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Title クラスリン依存的エンドサイトーシスにおける細胞膜形 態変化のライブセルイメージングとその分子機構の解明( Digest_要約 ) Author(s) 吉田, 藍子 Citation Kyoto University (京都大学) Issue Date 2017-03-23 URL https://doi.org/10.14989/doctor.k20527 Right 学位規則第9条第2項により要約公開 Type Thesis or Dissertation Textversion none Kyoto University

クラスリン依存的エンドサイトーシスにおける細胞 …...AP2、クラスリン、ダイナミン、Auxilin、GAK のように多数のタンパク質と相互作用

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Titleクラスリン依存的エンドサイトーシスにおける細胞膜形態変化のライブセルイメージングとその分子機構の解明(Digest_要約 )

Author(s) 吉田, 藍子

Citation Kyoto University (京都大学)

Issue Date 2017-03-23

URL https://doi.org/10.14989/doctor.k20527

Right 学位規則第9条第2項により要約公開

Type Thesis or Dissertation

Textversion none

Kyoto University

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クラスリン依存的エンドサイトーシスにおける細胞膜形態

変化のライブセルイメージングとその分子機構の解明

吉田 藍子

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1

目次

要旨 ............................................................................................................................... 3

略語表 ........................................................................................................................... 5

第 1 章 序論 .............................................................................................................. 6

1.1 細胞膜の構造ダイナミクスと細胞機能 .............................................................. 7

1.2 クラスリン依存的エンドサイトーシス(CME)............................................... 7

1.3 クラスリン依存的エンドサイトーシスで機能するタンパク質群 ....................... 8

1.4 エンドサイトーシスにおける膜の形態学的研究 .............................................. 11

1.5 本研究の目的 ................................................................................................... 13

第 2 章 高速原子間力顕微鏡を用いた生細胞表層の微細構造可視化技術の確立 ...... 16

2.1 序論 ................................................................................................................. 17

2.1.1 原子間力顕微鏡による生体試料のナノスケールイメージング .................. 17

2.1.2 ステージスキャン方式高速原子間力顕微鏡 .............................................. 17

2.1.3 チップスキャン方式高速原子間力顕微鏡 .................................................. 18

2.2 材料と方法 ...................................................................................................... 23

2.2.1 細胞培養 ................................................................................................... 23

2.2.2 顕微鏡 ....................................................................................................... 23

2.2.3 画像解析 ................................................................................................... 24

2.3 結果 ................................................................................................................. 25

2.3.1 動物細胞の細胞膜には様々な微細構造が見られる .................................... 25

2.3.2 皮質アクチンはダイナミックな合成と崩壊により維持されている ........... 26

2.3.3 細胞内小器官の形態はダイナミックに変化する ....................................... 27

2.4 考察 ................................................................................................................. 38

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第 3 章 クラスリン依存的エンドサイトーシス過程における細胞膜形状変化のイメ

ージングとアクチンの機能的関与の解析 .................................................................... 40

第 4 章 考察 .............................................................................................................. 43

文献 ............................................................................................................................. 46

謝辞 ............................................................................................................................. 52

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要旨

細胞膜近傍での分子集積・解離により発生する膜の構造変化(曲率変化・融合・切断)

は、細胞内・外シグナル伝達、細胞の環境応答などの細胞機能に重要である。エンドサ

イトーシスは、細胞膜の微小な陥没に始まり、膜の変形、切断といったプロセスを経て

最終的に膜小胞が形成される過程であり、細胞外の物質や情報を細胞内へ取り込むのに

重要な役割を果たしている。エンドサイトーシスの分子機構に関しては、蛍光顕微鏡等

のライブイメージング技術により一連のタンパク質群の局在および動態が明らかにさ

れる一方で、細胞膜の形態変化に関しては、主に電子顕微鏡による静止画に支えられて

おり、タンパク質の局在と膜構造変化との関係性を経時的に追う研究はなされてこなか

った。本研究では、近年新たに開発されたチップスキャン型高速原子間力顕微鏡を用い

て、生きた細胞の細胞表層をナノスケールでイメージングする技術を確立し、エンドサ

イトーシスに伴う一連の細胞膜変形の分子機構を、タンパク質レベルで明らかにするこ

とを目的とする。まず、培養細胞の細胞表層を数秒の時間分解能および 10 ナノメート

ルの空間分解能で可視化する技術を確立した。これにより、エンドサイトーシスやエキ

ソサイトーシスを含む細胞膜の微細構造変化や、皮質アクチン繊維のダイナミックな重

合・脱重合過程を可視化・解析することに成功した。これは、非標識で皮質アクチン単

繊維のダイナミクスを可視化した初めての事例であり、その解析から、生細胞における

アクチンの重合速度、密度、寿命等に関する情報を得ることに成功した。さらに、共焦

点顕微鏡画像との同時観察により、クラスリン依存的エンドサイトーシスに伴う一連の

細胞膜の構造変化を関連タンパク質の局在変化と共に追うことに成功した。特に、クラ

スリン被覆ピットが閉じる際には、これまでに報告されていない様々な膜構造の変化が

観察された。約7割の被覆ピットでは、閉じる直前に膜が隆起し、ピットを覆うように

フタをする様子が見られた。阻害剤や RNAi 等を用いた解析から、この隆起が Arp2/3

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複合体を起点としたアクチン繊維の重合により形成されることを明らかにした。阻害剤

でアクチンの重合・脱重合のサイクルを抑制すると、被覆ピットは可逆的に開閉を繰り

返した。また、エンドサイトーシスの後期にピットに集積するダイナミンをノックダウ

ンすると、膜隆起が生じる頻度が減少し、閉じるステップに要する時間が伸びた。これ

らの結果は、クラスリン被覆ピットを細胞膜から切り離すステップでは、膜のくびれに

結合するダイナミンと Arp2/3 複合体等のアクチン関連タンパク質が一過的に集積し、

細胞膜を上に押し上げると共に、小胞を下に押し下げることで、不可逆的な膜の切り離

しが行われていることを示唆するものである。本研究は、膜を含む細胞表層の動態を「直

接見る」ことが、そこに介在する分子メカニズムの解明に非常に有用であることを示してい

る。ここで確立した観察系を、ウイルス侵入、細胞走化性、細胞外シグナル伝達といった

細胞表層で起きる様々な生命現象に応用していくことで、細胞膜近傍の分子(細胞膜タ

ンパク質、脂質分子やアクチン関連分子など)がどのような機構でこれらの現象を支え

ているか、分子学的、および力学的側面からの理解につながるであろう。

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略語表

AFM 原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscopy)

CME クラスリン依存的エンドサイトーシス(Clathrin-Mediated Endocytosis)

CCP クラスリン被覆ピット(Clathrin Coated Pit)

Jasp ジャスプラキノリド(Jasplakinolide)

Cyto Cytochalasin B(Cytochalasin B)

EM 電子顕微鏡(Electron Microscope)

TIRF 全反射型蛍光顕微鏡(Total Internal Reflection Fluorescence microscope)

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第 1 章

序章

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1.1. 細胞膜の構造ダイナミクスと細胞機能

細胞膜は、細胞内部の環境を外の環境から隔てる境界面であり、膜を透過しない物質

の細胞内外への行き来は、膜の変形、融合、切断などの細胞膜のダイナミクスに支えら

れている。エンドサイトーシスは、細胞膜受容体、チャネル、トランスポーターなどの

膜貫通型タンパク質の機能制御と品質管理、細胞外部から内部への栄養物質の取り込み、

神経伝達物質およびホルモン分泌に伴う細胞内小胞の補充といった様々な生理現象に

関与する 1。一方、エキソサイトーシスは、細胞外への物質の放出および細胞膜への脂

質と膜タンパク質のターゲティングを担う膜変形過程である。神経細胞のシナプス部で

は刺激に応じたシグナル伝達物質の放出が、分泌細胞では刺激に応じたインシュリンな

どのホルモンの放出が、エキソサイトーシスによって引き起こされる 2,3。

1.2. クラスリン依存的エンドサイトーシス(CME)

