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Evaluation of actual performance and verification of improved technologies for maintaining the performance of high-reflectivity exterior panels 一ノ ,井 ∗∗ ∗∗∗ Masayuki ICHINOSE, Takashi INOUE and Yoshihito SAKAMOTO This paper presents actual performance of high-reflectivity paints by environmental exposure test. Test panels were coated with high-reflectivity or conventional paints on site or in-factory at the manufacturing stage by a newly developed heat curing paint method. Our results reveal that solar reflectivity of the panels were degraded by up to 20 percent from initial status during first year, and this degradation is chiefly due to airborne contamination. This study also demonstrates that panels coated with high-reflectivity heat curing paint with a photocatalyst finish can preserve high reflectivity and therefore thermal conditioning effects longer than the panels painted on site. Keywords: High-reflectivity paint, Actual performance, Heat curing paint, Photocatalyst coating, Spectral reflectivity, Actual measurement , , , , , 1 はじめに における による エネルギー しているヒートアイランド して,クールルーフ れる いた およ 案され, されてきた. 較して多く してお り,そ すこ によって えるメカニズム ある. って, において され して 大きく にあり,また, する して を維 するために メンテナンス 1) .そ いう がら あり, メンテナンス するコスト いうメリットが ある.また, して ある めるこ ある されつつある. による エネルギー について Lawrence Berkeley National Laboratory にて して われており, 1999 2) によって され および キャノピーモデルによる えた 3)4)5) によって, における エネルギー ヒートアイランド について されてい る. 2005 から 3 に わ た り「 による する (クールルーフ )」を し, えつつある. ここ による めており, 6) 7)8) 汚れ した られるように, における される において たる している.また, した 9) 案され, 10) されている ある について 案・ された く, けた している いえる. よう から, づいて らかにし,より するデータ う.また, による に対して, コーティング いった による 案し,そ する.これらによって,ヒートアイランド するこ する. お, 11) に, して した ある. * 大学 ( ) Assistant Professor, Tokyo University of Science, Dr.Eng. ** 大学 Professor, Tokyo University of Science, Dr.Eng. *** JFE スチール () JFE Steel Corp.

Evaluation of actual performance and verification …Evaluation of actual performance and verification of improved technologies for maintaining the performance of high-reflectivity

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Page 1: Evaluation of actual performance and verification …Evaluation of actual performance and verification of improved technologies for maintaining the performance of high-reflectivity

高反射外装材の実態性能評価と性能維持方策の効果

Evaluation of actual performance and verification of improved technologies for maintaining the performanceof high-reflectivity exterior panels

一ノ瀬 雅之 ∗,井上 隆 ∗∗,坂本 義仁 ∗∗∗Masayuki ICHINOSE, Takashi INOUE and Yoshihito SAKAMOTO

This paper presents actual performance of high-reflectivity paints by environmental exposure test. Test panels were coatedwith high-reflectivity or conventional paints on site or in-factory at the manufacturing stage by a newly developed heat curingpaint method. Our results reveal that solar reflectivity of the panels were degraded by up to 20 percent from initial status duringfirst year, and this degradation is chiefly due to airborne contamination. This study also demonstrates that panels coated withhigh-reflectivity heat curing paint with a photocatalyst finish can preserve high reflectivity and therefore thermal conditioningeffects longer than the panels painted on site.

Keywords: High-reflectivity paint, Actual performance, Heat curing paint, Photocatalyst coating,Spectral reflectivity, Actual measurement

高反射率塗料, 実態性能, 焼付塗装, 光触媒, 分光反射率, 実測

1 はじめに

建築物における日射遮蔽による省エネルギー効果や,近年顕在化

しているヒートアイランド現象の抑制策として,クールルーフと呼

ばれる高反射率塗料や屋上緑化を用いた建築外皮の日射吸収量およ

び顕熱放熱量の低減手法が提案され,効果が検証・実証されてきた.

