10
1. 環境基本法の変遷 1967 年、インドネシアは投資法(1967 年法律第 1 号) と鉱業法(1967 年法律第 11 号)を発行し、鉱業事業 契約(COW : Contract of Work)の導入によって、 外国鉱業投資家に鉱物資源の開発機会を開放し、 Grasberg 鉱山をはじめとする大規模鉱山が開山され た。インドネシア鉱業の発展は、こうした外国からの 鉱業投資が重要な役割を担い、インドネシア経済の牽 引産業として位置づけられた。しかし、開発はプラス 面の影響ばかりではなく、違法採掘事業者による環境 破壊などのマイナス面も増加した。 1970 年代初め、インドネシアの科学者たちは、環境 問題の重要性を認識し天然資源開発(森林、プランテ ーション、鉱物資源など)のマイナス面に目を向ける ようになった。インドネシア政府は 1972 年、ストック ホルムで開催された国連の環境会議に参加し環境に関 する協定に調印、1978 年、内閣に環境担当国務大臣の ポストを設置し、1982 年、最初の包括的環境基本法 (1982 年法律第 4 号 以下、「旧環境法」という)を発 行した。 旧環境法は、汚染者負担の原則、環境管理への国民 参加、厳格責任、環境の汚染原因者に対する刑事・民 事責任の概念を採り入れた。また、事業者が開発を行 う際に、「開発に伴う環境への影響を評価する」(イン ドネシア語の頭字語より AMDAL と呼ばれる)プロセ スを行うことを義務づけた。これを受けて、中央・地 方政府は、法律の基本条項を実施するため、多くの法 規を発行し、大気・水・騒音・振動・悪臭に関する基 準および有害・有毒廃棄物の管理について規定を制定 した。 しかし、旧環境法は、環境汚染を引き起こした者に 対する調査・訴追の権限を、環境行政機関ではなく警 察に置いたため、取締りが徹底されず実質的な効果を 上げることができなかった。加えて警察官や関係者の 汚職や政界権力者のなれ合いにより、環境法が定める 義務は無視され環境事犯が日常茶飯事になった。 1997 年 9 月、新環境法(1997 年法律第 23 号)が成 立した。これに伴って旧環境法は廃止された。新環境 法は、「ゆりかごから墓場まで」の原則、環境規制・罰 則の強化、透明性の確保、環境紛争処理規定の充実、 国民の知る権利規定の導入、自発的監視という新たな 環境管理対策を採り入れた。この環境法が現行の環境 法体系の基礎になっている。 1999 年、政府は、州や地方の不満を抑え、分離独立 主義者の脅威を防ぐため、中央政府の権限を大幅に地 方政府に移譲する地方自治法(1999 年法律第 22 号) を成立させた。この法律により、地方政府は大きな自 治権を所掌し、環境許認可もまた地方政府の手に委ね られた。1999 年法律第 22 号は、2001 年 1 月 1 日に発 効された。 1-1. インドネシアの環境行政機関 鉱業分野における主たる環境関連行政機関は次のと おり。 (1)環境担当国務大臣府(http://www.menlh.go.id/): 環境政策企画・立案など (2)環境管理庁(http://www.bapedal.or.id/):環 境保全対策、公害(大気汚染・水質汚濁)対策、 有害廃棄物対策、環境影響評価、研究開発など (3)エネルギー鉱物資源省(http://www.esdm.go.id/): エネルギー・鉱物資源・石炭・地熱政策の企画立 案、研究開発など (4)森林省(http://www.dephut.go.id/):森林行政 企画・立案など 2007.7 金属資源レポート 85 185インドネシアにおける鉱業環境規則について はじめに 赤道上に広がるインドネシアは豊富な自然資源に恵まれている。何百万ヘクタールもの熱帯林は赤道の翡翠と呼ば れている。地下には、石油、ガス、金、銅、錫、ニッケルなど、様々な戦略的資源が賦存している。また、様々な珍 しい動植物、魚類、その他水産資源にも恵まれている。 1945 年憲法により、インドネシアの豊かな資源は、インドネシア国民の最大の利益のために利用されなければなら ないと定められている。現在のインドネシアの開発計画は、環境管理政策の一部として、持続可能な開発の原則を組 み込んでいる。また、国家の開発計画においては、環境管理に関する国と地方政府との協調、環境情報の普及と共有、 エネルギー鉱物資源の利用と保護のバランス、生活環境の改善、破壊された環境の回復、違法採掘の取り締まりを目 的に組織編成と法整備を進めている。 本稿では、インドネシア鉱業の持続的発展を導くための環境規則について、その概要を紹介する。 ジャカルタ事務所 次長 [email protected] 池田 肇

インドネシアにおける鉱業環境規則について - …mric.jogmec.go.jp/wp-content/old_uploads/reports/...なお、RKL、RPLの作成ガイドラインは、2002年環

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1. 環境基本法の変遷1967 年、インドネシアは投資法(1967 年法律第 1 号)

