3

5 研究構想図························································ 幼・生‐4

第Ⅱ章 研究の実際

【幼稚園 年中児】活動名「秋の自然で遊ぼう」

1 研究の実践························································ 幼・生‐5

2 分析と考察························································ 幼・生‐7

【小学校 第2学年】単元名「うごくおもちゃを つくってあそぼう」

1 研究の実践························································ 幼・生‐9

2 分析と考察························································ 幼・生‐12

【小学校 第2学年】単元名「大すきはかた とう明まつり」

1 研究の実践························································ 幼・生‐13

2 分析と考察························································ 幼・生‐16

第Ⅲ章 研究の成果と課題

1 研究の成果························································ 幼・生‐17

2 研究の課題························································ 幼・生‐18

資料等 ································································ 幼・生‐18

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幼・生‐1

第Ⅰ章 研究の基本的な考え方

1 主題について

(1) 主題設定の理由

ア 今日的課題から

近年,子どもを取り巻く環境の変化や人間関係を形成する力の低下,学ぶ意欲の低下や自尊感

情の乏しさ,小1プロブレムなどに見られる自制心や規範意識の低下などの教育的課題が叫ばれ

ている。特に,小1プロブレムの問題については,保幼小のなめらかな連携を図る必要性が求め

られている。

平成 19 年2月に内閣府が行った「低年齢少年の生活と意識に関する調査」(対象は小学校4年

生から6年生)では,「自分に自信がある」という設問で,「あてはまる・まあまああてはまる」

と答えた小学生の割合が 47.4%という結果が出ており,平成 11 年に実施された同調査の 56.4%

と比較して減少している。同調査は,幼稚園児や小学校低学年の児童を対象にはしていないが,

幼稚園教育要領と小学校学習指導要領生活編においても,自信を高める必要性が述べられており,

幼児期からこのことを念頭においた取り組みを継続的に進めることが必要であると考えられる。

また,平成 22 年 10 月に文部科学省で行われた「幼児期の教育と小学校教育の円滑な接続の在

り方に関する調査研究協力者会議」では,パソコンや携帯電話の普及により家族の会話が少なく

なっていることや,核家族化や少子化の進展により,兄弟姉妹や友人同士で遊び切磋琢磨したり,

祖父母等と触れ合ったりする機会が減少していることが示されている。そして,このことにより

子どもが他者への関心を失い,自己中心的な人間関係を形成しがちであるという問題が指摘され

ている。

そこで,自分と身近な人々,社会や自然との関わりに重点を置く学習を通して,幼稚園と小学

校が連携し,成長の喜びを実感しながら活動する子どもを育てることが大切であると考えた。

イ 幼稚園教育要領と小学校学習指導要領の目標から

幼稚園教育要領では,領域「人間関係」の「内容の取扱い」に「幼児が自己を発揮し,教師や

他の幼児に認められる体験をし,自信をもって行動できるようにすること」と示されている。子

どもは,日々の遊びや生活の中で,自分なりのよさを認められることにより安心し,活力を得て

自信をもち,この自信を基盤として,人とかかわる力を身につけていく。つまり,子どもは自分

が認められることで友達のよさも認められるようになっていくと考えられる。

小学校学習指導要領では,「学習上の自立」,「生活上の自立」,「精神的な自立」の三つの

意味での自立への基礎を養うことが生活科の教科目標として意図されている。本研究においては,

この中の「精神的な自立」に重点をおいて研究していきたいと考えている。「精神的な自立」と

は,自分のよさや可能性に気付き,意欲や自信をもつことであり,自己の変容に気付いていくこ

とがその実現に大きく関係すると考える。

また,生活科の改善の基本方針には,身近な人々や社会,自然とかかわる活動を一層充実させ

ることや気付きの質を高める学習指導を重視することが提言されている。それを受けて,活動や

体験を振り返り,自分なりに整理したり,そこでの気付きを友達と伝え合ったりする学習活動を

充実するよう示されており,気付きの質を高める伝え合う活動の必要性が強調されている。この

ような伝え合う活動を通して,友達の考えのよさに触れたり,自分の考えを認めてもらったりす

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幼・生‐2

ることで自分のよさや可能性に気付いていけるものと考えている。

ウ 「新しいふくおかの教育計画」と幼児・児童の実態から

本市では,「新しいふくおかの教育計画」における「公教育の福岡モデル」の「子どもたちの

力を引き出し発揮させる教育」の中に,「『生きる力』をはぐくむためには,子どもたちのやる

気を引き出し,意欲を高め,子どもが伸びようとする態度を支援することが大切」とある。これ

は,本市の子どもたちに,社会の中でよりよい人間関係を築き,自分の能力を発揮していくため

のコミュニケーション能力が不足していること,思考力や表現力等の能力が伸び悩んでいること

等の課題が生じているからである。

また,これまでの生活科の学習では,子どもたちが,自分の気付きを観察・体験カードに書い

たり,振り返りの場で発表したりするだけで終わっており,友達と気付きを共有したり,関連付

けたりして,新たな気付きをもつまでに至っていない。さらに,研究員が実施した児童の実態調

査では,「生活科の勉強は好きですか」という設問で,「少し苦手・とても苦手」と答えた児童

が 7.8%いた。この結果から,学習後に充実感や達成感,喜びを感じていない子どもがいるとい

う実態も見られた。

エ 昨年度の研究から

昨年度の研究では,「気付きの質を高めながら,意欲や自信をもって活動する子どもを育てる」

ために,「伝え合う活動の場」を通して,「一人一人の願い」と「共通の願い」をもたせることや,

自分の活動のプロセスを振り返らせることが有効であることを捉えることができた。しかし,「伝

え合う活動の場」において,「聞いてほしい」「話したい」などの子どもたちの伝えたいという思

いが弱く,主体的な活動という点においては,不十分であった。そこで,今年度は,子どもの気

付きの質を高め,意欲や自信をもって活動させるためには,自分の成長や工夫したこと,努力し