屋上緑化は一般的な地表面と比較して多くの日射熱を吸収してお

り,その一部を潜熱の形で大気に戻すことによって結果的に顕熱放

出量を抑えるメカニズムである.従って,地表面において吸収され

る総熱量としては大きくなる傾向にあり,また,潜熱を放散する植

物としての機能を維持するためには継続的な灌水等のメンテナンス

が必要不可欠となる 1).その一方で,建物外皮の高反射化は太陽放

射を直接に上空へ戻すという単純ながら最も効果的な方法であり,

メンテナンスや設置に関するコストも比較的低いというメリットが

ある.また,可視域とは独立して非可視域である近赤外域の反射率

を高めることが可能である高反射率塗料は,色彩の選択性も高く建

築物等への適用が注目されつつある.

高反射率塗料による建築物の省エネルギー効果については,米

国 Lawrence Berkeley National Laboratory にて先行して研究が行

われており,日本では 1999 年に近藤ら 2) によって文献が紹介され

た後,実測および建物の熱負荷計算や都市キャノピーモデルによる

数値計算を交えた研究 3)4)5) 等によって,熱的に軽い建物における

省エネルギー効果やヒートアイランド緩和効果について示されてい

る.東京都では,2005 年度から 3 年間にわたり「屋上緑化や高反射

率塗料による建築物の被覆対策を推進する事業 (クールルーフ推進

事業)」を実施し,屋上緑化と伴に高反射率塗料も建物への施工例が

増えつつある.

ここで,高反射率塗料の建築物への適用は現場塗装による方法が

大部分を占めており,膜構造材の樹脂膜 6) や屋根材料 7)8) の長期的

な劣化や汚れの影響を評価した事例に見られるように,実使用状況

下における性能低下が懸念されるものの,既往の研究においては高

反射率塗料の初期性能を主たる評価対象としている.また,施工面

での評価を目的とした現場計測方法 9) が提案され,高反射率塗料の

長期的な性能変化の実態 10) が検討されているものの,具体的に実

効性のある性能維持方法について提案・検討された事例は少なく,

本格的な普及に向けた知見が不足している状況といえる.

このような背景から,本研究では高反射率塗料の実使用状況下で

の性能変化を実測に基づいて明らかにし,より信頼性の高い実効性

を有するデータの蓄積・提示を行う.また,従来の現場塗装による

方法に対して,建築外装材への工場製造段階での焼付塗装や光触媒

コーティングといった表面処理による性能維持方法を提案し,その

効果を実証する.これらによって,ヒートアイランド現象の抑制に

資することを本研究の目的とする.

なお,本論文は既報 11) の内容を中心に,構成を再検討して加筆

修正したものである.

* 東京理科大学 助教・博士 (工学) Assistant Professor, Tokyo University of Science, Dr.Eng.** 東京理科大学 教授・工博 Professor, Tokyo University of Science, Dr.Eng.

*** JFEスチール (株) JFE Steel Corp.

Page 2: Evaluation of actual performance and verification …Evaluation of actual performance and verification of improved technologies for maintaining the performance of high-reflectivity

2 実測概要

2.1 試験体の概要

本研究で用いた試験体の一覧を表 1 に示す.塗料の種類について

は耐久性において実績があり一般的に広く市販されているフッ素樹

脂塗料(「一般」と表記)および近赤外域の反射率を高めた高反射

率塗料(「高反射」と表記)の 2 種類である.塗装方法としては従

来から一般的な現場塗装および,耐候性向上を目的として新たに開

発された工場焼付塗装の 2 種類と,さらに焼付塗装に光触媒コー

ティングを施した試験体も作成した注 1).色については白を中心と

して,ベージュ,灰,黒についても用意した.また,汚れの影響等注 2) を比較検討するため,これらのうち白および黒色の試験体につ

いては,洗浄を行うための試験体を作成した.

2.2 試験体の設置状況および測定項目

図 1 に示すように,近接する障害物がない本学内の建物屋上(千

葉県野田市)にて,2007 年 8 月から実験を開始した.

図 2に試験体・計器の配置状況を示す.南方向に正対した約 20 度

の傾斜面に試験体を多数設置している.試験体は 5mm 厚 600mm

角の金属パネルであり,パネル表面に事前に塗装を施した.表面温

度の測定は,パネル裏側に装填した 60mm 厚の断熱材とパネルの間

として,伝熱の影響を排除した.試験体は図 1に示すように同一平

面となるように設置して気流の影響が偏らないように配慮した.ま

た,分光反射率測定用に小型の試験体 (150 × 70mm) を別途用意し

て,同じ架台に設置した.