エンドサイトーシスの中で、最も膜変形機構の理解が進んでいるのは、クラスリン依

存的エンドサイトーシス(Clathrin-Mediated Endocytosis, CME)である。1969 年に

電子顕微鏡(EM)による神経細胞分画の観察から、Kanaseki と Kadota が The “Vesicle

in a basket”(外側の籠構造の内側に小胞を持つ二重構造)を報告すると 4、1975 年に

は、Pearse が生化学的な解析によって籠構造の構成要素であるクラスリンを発見した

5。それ以降、42 年間にわたり、生化学、構造生物学、分子生物学、細胞生物学、遺伝

学といった目覚ましい諸研究の発展により、CME の機能および分子機構が明らかにさ

れている 6。

CME は、①膜の窪み、②積み荷の集積、③膜の被覆化(クラスリン被覆ピット

(Clathrin-Coated Pit, CCP)の形成)、④切断、⑤脱被覆の 5 つのステップを経て、

積み荷を包有した膜小胞を細胞内部へと送り込む 1(図 1-1)。この過程には少なくとも

40 種類のタンパク質が関与する。CME の滞りない進行には、これらの分子が適宜、適

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切に CCP に集積することが必須である。これら関連分子の CCP への局在・集積機構

は、生化学的な分子間の相互作用解析と、全反射型蛍光顕微鏡(TIRF)を用いた生細

胞における分子局在の解析によって理解が進んだ 7。タンパク質によっては、FCHO、

AP2、クラスリン、ダイナミン、Auxilin、GAK のように多数のタンパク質と相互作用

能を示すものもあり、CME の進行において中心的な因子となっている(図 1-1)。

1.3. クラスリン依存的エンドサイトーシスで機能するタンパク質群

現在までに、CCP への局在様式や、膜結合活性、および膜変形活性の解析等により

数多くの知見が得られ、それらを統合したモデルが広く受け入れられている(図 2)1。

膜変形活性分子(F-BAR ドメイン、epsin、N-BAR など)がホスファチジルイノシト

ール 4,5 ビスリン酸を標的として集結し、脂質膜と相互作用することによって平らな

膜を段階的に変形させていく。クラスリンは、膜と直接結合しないため、初期の段階で

CCP へと集結した分子群(AP-2 や epsin など)との分子間相互作用を介して、CCP へ

集積する。クラスリンの集積によりさらに CCP の窪みは進行し、膜のくびれに巻き付

いたダイナミンが、GTP の加水分解と共に膜を縊り切ることで、最終的に膜小胞が形

成される。Synaptojanin や GAK によって脂質の脱リン酸化が起こると、クラスリン

の脱被覆の反応が引き起こされる。以下に、CME 過程で特に重要なタンパク質群の活

性や役割を記す。

i) クラスリン

1960 年代、グルタルアルデヒドによる細胞固定技術が確立されると、電子顕微鏡に

よって、組織の細胞膜の裏側や膜小胞の外側に高電子密度の被覆構造が存在することが

知られるようになった。この被覆の正体としてクラスリンが 1975 年に発見されると、

電子顕微鏡による分子構造解析や X 線結晶構造解析によって、クラスリンが Triskelion

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と呼ばれる 3 本の足を持つ特徴的な構造を持つこと、3 つの重鎖と 3 つの軽鎖からなる

ことが明らかにされた 8–10。さらに、同様の手法により、複数のクラスリンが重合して、

格子を作り、小胞を外側から包み込むような籠構造を作ることも解明された 10,11。in

vitro での被覆小胞の再構成系によって、クラスリンは直接的な膜への結合能を持たず、

アダプタータンパク質複合体 AP-2や epsin との結合を介して膜へとつなぎとめられる

と考えられている 12,13(図 1-1)。

ii) BAR ドメインタンパク質(Bin-amphiphysin-Rvs167)

BAR ドメインは脂質結合ドメインであり、in vitro で人工の脂質二重層を変形し、細

長い管状構造を作ることが報告されている。Amphiphysin の BAR ドメインの立体構

造によって、管状構造の曲率と BAR ドメインの保持するバナナ型立体構造の曲率がほ

ぼ一致していたため、脂質膜の形態形成には、脂質膜の形態と BAR の立体構造の関連

性が示唆された 14,15

BAR ドメインスーパーファミリーは、立体構造の曲率と in vitro で脂質膜の変形様

式の違いにより、F-BAR、I-BAR、(N-)BAR の 3 つに分類される 16。CME 初期の平

らな膜の変形過程では、F-BAR の FCHO1 と FCHO2 が、高い膜の曲率変形を伴う

CME 後期では、(N-)BAR の Endophilin、Amphiphysin、SNX9 が関与するといわれ

ている(図 1-2)。

iii) Epsin

Epsin1 は脂質結合モジュールである ENTH ドメインを持つ 13。この ENTH ドメイ

ンは、in vitro で人工膜を球状からチューブ状に変形する活性を持ち、in vivo では、ク

ラスリンと協働して CCP の膜陥入構造を形成する 17。このことから、エンドサイトー

シスにおける最初のステップである「細胞膜の陥入」を引き起こすモデルが提唱されて

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いる(図 1-2)。

iv) ダイナミン

ダイナミンは GTPase ドメインを持ち、GTP 加水分解依存的な膜の切断活性能を有

する 18。1989 年、Richard Vallee らによって、ダイナミンが発見されて以来 19、電子

顕微鏡によって、ダイナミンの膜への結合様式が in vitro と in vivo の両者で精査され

てきた。ショウジョバエのダイナミンホモログの温度感受性変異体 shibire のシナプス

の細胞膜の形態解析から、シナプス前膜からのエンドサイトーシスの不全によってシナ

プス小胞が枯渇することが報告された 20。Shibire のシナプス小胞の枯渇現場では、シ

ナプス前膜が陥入して膜小胞を形成する直前で停止したことを示す「オメガ形の膜構造」

が多数観察された 20。この表現型は、GTPγS を処理したラットのシナプトソーム画分

の電子顕微鏡像においても発見された 21。免疫電子顕微鏡観察により、ダイナミンが陥

入膜の頸部に集積していることが確認されたことから 21、ダイナミンがエンドサイトー

シスにおける膜切断を行う酵素であることが提唱された。

in vitro でダイナミンとリポソームを混ぜると、ダイナミンは、自身の PH ドメイン

を介して、直接リポソームに巻き付き、細長い膜チューブを形成する 22。GTP 存在下

では、ダイナミンの膜チューブが高度に狭窄し、直径 16 nm の膜チューブが約 8 nm に

まで狭まることが観察されている 22。De Camilli のグループは、ダイナミン脂質膜チュ

ーブの複合体が、GTP を添加することによって無数の小胞へと切断される瞬間を TIRF

によりとらえている 23。また、ダイナミンのノックアウト細胞では、CCP は細胞内部

へと管状に長く陥没した膜形態を示すことが報告され、ダイナミンによる膜切断が

CME を支えているというモデルが支持されている(図 1-2)24,25。

v) アクチン

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CME にアクチンが関与していることは、酵母を使った研究で示唆され、1996 年に

GFP 融合型アクチンの生細胞観察によって CME の重要な因子の1つとして挙げられ

るようになった 26,27。その後、哺乳類細胞においても、CCP への集積が明らかにされた

が 28,29、CME における機能に関しては様々な議論がなされた。薬剤処理によりアクチ

ン動態を抑制すると、CME が抑制されることが示された 30,31。一方で、細胞種による

結果のばらつきが大きいため、アクチンが CME において必須の因子ではないことを主

張する研究成果も報告されている 31。2011 年には、電子顕微鏡と電子線トモグラフィ

ーの組み合わせによって、CCP 周囲には、Arp2/3 複合体によって分岐したアクチン繊

維の密なネットワークが形成されていることが報告された 32。また、同年、ストレッチ

チャンバーによる細胞の引っ張り・圧縮実験や細胞の浸透圧制御の手法などによって、

CMEにおけるアクチンの必要性が力学的観点から調べられ、膜の張力が高い場合、CCP

の滞りない進行にアクチンが必要であるという結果が報告されている 33。また、CCP に

局在を示す N-WASP や cortactin などのアクチン核化促進因子が Arp2/3 複合体を活性

化すること(図 1-1)34,35、Hip1R や BAR タンパク質の SNX9 も CCP でのアクチンの

動態制御に寄与することが次々に報告されており 36–38、CME にアクチンが積極的に関

与している可能性は高いと考えられている。

1.4. エンドサイトーシスにおける膜の形態学的研究

エンドサイトーシスのメカニズムに関する研究は、寄与するタンパク質の同定に加え、

膜形態の可視化技術の発展とともに進展してきた。1950 年代後半、電子顕微鏡による

細胞膜の形態の可視化技術が生物学の分野に導入されると 39–41、それ以降、外から異物

(ウイルスなど)を取り込んだ細胞を電子顕微鏡で観察することによって、取り込む物

質によって取り込む経路には何種類かあることが明らかにされた。1960 年代に入り、

電子顕微鏡の性能向上によってさらに微細な構造を可視化することができるようにな

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ると、取り込み過程で形成される小胞には、籠構造に囲まれた小胞(Coated vesicle)