と鉱業法(1967 年法律第 11 号)を発行し、鉱業事業

契約(COW : Contract of Work)の導入によって、

外国鉱業投資家に鉱物資源の開発機会を開放し、

Grasberg 鉱山をはじめとする大規模鉱山が開山され

た。インドネシア鉱業の発展は、こうした外国からの

鉱業投資が重要な役割を担い、インドネシア経済の牽

引産業として位置づけられた。しかし、開発はプラス

面の影響ばかりではなく、違法採掘事業者による環境

破壊などのマイナス面も増加した。

1970 年代初め、インドネシアの科学者たちは、環境

問題の重要性を認識し天然資源開発(森林、プランテ

ーション、鉱物資源など)のマイナス面に目を向ける

ようになった。インドネシア政府は 1972 年、ストック

ホルムで開催された国連の環境会議に参加し環境に関

する協定に調印、1978 年、内閣に環境担当国務大臣の

ポストを設置し、1982 年、最初の包括的環境基本法

(1982 年法律第 4 号 以下、「旧環境法」という)を発

行した。

旧環境法は、汚染者負担の原則、環境管理への国民

参加、厳格責任、環境の汚染原因者に対する刑事・民

事責任の概念を採り入れた。また、事業者が開発を行

う際に、「開発に伴う環境への影響を評価する」(イン

ドネシア語の頭字語より AMDAL と呼ばれる)プロセ

スを行うことを義務づけた。これを受けて、中央・地

方政府は、法律の基本条項を実施するため、多くの法

規を発行し、大気・水・騒音・振動・悪臭に関する基

準および有害・有毒廃棄物の管理について規定を制定

した。

しかし、旧環境法は、環境汚染を引き起こした者に

対する調査・訴追の権限を、環境行政機関ではなく警

察に置いたため、取締りが徹底されず実質的な効果を

上げることができなかった。加えて警察官や関係者の

汚職や政界権力者のなれ合いにより、環境法が定める

義務は無視され環境事犯が日常茶飯事になった。

1997 年 9 月、新環境法(1997 年法律第 23 号)が成

立した。これに伴って旧環境法は廃止された。新環境

法は、「ゆりかごから墓場まで」の原則、環境規制・罰

則の強化、透明性の確保、環境紛争処理規定の充実、

国民の知る権利規定の導入、自発的監視という新たな

環境管理対策を採り入れた。この環境法が現行の環境

法体系の基礎になっている。

1999 年、政府は、州や地方の不満を抑え、分離独立

主義者の脅威を防ぐため、中央政府の権限を大幅に地

方政府に移譲する地方自治法(1999 年法律第 22 号)

を成立させた。この法律により、地方政府は大きな自

治権を所掌し、環境許認可もまた地方政府の手に委ね

られた。1999 年法律第 22 号は、2001 年 1 月 1 日に発

効された。

1-1. インドネシアの環境行政機関鉱業分野における主たる環境関連行政機関は次のと

おり。

(1)環境担当国務大臣府(http://www.menlh.go.id/):環境政策企画・立案など

(2)環境管理庁(http://www.bapedal.or.id/):環

境保全対策、公害(大気汚染・水質汚濁)対策、

有害廃棄物対策、環境影響評価、研究開発など

(3)エネルギー鉱物資源省(http://www.esdm.go.id/):エネルギー・鉱物資源・石炭・地熱政策の企画立

案、研究開発など

(4)森林省(http://www.dephut.go.id/):森林行政

企画・立案など

レポート

インドネシアにおける鉱業環境規則について

2007.7 金属資源レポート 85(185)

インドネシアにおける鉱業環境規則について

はじめに赤道上に広がるインドネシアは豊富な自然資源に恵まれている。何百万ヘクタールもの熱帯林は赤道の翡翠と呼ば

れている。地下には、石油、ガス、金、銅、錫、ニッケルなど、様々な戦略的資源が賦存している。また、様々な珍

しい動植物、魚類、その他水産資源にも恵まれている。

1945 年憲法により、インドネシアの豊かな資源は、インドネシア国民の最大の利益のために利用されなければなら

ないと定められている。現在のインドネシアの開発計画は、環境管理政策の一部として、持続可能な開発の原則を組

み込んでいる。また、国家の開発計画においては、環境管理に関する国と地方政府との協調、環境情報の普及と共有、

エネルギー鉱物資源の利用と保護のバランス、生活環境の改善、破壊された環境の回復、違法採掘の取り締まりを目

的に組織編成と法整備を進めている。

本稿では、インドネシア鉱業の持続的発展を導くための環境規則について、その概要を紹介する。

ジャカルタ事務所 次長[email protected] 池田 肇

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2. 環境影響評価(AMDAL)と環境管理/モニタリングの取り組み(RKL/RPL)AMDAL は、環境影響評価書(ANDAL)、環境管理

計画書(RKL)および環境モニタリング計画書(RPL)

から成る。

AMDAL が必要な活動の基準、および AMDAL の

作成・評価・承認の仕組みは、1999 年政令第 27 号に

より規定されている。

AMDAL :環境影響評価(= EIA : Environmental ImpactAssessment)

KA-ANDAL :実施計画書環境影響評価の調査範囲と、データの収集や分析方法などを

記載した実施計画書ANDAL :環境影響評価書(= EIS : Environmental Impact

Statement)提案プロジェクトで環境に重大な影響を及ぼすと考えられる

因子に係る詳細で綿密な調査研究RKL :環境管理計画書

提案プロジェクトから生じる重大な環境影響に対する対処・管理方針RPL :環境モニタリング計画書

プロジェクト実施により生じる環境因子の重大変化を同定するためのモニタリング計画

2-1. 環境影響評価(AMDAL)の対象となる事業AMDAL の対象となる事業については、2006 年環境

担当国務大臣令第 11 号に規定され、13 セクター(国

防、農業、漁業、森林、通信、衛星技術、工業、公共

事業、エネルギー・鉱業、観光、原子力開発、B3 廃棄

物管理、遺伝子研究)が対象分野となっている。その

うち鉱業分野の事業タイプと開発規模は表 1 のとおり

規定されている。

環境担当国務大臣は、事業規模、範囲、事業予定地

と保護区との近接度および開発が環境に与える影響に

基づき、AMDAL の実施可否を決定する。AMDAL が

必要でない開発であっても、環境管理(RKL)と環境

モニタリング(RPL)は行わなければならない。

2-2. 一般ガイドラインAMDAL に関する一般的なガイドラインは、1994 年

環境担当国務大臣令第 14 号、2000 年環境管理庁長官

令第 9 号により規定されている。

① KA-ANDAL に記載すべきもの・ ANDAL 調査の範囲と目的

・ ANDAL 調査を行う関係者名

・ ANDAL 調査の利用者

・問題の特定

・重要な環境への影響など

② ANDAL に記載すべきもの・パラメータ、データの収集・分析方法

・環境影響予測・評価方法

・ANDAL 調査の範囲とスケジュール(建設前、建

設中、作業中、作業後を含む)