測定項目を表 2に示す.気象要素は外気温,日射量,長波長放射

量,風速を測定し,気象と表面温度は 1 分間隔で自動記録した.ま

た,赤外線放射カメラおよび分光放射計による手動計測を行った.

3 熱収支式による日射反射率推定と検証

3.1 熱収支式による推定方法

夏期代表日の各試験体の表面温度を図 3に示す.色の濃さおよび

高反射有無に応じた順当な温度の序列であり,ピーク時間帯におい

て外気温より約 20~50K 高い.一般と高反射の温度を比較すると,

いずれの色においても,最大 5K の差が生じており近赤外反射の効

果がうかがえる.

本研究では,これら気象要素とパネル表面温度の測定値から連続

的に日射反射率の変化を捉えるために,表 3 に示す式 (1) の表面熱

収支式から日射反射率の推定を行った注 3).対流熱伝達率について

は風速測定値に基づいて推定した.また,赤外線放射カメラを試験

体から正対して撮影した熱画像から,領域平均を行って試験体放射

温度を抽出し,式 (2) に代入して長波長放射率を算出した.

3.2 放射率および対流熱伝達率

図 4に示す長波長放射率の算出結果によると,高反射が一般より

もわずかに放射率が低いが,いずれも 0.9 前後の値であった.時間

的な変化も殆ど見られなかったため,式 (1) で用いる放射率は一律

0.9 とした.

また,式 (1) による日射反射率の算出においては黒色の SAT 計の

併設によって対流熱伝達率を随時推定する方法が考えられるが,時

間経過に伴う黒色面の変化が懸念されるため,表面の汚染や劣化が

進行しない曝露開始当初において検討を行った.黒色 SAT 面の表

面温度から対流熱伝達率を算出し,風速との相関性を検討した結果

表 1 測定試料一覧塗料種類 塗装方法 コーティング 色

一般 (フッ素樹脂塗料) なし 白,黒工場焼付塗装 灰,ベージュ

高反射率塗料 光触媒 白現場塗装 なし

図 1 測定状況

(a)上面図

(b)側面図図 2 測定機器等の配置図

表 2 測定項目一覧項目 計器

外気温 0.1mm熱電対日射量 日射計 英弘精機 / MS-802

長波長放射量 長波放射計  KIPP & ZONEN / CGR-3風速 超音波風速計  GILL ENGLAND / PGWS-100表面温度 0.1mm熱電対

赤外線放射温度 赤外線放射カメラ  NEC / TH9100 MV分光反射率 分光放射計  ASD / FieldSpec Pro Full Range JR

0

20

40

60

80

温度 [

oC]

日射量 [W/m

2]

500

1000

6:00 9:00 12:00 15:00 18:00

試験体設置傾斜面における全天日射量

一般(黒)

一般(灰)

高反射(白)

外気温

高反射(黒)

高反射(灰)

一般(ベージュ)

高反射(ベージュ)

図 3 晴天代表日における試験体表面温度の変動 (曝露 20日後)

表 3 反射率推定に用いた熱収支式αC(tA − tS) + ε · RL + (1 − ρ) · RS − ε · σ · T 4

S = 0 (1)ε · σ · T 4

S + (1 − ε) · RL = σ · T 4R (2)

tA : 外気温 [oC], tS , TS : 表面温度 [oC][K]TR : 表面放射温度 [K], RL : 全天長波長放射量 [W/m2]RS : 全天日射量 [W/m2], σ : Stefan − Boltzmann 係数 [W/m2/K4]αC : 対流熱伝達率 [W/m2/K], ε :放射率 [−], ρ : 日射反射率 [−]

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

放射率 [-]

一般(白)

高反射(白)

高反射(白)

光触媒

高反射(白)

現場塗装

一般(黒)

高反射(黒)

一般(灰)

高反射(灰)

一般

(ベージュ)

高反射

(ベージュ)

図 4 放射収支から推定した放射率

0 1 2 3 4 50

10

20

熱収支式による推定値

ユルゲスの式 αC = 3.95v + 5.8

風速 [m/s]

対流熱伝達率 [W/m

2/K]

図 5 対流熱伝達率と風速の関係          (30分平均値)

Page 3: Evaluation of actual performance and verification …Evaluation of actual performance and verification of improved technologies for maintaining the performance of high-reflectivity

が図 5 である.算出値とユルゲスの式 12) はある程度の整合性が得

られたため,式 (1) で用いる対流熱伝達率は,風速計測値とユルゲ

スの式を適用することとした.