があることが報告された 4,42。この報告は、CME 研究の礎となる、1975 年の籠構造の

正体“クラスリン”の発見へとつながる 5。

1980 年代後半以降、相次いで発見された CME に関与する膜変形活性タンパク質群

(ダイナミン、BAR タンパク質群、epsin など)の膜変形活性能は、in vitro、in vivo

の両者で膜形態を可視化することによって精査され、CME における役割が明らかにさ

れてきた。この先駆けとして、1989 年に発見されたダイナミンが挙げられる。電子顕

微鏡観察によって、in vitro でダイナミンとリポソームを混ぜると、ダイナミンがリポ

ソームに巻き付き、細長い膜チューブを形成すること、GTPase や GTP ホモログの添

加によってチューブの狭窄や断片化が起こることが明らかにされた 22。一方、in vivo で

は、免疫電子顕微鏡法によって、ダイナミンが CCP の膜のくびれに集積していること

や、ダイナミンの機能欠損細胞では、膜小胞の形成不全であることを示す「オメガ形の

膜構造」や細胞内部に長く伸びた「チューブ状膜」が多数みられることが報告された。

これらの in vitro と in vivo での知見を統合することで、ダイナミンがエンドサイトー

シスにおける膜切断を行う活性を有することが提唱された。一方、これらの膜形態の解

析では、人工膜や固定した細胞の膜を対象としているため、生きた細胞での CME に伴

う膜形態の変化は、明らかになっていない。

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1.4. 本研究の目的

エンドサイトーシスに関わる一連のタンパク質群の局在および動態に関する研究は、

蛍光顕微鏡技術(全反射、超解像など)によって理解が進められてきた。一方、それら

のタンパク質が引き起こす細胞膜の形態変化は、電子顕微鏡によって得られた膜形態の

静止画を並べることで描かれてきた。しかしながら、エンドサイトーシスの過程には、

膜の変形、切断といった膜のダイナミックな構造があるにも関わらず、膜形態の動態は

明らかでない。本研究では、生きた細胞の細胞膜の形態変化とタンパク質の局在を同時

空間で可視化することによって、エンドサイトーシスに伴う膜の形態変化を引き起こす

分子機構を解明することを目的とした。

第一章では、本論文の根幹となる結果を取り巻く幅広い文献の内容を取り扱う。

第二章では、チップスキャン型高速原子間力顕微鏡を生きた哺乳類培養細胞の観察に

応用し、生きた細胞表層の構造的ダイナミクス(細胞膜の形態/皮質アクチン等)を可視

化する技術の確立を行った。

第三章では、前章で確立した技術を用いて、CME の進行に伴う膜変形を、生きた細

胞を対象としてイメージングし、膜小胞の形成過程におけるアクチンおよびその関連因

子の役割を明らかにする試みを行った。

本論文の最後の章(第四章)では、第一章から第三章で得られた結果について全体的

な考察を行ったうえで、将来の展望を記す。

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図 1-1.クラスリン依存的エンドサイトーシス(CME)における分子機構 (Harvey T.

McMahon ,2011 より一部を改変して転載)

CME では、①膜の窪みの形成、②積み荷の集積、③膜の被覆化(クラスリン被覆ピット(CCP)

の形成)、④切断、⑤脱被覆の 5 つのステップを経て、積み荷を包有した膜小胞を細胞内部へと

送り込む。この過程には 40 種類ものタンパク質が関与していることが知られており、それらの

時空間的局在や機能発現が、一連の膜変形を引き起こす。上段:各ステップにおける膜の形状と

集積するタンパク質。下段:各ステップで集積するタンパク質間の相互作用様式。線で結ばれた

ものは直接相互作用することを示す。本文中で説明したタンパク質を赤枠で囲った。

ステップ① ステップ② ステップ③ ステップ④ ステップ⑤

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図 1-2.クラスリン依存的エンドサイトーシスにおける膜変形タンパク質の機能

(Harvey T. McMahon ,2011 より転載)

クラスリン依存的エンドサイトーシスでは、 FCHO、Epsin、Amphiphysin、ダイナ

ミンなどの膜変形活性を持つタンパク質が機能することで、膜の変形および切り離し

が進行する。各タンパク質の機能に関しては、本文を参照。

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第 2 章

高速原子間力顕微鏡を用いた生細胞表層の

微細構造可視化技術の確立

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2.1 序論皮

2.1.1. 原子間力顕微鏡による生体試料のナノスケールイメージング

細胞表層は、脂質二重層と膜上のイオンチャネルやトランスポーター、レセプターに

加え、膜を裏打ちし支持する膜骨格(皮質アクチン)、脂質と膜骨格の連結・保持を担

うアンカータンパク質などから構成されている。このような、細胞表層の微細構造の可

視化には、電子顕微鏡に加え、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope: AFM)が用

いられてきた。

AFM は、図 2-1 に示すように、カンチレバー先端の探針と試料表面との間にはたら

く原子間力を検知しながら、探針を試料表面に沿って走査することで、表面の凹凸を画

像化する装置である。カンチレバーの微小変位検出計としては、光てこ方式が多く用い

られている。レーザー光をカンチレバー背面に照射し、その反射光の角度変化を位置検

出センサである分割フォトダイオードで検出することにより、カンチレバーの変位(た

わみ)を検出する。この装置は、1986 年に Binning により発明され 43、1988 年に

Hansma により生物学の分野に導入されると 44、その高い空間的分解能によって生物

学分野において不可欠な画像化ツールとして盛んに利用されてきた 45–49。

AFM によって、アクチンネットワークを中心とした細胞表層の微細構造が観察・

報告される一方で 50–53、その低い走査速度のため、細胞内での速い分子ダイナミクスを

追うことは困難であるという問題点も存在していた。従来の AFM では、1枚のイメー

ジを取得するのに、数十秒から数分の時間を要するため、エンドサイトーシスや細胞表

層の分子ダイナミクスを観察するのに十分な時間分解能とは言えない。この問題を解決

するのが次に説明する高速原子間力顕微鏡である。

2.1.2. ステージスキャン方式高速原子間力顕微鏡

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2000 年代に入ると AFM の高速化へ向けて、共振周波数が高く柔らかいカンチレバ

ーや、高速走査にも耐えうるスキャナの開発が進み、2001 年には、最大で 100 ミリ秒

に 1 枚の画像が得られる液中高速原子間力顕微鏡(高速 AFM)が開発された 54。この

高速 AFM は、ステージスキャン方式に基づいたもので、サンプルの乗ったピエゾスキ

ャナー(試料台)が x-y 方向の走査を行うとともに、上下(z 方向)に動くことでカン

チレバーと試料間の力を一定に維持する仕組みになっている(図 2-2)。高速 AFM の

登場により、分子の構造だけでなく“動き”を含めた時空間解析が可能となり、過去 15 年

間で、この技術を利用した様々な研究成果が多くの研究グループにより報告された 55–

69。

大腸菌のシャペロニンである GroEL の ATP 依存的構造変化の可視化や 70、ミオシ

ン V のアクチンフィラメント上での歩行運動の可視化 58、制限酵素 SfiI による DNA

切断反応の可視化 69 といった観察例は、これまでに予想もしくは提唱されていた分子

のふるまいに視覚的な証拠が与えられただけでなく、各現象の分子機構の理解に直結す

る情報を提供した。

一方で、ステージスキャン方式高速 AFM の構造上の問題点として、光学顕微鏡(特

に蛍光顕微鏡)との組み合わせが困難な点が挙げられる。走査時に試料台が x-y-z 方向

に動くため、AFM 観察をしながら同時に蛍光画像を取得することは困難であった。

2.1.3. チップスキャン方式高速原子間力顕微鏡

本申請者が所属する研究室では、オリンパス株式会社との共同研究により、生細胞観

察を可能とするチップスキャン型高速 AFM(BIXAM)の開発に従事してきた 71。この

高速 AFM は、倒立顕微鏡のステージ上に AFM スキャナユニットを設置し、試料から

独立して AFM スキャナが x-y-z 方向に試料表面を走査する(図 2-3)。ステージスキャン

方式とは異なり、AFM 走査時に試料台が x-y-z 方向に動くことはない。したがって、

Page 21: クラスリン依存的エンドサイトーシスにおける細胞 …...AP2、クラスリン、ダイナミン、Auxilin、GAK のように多数のタンパク質と相互作用

