4
Syouya Ikeda, Mitsuru Handa, Mototsugu Yoshida 橋 長(CL) 506000 750 65000 75000 90000 支間長(CL) 75000 50000 50000 50000 49000 800 A1 P1 P2 P3 P4 P5 P6 P7 A2 A橋桁長(CL) 318988 B橋桁長(CL) 186562 J41 平成30年度 天塩大橋におけるニードル ピーニング処理の品質管理について 留萌開発建設部 羽幌道路事務所 工務課 ○池田 翔哉 東洋精鋼株式会社 半田 充 JFEエンジニアリング株式会社 吉田 基次 一般国道40号天塩防災は、天塩町から幌延町を結ぶ路線にある天塩大橋を架替整備するこ とにより耐震性能を確保するとともに、地吹雪による視程障害の低減を図り、道路の安全な通 行の確保を目的とした延長13.0kmの防災対策事業である。天塩大橋は箱桁から鈑桁へと主桁形 式および主桁本数が変化する構造であることが特徴として挙げられる。また、箱桁部において は標準的な適用支間長を上回る支間割を実現させているため、従来から疲労亀裂が発生し易い 横桁仕口溶接部の疲労対策としてピーニングが必要となるがその品質管理方法は明確ではない。 本稿ではそのピーニングの品質管理ついて報告するものである。 キーワード:ニードルピーニング、疲労、残留応力 1. はじめに 一般国道40号天塩町天塩大橋上部工事は、天塩大橋 (全長 506.0m)の天塩町側のA橋(鋼4径間連続箱桁 橋長:319m)と幌延町側のB橋(鋼4径間連続鈑桁 橋 長:187m)の製作・輸送・架設・合成床版設置を行う工 事である。 本稿では、天塩大橋の箱桁部において横桁仕口溶接部 の疲労対策として行ったニードルピーニング(以下、 「ピーニング」という)処理の品質管理について報告す る。 2. 橋梁概要 道路規格:第 3 種 2 級 型 式:鋼8径間連続非合成桁橋 (4径間連続箱桁+4径間連続鈑桁) 橋 長:506.0m 支 間 長:65+75+90+75+3@50+49m 幅 員:12.5m 鋼 重:2,518t 図-1に位置図を、図-2に橋梁一般図を示す。 3. 構造形式とピーニングの必要性 本橋の特徴は鈑桁構造と箱桁構造を連続させている ことである。これにより、それぞれの標準的な適用支間 長を上回る支間割を実現させている。 また、本橋は箱桁部において標準的な適用支間長を上 回る支間割を実現させているため、疲労耐久性向上が必 要であり、従来から疲労亀裂が発生し易い横桁仕口(図- 3)溶接部を中心としてピーニング処理を行った。 図-1 位置図 図-2 橋梁一般図 天塩大橋 架橋地点

天塩大橋におけるニードル ピーニング処理の品質管理について...橋 長(CL) 506000 750 6 5000 75000 90000 支間長(CL) 7 0 50000 50000 50000 49000 800 A1 P1

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Page 1: 天塩大橋におけるニードル ピーニング処理の品質管理について...橋 長(CL) 506000 750 6 5000 75000 90000 支間長(CL) 7 0 50000 50000 50000 49000 800 A1 P1