・各活動の環境への影響

なお、知事/県知事/市長は、現地の立地条件、環境

状況を考慮し、管轄地域において AMDAL を必要とす

る事業タイプを規定できる。事業者は 2006 年環境担当

国務大臣令第 11 号だけでなく、活動を行う地域の地方

政府/自治体が発行する地方法規(Perda)に注意しな

ければならない。

③RKL に記載すべきもの・環境管理計画の範囲

・環境管理の方法(技術的・社会経済的・組織的ア

プローチ)など

④RPL に記載すべきもの・環境モニタリング計画の範囲

・環境のモニタリング方法

・環境への影響源

・事業者がモニタリングするパラメータ

・モニタリングを行う組織名など

なお、RKL、RPL の作成ガイドラインは、2002 年環

境担当国務大臣府令第 86 号により規定されている。事

業者は、同法令で定める様式により計画書を提出する。

2-3. 技術ガイドライン1999 年の地方自治法の施行前

は、環境管理庁(BAPEDAL)が、

AMDAL、RKL/RPL のための技術

ガイドラインを作成していた。現

在は、州/地方政府に権限が移譲さ

れている。しかし、すべての州/地

方政府が、独自の技術ガイドライ

ンを発行したわけではない。発行

していない州/地方政府は、従来の

BAPEDAL が発行した技術ガイド

ラインを使用している。

鉱山開発に関する AMDAL、

RKL/RPL の技術ガイドラインは、

2000 年エネルギー鉱物資源大臣令

第 1457号1 により規定されている。

レポート

インドネシアにおける鉱業環境規則について

2007.7 金属資源レポート86(186)

表 1 鉱業分野の事業タイプと開発規模

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①技術ガイドラインは、州/地方政府が地方規定

(Perda)を草案するための指針である。

②事業者は、同第 1457 号の別紙 I、別紙Ⅳに定める

様式により、AMDAL、RKL/RPL の申請を行う。

③事業者は、AMDAL に必要な調査を行う際は同第

1457 号別紙 II の基準を満たす環境コンサルタント

を使用することができる。

④エネルギー・鉱物資源開発は、地域の空間計画

(Spatial Plan)に従い実施しなければならない。

⑤空間計画の分類、エネルギー・鉱物資源の開発に

関する保護地区の基準は、同第 1457 号の別紙 V

で規定する。

1 2000 年エネルギー鉱物資源大臣令第 1457 号の発行以前のAMDAL または RKL/RPL に関する技術ガイドラインは、1996 年エネルギー鉱物資源大臣令第 1256 号と同第 389 号であった。なお、第 1256 号、第 389 号は廃止されていないため、法令第 1457 号と重複した状況になっているが、法令第 1457 号を有効としている。