19

AFM によって表面の形態を可視化しながら、それと同時に分子の局在と動態を蛍光顕

微鏡によって可視化することが可能となった。

本章では、このチップスキャン方式高速原子間力顕微鏡を用いて、生きた細胞表層

の微細構造を観察する技術を確立することを目的として研究をおこなった。

Page 22: クラスリン依存的エンドサイトーシスにおける細胞 …...AP2、クラスリン、ダイナミン、Auxilin、GAK のように多数のタンパク質と相互作用

20

図 2-1.原子間力顕微鏡の原理

原子間力顕微鏡(AFM)は、主に①カンチレバー、②3 次元的な試料ステージの

位置を制御するシステム、③カンチレバー先端部のプローブのたわみ・振動を

検出するシステム、の 3 つの構成ユニットからなる。サンプルスキャン方式の

AFM では、カンチレバーと試料表面間にはたらく力が一定となるよう試料台が

動きながら、表面の凹凸構造を評価する。一方、チップスキャン方式の AFM で

は、試料台は固定された状態で、カンチレバー側が上下、左右に動くことで試

料表面を走査する。

Page 23: クラスリン依存的エンドサイトーシスにおける細胞 …...AP2、クラスリン、ダイナミン、Auxilin、GAK のように多数のタンパク質と相互作用

21

z

x

y

laser

sample

piezo scanner

Fixed cantilever

図 2-2.ステージスキャン方式高速原子間力顕微鏡

ステージスキャン方式高速 AFM の模式図。カンチレバーの位置が固定されてお

り、その背面にレーザーを照射する。ステージに組み込まれているピエゾスキャナ

ーが、カンチレバーと試料表面間に働く力が一定になるよう、ステージを x-y-z 方

向に動かし、試料表面を画像化する。

Page 24: クラスリン依存的エンドサイトーシスにおける細胞 …...AP2、クラスリン、ダイナミン、Auxilin、GAK のように多数のタンパク質と相互作用

22

piezo scanner

Cell

Glass slide

z

x y

A

B C

図 2-3:チップスキャン方式高速 AFM と倒立型光学顕微鏡との複合顕微鏡システム

(BIXAM)

(A) BIXAM の模式図。倒立型光学顕微鏡のステージの上に、チップスキャン方式

高速 AFM ユニットが搭載されている。ステージに、スライドガラス上に培養した生

細胞を載せる。下から光学顕微鏡により、細胞の蛍光画像を取得し、上から細胞を

AFM 探針で走査することにより、細胞表層の凹凸を画像化する。本研究では、IX71

搭載型高速 AFM(B)、あるいは、共焦点顕微鏡レーザー走査型顕微鏡搭載型高速

AFM(C)を用いた。

laser

Page 25: クラスリン依存的エンドサイトーシスにおける細胞 …...AP2、クラスリン、ダイナミン、Auxilin、GAK のように多数のタンパク質と相互作用

23

2.2 材料と方法

2-2-1. 細胞培養

COS-7 細胞は、37℃、5% CO2環境下で、10% FBS 入り Dulbecco’s modified Eagle’s

medium (DMEM)を用いて培養した。AFM 実験では、観察の 1 日か 2 日前にポリ

L リジンでコートしたスライドガラスに細胞を播いた。イメージングは、10%FBS と

10 mM HEPES-NaOH(pH 7.4)の入った DMEM の中で行った。ミトコンドリアの

蛍光標識には、CellLight Mitochondria-GFP(Life Technologies/ Molecular Probes,

Invitrogen)を、アクチン繊維の観察には、Lifeact-EGFP (ibidi GmbH, Munchen,

Germany)を細胞に導入した 72。必要に応じて、Cytochalasin B(Nacali tesque, Kyoto,

Japan)を終濃度 2-50 µM、Jasplakinolide(Abcam #ab141409)を終濃度 1 µM にな

るよう培地に添加した。

2-2-2. 顕微鏡

細胞膜やアクチンの形状像と蛍光像との同時取得には、倒立顕微鏡ステージ搭載型チ

ップスキャン式高速 AFM システム BIXAM(Olympus)を用いた 71,73(図 2-3)。ミト

コンドリアの観察には、Bird break-like tip のバネ定数 0.1 N/m (BL-AC10 DS, メー

カー名)のカンチレバーを用いた。細胞表面とアクチン繊維の観察には、Electron-beam

deposited (EBD)により生やした先端径の探針つきの 0.1 N/m のバネ定数を持つカンチ

レバーを用いた(BL-AC10EGS, Olympus、あるいは USC-F0.8-k0.1(カスタマイズ品,

Nanoworlds, Neuchatel, Switzerland))。高速 AFM の画像は、フレームあたり 10 秒

の走査速度で取得した。ミトコンドリアとアクチンの蛍光像は、記載されている速度お

よび励起波長で取得した。対物レンズ(Olympus)は 40 倍の UPlan FLN を使った。

蛍光標識していない細胞の観察では、透過光による位相差像を確認しながら、計測した

い場所にカンチレバーをアプローチした。膜形態の AFM 像の取得では、AFM のセッ

Page 26: クラスリン依存的エンドサイトーシスにおける細胞 …...AP2、クラスリン、ダイナミン、Auxilin、GAK のように多数のタンパク質と相互作用

24

トポイントと振幅値を最適なパラメータに設定し、アクチンとミトコンドリアの観察で

は、AFM セットポイントを下げ、観察を行った(図 2-4)。

2-2-3. 画像解析

高さのプロファイルは、AFM Scanning System Software Version 1.6.0.12

(Olympus)を用い、対象の高さ情報を数値として取得した。プロファイルデータはそ

の後、マイクロソフトのオフィスのエクセルにコピーし、グラフ化した。ミトコンドリ

アの動きの解析では、ミトコンドリアの高さの一番高い点を x-y グラフにプロットした。

x-y 面の直線距離の測定では、ビットマップに変換した AFM 画像を ImageJ

(http://rsbweb.nih.gov/ij/)で解析した。アクチンの網目サイズは、各メッシュ構造の

面積として算出した。図で示している AFM 画像はすべて、高さ画像である。

Page 27: クラスリン依存的エンドサイトーシスにおける細胞 …...AP2、クラスリン、ダイナミン、Auxilin、GAK のように多数のタンパク質と相互作用

25

2.3 結果

2.3.1 動物細胞の細胞膜には様々な微細構造が見られる

BIXAM を用いて生きた COS-7 細胞の表面を可視化したところ、多様な膜の形状と

動態が観察された。それらを、その形態的な特徴により、以下の 4 種類に分類した(図

2-5)。

1. 開口径 150~350 nm の膜の開口(ピット)とその開閉(図 2-5A)

2. 一時的な開口とそこから広がる放射状の構造(図 2-5B)

3. 開口径 80~120 nm の膜の開口(図 2-5C)

4. 高さ 50~300 nm の膜の盛り上がり構造(膜ラッフル)(図 2-5D)

1 に分類される膜の開口(ピット)は、膜上での水平移動量が大きく、開口時間も短

かった。代表的な膜形態変化を図 2-6A に示す。ピットが閉じる際には、その片側から

盛り上がった膜の隆起が、ピット全体を覆いフタするように閉じる様子が見られた。

図 2-6B に示す経時的なピットの高さプロファイル図の作製(図 2-6A の点線に沿った

断面図)によって、およそ 80 nm の深さのピットが 50 nm の高さの隆起によりフタ

されて、平らな膜へと戻ることが分かった(図 2-6B)。ピットの開口径は、150 nm か

ら 350 nm であり、ピットの持続時間は 100 ± 45 秒だった(N=135)。

2 の代表的な観察例を図 2-6C と D 示す。一過的なピットから放射状に物質が広が

っていく様子が見られる(図 2-6C、D)。放出された物質は、40 秒後には 0.5 µm2の

面積へと広がり、150 秒後には見えなくなった。開口径は、73 nm から 139 nm であ

り(平均 102 ± 26 nm、N=5)、ピットの持続時間は 10 秒から 30 秒だった。

3 に分類される小さなピットは、1 の大きなピットに比べ動きは活発ではなかった

(図 2-7-A)。ピットは、開口径 80 nm から 120 nm で保持され、15 分以上もの経時

観察の間、閉じることはなく、開き続けることが分かった(N=15)。

4の代表的な観察例を図2-7Bに示す。平らな膜が盛り上がり、膜上を移動した後に、

Page 28: クラスリン依存的エンドサイトーシスにおける細胞 …...AP2、クラスリン、ダイナミン、Auxilin、GAK のように多数のタンパク質と相互作用