Syouya Ikeda, Mitsuru Handa, Mototsugu Yoshida

橋 長(CL) 506000

750 65000 75000 90000 支間長(CL) 75000 50000 50000 50000 49000 800

A1 P1 P2 P3 P4 P5 P6 P7 A2

A橋桁長(CL) 318988 B橋桁長(CL) 186562J41

平成30年度

天塩大橋におけるニードル

ピーニング処理の品質管理について

留萌開発建設部 羽幌道路事務所 工務課 ○池田 翔哉 東洋精鋼株式会社 半田 充

JFEエンジニアリング株式会社 吉田 基次

一般国道40号天塩防災は、天塩町から幌延町を結ぶ路線にある天塩大橋を架替整備するこ

とにより耐震性能を確保するとともに、地吹雪による視程障害の低減を図り、道路の安全な通

行の確保を目的とした延長13.0kmの防災対策事業である。天塩大橋は箱桁から鈑桁へと主桁形

式および主桁本数が変化する構造であることが特徴として挙げられる。また、箱桁部において

は標準的な適用支間長を上回る支間割を実現させているため、従来から疲労亀裂が発生し易い

横桁仕口溶接部の疲労対策としてピーニングが必要となるがその品質管理方法は明確ではない。

本稿ではそのピーニングの品質管理ついて報告するものである。

キーワード:ニードルピーニング、疲労、残留応力

1. はじめに

一般国道40号天塩町天塩大橋上部工事は、天塩大橋

(全長 506.0m)の天塩町側のA橋(鋼4径間連続箱桁

橋長:319m)と幌延町側のB橋(鋼4径間連続鈑桁 橋

長:187m)の製作・輸送・架設・合成床版設置を行う工

事である。

本稿では、天塩大橋の箱桁部において横桁仕口溶接部

の疲労対策として行ったニードルピーニング(以下、

「ピーニング」という)処理の品質管理について報告す

る。

2. 橋梁概要

道路規格:第3種 2級

型 式:鋼8径間連続非合成桁橋

(4径間連続箱桁+4径間連続鈑桁)

橋 長:506.0m

支 間 長:65+75+90+75+3@50+49m

幅 員:12.5m

鋼 重:2,518t

図-1に位置図を、図-2に橋梁一般図を示す。

3. 構造形式とピーニングの必要性

本橋の特徴は鈑桁構造と箱桁構造を連続させている

ことである。これにより、それぞれの標準的な適用支間

長を上回る支間割を実現させている。

また、本橋は箱桁部において標準的な適用支間長を上

回る支間割を実現させているため、疲労耐久性向上が必

要であり、従来から疲労亀裂が発生し易い横桁仕口(図-

3)溶接部を中心としてピーニング処理を行った。

図-1 位置図

図-2 橋梁一般図

天塩大橋

架橋地点

Page 2: 天塩大橋におけるニードル ピーニング処理の品質管理について...橋 長(CL) 506000 750 6 5000 75000 90000 支間長(CL) 7 0 50000 50000 50000 49000 800 A1 P1

