【一頁】

(

一)

長州侯御使者持参之

御直書に添候御書付之写

長州侯御使者持参之

御直書に添候御書付之写

私儀攘夷之儀に付

御旨趣を奉守候次第ハ委曲別冊之通、此度

天朝へ申上置然所横濵御談判中未拒絶之御験難被為立由ニ御座候へ共其内之儀ハ

私領海へ異艦通航不仕様御告諭振ともハ被為在間敷哉、無左候ヘハ最前

領内へ及沙汰置候趣、觸改不仕候而ハ不相済、付而者折角振起之人心又々挫屈、

皇國之御武威にも可相抱 マ

マ

哉と奉存候、当三月中御觸達之趣も御座候ヘハ御談判ハ

其節より之御手始と奉伺候ニ付、如何様之御差縺れ出来候共、此余最早御手

数も有御坐間敷に付、不遠判服(

反服)

相決可申候間、何卒前断之通程能承服

仕候様御所置被成下候ハヽ、是又拒絶之御一驗にも可相當哉と奉存候間、何分

區々微忠之心底御憐察被成下、冝様御明戴之程幾応も奉懇願候、以上

十一月廿六日

松平大膳大夫

(

二)

別紙《攘夷尽微力候心得ニ付、執奏被成下度旨懇願書》

別紙

私儀攘夷之儀ニ付

叡慮を遵奉、幕意を承順仕候次第ハ委曲別紙之通ニ御座候、

然る所此度御沙汰之趣

領内へ及布告候者、是迄之

叡慮幕意如何被為在候哉と浅陋之下情不奉得察

御深旨疑惑を生し可申、領内而已ならす列藩も同様に可有之候、天下人心方向不

【二頁】

相定ゟ竟に禍変出来候も難測上巳・上元其外種々之紛亂其鑑不遠候将軍

家之御情ハ拒絶に有之候に付、談判後之御事に考居候段ハ先達而幕府へ

申立被置候、其後如何御差圖も無之ニ付御聞済と心得居申候、此上ハ乍恐

朝廷間近く

叡慮之御旨を以

勅書を被賜鑑察使をも御差下ニ相成候

御事ニ付不相変攘夷ニ尽微力候心得ニ罷在候間、此段御執奏被成下候様奉懇願

候以上

御名前と有

(

三)

別紙・奉(

勅)