2-4. AMDAL の評価と承認鉱業活動に係る AMDAL の評価と承認は、1999 年

の地方自治法の施行以前は、エネルギー鉱物資源省

(当時の鉱山・エネルギー省)が実施していた。現在は、

採掘する天然資源の種類や活動地域により異なる。環

境担当国務大臣府が担当する AMDAL の審査は、①戦

略的鉱物の採掘、② 2 つ以上の州にまたがる鉱物活動、

③海域における鉱物活動である。その他の鉱業活動は、

地方政府の所管となっている。

2-5. AMDAL、RKL/RPL、ビジネスライセンスの発行新環境法により、政府当局が発行するビジネスライ

センスには、環境を維持し持続可能な開発をライセン

ス保持者に求める義務項目の記載がある。政府当局は、

ビジネスライセンスの交付に当たり、以下のことを行

うことになっている。

①当該地区の空間計画を検討する。

②世論調査を行い、検証する。

③活動に対する政府機関の意見と勧告を聞き、検証

する。

さらに、新環境法によりビジネスライセンスの審

査・交付は公表が義務づけられているが、公表の義務

が事業者にあるのか政府にあるのかあいまいとなって

いる。また、公表の場所、住民などからの意見の聴取

方法、期間などについても明記がなく、ビジネスライ

センスの審査過程においてしばしば問題が発生してい

る。ただし、住民がライセンスの交付に反対を唱える

権利を保有することは事実である。

2-6. AMDAL 承認の期間満了と取消AMDAL の承認は、事業者がライセンス発行後 3 年以

内に活動を始めない場合は、失効する。法律により、

AMDALの承認は以下の場合は取消になるとされている。

①事業者が事業活動の場所を変更した場合

②事業者が計画、工程、生産能力、原材料、支持材

を変更した場合

③自然災害、その他の原因により、活動前または活

動中に環境が大幅に変化した場合

2-7. 報告の義務事業者に対し、AMDAL、RKL/RPL の実施報告を

義務づける規定は特にない。しかし、実際には、

AMDAL、RKL/RPL に規定される声明文(Statement

Letter)によって、6 か月毎の報告を求めている。

3. 環境基準・排出基準新環境法第 14 条により、すべての事業活動は、環境

基準に違反してはならないと規定されている。国の環

境基準は、政府規定または省令により発行される。州/

地方政府は、また、環境基準規定を発行することがで

きる。従って、事業者は地元の環境基準も参照しなけ

ればならない。

3-1. 大気環境基準大気に関する環境基準は、1999 年政令第 41 号により、

二酸化硫黄、一酸化炭素、窒素酸化物、オゾン、煤塵、

鉛、硫化水素、アンモニア、炭化水素、フッ素、塩素

などの物質を対象とした環境基準が規定されている。

3-2. 作業環境基準事業者は、1997 年労働移住大臣通達第 SE-01 号(ガ

ス・塵埃用)及び 1999 年労働移住大臣令第 51 号(騒

音用)に規定される作業環境を維持しなければならな

い。

3-3. 大気の排出基準固定排出源の大気排出基準は、1995 年環境担当国務

大臣令第 13 号により、石炭燃焼発電用ボイラー、セメ

ント業、紙・パルプ製造業、鉄鋼業、その他の産業の

5 分野を対象に規定されている。鉱業は、その他の産

業分野に該当する。

固定排出源を有する事業者は、大気排出モニタリン

グ報告を関係政府当局に行わなければならない。1999

年政令第 41 号に従い、ビジネスライセンスには、事業

者が遵守すべき排出基準が記載される。

なお、大気汚染管理に関する固定排出源の技術ガイ

ドラインは、1996 年環境管理庁長官令第 205 号により

規定され下記項目が含まれる。

①予備検査の実施

②大気排出と周囲の環境に関するモニタリング地区

の決定

③大気排出モニタリング装置の設定

④試料採取と分析

⑤モニタリング活動の報告

1996 年環境管理庁長官令第 205 号は、排出煙突の必

要要件についても規定している。

レポート

インドネシアにおける鉱業環境規則について

2007.7 金属資源レポート 87(187)

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なお、政府は移動排出源の排出基準を定めているが、

自動車排ガス基準を対象としている。

3-4. 騒音に関する基準騒音に関する環境基準は、1996 年環境担当国務大臣

令第 48 号により、規定されている。事業者は騒音防止

装置を導入し、関係政府当局に四半期毎にモニタリン

グ報告を提出しなければならない。

3-5. 振動に関する基準振動に関する環境基準は、1996 年環境担当国務大臣

令第 49 号により規定されている。事業者は振動防止装

置を導入し、関係政府当局に四半期毎にモニタリング

報告を提出しなければならない。振動基準には、快適

性と健康、損害影響力、建物別、衝撃振動に関するも

のがある。

3-6. 悪臭に関する基準悪臭に関する環境基準は、1996 年環境担当国務大臣

令第 50 号により規定されている。事業者は、悪臭源を

管理し、関係政府当局に四半期毎にモニタリング報告

を提出しなければならない。単一臭気物質、混合臭気

物質の基準が定められている。

3-7. 陸水と海水の環境基準3-7-1. 陸水

陸水に関する環境基準は 2001 年政令第 82 号により

規定されている。陸水とは地表水と地下水からなる

(海水と化石水は適用外)。陸水の環境基準は、利水目

的別に 4 つの類型に分類している。

① 1 級:飲料水およびそれと同等の水質の水源

② 2 級:レクリエーション施設、淡水漁業、畜産農

業、灌漑、それと同等の水質の水源

③ 3 級:淡水漁業、畜産農業、灌漑、それと同等の

水質の水源

④ 4 級:灌漑、それと同等の水質の水源

廃水を水路に放流する時は、事業者は水路の類型基

準に従わなければならない。

3-7-2. 海水海水に関する環境基準は、2004 年政令第 179 号によ

り修正された 2004 年環境担当国務大臣令第 51 号によ

り規定されている。海水は次の 3 つの類型に分類され

ている。

①港湾

②海洋レクリエーション地域

③海域生物相保護地域

3-8. 排水基準環境担当国務大臣は 2001 年政令第 82 号に従い国の

排水水質基準を決定することになっている。鉱物資源

開発分野における関連基準は次のとおり。

①生活排水の水質基準は、2003 年環境担当国務大臣

令第 112 号により規定されている。同法令により、

生活排水は、不動産・レストラン・オフィス・商

業施設・アパート・寮(住人 100 人以上)から生

じる排水と定義される。100 人以上が住む寮を提

供する鉱山会社は、この規定に従わなければなら

ない。

②石炭の採鉱に関する排水基準は、2003 年環境担当

国務大臣令第 113 号により規定されている。

③金・銅鉱石の鉱業活動(採掘、加工)に関する排

水基準は、2004 年環境担当国務大臣令第 202 号に

より規定されている。

④ニッケル鉱石の採鉱に関する排水基準は、2006 年

環境担当国務大臣令第 9 号により規定されている。

いずれの法令も、気候その他の条件により排水が水

質基準を満たさない場合、事業者は県知事/市長および

環境担当国務大臣に報告しなければならないことが規

定されている。その場合、事業者は県知事/市長に、汚

染物質保護計画も提出しなければならない。

3-9. 罰則規定すべての事業・活動は、新環境法第 14 条により環境

基準の遵守が義務づけられている。この義務は、大

気・水質汚染に関する政令にも明記されている。例え

ば 1999 年政令第 41 号第 54 条には、大気汚染を引き起

こした者および第三者に被害を与えた者は、大気汚染

の回復費用および被害者へ補償を行わなければならな

い。同第 56 条には、大気汚染/悪臭/振動/騒音が制限

値を超えて、環境事犯行為を行った者は刑事処分が課

せられる。

4. 環境被害の基準環境被害は、新環境法により初めて規定された。政

府は、バイオマス生産(プランテーション)による土

地被害の管理についての 2000 年政令第 150 号および森

林・原野火災による損害・汚染の管理についての 2001

年政令第 4 号を発行した。

5. 有害・有毒廃棄物管理インドネシアでは、有害・有毒廃棄物を、危険、有

害、有毒のインドネシア語の頭文字をとって B3

(Bahan Berbahaya Beracun)廃棄物と呼んでいる。

B3 廃棄物に関する管理は、1999 年政令第 85 号で修正

される 1999 年政令第 18 号で規定されている。B3 廃棄

物は、発生時から最終保管・廃棄時に至るまで規制さ

れている。B3 廃棄物の発生、移動、保管、加工、埋立

てを行うには、ライセンスが必要である。事業者は、

事前処理を行わずに B3 廃棄物を環境の中に廃棄して

はならない。

1999 年地方自治法の施行以後、各種許認可は州/地

方政府へ移譲されたが、B3 廃棄物の管理については現

在もなお環境担当国務大臣府が担当している。州/地方

レポート

インドネシアにおける鉱業環境規則について

2007.7 金属資源レポート88(188)

