レアアース資源の概要と現状、今後の展望

高木 哲一

地圏資源環境研究部門・鉱物資源研究グループ

産業技術総合研究所

2013.11.30 シンビオ研究談話会

鉱物資源価格の上昇

• 金属資源の価格は、21世紀初頭まで20年以上にわたり、非常に安定していた。

• 2004年頃から価格が上昇し始めた。 （レアメタルパニック）

• 新興工業国の需要増により、市場の余力を超えて供給不足が顕在化

• リーマンショックで一時下落するも、その後の上昇傾向は変わらない。

ベースメタル国際価格の推移（経済産業省, 2009）

レアアース価格の推移

• レアアースは、2009年までは価格が比較的安定

• 2010年9月7日の尖閣諸島漁船衝突事件を契機に、急速に高騰

• 2011年8月の最高値以降、価格が暴落

• Ce (CN) 14$/kg, Dy (CN) 720$/kg （10月現在） 軽レアアースはほぼ高騰前の水準に戻る。 重レアアースはやや高止まりだが、安定している。

Ce (Japan CIF)

Dy (Japan CIF)

US

D/k

g

US

D/k

g

なぜレアアース価格が下がったのか

• 国内在庫によりレアアースの輸入量が減少

• 省使用・代替材料の普及によりレアアース使用量が減少

• 中国国内のレアアース 在庫処分

• 中国外レアアース鉱山の稼働

0

5000

10000

15000

20000

25000

30000

35000

40000

2008 2009 2010 2011 2012

（Jan to Oct）

RE Compound

RE Metal

La Oxide

Ce Compound

Ce Oxide

Y Oxide

レアアースの輸入量（トン）

レアアース資源の概要と現状

•世界の軽レアアース鉱山の現状と問題点

•中国外重レアアース鉱床の開発状況

•考えられるシナリオ

バイヤンオボ鉱山

• 世界最大のレアアース鉱床

• 軽レアアースが主体

• 元々は鉄鉱山として開発

• 炭酸塩岩・蛍石と密接に伴って産出

6 主鉱体全景(1997)

バイヤンオボ鉱山の現状

• 平均REO品位が6％台から4％台に下がったと言われるが、世界最大の軽レアアース鉱山という地位は不動。

• 親会社の包鋼稀土は、生産調整により度々操業を停止。今年7月からも半年間操業停止。

• トリウム等の環境問題があり、相当な対策費を支出していると言われるが、詳細は不明。

Mountain Pass鉱山

• 1990年代まで世界の主力鉱山 米国カリフォルニア州南東部 Molycorp Minerals社が開発

• 幅約50mのカーボナタイト岩脈

• 軽希土類（バストネサイト）中心

• 2011年より生産再開、年間２～4万トン(REO)の採掘計画

• 大同特殊鋼・三菱商事と合弁で、中津川工場にてネオジム磁石を生産開始

村上・石原(2006)より

Mountain Pass鉱山の現状

• レアアース高値を背景に、2011年にエストニア・シルメット社を、2012年にカナダ・ネオマテリアル・テクノロジーズ社を買収、拡大路線を進める。

• 新工場が稼働を開始し、高純度レアアースの生産が可能になる。

• レアアース価格の低迷と消費量の減少により赤字化 株価 73.3$（2011年4月） 5.4$（2013年10月）

Mt. Weld鉱山

• オーストラリア西部 Lynas Corporationが開発

• 風化カーボナタイト鉱床 1990年代初頭から探査が進み、2012年に生産開始

• 軽レアアース中心

• 年間1万トン以上(REO)の採掘計画

• 日本企業がJOGMECの支援を受けて、年間6～7000トン（10年間）を契約

Mt. Weld鉱山の現状

• 西オーストラリアの鉱山で採掘した鉱石は、マレーシア・クァンタンの製錬工場に持ち込み製品化

• 放射性物質への懸念から、クァンタンの住民が反対運動。政府の操業認可が遅れ、2012年12月にようやく暫定認可が下りる。

• 2013年第２四半期時点で、5,626トン（REO換算）の精鉱を鉱山から出荷

軽レアアースの問題点

• 今後、現在のような軽レアアースの安値が継続すると、Mountain Pass鉱山やMt. Weld鉱山の経営が困難になる可能性 → 中国一極集中に逆戻り

• 環境問題が足かせとなり、生産が計画通りに進まない可能性（ex. マレーシア、中国）

• 各鉱山の可採鉱量や品位が予想したものより低く、将来、需要に応えられない可能性

レアアース資源の概要と現状

•世界の軽レアアース鉱山の現状と問題点

•中国外重レアアース鉱床の開発状況

•考えられるシナリオ

イオン吸着型鉱床

• 現在、唯一の重レアアース供給元

• 中国華南地域でのみ開発（江西， 湖南，広東，福建省など）

• レアアースに富む花崗岩類の風化殻

• 花崗岩構成鉱物の分解に伴って放出されたレアアースが粘土鉱物に吸着

• レアアース品位は低い(<0.2%)が抽出は容易

• 重レアアースに富むものが存在

竜南(Longnan)レアアース鉱床

REO:371ppm

(Dy: 21ppm)

