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─ 55 ─ リン酸,カリ低成分肥料がカンキツの生育,収量,果実品質に及ぼす影響(1年目) ○西 裕之・宮路克彦 (鹿児島農総セ果樹) 【目的】 近年,肥料価格は高くなる傾向にあり,特にリ ン酸,カリが高騰し,肥料コストが増大している。 また,県内の実態調査の結果,果樹園ではリン酸, カリが過剰に蓄積した園が多い。そこで,肥料コ ストの低減と蓄積養分の有効利用を図るためにリ ン酸,カリを減肥し,生育,収量および果実品質 に及ぼす影響を検討した。 【材料および方法】 試験は 2014 年に鹿児島農総セ果樹部内の淡色 黒ボク土ほ場で実施した。 試験1:タンカン幼木における検討 センター果樹部内のシィクワーサー台「垂水1 号」5年生樹(当年初結果)を供試し,1区1樹 6反復で試験した。各区の施肥量は表1のとおり である。 試験2:ポンカン成木における検討 センター果樹部内のカラタチ台「薩州」18 生樹を供試し,1区2樹2反復で試験した。各区 の施肥量は表2のとおりである。 【結果および考察】 試験1:収量は区間に有意差はなかった。初結果 のため,果実の肥大がばらついたが,リン酸,カ リの減肥による果実品質の低下はなかった(表 3)。12 月の土壌分析の結果,リン酸,カリ含量 は処理前(2 月)からの増減に区間の差はなかっ た(表4)。発育枝春葉の無機成分含有率や樹冠 容積の拡大などは区間に差はなく,リン酸,カリ 減肥による影響はなかった(データ略)。 表1 各区の施肥量(タンカン幼木試験) 2/27 6/5 9/5 11/4 N P2O5 K2O 慣行 3.0 2.0 2.5 2.5 10.0 10.0 6.3 低成分 3.0 2.0 2.5 2.5 10.0 3.8 3.8 注)慣行区:くみあい配合5号(8-8-5) 低成分区:密のめぐみ2号(8-3-3) 窒素施用量 年間成分施用量 表2 各区の施肥量(ポンカン成木試験) 2月下 6/5 11/4 N P2O5 K2O 慣行 6.2 3.1 6.2 15.5 15.5 12.0 低成分 6.2 3.1 6.2 15.5 9.7 9.7 注)1.6月以降の供試肥料は試験1と同じ 窒素施用量 年間成分施用量 2.2月下旬の施肥はいずれの区も「みかん春6号 (10-10-10)を施用した 試験2:収量,果実品質は区間に有意差はなく(表 5),12 月の土壌表層(0 15cm)のリン酸含量 は処理前(5月)からの増減に区間の差はなかっ たが,カリ含量は低成分区の減少量が慣行区に比 べ多くなった(表6)。また,葉中無機成分含有 率や樹冠容積の拡大などは区間に差はなく,リン 酸,カリ減肥による影響はなかった(データ略)。 以上,処理1年目では,リン酸,カリ減肥によ る収量等への影響は見られなかった。今後,連用 での影響について検討する予定である。 表3 収量および果実品質(試験1:幼木試験) 表4 土壌化学性(試験1:幼木試験) 表5 収量および果実品質(試験2:成木試験) 表6 土壌化学性(試験2:成木試験) 収量 着果個数 1果平均重 糖度 クエン酸 kg/樹 個/樹 g Brix 慣行 3.42±0.21 27.7±1.4 123±3.4 11.0±0.3 0.68±0.02 低成分 3.64±0.13 24.7±1.4 149±6.0 10.6±0.2 0.63±0.01 ns ns ** ns ns 注)1.平均値±標準誤差(n=6) 注)2.一元配置の分散分析により,**:1%水準で有意差あり,ns:有意差なし 試験区 注)3.果実品質は選果した果実からM級果を中心に各樹あたり10個採取し調査 した。 収量 着果個数 1果平均重 糖度 クエン酸 kg/樹 個/樹 g Brix 慣行 66.6±2.8 437±20 152±0.8 10.7±0.05 0.68±0.02 低成分 63.6±3.2 431±30 148±2.2 10.7±0.10 0.63±0.01 ns ns ns ns ns 注)1.平均値±標準誤差(n=2) 注)2.一元配置の分散分析により,**:1%水準で有意差あり,ns:有意差なし 注)3.果実品質は収穫直前に赤道部からL級果を各樹あたり10個採取し調査 した。 試験区 採土位置 2/27 12/15 2/27 12/15 0~15cm 120 70.9 0.87 0.94 15~30cm 107 77.7 0.83 1.06 0~15cm 72.0 0.90 15~30cm 87.6 0.98 注)1.2/27(施肥前)の分析土壌は数樹の試験予定樹の樹冠下から採土し た土壌を混和した。 同上 同上 注)2.12/15の分析土壌は各処理区6樹の樹冠下から採土した土壌を混和 した。 可給態リン酸 (mg/100g乾土) 交換性カリ (cmolc kg -1 ) 試験区 慣行 低成分 採土位置 5/29 12/15 5/29 12/15 0~15cm 139.1 103.5 1.05 0.76 15~30cm 91.7 74.9 1.42 1.02 0~15cm 100.4 76.3 1.40 0.73 15~30cm 47.8 47.4 1.32 1.60 低成分 交換性カリ (cmolc kg -1 ) 試験区 可給態リン酸 (mg/100g乾土) 慣行