始末

別紙

奉

始末

一

癸丑外夷之事起り候より戦争ニ決し和議を斥け候を以度々幕府へ及建言、戊午

墨夷

之請閣老を以御伺ニ相成

勅許無之列藩へ議下候、其節

叡慮遵奉之主意を以征夷之良策被建置度段建白仕候所、幕府因循終に上

已・上元之変を釀し候次第不忍傍観、家臣有才者を撰ひ官武間之周旋申付

於関東ハ一橋・越前ニ マ

マ

登庸申立候へ共不相叶、田安上京、板倉閣老へ推任与申

迄ニ議定候へ共

朝廷向之御様子御伺為仕候所豈計らん家臣ハ愚意を取失ひ、自己之及密疏

幕議を張り

叡慮を壓し候様之取計セしめ候に付、速に厳罰申付、霽

宸疑弥以周旋盡力候様厚き

朝命を蒙り候に付其節先年来被

【三頁】

仰出候

勅諚并御沙汰書に当り候

御定議之御旨奉伺候二事六ヶ条之内下田条約

通りハ御不本意なから

御許容被遊候御事歟と御伺申上候所、御付紙を以下田

条約尤不被為好候へ共、既に以前於関東為済候上言上有之歎き

思召候所、重て

仮条約数ヶ条言上、実に被驚

思召廿六日御付紙之旨無余義被

仰出候儀にて、

勅許ニ而者無之其後自関東言上御約定可有拒絶堅固御約定ニ

候、且又蛮夷追々驕傲猖獗下田条約

歟本ノマヽ

と同日之論ニ無之、以之外之義至當時

下田条約を被宥可然とも難被

仰出、仮条約者御破却御拒絶被遊度

思召との

御答被

仰下候ニ付

御確定

叡慮初而伺定

御旨意筋明細ニ御答被仰下候ニ付、弥以決心

叡慮貫徹候様尽力可仕と家臣共へも常々為申聞、長門守関東へ差下右伺済

之外御救宥一条追々

遂本ノマヽ

其節候由ニ付、此余者攘夷之大義一途に周旋不致

候而ハ事多端ニ渡り却而

叡旨貫徹之驗相立間敷と考最前伺定候

下田条約并仮条約共

御破却御拒絶と申

叡慮之所被為向を幕府へ

精々可申解旨書面を以関白殿下へ家臣差出言上為仕候所、委曲御領承被為成

其後言上之趣全く

叡念符合之段被

仰聞候ニ付、其段長門守へ申遣、猶又

攘夷拒絶之期限等衆議可及

奏聞旨

勅使を以関東へ被仰遣右同様之

御旨被

仰聞周旋尽忠候様との

御内命正親町三条殿ゟ御書面を以

被

仰下候ニ付、長門守事ハ於関東微力を尽し越前春岳・土州容堂

【四頁】

も素より同論・同志之上老 マ

マ

縺にも有之、不容易受駆曳、且にも遂其節候而

幕府遵奉之次第を帰京及

奏聞候所、

叡感之旨被

仰聞候、最前於関東将軍家上洛之義及建義、御採用

相成居候ニ付、右

勅命遵奉之上ハ、列藩へ策略見込相認、上洛前迄

差出候様との幕命有之候へ共、大膳大夫父子ニおいてハ、

叡慮之御深旨ハ戊午年以来之御決定ニ而、戦之勝敗ハ必御算定被為在候義

にてハ無之、唯々國躰之立・不立、義理之立・不立とのミにて

聖断被遊候御事と奉伺候、其證ハ戊午三月廿三日、閣老も御渡ニ相成候御沙汰書ニ

今度之条約速ニ御許容難被遊

思召候、衆議中自然差縺れ、彼

より及異変候節ハ、無是非義と被

思召候と有之候へハ、仮条約破却と

申事ニ相決候に付、天下一統決戦と心得勿論之事ニ可有之と御伺申上候所、

其節条約破却一決候ハヽ、先達而御内沙汰之通、尤天下一同決戦勿論、

就而者防禦速に相整候様被遊度と御付紙を以被

仰聞候、午年

にてすら無是非儀と被遊

宸断候御事ニ御座候得共、今日に至り、仮令

武備不充実とも、攘夷之延引可相成理無之ハ天下之公論、

宸断之御旨、実に

天祖より御受傳之

皇國真武正氣奉感戴、長門守并家臣共へも御旨趣

【五頁】