たことなどをもとに自己の変容に気付かせていくことが必要であると考えた。この自己の変容へ

の気付きは,子どもの主体的な活動を前提としており,それを含めた教師の支援の在り方を究明

していきたいと考えた。

このことから,本研究室では,主題・副主題を「成長の喜びを実感しながら活動する子どもを

育てる幼稚園・生活科学習指導の在り方―自己の変容への気付きを促す教師の支援を通して―」

と設定した。

(2) 主題及び副主題の意味

ア 主題について

(ア)「成長の喜び」とは

単元の学習や学期・1年間の学びを通して,子どもが「~したからできた」「○○さんと一緒にし

たら,上手くいってうれしい」などと自分の願いを達成するまでの工夫や努力などについて振り返

り,更に自分自身への気付きを深めることで充実感や達成感を持つこと。

(イ)「成長の喜びを実感しながら活動する」とは

子どもが,遊びや学習を通して,無自覚な気付きから自覚された気付き,関連付けられた気付き,

生活化された気付きへと気付きの質を高めることで自信を育み,新たな願いをもって,自ら意欲的

に活動すること。

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幼・生‐3

イ 副主題について

(ア)「自己の変容への気付き」とは

子どもが,自分の学びの様子や足跡を振り返ることを通して,「もっとやりたい。」「前は分からな

かったけれど,分かるようになってうれしい。」「難しくてできなかったけれど,友達に教えてもら

ってできるようになったから楽しい。」などの感情をもち,自分のよさや可能性に気付くこと。

(イ)「自己の変容への気付きを促す教師の支援」とは

子どもが主体的に自己の変容に気付くための教師の関わり方のこと。その内容としては,子ども

の工夫や努力に対する教師の見取り,言葉かけ,教材・教具の工夫などが考えられる。幼稚園では,

特に言葉かけや環境構成の工夫を大切にする。

2 研究の目標

自己の変容への気付きを促す教師の支援を通して,成長の喜びを実感しながら活動する子どもを育

てる幼稚園教育・生活科学習指導の在り方を探る。

3 研究の仮説

遊びや学習の中で,子どもに,自分の学びの様子や足跡を振り返らせることを通して,自分の工夫

や努力に気付かせるためのきめ細かな教師の支援をしていけば,自己の変容に自ら気付き,成長の喜

びを実感しながら活動する子どもが育つであろう。

4 研究の構想

(1) 内容

ア 子どもが活動への「願い」をもつための教師の支援

イ 子どもが自分の学びの足跡を振り返るための教師の支援

ウ 子どもが成長の喜びを自覚するための教師の支援

(2) 手だて

ア 子どもが活動への「願い」をもつための教師の支援

子どもが「願い」をもつために,事象との出会いを大切にした単元構成を工夫する。また,子

どもが「願い」を広げたり深めたりできるように,活動の中で繰り返し「願い」の表出を意識し

た教師の言葉かけを行う。なお,幼稚園では,言葉かけや環境構成の工夫を行う。

イ 子どもが自分の学びの足跡を振り返るための教師の支援

子どもが,自分の学びの様子や足跡を振り返ることにつながるきめ細かな教師の言葉かけや支

援を工夫する。その際,子どもが活動してきたこと(初めの様子,工夫したこと,上手くいかな

かったこと,現在の様子),感じたこと,分かったことなどに気付かせるための視点を明らかに

したり,活動の見通しや足跡が視覚的に分かるような提示資料の工夫を行ったりする。

ウ 子どもが成長の喜びを自覚するための教師の支援

子どもがはたらきかける外的な対象への気付きだけでなく,自分自身の内面的な気付きへと質

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幼・生‐4

的に高めるために,充実感や達成感などの自らの気持ちを表出させるための手立てを工夫する。

さらに,様々なひと・もの・こととの出会いを大切にした1単元の学習や学期・1年間のスパン

を通して,自己の変容を自覚させるための手立てを工夫する。

5 研究構想図

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幼・生‐5

資料-1 秋の自然物置き場

資料-2 遊びに使うための

自然物を選ぶ子ども

第Ⅱ章 研究の実際

【幼稚園 年中児】

活動名「秋の自然で遊ぼう」

1 研究の実践

(1) 本活動にあたって

本活動は,秋の自然を生かした好きな遊びをすることを通して,自分の思いやイメージを教師や

友達に伝えながら,関わり合って遊ぶ楽しさを味わうことをねらいとした。

秋になり,子どもが登園途中や休みの日に拾ったドングリを持ってくるようになったことで,少

しずつドングリや落ち葉を取り入れて遊ぶ姿が見られるようになった。その後,園の行事としての

ドングリ・マツボックリ拾いや芋掘りを体験し,ドングリや落ち葉で遊んでいた子どもが「振り返

りの時間」でみんなに遊びの様子を話したことで,多くの子どもが「ドングリや落ち葉で遊びたい。」

という願いをもつようになり,秋の自然を生かした遊びが始まった。

そこで,本活動を通して,「ドングリや落ち葉で遊びたい。」という無自覚な気付きから,次の

ような子どもの姿に変容していくことが気付きの質の高まりであるととらえた。

・自分で作ったものなどに達成感を感じ,満足する姿・・・・・・・・・・(自覚された気付き)

・自分の思いや遊びのイメージを教師や友達に伝えながら遊ぶ姿・・・(関連付けられた気付き)

・友達と一緒に遊ぶ楽しさに気付き,関わり合って遊ぶ姿・・・・・・(生活化された気付き)

このような気付きの質の高まりに自分自身が気付き,「こんなの作ったよ。見て。」「このよう

にしたらできたよ。」「○○さんと一緒にしたから,楽

しかったよ。」「お友達と力を合わせたんだよ。」「私

の遊びを楽しそうだと思って○○さんも遊び始めたのか

な?」などと感じたり,発言したりするなどの成長の喜

びを実感しながら活動する子どもの姿をめざし,本活動

を行った。

(2) 自己の変容への気付きを促す教師の支援

ア 子どもが活動への「願い」をもつための教師の支援

(ア) 「願い」を生み出す環境構成

子どもたちが家からドングリを持って来始めた頃から,

秋の様子を表した壁面飾りの下にドングリや落ち葉,マ

ツボックリを常時手に取ることができるように置いた。

(資料-1)また,それぞれの置き場所を子ども達で考え

て一緒に分類したことから,子ども達がそれぞれの形や

特徴に気付き,どのようにして使うかを考えたり,遊び

に生かす意欲をもったりすることができた。(資料-2)

(イ) 「願い」を見取り,「願い」に応じた環境構成

ドングリ拾いに行った時から,「ドングリを転がして遊びたい。」と話す子どもがいた。また,

普段している積み木遊びで,積み木でコースを作り円柱の積み木を転がして遊ぶ姿が見られてい

たので,コースを作ってドングリを転がして遊ぶことが予想された。そこで,ドングリを転がす

台と転がすコースを作るための素材として,子どもが扱い易いと思われるペーパーやラップの芯,

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幼・生‐6

芯を半分に切ったもの,牛乳パックを切ったものを用意した。

(資料-3)予想通り子どもは,ドングリを転がすコースを考

えたり,ドングリを転がしてみたりすることを楽しんでいた。

(資料-4)

