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低コスト稲作栽培技術マニュアル
岩手県稲作生産コスト低減推進会議
平成 29 年3月
目 次
1 岩手県の稲作コスト低減の推進について・・・・・・・・・・・ 1
2 生産コスト低減手法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4
(1)本田準備(施肥)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5
・ 地場有機物の有効活用
・ 補給型施肥技術の導入
・ 高窒素鶏ふん肥料の導入
・ 側条施肥の導入
(2)育苗・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9
・ プール育苗の導入
・ 乳苗移植栽培の導入
(3)移植・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11
・ 疎植栽培の導入
・ 直播栽培の導入
(4)本田管理・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13
・ 育苗箱用初期害虫防除薬剤の隔年施用
・ 流し込み施肥の導入
・ いもち耐病性品種の導入
(5)その他・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16
・ 非選択性除草剤の秋処理
・ 農機具費の整備・点検
・ 農地の集積・集約化
3 県内先進事例の稲作生産コスト低減の取組状況・・・・・・・・19
1
1 岩手県の稲作コスト低減の推進について
⑴ 岩手県の水稲の生産費について
生産費は経営規模が大きいほど、低くなっており、最も生産費が低い 15ha 以上
の経営体では、28 年産ひとめぼれの概算金より低くなっているが、安定した所得
を確保するためには、今後も生産コスト低減の取組が必要である。
また、「いわての美味しいお米生産・販売戦略」に基づき、直播栽培の導入拡大
や農地集積による経営規模の拡大、モデル経営体を中心とした地域行動計画の実
践など、生産コスト低減に取り組んでいる。
【参考】
・ 米の規模別生産費(H26 年産の都府県平均(支払利子・地代算入))
平均規模(1.46ha):13,903 円/60kg、15ha 以上:10,299 円/60kg
・ 県産米の概算金(H28)
ひとめぼれ:11,800 円/60kg、あきたこまち:11,600 円/60kg
全国及び東北の米生産費(円/10a)
費 目 全国 都府県 東北
平
成
26
年
産
生産費(副産物価額差引) 114,268 115,766 103,989
うち 肥料費 9,520 9,621 10,303
農業薬剤費 7,630 7,592 8,263
農機具費
(うち減価償却費)
24,114
(17,073)
24,621
(17,646)
19,828
(13,458)
労働費 35,396 35,886 31,398
資料:農林水産省 「平成 26 年産米生産費」
平成 26 年産米の作付規模別生産費(都府県)
区 分 副産物価額
差引(円)
支払利子・
地代算入(円)
全算入(円)
10a当たり生産費(平均 1.46ha規模) 115,766 120,931 135,924
〃 ( 2~ 3ha 規模) 107,139 110,935 129,886
〃 ( 3~ 5ha 規模) 104,260 111,730 125,011
〃 ( 5~ 7ha 規模) 90,305 98,395 111,631
〃 ( 7~10ha 規模) 87,226 98,340 109,563
〃 (10~15ha 規模) 81,933 92,990 100,963
〃 (15ha 規模以上) 81,750 91,212 101,718
2
区 分 副産物価額
差引(円)
支払利子・
地代算入(円)
全算入(円)
60kg当たり生産費(平均1.46ha規模) 13,310 13,903 15,742
〃 ( 2~ 3ha 規模) 11,969 12,394 14,511
〃 ( 3~ 5ha 規模) 11,857 12,706 14,216
〃 ( 5~ 7ha 規模) 9,751 10,625 12,054
〃 ( 7~10ha 規模) 9,846 11,100 12,366
〃 (10~15ha 規模) 9,778 11,097 12,048
〃 (15ha 規模以上) 9,231 10,299 11,484
資料:農林水産省「農業経営統計調査 平成 26 年産 米生産費(都府県)」
60kg 当たりの生産費は、単収を増加することがコスト低減につながる。各費目の
見直しと併せて、単収向上を目指すことが必要である。
⑵ 現在の生産コスト低減の取組
ア 大規模経営体を対象とした取組
水稲作付け 15ha 以上の経営体(H28:371 経営体)を対象に、直播栽培の導入
拡大や農地中間管理事業を活用した農地集積による経営規模の拡大支援などを
実施している。
・ 各経営体の意向に応じた低コスト技術(直播栽培、疎植栽培等)の導入支援
・ 指導者を対象とした稲作コスト低減研修会の開催
・ 生産コスト低減マニュアルの作成(29 年2月)
※ 「いわて県民計画」第3期アクションプランの目標
➣ 大規模経営体の直播栽培等低コスト技術(疎植、乳苗含む)の導入割合
H27 H28 H29 H30
目標(%) 20 50 100 100
実績(%) 38.7 50.4 - -
イ 地域行動計画の実践と低コスト技術の普及
27 年度に、県内の各地域支部会議(9地域支部)において、モデル経営体を中
心とした生産コスト低減の取組を地域行動計画として取りまとめた。
この計画に基づいて、モデル経営体の目標達成を支援するとともに、地域全
体でプール育苗や高窒素鶏ふん肥料、流し込み施肥等の生産コスト低減技術の
普及・定着に向け、JA水稲部会等と連携した取組を強化していく。
3
【参考】
各地域支部会議で 16 モデル経営体を選定し、個別に支援
※ 「いわての美味しいお米生産・販売戦略」の指標
➣ モデル経営体の生産コスト低減目標達成割合 100%
⑶ コスト低減マニュアルについて
県では、これまでの県内9地区での「稲作生産コスト低減地域行動計画」の取