重畳申含、於関東幕府其外へも伺取候侭を申傳候所、

勅旨遵奉と申事ニ相成、自是ハ自國引受之武備仮成にも取整、期限

決定候ハヽ、他に後れを取る間敷と父子申合候へ共、従

朝廷御差留も有之旁長門守儀京都へ残置、於大膳大夫ハ速に帰國

国政改革武備仮成ニも整候内、将軍家上洛列藩集議将軍家滞京

十日帰府、廿日之後者必拒絶と御請之由ニも相聞得候へ共、弥御決定

儀不相分候ニ付、當三月十二日長門守より家臣を学習院へ差出、攘夷期限

弥何日頃ニ御決定ニ相成候哉と手控にして御伺仕らせ候所、翌十三日御付札

を以四月中旬決定と被

仰聞候段、國元へ申越致承知、即時に國内へ命

令致候ハ四月中旬迄ハ先應接して不得止時者征罰、中旬後ハ直様征伐

と相決、要衝之場所へ戌 戎

ヵ

兵差出置候所、夷舶不来警戒仕居候内、四月

廿一日伝奏防 坊

城家より外夷拒絶之期限来五月十日御決定ニ相成候間、益

軍政相調醜夷掃攘可有之との御沙汰有之、同月廿三日同家より攘夷期限

五月十日無相違拒絶決定之段、将軍家御請有之由御達ニ相成、右御請

書をも相渡、幕府よりも攘夷之儀五月十日可及拒絶段御達ニ相成候間右之心得

を以自國海岸防禦筋弥以厳重相備、襲来之節者掃攘致候様

水野和泉守ゟ達有之候、其以前三月十八日之幕令ニ攘夷之

詔御奉戴ニ而、早々拒絶之應接ニ及ひ外夷承服不仕節者速に打拂

【六頁】

候様にと有之候ニ付警戒

弥以厳重申付、竟に五度馬関之戦争ニ及素ゟ

尽敷軍も不出来候へ共、

叡慮遵奉幕議承順之寸志を相遂、是よりして

弥以

國政を新にして武備を全治し

皇國之御武威を海外へも輝し

候様仕度と苦慮仕居候処、因州浪華一散發聲而已ニ而眼前小倉之如きハ

我苦戦之状を傍観隣交之情不相弁候ニ付

叡慮幕議之貫徹如何なる障り有之候哉微力独任にてハ一身一家之

分をは尽甚し候へ共、全國御指持堅之目途難相立事と考へ其段及言上

列藩へも使節を馳セ應援ヲ乞ひ且其見込をも尋問候、又

朝廷よりも列藩へ無洩御布告相届候様相願候所、恐多くも期限不相違

速に及掃壤候段

叡慮不斜御旨蒙御沙汰猶又懇に監察使御下向

にて軍労を御慰撫有之

全國感激死力を尽さんと決心仕候、左候而筑

前其外五藩へ應援之御沙汰も下り追々列藩之厚き意、辱す、然所於

関東ハ和蘭も魯仏其外同様之御所置ニ相成候義御旨意柄難相分と

申候而四月廿一日

朝廷より被仰出候趣水野和泉守より三港奉行へ申達候通

候ハ不取行旨申出候由に付、於大膳大夫ハ和蘭之儀他夷同様拒絶可然

段既に御伺仕候事にも有之其上一旦兵端相開候後に付最早穏便

難取計段幕府へ申立置候、其後一橋ゟハ閣老并大小之有か マ

マ

司同心仕候

もの一人も無之との義、関白殿下へ書中を以言上有之候ニ付京詰家臣

【七頁】

等へ

朝廷御尋ニ依而将軍家小田原迄被罷帰

聖旨貫徹候様所置有之候ハヽ一段可然義と内密御答申上候由ニ付

斯まて将軍家苦心之事ニ候へハ一橋談合屹度貫徹之驗可有之と考

居候所、豈計らん於大坂六月十二日水野和泉守ゟ夷國拒絶之義に付

可解難致廉者可相伺筈、猶横濵談判中未御手切ニ不相成内、猥に

兵端を開き御国辱を取候ニ付、弥御手切之御達有之候迄ハ彼ゟ

不襲来ハ粗忽之儀無之様との義、家臣へ申聞有之候得共、既ニ

叡感之御旨被仰聞家来末々迄勉励之折柄

朝旨幕意と齟齬仕候様にてハ甚不可然義、且國之栄辱者戦之勝敗ニハ

有之間敷、只正気と盛衰を以栄辱を分ち可申猶又拒絶之義に付

可解難仕廉無之由相答置候所又々於江戸今度京師へ被仰立候旨も