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政府は、事業者が AMDAL または RKL/RPL に基づき

実施する事項の監視という意味での関わりとなる。

5-1. B3 廃棄物の判定B3 廃棄物は、発生源試験、特性試験、毒性試験によ

って判定する。判定は段階的に実施される。これら 3

つの試験で有害・毒性が認められなかった場合、一般

の廃棄物となる。

「銅・金・石炭・錫などの鉱山活動」は 1999 年政令第

85 号により B3 廃棄物を発生させる事業活動として監

視の対象となっている。

第 1 段階の発生源試験とは、B3 廃棄物を発生するタ

イプの活動、B3 廃棄物源、主な汚染物質などを試験す

る。本試験で廃棄物が 1999 年政令第 85 号に挙げられ

ている廃棄物に該当しない場合、事業者は、当該廃棄

物が、爆発性、可燃性、有毒性、反応性、腐食性、感

染症を引き起こす可能性があるか特性試験を実施する。

特性試験において有害、毒性が認められない場合、第

3 段階の毒性試験を行う。当該廃棄物の急性および慢

性的性質について判断する。

なお、事業者が上記試験に必要な装置を持っていな

い場合、第三者(PT Superintending Company of

Indonesia [Sucofindo]、ASL)に支援を受けることを認

めている。

5-2. B3 廃棄物排出事業者の義務事業者は自らの事業活動に伴って生じた廃棄物を自

らの責任において適性に処理しなければならない。ま

た、廃棄物の環境修復利用等を行うことにより、減量

化、資源化に努めなければならない。

(1)B3 廃棄物の削減B3 廃棄物を発生している事業者は、その B3 廃棄物

を削減しなければならない。B3 廃棄物の削減は、より

環境に優しい技術を適用、より有害度の低い材料/支持

材を選択、生産プロセスを改善し実施しなければなら

ない。

(2)B3 廃棄物の利用B3 廃棄物の削減措置をとっても、まだ B3 廃棄物が

発生する場合、事業者は当該廃棄物をリサイクル、リ

ユースするかまたは第三者にリユースを依頼する。

(3)B3 廃棄物の加工と埋立てB3 廃棄物を埋立地に処分する場合には、事業者は B3

廃棄物中の有害・有毒物質を削減または除去して、B3

廃棄物の特性および組成を変更しなければならない。

事業者は、1999 年政令第 18 号により、廃棄物の利

用・加工・埋立て処分を第三者に委託できるが、これに

よって事業者の処理義務・責任が減ずるわけではない。

つまり、事業者は、その委託者が第三者に及ぼした環境

被害・環境汚染の責任を共同で負わざるを得ない。

環境管理庁長官は、B3 廃棄物の加工および埋立て処

分に関する技術ガイドラインを定めている。

(4)適切な B3 廃棄物の保管事業者は、B3 廃棄物を B3 廃棄物管理事業者(B3

Waste Management Company)に運搬するまでは、

最大 90 日間、B3 廃棄物を保管することができる。(こ

の規定は、事業者の B3 廃棄物生産量が 50kg 未満/日

のときは適用されない。)環境管理庁長官は B3 廃棄物

保管に関する技術ガイドラインを定めている。

(5)シンボルとラベルの使用事業者は、B3 廃棄物の包装および B3 廃棄物の保管

場所に、シンボルとラベルを使用しなければならない。

B3 廃棄物のシンボルとラベルは B3 廃棄物の性質によ

り規定される。環境管理庁長官は、B3 廃棄物に関する

シンボルとラベルのガイドラインを定めている。

(6)B3 廃棄物の記録の義務事業者は、1999 年政令第 18 号第 11 条(1)により、

下記の情報からなる B3 廃棄物の記録をとらなければ

ならない。

①排出される B3 廃棄物の種類、特性、量、時期

②第三者に移譲される B3 廃棄物の種類、特性、量、

時期

③B3 廃棄物の運送者の名前

これに違反した事業者は、1999 年政令第 18 号第

62.1 条により、警告書または操業ライセンス取消の行

政処分が課せられる。

(7)B3 廃棄物記録の報告義務事業者は、1999 年政令第 18 号により、B3 廃棄物記

録の定期報告を環境担当国務大臣および地方政府に提

出しなければならない。これに違反した事業者は、

1999 年政令第 18 号第 62.1 条により、警告書または操

業ライセンス取消の行政処分が課せられる。

(8)B3 廃棄物ライセンス取得の義務B3 廃棄物の保管、収集、利用、加工、埋立てを行う

すべての事業者は、環境担当国務大臣よりライセンス

を取得しなければならない。他の事業者の B3 廃棄物

を(本業として)利用する事業者は、環境担当国務大

臣の推薦を得た後、政府の管轄機関(地方政府など)

よりライセンスを取得しなければならない。B3 廃棄物

の輸送ライセンスは、環境担当国務大臣の推薦に基づ

き、通信省より取得しなければならない。

B3 廃棄物のライセンスを取得しない事業者には、

1999年政令第18号第 62.1 条により行政処分が下される。

(9)緊急対応計画と定期検診B3 廃棄物を発生させるすべての事業者は、1999 年

政令第 18 号第 58.2 条に基づき、緊急対応計画を策定

レポート

インドネシアにおける鉱業環境規則について

2007.7 金属資源レポート 89(189)

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し、B3 廃棄物を扱う従業員の定期検診、責任者の任命、

従業員に対する十分な研修を実施しなければならない。

6. 有害・有毒物質(B3物質)の管理6-1. B3 物質の管理

B3 物質を適正に管理するため、事業者には 2001 年

政令第 74 号により、次の義務が課せられている。

①B3 物質輸送ライセンスの取得

②B3 物質を取り扱う従業員の定期検診

③B3 物質の適切な保管(環境担当国務大臣の技術

ガイドラインに従う)