組成果や、県内の先進的な取組事例などをもとに、生産コストの低減に向けた取
組を進めるための啓発資料を水稲の「生産コストの低減手法」のチラシとして作
成した(平成 26 年度7項目(平成 26 年度配布済み)、平成 27 年度 5項目)。
今回、更に3項目を追加し、これまでの低減手法をとりまとめたマニュアルと
して発行する。
4
2 生産コスト低減手法
作業 生産コストの低減手法
難易度 導入
効果 頁 初期
投資
技術
レベル
本田準備
(施肥)
地場有機物の有効活用
(肥料費低減)
○ 5
補給型施肥技術の導入
(肥料費低減)
○ 6
高窒素鶏ふん肥料の導入
(肥料費低減)
○ 7
側条施肥の導入
(労働費低減)
○ 8
育苗 プール育苗の導入
(労働費低減)
○ 9
乳苗移植栽培の導入
(種苗費等低減)
○ 10
移植 疎植栽培の導入
(種苗費等低減)
○ 11
直播栽培の導入
(労働費等低減)
◎ 12
本田管理 育苗箱用初期害虫防除薬剤の隔年施用
(農薬費低減)
○
13-1
13-2
流し込み施肥の導入
(労働費低減)
○ 14
いもち耐病性品種の導入
(農薬費低減)
○ 15
その他 非選択性除草剤の秋処理
(労働費低減)
○ 16
農機具費の整備・点検
(農機具費低減)
○ 17
農地の集積・集約化
(労働費等低減)
○ 18
初期投資の は、 低い → 高い 技術レベルの は、 易しい→ 難しい
5
【技術の内容】
1 発酵鶏ふんや鶏ふん焼却灰は牛ふん堆肥に比べリン酸やカリの含有率が高く、それ
ぞれ肥料成分が異なります。
表 発酵鶏ふん、鶏ふん焼却灰の肥料成分(事例)
窒素 リン酸 カリ
発酵鶏ふん(N地区) 3.3% 3.8% 3.5%
鶏ふん焼却灰(K 地区) 0% 18% 8.5%
2 これらの有機物が地域に豊富にある場合は、有機物それぞれの肥料成分にあわせた
施肥設計を行い、肥料として使用することにより、肥料費を低減できます。
3 N地区では、基肥に発酵鶏ふんと硫安を施用することにより、10a 当たり 999 円の
肥料費を低減できました。
内 容 費 用
発酵鶏ふん①
基肥:発酵鶏ふん 200kg/10a
硫安 15kg/10a
追肥:硫安 5kg/10a
3,920 円/10a
891 円/10a
297 円/10a
合計 5,108 円/10a
慣行②
基肥:地域慣行肥料 50kg/10a
追肥:硫安 5kg/10a
5,810 円/10a
297 円/10a
合計 6,107 円/10a
差額①-② △999 円/10a
4 K地区では、基肥に鶏ふん焼却灰と硫安を施用することにより、10a 当たり 4,102円の肥料費を低減できました。
【留意事項】 施肥設計は、使用する有機物それぞれで異なります。取り組むにあたっては最寄りの農業改良普及センターに相談してください。
内 容 費 用
鶏ふん
焼却灰①
基肥:鶏ふん焼却灰 55.3kg/10a
硫安 28.5kg/10a
追肥:硫安 5kg/10a
138 円/10a
1,693 円/10a
297 円/10a
合計 2,128 円/10a
慣行②
基肥:地域慣行肥料 50kg/10a
追肥:硫安 5kg/10a
5,933 円/10a
297 円/10a
合計 6,230 円/10a
差額①-② △4,102 円/10a
【要約】
鶏ふんや鶏ふん焼却灰は、牛ふん堆肥に比べリン酸やカリの含有率が高く、肥料
として使用することができます。鶏ふんや鶏ふん焼却灰が豊富にある地域では、硫
安と組合せて施用することで、肥料費を減らすことができます。
地場の有機物を有効活用することにより、
肥料費を低減できます。
6
【技術の内容】
1 県内の耕地土壌の大半は、土壌改良目標値を満たし、養分が過剰に蓄積しています。
2 補給型施肥技術は、土壌に蓄積した養分を利用し、収穫等によりほ場外に持ち出さ
れる肥料分だけを補給する技術です。
3 土壌診断の結果、可給態リン酸が 6mg/100g 以上かつ、交換性カリが 20mg/100g 以
上の場合は、補給型施肥技術に取り組むことができます。
表1 土壌診断に基づく補給型施肥技術の例
土壌診断の結果 有機物の施用 補給型施肥技術(ひとめぼれ)
可給態リン酸が 6mg/100g 以上かつ、
交換性カリウムが 20mg/100g 以上
堆肥の施用無し、
稲わら鋤き込みが
ある場合。
窒素:6~9kg/10a(追肥を含む)
リン酸:5kg/10a
カリ:5kg/10a
※ 窒素は地域の慣行量を施肥する。
また、可給態リン酸が 30mg/100g 以上かつ、交換性カリウムが 40mg/100g 以上の場
合には、硫安のみでの栽培が可能です。
4 H地区では、肥料銘柄を変更することにより、10a 当たり 1,759 円の肥料費を低減
できました。
表2 肥料費低減事例
【留意事項】
1 土壌診断の結果、可給態リン酸が 6mg/100g 未満または、交換性カリウムが
20mg/100g 未満となった場合には、土壌改良を行い、通常の施肥基準により肥料を投
入します。
2 補給型施肥を導入する場合は、堆肥から供給されるリン酸、カリを考慮に入れ、基
肥のリン酸、カリの施用量を決定します。
【その他】
施肥設計は、それぞれの圃場によって異なります。取り組むにあたっては最寄りの農業
改良普及センターに相談してください。
変更後① 肥料(18-18-16、169.05 円/kg)40kg
(一発型の追肥省略)で 6,762 円/10a
慣行② 基肥(10-15-15、127.05 円/kg)60kg、
追肥 10kg/10a(89.8 円/kg)で 8,521 円/10a
差額①-② △1,759 円/10a
【要約】
補給型施肥技術とは、土壌診断に基づいて必要な分だけ肥料を投入する技術で
す。県内では、多くの水田でリン酸とカリが過剰に蓄積していることから、補給型
施肥技術を導入することで、肥料費を減らすことができます。
補給型施肥技術を導入することにより、
肥料費の低減が可能となります。
※H地区では、リン酸、カリの施用量
が補給型施肥技術の 5kg/10a より多
くなりますが、慣行肥料に比べリン
酸、カリの施用量が少ない肥料銘柄
に変更したことで、肥料費を低減で
きました。
7
形状:ペレット状
図1 水稲の収量と玄米タンパク(品種:ひとめぼれ)
3.5
4.0
4.5
5.0
5.5
6.0
