4
(寄稿文) 27 サステナブル建築物等先導事業 ― 省 CO 2 先導型の紹介 ― 国立研究開発法人建築研究所環境研究グループ長 足 永 靖 信 1.はじめに 家庭部門・業務部門の CO 2 排出量が増 加傾向にある中、住宅・建築物において、 より効果の高い省エネ・省 CO 2 技術の採 用、複数技術の最適効率化による組み合 わせ、複数建物によるエネルギー融通、 健康・介護、災害時の継続性、少子化対 策などを含め先導性の高い省エネ・省 CO 2 対策を強力に推進することが期待さ れている。 また、再生産可能な循環資源である木 材を大量に使用する木造建築物は低炭素 社会の実現に貢献することから、先導的 な設計・施工技術を導入する木造建築物 の整備を強力に推進することも期待され ている。 国土交通省は、サステナブル性という 共通価値観を有する省エネ・省 CO 2 や木 造・木質化による低炭素化に係る先導的 な技術の普及啓発に寄与する住宅・建築 物のリーディングプロジェクトに対して、 予算の範囲内で支援する「サステナブル 建築物等先導事業」を実施している。 本稿で紹介するのは、同事業の中で「省 CO 2 先導型」と称されている、省 CO 2 実現性に優れたリーディングプロジェク トとなる住宅・建築プロジェクトを公募 し、予算の範囲内において、整備費等の 一部を補助し支援する先導事業である。 図-1に「サステナブル建築物等先導事 業(省CO 2 先導型)」 (以降、事業と称する。) の概要を示す。 建築研究所は、学識経験者からな るサステナブル建築物等先導事業(省 CO 2 先導型)評価委員会(以降、評価委 員会と称する。)による応募提案の評価 をもとに評価結果を国土交通省に報告す る。これを踏まえ、国土交通省が事業の 採択を決定する。 2.公募する事業の種類 公募する事業について表-1に示す。 住宅および住宅以外のオフィスビル等の 建築物(以下「住宅・建築物」という。) に関する次の①~④のいずれか、または それらの組み合わせによるプロジェクト であって、省 CO 2 の推進に向けたモデル 性、先導性が高いものとして選定された ものを補助の対象とする。 ①住宅・建築物の新築 ②既存の住宅・建築物の改修 ③省 CO 2 のマネジメントシステムの整 ④省 CO 2 に関する技術の検証(社会実 験・展示等) また、今後の省 CO 2 対策の波及・普及 図-1 サステナブル建築物等先導事業(省CO 2 先導型)の概要

サステナブル建築物等先導事業...図-1 サステナブル建築物等先導事業(省CO2 先導型)の概要 (寄稿文)28 が期待され、地方都市でも多く建築され

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: サステナブル建築物等先導事業...図-1 サステナブル建築物等先導事業(省CO2 先導型)の概要 (寄稿文)28 が期待され、地方都市でも多く建築され

(寄稿文)27

サステナブル建築物等先導事業― 省 CO2 先導型の紹介 ―

国立研究開発法人建築研究所環境研究グループ長 足 永 靖 信

1.はじめに

家庭部門・業務部門の CO2 排出量が増加傾向にある中、住宅・建築物において、より効果の高い省エネ・省 CO2 技術の採用、複数技術の最適効率化による組み合わせ、複数建物によるエネルギー融通、健康・介護、災害時の継続性、少子化対策などを含め先導性の高い省エネ・省CO2 対策を強力に推進することが期待されている。また、再生産可能な循環資源である木

材を大量に使用する木造建築物は低炭素社会の実現に貢献することから、先導的な設計・施工技術を導入する木造建築物の整備を強力に推進することも期待されている。国土交通省は、サステナブル性という

共通価値観を有する省エネ・省 CO2 や木

造・木質化による低炭素化に係る先導的な技術の普及啓発に寄与する住宅・建築物のリーディングプロジェクトに対して、予算の範囲内で支援する「サステナブル建築物等先導事業」を実施している。本稿で紹介するのは、同事業の中で「省

CO2 先導型」と称されている、省 CO2 の実現性に優れたリーディングプロジェクトとなる住宅・建築プロジェクトを公募し、予算の範囲内において、整備費等の一部を補助し支援する先導事業である。図-1に「サステナブル建築物等先導事業(省CO2 先導型)」(以降、事業と称する。)の概要を示す。 建築研究所は、学識経験者からな

るサステナブル建築物等先導事業(省CO2 先導型)評価委員会(以降、評価委員会と称する。)による応募提案の評価をもとに評価結果を国土交通省に報告す

る。これを踏まえ、国土交通省が事業の採択を決定する。

2.公募する事業の種類

公募する事業について表-1に示す。住宅および住宅以外のオフィスビル等の建築物(以下「住宅・建築物」という。)に関する次の①~④のいずれか、またはそれらの組み合わせによるプロジェクトであって、省 CO2 の推進に向けたモデル性、先導性が高いものとして選定されたものを補助の対象とする。①住宅・建築物の新築②既存の住宅・建築物の改修③省 CO2 のマネジメントシステムの整

備④省 CO2 に関する技術の検証(社会実

験・展示等)また、今後の省 CO2 対策の波及・普及

図-1 サステナブル建築物等先導事業(省CO2先導型)の概要

Page 2: サステナブル建築物等先導事業...図-1 サステナブル建築物等先導事業(省CO2 先導型)の概要 (寄稿文)28 が期待され、地方都市でも多く建築され