3.3 推定値の時刻変動

図 6 に晴天代表日における,高反射 (白) の試験体の日射反射率

推定値の時刻変動を示す.曝露開始から (a)20 日後,(b)60 日後,

(c)170 日後について,上段に外気温・表面温度・風速・対流熱伝達

率を,下段に日射量・長波長放射量・日射反射率の推定値を示して

いる.なお,これらは 1 分間隔の記録データを 30 分平均処理した

結果である.夏期 (a) および中間期 (b) では,表面温度と外気温の

差は日中で 20K程度あり,安定した日射反射率となっている.冬期

(c) においては,表面温度と外気温の差は 10K 程度と小さくなり,

風速の変動も大きいため若干のばらつきが見られるが,日中時間帯

での傾向はとらえられており,晴天日の日中時間帯であれば,年間

を通して日射反射率を推定可能である.

3.4 分光反射率との比較

熱収支式による推定値の妥当性を検証するため,図 7に示す積分

球 (Labsphere RT-060-SF/IG)および分光放射計を用いた半球分光

反射率の計測を実施した.光源はハロゲンランプを使用し,積分球

に設置した試験体への光源入射角は 9̊ とした.350から 2500nmま

での分光反射率から日射反射率への波長積分は,傾斜面全天日射を

想定した基準太陽光 13) を積分対象として既往の研究 14) による紫

外可視光域 (UV+V:350-780nm),近赤外域 (NIR:780-2500nm),全

波長域 (ALL:350-2500nm) の波長帯別に日射反射率を算出した.

図 8に分光計測に基づく全波長域の日射反射率と,熱収支式によ

る推定値を比較した結果を示す.なお,分光計測は小型の試験体を

対象として行い,比較対象とする熱収支式による推定値は同日の日

中時間帯の平均値とした.比較実験は曝露開始後の経過過程におい

て数回実施した.この結果によると,黒色の試験体では熱収支式に

よる推定値に比較的大きなばらつきが見られるが,それ以外では概

ね良好な相関性が得られた.ここで,明色と比較して暗色系の推定

値でばらつきが大きい原因としては,式 (1)に基づく反射率推定に

おいて,熱伝達率の誤差が及ぼす影響が相対的に大きくなるためと

考えられる.

表面温度および気象要素の測定に基づく熱収支式による日射反射

率の推定法は,暗色系の推定値は相対的に誤差が大きくなる傾向が

あるため,その詳細な傾向を捉えるためには別途の手法を検討する

必要があるが,明色から中間色については,屋外変動要因を反映さ

せつつ連続的な変化を実用的な精度で捉えられることを示した.

4 性能変化の測定結果

4.1 反射率の変化

図 9 に熱収支式による日射反射率推定値の変動を,付近気象台

(我孫子)の日積算雨量と併せて示す.いずれの試験体も曝露直後か

ら 100日頃までの低下が大きく,200日頃に若干の上昇が見られる

が,その後は殆ど変化がなくなる傾向である.雨量との関係を見る

と,曝露後最初の降雨後に大幅な反射率低下が見られることから,

表面に付着した大気浮遊物等が最初の降雨で定着したことが推察さ

れる.試験体による変化の違いとしては,明度が高い試験体ほど反

射率の低下が大きい.ここで,高反射と一般では低下傾向に大きな

0

2

4

6

風速 [m/s]

表面温度

外気温

対流熱伝達率(左軸)

風速 (プロット,右軸)

6 9 12 15 180

200

400

600

800

1000

放射量 [W/m

2]

時刻

日射量(右軸)

日射反射率

長波長放射量(右軸)

(c) 170日後(2/15)

-10

0

10

20

30

40

50

60

温度 [

oC], 熱伝達率 [W/m

2/K]

表面温度

外気温

対流熱伝達率(左軸)

風速 (プロット,右軸)

6 9 12 15 180

0.2

0.4

0.6

0.8

1

反射率 [-]

時刻

日射量(右軸)

日射反射率

長波長放射量(右軸)

(a) 20日後(9/8)

表面温度

外気温

対流熱伝達率(左軸)