④B3 廃棄物に関する化学物質安全性データシート

(MSDS)の作成 

6-2. B3 物質の使用有害化学物質を使用する事業者は、作業場の有害化

学物質管理を規定する 1999 年労働移住大臣令第 187 号

に従わなければならない。特に下記のことが規定され

る。

①有害化学物質リストの策定の義務

②有害化学物質リストの労働移住省への提出の義務

③有害化学物質の取り扱い・廃棄に関する基準

④事業者で有害化学物質を取り扱うための化学専門

家と衛生・安全責任者の任命の義務

⑤事業者の生産活動で使われる B3 物質の名前、品

質、加工法、および搬入法の変更に関する報告義

6-3. B3 物質の輸送B3 物質を輸送する場合、2004 年陸運総局長令第 725

号により、次の必要要件が規定されている。

①B3 物質の輸送車の仕様

②B3 物質を輸送するドライバーとその助手

③B3 物質の輸送作業

また、B3 物質を輸送する事業者は、下記を遵守しな

ければならない。

①環境担当国務大臣府及び地方政府の輸送局(Dinas

Perhubungan Kota/Kabupaten)から B3 物質輸

送に関する注意書(Recommendation)を取得

②陸運総局からライセンスを取得

③B3 物質輸送に関する月次報告書を陸運総局長に

提出

④B3 物質輸送によって生じた道路/橋/環境の損害

を、B3 物質の所有者と共に修復

⑤B3 物質の輸送終了後に B3 物質輸送ライセンスを

返却

⑥6 か月毎のライセンスの更新

⑦B3 物質輸送の監督官の任命。監督官は下記の必

要要件を満たさなければならない。

―監督官は、陸運総局に登録されていなければな

らない。

―監督官は、B3 廃棄物とその取り扱いに精通。

―監督官は、車を運転できなければならない。

7. 無害固形廃棄物の管理事業者は、無害固形廃棄物についても管理を行わな

ければならない。地方政府によっては、事業者に対し

地方規則(Perda)により事業者活動に伴って生じる

固形廃棄物の処分方法を規定している。場合によって

は処罰を課しているところもある。

8. その他の環境ライセンス環境ライセンス取得の義務は、事業者の活動の種類

により異なる。地方政府が発行する代表的な環境ライ

センスを下記に示す。

①地下水使用ライセンス

②地表水使用ライセンス

③廃水を水路に放流するためのライセンス

④廃水処理場の運営ライセンス

⑤迷惑行為の許可(HO 許可)

⑥非有害および有毒廃棄物の廃棄ライセンス

9. 国民の知る権利国民には、新環境法第 5 条(2)により、環境情報を

得る権利、環境管理に参加する権利が与えられている。

環境情報とは、データ、文、その他の環境管理に関す

る情報のことで、その性質と目的により一般に公開さ

れている AMDAL 報告書、同評価書、環境モニタリン

グ報告書などである。すべての AMDAL 文書は、環境

担当国務大臣と地方政府に提出された後、誰でも自由

に閲覧できる。

環境情報の透明性の一環として、政府は 1999 年政令

第 18 号第 41 条により、B3 廃棄物ライセンスの発行状

況を公表している。事業者が取得した B3 廃棄物ライ

センスは一般公開対象情報である。

また、1999 年政令第 18 号は、何人も B3 廃棄物管理

に関する情報を取得することができ、環境担当国務大

臣は、その情報を提供する義務を負っている。また、

1999 年政令第 27 号に従い、実施細則を草案する際に

は、国民に対し提案・意見を求め、それに回答する義

務を負う。

環境法は、政府に対し事業者の所在地周辺の地域住

民に対し、事業者の活動状況や情報を提供し、地域住

民の懸念や意見を反映させる義務規定を設けており、

国民の知る権利を保障している。

10. 土地の環境修復10-1. 義務

鉱業活動を行う事業者は、環境破壊・汚染の防止・

管理に関する 1995 年エネルギー鉱物資源大臣令第

1211 号により採掘地域の環境修復を行わなければなら

ない。また、1999 年森林大臣令第 146 号に規定されて

いる次の義務を履行しなければならない。

①借用/利用した森林内の採鉱地区の環境修復

レポート

インドネシアにおける鉱業環境規則について

2007.7 金属資源レポート90(190)

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②環境修復金の支払い

③環境修復を実施する組織の設立

④単位区域と環境修復期間を明記した環境修復計画

の策定(政府当局の認定が必要)

土地の環境修復は、各採鉱地毎に、採鉱期の活動終

了後 6 か月以内に実行しなければならない。鉱山会社

は、環境修復が終わった森林地区を森林省に返還し、

返還から 3 年間はメンテナンスを実施し、環境修復を

終了しなければならない。鉱山会社は 3 か月毎に環境

修復の進捗報告義務を負う。環境修復は、地形の整形、

浸食、砂防、植生、メンテナンスなどの環境修復基準

を満たしたときに終了したとみなされる。環境修復の

完了検査は森林省森林回復総局長(Director General

for Rehabilitation of Community Land and Forests)

が任命した中央チーム(Central Team)によって実施

される。

10-2. 罰則規定に従わない事業者は、下記の罰則を科せられる。

①借用/利用している森林地区の採鉱活動停止

②借用/利用している森林地区のライセンスの取消

③過料(行政上の罰金、金額は環境修復コストによ

り異なる)、および育成金、監督金(fostering and

supervisory fees)

④民事訴追または刑事訴追

10-3. 土地環境修復の保証金1996 年エネルギー鉱物資源省鉱山総局(現:鉱物資

源石炭地熱総局)(Director General of General Mining)