(寄稿文)28

が期待され、地方都市でも多く建築される中小規模建築物の取り組みを支援するため、住宅以外の用途の建築物について、延べ面積が概ね 5,000 ㎡以下(大で10,000㎡未満)の建築物を新築する事業を対象とした「中小規模建築物部門」を設け、大規模プロジェクトや複数棟のプロジェクト等とは区分して評価する。戸建住宅においては、建設時、運用時、

廃棄時において出来るだけ省 CO2 に取り組み、さらに太陽光発電などを利用した再生可能エネルギーの創出により、住宅建設時の CO2 排出量も含めライフサイクルを通じて CO2 の収支をマイナスにするライフサイクルカーボンマイナス(LCCM)住宅を新築する事業を支援する「LCCM 住宅部門」を平成 30年度より新たに設け、他とは区分して評価する。図-2は「LCCM住宅部門」の概要を示したものである。公募の情報は国土交通省および 建

築研究所のホームページに掲載される。

それに加え、全国8都市(東京、大阪、名古屋、福岡など)で説明会を開催し、関連事業者に周知を図っている(写真-1)。

3.事業の要件

事業の要件は次の①~④であり、全ての要件に該当する必要がある。①新築、既存改修に関するプロジェクトについては、以下の省エネルギー性能を満たし、省エネルギー性能の表示を行うものであること。

図-2 LCCM住宅部門(戸建住宅)の概要

写真-1 説明会の様子

表-1 事業の種類

Page 3: サステナブル建築物等先導事業...図-1 サステナブル建築物等先導事業(省CO2 先導型)の概要 (寄稿文)28 が期待され、地方都市でも多く建築され

(寄稿文)29

・新築される住宅・建築物については、建築物省エネ法に基づく「建築物のエネルギー消費性能の確保のために必要な建築物の構造および設備に関する基準」(以下「平成28年省エネ基準」という。)を満たしているものであること

・既存改修される住宅・建築物について

は、改修後に平成28年省エネ基準に適合するものであること

・住宅・建築物の省エネルギー性能の表示を行うものであること②住宅・建築物プロジェクト総体とし

て省 CO2 を実現し、先導性に優れているプロジェクトであること。

全国各地への先導的な省 CO2 技術の普及を支援する観点から、これまでに採択事例が少ない地域におけるリーディングプロジェクトとなる提案、普及途上にある省 CO2 技術を活用することで波及・普及に資するリーディングプロジェクトも積極的に評価する。なお、これまでの採

図-4 「ささしまライブ24」エリア省CO2プロジェクト(平成21年度採択)

図-3 京都市新庁舎整備(平成28年度採択)

Page 4: サステナブル建築物等先導事業...図-1 サステナブル建築物等先導事業(省CO2 先導型)の概要 (寄稿文)28 が期待され、地方都市でも多く建築され

(寄稿文)30

択事例で提案された各種の省 CO2 技術や類似の省 CO2 技術を活用する提案についても、波及・普及の観点から積極的に評価する。ただし、提案事業の実施によって期待される省 CO2 技術の波及効果・普及効果に支障があると評価されるものについては、技術の先導性等の評価が優れていても採択されない。③運用後のエネルギー使用量の計測、

CO2 削減効果実証に関する計画書を提出するもの。

建物全体や提案技術についての省 CO2効果を明記し、提案内容に基づいて、運用後のエネルギー使用量の計測、CO2 削減効果実証に関する計画書を提出していただく。この計画書に基づき、プロジェクト完成後、原則3年間(特別な事情のある場合は、3年以下で個別に定める期間)、全体および補助を受けた技術提案部分(評価委員会の指定するもの)についてのエネルギー使用量と省 CO2 技術導入の成果についての報告が求められる。

④採択を受けた年度に事業着手するもの。

採択を受けた年度中に実施設計または建築工事に着手するものを対象とする。あわせて、LCCM 住宅部門は原則、採択年度中に事業が完了するものを対象とする。

4.事業の事例

本事業の事例として、京都市新庁舎、「ささしまライブ 24」エリア省 CO2 プロジェクトの概要を図-3,4にそれぞれ示す。年2回の省 CO2 シンポジウムにおいては、評価委員により当該年度の新規採択事業の講評および内容の紹介が行われる。

5.事業の実績

本事業では、平成 20年度から平成 29年度までの 10年間(計 21回)の募集で計 248 件の事業が採択され、その内、平成29年度末までに188件の事業が完了・竣工した実績が見られる。採択プロジェクト地域分布を地図上に

表したのが図-5,6である。これを見ると、建築・住宅プロジェクトともに、ほぼ日本全域にわたって本事業の実績が幅広く分布していることが分かる。

6.おわりに

応募要件は諸事情で変化する可能性があるので、応募要件の詳細については、 建築研究所ホームページ1)等で確認していただく必要がある。

謝辞本事業の採択プロジェクトの選定に当

たり、評価委員会において村上周三委員長( 建築環境・省エネルギー機構理事長)をはじめ委員各位に多大なご協力を得た。記して感謝の意を表す。

図-6 戸建住宅の地域別竣工数の内訳(2,615件)

図-5 採択プロジェクトの地域・建物用途の概要(平成20~29年度)

【参考文献】

1) 建築研究所ホームページ:サステナブル建築物等先導事業(省CO2先導型)http://www.kenken.go.jp/shouco2/index.html