風速 (プロット,右軸)

6 9 12 15 18時刻

日射量(右軸)

日射反射率

長波長放射量(右軸)

(b) 60日後(10/21)

図 6 日射反射率推定値の日変動

図 7 積分球による分光反射率計測

0 0.2 0.4 0.6 0.8 10

0.2

0.4

0.6

0.8

1

分光計測による日射反射率 [-]

熱平衡式による日射反射率[-]

高反射(白)

一般(白)

高反射(白)光触媒

高反射(白)

高反射(ベージュ)

高反射(灰)

一般(白)

高反射(黒)

一般(黒)

図 8 分光計測と熱収支式による測定値の関係

0 100 200 300 4000

0.2

0.4

0.6

0.8

1

0

100

200

曝露時間 [日]

日射反射率 [-]

高反射(白)現場塗装

一般(白)高反射(白) 高反射(白)光触媒有

一般(ベージュ)高反射(ベージュ)

一般(灰)

高反射(灰)高反射(黒)

一般(黒)

降水量 [mm/日]

図 9 熱収支式による日射反射率推定値の期間変動

Page 4: Evaluation of actual performance and verification …Evaluation of actual performance and verification of improved technologies for maintaining the performance of high-reflectivity

違いはないことから,高反射率塗料の近赤外域における反射率の大

幅な低下は発生していないことが推察される.また,現場塗装によ

る高反射では初期状態から曝露後約 1年間で 0.2 程度の低下が見ら

れるが,焼付塗装および光触媒コーティングを施した試験体は,反

射率の低下が 0.1 程度に抑制されており,これらの性能維持手法が

効果を発揮していることが明らかとなった.なお,黒色の試験体に

ついては,熱伝達率の推定誤差の影響でばらつきが大きいが,既往

の研究 10) においても示されているように,明色系と同様に反射率

は低下する傾向である.

4.2 波長特性の変化

(1) 分光反射率

図 10 に全ての試験体について曝露開始から 31 日,62 日,103

日,215 日における分光反射率の変化を (一部欠測),紫外可視光域

(UV+V),近赤外域 (NIR)および全波長 (ALL)の波長帯日射反射率

と併せて示す.

反射率の変化が大きい白色の試験体を見ると,曝露開始から 31

日目にかけての分光反射率の低下幅が最も大きいことがわかる.高

反射と一般塗料の試験体を比較すると,いずれも近赤外域よりも紫

外可視広域における低下幅が大きいが,近赤外域における変化幅と

しては高反射の試験体の方が若干大きい.この傾向はいずれの色の

試験体においても同様である.白色試験体における現場塗装と焼付

塗装を比較すると,現場塗装の方が低下幅は若干大きく見られ,焼

付塗装の効果が表れている.さらに,光触媒を施した試験体は分光

反射率の低下が抑えられており,光触媒の効果は明らかである.

(2) 波長帯反射率

図 11 に曝露前の初期状態からの反射率の変化について,紫外可

視光域 (UV+V)および近赤外域 (NIR) の波長帯別に示す.ここで

は,白色試験体について示しているが,いずれの色においても同様

の傾向であった.光触媒を施した試験体を除いたいずれの試験体も

近赤外域より紫外可視光域の低下幅が大きくなっている.この低下

傾向は一般と高反射で同様であり,高反射で懸念された近赤外域で

の極端な性能低下は発生していないことが明らかとなった.また,

現場塗装では初期状態から 0.2 以上も低下しているのに対して,光

触媒コーティングを施した試験体では,いずれの波長域においても

低下が抑えられており,波長帯反射率の変化においても焼付塗装お

よび光触媒コーティングによる効果が明らかである.

4.3 変動要因の分析

前節までの検討によって,高反射率塗料を施した試験体の性能変

化が明らかとなった.本節では,性能低下の主要因として考えられ

る,紫外線による塗膜劣化および表面の汚染について検討を行う.

(1) 光沢残存率および色差

図 12 は,別途に実施した小型試験体の屋外曝露およびサンシャ

インカーボンアーク灯式耐候性試験機による性能変化実験の結果で

ある.上段の光沢残存率および下段の色差は,紫外線や表面汚染等

の影響で変化し,いずれも縦軸下側への変化が塗膜劣化の進行度合

いを表している.

