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MPTフォーラム20092月度例会 2009/2/5 早稲田大学商学部 大鹿智基 情報開示に対する経営者の姿勢が 会計情報の有用性に与える影響 -株主総会活性化企業における業績予想の精度- 早稲田大学商学部 大鹿智基 MPTフォーラム 20092月度例会 2 報告の流れ z 研究の背景 発生主義会計の有用性への再考察 z 分析モデルの構築 z 実証分析 経営者予想利益の精度 発生主義項目の多寡 株式市場の反応 z 今後の研究への展望

情報開示に対する経営者の姿勢が 会計情報の有用性 …MPTフォーラム2009年2月度例会 2009/2/5 早稲田大学商学部大鹿智基 情報開示に対する経営者の姿勢が

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早稲田大学商学部 大鹿智基

情報開示に対する経営者の姿勢が会計情報の有用性に与える影響

-株主総会活性化企業における業績予想の精度-

早稲田大学商学部

大鹿智基

MPTフォーラム

2009年2月度例会

2

報告の流れ

研究の背景

– 発生主義会計の有用性への再考察

分析モデルの構築

実証分析

– 経営者予想利益の精度

– 発生主義項目の多寡

– 株式市場の反応

今後の研究への展望

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研究の背景(1)

会計への不信

– 会計システムを生み出す主体への不信

(=経営者は誠実に報告しているのか?)

経営者の(意図的な)恣意性

– 会計システムが生み出す情報への不信

(=経営者が誠実に報告したとしても・・・)

複雑,朝令暮改

経営者の(不可避的な)恣意性

4

研究の背景(2)

そもそも,発生主義会計は現金主義会計の欠点を補うために発達してきたはず

– 商取引における現金決済までのタイムラグの調整掛取引

貸倒引当金

– 長期の資産・負債に関する費用・収益の適切な期間配分(対応)

有形固定資産

退職給付債務

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発生主義会計情報の有用性(1)

本来は,発生主義会計による業績(以後,会計利益)

現金主義会計による業績(以後,CF)

実際は,CF > (歪められた)会計利益

6

発生主義会計情報の有用性(2)

経営者が「誠実に」会計利益を報告すれば,

情報利用者(ここでは株式投資家を中心に想定)

にとって,より有用な情報となりえる

ここでの問題は,経営者の動機付け

– メリットがない?

– 「不誠実な」報告をしたほうが得?

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経営者の動機付け(1)

誠実な報告をすることによって経営者がメリットを享受しない場合(ゼロサム)の動機付け

– 教育倫理観の養成

経済的合理性との矛盾

– 規制詳細な規定の作成(抜け穴をふさぐ)

罰則の強化

8

経営者の動機付け(2)

誠実な報告をすることによって経営者がメリットを享受する場合(Win-Win)の動機付け

– 基本的には不要

– 経済的合理性と合致

そうだとすれば,その状況が存在することを証明(確認)して提示すればよい

– そもそも「メリット」は?

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本報告の検証内容

経営者のメリットとして個人株主の獲得を想定

– 持合株式減少による敵対的買収の脅威の増大からの防衛

– 消費者としての貢献

経営者の姿勢の発現の場として株主総会を想定

– 機関投資家へは別の説明機会も存在

– 総会屋排除による株主総会正常化の土台構築が完了

10

本報告で検証する仮説

1. 株主総会活性化企業において,経営者予想利益の精度が向上していることを確認する

2. その精度向上が,裁量的会計発生項目による「見せかけ」でないことを確認する

3. 株式市場が,精度向上に対して,正の反応を示していることを確認する

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株主総会を取り巻く環境(1)

儀式としての株主総会

– 右肩上がりの経済

– 長時間総会を嫌う経営者

– 「円滑に」総会を進行する総会屋の存在

株主総会の「正常化」

– 株式持合いの解消

– 総会屋の排除

– イメージの変化

12

株主総会を取り巻く環境(2)

– 株主総会の平常時の機能は,取締役の選解任

– 平常時から丁寧な説明を心がけ,投資家に理解してもらえば,非常時(ex. 敵対的企業買収)に有利

ただし,「説明するもの(経営理念とその実践)」がなければ,説明できない

– その意識変化は,他の場面でも発現するはず→ 経営者予想利益の精度向上しかし,見せかけの(会計発生項目を利用した)精度向上で投資家を誤導することも可能かも知れない