しかし一方で,一度に沢山のドングリを転がし,その転が

る様子を見て楽しむ子どももいることがわかってきた。(資料

-5)そこで,それぞれの願いを叶えながら遊びに浸ってほし

いという教師の意図から,ドングリ転がしの場所を一度にた

くさん転がすことができる場所と,コース作りを楽しむこと

ができる場所の2カ所になるように場を変更した。(資料-

6)すると,各々の場所で夢中になって繰り返し遊ぶ姿が見ら

れた。その後,一度にたくさんのドングリを転がしていた子

どもたちも,十分にその遊びを楽しんだ後,隣でコースを作

って遊ぶ友達の様子を見て,自分たちもコースを作って遊ぶ

ようになった。この様子から,教師は,台を一つにした方が

友達との関わりが見られるのではないかと思い,再び一つの

台にした。(資料-7)そうすることで,初めは違う遊び方を

していた子どもたちが,一緒にコースを作ったり友達が作っ

たコースで遊んだりするなどの関わりが見られるようになっ

た。

イ 子どもが自分の学びの足跡を振り返るための教師の支援

(ア) 遊びの過程やその時の工夫を振り返るための問いかけや

言葉かけ

遊びの中で,子どもが教師に自分の作ったものを見せよう

とする場面が多くあった。そのようなときには,「すごい!

どうやって作ったの?」「遊び方を教えて。」「どういうと

ころが楽しかった?」など,子どもの気持ちに共感しつつ遊

びの過程や作る工程を振り返るような言葉かけをした。また,

子どもを賞賛する際も,「ここが面白いね。」などと具体的

に賞賛するようにした。すると,作ったものを見せるだけで

なく,どのように作ったかを振り返りながら話す姿が見られ

るようになった。(資料-8)

(イ) 遊びの様子を視覚的に振り返るための工夫

子どもが遊びの様子を視覚的に振り返ることができるよう

に子どもがいきいきと遊んでいる姿を画像に残し,目に触れ

るところに掲示したり,振り返りの時間にみんなで見たりし

た。(資料-9,10)このことは,友達の遊びを知ることがで

き,「私もしてみたい」という意欲をもつことにつながった。

資料-3 ドングリ転がしの

コースに使う素材

資料-4 ドングリのコースを

考えて遊ぶ子ども

資料-5 ドングリを一度に転がして

遊ぼうとする子ども

資料-6 ドングリ転がしの場を

2ヶ所にした様子(手間と奥)