図 12(a)屋外曝露の結果によると,図 9における反射率の変化と

同様に,曝露開始後 100日までの低下幅が大きい.光沢残存率は高

反射 (白)光触媒が高い値で維持されており,耐候性能において実績

のある一般 (白)と同等の性能を有する.黒色においては高反射 (黒)

500 1000 1500 2000 25000

0.2

0.4

0.6

0.8

1

分光反射率 [-]

曝露前曝露後31,62日

曝露後103,215日

ρ ρUV+V ρNIR0.69 0.71 0.67 0.51 0.48 0.53

曝露前曝露後215日

高反射(白)

500 1000 1500 2000 2500

曝露前

曝露後31,62日

曝露後103,215日

ρ ρUV+V ρNIR0.78 0.84 0.71 0.60 0.60 0.60

曝露前曝露後215日

一般(白)

500 1000 1500 2000 25000

0.2

0.4

0.6

0.8

1

分光反射率 [-]

曝露前曝露後31,62日

曝露後103,215日

ρ ρUV+V ρNIR0.71 0.72 0.69 0.63 0.63 0.63

曝露前曝露後215日

高反射(白)光触媒

500 1000 1500 2000 2500

曝露前

曝露後31,62日

曝露後103,215日

ρ ρUV+V ρNIR0.81 0.83 0.80 0.61 0.57 0.65

曝露前曝露後215日

高反射(白)現場塗装

500 1000 1500 2000 25000

0.2

0.4

0.6

0.8

1

分光反射率 [-]

曝露前

曝露後215日

ρ ρUV+V ρNIR0.59 0.53 0.65 0.48 0.41 0.55

曝露前曝露後215日

高反射(ベージュ)

曝露後62日

500 1000 1500 2000 2500

曝露前曝露後31日

曝露後103,215日

ρ ρUV+V ρNIR0.49 0.50 0.47 0.39 0.38 0.40

曝露前曝露後215日

一般(ベージュ)

500 1000 1500 2000 25000

0.2

0.4

0.6

0.8

1

分光反射率 [-]

曝露前

曝露後62日 曝露後215日

ρ ρUV+V ρNIR0.51 0.43 0.60 0.43 0.34 0.51

曝露前曝露後215日

高反射(灰)

500 1000 1500 2000 2500

曝露前曝露後62日

曝露後215日

ρ ρUV+V ρNIR0.37 0.42 0.32 0.29 0.32 0.26

曝露前曝露後215日

一般(灰)

500 1000 1500 2000 25000

0.2

0.4

0.6

0.8

1

分光反射率 [-]

波長 [nm]

曝露前

曝露後62日曝露後215日

ρ ρUV+V ρNIR0.20 0.05 0.35 0.18 0.04 0.32

曝露前曝露後215日

高反射(黒)

500 1000 1500 2000 2500

波長 [nm]

曝露前 曝露後31日 曝露後103日

ρ ρUV+V ρNIR0.05 0.05 0.04 0.05 0.06 0.05

曝露前曝露後103日

一般(黒)

図 10 分光反射率の変化 注 4)

50 100 150 200 250-0.3

-0.2

-0.1

0

0.1

曝露時間 [日]

変化した反射率 [-]

高反射(白)光触媒高反射(白)現場塗装高反射(白)一般(白)

UV+V NIR

図 11 波長帯別の変化

40

50

60

70

80

90

100

光沢残存率 [%]

高反射(白)光触媒

一般(白)

一般(黒)

高反射(白)

高反射(黒)

0 100 200 300 400 500 600

0

2

4

6

8

10

色差 [-]

曝露時間 [日]

一般(白)

高反射(白)光触媒

高反射(白)高反射(黒)

一般(黒)

高反射(白)光触媒高反射(白)高反射(黒)

0 100 200 300 400 500 600

曝露時間 [時間]

高反射(白)光触媒

高反射(白)

高反射(黒)

(a) 屋外曝露 (b) 耐候促進試験

※耐候促進試験1時間は実曝約1日に相当

図 12 光沢残存率および色差の変化

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は曝露 500日頃に一般 (黒)と同等となるが,白色では高反射 (白)は

一般 (白)に対して光沢残存率が低い.色差は光沢残存率と異なり,

試験体によるばらつきが大きいが,高反射 (白)光触媒は他試験体と

比較して優れている.