リン酸,カリ低成分肥料がカンキツの生育,収量, …...酸,カリ減肥による影響はなかった(データ略)。以上,処理1年目では,リン酸,カリ減肥によ

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Page 1: リン酸,カリ低成分肥料がカンキツの生育,収量, …...酸,カリ減肥による影響はなかった(データ略)。以上,処理1年目では,リン酸,カリ減肥によ

─ 55 ─

リン酸,カリ低成分肥料がカンキツの生育,収量,果実品質に及ぼす影響(1年目)

○西 裕之・宮路克彦

(鹿児島農総セ果樹)

【目的】

近年,肥料価格は高くなる傾向にあり,特にリ

ン酸,カリが高騰し,肥料コストが増大している。

また,県内の実態調査の結果,果樹園ではリン酸,

カリが過剰に蓄積した園が多い。そこで,肥料コ

ストの低減と蓄積養分の有効利用を図るためにリ

ン酸,カリを減肥し,生育,収量および果実品質

に及ぼす影響を検討した。

【材料および方法】

試験は 2014 年に鹿児島農総セ果樹部内の淡色

黒ボク土ほ場で実施した。

試験1:タンカン幼木における検討

センター果樹部内のシィクワーサー台「垂水1

号」5年生樹(当年初結果)を供試し,1区1樹

6反復で試験した。各区の施肥量は表1のとおり

である。

試験2:ポンカン成木における検討

センター果樹部内のカラタチ台「薩州」18 年

生樹を供試し,1区2樹2反復で試験した。各区

の施肥量は表2のとおりである。

【結果および考察】

試験1:収量は区間に有意差はなかった。初結果

のため,果実の肥大がばらついたが,リン酸,カ

リの減肥による果実品質の低下はなかった(表

3)。12 月の土壌分析の結果,リン酸,カリ含量

は処理前(2 月)からの増減に区間の差はなかっ

た(表4)。発育枝春葉の無機成分含有率や樹冠

容積の拡大などは区間に差はなく,リン酸,カリ

減肥による影響はなかった(データ略)。

表1 各区の施肥量(タンカン幼木試験)

2/27 6/5 9/5 11/4 N P2O5 K2O

慣行 3.0 2.0 2.5 2.5 10.0 10.0 6.3

低成分 3.0 2.0 2.5 2.5 10.0 3.8 3.8

注)慣行区:くみあい配合5号(8-8-5)

  低成分区:密のめぐみ2号(8-3-3)

窒素施用量 年間成分施用量

表2 各区の施肥量(ポンカン成木試験)