26

消失した。膜の盛り上がりは、高さ 50-300 nm で、消えるまでの時間は、150-1200 秒

だった(N=10)。

2.3.2 皮質アクチンはダイナミックな合成と崩壊により維持されている

細胞膜の構造を可視化する走査条件からわずかにカンチレバーを押し込むことで、皮

質アクチンのネットワークを観察することに成功した。このネットワークは、多くの繊

維が交差し、繊維の合成と消失を繰り返しながらダイナミックな再編成を繰り返してい

た(図 2-8、図 2-10)。ここでみられた繊維がアクチンであることを確かめるため、

Cytochalasin B を添加した細胞を経時観察した。Cytochalasin B は、アクチン繊維の

成長端に結合することでアクチンの重合を妨げる阻害剤である 74。

Cytochalasin B を培地に添加したところ、添加前に観察されていた繊維のネットワ

ークが徐々に消失していく過程が観察された(図 2-8)。Cytochalasin B 添加前は、ネ

ットワークは均一に広がっており、断面図から得られた z-方向の高低差は、56 nm 程

度あった。添加 5 分後には、網目構造は存在する一方で、z-方向の高低差が 102 nm ま

で広がり、平坦性を失って、凹凸の大きい表層へと変化した。32 分後、網目構造は完全

に崩壊した。対照的に、阻害剤処理をしていない細胞では、40 分以上の観察に渡り、ネ

ットワークの構造は維持され続けた。アクチン重合速度を解析したところ、

Cytochalasin B添加によって 0.19±0.08 µm/sec(N=69)から 0.08±0.01 µm/sec(N=14)

へと下がることが明らかになった(図 2-9)。これらの結果は、BIXAM で観察された細

胞膜直下の繊維ネットワークがアクチンから構成されており、そのダイナミックな重合

と脱重合により構造が維持されていることを示している。

次に、アクチン繊維の側面に結合することで、脱重合を阻害する Jasplakinolide75を

培地中に添加し、同様にアクチン動態を BIXAM で可視化した。アクチン繊維が形成さ

Page 29: クラスリン依存的エンドサイトーシスにおける細胞 …...AP2、クラスリン、ダイナミン、Auxilin、GAK のように多数のタンパク質と相互作用

27

れてから消失するまでの寿命を解析したところ、Jasplakinolide の添加によって繊維の

寿命が 64 ± 22 秒(N=26)から 360 ± 168 秒(N=24)まで長くなった(図 2-10)。

一方で、アクチン繊維の 1 µm2あたりの繊維数は、添加前後で有意な差はなかった。ア

クチン繊維の 1 µm2新規に形成される本数を解析したところ、新規に形成される 1 µm2

あたりの本数が 1.89 ± 0.75 から 0.18 ± 0.27 まで下がることが分かった。加えて、

Jasplakinolide の添加により、アクチン重合速度も 0.26 ± 0.03 µm/sec から 0.16 ±

0.02 µm/sec へと下がることが明らかになった。これらの事実は、Jasplakinolide がア

クチンの脱重合のみならず、重合も抑制していることを示唆する(詳しくは 2.4 考察を

参照)。

図 2-11 に、定常状態の皮質アクチンネットワークが動的に再編していく過程を示す。

これらの画像では、4 µm より長い繊維が互いに交差し合い、1.79 x 104から 1.4 x 105

nm2 (5.8 x 104 ± 3.5 x 104 nm2, N = 41)の網目サイズのネットワークを形成してい

た。アクチン繊維の形成と消失(図 2-11 の open と closed の矢頭)により、網目の構

造が継時的に変化していった。

2.3.3 細胞内小器官の形態はダイナミックに変化する

次に、BIXAM を、生きた細胞の形態解析へと応用した(図 2-12)。GFP 融合したミ

トコンドリアマーカー(CellLight mitochondria-GFP)を導入した COS-7 細胞を準備

した。蛍光観察したところ、ミトコンドリアは、管状の構造から、丸い構造、そして長

く伸びた構造まで様々な形態を取っていることが分かった。ミトコンドリアが存在する

細胞の特定の場所に AFM のカンチレバーをアプローチし、ミトコンドリアを含むエリ

アを AFM で走査した。ミトコンドリアの高さプロファイル解析から、ミトコンドリア

の場所は、周囲と比べ、50 nm 盛り上がっていることが明らかになった(図 2-12Aiv)。

細胞の端のミトコンドリアを BIXAM で解析し、図 2-12 に 0-170 秒、1430-1480 秒に

Page 30: クラスリン依存的エンドサイトーシスにおける細胞 …...AP2、クラスリン、ダイナミン、Auxilin、GAK のように多数のタンパク質と相互作用

28

対応する連続画像を示す。0 秒の画像では、ミトコンドリアは伸びた構造を取っていた。

ダンベルのような形で、ミトコンドリアの中央部は狭くくびれ、両端は広がっていた。

この初期の構造は、長さが 6.7 µm、中央部の幅が 0.5 µm、ダンベルの端の幅が 1.9 µm

だった。中央部のくびれの場所を AFM で拡大すると、ミトコンドリアと共に周囲のア

クチンネットワークを含む微細構造が観察された(図 2-12A, B)。170 秒の間で、ミト

コンドリアは初期の伸びた形から厚みのある形態へと移っていった。0 秒と 110 秒のそ

れぞれの画像から作成した断面図の比較から、z-方向の形態変化が示された(図 2-12A)。

Page 31: クラスリン依存的エンドサイトーシスにおける細胞 …...AP2、クラスリン、ダイナミン、Auxilin、GAK のように多数のタンパク質と相互作用

29

A

B

皮質アクチン 細胞膜 C

図 2-4.チップスキャン型高速 AFM により画像化された様々な細胞皮質の構造動

(A)ステージ上に載せた COS-7 細胞の位相差顕微鏡像。これにより細胞形状を確

認し、AFM カンチレバーをアプローチする位置を決める。スケールバー:10 µm。

(B, C) COS-7 細胞皮質の AFM 画像。(B)では、細胞に加える力を弱くして(AFM

のフィードバックセットポイントを高めにして)走査し、C では、それよりやや大

きめ(フィードバックセットポイントを高め)にして取得したイメージ。上部はそ

の模式図。走査する際の力弱いと細胞膜の凹凸が鮮明に可視化され、力が強いと膜

直下の皮質アクチンや一部の細胞内小器官の形態などが画像化される。 画像サイ

ズはともに 6.0 µm x 4.5 µm。

high

low

Page 32: クラスリン依存的エンドサイトーシスにおける細胞 …...AP2、クラスリン、ダイナミン、Auxilin、GAK のように多数のタンパク質と相互作用

30

図 2-5:生きた COS-7 細胞表面で見られる多様な微細膜の構造

(A)開口径 150~350 nm の大きな膜の開口(ピット)。(B)一時的な

膜の開口とそこから広がる放射状の構造。(C)開口径 80~120 nm のピ

ット。(D)高さ 50~300 nm の膜の盛り上がり構造(膜ラッフル) 。

(A)と(C)のスケールバー:200 nm。 (B)のスケールバー:400 nm。

(D)のスケールバー:1 µm。

B A

C D

Page 33: クラスリン依存的エンドサイトーシスにおける細胞 …...AP2、クラスリン、ダイナミン、Auxilin、GAK のように多数のタンパク質と相互作用

31

図 2-6:生きた COS-7 細胞の表面で観察された膜形態変化(1)

(A, C)10 秒に 1 枚の走査速度で取得した高速 AFM の連続画像。(A)膜のくぼみ(ピッ

ト)の片側から盛り上がった膜の隆起(矢頭)が、ピット全体を覆いフタするように閉じ

る様子。スケールバーは 200 nm。(B)(A)の点線位置における断面図の経時変化。0-

120 秒の断面図を並べた。(C)小さなくぼみから放射状に広がる物質。最初の小さなくぼ

みは矢頭によって示されている。(D)(C)の点線に沿った断面図。0-30 秒にかけての断

面図を示した。

B

C 0 s 10 20

30 s

A

40 50

60 s 70 80

90 s 100 110

40 s 50 60 70

80 s 90 100 110

120 s 130 140

30 0 s 10 20

150

D

Page 34: クラスリン依存的エンドサイトーシスにおける細胞 …...AP2、クラスリン、ダイナミン、Auxilin、GAK のように多数のタンパク質と相互作用