6.5
7.0
7.5
8.0
8.5
9.0
9.5
10.0
10.5
11.0
11.5
60
120
180
240
300
360
420
480
540
600
660
720
H23農大 H24農大 H25農研 H25花巻 H25北上 H25一関
玄
米
タ
ン
パ
ク
玄
米
収
量
収量・化肥収量・高鶏タンパク・化肥
タンパク・高鶏
(kg/10a)
(100) 102 (100) 98 (100) 104 (100) 99 (100) 95 (100) 104
(%)
【技術の内容】
1 高窒素鶏ふん肥料は、ブロイラー鶏糞堆肥と尿素を重量比 8:2 で混合し、ペレット
化したものです。
2 全窒素は 11%ですが、当年作に効果のある窒素分は 8.8%、リン酸は 3%、カリは 2%
を含み、リン酸が 30mg/100g 以上、カリが 40mg/100g 以上に蓄積している圃場での利
用に適しています。
3 水稲の栽培試験の結果、収量・品質は化学肥料と同等です。
4 高窒素鶏ふん肥料への変更することにより、10a 当たり 4,123 円の肥料費を低減で
きます。
表 高窒素鶏ふん肥料による肥料費の低減効果
【留意事項】
1 ペレット形状がやや大きいため、水稲の側条施肥機には対応しません。
2 鶏ふん由来の窒素は 2割しか含まないため、特別栽培には使えません。
3 価格は 1,000~1,500 円/20kg ですが、注文する数量、輸送費で価格が変わります。
【その他】
本肥料は、(有)三沢地域環境保全組合、プライフーズ(株)と共同開発し、市販化。
包装は、15kg 袋、20kg 袋、フレコン詰等。
<試験研究成果> 平成 25 年度「鶏ふん堆肥に尿素を添加した L型肥料の開発」(普及)
高窒素鶏ふん肥料① 基肥:高窒素鶏ふん 70kg 追肥:硫安 10kg
3,500 円/10a 596 円/10a
合計 4,096 円/10a
慣行② 基肥:化学合成肥料 50kg 追肥:硫安 10kg
7,623 円/10a 596 円/10a
合計 8,219 円/10a 差額①-② △4,123 円/10a
【要約】
高窒素鶏ふん肥料は、鶏ふん堆肥に尿素を添加した速効性のあるL型(窒素に比べ
てリン酸、カリの含有率の低い肥料)の低コスト肥料です。リン酸、カリが蓄積した
圃場での利用に適し、化学合成肥料から変更することで、肥料費を減らすことができ
ます。
高窒素鶏ふん肥料を導入することで 肥料費の低減が可能となります。
直径 5.5~6.0mm、長さ 9.5~11.0mm
8
【技術の内容】
側条施肥は、移植作業と基肥施肥を同時に行う技術です。肥料が一定の深さに、集
中的に筋条に施用されますので、苗の活着がよく、初期生育が促進され、茎数の確保
が容易となります。
図 側条施肥と全層施肥のイメージ
1 側条施肥用の肥料は液状のペースト肥料、粒状の化成肥料・配合肥料があります。
2 基肥の利用率が向上しますので、全層施肥にくらべて減肥が可能となります。土壌
の種類によりますが、窒素施肥量で 10~30%の減肥が可能です。
3 肥効調節型肥料を用いると生育中期の肥料切れを解消できます。
4 移植作業と施肥作業を同時に行いますので労力が削減できます。
【留意事項】
1 初期生育が促進される結果、速効性肥料では肥切れが早まり減収する場合がありま
すので、適期の追肥が必要です。
2 機械を水田に入れる前に肥料の落下量の調整・確認をしてください。
【要約】
田植同時の側条施肥により、水稲の初期生育が促進されます。また、窒素施肥量
で 10~30%の減肥が可能となります。
基肥の側条施肥により 10~30%の
窒素施肥量を減らすことができます。
9
【技術の内容】
1 プール育苗は、育苗パイプハウス内にビニール等によって簡易プールを作り、そこ
に苗箱を置き育苗管理を行う技術です。
2 プールへの 1 回目の給水は緑化終了後とし、水深は培土表面より下とします。2 回
目以降は水位が低下した都度給水しますが、水深は培土表面より上とします。プール
への給水は 3~7日に 1回程度行います。
3 温度管理は、2 回目の給水までは、育苗ハウスのサイドを日中開放、夜間閉鎖とし
ます。2 回目の給水後は基本的に昼夜とも育苗ハウスサイドを開放し、管理します。
ただし、霜・低温注意報が出た場合など、翌朝ハウス内の温度が 4℃以下になること
が予想される場合は、ハウスを閉めてください。
4 プール育苗の導入により、資材費は増えますが、労働費が減るので、10a 当たり 1,470
円の生産費を低減できます。
表 プール育苗導入による生産費低減効果 資材費 労働費 合計
プール育苗①
慣行育苗からの追加資材 (プール資材) ・L アングル ・アンカーピン ・置床ビニールは廃材利用
231 円/10a
・置床準備 0.12 時間/10a (耕転、均平、ビニール設置) ・育苗管理 0.14 時間/10a
195 円/10a
426 円/10a
慣行の育苗②
・置床準備 0.09 時間/10a (耕転、均平、ビニール設置) ・育苗管理 1.27 時間/10a
1,896 円/10a
1,896 円/10a
差額(①-②) 231 円/10a △1,701 円/10a △1,470 円/10a
【留意事項】
1 慣行育苗に比較し、保温効果が高く苗が徒長しやすいので、ハウス内温度やプール
水温の温度の上昇に注意し管理します。
2 種子消毒、立枯病対策など、その他の育苗管理は慣行の管理方法に準じて行います。
3 プール育苗によって、育苗期に発生するもみ枯細菌病及び苗立枯細菌病の発病抑制
が可能ですが、緑化終了後 2~3日以内にプールに給水しないとその効果は期待できま
せん。
【その他】
詳細な作成方法は、岩手県農業研究センターHP に掲載しています。
取り組むにあたっては、最寄りの農業改良普及センターへ相談してください。
<試験研究成果> 平成9年度「岩手県における水稲プール育苗技術」(普及)
<研究レポート>No.37「岩手県における水稲プール育苗技術」
【要約】
プール育苗は、プールへの給水が3~7日間隔で済み、低温時などを除きビニー
ルハウスサイドを昼夜とも解放した状態で管理可能なことから、育苗における灌水
とハウス管理を省力化することで、労働費を減らすことができます。
プール育苗に切り替えることより、 労働費を低減できます。
10