資料-7 同じ場で関わって遊ぶ子ども

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幼・生‐7

資料-8 子どもが振り返りながら話す様子

資料-9 写真の掲示

資料-10 振り返りの時間の様子

資料-11 ドングリで楽器を

作っている子ども

資料-12 ドングリを生かして

ケーキを作る子ども

また,振り返りの時間に画像を用いたことで,子ど

もがその時の遊びの楽しさや喜び,工夫したことを思

い出して振り返りやすくなり,画像を指し示したり作

ったものをみんなに見せたりしながら,自分の言葉で

伝えようとする姿が多く見られるようになった。

ウ 子どもが成長の喜びを自覚するための教師の支援

子どもが自分の頑張りや成長を客観的に見ることが

できるように,遊んでいる姿を画像に残して振り返り

の時間に活用した。さらに,振り返りの時間では,「昨

日,○○さんが考えた遊びを今日は,□□さんもして

いたね。」等と,一人の子どもの遊びが,友達にも広

がっている事例などを取り上げて助言した。

写真を見ながら「すごい。」「私も一緒にさせて。」

などと友達同士で賞賛する言葉をかけ合ったり,自分

が始めた遊びを友達が真似して楽しそうにしている姿

を見たりすることで,その遊びをした子どもの自信や

喜びの喚起につながった。さらには,日常的に活動を

画像に残し,振り返りの時間に生かすことで,子ども

が作ったものを友達に見てもらいたい時や遊びの楽し

さを伝えたい時に「先生,写真撮ってください。」「集

まりの時にみんなにお話してもいい?」などと自分か

ら進んで喜びを伝えようとする姿が見られるようにな

り,自らの気持ちを表出する手立てとなった。

2 分析と考察

本活動では,「こんなの作ったよ。見て。」「このよう

にしたらできたよ。」「○○さんと一緒にしたから,楽し

かったよ。」「お友達と力を合わせたんだよ。」「私の遊

びを楽しそうだと思って○○さんも遊び始めたのかな?」

のような成長の喜びを実感する子どもの姿が見られた。そ

れらは,次のような手立てによることが考えられる。

〇 本活動では,子どもが自由に秋の自然物に触れ合うこ

とができるように環境を構成した。その結果,ドングリ

を転がす,ドングリで楽器を作る,落ち葉やドングリで

洋服や食べ物の飾りつけをするなど,子どもが様々な「願

い」をもって遊ぶ姿が見られた。(資料-11,12)このこと

から,子どもが「願い」をもって遊ぶためには,普段から

遊ぶ素材と触れ合い,素材の形,質感などの特徴や扱い方

を経験的に知っておくことの大切さがわかった。そうする

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幼・生‐8

ことで,その素材の特徴を生かし,自由に扱って自発的に遊ぼうとする姿が生まれる。この姿こそ,

子どもが「願い」をもってその実現を目指して遊ぶ姿であると考えられる。

また,子どものドングリ転がしの遊びで,子どもの遊びの様子を見取りながら,ドングリを転が

す台の数や場所を変えていくなどの支援を行った。このことは,子どもの「願い」を実現しながら

遊ぶ姿や友達と関わって遊ぶ姿に繋がった。また,似たような遊びをしている子どもでも,よく観

察すると遊びに対する「願い」が少しずつ異なることもある。特に,発達段階の差が大きい幼児に

おいては,遊びの様子も様々であるため,それぞれの子どもの「願い」を叶えながら,一人一人に

応じた成長を促していくには,子どもの遊びの様子を丁寧に見取り,臨機応変に環境や支援の在り

方を変えていくことが大切であると考える。そのためには,子どもの姿や遊びを予想してすぐに応

じることができるように,ものや場の準備をしておくことも大切である。

〇 遊びや振り返りの中で子どもを賞賛したり,振り返りを促したりする言葉かけを行った。そうす

ると,自分の努力や友達との関わりのよさ等を感じて笑顔を見せたり,子どもが自分で作ったもの

を教師に見せるだけでなく,「○○を使って,二つを合わせて作ったんだよ。」というように遊び

の過程を振り返りながら教師に話しかけ,作品を見せたりする姿が見られるようになった。このよ

うに,遊びの最中は夢中でしていたことを後から振り返ることは,自分の気付きの質の高まりに自

分自身で気付くことになり,成長の喜びを感じることに繋がると言える。

〇 「振り返りの時間」に画像を投影し,それを見ながら振り

返るようにした。言葉だけで伝えていたときには,詳しく話

すことができないこともあったが,画像を用いると,画像を

見ながら最も楽しかった遊び,工夫や努力したこと,その時

の気持ちなどを一緒に思い出すことができ,「○○を作った

よ。□□を使って作ったよ。この部分が難しかったけど,こ

んなふうにしたらできたよ。」などと,遊びを振り返りなが

ら話すことができた。さらに,全員が進んで話そうとする姿

も見られた。(資料-13)また,画像だけでは伝わり難いと思

った子どもが,遊びで作ったものを自ら持ち出し,友達に見

せて話す場面も見られるようになった。(資料-14)さらに,

画像を用いることで,聞く側にも伝わり易くなり,「振り返

りの時間」で楽しそうだと感じた友達の遊びを真似して,次

の日に同じようにして遊ぼうとする子どももいた。このこと

で,友達に遊びを伝えた子どもが「もしかしたら友達の役に

立ったのかな?」「なんだか嬉しいな。」などととらえてい

たことから,成長の喜びを感じることへとつながっていった。

これらのことから,遊んだ時の気持ちをノートに記すことのない幼児にとって,画像を用いること

は,遊んだことだけなく,誰と,どのように遊び,どのようなことに気付き,どのような気持ちだ

ったのかを振り返って,自己の変容への気付きを促すうえで,大きな役割を果たすことがわかった。

また,画像を用いた振り返りを行うようになってから,遊びの最中に嬉しいこと等があったとき

には,子どもが進んで「写真を撮ってください。」「振り返りで話していい?」等と言うようにな

った。このことから,画像を用いることは,「振り返りの時間」だけでなく,遊びの最中も,自分

の喜びや頑張り,工夫に自分自身で気付き,気持ちを表出することに役立つと言える。

資料-13 進んで話そうとする子ども

資料-14 実物を見せながら話す子ども

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幼・生‐9

【小学校 第2学年】

単元名「うごくおもちゃを つくってあそぼう」

1 研究の実践

(1) 本単元にあたって

本単元は,身近にある自然を利用したり,身近にある物を使ったりなどして,遊び自体を工夫し

たり,遊びに使う物を工夫して作ったりすることが主な活動である。そして,単元全体を通して,

遊びの面白さや自然の不思議さに気付くとともに,みんなで遊びを楽しむことができるようにする

ことをめざしている。本校は,生活科・理科の研究校であり日頃から全校の取組として,月に1回

程度科学的思考を養うサイエンスクイズを行っており,その際の解答の手助けとなるよう,うごく

おもちゃの原理を空気・風・おもり・ゴムの力4点に絞って作成することにした。原理に気付きや

すく3年生の学習へと繋がる理科的要素のあるおもちゃなら,子どもの興味・関心を高め,作る意

欲が継続すると考え,選定した。(資料-15)また,より早く・面白く・遠くに動かしたり,飛ばし

たりするために試行錯誤し,その中での気付きを言葉で表現して,

自他の気付きを伝え合う活動を設定することで,気付きの質を高

める姿を見いだすことができると考えた。

本単元においては「自分たちも作って遊びたい。」という無自

覚な気付きから,「もっとはやくうごかしたい。」「もっと遠くに

飛ばしたい。」「まっすぐすすむようにしたい。」という願いをも

って試行錯誤する活動の中で,次のような子どもの姿に変容し

てくことが気付きの質の高まりであるととらえる。

・おもちゃを作る活動を通して,「ゴムを2つにしたら,つよくひっぱることができた」

「空気のりょうをふやせばもっと進むかもしれない」などとその面白さや不思議さに気付く姿

・・・・・・・・・・・・・・・・(自覚された気付き)

・「遊び方の説明書を作ろう」と約束やルールが大切なことに気付く姿・・・(自覚された気付き)

・「○○さんのおもちゃは,ゴムのつけ方を工夫しているね。」などと友達や自分のおもちゃの改

良のよさ(活動のよさ)に気付く姿・・・・・・・・・・・・・・・・(関連づけられた気付き)

・「おうちで妹にも作ってあげよう。」と次の活動への意欲をもち,新たなおもちゃを工夫して作

ろうとする姿・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(生活化された気付き)

このような気付きの質の高まりに子ども自身が気付き,「みんなで一緒に遊ぶと楽しいね。」「自

分ではできなかったけど,○○さんのやり方をまねしてみたらできたからうれしい。」「○○さん

にも教えてあげよう。」などの成長の喜びを実感しながら活動する子どもの姿を目指して,本単元

を構成した。

(2) 自己の変容への気付きを促す教師の支援

ア 子どもが活動への「願い」をもつための教師の支援

(ア)「思い」や「願い」を生み出す資料提示

まず,教師が作成したおもちゃ(トコトコガメ・ゴムロケット・ふうせん車・ペットボトル

空気砲・うちわ車・ビュンビュンひこうき・おきあがりこぼし)を1つずつ提示し,遊んでみ

せ,動くおもちゃへの興味・関心をもたせた。子どもは,教師が提示したおもちゃに対し「す

資料-15 ゴムロケット

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幼・生‐10

ごい!」「おもしろい。」「ぼくたちもやってみたい。」と発

言し,自分も作って遊びたいという思いを持った姿が見ら

れた。

(イ)明確な「願い」を持たせるための時間の確保

どのおもちゃを作成していくのか選択させるためにおも

ちゃで遊ぶ時間を設けた。全員が全てのおもちゃで遊ぶこ

とができるよう,班ごとにおもちゃをまわしながら遊んだ。

遊ぶ時間を十分に与えたことで,それぞれのおもちゃを楽

しみながら遊ぶ姿が見られた。(資料-16,17)

作成に入る前におもちゃで遊ぶ時間を設けたことで,「ト

コトコガメのうごきがかわいかったから,わたしも作って

みたい。」「うちわ車はスピードが出ておもしろい。ぼくも

やってみたい。」「わりばしロケットは,くふうすればいっ

ぱい飛ぶから。」などという明確な願いをもち,作るおもち

ゃを選択することができた。(資料-18)