32

図 2-7.生きた COS-7 細胞の表面で観察された膜形態変化(2)

(A)と(B)10 秒に 1 枚の走査速度で取得した高速 AFM の連続画像。(A)小さ

いピットは、直径 80 nm から 120 nm のサイズで保持され、15 分以上もの経時観

察の間、閉じることはなく、開き続ける。(B)平らな膜が高さ 50 nm から 300 nm

へと盛り上がり、x-y 方向に移動をした後に、消失し平らな膜へと戻る。(A)のス

ケールバー:200 nm、(B)の画像サイズ:2.4 x 3.0 µm2。

B

A 0 s 10 s 20 s 30 s 40 s

50 s 150 s 250 s 350 s 450 s

550 s 650 s 750 s 850 s 950 s

0 s 30 s 60 s 90 s 120 s

150 s 180 s 210 s 240 s 270 s

300 s 330 s 360 s 390 s 430 s

Page 35: クラスリン依存的エンドサイトーシスにおける細胞 …...AP2、クラスリン、ダイナミン、Auxilin、GAK のように多数のタンパク質と相互作用

33

B

0 s 300 2400

+ C

yto

chal

asin

B

Life

act-

EGFP

A

FM

A

0 s 300 2400

0 s 300 2400

- C

yto

chal

asin

B

Life

act-

EGFP

A

FM

C

0 s 300 2400

D

0

100

200

300

0 1 2 3 4

0 s 300 s 2400 s

X [µm]

Z-d

irec

tio

n 50 nm

0

100

200

300

0 1 2 3 4

0 s 300 s 2400 sZ-

dir

ecti

on

X [µm]

50 nm

図 2-8.COS-7 細胞の皮質アクチン

(A)Lifeact-GFP を一過的に発現する COS-7 細胞を終濃度 50 µM の Cytochalasin

B で処理した後の蛍光像(上段)と AFM 像(下段)。 蛍光像は 2 分に 1 枚取得し、

AFM 像は 1 分に 1 枚の走査速度で取得した。蛍光画像の波線で囲んである領域を

AFM で走査した。(B) AFM 像に示してある点線箇所での断面図。(C)(D)対

照実験として、cytochalasin B で処理しない細胞のデータを掲載する。蛍光画像の

スケールバーは 8 µm、AFM 画像のスケールバーは 1 µm。

Page 36: クラスリン依存的エンドサイトーシスにおける細胞 …...AP2、クラスリン、ダイナミン、Auxilin、GAK のように多数のタンパク質と相互作用

34

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0 20 40 60 80 100

Po

lym

eriz

atio

n r

ate

m/s

ec)

Time (min)

Cyto B

B C

0.00

0.10

0.20

0.30

Cyto(-) Cyto(+)

*

*, p<0.05

Po

lym

eriz

atio

n r

ate

m/s

ec)

図 2-9.生きた COS7 細胞における皮質アクチン重合速度

(A)10 秒に 1 枚の走査速度で取得した皮質アクチンの連続 AFM 画像。1 本

の線維が伸びていく様子が捉えられている。 (B)各フレームにおける先端(矢

印)の位置から、アクチン重合速度を計測した結果。アクチン重合阻害剤であ

る Cytochalasin B を培地に添加すると、重合速度は著しく低下した (添加 30

分後)。P 値は Welch の検定により得た(N=3)。(C)Cytochalasin B によ

るアクチン重合速度の経時変化。観察開始 15 分後に Cytochalasin B を導入

している。 (A)のスケールバー:500 nm。

A

Page 37: クラスリン依存的エンドサイトーシスにおける細胞 …...AP2、クラスリン、ダイナミン、Auxilin、GAK のように多数のタンパク質と相互作用

35

0

20

40

60

80

Lifetime(s)

Jasp (-) Jasp (+)

D

0

5

10

15

0 100 200 300

Time (s)

Jasp (-) Jasp (+)

Nu

mb

er o

f fi

lam

ents

per

µm

2

A

0

100

200

300

400

Life

tim

e o

f F-

acti

n (

sec)

Jasp (-) Jasp (+)

0

1

2

3

4

0 200 400 600

Nu

mb

er o

f n

ewly

ap

pea

rin

g fi

lam

en

ts(µ

m-2

, 1

0 s

-1)

Time (s)

Jasp (-) Jasp (+)E

0

0.1

0.2

0.3

0.4

Jas(-) Jas(+)

* C

Po

lym

eriz

atio

n r

ate

(µm

/sec

)

*, P<0.05

B *

*, P<0.05

図 2-10.アクチン脱重合阻害剤(Jasplakinolide)が皮質アクチンのターンオーバー

に及ぼす影響

(A)COS-7 細胞のイメージングにより得られた連続画像を元に、アクチン繊維が合

成されてから消失するまでの時間 (lifetime) の分布。Jasplakinolide 添加前後の結果

をともに示す。これを統計的に処理したものを (B)に示す。阻害剤の添加により

lifetime は有意に長くなった。 P 値は Welch の検定により得た(N=3)。(C)同様

に、アクチンの重合速度を Jasplakinolide 添加前後で比較した結果。阻害剤により、

アクチン重合速度が低下する。(D)アクチン繊維の密度の経時的変化。Jasplakinolide

添加前後で繊維密度に差はない。(E)アクチン繊維の新規合成頻度の経時変化。

Jasplakinolide の添加により、繊維の新規合成頻度は有意に低下する。 (B)と(C)

での P 値は Welch の検定により得た((B)、(C)ともに N=3) 。

Nu

mb

er o

f n

ewly

ap

pea

rin

g

fila

men

ts (

µm

-2, 1

0 s

-1)

Nu

mb

er o

f fi

lam

ents

(%

)

Page 38: クラスリン依存的エンドサイトーシスにおける細胞 …...AP2、クラスリン、ダイナミン、Auxilin、GAK のように多数のタンパク質と相互作用

36

100 200 300 4000

5

10

15

0 s A B

C

Mesh size (nm2)

Nu

mb

er o

f fi

lam

ents

50 s 60

0 s 10 20

70

30

70 s 80 90 90 100 110

図 2-11.皮質アクチンネットワークのダイナミックな再編成

(A)皮質アクチン繊維ネットワークの代表的な AFM 像。(B)アクチン繊維に

よって囲われた網目の面積の分布図。(C)繊維が新たに合成される様子(白い

矢頭)と消失する様子(黒い矢頭)が見られる。また、エンドサイトーシスに伴

うアクチンの集積らしきシグナル(矢印)も見られる。スケールバーは 1 µm。

Page 39: クラスリン依存的エンドサイトーシスにおける細胞 …...AP2、クラスリン、ダイナミン、Auxilin、GAK のように多数のタンパク質と相互作用

37

ⅲ 1430 s 1440 1450 1460 1470 1480

ⅰ CellLight mitochondria-GFP

1430

ⅱ 0 s ⅰ

CellLight mitochondria-GFP 0 s

A

B

0

ⅲ 0 s 10 20 30 40 50

60 70 80 90 100 110

120 130 140 150 160 170

ⅱ 1430 s

110

0

50

100

150

200

0 2000 4000

0

100

200

0 2000 4000

50 nm

50 nm

Z-d

irec

tio

n

Z-d

irec

tio

n

X [nm]

X [nm]

図 2-12.BIXAM により、明らかになった COS-7 細胞でのミトコンドリア動態

ミトコンドリアマーカーである CellLight mitochondria-GFP を発現させた COS-7

細胞の蛍光像と AFM 像。ミトコンドリアが存在する場所に、AFM 像では周囲と高

さの違うシグナルが見られた。(A)と(B)では、同じ COS-7 細胞で取得した異な

るタイムフレームでの連続画像を示している。(i)に CellLight mitochondria-GFP

を発現している生きた細胞の蛍光画像を、(ii)に AFM 画像と蛍光画像の重ね合わ

せを、(iii)には 10 秒に 1 枚の走査速度で取得した AFM の連続画像を、(A-iv)

には波線部での断面像をそれぞれ示している。スケールバー8 µm(A-i と B-i)、AFM

画像では 1 µm。

Page 40: クラスリン依存的エンドサイトーシスにおける細胞 …...AP2、クラスリン、ダイナミン、Auxilin、GAK のように多数のタンパク質と相互作用