【技術の内容】
1 乳苗移植栽培は、箱当たり播種量を乾籾で 200~250g の播種を行い、10a 当たり
の移植に必要な苗箱数を低減します。(種苗費の低減、移植面積拡大)
育苗箱数が減ることで、作業補助者の労力(苗の運搬、積込等)も軽減できます。
2 移植に必要な苗箱数は、10 当たり稚苗の 16~17 箱から 11~12 箱に低減すること
が出来ます。また、収量・玄米品質・玄米タンパク含量はほぼ同等です。
乳苗 稚苗
播種量
(乾籾 g/箱) 200~250 150~180
育苗日数
置床~移植 9~12 20~25
草丈
(cm) 8~12 12~14
葉数
(葉) 1.5~2.0 2.0~2.5
使用箱数
(箱/10a) 11~12 16~17
➣ 本栽培方法により、事例を基にすると、自家育苗では、種籾や育苗培土の購入費用を 2~3割低減できます。また、田植えの際の苗の運搬や補給回数を削減することが可能となり、作業能率も向上します。
➣ 育苗ハウスを増棟することなく、水稲の経営面積を増やすことが可能となります。
【留意事項】 ・ 苗のマット強度が不足するため、田植機へ苗をのせる際には、必ず苗取り板を使ってください。
・ 病害虫防除は慣行栽培に準じて実施してください。 ・ 本チラシの内容は県中南部、沿岸南部の事例であり、実際に取り組む際には、普及センターにご相談ください。
<試験研究成果>平成 28 年度「常時被覆育苗による乳苗移植栽培の特徴」
<研究レポート>No.832「常時被覆育苗による乳苗移植栽培の特徴」
【要約】
乳苗移植栽培は、収量や品質は稚苗、中苗移植栽培とほぼ同等で、10a当たりに
使用する苗箱数を減らすことで、種苗費や育苗培土等の諸材料費を低減できます。
乳苗移植栽培の導入により、種苗費等を低減できます。
乳苗 稚苗
11
【技術の内容】
1 疎植栽培は、株間を拡げて移植することで、10a 当たりの移植に必要な苗箱数を低
減します。(種苗費の低減、移植面積拡大)
育苗箱数が減ることで、作業補助者の労力(苗の運搬、積込等)も軽減できます。
2 県央地域、「ひとめぼれ」における取組事例(H25~27,3 ヵ年調査)では、移植に
必要な苗箱数は、10a 当たり現状 16~20 箱/10a から 10 箱/10a 前後に低減できまし
た。また、収量・玄米品質・食味評価値はほぼ同等でしたが、年により玄米品質の低
下(青未熟粒)や玄米タンパク質がやや高く、食味評価値が低下する事例がみられま
した。 ※「疎植栽培」取組事例における栽植密度は 37 株/坪前後(11 株/㎡程度、株間 30cm 程度)
【「疎植栽培」取組事例(H市)】(「ひとめぼれ」、H25~27、3 ヵ年平均)
表1 栽植密度・生育ステージ・倒伏程度等
栽植密度
(株/坪)
基肥N
(kg/10a)
栽植本数
(本/株)
使用苗数
(箱/10a)
出穂期
(月/日)
成熟期
(月/日)
倒伏程度
(0-5)
疎植
栽培
37.0 35.9~37.8
4.1 3.6~4.6
4.4 3.3~5.9
8.3 7.3~9
8/6 8/4~10
9/25 9/22~26
1.4 0.3~2.5
慣行
栽培
58.8 61.4~54.3
5.0 4.8~5.2
5.2 4.1~5.9
17.6 13.2~20
8/7 8/5~11
9/25 9/24~26
1.3 0.6~2.4
注①:表の下段は調査事例の計測値等の範囲 注②:播種量(乾籾 g/箱):H25 166g H26 185g H27 179g(各区とも同じ)、移植日 5/11 前後 注③:施肥はいずれも基肥一発型肥料を利用 注④:いもち病の防除は、箱施用剤+本田粒剤施用で実施
表2 収量・品質等
稈長
(cm)
穂長
(cm)
穂数
(本/㎡)
全刈収量
(kg/10a)
慣行対比 品質
評価値
タンパク
(%)
疎植
栽培 88.9
86.7~90.7 19.4
18.7~19.9 371
339~423 545
506~580 98 77
75~78 5.8
5.6~6.1 慣行
栽培 84.2
81.7~85.6 18.7
17.6~19.5 450
399~532 556
503~599 100 77
77 5.8
5.7~5.8 注①:上段が平均値、下段がその範囲 注②:品質評価値は、kett 社製 AN-820 による測定値
➣ 本事例を基にすると、自家育苗では、種籾や育苗培土の購入費用を半減、苗を購入する場合には、支払い代金を半減できます。また、播種やかん水などの作業を削減することができることに加え、田植えの際の苗の運搬や充填回数を削減することが可能となり、作業能率も向上します。
➣ 育苗ハウスを増棟することなく、水稲の経営面積を増やすことが可能となります。
【留意事項】 1 いもち病防除は慣行栽培に準じて実施してください。 2 本チラシの内容は県中部の事例であり、地域によっては穂数の確保が困難な場合が予想されることから、実際に取り組む際には、普及センターにご相談ください。
【要約】
疎植栽培は、収量や品質は慣行栽培とほぼ同等で、10a当たりに使用する苗箱数
を減らすことで、種苗費や育苗培土等の諸材料費を低減できます。
疎植栽培の導入により、種苗費等を低減できます。
12
【技術の内容】
1 「直播栽培」は、育苗を行わずに種籾を直接水田へ播種する栽培方法で、乾田直播
栽培(畑状態で播種)と湛水直播栽培(代かきした後に播種)に大別されます。
2 直播栽培は、初期除草剤の使用により農薬費が増加しますが、育苗作業の省力化や
作期の分散により稲作部門の規模拡大が可能となり、経営全体でのコスト低減や収益
性の向上を図ることができます。
3 直播栽培を行っている経営体への聞取り結果では、以下のようなメリットを感じて
いることが分かりました(11 経営体への聞き取り結果,H25)。
作業労働ピークの軽減 稲作の省力・低コスト化
移植との組合せにより作期が分散し、作
業の競合を回避できる(作業労働時間の
平準化)。
農業機械を汎用化できる(乾田直播)。
育苗ハウスの建て増しが不要である。
育苗が不要である(資材費・農薬費・人件
費の削減)。 余剰労力を他作業に振り分けできる(育
苗管理の労力を他作業に振り分け)。 作業受託により規模拡大できる(飼料用米
栽培)。 検査等級が向上した(作期分散により刈
遅れ・着色粒が減少)。 労働費が少なくても規模拡大できる。