Syouya Ikeda, Mitsuru Handa, Mototsugu Yoshida

横桁仕口

図-3 横桁仕口概要図

4.ピーニングの概要について

(1)工法の概要と効果について

ニードルピーニングは、鋼構造物の溶接継ぎ手部

を強化する技術である。溶接後の継ぎ手部近傍には、

引張応力が残留する。この引張残留応力が溶接継ぎ

手部の疲労強度を低下させる要因の一つである。ピ

ーニングは溶接止端部を局部的に塑性変形させるこ

とによって、溶接で発生した引張の残留応力場を圧

縮応力場に改質する技術であり、溶接継ぎ手部の疲

労強度が向上する。施工前後の溶接止端部の断面を

写真-1に示し、ピーニングの概要図を図-4に示す。

(a)施工前 (b)施工後

写真-1 溶接止端部断面

図-4 ピーニング概要

ピーニングの効果としては、以下が挙げられる。

・溶接表層から深さ1000μm程度までは圧縮応力の付

加が可能。

・グラインダーと比較すると、粉じんの発生がない

ため、飛散防止の養生が不要となる。

・施工が容易であるため、グラインダーのように熟

練工が不要であり、処理速度が向上する。

・余盛溶接が不要

既往の研究によると、ピーニングを実施すること

で疲労強度は1~2階級ほど向上する。

(2)装置の概要について

本工事では、PPP(Portable Pneumatic needle-

Peening:可搬形エアー式ニードルピーニング)装置

を用いてピーニング処理を行った。圧縮空気を動力源

としたピストンの往復運動(周波数50~90Hz程度)に

よってニードルが連続的に溶接止端部に打撃を行う。

ピーニングヘッドに供給される圧縮空気の流量を管理

する制御ボックスの使用により、ニードルの打撃能力

が管理され、安定したピーニングが行われる。施工現

場において商用電源が確保できない場合は、制御ボッ

クスに内蔵のバッテリーで使用出来る。

写真-2,3にピーニングヘッド(ニードル先端)と制

御ボックスの状況を示す。

写真-2 ニードル先端 写真-3 制御ボックス

5.ピーニングの施工方法について

ピーニングの工具を図-5に示す。工具先端のニードル

を施工部に当て、工具後部端末を工具の軸方向に押さえ

つけながら、0.3m/20sec×3回で工具を左右に往復運動

させながら実施する。止端部の谷線に沿ってピーニング

の打撃痕が連続して付与されており、溶接止端部の元の

谷線が見えないことを確認する。谷線が見える場合は再

施工する。写真-4に不合格の場合の溶接止端部の状態の

写真を示し、写真-5,6にピーニングの施工状況と施工後

の状況を示す。

図-5 ピーニング工具

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写真-4 溶接止端部の谷線残り

写真-5 ピーニング施工状況

写真-6 ピーニング施工後状況

6. ピーニングの品質管理について

(1)通常の品質管理

ピーニングにおける通常の品質管理項目として以下

が挙げられる。

・制御ボックスで圧縮空気の加工圧力、圧縮空気の流

量管理

・ニードルの先端については、先端曲率を確認治具で

管理し、目視による損傷および磨耗がないことを

確認

・0.3m/20sec×3回というピーニング工具の操作方法

の管理

・溶接止端谷線が完全に消滅していること等ピーニン

グの仕上がりの確認

上記のように通常のピーニングの品質管理は、ど

うしても施工方法の管理が仕上がり具合の見た目の管

理のみとなっており、施工後の部材側での数値的な確

認が出来ない。写真-7にピーニングの先端曲率確認治

具を、図-6に先端曲率判定方法概要図を示す。図のと

おりニードルと治具の接触箇所が1箇所の場合治具の

局率は表示値より小さく、2箇所の場合治具の局率は

表示値より大きくなる。これにより、ニードル先端の

局率を管理する。

写真-7 ピーニングの先端曲率確認治具

図-6 先端曲率判定方法概要図

(2)残留応力の測定

今回は、ピーニングの施工管理方法が仕様書等で定め

られたいないため、200mm×310mmの試験体(SM490YB)を用

意し、事前に圧縮応力が確実に導入されているのか非破

壊で計測できるX線応力測定法により確認を行ってから

本施工をすることとした。X線応力測定法はX線回折を

利用して試料の表層部の応力を測定する方法である。試

料に特定の波長のX線が入射されると、試料の表層部の

格子間隔に応じた回折X線が生成される。試料の格子間

隔は、作用している応力によって伸縮しており、回折X

線の変化を測定することにより、作用している応力が算

出される。試験体の形状寸法の概要を図-7に、X解析装

置を写真-8に、ピーニング試験施工状況を写真-9に示す。

図-7 試験体概要図

元の谷線

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Syouya Ikeda, Mitsuru Handa, Mototsugu Yoshida

写真-8 X線解析装置

写真-9 ピーニング試験施工状況

写真-10 残留応力測定位置

図-8 残留応力測定結果

ピーニングが未処理の試験体と処理した試験体の残留

応力の測定位置を写真-10に、残留応力の測定結果を図-

8に示す。処理部からの距離を横軸とし、残留応力(プ

ラス側が引張)を縦軸としている。図より処理部から

2mm程度までの近傍においてはピーニング後に高い圧縮

残留応力が導入されていることが分かる(3 mm以上離れ

るとピーニングによる効果はほとんど見られない)。ば

らつきについては素材に起因するものである。

以上のことから、ピーニング処理前と処理後の試験体

を比べると、ピーニングによって溶接止端部近傍に圧縮

の残留応力が付与されたものと考えられる。

7.まとめ

天塩大橋にて行ったピーニング処理の品質管理につい

てまとめると下記のようになる。

・専用の制御ボックスで圧縮空気の加工圧力、圧縮空気

の流量を管理

・ニードルの先端については、先端曲率を確認治具で管

理し、目視による損傷および磨耗がないことを確認

・0.3m/20sec×3回というピーニング工具の操作方法の

管理

・溶接止端谷線が完全に消滅していること等ピーニング

の仕上がりの確認

また、疲労亀裂を発生した鋼材にピーニング処理を行うことにより、疲労亀裂を無害化する研究も進んでおり、今後も使用機会が増える技術と考えられる。

8.おわりに

天塩大橋上部工事では桁の製作・輸送を終え、昨年の

9月より進めていた橋桁の架設は約8割が完了し、現在

は厳冬期のため工事を一時中断しているところです。今

後は今年の4月上旬より工事を再開し6月下旬に桁の架設

を完了する予定としています。

また、ここまで順調に工事が進んでいることをこの場

をお借りしまして、今までの建設に関わった多くの関係

者の苦労と努力に対して敬意を表します。