2月下 6/5 11/4 N P2O5 K2O

慣行 6.2 3.1 6.2 15.5 15.5 12.0

低成分 6.2 3.1 6.2 15.5 9.7 9.7

注)1.6月以降の供試肥料は試験1と同じ

窒素施用量 年間成分施用量

  2.2月下旬の施肥はいずれの区も「みかん春6号

    (10-10-10)を施用した

試験2:収量,果実品質は区間に有意差はなく(表

5),12 月の土壌表層(0 ~ 15cm)のリン酸含量

は処理前(5月)からの増減に区間の差はなかっ

たが,カリ含量は低成分区の減少量が慣行区に比

べ多くなった(表6)。また,葉中無機成分含有

率や樹冠容積の拡大などは区間に差はなく,リン

酸,カリ減肥による影響はなかった(データ略)。

以上,処理1年目では,リン酸,カリ減肥によ

る収量等への影響は見られなかった。今後,連用

での影響について検討する予定である。

表3 収量および果実品質(試験1:幼木試験)

表4 土壌化学性(試験1:幼木試験)

表5 収量および果実品質(試験2:成木試験)

表6 土壌化学性(試験2:成木試験)

収量 着果個数 1果平均重 糖度 クエン酸

kg/樹 個/樹 g Brix %

慣行 3.42±0.21 27.7±1.4 123±3.4 11.0±0.3 0.68±0.02

低成分 3.64±0.13 24.7±1.4 149±6.0 10.6±0.2 0.63±0.01

ns ns ** ns ns

注)1.平均値±標準誤差(n=6)

注)2.一元配置の分散分析により,**:1%水準で有意差あり,ns:有意差なし

試験区

注)3.果実品質は選果した果実からM級果を中心に各樹あたり10個採取し調査

   した。

収量 着果個数 1果平均重 糖度 クエン酸

kg/樹 個/樹 g Brix %

慣行 66.6±2.8 437±20 152±0.8 10.7±0.05 0.68±0.02

低成分 63.6±3.2 431±30 148±2.2 10.7±0.10 0.63±0.01

ns ns ns ns ns

注)1.平均値±標準誤差(n=2)

注)2.一元配置の分散分析により,**:1%水準で有意差あり,ns:有意差なし

注)3.果実品質は収穫直前に赤道部からL級果を各樹あたり10個採取し調査

した。

試験区

採土位置

2/27 12/15 2/27 12/15

0~15cm 120 70.9 0.87 0.94

15~30cm 107 77.7 0.83 1.06

0~15cm 72.0 0.90

15~30cm 87.6 0.98

注)1.2/27(施肥前)の分析土壌は数樹の試験予定樹の樹冠下から採土し

   た土壌を混和した。

同上 同上

注)2.12/15の分析土壌は各処理区6樹の樹冠下から採土した土壌を混和

   した。

可給態リン酸

(mg/100g乾土)

交換性カリ

(cmolc kg-1) 試験区

慣行

低成分

採土位置

5/29 12/15 5/29 12/15

0~15cm 139.1 103.5 1.05 0.76

15~30cm 91.7 74.9 1.42 1.02

0~15cm 100.4 76.3 1.40 0.73

15~30cm 47.8 47.4 1.32 1.60 低成分

交換性カリ

(cmolc kg-1

) 試験区

可給態リン酸

(mg/100g乾土)

慣行

表1 試験1における初期生育の違い

初開花節 総節数 茎長 茎径 葉色値

(本) (本) (cm) (mm) (第3展開葉)

農家慣行 59.9 5.2 6.5 24.8 6.7 39.0

基肥施用 58.6 5.1 7.1 30.7* 8.4* 40.1

1)調査:2014/5/3

2)*5%水準,**1%で有意差あり(Student-t検定,n=3)。

試験区初開花

日数

表2 試験1における商品果収量の違い

6月 7月 8月 合計

農家慣行 567 456 747 1770

基肥施用 646* 482 730 1858

1)合計:AおよびB品

2)各月毎において*5%水準,**1%で有意差あり(Student-t検定,n=3)。

試験区kg/10a

表3 試験2における商品果収量の違い

6月 7月 8月 合計

追肥5kg 579 a 408 a 632 a 1619 a

追肥7kg 646 a 482 a 730 a 1858 a

追肥9kg 631 a 540 a 785 a 1956 a

1)合計:AおよびB品

2)各月毎の異符号間に5%水準で有意差あり(Tukey-HSD検定,n=3)。

試験区(kg/10a)