作業の軽労化 収益性の向上
苗の運搬が不要である。 農業機械、乾燥・調製施設の利用率が向上
する。
作業時間が軽減できる(育苗、播種、作
業補助)。
作期が分散するため乾燥・調製作業を積極
的に受託できる。
【留意事項】
1 直播栽培は、移植栽培に比べて出穂・成熟期が1週間~10日程度遅くなることから、
移植栽培より熟期の早い品種を選択してください。
2 除草剤は、「直播水稲」に登録のある剤を定められた使用方法に従って使用してくだ
さい。
【その他】
実際に取り組む際には、最寄りの農業改良普及センターへお問い合わせください。
【要約】
「直播栽培」は、育苗が不要なことから、春作業が省力化できることに加え、移植
栽培と組み合わせることで収穫期の作業分散を図ることができ、稲作部門の規模拡大
に有効な栽培方法です。
「直播栽培」の導入により、育苗作業の省力化・
作期の分散が図られ、経営規模を拡大できます。
13-1
【技術の内容】
1 初期害虫の地域一斉防除(集落単位)をすることで、翌年は無防除でも、イネドロ
オイムシやイネミズゾウムシの発生量が少なくなるので、防除を省略できます。
2 なお、6月下旬のイネドロオイムシの食害程度が 10~30%未満(写真の程度Ⅱ)であれ
ば、収量、品質への影響はありません。
写真 イネドロオイムシの食害程度 (程度Ⅱ食害 10~30%未満)
3 初期害虫防除を隔年で実施することで、殺菌剤のみの箱施用剤を使用した年に 10a
当たり 1,948 円の農薬費を低減できます。
表 初期害虫防除薬剤での隔年防除実施による農薬費の低減
内 容 費 用
変更後① 殺菌、殺虫剤の箱施用剤と殺菌剤
のみの箱施用剤を隔年で使用。
殺菌剤のみの箱施用剤を使用した年
2,380 円/10a
慣行② 殺菌、殺虫剤の箱施用剤を使用。 4,328 円/10a
差額①-② △1,948 円/10a
【留意事項】
防除にあたっては、無防除圃場が点在しないよう、地域で一斉に防除を行いましょう。
<試験研究成果> 平成 15 年度「数年に一度の地域一斉防除で水稲初期害虫を防除できる」(普及)
<研究レポート>No.275「数年に一度の地域一斉防除で水稲初期害虫を防除できる」
【要約】
育苗箱用の初期害虫防除薬剤で地域一斉防除を行うと、翌年はイネドロオイムシ、
イネミズゾウムシの防除を必要としない水準まで防除できます。育苗箱用の初期害虫
防除薬剤での防除を隔年で実施することにより、農薬費を減らすことができます。
育苗箱用の初期害虫防除薬剤を隔年で施用することで、 農薬費の低減が可能となります。
13-2
【技術の内容】
1 県南部での取組事例(H27~)
JA、農業共済組合、O市、普及センターが連携して、毎年 6月上旬に市内 10 地区(JA 営農センター単位)で、1 地区当たり各 6ほ場(1ほ場 25 株)を調査し、初期害虫発生密度を生産者へ周知しています。 平成 24 年以降要防除水準に達する事例がみられないため、平成 27 年からは、殺虫
成分を省略しています。
調査月日 イネミズゾウムシ 成虫(頭)/25 株
イネドロオイムシ 卵塊(個)/25 株
JA 特栽米 箱施用剤
H24.6 1.5 0 クロラントラニリプロール・プロベナゾール粒剤(1年目)
H25.6.4 0.6 0 クロラントラニリプロール・プロベナゾール粒剤(2年目)
H26.6.4 1.7 0 クロラントラニリプロール・プロベナゾール粒剤(3年目)
H27.5.29 1.1 0 プロベナゾール粒剤 (殺虫成分を削減,1年目)
2 殺虫成分を除いた箱施用剤へ変更することにより農薬費を低減できます。
また、同系統の薬剤を毎年使用することで生じる害虫の薬剤感受性の低下を防ぐこ
とができます。
(例)クロラントラニリプロール・プロベナゾール粒剤(商品名:Dr.オリゼフェルテラ箱粒剤)
の替わりに、殺虫成分を含まないプロベナゾール粒剤(商品名:Dr.オリゼ箱粒剤)に変更
1kg 袋あたり 3,581 円 - 2,622 円 = 959 円 の低減 (※価格は参考)
【留意事項】
1 殺虫成分を含んだ箱施用剤を施用する年には、地域内に無防除ほ場が点在することがないよう、広域で一斉に防除を行うことが重要です。
2 殺虫成分を含まない箱施用剤を施用する年には、要防除水準(イネドロオイムシ卵塊数 13 個/25 株、イネミズゾウムシ 8 頭/25 株)に達した場合は、水面施用剤で対応してください。
【要約】
地域の水稲初期害虫の発生量を調査し、その結果に基づき、殺虫剤の削減に取り
組んでいます(取組事例)。
水稲初期害虫の発生をモニタリングし、
地域で殺虫剤成分の削減に取り組んでいます。
14
資材名 10aあたり現物量 同左価格 % 成分量NKC17号 10kg 967円 100 (N1.7-P0-K1.7)硫安 8kg 532円 55 (N21-P0-K0)尿素 3.7kg 401円 41 (N46-P0-K0)※10aあたり現物量は、N成分1.7kg/10a相当量とした。※同左価格は、販売価格例(1袋/20kgあたり)を参考に現物量に換算した。※%は、NKC17号を100とした割合
【技術の内容】
1 「流し込み施肥」は、追肥作業時間の削減と散布労力の軽減ができる技術です。尿
素や硫安を用いた場合、化成肥料と比べて肥料費を5割前後低減できます。
2 潅がい水とともに肥料成分が圃場全体に広がるので、ムラなく追肥ができます。
3 「流し込み施肥」ができる資材にはいくつかの種類があり、圃場条件等に応じて選
びます。各資材の使用方法をよく読んで正しく使いましょう。
【留意事項】
潅がい水が安定して確保できない圃場では行わないで下さい(生育ムラが生じます)。
<試験研究成果> 平成6年度「大区画ほ場における流入専用肥料施用(追肥)法」
平成 11 年度「大区画ほ場における流入専用肥料施用法-液肥-(追補)」
【要約】
「流し込み施肥」(「流入施肥」)は、水口から潅がい水と同時に液体肥料や専用流
し込み肥料、あるいは肥料を溶かした肥料溶液を施用する省力・低コストな追肥法
です。
「流し込み施肥」により、水田に入らずに
省力的に追肥作業を行うことができます。
写真1.流し込み施肥の実施事例 ※硫安を入れたコンバイン袋を水口に設置
写真2.潅水量不足により生育ムラを生じた事例
使用する資材の名称など 留意点
液体肥料「おてがるくん」(12-5-7) 「おてがるくんNK」(15-0-6)