REO:517ppm

（Dy: 46ppm)

• 広西，福建，湖南，広東，広西5省

の鉱床数214，

• 鉱化面積10万km2，レアアース埋蔵量

148万トン(1992年)

• 7省で鉱量800万トン(2006年)

池汝安・田君(2006)

• 足洞花崗岩の分布域

– 35 km2

• レアアース濃縮率

– 2倍

• 風化殻の平均層厚

– 10 m

• 平均レアアース含有量

– 500 ppm

• 平均Dy含有量

– 43ppm

• レアアース資源量

– 0.35Mt (REE) (0.41Mt REO)

• Dy資源量

– 30,100t (Dy)

中国イオン吸着鉱生産に伴う環境問題

• これまでのイオン吸着鉱開発で、環境問題が深刻化

• 乱開発や不法採掘を防止するために、ライセンス料を取り小規模業者を排除、各省に生産割当を設けて、採掘を厳格に管理

• 中国内の重レアアース需要が増大すれば、日本への輸出は困難

中国外の重レアアース資源は？

• 軽レアアースをいくら生産しても、 重レアアースをほとんど回収できない。 → カーボナタイト鉱床、 一部の鉄酸化物鉱床

• 軽〜中レアアースに富む鉱床から、 効率よく重レアアースを回収する。 → リン灰石鉱床（アルカリ岩付随）

• 中〜重レアアースに富む鉱床を開発。 → アルカリ岩鉱床、螢石鉱床

代表的希土類鉱石のREEパターン

アルカリ岩関連鉱床の分布

アルカリ岩関連鉱床

• アルカリ岩体

• レアアース品位は低いが大規模，重レアアースに富むものも存在

• Lovosero (ロシア)

• Khanbogdo (モンゴル)

• Kvanefjeld (グリーンランド)

• 熱水性鉱床 • レアアース品位の高いもの， 重レアアースに富むものも存在

• Strange Lake (カナダ)

• Nechalacho (カナダ)

• Khaldzan Bregtey (モンゴル)

ハンボグド(モンゴル)

アルカリ岩鉱床：ロシアLovozero

• アルカリ（Na, K）に富む火成岩

• 層状部にレアアース含有鉱物(ロパライト)が濃集

• 鉱量は未公表であるが膨大

• 年間レアアース生産量：3,000t (埋蔵量に比べ生産量は少ない）

アルカリ岩鉱床:グリーンランドKvanefjeld

REE: 2% (Dy: 300ppm) in eudialyte, monazite,

rhabdophane, britholite (Sorensen et al., 2006)