拒絶之義ハ

勅命ニ候へ共、策略ハ御委任に付此上弥打拂候迄ハ幕令相待航海船へ發

砲差扣候様との義、密封にして渡方ニ相成候得共

叡慮遵奉にて拒絶期限御請有之候ニ付、即幕意を承順して掃除

之沙汰ニ及候間、妄動とハ不心得又國力を顧ミす義心作興を以専務と

考定追々及建言候事ニ付、幕府之策略も愚考を御採用相成候事と

相考何分只今戦罸相止候而ハ一藩之動亂不容易段相答候、彼是

之應答道路相隔書中意味難弁義も有之候哉、竟に幕使

【八頁】

下向と相成五月十日夜亜船へ發砲并外夷拒絶之儀者談判決定

相成候以前襲来候も無之、船へ妄發之事詰問有之候ニ付拒絶

期限五月十日之御請相済候段、従

朝廷被

仰聞候ニ付期限ゟ

は夷船と見受候ハヽ可打拂様及沙汰置候ニ付十日之夜國柄者不

弁候得共、夷船と見定及砲發候、猶又談判にてハ拒絶之驗不相立、

其験不相立ハ拒絶とハ難申、談判ハ拒絶前ニ有之事と相考、且夷

情難計、通行襲来之差別何を以可相立哉、期限ゟハ必戦と

心得居、専ら沙汰筋を守り舊 奮

戦ニ及候事ニ付妄勤とハ不考段

書付に認、関東へ申遣置候、其義為何義も不申来候へ共将軍家

忠誠

勅意遵奉之上拒絶期限を書付に迄して言上有之、是に依るに

一橋の賢明を以し且上洛中拒絶之應接振も

朝廷ゟ御尋有之節

一時和親交易取詰候へ共元来不経

奏聞及開港候事故闔國

人心不居合之廉可申渡との答書も有之事ニ候へハ談判ニ而拒絶期

限及延引候共、幾月と聞定致兼候義者無之はつ、其節中川公

建言にも掃除之義延々に致候而者國内一致之場ニ至らす、既に及

接戦候へ共列藩拱手傍観致居候次第不堪切歯云々、猶攘夷

先鋒被蒙

仰度御懇願も有之、是畢竟戊 戌

ヵ

年にも

聖察被為在候通、有司之不取計に出る事歟と考居、闔藩甚

【九頁】

疑を抱き憤怒之余り幕使旅館へ何者とも不知狼藉様之儀出来

致候ハんと鎮静方苦心不大方候右様

叡慮遵奉幕議決定之上猶も不徹底之義有之候ハヽ如何成故にて

候哉奉對

天朝申上候ハ恐多く候へ共

叡慮弥以御決定卓然たる御実行、天下感動仕候程の

宸断被為在候所、御所置も有御坐間敷と奉愚考、兼而奉伺居候

御親征之

思召此度

宸断被為有度御事と石清水迄

行幸、暫於彼地御軍議攘夷之御駈引被遊候様にと家臣を

関白殿下へ差出内密建白為被仕候所、大和

行幸

神武陵并

春日社等

御拝暫御軍議伊勢

神廟

御拝可被遊との

御旨被

仰出、誠以驚き感憤仕

自國攘夷も懸念ニハ候得共父子之間申合供奉申上度理懐罷在

候所八月十八日堺町御門へ干戈を以人数出張有之候ニ付警衛差出

置候、家臣等兼而之申付を相守り覚悟も極め居候得共九重

近き御場所柄奉憚

朝威武備厳重ニ仕居候内御門御堅御免有之

勅使を以攘夷

御依願之

勅命をも被仰聞候ニ付京詰人数国元へ引帰其後上京御

【一〇頁】

差留、家臣九門内へ之立入

御禁止且家臣共不束之取計有之

候に付、取調候様との御沙汰ニ候得共、憚

朝威忍勇憤候段

而巳申出、兼而申付候所之尊攘之大義を守り候而の取計に付、格別

咎科可申付程の義無之、此余

宸疑難被為霽趣も被為在候ハヽ、乍恐父子共玉座近へ被

召出、前後之始末委細ニ言上仕度、其上にて猶も

叡慮ニ不相叶幕意にも違候事ニ候へハ如何様之

御譴責を以勒 勤

ヵ

王之諸藩不待幕府之尓命速に可有

攘夷之由

叡慮被仰下候ニ付、闔國之士民弥以攘夷之布令厳重申

付候

元治元甲子年卯月十日余り四日といふに写畢ぬ

清直