・吐出時間を、流入時間にあわせて調整する(2時間と4時間の2段階)⇒キャップの穴数で調整する
・片倉コープアグリ㈱ http://www.katakuraco-op.com/site_fertilizer/products/a_pouring.html
尿素(46-0-0)
・滴下前に水に溶かす必要がある・潅水時間と滴下時間を合わせるよう調整する
流し込み専用肥料(「らくらく施肥」15-15-10ほか)、その他専用肥料
・水に溶けやすい肥料である・肥料を網袋等に入れておき、水口に設置し流入開始と同時に一気に溶かす
・サンアグロ㈱ http://www.sunagro.co.jp/html/rakuraku.html
硫安(21-0-0)
・コンバイン袋(3重)をコンテナに入れ、水口にセットする・潅漑水の流入にあわせてゆっくり溶かす
対応資材
・古川農業試験場 参考資料「尿素を用いた水口流入施肥による水稲追肥の省力化」 http://www.pref.miyagi.jp/uploaded/attachment/223240.pdf
・東北農業研究センター 成果情報「硫安を用いた飼料イネ栽培向けの簡易な流入施肥方法」 http://www.naro.affrc.go.jp/org/tarc/seika/jyouhou/H20/suitou/H20suitou022.html
専用肥料
専用肥料
尿素
液状
粒状
硫安
15
【技術の内容】
1 「どんぴしゃり」、「いわてっこ」、「銀河のしずく」は、穂いもちが発生しにくい特
長があります。
2 これら3品種は、平常の気象条件で、葉いもち防除 1 回で穂いもちの発生を抑える
ことができます。
3 これら3品種の作付けでは、穂いもち防除を省略することにより、10a 当たり 3,225
円の農薬費を低減できます。
【留意事項】
気象条件(冷害年など)によっては、穂いもち防除を省略した場合、穂いもちの発生
が助長される可能性があるので、病害虫防除所の発生予察情報を参考に、追加防除を検
討します。
<試験研究成果>平成 18 年度「水稲品種「いわてっこ」のいもち病圃場抵抗性を利用した省農薬防除法」(指導)
平成 18 年度「水稲品種「どんぴしゃり」の穂いもちほ場抵抗性「強」を利用した穂いもち防除の省略」(指導)
平成 28 年度「水稲品種「銀河のしずく」のいもち病圃場抵抗性を利用した穂いもち防除の省略」(指導)
<研究レポート>No.376「水稲品種「どんぴしゃり」の穂いもち防除の省略」
No.844「水稲品種「銀河のしずく」の穂いもち防除の省略」
【要約】
「どんぴしゃり」「いわてっこ」「銀河のしずく」は、穂いもちが発生しにくい品種
です。平常の気象条件では、箱施用剤による葉いもち防除 1 回で穂いもち被害の発生
を抑えることができるため、穂いもち防除を省略することができます。
品種のいもち病抵抗性を利用して、穂いもち防除を 省略することで、農薬費の低減が可能となります。
0
25
50
75
100
6/247/4
7/137/22
8/28/19
9/1
葉いもちの病斑数
(個/株
)0
25
50
75
100
穂いもち被害度
ひとめぼれ葉いもち
どんぴしゃり葉いもち
ひとめぼれ穂いもち
どんぴしゃり穂いもち
図 1 無防除時のいもち病の発生(平成 17 年)
・9株の葉いもち病斑数と穂いもち被害度調査
・6月 15 日調査区の中心にいもち病罹病苗植え込み
16
【技術の内容】
1 非選択性除草剤を稲刈り後の水田畦畔へ散布することで、翌春まで畦畔雑草の発生
を抑えられ、田植え前と 6月中旬の畦畔草刈りを省略することが可能です。
2 稲刈り後の除草剤散布では、労働費と資材費は増えますが、従来の草刈作業に比べ
て、労働費が減るので、10a 当たり 531 円の生産費を低減できます。
表 非選択性除草剤散布(秋処理)による生産費低減効果
資材費 労働費 合計
除草剤散布
1回
草刈2回①
草刈機、散布機、
農薬費、燃料費
422 円/10a
労働時間
1.22 時間
1,701 円/10a
2,123 円/10a
草刈4回②
草刈機、燃料費
312 円/10a
労働時間
1.68 時間
2,342 円/10a
2,654 円/10a
合計①-② 110 円/10a △641 円/10a △531 円/10a
【留意事項】
1 非選択性除草剤の散布は、ラベルに書いてある注意事項をよく読んでから行います。
2 畦畔への除草剤散布は、特別栽培米における農薬の使用回数には含まれません。
【要約】
稲刈り後に水田畦畔へ非選択性除草剤を散布することで、畦畔雑草の発生を翌春
まで抑えることができるので、翌春の草刈作業を省略し、労働費を減らすことがで
きます。
非選択性除草剤の秋処理により翌春の水田畦畔の 草刈り回数の低減が可能となります。
写真 除草剤散布(秋処理)による翌春の雑草発生状況(左:処理区,右:
慣行区)
(実証場所:西和賀町川舟,
薬剤(ラウンドアップマックスロード)処
理日:H25.10.28,撮影日:
H26.5.14)
草刈 4回 除草剤散布 1回
草刈 2回
図 除草剤散布(秋散布)の
イメージ
17
【技術の内容】
1 日常の点検・整備を自ら、こまめに行うことで機械の稼動年数を延ばし、年当たりの
農機具費を低減することができます。また、委託整備する場合と比べてメンテナンス
費用を低く抑えることができます。
加えて、機械の仕組み、特徴を理解することで作業性の改善にもつながります。
2 具体的には、以下のような工夫をします。
・ 機械使用後は、洗浄や注油など日常の基本的な整備と点検を実施する。
・ 損傷した部品は、大きな故障につながらないようこまめに交換する。
・ 使用しないときは、キャタピラのベルトを緩める、農業機械の下に支えを入れる
等、通常機械を支えている部分への負担を軽減する。
・ 農業機械の展示会や整備の勉強会へ出席して積極的に技術習得に努める。
写真 機械の稼動年数を延ばす一工夫(事例)
【留意事項】
刈取り部や動力部など危険をともなう部位の整備はメーカー等へ依頼しましょう。
【要約】
農業機械の日常の整備・点検をこまめに行うことで、修繕費を削減し、稼動年数
を延長して農機具費を低く抑えることができます。
日頃から基本的な整備・点検を実施することで、
農機具費等を低く抑えることができます。
【農家のコメント】 普段から簡単な修理はなる