38

2.4 考察

BIXAM で可視化された多様な細胞膜形態のうち、最も頻繁に観察されたのは、図 2-

5A の開口径 150-350 nm のピットとその開閉である。COS-7 細胞表層のエンドサイト

ーシスのピットのうち、CME が最も頻繁であることと、電子顕微鏡によって報告され

ている CCP のサイズと概ね合致することから、この分類されるピットは CCP である

と考えられる 76。次に多く見られたのは、開口時間の長い小さなピット(図 2-C)であ

る。この開口時間と、~100 nm という開口径をもとに考えると、これらのピットはカ

ベオリンに被覆されたピットに相当すると考えられる 77。最もピットの開口時間が短か

ったのは、一過的なピットを中心として物質が同心円状に広がり消失していく、エキソ

サイトーシスと推測される現象だった(図 2-5B)。実際、エキソサイトーシスの過程で

膜の開口に要する時間は、CME に要する時間と比べ短く、BIXAM で可視化された現

象は、これまでの報告と矛盾しない 3,78。これらのピットの区別とその過程に関与する

タンパク質のはたらきに関しては、次章(第 3 章)で詳しく解析する。

膜直下の構造とその動態の観察によって、膜の裏打ち骨格繊維は、特定の方向性を持

たずランダムに交差し合い、形成と消失を繰り返しながら、動的なネットワークを形成

していることが明らかになった。この細胞骨格のネットワークは、Cytochalasin B を

用いたアクチン重合阻害によって崩壊し、Jasplakinolide を用いたアクチン脱重合阻害

によって動きが抑制された。このことから、BIXAM が可視化したネットワークは、ア

クチンの重合と脱重合の分子動態に支えられた皮質アクチンネットワークであること

が明らかとなった。AFM の連続画像解析によって求められたアクチン繊維の in vivo 重

合速度の値(毎秒 0.19 µm)は、in vitro での実験から推測されるアクチンの重合速度

と同じような値(毎秒 µm~µm)を示している 79。この速度は、Cytochalasin B 処理に

より低下したことも、in vitro で得られた結果に相反しない 74。Jasplakinolide は in

vitro の観察結果 80同様、繊維構造を安定化させ、繊維の持続時間を引き延ばした(図

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2-10)。一方、アクチンの重合速度の低下、繊維の新規形成頻度の低下、繊維密度が変

化しなかったことは、in vitro での報告と異なる 75,80。これは、以下の二通りの可能性

が考えられる。① Jasplakinolide がアクチンの重合反応を直接阻害している。②

Jasplakinolide による脱重合阻害により、G アクチンの細胞内プールが枯渇し、その結

果として重合の進行速度が低下した。これらの可能性を区別するには、より厳密な時間

分解能での観察が必要になるであろう。

BIXAM を生細胞観察に応用することで、細胞表層の細胞膜形態のダイナミクス、超

分子構造体の動態を可視化する技術を確立した。本章で示した一連の結果は、BIXAM

が生きた細胞表面の微細な凹凸(細胞膜形態など)、および、膜直下の構造(一本一本

の皮質アクチン繊維や細胞内小器官など)、を非標識、非染色で可視化しうる事を実証

している。中でも、皮質アクチンネットワークは、細胞の中に密に詰め込まれたダイナ

ミックな構造であるため、生きた細胞で皮質アクチンを単繊維レベルで経時観察した例

はほとんどなく、皮質アクチンの動態についてはあまり明らかになっていない。本章で

は、定常時、アクチン重合阻害下、脱重合阻害下でのアクチン動態(重合速度、出現し

てから消えるまでの時間)について言及したが、ここで確立した観察系は、他のアクチ

ン関連阻害剤の使用時やシグナルによってアクチン動態を変えた条件にも応用するこ

とができ、皮質アクチンターンオーバーの包括的な理解につながると考えられる。

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40

第 3 章

クラスリン依存的エンドサイトーシス過程における細胞膜

形状変化のイメージングとアクチンの機能的関与の解析

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ここでは、第 2 章で確立した細胞表層のイメージング技術(BIXAM)を用いて CME

の過程を可視化・解析し、膜小胞形成の分子機構を明らかにすることを目的とした。分

子局在と膜形態とを同時空間で観察することによって、CME における細胞膜の形状変

化(CCP における膜形態変化)を生きた細胞で捉えることに成功した。膜小胞形成に

寄与すると考えられている因子(アクチンとダイナミン)と、同定された CCP での膜

形態変化との相関を、下記の 3 つのアプローチから調べた。①薬剤処理によるアクチン

動態抑制/アクチン関連因子の機能阻害、②ダイナミンノックダウンによる遺伝子発現

の抑制、③膜動態と分子局在の同時空間可視化・解析。得られた膜形態の動的知見と、

これまでに報告された知見とを統合し、あらたな“CME の膜小胞形成モデル”を提唱

した。

CCP には、大きく分類して膜の隆起を伴い閉じるものと、膜の隆起を伴わずに閉じ

るものの 2 種類あった。膜の隆起では、Arp2/3 複合体を起点としたアクチン重合が膜

の隆起に必要となる力の発生源となっており、片側から CCP を覆うようにして閉じ、

膜小胞を細胞内部へと送り込む。一方、膜の隆起を伴わない CCP は、アクチン重合関

連因子が CCP に集結しないことに起因し、閉じる段階まで滞りなく進行するが、再び

その場所で CCP が出現し不可逆的な開閉を繰り返す確率が高い。これは、下記の 2 つ

を考慮することで解釈することができる。①膜隆起で閉じた CCP では、膜直下に集結

しているアクチン繊維ネットワークによる物理的障壁が、膜小胞の細胞膜への再度融合

を阻止しており、アクチン関連因子のはたらきにより、膜小胞が細胞内部(エンドソー

ム)へと輸送される。②膜隆起を伴わない CCP では、切り離された膜小胞がクラスリ

ンを脱被覆した後も表層アクチン層を超えて細胞内部に侵入することができず、膜小胞

と細胞膜との出戻り融合が起こりやすい状況になっている。

膜の隆起の有無にかかわらず、CCP は閉じる過程において、約 100 nm に保持され

た構造的中間体を経た。ダイナミンをノックダウンすると、この中間体の持続時間が顕

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著に伸びたことから、ダイナミンが、中間体から次の段階、つまりピットが完全に閉じ

て小胞が切り離される過程に関与することが考えられた。また、本章では、ダイナミン

をノックダウンすると、膜隆起の形成頻度が低下するという結果を得た。これは、ダイ

ナミンによって膜の隆起形成に必要なアクチン関連因子がリクルートされてくること

を示唆する結果であり、近年、発見されたダイナミンとアクチンのフィードバックルー

プの存在と相反しない 81,82。

BIXAM によって、CME に伴う膜形態は実に多様性に富んだものであることが明ら

かになった。近年、報告されている CCP における分子の不均一性を考慮すると 83–85、

多様な膜形態は、個々の CCP 間で集積している分子群の種類と数が不均一であること

に起因するのかもしれない。まれに見られた、膜隆起が CCP を取り逃がしたり、膜ラ

ッフルへと移行したりする事象は、膜小胞形成において、適切な分子の集結による膜隆

起の形成機構、および、膜隆起の CCP とのつながりを持つ機構が欠かせない条件であ

ることを示唆する。さらに、膜の変形のしやすさや切断のされやすさは膜の張力と密接

に関わっているため、“CCP において膜の張力を感知する機構があるのか”、それに対

して“CCP ではどのような機構によって膜の張力を克服するのか”といった問いに対

して、力学的な観点から答えを探す研究も必要になってくるであろう。

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第 4 章

クラスリン依存的エンドサイトーシス過程における細胞膜

形状変化のイメージングとアクチンの機能的関与の解析

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1990 年代に入り様々な研究グループによって AFM が生物学のフィールドへ応用さ