0.0

5.0

10.0

15.0

20.0

25.0

4/3-5/30 5/31-6/19 6/20-7/7 7/8-8/4 8/5-8/28

追肥5kg

追肥7kg

追肥9kg

採取日

植物体のN吸収量(kg/10a)

(追肥2回前) (追肥3回前) (追肥4回前) (栽培終了時)(追肥1回前)

1)N吸収量は各採取日間の実と採取時の茎葉の合計値。2)追肥は6/2,6/20,7/10,8/11に施用。3)各採取日の異符号間において5%水準で有意差あり(Tukey-HSD検定,n=3)。

図1 試験2における各栽培期間の植物体の窒素吸収量

aa

a

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a

aa

a

a

a

a

aa

a

ジャーガルにおけるオクラ栽培の適正な窒素施用量

○田中洋貴・寺村晧平 1)・崎間 浩・平良 慧

(沖縄農研・1)沖縄病虫防技セ宮古)

【目的】 沖縄県のオクラは全国3位の出荷量があり,重要な

特産野菜である。オクラは肥培管理が収量,品質に大

きく影響する作物であり,生産現場では合理的な施肥

基準が求められている。本研究は,基肥および追肥に

おける窒素施用量を検討した。 【材料および方法】 供試品種に「ブルースカイ」を用い,農業研究セン

ター内のジャーガル(軟岩型普通陸成未熟土石灰質)

圃場で試験を行った。2014 年 4 月 3 日に播種し,6 月 4日から収穫を開始し,8 月 28 日に終了した。 基肥における窒素施用の検討(試験 1)では,基肥を

施用しない農家慣行区と基肥に 8kg/10a 施用した基肥

施用区を設けた。両区とも追肥は,1 回あたり 7kg/10aを開花から 4 回施用し,リン酸およびカリもそれぞれ

総量で 19,23kg/10a となるように分施した。 追肥における窒素施用量の検討(試験 2)では,追肥

1 回の施用量を 5,7,9kg/10a の 3 水準設けた。基肥は

3 水準とも 8kg/10a とし,追肥の回数,時期およびリン

酸とカリの施用量は試験 1 と同様にした。また試験 1,2 とも 1 区 6.75 ㎡の試験規模で 3 反復とした。 【結果および考察】

試験 1 の基肥施用区は,農家慣行区と比較して,有

意な差はないものの開花日数がやや早くなり,総節数

が増加し,葉色が濃くなる傾向が認められた(表 1)。茎長は有意に長くなり,茎径も有意に太くなり初期生

育が促進された(表 1)。商品果収量も初期の収量(6月)が有意に増加した(表 2)。しかし,7 月以降区間

差は減少し,8 月ではほぼ同等となった。収穫期間を通

じた商品果収量は,農家慣行区と基肥施用区の間には

有意な差は認められないものの 5%程度増収した。 試験 2 における商品化収量の合計は,追肥 3 水準間

に有意差はなかったが,7 月と 8 月において追肥量に応

じた増収が認められた。追肥 9kg 区は 5kg 区に対して

商品果収量合計は約 20%増収し,3 水準間で最多収と

なった(表 3)。植物体の窒素吸収量は,追肥 3 回前の

採取日(7 月 7 日)以降,有意差はないが増施に応じて

多くなる傾向が認められ,栽培期間を通じた吸収量も

追肥施用量に応じて増加することが示された(図 1)。 以上,今回の試験結果から,基肥は施用することに

より初期生育が促進され,6 月の商品果収量が増加した。

追肥は施用量が多いほど増収し,1 回あたり 9kg/10a の施用で最多収となった。

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