べく自分でするよう心がけています。 機械が故障しないよう大事
に使うことで、機械を長く使うことにつながっています。
下に支えを入れること
で、タイヤへの負担を軽
減。
18
【技術の内容】
1 1日の作業時間における作業準備に係る時間を減少させることで、能率が向上しま
す。作業準備時間には、圃場の分散程度が影響しており、農地を集積・集約化して車
庫から圃場及び圃場間の移動距離を短くすることによって、1日の作業準備時間が減
少します。
2 水稲の主要 4 作業(耕起、代かき、移植、収穫)は、圃場の分散程度により大きく
異なります(図1)。
図1 耕起・代かき作業における移動と実作業時間の割合
【留意事項】 岩手県南地域の大規模経営(経営面積 10ha 以上)を対象とした事例です。
【要約】
1日の作業時間における作業準備時間は、圃場の分散程度が影響します。農地の
集約化を図ることで、圃場間の移動時間を削減して作業能率が向上します。
農地の集約化で作業能率を上げましょう
移動時間
移動時間
実作業時間
実作業時間
0% 20% 40% 60% 80% 100%
個別営農B
(分散小)
個別営農A
(分散大)
割合
耕起作業における時間の割合
移動時間
移動時間
実作業時間
実作業時間
0% 20% 40% 60% 80% 100%
個別営農B
(分散小)
個別営農A
(分散大)
割合
代かき作業における時間の割合
19
3 県内先進事例の稲作生産コスト低減の取組状況
県内先進事例(7経営)の米全算入生産費の調査結果は図1のとおり。
図1 県内先進事例の米全算入生産費(上:10a 当たり、下:60kg 当たり)
10a 当たりの全算入生産費(図1の上)は、7経営全てで米生産費統計(平成 26 年産)
における都府県平均(136,924 円)及び都府県 15ha 以上(101,718 円)を下回っており、
生産コストの大幅な低減が図られていた。
60kg 当たりの全算入生産費(図1の下)は、4 経営(A,B,D,E)で国(日本再興戦略)
の目標である全国平均対比 4割削減(9,600 円)を既に実現している。
A 経営では平均単収が 666kg/10a と多収となっていることが大きな要因であり、一層
の生産コスト低減に向けては、収量の確保・向上も重要であることが分かる。
以下、代表事例(3経営)における具体的な取組状況を紹介する。
79,809 79,098
72,542
83,137
74,027
87,523
93,973
101,718
136,924
0
20,000
40,000
60,000
80,000
100,000
120,000
140,000
A経営
37.2haB経営
14.5haC経営
20.1haD経営
37.3haE経営
54.3haF経営
62.4haG経営
1.0ha都府県
15ha以上
都府県
平均1.5ha
全算入生産費(円/10a
)
利子
地代
労働費
建物・自動車・農機具費
物財費その他
賃借料及び料金
農業薬剤費
肥料費
種苗費
7,190
9,337
10,881
9,082 9,254
16,411
9,997
11,484
15,742
0
2,000
4,000
6,000
8,000
10,000
12,000
14,000
16,000
18,000
A経営
37.2ha666kg/10a
B経営
14.5ha508kg/10a
C経営
20.1ha400kg/10a
D経営
37.3ha549kg/10a
E経営
54.3ha480kg/10a
F経営
62.4ha320kg/10a
G経営
1.0ha564kg/10a
都府県
15ha以上531kg/10a
都府県
平均1.5ha522kg/10a
全算入生
産費
(円/60kg) 利子
地代
労働費
建物・自動車・農機具費
物財費その他
賃借料及び料金
農業薬剤費
肥料費
種苗費
注 1)A~G 経営の値は事例調査結果、都府県(15ha 以上)及び都府県(平均 1.5ha)の値は、米生産費統計(H26 産)の値
注 2)物財費その他=光熱動力費+その他の諸材料費+土地改良及び水利費+物件税及び公課諸負担+生産管理費-副産物価額
注 3)各経営の 2 段目の数値は水稲(主食用米)作付面積、下図 3 段目の数値は平均単収
国の目標(9,600 円)
20
(1) A 経営(個別経営)
経営面積(全作業受託を含む)は
130.6ha、うち主食用米は 37.2ha、水稲
全作業受託 52ha、小麦 23.5ha の作付を
行う大規模個別経営である。
自社オリジナルの堆肥施用による土
づくり、土壌診断に基づく独自配合の施
肥を行うことなどで高い収量を実現す
るとともに、圃場の団地化等により、労
働時間を大幅に削減している(表1)。
60 ㎏当たりの全算入生産費は 7,190
円と都府県平均に比較して 5 割以上の
削減となっている(表1)。
費目別にみると、種苗費、建物・自動
車・農機具費、賃借料及び料金、農業薬
剤費の削減幅が大きくなっている。
【生産コスト低減に向けた具体的な取組】
①資材費(種苗費、肥料費、農業薬剤費など)
◆使用数量を減らす、使用する種類を減らす◆
・ 堆肥の継続的な施用による土づくり、土壌診断に基づく独自配合の施肥等で、
減農薬・減化学肥料栽培(化学肥料 7~10 割減、農薬 5~7割減)を行い、農薬・
肥料の使用数量及び使用種類を削減
・ 薄播・疎植栽培(15 箱/10a)により、種苗・諸材料(培土)の使用数量を削減
・ 直播栽培を一部導入することで、諸材料(培土)の使用数量を削減
◆安く調達する◆
・ 肥料、農薬をメーカーから直接仕入れることで、通常の調達に比較して、単
価を約 2割低減
②減価償却費(建物・自動車・農機具費)
◆稼働面積を増やす◆
・ 3 品種、移植・直播栽培を組み合わせることで、春・秋作業期間を各 1 か月
前後と作期拡大
・ 水稲全作業受託、小麦作にも機械を汎用利用
◆長く使う◆
・ 毎年、メンテナンス・早期修理を行うことで農機具等を法定耐用年数の約 2
倍程度と長期使用
③労働費
◆時間を減らす◆
・ 人・農地プランに係る話し合い、「地権者の会」を通じた出し手農家との相互
理解醸成などにより、圃場の面的集積・団地化を図り移動時間を削減
・ 生産工程管理の徹底、熟練者による作業の実施等で作業時間を低減(8.07 時
間/10a)