図 12(b) 耐候性試験機は,実曝とは異なり紫外線の影響のみを反

映させた実験である.試験機での曝露 1 時間は実曝の約 1 日に相

当する.光沢残存率において高反射 (白) 光触媒の効果が有意であ

るが,光沢残存率および色差いずれも変化幅はが小さいことから,

1年程度の屋外曝露による性能低下の要因としては,紫外線の影響

は限定的である.また,高反射率塗料の焼付塗装および光触媒コー

ティングによる塗膜面は,実績のある一般塗料と同等の耐久性を有

することが示された.

(2) 表面の汚染

表面の汚染による反射率低下への影響を明らかにするため,洗浄

実施用に作成した試験体を反射率測定の直前に洗浄を実施して,そ

の変化を検討した結果を図 13に示す.なお,図 13は分光計測によ

る結果である.試験体の洗浄は塗膜を傷つけないように行い,柔ら

かい布を押し当てて水滴を除去して乾燥させた.曝露後 215日にお

いても,いずれの試験体も洗浄によって初期性能近くまで回復して

おり,表面に付着した汚れが性能低下の主要因であった注 5).なお,

黒色の試験体では曝露に伴う汚れの付着によって反射率が上昇する

状況も見られた.

以上から,1 年程度の高反射塗装面の性能低下主要因は表面の汚

染であり,焼付塗装および光触媒コーティングが性能維持に寄与す

ることが明らかとなった.また,紫外線曝露試験結果から,光触媒

コーティングは紫外線劣化に対しても効果的であった.

5 建築・都市への熱的影響の試算

実測によって明らかになった,高反射率塗料の性能変化および焼

付塗装・光触媒コーティングによる性能維持効果について,ヒート

アイランドに影響を及ぼす建築物表面からの顕熱放熱量計算へ適用

し,その影響を試算した.検討対象はオフィス用途建物の断熱され

た屋根面を想定し,非定常熱収支式によって年間計算を行った 1).

図 14 に,屋上表面からの単位面積あたり年間顕熱フラックス量

および全天日射量に対する顕熱フラックス比率の結果を試験体種類

別に示す.分光反射率は試験体制作上における顔料調合の都合上,

特に白色試験体において初期反射率の乖離が見られたが,本試算に

おいては白色の高反射を高反射 (白)現場塗装に統一した.反射率の

経時変化割合は,図 9 に示す熱収支式から推定した反射率の実曝状

況下での変動に基づいて設定した.なお,計算開始月によって生じ

る年間計算結果への影響を各月毎に開始月として比較した結果,そ

の差は数%程度であったので,ここでは 1月を計算開始とした結果

のみ示す.

結果を見ると,性能変化を考慮することによって,白色の場合は

フラックス量が 30~80%程度と大幅に増大しているが,性能維持効

果のある高反射率塗料の焼付塗装および光触媒コーティングを施し

た場合は顕熱フラックス量の抑制効果が明らかであり,一般塗料に

対して効果を発揮することが可能となる.

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

高反射(白)現場塗装

高反射(白)光触媒

高反射(白) 一般(白) 遮熱(黒) 一般(黒)

日射反射率 [-]

初期値 曝露31日後 曝露103日後 曝露215日後 洗浄後回復量

洗浄により下降

洗浄により下降

図 13 塗装面洗浄に伴う反射率の変化

0

1000

2000

3000

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

年間の単位面積あたり

     顕熱放熱量 [MJ/m

2/年]

日射量に対する顕熱放熱比 [-]

高反射(白)現場塗装

高反射(白)光触媒

高反射(白) 一般(白) 高反射(黒) 一般(黒)一般(灰)一般(ベージュ)

高反射(灰)高反射(ベージュ)

性能変化考慮無し

性能変化考慮有り

日射量に対する顕熱放熱比(右軸)

図 14 性能低下の考慮の有無が顕熱放熱量に及ぼす影響

6 まとめ

本研究では,実使用状況下における高反射率塗料の性能に注目し

て屋外曝露下での実測を中心に,多面的な評価・分析を行った結果,

以下の知見を得た.

• 高反射率塗料の日射反射率の初期性能からの低下は明確であり,従来の現場塗装では白色において 1 年間で 0.2 程度の性能

低下が見られた.