おもちゃで遊びながら作成を続けていると,子どもから

「もっと○○なおもちゃにしたい。」という願いが自然に

生まれてきた。さらに,完成後には,1年生の時に当時の

2年生におもちゃランドに招待してもらったことを思い

出し,「1年生に遊び方を教えてあげたい。」「いっしょに

遊んだら一年生喜ぶかな。」と自分たちが作ったおもちゃ

を誰かに見せたいという新たな願いを持っていた。

このように,子どもの「思い」や「願い」は,それぞれ

の学習過程によって,新しいものへと次々に変わっていっ

た。その「願い」を達成しようと,意欲も高まっていった。

イ 子どもが自分の学びの足跡を振り返るための教師の支援

(ア)活動を振り返るためのプリントの工夫

活動後に,活動を通して気付いたことや思いをプリント

に書かせた。毎回「工夫したこと」「工夫したことによって

どうなったか」という視点で書かせたことで今日工夫した

ことを自分自身で振り返ることができ,さらに「今日は,

ロケットのつつをかるくしてみた。次はもっとつつをみじ

かくしたら,もっと飛ぶと思う。」と次の活動への意欲を具

体的にもつことができた。また,「今日は,はじめてふうせ

ん車がすこしすすみました。」「○○くんと競争したら,か

ったからうれしかった。もっとはやく走るうちわ車にした

いなあ。」などと表記している児童もおり,児童の喜び,

感情の変化も見取ることができた。

資料―19 子どもが作成したうちわ車

資料-16 教師の試作品で遊ぶ子ども

資料-17 教師の試作品で遊ぶ子ども

資料-18 子どもの「願い」

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幼・生‐11

(イ)活動のプロセスを意識させるような問い返しや言葉かけ

プリントに活動内容や工夫点を書かせたことで,一人一人

の活動の進度を把握することができた。(資料-20)そこから

活動に対する個々の悩みも見取ることができたため,これまで

のプロセスを振り返ることができるような問い返しや言葉かけ

を行った。

例えば,ふうせん車を作成している児童は,なかなか進ま

ないことにどうしたらいいのか分からず悩んでいた。そこで,

T「この車はどうして,うまく前にすすむのかな。」

C「空気がストローからでるからです。」

T「すごいことに気付いてるね。でも,空気はちゃんと出て

る?」

C「あっ!ここから空気がもれているかもしれません!!」

などとやりとりをし,児童の科学的な気付きを促していった。

(資料-21)

ウ 子どもが成長の喜びを自覚するための教師の支援

(ア)同質グループでの交流

自分のおもちゃと友達のおもちゃを比較させ,改良への気付

きを促すために同質グループでの交流を仕組んだ。同質グルー

プの友達と遊ぶ際には,「おもしろいねカード」を与えた。遊

ぶ中で,「おもしろい」「くふうしている」「すごい」と思った

ことを見つけさせ,カードに書かせた。子どもたちは,「カメ

がポコッポコッとうごいてかわいいね。」「ひこうきがまわっ

たりしておもしろかったです。」「タイヤを6つつけたのをくふ

うしたね。」「ストローを2つつけているし,空気をたくさん入

れているからスーッとはしるんだと思います。」と,友達のおも

ちゃのよさ・原理に気付くことができた。また,その気付きを

自分のおもちゃの改良へと生かすことができていた。

(資料-22)

(イ)1年生との交流

おもちゃが完成すると,1年生との交流を仕組んだ。学校

探検の時に,1年生とペアを組み学習を進めた経験があった

ので,同じペアで交流を行った。自分が作ったおもちゃの遊

び方を1年生に教えながら一緒に遊ぶ活動を通して,1年生

が楽しく遊ぶ姿を見ることができ,自分の作ったおもちゃに

自信をもつことができた。(資料-23)

資料-20 工夫点を書かせたプリント

資料-21 空気の量の気付いた子ども

空気

資料-22 同質グループでの交流

空気

資料-23 1年生との交流

空気

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幼・生‐12

2 分析と考察

本活動では,遊びに使うおもちゃを工夫して作る活動を通して,「ゴムをいっぱいまわしたらよ

くすすんだよ。」「空気をたくさん入れると,スーっとすすむ。」と目に見えないものの働きの面

白さや,「みんなでやると楽しいね。」と友達と一緒に遊ぶことの面白さに気づくことができた。

さらには,「○○さんのまねをしてみたらできた!」と友達の活動のよさを学び,おもちゃを願い

どおりに改良できたことへの喜びや自信,さらには成長の喜びを感じることができた。

このような姿が見られるようになったのは,① 子どもが活動への「願い」をもつための教師の

支援 ② 子どもが自分の学びの足跡を振り返るための教師の支援 ③ 子どもが成長の喜びを自

覚するための教師の支援 以上の3点において,随時手立てをとり,子どもの気付きの質が次のよ

うに高まっていったからであるととらえている。

トコトコガメを作った子どもを例に,述べていく。最初は,「ぼくたちも作ってみたいな。」と無

自覚だった気付きが,何度も何度も作り直し試行錯誤する中で,ゴムの数,つけ方,回し方によっ

て進み具合が違うことに気づき,よく進むトコトコガメはこれだと自分なりに納得していった。つ

まり,「ゴムをつなげたらたくさんまける。」と,おもちゃの作り方への気付きが自覚された気付き

へと高まっていったのである。次に,同質グループの友達のおもちゃで一緒に遊ぶことで,自分の

おもちゃと友達のおもちゃを比較し,「ゴムを張ってつけた方がはやく進むんだね。」と友達のおも

ちゃのよさや原理に気付き,関連づけられた気付きへと気付きを変容させることができた。さらに,

原理に気付いたことで自分の改良箇所を見出し,願いを実現できるおもちゃへと改良することがで

きた。また,改良を望んでいた子どもは,最初はトコトコガメの本体となるカップが柔らかくゴム

をうまく付けることができなかったが,友達のトコトコガメで遊び,工夫見つけをしたことによっ

て,カップがしっかり固定されていることでゴムを張って付けられることに気づき,よく進むトコ

トコガメへと改良することができた。改良後,試してみると,よく走るようになり「はしる!はし

る!」と笑顔で喜んでいたことから,この子どもは,自分の努力でおもちゃを改良でき,自分の成

長への喜びを感じることができたと考えられる。このように,外的な対象であるおもちゃへの気付

きだけではなく,自分自身の内面的な気づきへと気付きの質が高まっていったことで,単元の最後

には,多くの子どもが「1年生に遊び方を教えたい。」「いえでも作ってみよう。」と意欲を見せ,生

活化された気付きへの変容も見られた。

このような子どもの成長は,6 月と 12 月に実施したアンケート

結果の比較からも見取ることができる。(左表)