A経営都府県平均
削減率
経営面積(a) 13,060 236
主食用米(a) 3,720 147
単収(主食用米) (kg/10a) 666 522
労働時間(時間/10a) 8.07 25.41 △68%
全算入生産費(円/60㎏) 7,190 15,742 △54%
種苗費 59 447 △87%
肥料費 585 1,107 △47%
農業薬剤費 373 872 △57%
賃借料及び料金 593 1,480 △60%
建物・自動車・農機具費 974 3,811 △74%
物財費その他 814 1,466 △44%
労働費 2,315 4,127 △44%
地代 987 1,769 △44%
利子 490 663 △26%
項 目
表1 A経営と都府県平均(統計)の生産費の比較
21
(2) D 経営(集落営農)
経営面積は 77.1ha、うち主食用米は
37.3ha、大豆 40.4ha の作付を行う集落
営農型の法人経営である。
水稲作では、全面積を特別栽培として
いるが単収は都府県平均と同等以上を
確保している。集落内の圃場のほとんど
を集積したうえで団地化を図るととも
に、機械作業は法人で一括作業を行うこ
とで労働時間を削減している(表2)。
60 ㎏当たりの全算入生産費は 9,082
円と都府県平均に比較して 4 割の削減
となっている(表2)。
費目別にみると、労働費、建物・自動
車・農機具費、種苗費、肥料費の削減幅
が大きくなっている。
【生産コスト低減に向けた具体的な取組】
①資材費(種苗費、肥料費、農業薬剤費など)
◆使用数量を減らす、使用する種類を減らす◆
・ 特別栽培、側条施肥、転作大豆跡作での減肥を行うことで、肥料の使用数量
を削減
◆安く調達する◆
・ 農協の大口割引制度を利用
②減価償却費(建物・自動車・農機具費)
◆稼働面積を増やす◆
・ 複数作物に使用できる機械は、水稲・大豆双方に汎用活用し、稼働面積を拡
大
◆安く調達する、長く使う◆
・ 中古機械を積極的に活用(中古市場で程度の良いものを見つけて使えるまで
使う)
・ 新品を購入する際には、補助事業の導入を検討
③労働費
◆時間を減らす◆
・ 圃場の面的集積・団地化による作業の効率化
・ 基盤整備(圃場区画の拡大、パイプライン化など)による作業の効率化
・ 側条施肥により、散布に係る労働時間を削減
◆作業をなくす、他に頼む◆
・ 作業の効率化が難しい草刈・水管理については、構成員に作業委託
D経営都府県平均
削減率
経営面積(a) 7,771 236
主食用米(a) 3,725 147
単収(主食用米) (kg/10a) 549 522
労働時間(時間/10a) 15.49 25.41 △39%
全算入生産費(円/60㎏) 9,082 15,742 △42%
種苗費 195 447 △56%
肥料費 657 1,107 △41%
農業薬剤費 805 872 △8%
賃借料及び料金 1,362 1,480 △8%
建物・自動車・農機具費 1,745 3,811 △54%
物財費その他 1,153 1,466 △21%
労働費 1,717 4,127 △58%
地代 1,324 1,769 △25%
利子 124 663 △81%
表2 D経営と都府県平均(統計)の生産費の比較
項 目
22
(3) G 経営(集落営農に加入し、機械の共同利用をしている個別経営)
集落営農組織に加入している個別経営(経営面積は都府県平均とほぼ同規模の1ha)
であり、肥培管理は個人毎に行っているが、地域内にある機械利用組合の機械を共同
利用して生産コスト低減を図っている。具体的には、主要な農業機械を個人で所有せ
ず、機械利用組合の機械を用いて、集落
営農のオペレータに作業を委託するこ
とで、建物・自動車・農機具費を 9割以
上と大幅に削減している(表3)。
機械の利用料金や作業委託料金の増
加で賃借料及び料金が、水稲苗の購入に
より種苗費が都府県平均より大きくな
っているものの、建物・自動車・農機具
費、労働費などの削減幅が大きいため、
60 ㎏当たりの全算入生産費は小規模経
営ながら 9,997 円と都府県平均に比較
して 4割弱の削減となっている(表3)。
【生産コスト低減に向けた具体的な取組】
①資材費(種苗費、肥料費、農業薬剤費など)
◆使用数量を減らす、使用する種類を減らす◆
・ 特別栽培を行うことで、肥料の使用数量、種類を削減
◆安く調達する◆
・ 集落営農組織で一括購入することで、農協の大口割引制度を活用
②減価償却費(建物・自動車・農機具費)
◆使用機械(台数)を減らす◆
・ 個別には機械を所有せず、機械利用組合の機械を共同利用
◆稼働面積を増やす◆(機械利用組合の対応)
・ 地域の機械利用組合としても、集落の各農家がまとまって使用することで、
機械の稼働面積を確保することができ、機械利用料金を低価格に設定可能
③労働費
◆時間を減らす◆
・ ジャンボ剤による防除で省力化・散布時間削減
・ 基盤整備(圃場区画の拡大、パイプライン化など)による作業の効率化
◆作業をなくす、他に頼む◆
・ 地域内の共同育苗施設からの安価な購入苗を使用
・ 主要機械作業は、集落営農組織のオペレータに委託
(オペレータとしても、機械利用組合の高性能機械を用いて短期間で作業できる
ため、低価格で作業受託することが可能)
➡ 全算入生産費 9,600 円/60kg 以下を実現している経営が県内にもあります(実
現不可能ではないということ)。
➡ 本マニュアルで紹介したコスト低減技術や先進事例の取組等を参考に、各経営
できるところからコスト低減の取り組みを始めましょう。
G経営都府県平均
削減率
経営面積(a) 100 236
主食用米(a) 100 147
単収(主食用米) (kg/10a) 564 522
労働時間(時間/10a) 6.33 25.41 △75%
全算入生産費(円/60㎏) 9,997 15,742 △36%
種苗費 1,064 447 138%
肥料費 1,078 1,107 △3%
農業薬剤費 1,194 872 37%
賃借料及び料金 4,531 1,480 206%
建物・自動車・農機具費 126 3,811 △97%
物財費その他 626 1,466 △57%
労働費 877 4,127 △79%
地代 319 1,769 △82%
利子 182 663 △73%
項 目
表3 G経営と都府県平均(統計)の生産費の比較