世界最大の未開発レアアース鉱床

アルカリ岩付随熱水鉱床 Nechalacho鉱床 （カナダ北西部）

• 層状アルカリ岩体で、主にジルコンにレアアースが含まれる。坑道採掘を計画中

アラスカ Bokan Mountain

• アラスカ最南端ケチカンの西30km

• 三畳紀ｰジュラ紀アルカリ花崗岩に貫入するペグマタイト質岩脈に重レアアースが濃集。古いウラン鉱山の近傍

• 少なくとも深さ数百メートルまで岩脈の延長を確認、坑道採掘を予定

after the presentation by Dr. Bradley Van Gosen

Bokan Mountain と Dotson 尾根

ペグマタイト質岩脈の産状

主な中国外重レアアース鉱床の開発状況

所有者 場所 年間生産能力 生産開始 現状 付記

Kazatomprom/Sumit

omo

SARECO, Ust-Kamenogorsk,

Kazakhstan 3,000 2013

生産開始 Uの副産物

Alkane Resources Dubbo, NSW, Australia 1,800 – 4,600 2014 2012に操業認可 Zr, Nbの副産物

Arafra Resources Nolans, NT & Whyalla, SA,

Australia 20,000 2014

資金調達のための追加調査中

Uの副産物

Greenland Minerals

and Energy

Kvanefjeld, Narsaq, Greenland 43,700 2015

2013に最終調査、

パイロットプラント建設

Uの副産物

Avalon Rare Metals Nechalacho, Northwest Territories,

Canada 10,000 2016

資金調達のための追加調査中

Ta, Nb, Zrの副産物

Quest Rare Minerals Strange Lake, Quebec, Canada

12,500 2015 開発可能性調査を終了 HREEが43%

Ucore Uranium Bokan Mountain, Prince of Wales

Island, Alaska, US - -

予察的調査を終了 U, Nbの副産物

Matamec

Explorations

Kipawa, Zeus property, Quebec,

Canada - -

2012パイロットプラント建設

HREE

Tasman Metals Norra Karr, Sweden

- - 2011に予察的経済性調査を終了

HREE

Molycorp Pitinga, Amazonas, Brazil - - 探査段階 Snの副産物

TDB Bank Khaldzan Bregtei, Mongolia - - 探査段階 -

Industrial Minerals (2012)を一部改変

中国外レアアース鉱床の規模・生産能力・現況

Arafura Resources 資料 (2011) を元に改変

レアアース資源の概要と現状

•世界の軽レアアース鉱山の現状と問題点

•中国外重レアアース鉱床の開発状況

•考えられるシナリオ

考えられるシナリオ

1. 軽・重レアアース共に、中国、米国、豪州などから潤沢に安価で供給される。国内のレアアース省使用・代替材料・リサイクルも進み、需要も安定する。

2. 軽レアアースは、当面、安価に供給される。重レアアースは、中国国内でのみ必要量が入手可能であるため、日本の磁石産業の中国移転が進む。中国産レアアース磁石の生産・輸出も増える。

3. 軽・重レアアース共に、中国以外の鉱山の本格的生産が進まず、中国も環境問題等で需要を賄いきれず（あるいは輸入国となり）、世界的にレアアースが不足し、徐々に値上がりする。

現時点では、シナリオ２から徐々にシナリオ３に移行するのが現実的か・・・

第４のシナリオ

• ブラジルのレアアースポテンシャル 中国に次いで世界第2のレアアース埋蔵量

自国内に巨大な鉄鋼・石油産業（レアアース自国内消費可能） 中国に依存しない経済体質

トリウムの備蓄

• 副産物型レアアース資源の可能性 肥料用リン資源の残渣

ニオブ・スズの選鉱残渣

これらが開発できれば、シナリオが一変する可能性も

ブラジルのカーボナタイト

• カタロン 世界有数のリンの産地 Vale Fertilizer社が稼行

• アラシャ 世界最大のニオブ鉱山 CBMM社が稼行

数％のレアアースを含有 軽レアアース中心

アラシャ鉱床（CBMM社）

• ミナスジェライス州アラシャ 直径6kmのカーボナタイト岩体 世界最大のニオブ鉱山 岩体の西部では、Vale社がリン灰石を採掘中

• 地表部がラテライト風化により赤色土壌化。中央部のパイロクロアに富む部分をニオブ鉱として採掘

• ニオブとレアアース（主にモナザイト）はほぼ同等な鉱量を推定（数百年分）

• 2010年より、ニオブ残渣からレアアース固体濃縮法を開発。現在、年間3000トン生産のプラント建設に着手

アラシャ鉱山とニオブ精製プラント

肥料用リン資源の残渣

• リン灰石を硫酸で処理して、肥料用リンを生産、大量の石膏残渣が廃棄

• 石膏に、しばしば数千ppmのレアアースが含有される。

• 非常に強固な鉱物で、溶解が困難

• 主産地 ロシア、モロッコ、南ア、ブラジル

太平洋の海底にレアアース泥

• 東京大学加藤泰浩教授のグループが2011年に報告

• 南東太平洋の海底に堆積している泥に高濃度なレアアース

• 重希土類にも富む。

• 資源量が膨大

• 弱酸で簡単に抽出が可能

• Th, Uなどの放射性物質をほとんど含まない。

• 探査が容易 Kato et al. (2011)を元に作成

南鳥島近海海底にもレアアース

• 2012年6月28日にマスコミで一斉に報道

• 国内消費量の230年分

• 排他的経済水域内なので鉱区の設定が容易

• 10〜90mの被覆層の下位に賦存

• エアリフトポンプ方式で採掘が可能

• レアアース抽出後の残泥は埋立てに利用

• オールジャパン体制で開発を推進すべし

文部科学省資料より

海底レアアース泥の開発可能性は？

• 低コストの採掘技術開発はこれから 5000m級の深海での掘削技術は・・・ 人間が全く作業できない領域 厚い被覆層はどう処理するのか？

• 採掘に伴う海洋汚染問題 残渣(99.9%)を海へ廃棄することはできない。 サンゴ礁の埋め立て、細かい泥が拡散？

• 海洋生態系の破壊 海底堆積物中に多様な生物が生息

• 30年以上先の話と考えるべき

ご静聴有難うございました。