• 高反射率塗料の反射率低下は,反射率が高い近赤外域に偏らず,主に明色の試験体での紫外可視広域において有意であった.

• 1 年程度の屋外曝露による反射率低下は,大気浮遊物等の表面

への付着が主要因であり,紫外線による性能低下は限定的で

ある.

• 従来の現場塗装に対して,焼付塗装および光触媒コーティングによる表面処理によって,高反射率塗料の性能維持効果が得ら

れ,実績のあるフッ素樹脂塗料と同等の耐久性を有することを

示した.

• 高反射率塗料による建築物外皮からの顕熱放熱量の低減効果試算において,塗膜性能の変化を考慮することは有意であり,表

面処理による性能維持効果は大きい.

謝辞

本研究を進めるあたり,東京理科大学大学院生の齊藤寛氏,長圭

一郎氏,宮本敦史氏から実測調査についての協力を,JFE建材の切

通哲氏から試験体作成や耐候性試験についての協力を,首都大学東

京の石野久彌名誉教授から研究の助言と測定機器についての協力を

得た.ここに記して感謝の意を表します.

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注 1) 高反射率塗料の焼付塗装は,新たに開発された従来塗料とは異なる手法に

よって実現している.これにより,従来の現場塗装と比較して均一性および耐久性の高い塗膜を形成し,安定した塗膜性能と長期的な性能維持効果の発揮を期している.さらに,建材表面の防汚性能において実績のある光触媒コーティングを,高反射率塗料が分解されない施工方法によって焼付コー

ティングを施すことにより,塗膜表面への大気浮遊物等の付着を低減し,屋外曝露環境下においても更なる長期的な性能維持効果を発揮することを期している.

注 2) 曝露実験を行った東京理科大学理工学部(千葉県野田市)は,工場や幹線道路が近接していない首都圏郊外の立地である.自治体が公開している大気汚染測定データのうち浮遊粒子状物質 (SPM) について比較した図 A-1

によると,都心部市街地(日比谷)と曝露場所近辺(野田,流山)は若干低い程度であった.なお,図中の新宿のデータは新宿御苑内で観測されたデータであり,曝露場所近辺における局所的な影響が大きいことが示唆される.

3 6 9 12 150

10

20

30

40

50

2007/ 2008/3

浮遊粒子状物質 [μg/m

3

]日比谷

野田流山

新宿

図 A-1 浮遊粒子状物質の比較(2007 年度 東京都環境局,千葉県環境生活部)

注 3) 伝達率などの不確定パラメータを介在せずに,入射・反射日射に基づいて日射反射率を推定する方法が既往の文献 9) で示されているが,連続的な反

射率の計測を行うためには,測定対象毎に日射計および比較的広い設置スペースが必要である.それに対して,本論文で提示した熱収支式による推定方法は,太陽位置に追従して駆動する設置台 5) や分光計測器を必要とせずに,表面温度および気象要素の観測のみで,設置スペースや計測機器のメン

テナンスなども含めて少ない計測コストで,実用的な精度で連続計測が可能である.実使用状況下での長期的な日射反射率測定データの蓄積にあたっては,目的や必要とする測定精度に応じて,各手法の特徴を踏まえて取捨選

択する必要がある.

注 4) 曝露前の初期状態における試験体の波長帯日射反射率について,JIS K

5602の重み係数による算出結果と比較した図 A-2によると,紫外可視広域

は殆ど違いが見られなかったが,近赤外域において僅かに差が見られた.

0 0.2 0.4 0.6 0.8 10

0.2

0.4

0.6

0.8

1

ASTMによる反射率 [-]

JIS K 5602による反射率 [-]

紫外可視光域

近赤外域

図A-2 基準太陽光の選択による波長帯反射率算出値の違い

注 5) 高反射 (白)光触媒において,曝露 31日後の洗浄後に初期値よりも上昇し

ている原因としては,工場製造後に試験体表面をカバーしていた保護フィルムの付着成分が,曝露後に分解されてわずかに反射率が上昇したためと考えられる.なお,図 14における検討では,フィルム成分が分解されて本来の表面状態となった数日後を起点として性能低下を評価した.

参考文献

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14) 一ノ瀬雅之, 石野久彌, 永田明寛: 建材の日射透過および反射性能における

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