れ始めると、AFM は、細胞表層の微細構造を可視化するツールとして多くの研究者が

用いるようになった 50,52,86。特に、DNA やタンパク質などの生体分子を対象とした分

子レベルでの構造・動態解析では、高分解能探針やステージスキャン型高速 AFM の開

発により大きな成果が数多く報告された。しかし一方で、細胞レベルでの構造動態解析

では、生きた細胞を対象としたイメージング技術の開発は大きく遅れていた。この問題

の背景には、①生きた細胞を対象とするため従来用いられてきたステージスキャン型が

採用できないこと、②チップスキャン型で広い領域を高速でスキャンするための安定し

た光検出系の構築が困難なこと、③生きた細胞という柔らかい試料表面を画像化するた

めのカンチレバーやフィードバック機構の欠如、などが挙げられる。

本研究では、上記の問題を克服したチップスキャン型高速 AFM を用いて、生細胞の

細胞表層ライブイメージング技術を確立した(第 2 章)。さらに、この技術を CME の

メカニズム解明へと応用することによって、CCP に多様な構造動態が存在すること、

および、アクチンとダイナミンとが協調的に働くことにより CCP の閉孔および小胞の

不可逆的な切り離しが達成されることを示した(第 3 章)。これまで、CME の最終過程

では、“ダイナミンが膜をくびり切ることで膜小胞を形成する”というメカニズムのみ

が示されてきたが、本研究で得られた成果は、これにさらに大きな知見を加えるもので

ある。

本研究で解析の対象とした CME は、細胞表層で起きている生命活動の一例に過ぎ

ない。細胞膜の近傍では、アクチンの重合-脱重合反応、アクチン結合タンパク質群によ

る動的ネットワークの構築、アクチンと細胞膜との相互作用による膜張力の制御、など

の動的な反応が進行しており、多様な生命活動を支えている。神経細胞のシナプス間隙

では、エンドサイトーシスとエキソサイトーシスを介したシグナル伝達の授受が、成長

円錐では、膜動態とアクチン⁻アクチン結合タンパク質動態とが協働した成長円錐の走

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化性制御が起きている。また、ウイルスの感染やバクテリアの感染現象は、宿主細胞の

膜変形機構を巧みにジャックすることで、細胞内部への侵入・細胞外部への出芽を果た

す過程に他ならない。ウイルスの乗っ取るエンドサイトーシスの経路として、クラスリ

ン依存的エンドサイトーシス(CME)だけではなく、クラスリン非依存的エンドサイ

トーシス(CIE)があることも近年、注目されつつあり 87,88、CME 同様、CIE におい

てもアクチンの関与を示唆する報告が出てきている 89。また、エキソサイトーシスの現

象においても、皮質アクチンネットワークの関与が示唆されている 90–92。本研究で確立

した技術を、ウイルス侵入、細胞走化性、細胞外シグナル伝達、といった細胞表層で起

きる様々な生命現象に応用することで、細胞膜近傍の分子(細胞膜タンパク質、脂質分

子やアクチン関連分子など)がどのような機構でそれらの生命現象を支えているか、分

子学的、および力学的側面からの理解が進められていくと考えられる。

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52

謝辞

始めに、現研究室での研究の機会を与えてくだり、修士課程への入学から博士課程 2

年目進学までの約 3 年間、研究の指導をしてくださった竹安邦夫前任教授に深く感謝し

ます。竹安邦夫教授は、研究の進め方からデータの解釈の仕方、発表の仕方や研究費申

請のコツ、原著論文の書き方など、懇切丁寧に享受してくださいました。国際学会で発

表する機会や、海外の研究室にて数か月にわたり研究をする機会、企業や多分野に渡る

研究者・学生・留学生と共同研究をする機会を与えてくださり、早い時期から数多くの

貴重な機会を積ませていただきました。本研究の軸となるオリンパス株式会社との共同

研究プロジェクトもこれらの中のひとつです。竹安教授の下、5 年前にプロジェクトの

発足が決まった際、教授は、“生きた細胞の中で実際に分子が動く姿を見てみたい”とい

う私の想いを汲んでくださり、プロジェクトへの参画の機会をくださいました。修士課

程入学から博士課程 1 年目までの 3 年間は、まさに私の研究人生における礎です。竹安

教授のように、科学を通して hands-on、mind-on で学生を教育できるような研究者に

なれるよう、日々、研究に邁進していきたいと思います。

京都大学大学院生命科学研究科の吉村成弘准教授にも同様に深く感謝します。竹安教

授の早期退官が決まったとき、吉村准教授は、立ち消えになりそうだったオリンパス株

式会社との共同プロジェクトを継続できるよう尽力してくださいました。それだけに留

まらず、研究がさらに発展していくよう、惜しみない力を注いでくださいました。私が

最後の 1 年半、何不自由なく気の赴くままに研究に専念できたのは、吉村准教授が研究

できる環境を作り上げ、守り抜いてくださったからでした。指導教官が吉村准教授に変

わった当初、私は准教授の“常に新しい発見を探求し続ける”姿勢に戸惑い、自身の無力

さから挫折しそうになったことが幾度となくありましたが、吉村准教授を除き私にこう

いった教育をしてくださる人は他にいませんでした。3 年前までの私にとって、国際学

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会に招待されたり、学会で表彰を受けたりすることは夢のまた夢でしたが、吉村准教授

の下で、私はこれらを成し遂げることができました。吉村准教授とともに味わうことの

できた数多くの高揚感は、私にとって、研究を進めていくうえでの糧となり、大きな推

進力となっています。

オリンパス株式会社とマイクロシステム技術部開発 2G の方たち、特に、酒井信明氏

と植草良嗣氏、今岡由佳氏に対し、格別な感謝の意と敬意を表します。本研究は、酒井

信明氏が発明し、植草良嗣氏が設計を行い、今岡由佳氏によって精巧に作り込まれた顕

微鏡技術の上に成立しています。酒井氏は、生細胞観察用の AFM 技術(BIXAM)の発

明に、5 年以上もの長い歳月を費やしました。繊細な装置である BIXAM は、オリンパ

ス株式会社の資産である緻密な設計技術・組み立て技術・組み立て職人の技量なしには、

実現し得ませんでした。“世界一おもしろいおもちゃを作る”を合言葉に試作機を製作し

ていた時代から、合言葉の実現へと近づきつつある今日に至るまで、私は、目覚ましい

AFM 技術の進歩を幾度となく目の当たりにして来ました。2015 年 9 月に完成した本

研究の要である最新型の高速 AFM(共焦点顕微鏡レーザー走査型顕微鏡一体型高速

AFM)の最初のユーザーとして、私に装置を動かす機会をくださらなければ、本研究の

進展はありませんでした。加えて、私を学生としてではなく、ひとりの人(研究者)と

して接してくださったことに深く感謝しています。どんなに挫けそうになったときも、

皆様の作り上げられた空間ではほっと一息つくことができ、皆様と語らうことで気分が

一掃されました。そして、前向きな気持ちになれました。とりわけ、酒井信明氏は、共

同研究という枠組みを通り越し、人生の師として、お会いする度に歩むべき道筋を照ら

してくださいました。

粂田昌宏助教授は、具体的な研究の方法、データの解釈の仕方について、数え切れな

いほどの具体的、かつ建設的なご助言とご意見をくださいました。特に、阻害剤を添加

する際、パストゥールピペットを使うという発案は、本研究だけではなく、BIXAM を

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用いた生細胞研究には欠かせない基盤技術(溶液添加技術)となっています。原著論文

の執筆の際には、加筆・修正を繰り返してくださり、最後の最後まで議論にお付き合い

くださいました。6 年間にわたり、私の精神面での大きな支えとなってくださった粂田

助教に深く感謝いたします。

2012 年 3 月に本研究室で博士号を取得した現東北大学学際科学フロンティア研究所

新領域研究部の鈴木勇輝助教は、大学院に進学したばかりの右も左もわからない私に、

実験の手ほどきからデータの見せ方や共同研究の進め方、論文の雑誌への通し方など、

研究者として歩む上で大切なノウハウや姿勢を、貴重なお時間を割いてまで、私にご教

示くださいました。鈴木氏からの的確な助言は行き詰まった時の道標となり、激励はく

じけそうになった時の原動力となりました。いまだに私のことを気にかけて下さり、深

い学びと気づきの場を提供して下さる鈴木氏に、深い感謝の意を表します。

***************************************************

最後に、研究室生活をより楽しいものにしてくれた研究室員の皆様、友人達に心から

感謝いたします。

私が 28 年間歩んできた人生とこれから歩んでいく人生を鑑みたときに、この 6 年間

は、大きな分岐点でした。本大学院に入学する前の私は、いかに老後の人生を充実させ

るかに思考の矛先を向けていましたが、今は違います。短い人生で、何を成し遂げたい

か、成し遂げられるか、成し遂げるべきかを、真剣に考え、行動できるようになりまし

た。

こういった環境に身を置くことに深い理解を示し、惜しみない支援をしてくださった

家族に心から感謝いたします。

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***************************************************

本学位論文は以下の学術論文の内容に基づいて書かれたものです。

Yoshida, A., Sakai, N., Uekusa, Y., Deguchi, K., Gilmore, J. L., Kumeta, M., and

Takeyasu, K.

Probing in vivo dynamics of mitochondria and cortical actin networks using high-speed

atomic force/ fluorescence microscopy

Genes to Cells, 20 (2), 85-94, 2015