①「せいかつかのべんきょうはすきですか。」という問いに対し,

「すこしにがて」と回答した子どもが2人から0人になったこと。

さらには,「とてもすき」と回答した子どもが 18 人から 22 人に

増えたこと。②「すきながくしゅうにじゅんばんをつけましょう」

という問いに対し,振り返りを3番目にしていた子どもが18人

から16人に減ったこと。僅かな差ではあるが,以前3番目にし

ていて,2番を選択した子どもは「友達のおもちゃからどうすれ

ばいいのか分かったから。」と答えた。

以上の点から,自らの努力が実ったことに充実感や達成感を感

じることで,成長の喜びを感じる子どもの姿を見取ることができ

たととらえている。

18

22

2 00

5

10

15

20

25

6月 12月

①せいかつかのべんきょうはすきですか

とても好き 少し苦手

18

16

15

16

17

18

19

6月 12月

②すきながくしゅうにじゅんばんをつけましょう

(振り返りが3番と答えた子どもの数)

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資料-25 しずく型灯明を作る子ども

【小学校 第2学年】

単元名「大すきはかた とう明まつり」

1 研究の実践

(1) 本単元にあたって

本単元は,地域にある祭り「博多灯明ウォッチング」を地域素材として学習に取り込み,祭りに

携わる地域の人との関わりを通して,進んで参加したり,自分たちで工夫して子ども灯明祭りを実

現させたりすることが主な学習活動である。そして,これらの活動を通して,自分たちが住む地域

への親しみや愛着をもつとともに,友達と協力して活動できるようにすることをめざしている。

本単元の実施にあたっては,まず,子どもが具体的な活動や体験を通して,「博多灯明ウォッチン

グ」とそれに携わる地域の人との関わりにふれることで,地域に対する興味・関心が高まると考え

た。またその後,「博多灯明ウォッチング」や自分たちの灯明祭りに向けて,試行錯誤しながら準備

を行う際や全員がそれらを体験した際に,気付きを伝え合う活動を設定することで気付きの質を高

めていくことができると考えた。

そこで,本単元においては,「毎年行われている地域の祭りに行ってみよう。」という無自覚な気

付きから,地域の人と関わり,友達と協力し合って活動していく中で,次のような子どもの姿に変

容していくことが気付きの質の高まりであるととらえた。

・「博多灯明ウォッチング」の目的及び意義や願いを知ろうとする姿・・・(自覚された気付き)

・地域に対する自分の願いが伝わるような地上絵を考えようとする姿・・・(自覚された気付き)

・友達と気付きを伝え合い,自分たちの灯明祭りを成功させようとする姿

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(関連づけられた気付き)

・地域の「ひと・もの・こと」に親しみや愛着をもち,進んで関わろうとする姿

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(生活化された気付き)

このような気付きの質の高まりに子ども自身が気付き,「みんなで協力したから成功できたね。」

「他のいろいろな場面でも地域の人が支えてくれていたんだね。だから私もこんな人になりたい

な。」などの成長の喜びを実感しながら活動する子どもの姿をめざして本単元を構成した。

(2) 自己の変容への気付きを促す教師の支援

ア 子どもが活動への「願い」をもつための教師の支援

(ア)「願い」を生み出す資料提示

子どもが「願い」を生み出すために,これまでの校区探検

の振り返りを行った際,子どもに体験を話させながら校区の

自然や建物,行事等の写真を教師が提示することで,子ども

たちから,山笠や夏祭りなど地域の祭りに関する発言を多く

聞くことができた。中でも子どもたちは,「博多灯明ウォッチ

ング」に強い関心をもち,「祭りに自分たちも参加したい。」という願いをもつことができた。

(イ)「願い」を共有するための共通体験

まず,「博多灯明ウォッチング」に参加するために地域のゲストティーチャーに祭りの歴史やし

ずく型灯明の作り方を教えてもらうことで(資料-25),個人の意欲を高めながら準備を進めた。

当日は,多くの子どもが昼の灯明並べなどの準備や夜の灯明ウォッチングに参加し(資料-26)