通達(Decision Letter)第 336 号により、すべての鉱

山会社は、採鉱/生産活動期間中に土地環境修復保証金

を積み立てる義務を負う。同通達は、保証金の算定、

承認、返金等の内容について規程している。保証金の

額は、環境管理 5 カ年計画の土地環境修復費に基づき

算定する。なお、設立が 5 年未満の鉱山会社は、その

鉱業活動期間に対する土地環境修復計画に基づいて決

められる。

土地環境修復計画のコストの内訳は下記のとおりで

ある。

(1)直接費①鉱山施設解体費(建物、道路、設備の据付用台座

を含む)

②環境修復に必要となる土地代金

・重機材レンタル

・採鉱地の埋め戻し

・土地整形

・平地化

・浸食防止 

③植生費

・土壌分析費用

・肥料代

・種子代

・植え付け代

・植生の維持管理

④鉱廃水処理経費・水質汚染防止費

⑤最終整形計画に伴う必要用地の土木工事費

(2)間接費①重機・資機材の運搬費、組み立て、解体費

②設計費

③一般管理費

なお、土地環境修復保証金は、定期預金、引当金、

第三者の保証人による形態が認められているが、その

形態については、事前に鉱物資源石炭地熱総局長の承

認が必要となっている。

11. 保護地域(1)保護林

政府は森林法(1999 年法律第 41 号)を発行し、そ

の第 38 条(4)において、「保護林」における露天掘り

を禁止した。このため、法律施行以前に操業許可を得

ている鉱山会社の操業が凍結された。2004 緊急政令

(2004 年第 1 号)により、政府は、森林法の施行以前

に交付している鉱業事業契約(COW)及び鉱業権

(KP : Kuasa Pertambangan)は、その有効期限まで

有効であることを決定。政府は、2004 年大統領令第 41

号により、13 社の鉱山会社に対して露天掘りを含め契

約地域内の鉱業活動の継続を許可した。上記緊急政令

は、後に国会により批准された。その後、個人、環境

NGO が本緊急政令の違憲性を主張し憲法裁判所に提訴

したが、憲法裁判所は、その妥当性を支持し合憲判決

を下している。しかし、当該 13 社は、1989 年の共同

省令(1989 年エネルギー鉱物資源大臣令第 969 号、

1989 年森林大臣令第 429 号)により、一般鉱業活動

(一般調査、探査、探鉱、精鉱)を森林地区(自然・動

物保護林、狩猟区、保護林、生産制限林、生産林)で

行う場合、森林大臣から森林借用利用ライセンスを取

得することになっており、この手続きの遅れから実質

凍結状態となっている。保護林での鉱業活動は、2004

年森林大臣令第 12 号、2006 年森林大臣令第 14 号(鉱

業活動で破壊される面積の 2 倍の用地を保護林に隣接

し確保、植林の義務付け、これができない場合、売り

上げの 1 %を拠出する)などでも規制されている。

森林地区で探鉱を行う場合は、鉱山会社は借用・利

用ライセンスを得るための承認文書を森林大臣から取

得しなければならない。この承認文書の必要要件をす

べて満たした後、森林大臣は、5 年間有効の森林借

用・利用ライセンスを発行する。

(2)保護区政府は、次世代に国民共有の財産を継承し持続的発

展を維持するため、1990 年大統領令第 32 号により保

護区を規定している。保護区とは、自然資源、人工的

なエネルギー資源(artificial Energy Resources)を保

レポート

インドネシアにおける鉱業環境規則について

2007.7 金属資源レポート 91(191)

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レポート

インドネシアにおける鉱業環境規則について

2007.7 金属資源レポート92(192)

護する地区と、歴史的・文化的価値の高い地区と定め

ている。具体的には下記のような地区とされている。

①地元住民が保護区としている地区

②自然・文化保護地区

③自然災害を受けやすい地区

④①~③を保護するために必要な用地

1990 年大統領令第 32 号によれば、保護機能を侵害

しない限り保護地区における文化活動は認められてい

る。自然・文化保護区における農業活動(Budidaya)