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個人株主獲得への経営者の姿勢

個人株主獲得のための方策

– クリーンなイメージ(情報公開の充実)の確立Webページを通じた情報発信

決算情報による情報発信

– 個人投資家の時間と収益のトレード・オフ

– 消費者としての囲い込み株主優待

イベント化した株主総会開催

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経営者予想利益

証券取引所の「適時開示規則」による要請

– 決算短信において,次期の売上高,営業利益,

経常利益,当期利益の予想値を公表

– その後,差異が生じた場合にはその都度公表

詳細な企業分析をする(時間的,経済的)余裕

(または意義)を有しない個人投資家にとって,

ボトムライン数値である利益数値の予想値は,

意思決定に際して重要な情報

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株主総会活性化と経営者予想利益の精度

2

⎟⎠

⎞⎜⎝

⎛≡期末資産合計

予想利益-実際利益業績予想の精度

仮説1a:

仮説1b:

株主総会活性化企業が活性化の翌年に公表する業績予想は,非活性化企業が同時期に公表する業績予想と比べて,精度が高い(企業間の比較)

株主総会活性化企業が活性化の翌年に公表する業績予想は,活性化の前年に公表した業績予想と比べて,精度が高い(時系列の比較)

業績予想の精度を以下のように定義する

16

活性化の定義

2000年~2003年の各年に実施された株主総会の所要時間が,以下の

条件の両方を満たした場合に,その年の株主総会が「活性化」したと呼ぶこととする.

① 1991年~1999年の各年に開催された株主総会の平均所要時間の1.5倍以上

② 60分以上

・2000~2003年の平均所要時間は36~43分・閾値を2倍,45分に変化させても結論に大きな変化はない

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「長時間化」=「活性化」?

「企業が,株主総会の・・・時間の長さを自慢するようになれば,日本株式

会社の企業統治(コーポレート・ガバナンス)も成熟したといえる.」

(2005年6月13日付読売新聞)

「ここでいう『総会の活性化』とは,・・・個人株主の存在を強く意識した,

総会運営に関するさまざまな工夫である」(資料版・商事法務 第255号)

質問なしで終了する総会が減少(商事法務「株主総会白書」)

総会が長時間化した企業において,利益の増加,ディスクロージャの

拡充など,株主にとって好ましい状況が発生している

(Hilary and Oshika[2003])

18

分析対象

2005年3月末に東証第一部・第二部に上場している

企業のうち,以下のサンプルを抽出

– 3月決算である

– 銀行・証券・保険以外の業種である

– 1991年から1999年までに開催された定時株主総会の

所要時間データが7年分以上入手可能である

– 分析に利用するデータが入手可能である

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比較の時期の決定

3月決算企業の場合,通常,業績予想の公表は4~5月(決算短信発表時),株主総会は6月– (例)2000年6月の株主総会が活性化した

1999年6月(活性化前)の株主総会以後に経営者の意識変化

2000年5月に公表される(2001年3月期の)業績予想発表時が,

意識変化前後のいずれか不明

1999年5月に公表される(2000年3月期の)業績予想

v.s.2001年5月に公表される(2002年3月期の)業績予想

20

予想公表予想公表

1999 2000 2001 20023/31 3/31 3/31 3/31

予想公表

予想公表

活性化

活性化前

意識変化後?

予想公表

他社予想

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データ

株主総会に関するデータは「資料版・商事法務」

より収集

株価データ,財務データは「日経NEEDS-Financial QUEST」より抽出

「経常利益」と「当期利益」の予想を分析対象

各変数の上下1%ずつを外れ値としてカット

22

分布が特定されないため,Wilcoxonの順位和

検定を利用して検定する

活性化企業のサンプルの順位和が有意に小さい場合,

帰無仮説が棄却される

企業間(クロス・セクショナル)の比較(仮説1a)の検証モデル

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企業間(クロス・セクショナル)の比較(仮説1a)の検証結果(全体サンプル)

全サンプルを対象とした分析結果(下表)は,株主総会活性化企業において業績予想の精度が有意に高いことを示している

10%水準,5%水準で,1%水準で有意な統計量に,それぞれ※,*,**を付している.

以下同様.

平均値 中央値 平均値 中央値

活性化企業 311 0.000571 0.000067 0.000673 0.000035

非活性化企業 2692 0.001151 0.000117 0.000849 0.000087-4.0554

経常利益 当期利益

Z統計量

**-2.5243 **

Z統計量標本数

24

時系列の比較(仮説1b)の検証モデル

それぞれのサンプルごとに活性化前年の精度と活性化翌年の精度が対応するので,以下で定義される精度の変化を計算し,有意に負であれば帰無仮説が棄却される.