参加できなかった子どもは,ビデオで祭りの様子を見た。この共通体験後,全員で祭りの振り返

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幼・生‐14

資料-27 A児が考えた地上絵

資料-28 A児のグループで考えた

絵巻物地上絵

資料-26 博多灯明ウォッチングの

準備をする子ども

りを行った際,見たときの自分の感動や一緒にいた家族・地域

の人の様子を伝え合うことで,「今度は自分たちで灯明祭りをし

たい。」という共通の願いをもつことができた。その後,例え

ばA児は「自分の灯明で地域の人を笑顔にしたい。」という願

いをもち,地上絵を考えた。(資料-27)が,その設計図を作

成する際に「もっと大きな絵にしたい。」「一人で作っても,

願いや思いが伝わりにくい。」という新たな願いや考えをもつ

ことができ,同じ願いをもつ友達とグループを作って,一つ

の大きな地上絵や絵巻物地上絵を作る活動へと発展させた。(資

料-28)さらに,グループの地上絵などに託した願いを共有し,

また学級全員で行う祭りに対する意欲を高めるために,グルー

プの地上絵などに名前をつけたり,祭りの名前を考えたりさせ

た。子どもたちは,これらの体験を通して,個人の願いは大切

にしつつも全員で話し合い,考えることで「祭りを成功させた

い。」という願いを共有することができ,祭りの名前も『2年1

組えがおとう明まつり』に決めることができた。そして後日,

子どもたちは全員が協力して,お世話になったゲストティーチ

ャーや家族,地域の人などを招待して,祭りを成功させること

ができた。

イ 子どもが自分の学びの足跡を振り返るための教師の支援

(ア)学習を振り返る工夫

子ども自身が活動の展開や流れを理解して,次の活動を行えるようにするために,写真や子ど

もの言葉を吹き出しに書き入れ,学習の足跡として掲示した。(資料-29)自分たちがどのように

学習を進めてきたか,また,これからどんな活動をしていくのかなどについて,子ども自身が意

識できるようにするために,毎時,掲示物を使って全員で振り返りを行ったところ,「灯明ウォッ

チングに参加したい。」「来てくれた人が笑顔になるような地上絵を作りたい。」等の自分の「願い」

を意識できるようになった。

また,活動中の振り返りを充実させるために,プロジェクターを使用して,活動当初と活動終

わりの様子を見比べて話し合わせるようにした。例えば,灯明を使って地上絵を作る際に1回目

に並べて作った地上絵と2回目に修正をしながらつくった地上絵とを見比べ,地上絵のよくなっ

たところや変化したところについての交流活動が活性化した。また,1回目の活動でアドバイス

資料-29 学習全体の流れが分かる掲示物

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幼・生‐15

資料-31 1年生からの手紙

をしてもらったことが生かされているか,自分が思った通りの地上絵になっているかなどについ

て,写真と実物を直接見比べながら,変化をとらえる子どもの姿も見られ,自分たちの工夫や努

力に気付くことができた。

(イ)学習プリントの工夫

毎時間の活動内容とその時の願いや考えについて,子ども自身で振り返ることができるように

するために学習プリントを用意し,短い文章で表現させるようにした。その際,絵や写真の中に

短い言葉で説明を入れたり,自分の考えや工夫を数行程度で書けるようにしたりした。また,共

通体験の場である「博多灯明ウォッチング」に参加したり,自分たちの灯明祭りを行ったりした

後は,絵と文章の両方で書けるプリントを用意し,その時の感動や気付きを残せるようにした。

ウ 子どもが成長の喜びを自覚するための教師の支援

地域の「ひと」との関わりを重視し,子どもが地域から学んだことをモデルにしたり比べたり

することで自身の中に取り込んでいき,少しずつ自分自身に気付くことができるような支援の工

夫を行った。

まず,子どもが「博多灯明ウォッチングに参加したい。」という願いをもって活動しているとき

には,その歴史の説明をしていただいたり,しずく型灯明の制作に関わっていただいたりする場

を設定した。その際,教師が個の「願い」を丁寧に読

み取り,特に技能や心理面での具体的な指導や助言に

努めて,その後の学習への意欲付けを行った。(資料-

30)