は、自然の状態を変化させたり、既存の生態系を変化

させる場合は、許可されない。

保護区内における鉱業活動は、国家に大きな収益と

価値をもたらす場合は、既存の法規に従い、鉱物や地

下水の採取は許可されることがあるが、その生産活動

は地域の保護規則を遵守しながら、行わなければなら

ない。

(3)カルスト地区2000 年エネルギー鉱物資源大臣令第 1456 号はカル

スト地区の保護を規定している。カルスト地区とは、

ドリーネやカレンと呼ばれる窪地、溝地があり、石灰

岩やドロマイトの岩が林立する地域で、鍾乳洞が今な

お成長している地形である。2000 年エネルギー鉱物資

源大臣令第 1456 号はカルスト地区は以下の 3 種類に分

類されている。

①一級カルスト地区:下記の基準を一つ以上満たす

もの

・帯水層、地下川、地下湖など、水文機能を有し

恒久的な地下水源となっているもの

・縦横に広がる地下の洞窟や川から成り、水文・

科学的機能を維持しているもの

・洞窟内に遺跡があり、現在も鍾乳石を形成し、

観光・文化的開発地域になりうるもの

・社会・経済・文化的必要性および貴重な動植物

相が存在し科学的価値を有するもの

一級カルスト地区は、現行法規に従い自然資源保護

地区に指定されており、鉱業活動は禁止されている。

しかし、カルストを損壊しない限り、鉱業活動以外の

活動を行うことは認められている。

②二級カルスト地区:下記の基準を一つ以上満たす

もの。

・雨水を貯水し、地下水に水を供給する機能を果

たすカルストで、同地区の地下水の量を増減さ

せ、水文機能を補助するもの

・水のない川や洞窟からできた地下トンネル網が

あり、非活動または損傷を受けた鍾乳石があり、

経済的価値・利益のある動物相の恒久的生息地

となっているもの

二級カルスト地区では、AMDAL、RKL/RPL を行

った後、鉱業、その他の活動を行うことができる。

③三級カルスト地区:一級、二級の条件を満たさな

いカルスト地区である。三級カルスト地区の活動

は、現行の法規のもとで鉱業活動が認められてい

る。

12. 地表-地域社会に関する事項鉱業権や鉱業事業契約(COW)は、地下に胚胎する

鉱物資源を探査、探鉱、生産、販売する権利を排他的

に付与するものであるが、土地の所有権、利用権、占

有権とは切り離されているため、事業実施に当たって

は、土地を占有する者との合意が不可欠である。した

がって、下記に土地の占有者との合意方法を示す。

①先住民族、定住者、伝統的な農民の占有地:事業者は、補償と交換に土地を取得しなければな

らない。補償の対象は土地および樹木である。補償

交渉は、土地所有者またはその代表者と直接行う。

通常、村長も土地所有者と共に交渉に参加するケー

スがある。

②プランテーション:事業者は、プランテーション事業者と土地使用の

合意を結ばなければならない。合意には、樹木の伐

採および裸地化に対する補償が含まれる。

③産業林:事業者は、産業林の土地利用権保持者と土地使用

の合意を結ばなければならない。合意には、樹木の

伐採および裸地化に対する補償が含まれる。

④森林省管轄下の森林:事業者は、森林大臣から土地の借用・利用許可を

取得し、森林省との間で土地の借用・利用に関する

合意を結ばなければならない。

13. 処罰環境破壊に対する行政処分は、浄化コストを除き、

旧環境法には明記されていなかった。新環境法では、

回復コスト、浄化コストの負担およびビジネスライセ

ンスの取消が明記されている。

新環境法第 41 条第 1 項には、法律を知り、故意に環

境破壊・汚染を引き起こした者は 10 年以下の懲役また

は 5 億ルピア以下の罰金。同法第 41 条第 2 項には、第

三者を死傷させる重大な過失がある場合には 15 年以下

の懲役または 7 億 5,000 万ルピアの罰金を科している。

また、旧環境法では、環境汚染を引き起こした者に

対する調査・訴追の権限が警察にしかなかったが、新

環境法では、政府職員を調査官(PPNS 特別部隊

(PPNS Task Force))に任命し警察との共同調査を調

整し、警察官を通じ検察官に調査結果を提出すること

になっている。

PPNS 特別部隊は、環境事犯を確認し調査が必要か

どうかを判断する。調査が必要な場合、PPNS 特別部

隊は地方政府/コミュニティが提出した報告書につい

て、事業者の敷地、帳簿・メモ・その他文書の調査、

および聞き取り調査(従業員および事業者幹部)を行

い、正確性について確認する。PPNS は証拠の収集、

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必要であれば事業者の文書/所有物を証拠として没収す

ることができる。また、調査への援助を専門家に依頼

することもできる。PPNS は、調査結果を法律執行機

関の長と、環境担当国務大臣府の環境問題処理委員会

(Settlement of Environmental Disputes)に報告し、

さらに調査が必要な場合は、環境担当国務大臣が警察

を通じ調査結果を検察官に提出することになっている。

14. 厳格責任旧環境法は厳格責任の概念を規定していたが、施行

規則はない。新環境法は、事業者がその活動により環

境に被害を与え、あるいは B3 物質を使用し B3 廃棄物

を発生させた場合、事業者は損害賠償の厳格責任を負

わなければならないと規定されている。原告が事業者

による環境汚染と健康被害などを証明できる場合、事

業者に損害賠償義務が発生する。しかし、厳格責任に

関する最近の環境訴訟は被告側に証明責任を求めるケ

ースが多い。

事業者は、環境汚染が自然災害、戦争、不可抗力、

第三者の行動によって惹起されたものであっても、自

らがそれを証明しなければ損害賠償請求を課される状

況にある。

15. 環境紛争の解決新環境法では、環境紛争の解決策を 2 種類規定して

いる。裁判で解決する手段と中立・独立な第三者機関

を通し調停・仲裁で解決する手段である。この裁判外

紛争解決は、紛争にある当事者が、自発的に選択でき

る。2000 年政令第 54 号は、「環境紛争の解決に関する

サービス機関は、仲裁人、調停者を提供し、紛争当事

者を支援する」と規定している。サービス機関の設立は、

中央政府/地方政府、地域住民に権利が与えられている。

調停費用は、一方の当事者または両当事者が負担する

ことになる。

16.環境事犯に対し申し立てを行う国民の権利環境 NGO を含む一般国民には、新環境法により、

環境事犯に対する申し立てを行う権利または環境問題

を法の執行機関に報告する権利が認められている。

上記権利執行の一例が、ニューモント・ミナハサラ

ヤ・ Buyat 湾の環境汚染と住民の健康被害に関する一

連の民事・刑事訴訟である。

なお、厳格責任に関連した事項になるが、同裁判で

は健康被害と環境汚染との因果関係を原告側が証明す

るのではなく、被告人側が、環境汚染と地域住民の病

気の因果関係を臨床・科学的に否定しなければならな

い状況があり、厳格責任の導入と環境事犯に対する環

境裁判の申し立ては事業者にとって難しい問題をはら

んでいる。

おわりにインドネシアにおける鉱業関連記事は環境問題に関

するものが多い。記事は、違法採掘事業者による環境

破壊記事をはじめとして、ニューモント・ミナハサラ

ヤ・ Buyat 湾の刑事訴訟、Grasberg 鉱山の鉱業事業

契約(COW)の見直し問題など様々であるが、これら

は、今回、本レポートで紹介した環境規則に対する違

反や、同規則に基づく環境事犯の申し立てや、国、環

境 NGO、地域住民らによる権利執行の一例としての民

事・刑事訴訟などである。

最後に、本レポートで紹介した主な鉱業環境関連規

則を表 2 に示すので参照されたい。

(2007.5.25)

レポート

インドネシアにおける鉱業環境規則について

2007.7 金属資源レポート 93(193)

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レポート

インドネシアにおける鉱業環境規則について

2007.7 金属資源レポート94(194)

表 2 鉱業環境関連規則