2

1

11t

2

1

11t⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛−⎟⎟

⎞⎜⎜⎝

⎛=

−−

+

++

t

t

t

t

期末資産合計

-実際利益予想利益

期末資産合計

-実際利益予想利益

業績予想の精度の精度-活性化前年の活性化翌年の業績予想業績予想の精度の変化

精度の変化について,平均値(t検定)および中央値(Wilcoxonの符号

付き順位和検定)の差が有意に負であるかどうかを検定する

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時系列の比較(仮説1b)の検証結果(1)

符号はほぼ予想通りであるが,有意ではない

2000年度のサンプルに関する符号が逆

2000 26 0.000297 0.000011 0.000430 0.000007

2001 36 -0.000053 0.000000 -0.000430 -0.000020

2002 37 -0.001040 ※ 0.000000 -0.002490 -0.000050 *

2003 34 0.000160 0.000000 -0.010360 -0.000180 ※

全体 133 -0.000340 0.000000 -0.003380 -0.000020 *

活性化年度経常利益

平均値 中央値

当期利益

平均値 中央値標本数

26

2000年度に活性化したサンプルの分析結果– 1999年5月に公表された2000年3月期の業績と

2001年5月に公表された2002年3月期の業績との比較

– 2002年3月期の業績予想は全体的に精度が悪く,活性化による

改善効果を消去している可能性

業績予想と実際利益の関係(右表)

「月例経済報告」基調判断

– 「さらに弱含んでいる」2001.5– 「悪化を続けている」2001.12

年度

(単位:%) 平均値 中央値 平均値 中央値

2000 27.6 -0.1 8.1 0.3

2001 28.2 -0.2 14.7 0.2

2002 30.7 1.2 20.7 1.4

2003 28.9 0.0 18.0 0.5

2004 28.7 0.0 15.0 0.0

経常利益 当期利益

⎟⎠

⎞⎜⎝

⎛実際利益

予想利益-実際利益

時系列の比較(仮説1b)の検証結果(2)

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業績予想の精度向上と報告利益管理

年度による有意性の違いはあるものの,株主総会活性化と業績予想の精度向上との間に関連のあることが確認された

しかし,業績予想の精度は,業績予想と実際利益との差によって計算されるため,実際利益を操作すること(報告利益管理)によって,「見せかけの」精度向上を演出することも可能

28

経営者の報告利益管理の動機

– 損失を回避したい

– 減益を回避したい

– アナリスト予想利益・経営者予想利益を上回りたい

報告利益管理に関する先行研究(1)

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報告利益管理の検出(奥村[2004],須田・首藤[2004])

– 会計利益分布の不規則性を検出Hayn[1995],Burgstahler and Dichev[1997],Abarbanell and Lehavy[2003],野間[2004]など

実際の努力によって達成した可能性(Dechow et al.[2003])

– (裁量的)会計発生項目額の多寡による検出報告利益管理には,キャッシュ・フローを利用するよりも,会計発生項目を利用するほうが容易?

特に,通常の営業活動に際して不可避的に発生する会計発生項目(非裁量的会計発生項目:減価償却費など)を除いた,裁量的部分に注目すれば,経営者の意思が観察可能?

報告利益管理に関する先行研究(2)

30

会計上の技術による報告利益管理から,実体的

裁量行動による報告利益管理へ

– Graham et al. [2006],須田・花枝 [2008],Pan [2008]

– 裁量的投資(R&D,広告宣伝費,設備投資)を抑制

していることで,短期的な利益のために企業価値を

犠牲にしている可能性を指摘

報告利益管理に関する先行研究(3)