次に,「博多灯明ウォッチング」の祭りの中では,教師自

身がゲストティーチャーや地域の方にインタビューを行い,

地上絵に込めた願いや子どもたちへのメッセージを伝えて

いただくようにした。そして,この時に収録したビデオ映

像を必要に応じて何度も子どもたちに見せることで「もっ

とがんばりたい。」という子どもたちの活動に対する意欲化へとつないでいった。

その後,「自分たちの祭りを成功させたい。」という願いをもって活動していくときには,子ど

もたちが相手(地域の人)を意識し「お世話になったゲストティーチャーや地域の人におかえし

をしたい。」という強い願いをもって活動できるように支援を工夫した。具体的には,まず,見る

人の立場で自分たちが考えた地上絵を見直すために,教師が鳥瞰的に撮った映像を使って,子ど

もたちの気付き伝え合う場をもった。これにより,友達に「笑顔になれる地上絵です。」と褒めて

もらったり,「色が多いから,形が分かりにくいです。」などとアドバイスをもらったりすること

で,地上絵に改良を加え,自分たちが納得するものに仕上

げることができた。

さらに,地域の方や保護者,1年生,学校の職員など

を招いて自分たちの祭りを行った際には,見ていただき

たい人の感想に直接触れられるようにするために,子ど

も自身に地上絵についての感想をインタビューさせた。

その結果,「頑張って作ったことが伝わったよ。」「上手

にできたね。」「笑顔になれました。」などと子どもの努力

資料-30 ゲストティーチャーに

教わる子ども

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幼・生‐16

資料-32 地域のひとへの手紙

が認められ,褒めていただくことができた。また,1年生からもお礼の手紙が届き(資料-31)「2

年生は,すごいね。」などの称賛の声が多く寄せられたことで「自分達の祭りは大成功だった。」

「最初は,全然分からないことだらけだったけれど,今は自分たちで祭りまでできる。」などの発

言や記述につながり,子どもたちは自分自身への気付きをもつことができた。

2 分析と考察

本単元では,地域の祭りを通して地域の人との関わりを深めていき,さらに自分達の祭りを創る

ことで,「自分たちの町には,とてもすごいお祭りがあるよ。」「みんなで協力し合ったからお祭

りが成功した。」「地域の人たちは,僕たちが頑張ることをとても喜んでくれるし,これまでもた

くさん支えてくれていた。」「僕も○○さんのようになりたい。」などと,働きかける対象につい

ての気付きと共に自分自身にも気付くことができた。そして,これらの体験を通して,子どもたち

は,自分自身のよさや可能性についての気付きを深め,これからの生活に向けての意欲や自信を高

めていったと考えられる。このような姿が見られるようになったのは,次のような手立てが有効で

あったととらえている。

子どもが活動への思いや願いをもつために,個の活動と全員での共通体験活動とを連動させ,そ

れを単元内で何度も繰り返す支援を行うことで,個の願いを継続させ,活動への達成感を導くこと

ができたと考える。このことによって,子どもの意欲が途切れることなく,全員が最後まで活動し

ようとする姿が見られた。

また,子どもが自分の学びの足跡を振り返るために,視覚的に学習を振り返ったことで,子ども

自身が振り返りを楽しいものとして捉えられるようになったことがあげられる。6月と 12 月に行っ

た生活科に関するアンケート調査でも,めあてをつくることや活動すること,振り返りをすること

について楽しいと感じる順番を尋ねたところ,1回目の調査では,振り返りを3番目に楽しいと答

えた子どもが 19 人だったのに対し,2回目の調査では 14 人であった。わずかではあるが振り返り

を楽しいと感じる子どもが増えている。その理由として,「振り返りをしたから,もっといいもの

が考えられた。」「友達がいろいろ教えてくれるからうれしい。」などが挙げられた。また,振り

返りは3番目としている子どもも「写真やビデオを使う振り返りは好き。」「3番にしたけれど,

2番と同じくらい楽しい。」と答えるなど,振り返りに対する苦手意識から楽しいと感じられるよ

うに変わってきたことが分かる。

さらに,子どもが成長の喜びを自覚するために,単元全体を通して地域の方に関わっていただき,

直接アドバイスをもらったり,褒めてもらったり直接の関わりがもてる場を設定したことが子ども

の喜びや意欲につながったと考える。単元の終末に地域

の人に宛てて書いた手紙には,お世話になったこと

への感謝やできたことの嬉しさ,地域の人の「町を

支えていける人になってほしい。」という思いを受

けて,これからどんな自分になりたいかについて書

いている。(資料-32)このことから,子どもたち

にとって身近な「ひと」とのかかわりは,以前とは

違う自分やできるようになった自分に気付くことへ

とつながり,それが自身の成長の実感となって,今

後の自分への希望をもつ上で重要であったと考える。

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幼・生‐17

第Ⅲ章 研究の成果と課題

1 研究の成果

本研究室では,「成長の喜びを実感しながら活動する子どもを育てる幼稚園教育・生活科学習指導

の在り方」を探るために,自己の変容への気付きを促す教師の支援に着目し,研究を進めてきた。

子どもが活動への「願い」をもつための教師の支援においては,子どもが体験を積み重ねながら,

その体験の流れが子どもにも分かるように可視化したことが有効であったと考える。具体的には,実

際の学習の中で子どもが様々な体験をした様子が分かる写真や子どもの発言を書き入れた吹き出しな

どを取り入れた学習の流れ図の作成である。このような 1 単位時間の学習展開だけでなく,子どもの

内面の変化が分かるような掲示物を常に掲示し,いつでも目にすることができるようにしておき,学

習の中で繰り返し使用することによって,子どもが自分の活動を意識し,「今日は○○を頑張りたい。」

などと最後まで意欲をもって活動することができたと考えられる。特に幼稚園においては,子どもが

ドングリなどの実物にいつでも触れられるような教室の環境構成にしたことが有効であった。

子どもが自分の学びの足跡を振り返る教師の支援においては,毎時間,振り返りを書く活動を行う

ことや振り返りの時間に画像を用いることなど,子どもの振り返りを充実させる支援を行うことの重

要性が明らかになった。幼稚園の事例では画像を用いた振り返りを行うと,最も楽しかった遊び,そ

の時の自分の工夫や努力,気持ちを思い出すことができ,遊びを振り返りながらより詳しく話すこと

ができた。さらに,活動中や振り返りの時間に教師が素朴な声かけをすることで,子どもが「あっそ

うか,○○さんに教えてもらったからできた。」などと友達との関わりについても振り返ることがで

きた。また,小学校の事例においても,画像を用いたことで活動当初と終わりの様子を比較し,変化

してよくなったところや地域の方からのアドバイスを生かして工夫できたことなどに気付くことがで

きた。このように,自分の変容と友達や家族,地域の方との関わりに気付くことなどの視点を大切に

しながら,振り返りを充実させる支援を行うことが,子どもの自己の変容への気付きを促すことへと

つながることが分かった。

子どもが成長の喜びを自覚するための教師の支援においては,子どもが単元全体や単元と単元の比

較・つながりを振り返ることができるような教師の言葉かけや,自他の良さに気付くことができるよ

うなグループ交流の場を設けるなどの支援を行うことが有効であった。2年生「うごくおもちゃをつ

くって あそぼう」の単元では,トコトコガメを作成した子どもは,まず「ゴムをつなげて長くして

みよう」と,ものに対する気付きをもった。その気付きは,同質グループで交流することによって「○

○さんのトコトコがめは,ゴムが張っているからよく進むんだ。○○さん,すごい!」と,友達の活

動のよさに気付き,人に対する気付きへと変容していった。その際,教師が友達の活動のよさをどの

ように取り入れたのかについて尋ねると,「前に○○さんのゴムの付け方をまねしてみたら,よく進

むようになって嬉しい!!」と話し,おもちゃを改良できた自分自身への気付きももつことができた。

さらに,1年生を招待して遊ぶ際には,自分が作ったおもちゃの遊び方を嬉しそうに教えながら遊

ぶ姿が見られ,おもちゃ(もの)を通して,人との繋がりを深めることができた。このように,もの

から人,人から自分自身へと,気付きの質が高まり,自らの成長の喜びを実感することができたとと

らえられる。

以上のように,子どもは,自分の「願い」を達成するまでの工夫や努力に気付くことを通して,自

分自身のよさや可能性に気付き,意欲や自信をもって生活していく力を養うことができたと考える。

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幼・生‐18

2 研究の課題

子どもに活動への「願い」をもたせることに関しては,体験を積み重ねていきながらも,自分が表

したいことやしたいことが分からないという苦手意識をもっている子どもに対して,教師がその子ど

もの活動から実態を見取り,どのように具体的に支援していくかが課題である。また,単元構成にお

いて,「願い」を達成しながら,次の新しい「願い」を生むための振り返りの場をどのように設定し

ていくかという課題も残った。

子どもの振り返りを充実させることに関しては,自分自身と対象とのかかわりを重視する生活科学

習の基本的な視点から,子どもが自身の工夫点や努力点について振り返るだけでなく,学習や遊びの

中で上手くいかなかったことを表出したり,その時の友達の気持ちに共感したりできるように教師が

見通しをもって支援していく必要があり,このような学習活動全体を通して一体的に育まれる能力・

態度の育成という点で課題を見出すことができた。さらに,子どもの共感性の見取りという点におい

ては,子どもが他へ共感するということは,友達の良さに気付くということであり,この人への気付

きが,自分自身への気付きを深めることへと繋がるという点において,気付きの共有化を図る手立て

の工夫などについても,今後さらに究明していきたいと考えている。

このような課題をもとに,成長の喜びを実感しながら活動する子どもの育成に向けては,繰り返し

対象と関われる場を通して,対象への気付きだけでなく自分自身への気付きを深める指導や支援,及

び,交流や振り返りの場を通して,自分自身のよさを自覚させ,成長を支えてくれた人との関わりに

ついて考えさせる指導や支援の充実をさらに図っていく必要があると考えている。

資料等

参考文献

1 文部科学省 小学校学習指導要領解説 生活編 日本文教出版 (平成 20 年)

2 文部科学省 幼稚園教育要領解説 フレーベル館 (平成 20 年)

3 福岡市教育委員会 教室から創る言語活動 (平成 22 年)

4 原田信之

須本良夫 気付きの質を高める生活科指導法 東洋館出版社 (平成 23 年)

友田靖雄

5 北尾倫彦 観点別学習状況の評価基準と判定基準 (平成 23 年)

6 米山岳廣 生活科教育の基礎と実際 (平成 24 年)

池田仁人

7 福岡市教育委員会 新しいふくおかの教育計画 (平成 26 年)

研修員

青 木 優 子 (若久小学校教諭) 田 代 久 美 子 (雁の巣幼稚園教諭)

林 田 直 美 (博多小学校教諭)

研究指導者

松 本 和 寿 (筑紫女学園大学 准教授)

熊 谷 節 子 (福岡市教育センター 研修課 研修指導員)