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裁量的発生項目額の推定モデル

正確には,「非裁量的発生項目額」を推定し,それを発生項目総額から差し引くことで,裁量的部分の推定を試みるモデル– Healy[1985]モデル

– DeAngelo[1986]モデル

– Jones[1991]モデル

– 修正Jones(Dechow et al.[1995])モデル

– CFO修正Jones(Kasznik[1999])モデル

– 成長(Dechow et al.[2003])モデル

32

Healy[1985]モデル・ DeAngelo[1986]モデル

Healy[1985]モデル

– 裁量的発生項目額の代理変数として,発生項目総額そのものを利用

ただし,DAtはt期の裁量的発生項目額,TAtはt期の発生項目総額

DeAngelo[1986]モデル

– 前期の発生項目総額を利用

tt TADA =

1−−= ttt TATADA

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Jones[1991]モデル

非裁量的発生項目額が,売上高の対前年変化額

(ΔREV)と有形固定資産額(PPE)に依存すると主張

– 回帰式

の係数を各企業の時系列データで推定し,その残差

を裁量的発生項目額とした(Atはt期末の資産合計)

itit

iti

it

iti

iti

it

it

APPE

AREV

AATA

εββα ++Δ

+=−−−− 1

21

111

1

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛+

Δ+−=

−−−− 12

11

11

1

it

iti

it

iti

iti

it

itit A

PPEb

AREV

bA

aATA

DA

34

修正Jones(Dechow et al.[1995])モデル

Jones[1991]における,「売上高は非裁量的に決定する」 という(暗黙裡の)仮定に反論し,売上債権の変化額(ΔREC)をモデルに含めた

( )it

it

iti

it

ititi

iti

it

it

APPE

ARECREV

AATA

εββα ++Δ−Δ

+=−−−− 1

21

111

1

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CFO修正Jones(Kasznik[1999])モデル

営業CFと発生項目総額間に存在する負の相関(Dechow[1994])に対応し,営業CFの変化額(ΔCFO)をモデルに含めた

なお,pはi社の属する業種ポートフォリオを示し,

回帰式の推定をクロス・セクショナル・データで行った

( )ipt

it

iptpt

it

iptpt

it

iptiptpt

itpt

it

ipt

ACFO

APPE

ARECREV

AATA

εβββα +Δ

++Δ−Δ

+=−−−−− 1

31

21

111

1

36

成長(Dechow et al.[2003])モデル(1)

これまでのモデルへの批判

– (裁量的)発生項目額の系列相関が存在すること(Kothari[2001])

– モデルに含まれない変数が存在すること(Kang and Sivaramakrishnan[1995])

Dechow et al.[2003]の対応

– 前年の会計発生項目額

– 売上高成長に伴う売上債権の増加額

– 成長企業における商品在庫の不可避的増加に対応

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成長(Dechow et al.[2003])モデル(2)

Dechow et al.[2003]モデル

※定数kは売上高の増加が売上債権の増加に与える影響度を示し,

の回帰係数(ただし )である

( )( )ipt

it

iptpt

it

iptpt

it

iptpt

it

iptiptpt

itpt

it

ipt

ASalesGR

ALagTA

APPE

ARECREVk

AATA

εββββα1

41

31

21

111

_11

−−−−−−

++++Δ−Δ+

+=

iptitptptit REVkREC εα +Δ+=Δ

10 ≤≤ k

38

株主総会活性化と裁量的発生項目額

仮説2’: 株主総会活性化企業が活性化の翌年に計上する裁量的発生項目額の絶対値は,非活性化企業が同時期に計上する裁量的発生項目額の絶対値と等しい

仮説2: 株主総会活性化企業が活性化の翌年に計上する裁量的発生項目額は,非活性化企業が同時期に計上する裁量的発生項目額と等しい

しかし,報告利益管理の動機は様々であり,裁量的発生項目額そのものの比較には意味がない

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裁量的発生項目額の推定

DeFond and Jiambalvo[1994]やSubramanyan[1996]に依拠し,産業別のクロス・セクショナルデータを利用– 企業数が6社未満の業種・年度は分析から除外

裁量的発生項目額推定モデルの決定係数(自由度調整済みR2)

観測数 平均値 標準偏差 第1四分位 中央値 第3四分位Jonesモデル 149 0.179 0.312 0.016 0.144 0.324

修正Jonesモデル 149 0.170 0.341 0.030 0.147 0.327CFO修正Jonesモデル 147 0.459 0.462 0.355 0.494 0.685

成長モデル 129 0.219 0.328 0.075 0.202 0.366

40

仮説2’の分析結果

いずれのモデルにおいても,活性化企業の計上する裁量的発生項目額が,非活性化企業と比べて大きくない

– 一部のモデル・年度では,有意に「小さい」

モデル 標本数 平均値 中央値

活性化企業 535 0.02230 0.01784

非活性化企業 4286 0.02354 0.01924

活性化企業 536 0.02208 0.01754

非活性化企業 4274 0.02356 0.01933

活性化企業 523 0.01787 0.01490

非活性化企業 4287 0.01858 0.01566

活性化企業 532 0.02089 0.01680

非活性化企業 4121 0.02271 0.01810*

CFO修正Jonesモデル

修正Jonesモデル

成長モデル

Jonesモデル

-1.2523

-1.9623

-1.8861 *

-1.4993

Z統計量

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株主総会活性化と株式市場の反応

市場の反応の比較– Ohlson(2001)を基礎とするモデルを利用

※仮説3では,CSRを満たすため,当期利益を用いた結果を示す

( )14321 ++++=≈ ttttttt xEdxBVVP αααα

仮説3a:

仮説3b:

株主総会活性化企業がその翌年に公表する業績予想は,非活性化企業が同時期に公表する業績予想と比べて,株価関連性が高い

株主総会活性化企業がその翌年に公表する業績予想は,その前年に公表した業績予想と比べて,株価関連性が高い

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クロス・セクショナルの比較(仮説3a)の検証モデル

比較可能にするため,活性化ダミー,活性化ダミーと予想利益との交差項を追加

ただし,NORMは活性化企業を1,非活性化企業を0とするダミー変数

上式の係数(α6)が有意に正であれば仮説が支持される

( ) ( )11615143210 +−−+ ×++++++=≈ ttttttttttt xENORMNORMxEdxBVVP ααααααα

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クロス・セクショナルの比較(仮説3a)の検証結果

活性化ダミーと予想利益との交差項の係数は有意に正であった(年度間の差異は僅か)⇒ 仮説3aは支持された

上段は各説明変数に対する回帰係数の推定値,( )内はt値

株主総会活性化自体に市場が好意的な反応イメージの改善?・・・弥永[2001]情報公開に起因する資本コストの減少の織込みか?Botosan and Plumlee[2002],音川[2000],須田・首藤・太田[2004],内野[2005],村宮[2005]

標本数修正済み決定係数

(-1.19) (22.31) ** (3.22) ** (9.11) ** (23.78) ** (2.59) ** (3.60) **全体 3565 0.625

切片 簿価 当期利益 配当 次期予想 活性化ダミー 交差項

-11.453 0.443 0.533 8.573 8.007 66.112 2.736

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時系列の比較(仮説3b)の検証モデル

活性化前後で対応関係があるため,各変数の変化を利用

( )14321 +Δ+Δ+Δ+Δ=Δ≈Δ ttttttt xEdxBVVP αααα

α4の係数が有意に正であれば,市場が予想利益情報の変化を株価に織り込んでいることを示し,仮説3bが支持される

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時系列の比較(仮説3b)の検証結果

予想利益に関する係数が有意に正であり,仮説が支持された

簿価と当期利益に関する係数は有意ではなく,配当に関する係数が有意に正

– 将来に関する情報への依存が強まった・・・太田(2004)の結果に類似

標本数修正済み決定係数

(-2.39) * (-1.42) (0.40) (4.89) ** (4.12) **

2.350-33.748 -0.322 0.107 23.810全体 138 0.296

切片 簿価 当期利益 配当 次期予想

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実証分析結果のまとめ

業績予想の精度の変化に関する分析(仮説1)– 株主総会活性化企業において業績予想の精度が高い

裁量的発生項目額に関する分析(仮説2)– 株主総会活性化企業における業績予想の精度向上は,

裁量的発生項目額を利用した「見せかけ」ではない

株式市場の反応に関する分析(仮説3)– 経営者予想利益(将来情報)に対する反応が強くなった

– 活性化そのものに正の反応を示している

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今後の研究への応用(1)

広瀬・藤田・柳川[2008]では,買収防衛策導入

企業において,防衛策導入を公表した日に,負の超過収益率が観察された.また,導入後の業績が悪化していることを確認した.

– 経営者が自らの保身のため防衛策を導入し,市場がマイナスに反応したことを示唆している

– 本当に意味のある防衛策であって,経営者の意思が正しく市場に伝われば,違う反応が観察される?

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今後の研究への応用(2)

Graham et al. [2006],須田・花枝 [2008],Pan [2008] では,実体的裁量行動による報告

利益管理が観察され,中長期的には企業価値にマイナスの影響を与えていることを示唆

– 経営者の意思(短期利益を犠牲にした中長期的な企業価値の創造)が正しく市場に伝われば,違う反応が観察される?